(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1は、表面に密度の高い凹凸を形成させる技術が開示しているが、成形性との関係について開示していない。
【0011】
特許文献2の技術は、焼鈍時の酸素分圧を制御する必要があり簡便性に劣る。真空焼鈍時に、炉材などからのガスの放出により酸素分圧を一定に保つことは極めて困難である。
【0012】
特許文献3の技術は、冷間加工時の表面残留油分を機械的、又は化学的に除去する必要があり、生産性、歩留まりに劣る。
【0013】
特許文献4の技術は、表面と母材の硬さ差を45以下とするために表面を片面約10μm以上除去する必要があり、歩留まりが悪くなる。また、酸洗を必須とするため表面に酸化皮膜や硬質層が存在せず、材料自体の耐焼付き性に劣る。
【0014】
特許文献3〜4はチタン板の成形性を向上させるために、表面を軟質化しており、成形時のクラックの発生は抑制されるが、成形が進むにつれて発生する低頻度のクラックに応力集中が生じて局部くびれを促進させる。
【0015】
特許文献5の技術は、最表面からみた場合、局所的に深さ10μm以上まで硬い層が分布してしまい、炭素濃化層が10μm以上になってしまう。そのため、高い成形性を達成することが困難であった。
【0016】
特許文献6の技術は、チタン板と圧延ロールとの焼き付きを防ぐことに着目しているため、チタン板の成形性については考慮されていない。当然のことながら、チタン板の成形性を向上させる手段に関して技術的な示唆はない。
【0017】
本発明は、このような従来技術の問題を解決するためになされたものであり、複雑な工程を有することなく、表面に薄く硬質な層を均一に安定して形成することにより成形過程で表面に微小のクラックを多数発生させ、それにより成形時の応力集中を緩和することで、優れた成形性を示すチタン板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のチタン板の製造には、成形用に用いられる工業用純チタンJIS1、JIS2、これらに相当するASTM Gr.1、Gr.2等が好適に用いられる。また、ASTM Gr.16、Gr.17、Gr30、Gr.7(Ti-0.05Pd,Ti-0.06Pd,Ti-0.05Pd-0.3CoTi-0.15Pdの耐食チタン合金)も、本発明のチタン板に用いることができる。
【0019】
板材の成形性の評価には、比較的簡便なエリクセン試験が用いられるのが一般的である。エリクセン試験は、通常、固形又は液体の潤滑油を潤滑材として行われる。これらの潤滑条件の元で評価を行っている例は多数存在する。しかし、実際のプレス加工等の成形では金型によって変形する方向が異なるため、エリクセン試験のような等二軸変形に近い成形性評価では、素材のプレス成形性を評価できていない可能性がある。
【0020】
一般的に、チタン板の最も厳しい変形は平面歪変形である。そこで、本発明者らは、最も厳しい変形である平面歪変形での成形性を評価するため、平面歪変形を模擬できる試験片形状を用いた球頭張出し試験によって成形性を評価した。これにより、素材の最も厳しい変形での成形性を評価することが可能となり、実際のプレスでの成形により近い成形性評価となった。
【0021】
本発明者らは、チタン板のプレス成形性には金属組織に加え、表面特性、たとえば表面硬さと表面形状が大きく関係していると考えた。
【0022】
そこで、チタン板の最表層の硬さの情報を正確に得るために、荷重を0.245N(25gf)から9.8N(1000gf)の間で変化させた表面ビッカース硬さの測定を試みた。ビッカース硬さ測定は荷重を変化させることでビッカース圧子の押し込み深さを変えることができる。0.245Nのような極低荷重ではビッカース圧子の押し込み深さが浅いため、チタン板の再表層部の硬さを評価することができ、逆に9.8Nと高荷重では、押込み深さが深くなり、素材の硬さを評価することができる。また、チタン板の表面状態について、成形試験後の表面凹凸や表面のクラックの状態を詳細観察した。
