【文献】
Accession No. G2RIK0,UniProt [online],2011年
【文献】
Current Biology,1995年,Vol. 3,pp. 693-705
【文献】
Accession No. P13154,UniProt [online],2011年
【文献】
J. Biochem.,1992年,Vol. 112,pp. 258-265
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ロイシン脱水素酵素による総分岐鎖アミノ酸濃度の測定には、幾つかの改善すべき点がある。
例えば、酵素キットでは、ロイシン脱水素酵素を用いて総分岐鎖アミノ酸濃度が測定されている。しかしながら、本方法では、全ての基質が反応するまで測定を行うエンドポイント法が利用されている。この理由は、L−ロイシン、L−イソロイシンおよびL−バリンに対するロイシン脱水素酵素の基質特異性(反応速度)が異なるためである。野生型のロイシン脱水素酵素は、L−ロイシンに比べてL−イソロイシンおよびL−バリンに対する基質特異性が低く、反応速度が遅い。したがって、ロイシン脱水素酵素を用いる酵素キットでは、総分岐鎖アミノ酸濃度の測定に長い反応時間を要するという欠点があった。
【0006】
また、バイオセンサーでは、ロイシン脱水素酵素の基質である複数のアミノ酸が存在する場合、複数の分岐鎖アミノ酸の濃度を独立に測定することはできなかった。この理由は、ロイシン脱水素酵素は、L−ロイシンのみならず、L−イソロイシンおよびL−バリンに対しても反応するためである。また、上記のような場合、一般に、複数の分岐鎖アミノ酸の総濃度を測定することもできなかった。この理由は、L−ロイシン、L−イソロイシンおよびL−バリンに対するロイシン脱水素酵素の基質特異性(反応速度)が異なるためである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、総分岐鎖アミノ酸濃度を迅速に測定するためには、分岐鎖アミノ酸の各アミノ酸に対する、特にL−イソロイシンおよびL−バリンに対するロイシン脱水素酵素の活性を向上等させて、分岐鎖アミノ酸に対するロイシン脱水素酵素の基質特異性を改善することにより、レート法(初速度法)を利用して総分岐鎖アミノ酸濃度を測定すればよいことを着想し、そして、分岐鎖アミノ酸に対するロイシン脱水素酵素の基質特異性を改善するように改変されたロイシン脱水素酵素を開発することに成功した。本発明者らはまた、総分岐鎖アミノ酸濃度の測定に関連するロイシン脱水素酵素の他の特性を改善することに成功し、もって本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕以下:
(a)総分岐鎖アミノ酸に対するロイシン脱水素酵素の基質特異性;
(b)任意の分岐鎖アミノ酸に対するロイシン脱水素酵素の活性;および
(c)ロイシン脱水素酵素の熱安定性;
からなる群より選ばれるロイシン脱水素酵素の1以上の特性を改善するようにその少なくとも1つのアミノ酸残基を変異させた、改変酵素。
〔2〕変異が、ロイシン脱水素酵素のアミノ酸配列のTGIモチーフ中のイソロイシンの置換である、〔1〕の改変酵素。
〔3〕TGIモチーフ中のイソロイシンが、メチオニン、アルギニン、ヒスチジン、フェニルアラニン、ロイシン、リジン、システイン、チロシン、アラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはトリプトファンに置換されている、〔2〕の改変酵素。
〔4〕変異が、ロイシン脱水素酵素のアミノ酸配列のGVIモチーフ中のイソロイシンの置換である、〔1〕〜〔3〕のいずれかの改変酵素。
〔5〕GVIモチーフ中のイソロイシンが、フェニルアラニン、ヒスチジン、アスパラギン、チロシン、ロイシン、リジン、グルタミン、アルギニン、アスパラギン酸、スレオニン、グルタミン酸、セリン、システイン、アラニン、グリシン、バリン、トリプトファン、またはメチオニンに置換されている、〔4〕の改変酵素。
〔6〕ロイシン脱水素酵素が、ゲオバチルス・ステアロサーモフィラス(Geobacillus stearothermophilus)に由来する、〔1〕〜〔5〕のいずれかの改変酵素。
〔7〕以下(1)あるいは(2)のタンパク質である、〔1〕〜〔6〕のいずれかの改変酵素:
(1)配列番号2のアミノ酸配列において、TGIモチーフ中のイソロイシン、および/またはGVIモチーフ中のイソロイシンが、下記(i)および/または(ii)のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含む、タンパク質:
(i)TGIモチーフ中のイソロイシン
メチオニン、アルギニン、ヒスチジン、フェニルアラニン、ロイシン、リジン、システイン、チロシン、アラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはトリプトファンへの置換;および/または
(ii)GVIモチーフ中のイソロイシン
フェニルアラニン、ヒスチジン、アスパラギン、チロシン、ロイシン、リジン、グルタミン、アルギニン、アスパラギン酸、スレオニン、グルタミン酸、セリン、システイン、アラニン、グリシン、バリン、トリプトファン、またはメチオニンへの置換;あるいは
(2)配列番号2のアミノ酸配列におけるTGIモチーフ中のイソロイシン、および/またはGVIモチーフ中のイソロイシンが、上記(i)および/または(ii)のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基の追加変異を有するアミノ酸配列を含み、かつ、下記(a)〜(c)からなる群より選ばれる1以上の特性が改善されている、タンパク質:
(a)総分岐鎖アミノ酸に対するロイシン脱水素酵素の基質特異性;
(b)任意の分岐鎖アミノ酸に対するロイシン脱水素酵素の活性;および
(c)ロイシン脱水素酵素の熱安定性。
〔8〕〔1〕〜〔7〕のいずれかの改変酵素を用いて被検試料中に含まれる総分岐鎖アミノ酸を測定することを含む、総分岐鎖アミノ酸の分析方法。
〔9〕被検試料をニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD
+)と混合し、改変酵素の作用によりNAD
+から生成したNADHを検出することを含む、〔8〕の方法。
〔10〕〔1〕〜〔7〕のいずれかの改変酵素を用いて分岐鎖アミノ酸からその誘導体を生成することを含む、分岐鎖アミノ酸の誘導体の製造方法。
〔11〕〔1〕〜〔7〕のいずれかの改変酵素をコードするポリヌクレオチド。
〔12〕〔11〕のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
〔13〕〔12〕の発現ベクターを含む形質転換体。
〔14〕総分岐鎖アミノ酸の測定に関連するロイシン脱水素酵素の特性を改善するようにその少なくとも1つのアミノ酸残基を変異させた改変酵素を、〔13〕の形質転換体を用いて生成することを含む、改変酵素の製造方法。
〔15〕〔1〕〜〔7〕のいずれかの改変酵素を含む、総分岐鎖アミノ酸分析用キット。
〔16〕反応用緩衝液または緩衝塩、およびニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD
+)の少なくとも一つをさらに含む、〔15〕の総分岐鎖アミノ酸分析用キット。
〔17〕(a)検出用電極、および(b)検出用電極に固定または配置された、〔1〕〜〔7〕のいずれかの改変酵素を含む、総分岐鎖アミノ酸分析用酵素センサー。
【発明の効果】
【0009】
本発明の改変酵素は、その基質特異性が改善されていることから、エンドポイント法だけではなく、レート法(初速度法)による総分岐鎖アミノ酸濃度の迅速な測定に有用である。本発明の改変酵素はまた、分岐鎖アミノ酸に対する活性が向上しているため、任意の分岐鎖アミノ酸の測定、および/または任意の分岐鎖アミノ酸の誘導体(例、2−オキソ誘導体)の製造に有用である。本発明の改変酵素はさらに、水溶液中での熱安定性に優れることから、安定性に優れる。したがって、本発明の改変酵素は、特に液状試薬として有用である。本発明の分析方法は、例えば、肝硬変、肝性脳症等の疾患の診断に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、改変酵素を提供する。本発明の改変酵素は、総分岐鎖アミノ酸の測定に関連するロイシン脱水素酵素の特性を改善するようにその少なくとも1つのアミノ酸残基を変異させたものであり得る。
