特許第6119878号(P6119878)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6119878
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】コネクタ付電線及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01R 4/70 20060101AFI20170417BHJP
   H01R 13/405 20060101ALI20170417BHJP
   H01R 43/24 20060101ALI20170417BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20170417BHJP
【FI】
   H01R4/70 K
   H01R13/405
   H01R43/24
   H01B7/00 306
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-556762(P2015-556762)
(86)(22)【出願日】2014年12月23日
(86)【国際出願番号】JP2014084008
(87)【国際公開番号】WO2015104992
(87)【国際公開日】20150716
【審査請求日】2016年6月21日
(31)【優先権主張番号】特願2014-2249(P2014-2249)
(32)【優先日】2014年1月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】濱口 隆彰
(72)【発明者】
【氏名】長谷 達也
(72)【発明者】
【氏名】松井 克文
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 一雄
【審査官】 竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−187041(JP,A)
【文献】 特開2006−123458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 4/70
H01R 13/405
H01R 43/24
H01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、架橋ポリエチレン樹脂よりなり上記導体を被覆する被覆材とを有する被覆電線と、
該被覆電線の端末部に接続された端子金具と、
上記端末部を埋設すると共に上記被覆電線及び上記端子金具と一体に形成されたコネクタハウジングと、
上記端末部における上記被覆材と上記コネクタハウジングとの間に存在する隙間の一部に配され、該隙間を封止する接着剤とを有し、
該接着剤は、接着成分として変性ポリオレフィン系樹脂、変性ポリアミド樹脂及び変性ポリエステル樹脂からなる群より選ばれるいずれか1種または2種以上の樹脂を含有しており、
上記接着剤と上記被覆材との間に両者が混和した混和層が形成されていることを特徴とするコネクタ付電線。
【請求項2】
導体と、架橋ポリエチレン樹脂よりなり上記導体の周囲を被覆する被覆材とを有する被覆電線の端末部に端子金具を接続する端子接続工程と、
変性ポリオレフィン系樹脂、変性ポリアミド樹脂及び変性ポリエステル樹脂からなる群より選ばれるいずれか1種または2種以上の樹脂及び非プロトン性有機溶媒を含む接着剤を上記端末部における上記被覆材表面に塗布する接着剤塗布工程と、
上記接着剤中に上記非プロトン性有機溶媒が残留している状態でインサート成形を行うことにより、上記端末部を埋設するようにして上記被覆電線及び上記端子金具と一体にコネクタハウジングを形成するコネクタ成形工程とを有することを特徴とするコネクタ付電線の製造方法。
【請求項3】
上記非プロトン性有機溶媒は、芳香族炭化水素及びメチルエチルケトンからなる群より選ばれる1種の溶媒または2種以上の混合溶媒であることを特徴とする請求項2に記載のコネクタ付電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタ付電線及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車や電気自動車等には、例えばインバータとモータとの間を接続するACハーネス等のワイヤーハーネスが用いられている。ワイヤーハーネスに用いられるコネクタ付電線は、被覆材により導体の周囲が被覆された被覆電線と、被覆電線の端末部に接続されたコネクタとを有している。被覆材としては、安価かつ絶縁性の高い架橋ポリエチレン樹脂が用いられることが多い。
【0003】