【0023】
本発明者らは優れた成形性を示す表面特性について鋭意研究を重ねた結果、成形過程で表面に微小の表面クラックが多数発生することで成形性が向上することを突き止めた。具体的には、上記の平面歪変形を模擬した張出し成形過程において、圧延方向にひずみが25%付与されたときに表面に発生したクラックの平均間隔が50μm未満であり、クラックの深さが1μm以上、10μm未満の場合に成形性が向上することを突き止めた。
【0024】
そして、このようなクラックを得るためには、チタン板の表面のビッカース硬さを適切な値とする必要があり、それは、表面に炭素を濃化させた炭素濃化層を形成することで実現可能であることを見出した。そのような適切な硬さを有する炭素濃化層に成形過程で微小なクラックが多数生じることにより、チタン板表面における応力集中箇所が分散する効果が生じる。
【0025】
本発明者らは、さらに、上記の表面硬さ及び炭素濃化層を均一に安定して得るための製造方法について鋭意研究を行った。その結果、上記の表面硬さ及び炭素濃化層を得るためには、冷間圧延工程の条件及び焼鈍工程の条件を適正にすることが重要であることを見出した。
【0026】
本発明は、このような知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
【0027】
(1)
母材が、ASTM Gr.7、Gr.16、Gr.17およびGr.30からなる群から選択されるチタン合金、または工業用純チタンであり、前記母材の炭素濃度をC
b(質量%)、表面からの深さdμmの炭素濃度をC
d(質量%)としたときに、C
d/C
b>1.5を満たす深さd(炭素濃化層厚み)が1.0μm以上10.0μm未満であり、表面における荷重0.245Nでのビッカース硬さHV
0.025が200以上であり、表面における荷重0.49Nでのビッカース硬さHV
0.05がHV
0.025より低く、かつ、HV
0.025とHV
0.05との差が30以上であり、表面における荷重9.8Nでのビッカース硬さHV
1が150以下であり、張出し成形過程で圧延方向に25%のひずみを付与した際に表面に発生するクラックの平均間隔が50μm未満であり、深さが1μm以上10μm未満である、チタン板。
【0028】
(2)前記(1)のチタン板の製造方法であって、熱間圧延および脱スケールした後、厚さ20〜200nmの酸化皮膜を形成したチタン板に、潤滑油として鉱油を用い、圧延率70%までの圧下率を各パスあたり15%以上として冷間圧延を施した後、少なくとも最終パスにおいて圧下率が5%以下の冷間圧延を施し、冷間圧延されたチタン板に、真空、又はArガス雰囲気で、750〜810℃の温度域で0.5〜5分間保持する焼鈍を施す、チタン板の製造方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、チタン板の表面に薄く硬質な炭素濃化層を均一に形成することができる。これにより、成形過程で表面に微小のクラックが多数発生して成形時の応力集中が緩和されることで優れた成形性を示すチタン板を提供することができる。このチタン板は、成形性に優れているため、たとえば、化学プラント、電力プラント、食品製造プラントなどの熱交換器の素材として特に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0032】
(1)チタン板
(1−1)表面微小クラック:圧延方向にひずみが25%付与されたときに表面に発生したクラックの平均間隔が50μm未満であり、クラックの深さが1μm以上、10μm未満:
