【実施例】
【0059】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
(参考例1)トリコデルマ菌の培養液の調製方法
トリコデルマ菌の培養液は、次の方法で調製した。
【0061】
[前培養]
コーンスティップリカー5%(w/vol)、グルコース2%(w/vol)、酒石酸アンモニウム0.37%(w/vol)、硫酸アンモニウム0.14(w/vol)、リン酸二水素カリウム0.2%(w/vol)、塩化カルシウム二水和物0.03%(w/vol)、硫酸マグネシウム七水和物0.03%(w/vol)、塩化亜鉛0.02%(w/vol)、塩化鉄(III)六水和物0.01%(w/vol)、硫酸銅(II)五水和物0.004%(w/vol)、塩化マンガン四水和物0.0008%(w/vol)、ホウ酸0.0006%(w/vol)、および七モリブデン酸六アンモニウム四水和物0.0026%(w/vol)となるように蒸留水に添加し、100mLを500mLバッフル付き三角フラスコに張り込み、121℃の温度で15分間オートクレーブ滅菌した。放冷後、これとは別に、それぞれ121℃の温度で15分間オートクレーブ滅菌したPE−MとTween80を、それぞれ0.01%(w/vol)添加した。この前培養培地に、トリコデルマ・リーセイATCC66589を1×10
5個/mLになるように植菌し、28℃の温度で72時間、180rpmで振とう培養し、前培養とした(振とう装置:TAITEC社製 BIO−SHAKER BR−40LF)。
【0062】
[本培養]
コーンスティップリカー5%(w/vol)、グルコース2%(w/vol)、セルロース(アビセル)10%(w/vol)、酒石酸アンモニウム0.37%(w/vol)、硫酸アンモニウム0.14%(w/vol)、リン酸二水素カリウム0.2%(w/vol)、塩化カルシウム二水和物0.03%(w/vol)、硫酸マグネシウム七水和物0.03%(w/vol)、塩化亜鉛0.02%(w/vol)、塩化鉄(III)六水和物0.01%(w/vol)、硫酸銅(II)五水和物0.004%(w/vol)、塩化マンガン四水和物0.0008%(w/vol)、ホウ酸0.0006%(w/vol)、および七モリブデン酸六アンモニウム四水和物0.0026%(w/vol)となるように蒸留水に添加し、2.5Lを5L容撹拌ジャー(ABLE社製、DPC−2A)容器に張り込み、121℃の温度で15分間オートクレーブ滅菌した。放冷後、これとは別に、それぞれ121℃の温度で15分間オートクレーブ滅菌したPE−MとTween80を、それぞれ0.1%添加し、あらかじめ前記の方法により液体培地で前培養したトリコデルマ・リーセイATCC66589を250mL接種した。その後、28℃の温度で87時間、300rpm、通気量1vvmの条件で振とう培養を行い、遠心分離後、上清を膜ろ過(ミリポア社製の“ステリカップ”−GV、材質:PVDF)した。この前述条件で調整した培養液をトリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液として、以下の実施例に使用した。
【0063】
(参考例2)糖濃度の測定
糖液に含まれるグルコースおよびキシロース濃度は、下記に示すHPLC条件で標品との比較により定量した。
カラム:Luna NH
2(Phenomenex社製)
移動相:ミリQ:アセトニトリル=25:75(流速0.6mL/分)
反応液:なし
検出方法:RI(示差屈折率)
温度:30℃。
【0064】
(参考例3)セルラーゼの活性測定方法
セルラーゼ活性は、(1)アビセル分解活性、(2)セロビオース分解活性および(3)キシラン分解活性の3種の分解活性に分けて、次の手順で活性を測定評価した。
【0065】
(1)アビセル分解活性
酵素液(所定条件で調製)に対し、アビセル(メルク社製)を1g/Lと酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)を100mMとなるように添加し、50℃の温度で24時間回転混和しながら反応を行った。反応後、チューブを遠心分離し、その上清成分のグルコース濃度を測定した。グルコース濃度は、参考例2に記載の方法に準じて測定した。アビセル分解活性は、生成したグルコース濃度(g/L)をそのまま活性値とした。
