特許第6119641号(P6119641)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6119641-円筒形非水電解液二次電池 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6119641
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】円筒形非水電解液二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20170417BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20170417BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20170417BHJP
   H01M 10/0587 20100101ALI20170417BHJP
【FI】
   H01M10/052
   H01M10/0569
   H01M4/525
   H01M10/0587
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-37864(P2014-37864)
(22)【出願日】2014年2月28日
(65)【公開番号】特開2015-162406(P2015-162406A)
(43)【公開日】2015年9月7日
【審査請求日】2016年2月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104732
【弁理士】
【氏名又は名称】徳田 佳昭
(74)【代理人】
【識別番号】100115554
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 幸一
(72)【発明者】
【氏名】厚朴 謙一
(72)【発明者】
【氏名】藤川 万郷
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 俊忠
【審査官】 小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−351379(JP,A)
【文献】 特開2012−252844(JP,A)
【文献】 特開2007−145695(JP,A)
【文献】 特開2012−028163(JP,A)
【文献】 特開2001−143760(JP,A)
【文献】 特開平10−027625(JP,A)
【文献】 特開2008−293812(JP,A)
【文献】 特開平11−283666(JP,A)
【文献】 特開2013−114848(JP,A)
【文献】 特開2009−152182(JP,A)
【文献】 特開2013−239434(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/131779(WO,A1)
【文献】 特開2006−019229(JP,A)
【文献】 特開2006−012616(JP,A)
【文献】 特開2005−044743(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052
H01M 4/525
H01M 10/0569
H01M 10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム遷移金属複合酸化物を含む正極と、負極と、セパレータと、非水溶媒に電解質を溶解させた電解液とを有する円筒形非水電解液二次電池であって
前記電解液の質量が前記リチウム遷移金属複合酸化物の質量に対して55%以下であり、
前記電解液がジメチルカーボネートを含み、
前記ジメチルカーボネートの体積比率が前記非水溶媒の全量に対して20%以上、55%以下であり、
前記リチウム遷移金属複合酸化物が、一般式:LiNi1−(p+q+r)CoAl2+y(Mはタングステン、チタンおよびジルコニウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素、0.9≦x≦1.2、−1.0≦y≦0.1、0.0001≦r≦0.01、0<p+q+r≦0.4)で表される円筒形非水電解液二次電池。
【請求項2】
前記電解液が、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、およびフルオロエチレンカーボネートからなる群より選択される少なくとも1種の環状エステルを含有し、
前記環状エステルの体積比率が前記ジメチルカーボネートの体積比率以下である請求項1記載の円筒形非水電解液二次電池。
【請求項3】