本発明に係るチタン板は、平面歪変形となる張出し成形過程において、圧延方向に25%ひずみを付与した際に表面に発生したクラックの平均間隔が50μm未満であり、深さ1μm以上10μm未満である。これにより、成形時のクラック先端部への応力集中が緩和され、素材の局部くびれの進行を防止することができ、その結果、成形性が向上する。このような微小クラックが発生しない場合、成形が進んだ際に、低頻度の粗大なクラックが発生し、この粗大なクラックに応力集中が生じ、局部くびれの要因となり成形性が低下する。
【0033】
なお、本願における平均クラック間隔は、(株)キーエンス製:型番VK9700のレーザー顕微鏡を用いて、表面プロファイルを圧延方向に平行な方向に200μm測定し、深さ1μm以上の凹凸の個数を計測した後、下記(1)式より得られる値で定義する。
【0034】
l=L/N…(1)
l:平均クラック間隔 L:測定長さ N:深さ1μm以上の凹凸の個数
【0035】
以下、この平均間隔が50μm未満であり、深さ1μm以上10μm未満である表面クラックを「微小クラック」という。
図1に成形性に大きく影響する金属組織特性である結晶粒径と、上記の球頭張出し試験における張出し高さの関係を示す。
図1に示すように、同じ結晶粒径であっても、成形後の表面の微小クラックの発生有無により成形性が大きく変化する。なお、結晶粒径はチタンの延性に寄与する特性であり、15〜80μmが成形性により優れている。
【0036】
(1−2)表面ビッカース硬さ:HV
0.025が200以上かつ、HV
0.05がHV
0.025より低く、その差が30以上であり、HV
1が150以下:
本発明に係るチタン板は、表面における荷重0.245Nでのビッカース硬さHV
0.025が200以上であり、表面における荷重0.49Nでのビッカース硬さHV
0.05がHV
0.025より低く、その差が30以上である。すなわち、ごく表層のみに硬い層が形成されている。このような表面ビッカース硬さを満たすことで、圧延方向に25%のひずみを付与した際に、チタン板の表面に上記の微小クラックを発生させることができる。また、素材の成形性を確保するために、高荷重である9.8Nでのビッカース硬さHV
1が150以下である必要がある。
【0037】
HV
0.025とHV
0.05の差が30未満の場合、すなわち硬い層が深くまで形成されている場合は、発生する表面クラックの深さが深いために粗大なクラックとなり、成形性に悪影響を及ぼす。また、HV
0.025が200より低い場合、成形時の表面クラックは抑制されるが、成形が進んだ際に低頻度の表面クラックが発生し、クラック部への応力集中を緩和することができず、良好な成形性は得られない。HV
1が150を超えると、素材そのものの延性が低下し、良好な成形性は得られない。
【0038】
(1−3)炭素濃化層厚み:C
d/C
b>1.5を満足する深さdが1.0μm以上10.0μm未満:
本発明に係るチタン板は母材の炭素濃度をC
b(質量%)、表面からの深さdμmの炭素濃度をC
d(質量%)としたときに、C
d/C
b>1.5を満たす深さ(以下「炭素濃化層厚み」という)dが1.0μm以上、10.0μm未満である必要がある。
【0039】
本発明は、チタン板の表層に炭素を濃化させることにより、表面ビッカース硬さを調整している。炭素濃化層厚みが1.0μm以上、10.0μm未満であれば、上記の表面ビッカース硬さを得ることができる。炭素濃化層厚みが10.0μm以上である場合、HV
0.05が高くなり、HV
0.025との差を30以上とすることができず、その結果、所望の微小クラックを発生させることができず、表面に粗大なクラックが発生し、チタン板の成形性が悪化する。炭素濃化層厚みが1.0μm未満の場合、HV
0.025を200以上とすることができない。
