(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
共役ジエン系モノマーと有機溶媒とを含むモノマー液に、水と遷移金属触媒と有機金属助触媒を添加して、前記共役ジエン系モノマーを重合するジエン系ゴムの製造方法であって、
前記水1molに対する前記有機金属助触媒の添加量が0.5〜2.5molであり、
前記モノマー液1m3に対し9.0〜45.0mmolのゲル化防止剤としての硫黄系酸化防止剤を添加する工程を有するジエン系ゴムの製造方法。
【背景技術】
【0002】
ポリブタジエン等のジエン系ゴムの分子鎖中には、いわゆるミクロ構造として、1,4−位での重合で生成した結合部分(1,4−構造)と、1,2−位での重合で生成した結合部分(1,2−構造)とが共存する。1,4−構造は、さらにシス構造とトランス構造の二種に分けられる。一方、1,2−構造は、ビニル基を側鎖とする構造である。重合触媒の種類により、このようなミクロ構造が異なるポリブタジエンを製造できることが知られており、それらの特性によって種々の用途に使用されている。
【0003】
すなわち、1,3−ブタジエン等の共役ジエン系モノマーの重合触媒については、数多くの提案がなされている。特に、高シス−1,4−ポリブタジエンゴム、すなわちシス−1,4結合の含有率が高いポリブタジエンゴムは、熱的にも機械的にも優れた特性を有することから、1,3−ブタジエンをシス−1,4重合するための重合触媒が多く開発されてきた。
【0004】
例えば、特許文献1には、ヒドロカルビルアルミニウム化合物と水をよく混合し熟成した混合物と、コバルトジオクトエートとからなる触媒により、20%以上のベンゼンを含む溶媒中で1,3−ブタジエンを重合させる高シス−1,4−ポリブタジエンの製造方法が開示されている。また、特許文献2には、コバルト化合物、酸性金属ハライド、アルキルアルミニウム化合物及び水からなる触媒を用い、1,3−ブタジエンを重合させる高シス−1,4−ポリブタジエンの製造方法が開示されている。特許文献3には、ジエチルアルミニウムクロライド、水、及びコバルトオクトエ−トからなる触媒を用い、直鎖状又は分岐状脂肪族炭化水素からなる溶媒中で1,3−ブタジエンを重合させる方法が開示されている。
【0005】
これらの方法では、触媒活性を増大させるために、溶媒中に水分を含有させることが必須であるが、例えば、有機アルミニウム化合物と水が不均一に混合した場合はカチオン種が発生して、1,3−ブタジエンの重合においては生成ポリマー中に二重結合を含むためゲルが生成しやすくなり、ポリブタジエン中に多量のゲルが含まれたり、重合槽内の攪拌翼や内壁にゲルが付着して長時間重合反応を続けることができなかったりする場合があった。
【0006】
そこで、特許文献4には、1,3−ブタジエンの不活性有機溶媒溶液の水分濃度を調節し、得られた溶液にハロゲン含有有機アルミニウム化合物を添加して所定時間熟成した後、コバルト化合物を添加して重合させて、ゲルの発生を抑制する方法が開示されている。また、特許文献5には、必要量の水を5μm以下の孔径を有する多孔質濾材に分散させて、ゲルの発生を抑制しスケール付着防止させる方法が開示されている。
【0007】
さらに、水の添加方法を工夫することで、重合装置へのゲルの付着がなく、ゲル含有量の少ないポリブタジエンを製造する方法も検討されている。特許文献6には、不活性溶媒又は1,3−ブタジエンの不活性有機溶媒溶液に、必要な水分をスチーム及び/又は熱水状態で添加し混合する方法が開示されている。特許文献7には、不活性溶媒又は1,3−ブタジエンの不活性有機溶媒溶液に、必要な水分としてトルマリンで処理した水を添加し混合する方法が開示されている。特許文献8には、不活性溶媒又は1,3−ブタジエンの不活性有機溶媒溶液中、水素の存在下に、水及び有機アルミニウムを添加して熟成する方法が開示されている。
【0008】
また、特許文献9には、バナジウム金属化合物のメタロセン型錯体及び非配位性アニオンとカチオンとのイオン性化合物及び/又はアルミノキサンからなる重合触媒により、ポリブタジエンを製造する方法が記載されている。このポリブタジエンは、シス構造が多く1,2−構造を適度に含みトランス構造が少ないミクロ構造を有する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明では、共役ジエン系モノマーと水とを含むモノマー液に、遷移金属触媒及び有機金属助触媒を添加することで、共役ジエン系モノマーを重合して、ゲル含有率の低いジエン系ゴムを製造する。
【0015】
<モノマー液>
本発明で用いるモノマー液は、目的とするジエン系ゴムを与える共役ジエン系モノマーと、有機溶媒とを含む。モノマー液は、目的とするジエン系ゴムを与えるモノマーとして、共役ジエン系モノマー以外の他の共重合モノマーを含んでいてもよい。
【0016】