【0066】
(2)セロビオース分解活性
酵素液に対し、セロビオース(和光純薬)500mg/Lと酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)を100mMとなるように添加し、50℃の温度で0.5時間回転混和しながら反応を行った。反応後、チューブを遠心分離し、その上清成分のグルコース濃度を測定した。グルコース濃度は、参考例2に記載の方法に準じて測定した。セロビオース分解活性は、生成したグルコース濃度(g/L)をそのまま活性値とした。
【0067】
(3)キシラン分解活性
酵素液に対し、キシラン(Birch wood xylan、和光純薬)10g/Lと酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)を100mMとなるように添加し、50℃で4時間回転混和しながら反応を行った。反応後、チューブを遠心分離し、その上清成分のキシロース濃度を測定した。キシロース濃度は、参考例2に記載の方法に準じて測定した。キシロース分解活性は、生成したキシロース濃度(g/L)をそのまま活性値とした。
【0068】
(参考例4)タンパク質濃度の測定
タンパク質濃度の測定は、Pierce BCA Protein Assay Kitを使用して、同Kitプロトコルに準じて行った。タンパク質濃度の検量線は、Albumin standard(2mg/mL)を段階希釈したものを同様に測定し作製し、検量線の目的試料と比色によって定量した。
【0069】
(参考例5)分画分子量100,000の限外ろ過膜によるトリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液の膜分離・濃縮
上記の参考例1で調製したトリコデルマ菌由来セルラーゼを3.5g/Lとなるように希釈し、これに希塩酸もしくは希水酸化ナトリウムを使用して、pH2、pH3、pH4、pH5、pH6、pH7、pH8、pH9、pH10、pH11、およびpH12(pH2〜12)の水溶液を調製した。pH調整後、タンパク質濃度を再測定したところ、3.5g/L前後であったため、これらpH調整済みのセルラーゼ水溶液のタンパク質濃度を3.5g/Lと見なして、以下評価を実施した。
【0070】
前記pH調整済みトリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液(pH2〜12)各20mLを、分画分子量100,000の限外ろ過膜(Sartorius社製“VIVASPIN” 20、100,000MWCO、PES、有効膜面積6cm
2)を使用して、デッドエンドろ過で非透過液の液量が0.5mLになるまで濃縮を行った(温度25℃、遠心力6000g)。濃縮液のタンパク質量およびセルラーゼ活性を測定するため、回収した濃縮液の質量を測定しながら、初期質量である20g(20mL)となるまで、RO水を加えながらメスアップを行った。これを非透過液として、以下分析に使用した。また透過液は、限外ろ過膜の透過液を特段の希釈等の処理を行わず、そのまま透過液として以下分析を行った。
【0071】
非透過液および透過液のタンパク質濃度の測定は、上記の参考例4記載の方法で行った。また、前述の非透過液および透過液に関して、バイオアナライザー(Agilent社、Protein 230kit)を使用して電気泳動を行った。得られた電気泳動の結果を
図2に示す。
図2において、pH2〜10のいずれのpHにおいても、トリコデルマ菌由来セルラーゼのセロビオハイドラーゼに起因するバンドが確認できるが、トリコデルマセルラーゼ水溶液のpHに依存して各バンドの濃淡があることが判明した。特にpH3、pH4およびpH5において、セロビオハイドラーゼ(CBH)のバンド濃度が濃く(
図2)、pH6を超える場合あるいはpH2の場合は、それぞれセロビオハイドラーゼのバンド濃度が薄くなる傾向が判明した。またこの結果は、バイオアナライザーにて算出したセロビオハイドラーゼ濃度とも、傾向は完全に一致することが確認できた。結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
次に、非透過液の各セルラーゼ活性の測定を、上記の参考例3に準じて行った結果を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
