(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記水溶性樹脂(A)を含む繊維構造体(B)と前記ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)との間に、厚みが0.01μm〜15μmの水溶性樹脂(E)を含む層(D)を少なくとも1層有する、請求項1記載の積層体。
前記水溶性樹脂(A)を含む繊維構造体(B)の一方の面に水を付与してから、繊維構造体(B)の他方の面に水が達するまでに要する時間が10秒〜5分である、請求項1又は2記載の積層体。
水溶性樹脂(A)を含む繊維構造体(B)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)とを積層するに際し、前記繊維構造体(B)と前記ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)との接合面に水又は水溶液を付与する、積層体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明について、実施の形態とともに詳細に説明する。なお、本明細書において「フィルム」とは、二次元的な広がりを有する構造物、例えば、シート、プレート、不連続な膜等を含む意味に用いる。
【0035】
<ポリ乳酸系樹脂>
本発明に用いるポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量は、3万以上が好ましく、5万以上がより好ましく、さらに好ましくは8万〜40万、さらにより好ましくは10万〜50万である。なお、本発明でいう重量平均分子量とは、ゲルパーミテーションクロマトグラフィー(GPC)でクロロホルム溶媒にて測定を行い、ポリメチルメタクリレート(PMMA)換算法により計算した分子量をいう。ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量を3万以上とすることで、該ポリ乳酸系樹脂を含む本発明のポリ乳酸系樹脂を含む層(C)の機械特性を優れたものとすることができる。
【0036】
本発明に用いるポリ乳酸系樹脂は、塗膜塗工液作成時の溶媒への溶解性向上を目的として、結晶性を有するホモポリ乳酸系樹脂と非晶性のホモポリ乳酸系樹脂を混合してもよい。この場合、非晶性のホモポリ乳酸系樹脂の割合は本発明の効果を損ねない範囲で決定すればよい。また、ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)に比較的高い耐熱性を付与したい場合は、使用するポリ乳酸系樹脂のうち少なくとも1種の光学純度が95%以上のポリ乳酸系樹脂を含むことが好ましい。
【0037】
本発明に用いるポリ乳酸系樹脂は、ポリL−乳酸(L体)及び/又はポリD−乳酸(D体)を主成分とすることが好ましい。ここで主成分とは、乳酸由来の成分が、ポリ乳酸系樹脂を構成する全ての単量体成分100mol%において70mol%以上100mol%以下のものをいい、実質的にポリL−乳酸及び/又はポリD−乳酸のみからなるホモポリ乳酸系樹脂が好ましく用いられる。
【0038】
また、本発明に用いるポリ乳酸系樹脂のポリD−乳酸量は好ましくは4mol%〜50mol%、より好ましくは6mol%〜13mol%である。ポリD−乳酸量が4mol%より小さくなると有機溶媒への溶解性が低下し塗剤化することが困難となる場合があり、50mol%より大きくなると、個人差はあるが代謝され難くなる場合がある。
【0039】
本発明に用いるポリ乳酸系樹脂は、L−乳酸、D−乳酸のほかにエステル形成能を有するその他の単量体成分を共重合した共重合ポリ乳酸系樹脂であってもよい。共重合可能な単量体成分としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸等のヒドロキシカルボン酸類の他、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等の分子内に複数の水酸基を含有する化合物類又はそれらの誘導体、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸等の分子内に複数のカルボン酸基を含有する化合物類又はそれらの誘導体が挙げられる。なお、上記した共重合成分の中でも、用途に応じて生分解性を有する成分を選択することが好ましい。これら共重合成分は、ポリ乳酸系樹脂を構成する全ての単量体成分100mol%において40mol%以下含有することが好ましい。
【0040】
ポリ乳酸系樹脂の製造方法としては、詳細は後述するが、乳酸からの直接重合法、ラクチドを介する開環重合法等を挙げることができる。
【0041】
本発明におけるポリ乳酸系樹脂は、加水分解による強度低下を抑制し、良好な耐久性(長期保管性)を付与する観点から、ポリ乳酸系樹脂中のカルボキシル基末端濃度が30当量/10
3kg以下であることが好ましく、より好ましくは20当量/10
3kg以下、さらに好ましくは10当量/10
3kg以下である。ポリ乳酸系樹脂中のカルボキシル基末端濃度が30当量/10
3kg以下であると、加水分解の自己触媒ともなるカルボキシ基末端濃度が十分低いために、実用的に良好な耐久性を付与できるため好ましい。ポリ乳酸系樹脂中のカルボキシル基末端濃度の下限については特に制限はなく、限りなく0当量に近くても問題ない。
【0042】
ポリ乳酸系樹脂中のカルボキシル基末端濃度を30当量/10
3kg以下とする方法としては、例えば、ポリ乳酸系樹脂の合成時の触媒や熱履歴により制御する方法、層状に成形する際の加工温度の低下あるいは加熱時間の短縮によって熱履歴を低減する方法、反応型化合物を用いカルボキシル基末端を封鎖する方法等が挙げられる。
【0043】
反応型化合物を用いカルボキシル基末端を封鎖する方法では、ポリ乳酸系樹脂中のカルボキシル基末端の少なくとも一部が封鎖されていることが好ましく、全量が封鎖されていることがより好ましい。反応型化合物としては、例えば、脂肪族アルコールやアミド化合物等の縮合反応型化合物やカルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物等の付加反応型化合物が挙げられるが、反応時に余分な副生成物が発生しにくい点で付加反応型化合物が好ましく、中でも反応効率の点からカルボジイミド化合物が好ましい。
【0044】
本発明におけるポリ乳酸系樹脂を含む層(C)には、機械強度を向上させる目的で、ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)全体100質量%において耐衝撃性改良剤を2質量%以上20質量%以下含有してもよい。好ましくは2.5質量%以上15質量%以下である。耐衝撃性改良剤の含有量が多くなるほど、耐衝撃性の改良効果は向上するが、20質量%を超えて含有しても機械強度の大幅な向上は得られない場合がある。
【0045】
本発明に用いる耐衝撃性の向上に用いる耐衝撃性改良剤としては、ポリ乳酸系樹脂中において好適な分散性を有し少量でより高い効果が得られる点で、ポリ乳酸系樹脂以外の脂肪族ポリエステルや脂肪族芳香族ポリエステルが好ましい。
【0046】
ポリ乳酸系樹脂以外の脂肪族ポリエステルや脂肪族芳香族ポリエステルとしては、特に限定されるものではなく、具体的には、ポリグリコール酸、ポリ3−ヒドロキシ酪酸、ポリ4−ヒドロキシ酪酸、ポリ4−ヒドロキシ吉草酸、ポリ3−ヒドロキシヘキサン酸又はポリカプロラクトン、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペート等が挙げられる。
【0047】
さらに機械強度を向上させ、かつ、生分解性を維持するためには、ポリ乳酸系樹脂以外の脂肪族ポリエステルであるポリブチレンサクシネート系樹脂を用いることが好ましい。より好ましくは、機械強度向上の効果が大きくポリ乳酸系樹脂と相溶性のよいポリブチレンサクシネートやポリブチレンサクシネート・アジペートである。
【0048】
本発明に用いるポリブチレンサクシネート系樹脂の重量平均分子量は10万〜30万であることが好ましい。なお、ポリブチレンサクシネート系樹脂は1,4ブタンジオールとコハク酸を重縮合して得られる。
【0049】
本発明におけるポリ乳酸系樹脂は、例えば、次のような方法で得ることができる。原料としては、L−乳酸又はD−乳酸の乳酸成分と、前述した乳酸成分以外のヒドロキシカルボン酸を併用することができる。またヒドロキシカルボン酸の環状エステル中間体、例えば、ラクチド、グリコリド等を原料として使用することもできる。更にジカルボン酸類やグリコール類等も使用することができる。
【0050】
ポリ乳酸系樹脂は、上記原料を直接脱水縮合する方法又は上記環状エステル中間体を開環重合する方法によって得ることができる。例えば直接脱水縮合して製造する場合、乳酸類又は乳酸類とヒドロキシカルボン酸類を好ましくは有機溶媒、特にフェニルエーテル系溶媒の存在下で共沸脱水縮合し、好ましくは共沸により留出した溶媒から水を除き実質的に無水の状態にした溶媒を反応系に戻す方法によって重合することにより高分子量のポリマーが得られる。
【0051】
また、ラクチド等の環状エステル中間体をオクチル酸錫等の触媒を用い、減圧下開環重合することによっても高分子量のポリマーが得られることも知られている。このとき、有機溶媒中での加熱還流時の水分及び低分子化合物を除去する条件を調整する方法や、重合反応終了後に触媒を失活させ解重合反応を抑える方法、製造したポリマーを熱処理する方法等を用いることにより、ラクチド量の少ないポリマーを得ることができる。