共役ジエン系モノマーとしては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2−エチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチルブタジエン、2−フェニル−1,3−ブタジエン,1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、4−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、2,4−ヘキサジエンが挙げられる。中でも、1,3−ブタジエンが好ましい。共役ジエン系モノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
共役ジエン系モノマー以外の他の共重合モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物が挙げられる。他のモノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
有機溶媒としては、トルエン、ベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素;n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;1−ブテン、シス−2−ブテン、トランス−2−ブテン等のオレフィン系炭化水素;塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素;その他、ミネラルスピリット、ソルベントナフサ、ケロシン等の石油系溶媒が挙げられる。中でも、シクロヘキサンが好ましい。有機溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
モノマー液中の共役ジエン系モノマーの濃度は、10〜90重量%の範囲が好ましく、20〜70重量%の範囲がより好ましく、25〜50重量%の範囲がさらに好ましい。
【0020】
<水>
本発明では、共役ジエン系モノマーを重合させる際に、水を共存させる。モノマー液に添加する水の量は、モノマー液1m
3に対して0.5〜5molの範囲が好ましく、1〜3molの範囲がより好ましい。
【0021】
<遷移金属触媒>
本発明では、共役ジエン系モノマーを重合させる触媒として、遷移金属触媒を用いる。遷移金属触媒は、共役ジエン系モノマーを重合して得られるジエン系ゴムの物性に大きく影響するので、目的とするジエン系ゴムの物性等を考慮して適宜選択すればよい。
【0022】
遷移金属触媒としては、コバルト系触媒、ニッケル系触媒、ネオジウム系触媒、バナジウム系触媒、チタン系触媒が挙げられる。中でも、コバルト系触媒又はニッケル系触媒が好ましく、コバルト系触媒がより好ましい。遷移金属触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
コバルト系触媒としては、塩化コバルト、臭化コバルト等のハロゲン化コバルト塩;硫酸コバルト、硝酸コバルト等の無機酸コバルト塩;コバルトオクタエート、オクチル酸コバルト、ナフテン酸コバルト、酢酸コバルト、マロン酸コバルト等の有機酸コバルト塩;ビスアセチルアセトネートコバルト、トリスアセチルアセトネートコバルト、アセト酢酸エチルエステルコバルト、コバルト塩のピリジン錯体、コバルト塩のピコリン錯体、コバルト塩のエチルアルコール錯体等のコバルト錯体が挙げられる。中でも、コバルトオクタエートが好ましい。
【0024】
ニッケル系触媒としては、ニッケル化合物−有機アルミニウム化合物からなる触媒が挙げられる。ニッケル化合物としては、ナフテン酸ニッケル、ギ酸ニッケル、オクチル酸ニッケル、ステアリン酸ニッケル、クエン酸ニッケル、安息香酸ニッケル、トルイル酸ニッケル等の有機酸ニッケル塩;ニッケルアセチルアセトナート等の有機錯体;アルキルベンゼンスルホン酸ニッケル、ニッケルオキシボレートが挙げられる。中でも、オクチル酸ニッケルが好ましい。
【0025】
使用する遷移金属触媒の量に関しては、目的とするジエン系ゴムのムーニー粘度やリニアリティ等を考慮して、適宜設定することができる。例えば、ジエン系ゴムのムーニー粘度やリニアリティを高くする場合は、遷移金属触媒1mmolに対する共役ジエン系モノマーの添加量を400〜4000molの範囲とすることが好ましく、500〜2000molの範囲とすることがより好ましく、600〜1500molの範囲とすることがさらに好ましく、700〜1000molの範囲とすることが特に好ましい。また、ジエン系ゴムのムーニー粘度やリニアリティを低くする場合は、遷移金属触媒1mmolに対する共役ジエン系モノマーの添加量を100〜1400molの範囲とすることが好ましく、200〜1000molの範囲とすることがより好ましく、300〜850molの範囲とすることがさらに好ましく、350〜750molの範囲とすることが特に好ましい。
