(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ターボ分子ポンプは、ポンプ容器内に複数のロータ翼を有するロータ上部と、ロータ上部の下面に設けられた円筒状のロータ下部とを備えるロータを高速に回転して、外部装置の真空処理室内の気体を吸気口から吸気して排気口から排気する。
ロータは、一般的には、アルミニウム合金により形成されており、モータにより駆動されるロータシャフトと、圧入あるいはボルト等の締結部材により一体化されている。
【0003】
アルミニウム合金により形成されたロータは、ロータ破壊のおそれがあることから、円筒状のロータ下部を、密度に比して高い強靭性を有するFRP(繊維強化複合材料)により形成した構造も採用されている。上記のようにロータ下部により高強度の部材を用いることで、回転数増加や、排気流路径の拡大をすることができ、ターボ分子ポンプの排気性能を向上させることが可能となっている。
このようなターボ分子ポンプの一例として、ロータ上部を金属により形成し、ロータ下部の円筒部と、円筒部とロータ上部とを接続する支板とをCFRPにより形成した構造が知られている。この構造では、支板はロータ上部に接着剤を用いて圧入固着され、円筒部は、支板に接着剤を用いて圧入固着される(例えば、特許文献1参照)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
--実施形態1--
(全体構造)
以下、図面を参照して本発明のターボ分子ポンプの一実施の形態について説明する。
図1は、本発明のターボ分子ポンプの一実施の形態の断面図である。
ターボ分子ポンプ1は、ケーシング部材12と、ケーシング部材12に固定されたベース13とにより形成されたポンプ容器11を備えている。
ケーシング部材12は、ほぼ円筒形状を有し、例えば、SUSにより形成され、上端部に上部フランジ21が形成されている。ケーシング部材12の上部フランジ21の内方には円形状の吸気口15が形成されている。上部フランジ21には、円周方向に沿って、ほぼ等間隔にボルト挿通用の貫通孔22が形成されている。ターボ分子ポンプ1は、上部フランジ21の貫通孔22にボルト92を挿通して、半導体製造装置等の外部装置に取り付けられる。
【0010】
ポンプ容器11内には、ロータ4およびロータ4の軸芯に同軸で取り付けられたロータシャフト5が収容されている。ロータ4とロータシャフト5とは、ボルト91により固定されている。
【0011】
ロータ4は、ロータ上部4Aと、ロータ上部4Aの下面51に接合されたロータ下部円筒部4Bとを備えている。ロータ4は、例えば、アルミニウム合金により形成されている。ロータ上部4Aには、ロータ翼6が上下方向に間隔をおいて、複数段に配列されている。上下に隣り合うロータ翼6の各段の間にはステータ翼7がそれぞれ配置されている。各段のステータ翼7は、半割のリングを一対組み合わせて形成されたリング形状とされている。ステータ翼7の外周には、ケーシング部材12の内周面に沿って、ステータ翼7を挟持するリング形状のスペーサ8が配置されている。ロータ翼6とステータ翼7とが交互に多段に積層されて高真空用の排気構造部が構成されている。
【0012】
ロータ下部円筒部4Bは、繊維強化複合材料(FRP)により形成されている。ロータ上部4Aとロータ下部円筒部4Bとの接合構造については、後述する。
ロータ下部円筒部4Bの外周側には、リング状のねじステータ9がボルト94によりベース13に固定されている。ねじステータ9には、ねじ溝部9aが形成されている。ロータ4のロータ下部円筒部4Bとねじステータ9とにより、低真空用のねじ溝排気部が構成されている。
なお、
図1においては、ねじ溝部9aがねじステータ9に形成された構造として例示されているが、ねじ溝部9aをロータ下部円筒部4Bの外周面に形成してもよい。
【0013】
ベース13は、例えば、アルミニウム合金により形成され、ベース13の中央部には、ロータシャフト5を挿通する円形の中空部が形成された中央筒部14が形成されている。中央筒部14の内側には、モータ35、ラジアル方向の磁気軸受31(2箇所)、スラスト方向の磁気軸受32(上下一対)、ラジアル変位センサ33a、33bとアキシャル変位センサ33c、メカニカルベアリング34、36およびロータディスク38が取り付けられている。
【0014】
