特許第6119603号(P6119603)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6119603-半導体装置 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6119603
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/52 20060101AFI20170417BHJP
【FI】
   H01L21/52 B
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-518007(P2013-518007)
(86)(22)【出願日】2012年5月24日
(86)【国際出願番号】JP2012063270
(87)【国際公開番号】WO2012165273
(87)【国際公開日】20121206
【審査請求日】2015年2月6日
(31)【優先権主張番号】特願2011-119606(P2011-119606)
(32)【優先日】2011年5月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(72)【発明者】
【氏名】下邊 安雄
(72)【発明者】
【氏名】村山 竜一
(72)【発明者】
【氏名】三戸手 啓二
【審査官】 工藤 一光
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−221573(JP,A)
【文献】 特公昭63−4701(JP,B2)
【文献】 特開2000−286298(JP,A)
【文献】 特開2000−286297(JP,A)
【文献】 特開2009−152501(JP,A)
【文献】 特開2013−135204(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/52
H01L21/58
H01L21/60−21/607
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
半導体素子と、
前記基材および前記半導体素子の間に介在し、両者を接着すると共に、6μm以上200μm以下の厚さを有する接着層と、
を備え、
前記接着層に熱伝導性フィラーが分散しており、
前記接着層の厚さ方向全体の前記熱伝導性フィラーの平均含有率をCとし、
前記接着層の前記半導体素子の界面から厚さ方向に向かって深さ2μmまでにわたる領域1における前記熱伝導性フィラーの含有率をC1とし、
前記接着層の前記基材の界面から厚さ方向に向かって深さ2μmまでにわたる領域2における前記熱伝導性フィラーの含有率をC2としたとき、
0.75<C1/C<0.97、かつ、0.75<C2/C<0.97
を満たす半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記熱伝導性フィラーが、銀、銅、金、アルミニウム、ニッケル、アルミナ、シリカからなる群から選択される少なくとも一種類以上を含む、半導体装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の半導体装置において、
前記基材が、リードフレーム、ヒートシンクまたはBGA基板である、半導体装置。
【請求項4】
請求項1からのいずれか1項に記載の半導体装置において、
前記半導体素子が、消費電力1.7W以上のパワーデバイスである、半導体装置。
【請求項5】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記接着層が、エポキシ樹脂、および前記エポキシ樹脂の硬化剤としてのフェノール樹脂を含み、前記フェノール樹脂1分子内のフェノール性水酸基数は2つまたは3つである、半導体装置。
【請求項6】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記半導体素子が、ボンディングワイヤを介してリードに電気的に接続されている、半導体装置。
【請求項7】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記接着層が、エポキシ樹脂、および、硬化促進剤として融点が180℃以上のイミダゾール化合物を含む、半導体装置。
【請求項8】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記接着層が、アクリル樹脂を含み、前記アクリル樹脂が分子量が500〜10000のポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリレートで(メタ)アクリル基を有する化合物からなる群から選択される1種以上である、半導体装置。
【請求項9】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記接着層が、ラジカル重合性の炭素−炭素二重結合を1分子内に2つ以上有する樹脂、および、熱ラジカル重合開始剤として急速加熱試験における分解温度が40℃〜140℃以下となるものを含む、半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関する。
