特許第6119245号(P6119245)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6119245-セルラーゼの製造方法およびその装置 図000009
  • 特許6119245-セルラーゼの製造方法およびその装置 図000010
  • 特許6119245-セルラーゼの製造方法およびその装置 図000011
  • 特許6119245-セルラーゼの製造方法およびその装置 図000012
  • 特許6119245-セルラーゼの製造方法およびその装置 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6119245
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】セルラーゼの製造方法およびその装置
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/42 20060101AFI20170417BHJP
【FI】
   C12N9/42
【請求項の数】6
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-554153(P2012-554153)
(86)(22)【出願日】2012年11月21日
(86)【国際出願番号】JP2012080123
(87)【国際公開番号】WO2013077341
(87)【国際公開日】20130530
【審査請求日】2015年11月16日
(31)【優先権主張番号】特願2011-253706(P2011-253706)
(32)【優先日】2011年11月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100162123
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 誠
(72)【発明者】
【氏名】栗原 宏征
(72)【発明者】
【氏名】山田 勝成
【審査官】 森井 文緒
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−051927(JP,A)
【文献】 特開平01−309683(JP,A)
【文献】 特表2001−506845(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/115040(WO,A1)
【文献】 米国特許第04725544(US,A)
【文献】 特表平11−513885(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 9/42
PubMed
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
DWPI(Thomson Innovation)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(1)〜(3)を含むセルラーゼの製造方法。
(1)糸状菌由来セルラーゼ水溶液を分画分子量100,000〜200,000の限外ろ過膜に通じてろ過して透過液を得るとともに、非透過液として濃縮酵素液を得る工程。
(2)工程(1)で得られた透過液を、さらに分画分子量5,000〜50,000の第2の限外ろ過膜に通じてろ過し、非透過液として第2の濃縮酵素液を得る工程。
(3)工程(1)および(2)で得られた濃縮酵素液を混合して糸状菌由来セルラーゼを得る工程。
【請求項2】
糸状菌がトリコデルマ菌である、請求項1に記載のセルラーゼの製造方法。
【請求項3】
工程(1)において糸状菌由来セルラーゼ水溶液をpH2.6〜5.4またはpH8.6〜9.4に調整する、請求項1または2に記載のセルラーゼの製造方法。
【請求項4】
糸状菌由来セルラーゼ水溶液が糸状菌培養液または糸状菌由来セルラーゼを使用したセルロース含有バイオマスの加水分解物である、請求項1から3のいずれかに記載のセルラーゼの製造方法。
【請求項5】
糸状菌由来セルラーゼ水溶液が、セロビオハイドラーゼ、エンドグルカナーゼおよびキシラナーゼからなる群から選ばれた1以上の酵素成分を含む、請求項1から4のいずれかに記載のセルラーゼの製造方法。
【請求項6】
糸状菌由来セルラーゼ水溶液の温度が15〜35℃の温度範囲である、請求項1から5のいずれかに記載のセルラーゼの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸状菌由来セルラーゼ成分を膜分離・濃縮することによるセルラーゼの製造方法およびその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バイオマス資源として、澱粉やセルロースなどの多糖が存在しており、このような多糖を酵素的に加水分解することにより、グルコースやキシロースなどの単糖を製造する方法が知られている。このような多糖の分解によって得られた糖液は、微生物培養の炭素源として広く使用されている。特に、セルロースを加水分解する酵素としてセルラーゼが知られている。このようなセルラーゼを生産する微生物として、糸状菌が知られている。糸状菌は、セルラーゼを誘導的に生産する培養条件に設定することにより、細胞外酵素として多量のセルラーゼを産生する。このような糸状菌として、アスペルギルス属、フミコラ属、ムコール属、トリコデルマ属およびアクレモニウム属などの糸状菌が存在し、セルラーゼの生産に広く使用されている。
【0003】
糸状菌由来セルラーゼには様々な基質特異性を示す酵素成分が存在する。具体的には、セルロースの結晶領域に作用するセロビオハイドラーゼ、セルロース分子鎖内部から作用して分子量を低減させるエンドグルカナーゼ、水溶性オリゴ糖あるいはセロビオースに作用するβ-グルコシダーゼ、およびヘミセルロースに作用するヘミセルラーゼなどが存在する。このような基質特異性の異なる各酵素成分がセルロース繊維に相乗作用することにより、効率的なセルロース分解が行われることが知られている(非特許文献1参照。)。また、このような糸状菌由来セルラーゼの各酵素成分として分子量が大小様々なものが存在し、その範囲は20〜100kDaであることが知られている。
【0004】
糸状菌由来セルラーゼについては、一般的な酵素と同じく、限外ろ過膜を使用して膜分離・濃縮する方法は公知である。例えば、糸状菌などの微生物培養物あるいはセルラーゼを使用したセルロース加水分解物から、限外ろ過膜を使用してセルラーゼを膜分離・濃縮し、分離回収する方法が知られている(特許文献1〜3参照。)。このような限外ろ過膜に通じて膜分離・濃縮する前工程の処理として、例えば、セラミックスピンフィルター(特許文献2参照。)や、20〜200μmの孔径の不織布(特許文献3参照。)などを使用して、微生物培養物あるいはセルロース加水分解物からセルラーゼ水溶液に含まれる固形物を予め除去する方法が提案されている。但し、セルラーゼの各成分を膜分離・濃縮するためには、回収すべきセルラーゼ成分に相当する分子量を阻止するに十分な細孔径・分画分子量を有する限外ろ過膜を使用することが一般的であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2007/034999号
【特許文献2】特開2010−221136号公報
【特許文献3】特開2009−240167号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】セルロースの辞典、第6章 セルロースの生分解(セルロース学会編集、2000年)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の限外ろ過膜を使用した糸状菌セルラーゼの膜分離・濃縮においては、限外ろ過膜のファウリングおよびセルラーゼ成分の失活あるいは凝集が課題であった。また、この課題の結果、限外ろ過膜のろ過処理速度が非常に遅くなる、あるいは限外ろ過膜で得られるセルラーゼ活性が低下することが課題であった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、前記従来技術の課題を鑑み、限外ろ過膜を使用して、トリコデルマ菌由来セルラーゼ成分を効率的に膜分離・濃縮する方法、さらにはその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の目的を達成すべく以下の[1]から[7]の発明に至った。