【0012】
アミノ酸残基の変異としては、例えば、置換、欠失、付加および挿入が挙げられるが、置換が好ましい。
【0013】
変異されるアミノ酸残基は、天然のL−α−アミノ酸である、L−アラニン(A)、L−アスパラギン(N)、L−システイン(C)、L−グルタミン(Q)、グリシン(G)、L−イソロイシン(I)、L−ロイシン(L)、L−メチオニン(M)、L−フェニルアラニン(F)、L−プロリン(P)、L−セリン(S)、L−スレオニン(T)、L−トリプトファン(W)、L−チロシン(Y)、L−バリン(V)、L−アスパラギン酸(D)、L−グルタミン酸(E)、L−アルギニン(R)、L−ヒスチジン(H)、またはL−リジン(K)である。変異が置換、付加または挿入である場合、置換、付加または挿入されるアミノ酸残基は、上述した変異されるアミノ酸残基と同様である。
【0014】
分岐鎖アミノ酸(BCAA)とは、天然のL−α−アミノ酸のうち、側鎖として分岐鎖を有するL−α−アミノ酸である、L−ロイシン、L−イソロイシンまたはL−バリンをいう。総分岐鎖アミノ酸の測定では、全ての分岐鎖アミノ酸(即ち、L−ロイシン、L−イソロイシンおよびL−バリン)が測定される。
【0015】
ロイシン脱水素酵素は、以下の反応を触媒する酸化還元酵素である(EC 1.4.1.9)。
【0016】
L−ロイシン+H
2O+NAD
+
→ 4−メチル−2−オキソペンタン酸+NH
3+NADH+H
+
【0017】
野生型のロイシン脱水素酵素は、L−ロイシンのみならず、L−イソロイシンおよびL−バリンに対しても作用するものの、L−ロイシンに比べてL−イソロイシンおよびL−バリンに対する活性が低いことが知られている。
図1に、バチルス・エスピー(Bacillus sp.)およびゲオバチルス・ステアロサーモフィラス(Geobacillus stearothermophilus)に由来する野生型ロイシン脱水素酵素のL−ロイシン、L−イソロイシンおよびL−バリンに対する基質特異性を、L−ロイシンに対する相対活性を100として相対活性により示す。
図1に示すように、上記の野生型ロイシン脱水素酵素は、L−ロイシン以外の分岐鎖アミノ酸に対する活性は相対的に低く、特に、L−ロイシンに対するL−イソロイシンの相対活性は75以下である。
【0018】
本発明の改変酵素が由来するロイシン脱水素酵素としては、例えば、任意の生物(例、細菌、放線菌および真菌等の微生物、ならびに昆虫、魚類、動物、および植物)に由来する酵素を用いることができ、例えば、バチルス(Bacillus)属およびこの近縁属に属する生物に由来する酵素が挙げられる。バチルス(Bacillus)属の近縁属としては、例えば、ゲオバチルス(Geobacillus)属、パエニバチルス(Paenibacillus)属、オセアノバチルス(Oceanobacillus)属が挙げられる。バチルス属のこれらの近縁属は、バチルス属と同様に、バシラス科(Bacillaceae)に属する。
【0019】
バチルス(Bacillus)属およびその近縁属に属する微生物としては、例えば、バチルス・スフェリカス(Bacillus sphaericus)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)、バチルス・リチェニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・エスピー(Bacillus sp.)、ゲオバチルス・ステアロサーモフィラス(Geobacillus stearothermophilus)が挙げられる。
【0020】
ロイシン脱水素酵素において変異が導入される位置は、好ましくは、ロイシン脱水素酵素の活性中心付近にあるアミノ酸残基である。当業者は、ゲオバチルス・ステアロサーモフィラス由来のロイシン脱水素酵素のアミノ酸配列を他のロイシン脱水素酵素のアミノ酸配列と整列(align)させることができるので、ゲオバチルス・ステアロサーモフィラス以外の生物に由来するロイシン脱水素酵素についても、活性中心付近にあるアミノ酸残基を容易に特定することができる。
また、ロイシン脱水素酵素については、立体構造の解析結果が報告されている(例、Baker et al.,Structure 3:693−705(1995)を参照)。したがって、当業者は、立体構造の解析結果に基づき、ゲオバチルス・ステアロサーモフィラス以外の生物に由来するロイシン脱水素酵素についても、活性中心付近にあるアミノ酸残基を容易に特定することができる。
【0021】
好ましい実施形態では、総分岐鎖アミノ酸の測定に関連するロイシン脱水素酵素の特性を改善する変異は、野生型ロイシン脱水素酵素のアミノ酸配列のTGIモチーフ中のイソロイシン(I)の置換である。TGIモチーフは、スレオニン(T)−グリシン(G)−イソロイシン(I)の連続した3つのアミノ酸残基から構成される。野生型ロイシン脱水素酵素のアミノ酸配列中のTGIモチーフの位置は酵素の由来によって異なり得るが、当業者は、野生型ロイシン脱水素酵素のアミノ酸配列中のTGIモチーフの位置を適宜決定できるため、置換されるべきイソロイシン(I)の位置を特定できる。通常、ロイシン脱水素酵素のアミノ酸配列において、TGIモチーフは134〜138位のアミノ酸領域内にあり、イソロイシン(I)は136〜138位にある(例、表1を参照)。
【0023】
別の好ましい実施形態では、総分岐鎖アミノ酸の測定に関連するロイシン脱水素酵素の特性を改善する変異は、野生型ロイシン脱水素酵素のアミノ酸配列のGVIモチーフ中のイソロイシン(I)の置換である。GVIモチーフは、グリシン(G)−バリン(V)−イソロイシン(I)の連続した3つのアミノ酸残基から構成される。野生型ロイシン脱水素酵素のアミノ酸配列中のGVIモチーフの位置は酵素の由来によって異なり得るが、当業者は、野生型ロイシン脱水素酵素のアミノ酸配列中のGVIモチーフの位置を適宜決定できるため、置換されるべきイソロイシン(I)の位置を特定できる。通常、ロイシン脱水素酵素のアミノ酸配列において、GVIモチーフは290〜294位のアミノ酸領域内にあり、イソロイシン(I)は292〜294位にある(例、表2を参照)。本発明の改変酵素は、総分岐鎖アミノ酸の測定に関連するロイシン脱水素酵素の特性を改善する変異として、GVIモチーフ中のイソロイシン(I)の置換に加えて、TGIモチーフ中のイソロイシン(I)の上記置換をさらに有していてもよい。
【0025】
総分岐鎖アミノ酸の測定に関連するロイシン脱水素酵素の特性としては、以下が挙げられる:
(a)総分岐鎖アミノ酸に対するロイシン脱水素酵素の基質特異性;
(b)任意の分岐鎖アミノ酸に対するロイシン脱水素酵素の活性;および
(c)ロイシン脱水素酵素の熱安定性。
本発明の改変酵素は、上述した特性のうち1つのみを有していてもよいが、上述した特性のうち2つまたは3つの特性を併有していてもよい。
【0026】
TGIモチーフ中のイソロイシン(I)について、特性(a)〜(c)から選ばれる少なくとも1つの特性を改善する変異としては、例えば、メチオニン(M)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)、フェニルアラニン(F)、ロイシン(L)、リジン(K)、システイン(C)、チロシン(Y)、アラニン(A)、グリシン(G)、セリン(S)、アスパラギン(N)、およびトリプトファン(W)への置換が挙げられる。
【0027】
GVIモチーフ中のイソロイシン(I)について、特性(a)〜(c)から選ばれる少なくとも1つの特性を改善する変異としては、例えば、フェニルアラニン(F)、ヒスチジン(H)、アスパラギン(N)、チロシン(Y)、ロイシン(L)、リジン(K)、グルタミン(Q)、アルギニン(R)、アスパラギン酸(D)、スレオニン(T)、グルタミン酸(E)、セリン(S)、システイン(C)、アラニン(A)、グリシン(G)、バリン(V)、トリプトファン(W)、およびメチオニン(M)への置換が挙げられる。
【0028】
本発明の改変酵素は、任意のpH条件で使用することができるが、中性条件下および/またはアルカリ性条件下での使用に好適である。