本願は、2011年5月27日に、日本に出願された特願2011−119606号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子をリードフレーム上に接合する技術として、接着フィルムを利用する技術が知られている。この種の技術は、例えば、特許文献1に記載されている。特許文献1に記載の接着フィルムは、熱硬化性樹脂中に銀フィラーを含有させたものが用いられることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−118081号公報
【特許文献2】特開2003−82034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、発明者らが検討した結果、従来の接着フィルムは半導体素子と他の部材との応力緩和能に改善の余地を有していることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
特許文献2には、銀ペースト接着剤は、銀フィラーの沈降により、上部に存在する銀フィラーが下部に移動するので、不均一な銀フィラーの分布を有するようになることが記載されている。同文献によれば、ペーストからなる接着層は、上面にから下面に向かって銀フィラーの濃度が高くなるので、その下面において接着力が大幅に低下するとされている。
【0006】
このため、本発明の技術分野において、接着層の下面における接着力の低下を低減することが求められてきた。こうした要求を満たすためには、半導体素子とリードフレームとの間に圧接させられた接着層フィルムは、その層厚方向において、完全均一な銀フィラー分布を有していることが好ましいとされてきた。
【0007】
しかしながら、本発明者らが検討した結果、銀フィラーが完全均一に分布している場合には、接着層フィルムの界面における応力緩和能を充分得ることができないことが判明した。
【0008】
さらに検討した結果、ダイアタッチペーストからなる接着層は(以下、DA層とも称する)の層厚方向に、銀フィラーの不均一な分布が発生することを見出した。メカニズムは不明だが、ダイアタッチペーストを両側から圧着させると、ペーストの内部と外部とで樹脂の流れが異なる。これにより、DA層の内部で銀フィラーの濃度が向上し、一方で、DA層の両界面において樹脂濃度が向上する、と推察される。これにより、DA層の両界面における応力緩和能が向上する。
【0009】
検討の結果、以下の構成のものが好適であることを見出した。
すなわち、本発明によれば、
[1] 基材と、
半導体素子と、
前記基材および前記半導体素子の間に介在し、両者を接着すると共に、6μm以上200μm以下の厚さを有する接着層と、
を備え、
前記接着層に熱伝導性フィラーが分散しており、
前記接着層の厚さ方向全体の前記熱伝導性フィラーの平均含有率をCとし、
前記接着層の前記半導体素子の界面からの厚さ方向の深さ2μmまでにわたる領域1における前記熱伝導性フィラーの含有率をC1とし、
前記接着層の前記基材の界面からの厚さ方向の深さ2μmまでにわたる領域2における前記熱伝導性フィラーの含有率をC2としたとき、
0.75<C1/C<0.97、かつ、0.75<C2/C<0.97
を満たす半導体装置が提供される。
【0010】
また、本発明は、以下のものも含む。
][1]に半導体装置において、
前記熱伝導性フィラーが、銀、銅、金、アルミニウム、ニッケル、アルミナ、シリカからなる群から選択される少なくとも一種類以上の粒子を含む、半導体装置。
][1]または[2]に記載の半導体装置において、
前記基材が、リードフレーム、ヒートシンクまたはBGA基板である、半導体装置。
][1]から[]のいずれか1項に記載の半導体装置において、
前記半導体素子が、消費電力1.7W以上のパワーデバイスである、半導体装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、歩留まりに優れた半導体装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態に係る半導体装置の構成を示す断面図である。
図2図1に示す半導体装置の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
図1は、本実施の形態の半導体装置10の構成を示す断面図である。また、図2は、図1に示す半導体装置10の一部を拡大した図である。
本実施の形態の半導体装置10は、基材(ダイパット2)と、半導体素子3と、基材および半導体素3子の間に介在し、両者を接着する接着層1と、を備える。接着層1は、熱伝導性フィラー8を含有している。半導体装置10は、接着層1中に熱伝導性フィラー8が分散しており、接着層1全体中の熱伝導性フィラー8の含有率をCとし、接着層1の半導体素子3側の界面から深さ2μmまでにわたる領域1における熱伝導性フィラー8の含有率をC1とし、接着層1の基材(ダイパット2)側の界面から深さ2μmまでにわたる領域2における熱伝導性フィラー8の含有率をC2としたとき、C1<C、かつ、C2<Cを満たすように特定されている。以下、詳細に説明する。
【0014】
接着層1は、後述するペースト状の樹脂組成物(ダイアタッチペースト)を半導体素子3とダイパット2とで圧着することにより形成される。本発明者らは、ダイアタッチペーストを対向方向から圧着して得られて接着層は(以下、単に接着層1とも称する)の圧着方向(すなわち、層厚方向)に、銀フィラー等の熱伝導性フィラー8の不均一な分布が発生することを見出した。熱伝導性フィラー8が不均一な分布となるメカニズムは不明だが次のように推察される。すなわち、ダイアタッチペーストを両側から圧着させると、ペーストの内部と外部とで樹脂の流れが異なる。これにより、接着層1の内部の熱伝導性フィラー8の濃度が、界面と比較して高くなる。一方、接着層1の両界面にける樹脂濃度は内部と比較して高くなると考えられる。このような接着層1は、C1<C、かつ、C2<Cで特定される。検討した結果、このような特性を満たす接着層1は、両界面における応力緩和能が優れていることが見出された。従って、硬化時に応力緩和能を有する接着層1により、半導体素子3が保護されるので、半導体装置10の歩留まりが向上する。