[1]以下の工程(1)〜(3)を含むセルラーゼの製造方法。
(1)糸状菌由来セルラーゼ水溶液を分画分子量100,000〜200,000の限外ろ過膜に通じてろ過して透過液を得るとともに、非透過液として濃縮酵素液を得る工程。
(2)工程(1)で得られた透過液を、さらに分画分子量5,000〜50,000の第2の限外ろ過膜に通じてろ過し、非透過液として第2の濃縮酵素液を得る工程。
(3)工程(1)および(2)で得られた濃縮酵素液を混合して糸状菌由来セルラーゼを得る工程。
[2]糸状菌がトリコデルマ菌である、[1]に記載のセルラーゼの製造方法。
[3]工程(1)において糸状菌由来セルラーゼ水溶液をpH2.6〜5.4またはpH8.6〜9.4に調整する、[1]または[2]に記載のセルラーゼの製造方法。
[4]糸状菌由来セルラーゼ水溶液が糸状菌培養液または糸状菌由来セルラーゼを使用したセルロース含有バイオマスの加水分解物である、[1]から[3]のいずれかに記載のセルラーゼの製造方法。
[5]糸状菌由来セルラーゼ水溶液が、セロビオハイドラーゼ、エンドグルカナーゼおよびキシラナーゼからなる群から選ばれた1以上の酵素成分を含む、[1]から[4]のいずれかに記載のセルラーゼの製造方法。
[6]糸状菌由来セルラーゼ水溶液の温度が15〜35℃の温度範囲である、[1]から[5]のいずれかに記載のセルラーゼの製造方法。
[7]セルラーゼの製造装置であって、セルラーゼ水溶液タンクと、これと連結する限外ろ過膜ポンプと、少なくとも1以上の直列または並列に連結された分画分子量100,000〜200,000の限外ろ過膜と、前記限外ろ過膜の透過液保持タンクと、分画分子量5,000〜50,000の第2の限外ろ過膜と、第2の濃縮酵素液保持タンクとを含む装置。
[8]セルラーゼ水溶液タンクがpHセンサーを具備し、さらに該セルラーゼ水溶液タンクにpH調整剤タンクが連結している、[7]に記載のセルラーゼの製造装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、糸状菌由来セルラーゼ水溶液からセルラーゼ成分を効率的に膜分離・濃縮することができる。具体的には、工程(1)において糸状菌由来セルラーゼ成分の一部を分離回収し、さらに透過液に含まれる残りの糸状菌由来セルラーゼ成分を工程(2)において回収することで、特に高いアビセル分解活性を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明のセルラーゼの製造方法の工程フローを示す図面である。
図2図2は、トリコデルマ菌由来セルラーゼを各種pHに調整し、分画分子量100,000〜200,000の第1の限外ろ過膜に通じてろ過し、非透過液として分離した濃縮酵素液のバイオアナライザー(Agilent社、Protein 230kit)での解析結果を示す図面である。
図3図3は、第2の濃縮酵素液を得る際の限外ろ過膜の限界フラックスを示す図面である。
図4図4は、本発明のセルラーゼの製造方法を実施する装置の一例を示す断面図である。
図5図5は、本発明のセルラーゼの製造方法を実施する装置の他の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のセルラーゼの製造方法は、以下の工程(1)〜(3)を含む工程で構成される(図1)。
【0013】
<工程(1)>
工程(1)では、糸状菌由来セルラーゼ水溶液を分画分子量100,000〜200,000の限外ろ過膜に通じてろ過し、透過液を得るとともに非透過液として濃縮酵素液を得る。この際、糸状菌由来セルラーゼ水溶液に含まれる一部の酵素成分が分画分子量100,000〜200,000の限外ろ過膜の非透過液として分離されることを見出した。また一方で、透過側にも残りの酵素成分が透過側に分離されること見いだされており、以下の工程(2)において残りの酵素成分を回収する。
【0014】
<工程(2)>
工程(2)では、前記工程(1)の透過液をさらに、分画分子量5,000〜50,000の第2の限外ろ過膜に通じてろ過し、非透過液として第2の濃縮酵素液を得る。これにより、工程(1)の透過液に含まれる酵素成分をもれなく回収することができる。前述工程(1)の分画分子量100,000〜200,000の限外ろ過膜、および工程(2)の分画分子量5,000〜50,000の限外ろ過膜、の2段階で糸状菌由来セルラーゼを分離・濃縮することにより、従来の分画分子量5,000〜50,000の限外ろ過膜のみで分離・濃縮する手法よりも高い酵素活性を分離することができる。
【0015】
<工程(3)>
工程(3)では、工程(1)で得られた第1の濃縮酵素液と工程(2)で得られた第2の濃縮酵素液を混合して、糸状菌由来セルラーゼ水溶液から高い酵素活性を有するセルラーゼを得る。本工程(3)で得られたセルラーゼはそのままでも使用できるが、適宜セルラーゼ濃度やpHを調整して使用してもよい。
【0016】
さらに以下、本発明の好ましい実施形態に関して詳細に説明する。
【0017】
糸状菌由来セルラーゼとは、糸状菌(filamentaous fungi)が産生するセルラーゼのことを指す。セルラーゼを産生する糸状菌として、トリコデルマ菌(Trichoderma)、アスペルギルス菌(Aspergillus)、セルロモナス菌(Cellulomonas)、クロストリジウム菌(Clostridium)、ストレプトマイセス菌(Streptomyces)、フミコラ菌(Humicola)、アクレモニウム菌(Acremonium)、イルペックス菌(Irpex)、ムコール菌(Mucor)、タラロマイセス菌(Talaromyces)、などの微生物を挙げることができる。これら微生物は、培養液中にセルラーゼを産生するために、その培養液を未精製の糸状菌セルラーゼとしてそのまま使用してもよいし、また培養液を精製し、製剤化したものを糸状菌セルラーゼとして使用してもよい。
【0018】
本発明で用いられる糸状菌由来セルラーゼとしては、トリコデルマ菌由来セルラーゼであることが好ましい。トリコデルマ菌とは、トリコデルマ属(Trichoderma)、フミコラ属(Humicola)、およびヒポクレア属(Hypocrea)に分類される糸状菌(filamentaous fungi)のことを指す。また、トリコデルマ菌由来セルラーゼとは、前記のトリコデルマ菌が細胞内外に産生するセルラーゼ成分全般のことを指す。また、本発明で用いられるセルラーゼとは、セルロースの加水分解活性を有する酵素およびヘミセルロースの加水分解活性を有する酵素の双方のことを指す。
【0019】
また、トリコデルマ菌由来セルラーゼのうち、より好ましくは、トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)由来のセルラーゼである。トリコデルマ・リーセイ由来のセルラーゼとしては、トリコデルマ・リーセイQM9414(Trichoderma reesei QM9414)、トリコデルマ・リーセイQM9123(Trichoderma reesei QM9123)、トリコデルマ・リーセイRutC‐30(Trichoderma reesei Rut‐30)、トリコデルマ・リーセイPC3‐7(Trichoderma reesei PC3‐7)、トリコデルマ・リーセイATCC66589(Trichoderma reesei ATCC66589)、トリコデルマ・リーセイCL−847(Trichoderma reesei CL−847)、トリコデルマ・リーセイMCG77(Trichoderma reesei MCG77)およびトリコデルマ・リーセイMCG80(Trichoderma reesei MCG80)に由来するセルラーゼが挙げられる。また、前述したトリコデルマ菌に由来し、これらの菌株を変異剤あるいは紫外線照射などで変異処理を施し、セルラーゼ生産性などが向上した変異株であってもよい。
【0020】