【0026】
<有機金属助触媒>
本発明では、遷移金属触媒とともに有機金属助触媒を用いる。有機金属助触媒としては、例えば、有機アルミニウム化合物を用いることができる。有機金属助触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
有機アルミニウム化合物は、非ハロゲン化有機金属化合物でもよく、ハロゲン化有機金属化合物でもよいが、少なくともハロゲン化有機金属化合物を用いることが好ましい。非ハロゲン化有機アルミニウム化合物としては、トリアルキルアルミニウム;ジアルキルアルミニウムハイドライド、アルキルアルミニウムセスキハイドライド等の水素化有機アルミニウムが挙げられる。ハロゲン化有機アルミニウムとしては、ジアルキルアルミニウムクロライド、ジアルキルアルミニウムブロマイド、アルキルアルミニウムジクロライド、アルキルアルミニウムジブロマイド、アルキルアルミニウムセスキクロライド、アルキルアルミニウムセスキブロマイドが挙げられる。
【0028】
有機アルミニウム化合物の具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリデシルアルミニウム、ジメチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムクロライド、エチルアルミニウムセスキクロライド、エチルアルミニウムジクロライド、ジエチルアルミニウムハイドライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライド、エチルアルミニウムセスキハイドライドが挙げられる。非ハロゲン化有機アルミニウム化合物としては、トリアルキルアルミニウムが好ましく、トリエチルアルミニウムがより好ましい。ハロゲン化有機アルミニウム化合物としては、塩化有機アルミニウムが好ましく、ジエチルアルミニウムクロライドがより好ましい。
【0029】
また、有機金属助触媒として、非ハロゲン化有機金属化合物とハロゲン化有機金属化合物を組み合わせて用いることも好ましい。この場合、ハロゲン化有機金属化合物の量を、非ハロゲン化有機金属化合物1molに対して0.1〜99molの範囲とすることが好ましく、0.25〜19molの範囲とすることがより好ましく、1.0〜15molの範囲とすることがさらに好ましく、3〜9molの範囲とすることが特に好ましい。
【0030】
使用する有機金属助触媒の量は、遷移金属触媒1molに対して50〜2000molの範囲が好ましく、100〜1000molの範囲がより好ましく、200〜500molの範囲がさらに好ましい。
【0031】
この有機金属助触媒は、モノマー液に添加された水と反応することで助触媒としての機能を発現するが、有機金属助触媒と水が不均一に混合した場合はゲルが生成しやすくなることから、水の量との関係が重要である。すなわち、水に対する有機金属助触媒の添加量が多くても少なくてもゲルは生成しやすくなる。さらに、水に対する有機金属助触媒の添加量が多い場合には得られるジエン系ゴムの収量が減ってしまう傾向もみられる。モノマー液にゲル防止剤を添加することで、得られるジエン系ゴムの収量が減ってしまう傾向もあることから、ジエン系ゴムの収量の向上も重要である。
【0032】
そこで、本発明では、水1molに対する有機金属助触媒の添加量を0.5〜2.5molの範囲とすることが好ましい。このように水に対する有機金属助触媒の量を比較的多くすることで、ゲル含有率の低いジエン系ゴムをさらに効率的に製造できる。水1molに対する有機金属助触媒の添加量は、0.8〜2.0molの範囲がより好ましく、1.0〜1.8molの範囲がさらに好ましい。
【0033】
<分子量調整剤>
本発明では、共役ジエン系モノマーを重合してジエン系ゴムを製造するにあたり、分子量調整剤を用いることができる。
【0034】
分子量調整剤としては、シクロオクタジエン、アレン、メチルアレン(1,2−ブタジエン)、ジシクロペンタジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、1,5−ヘキサジエン等の非共役ジエン;エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等の非環状モノオレフィン、シクロペンテン、シクロヘキセン、ノルボルネン等の環状モノオレフィンが挙げられる。中でも、シクロオクタジエンが好ましい。分子量調整剤は、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
使用する分子量調整剤の量に関しては、モノマー液1m
3に対する分子量調整剤の添加量を1〜50molの範囲とすることが好ましく、3〜30molの範囲とすることがより好ましく、5〜20molの範囲とすることがさらに好ましい。
【0036】
<ゲル化防止剤>
