【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は実施例に何ら限定されるものではない。
【0044】
(実験例1)
(1)正極活物質の作製
炭酸リチウム(Li
2CO
3)と、Ni
0.7495Co
0.2Al
0.05W
0.0005(OH)
2で表される共沈水酸化物とを、炭酸リチウムにおけるLiのモル数と、共沈水酸化物におけるNi、CoおよびAlの総和(Ni+Co+Al)のモル数との比が1.03:1となるように混合して、得られた混合物を、酸素雰囲気下において、700℃で20時間焼成した。焼成後、焼成物を解砕して分級することにより、平均粒径が10μmのリチウム遷移金属複合酸化物Aを得た。得られたリチウム遷移金属複合酸化物Aの組成はLiNi
0.7495Co
0.2Al
0.05W
0.005O
2であって、Liの含有比率xは1.00であった。
【0045】
(2)正極の作製
90質量部の正極活物質Aと、5質量部のポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含むPVDFのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液と、5質量部のアセチレンブラック(AB)を混合することにより、正極合剤スラリーを得た。正極集電体としての厚み20μmのアルミニウム箔の両面に、正極合剤スラリーを塗布して乾燥することにより、正極活物質層を形成した。こうして得られた、正極集電体の両面に正極活物質層を備える積層体を、一対のローラで加圧して圧延することにより、総厚さが120μmの正極5を得た。なお、正極集電体の短手方向の一辺に、正極活物質層が形成されていない正極集電体の露出部を設けた。
【0046】
(3)負極の作製
95質量部の人造黒鉛粉末と、5質量部のPVDFを含むPVDFのNMP溶液と、を混合することにより、負極合剤スラリーを得た。負極集電体としての厚み10μmの銅箔
の両面に、負極合剤スラリーを塗布して乾燥することにより、負極活物質層を形成した。こうして得られた、負極集電体の両面に負極活物質層を備える積層体を、一対のローラで加圧して圧延することにより、総厚さが180μmの負極6を得た。なお、負極集電体の短手方向の一辺に、負極活物質層が形成されていない負極集電体の露出部を設けた。
【0047】
(4)非水電解液の調製
エチレンカーボネートと、ジメチルカーボネートと、エチルメチルカーボネートとを、20:55:25の体積比で混合した。こうして得られた非水溶媒に対して、ビニレンカーボネートと、LiPF
6とを溶解させることにより、非水電解液を調製した。ビニレンカーボネートの含有割合は、非水溶媒の全量に対して1質量%となるように調整し、非水電解液中のLiPF
6の濃度は、1.0mol/Lとなるように調整することで非水電解液Aを得た。
【0048】
(5)円筒形電池の作製
正極5と、負極6とを、正極および負極の間に、微多孔性のセパレータ7(ポリエチレンとポリプロピレンとの複合フィルム、セルガード(株)製の品番「2300」、厚さ25μm)を挟んで渦巻状に捲回することにより、電極群を得た。正極5の正極集電体露出部にアルミニウム製の正極リード5aを溶接し、負極集電体露出部にはニッケル製の負極リード6aを溶接した。こうして得られた電極群を、直径18mm、高さ65mmの有底略円筒形の電池ケース2に挿入した。次いで、電池ケース内に、リチウム遷移金属複合酸化物の総質量に対して55%の非水電解液Aを注液し、電池ケース2の開口端部にガスケット4を介して封口板3にかしめることにより電池を完成させた。その後、得られた電池を室温で24時間程度放置することにより、開回路電圧を安定させた。
【0049】
(実験例2)
炭酸リチウム(Li
2CO
3)と、Ni
0.7495Co
0.2Al
0.05Ti
0.0005(OH)
2で表される共沈水酸化物とを、炭酸リチウムにおけるLiのモル数と、共沈水酸化物におけるNi、CoおよびAlの総和(Ni+Co+Al)のモル数との比が1.03:1となるように混合して、得られた混合物を、酸素雰囲気下において、700℃で20時間焼成した。焼成後、焼成物を解砕して分級することにより、平均粒径が10μmのリチウム遷移金属複合酸化物Bを得た。得られたリチウム遷移金属複合酸化物Bの組成はLiNi
0.7495Co
0.2Al
0.05Ti
0.005O
2であって、Liの含有比率xは1.00であった。リチウム遷移金属複合酸化物Aをリチウム遷移金属複合酸化物Bに代えて用いたこと以外は、実験例1と同様にして電池を作製した。