トリコデルマ菌は、適切な培地条件下において培養することにより、培養液中に種々のセルラーゼを分泌産生するため、このような培養液からトリコデルマ菌由来セルラーゼを取得することができる。このような培養液は、未精製のままトリコデルマ菌由来セルラーゼとしてもよいし、また培養液を公知の手法にて精製したもの、あるいは、さらに製剤化したものでもよい。前記の培養液より、トリコデルマ菌由来セルラーゼを精製し、製剤化したものとして使用する場合、プロテアーゼ阻害剤、分散剤、溶解促進剤および安定化剤など、酵素以外の物質を添加したものであってもよい。
【0021】
また、本発明で使用されるトリコデルマ菌由来セルラーゼは、トリコデルマ菌のゲノム上に存在するセルラーゼ成分のアミノ酸配列をコードするDNAを調整し、これを発現ベクターに連結し、この発現ベクターを宿主に導入し、組換えタンパク質として生産し、単離および精製したものでもよい。
【0022】
トリコデルマ菌は、少なくとも2種以上のエンドグルカナーゼ(エンドグルカナーゼI、エンドグルカナーゼII)、少なくとも2種以上のセロビオハイドラーゼ(セロビオハイドラーゼI、セロビオハイドラーゼII)、少なくとも2種以上のヘミセルラーゼ(キシラナーゼ、キシロシダーゼ)、および1種以上のβグルコシダーゼを産生する。
【0023】
セロビオハイドラーゼとは、セルロースの末端部分から加水分解していくことを特徴とするセルラーゼの総称であり、EC番号:EC3.2.1.91としてセロビオハイドラーゼに帰属される酵素群が記載されている。エンドグルカナーゼとは、セルロース分子鎖の中央部分から加水分解することを特徴とするセルラーゼの総称であり、EC番号:EC3.2.1.4としてエンドグルカナーゼに帰属される酵素群が記載されている。エキソグルカナーゼとは、セルロース分子鎖の末端から加水分解することを特徴とするセルラーゼの総称であり、EC番号:EC3.2.1.74としてエキソグルカナーゼに帰属される酵素群が記載されている。βグルコシダーゼとは、セロオリゴ糖あるいはセロビオースに作用することを特徴とするセルラーゼの総称であり、EC番号:EC3.2.1.21としてβグルコシダーゼに帰属される酵素群が記載されている。
【0024】
キシラナーゼとは、ヘミセルロースあるいは特にキシランに作用することを特徴とするセルラーゼの総称であり、EC番号:EC3.2.1.8としてキシラナーゼに帰属される酵素群が記載されている。キシロシダーゼとは、キシロオリゴ糖に作用することを特徴とするセルラーゼの総称であり、EC番号:EC3.2.1.37としてキシロシダーゼに帰属される酵素群が記載されている。
【0025】
本発明で用いられる糸状菌由来セルラーゼでは、異種微生物のセルラーゼ成分を添加し、特定の酵素活性を強化したものでもよい。例えば、糸状菌として、アスペルギルス属(Aspergillus)、セルロモナス属(Cellulomonas)、クロストリジウム属(Clostridium)、ストレプトマイセス属(Streptomyces)、アクレモニウム属(Acremonium)、イルペックス属(Irpex)、ムコール属(Mucor)、タラロマイセス属(Talaromyces)、などに由来するセルラーゼを添加してもよい。また、好熱性菌としてはスルホロバス属(Sulofolobus)、サーモプラズマ属(Thermoplasma)、カルディビルグラ属(Caldivirgra)、サーモスファエラ属(Thermosphaera)、パイロコッカス属(Pyrococcus)、ピクロフィラス(Picrophilus)属、カルディビルグラ属(Caldivirgra)、およびフェルビドバクテリウム属(Fervidobacterium)などの微生物を例示することができる。
【0026】
糸状菌由来セルラーゼに含まれる各酵素成分に関しては、公知の分離手法を用いその成分を特定することができる。例えば、ゲルろ過、イオン交換、および二次元電気泳動など公知手法により分離し、分離された成分のアミノ酸配列分析(N末端分析、C末端分析、質量分析)を行い、データベースとの比較により同定することができる。
【0027】
糸状菌由来セルラーゼの酵素活性は、アビセル分解活性、カルボキシメチルセルロース(CMC)分解活性、セロビオース分解活性、キシラン分解活性、およびマンナン分解活性などの多糖の加水分解活性によって評価することができる。アビセル分解活性は、セルロース末端部分から加水分解する特徴と有すセロビオハイドラーゼあるいはエキソグルカナーゼがその活性を示す主たる酵素である。また、キシラン分解活性は、キシラナーゼやキソロシダーゼがその活性を示す主たる酵素である。セロビオース分解活性は、主にβグルコシダーゼがその活性を示す主たる酵素である。CMCは、セルラーゼ全般が触媒作用する。ここで“主たる”という意味は、最も分解に関与することが知られていることからの表現であり、これ以外の酵素成分もその分解に関与していることを意味している。
【0028】
糸状菌由来セルラーゼ水溶液とは、前述した糸状菌由来のセルラーゼ成分が1種以上含まれている水溶液である。但し、本発明では、複数種の糸状由来セルラーゼ成分を含む水溶液である方が好ましい。また、本来の糸状菌由来セルラーゼ成分に加えて、異種微生物由来の酵素あるいはセルラーゼが含まれていてもよい。
【0029】
本発明で用いられる糸状菌由来セルラーゼ水溶液として特に制限はないが、糸状菌の培養液あるいはセルロース含有バイオマスに糸状菌由来セルラーゼを添加して加水分解した加水分解物であることが好ましい。pH調整に使用する酸としては、硫酸、塩酸、酢酸、燐酸、および硝酸などが例示され、アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化カルシウムなどを例示することができるが、所定のpHに経済的に調整可能な酸またはアルカリであって、糸状菌由来セルラーゼの酵素成分が失活あるいは凝集しないものであれば特に限定されるものではない。
【0030】
糸状菌由来セルラーゼ水溶液は、遠心分離、フィルタープレスろ過、ドラムフィルタろ過、デプスフィルターろ過、沈降分離、凝集処理、および砂ろ過から選ばれる1以上の固液分離操作を行い、濁度0.1〜100NTUの範囲に調整したものであることが好ましい。濁度(Tubidity)とは、「濁度とは水の濁りの程度を表すもので、視覚濁度、透過光濁度、散乱光濁度および積分球濁度に区分し表示する。カオリン標準液と比較して測定する場合には、“度(カオリン)”を単位とし、ホルマジン標準液と比較して測定する場合には、“度(ホルマジン)”を単位として表す。」とJIS K0101「工業用水試験方法」に定義されている。
【0031】
本発明では、カオリン標準液に比べ再現性および安定性に優れるホルマジン標準液を使用し、散乱光測定法にて測定した濁度「NTU」を使用する。NTUとは、「Nephelometric Tubidity Unit」のことを指し、濁度が100NTUより大きい場合、後段の工程(2)の限外ろ過膜によるろ過において、膜ファウリングの要因となる。したがって、前述した1以上の固液分離操作を行うことにより、濁度を0.1〜100NTUの範囲に調整することが好ましい。前述の固液分離手法は、公知の装置および手順により実施することができる。逆に、濁度を0.1NTU未満にするためには、細孔径0.05〜1.0μmの精密ろ過膜を使用する必要がある。このような精密ろ過膜を使用した場合、精密ろ過膜の非透過液として、糸状菌由来セルラーゼの酵素成分が阻止される可能性があるため、濁度は0.1NTU以上であることが好ましい。
【0032】
本発明で用いられる限外ろ過膜とは、平均細孔径0.02〜0.0001μmを有する分離膜のことを指し、主として酵素やタンパク質などの水溶性高分子化合物を分子ふるいの効果で膜分離・濃縮することが可能な分離膜である。
【0033】
本発明では、分画分子量が100,000〜200,000の第1の限外ろ過膜と、分画分子量が5,000〜50,000の第2の限外ろ過膜の2種類の限外ろ過膜を使用する。分画分子量(MWCO)とは、日本膜学会編 膜学実験シリーズ 第III巻 人工膜編 編集委員/木村尚史・中尾真一・大矢晴彦・仲川勤(共立出版、1993年)92頁に、『溶質の分子量を横軸に、阻止率を縦軸にとってデータをプロットしたものを分画分子量曲線とよんでいる。そして阻止率が90%となる分子量を膜の分画分子量とよんでいる。』とあるように、膜の非透過画分として分離可能な分子量を測定することによりその膜性能を定義したものである。分画分子量を決定する手法としては、分子量が明らかな種々のデキストラン標準試料やタンパク質標準試料を限外ろ過膜に通じてろ過し、その阻止率を評価し、その分離曲線を描くことにより分画分子量を決定することができる。具体的には、分画分子量100,000の限外ろ過膜とは、分子量100,000の分子を90%阻止する限外ろ過膜のことを指す。