本発明では、共役ジエン系モノマーを重合してジエン系ゴムを製造するにあたり、ゲル化防止剤を用いる。ゲル化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、ニトロ化合物系酸化防止剤が挙げられる。中でも、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤又は硫黄系酸化防止剤が好ましく、硫黄系酸化防止剤がより好ましい。ゲル化防止剤は、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
フェノール系酸化防止剤としては、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、6−tert−ブチル−3−メチルフェノールの誘導体、2,6−ジ−tert−ブチル−4−n−ブチルフェノール、4−ヒドロキシメチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール,2−メチル−4,6−ジノニルフェノール,2,6−ジ−tert−ブチル−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,2−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(6−α−メチルベンジル−p−クレゾール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−ジヒドロキシ−3,3’−ジ(α−メチルシクロヘキシル)−5,5’−ジメチルジフェニルメタンが挙げられる。
【0038】
アミン系酸化防止剤としては、N−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、フェニル−β−ナフチルアミン、アルドール−α−ナフチルアミン、フェニル−β−ナフチルアミンとアセトンとの反応物、p−イソプロポキシジフェニルアミン、p−(p−トルエンスルホニルアミド)−ジフェニルアミン、ジフェニルアミンとアセトンとの反応生成物、ジフェニルアミンとジイソブチレンとの反応生成物、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−シクロヘキシル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ビス(1,4−ジメチルペンチル)−p−フェニレンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノンの重合物、6−エトキシ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン、6−ドデシル−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンが挙げられる。
【0039】
硫黄系酸化防止剤としては、チオジプロピオン酸、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ラウリルステアリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジステアリル−β,β’−チオジブチレート、チオビス(β−ナフトール)、チオビス(N−フェニル−β−ナフチルアミン、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、ドデシルメルカプタン、テトラメチルチウラムモノサルファイド、テトラメチルチウラムジサルファイド、ニッケルジプチルジチオカルバメート、ニッケルイソプロピルキサンテートが挙げられる。中でも、ジラウリルチオジプロピオネートが好ましい。
【0040】
使用するゲル化防止剤の量に関しては、ゲル化防止剤の添加量が少ないと、得られるジエン系ゴムのゲル含有率が高くなってしまう。一方、得られるジエン系ゴムのゲル含有率を下げるという観点からすれば、ゲル化防止剤の添加量は多くても構わないが、この場合には得られるジエン系ゴムの収量が減ってしまう。
【0041】
そこで、本発明では、モノマー液1m
3に対するゲル化防止剤の添加量を1〜100mmolの範囲とする。このようにモノマーに対するゲル化防止剤の量を調整することで、ゲル含有率の低いジエン系ゴムを効率的に製造できる。モノマー液1m
3に対するゲル化防止剤の添加量は、3〜70mmolの範囲が好ましく、5〜50mmolの範囲がより好ましい。
【0042】
<共役ジエン系モノマーの重合>
本発明では、モノマー液に、水と遷移金属触媒と有機金属助触媒とゲル化防止剤と(好ましくは、さらに分子量調整剤)を添加することで、モノマー液中の共役ジエン系モノマーを重合して、ジエン系ゴムを得る。
【0043】