また、コネクタ付電線には、コネクタ内部への水等の浸入を防止する目的で、被覆電線とコネクタとの間を液密に封止する封止手段が設けられる場合がある。例えば特許文献1には、封止手段として用いられるゴム栓が開示されている。ゴム栓は、被覆電線を貫通させた状態でコネクタハウジングのキャビティに挿入して用いられる。
【0004】
一方、近年では、部品点数の低減やコネクタの小型化等の目的で、インサート成形によりコネクタと被覆電線とを一体に形成することがある。この場合、被覆電線に予め封止手段を配設した状態でインサート成形を行うことにより、両者の間に形成される隙間を液密に封止することが検討されている。
【0005】
封止手段としては、被覆材に適合する接着剤や、自動車のエンジンルーム内に配設される電装部品に従来用いられているシール材が検討されている。シール材には湿気硬化型、UV硬化型、熱硬化型あるいはホットメルト型などがあり、ウレタン系、ポリエステル系、アクリレート系、シリコーン系等の樹脂が用いられている。例えば特許文献2には、紫外線の照射によって硬化するシリコーン系樹脂の例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−152803号公報
【特許文献2】特開2007−130836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、架橋ポリエチレン樹脂からなる被覆材を有する被覆電線とコネクタとをインサート成形により一体に形成する場合には、架橋ポリエチレン樹脂に対して接着剤等が強固に接着しないという問題がある。すなわち、一般的に用いられる接着剤、熱硬化型のシール材及びホットメルト型のシール材は、架橋ポリエチレン樹脂との接着力が不十分である。そのため、接着剤等が架橋ポリエチレン樹脂から容易に剥離する。
【0008】
また、湿気硬化型のシール材は、硬化に必要な湿気がシール材の内部まで十分に供給されず、シール材の硬化が不完全となるおそれがある。同様に、UV硬化型のシール材は、紫外線をシール材全体に照射することが困難であり、シール材の硬化が不完全となるおそれがある。そして、硬化が不完全なシール材は、架橋ポリエチレン樹脂との接着力が不十分となるため、架橋ポリエチレン樹脂から容易に剥離する。
【0009】
以上のように、従来の接着剤等を用いる場合には、架橋ポリエチレン樹脂との接着力が不十分となるため、接着剤等が架橋ポリエチレン樹脂から容易に剥離する。それ故、被覆電線とコネクタとの間に隙間が生じ易く、両者の間を液密に封止することが困難である。
【0010】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、優れた防水性を有するコネクタ付電線及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、導体と、架橋ポリエチレン樹脂よりなり上記導体を被覆する被覆材とを有する被覆電線と、
該被覆電線の端末部に接続された端子金具と、
上記端末部を埋設すると共に上記被覆電線及び上記端子金具と一体に形成されたコネクタハウジングと、
上記端末部における上記被覆材と上記コネクタハウジングとの間に存在する隙間の一部に配され、該隙間を封止する接着剤とを有し、
該接着剤は、接着成分として変性ポリオレフィン系樹脂、変性ポリアミド樹脂及び変性ポリエステル樹脂からなる群より選ばれるいずれか1種または2種以上の樹脂を含有しており、
上記接着剤と上記被覆材との間に両者が混和した混和層が形成されていることを特徴とするコネクタ付電線にある。
【0012】
また、本発明の他の態様は、導体と、架橋ポリエチレン樹脂よりなり上記導体の周囲を被覆する被覆材とを有する被覆電線の端末部に端子金具を接続する端子接続工程と、
変性ポリオレフィン系樹脂、変性ポリアミド樹脂及び変性ポリエステル樹脂からなる群より選ばれるいずれか1種または2種以上の樹脂及び非プロトン性有機溶媒を含む接着剤を上記端末部における上記被覆材表面に塗布する接着剤塗布工程と、
上記接着剤中に上記非プロトン性有機溶媒が残留している状態でインサート成形を行うことにより、上記端末部を埋設するようにして上記被覆電線及び上記端子金具と一体にコネクタハウジングを形成するコネクタ成形工程とを有することを特徴とするコネクタ付電線の製造方法にある。
【発明の効果】
【0013】
上記コネクタ付電線は、上記端末部における上記被覆材と上記コネクタハウジングとの間に存在する隙間の一部に配され、該隙間を封止する接着剤を有している。そして、上記接着剤と上記被覆材との間に両者が混和した混和層が形成されている。このように、上記接着剤と上記被覆材とが混和していることにより、上記接着剤と上記被覆材とが強固に接着する。そのため、上記接着剤が上記被覆材から剥離しにくくなり、上記隙間が上記接着剤により液密に封止される。その結果、上記コネクタ付電線は、優れた防水性を有する。