本発明の改変酵素が好適に使用される中性条件とは、pH6.0以上8.0以下の範囲内にある任意のpH条件をいう。好ましくは、中性条件は、pH7.0以上8.0以下の範囲内にある任意のpH条件(例、pH7.0、pH7.5またはpH8.0)である。
本発明の改変酵素が好適に使用されるアルカリ性条件とは、pHが8.0よりも大きく11.0以下の範囲内にある任意のpH条件をいう。アルカリ性条件におけるpH範囲の上限値は、10.5以下であることが好ましく、10.0以下であることがより好ましい。特に好ましくは、アルカリ性条件は、pH8.5以上9.5以下の範囲内にある任意のpH条件(例、pH9.0)である。
【0029】
一実施形態では、総分岐鎖アミノ酸の測定に関連するロイシン脱水素酵素の特性として、総分岐鎖アミノ酸に対するロイシン脱水素酵素の基質特異性が、改善される。総分岐鎖アミノ酸に対するロイシン脱水素酵素の基質特異性の改善とは、特定の分岐鎖アミノ酸に対するロイシン脱水素酵素の基質特異性の向上を意図するものではなく、全ての分岐鎖アミノ酸(即ち、L−ロイシン、L−イソロイシン、およびL−バリン)に対する基質特異性(反応速度)がより等しくなるようにすることをいう。具体的には、総分岐鎖アミノ酸に対するロイシン脱水素酵素の基質特異性の改善は、ロイシンに対するロイシン脱水素酵素の相対活性を100としたときに、イソロイシンおよびバリンに対する改変酵素の各相対活性が、イソロイシンおよびバリンに対する野生型酵素の各相対活性よりも100に近い場合に、達成され得る。総分岐鎖アミノ酸に対するロイシン脱水素酵素の基質特異性は、ロイシンに対するロイシン脱水素酵素の相対活性を100としたときにイソロイシンおよびバリンの双方に対する相対活性が80以上120以下であることが好ましく、85以上115以下であることがより好ましく、90以上110以下であることがさらにより好ましく、95以上105以下であることが特に好ましい。ロイシンに対するロイシン脱水素酵素の相対活性を100としたときにイソロイシンおよびバリンの双方に対する相対活性が80以上120以下である本発明の改変酵素としては、例えば、1)アルカリ性条件下での基質特異性の改善に好適である、TGIモチーフ中のイソロイシン(I)の下記アミノ酸残基への置換、および/またはGVIモチーフ中のイソロイシン(I)の下記アミノ酸残基への置換、ならびに、2)中性条件下での特性の改善に好適である、TGIモチーフ中のイソロイシン(I)の下記アミノ酸残基への置換、および/またはGVIモチーフ中のイソロイシン(I)の下記アミノ酸残基への置換が挙げられる。
【0030】
1)アルカリ性条件下での基質特異性の改善に好適である置換
(a)136位の置換後のアミノ酸残基(アルカリ性条件)
メチオニン(M)、アルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、リジン(K)、システイン(C)、チロシン(Y)、アラニン(A)、グリシン(G)、またはセリン(S)
(b)292位の置換後のアミノ酸残基(アルカリ性条件)
フェニルアラニン(F)、ヒスチジン(H)、アスパラギン(N)、チロシン(Y)、リジン(K)、グルタミン(Q)、グルタミン酸(E)、またはグリシン(G)
【0031】
2)中性条件下での基質特異性の改善に好適である置換
(c)136位の置換後のアミノ酸残基(中性条件)
アラニン(A)、グリシン(G)、ヒスチジン(H)、リジン(K)、ロイシン(L)、セリン(S)、またはチロシン(Y)
(d)292位の置換後のアミノ酸残基(中性条件)
アラニン(A)、システイン(C)、アスパラギン酸(D)、グリシン(G)、リジン(K)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、アルギニン(R)、セリン(S)、スレオニン(T)、またはバリン(V)
【0032】
別の実施形態では、総分岐鎖アミノ酸の測定に関連するロイシン脱水素酵素の特性として、任意の分岐鎖アミノ酸に対するロイシン脱水素酵素の活性が、改善される。任意の分岐鎖アミノ酸に対するロイシン脱水素酵素の活性の改善とは、L−ロイシン、L−イソロイシンおよびL−バリンからなる群より選ばれる1以上のアミノ酸に対する改変酵素の活性が、野生型酵素のものに比べてより向上することを意味する。具体的には、任意の分岐鎖アミノ酸に対するロイシン脱水素酵素の活性の改善は、L−ロイシン、L−イソロイシンおよびL−バリンからなる群より選ばれる任意のアミノ酸に対する野生型ロイシン脱水素酵素の活性を100としたときに、当該アミノ酸に対する改変酵素の活性が100よりも大きい場合に、達成され得る。このような改変酵素は、個々の分岐鎖アミノ酸の迅速な測定を可能にし、結果として総分岐鎖アミノ酸の測定に有用である。野生型酵素に対する改変酵素の活性の向上の程度は、1.3倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましく、1.7倍以上であることがさらにより好ましく、2倍以上であることが特に好ましい。野生型酵素に対する改変酵素の活性の向上の程度が1.3倍以上である本発明の改変酵素としては、例えば、1)アルカリ性条件下での活性の改善に好適である、TGIモチーフ中のイソロイシン(I)の下記アミノ酸残基への置換、および/またはGVIモチーフ中のイソロイシン(I)の下記アミノ酸残基への置換、ならびに、2)中性条件下での特性の改善に好適である、TGIモチーフ中のイソロイシン(I)の下記アミノ酸残基への置換、および/またはGVIモチーフ中のイソロイシン(I)の下記アミノ酸残基への置換が挙げられる。
【0033】
1)アルカリ性条件下での活性の改善に好適である置換
1−1)136位の置換後のアミノ酸残基(アルカリ性条件)
(i)L−ロイシンに対する活性の向上(アルカリ性条件)
メチオニン(M)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)、フェニルアラニン(F)、ロイシン(L)、リジン(K)、システイン(C)、チロシン(Y)、アラニン(A)、グリシン(G)、セリン(S)、アスパラギン(N)、またはトリプトファン(W)
(ii)L−イソロイシンに対する活性の向上(アルカリ性条件)
メチオニン(M)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)、フェニルアラニン(F)、ロイシン(L)、リジン(K)、システイン(C)、チロシン(Y)、アラニン(A)、グリシン(G)、セリン(S)、アスパラギン(N)、またはトリプトファン(W)
(iii)L−バリンに対する活性の向上(アルカリ性条件)
メチオニン(M)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)、フェニルアラニン(F)、ロイシン(L)、リジン(K)、システイン(C)、チロシン(Y)、アラニン(A)、グリシン(G)、セリン(S)、アスパラギン(N)、またはトリプトファン(W)
【0034】
1−2)292位の置換後のアミノ酸残基(アルカリ性条件)
(iv)L−ロイシンに対する活性の向上(アルカリ性条件)
フェニルアラニン(F)、ヒスチジン(H)、アスパラギン(N)、チロシン(Y)、ロイシン(L)、リジン(K)、グルタミン(Q)、アルギニン(R)、アスパラギン酸(D)、スレオニン(T)、グルタミン酸(E)、セリン(S)、システイン(C)、アラニン(A)、またはグリシン(G)
(v)L−イソロイシンに対する活性の向上(アルカリ性条件)
フェニルアラニン(F)、ヒスチジン(H)、アスパラギン(N)、チロシン(Y)、ロイシン(L)、リジン(K)、グルタミン(Q)、アルギニン(R)、アスパラギン酸(D)、スレオニン(T)、グルタミン酸(E)、セリン(S)、システイン(C)、アラニン(A)、グリシン(G)、バリン(V)、またはトリプトファン(W)
(vi)L−バリンに対する活性の向上(アルカリ性条件)
フェニルアラニン(F)、ヒスチジン(H)、アスパラギン(N)、チロシン(Y)、ロイシン(L)、リジン(K)、グルタミン(Q)、アルギニン(R)、アスパラギン酸(D)、スレオニン(T)、グルタミン酸(E)、セリン(S)、システイン(C)、アラニン(A)、グリシン(G)、またはバリン(V)