前記環状エステルの体積比率が前記非水溶媒の全量に対して30%以下である請求項2に記載の円筒形非水電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は円筒形非水電解液二次電池に関し、特に低温環境下における放電特性を改善し、且つサイクル特性にも優れたエネルギー密度の高い円筒形非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車やハイブリッド電気自動車等の動力用電源として、エネルギー密度が高く、−30℃以下の低温環境下でも使用でき、更に長寿命の電源が求められている。
【0003】
従来、車載動力用の二次電池としては、鉛蓄電池、ニッケル水素電池などの水溶液系電池が主流であった。これらの電池は、出力特性やサイクル特性には優れているが、電池重量や体積当たりのエネルギー密度の点では満足できる特性ではない。
【0004】
近年、車載動力用の二次電池として、リチウムイオンを放出或いは吸蔵することができる正極及び負極を用いた非水電解液二次電池の研究・開発が盛んに行われている。非水電解液二次電池は軽量で高いエネルギー密度を有し、自己放電も少ないといった優れた特徴を有している。
【0005】
非水電解液二次電池では、高い作動電圧を実現する為に、一般に電解液に有機溶媒が用いられる。この電解液には非水電解質を溶解する高い誘電率と、溶解したイオンの移動度を高くする低い粘度が求められる為、一般にエチレンカーボネート(EC)やプロピレンカーボネート(PC)などの高誘電率溶媒と、ジメチルカーボネートやエチルメチルカーボネートのような低粘度溶媒とを混合した有機電解液が用いられている。
【0006】
しかしこのような有機電解液は、一般に水溶液系の電解液よりも電導度が低い為に低温出力特性やサイクル特性が車載動力用としては不十分であった。
【0007】
特許文献1には、有機混合溶媒の組成比率を好適にすることにより、広い温度範囲で使用でき、且つ電解液の電気化学的安定性が向上することでサイクル特性も向上させることができると記載されている。
【0008】
特許文献2には、電池放電容量当たりの電解液量を好適にし、電極内に十分な量の電解液を保持させることで、有機電解液の組成に依存することなくサイクル特性を向上させることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−45304号公報
【特許文献2】特開2001−229980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載の有機電解液では、ジメチルカーボネートの混合比率を低下させることで有機電解液の凝固点を−20℃未満にしている。しかしながら、低粘度溶媒であるジメチルカーボネートの混合比率を低下させると、有機電解液の粘度が上昇して導電率が低下する為、550Wh/Lを超える高エネルギー密度の非水電解液二次電池においては、充放電中の電解液の拡散による影響が主要因となり、サイクル特性が悪化する課題がある
【0011】
一方、特許文献2に記載の電解液量の好適化は、電極内に十分な量の電解液を保持させることが目的であるが、一般式LiMO(ただし、MはCo、Niの少なくとも1種)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物もしくはリチウムを含んだ層間化合物を用いた550Wh/Lを超えるエネルギー密度を有する非水電解液二次電池においては、電池のエネルギー量に寄与しない電解液を保持できる空間を十分に確保することができず、上記課題を解決する手段とはなり得ない。
【0012】
本発明は、−30℃以下の低温環境下においても使用可能であり、サイクル特性に優れる非水電解液二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の非水電解液二次電池は、リチウム遷移金属複合酸化物を含む正極と、負極と、セパレータと、電解液とを有する円筒形非水電解液二次電池であって電解液の質量がリチウム遷移金属複合酸化物の質量に対して55%以下であり、電解液がジメチルカーボネートを含み、ジメチルカーボネートの体積比率が非水溶媒全量に対して20%以上、55%以下であり、リチウム遷移金属複合酸化物が、一般式:LiNi1−(p+q+r)CoAl2+y(Mはタングステン、チタンおよびジルコニウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素、0.9≦x≦1.2、−1.0≦y≦0.1、0.0001≦r≦0.01、0<p+q+r≦.4)で表されることを特徴とする。
【0014】
本発明において、電解液中のジメチルカーボネートの体積比率を非水溶媒の全量に対して55%以下まで低下させることで電解液の凝固点が−30℃以下となり、低温環境下での放電特性が向上する。
【0015】