【0014】
また、上記コネクタ付電線の製造方法は、変性ポリオレフィン系樹脂、変性ポリアミド樹脂及び変性ポリエステル樹脂からなる群より選ばれるいずれか1種または2種以上の樹脂及び非プロトン性有機溶媒を含む上記接着剤を上記被覆材表面に塗布する上記接着剤塗布工程を有している。そして、上記コネクタハウジングは、上記コネクタ成形工程において、上記接着剤希釈液中に上記非プロトン性有機溶媒が残留している状態でインサート成形を行うことにより形成される。
【0015】
このようにインサート成形を行うことにより、上記コネクタハウジングに埋設される上記端末部には、上記非プロトン性有機溶媒が存在している状態で熱及び圧力が加わる。これにより、上記混和層が形成され、上記接着剤と上記被覆材とが強固に接着する。その結果、優れた防水性を有するコネクタ付電線を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1における、コネクタ付電線の説明図。
図2】実施例1における、被覆材と接着剤との界面近傍の透過電子顕微鏡写真。
図3】実施例1におけるコネクタ付電線の(a)端子接続工程が実施された後の状態を示す説明図、(b)接着剤塗布工程が実施された後の状態を示す説明図。
図4】実施例2における、非プロトン性有機溶媒により希釈していない接着剤を用いた場合の、被覆材と接着剤との界面近傍の透過電子顕微鏡写真。
図5】比較例における、接着剤希釈液を被覆材に塗布した状態で乾燥させた場合の、被覆材と接着剤との界面近傍の透過電子顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0017】
上記コネクタ付電線において、コネクタハウジングは、耐熱性及び絶縁性の観点から、通常、芳香族ナイロン樹脂やポリブチレンテレフタレート樹脂等により形成される。
【0018】
接着剤に含まれる接着成分は、変性ポリオレフィン系樹脂、変性ポリアミド樹脂及び変性ポリエステル樹脂からなる群より選ばれるいずれか1種または2種以上の樹脂とする。これらの樹脂は、コネクタハウジングとの接着性が良好であるため、コネクタハウジングと接着剤との間が剥離しにくい。
【0019】
また、上記コネクタ付電線の製造方法において、接着剤は、非プロトン性有機溶媒を含有している。非プロトン性有機溶媒は、予め接着剤に含まれていてもよく、別途接着剤に混合してもよい。
【0020】
非プロトン性有機溶媒の含有量が過度に少ない場合には、コネクタ成形工程において接着剤中に残留する非プロトン性有機溶媒の量が過度に少なくなる。それ故、コネクタ成形工程の完了後に、接着剤と被覆材との間に混和層が形成されにくくなるおそれがある。また、この場合には、接着剤の粘度が高くなりやすい。それ故、接着剤の塗布時に気泡が混入しやすく、コネクタ成形工程の完了後に気泡が残留するおそれがある。このような気泡は、品質低下の原因となるため、好ましくない。一方、非プロトン性有機溶媒の含有量が過度に多い場合には、接着剤の粘度が過度に低くなるおそれがあり、被覆材の表面に十分な量の接着剤を塗布することが困難となる。
【0021】
以上のように、接着剤中の非プロトン性有機溶媒の含有量は、被覆材表面への塗布に好適な粘度を呈すると共に、コネクタ成形工程において接着剤中に十分な量の非プロトン性有機溶媒が残留するように、用いる接着剤及び非プロトン性有機溶媒の種類に応じて調整される。
【0022】
上記非プロトン性有機溶媒は、芳香族炭化水素及びメチルエチルケトンからなる群より選ばれる1種の溶媒または2種以上の混合溶媒であることが好ましい。これらの化合物は、コネクタハウジング及び被覆材を溶解することなく接着剤を希釈することができる。また、これらの化合物は、インサート成形の際に上記混和層をより形成させ易い。そのため、この場合には、被覆材と接着剤とがより強固に接着し、両者の間がより剥離しにくくなる。その結果、コネクタ付電線は、より優れた防水性を有する。
【実施例】
【0023】
(実施例1)
上記コネクタ付電線の実施例について、図1図3を用いて説明する。図1に示すように、コネクタ付電線1は、被覆電線2と、端子金具3と、コネクタハウジング4と、接着剤5とを有している。被覆電線2は、導体21と、架橋ポリエチレン樹脂よりなり導体21を被覆する被覆材22とを有している。端子金具3は、被覆電線2の端末部23に接続されている。コネクタハウジング4は、端末部23を埋設すると共に被覆電線2及び端子金具3と一体に形成されている。
【0024】
接着剤5は、端末部23における被覆材22とコネクタハウジング4との間に存在する隙間6の一部に配され、隙間6を封止している。また、接着剤5は、接着成分として変性ポリオレフィン系樹脂、変性ポリアミド樹脂及び変性ポリエステル樹脂からなる群より選ばれるいずれか1種または2種以上の樹脂を含有している。そして、図2に示すように、接着剤5と被覆材22との間に両者が混和した混和層7が形成されている。