【0050】
(実験例3)
炭酸リチウム(Li
2CO
3)と、Ni
0.7495Co
0.2Al
0.05Zr
0.0005(OH)
2で表される共沈水酸化物とを、炭酸リチウムにおけるLiのモル数と、上記共沈水酸化物におけるNi、CoおよびAlの総和(Ni+Co+Al)のモル数との比が1.03:1となるように混合して、得られた混合物を、酸素雰囲気下において、700℃で20時間焼成した。焼成後、焼成物を解砕して分級することにより、平均粒径が10μmのリチウム遷移金属複合酸化物Cを得た。得られたリチウム遷移金属複合酸化物Cの組成はLiNi
0.7495Co
0.2Al
0.05Zr
0.005O
2であって、Liの含有比率xは1.00であった。リチウム遷移金属複合酸化物Aをリチウム遷移金属複合酸化物Cに代えて用いたこと以外は、実験例1と同様にして電池を作製した。
【0051】
(実験例4)
エチレンカーボネートと、ジメチルカーボネートと、エチルメチルカーボネートとを、20:20:60の体積比で混合した。こうして得られた非水溶媒に対して、ビニレンカーボネートと、LiPF
6とを溶解させることにより、非水電解液を調製した。ビニレン
カーボネートの含有割合は、非水溶媒の全量に対して1質量%となるように調整し、非水電解液中のLiPF
6の濃度は、1.0mol/Lとなるように調整することで非水電解液Bを得た。非水電解液Bを非水電解液Aに代えて用いたこと以外は、実験例1と同様にして電池を作製した。
【0052】
(実験例5)
プロピレンカーボネートと、ジメチルカーボネートと、エチルメチルカーボネートとを、20:55:25の体積比で混合した。こうして得られた非水溶媒に対して、ビニレンカーボネートと、LiPF
6とを溶解させることにより、非水電解液を調製した。ビニレンカーボネートの含有割合は、非水溶媒の全量に対して1質量%となるように調整し、非水電解液中のLiPF
6の濃度は、1.0mol/Lとなるように調整することで非水電解液Cを得た。非水電解液Cを非水電解液Aに代えて用いたこと以外は、実験例1と同様にして電池を作製した。
【0053】
(実験例6)
γ−ブチロラクトンと、ジメチルカーボネートと、エチルメチルカーボネートとを、20:55:25の体積比で混合した。こうして得られた非水溶媒に対して、ビニレンカーボネートと、LiPF
6とを溶解させることにより、非水電解液を調製した。ビニレンカーボネートの含有割合は、非水溶媒の全量に対して1質量%となるように調整し、非水電解液中のLiPF
6の濃度は、1.0mol/Lとなるように調整することで非水電解液Dを得た。非水電解液Dを非水電解液Aに代えて用いたこと以外は、実験例1と同様にして電池を作製した。
【0054】
(実験例7)
フルオロエチレンカーボネートと、ジメチルカーボネートと、エチルメチルカーボネートとを、20:55:25の体積比で混合した。こうして得られた非水溶媒に対して、ビニレンカーボネートと、LiPF
6とを溶解させることにより、非水電解液を調製した。ビニレンカーボネートの含有割合は、非水溶媒の全量に対して1質量%となるように調整し、非水電解液中のLiPF
6の濃度は、1.0mol/Lとなるように調整することで非水電解液Eを得た。非水電解液Eを非水電解液Aに代えて用いたこと以外は、実験例1と同様にして電池を作製した。
【0055】
(実験例8)
エチレンカーボネートと、ジメチルカーボネートと、エチルメチルカーボネートとを、30:55:15の体積比で混合した。こうして得られた非水溶媒に対して、ビニレンカーボネートと、LiPF
6とを溶解させることにより、非水電解液を調製した。ビニレンカーボネートの含有割合は、非水溶媒の全量に対して1質量%となるように調整し、非水電解液中のLiPF
6の濃度は、1.0mol/Lとなるように調整することで非水電解液Fを得た。非水電解液Fを非水電解液Aに代えて用いたこと以外は、実験例1と同様にして電池を作製した。
【0056】
(実験例9)
エチレンカーボネートと、ジメチルカーボネートと、エチルメチルカーボネートとを、25:20:55の体積比で混合した。こうして得られた非水溶媒に対して、ビニレンカーボネートと、LiPF
6とを溶解させることにより、非水電解液を調製した。ビニレンカーボネートの含有割合は、非水溶媒の全量に対して1質量%となるように調整し、非水電解液中のLiPF