各pHにおける非透過液のセルラーゼ分解活性、特にアビセル分解活性を比較したところ、pH3、pH4、pH5およびpH9の条件において、他のpHに比べ活性が増大していることが判明した。pH3、pH4およびpH5に関しては、表1のセロビオハイドラーゼの回収量と相関しており、トリコデルマ菌由来セルラーゼ成分の内、セロビオハイドラーゼの回収量が、pH3、pH4およびpH5において増大したためと考えられた。またその一方で、pH9の条件において、アビセル分解活性が増大することが判明した。この結果は、
図2の電気泳動の結果、表1のセロビオハイドラーゼの回収量との結果とは相関しないことが判明した。その理由を確認するために
図2のセロビオハイドラーゼ以外のバンド1〜バンド5に関して、バイオアナライザーを用いて分析を行った。バンド1〜バンド5の各分子量は、それぞれ、バンド1:23.5kDa、バンド2:26.1kDa、バンド3:27.6kDa、バンド4:30.8kDa、およびバンド5:42.5kDaであった。また、CBHと同じく、バンド1〜5の各セルラーゼ成分濃度に関して、バイオアナライザーにて算出を行った。結果を表3に示す。
【0076】
【表3】
【0077】
分析の結果、pH3、pH4、pH5およびpH9において、バンド1〜5のセルラーゼ成分に関して非透過液としての回収量が増大していることが分かった。但し、特にpH9以上において回収量が増大しているバンドとして、バンド4とバンド5のセルラーゼ成分があることが判明した(表3、*:アスタリスク)。この2種の酵素成分に関して、pH9においては、特異的に多く非透過液として回収されたため、非透過液のアビセル分解活性が増大したものと考えられた。バンド4およびバンド5に関して同定に至ってはいないが、公知データベース記載のトリコデルマ菌由来セルラーゼ成分分子量からエンドグルカナーゼもしくはキシラナーゼであると推定された。
【0078】
また、pH10以上条件においては、タンパク質回収率は多いものの酵素活性の回収率は著しく低下した。これは、pH10以上ではトリコデルマ菌由来セルラーゼ成分がタンパク質としては回収できるものの、その酵素活性は失活したためと考えられた。pH2に関しても、pH10以上と同様の理由で、酵素活性の回収率が著しく低下したものと考えられた。
【0079】
すなわち、参考例5ではトリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液のpHを調整することによって、非透過液として回収されるセルラーゼ活性が増減することが判明した。また特に、pH3、pH4、pH5およびpH9において回収できるセルラーゼ分解活性が最大となることより、pH条件をpH2.6〜5.4あるいはpH8.6〜9.4の範囲にトリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液のpHを調整した後、分画分子量100,000の限外ろ過膜でろ過することによって、高いセルラーゼ分解活性を有する非透過液を回収できることが確認できた。
【0080】
(比較例1)分画分子量10,000の限外ろ過膜によるトリコデルマ菌由来セルラーゼの濃縮(pH3およびpH9)
参考例5のトリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液(pH3、pH9)20mLについて、分画分子量10,000の限外ろ過膜(Sartorius社製“VIVASPIN” 20、10,000MWCO、PES、有効膜面積6cm
2)を使用して、デッドエンドろ過で非透過液の液量が1mLになるまで濃縮を行った(温度25℃、遠心力6000g)。濃縮液を回収し、質量を測定しながら、初期質量である20gとなるまで、RO水を加えながらメスアップを行った。これを非透過液として、セルラーゼ分解活性を上記の参考例3に準じて測定を行った。限外ろ過前のトリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液に関しても、セルラーゼ分解活性を参考例3に準じて測定し得られた活性値を100%として、非透過液のセルラーゼ分解活性を評価した。得られた結果を表5に示す。