【0025】
図1に示すように、被覆電線2は、導体21としての銅線の周囲に、架橋ポリエチレン樹脂よりなる被覆材22が被覆されている。被覆電線2の端末部23は、導体21が被覆材22から露出した端子接続部211を有している。なお、本例において用いた被覆電線2は、住友電工電子ワイヤー株式会社製「EX−30」である。
【0026】
端子金具3は、端子接続部211に圧着される圧着部31と、相手方端子との電気的接点となる接点部32とを有している。圧着部31は、端子接続部211に圧着されている。これにより、導体21と端子金具3とが接続されている。また、接点部32は、コネクタハウジング4の外方に突出している。
【0027】
端末部23における被覆材22の表面には、被覆電線2の全周に渡って接着剤5が塗布されている。接着剤5は、接着成分としての変性ポリオレフィン樹脂を含んでいる。そして、接着剤5と被覆材22との間には、両者が混和した混和層7が形成されている。なお、本例において用いた接着剤5は、東亞合成株式会社製「PPET1401SG」であり、予め接着剤5中にトルエン及びn−ヘキサンよりなる混合溶媒を含有している。
【0028】
混和層7の詳細な構造を確認するために、TEM(透過型電子顕微鏡)を用いて接着剤5と被覆材22との界面近傍の観察を行った。TEM観察に供した試料は、混和層7を含むようにコネクタ付電線1から採取した薄片である。図2に、RuO4による電子染色が施された試料のTEM写真を示す。
【0029】
図2より知られるように、比較的暗い色調を呈する接着剤5と接着剤5よりも明るい色調を呈する被覆材22との間に、被覆材22側から接着剤5側へ向かって連続的に色調が変化する混和層7が観察された。また、混和層7と接着剤5との境界71は明瞭に確認できたが、混和層7と被覆材22との境界は不明瞭であった。また、混和層7の厚みは1〜3μmであり、接着剤5と被覆材22との間の全面に形成されていた。
【0030】
コネクタハウジング4は、被覆電線2の端末部23を埋設するようにして被覆電線2及び端子金具3と一体に形成されている。すなわち、コネクタハウジング4内には、接着剤5、端子接続部211及び端子金具3の圧着部31が埋設されており、端子金具3の接点部32がコネクタハウジング4の外方に突出している。なお、本例のコネクタハウジング4は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(ポリプラスチックス株式会社製「551HS」)より構成されている。
【0031】
次に、コネクタ付電線1の製造方法について説明する。コネクタ付電線1を製造するに当たっては、まず、導体21と、架橋ポリエチレン樹脂よりなり導体21の周囲を被覆する被覆材22とを有する被覆電線2の端末部23に端子金具3を接続する端子接続工程を実施する(図3(a))。次いで、変性ポリオレフィン系樹脂、変性ポリアミド樹脂及び変性ポリエステル樹脂からなる群より選ばれるいずれか1種または2種以上の樹脂及び非プロトン性有機溶媒を含む接着剤5を被覆電線2の端末部23における被覆材22の表面に塗布する接着剤塗布工程を実施する(図3(b))。そして、接着剤5中に非プロトン性有機溶媒が残留している状態でインサート成形を行うことにより、端末部23を埋設するようにして被覆電線2及び端子金具3と一体にコネクタハウジング4を形成するコネクタ成形工程を実施する。
【0032】
端子接続工程には、予め端末部23の先端部分における被覆材22を除去し、端子接続部211を形成した被覆電線2が供される。被覆電線2の端子接続部211は、略環状を呈する端子金具3の圧着部31に挿入される。そして、圧着部31に端子接続部211が挿入された状態で圧着部31にかしめ加工が施され、端子金具3が導体21に圧着される。以上により、端子金具3が被覆電線2の端末部23に接続される。
【0033】
接着剤塗布工程においては、接着剤5をトルエンにより希釈した接着剤希釈液を予め準備し、これを被覆材22に塗布した。接着剤希釈液は、接着剤5が接着剤希釈液全体の50〜90質量%となるように接着剤5とトルエンとを混合して作製した。なお、接着剤5の混合量が95質量%以上の場合には、接着剤希釈液の粘度が過度に高くなり、被覆材22への塗布時に気泡が混入しやすくなった。一方、接着剤5の混合量が30質量%以下の場合には、接着剤希釈液の粘度が過度に低くなり、被覆材22に塗布することができなかった。
【0034】