更に、正極活物質にタングステン、チタン、およびジルコニウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素が添加されたリチウム遷移金属複合酸化物を用いることで、リチウム遷移金属複合酸化物の反応均一性が向上する。これにより、極板内における電解液の濃度分布の均一性が向上し、電解液の液枯れによる負極へのリチウム金属の析出が抑制され、サイクル特性が向上する。
【0016】
その結果、電解液の質量をリチウム遷移金属複合酸化物の質量に対して55%以下とした高エネルギー密度の非水電解液二次電池において、電解液の凝固点の降下による低温放電特性の向上と、電解液の液枯れによる負極へのリチウム金属の析出の抑制とにより、低温放電特性とサイクル特性を両立させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、低温特性が高く、長寿命特性に優れ、且つエネルギー密度の高い非水電解液二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態における非水電解液二次電池の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の目的、特徴、および利点は、以下の詳細な説明および添付する図表を参照することによって、より明白となる。
【0020】
最初に、本発明に係る非水電解液二次電池の好ましい実施形態を説明する。
【0021】
図1に示す非水電解液二次電池1は、ステンレス鋼製の電池ケース2とその電池ケース2内に収容された電極群を含む。電極群は正極5と負極6とポリエチレン製のセパレータ7とからなり、正極5と負極6がセパレータ7を介して渦巻状に捲回されている。その電極群の上部および下部には上部絶縁板8aおよび下部絶縁板8bが配置されている。電池ケース2の開口端部にガスケット4を介して封口板3をかしめつけることにより、封口されている。また、正極5にはアルミミウム製の正極リード5aの一端が取り付けられており、その正極リード5aの他端が、正極端子を兼ねる封口板3に接続されている。負極6にはニッケル製の負極リード6aの一端が取り付けられており、その負極リード6aの他端は、負極端子を兼ねる電池ケース2に接続されている。
【0022】
正極5は正極活物質として一般式:LiNi1−(p+q+r)CoAl2+y(Mはタングステン、チタンおよびジルコニウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素、0.9≦x≦1.2、−1.0≦y≦0.1、0.0001≦r≦0.01、0<p+q+r≦0.4)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含む。
【0023】
本実施形態に用いられるリチウム遷移金属複合酸化物において、p、qおよびrは、順にコバルト(Co)、アルミニウム(Al)および元素Mについての含有比率を示している。p、qおよびrの和(p+q+r)は、リチウム含有ニッケル酸化物中のニッケル(Ni)に対して、異種元素としてのCo、Alおよび元素Mが置換している量を示す。(p+q+r)の範囲は、0<(p+q+r)≦0.4が好ましく、0.03≦(p+q+r)≦0.3がより好ましい。(p+q+r)が小さすぎる、すなわちCo、Alおよび元素Mによってリチウム含有ニッケル酸化物中のNiを置換している量が少なすぎると、正極活物質としてのサイクル寿命および熱安定性が低下する傾向がある。逆に、(p+q+r)が大きすぎる、すなわちCo、Alおよび元素Mによる置換量が多すぎると、正極活物質の容量が低下する傾向がある。
【0024】
Coの含有比率を示すpの範囲は、0≦p≦0.4が好ましく、0<p<0.4がより好ましく、0.01≦p≦0.3が特に好ましい。Alの含有比率を示すqの範囲は、0≦q≦0.3が好ましく、0<q<0.3がより好ましく、0.01≦q≦0.2が特に好ましい。元素Mの含有比率を示すrの範囲は、0.0001≦r≦0.01が好ましい。
【0025】
元素Mとしては、タングステン、チタンおよびジルコニウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素が挙げられる。元素Mとして、これらの元素を選択することにより、焼成により合成されたリチウム遷移金属複合酸化物の二次粒子内の反応均一性を向上することができる。また、非水電解液二次電池のサイクル特性や信頼性を向上させることができる。
【0026】
なお、Niの含有比率を示す1−(p+q+r)の範囲は、0.6≦[1−(p+q+r)]<1、好ましくは、0.6<[1−(p+q+r)]≦0.97である。
【0027】
上記一般式で表されるリチウム遷移金属複合酸化物において、yは酸素過剰量または酸素欠損量を示し、その範囲は−0.1〜0.1が好ましい。yが上記範囲を外れると、酸素過剰量または酸素欠損量が多くなりすぎて結晶構造が歪む傾向があり、充放電時の可逆性を低下させるおそれがある。
【0028】