【0081】
(実施例1)分画分子量100,000および10,000の限外ろ過膜によるトリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液の膜分離・濃縮(pH3および9)
参考例5で示したように、トリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液を分画分子量100,000の限外ろ過膜に通じてろ過することで、非透過液側にセルラーゼ成分の一部を回収可能であることが判明した。しかしながら、一方で、限外ろ過膜の透過液として一部の酵素成分を損失していることが同時に課題であった。そこで、分画分子量100,000の限外ろ過膜において、トリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液を分離して、非透過液(第1の濃縮酵素液)を回収した後に、その透過液に関して、さらに分画分子量10,000の限外ろ過膜を用いてろ過することにより、さらに非透過液として第2の濃縮酵素液を得ることを検討した。具体的には以下手順にて実施した。
【0082】
参考例5のトリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液(pH3およびpH9)を使用して、限外ろ過を実施した。分画分子量100,000の限外ろ過膜によるろ過は、比較例1に準じて行い、非透過液(第1の濃縮酵素液)0.5mLおよび透過液19.5mLを回収した。
【0083】
透過液19.5mLは、さらに分画分子量10,000の第2の限外ろ過膜(Sartorius社製“VIVASPIN” 20、10,000MWCO、PES、有効膜面積6cm
2)を使用して、デッドエンドろ過により非透過液の液量が0.5mLになるまで濃縮を行った(温度25℃、遠心力6000g)。最終的に、第1の濃縮酵素液0.5mLと第2の濃縮酵素液0.5mLを混合して、回収酵素液1mLを得た。
【0084】
次に回収酵素液の質量を測定しながら、初期質量である20gとなるまでRO水を加えながらメスアップしたものについてのセルラーゼ分解活性を上記の参考例3に準じて測定を行った。また、限外ろ過前のトリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液に関してもセルラーゼ分解活性を参考例3に準じて測定し、得られた活性値を100%として非透過液のセルラーゼ分解活性を評価した。得られた結果を表4に示す。
【0085】
【表4】
【0086】
比較例1の分画分子量10,000の限外ろ過膜だけを使用して得られた濃縮酵素液と、実施例1の分画分子量100,000の限外ろ過膜を用いて得られた第1の濃縮酵素液と分画分子量10,000の限外ろ過膜を用いて得られた第2の濃縮酵素液を混合した回収酵素液を比較すると、実施例1が比較例1よりもタンパク質回収率が増加することが判明した。また、実施例1では特にアビセル分解活性の回収率が著しく向上することが判明した。
【0087】
すなわち、実施例1の結果は、分画分子量100,000〜200,000の限外ろ過膜を用いて第1の濃縮酵素液を得る工程、次いで、透過液を5,000〜50,000の第2の限外ろ過膜に通じてろ過を行い第2の濃縮酵素液を得る工程を行うことにより、トリコデルマ菌由来セルラーゼの回収酵素量および活性を増加できることが判明した。
【0088】
(実施例2)第2の限外ろ過膜の限界フラックス
参考例5のトリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液1L(pH5)トリコデルマ水溶液について、分画分子量150,000の中空糸限外ろ過膜(東レ株式会社製“トレフィル”HFU)に通じてクロスフローろ過し、透過液を得た。次に、分画分子量10,000の限外ろ過膜(VIVASCIENCE、“VIVAFLOW” 50、PES、VF05P0)を使用して、ろ過フラックスを変化させながらクロスフローろ過を行い、各ろ過フラックス時の膜間差圧を測定した。比較のため、分画分子量150,000の中空糸限外ろ過膜を行わない場合(比較例2とする。)に関しても、前記同様分画分子量10,000の限外ろ過膜を用いてろ過フラックスを変化させながらろ過を行い、各ろ過フラックス時の膜間差圧を測定した。結果を