6の濃度は、1.0mol/Lとなるように調整することで非水電解液Gを得た。非水電解液Gを非水電解液Aに代えて用いたこと以外は、実験例1と同様にして電池を作製した。
【0057】
(実験例10)
エチレンカーボネートと、ジメチルカーボネートと、エチルメチルカーボネートとを、35:55:10の体積比で混合した。こうして得られた非水溶媒に対して、ビニレンカーボネートと、LiPF
6とを溶解させることにより、非水電解液を調製した。ビニレンカーボネートの含有割合は、非水溶媒の全量に対して1質量%となるように調整し、非水電解液中のLiPF
6の濃度は、1.0mol/Lとなるように調整することで非水電解液Hを得た。非水電解液Hを非水電解液Aに代えて用いたこと以外は、実験例1と同様にして電池を作製した。
【0058】
(実験例11)
エチレンカーボネートと、ジメチルカーボネートと、エチルメチルカーボネートとを、20:60:20の体積比で混合した。こうして得られた非水溶媒に対して、ビニレンカーボネートと、LiPF
6とを溶解させることにより、非水電解液を調製した。ビニレンカーボネートの含有割合は、非水溶媒の全量に対して1質量%となるように調整し、非水電解液中のLiPF
6の濃度は、1.0mol/Lとなるように調整することで非水電解液Iを得た。非水電解液Iを非水電解液Aに代えて用いたこと以外は、実験例1と同様にして電池を作製した。
【0059】
(実験例12)
エチレンカーボネートと、ジメチルカーボネートと、エチルメチルカーボネートとを、20:15:65の体積比で混合した。こうして得られた非水溶媒に対して、ビニレンカーボネートと、LiPF
6とを溶解させることにより、非水電解液を調製した。ビニレンカーボネートの含有割合は、非水溶媒の全量に対して1質量%となるように調整し、非水電解液中のLiPF
6の濃度は、1.0mol/Lとなるように調整することで非水電解液Jを得た。非水電解液Jを非水電解液Aに代えて用いたこと以外は、実験例1と同様にして電池を作製した。
【0060】
(実験例13)
炭酸リチウム(Li
2CO
3)と、Ni
0.75Co
0.2Al
0.05(OH)
2で表される共沈水酸化物とを、炭酸リチウムにおけるLiのモル数と、上記共沈水酸化物におけるNi、CoおよびAlの総和(Ni+Co+Al)のモル数との比が1.03:1となるように混合して、得られた混合物を、酸素雰囲気下において、700℃で20時間焼成した。焼成後、焼成物を解砕して分級することにより、平均粒径が10μmのリチウム遷移金属複合酸化物Dを得た。得られたリチウム遷移金属複合酸化物Dの組成はLiNi
0.7495Co
0.2Al
0.05O
2であって、Liの含有比率xは1.00であった。リチウム遷移金属複合酸化物Aをリチウム遷移金属複合酸化物Dに代えて用いたこと以外は、実験例1と同様にして電池を作製した。
【0061】
(実験例14)
リチウム遷移金属複合酸化物Aをリチウム遷移金属複合酸化物Dに代え、更に非水電解液Aを非水電解液Iに代えて用いたこと以外は、実験例1と同様にして電池を作製した。
【0062】
(実験例15)
正極活物質層の質量および負極活物質層の質量を、それぞれ実験例1の45質量%となるように正極および負極を作製し、非水電解液Aを非水電解液Iに代えたこと以外は、実験例1と同様にして電池を作製した。
【0063】
(実験例16)
正極活物質層の質量および負極活物質層の質量を、それぞれ実験例1の45質量%となるように正極および負極を作成し、非水電解液Aを非水電解液Iに代え、電池ケース内に
、リチウム遷移金属複合酸化物の総質量に対して60%の非水電解液Iを注液したこと以外は、実験例1と同様にして電池を作製した。
【0064】
(実験例17)
正極活物質層の質量および負極活物質層の質量を、それぞれ実験例1の45質量%となるように正極および負極を作製したこと以外は、実験例1と同様にして電池を作製した。
【0065】
(実験例18)
正極活物質層の質量および負極活物質層の質量を、それぞれ実験例1の45質量%となるように正極および負極を作成し、電池ケース内に、リチウム遷移金属複合酸化物の総質量に対して60%の非水電解液Aを注液したこと以外は、実験例1と同様にして電池を作製した。
【0066】
実験例1〜実験例10及び実験例11〜実験例18で得られた電池のエネルギー密度、低温放電特性、およびサイクル特性の測定結果を表1に示す。
【0067】