【0040】
(1−4)金属組織:α相の平均結晶粒径:
本発明に係るチタン板は、α相の平均結晶粒径が15〜80μmであることが好ましい。α結晶粒径が15μm未満となると、素材の延性が低下し成形性が悪化しやすくなる。α相の平均結晶粒径が80μmより大きくなるとプレス加工等により肌荒れが生じる懸念がある。この肌荒れに起因して生じる表面の凹凸は、結晶粒径が大きいほど深さや間隔が大きくなり、結晶粒径が80μmを超えると、表面に発生したクラックの深さが10μm以上或いはクラックの平均間隔が50μm以上になり、成形性を劣化させてしまう。
【0041】
(2)製造方法
本発明に係るチタン板は、溶解工程、分塊及び鍛造工程、熱間圧延工程、冷間圧延工程、真空又はArガス雰囲気焼鈍工程を実施することによって製造するに際し、熱間圧延および脱スケールした後、厚さ20〜200nmの酸化皮膜を形成するとともに、冷間圧延工程と真空又はArガス雰囲気焼鈍工程の条件を適正化することが重要である。
【0042】
(2−1)溶解工程、分塊及び鍛造工程、熱間圧延工程
溶解工程、分塊及び鍛造工程、熱間圧延工程には特に制約がなく、通常の条件で行うことができる。また、熱延工程後には酸洗処理によるスケールの除去を行う。熱間圧延工程後のチタン板の板厚は、後工程の加工を考慮し、4.0〜4.5mmであることが好ましい。
【0043】
熱延工程後に酸洗処理によってスケールの除去を行った後、厚さ20〜200nmの酸化皮膜を形成する。冷間圧延前に形成した厚さ20〜200nmの酸化皮膜によって、冷間圧延時のロールとチタン板との間で生じる焼付き現象による「むしれ状の肌荒れ(微細な凹みや被さりあり)」を抑制する。このむしれ状の肌荒れはチタン板で顕著にみられる。なお、熱延工程後に酸洗処理を施した表面には自然酸化皮膜が形成されており、その厚さは例えば5〜10nm程度である。
【0044】
このように厚さ20〜200nmの酸化皮膜を形成する方法としては、例えば大気中での加熱処理や陽極酸化処理がある。大気中の加熱処理では、加熱する温度と時間によって酸化皮膜の厚さを調整することができる。加熱処理温度は350〜650℃が好適である。加熱処理温度が350℃よりも低いと、酸化皮膜が形成される時間が長時間となる。一方、加熱処理温度が650℃を超えると、チタン板の表面に形成される酸化皮膜の緻密性が低下し、酸化皮膜が冷間圧延の過程で部分的に摩耗や剥離する場合がある。陽極酸化処理では、りん酸水溶液などの導電性がある液中においてチタン板を陽極にして電圧を20〜130V印加することで酸化皮膜が形成される。工業的には電解洗浄や電解酸洗のラインを用いて酸化皮膜を形成することができる。
【0045】
表面にこのような酸化皮膜が形成されたチタン板の場合、ピンオンディスク試験機で潤滑油を使用しない条件下において測定された摩擦係数は、試験機のピンとして工具鋼SKD11製ピンを用いた場合で0.12〜0.18、工業用チタンJIS1種製ピンを用いた場合で0.15〜0.20である。一方、酸化皮膜が形成されていない純チタン板では、工具鋼SKD11製ピンを用いた場合で0.30〜0.40、工業用チタンJIS1種製ピンを用いた場合で0.34〜0.44である。即ち、表面に上記のような酸化皮膜が形成されたチタン板は、酸化被膜が形成されていない純チタン板と比較して約二分の一の摩擦係数となる。潤滑油を使用しない条件下における摩擦係数の測定は、例えば圧延中に潤滑油膜が局所的に途切れた場合を想定した測定であることから、表面に上記の酸化皮膜が形成されているチタン板においては、ロール材質である鋼に相当するSKD11に対する摩擦係数が低いために、むしれ状肌荒れが顕著に抑制される。
【0046】