【0035】
2)中性条件下での活性の改善に好適である置換
2−1)136位の置換後のアミノ酸残基(中性条件)
(i’)L−ロイシンに対する活性の向上(中性条件)
アラニン(A)、システイン(C)、フェニルアラニン(F)、グリシン(G)、ヒスチジン(H)、リジン(K)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、アスパラギン(N)、アルギニン(R)、セリン(S)、トリプトファン(W)、またはチロシン(Y)
(ii’)L−イソロイシンに対する活性の向上(中性条件)
アラニン(A)、システイン(C)、フェニルアラニン(F)、グリシン(G)、ヒスチジン(H)、リジン(K)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、アスパラギン(N)、アルギニン(R)、セリン(S)、トリプトファン(W)、またはチロシン(Y)
(iii’)L−バリンに対する活性の向上(中性条件)
アラニン(A)、システイン(C)、フェニルアラニン(F)、グリシン(G)、ヒスチジン(H)、リジン(K)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、アルギニン(R)、セリン(S)、トリプトファン(W)、またはチロシン(Y)
【0036】
2−2)292位の置換後のアミノ酸残基(中性条件)
(iv’)L−ロイシンに対する活性の向上(中性条件)
アラニン(A)、システイン(C)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、フェニルアラニン(F)、グリシン(G)、ヒスチジン(H)、リジン(K)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、アルギニン(R)、セリン(S)、スレオニン(T)、バリン(V)、トリプトファン(W)、またはチロシン(Y)
(v’)L−イソロイシンに対する活性の向上(中性条件)
アラニン(A)、システイン(C)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、フェニルアラニン(F)、グリシン(G)、ヒスチジン(H)、リジン(K)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、アルギニン(R)、セリン(S)、スレオニン(T)、トリプトファン(W)、またはチロシン(Y)
(vi’)L−バリンに対する活性の向上(中性条件)
アラニン(A)、システイン(C)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、フェニルアラニン(F)、グリシン(G)、ヒスチジン(H)、リジン(K)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、アルギニン(R)、セリン(S)、スレオニン(T)、バリン(V)、トリプトファン(W)、またはチロシン(Y)
【0037】
さらに別の実施形態では、総分岐鎖アミノ酸の測定に関連するロイシン脱水素酵素の特性として、ロイシン脱水素酵素の熱安定性が、改善される。ロイシン脱水素酵素の熱安定性の改善とは、改変酵素の熱安定性が、野生型酵素のものに比べてより向上することを意味する。具体的には、ロイシン脱水素酵素の熱安定性の改善は、水溶液中において60℃で1時間処理した場合に、改変酵素の残存活性が野生型酵素のものよりも大きい場合に、達成され得る。水溶液中におけるロイシン脱水素酵素の熱安定性試験は、ロイシン脱水素酵素の安定性(特に液状安定性)を評価するための加速試験としての意義を有し得る。したがって、水溶液中における改変酵素の熱安定性が高い場合、改変酵素の安定性(特に液状安定性)も高い傾向がある。液状安定性が高い酵素は、液状でより長期保存することができるので、このような改変酵素は、液状試薬として、総分岐鎖アミノ酸の測定に有用である。野生型酵素に対する改変酵素の熱安定性の向上の程度は、1.1倍以上であることが好ましく、1.2倍以上であることがより好ましい。野生型酵素に対する改変酵素の熱安定性の向上の程度が1.1倍以上である本発明の改変酵素としては、例えば、TGIモチーフ中のイソロイシン(I)の下記アミノ酸残基への置換、および/またはGVIモチーフ中のイソロイシン(I)の下記アミノ酸残基への置換が挙げられる。
【0038】
136位の置換後のアミノ酸残基
メチオニン(M)、アルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、またはリジン(K)
【0039】
292位の置換後のアミノ酸残基
フェニルアラニン(F)
【0040】
本発明の改変酵素はまた、C末端またはN末端に、他のペプチド成分(例、タグ部分)を有していてもよい。本発明の改変酵素に付加され得る他のペプチド成分としては、例えば、目的タンパク質の精製を容易にするペプチド成分(例、ヒスチジンタグ、Strep−tag II等のタグ部分;グルタチオン−S−トランスフェラーゼ、マルトース結合タンパク質等の目的タンパク質の精製に汎用されるタンパク質)、目的タンパク質の可溶性を向上させるペプチド成分(例、Nus−tag)、シャペロンとして働くペプチド成分(例、トリガーファクター)、他の機能をもつタンパク質あるいはタンパク質のドメインあるいはそれらとをつなぐリンカーとしてのペプチド成分が挙げられる。
【0041】
本発明の改変酵素は、上述した特性が保持される限り、上記変異を有するロイシン脱水素酵素のアミノ酸配列に対して、1または数個のアミノ酸残基の追加変異(例、置換、欠失、挿入および付加)を有していてもよい。追加変異を導入され得るアミノ酸残基の個数は、例えば1〜100個、好ましくは1〜50個、より好ましくは1〜40個、さらにより好ましくは1〜30個、最も好ましくは1〜20個または1〜10個(例、1、2、3、4または5個)である。当業者は、上述した特性を保持するこのような改変酵素を適宜作製することができる。
【0042】
したがって、本発明の改変酵素は、以下(i)または(ii)であってもよい:
(i)ロイシン脱水素酵素のアミノ酸配列において、TGIモチーフ中のイソロイシン(I)、および/またはGVIモチーフ中のイソロイシン(I)が変異(例、置換)したアミノ酸配列を含み、かつ、総分岐鎖アミノ酸の測定に関連するロイシン脱水素酵素の特性が改善されている、タンパク質;または
(ii)ロイシン脱水素酵素のアミノ酸配列におけるTGIモチーフ中のイソロイシン(I)、および/またはGVIモチーフ中のイソロイシン(I)が変異(例、置換)したアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基の追加変異を有するアミノ酸配列を有し、かつ、総分岐鎖アミノ酸の測定に関連するロイシン脱水素酵素の特性が改善されている、タンパク質。
【0043】
本発明の改変酵素は、上述した変異および追加変異の双方を有することにより、変異前の(野生型)ロイシン脱水素酵素のアミノ酸配列に対して少なくとも90%以上のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものであってもよい。アミノ酸配列の同一性パーセントは、好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、さらにより好ましくは97%以上、最も好ましくは98%以上または99%以上であってもよい。
【0044】
アミノ酸配列の同一性は、例えばKarlinおよびAltschulによるアルゴリズムBLAST(Pro.Natl.Acad.Sci.USA,90,5873(1993))、PearsonによるFASTA(MethodsEnzymol.,183,63(1990))を用いて決定することができる。このアルゴリズムBLASTに基づいて、BLASTPとよばれるプログラムが開発されているので(http://www.ncbi.nlm.nih.gov参照)、これらのプログラムをデフォルト設定で用いて、アミノ酸配列の同一性を計算してもよい。また、アミノ酸配列の同一性としては、例えば、Lipman−Pearson法を採用している株式会社ゼネティックスのソフトウェアGENETYX Ver7.0.9を使用し、ORFにコードされるポリペプチド部分全長を用いて、Unit Size to Compare=2の設定でSimilarityをpercentage計算させた際の数値を用いてもよい。アミノ酸配列の同一性として、これらの計算で導き出される値のうち、最も低い値を採用してもよい。