【0052】
本発明におけるポリ乳酸系樹脂を含む層(C)の厚みは、被着体への形状追従性の観点から、10nm〜500nmとされるが、10nm〜200nmがより好ましい。10nmより薄くなると形状の保持が困難となる場合があり、500nmを超えると被着体に貼り付けた際に皺が発生する場合がある。
【0053】
本発明の効果を損なわない範囲であれば、各種の添加剤がポリ乳酸系樹脂を含む層(C)全体100質量%に対して30質量%以下含まれていてもよい。該各種の添加剤としては、酸化防止剤、耐候剤、熱安定剤、滑剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、着色剤等が使用できる。添加剤の含有量の下限は特に制限なく、ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)全体100質量%に対して0質量%であっても問題ない。また、透明性を損なわない程度であれば、無機又は有機の粒子がポリ乳酸系樹脂を含む層(C)全体100質量%に対して20質量%以下含まれていてもよい。例えば、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化珪素、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、アルミナ、硫酸バリウム、ジルコニア、リン酸カルシウム、架橋ポリスチレン系粒子、金属ナノ粒子等である。無機又は有機の粒子の含有量の下限は特に制限なく、ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)全体100質量%に対して0質量%であっても問題ない。
【0054】
また、本発明の効果を損ねない範囲でポリ乳酸系樹脂を含む層(C)の少なくとも一面に、ゼラチン、コラーゲン、ヒアルロン酸、キトサン及び合成ポリペプチド等からなる生体吸収性材料層をさらに形成してもよい。
【0055】
<水溶性樹脂(A)、水溶性樹脂(E)>
本発明に用いる水溶性樹脂(A)及び水溶性樹脂(E)は、水、温水や生理食塩水、グルコース溶液等の水溶液に溶解可能な高分子物質である。具体的には、ポリビニルアルコール又はその共重合体、デキストラン、アガロース、プルラン、キトサン、マンナン、カラギーナン、アルギン酸、デンプン類(酸化でんぷん、エーテル化でんぷん、デキストリン等)、アミロース、アミロペクチン、ペクチン、レンチナン、ヒアルロン酸、ハイラン、セルロース誘導体( メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等) 等の多糖類、ゼラチン、コラーゲン、エラスチン、アルブミン、ヘモグロビン、トランスフェリン、グロブリン、フィブリン、フィブリノーゲン、ケラチン硫酸等のポリペプチド、ポリビニルピロリドン、スルホイソフタル酸等の極性基を含有する共重合ポリエステル、ポリヒドロキシエチルメタクリレート又はその共重合体等のビニル系重合体、アクリル系高分子、ウレタン系高分子、エーテル系高分子等が好ましく挙げられる。また、これらの各種重合体をカルボキシル基、アミノ基、メチロール基等の官能基で変性した重合体も好ましく用いることができる。中でも製造コスト、入手し易さ及び衛生性の観点から、ポリビニルアルコール及びプルランが好ましい。
【0056】
ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルの鹸化物であり、鹸化度は80mol%〜99.9mol%が好ましく、85mol%〜98mol%がより好ましい。ポリビニルアルコールの鹸化度が99.9mol%を超える場合には、得られる水溶性樹脂(E)を含む層(D)の水への溶解性が低下する場合があるが、繊維構造体(B)の溶解時間を調整する等目的に応じて水溶性樹脂(A)、水溶性樹脂(E)へ使用することも可能である。なお、本発明におけるポリビニルアルコールにはポリビニルアルコール共重合体も含む。ポリビニルアルコール共重合体としては、ビニルアルコール単位が80mol%〜98mol%が好ましく、85mol%〜98mol%がより好ましい。
【0057】
なお、鹸化度とは、ポリビニルアルコール又はその共重合体が有する鹸化によってビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステル単位)とビニルアルコール単位との合計mol数に対して当該ビニルアルコール単位のmol数が占める割合(mol%)をいう。なお、鹸化度はJIS K6726:1994に準じて測定することができる。
【0058】
プルランは、通常、入手しやすさ及び価格の点で有利であることから、澱粉分解物を含有する培地中でオーレオバシディウム属等の酵母を培養することにより製造されたプルランが有利に用いられる。例えば、株式会社林原商事販売のプルラン(商品名『プルランPI−20』及び『プルランPF−20』等)が好適に使用できる。ただし、これらに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲で、他のプルラン製品を用いることもできる。また、必要に応じて、任意の置換度のエステル化等の修飾を施す等して誘導体化したマルトトリオースを反復単位としてもよい。本発明に用いるプルランの重量平均分子量としては、通常、5,000ダルトン以上、好ましくは、10,000ダルトン以上1,000,000ダルトン以下、より好ましくは50,000ダルトン以上500,000ダルトン以下の範囲が好ましい。なお、プルランの重量平均分子量や分子量分布を選択することによって、水溶性樹脂(E)を含む層(D)を所望の崩壊速度に調節することができる。配合する他の成分にもよるが、重量平均分子量が5,000ダルトン未満であるとシート状の皮膜形成が難しくなる場合があり、1,000,000ダルトンを超えると水性溶媒への溶解速度が小さくなりすぎる場合がある。
【0059】
水溶性樹脂(A)又は水溶性樹脂(E)を構成する水溶性ポリマーの平均重合度は、100〜5,000が好ましく、200〜2,500がより好ましく、400〜1,800がさらに好ましい。ここで、平均重合度とは、数平均重合度のことである。平均重合度がこの範囲にあると、均一な塗膜を形成し易く、かつ塗膜としての機械強度が高く、さらに水溶液への再溶解性に優れるため好ましい。なお、本明細書でいうポリビニルアルコールの平均重合度は、JIS K6726:1994の記載に準じて測定した平均重合度を意味する。
【0060】
本発明においては、平均重合度が異なる2種類以上の水溶性ポリマーを混合して使用してもよい。これにより、塗膜としての高い機械強度と水溶液への再溶解性に加えて、基材フィルムとの密着性及びポリ乳酸系樹脂との密着性も良好な塗膜が得られるため好ましい。
【0061】
平均重合度が100〜800の低重合度の水溶性ポリマーと、平均重合度が1,000〜2,500の高重合度の水溶性ポリマーとの2種類以上を混合して使用することが好ましい。低重合度の水溶性ポリマーは、平均重合度が300〜700のものが好ましい。高重合度の水溶性ポリマーは、平均重合度が1,300〜1,700のものが好ましい。
【0062】
本発明の効果を損ねない範囲であれば、各種の添加剤が水溶性樹脂(A)の全体100質量%あるいは水溶性樹脂(E)の全体100質量%に対して30質量%以下含まれていてもよい。下限値は特に制限なく、0質量%であっても問題ない。該各種の添加剤としては、酸化防止剤、耐候剤、熱安定剤、滑剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、着色剤等が使用できる。また、本発明の効果を損ねない範囲であれば、無機又は有機の粒子が20質量%以下含まれていてもよい。下限値は特に制限なく、0質量%であっても問題ない。例えば、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化珪素、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、アルミナ、硫酸バリウム、ジルコニア、リン酸カルシウム、架橋ポリスチレン系粒子、金属ナノ粒子等が使用できる。
【0063】
<水溶性樹脂(E)を含む層(D)>
本発明において、水溶性樹脂(A)を含む繊維構造体(B)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)との間に水溶性樹脂(E)を含む層(D)を設けてもよい。水溶性樹脂(E)を含む層(D)を設けることにより、水溶性樹脂(A)を含む繊維構造体(B)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)との接着性が向上し、積層体として外部からの応力に対してより安定し、積層体としての取扱い性が向上するためである。
【0064】
本発明における水溶性樹脂(E)を含む層(D)の厚みは、水溶性樹脂(A)を含む繊維構造体(B)への接着強度や積層体としての取扱い性、被着体への形状追従性の観点から、0.01μm〜15μmであることが好ましく、1μm〜15μmがより好ましい。0.01μmより薄くなると繊維構造体(B)との接着が弱くなることで、積層体として取扱いにくくなる場合があり、15μmを超えると被着体に貼り付けた際に皺が発生したり、水への再溶解に時間がかかり、生分解性樹脂と分離しにくくなり、被着体への密着性が低下する場合がある。
