【実施例】
【0023】
(実施例1)
上記コネクタ付電線の実施例について、
図1〜
図3を用いて説明する。
図1に示すように、コネクタ付電線1は、被覆電線2と、端子金具3と、コネクタハウジング4と、接着剤5とを有している。被覆電線2は、導体21と、架橋ポリエチレン樹脂よりなり導体21を被覆する被覆材22とを有している。端子金具3は、被覆電線2の端末部23に接続されている。コネクタハウジング4は、端末部23を埋設すると共に被覆電線2及び端子金具3と一体に形成されている。
【0024】
接着剤5は、端末部23における被覆材22とコネクタハウジング4との間に存在する隙間6の一部に配され、隙間6を封止している。また、接着剤5は、接着成分として変性ポリオレフィン系樹脂、変性ポリアミド樹脂及び変性ポリエステル樹脂からなる群より選ばれるいずれか1種または2種以上の樹脂を含有している。そして、
図2に示すように、接着剤5と被覆材22との間に両者が混和した混和層7が形成されている。
【0025】
図1に示すように、被覆電線2は、導体21としての銅線の周囲に、架橋ポリエチレン樹脂よりなる被覆材22が被覆されている。被覆電線2の端末部23は、導体21が被覆材22から露出した端子接続部211を有している。なお、本例において用いた被覆電線2は、住友電工電子ワイヤー株式会社製「EX−30」である。
【0026】
端子金具3は、端子接続部211に圧着される圧着部31と、相手方端子との電気的接点となる接点部32とを有している。圧着部31は、端子接続部211に圧着されている。これにより、導体21と端子金具3とが接続されている。また、接点部32は、コネクタハウジング4の外方に突出している。
【0027】
端末部23における被覆材22の表面には、被覆電線2の全周に渡って接着剤5が塗布されている。接着剤5は、接着成分としての変性ポリオレフィン樹脂を含んでいる。そして、接着剤5と被覆材22との間には、両者が混和した混和層7が形成されている。なお、本例において用いた接着剤5は、東亞合成株式会社製「PPET1401SG」であり、予め接着剤5中にトルエン及びn−ヘキサンよりなる混合溶媒を含有している。
【0028】
混和層7の詳細な構造を確認するために、TEM(透過型電子顕微鏡)を用いて接着剤5と被覆材22との界面近傍の観察を行った。TEM観察に供した試料は、混和層7を含むようにコネクタ付電線1から採取した薄片である。
図2に、RuO
4による電子染色が施された試料のTEM写真を示す。
【0029】
図2より知られるように、比較的暗い色調を呈する接着剤5と接着剤5よりも明るい色調を呈する被覆材22との間に、被覆材22側から接着剤5側へ向かって連続的に色調が変化する混和層7が観察された。また、混和層7と接着剤5との境界71は明瞭に確認できたが、混和層7と被覆材22との境界は不明瞭であった。また、混和層7の厚みは1〜3μmであり、接着剤5と被覆材22との間の全面に形成されていた。
【0030】
コネクタハウジング4は、被覆電線2の端末部23を埋設するようにして被覆電線2及び端子金具3と一体に形成されている。すなわち、コネクタハウジング4内には、接着剤5、端子接続部211及び端子金具3の圧着部31が埋設されており、端子金具3の接点部32がコネクタハウジング4の外方に突出している。なお、本例のコネクタハウジング4は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(ポリプラスチックス株式会社製「551HS」)より構成されている。
【0031】
次に、コネクタ付電線1の製造方法について説明する。コネクタ付電線1を製造するに当たっては、まず、導体21と、架橋ポリエチレン樹脂よりなり導体21の周囲を被覆する被覆材22とを有する被覆電線2の端末部23に端子金具3を接続する端子接続工程を実施する(
図3(a))。次いで、変性ポリオレフィン系樹脂、変性ポリアミド樹脂及び変性ポリエステル樹脂からなる群より選ばれるいずれか1種または2種以上の樹脂及び非プロトン性有機溶媒を含む接着剤5を被覆電線2の端末部23における被覆材22の表面に塗布する接着剤塗布工程を実施する(
図3(b))。そして、接着剤5中に非プロトン性有機溶媒が残留している状態でインサート成形を行うことにより、端末部23を埋設するようにして被覆電線2及び端子金具3と一体にコネクタハウジング4を形成するコネクタ成形工程を実施する。
【0032】
端子接続工程には、予め端末部23の先端部分における被覆材22を除去し、端子接続部211を形成した被覆電線2が供される。被覆電線2の端子接続部211は、略環状を呈する端子金具3の圧着部31に挿入される。そして、圧着部31に端子接続部211が挿入された状態で圧着部31にかしめ加工が施され、端子金具3が導体21に圧着される。以上により、端子金具3が被覆電線2の端末部23に接続される。
【0033】
接着剤塗布工程においては、接着剤5をトルエンにより希釈した接着剤希釈液を予め準備し、これを被覆材22に塗布した。接着剤希釈液は、接着剤5が接着剤希釈液全体の50〜90質量%となるように接着剤5とトルエンとを混合して作製した。なお、接着剤5の混合量が95質量%以上の場合には、接着剤希釈液の粘度が過度に高くなり、被覆材22への塗布時に気泡が混入しやすくなった。一方、接着剤5の混合量が30質量%以下の場合には、接着剤希釈液の粘度が過度に低くなり、被覆材22に塗布することができなかった。