【0034】
糸状菌由来セルラーゼは20〜100kDaの範囲に大小種々の酵素成分を含んでおり、糸状菌由来セルラーゼ水溶液を分画分子量100,000〜200,000の第1の限外ろ過膜でろ過した場合は酵素成分を非透過液側から回収できないことが予想される。しかしながら、本発明の工程(1)では、予想に反して糸状菌由来セルラーゼの20kDa〜100kDaの範囲の一部の酵素成分が、分画分子量100,000〜200,000の第1の限外ろ過膜にて非透過液側から回収することができる。第1の限外ろ過膜の分画分子量が200,000を超えると、非透過液として回収される酵素成分量が減少するため好ましくなく、分画分子量が100,000未満となると、限外ろ過膜にて回収される酵素成分量が増大しすぎるため好ましくない。なお、第1の限外ろ過膜の好ましい分画分子量は100,000〜150,000である。
【0035】
そして、工程(2)では工程(1)の透過液を分画分子量5,000〜50,000の限外ろ過膜でろ過し、工程(1)では回収しきれなかった糸状菌由来セルラーゼの酵素成分を回収する。第2の限外ろ過膜の分画分子量が5,000未満であると膜のフラックスが低下することに加え、回収される酵素量・活性が大きく変化することがないことから好ましくなく、分画分子量が50,000を超えると工程(1)の透過液に含まれる糸状菌由来セルラーゼ成分が透過液側にろ過されてしまうことにより回収される酵素量・活性が減少するため好ましくない。なお、第2の限外ろ過膜の好ましい分画分子量は10,000〜30,000である。
【0036】
限外ろ過膜(高分子膜)の分離特性は、機能層と呼ばれる緻密層の細孔径によって決定される。工程(1)および工程(2)で使用する限外ろ過膜の機能層の素材としては、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリスルホン(PS)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリフッ化ビニルデン(PVDF)、再生セルロース、セルロース、セルロースエステル、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリエーテルスルホン、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、およびポリ4フッ化エチレン、などの素材を使用することができるが、再生セルロース、セルロースおよびセルロースエステルは、トリコデルマ菌由来セルラーゼによる分解を受けるため、PESやPVDFなどの合成高分子化合物を機能層の素材とした限外ろ過膜を使用することが好ましい。
【0037】
限外ろ過膜に通じてろ過する際のpH条件は、本発明の工程(1)では糸状菌由来セルラーゼ水溶液をpH2.6〜5.4またはpH8.6〜9.4に調整することが好ましい。なお、本発明においては、糸状菌由来セルラーゼ水溶液が既にpH2.6〜5.4またはpH8.6〜9.4の範囲にある場合は当該範囲に調整されたものであると見なす。工程(1)でpHを調整して限外ろ過膜に通じてろ過する効果としては、非透過液として回収することができる濃縮酵素液に含まれる酵素成分量を増大できるという効果を有する。
【0038】
なお、pH条件によって酵素あるいはタンパク質の限外ろ過膜の透過性が変化することは公知であり、これは、水溶液中に溶解している酵素あるいはタンパク質の表面荷電状態が変化することで、水溶液中での見かけ分子量が変化することが要因と言われている。しかしながら、このような見かけ分子量が変化する条件および程度は、各酵素成分の特有のアミノ酸配列および立体構造、さらに水溶液中に溶解している各酵素間で働く相互作用など、種々の要因によって変化することも公知である。糸状菌由来セルラーゼの場合、各酵素成分の各pH条件における見かけ上の分子量の変化、あるいは、糸状菌由来セルラーゼの各酵素成分が複数種溶解する水溶液中の個々の酵素成分の会合状態は明らかになっていないため、pH変化による糸状菌由来セルラーゼの各酵素成分の限外ろ過膜の透過性の変化に関しても、当然明らかになっていない。
【0039】
工程(1)および工程(2)限外ろ過膜に通じてろ過する際の温度条件は、酵素が失活あるいは凝集しない温度範囲であれば限定されないが、好ましくは15〜35℃の範囲である。特に、温度が35℃を超えると糸状菌セルラーゼの酵素成分の一部である分子量40kDa未満の酵素成分であってキシラナーゼあるいはエンドグルカナーゼのいずれかの酵素活性を有する成分が凝集する場合がある。
【0040】
工程(1)の限外ろ過膜によるろ過速度は、非透過液側に酵素を阻止できる範囲であれば特に制限はないが、0.5〜8m/dayであることが好ましい。0.5m/day未満であると、糸状菌由来セルラーゼの阻止率を低下させる要因となる。一方で、ろ過速度が8m/dayを超えると、限外ろ過膜の膜間差圧の著しい増加および膜の急激なファウリングが引き起こされることがある。
【0041】
一方、工程(2)で使用する限外ろ過膜は、糸状菌由来セルラーゼの分子量に対応しているため、ろ過速度により糸状菌由来セルラーゼの阻止率に影響することは少なく、膜のファウリングを考慮してろ過速度を決定すればよく、0.1〜4m/dayであることが好ましい。
【0042】
なお、ろ過速度(m/day)とは、ある特定の膜面積(m)を有する限外ろ過膜に、ろ過対象である糸状菌由来セルラーゼ水溶液をろ過し、得られるフラックス(m/h)を測定することにより、次式(式1)で算出することができる。
ろ過速度(m/day)=フラックス(m/h)×24÷膜面積(m)・・・(式1)。
【0043】
工程(1)および工程(2)において、限外ろ過膜の非透過液として得られる濃縮酵素液の濃度は、1〜100g/Lの範囲であることが好ましい。濃度が100g/Lを超えると、非透過側の膜分離・濃縮酵素液の粘度が高まり、急激なろ過速度の低下を引き起こすことがある。一方、濃度が1g/L未満であると、膜分離・濃縮酵素液としては希薄すぎるため、濃縮酵素液の使用上の理由から、十分な濃度と言えない。
【0044】
工程(1)および工程2で使用する限外ろ過膜は、平膜型、スパイラル型、チューブラー型および中空糸型など適宜の形態のものを使用することができる。
【0045】
特に工程(1)で使用する糸状菌由来セルラーゼ水溶液は、固形物などを含む可能性もあり、膜ファウリングに強い分離膜であることが好ましい。すなわち、外圧式中空糸限外ろ過膜であることが好ましい。中空糸膜とは、内部が空洞となっており、その内側あるいは外側に機能層を有する分離膜のことを指す。特に本発明では、中空糸膜の外側からろ過原水を透過させ、中空糸膜の内側に濾液を得ることができる、外圧式中空糸膜であることが好ましい。外圧式中空糸膜は、内圧式に比べ固形物による膜ファウリングに強く、また、洗浄も容易であるという特徴を有する。
【0046】
一方、工程(2)で使用する限外ろ過膜は、いずれの形態であってもよい。特に、単位体積当たりにおいて高い膜面積を有するスパイラル型であることが好ましい。本発明では、工程(1)において得られた透過液を工程(2)において使用するため、工程(2)のろ過速度が向上し、また膜ファウリングを抑制できるという効果も有している。
【0047】
具体的には、DESAL社のG−5タイプ、G−10タイプ、G−20タイプ、G−50タイプ、PWタイプおよびHWS UFタイプ、KOCH社のHFM−180、HFM−183、HFM−251、HFM−300、HFM−116、HFM−183、HFM−300、HFK−131、HFK−328、MPT−U20、MPS−U20PおよびMPS−U20S、Synder社のSPE1、SPE3、SPE5、SPE10、SPE30、SPV5、SPV50およびSOW30、旭化成株式会社製の“マイクローザ”(登録商標)UFシリーズ、日東電工株式会社製のNTR7410、およびNTR7450などが挙げられる。