【0065】
<水溶性樹脂(A)を含む繊維構造体(B)>
本発明における繊維構造体(B)は、布帛状態はもちろん、帯状物、紐状物、糸状物等、繊維から構成されるものであってもよい。布帛としては、織物、編物、不織布が好ましく、複合材料であってもよい。生産性の観点からは不織布が望ましい。
【0066】
例えば、不織布であれば、特に製造方法は限定されないが乾式法、湿式法、メルトブロー法、スパンボンド法等を用いてフリースを形成し、ケミカルボンド法、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、水流絡合法等を用いて繊維間結合し得ることができる。
【0067】
本発明における繊維構造体(B)に用いられる繊維の平均繊維直径は、水への溶解性、繊維強度の観点から、0.001μm〜100μmであることが好ましい。平均繊維直径を100μm以下とすることにより、十分な柔軟性や形状記憶性を付与することができるため好ましく、一方、平均繊維直径を0.001μm以上とすることにより、紡糸において安定的に製糸することができ、0.1μm以上であれば紡糸時の安定性が増すため好ましい。
【0068】
本発明における繊維構造体(B)に用いられる繊維の形態は特に限定されるものではなく、1種のポリマーから構成されていてもよく、2種類以上のポリマーから構成されていても差し支えない。
【0069】
本発明における繊維構造体(B)の目付(後述する補強層を除く部分)は、1g/m
2〜1,000g/m
2であることが好ましい。上記の目付を、好ましくは10g/m
2以上、より好ましくは15g/m
2以上とすることにより、繊維構造体(B)の形態安定性・寸法安定性に優れ、ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)との貼合時の伸びによる加工ムラ、破れの発生を抑えることができるため好ましい。一方、上記の目付を、好ましくは400g/m
2以下、より好ましくは150g/m
2以下とすることにより、繊維構造体(B)をロール状にした時の取扱い性が容易となり、また、繊維構造体(B)のクッション性を適度に抑え、ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)との貼合時において押付圧を繊維構造体(B)表面に適度に維持でき効率的な貼合加工を行うことができるため好ましい。
【0070】
本発明における繊維構造体(B)の厚み(後述する補強層を除く厚み)は、0.1μm〜5,000μmであることが好ましい。上記の厚みを、好ましくは50μm以上、より好ましくは100μm以上とすることにより、繊維構造体(B)の形態安定性・寸法安定性に優れ、ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)との貼合時の伸びによる加工ムラ、破れの発生を抑えることができるため好ましい。一方、上記の厚みを、好ましくは2,000μm以下、より好ましくは500μm以下とすることにより繊維構造体(B)のクッション性を適度に抑え、ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)との貼合時において押付圧を繊維構造体(B)表面に適度に維持でき、効率的な貼合加工を行うことができるため好ましい。
【0071】
本発明における繊維構造体(B)は水溶性樹脂を含む。これは、後述するように水溶性樹脂を含むことにより、被着体に貼り付けた後に水等の水溶液で繊維構造体(B)を容易に溶解させることができるためである。ここで、水溶性樹脂(A)については前述したとおりである。
【0072】
具体的には、本発明における繊維構造体(B)は、一方の面に水(約0.04ml)を滴下させてから、繊維構造体(B)の他方の面に水が達するまでに要する時間が10秒〜5分であることが好ましい。ここでいう、他方の面に水が達するとは、繊維構造体(B)の他方の面の繊維が溶解し、繊維の形状を保つことができず、溶解したことをいう。10秒以上であれば水分や血液等の存在下において、取り扱うことを容易とすることができるため好ましい。癒着防止材の支持体として用いる場合には、組織に貼り付けるまでに一定の時間を必要とすることから、より好ましくは30秒以上であり、特に好ましくは1分以上である。一方、5分以下であれば組織に貼り付けた後に速やかに除去することができるため好ましい。長時間の耐水性を付与させるには最外層等の水不溶性高分子化合物からなる層を高目付化や高密度化すること等の方法により達成することができるが、その場合、風合いが硬くなる傾向にあるため、好ましくは3分以下であり、特に好ましくは2分以下である。
【0073】
また、本発明における繊維構造体(B)には、繊維構造体(B)の形態安定性・寸法安定性を向上させることを目的に、繊維構造体(B)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)との貼合面の他方の面に補強層を有する構造としてもよい。補強層としては、織物、編物、不織布(紙を含む)、プラスチックフィルム、金属薄膜等を採用することができる。
【0074】
本発明における繊維構造体(B)は、プレス等の処理を施してもよい。プレス処理は、不織布を得る工程後からポリ乳酸系樹脂を含む層(C)との貼合後のいずれの工程間で処理してもよい。プレス時のセット性を高めるため、熱プレスをすることが好ましい。
【0075】
<基材>
後述する積層体の製造方法の項における基材について説明する。本発明において用いられる基材は、水溶性樹脂(E)を含む層(D)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)とを形成するために用いる基材、あるいは、ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)単膜を形成するために用いる基材として使用される。
【0076】
本発明において用いられる基材は、高分子物質からなるフィルムであることが好ましい。基材フィルムの材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン12等のポリアミド、ポリ塩化ビニル、エチレン酢酸ビニル共重合体又はその鹸化物、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンサルファイド、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、セルロース、酢酸セルロース、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、及びこれらの共重合体等が挙げられる。水溶性樹脂(E)を含む層(D)及び、ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)との密着性と積層膜として均一な厚みを確保する観点から、基材フィルムの材料としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル又はポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましい。表面の濡れ張力が高いことから、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルが特に好ましい。
【0077】
水溶性樹脂(E)を含む層(D)又はポリ乳酸系樹脂を含む層(C)を塗膜層として形成する前に、基材フィルムにコロナ放電処理、火炎処理、プラズマ処理、あるいは紫外線照射処理等の表面処理を施すことがより好ましい。
【0078】
基材フィルムは、未延伸フィルム、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルムのいずれでもよいが、寸法安定性及び機械特性の観点から、二軸延伸フィルムが好ましい。
【0079】
また、基材フィルムには、各種の添加剤が含まれていてもよい。例えば、酸化防止剤、耐候剤、熱安定剤、滑剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、着色剤等である。また、著しく表面平滑性を損なわない程度であれば、無機又は有機の粒子を含んでいてもよい。例えば、タルク、カオリナイト、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化珪素、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、アルミナ、硫酸バリウム、ジルコニア、マイカ、リン酸カルシウム、架橋ポリスチレン系粒子等である。
【0080】
上記粒子の平均粒子径は、好ましくは0.001μm〜10μm、より好ましくは0.003μm〜5μmである。なお、ここで平均粒子径は、透過型電子顕微鏡等を用いて10,000μm〜100,000倍の写真を撮影し、数平均により求めた粒子径である。
【0081】
さらに、これらの基材フィルムは、透明であることが好ましい。基材フィルムの全光線透過率は、40%以上が好ましく、60%以上がさらに好ましく、上限は限りなく100%に近くても問題ない。基材フィルムのヘイズは20%以下であることが好ましく、15%以下がより好ましい。ヘイズが20%を超えると、積層された水溶性樹脂(E)を含む層(D)及びポリ乳酸系樹脂を含む層(C)に含まれる不純物に対する光学検査機による検査確認が難しくなる場合がある。ヘイズの下限に特に制限はなく、限りなく0%に近くても問題ない。