ロータシャフト5は、ラジアル方向の磁気軸受31(2箇所)およびスラスト方向の磁気軸受32(上下一対)によって非接触に支持される。ロータシャフト5の回転時の位置は、ラジアル変位センサ33a、33bおよびアキシャル変位センサ33cによって検出された径方向の位置と軸方向の位置とに基づいて制御される。磁気軸受31、32によって回転自在に磁気浮上されたロータシャフト5は、モータ35により高速回転駆動される。
メカニカルベアリング34、36は非常用のメカニカルベアリングであり、磁気軸受が作動していない時にはメカニカルベアリング34、36によりロータシャフト5が支持される。
【0015】
ベース13には、排気ポート16が設けられ、排気ポート16には、排気口16aが設けられている。
ケーシング部材12の下部フランジ23とベース13の上部フランジ13aとがシール部材42を介在してボルト93により固定され、ポンプ容器11が構成される。
ケーシング部材12の上部フランジ21の内側に形成された吸気口15を覆うように保護ネット45が配設されている。保護ネット45は、上部フランジ21の内側に形成された段部25にボルト95により締結されている。
【0016】
図2は、
図1に図示されたロータ上部4Aとロータ下部円筒部4Bとの接合部付近である領域IIの拡大断面図である。
ロータ上部4Aの下面51の外周には、下方に突き出す突出部52が形成されている。突出部52の内周側は、断面円弧状とされ、応力緩和構造とされている。
ロータ上部4Aの突出部52の外周には、ロータ下部円筒部4Bの上端部が接合されている。ロータ下部円筒部4Bの内周面61は、ロータシャフト5の軸芯と平行に形成されている。また、ロータ下部円筒部4Bの外周面62は、ロータ下部円筒部4Bの上部側が下部側よりも厚くなるようにロータシャフト5の軸芯に対して傾斜して形成されている。
【0017】
つまり、ロータ下部円筒部4Bの厚さを、上端部T
u、中間部T
m、下端部T
bとすると、T
u>T
m>T
bとなっており、ロータ下部円筒部4Bは、その上端部側が下端部側よりも厚くなる方向に外周面62が傾斜した、母線が直線となるテーパ形状を有している。
【0018】
ロータ上部4Aがアルミニウム合金で形成され、ロータ下部円筒部4BがFRPにより形成されている場合、アルミニウム合金の熱膨張係数がFRPの熱膨張係数よりも大きいため、ロータ4の温度が上昇すると、ロータ下部円筒部4Bにおけるロータ上部4Aとの接合部に応力集中が発生する。
ロータ下部円筒部4Bが、厚さが均一な円筒部材である場合、ロータ上部4Aとの接合部に作用する応力集中により、ロータ下部円筒部4Bが破損するおそれがある。ロータ下部円筒部4Bの厚さを、応力集中に耐えられるに十分な厚さにすると、材料費が増大する。また、ロータ下部円筒部4Bの重量が増大するので、異常振動等によりロータ下部円筒部4Bが遠心破壊を起こした場合の破壊トルクが大きくなる。さらに、ロータ下部円筒部4Bの半径の大きさにより決定される排気能力が低下する。
【0019】
これに対し、上記一実施の形態では、ロータ下部円筒部4Bのロータ上部4Aとの接合部の厚さを大きくし、接合部より下方側の厚さを小さくした。このため、材料費を低減することができ、また、重量が軽減するので、ロータ下部円筒部4Bが遠心破壊を起こした場合でも、破壊トルクを小さいものとすることができる。さらに、ロータ下部円筒部4Bにおけるロータ上部4Aとの接合部より下方側の半径を、全体が均一な厚さの場合より大きくすることができるので、排気能力を向上することができる。
【0020】
ロータ下部円筒部4BのFRPとしては、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)、ガラス長繊維強化プラスチック(GMT)、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、ボロン繊維強化プラスチック(BFRP)、アラミド繊維強化プラスチック(AFRP、KFRP)、ポリエチレン繊維強化プラスチック(DFRP)等を用いることができる。中でも、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、好ましいFRPの1つである。
【0021】
ロータ下部円筒部4Bは、下記(1)〜(3)のいずれかの方法で作製される。
(1)厚さが均一な円筒体を旋盤などにより切削して形成する。
(2)繊維補強骨材と不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂とを一体化し、圧縮成形、インジェクション成形等により作製する。