【0015】
従来、接着層の銀フィラーの分布は、次の2通りであった。すなわち、第1は、接着層の上面から下面に亘って銀フィラーの濃度が高くなるという分布である。第2は、接着層の上面から下面に亘って銀フィラーの濃度が完全に均一となる分布である。第1の分布においては、接着層の下面における銀フィラーの濃度が非常に高くなるので、接着層の下面における接着力が低下していた。一方、第2の分布においては、接着層全体に亘って銀フィラーが均一に分布しているのでは、接着層フィルムの界面における応力緩和能が充分得られなかった。
【0016】
これに対して、本実施の形態によれば、接着層1は、上層かつ下層の熱伝導性フィラー8の濃度は、内部よりも低くなるように構成されている。従って、接着層1は、上下の界面において応力緩和能を発揮できるとともに、優れた接着特性を発揮することができるようになる。
【0017】
本実施の形態において、接着層1は、0.75<C1/C<0.97、かつ、0.75<C2/C<0.97を満たすことが好ましい。C1/C及びC2/Cを上限値以下とすることにより、熱収縮が小さくなり、応力緩和能が充分に発揮される。また、接着能を充分に発揮させることができる。一方、C1/C及びC2/Cを下限値以上とすることにより、線膨張係数が小さくなり、クラックの発生を抑制することができる。また、線膨張が大きくなることが抑制できるので、接着層1に反りが発生することも抑制できる。すなわち、応力緩和能と耐クラック特性とのバランスに優れた接着層1が得られる。本実施の形態において、接着層1の材料を適切に選択及び半導体装置10の製法を適切に制御することにより、C1及びC2の数値を調整することが可能となる。
【0018】
図2に示すように、接着層1の上面は半導体素子3の下面と接合されている。接着層1の下面はダイパット2と接合されている。ダイパット2に対する半導体素子3の載置方向で見たときの断面視において、L1は、接着層1の半導体素子3側の界面からの深さを示す。また、L2は、同断面視において、接着層1の基材(ダイパット2)側の界面からの深さを示す。また、Lは、同断面視において、接着層1全体の膜厚を示す。なお、接着層1は、半導体素子3の下面とともに側壁の一部を覆うように形成されていてもよい。この場合についても、L1、L2、及びLは、前述のとおり、半導体素子3の下面とダイパット2の上面との間に配置された接着層1の部分により特定される。L1、L2、及びLは、接着層1のSEM断面画像から算出することができる。
【0019】
また、本実施の形態において、L1/L及びL2/Lは、特に限定されないが、例えば、好ましくは1/10以上1/5以下であり、より好ましくは1/8以上1/6以下である。下限値以上とすることにより充分な応力緩和能を発揮させることができる。一方、上限値以下とすることにより、クラックの発生を抑制することができる。
【0020】
また、本実施の形態において、接着層1の全厚Lは、特に限定されないが、例えば、好ましくは6μm以上200μm以下であり、より好ましくは8μm以上100μm以下である。下限値以上とすることにより充分な応力緩和能を発揮させることができる。一方、上限値以下とすることにより、クラックの発生を抑制することができる。
【0021】
熱伝導性フィラー8の含有率の算出方法としては、例えば、次のものが採用できる。すなわち、まず、厚み方向における接着層1のSEM断面図を2値化処理する。2値化処理において、閾値は、ペーストの硬化物から灰分測定で得られた硬化物中の導電性フィラーの体積分率Xとなるように設定する。次いで、2値化処理により得られた2値化画像を、厚み方向に0.2μm間隔で切りだし、各層中の熱電性フィラー8の含有量を算出する。本実施の形態では、熱電性フィラー8として、銀の場合について説明するが、他のフィラーについても同様にして算出可能である。ここで、含有量の算出手法としては以下のようにする。まず、上側から下側へ、1層、2層・・・N層と定義する。一方、下側から上側に、1'層、2'層・・・N'層と定義する。次いで、(1)上側から下側へN層までの含有量を算出する。その後、1層目の銀比率=(1層の銀量/X)*100、2層目までの銀比率=((1+2)層の銀量/X)*100、・・・、N層目までの銀比率=((1+2+・・・+N)層の銀量/X)*100=(X/X)*100=100として求める。同様にして、(2)下側から上側までの含有量を算出する。その後、1'層目の銀比率=(1'層の銀量/X)*100、2'層目までの銀比率=((1'+2')層の銀量/X)*100、・・・、N'層目までの銀比率=((1+2+・・・+N')層の銀量/X)*100=(X/X)*100=100として求める。これらの数値から、上側及び下側から距離を変動させたときの銀全体量に対する各層の銀比率を算出する。その後、接着層1の半導体素子3側の界面から深さ2μmまでにわたる領域1におけるC1/Cは、(1)上側から下側に向かって算出された10層目までの銀比率を採用する。一方、接着層1の基材(ダイパット2)側の界面から深さ2μmまでにわたる領域2におけるC2/Cは、(2)下側から上側に向かって算出された10'層目までの銀比率を採用する。
【0022】