【0082】
基材フィルムの厚さは、特に限定されないが、2μm〜1,000μmが好ましく、経済性の観点から10μm〜500μmがより好ましい。
【0083】
<製造方法>
次に、本発明の積層体の代表的な製造方法について述べる。
【0084】
[積層体を製造する方法]
本発明における積層体を製造する方法は、特に限定されないが、例えば次のような方法を用いることができる。
(1)基材となる基材フィルム上に水溶性樹脂(E)を含む層(D)及びポリ乳酸系樹脂を含む層(C)の積層膜を形成、あるいは、ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)の単膜を形成する。
(2)形成したポリ乳酸系樹脂を含む層(C)(水溶性樹脂(E)を含む層(D)がある場合はポリ乳酸系樹脂を含む層(C)と水溶性樹脂(E)を含む層(D)との積層膜)を基材フィルムから剥離する。
(3)形成・剥離した膜と水溶性樹脂(A)を含む繊維構造体(B)とを貼り合わせて積層し、固定する。この積層に際し、形成・剥離した膜と繊維構造体(B)との間に水又は水溶液を付与(例えば、噴霧により付与)する。
【0085】
[ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)単膜の作成方法]
ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)単膜を得る方法としては特に限定しないが、例えば以下の方法が考えられる。
(1)水溶性樹脂(E)を含む層(D)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)との積層膜を基材フィルムから機械的に剥離した後、水溶性樹脂(E)を含む層(D)を水溶液に溶解し、除去することによりポリ乳酸系樹脂を含む層(C)の単膜を得る方法。
(2)水溶性樹脂(E)を含む層(D)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)との積層膜を水溶液に浸漬し、水溶性樹脂(E)を含む層(D)を溶解し、除去することによりポリ乳酸系樹脂を含む層(C)の単膜を得る方法。ここで水溶液としては生理食塩水、グルコース溶液等、種々の水溶液を用いることができるが、特に水が好ましく用いられる。
(3)平滑な基材フィルムにポリ乳酸系樹脂を含む層(C)を積層し、基材フィルムからポリ乳酸系樹脂を含む層(C)を機械的に剥離することによりポリ乳酸系樹脂を含む層(C)の単膜を得る方法。ただし、ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)が薄く、加工が困難になる場合や、ピンホール等の欠点が発生しやすくなる場合があるので可能であれば水溶性樹脂(E)を含む層(D)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)との積層膜での作成が好ましい。
【0086】
[ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)と水溶性樹脂(E)を含む層(D)との積層膜の作成方法]
1.水溶性樹脂(E)を含む層(D)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)の積層
基材の片面に水溶性樹脂(E)を含む層(D)、及びポリ乳酸系樹脂を含む層(C)の順に積層する。
【0087】
積層方法は特に限定しないが、グラビアコーティング、ダイレクトリップコーティング、スロットコーティング、コンマコーティング、インクジェット、シルクスクリーン印刷等が挙げられる。基材としては特に限定しないが硝子板、金属板、プラスチックフィルム等が挙げられ、経済性の観点から、プラスチックフィルムを基材フィルムとして用いるのが望ましく、特に表面平滑性を有するプラスチックフィルムが望ましい。
【0088】
基材として、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル又はポリプロピレン等のポリオレフィンの二軸延伸フィルムを用いる場合には、二軸延伸フィルム製膜工程後にコートするオフラインコート、二軸延伸フィルム製膜工程内でコートするインラインコートのどちらの方法を用いてもよい。
【0089】
インラインコートが用いられる場合には、フィルムが熱固定される前にコーティングを行うことが好ましい。熱固定とは、延伸されたフィルムを延伸温度より高く、またフィルムの融点より低い温度で保持したまま熱処理することによって、フィルムを結晶化させることである。したがって、未延伸フィルム、長手方向又は横手方向への一軸延伸直後のフィルムあるいは二軸延伸直後のフィルムへのコーティングが好ましい。より好ましくは一軸延伸直後のフィルムへのコーティングであり、その後フィルムをさらに一軸以上に延伸、熱固定することがさらに好ましい。塗膜の乾燥方法は、熱ロール接触法、熱媒(空気、オイル等)接触法、赤外線加熱法、マイクロ波加熱法等が利用できる。
【0090】
基材フィルムの上にオフラインコートで塗膜を形成する方法は、高速で薄膜コートすることが可能である点で、塗膜の構成成分を各種溶媒に分散させた溶液を、グラビアコート、リバースコート、スプレーコート、キッスコート、コンマコート、ダイコート、ナイフコート、エアーナイフコートあるいはメタリングバーコートするのが好適である。基材フィルムは、塗布前に接着促進処理、例えば空気中、窒素ガス中、窒素/炭酸ガスの混合ガス、その他の雰囲気下でのコロナ放電処理、減圧下でのプラズマ処理、火炎処理、紫外線処理等を施すことがより好ましい。さらに、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレンイミン等のアンカー処理剤を用いてアンカー処理を施してもよい。
【0091】
水溶性樹脂(E)を含む層(D)の塗膜の乾燥は、オフラインコートの場合には60℃〜180℃、インラインコートの場合には80℃〜250℃の範囲内で行われることが好ましい。乾燥時間は、好ましくは1秒〜60秒、より好ましくは3秒〜30秒である。
【0092】
ポリ乳酸系樹脂塗膜の乾燥は、オフラインコートの場合には60℃〜110℃、インラインコートの場合には80℃〜180℃の範囲内で行われることが好ましい。乾燥時間は、好ましくは1秒〜60秒、より好ましくは3秒〜30秒である。
【0093】
2.水溶性樹脂(E)を含む層(D)と基材との単離
次に、基材と水溶性樹脂(E)を含む層(D)との界面を機械的に剥離し、水溶性樹脂(E)を含む層(D)又は水溶性樹脂(E)を含む層(D)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)との積層膜を得る。
【0094】
3.積層膜の支持体への固定
さらに、得られた単膜又は積層膜を、ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)と支持体とが接触するように設置する。支持体は特に限定しないが、硝子板、金属板、プラスチックフィルム等が挙げられ、経済性の観点から、プラスチックフィルムを支持体として用いるのが好ましく、特に、表面離型性を有するプラスチックフィルムが好ましい。
【0095】
4.水溶性樹脂(E)を含む層(D)又は繊維構造体(B)の表面の溶解
次に水溶性樹脂(E)を含む層(D)、あるいは水溶性樹脂(A)を含む繊維構造体(B)に水溶液を塗布し、表層の一部を溶解させる。また、水溶性樹脂(E)を含む層(D)は、この工程により完全に除去されてもかまわない。
【0096】
水溶液は特に限定しないが、純水、アルコール水溶液、ミネラル分散液、薬剤分散水溶液等が挙げられるが、経済面から純水が望ましい。
【0097】
5.水溶性樹脂(A)を含む繊維構造体(B)の固定
単膜又は積層膜と繊維構造体(B)との貼合方法は、特に限定されないが、水溶性樹脂(E)を含む層(D)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)との積層膜における水溶性樹脂(E)を含む層(D)の表面、あるいは繊維構造体(B)に水又は水溶液を吹きかけて溶解させ、溶解させた面と、それぞれの水溶性樹脂を含む層の面側を接触させて溶着させる方法や、ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)単体としてからポリ乳酸系樹脂を含む層(C)単体表面に水又は水溶液を吹きかけた後、繊維構造体(B)と接触させ、ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)に接触する繊維構造体(B)の表面を溶かして接着させる方法等がある。
【0098】
[水又は水溶液の噴霧方法]
上記水又は水溶液の噴霧方法は特に限定されないが、スプレーやシャワー等の噴霧器を用いて液体を微細な形状で広範囲に均一分散できればよく、例えば、蓄圧式スプレー、ノズルスプレー法(二流体ノズル、三流体ノズル、四流体ノズル)、インクジェット法等を用いることができる。
【0099】
[貼り合わせ方法]
本発明における貼り合わせ方法としては、下記2種類の方法が好ましい。