【0034】
また、本例においては、接着剤塗布工程の後、接着剤希釈液を塗布した被覆電線2をドラフトチャンバー内に静置し、接着剤希釈液を自然乾燥させる乾燥工程を実施した。なお、このような条件の下では、接着剤に含まれる非プロトン性有機溶媒が完全に揮発することはなく、乾燥工程の後に接着剤に非プロトン性有機溶媒が残留した状態となる。
【0035】
ハウジング形成工程においては、接着剤5が配された被覆電線2の端末部23及び端子金具3の圧着部31を金型内に配置した状態でインサート成形を行う。これにより、コネクタハウジング4が形成されると共に、コネクタハウジング4内に端末部23及び圧着部31が埋設される。また、インサート成形時の熱及び圧力により、端末部23における被覆材22と接着剤5との間に、両者が混和した混和層が形成される。なお、インサート成形時の金型温度は40〜80℃であり、樹脂が充填された後の保圧力は10〜100MPaであった。
【0036】
以上により、
図1に示すコネクタ付電線1が作製される。
【0037】
次に、本例の作用効果について説明する。コネクタ付電線1は、端末部23における被覆材22とコネクタハウジング4との間に存在する隙間6の一部に配され、隙間6を封止する接着剤5を有している。そして、接着剤5と被覆材22との間に両者が混和した混和層7が形成されている。そのため、接着剤5が被覆材22から剥離しにくくなり、隙間6が接着剤5により液密に封止される。その結果、コネクタ付電線1は、優れた防水性を有する。
【0038】
また、コネクタ付電線1の製造方法は、変性ポリオレフィン系樹脂及び非プロトン性有機溶媒を含む接着剤5を被覆材22の表面に塗布する接着剤塗布工程を有している。そして、コネクタハウジング4は、コネクタ成形工程において、接着剤5中に非プロトン性有機溶媒が残留している状態でインサート成形を行うことにより形成される。
【0039】
そのため、インサート成形時の熱及び圧力によって混和層7が形成され、接着剤5と被覆材22とが強固に接着する。その結果、優れた防水性を有するコネクタ付電線1を容易に得ることができる。混和層7が形成されるメカニズムは現時点では必ずしも明確ではないが、
図2に示すTEM写真から、接着剤5が非プロトン性有機溶媒と共に被覆材22側へ浸透することにより混和層7が形成されていると推測できる。
【0040】
また、本例の非プロトン性有機溶媒は、芳香族炭化水素に分類されるトルエンである。そのため、コネクタハウジング4及び被覆材22を溶解することなく接着剤5を希釈することができる。また、トルエンは、インサート成形の際に混和層7をより形成させ易い。そのため、被覆材22と接着剤5とがより強固に接着し、両者の間がより剥離しにくくなる。その結果、コネクタ付電線1は、より優れた防水性を有する。
【0041】
以上のように、コネクタ付電線1は、優れた防水性を有する。
【0042】
(実施例2)
本例は、非プロトン性有機溶媒による希釈を行わない接着剤5を用いたコネクタ付電線1の例である。本例のコネクタ付電線1は、実施例1の接着剤塗布工程において、接着剤希釈液の代わりに接着剤5そのものを被覆材22に塗布した以外は、実施例1と同様の方法により作製した。
【0043】
次に、本例のコネクタ付電線1における接着剤5と被覆材22との界面近傍の観察をTEMにより行った。
図4に、RuO
4による電子染色が施された試料のTEM写真を示す。
図4より知られるように、実施例1よりも不明瞭ではあるものの、被覆材22側から接着剤5側へ向けて連続的に色調が変化する混和層7が接着剤5と被覆材22との間に観察された。
【0044】
このように、接着剤5そのものに非プロトン性有機溶媒が含まれていれば、別途希釈を行うことなく混和層7が形成される。なお、本例のコネクタ付電線1における混和層7が実施例1よりも不明瞭になったのは、被覆材22への塗布時に接着剤5に含まれる非プロトン性有機溶媒の含有量が実施例1よりも少ないためと考えられる。
【0045】
(比較例)
本例は、接着剤5を被覆材22に塗布した後、インサート成形を行わない例である。本例においては、実施例1と同一の被覆電線2に対して、接着剤5をトルエンにより希釈した接着剤希釈液を塗布した。その後、接着剤希釈液を自然乾燥させた。
【0046】
以上により得られた試験体について、接着剤5と被覆材22との界面近傍の観察をTEMにより行った。
図5に、RuO
4による電子染色が施された試料のTEM写真を示す。
図5より知られるように、接着剤5と被覆材22との間の境界51は明瞭であり、色調が連続的に変化する混和層7は両者の間に観察されなかった。このように、接着剤5と被覆材22との間に混和層7を形成させるためには、インサート成形の際に加わる程度の熱及び圧力が必要である。また、本例のように接着剤5と被覆材22との間に混和層7が形成されない場合には、両者の接着力が不十分となり、両者の間が容易に剥離する。それ故、混和層7を有さないコネクタ付電線は、防水性が低くなり易い。