(3)繊維補強骨材を巻いて上記(2)に示した熱硬化性樹脂でリング状に成形する。この方法では、繊維補強骨材の巻数により、作製される円筒部の各層の厚さを調整する。つまり、下端部側から上端部側に向けて、繊維補強骨材の巻数を、漸次、増加する。
【0022】
ロータ上部4Aとロータ下部円筒部4Bとを接合するには、上記いずれかの方法により作製したロータ下部円筒部4Bと、ロータ上部4Aとを冷し嵌めにより接合する。接着と冷し嵌めとを兼用してもよい。
【0023】
--実施形態2--
図3は、本発明における、ロータ上部とロータ下部円筒部との接合部の実施形態2の拡大断面図である。
実施形態2におけるロータ下部円筒部4Bは、外周面62がテーパ状である上部65と、外周面62が、ロータシャフト5の軸芯と平行な下部66とを備えている。
ロータ下部円筒部4Bの上部65は、実施形態1と同様に、上端部側が厚くなるようなテーパ状に形成されている。上部65は、ロータ上部4Aとの接合部より少し下方の位置で下部66が一体設けられている。ロータ下部円筒部4Bの内周面61は、ロータシャフト5の軸芯と平行であり、ロータ下部円筒部4Bの下部66は、断面矩形状に形成されている。
【0024】
実施形態2に示すロータ下部円筒部4Bは、上述した方法により作製することができる。
また、下記の方法(1)、(2)によっても作製することができる。
(1)下部66の厚さを有し、軸方向に、上部65と下部66との合計の長さを有する円筒体を作製する。この円筒体は、上述したいずれかの方法で作製することができる。
(2)上部65に、下部66より厚い部分を作製して肉厚にする。この工程は、上述したロータ下部円筒部4Bの作製方法(3)を適用して行うことができる。すなわち、(1)で作製した円筒体の上部に、繊維補強骨材を巻いて上記熱硬化性樹脂でリング状に成形する。
【0025】
実施形態2においても、ロータ下部円筒部4Bのロータ上部4Aとの接合部は、下部側よりも厚く形成されているので、実施形態1と同様な効果を奏する。
実施形態2における他の構成は、実施形態1と同様であり、対応する部材に同一の符号を付して説明を省略する。
【0026】
--実施形態3--
図4は、本発明における、ロータ上部とロータ下部円筒部との接合部の実施形態3の拡大断面図である。
実施形態3のロータ下部円筒部4Bは、実施形態2と同様な形状を有している。
実施形態3のロータ下部円筒部4Bが実施形態2と相違するのは、上部部材65Aと下部部材66Aとを別部材とした点である。
つまり、上部部材65Aは、実施形態2の上部65と同一の構造を有し、下部部材66Aは、実施形態2の下部66と同一の構造を有しているが、上部部材65Aと下部部材66Aは、それぞれ、個別に作製される。上部部材65Aと下部部材66Aの作製は、上述した方法のいずれかによる。そして、個別に作製した上部部材65Aと下部部材66Aとを接着などにより接合してロータ下部円筒部4Bを作製する。
【0027】
なお、上記各実施形態では、ロータ下部円筒部4Bの外周面62におけるテーパ部の母線を、直線として例示した。しかし、ロータ下部円筒部4Bのテーパ部の母線は、楕円や放物線等のなだらかな湾曲線としてもよい。あるいは、段差を有する階段状としてもよい。
【0028】
上記各実施形態では、ロータ下部円筒部4Bの内周面61を、ロータシャフト5の軸芯と平行に形成されている構造として例示した。しかし、ロータ下部円筒部4Bの内周面61を、その外周面62と、異なる方向に傾斜するテーパ状に形成してもよい。
【0029】
上記実施形態では、ロータ4とロータシャフト5とは、締結部材により一体化された構造として例示した。しかし、ロータ4とロータシャフト5とは、摩擦攪拌接合により一体化してもよい。あるいは、ロータ4にロータシャフト5が嵌入される貫通孔を設け、ロータ4の貫通孔に嵌入されたロータシャフトとロータ4とを焼き嵌めにより一体化してもよい。
【0030】
上記実施形態では、ロータシャフト5に取り付けたロータディスク38の上下に配設したスラスト方向の磁気軸受により、ロータシャフト5をスラスト方向に磁気浮上する構造のターボ分子ポンプ1として例示した。しかし、ロータ4の上方と、ケーシング部材12に取り付けられる固定側部材とに永久磁石を取り付け、ロータシャフト5の下端側に取り付けた軸受に、永久磁石の反発力による予圧がかかるようにした構造のターボ分子ポンプに適用することもできる。
【0031】
その他、本発明は、発明の趣旨の範囲内で種々変形して適用することが可能であり、要は、繊維強化複合材料により形成されたロータ下部円筒部におけるロータ上部との接合部が、ロータ下部円筒部の下端部側よりも厚く形成されているものであればよい。