熱伝導性フィラー8は、接着層1に含有されている。熱伝導性フィラー8としては、特に限定されないが、銀、銅、金、アルミニウム、ニッケル、アルミナ、シリカの粒子以外に、銀を主成分として、例えば銅、金、ニッケル、パラジウム、錫などの金属粒子やこれらの合金粒子、アルミナ、シリカなどの酸化物粒子の表面に銀などをメッキさせてある粒子などを用いることができる。熱伝導性フィラー8の大きさに関しては、例えば球形状の場合、平均粒径D50は、特に限定されないが、0.05μm以上20μm以下が好ましく0.1μm以上10μm以下がより好ましい。これにより、フィラーの分散特性が向上する。平均粒径の測定方法としては、特に限定されない。なお、平均粒子径は、例えばフロー式粒子像分析装置、レーザー回析・散乱法を用いた粒度分布測定装置などを用いて測定することができる。
【0023】
本実施の形態において、基材(ダイパット2)は、特に限定されないが、リードフレーム、他の半導体素子、回路基板を含む実装基板、半導体ウエハ等の各種基材を用いることができる。この中では、接着層1が放熱機能を発揮することが可能となるため、リードフレーム、ヒートシンクまたはBGA基板が好ましい。また、この中では、接着層1が優れた応力緩和能を発揮することが可能となるため、他の半導体素子もまた好ましい。この中では、接着層1がダイシング用フィルムとして利用が可能となるため、半導体ウエハもまた好ましい。
【0024】
また、半導体素子3は、特に限定されないが、例えば、消費電力1.7W以上のパワーデバイスであることが好ましい。半導体素子3は、パッド7及びボンディングワイヤ6を介して、リード4に電気的に接続している。また、半導体素子3は、その周囲が封止材層5により封止されている。
【0025】
次に、接着層1に用いるペースト状の樹脂組成物について説明する。
【0026】
本実施の形態では、接着層1は、例えば、熱硬化性接着剤組成物を硬化させることにより得られる。熱硬化性接着剤組成物としては、加熱により3次元的網目構造を形成する一般的な熱硬化性樹脂を含むことが好ましい。熱硬化性樹脂は、特に限定されるものではないが、液状樹脂組成物を形成する材料であることが好ましく、室温(25℃)で液状であることが望ましい。例えば、シアネート樹脂、エポキシ樹脂、ラジカル重合性のアクリル樹脂、マレイミド樹脂などが挙げられる。熱硬化性接着組成物は、目的に応じて、硬化剤、硬化促進剤、重合開始剤などの様々な添加剤を含有してもよい。
【0027】
シアネート樹脂は、分子内に−NCO基を有する化合物であり、加熱により−NCO基が反応することで3次元的網目構造を形成し、硬化する樹脂である。具体的に例示すると、1,3−ジシアナトベンゼン、1,4−ジシアナトベンゼン、1,3,5−トリシアナトベンゼン、1,3−ジシアナトナフタレン、1,4−ジシアナトナフタレン、1,6−ジシアナトナフタレン、1,8−ジシアナトナフタレン、2,6−ジシアナトナフタレン、2,7−ジシアナトナフタレン、1,3,6−トリシアナトナフタレン、4,4'−ジシアナトビフェニル、ビス(4−シアナトフェニル)メタン、ビス(3,5−ジメチル−4−シアナトフェニル)メタン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−シアナトフェニル)プロパン、ビス(4−シアナトフェニル)エーテル、ビス(4−シアナトフェニル)チオエーテル、ビス(4−シアナトフェニル)スルホン、トリス(4−シアナトフェニル)ホスファイト、トリス(4−シアナトフェニル)ホスフェート、およびノボラック樹脂とハロゲン化シアンとの反応により得られるシアネート類などが挙げられ、これらの多官能シアネート樹脂のシアネート基を三量化することによって形成されるトリアジン環を有するプレポリマーも使用できる。このプレポリマーは、上記の多官能シアネート樹脂モノマーを、例えば、鉱酸、ルイス酸などの酸、ナトリウムアルコラート、第三級アミン類などの塩基、炭酸ナトリウムなどの塩類を触媒として重合させることにより得られる。
【0028】
シアネート樹脂の硬化促進剤としては、一般に公知のものが使用できる。例えば、オクチル酸亜鉛、オクチル酸錫、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸亜鉛、アセチルアセトン鉄などの有機金属錯体、塩化アルミニウム、塩化錫、塩化亜鉛などの金属塩、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミンなどのアミン類が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの硬化促進剤は単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
また、シアネート樹脂は、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、アクリル樹脂、マレイミド樹脂などの他の樹脂と併用することも可能である。
【0029】