【0048】
工程(1)および工程(2)の限外ろ過は、デッドエンドろ過(ノーマル・フロー・フィルトレーション)あるいはクロスフローろ過(タンジェンシャル・フロー・フィルトレーション)のいずれであってもよい。デッドエンドろ過(ノーマル・フロー・フィルトレーション)とは、限外ろ過膜の膜面に対して、垂直に圧力をかけ、非透過側から透過側へろ過する方法である。一方、クロスフローろ過(タンジェンシャル・フロー・フィルトレーション)とは、ろ過方向である膜面に対して平行する流れ(クロスフローあるいはタンジェンシャル・フロー)を、ポンプあるいは気泡などによって発生させ、限外ろ過膜表面に形成される堆積槽を除去しながらろ過する方法である。このクロスフロー(あるいはタンジェンシャル・フロー)によって、限外ろ過膜の膜ファウリングを抑制することができる。特に工程(1)において外圧式中空糸を使用する場合、デッドエンドろ過であることが好ましい。また工程(1)および工程(2)において、スパイラル型、平膜型を使用する場合、クロスフローろ過であることが好ましい。
【0049】
工程(1)で使用する限外ろ過膜が外圧式中空糸限外ろ過膜の場合、透過液を、透過側から非透過側に間欠的に通液させる逆洗操作を行うことが好ましい。この逆洗操作によって、限外ろ過膜の膜表面に堆積した固形物あるいは酵素などの堆積物を剥離することができる。すなわち、本操作によって、限外ろ過膜によるろ過時の目詰まりを抑制することができ、長期間安定にろ過処理を実施することができる。本操作は、限外ろ過膜によるろ過時あるいはろ過終了時などに行えばよい。本操作を行うタイミングとしては、限外ろ過膜のろ過差圧が増大した場合、あるいは、差圧に関係なく一定間隔に行う場合などがあるが、後者の方が好ましい。
【0050】
工程(1)あるいは工程(2)の限外ろ過膜の非透過液として得られた濃縮酵素液は、曝気および/または溶液循環によって膜面線速度1〜200cm/secの範囲でクロスフローを発生させることにより、濃縮酵素液を回収することが好ましい。またこの際、前述した逆洗操作を連続的あるいは間欠的に行いつつ、前述クロスフローを発生させて、濃縮酵素液を得てもよい。
【0051】
本発明で得られたセルラーゼは、その保有する触媒活性を利用して、食品用途、洗剤、洗浄剤、環境浄化剤、肥料用途、飼料用途、化粧品用途、医薬品用途、などに使用できる。
【0052】
本発明で得られたセルラーゼは、広くセルロース含有バイオマスの加水分解に使用することができる。セルロース含有バイオマスとは、少なくともセルロースまたはヘミセルロースを含むものである。具体的には、バガス、コーンストーバー、コーンコブ、スイッチグラス、稲藁、麦藁、樹木、木材、廃建材、新聞紙、古紙、およびパルプなどである。これらのセルロース含有バイオマスは、高分子芳香族化合物リグニンやヘミセルロースなどの不純物が含まれているが、前処理として、酸、アルカリおよび加圧熱水などを用いて、リグニンやヘミセルロースを部分的に分解したセルロース含有バイオマスを、セルロースとして利用してもよい。加水分解の条件は、糸状菌由来セルラーゼの至適反応条件に設定すればよいが、処理温度40〜60℃、処理pH3〜7、およびセルロース含有バイオマス固形分濃度0.1〜30%であることが好ましい。上記の至適反応条件範囲に設定することにより、バイオマス加水分解効率を最大限発揮することができる。この加水分解処理は、バッチ式で行っても、連続式で行ってもよい。このような酵素処理によって得られた加水分解物は、グルコースやキシロースなどの単糖成分を含むため、エタノールや乳酸などの発酵原料糖として使用することが可能である。
【0053】
本発明で得られたセルラーゼを使用する際は、酸化酵素、還元酵素、加水分解酵素、転移酵素、異性化酵素など別の機能を有する酵素成分を加えて酵素剤としてもよい。特にこうした別の機能を有する酵素成分としては、糸状菌に限定されるものでなく、あらゆる生物由来の酵素成分、遺伝子組換えにより生産された酵素成分を添加して使用してもよい。
【0054】
本発明を実施するための装置に関して、その実施形態として、図4および図5を使用して説明する。図4図5は、本発明を実施する装置の一例を示す断面図である。
【0055】
図4の装置では、スパイラルエレメント型の分画分子量100,000〜200,000の限外ろ過膜を使用する装置に関するものである。糸状菌由来セルラーゼ水溶液は、セルラーゼ水溶液タンク1に保持される。本タンク1内でpH調整を行うため、pHセンサー2がタンク内に設置されており、検出されたpH信号は、pH調整ポンプ3に送られる。pH調整ポンプ3は、酸またはアルカリを含むpH調整剤タンク4と連結しており、pH調整剤をセルラーゼ水溶液タンク1に送液する。セルラーゼ水溶液タンク1は、限外ろ過膜ポンプ6を介して、分画分子量100,000〜200,000の限外ろ過膜8に連結されている。
【0056】
図4の装置では、分画分子量100,000〜200,000の限外ろ過膜8はツリー構造に連結されているが特に制限はない。また、分画分子量100,000〜200,000の限外ろ過膜8の透過液は透過液保持タンク10に連結されている。分画分子量100,000〜200,000の限外ろ過膜8の非透過液は、第1の濃縮酵素液として回収される。非透過液である濃縮酵素液は、必要十分な分離・濃縮が得られるのであれば、そのまま第1の濃縮酵素液として回収してもよく、さらに十分な濃縮倍率を得るためにセルラーゼ水溶液タンク1に連結して循環させてもよい。
【0057】
分画分子量100,000〜200,000の限外ろ過膜の透過液に関して、さらに、平均分画分子量5,000〜50,000の第2の限外ろ過膜で分離・濃縮するする。透過液保持タンク10は、バルブ11および限外ろ過膜ポンプ12を介して、分画分子量5,000〜50,000の限外ろ過膜13に連結されている。分画分子量5,000〜50,000の限外ろ過膜13は、図4に示すようにツリー構造に連結してもよい。分画分子量5,000〜50,000の限外ろ過膜13の非透過液は、濃縮酵素液として回収される。濃縮酵素液は、第2の濃縮酵素液保持タンク14に回収され、透過液は第2の透過液保持タンク15に回収される。
【0058】
図5の装置は、分画分子量100,000〜200,000の限外ろ過膜8として、外圧式中空糸限外ろ過膜を使用する際の実施形態である。外圧式中空糸限外ろ過膜を使用する場合、中空糸膜表面を洗浄するための気泡を発生させるコンプレッサー7および分画分子量100,000〜200,000の限外ろ過膜8の透過液を使用して膜の逆洗浄を行うための逆洗ポンプ9を備えている。その他は、図4の装置と同じである。
【実施例】
【0059】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
(参考例1)トリコデルマ菌の培養液の調製方法
トリコデルマ菌の培養液は、次の方法で調製した。
【0061】
[前培養]
コーンスティップリカー5%(w/vol)、グルコース2%(w/vol)、酒石酸アンモニウム0.37%(w/vol)、硫酸アンモニウム0.14(w/vol)、リン酸二水素カリウム0.2%(w/vol)、塩化カルシウム二水和物0.03%(w/vol)、硫酸マグネシウム七水和物0.03%(w/vol)、塩化亜鉛0.02%(w/vol)、塩化鉄(III)六水和物0.01%(w/vol)、硫酸銅(II)五水和物0.004%(w/vol)、塩化マンガン四水和物0.0008%(w/vol)、ホウ酸0.0006%(w/vol)、および七モリブデン酸六アンモニウム四水和物0.0026%(w/vol)となるように蒸留水に添加し、100mLを500mLバッフル付き三角フラスコに張り込み、121℃の温度で15分間オートクレーブ滅菌した。放冷後、これとは別に、それぞれ121℃の温度で15分間オートクレーブ滅菌したPE−MとTween80を、それぞれ0.01%(w/vol)添加した。この前培養培地に、トリコデルマ・リーセイATCC66589を1×10個/mLになるように植菌し、28℃の温度で72時間、180rpmで振とう培養し、前培養とした(振とう装置:TAITEC社製 BIO−SHAKER BR−40LF)。
【0062】
