特許第6119657号(P6119657)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6119657
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】塗装方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/30 20060101AFI20170417BHJP
   B05D 3/04 20060101ALI20170417BHJP
   B05C 5/00 20060101ALN20170417BHJP
【FI】
   B05D1/30
   B05D3/04 Z
   !B05C5/00 102
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-75860(P2014-75860)
(22)【出願日】2014年4月2日
(65)【公開番号】特開2015-196140(P2015-196140A)
(43)【公開日】2015年11月9日
【審査請求日】2016年6月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷川 達也
(72)【発明者】
【氏名】近松 聡
(72)【発明者】
【氏名】上園 学
【審査官】 富永 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−193161(JP,A)
【文献】 特開2006−334512(JP,A)
【文献】 特開平04−296589(JP,A)
【文献】 特開2000−167465(JP,A)
【文献】 特公昭53−031005(JP,B1)
【文献】 特開平07−080377(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C5/00−5/04
B05D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルヘッドに所定のピッチで形成した複数の微小孔から塗液を吐出して被塗布物に所定の幅の塗膜を形成する塗装方法であって、
前記ノズルヘッドの微小孔から吐出された塗液を、液柱状態のままで前記被塗布物に塗着させること
前記ノズルヘッドの移動方向後方には、当該ノズルヘッドと所定の間隔を隔てた位置に、前記被塗布物に向けてエアを吐出するエア供給装置を備え、前記被塗布物に塗着された塗液が略均一な膜厚の塗膜を形成した後に、前記エア供給装置から吐出されるエアによって前記塗膜を乾燥させることを特徴とする塗装方法。
【請求項2】
請求項に記載された塗装方法において、
前記ノズルヘッドと前記エア供給装置との間には、遮蔽板を設け、当該遮蔽板によって、前記エア供給装置から吐出されるエアと前記ノズルヘッドから吐出される液柱状態の塗液とを分離させることを特徴とする塗装方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された塗装方法において、
前記ノズルヘッドの移動方向前方には、前方遮蔽板を設け、当該前方遮蔽板によって、前記ノズルヘッドの移動方向前方から流れる気流と前記ノズルヘッドから吐出される液柱状態の塗液とを分離させることを特徴とする塗装方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載された塗装方法において、
前記ノズルヘッドの幅方向端部に形成した微小孔の孔径は、前記ノズルヘッドの幅方向中央部に形成した微小孔の孔径より小さいことを特徴とする塗装方法。
【請求項5】
ノズルヘッドに所定のピッチで形成した複数の微小孔から塗液を吐出して被塗布物に所定の幅の塗膜を形成する塗装方法であって、
前記ノズルヘッドの微小孔から吐出された塗液を、液柱状態のままで前記被塗布物に塗着させること、