【0045】
アミノ酸配列において追加変異を導入され得るアミノ酸残基の位置は、当業者に明らかであり、例えば、アミノ酸配列のアライメントを参考にして追加変異を導入することができる。具体的には、当業者は、1)複数のホモログのアミノ酸配列(例、配列番号2で表されるアミノ酸配列、および他のホモログのアミノ酸配列)を比較し、2)相対的に保存されている領域、および相対的に保存されていない領域を明らかにし、次いで、3)相対的に保存されている領域および相対的に保存されていない領域から、それぞれ、機能に重要な役割を果たし得る領域および機能に重要な役割を果たし得ない領域を予測できるので、構造・機能の相関性を認識できる。また、ロイシン脱水素酵素については、上述したように立体構造の解析結果が報告されているので、当業者は、立体構造の解析結果に基づき、上述した特性の保持を可能にするように、追加変異を導入することができる。
【0046】
アミノ酸残基の追加変異が置換である場合、アミノ酸残基のこのような置換は、保存的置換であってもよい。用語「保存的置換」とは、所定のアミノ酸残基を、類似の側鎖を有するアミノ酸残基で置換することをいう。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当該分野で周知である。例えば、このようなファミリーとしては、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電性極性側鎖を有するアミノ酸(例、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β位分岐側鎖を有するアミノ酸(例、スレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖を有するアミノ酸(例、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)、ヒドロキシル基(例、アルコール性、フェノール性)含有側鎖を有するアミノ酸(例、セリン、スレオニン、チロシン)、および硫黄含有側鎖を有するアミノ酸(例、システイン、メチオニン)が挙げられる。好ましくは、アミノ酸の保存的置換は、アスパラギン酸とグルタミン酸との間での置換、アルギニンとリジンとヒスチジンとの間での置換、トリプトファンとフェニルアラニンとの間での置換、フェニルアラニンとバリンとの間での置換、ロイシンとイソロイシンとアラニンとの間での置換、およびグリシンとアラニンとの間での置換であってもよい。
【0047】
本発明の改変酵素は、本発明の改変酵素を発現する本発明の形質転換体を用いて、または無細胞系等を用いて、調製することができる。本発明の形質転換体は、例えば、本発明の改変酵素の発現ベクターを作製し、次いで、この発現ベクターを宿主に導入することにより作製できる。例えば、本発明のポリヌクレオチドを組み込んだ本発明の発現ベクターを作製して適切な宿主に導入することにより、本発明の形質転換体を得ることができる。本発明の改変酵素を発現させるための宿主としては、例えばエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等のエシェリヒア属細菌、コリネバクテリウム属細菌〔例、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)〕、およびバチルス属細菌〔例、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)〕をはじめとする種々の原核細胞、サッカロマイセス属細菌〔例、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)〕、ピヒア属細菌〔例、ピヒア・スティピティス(Pichia stipitis)〕、アスペルギルス属細菌〔例、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)〕をはじめとする種々の真核細胞を用いることができる。宿主としては、所定の遺伝子を欠損する株を用いてもよい。形質転換体としては、例えば、細胞質中にベクターを保有する形質転換体、およびゲノム上に目的遺伝子が導入された形質転換体が挙げられる。
【0048】
本発明の形質転換体は、所定の培養装置(例、試験管、フラスコ、ジャーファーメンター)を用いて、後述の組成を有する培地において培養することができる。培養条件は適宜設定することができる。具体的には、培養温度は、25℃〜37℃であってもよく、pHは6.5〜7.5であってもよく、培養時間は1h〜100hであってもよい。また、溶存酸素濃度を管理しつつ培養を行っても良い。この場合、培養液中の溶存酸素濃度(DO値)を制御の指標として用いることがある。大気中の酸素濃度を21%とした場合の相対的な溶存酸素濃度DO値が、例えば1〜10%を、好ましくは3%〜8%を下回らない様に、通気・攪拌条件を制御することが出来る。また、培養はバッチ培養であっても、フェドバッチ培養であっても良い。フェドバッチ培養の場合は糖源となる溶液やリン酸を含む溶液を培養液に連続的あるいは不連続的に逐次添加して、培養を継続することも出来る。
【0049】
形質転換される宿主は、上述したとおりであるが、大腸菌について詳述すると、大腸菌K12株亜種のエシェリヒア コリ JM109株、DH5α株、HB101株、BL21(DE3)株などから選択することが出来る。形質転換を行う方法、および形質転換体を選別する方法は、Molecular Cloning: A Laboratory Manual,3rd edition,Cold Spring Harbor press(2001/01/15)などにも記載されている。以下、形質転換された大腸菌を作製し、これを用いて所定の酵素を製造する方法を、一例としてより具体的に説明する。
【0050】
本発明のポリヌクレオチドを発現させるプロモータとしては、通常E.coliにおける異種タンパク質生産に用いられるプロモータを使用することができ、例えば、PhoA、PhoC、T7プロモータ、lacプロモータ、trpプロモータ、trcプロモータ、tacプロモータ、ラムダファージのPRプロモータ、PLプロモータ、T5プロモータ等の強力なプロモータが挙げられ、PhoA、PhoC、lacが好ましい。また、ベクターとしては、例えば、pUC(例、pUC19、pUC18)、pSTV、pBR(例、pBR322)、pHSG(例、pHSG299、pHSG298、pHSG399、pHSG398)、RSF(例、RSF1010)、pACYC(例、pACYC177、pACYC184)、pMW(例、pMW119、pMW118、pMW219、pMW218)、pQE(例、pQE30)、およびその誘導体等を用いてもよい。他のベクターとしては、ファージDNAのベクターを利用してもよい。さらに、プロモータを含み、挿入DNA配列を発現させることができる発現ベクターを使用してもよい。好ましくは、ベクターは、pUC、pSTV、pMWであってもよい。
【0051】
また、本発明のポリヌクレオチドの下流に転写終結配列であるターミネータを連結してもよい。このようなターミネータとしては、例えば、T7ターミネータ、fdファージターミネータ、T4ターミネータ、テトラサイクリン耐性遺伝子のターミネータ、大腸菌trpA遺伝子のターミネータが挙げられる。
【0052】
本発明のポリヌクレオチドを大腸菌に導入するためのベクターとしては、いわゆるマルチコピー型のものが好ましく、ColE1由来の複製開始点を有するプラスミド、例えばpUC系のプラスミドやpBR322系のプラスミドあるいはその誘導体が挙げられる。ここで、「誘導体」とは、塩基の置換、欠失、挿入および/または付加などによってプラスミドに改変を施したものを意味する。なお、ここでいう「改変」とは、変異剤やUV照射などによる変異処理、あるいは自然変異などによる改変をも含む。
【0053】