正極合剤に含まれる結着剤としては、非水電解液二次電池の正極に用いられる結着剤を特に限定なく挙げることができる。具体的には、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ
化ビニリデン(PVDF)、PVDFの変性体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体などの含フッ素ポリマー;スチレン−ブタジエンゴムなどのゴム;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂が挙げられる。これらは1種を単独で用いることができ、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0029】
導電剤としては、黒鉛類;アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック類;炭素繊維、金属繊維などが挙げられる。
【0030】
負極6は、リチウムの吸蔵および放出が可能な負極活物質が特に限定なく含まれる。具体的には、グラファイト、非晶質カーボンなどの炭素材料、ケイ素およびその酸化物、スズおよびその酸化物などが挙げられる。
【0031】
負極活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
結着剤としては、正極5の形成に用いられる結着剤として例示したものと同様のものが挙げられる。
【0033】
負極合剤には、さらに導電剤などの添加剤を含有させることができる。導電剤としては、正極5の形成に用いられる導電剤として例示したものと同様のものが挙げられる。
【0034】
セパレータ7は、正極5と負極6との間に介在して、正極5と負極6とを隔離する。セパレータ7としては、イオン透過度が大きく、機械的強度が充分な、絶縁性を有する微多孔性薄膜、織布および不織布が挙げられる。
【0035】
セパレータの材質は、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィンが、耐久性に優れ、過熱時にシャットダウン機能を発揮できるという観点から好ましい。
【0036】
セパレータの厚さは、一般に10〜300μmであるが、40μm以下が好ましく、5〜30μmがより好ましく、10〜25μmがさらに好ましい。
【0037】
さらに、セパレータは、1種の材料からなる単層膜であってもよく、2種以上の材料からなる複合膜または多層膜であってもよい。セパレータの空孔率は、30〜70%が好ましく、35〜60%がより好ましい。空孔率とは、セパレータ全体の体積に占める孔部の体積の割合を示す。
【0038】
電極群は、図示を省略する非水電解液とともに、電池ケース2内に収容されている。
なお非水電解液は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解されるリチウム塩とを含む。
【0039】
非水溶媒としては、ジメチルカーボネート(DMC)が溶媒体積全体の20%以上55%以下を占め、且つエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、またはγ−ブチロラクトン(GBL)などの環状エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種類の非水溶媒を含む。これら以外の非水溶媒については特に限定無く混合することができ、具体的にはエチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)などの鎖状炭酸エステル;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソランなどの環状エーテル;1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタンなどの鎖状エーテル;酢酸メチルなどの鎖状エステルを1種類以上組み合わせて用いることもできる。
【0040】
リチウム塩としては、非水電解液二次電池の非水電解液に溶質として用いられる各種のリチウム塩が挙げられる。具体的には、LiPF、LiBF、LiSbF、LiAsF、LiSOCF、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、LiC(SOCFなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いることができ、2種以上を組み合わせて用いることもできる。リチウム塩の濃度は0.5〜2mol/Lが好ましい。
【0041】