貼り合わせ方法A:繊維構造体(B)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)単膜又は水溶性樹脂(E)を含む層(D)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)との積層膜とが別々の平板上に固定された状態で貼り合わせる方法
貼り合わせ方法B:繊維構造体(B)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)単膜又は水溶性樹脂(E)を含む層(D)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)との積層膜とを重ね合せ2本のロール間に挟んで貼り合わせる方法。
【0100】
[水溶性樹脂(A)又は水溶性樹脂(E)を含む塗剤]
水溶性樹脂(A)又は水溶性樹脂(E)を含む塗剤は、水溶性樹脂(E)を含む層(D)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)を含む層の積層膜と、水溶性樹脂(A)を含む繊維構造体(B)を貼り合わせる際に、使用することができる。
【0101】
水溶性樹脂(A)又は水溶性樹脂(E)を含む塗剤としては、構成成分が均一に溶解した溶液が好ましい。溶媒としては、水又は水と低級アルコールの混合溶液が好ましく用いられる。水と低級アルコールの混合溶液を用いることがより好ましい。
【0102】
水溶性樹脂(A)又は水溶性樹脂(E)を含む塗剤の固形分濃度は、塗剤の粘度、乾燥効率、塗工性等の生産性の観点から、1.0質量%以上が好ましく、15質量%以下が好ましい。15質量%を超える高濃度塗剤を用いると溶液粘度が高くなりすぎ、水溶性樹脂(E)を含む層(D)の厚みを制御することが難しくなる場合がある。1.0質量%未満の低濃度塗剤を用いる場合は、塗剤の溶媒に水との親和性のある揮発性の高い低沸点溶媒を加える方法、塗膜の乾燥を水の沸点以上の温度で行う方法等が用いられる。
【0103】
また、塗布性を付与するために、水溶性樹脂(A)又は水溶性樹脂(E)を含む塗剤の安定性が維持される範囲内であれば、混合溶媒中に第3成分として他の水溶性有機化合物が含まれていてもよい。水溶性有機化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、n−ブチルセロソルブ等のグリコール誘導体、グリセリン、ワックス類等の多価アルコール類、ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル等のエステル類、メチルエチルケトン等のケトン類が挙げられる。また、分散溶液のpHは溶液の安定性の点から2〜11が好ましい。
【0104】
[ポリ乳酸系樹脂を含む塗剤]
ポリ乳酸系樹脂を含む塗剤としては、構成成分が均一に溶解した溶液が好ましい。溶媒としては、特に限定しないが、ブチルアルコール、クロロホルム、シクロヘキサン、アセトニトリル、ジクロロメタン、ジクロロエタン、酢酸エチル、エチルエーテル、ジプロピルエーテル及びトルエンからなる群から選択される少なくとも単一溶媒もしくは2種類以上の混合溶液を用いることが好ましい。生産性、取扱い性の観点から、酢酸エチルが特に好ましい。
【0105】
ポリ乳酸系樹脂を含む塗剤の固形分濃度は、特に限定しないが塗剤の粘度、乾燥効率、塗工性等の生産性の観点から1.0質量%以上が好ましく、10質量%以下が好ましい。
【0106】
また、塗布性を付与するために、ポリ乳酸系樹脂を含む塗剤の安定性が維持される範囲内であれば、溶液中に第3成分として他の有機化合物が含まれていてもよい。
【0107】
[塗剤の調製方法]
水溶性樹脂(A)又は水溶性樹脂(E)を含む塗剤及びポリ乳酸系樹脂を含む塗剤の調製方法は、特に限定されないが、本発明の効果を損ねない範囲で架橋剤、粒子等の各種の添加剤を加える場合は、塗剤中で樹脂と該添加剤が均一に分散していることが好ましい。必要に応じて、ヒーター等で溶媒の温度を上げて樹脂の溶解度を上げたり、せん断力、ずり応力のかかるホモミキサー、ジェットアジター、ボールミル、ビーズミル、ニーダー、サンドミル、3本ロール等の装置を用いて、機械的な強制分散処理をしたりする方法を用いてもよい。
【0108】
[積層体の使用方法]
腹腔手術においては腹腔に小さな穴をあけ、内視鏡を用いて行う方が開腹手術よりも人体に負担が少なく好ましい。その場合、積層体はトロッカー等の細い筒状容器を通って目的とする部位に貼り付けられることになる。そのような場合、本発明の積層体はトロッカーの通過性及びトロッカーを通過した後の積層体の展開性が良好なことから、内視鏡を用いた手術に特に好適に用いることができる(ここでいう展開性が良好であるとは、トロッカー等に一旦押し込まれた積層体がトロッカー等を通過した後、容易に鉗子等で元通りに広げられることをいう)。
【0109】
本発明の積層体は、例えば
図1に示すような構成を有する。すなわち、水溶性樹脂(A)を含む繊維構造体(B)1の少なくとも一面に、所定厚みのポリ乳酸系樹脂を含む層(C)2を1層以上有することを特徴とする積層体3である。
【0110】
本発明の積層体の使用方法としては、
図2に示す使用方法が一例として挙げられる。すなわち、筒状容器5の一方の開口部から、押し込み治具4を用いて、本発明の積層体3を容器5内部に押し込み、他方の開口部から積層体3を送り出し、積層体3を被着体6の表面に貼り付けた後、積層体3に液体を塗布し繊維構造体(B)1(
図1に図示)を溶解させることにより繊維構造体(B)を除去し、ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)2(
図1に図示)を被着体6の表面に残すようにした積層体の使用方法である。
【0111】
[用途]
本発明における積層体は、生体内や水分が付着する環境下でも使用可能な創傷被覆膜、癒着防止膜等の医療用途に好適に使用できる。
【実施例】
【0112】
以下に、本発明に係る積層体についての実施例、比較例(実施例1〜12、比較例1〜8)と、本発明に係る積層体の製造方法についての実施例、比較例(実施例13〜16、比較例9〜13)について説明する。まず、本発明において用いた特性の評価方法は以下の通りである。
【0113】
(1)繊維構造体(B)の目付
目付はJIS L 1096 8.3.2(1999)に記載された方法で測定した。
【0114】
(2)積層体、繊維構造体(B)、水溶性樹脂(E)を含む層(D)、ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)の厚み
積層体の状態から測定する場合は、まずダイヤルシックネスゲージ((株)尾崎製作所製、商品名:ピーコックH、目量0.01mm、測定力1.8N以下)を用い、各サンプルを10点測定した平均値を積層体の総厚みとした。ただし、総厚みが0.05mm未満の場合は、より精度の高いダイヤルシックネスゲージ(テクロック社製SM−1201L、目量0.001mm、測定力1.5N以下)を使用した。
【0115】
次に、各層の厚みを測定するために、厚み方向に垂直な断面をミクロトームにて作成し、走査型電子顕微鏡(SEM、キーエンス社製VE−7800型)を用い、各観察層が視野角の10%〜90%に収まるように倍率を2,500倍〜100,000倍の範囲で適宜調整し、観察した。各層の厚みは同一サンプルの異なる10点の断面を測定した平均値とした。各層の厚みが0.1μm以下となり、上述の方法で観察が難しい場合は高分解能透過型電子顕微鏡(日本電子社製、JEM−2100)を用い倍率を500,000倍〜1,000,000倍とし同様に観察した。それでも判断が難しい場合は観察画像を保存し、その画像を適宜拡大(例えばA3サイズで印刷する等)し、厚みを判断した。繊維構造体(B)の厚みは積層体総厚みから、水溶性樹脂(E)を含む層(D)及びポリ乳酸系樹脂を含む層(C)の厚みを引いたものとした。なお、補強層を有する場合の繊維構造体(B)の厚みは、積層体総厚みから、水溶性樹脂(E)を含む層(D)、ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)及び補強層の厚みを引いたものとした。すなわち、補強層を有する場合の繊維構造体(B)の厚みは、補強層の厚みを含まない繊維構造体(B)のみの厚みをいうものとする。
【0116】
(3)繊維構造体(B)の溶解性評価
試験片の表面からビュレットの先端までが10mmの高さになるように調整した。ビュレットから水を1滴(約0.04ml)、繊維構造体(B)の試験片の一方の面に滴下させたときを開始時間として、水が他方の面まで浸透して溶解したときを終了時間とし、開始時間から終了時間までに要する時間を測定した。ここでいう溶解とは、繊維の形状を維持できずに崩れることとし、多方面から目視確認して判断する。溶解終了までに要した時間が10秒以上5分未満の場合はA、5分以上の場合はB、10秒未満の場合はCとした。
【0117】
(4)作業性
(a)べたつき
Siゴム(共和工業製、硬度20度、3cm×1cm)を2枚準備し、温度23±5℃、相対湿度65±20%環境下にて、2枚のSiゴム表面に純水が均一に付着する様、それぞれ1枚当たり5mgとなるよう吹付けた。
【0118】
その後、5cm×5cmの試験片を2枚の湿ったSiゴムにて1秒間、5Nの力で挟み、Siゴムの長尺側が地面に直交するように空中に保持し、一方のSiゴムを固定し、他方のSiゴムを地面と水平に1.5m/minの速度で剥がした際に、試験片がSiゴムに付着せず落下するかどうか確認した。Siゴムから離れて落下した場合はA、Siゴムに付着し落下せず、試験片に破壊が起こらなかった場合はB、Siゴムに付着し落下せず、試験片に破壊が起こった場合はCとした。