[本培養]
コーンスティップリカー5%(w/vol)、グルコース2%(w/vol)、セルロース(アビセル)10%(w/vol)、酒石酸アンモニウム0.37%(w/vol)、硫酸アンモニウム0.14%(w/vol)、リン酸二水素カリウム0.2%(w/vol)、塩化カルシウム二水和物0.03%(w/vol)、硫酸マグネシウム七水和物0.03%(w/vol)、塩化亜鉛0.02%(w/vol)、塩化鉄(III)六水和物0.01%(w/vol)、硫酸銅(II)五水和物0.004%(w/vol)、塩化マンガン四水和物0.0008%(w/vol)、ホウ酸0.0006%(w/vol)、および七モリブデン酸六アンモニウム四水和物0.0026%(w/vol)となるように蒸留水に添加し、2.5Lを5L容撹拌ジャー(ABLE社製、DPC−2A)容器に張り込み、121℃の温度で15分間オートクレーブ滅菌した。放冷後、これとは別に、それぞれ121℃の温度で15分間オートクレーブ滅菌したPE−MとTween80を、それぞれ0.1%添加し、あらかじめ前記の方法により液体培地で前培養したトリコデルマ・リーセイATCC66589を250mL接種した。その後、28℃の温度で87時間、300rpm、通気量1vvmの条件で振とう培養を行い、遠心分離後、上清を膜ろ過(ミリポア社製の“ステリカップ”−GV、材質:PVDF)した。この前述条件で調整した培養液をトリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液として、以下の実施例に使用した。
【0063】
(参考例2)糖濃度の測定
糖液に含まれるグルコースおよびキシロース濃度は、下記に示すHPLC条件で標品との比較により定量した。
カラム:Luna NH(Phenomenex社製)
移動相:ミリQ:アセトニトリル=25:75(流速0.6mL/分)
反応液:なし
検出方法:RI(示差屈折率)
温度:30℃。
【0064】
(参考例3)セルラーゼの活性測定方法
セルラーゼ活性は、(1)アビセル分解活性、(2)セロビオース分解活性および(3)キシラン分解活性の3種の分解活性に分けて、次の手順で活性を測定評価した。
【0065】
(1)アビセル分解活性
酵素液(所定条件で調製)に対し、アビセル(メルク社製)を1g/Lと酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)を100mMとなるように添加し、50℃の温度で24時間回転混和しながら反応を行った。反応後、チューブを遠心分離し、その上清成分のグルコース濃度を測定した。グルコース濃度は、参考例2に記載の方法に準じて測定した。アビセル分解活性は、生成したグルコース濃度(g/L)をそのまま活性値とした。
【0066】
(2)セロビオース分解活性
酵素液に対し、セロビオース(和光純薬)500mg/Lと酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)を100mMとなるように添加し、50℃の温度で0.5時間回転混和しながら反応を行った。反応後、チューブを遠心分離し、その上清成分のグルコース濃度を測定した。グルコース濃度は、参考例2に記載の方法に準じて測定した。セロビオース分解活性は、生成したグルコース濃度(g/L)をそのまま活性値とした。
【0067】
(3)キシラン分解活性
酵素液に対し、キシラン(Birch wood xylan、和光純薬)10g/Lと酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)を100mMとなるように添加し、50℃で4時間回転混和しながら反応を行った。反応後、チューブを遠心分離し、その上清成分のキシロース濃度を測定した。キシロース濃度は、参考例2に記載の方法に準じて測定した。キシロース分解活性は、生成したキシロース濃度(g/L)をそのまま活性値とした。
【0068】
(参考例4)タンパク質濃度の測定
タンパク質濃度の測定は、Pierce BCA Protein Assay Kitを使用して、同Kitプロトコルに準じて行った。タンパク質濃度の検量線は、Albumin standard(2mg/mL)を段階希釈したものを同様に測定し作製し、検量線の目的試料と比色によって定量した。
【0069】
(参考例5)分画分子量100,000の限外ろ過膜によるトリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液の膜分離・濃縮
上記の参考例1で調製したトリコデルマ菌由来セルラーゼを3.5g/Lとなるように希釈し、これに希塩酸もしくは希水酸化ナトリウムを使用して、pH2、pH3、pH4、pH5、pH6、pH7、pH8、pH9、pH10、pH11、およびpH12(pH2〜12)の水溶液を調製した。pH調整後、タンパク質濃度を再測定したところ、3.5g/L前後であったため、これらpH調整済みのセルラーゼ水溶液のタンパク質濃度を3.5g/Lと見なして、以下評価を実施した。
【0070】
前記pH調整済みトリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液(pH2〜12)各20mLを、分画分子量100,000の限外ろ過膜(Sartorius社製“VIVASPIN” 20、100,000MWCO、PES、有効膜面積6cm)を使用して、デッドエンドろ過で非透過液の液量が0.5mLになるまで濃縮を行った(温度25℃、遠心力6000g)。濃縮液のタンパク質量およびセルラーゼ活性を測定するため、回収した濃縮液の質量を測定しながら、初期質量である20g(20mL)となるまで、RO水を加えながらメスアップを行った。これを非透過液として、以下分析に使用した。また透過液は、限外ろ過膜の透過液を特段の希釈等の処理を行わず、そのまま透過液として以下分析を行った。
【0071】
非透過液および透過液のタンパク質濃度の測定は、上記の参考例4記載の方法で行った。また、前述の非透過液および透過液に関して、バイオアナライザー(Agilent社、Protein 230kit)を使用して電気泳動を行った。得られた電気泳動の結果を図2に示す。図2において、pH2〜10のいずれのpHにおいても、トリコデルマ菌由来セルラーゼのセロビオハイドラーゼに起因するバンドが確認できるが、トリコデルマセルラーゼ水溶液のpHに依存して各バンドの濃淡があることが判明した。特にpH3、pH4およびpH5において、セロビオハイドラーゼ(CBH)のバンド濃度が濃く(図2)、pH6を超える場合あるいはpH2の場合は、それぞれセロビオハイドラーゼのバンド濃度が薄くなる傾向が判明した。またこの結果は、バイオアナライザーにて算出したセロビオハイドラーゼ濃度とも、傾向は完全に一致することが確認できた。結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
次に、非透過液の各セルラーゼ活性の測定を、上記の参考例3に準じて行った結果を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
各pHにおける非透過液のセルラーゼ分解活性、特にアビセル分解活性を比較したところ、pH3、pH4、pH5およびpH9の条件において、他のpHに比べ活性が増大していることが判明した。pH3、pH4およびpH5に関しては、表1のセロビオハイドラーゼの回収量と相関しており、トリコデルマ菌由来セルラーゼ成分の内、セロビオハイドラーゼの回収量が、pH3、pH4およびpH5において増大したためと考えられた。またその一方で、pH9の条件において、アビセル分解活性が増大することが判明した。この結果は、図2の電気泳動の結果、表1のセロビオハイドラーゼの回収量との結果とは相関しないことが判明した。その理由を確認するために図2のセロビオハイドラーゼ以外のバンド1〜バンド5に関して、バイオアナライザーを用いて分析を行った。バンド1〜バンド5の各分子量は、それぞれ、バンド1:23.5kDa、バンド2:26.1kDa、バンド3:27.6kDa、バンド4:30.8kDa、およびバンド5:42.5kDaであった。また、CBHと同じく、バンド1〜5の各セルラーゼ成分濃度に関して、バイオアナライザーにて算出を行った。結果を表3に示す。
【0076】