非水電解液は、さらに、炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有する環状炭酸エステルを含有させることが好ましい。このような環状炭酸エステルは、負極上で分解してリチウムイオン伝導性の高い被膜を形成する。この被膜は、充放電効率の向上に寄与する。炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有する環状炭酸エステルとしては、ビニレンカーボネート、3−メチルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、ジビニルエチレンカーボネートなどが挙げられる。環状炭酸エステルは、水素原子の一部がフッ素原子で置換されていてもよい。環状炭酸エステルの非水溶媒に対する溶解量は、非水溶媒の全量に対して0.1〜10質量%が好ましい。
【0042】
非水電解液は、さらに、ベンゼン誘導体を含んでいてもよい。ベンゼン誘導体は、過充電時に分解して電極上に被膜を形成することにより、電池を不活性化する。ベンゼン誘導体としては、フェニル基および前記フェニル基に隣接する環状化合物基を有するものが好ましい。具体的には、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、ジフェニルエーテルなどが挙げられる。ベンゼン誘導体の含有量は、非水溶媒全体の10体積%以下が好ましい。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は実施例に何ら限定されるものではない。
【0044】
(実験例1)
(1)正極活物質の作製
炭酸リチウム(LiCO)と、Ni0.7495Co0.2Al0.050.0005(OH)で表される共沈水酸化物とを、炭酸リチウムにおけるLiのモル数と、共沈水酸化物におけるNi、CoおよびAlの総和(Ni+Co+Al)のモル数との比が1.03:1となるように混合して、得られた混合物を、酸素雰囲気下において、700℃で20時間焼成した。焼成後、焼成物を解砕して分級することにより、平均粒径が10μmのリチウム遷移金属複合酸化物Aを得た。得られたリチウム遷移金属複合酸化物Aの組成はLiNi0.7495Co0.2Al0.050.005であって、Liの含有比率xは1.00であった。
【0045】
(2)正極の作製
90質量部の正極活物質Aと、5質量部のポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含むPVDFのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液と、5質量部のアセチレンブラック(AB)を混合することにより、正極合剤スラリーを得た。正極集電体としての厚み20μmのアルミニウム箔の両面に、正極合剤スラリーを塗布して乾燥することにより、正極活物質層を形成した。こうして得られた、正極集電体の両面に正極活物質層を備える積層体を、一対のローラで加圧して圧延することにより、総厚さが120μmの正極5を得た。なお、正極集電体の短手方向の一辺に、正極活物質層が形成されていない正極集電体の露出部を設けた。
【0046】
(3)負極の作製
95質量部の人造黒鉛粉末と、5質量部のPVDFを含むPVDFのNMP溶液と、を混合することにより、負極合剤スラリーを得た。負極集電体としての厚み10μmの銅箔
の両面に、負極合剤スラリーを塗布して乾燥することにより、負極活物質層を形成した。こうして得られた、負極集電体の両面に負極活物質層を備える積層体を、一対のローラで加圧して圧延することにより、総厚さが180μmの負極6を得た。なお、負極集電体の短手方向の一辺に、負極活物質層が形成されていない負極集電体の露出部を設けた。
【0047】
(4)非水電解液の調製
エチレンカーボネートと、ジメチルカーボネートと、エチルメチルカーボネートとを、20:55:25の体積比で混合した。こうして得られた非水溶媒に対して、ビニレンカーボネートと、LiPFとを溶解させることにより、非水電解液を調製した。ビニレンカーボネートの含有割合は、非水溶媒の全量に対して1質量%となるように調整し、非水電解液中のLiPFの濃度は、1.0mol/Lとなるように調整することで非水電解液Aを得た。
【0048】
(5)円筒形電池の作製
正極5と、負極6とを、正極および負極の間に、微多孔性のセパレータ7(ポリエチレンとポリプロピレンとの複合フィルム、セルガード(株)製の品番「2300」、厚さ25μm)を挟んで渦巻状に捲回することにより、電極群を得た。正極5の正極集電体露出部にアルミニウム製の正極リード5aを溶接し、負極集電体露出部にはニッケル製の負極リード6aを溶接した。こうして得られた電極群を、直径18mm、高さ65mmの有底略円筒形の電池ケース2に挿入した。次いで、電池ケース内に、リチウム遷移金属複合酸化物の総質量に対して55%の非水電解液Aを注液し、電池ケース2の開口端部にガスケット4を介して封口板3にかしめることにより電池を完成させた。その後、得られた電池を室温で24時間程度放置することにより、開回路電圧を安定させた。
【0049】
(実験例2)