一方、冷間圧延時にはチタン板の表面が若干摩耗するため、潤滑油中にチタンの摩耗粉が混在する。本発明者らは、この摩耗粉がチタン板表面にこびりついてしまうと、酸化皮膜による潤滑性が損なわれ、むしれ状肌荒れの発生を誘発してしまうといった新たな知見を得た。このようなむしれ状肌荒れの発生を抑制するためには、チタン板に対する摩擦が小さくなることが必要であるところ、チタン板の表面に厚さ20〜200nmの酸化皮膜が形成されていれば、安定した低い摩擦係数を得ることが可能となる。なお、潤滑のために用いる冷間圧延油として、例えば酸化皮膜が形成されていない酸洗したままの表面において接触角が約15°、かつ、厚さ20〜200nmの酸化皮膜が形成された表面において接触角が5〜10°となるようなものを使用することが好ましい。これにより、濡れ性が高まり、表面肌の均一性が高まるとともに、むしれ状肌荒れを抑制する効果が向上する。
【0047】
(2−2)冷間圧延工程、真空又はArガス雰囲気焼鈍工程
本発明に係るチタン板の製造においては、冷間圧延工程で、まず高荷重の冷間圧延を行う。具体的には、冷間圧延における圧延率70%までの圧延を、各パス当たり15%以上の圧下率で行う。なお、各パスの圧下において、あるパスの圧下終了後に圧延率が70%未満であり、かつ、次のパスの圧下で圧延率が70%を超えるような場合には、圧下により圧延率が初めて70%を超えるパスでは圧下率を15%以上としなくても良い。即ち、圧延率70%までの圧延は、圧下終了後に圧延率が初めて70%を超えるパスの直前のパスまでの各パスあたりの圧下率が15%以上であれば良い。
【0048】
圧延率が70%に達するまでの各パス当たりの圧下率を15%未満で行った場合、すなわち低荷重で圧延を行った場合、表面にTiCが十分に形成されず、その後の真空又はArガス雰囲気での焼鈍で炭素濃化層が形成されない。十分な量のTiCをより安定して表面に形成するという観点からは、圧延率が70%に達するまでの各パス当たりの圧下率は20%以上とすることが好ましい。
【0049】
チタン板の圧延率が70%に達した後は、所望の圧延率となるまで各パスの圧下率が適宜設定されて冷間圧延が続けられるが、少なくとも最終パスにおいては5%以下の圧下率、即ち、0%超〜5%の圧下率で冷間圧延を行う。ここで圧延されるチタン板の表面には、それまでの圧延によって形成されたTiCの他に炭素源として圧延時の潤滑油である鉱油が残留している。いわゆる付着油分である。このような付着油分に対して最終パスで圧下率が5%以下の冷間圧延を行うことで、付着油分がチタン板表面に行き渡り、炭素源となる付着油分の分布がチタン板表面において均一化する。
【0050】
一方、最終パスにおける圧下率が5%を超えると、冷間圧延によりチタン板の加工硬化が進行し、硬いチタン板表面と圧延ロールとの間でスリップが発生してチタン板表面が擦れて顕著に摩耗してしまう場合がある。この場合、チタン板表面において残留炭素量が不均一な部位が局所的に形成されてしまい、後述の焼鈍後に本発明に係る炭素濃化層が得られない場合がある。また、チタン板表面に痕が形成されるおそれもある。このため、冷間圧延工程の最終パスに行う圧延は圧下率を5%以下とする必要がある。なお、圧延率の分配(パススケジュール)に関しては、上記のような圧延率70%までの圧下率や最終パスにおける圧下率以外に特に制約はない。例えば、圧延率が70%に達するまでの各パスの圧下率が15%以上であれば、パスごとの圧下率はそれぞれ異なっていても良い。また、最終パスの圧下率が5%以下であれば、圧延率が70%に達した以降の圧延パスのうち、最終パス以外の圧延パスにおける圧下率は5%を超えていても良い。なお、圧延率が70%を超えた以降は、被圧延板の平坦度の維持などの観点から、各パスの圧下率を15%未満で段階的に減少させて行き、最終パスで圧下率が5%以下になるように圧下率を配分するパススケジュールが好適である。
【0051】