前記ノズルヘッドの幅方向端部に形成した微小孔の孔径は、前記ノズルヘッドの幅方向中央部に形成した微小孔の孔径より小さいことを特徴とする塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルヘッドに形成した複数の微小孔から塗液を吐出して被塗布物に所定の幅の塗膜を形成させる塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、被塗布物の意匠性を高めるため、被塗布表面にストライプや幾何学模様を形成する場合がある。被塗布物表面にストライプ等を形成する方法としては、ストライプ等が形成されたフィルム(又はステッカー)を被塗布物表面に貼着するフィルム貼着方法や、ストライプ等を形成する被塗布物の周囲をマスキングして塗装するマスキング塗装方法などが、一般に知られている。
しかし、フィルム貼着方法は、フィルムや接着剤等が紫外線や気温、湿度等の影響を受けて劣化し、色あせや割れ、剥がれ等が起こりやすいという問題があった。また、フィルム等は、塗装に比べ単価が高く、フィルム貼り付け時の位置決め等も難しく作業工数が多くかかることから、生産コストの面でも問題があった。
一方、マスキング塗装方法は、マスキング材による見切り線が曲がりやすいこと、見切り線で塗膜が欠けやすいことなどの品質上の問題があった。また、マスキング塗装に必要なマスキング材やテープ等の副資材費が高く、マスキング作業も自動化が難しく熟練した作業が必要であることから、生産コスト面の問題もあった。
【0003】
このような問題に対応するため、例えば、低圧力で供給する塗液を、所定の長さのスリットが形成されたノズルヘッドから、カーテン状に流下させて所定の幅の塗膜を塗着する塗装装置(カーテンコータヘッド)が特許文献1に開示されている。
特許文献1に開示された塗装装置は、スリットを長手方向で一定幅に形成すると、スリットの長手方向両端部の塗液が、表面張力等の影響を受けて長手方向中央部へ向けて引き寄せられ、流下するカーテンの幅が縮むことになる問題を解決するため、スリットの長手方向両端部にスリット幅を拡大した幅広部を設けたことを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−38559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された塗装装置(カーテンコータヘッド)による塗装方法では、被塗布物にマスキングを形成する必要はないが、塗膜の幅や膜厚を一定に形成し難い問題があった。
すなわち、塗液の粘度が高い場合には、塗液の中央部へ向けて引っ張る表面張力が大きくなって、形成された塗膜の幅が狭く、膜厚が厚くなる傾向がある反面、塗液の粘度が低い場合には、塗液の中央部へ向けて引っ張る表面張力が小さくなって、形成された塗膜の幅が広く、膜厚が薄くなる傾向があった。特に、塗液の粘度が高い場合には、スリットの両端に幅広部を設けたことによって、塗膜の見切り部のみが盛り上がり、意匠上の見栄えを低下させる問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、被塗布物に対して、マスキングレスで、所定の幅の塗膜を略均一な膜厚で簡単に形成できる塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る塗装方法は、次のような構成を有している。
(1)ノズルヘッドに所定のピッチで形成した複数の微小孔から塗液を吐出して被塗布物に所定の幅の塗膜を形成する塗装方法であって、
前記ノズルヘッドの微小孔から吐出された塗液を、液柱状態のままで前記被塗布物に塗着させることを特徴とする。ここで、ノズルヘッドに形成した微小孔の配列は、一つの直線上に配列する場合に限らず、二つ以上の直線上に千鳥状に配列する場合等も含まれる。
【0008】
本発明においては、ノズルヘッドの微小孔から吐出された塗液を、液柱状態のままで被塗布物に塗着させるので、塗液の表面張力による影響を受けにくく、所定の幅で略均一な膜厚の塗膜を形成することができる。すなわち、液柱状態の塗液には、周囲から均等な表面張力が液柱の中心部に向かって作用する。そのため、液柱の中心部に対して対向する各表面張力が互いに相殺して、表面張力の液柱への影響を大幅に軽減させることができる。したがって、液柱状態の塗液は、塗液の粘度が多少変動しても、所定の径を維持したまま被塗布物に到達することができる。そして、被塗布物に到達して塗着された塗液は、互いの隙間を埋める方向に流れ、所定の幅で略均一な膜厚の塗膜を形成することができる。
また、塗液を微粒化させずに、液柱状態のままで被塗布物に塗着させるので、塗液が周囲に飛散することがなく、マスキングレスで塗膜の見切り部を鮮明に形成することができる。