各成分の添加順序については、目的とするジエン系ゴムの物性等を考慮して適宜選択すればよいが、重合反応を開始させるための遷移金属触媒を最後に添加することが好ましい。具体的には、各成分の添加順序として、
(1)水→ゲル化防止剤→有機金属助触媒→遷移金属触媒
(2)水→有機金属助触媒→ゲル化防止剤→遷移金属触媒
(3)ゲル化防止剤→水→有機金属助触媒→遷移金属触媒
(4)ゲル化防止剤→有機金属助触媒→水→遷移金属触媒
(5)有機金属助触媒→水→ゲル化防止剤→遷移金属触媒
(6)有機金属助触媒→ゲル化防止剤→水→遷移金属触媒
が挙げられる。分子量調整剤は、例えば、遷移金属触媒を添加する前の任意のタイミングで添加できるが、ゲル化防止剤と同時か、ゲル化防止剤の直前又は直後に添加することが好ましい。また、遷移金属触媒を添加する前に、有機金属助触媒を添加した後の液体を熟成することが好ましい。
【0044】
なお、モノマー液は、共役ジエン系モノマーの全量を含んでいてもよく、共役ジエン系モノマーの一部のみを含んでいてもよい。モノマー液が共役ジエン系モノマーの一部のみを含む場合、残りの共役ジエン系モノマーは、遷移金属触媒の添加前の任意のタイミングで添加してもよく、遷移金属触媒の添加後(すなわち重合開始後)に添加してもよい。
【0045】
重合温度は、−30〜100℃の範囲が好ましく、30〜80℃の範囲がより好ましい。重合時間は、5分〜12時間の範囲が好ましく、10分〜6時間の範囲がより好ましい。重合圧力は、常圧(0気圧)〜10気圧[ゲージ圧]の範囲が好ましい。
【0046】
<共役ジエン系モノマーの重合の停止>
本発明では、所定条件下で共役ジエン系モノマーの重合を行った後に重合停止剤を添加することで、共役ジエン系モノマーの重合を停止させることができる。
【0047】
重合停止剤としては、水、アルコール、有機酸、無機酸、フェノールが挙げられる。中でも、水、アルコール、又はフェノールが好ましく、水又はアルコールと、フェノールの組み合わせも好ましい。重合停止剤は、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
アルコールとしては、炭素数が5以下のアルコールが好ましく、具体的には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert-ブタノール、又はペンタノールが好ましい。中でも、エタノールが好ましい。
【0049】
フェノールとしては、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、6−tert−ブチル−3−メチルフェノールの誘導体、2,6−ジ−tert−ブチル−4−n−ブチルフェノール、4−ヒドロキシメチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール,2−メチル−4,6−ジノニルフェノール,2,6−ジ−tert−ブチル−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,2−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(6−α−メチルベンジル−p−クレゾール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−ジヒドロキシ−3,3’−ジ(α−メチルシクロヘキシル)−5,5’−ジメチルジフェニルメタン、4,6−ビス(オクチルメチル)−o−クレゾール、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が挙げられる。中でも、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール又は4,6−ビス(オクチルメチル)−o−クレゾールが好ましく、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールがより好ましい。
【0050】
<ジエン系ゴム>
本発明の方法により製造されるジエン系ゴムは、用いた共役ジエン系モノマー及び重合反応より決まる。例えば、共役ジエン系モノマーとして1,3−ブタジエンを用い、シス−1,4重合を行うことで、1,4−ポリブタジエンゴムが得られる。
【0051】
本発明の方法により製造されるジエン系ゴムの重量平均分子量(Mw)は、50000〜3000000の範囲が好ましく、100000〜1500000の範囲がより好ましく、200000〜1000000の範囲がさらに好ましい。本発明の方法により製造されるジエン系ゴムの分子量分布(Mw/Mn)は、1.5〜9.0の範囲が好ましく、2.0〜5.0の範囲がより好ましく、2.2〜4.0の範囲がさらに好ましい。分子量分布の値が小さいと加工性が低下する傾向があり、分子量分布が大きいと破壊特性が低下する傾向がある。なお、Mw及びMw/Mnの測定法は、後述する実施例にて詳細に説明する。
【0052】