また、形質転換体を選別するために、ベクターがアンピシリン耐性遺伝子等のマーカーを有することが好ましい。このようなプラスミドとして、強力なプロモータを持つ発現ベクターが市販されている〔例、pUC系(タカラバイオ社製)、pPROK系(クローンテック製)、pKK233−2(クローンテック製)〕。
【0054】
得られた本発明の発現ベクターを用いて大腸菌を形質転換し、この大腸菌を培養することにより、本発明の改変酵素を得ることができる。
【0055】
培地としては、M9−カザミノ酸培地、LB培地など、大腸菌を培養するために通常用いる培地を用いてもよい。培地は、所定の炭素源、窒素源、補酵素(例、塩酸ピリドキシン)を含有していてもよい。具体的には、ペプトン、酵母エキス、NaCl、グルコース、MgSO
4、硫酸アンモニウム、リン酸2水素カリウム、硫酸第二鉄、硫酸マンガン、などを用いても良い。また、培養条件、生産誘導条件は、用いたベクターのマーカー、プロモータ、宿主菌等の種類に応じて適宜選択される。
【0056】
本発明の改変酵素を回収するには、以下の方法などがある。本発明の改変酵素は、本発明の形質転換体を回収した後、菌体を破砕(例、ソニケーション、ホモジナイゼーション)あるいは溶解(例、リゾチーム処理)することにより、破砕物および溶解物として得ることができる。このような破砕物および溶解物を、抽出、沈澱、濾過、カラムクロマトグラフィー等の手法に供することにより、本発明の改変酵素を得ることができる。
【0057】
本発明は、総分岐鎖アミノ酸の分析方法を提供する。本発明の分析方法は、本発明の改変酵素を用いて、被検試料中に含まれる総分岐鎖アミノ酸を測定することを含み得る。
【0058】
被検試料としては、任意の分岐鎖アミノ酸(好ましくは、全ての総分岐アミノ酸)を含有すると疑われる試料である限り特に限定されず、例えば、生体由来試料(例、血液、尿、唾液、涙など)や食飲料品(例、栄養ドリンクやアミノ酸飲料など)が挙げられる。
【0059】
本発明の分析方法は、本発明の改変酵素を用いて総分岐鎖アミノ酸を測定できる限り特に限定されないが、例えば、アルカリ性または中性条件下において、好ましくは、アルカリ性緩衝液中において、被検試料をニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD
+)と混合し、次いで、混合試料を本発明の改変酵素を用いる酵素反応に供し、最後に、本発明の改変酵素の作用によりNAD
+から生成されるNADHを検出することにより、総分岐鎖アミノ酸が測定される。具体的には、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD
+)の存在下、アルカリ性緩衝液中において、改変酵素を被検試料に作用させることにより、生体由来試料中に含まれる基質のアミノ基が酸化的脱アミノ化されるとともに、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD
+)から還元型(NADH)が生成される。したがって、NADHを、吸光度(340nm)等により検出することにより、総分岐鎖アミノ酸の定量を行うことができる。このような方法論によるアミノ酸の測定方法は、知られている(例、Ueatrongchit T,Asano Y,Anal Biochem.2011 Mar 1;410(1):44−56を参照)。また、生成したNADHにより色素を還元し、その還元性色素の発色を吸光度等として検出することで、総分岐鎖アミノ酸の測定を行うこともできる。更に、電気化学的な手法によるNADHの検出も可能である。例えば、アルカリ性または中性条件下において、改変酵素を被検試料に作用させることにより生成したNADHを電気化学的に酸化し、その酸化電流を測定する他、生成したNADHにより共存する電子メディエーターを還元し、その還元型電子メディエーターの電気化学的酸化電流を測定することで、総分岐鎖アミノ酸を測定することが可能である。NADHと電子メディエーター間の電子移動において、触媒が介在しても良い。なお、総分岐鎖アミノ酸の測定は、好ましくは、レート法(初速度法)により行われる。
【0060】
本発明の改変酵素は、分岐鎖アミノ酸以外のアミノ酸に対して反応しないか、またはそれに対する反応性が低い。したがって、被験試料中に、分岐鎖アミノ酸のみならず、他のアミノ酸が含まれている場合にも、本発明の改変酵素を用いることで、被験試料中の分岐鎖アミノ酸の量を評価することができる。
【0061】
さらに、本発明は、本発明の改変酵素を含む、総分岐鎖アミノ酸分析用キットを包含する。
本発明のキットは、反応用緩衝液または緩衝塩、およびニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD
+)の少なくとも一つをさらに含むことができる。
【0062】
反応用緩衝液または緩衝塩は、反応液中のpHを目的の酵素反応に適した値に維持するために用いられる。反応用緩衝液または緩衝塩は、例えば、アルカリ性または中性であり、好ましくはアルカリ性である。
【0063】
本発明のキットがニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD
+)を含む場合、本発明のキットはNADHにより還元される色素をさらに含んでいてもよい。この場合、本発明の改変酵素の作用によりNAD
+から生成するNADHにより色素が還元され、その還元性色素の発色を吸光度等により検出することができる。色素の還元には、電子メディエーターとして働く物質などが関与してもよい。
【0064】
本発明はまた、(a)検出用電極、および(b)検出用電極に固定または配置された本発明の改変酵素を含む、総分岐鎖アミノ酸分析用酵素センサーを提供する。本発明の改変酵素は、電極に直接または間接的に固定または配置される。
【0065】
前記の検出用電極としては、例えば、本発明の改変酵素により総分岐鎖アミノ酸から生じた生成物または副生物(NH
3+NADH+H
+)を直接的または間接的に検出するバイオセンサーを用いることが可能であり、より具体的には、本発明の改変酵素およびニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD
+)を利用した検出用電極などが例として挙げられる。このような検出用電極としては、例えば、国際公開第2005/075970号、国際公開第00/57166号に記載のものを使用することができる。
【実施例】
【0066】
以下の実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】
(酵素定量法)
L−ロイシン、L−イソロイシンおよびL−バリンの酵素定量法では、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD
+)の存在下、アルカリ性緩衝液中において、ロイシン脱水素酵素を生体由来試料(例、血漿)に作用させ、生体由来試料中に含まれる基質のアミノ基を酸化的脱アミノ化するとともに、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD
+)から還元型(NADH)を生成させた。NADHの生成量は、マイクロプレートリーダー(SpectraMax M2e,モレキュラーデバイス社製)を用いて測定した。
【0068】
実施例1:改変酵素(I136R)の作製
(1)鋳型ldh遺伝子の調製
(a)培養および染色体DNAの精製
行政独立法人 製品評価技術機構 生物遺伝資源部門(NBRC)より入手したGeobacillus stearothermophilus NBRC 12550の凍結乾燥ペレットは、growth medium 702にて懸濁し、growth medium 802寒天培地に塗布したものを、50℃にて一晩培養した。コロニーを5mlのgrowth medium 702に植菌した後、50℃にて30時間静置培養を行った。この細胞培養液5mlより、染色体DNAを精製し、下記の実験に供した。
培地の調製の詳細は、以下の表3に記載されるとおりであった。
【0069】
【表3】
【0070】
(b)プラスミドの調製