エポキシ樹脂は、グリシジル基を分子内に1つ以上有する化合物であり、加熱によりグリシジル基が反応することで3次元的網目構造を形成し、硬化する樹脂である。グリシジル基は1分子に2つ以上含まれていることが好ましいが、これはグリシジル基が1つの化合物のみでは反応させても十分な硬化物特性を示すことができないからである。グリシジル基を1分子に2つ以上含む化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビフェノールなどのビスフェノール化合物またはこれらの誘導体、水素添加ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールF、水素添加ビフェノール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、シジロヘキサンジエタノールなどの脂環構造を有するジオールまたはこれらの誘導体、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオールなどの脂肪族ジオールまたはこれらの誘導体などをエポキシ化した2官能のもの、トリヒドロキシフェニルメタン骨格、アミノフェノール骨格を有する3官能のもの、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂などをエポキシ化した多官能のものなどが挙げられるがこれらに限定されるわけではない。また樹脂組成物として室温で液状である必要があるので、単独でまたは混合物として室温で液状のものが好ましい。通常行われるように反応性の希釈剤を使用することも可能である。反応性希釈剤としては、フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテルなどの1官能の芳香族グリシジルエーテル類、脂肪族グリシジルエーテル類などが挙げられる。エポキシ樹脂を硬化させる目的で硬化剤を使用する。
【0030】
エポキシ樹脂の硬化剤としては、例えば、脂肪族アミン、芳香族アミン、ジシアンジアミド、ジヒドラジド化合物、酸無水物、フェノール樹脂などが挙げられる。
ジヒドラジド化合物としては、アジピン酸ジヒドラジド、ドデカン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、p−オキシ安息香酸ジヒドラジドなどのカルボン酸ジヒドラジドなどが挙げられ、酸無水物としてはフタル酸無水物、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸無水物、ドデセニルコハク酸無水物、無水マレイン酸とポリブタジエンの反応物、無水マレイン酸とスチレンの共重合体などが挙げられる。
【0031】
エポキシ樹脂の硬化剤として用いられるフェノール樹脂としては1分子内にフェノール性水酸基を2つ以上有する化合物であり、1分子内にフェノール性水酸基を1つ有する化合物の場合には架橋構造をとることができないため硬化物特性が悪化し使用できない。また1分子内のフェノール性水酸基数は2つ以上であれば使用可能であるが、好ましいフェノール性水酸基の数は2〜5である。これより多い場合には分子量が大きくなりすぎるので導電性ペーストの粘度が高くなりすぎるため好ましくない。より好ましい1分子内のフェノール性水酸基数は2つまたは3つである。このような化合物としては、ビスフェノールF、ビスフェノールA、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、テトラメチルビスフェノールS、ジヒドロキシジフェニルエーテル、ジヒドロキシベンゾフェノン、テトラメチルビフェノール、エチリデンビスフェノール、メチルエチリデンビス(メチルフェノール)、シクロへキシリデンビスフェノール、ビフェノールなどのビスフェノール類およびその誘導体、トリ(ヒドロキシフェニル)メタン、トリ(ヒドロキシフェニル)エタンなどの3官能のフェノール類およびその誘導体、フェノールノボラック、クレゾールノボラックなどのフェノール類とホルムアルデヒドを反応することで得られる化合物で2核体または3核体がメインのものおよびその誘導体などが挙げられる。
【0032】
エポキシ樹脂の硬化促進剤としては、イミダゾール類、トリフェニルホスフィンまたはテトラフェニルホスホニウムの塩類、ジアザビシクロウンデセンなどのアミン系化合物およびその塩類などが挙げられるが、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール−2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−C1123−イミダゾール、2−メチルイミダゾールと2,4−ジアミノ−6−ビニルトリアジンとの付加物などのイミダゾール化合物が好適に用いられる。中でも特に好ましいのは融点が180℃以上のイミダゾール化合物である。また、エポキシ樹脂は、シアネート樹脂、アクリル樹脂、マレイミド樹脂との併用も好ましい。
【0033】
ラジカル重合性のアクリル樹脂とは、分子内に(メタ)アクリロイル基を有する化合物であり、(メタ)アクリロイル基が反応することで3次元的網目構造を形成し、硬化する樹脂である。(メタ)アクリロイル基は分子内に1つ以上有する必要があるが、2つ以上含まれていることが好ましい。特に好ましいアクリル樹脂は分子量が500〜10000のポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリレートで(メタ)アクリル基を有する化合物である。ポリエーテルとしては、炭素数が3〜6の有機基がエーテル結合を介して繰り返したものが好ましく、芳香族環を含まないものが好ましい。ポリエーテルポリオールと(メタ)アクリル酸またはその誘導体との反応により得ることが可能である。ポリエステルとしては、炭素数が3〜6の有機基がエステル結合を介して繰り返したものが好ましく、芳香族環を含まないものが好ましい。ポリエステルポリオールと(メタ)アクリル酸またはその誘導体との反応により得ることが可能である。ポリカーボネートとしては、炭素数が3〜6の有機基がカーボネート結合を介して繰り返したものが好ましく、芳香族環を含まないものが好ましい。ポリカーボネートポリオールと(メタ)アクリル酸またはその誘導体との反応により得ることが可能である。