炭酸リチウム(LiCO)と、Ni0.7495Co0.2Al0.05Ti0.0005(OH)で表される共沈水酸化物とを、炭酸リチウムにおけるLiのモル数と、共沈水酸化物におけるNi、CoおよびAlの総和(Ni+Co+Al)のモル数との比が1.03:1となるように混合して、得られた混合物を、酸素雰囲気下において、700℃で20時間焼成した。焼成後、焼成物を解砕して分級することにより、平均粒径が10μmのリチウム遷移金属複合酸化物Bを得た。得られたリチウム遷移金属複合酸化物Bの組成はLiNi0.7495Co0.2Al0.05Ti0.005であって、Liの含有比率xは1.00であった。リチウム遷移金属複合酸化物Aをリチウム遷移金属複合酸化物Bに代えて用いたこと以外は、実験例1と同様にして電池を作製した。
【0050】
(実験例3)
炭酸リチウム(LiCO)と、Ni0.7495Co0.2Al0.05Zr0.0005(OH)で表される共沈水酸化物とを、炭酸リチウムにおけるLiのモル数と、上記共沈水酸化物におけるNi、CoおよびAlの総和(Ni+Co+Al)のモル数との比が1.03:1となるように混合して、得られた混合物を、酸素雰囲気下において、700℃で20時間焼成した。焼成後、焼成物を解砕して分級することにより、平均粒径が10μmのリチウム遷移金属複合酸化物Cを得た。得られたリチウム遷移金属複合酸化物Cの組成はLiNi0.7495Co0.2Al0.05Zr0.005であって、Liの含有比率xは1.00であった。リチウム遷移金属複合酸化物Aをリチウム遷移金属複合酸化物Cに代えて用いたこと以外は、実験例1と同様にして電池を作製した。
【0051】
(実験例4)
エチレンカーボネートと、ジメチルカーボネートと、エチルメチルカーボネートとを、20:20:60の体積比で混合した。こうして得られた非水溶媒に対して、ビニレンカーボネートと、LiPFとを溶解させることにより、非水電解液を調製した。ビニレン
カーボネートの含有割合は、非水溶媒の全量に対して1質量%となるように調整し、非水電解液中のLiPFの濃度は、1.0mol/Lとなるように調整することで非水電解液Bを得た。非水電解液Bを非水電解液Aに代えて用いたこと以外は、実験例1と同様にして電池を作製した。
【0052】
(実験例5)
プロピレンカーボネートと、ジメチルカーボネートと、エチルメチルカーボネートとを、20:55:25の体積比で混合した。こうして得られた非水溶媒に対して、ビニレンカーボネートと、LiPFとを溶解させることにより、非水電解液を調製した。ビニレンカーボネートの含有割合は、非水溶媒の全量に対して1質量%となるように調整し、非水電解液中のLiPFの濃度は、1.0mol/Lとなるように調整することで非水電解液Cを得た。非水電解液Cを非水電解液Aに代えて用いたこと以外は、実験例1と同様にして電池を作製した。
【0053】
(実験例6)
γ−ブチロラクトンと、ジメチルカーボネートと、エチルメチルカーボネートとを、20:55:25の体積比で混合した。こうして得られた非水溶媒に対して、ビニレンカーボネートと、LiPFとを溶解させることにより、非水電解液を調製した。ビニレンカーボネートの含有割合は、非水溶媒の全量に対して1質量%となるように調整し、非水電解液中のLiPFの濃度は、1.0mol/Lとなるように調整することで非水電解液Dを得た。非水電解液Dを非水電解液Aに代えて用いたこと以外は、実験例1と同様にして電池を作製した。
【0054】
(実験例7)
フルオロエチレンカーボネートと、ジメチルカーボネートと、エチルメチルカーボネートとを、20:55:25の体積比で混合した。こうして得られた非水溶媒に対して、ビニレンカーボネートと、LiPFとを溶解させることにより、非水電解液を調製した。ビニレンカーボネートの含有割合は、非水溶媒の全量に対して1質量%となるように調整し、非水電解液中のLiPFの濃度は、1.0mol/Lとなるように調整することで非水電解液Eを得た。非水電解液Eを非水電解液Aに代えて用いたこと以外は、実験例1と同様にして電池を作製した。
【0055】
(実験例8)
エチレンカーボネートと、ジメチルカーボネートと、エチルメチルカーボネートとを、30:55:15の体積比で混合した。こうして得られた非水溶媒に対して、ビニレンカーボネートと、LiPFとを溶解させることにより、非水電解液を調製した。ビニレンカーボネートの含有割合は、非水溶媒の全量に対して1質量%となるように調整し、非水電解液中のLiPFの濃度は、1.0mol/Lとなるように調整することで非水電解液Fを得た。非水電解液Fを非水電解液Aに代えて用いたこと以外は、実験例1と同様にして電池を作製した。
【0056】
(実験例9)