Biosci. Biotechnol. Biochem. 2009;73:729−732に記載の方法にて作成されたpUC18Hisプラスミドの精製は、ベクターを組込んだ組換え大腸菌(E.coli JM109/pUC18His)培養液より、Invisorb Spin Plasmid Mini Kit(Invitek社製)を用いて、プロトコールに従って行った。精製プラスミドpUC18HisのベクターDNAを7μl、10×K buffer(タカラバイオ(株)社製)を2.5μl、PstIおよびBamHIをそれぞれ0.8μlを加え、滅菌超純水で反応液総量を25μlとし、37℃にて3時間制限酵素処理した。上記の反応液25μlに、それぞれシュリンプ由来アルカリフォスファターゼ(Roche社製)を2μl、×10アルカリフォスファターゼバッファーを5μl加え、滅菌超純水にて反応液総量を50μlとし、37℃にて1時間反応させた。反応液はフェノール・クロロホルム抽出およびエタノール沈殿により精製し、TE溶液に溶解して脱リン酸化pUC18HisベクターDNA 20μlを得た。
【0071】
(c)ロイシン脱水素酵素遺伝子の増幅
G.stearothermophilus由来ロイシン脱水素酵素遺伝子の増幅では、G.stearothermophilus染色体DNAを鋳型として、G.stearothermophilus IFO 12550のロイシン脱水素酵素遺伝子(配列表1;Biochemistry,27,9056(1988))を基に作成したBamHI認識部位配列を含む合成オリゴヌクレオチドプライマー1:5’−ccggatccgatggaattgttcaaatatatggaaac−3’(配列番号11)(北海道システム・サイエンス(株)社製)およびPstI認識部位配列を含む合成オリゴヌクレオチドプライマー2:5’−actgcagttatattgccgaagcacc−3’(配列番号12)(北海道システム・サイエンス(株)社製)を用いた。PCR反応液組成を50ngの染色体DNA,100pmol/μlの合成ヌクレオチドプライマーをそれぞれ1μl、ExTaq ×10 buffer(タカラバイオ(株)社製)を5μl、2.5mM dNTP mixture(タカラバイオ(株)社製)を5μl、TaKaRa ExTaq DNA Polymerase(タカラバイオ(株)社製)を1μl加え、滅菌超純水で反応液総量を50μlとした。PCRは、PTC−200ペルチェ・サーマルサイクラー(MJリサーチ・ジャパン(株)社製)を用い、反応条件は、94℃30秒、55℃30秒、72℃2分の反応サイクルを30回繰り返した。
PCR産物の電気泳動を行い、紫外線照射下において切り出した2つの増幅産物(1400bpおよび1900bp付近)を、ゲル抽出キットGel−M
TM Gel Extraction Kit(VIOGENE社製)にて抽出、精製して、50μlの精製産物を得た。精製産物4μlに対し、10×K buffer(タカラバイオ(株)社製)を6μl、PstIおよびBamHIをそれぞれ1μlずつ加え、滅菌超純水で反応液総量を60μlとし、37℃にて3時間反応させ、精製PCR産物両端の制限酵素処理を行った。反応液は、60℃にて15分インキュベートし、制限酵素を失活させた後、エタノール沈殿を行い、精製挿入断片を得た。
【0072】
(d)ライゲーションおよび形質転換
上記で得られた脱リン酸化プラスミドを1μl、精製挿入断片を5μl、Ligation mix(タカラバイオ(株)社製)6μlを混合し、反応液総量を12μlとして16℃にて一晩ライゲーション反応を行った後、反応液6μlでE.coli JM109を形質転換し、50μg/mlのアンピシリンを含むLB寒天培地に塗布し、37℃で10時間培養した。得られたコロニーをマスタープレートに植菌し、コロニーを形成したものを、50μg/mlのアンピシリンを含む5mLのLB培地に植菌し、一晩培養した。培養液からプラスミドDNAを精製し、ABI PRISM 310 Genetic Analyzer(Applied Biosystems社製)を用いて塩基配列解析を行い、G.stearothermophilus由来ロイシン脱水素酵素遺伝子の正しいヌクレオチド配列が確認されたクローンを、それぞれE.coli JM109/pUCHisLDHとした。
【0073】
(2)ゲオバチルス・ステアロサーモフィラスに由来するロイシン脱水素酵素の改変酵素の作出
改変酵素(I136R)の発現用プラスミドは、QuikChange Lightning Site−Directed Mutagenesis Kits(アジレント・テクノロジー株式会社)を用いて、製品添付のプロトコルに従い、pUCHisLDHに対して部位特異的変異を導入することによって作製した。その際、変異コドンを含むセンスプライマーとして、5’−GACTATGTCACCGGCCGTTCGCCCGAATTCGG−3’(配列番号9)、アンチセンスプライマーとして、5’−CCGAATTCGGGCGAACGGCCGGTGACATAGTC−3’(配列番号10)を用い、また形質転換や培養、プラスミド抽出などの関連する実験操作については定法に従い行った。目的のヌクレオチド配列が確認されたクローンをEscherichia coli JM109/pUCHisLDH変異体として以降の実験に使用した。
【0074】
(3)改変酵素の発現および精製
先述のとおり構築された改変酵素の発現および精製について以下に示す。改変酵素をコードする遺伝子を含むプラスミドpUCHisLDH変異体によって形質転換された組換え大腸菌(Escherichia coli JM109/pUCHisLDH変異体)のコロニーを50μg/mlのアンピシリン塩を含むLB培地5mlが入った試験管にて37℃で16時間振とう培養した。前記培養液を50μg/mlのアンピシリン塩を含むLB培地100mlの入った0.5リットル容坂口フラスコに植菌し、37℃でO.D.1.0に達するまで振とう培養し、1Mイソプロピル−β−D−ガラクトシド(IPTG;ナカライテスク社製)を終濃度1mMとなるように添加し、さらに5時間振とう培養した。得られた培養液を遠心分離(8,000rpm、15分、4℃;日立高速冷却遠心機himac CR21G、日立社製)し、培養菌体を沈澱させ上清を除去した。得られた菌体を、300 mM NaCl、10 mM イミダゾールを含む50mM NaH
2PO
4 buffer(pH8.0)に懸濁させた後、超音波破砕装置(KUBOTA INSONATOR model 201M、久保田社製)を用いて180W、15分、4℃にて菌体の破砕および酵素の抽出を行った。破砕液を遠心分離(8,000rpm、15分、4℃;日立高速冷却遠心機himac CR21G、日立社製)し、上清を無細胞抽出液として酵素タンパク質の精製に用いた。緩衝液(300mM NaCl、10mMイミダゾールを含む50mM NaH
2PO
4 buffer,pH8.0)で平衡化したNi−NTA樹脂(キアゲン社製)1mlの充填されたカラムに添加した。洗浄用緩衝液(1M NaCl、20mMイミダゾールを含む50mM NaH
2PO
4 buffer,pH6.5)5mlにて樹脂の洗浄を行い、その後、溶出用緩衝液(300mM NaCl、250mMイミダゾールを含む50mM NaH
2PO
4 buffer,pH8.0)5mlにて結合した酵素タンパク質の溶出を行った。溶出画分を限外ろ過膜(例えば、Vivaspin6 100kDa MWCO;GEヘルスケア社製)を用いて濃縮した。タンパク質濃度の算出は、Micro BCA Protein Assay Kit(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて牛血清アルブミンの所定濃度で作成した検量線をもとに行った。精製酵素の純度の確認は、ドデシル硫酸ナトリウム・ポリアクリルアミド・ゲル電気泳動により行った。得られた精製酵素を用いて以降の実験を行った。
【0075】
実施例2:基質特異性の評価
ロイシン脱水素酵素の活性測定は、浅野らの方法(Eur.J.Biochem.(1987)168(1),153−159)に従い、キュベットの利用も可能なマイクロプレートリーダー(SpectraMax M2e、モレキュラーデバイス社製)を用いて、光路長1cmのキュベット(Bio−rad社製)で測定した。反応液の組成は、以下のとおりであった。0.2M Glycine−KCl−KOH buffer(pH9.0)を0.5ml、25mM NAD