【0034】
ポリ(メタ)アクリレートとしては、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリレートとの共重合体または極性基を有する(メタ)アクリレートと極性基を有さない(メタ)アクリレートとの共重合体などが好ましい。これら共重合体とカルボキシ基と反応する場合には水酸基を有するアクリレート、水酸基と反応する場合には(メタ)アクリル酸またはその誘導体を反応することにより得ることが可能である。
【0035】
必要により以下に示す化合物を併用することも可能である。例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,2−シクロヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,3−シクロヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,2−シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、1,3−シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、1,2−シクロヘキサンジエタノールモノ(メタ)アクリレート、1,3−シクロヘキサンジエタノールモノ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジエタノールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールモノ(メタ)アクリレートなどの水酸基を有する(メタ)アクリレートやこれら水酸基を有する(メタ)アクリレートとジカルボン酸またはその誘導体を反応して得られるカルボキシ基を有する(メタ)アクリレートなどが挙げられる。ここで使用可能なジカルボン酸としては、例えばしゅう酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸およびこれらの誘導体が挙げられる。
【0036】
上記以外にもメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ターシャルブチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、その他のアルキル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ターシャルブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジンクモノ(メタ)アクリレート、ジンクジ(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリレート、トリフロロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフロロプロピル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4−ヘキサフロロブチル(メタ)アクリレート、パーフロロオクチル(メタ)アクリレート、パーフロロオクチルエチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ラウロキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ステアロキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリロキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、N,N'−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N'−エチレンビス(メタ)アクリルアミド、1,2−ジ(メタ)アクリルアミドエチレングリコール、ジ(メタ)アクリロイロキシメチルトリシクロデカン、N−(メタ)アクリロイロキシエチルマレイミド、N−(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタルイミド、N−(メタ)アクリロイロキシエチルフタルイミド、n−ビニル−2−ピロリドン、スチレン誘導体、α−メチルスチレン誘導体などを使用することも可能である。
【0037】
さらに重合開始剤として熱ラジカル重合開始剤が好ましく用いられる。通常熱ラジカル重合開始剤として用いられるものであれば特に限定されないが、望ましいものとしては、急速加熱試験(試料1gを電熱板の上にのせ、4℃/分で昇温した時の分解開始温度)における分解温度が40〜140℃となるものが好ましい。分解温度が40℃未満だと、導電性ペーストの常温における保存性が悪くなり、140℃を越えると硬化時間が極端に長くなるため好ましくない。