本発明の方法により製造されるジエン系ゴムは、高シス−1,4構造を有することが好ましい。具体的には、ジエン系ゴムのシス−1,4構造の割合は、80.0〜100%の範囲が好ましく、88.0〜99.8%の範囲がより好ましく、94.0〜99.0%の範囲がさらに好ましく、96.0〜98.9%の範囲が特に好ましい。なお、シス−1,4構造の割合の測定法は、後述する実施例にて詳細に説明する。
【0053】
本発明の方法により製造されるジエン系ゴムのゲル含有率(トルエン不溶分の割合)は、0.1重量%以下であることが好ましく、0.07重量%以下であることがより好ましく、0.04重量%以下であることがさらに好ましく、0.02重量%以下であることが特に好ましい。ゲル含有率が0.1重量%を超える場合、例えば、樹脂フィルム改質剤に使用したときにフィッシュアイの問題が発生しやすくなる。ゲル含有率は低くても構わないが、通常は0.001重量%以上となる。なお、ゲル含有率の測定法は、後述する実施例にて詳細に説明する。
【0054】
本発明の方法により製造されるジエン系ゴムの5重量%トルエン溶液粘度(T
cp)は、10〜300cpsの範囲が好ましく、15〜200cpsの範囲がより好ましく、20〜180cpsの範囲がさらに好ましく、25〜160cpsの範囲が特に好ましい。なお、T
cpの測定法は、後述する実施例にて詳細に説明する。
【0055】
本発明の方法により製造されるジエン系ゴムの100℃におけるムーニー粘度(ML
1+4)は、10〜200の範囲が好ましく、20〜100の範囲がより好ましく、25〜80の範囲がさらに好ましく、27〜60の範囲が特に好ましい。なお、ML
1+4の測定法は、後述する実施例にて詳細に説明する。
【0056】
本発明の方法により製造されるジエン系ゴムのT
cp/ML
1+4は、0.5〜3.5の範囲が好ましく、0.7〜3.3の範囲がより好ましく、0.9〜3.0の範囲がさらに好ましい。ここで、T
cp/ML
1+4は、リニアリティ(ゴム分子の分岐度)の指標としとなる。すなわち、T
cp/ML
1+4が低いほどゴムのリニアリティは低く、高分岐性のポリマー構造を有している。また、T
cp/ML
1+4が高いほどゴムのリニアリティは高く、低分岐性のポリマー構造を有している。
【0057】
本発明の方法により製造されるジエン系ゴムは、ビニル芳香族化合物(例えば、ポリスチレンや塊状法により製造されたABSポリマー)をベースとするポリマーの耐衝撃性変性のために用いることができる。また、本発明の方法により製造されるジエン系ゴムは、例えば、タイヤ、ホース、履物部材、工業用ベルト、医療用ゴム、スポーツ用品、クローラ又はパッキンを製造するために用いることもできる。
【0058】
本発明の方法は、ジエン系ゴムの製造方法に限らず、各種ポリマーの製造方法にも適用できる。すなわち、モノマーと有機溶媒とを含むモノマー液に、水と有機金属化合物を添加する工程を有するポリマーの製造方法においては、上記のジエン系ゴムの製造方法と同様にゲル発生の問題が発生する。
【0059】
その場合においても、モノマー液1m
3に対し1〜100mmolのゲル化防止剤を添加することで、ゲル発生の問題を解決できる。なお、有機金属化合物は、上記のジエン系ゴムの製造方法における有機金属助触媒に相当し、その他の実施形態も上記のジエン系ゴムの製造方法の実施形態と同様である。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
【0061】
<実施例1>
窒素ガスで置換した撹拌機付きステンレス製反応槽(槽容積:1.5L、槽径:0.106m、攪拌翼径:0.070m)中に、予めモレキュラーシーブスを用いて脱水処理したモノマー液1.0L(1,3−ブタジエン:31.6重量%、C4留分:37.4重量%、シクロヘキサン:29.5重量%)を投入した。そのモノマー液を400rpmで撹拌しながら、水1.7mmol、分子量調整剤としてのシクロオクタジエン4.0mmol、及びゲル化防止剤としてのジラウリルチオジプロピオネート9.0μmolをこの順に加えて、25℃で30分間撹拌した。さらに、助触媒としてのジエチルアルミニウムクロライド3.0mmolを加え、25℃で5分間撹拌した。その後、モノマー液の温度を60℃まで昇温し、触媒としてのコバルトオクトエート7.5μmolを加えることで、シス−1,4重合を行った。60℃で20分間の重合を行った後、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾールを含むメタノールを加えて重合を停止させ、未反応のブタジエン及びC4留分を蒸発除去することで、1,4−ポリブタジエンゴム129gを得た。
【0062】
得られた1,4−ポリブタジエンゴムの重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、シス−1,4構造の割合、ゲル含有率、5重量%トルエン溶液粘度(T