【0119】
(b)トロッカー通過性
9cm×12cmの試験片と、一般的な腹腔鏡手術で使用されるトロッカーを使用し、下記の条件で柔軟性の評価を行った。また、トロッカー及び送り出し棒は下記(i)、(ii)を使用した。送り出しはトロッカー穴部分に試験片のポリ乳酸樹脂を含む層(C)側が当たるよう設置し、押し込み、トロッカーを通過するかどうか、また通過した後、手で試験片を広げて元通り展開するかどうかを評価した。また、手術中の使用も想定して、トロッカー内を湿らせる試験も実施した。なお、トロッカーを通過しなかったものについては展開性の評価はできなかった。
【0120】
(i)トロッカー:コヴィエン社製バーサポート
TM V2、5mmショート(穴:φ5mm、筒長さ9cm)
送り出し棒:先端に半球状(φ2mm)のSiゴム(共和工業製、硬度20度、3cm×1cm)を接着したφ2mmのアクリル棒
(ii)トロッカー:コヴィエン社製VERSASEAL*PLUS 12mm(穴:12mm、筒長さ13cm)
送り出し棒:先端に半球状(φ3mm)のSiゴム(共和工業製、硬度20度、3cm×1cm)を接着したφ3mmのアクリル棒
【0121】
評価は表1のようにした。
評価A:条件1を満たしたもの(条件2以降の試験は行わなかった)。
評価B:条件1は満たさなかったが、条件2を満たしたもの(条件3以降の試験は行わなかった)。
評価C:条件1、2は満たさなかったが、条件3を満たしたもの(条件4以降の試験は行わなかった)。
評価D:条件1〜3は満たさなかったが、条件4を満たしたもの(条件5の試験は行わなかった)。
評価E:条件1〜4を満たさなかったが、条件5を満たしたもの。
【0122】
【表1】
【0123】
(c)貼り直し性
100mgの純水を噴霧し、湿らせたPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(東レ(株)製、“ルミラー”(登録商標)#100T60、サイズ5cm×5cm)に、試験片(サイズ10cm×10cm)のポリ乳酸系樹脂を含む層(C)側を貼り、5秒間その状態を保った。
【0124】
その後、接着していない部分を持って、試験片の破壊が起こらず容易に剥がすことができるものをA、剥がすことは可能だがその最中に試験片内で剥離や30%以上面積が収縮してしまった場合はBとし、千切れる等の破壊があり剥がせなかった場合はCとした。
【0125】
(5)密着性−1(実施例1〜12、比較例1〜8)
100mgの純水を噴霧し、湿らせたPETフィルム(東レ(株)製、“ルミラー”(登録商標)#100T60、サイズ5cm×5cm)の中央に、試験片(サイズ3cm×3cm)のポリ乳酸系樹脂を含む層(C)側を貼り付け、10秒間乾燥したSiゴム(共和工業製、硬度20°、3cm×1cm)で押さえて密着させた。その後、PETフィルムごと試験片を底面が12cm×5cmの容器へ移し、試験片上部より12gの純水を静かに投入し、繊維構造体(B)を溶解、除去した。次に、PETフィルムごと試験片を溶液中より取り出し、温度25℃、相対湿度90%環境の恒温恒湿槽(エスペック(株)社製LHU−113)内にて縦置きした状態で1時間以上放置し、余分な水分を試験片から取り除いた。
【0126】
続いて、PETフィルムごと試験片を恒温恒湿機より取り出し、素手にてPETフィルムと試験片がずれるかどうか確認し、ズレなかったものをA、ズレたものをB、膨潤し試験片がズレているのか、伸びているのか確認が取れなかったものをCとした。
【0127】
(6)外観
積層体を目視評価した。評価指標は下記の通りである。
評価A:平面性が良好で、弛み、しわ、溶解部分は見られない。
評価B:平面性が悪く、軽微な弛み、しわ、溶解部分が見られる。
評価C:平面性が悪く、大部分に、弛み、しわ、溶解部分や穴が見られる。
【0128】
(7)密着性−2(実施例13〜16、比較例9〜13)
両手を使ってポリ乳酸系樹脂を含む層(C)の単膜又は水溶性樹脂(E)を含む層(D)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)の積層膜と繊維構造体(B)とを分離し感応評価した。評価指標は下記の通りである。
評価A:単膜又は積層膜と繊維構造体(B)との分離が困難であり、単膜又は積層膜、繊維構造体(B)のうち少なくともいずれかに一方に全面的に材料破壊を生じる。
評価B:単膜又は積層膜と繊維構造体(B)との分離がやや困難であり、単膜又は積層膜、繊維構造体(B)のうち少なくともいずれかに一方に部分的に軽微な材料破壊を生じる。
評価C:単膜又は積層膜と繊維構造体(B)とを容易に分離でき、単膜又は積層膜、繊維構造体(B)のうち少なくともいずれかに一方に部分的に軽微な材料破壊を生じる、もしくは材料破壊を生じない。
【0129】
(8)環境負荷(有機溶剤使用量)(実施例13〜16、比較例9〜13)
評価指標は下記の通りである。
評価A:貼り合わせ作業の際の有機溶剤使用量が5g/m
2未満
評価B:貼り合わせ作業の際の有機溶剤使用量が5g/m
2以上100g/m
2未満
評価C:貼り合わせ作業の際の有機溶剤使用量が100g/m
2以上。
【0130】
(9)貼り合わせ作業性(加熱温度)(実施例13〜16、比較例9〜13)
評価指標は下記の通りである。
A:貼り合わせ作業の際に50℃以上の加熱体を用いない。
B:貼り合わせ作業の際に50℃以上100℃未満の加熱体を用いる。
C:貼り合わせ作業の際に100℃以上の加熱体を用いる。
【0131】
実施例1〜12、比較例1〜8に使用した材料と、実施例13〜16、比較例9〜13に使用した材料及び装置のそれぞれについて以下に説明する。
【0132】
まず、実施例1〜12、比較例1〜8に使用した材料について説明する。
[使用した基材フィルム]
(PET−1):
2軸延伸ポリエステルフィルム(東レ(株)製 “ルミラー”(登録商標)タイプ:T60、厚み100μm)。
【0133】
[使用したポリ乳酸系樹脂]
(PLA−1):
ポリD−乳酸量50mol%、融点なし(非晶質)、PMMA換算の重量平均分子量40万のポリL−乳酸−D−乳酸共重合系樹脂。(PURAC社製 PURASORB PDL20)。
【0134】
(PLA−2):
ポリD−乳酸量1.4mol%、融点150℃、PMMA換算の重量平均分子量22万のポリL−乳酸系樹脂。(Nature Works社製 4032D)。
【0135】
[使用した水溶性樹脂(A)、水溶性樹脂(E)]
(プルラン−1)
数平均分子量 約200,000ダルトン、粘度100〜180mm
2/秒(温度30℃、固形分濃度10質量%水溶液)のプルラン(株式会社林原商事販売 プルランPI−20)。
【0136】
(PVA−1)
鹸化度96.5mol%、粘度27.5mPa・s(4質量%水溶液、20℃)のポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール(株)社製JM−17)。
【0137】
(ゼラチン−1)
ゼラチン粉末(新田ゼラチン(株)社製、医療用)。
【0138】
(コラーゲン−1)
ブタ由来コラーゲン粉末(日本ハム(株)社製、SOFDタイプ)。
【0139】
[使用した繊維構造体(B)]
(構造体−1)
水溶性樹脂(A)としてプルラン−1を用いてメルトブロー方式にて目付50g/m
2、厚み300μmの不織布を作成した。
【0140】
(構造体−2)
水溶性樹脂(A)としてプルラン−1を用いてメルトブロー方式にて目付1g/m
2、厚み10μmの不織布を作成した。
【0141】
(構造体−3)
水溶性樹脂(A)としてPVA−1を用いてメルトブロー方式にて目付30g/m
2、厚み300μmの不織布を作成した。
【0142】
(構造体−4)
水溶性樹脂(A)としてプルラン−1を用いてメルトブロー方式にて目付200g/m
2、厚み1,000μmの不織布を作成した。
【0143】
(構造体−5)
水溶性樹脂(A)としてプルラン−1を用いてメルトブロー方式にて目付1,000g/m
2、厚み5,000μmの不織布を作成した。
【0144】
(構造体−6)
水溶性樹脂(A)としてプルラン−1を用いてメルトブロー方式にて目付1,500g/m
2、厚み6,000μmの不織布を作成した。
【0145】
(構造体−7)
水溶性樹脂(A)としてコラーゲン−1を用いて湿式紡糸方式にて目付10g/m
2、厚み80μmの不織布を作成した。
【0146】
(構造体−8)
水溶性樹脂(A)としてプルラン−1を用いてメルトブロー方式にて目付300g/m
2、厚み1,700μmの不織布を作成した。
【0147】
次に、実施例13〜16、比較例9〜13に使用した材料及び装置について説明する。
【0148】
[使用した基材フィルム]
(PET−1)(前述と同じ基材フィルム):
2軸延伸ポリエステルフィルム(東レ(株)製 “ルミラー”(登録商標)タイプ:T60、厚み100μm)。
【0149】
[ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)に使用した樹脂]
(PLA−3)
ポリD−乳酸量12mol%、融点150℃、PMMA換算の重量平均分子量22万のポリL−乳酸系樹脂(NatureWorks社製 4060D)。
【0150】
[使用した水溶性樹脂(A)]
(PVA−2)