また、液柱状態の塗液は、被塗布物の表面でノズルヘッドの移動方向と略直角方向へ均一に流れながら塗膜の見切り部を形成する。そのため、塗膜の見切り部は、被塗布物に向けてなだらかに湾曲した傾斜面を形成し、被塗布物に対して極端な段差が生じにくい。したがって、塗膜の見切り部において、塗膜割れや欠け等が生じにくく、塗膜の見切り部のみが盛り上がり、意匠上の見栄えを低下させることもない。
よって、被塗布物に対して、マスキングレスで、所定の幅の塗膜を略均一な膜厚で簡単に形成できる塗装方法を提供することができる。
【0009】
なお、塗液が塗液供給装置からノズルヘッドに供給される液圧は、0.1〜1.0MPaであり、微小孔は、孔径が0.1〜0.5mmであって、ピッチが0.2〜2.0mm程度であることが好ましい。特に、液圧は、0.2〜0.4MPa程度が、より一層好ましい。大気圧に近い低圧で微小径に液柱化された1本1本の塗液は、少量かつ低速で被塗布物に衝突する。そのため、塗液が被塗布物に衝突したとき、塗液の運動量が小さく跳ね返ることができないので、塗液を被塗布物に全量塗着させることができる。その結果、塗着効率100%を実現しつつ、所定の幅の塗膜を略均一な膜厚で簡単に形成できる。
【0010】
(2)(1)に記載された塗装方法において、
前記ノズルヘッドの移動方向後方には、当該ノズルヘッドと所定の間隔を隔てた位置に、前記被塗布物に向けてエアを吐出するエア供給装置を備え、前記被塗布物に塗着された塗液が略均一な膜厚の塗膜を形成した後に、前記エア供給装置から吐出されるエアによって前記塗膜を乾燥させることを特徴とする。ここで、エア供給装置は、ノズルヘッドに連結してノズルヘッドと同時に移動させても良いし、ノズルヘッドとは別に把持して移動させても良い。エア供給装置から吐出されるエアは、常温のエアでも良いし、常温より温度が高いホットエアでも良い。ホットエアの温度は、40〜60℃程度が好ましい。
【0011】
本発明においては、ノズルヘッドの移動方向後方には、当該ノズルヘッドと所定の間隔を隔てた位置に、被塗布物に向けてエアを吐出するエア供給装置を備え、被塗布物に塗着された塗液が略均一な膜厚の塗膜を形成した後に、エア供給装置から吐出されるエアによって塗膜を乾燥させるので、被塗布物に対して、所定の幅の塗膜をより一層均一な膜厚で、より迅速に形成することができる。
すなわち、ノズルヘッドから吐出される液柱状態の塗液は、所定のピッチと径を維持したまま被塗布物に到達して、複数列の蒲鉾状塗液として被塗布物に塗着される。その複数列の蒲鉾状塗液は、互いの隙間を埋める方向に流れ、波打ち状態を経て、全体として略均一な膜厚の塗膜を形成する。そのため、複数列の蒲鉾状塗液が略均一な膜厚の塗膜を形成するまでに、所定の時間が必要となる。したがって、被塗布物に塗着された塗液が略均一な膜厚の塗膜を形成するのを待って、エア供給装置から吐出されるエアによって塗膜を乾燥させることによって、被塗布物に対して、所定の幅の塗膜をより一層均一な膜厚で、より迅速に形成することができる。
【0012】
なお、被塗布物の塗布面が傾斜したり湾曲している場合、所定の幅の塗膜を略均一な膜厚で形成した後、そのまま放置しておくと、塗膜のたれが生じやすいが、エア供給口から吐出されるエアによって塗膜を迅速に乾燥させることによって、塗膜のたれを防止して、見切り線を明瞭に形成することができる。したがって、被塗布物の塗布面が傾斜したり湾曲していても、意匠性の優れた所定の幅の塗膜を形成することができる。
【0013】
(3)(2)に記載された塗装方法において、
前記ノズルヘッドと前記エア供給装置との間には、遮蔽板を設け、当該遮蔽板によって、前記エア供給装置から吐出されるエアと前記ノズルヘッドから吐出される液柱状態の塗液とを分離させることを特徴とする。
【0014】
本発明においては、ノズルヘッドとエア供給装置との間には、遮蔽板を設け、当該遮蔽板によって、エア供給装置から吐出されるエアとノズルヘッドから吐出される液柱状態の塗液とを分離させるので、ノズルヘッドから吐出される液柱状態の塗液を、途中で変形や微粒化させることなく、被塗布物にそのままの状態で塗着させることができる。