これを満たす熱ラジカル重合開始剤の具体例としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、n−ブチル4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、t−ブチルハイドロパーオキサイド、P−メンタンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、α、α'−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、イソブチリルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、桂皮酸パーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−3−メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、α、α'−ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3,−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシピバレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルへキサノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシマレイックアシッド、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシ−m−トルオイルベンゾエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ビス(t−ブチルパーオキシ)イソフタレート、t−ブチルパーオキシアリルモノカーボネート、3,3',4,4'−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノンなどが挙げられるが、これらは単独でまたは硬化性を制御するため2種類以上を混合して用いることもできる。また、上記のラジカル重合性のアクリル樹脂は、シアネート樹脂、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂との併用も好ましい。
【0038】
マレイミド樹脂は、1分子内にマレイミド基を1つ以上含む化合物であり、加熱によりマレイミド基が反応することで3次元的網目構造を形成し、硬化する樹脂である。例えば、N,N'−(4,4'−ジフェニルメタン)ビスマレイミド、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン、2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパンなどのビスマレイミド樹脂が挙げられる。より好ましいマレイミド樹脂は、ダイマー酸ジアミンと無水マレイン酸の反応により得られる化合物、マレイミド酢酸、マレイミドカプロン酸といったマレイミド化アミノ酸とポリオールの反応により得られる化合物である。マレイミド化アミノ酸は、無水マレイン酸とアミノ酢酸またはアミノカプロン酸とを反応することで得られ、ポリオールとしては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリ(メタ)アクリレートポリオールが好ましく、芳香族環を含まないものが特に好ましい。マレイミド基は、アリル基と反応可能であるのでアリルエステル樹脂との併用も好ましい。アリルエステル樹脂としては、脂肪族のものが好ましく、中でも特に好ましいのはシクロヘキサンジアリルエステルと脂肪族ポリオールのエステル交換により得られる化合物である。アリルエステル系化合物の数平均分子量は、特に限定されないが、500〜10,000が好ましく、特に500〜8,000が好ましい。数平均分子量が前記範囲内であると、硬化収縮を特に小さくすることができ、密着性の低下を防止することができる。またシアネート樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂との併用も好ましい。
【0039】
熱硬化性接着剤組成物には、必要に応じてその他の添加剤を使用してもよい。その他の添加剤としては、エポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、ビニルシラン、スルフィドシランなどのシランカップリング剤や、チタネートカップリング剤、アルミニウムカップリング剤、アルミニウム/ジルコニウムカップリング剤などのカップリング剤、カーボンブラックなどの着色剤、シリコーンオイル、シリコーンゴムなどの固形低応力化成分、ハイドロタルサイトなどの無機イオン交換体、消泡剤、界面活性剤、各種重合禁止剤、酸化防止剤などであり、種々の添加剤を適宜配合しても差し支えない。これらの化合物は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0040】
本実施の形態の半導体装置の製造方法において用いられる熱硬化性接着剤組成物の使用方法について具体的な例を用いて説明する。
実施の形態では、半導体装置の製造方法において用いられる熱硬化性接着剤組成物が液状接着剤の場合、上述したような各種成分を予備混合した後、3本ロールを用いて混練を行い、更に真空脱泡することにより、液状接着剤を得ることができる。得られた液状接着剤は市販のダイボンダーを用いて、例えば支持体(特にリードフレーム)の所定の部位にディスペンス塗布された後、半導体素子をマウントして加熱硬化する。その後、ワイヤーボンディングして、エポキシ樹脂等を主成分とする封止樹脂を用いてトランスファー成形することにより半導体装置を得ることができる。
【0041】
なお、フィルム状接着剤についても上記と同様に使用することができる。この場合、例えば支持体にフィルム状接着剤をラミネートした後、同様の工程により、半導体装置を得ることができる。