鹸化度88mol%、粘度5mPa・s(4質量%水溶液、20℃)のポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)社製 “ゴーセノール”(登録商標) EG−05P)。
【0151】
[使用した繊維構造体(B)]
PVA−2を用いてメルトブロー方式にて目付け30g/m
2、厚み300μmの不織布を作成した。サイズ100mm×100mmとなるようにサンプリングした。
【0152】
[付与される水溶液としての水溶性樹脂を含む水溶液(F)]
加温式ホモジナイザーを用いてPVA−2を水に溶解し、固形分濃度1質量%の水溶性樹脂エマルション液を作成した。
【0153】
[貼り合わせ方法Aに使用した平板]
(平板−1)
厚み5mm、サイズ300mm×300mm、表面仕上げ2BのSUS304板を用いた。
【0154】
[貼り合わせ方法Bに使用したロール]
図3に示すように、ロール芯材がアルミニウム、表面材質がニトリルゴム(NBR、硬度30度)の直径5cm、幅30cm、質量1kgのゴムロール2本(11、12)を、互いに接する方向に回転できるように(回転方向13)軸を固定した。上方のロール11は、下方のロール12に対し自重のみが掛かるように軸が上下方向に可動できるようにした。
【0155】
[貼り合わせに使用した噴霧器]
蓄圧式スプレー(マルハチ産業社製)を用いた。
【0156】
(実施例1)
加温式ホモジナイザーを用いて水溶性樹脂としてプルラン−1を水に溶解し、水溶性樹脂エマルション液を作成し、基材フィルムPET−1の片面に、アプリケーター法にて乾燥後の膜厚が3μmになるように塗布し、熱風乾燥式ドライヤー内にて90℃で20秒間乾燥し基材フィルム上に水溶性樹脂(E)を含む層(D)を作成した。
【0157】
さらに、ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)としてPLA−1を酢酸エチルに溶解した溶液を、メタリングバーを用いて乾燥後の膜厚が150nmになるように水溶性樹脂(E)を含む層(D)上に塗布し、熱風乾燥式ドライヤー内にて80℃で20秒間乾燥しポリ乳酸系樹脂を含む層(C)を設け積層膜を作成した。
【0158】
水溶性樹脂(E)とポリ乳酸樹脂からなる積層膜を基材フィルムから剥がし、水溶性樹脂(E)を含む層(D)に、霧吹きにて純水を5g/m
2となるように塗布した後、速やかに構造体−1と貼合した。得られた構造体と積層膜が積層された積層体の評価結果を表2に示した。
【0159】
(実施例2)
ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)の厚みを50nmとしたこと以外は実施例1と同様にして繊維構造体(B)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)とが積層された積層体を作成した。
【0160】
(実施例3)
ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)の厚みを10nm、水溶性樹脂(E)を含む層(D)の乾燥後の膜厚が1μmとなるように作成したこと以外は実施例1と同様にして繊維構造体(B)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)とが積層された積層体を作成した。
【0161】
(実施例4)
ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)の厚みを500nm、水溶性樹脂(E)を含む層(D)の乾燥後の膜厚が1μmとなるように作成したこと以外は実施例1と同様にして繊維構造体(B)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)とが積層された積層体を作成した。
【0162】
(実施例5)
水溶性樹脂(E)を含む層(D)の膜厚が0.01μmになるように塗布した以外は実施例1と同様にして繊維構造体(B)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)とが積層された積層体を作成した。
【0163】
(実施例6)
水溶性樹脂(E)を含む層(D)の膜厚が15μmになるように塗布した以外は実施例1と同様にして繊維構造体(B)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)とが積層された積層体を作成した。
【0164】
(実施例7)
繊維構造体(B)を構造体−1ではなく構造体−2とした以外は、実施例1と同様にして繊維構造体(B)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)とが積層された積層体を作成した。
【0165】
(実施例8)
繊維構造体(B)を構造体−1ではなく構造体−3とし、水溶性樹脂(E)を含む層(D)にPVA−1を使用し乾燥後の膜厚が3μmになるようにした以外は、実施例1と同様にして繊維構造体(B)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)とが積層された積層体を作成した。
【0166】
(実施例9)
繊維構造体(B)を構造体−1ではなく構造体−4とした以外は、実施例1と同様にして繊維構造体(B)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)とが積層された積層体を作成した。
【0167】
(実施例10)
繊維構造体(B)を構造体−1ではなく構造体−5とした以外は、実施例1と同様にして繊維構造体(B)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)とが積層された積層体を作成した。
【0168】
(実施例11)
繊維構造体(B)を構造体−1ではなく構造体−8とした以外は、実施例1と同様にして繊維構造体(B)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)とが積層された積層体を作成した。
【0169】
(実施例12)
ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)の厚みを500nm、水溶性樹脂(E)を含む層(D)の乾燥後の膜厚が1μmとなるように作成し、得られた積層膜を水洗し、水溶性樹脂を含む層を除去した。また、純水を塗布する箇所を構造体−1の4隅にした以外は実施例1と同様にして繊維構造体(B)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)とが積層された積層体を作成した。
【0170】
(比較例1)
ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)の厚みを1,000nmとしたこと以外は実施例1と同様にして繊維構造体(B)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)とが積層された積層体を作成した。
【0171】
(比較例2)
実施例1と同様にして水溶性樹脂(E)を含む層(D)を形成し、積層膜を作成した。その後、ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)にPLA−2を用いるため、PLA−2を加温した酢酸エチル(60℃−90℃)に溶解しようとしたが、PLA−2が酢酸エチルに溶解せず塗工できなかった。
【0172】
(比較例3)
ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)の代わりにゼラチン−1層を形成し、その厚みを1,000nmにしたこと以外は実施例1と同様にして繊維構造体(B)とゼラチン層とが積層された積層体を作成した。
【0173】
(比較例4)
ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)の厚みを1,000nmとし、水溶性樹脂(E)を含む層(D)の厚みを30μmとにしたこと以外は実施例1と同様にして繊維構造体(B)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)とが積層された積層体を作成した。
【0174】
(比較例5)
ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)の厚みを1,000nmとし、繊維構造体(B)を構造体−1ではなく構造体−6とした以外は、実施例1と同様にして繊維構造体(B)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)とが積層された積層体を作成した。
【0175】
(比較例6)
ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)の厚みを1,000nmとし、水溶性樹脂(E)を含む層(D)をコラーゲン−1にし、繊維構造体(B)を構造体−1ではなく構造体−7とした以外は、実施例1と同様にして繊維構造体(B)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)とが積層された積層体を作成した。
【0176】
(比較例7)
ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)の代わりにプルラン層を形成し、その厚みを300nmにしたこと以外は実施例1と同様にして繊維構造体(B)とプルラン層とが積層された積層体を作成した。
【0177】
(比較例8)
水溶性樹脂(E)とポリ乳酸樹脂からなる積層膜を基材フィルムから剥がしたところで作業を終了し、繊維構造体(B)と貼合作業を未実施にした以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸系樹脂を含む層(C)の積層膜を作成した。
【0178】
実施例1〜12、比較例1〜8の特性結果を表2〜5に記す。
【0179】
【表2】
【0180】
【表3】
【0181】
【表4】
【0182】
【表5】
【0183】
実施例1〜12では繊維構造体(B)の溶解性、べたつき、トロッカー通過性、貼り直し性、密着性の評価は良好であった。比較例1〜8はいずれかの項目で不良な点があった。特記すべき点について記載する。
【0184】
トロッカー通過性に関して、比較例3,7では、トロッカー穴設置面が非水溶性樹脂(ポリ乳酸樹脂)ではなく水溶性樹脂(ゼラチン、プルラン)となったため、トロッカー内に水分があった場合は、樹脂層が膨潤し、破け、通過不可となった。また、比較例8では膜強度が足りず、破けてしまい、通過不可であった。
【0185】
密着性に関して、比較例3,7では積層体全体が水溶性樹脂で形成されているため、膨潤し、密着性はC判定となった。また、比較例4,5ではそれぞれ請求の範囲外の構成厚みとなり、水溶性樹脂が除去しきれなかったため、密着性はB判定となった。
【0186】
(実施例13)
加温式ホモジナイザーを用いてPVA−2を水に溶解し、水溶性樹脂エマルション液を作成し、PET−1の片側に、メタリングバーを用いて乾燥後の膜厚が3μmになるように塗布し、熱風乾燥式ドライヤー内にて90℃で20秒間乾燥しPET−1上に水溶性樹脂を含む層(D)を作成した。
【0187】
さらに、ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)としてPLA−3を酢酸エチルに溶解した溶液を、メタリングバーを用いて乾燥後の膜厚が500nmになるように水溶性樹脂を含む層(D)の上に塗布し、熱風乾燥式ドライヤー内にて70℃で20秒間乾燥しポリ乳酸系樹脂を含む層(C)を設けた。
【0188】
PET−1、水溶性樹脂を含む層(D)、ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)が積層された平面構造体をサイズ100mm×100mmとなるようにサンプリングし、純水に浸漬して水溶性樹脂を含む層(D)を溶解させポリ乳酸系樹脂を含む層(C)単体を得た。
【0189】
以下の作業は常温常湿(20℃±15℃、65%RH±20%RH)環境にて実施した。
平板−1を2枚用いて、繊維構造体(B)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)を別々の平板の表面に固定し、繊維構造体(B)に、噴霧器を用いて100mm×100mmの基材表面全体に純水を5g/m
2となるように噴霧した。その後、繊維構造体(B)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)の平行状態を保ちながら四隅の位置がほぼ一致するように、速やかに貼り合わせた。評価結果は表6に示されるとおりであった。
【0190】
(実施例14)
以下の作業は常温常湿(20℃±15℃、65%RH±20%RH)環境にて実施した。
PET−1(300mm×300mm)を2枚用いて、繊維構造体(B)と実施例13と同様にして得たポリ乳酸系樹脂を含む層(C)単体を別々にPET−1の表面に固定した。次にPET−1に固定した繊維構造体(B)に、噴霧器を用いて100mm×100mmの繊維構造体(B)の表面全体に純水を5g/m
2となるように噴霧した。その後、繊維構造体(B)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)の四隅の位置がほぼ一致するように、速やかに2本のロールの間を通し貼り合わせた(
図4)。なお、
図4における11は上方ロール、12は下方ロール、13は回転方向、14はPET−1をそれぞれ示している。評価結果は表6に示されるとおりであった。
【0191】
(実施例15)
以下の作業は常温常湿(20℃±15℃、65%RH±20%RH)環境にて実施した。
ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)の乾燥後の厚みを150nmとしたこと以外は実施例13と同様にして得た平面構造体を用いて、ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)と水溶性樹脂を含む層(D)からなる積層膜をPET−1から物理的に剥がした。次に、剥離した積層膜をサイズ100mm×100mmとなるようにサンプリングし、積層膜のポリ乳酸系樹脂を含む層(C)が平板−1側となるように固定したこと以外は実施例13と同様にして貼り合わせた。評価結果は表6に示されるとおりであった。
【0192】
(実施例16)
以下の作業は常温常湿(20℃±15℃、65%RH±20%RH)環境にて実施した。
実施例15と同様にして得た積層膜をサイズ100mm×100mmとなるようにサンプリングし、積層膜のポリ乳酸系樹脂を含む層(C)がPET−1側となるように固定した以外は実施例14と同様に貼り合わせた。評価結果は表6に示されるとおりであった。
【0193】
(
参考実施例17)
実施例13と同様にして得たポリ乳酸系樹脂を含む層(C)単体を得た。次に、メタリングバーを用いて乾燥後の膜厚が3μmになるように、ウレタン系接着剤(三井化学(株)製、主剤:“タケラック”(登録商標)A3210、硬化剤:“タケネート”(登録商標)A3070)を酢酸エチルにて希釈し固形分濃度30質量%とした溶液を、ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)の一面に塗布し、熱風乾燥式ドライヤー内にて70℃で20秒間乾燥し、接着剤層を設けた。
【0194】
その後、繊維構造体(B)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)の四隅の位置がほぼ一致するように、かつ、接着剤層が繊維構造体(B)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)の間に挟まれる位置として速やかに2本のロールの間を通し貼り合わせた。その後、40℃で48時間以上エージングした。評価結果は表7に示されるとおりであった。
【0195】
熱風乾燥式ドライヤー内での接着剤層の乾燥時に収縮が発生し、積層体の外観は悪かった。また、有機溶剤使用量は、5g/m
2を超えていた。
【0196】
(
参考実施例18)
互いに接する方向に回転し40℃に冷却した一対のキャスティングドラムとポリッシングロール及び溶融押出機を用いて、PLA−3を溶融押出機に供給し口金温度を210℃に設定したTダイ口金より吐出してキャスティングドラムに密着させた後、直ちにポリッシングロールの表面に乗せた繊維構造体(B)と貼り合わせ、冷却しワインダーにて巻き取った。評価結果は表7に示した通り、得られた積層体は、繊維構造体(B)の繊維が熱により密着し形状が悪化していた。
【0197】
(
参考実施例19)
実施例13と同様にしてポリ乳酸系樹脂を含む層(C)単体を得た。次に、繊維構造体(B)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)を重ね合わせた後、互いに接する方向に回転し180℃(ポリ乳酸系樹脂を含む層(C)の融点+約10℃に相当)に加熱した一対の加熱ドラムとニップロールの間を通過させた。評価結果は表7に示した通り、得られたポリ乳酸系樹脂を含む層(C)が融解し層構造を成しえなかった。
【0198】
(
参考実施例20)
実施例13と同様にしてポリ乳酸系樹脂を含む層(C)単体を得た。次に2枚の離型フィルムに挟まれた厚み50μmのシリコーン系粘着剤を離型フィルムから剥がし、繊維構造体(B)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)の間に挟み、実施例14同様に2本のロールの間を通し繊維構造体(B)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)とを貼り合わせた。評価結果は表7に示した通り、繊維構造体(B)が粘着剤から容易に剥離した。
【0199】
(
参考実施例21)
以下の作業は常温常湿(20℃±15℃、65%RH±20%RH)環境にて実施した。
参考実施例17と同様にしてポリ乳酸系樹脂を含む層(C)単体を得た。次に繊維構造体(B)とポリ乳酸系樹脂を含む層(C)の各々単体を重ね合わせ、金属針の先端に向かって下向きに広がる複数の棘がある直径1mmの有棘針を、繊維構造体(B)の繊維の一部を棘に引っ掻けて押しこむように、繊維構造体(B)側からポリ乳酸系樹脂を含む層(C)側へ一旦貫通させ、その後、針を静かに引き抜いて、開けた穴から繊維構造体(B)の一部をポリ乳酸系樹脂を含む層(C)面に露出させた。同様に作業を穴の中心間距離が均一になるように5mm間隔で行った。評価結果は表7に示した通り、外観及び密着性に劣るものであった。
【0200】
【表6】
【0201】
【表7】