すなわち、ノズルヘッドの微小孔から吐出された塗液は、微小径の液柱であるので、液柱状態の塗液が被塗布物に塗着されるまでの間に、エア供給装置から吐出されるエアに当接すると、途中で変形したり微粒化しやすくなる。液柱状態の塗液が、途中で変形したり微粒化すると、被塗布物に形成される塗膜の幅や膜厚の均一性、塗膜の見切り線の明瞭性が低下する。これを防止するため、ノズルヘッドとエア供給装置との間に、遮蔽板を設けることよって、エア供給装置から吐出されるエアとノズルヘッドから吐出される液柱状態の塗液とを分離させる。その結果、ノズルヘッドから吐出される液柱状態の塗液を、被塗布物にそのままの状態で塗着させ、所定の幅の塗膜をより一層均一な膜厚で、より一層迅速に形成することができる。
なお、ノズルヘッドの移動に基づいて、気流が移動するが、遮蔽板の移動方向前方には、気流が動かないエア滞留層が形成される。そのため、遮蔽板の移動方向前方に形成されるエア滞留層の範囲内にノズルヘッドを設けることによって、ノズルヘッドを高速で移動させた場合でも、液柱状態の塗液の変形や微粒化を防止する効果を奏することができる。
【0015】
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載された塗装方法において、
前記ノズルヘッドの移動方向前方には、前方遮蔽板を設け、当該前方遮蔽板によって、前記ノズルヘッドの移動方向前方から流れる気流と前記ノズルヘッドから吐出される液柱状態の塗液とを分離させることを特徴とする。
【0016】
本発明においては、ノズルヘッドの移動方向前方には、前方遮蔽板を設け、当該前方遮蔽板によって、ノズルヘッドの移動方向前方から流れる気流とノズルヘッドから吐出される液柱状態の塗液とを分離させるので、空気抵抗による液柱状態の塗液の変形や微粒化を防止して、液柱化された1本1本の塗液を被塗布物上に所定のピッチで確実に塗着させることができる。そのため、液柱化された1本1本の塗料は、跳ね返ることなく均一に全量塗着されるので、塗液が拡張した時、全体としてより一層均一な厚さの塗膜を形成することができる。
なお、前方遮蔽板は、ノズルヘッドの幅と略同一の幅で中央部を移動方向前方へ突出させた湾曲形状に形成することが好ましい。上記形状の前方遮蔽板を設けることによって、ノズルヘッドから液柱状態の塗液が流下する範囲に、気流が動かないエア滞留層を確実に形成することができる。
【0017】
(5)(1)乃至(4)のいずれか1つに記載された塗装方法において、
前記ノズルヘッドの幅方向端部に形成した微小孔の孔径は、前記ノズルヘッドの幅方向中央部に形成した微小孔の孔径より小さいことを特徴とする。
【0018】
本発明においては、ノズルヘッドの幅方向端部に形成した微小孔の孔径は、ノズルヘッドの幅方向中央部に形成した微小孔の孔径より小さいので、ノズルヘッドの幅方向端部に形成した微小孔から吐出された液柱状塗液に対応して被塗布物へ形成した塗膜は、ノズルヘッドの幅方向中央部に形成した微小孔から吐出された液柱状塗液に対応して被塗布物へ形成した塗膜に比べて、膜厚を薄く形成することができる。そのため、塗膜の幅方向端部をラップさせながら塗布することによって、ノズルヘッドより広い幅の塗膜を、略均一な膜厚で形成することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、被塗布物に対して、マスキングレスで、所定の幅の塗膜を略均一な膜厚で簡単に形成できる塗装方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係る塗装装置及び塗装方法を表す模式的斜視図である。
図2図1に示す塗装装置におけるノズルヘッドの詳細図である。
図3図2に示すノズルヘッドに形成した微小孔の詳細図である。
図4図1に示すノズルヘッドとホットエア供給装置の詳細斜視図である。
図5図1に示すノズルヘッドとホットエア供給装置の模式的側面図である。
図6図1に示す塗装方法における気流の影響を説明する平面図である。
図7図1に示す塗装方法によって塗膜を形成する塗膜形成過程を表す模式図である。
図8】比較例として、従来のマスキング塗装方法によって形成する塗膜の模式的断面図である。