【表3】
【0077】
分析の結果、pH3、pH4、pH5およびpH9において、バンド1〜5のセルラーゼ成分に関して非透過液としての回収量が増大していることが分かった。但し、特にpH9以上において回収量が増大しているバンドとして、バンド4とバンド5のセルラーゼ成分があることが判明した(表3、*:アスタリスク)。この2種の酵素成分に関して、pH9においては、特異的に多く非透過液として回収されたため、非透過液のアビセル分解活性が増大したものと考えられた。バンド4およびバンド5に関して同定に至ってはいないが、公知データベース記載のトリコデルマ菌由来セルラーゼ成分分子量からエンドグルカナーゼもしくはキシラナーゼであると推定された。
【0078】
また、pH10以上条件においては、タンパク質回収率は多いものの酵素活性の回収率は著しく低下した。これは、pH10以上ではトリコデルマ菌由来セルラーゼ成分がタンパク質としては回収できるものの、その酵素活性は失活したためと考えられた。pH2に関しても、pH10以上と同様の理由で、酵素活性の回収率が著しく低下したものと考えられた。
【0079】
すなわち、参考例5ではトリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液のpHを調整することによって、非透過液として回収されるセルラーゼ活性が増減することが判明した。また特に、pH3、pH4、pH5およびpH9において回収できるセルラーゼ分解活性が最大となることより、pH条件をpH2.6〜5.4あるいはpH8.6〜9.4の範囲にトリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液のpHを調整した後、分画分子量100,000の限外ろ過膜でろ過することによって、高いセルラーゼ分解活性を有する非透過液を回収できることが確認できた。
【0080】
(比較例1)分画分子量10,000の限外ろ過膜によるトリコデルマ菌由来セルラーゼの濃縮(pH3およびpH9)
参考例5のトリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液(pH3、pH9)20mLについて、分画分子量10,000の限外ろ過膜(Sartorius社製“VIVASPIN” 20、10,000MWCO、PES、有効膜面積6cm)を使用して、デッドエンドろ過で非透過液の液量が1mLになるまで濃縮を行った(温度25℃、遠心力6000g)。濃縮液を回収し、質量を測定しながら、初期質量である20gとなるまで、RO水を加えながらメスアップを行った。これを非透過液として、セルラーゼ分解活性を上記の参考例3に準じて測定を行った。限外ろ過前のトリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液に関しても、セルラーゼ分解活性を参考例3に準じて測定し得られた活性値を100%として、非透過液のセルラーゼ分解活性を評価した。得られた結果を表5に示す。
【0081】
(実施例1)分画分子量100,000および10,000の限外ろ過膜によるトリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液の膜分離・濃縮(pH3および9)
参考例5で示したように、トリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液を分画分子量100,000の限外ろ過膜に通じてろ過することで、非透過液側にセルラーゼ成分の一部を回収可能であることが判明した。しかしながら、一方で、限外ろ過膜の透過液として一部の酵素成分を損失していることが同時に課題であった。そこで、分画分子量100,000の限外ろ過膜において、トリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液を分離して、非透過液(第1の濃縮酵素液)を回収した後に、その透過液に関して、さらに分画分子量10,000の限外ろ過膜を用いてろ過することにより、さらに非透過液として第2の濃縮酵素液を得ることを検討した。具体的には以下手順にて実施した。
【0082】
参考例5のトリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液(pH3およびpH9)を使用して、限外ろ過を実施した。分画分子量100,000の限外ろ過膜によるろ過は、比較例1に準じて行い、非透過液(第1の濃縮酵素液)0.5mLおよび透過液19.5mLを回収した。
【0083】
透過液19.5mLは、さらに分画分子量10,000の第2の限外ろ過膜(Sartorius社製“VIVASPIN” 20、10,000MWCO、PES、有効膜面積6cm)を使用して、デッドエンドろ過により非透過液の液量が0.5mLになるまで濃縮を行った(温度25℃、遠心力6000g)。最終的に、第1の濃縮酵素液0.5mLと第2の濃縮酵素液0.5mLを混合して、回収酵素液1mLを得た。
【0084】
次に回収酵素液の質量を測定しながら、初期質量である20gとなるまでRO水を加えながらメスアップしたものについてのセルラーゼ分解活性を上記の参考例3に準じて測定を行った。また、限外ろ過前のトリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液に関してもセルラーゼ分解活性を参考例3に準じて測定し、得られた活性値を100%として非透過液のセルラーゼ分解活性を評価した。得られた結果を表4に示す。
【0085】
【表4】
【0086】
比較例1の分画分子量10,000の限外ろ過膜だけを使用して得られた濃縮酵素液と、実施例1の分画分子量100,000の限外ろ過膜を用いて得られた第1の濃縮酵素液と分画分子量10,000の限外ろ過膜を用いて得られた第2の濃縮酵素液を混合した回収酵素液を比較すると、実施例1が比較例1よりもタンパク質回収率が増加することが判明した。また、実施例1では特にアビセル分解活性の回収率が著しく向上することが判明した。
【0087】
すなわち、実施例1の結果は、分画分子量100,000〜200,000の限外ろ過膜を用いて第1の濃縮酵素液を得る工程、次いで、透過液を5,000〜50,000の第2の限外ろ過膜に通じてろ過を行い第2の濃縮酵素液を得る工程を行うことにより、トリコデルマ菌由来セルラーゼの回収酵素量および活性を増加できることが判明した。
【0088】
(実施例2)第2の限外ろ過膜の限界フラックス
参考例5のトリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液1L(pH5)トリコデルマ水溶液について、分画分子量150,000の中空糸限外ろ過膜(東レ株式会社製“トレフィル”HFU)に通じてクロスフローろ過し、透過液を得た。次に、分画分子量10,000の限外ろ過膜(VIVASCIENCE、“VIVAFLOW” 50、PES、VF05P0)を使用して、ろ過フラックスを変化させながらクロスフローろ過を行い、各ろ過フラックス時の膜間差圧を測定した。比較のため、分画分子量150,000の中空糸限外ろ過膜を行わない場合(比較例2とする。)に関しても、前記同様分画分子量10,000の限外ろ過膜を用いてろ過フラックスを変化させながらろ過を行い、各ろ過フラックス時の膜間差圧を測定した。結果を図3に示す。
【0089】
図3に示すとおり、膜間差圧が急激に上昇した3点、および上昇する前の点で回帰直線を作製し、2本の回帰直線の交点の膜フラックス(m/day)を持って、限外膜フラックスとした。その結果、トリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液を分画分子量150,000の中空糸限外ろ過膜に通じて処理した透過液の方が、限界膜フラックスの値が増加することが判明した。これは、分画分子量150,000の中空糸限外ろ過膜によって、酵素成分の一部、あるいはその他の水溶性高分子成分が除去され、その分画分子量10,000の限界フラックスが向上したものと考えられる。またこの効果によって、第2の限外ろ過膜のフラックスを高く設定することができ、濃縮時間およびその使用エネルギーを削減できることを示す結果である。
【0090】