【実施例】
【0042】
以下実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。配合割合は重量部で示す。
実施例および比較例ともに下記原材料を表1に示す重量部で配合した上で3本ロールを用いて混練、脱泡することで樹脂組成物を得た。
【0043】
(評価試験)
上記より得られた実施例および比較例の樹脂組成物について以下の評価試験を行った。評価結果を表1に示す。
【0044】
(沈降試験)
実施例の各樹脂組成物30gを充填したシリンジ(10cc)を0℃に調整した恒温槽内でシリンジの先が下になるように30日間保管した。保管後の外観を目視で確認し変化がなければ○、銀粉と樹脂成分の分離が少し確認されれば△、顕著に観察されれば×とした。
【0045】
(耐リフロー性)
実施例及び比較例の各樹脂組成物を用いて、下記のリードフレームとシリコンチップを175℃60分間硬化し接着した。さらに、封止材料(スミコンEME−G700、住友ベークライト(株)製)を用いて封止し、半導体装置を作製した。この半導体装置を用いて、30℃、相対湿度60%、168時間吸湿処理した後、IRリフロー処理(260℃、10秒、3回リフロー)を行った。処理後の半導体装置を超音波探傷装置(透過型)により剥離の程度を測定した。チップの面積に対する剥離面積の割合が10%未満の場合を合格とした。
半導体装置:QFP(14×20×2.0mm)
リードフレーム:銀スポットメッキした銅リードフレーム
チップサイズ:5×5mm
樹脂組成物の硬化条件:オーブン中175℃、60分
○:シリコンチップの面積に対する剥離面積が5%未満。
△:シリコンチップの面積に対する剥離面積が5%以上10%未満。
×:シリコンチップの面積に対する剥離面積が10%以上。
【0046】
(C、C1、C2算出方法)
実施例および比較例の各樹脂組成物を用いて、下記のリードフレームとシリコンチップを175℃で60分間硬化し接着した。その状態から接着層1の断面を切り出し、厚み方向における接着層1のSEM断面図を得た。得られたSEM断面図を2値化処理した。2値化処理において、閾値は、ペーストの硬化物から灰分測定で得られた導電性フィラーの体積分率Xとなるように設定した。次いで、2値化処理により得られた2値化画像を、厚み方向に2μm間隔で切りだし、各層中の熱電性フィラー8含有量を算出した。まず、(1)上側から下側へN層までの含有量を算出した。すなわち、1層目の銀比率=(1層の銀量/X)*100、2層目までの銀比率=((1+2)層の銀量/X)*100、・・・、N層目までの銀比率=((1+2+・・・+N)層の銀量/X)*100=(X/X)*100=100として求めた。同様にして、(2)下側から上側までの含有量を算出した。すなわち、1'層目の銀比率=(1'層の銀量/X)*100、2'層目までの銀比率=((1'+2')層の銀量/X)*100、・・・、N'層目までの銀比率=((1+2+・・・+N')層の銀量/X)*100=(X/X)*100=100として求めた。接着層1の半導体素子3側の界面から深さ2μmまでにわたる領域1におけるC1/Cは、(1)上側から下側に向かって算出された1層目の銀比率を採用した。一方、接着層1の基材(ダイパット2)側の界面から深さ2μmまでにわたる領域2におけるC2/Cは、(2)下側から上側に向かって算出された1'層目の銀比率を採用した。
【0047】
(ヒートサイクル(密着性))
実施例および比較例の各樹脂組成物を用いて、下記のリードフレームとシリコンチップを175℃で60分間硬化し接着した。ヒートサイクル処理(25℃/160℃ 各30分間を1サイクルとした)を行った。これを10サイクル実施するごとに、チップと接着層と間に剥離部分が生じているか、また、リードフレームと接着層との間に剥離部分が生じているか確認した。
チップと接着層と間の剥離が無い、かつリードフレームと接着層との間の剥離が無い場合には、○/○と示す。
チップと接着層と間の剥離が有る、かつリードフレームと接着層との間の剥離が無い場合には、×/○と示す。
チップと接着層と間の剥離が無い、かつリードフレームと接着層との間の剥離が有る場合には、○/×と示す。
チップと接着層と間の剥離が有る、かつリードフレームと接着層との間の剥離が有る場合には、×/×と示す。
【0048】
【表1】
【0049】
実施例において、接着層1の両面側に熱伝導性フィラー8の含有率が低い領域が形成されることが確認された。このため、実施例は、耐リフロー性及びヒートサイクル特性に優れることが分かった。一方、比較例は、耐リフロー性及びヒートサイクル特性に劣ることが分かった。
また、実施例1において、銀粉に代えて、粒度分布の極大点粒径10μmの単分散の球状アルミナを用いたところ、実施例1と同等の結果が得られた。
【0050】
なお、当然ながら、上述した実施の形態および複数の変形例は、その内容が相反しない範囲で組み合わせることができる。また、上述した実施の形態および変形例では、各部の構造などを具体的に説明したが、その構造などは本願発明を満足する範囲で各種に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、歩留まりに優れた半導体装置が提供されるため、本発明は産業上極めて有用である。
【符号の説明】
【0052】
1 接着層
2 ダイパッド
3 半導体素子
4 リード
5 封止材層
6 ボンディングワイヤ
7 パッド
8 熱伝導性フィラー
10 半導体装置
図1
図2