cp)、及びムーニー粘度(ML
1+4)を以下に示す方法で測定し、T
cp/ML
1+4を算出した。これらの結果を表1に示す。
【0063】
(重量平均分子量及び分子量分布)
得られた1,4−ポリブタジエンゴムの重量平均分子量及び分子量分布は、2本のカラム(昭和電工社製、商品名:Shodex GPC KF−805L column)を直列に接続したGPC装置(東ソー社製、商品名:HLC−8220 GPC)を用い、予め作成した標準ポリスチレンの検討線により算出した。溶離液としてはTHFを用い、カラム温度は40℃に設定した。
【0064】
(シス−1,4構造の割合)
得られた1,4−ポリブタジエンゴムのシス−1,4構造の割合は、0.4重量%の二硫化炭素溶液を用いて赤外吸収スペクトル分析を行い、740cm
−1(シス)、967cm
−1(トランス)、910cm
−1(ビニル)の吸収強度比から算出した。
【0065】
(ゲル含有率)
得られた1,4−ポリブタジエンゴムのゲル含有率は、次のように算出した。まず、ゴム10gと400mLのトルエンを三角フラスコに入れ、室温(25℃)にて完全に溶解させた。その後、200メッシュの金網を設置した濾過器を用いて濾過し、濾過後に金網に付着したゲルを真空乾燥させ、それをトルエン不溶分として重量を測定した。そして、試料ゴムに対するトルエン不溶分の割合を算出した。
【0066】
(5重量%トルエン溶液粘度)
得られた1,4−ポリブタジエンゴムの5重量%トルエン溶液粘度(T
cp)は、1,4−ポリブタジエンゴム2.28gをトルエン50mLに溶解させた後、キャノン・フェンスケ粘度計No.400を用いて25℃で測定した。なお、標準液としては、粘度計校正用標準液(JIS−Z8809)を用いた。
【0067】
(ムーニー粘度)
得られた1,4−ポリブタジエンゴムのムーニー粘度(ML
1+4)は、JIS−K6300に準拠して100℃にて測定した。
【0068】
<実施例2、比較例1>
ジラウリルチオジプロピオネートの添加量を調整することで、モノマー液1m
3に対するゲル化防止剤の添加量を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で1,4−ポリブタジエンゴムを製造した。そして、得られた1,4−ポリブタジエンゴムのMw、Mw/Mn、シス−1,4構造の割合、ゲル含有率、T
cp、及びML
1+4を実施例1と同様の方法で測定し、T
cp/ML
1+4を算出した。これらの結果を表1に示す。
【0069】
<比較例2>
ジラウリルチオジプロピオネートを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で1,4−ポリブタジエンゴムを製造した。そして、得られた1,4−ポリブタジエンゴムのMw、Mw/Mn、シス−1,4構造の割合、ゲル含有率、T
cp、及びML
1+4を実施例1と同様の方法で測定し、T
cp/ML
1+4を算出した。これらの結果を表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
以上のように、本発明に係るジエン系ゴムの製造方法によれば、ゲル含有率の低い1,4−ポリブタジエンゴムを効率的に製造できることが分かる。
【0072】
本明細書には、少なくとも以下の発明が開示されている。
[1]共役ジエン系モノマーと有機溶媒とを含むモノマー液に、水と遷移金属触媒と有機金属助触媒を添加して、前記共役ジエン系モノマーを重合するジエン系ゴムの製造方法であって、
前記モノマー液1m
3に対し1〜100mmolのゲル化防止剤を添加する工程を有するジエン系ゴムの製造方法。
[2]前記水1molに対する前記有機金属助触媒の添加量が0.5〜2.5molである[1]に記載のジエン系ゴムの製造方法。
[3]前記ゲル化防止剤が、硫黄系酸化防止剤である[1]又は[2]に記載のジエン系ゴムの製造方法。
[4]前記有機金属助触媒が、有機アルミニウム化合物である[1]〜[3]のいずれか1項に記載のジエン系ゴムの製造方法。
[5]前記共役ジエン系モノマーが1,3−ブタジエンであり、前記ジエン系ゴムが1,4−ポリブタジエンゴムである[1]〜[4]のいずれか1項に記載のジエン系ゴムの製造方法。
[6]モノマーと有機溶媒とを含むモノマー液に、水と有機金属化合物を添加して、前記モノマーを重合するポリマーの製造方法であって、
前記モノマー液1m
3に対し1〜100mmolのゲル化防止剤を添加する工程を有するポリマーの製造方法。
[7]前記水1molに対する前記有機金属助触媒の添加量が0.5〜2.5molである[6]に記載のポリマーの製造方法。
[8]前記ゲル化防止剤が、硫黄系酸化防止剤である[6]又は[7]に記載のポリマーの製造方法。
[9]前記有機金属助触媒が、有機アルミニウム化合物である[6]〜[8]のいずれか1項に記載のポリマーの製造方法。