図9】比較例として、特許文献1に示す塗装装置によって形成する塗膜の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施形態に係る塗装方法について、図面を参照して詳細に説明する。はじめに、本実施形態に係る塗装装置及び塗装方法についてその全体構成を説明する。次に、本実施形態に係る塗装方法における液柱状塗液の気流による影響及び塗膜の形成過程とその断面形状について詳細に説明する。最後に、本実施形態に係る塗装方法における作用効果を説明する。
【0022】
<塗装装置及び塗装方法の全体構成>
まず、本実施形態に係る塗装装置及び塗装方法の全体構成を、図1図5を用いて説明する。図1に、本発明の実施形態に係る塗装装置及び塗装方法を表す模式的斜視図を示す。図2に、図1に示す塗装装置におけるノズルヘッドの詳細図を示す。図3に、図2に示すノズルヘッドに形成した微小孔の詳細図を示す。図4に、図1に示すノズルヘッドとホットエア供給装置の詳細斜視図を示す。図5に、図1に示すノズルヘッドとホットエア供給装置の模式的側面図を示す。
【0023】
図1図5に示すように、本実施形態に係る塗装装置10は、略矩形状のノズルヘッド1と、当該ノズルヘッド1の上端に接続された塗液供給装置5とを備えている。ノズルヘッド1は、図示しない塗装ロボットに把持されている。塗液供給装置5には、図示しない液圧ポンプを備え、液圧ポンプから所定の圧力で送給される塗液4を送給配管51を経由してノズルヘッド1に供給している。ノズルヘッド1の本体部11内には、塗液4を貯留するチャンバー室12が形成されている。ノズルヘッド1の下端13には、複数個の微小孔14、15が所定のピッチで一直線状に形成されている。各微小孔14、15は、同一の孔径で形成され、それぞれチャンバー室12と連通している。ノズルヘッド1に供給された塗液4は、チャンバー室12にて吐出圧が均一化され、各微小孔14、15から同一径の液柱状塗液41として下方へ吐出される。
なお、ノズルヘッド1に形成した微小孔14、15の配列は、一つの直線上に配列する場合に限らず、二つ以上の直線上に千鳥状に配列する場合でもよい。また、微小孔14、15は、任意のピッチに設定することによって、任意のパターン幅の塗膜を形成することができる。
【0024】
例えば、塗液4が塗液供給装置5からノズルヘッド1に供給される液圧は、0.1〜1.0MPaであり、微小孔14、15の孔径は、0.1〜0.5mmであって、微小孔14、15のピッチは、0.2〜2.0mm程度であることが好ましい。特に、液圧は、0.2〜0.4MPa程度が、より一層好ましい。大気圧に近い低圧で吐出された1本1本の液柱状塗液41は、少量かつ低速で被塗布物Wに衝突することができる。そのため、液柱状塗液41は、被塗布物Wに衝突しても、運動量が小さくて跳ね返りがなく、確実に全量塗着させることができる。
【0025】
なお、図3に示すように、ノズルヘッド1における幅方向両端部に形成した微小孔14は、幅方向中央部に形成した微小孔15に比べて、孔径が小さくなるように形成しても良い。この場合、ノズルヘッド1の幅方向両端部に形成した微小孔14から吐出される液柱状塗液41によって被塗布物Wへ形成した塗膜43は、幅方向中央部に形成した微小孔15から吐出される液柱状塗液41によって被塗布物Wへ形成した塗膜43に比べて、膜厚を薄く形成することができる。そのため、膜厚が薄い幅方向端部をラップさせながら塗布することによって、ノズルヘッド1の幅より広い幅の塗膜43を、略均一な膜厚で形成することができる。
【0026】
また、図1図4図5に示すように、ノズルヘッド1は、幅方向と直交する方向(矢印Fの方向)に、被塗布物Wから所定の距離だけ離間して移動させる。ノズルヘッド1と被塗布物Wとの距離は、微小孔14、15から吐出された液柱状塗液41が、液柱状態のままで被塗布物Wに到達できる距離であればよい。液柱状塗液41は、所定のピッチと径を維持したまま被塗布物Wに到達した後、複数列の蒲鉾状塗液42となって被塗布物W上に平行に配列される。複数列の蒲鉾状塗液42は、互いの隙間を埋める方向に流れ、隣接する蒲鉾状塗液42の両端が繋がった波打ち状態を経て、全体として略均一な膜厚の塗膜を形成する。
ところが、複数列の蒲鉾状塗液42が略均一な膜厚の塗膜43を形成するまでに、所定の時間が必要となる。また、被塗布物Wの塗布面が傾斜したり湾曲している場合、所定の幅の塗膜43を略均一な膜厚で形成した後、そのまま放置しておくと、塗膜43のたれが生じて、塗膜43の幅や膜厚が不均一になりやすい。