(比較例3)分画分子量10,000の限外ろ過膜によるトリコデルマ菌由来セルラーゼの濃縮(pH4、pH5、pH6、pH7、pH8)
比較例1ではpH3およびpH9の場合の評価を実施したが、pH4、pH5、pH6、pH7、pH8(pH4〜8)での比較例を下記手順にて実施した。
【0091】
参考例5のトリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液(pH4〜8)各20mLについて、比較例1と同じ手順にて非透過液の液量が1mLになるまで濃縮を行った。濃縮液を回収し、質量を測定しながら、初期質量である20gとなるまで、RO水を加えながらメスアップを行い、セルラーゼ分解活性を上記の参考例3に準じて測定を行った。限外ろ過前のトリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液に関しても、セルラーゼ分解活性を参考例3に準じて測定し得られた活性値を100%として、非透過液のセルラーゼ分解活性を評価した。得られた結果を表5に示す。
【0092】
(実施例3)分画分子量100,000および10,000の限外ろ過膜によるトリコデルマ属由来セルラーゼ水溶液の膜分離・濃縮(pH4、pH5、pH6、pH7、pH8)
実施例1では、pH3およびpH9の場合の工程(2)の評価を実施したが、pH4、pH5、pH6、pH7、pH8(pH4〜8)において、工程(1)および工程(2)の効果があるか、以下手順にて実施した。
【0093】
参考例5のトリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液(pH4〜8)各20mLを実施例1と同じ手順にて非透過液(第1の濃縮酵素液)0.5mLおよび透過液19.5mLを回収した。さらに透過液19.5mLについても、実施例1と同じ手順にて非透過液の液量が0.5mLになるまで濃縮を行い、第2の濃縮酵素液を得た。最終的に、第1の濃縮酵素液0.5mLと第2の濃縮酵素液0.5mLを混合して、回収酵素液1mLを得た。
【0094】
次に回収酵素液の質量を測定しながら初期質量である20gとなるまでRO水を加えながらメスアップしたもののセルラーゼ分解活性を上記の参考例3に準じて測定を行った。また、限外ろ過前のトリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液に関してもセルラーゼ分解活性を参考例3に準じて測定し得られた活性値を100%として、非透過液のセルラーゼ分解活性を評価した。得られた結果を表5に示す。
【0095】
【表5】
【0096】
比較例3の分画分子量10,000の限外ろ過膜だけを使用して得られた濃縮酵素液(pH4〜8)と、実施例3の分画分子量100,000の限外ろ過膜を用いて得られた第1の濃縮酵素液と分画分子量10,000の限外ろ過膜を用いて得られた第2の濃縮酵素液を混合した回収酵素液を比較すると、実施例3の方が比較例3より、タンパク質回収率が増加することが判明した。また、実施例3においては、特にアビセル分解活性の回収率が著しく向上することが判明した。
【0097】
すなわち、実施例3の結果は、pH4〜8において分画分子量100,000〜200,000の限外ろ過膜を用いて第1の濃縮酵素液を得る工程、次いで、透過液を5,000〜50,000の第2の限外ろ過膜に通じてろ過を行い第2の濃縮酵素液を得る工程を行うことにより、トリコデルマ菌由来セルラーゼの回収酵素量および活性を増加できることが判明した。
【0098】
また、実施例1(pH3およびpH9)の結果および実施例3(pH4〜8)の結果を比較すると、実施例3の「pH6、pH7、pH8」の結果に比べ、実施例1のpH3、実施例3のpH4、および実施例1のpH9の条件が回収されるセルラーゼのアビセル分解活性の回収率が高くなることが判明した。すなわち、本発明では糸状菌セルラーゼ水溶液のpHをpH2.6〜5.4またはpH8.6〜9.4に調整することが好ましいことが分かった。
【0099】
(比較例4)分画分子量10,000および分画分子量10,000によるトリコデルマ属由来セルラーゼ水溶液の膜分離・濃縮(pH3およびpH9)
参考例5のトリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液(pH3およびpH9)各20mLを、比較例1と同じ手順にて非透過液の液量が0.5mLになるまで濃縮を行い、非透過液(第1の濃縮酵素液)0.5mLおよび透過液19.5mLを回収した。
【0100】
次に、透過液19.5mLについて、さらに分画分子量10,000の第2の限外ろ過膜(Sartorius社製VIVASPIN 20、10,000MWCO、PES、有効膜面積6cm)を使用して、比較例1と同じ手順で非透過液の液量が0.5mLになるまで濃縮を行い、第2の濃縮酵素液を回収した)。最終的に、第1の濃縮酵素液0.5mLと第2の濃縮酵素液0.5mLを混合して、回収酵素液1mLを得た。
【0101】
次に回収酵素液の質量を測定しながら初期質量である20gとなるまでRO水を加えながらメスアップしたもののセルラーゼ分解活性を上記の参考例3に準じて測定を行った。また、限外ろ過前のトリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液に関してもセルラーゼ分解活性を参考例3に準じて測定し得られた活性値を100%として、非透過液のセルラーゼ分解活性を評価した。得られた結果を表6に示す。
【0102】
【表6】
【0103】
比較例1の分画分子量10,000の限外ろ過膜によるトリコデルマ菌由来セルラーゼの濃縮(pH3およびpH9の場合)の結果と比較して、比較例4はタンパク質回収量、およびアビセル分解活性の回収量に大きな差はないことが確認された。
【0104】
(比較例5)分画分子量30,000の限外ろ過膜によるトリコデルマ菌由来セルラーゼの濃縮(pH3およびpH9)
比較例1では分画分子量10,000の限外ろ過膜を使用したが、本比較例5では分画分子量30,000の限外ろ過膜(Sartorius社製“VIVASPIN” 20、30,000MWCO、PES、有効膜面積6cm)を使用して実施した。前記使用する限外ろ過膜の分画分子量以外は、比較例1と同じ手順で実施した。得られた結果を表7に示す。
【0105】
(実施例4)分画分子量100,000および30,000の限外ろ過膜によるトリコデルマ菌由来セルラーゼ水溶液の膜分離・濃縮(pH3および9)
実施例1では第2の限外ろ過膜として分画分子量10,000の限外ろ過膜を使用したが、本実施例4では分画分子量30,000の限外ろ過膜(Sartorius社製“VIVASPIN” 20、30,000MWCO、PES、有効膜面積6cm)を使用して実施した。前記使用する限外ろ過膜の分画分子量以外は、実施例1と同じ手順で実施した。得られた結果を、表7に示す。
【0106】
【表7】
【0107】
比較例5の分画分子量30,000の限外ろ過膜だけを使用して得られた濃縮酵素液と、実施例5の分画分子量100,000の限外ろ過膜を用いて得られた第1の濃縮酵素液と分画分子量30,000の限外ろ過膜を用いて得られた第2の濃縮酵素液を混合した回収酵素液を比較すると、実施例5の方が比較例4より、タンパク質回収率が増加することが判明した。また、実施例5においては、特にアビセル分解活性の回収率が著しく向上することが判明した。これらの傾向は、分画分子量10,000の限外ろ過膜を使用した場合(実施例1および比較例1)と同じ傾向にあることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明で得られたセルラーゼは、洗剤用途、澱粉の加水分解、およびセルロースの加水分解などの用途で有効に使用することができる。
【符号の説明】
【0109】
1 セルラーゼ水溶液タンク
2 pHセンサー
3 pH調整剤タンク
4 pH調整ポンプ
5 バルブ
6 限外ろ過膜ポンプ1
7 コンプレッサー
8 分画分子量100,000〜200,000の限外ろ過膜
9 逆洗ポンプ
10 透過液保持タンク
11 バルブ2
12 限外ろ過膜ポンプ2
13 分画分子量5,000〜50,000の限外ろ過膜
14 第2の透過液保持タンク
15 第2の濃縮酵素液保持タンク
図1
図2
図3
図4
図5