なお、エネルギー密度は次の手順により測定した。まず、電池を、25℃の雰囲気下において、10時間率の一定電流で4.2Vまで充電した。次いで、10時間率の一定電流で2.5Vまで放電させた。このときの放電容量(Wh)を測定して、初期放電容量Qとした。このようにして求めた初期放電容量Qを、電池の体積V(0.0165L)で割ることにより、エネルギー密度E(Wh/L)を求めた。
【0068】
また、低温放電特性は次の手順により測定した。まず、電池を、25℃の雰囲気下において、10時間率の一定電流で4.2Vまで充電した。次いで−30℃の雰囲気下に6時間保存した後、−30℃の雰囲気下で1時間率の一定電流で3Vまで放電させた。このときの放電容量(Wh)を測定して、低温放電容量とした。
【0069】
また、サイクル特性は次の手順により測定した。電池を、25℃の雰囲気下において、充電上限電圧を4.2Vに設定し、最大2時間率の電流値で4時間定電流定電圧充電をした後に、1時間率の一定電流で2.5Vまで放電させる充放電サイクルを繰り返した。
【0070】
この充放電サイクルの1サイクル目の放電容量(Q1)と、500サイクル経過時の放電容量(Q2)との比(Q2/Q1)を電池容量維持率とした。
【0071】
【表1】
【0072】
表1に示すように、実験例1〜実験例4の電池では、実験例11および実験例14〜実
験例16の電池の特性に比べて、低温放電容量が向上している。これは、電解液溶媒中のジメチルカーボネートの体積比率を55%以下としたことで、電解液の凝固点を−30℃以下にすることができた為と考えられる。
【0073】
更に、実験例1〜実験例4の電池では、実験例13の電池の特性に比べて、サイクル特性が向上している。リチウム遷移金属複合酸化物にタングステン、チタンおよびジルコニウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素が添加されると、充放電中にリチウム遷移金属複合酸化物表面に形成される高抵抗層(NiO層)の厚みが薄くなる。これにより、リチウム遷移金属複合酸化物の反応均一性が向上し、サイクル中の極板内の電解液の濃度分布の均一性が向上し、液枯れによる負極へのリチウム金属の析出が抑制されたと考えられる。
【0074】
また、電解液中のジメチルカーボネートの体積比率を55%以下まで低下させた為、サイクル中のジメチルカーボネートの酸化分解による液枯れや、酸化分解により材料表面に形成される高抵抗層の生成が抑制できていることも、相乗的にサイクル特性の向上に寄与していると考えられる。
【0075】
更に、実験例1〜実験例4の電池は、実験例18の電池と比べて、エネルギー密度を向上させることができた。これは前述したサイクル特性向上の効果により、電池内に注液する電解液量を減少させ、正負極活物質の量を増加させても、サイクル特性が確保できるようになった為である。一方で、実験例12の電池は、実験例1または実験例4の電池のようにサイクル特性が向上していない。これはジメチルカーボネートの体積比率が低すぎると、電解液の粘度が上がり過ぎ、電導度が下がり過ぎたことで、前述したサイクル特性向上の効果が消失した為と考えられる。従って、ジメチルカーボネートの体積比率は前記非水溶媒の全量に対して20%以上、55%以下であることが好ましいことがわかる。
【0076】
また、実験例5〜実験例7の電池は、実験例1同様に、実験例13の電池と比べてサイクル特性が向上している。これは非水溶媒に用いる環状エステルに、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ―ブチロラクトン、フルオロエチレンカーボネートの何れかを単独或いは混合して用いたとしても、実験例1同様のサイクル特性向上の効果が発現することを示している。
【0077】
一方で、実験例9の電池では、実験例1、実験例4および実験例8の電池と比べてサイクル特性の向上効果が減少している。この理由は定かでは無いが、電解液中の環状エステルの体積比率がジメチルカーボネートの体積比率を上回った場合には、実験例1の電池のようにサイクル特性向上の効果が発現しないことを示していると考えられる。従って、電解液中の環状エステルの体積比率は、ジメチルカーボネートの体積比率以下であることが好ましいことがわかる。
【0078】
また、実験例10の電池は、実験例1、実験例4および実験例8の電池と比べて、サイクル特性の向上効果が減少している。これは非水溶媒中の環状エステルの体積比率が30%を超えると、電解液の粘度が上がり過ぎ、電導度が下がり過ぎたことで、サイクル特性向上の効果が減少した為と考えられる。従って、環状エステルの体積比率は、非水溶媒の全量に対して30%以下とすることが好ましいことがわかる。