エチレンカーボネートと、ジメチルカーボネートと、エチルメチルカーボネートとを、25:20:55の体積比で混合した。こうして得られた非水溶媒に対して、ビニレンカーボネートと、LiPFとを溶解させることにより、非水電解液を調製した。ビニレンカーボネートの含有割合は、非水溶媒の全量に対して1質量%となるように調整し、非水電解液中のLiPFの濃度は、1.0mol/Lとなるように調整することで非水電解液Gを得た。非水電解液Gを非水電解液Aに代えて用いたこと以外は、実験例1と同様にして電池を作製した。
【0057】
(実験例10)
エチレンカーボネートと、ジメチルカーボネートと、エチルメチルカーボネートとを、35:55:10の体積比で混合した。こうして得られた非水溶媒に対して、ビニレンカーボネートと、LiPFとを溶解させることにより、非水電解液を調製した。ビニレンカーボネートの含有割合は、非水溶媒の全量に対して1質量%となるように調整し、非水電解液中のLiPFの濃度は、1.0mol/Lとなるように調整することで非水電解液Hを得た。非水電解液Hを非水電解液Aに代えて用いたこと以外は、実験例1と同様にして電池を作製した。
【0058】
(実験例11)
エチレンカーボネートと、ジメチルカーボネートと、エチルメチルカーボネートとを、20:60:20の体積比で混合した。こうして得られた非水溶媒に対して、ビニレンカーボネートと、LiPFとを溶解させることにより、非水電解液を調製した。ビニレンカーボネートの含有割合は、非水溶媒の全量に対して1質量%となるように調整し、非水電解液中のLiPFの濃度は、1.0mol/Lとなるように調整することで非水電解液Iを得た。非水電解液Iを非水電解液Aに代えて用いたこと以外は、実験例1と同様にして電池を作製した。
【0059】
(実験例12)
エチレンカーボネートと、ジメチルカーボネートと、エチルメチルカーボネートとを、20:15:65の体積比で混合した。こうして得られた非水溶媒に対して、ビニレンカーボネートと、LiPFとを溶解させることにより、非水電解液を調製した。ビニレンカーボネートの含有割合は、非水溶媒の全量に対して1質量%となるように調整し、非水電解液中のLiPFの濃度は、1.0mol/Lとなるように調整することで非水電解液Jを得た。非水電解液Jを非水電解液Aに代えて用いたこと以外は、実験例1と同様にして電池を作製した。
【0060】
(実験例13)
炭酸リチウム(LiCO)と、Ni0.75Co0.2Al0.05(OH)で表される共沈水酸化物とを、炭酸リチウムにおけるLiのモル数と、上記共沈水酸化物におけるNi、CoおよびAlの総和(Ni+Co+Al)のモル数との比が1.03:1となるように混合して、得られた混合物を、酸素雰囲気下において、700℃で20時間焼成した。焼成後、焼成物を解砕して分級することにより、平均粒径が10μmのリチウム遷移金属複合酸化物Dを得た。得られたリチウム遷移金属複合酸化物Dの組成はLiNi0.7495Co0.2Al0.05であって、Liの含有比率xは1.00であった。リチウム遷移金属複合酸化物Aをリチウム遷移金属複合酸化物Dに代えて用いたこと以外は、実験例1と同様にして電池を作製した。
【0061】
(実験例14)
リチウム遷移金属複合酸化物Aをリチウム遷移金属複合酸化物Dに代え、更に非水電解液Aを非水電解液Iに代えて用いたこと以外は、実験例1と同様にして電池を作製した。
【0062】
(実験例15)
正極活物質層の質量および負極活物質層の質量を、それぞれ実験例1の45質量%となるように正極および負極を作製し、非水電解液Aを非水電解液Iに代えたこと以外は、実験例1と同様にして電池を作製した。
【0063】
(実験例16)
正極活物質層の質量および負極活物質層の質量を、それぞれ実験例1の45質量%となるように正極および負極を作成し、非水電解液Aを非水電解液Iに代え、電池ケース内に
、リチウム遷移金属複合酸化物の総質量に対して60%の非水電解液Iを注液したこと以外は、実験例1と同様にして電池を作製した。
【0064】
(実験例17)
正極活物質層の質量および負極活物質層の質量を、それぞれ実験例1の45質量%となるように正極および負極を作製したこと以外は、実験例1と同様にして電池を作製した。
【0065】
(実験例18)
正極活物質層の質量および負極活物質層の質量を、それぞれ実験例1の45質量%となるように正極および負極を作成し、電池ケース内に、リチウム遷移金属複合酸化物の総質量に対して60%の非水電解液Aを注液したこと以外は、実験例1と同様にして電池を作製した。
【0066】
実験例1〜実験例10及び実験例11〜実験例18で得られた電池のエネルギー密度、低温放電特性、およびサイクル特性の測定結果を表1に示す。
【0067】
なお、エネルギー密度は次の手順により測定した。まず、電池を、25℃の雰囲気下において、10時間率の一定電流で4.2Vまで充電した。次いで、10時間率の一定電流で2.5Vまで放電させた。このときの放電容量(Wh)を測定して、初期放電容量Qとした。このようにして求めた初期放電容量Qを、電池の体積V(0.0165L)で割ることにより、エネルギー密度E(Wh/L)を求めた。