+(シグマ社製)溶液を0.04ml、0.1M L−ロイシン(シグマ社製)もしくはL−イソロイシン(シグマ製)あるいはL−バリン(シグマ社製)などの水溶液を0.1mlおよび適量の酵素溶液を加えて反応液総量を1.0mlとした。酵素反応は、室温で1分間行い、340nmの吸光度変化を測定した。その結果を
図2に示す。野生型(WT)を鋳型として変異導入した改変酵素I136Rは、各BCAAに対する相対活性が改善されていた。なお、以降は野生型をWTと示す場合がある。
【0076】
実施例3:改変酵素(I136R)によるBCAAの検量線の作成
0.2M Glycine−KCl−KOH buffer(pH9.0)を0.5ml、25mM NAD
+(シグマ社製)溶液を0.04ml、既知濃度のL−ロイシン水溶液またはL−イソロイシン水溶液またはL−バリン水溶液、MilliQ水で総量が0.96mlになるように調製し、キュベットに添加した。この溶液に、0.5mg/mlの酵素混合溶液0.04mlを加えて総量を1mlとし,転倒混和した。酵素反応は、室温で1分間行い、340nmの吸光度変化を測定した。
【0077】
上述の測定結果を
図3に示す。BCAA濃度が140〜560μM(140、280、420、560μMの4点で測定)の場合、WTでは、各BCAAに対する活性が異なるため、Leu、Ile、Valの検量線は、それぞれ大きく異なっていた。一方、改変酵素I136Rでは、各BCAAに対する活性はほぼ等しいため、Leu、Ile、Valの検量線は、ほぼ同一であった。以上より、改変酵素I136Rでは、Leu、Ile、Valのうちいずれか2つあるいは全てが混合して含まれる検体であっても、総BCAA濃度をLeu、Ile、Valのいずれか1つの濃度とみなすことが可能であることが明らかになった。
【0078】
実施例4:改変酵素(I136R)による実試料の総BCAA定量
実試料としてラット血漿サンプル(SD系、メス、20週齢、日本チャールズリバー製)を用いて、LeuDH WT及びLeuDH I136Rによる試料中の総BCAA測定評価を行った。その評価は、酵素法によって算出された総BCAA測定値とアミノ酸分析計L−8900(日立ハイテク社製)から得られた総BCAA測定値とを比較することにより行った。
【0079】
酵素法による総BCAA定量は、以下の手順に従い実施した。0.2M Glycine−KCl−KOH buffer(pH9.0)を0.5ml、25mM NAD
+(シグマ社製)溶液を0.04ml、既知濃度のL−バリン水溶液もしくはラット血漿試料0.04mlまたは0.02mlを加え、MillQ水で総量が0.96mlになるように調製し、キュベットに添加した。この溶液に、0.5mg/mlの酵素混合溶液0.04mlを加えて総量を1mlとし,転倒混和した。酵素反応は、室温で、1分間おこない、340nmの吸光度変化を測定した。また、L−バリン水溶液を使用して作製した検量線を用いて、血漿サンプル中総BCAAの定量を行った。
【0080】
アミノ酸分析計での測定用ラット血漿サンプルは、スルホサリチル酸により除タンパク処理をおこなった。
【0081】
図4に、ラット血漿サンプルの総BCAA濃度について酵素法及びアミノ酸分析計により求めたそれぞれの測定値を比較したグラフを示す。その結果、酵素法により求めた実試料中の総BCAA測定値は、アミノ酸分析計により求めた総BCAA測定値とほぼ同一の値を示した。野生型のロイシン脱水素酵素は、分岐鎖アミノ酸以外のアミノ酸に対する触媒活性を殆ど有しないことが知られており、今回の実験で複数のアミノ酸を含む血漿中のBCAAを定量できたことから、本発明の改変酵素は、分岐鎖アミノ酸以外のアミノ酸に対する触媒活性を殆ど有しないという野生型酵素の特性を保持していると予想される。以上より、本発明の改変酵素は、実試料中の総BCAAの特異的な測定に有用であることが示された。
【0082】
実施例5:セルフリー系を用いた改変酵素の合成、および改変酵素の精製
野生型の遺伝子または目的とする変異体の遺伝子を鋳型に、2−StepPCR法でヒスチジンアフィニティタグおよびTEVプロテアーゼ認識配列をN末端側に融合させ、目的変異が導入されたコンストラクトの直鎖状DNAを調製し、このDNAを鋳型として用いて、大腸菌由来のセルフリー合成反応系でタンパク質を合成した。反応スケール1mL、透析法で6時間合成を行った産物の遠心後の上清画分について、Niに対するaffinity精製の溶出画分を得た。続いて、SDS−PAGEおよびSYPRO ORANGE Protein Gel Stain(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用いた染色により、目的酵素と考えられるタンパク質の存在を確認した。得られた溶出画分について、BSAを標準物質としたBradford法によりタンパク質濃度を定量し、必要に応じ目的の濃度に調製した後、評価に供した。野生型酵素についても同様の手順で、直鎖状DNAの調製、セルフリー合成、酵素の精製および分析を行った。野生型の遺伝子をPCRの鋳型として用いて調整した酵素を表4に、目的変異を導入した遺伝子をPCRの鋳型として用いて調整した酵素を表5および6に示す。なお、精製に用いたレジンと緩衝液は、以下のとおりである。
レジン:Ni Sepharose High Performance(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)
緩衝液:
Binding Buffer(NaCl 750mM,NaPi 20mM,pH8.0)
Wash Buffer(NaCl 750mM,NaPi 20mM,pH8.0)
回収・測定Buffer(NaCl 300mM,NaPi 50mM,EDTA 34mM,pH7.0,10% D
2O,0.01% NaN
3)
【0083】
実施例6:活性および基質特異性の評価
実施例5で合成された野生型酵素および改変酵素の活性および相対活性の評価は、実施例2の方法に従って行った。その結果を表4、5、および6に示す。表4、5におけるWTの値は、野生型3サンプルでの結果の平均値を用いた。また、表6の結果は、同一サンプルについて3回実験を行った際の平均値より算出した。なお、変異を複数導入した改変酵素を示す場合、導入した変異を/で区切り、続けて記載した。例えば、I136R/I292Fは、I136RとI292Fの2つの変異を有する改変酵素であることを示す。変異の導入により、WTに比べ活性が向上および/または各BCAAに対する活性がより等しくなった。また、各BCAAに対する活性の相対値がWTより等しくなる変異を2つ導入することで、1変異の場合に比べ、相対値がより等しくなった。
【0084】
【表4】
【0085】
【表5】
【0086】
【表6】
【0087】
また、光路長1cmのキュベットの代わりに96穴マイクロウェルプレートを用い、下記の反応液で30℃にて酵素反応を1分間行った際の、340nmにおける吸光度変化を測定した。使用した酵素は、実施例5に示すように、野生型の遺伝子を鋳型に調製した直鎖状DNAを用いて合成および精製して調製した。反応液は、0.2M HEPES、0.28M 塩化ナトリウム、8.4mM リン酸水素二ナトリウム バッファ(pH 7.0または7.5または8.0) 150μl、25mM NAD
+水溶液 30μl、1M 塩化カリウム水溶液 1.5μl、10mMのL−ロイシン水溶液またはL−イソロイシン水溶液またはL−バリン水溶液 3μl、MilliQ水100.5μlを混合して調製し、この溶液に1mg/mlの酵素液 15μlを混合して調製した。結果を表7、8に示す。各値は、I136KおよびI136Rは1回の実験結果より、他の酵素は同一サンプルについて2回実験を行った際の平均値より算出した。表7は改変酵素のWTに対する活性の相対値を、表8は酵素の各BCAAに対する活性の相対値を示す。
【0088】
【表7】
【0089】
【表8】
【0090】
実施例7:熱安定性の評価
実施例5で合成されたLeuDH WTおよび下記改変酵素5種の酵素溶液を60、70、80℃にて1時間熱処理した後、活性測定を行った。熱処理後の各酵素溶液の残存活性を表9に示す。いずれの改変酵素も、60℃、70℃での熱処理後の残存活性は、野生型より高かった。
【0091】
【表9】