【0027】
そこで、ノズルヘッド1には、移動方向(矢印Fの方向)後方で、当該ノズルヘッド1と所定の間隔Sを隔てた位置に、被塗布物Wに向けてホットエア34を吐出するホットエア供給装置3をブラケット23を介して連結し、ノズルヘッド1とホットエア供給装置3とを一体に移動させている。ホットエア供給装置3には、ホットエア供給口32が略矩形状に形成されたダクト本体31の下端に穿設されている。ダクト本体31の上部には、ホットエア送給管33が接続されている。ホットエア供給口32は、吐出するホットエア34を塗膜43全体に略均一に当てるため、ノズルヘッド1の幅全体をカバーするように形成されている。ノズルヘッド1とホットエア供給口32の間隔は、30〜70mm程度が好ましい。また、ホットエア34の温度は、40〜60℃程度が好ましい。また、ホットエア34の風速は、0.2〜0.5m/s程度が好ましい。塗装品質不良(たれ、波打ち、割れ等)を防止しつつ、塗膜43を迅速に乾燥固化させるためである。
【0028】
また、ノズルヘッド1とホットエア供給口32との間には、略矩形状の遮蔽板2が設けられている。遮蔽板2は、下端21が被塗布物Wの近傍まで延設され、側端22がダクト本体31の側端まで延設されている。そのため、遮蔽板2によって、ホットエア供給口32から吐出されるホットエア34とノズルヘッド1から吐出される液柱状塗液41とを分離させている。なお、液柱状塗液41は、ノズルヘッド1の下端13から略真下に吐出され、周辺に拡散しないので、遮蔽板2はノズルヘッド1に近接した位置に設けることができる。
その結果、ノズルヘッド1から吐出される液柱状塗液41を、そのままの状態で被塗布物Wに塗着させ、所定の幅の塗膜43を、より一層均一な膜厚で、より一層迅速に形成することができる。
【0029】
<液柱状塗液の気流による影響>
次に、本塗装方法における液柱状塗液の気流による影響について、図6を用いて説明する。図6に、図1に示す塗装方法における気流の影響を説明する平面図を示す。
図6に示すように、ノズルヘッド1の移動に基づいて、気流が移動するが、遮蔽板2の移動方向前方には、気流が動かないエア滞留層が形成される。そのため、遮蔽板2の移動方向前方に形成されるエア滞留層の範囲内にノズルヘッド1を設けることによって、ノズルヘッド1を高速で移動させた場合でも、液柱状塗液41の変形や微粒化を防止する効果を奏することができる。また、遮蔽板2の移動方向の直ぐ後方にホットエア層が形成されるので、ホットエア層は、乱流層の影響を受けにくい。そのため、ホットエア層は、塗膜の波打ちを防止しつつ、塗膜43を迅速に乾燥させることができる。
【0030】
また、ノズルヘッド1の移動方向前方には、前方遮蔽板6を設けることができる。この場合、前方遮蔽板6は、ノズルヘッド1の幅と略同一の幅で中央部を移動方向前方へ突出させた湾曲形状に形成することが好ましい。
仮に、ノズルヘッド1とホットエア供給装置3との間に、略矩形状の遮蔽板2を設けない場合においても、上記前方遮蔽板6を設けることによって、ノズルヘッド1から液柱状塗液41が流下する範囲に、気流が動かないエア滞留層を確実に形成することができる。そのため、前方遮蔽板6の移動方向後方に形成されるエア滞留層の範囲内にノズルヘッド1を設けることによって、ノズルヘッド1を高速で移動させた場合でも、液柱状塗液41の変形や微粒化を防止する効果をより一層高めることができる。
その結果、ノズルヘッド1から吐出される液柱状塗液41を、そのままの状態で被塗布物Wに塗着させ、所定の幅の塗膜43を、より一層均一な膜厚で、より一層迅速に形成することができる。
【0031】
<本塗装方法における塗膜の形成過程とその断面形状>
次に、本塗装方法における塗膜の形成過程とその断面形状について、図7図9を用いて説明する。図7に、図1に示す塗装方法によって塗膜を形成する塗膜形成過程を表す模式図を示す。図8に、比較例として、従来のマスキング塗装方法によって形成する塗膜の模式的断面図を示す。図9に、比較例として、特許文献1に示す塗装装置によって形成する塗膜の模式的断面図を示す。
【0032】
図7(a)に示すように、ノズルヘッド1から吐出された液柱状塗液41は、所定のピッチと径を維持したまま被塗布物Wに到達して、複数列の蒲鉾状塗液42となって被塗布物W上に平行に配列される。各蒲鉾状塗液42は、略同一の高さで上方に突出した略半円状断面を形成している。各蒲鉾状塗液42の間には、未塗布部が等間隔に形成されている。