図3に示す。
【0089】
図3に示すとおり、膜間差圧が急激に上昇した3点、および上昇する前の点で回帰直線を作製し、2本の回帰直線の交点の膜フラックス(m/day)を持って、限外膜フラックスとした。その結果、トリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液を分画分子量150,000の中空糸限外ろ過膜に通じて処理した透過液の方が、限界膜フラックスの値が増加することが判明した。これは、分画分子量150,000の中空糸限外ろ過膜によって、酵素成分の一部、あるいはその他の水溶性高分子成分が除去され、その分画分子量10,000の限界フラックスが向上したものと考えられる。またこの効果によって、第2の限外ろ過膜のフラックスを高く設定することができ、濃縮時間およびその使用エネルギーを削減できることを示す結果である。
【0090】
(比較例3)分画分子量10,000の限外ろ過膜によるトリコデルマ菌由来セルラーゼの濃縮(pH4、pH5、pH6、pH7、pH8)
比較例1ではpH3およびpH9の場合の評価を実施したが、pH4、pH5、pH6、pH7、pH8(pH4〜8)での比較例を下記手順にて実施した。
【0091】
参考例5のトリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液(pH4〜8)各20mLについて、比較例1と同じ手順にて非透過液の液量が1mLになるまで濃縮を行った。濃縮液を回収し、質量を測定しながら、初期質量である20gとなるまで、RO水を加えながらメスアップを行い、セルラーゼ分解活性を上記の参考例3に準じて測定を行った。限外ろ過前のトリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液に関しても、セルラーゼ分解活性を参考例3に準じて測定し得られた活性値を100%として、非透過液のセルラーゼ分解活性を評価した。得られた結果を表5に示す。
【0092】
(実施例3)分画分子量100,000および10,000の限外ろ過膜によるトリコデルマ属由来セルラーゼ水溶液の膜分離・濃縮(pH4、pH5、pH6、pH7、pH8)
実施例1では、pH3およびpH9の場合の工程(2)の評価を実施したが、pH4、pH5、pH6、pH7、pH8(pH4〜8)において、工程(1)および工程(2)の効果があるか、以下手順にて実施した。
【0093】
参考例5のトリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液(pH4〜8)各20mLを実施例1と同じ手順にて非透過液(第1の濃縮酵素液)0.5mLおよび透過液19.5mLを回収した。さらに透過液19.5mLについても、実施例1と同じ手順にて非透過液の液量が0.5mLになるまで濃縮を行い、第2の濃縮酵素液を得た。最終的に、第1の濃縮酵素液0.5mLと第2の濃縮酵素液0.5mLを混合して、回収酵素液1mLを得た。
【0094】
次に回収酵素液の質量を測定しながら初期質量である20gとなるまでRO水を加えながらメスアップしたもののセルラーゼ分解活性を上記の参考例3に準じて測定を行った。また、限外ろ過前のトリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液に関してもセルラーゼ分解活性を参考例3に準じて測定し得られた活性値を100%として、非透過液のセルラーゼ分解活性を評価した。得られた結果を表5に示す。
【0095】
【表5】
【0096】
比較例3の分画分子量10,000の限外ろ過膜だけを使用して得られた濃縮酵素液(pH4〜8)と、実施例3の分画分子量100,000の限外ろ過膜を用いて得られた第1の濃縮酵素液と分画分子量10,000の限外ろ過膜を用いて得られた第2の濃縮酵素液を混合した回収酵素液を比較すると、実施例3の方が比較例3より、タンパク質回収率が増加することが判明した。また、実施例3においては、特にアビセル分解活性の回収率が著しく向上することが判明した。
【0097】
すなわち、実施例3の結果は、pH4〜8において分画分子量100,000〜200,000の限外ろ過膜を用いて第1の濃縮酵素液を得る工程、次いで、透過液を5,000〜50,000の第2の限外ろ過膜に通じてろ過を行い第2の濃縮酵素液を得る工程を行うことにより、トリコデルマ菌由来セルラーゼの回収酵素量および活性を増加できることが判明した。