【0068】
また、低温放電特性は次の手順により測定した。まず、電池を、25℃の雰囲気下において、10時間率の一定電流で4.2Vまで充電した。次いで−30℃の雰囲気下に6時間保存した後、−30℃の雰囲気下で1時間率の一定電流で3Vまで放電させた。このときの放電容量(Wh)を測定して、低温放電容量とした。
【0069】
また、サイクル特性は次の手順により測定した。電池を、25℃の雰囲気下において、充電上限電圧を4.2Vに設定し、最大2時間率の電流値で4時間定電流定電圧充電をした後に、1時間率の一定電流で2.5Vまで放電させる充放電サイクルを繰り返した。
【0070】
この充放電サイクルの1サイクル目の放電容量(Q1)と、500サイクル経過時の放電容量(Q2)との比(Q2/Q1)を電池容量維持率とした。
【0071】
【表1】
【0072】
表1に示すように、実験例1〜実験例4の電池では、実験例11および実験例14〜実
験例16の電池の特性に比べて、低温放電容量が向上している。これは、電解液溶媒中のジメチルカーボネートの体積比率を55%以下としたことで、電解液の凝固点を−30℃以下にすることができた為と考えられる。
【0073】
更に、実験例1〜実験例4の電池では、実験例13の電池の特性に比べて、サイクル特性が向上している。リチウム遷移金属複合酸化物にタングステン、チタンおよびジルコニウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素が添加されると、充放電中にリチウム遷移金属複合酸化物表面に形成される高抵抗層(NiO層)の厚みが薄くなる。これにより、リチウム遷移金属複合酸化物の反応均一性が向上し、サイクル中の極板内の電解液の濃度分布の均一性が向上し、液枯れによる負極へのリチウム金属の析出が抑制されたと考えられる。
【0074】
また、電解液中のジメチルカーボネートの体積比率を55%以下まで低下させた為、サイクル中のジメチルカーボネートの酸化分解による液枯れや、酸化分解により材料表面に形成される高抵抗層の生成が抑制できていることも、相乗的にサイクル特性の向上に寄与していると考えられる。
【0075】
更に、実験例1〜実験例4の電池は、実験例18の電池と比べて、エネルギー密度を向上させることができた。これは前述したサイクル特性向上の効果により、電池内に注液する電解液量を減少させ、正負極活物質の量を増加させても、サイクル特性が確保できるようになった為である。一方で、実験例12の電池は、実験例1または実験例4の電池のようにサイクル特性が向上していない。これはジメチルカーボネートの体積比率が低すぎると、電解液の粘度が上がり過ぎ、電導度が下がり過ぎたことで、前述したサイクル特性向上の効果が消失した為と考えられる。従って、ジメチルカーボネートの体積比率は前記非水溶媒の全量に対して20%以上、55%以下であることが好ましいことがわかる。
【0076】
また、実験例5〜実験例7の電池は、実験例1同様に、実験例13の電池と比べてサイクル特性が向上している。これは非水溶媒に用いる環状エステルに、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ―ブチロラクトン、フルオロエチレンカーボネートの何れかを単独或いは混合して用いたとしても、実験例1同様のサイクル特性向上の効果が発現することを示している。
【0077】
一方で、実験例9の電池では、実験例1、実験例4および実験例8の電池と比べてサイクル特性の向上効果が減少している。この理由は定かでは無いが、電解液中の環状エステルの体積比率がジメチルカーボネートの体積比率を上回った場合には、実験例1の電池のようにサイクル特性向上の効果が発現しないことを示していると考えられる。従って、電解液中の環状エステルの体積比率は、ジメチルカーボネートの体積比率以下であることが好ましいことがわかる。
【0078】
また、実験例10の電池は、実験例1、実験例4および実験例8の電池と比べて、サイクル特性の向上効果が減少している。これは非水溶媒中の環状エステルの体積比率が30%を超えると、電解液の粘度が上がり過ぎ、電導度が下がり過ぎたことで、サイクル特性向上の効果が減少した為と考えられる。従って、環状エステルの体積比率は、非水溶媒の全量に対して30%以下とすることが好ましいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の非水電解液二次電池は、低温特性が高く、長寿命特性に優れ、且つエネルギー密度が高いことから、例えば電気自動車、ハイブリッドカー、電動アシスト自転車、電動工具、非常用電源、負荷平準用電源などの電源として好適である。
【符号の説明】
【0080】
1 非水電解液二次電池
2 電池ケース
3 封口板
4 ガスケット
5 正極
5a 正極リード
6 負極
6a 負極リード
7 セパレータ
8a 上部絶縁板
8b 下部絶縁板
図1