図7(b)に示すように、図7(a)に示す各蒲鉾状塗液42は、流動性が高いため、時間とともに、塗液が略半円状断面の頂上から矢印の方向に移動して互いの隙間を埋める方向に流れ、隣接する蒲鉾状塗液42Bの両端が繋がった波打ち状態を形成する。
図7(c)に示すように、更に時間が経過すると、図7(b)に示す波打ち状態の蒲鉾状塗液42Bは、略均一な膜厚で中央部432が平坦な塗膜43を形成した段階で、流れを停止する。平坦な塗膜43を形成した後に、塗膜43全体にホットエア34を略均一に吐出する。ホットエア34を吐出された塗膜43は、迅速に乾燥固化される。このとき、塗膜43の見切り部431は、なだらかに湾曲しながら傾斜した傾斜面を形成する。
【0033】
図8に示すように、従来のマスキング塗装方法によって形成する塗膜7は、マスキング部材Mと当接する見切り部71において、表面張力等の影響を受けて中央部72より膜厚が厚く、先端に鋭角状の角部711が形成される。そのため、角部711から塗膜割れや欠けが生じやすい。また、塗膜7の見切り部71における極端な段差は、爪掛かりの原因となったり、意匠上の見栄えを低下させる。
また、図9に示すように、特許文献1に示す塗装装置によって形成する塗膜8は、スリットの両端に幅広部を設けたことによって、塗膜の見切り部81のみが中央部82より一定の幅で盛り上がり、意匠上の見栄えが低下する場合がある。
【0034】
これに対して、本塗装方法によって形成した塗膜43は、中央部432が平坦面を形成するとともに、見切り部431が中央部432の延長上でなだらかに湾曲しながら傾斜した傾斜面を形成する(図7(c))。そのため、塗膜43の見切り部431には、被塗布物Wに対して極端な段差が生じにくい。したがって、塗膜43の見切り部431において、塗膜割れや欠け等が生じにくく、塗膜43の見切り部431のみが盛り上がり、意匠上の見栄えを低下させることもない。
よって、被塗布物Wに対して、マスキングレスで、所定の幅の塗膜43を略均一な膜厚で簡単に形成できる。
【0035】
<作用効果>
以上、詳細に説明したように、本実施形態に係る塗装方法によれば、ノズルヘッド1の微小孔14、15から吐出された塗液4を、液柱状態のままで被塗布物Wに塗着させるので、塗液4の表面張力による影響を受けにくく、所定の幅で略均一な膜厚の塗膜43を形成することができる。すなわち、液柱状塗液41には、周囲から均等な表面張力が液柱の中心部に向かって作用する。そのため、液柱の中心部に対して対向する各表面張力が互いに相殺して、表面張力の液柱への影響を大幅に軽減させることができる。したがって、液柱状塗液41は、塗液の粘度が多少変動しても、所定の径を維持したまま被塗布物Wに到達することができる。そして、被塗布物Wに到達して塗着された塗液4は、互いの隙間を埋める方向に流れ、所定の幅で略均一な膜厚の塗膜43を形成することができる。
また、塗液4を微粒化させずに、液柱状態のままで被塗布物Wに塗着させるので、塗液が周囲に飛散することがなく、マスキングレスで塗膜43の見切り部431を鮮明に形成することができる。
また、液柱状塗液41は、被塗布物Wの表面でノズルヘッド1の移動方向と略直角方向へ均一に流れながら塗膜43の見切り部431を形成する。そのため、塗膜の見切り部431は、被塗布物Wに向けてなだらかに湾曲した傾斜面を形成し、被塗布物Wに対して極端な段差が生じにくい。したがって、塗膜の見切り部431において、塗膜割れや欠け等が生じにくく、塗膜の見切り部のみが盛り上がり、意匠上の見栄えを低下させることもない。
よって、被塗布物Wに対して、マスキングレスで、所定の幅の塗膜43を略均一な膜厚で簡単に形成できる塗装方法を提供することができる。
【0036】
本実施形態によれば、ノズルヘッド1の移動後方には、当該ノズルヘッド1と所定の間隔Sを隔てた位置に、被塗布物Wに向けてホットエア34を吐出するホットエア供給装置3を備え、被塗布物Wに塗着された塗液が略均一な膜厚の塗膜43を形成した後に、ホットエア供給装置3から吐出されるホットエア34によって塗膜43を乾燥させるので、被塗布物Wに対して、所定の幅の塗膜43をより一層均一な膜厚で、より迅速に形成することができる。