【0098】
また、実施例1(pH3およびpH9)の結果および実施例3(pH4〜8)の結果を比較すると、実施例3の「pH6、pH7、pH8」の結果に比べ、実施例1のpH3、実施例3のpH4、および実施例1のpH9の条件が回収されるセルラーゼのアビセル分解活性の回収率が高くなることが判明した。すなわち、本発明では糸状菌セルラーゼ水溶液のpHをpH2.6〜5.4またはpH8.6〜9.4に調整することが好ましいことが分かった。
【0099】
(比較例4)分画分子量10,000および分画分子量10,000によるトリコデルマ属由来セルラーゼ水溶液の膜分離・濃縮(pH3およびpH9)
参考例5のトリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液(pH3およびpH9)各20mLを、比較例1と同じ手順にて非透過液の液量が0.5mLになるまで濃縮を行い、非透過液(第1の濃縮酵素液)0.5mLおよび透過液19.5mLを回収した。
【0100】
次に、透過液19.5mLについて、さらに分画分子量10,000の第2の限外ろ過膜(Sartorius社製VIVASPIN 20、10,000MWCO、PES、有効膜面積6cm
2)を使用して、比較例1と同じ手順で非透過液の液量が0.5mLになるまで濃縮を行い、第2の濃縮酵素液を回収した)。最終的に、第1の濃縮酵素液0.5mLと第2の濃縮酵素液0.5mLを混合して、回収酵素液1mLを得た。
【0101】
次に回収酵素液の質量を測定しながら初期質量である20gとなるまでRO水を加えながらメスアップしたもののセルラーゼ分解活性を上記の参考例3に準じて測定を行った。また、限外ろ過前のトリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液に関してもセルラーゼ分解活性を参考例3に準じて測定し得られた活性値を100%として、非透過液のセルラーゼ分解活性を評価した。得られた結果を表6に示す。
【0102】
【表6】
【0103】
比較例1の分画分子量10,000の限外ろ過膜によるトリコデルマ菌由来セルラーゼの濃縮(pH3およびpH9の場合)の結果と比較して、比較例4はタンパク質回収量、およびアビセル分解活性の回収量に大きな差はないことが確認された。
【0104】
(比較例5)分画分子量30,000の限外ろ過膜によるトリコデルマ菌由来セルラーゼの濃縮(pH3およびpH9)
比較例1では分画分子量10,000の限外ろ過膜を使用したが、本比較例5では分画分子量30,000の限外ろ過膜(Sartorius社製“VIVASPIN” 20、30,000MWCO、PES、有効膜面積6cm
2)を使用して実施した。前記使用する限外ろ過膜の分画分子量以外は、比較例1と同じ手順で実施した。得られた結果を表7に示す。
【0105】
(実施例4)分画分子量100,000および30,000の限外ろ過膜によるトリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液の膜分離・濃縮(pH3および9)
実施例1では第2の限外ろ過膜として分画分子量10,000の限外ろ過膜を使用したが、本実施例4では分画分子量30,000の限外ろ過膜(Sartorius社製“VIVASPIN” 20、30,000MWCO、PES、有効膜面積6cm
2)を使用して実施した。前記使用する限外ろ過膜の分画分子量以外は、実施例1と同じ手順で実施した。得られた結果を、表7に示す。
【0106】
【表7】
【0107】
比較例5の分画分子量30,000の限外ろ過膜だけを使用して得られた濃縮酵素液と、実施例5の分画分子量100,000の限外ろ過膜を用いて得られた第1の濃縮酵素液と分画分子量30,000の限外ろ過膜を用いて得られた第2の濃縮酵素液を混合した回収酵素液を比較すると、実施例5の方が比較例4より、タンパク質回収率が増加することが判明した。また、実施例5においては、特にアビセル分解活性の回収率が著しく向上することが判明した。これらの傾向は、分画分子量10,000の限外ろ過膜を使用した場合(実施例1および比較例1)と同じ傾向にあることが判明した。