また、本例においては、接着剤塗布工程の後、接着剤希釈液を塗布した被覆電線2をドラフトチャンバー内に静置し、接着剤希釈液を自然乾燥させる乾燥工程を実施した。なお、このような条件の下では、接着剤に含まれる非プロトン性有機溶媒が完全に揮発することはなく、乾燥工程の後に接着剤に非プロトン性有機溶媒が残留した状態となる。
【0035】
ハウジング形成工程においては、接着剤5が配された被覆電線2の端末部23及び端子金具3の圧着部31を金型内に配置した状態でインサート成形を行う。これにより、コネクタハウジング4が形成されると共に、コネクタハウジング4内に端末部23及び圧着部31が埋設される。また、インサート成形時の熱及び圧力により、端末部23における被覆材22と接着剤5との間に、両者が混和した混和層が形成される。なお、インサート成形時の金型温度は40〜80℃であり、樹脂が充填された後の保圧力は10〜100MPaであった。
【0036】
以上により、図1に示すコネクタ付電線1が作製される。
【0037】
次に、本例の作用効果について説明する。コネクタ付電線1は、端末部23における被覆材22とコネクタハウジング4との間に存在する隙間6の一部に配され、隙間6を封止する接着剤5を有している。そして、接着剤5と被覆材22との間に両者が混和した混和層7が形成されている。そのため、接着剤5が被覆材22から剥離しにくくなり、隙間6が接着剤5により液密に封止される。その結果、コネクタ付電線1は、優れた防水性を有する。
【0038】
また、コネクタ付電線1の製造方法は、変性ポリオレフィン系樹脂及び非プロトン性有機溶媒を含む接着剤5を被覆材22の表面に塗布する接着剤塗布工程を有している。そして、コネクタハウジング4は、コネクタ成形工程において、接着剤5中に非プロトン性有機溶媒が残留している状態でインサート成形を行うことにより形成される。
【0039】
そのため、インサート成形時の熱及び圧力によって混和層7が形成され、接着剤5と被覆材22とが強固に接着する。その結果、優れた防水性を有するコネクタ付電線1を容易に得ることができる。混和層7が形成されるメカニズムは現時点では必ずしも明確ではないが、図2に示すTEM写真から、接着剤5が非プロトン性有機溶媒と共に被覆材22側へ浸透することにより混和層7が形成されていると推測できる。
【0040】
また、本例の非プロトン性有機溶媒は、芳香族炭化水素に分類されるトルエンである。そのため、コネクタハウジング4及び被覆材22を溶解することなく接着剤5を希釈することができる。また、トルエンは、インサート成形の際に混和層7をより形成させ易い。そのため、被覆材22と接着剤5とがより強固に接着し、両者の間がより剥離しにくくなる。その結果、コネクタ付電線1は、より優れた防水性を有する。
【0041】
以上のように、コネクタ付電線1は、優れた防水性を有する。
【0042】
(実施例2)
本例は、非プロトン性有機溶媒による希釈を行わない接着剤5を用いたコネクタ付電線1の例である。本例のコネクタ付電線1は、実施例1の接着剤塗布工程において、接着剤希釈液の代わりに接着剤5そのものを被覆材22に塗布した以外は、実施例1と同様の方法により作製した。
【0043】
次に、本例のコネクタ付電線1における接着剤5と被覆材22との界面近傍の観察をTEMにより行った。図4に、RuO4による電子染色が施された試料のTEM写真を示す。図4より知られるように、実施例1よりも不明瞭ではあるものの、被覆材22側から接着剤5側へ向けて連続的に色調が変化する混和層7が接着剤5と被覆材22との間に観察された。
【0044】
このように、接着剤5そのものに非プロトン性有機溶媒が含まれていれば、別途希釈を行うことなく混和層7が形成される。なお、本例のコネクタ付電線1における混和層7が実施例1よりも不明瞭になったのは、被覆材22への塗布時に接着剤5に含まれる非プロトン性有機溶媒の含有量が実施例1よりも少ないためと考えられる。
【0045】
(比較例)
本例は、接着剤5を被覆材22に塗布した後、インサート成形を行わない例である。本例においては、実施例1と同一の被覆電線2に対して、接着剤5をトルエンにより希釈した接着剤希釈液を塗布した。その後、接着剤希釈液を自然乾燥させた。
【0046】
以上により得られた試験体について、接着剤5と被覆材22との界面近傍の観察をTEMにより行った。図5に、RuO4による電子染色が施された試料のTEM写真を示す。図5より知られるように、接着剤5と被覆材22との間の境界51は明瞭であり、色調が連続的に変化する混和層7は両者の間に観察されなかった。このように、接着剤5と被覆材22との間に混和層7を形成させるためには、インサート成形の際に加わる程度の熱及び圧力が必要である。また、本例のように接着剤5と被覆材22との間に混和層7が形成されない場合には、両者の接着力が不十分となり、両者の間が容易に剥離する。それ故、混和層7を有さないコネクタ付電線は、防水性が低くなり易い。
図1
図2
図3
図4
図5