すなわち、ノズルヘッド1から吐出される液柱状塗液41は、所定のピッチと径を維持したまま被塗布物Wに到達して、複数列の蒲鉾状塗液42として被塗布物Wに塗着される。その複数列の蒲鉾状塗液42は、互いの隙間を埋める方向に流れ、波打ち状態を経て、全体として略均一な膜厚の塗膜43を形成する。そのため、複数列の蒲鉾状塗液42が略均一な膜厚の塗膜43を形成するまでに、所定の時間が必要となる。したがって、被塗布物Wに塗着された塗液が略均一な膜厚の塗膜43を形成するのを待って、ホットエア供給装置3から吐出されるホットエア34によって塗膜43を乾燥させることによって、被塗布物Wに対して、所定の幅の塗膜43をより一層均一な膜厚で、より迅速に形成することができる。
【0037】
なお、被塗布物Wの塗布面が傾斜したり湾曲している場合、所定の幅の塗膜43を略均一な膜厚で形成した後、そのまま放置しておくと、塗膜のたれが生じやすいが、ホットエア供給装置3から吐出されるホットエア34によって塗膜43を迅速に乾燥させることによって、塗膜のたれを防止して、見切り線を明瞭に形成することができる。したがって、被塗布物Wの塗布面が傾斜したり湾曲していても、意匠性の優れた所定の幅の塗膜43を形成することができる。
【0038】
本実施形態によれば、ノズルヘッド1とホットエア供給装置3との間には、遮蔽板2を形成し、当該遮蔽板2によって、ホットエア供給装置3から吐出されるホットエア34とノズルヘッド1から吐出される液柱状塗液41とを分離させるので、ノズルヘッド1から吐出される液柱状塗液41を、途中で変形や微粒化させることなく、被塗布物Wにそのままの状態で塗着させることができる。
【0039】
すなわち、ノズルヘッド1の微小孔14、15から吐出された塗液4は、微小径の液柱であるので、液柱状塗液41が被塗布物Wに塗着されるまでの間に、ホットエア供給装置3から吐出されるホットエア34に当接すると、途中で変形したり微粒化しやすくなる。液柱状塗液41が、途中で変形したり微粒化すると、被塗布物Wに形成される塗膜43の幅や膜厚の均一性、塗膜43の見切り線の明瞭性が低下する。これを防止するため、ノズルヘッド1とホットエア供給装置3との間に、遮蔽板2を形成することよって、ホットエア供給装置3から吐出されるホットエア34とノズルヘッド1から吐出される液柱状塗液41とを分離させる。その結果、ノズルヘッド1から吐出される液柱状塗液41を、そのままの状態で被塗布物Wに塗着させ、所定の幅の塗膜43をより一層均一な膜厚で、より一層迅速に形成することができる。
【0040】
なお、ノズルヘッド1の移動に基づいて、気流が移動するが、遮蔽板2の移動方向前方には、気流が動かないエア滞留層が形成される。そのため、遮蔽板2の移動方向前方に形成されるエア滞留層の範囲内にノズルヘッド1を設けることによって、ノズルヘッド1を高速で移動させた場合でも、液柱状塗液41の変形や微粒化を防止する効果を奏することができる。
【0041】
本実施形態によれば、ノズルヘッド1の幅方向両端部に形成した微小孔14の孔径は、ノズルヘッド1の幅方向中央部に形成した微小孔15の孔径より小さいので、ノズルヘッド1の幅方向両端部に形成した微小孔14から吐出された液柱状塗液41に対応して被塗布物Wへ形成した塗膜43は、ノズルヘッド1の幅方向中央部に形成した微小孔15から吐出された液柱状塗液41に対応して被塗布物Wへ形成した塗膜43に比べて、膜厚を薄く形成することができる。そのため、塗膜43の幅方向端部をラップさせながら塗布することによって、ノズルヘッド1より広い幅の塗膜43を、略均一な膜厚で形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、ノズルヘッドに形成した複数の微小孔から塗液を吐出して被塗布物に所定の幅の塗膜を形成させる塗装方法として利用できる。
【符号の説明】
【0043】
1 ノズルヘッド
2 遮蔽板
3 ホットエア供給装置
4 塗液
5 塗液供給装置
6 前方遮蔽板
10 塗装装置
11 本体部
13 下端
14、15 微小孔
31 ダクト本体
32 ホットエア供給口
34 ホットエア
41 液柱状塗液
42 蒲鉾状塗液
43 塗膜
431 見切り部
W 被塗布物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9