一般的に冷間圧延時には潤滑油が用いられる。本発明に係るチタン板の製造方法においては、潤滑油として鉱油を用いる。上記の冷間圧延を行うことで、鉱油中に含まれる炭素とチタンが反応して表面にTiCが形成され、この表面のTiC中の炭素が真空又はArガス雰囲気焼鈍中にチタン板内方へ拡散し、炭素濃化層を形成することができ、本発明に係るチタン板を得ることができる。
【0052】
潤滑油として鉱油を用いる理由は、鉱油の主成分は炭化水素系であり、この鉱油中の炭素成分が炭素濃化層への炭素の供給源となるためである。潤滑油として、たとえばエマルジョン油、シリコン油などの炭素を含まない又は炭素含有量の少ない圧延油を用いると、TiCが表面に残存せず、後述する真空又はArガス雰囲気での焼鈍を行っても、所定の炭素濃化層が形成されない。
【0053】
通常、熱間圧延および酸洗などのスケール除去工程を経て製造されたチタン板は、冷間圧延により表面に深さ数μmに及ぶ凹みや被さりを成しており(このように、表面に深さ数μmに及ぶ凹みや被さりを「むしれ状肌荒れ」と呼ぶ。)、冷間圧延時には、このむしれ状肌荒れの内部に潤滑油が侵入して残存することとなる。つまり、局所的に表面直下の数μm下部(凹みや被さりの中)に炭素源となる潤滑油が多量に分布していることによって、冷間圧延後の焼鈍時に、炭素が更に内部へ拡散して、最表面からみた場合、深さ10μm以上まで局所的に硬い層が分布してしまい、炭素濃化層が10μm以上になってしまう。従来製法では、このように局所的に10μm以上になる部位が点在するため、成形時に比較的大きいクラックが発生して、そこの応力集中が発生するため、高い成形性を達成することができなかった。なお、むしれ状肌荒れの内部に侵入した潤滑油は、非常に狭いすき間に侵入しているため、冷間圧延後のアルカリなどを用いた洗浄工程でも、すき間内部に潤滑油が残存してしまう。このように残存する潤滑油は酸洗により除去することは可能であるが、表面のTiCや残留油分の低下を引き起こし、所望の炭素濃化層を得ることが困難になる。
【0054】
本発明によれば、冷間圧延前に形成した厚さ20〜200nmの酸化皮膜によって、潤滑油の濡れ性が高まり、且つ、その酸化皮膜はロールと金属チタンのバリアとして作用して、むしれ状肌荒れに達するような激しい焼付きが顕著に抑制される。その結果、焼鈍後において、上記で規定した所定の表面炭素濃度および所定の表面硬さを有するチタン板を得ることができる。冷間圧延前に形成される酸化皮膜厚さが20nm未満では酸化皮膜が薄いために上記効果が不十分であり、200nmより厚いと、潤滑油と金属チタンが反応して形成されるTiCの量が少なくなり、200以上のHV
0.025が得られなくなる。なお、好ましくは、冷間圧延前に形成する酸化皮膜の厚さは30〜100nmである。
【0055】
上記の冷間圧延を行った後に、真空又はArガス雰囲気で750〜810℃の温度域で0.5〜5分間保持する焼鈍を行う。なお、冷間圧延工程と、焼鈍工程の間にはアルカリ(水酸化ナトリウムを主成分とする水溶液)による洗浄工程を備える。冷間圧延後のチタン板の表面には、不可避的に、ウエスで拭くと容易に除去できるような潤滑油が付着するが、この潤滑油はチタン板表面の平坦でない波形状部にたまっている場合がある。このような潤滑油に対してアルカリによる洗浄工程を行うことで、不可避的に残存している潤滑油を除去することができる。その結果、過剰な炭素源が存在することによって所定の炭素濃度を超えた炭素濃化層が局所的に形成されることを抑制することができる。即ち、洗浄工程を行うことで、炭素濃化層を所定の厚さとすることでき、その結果、表面ビッカース硬さを所定の値とすることができる。
【0056】
焼鈍時の温度が750℃より低い場合、成形性に適した金属組織(結晶粒径)を得るために、長い時間保持する必要があり、その場合炭素濃化厚みが大きくなり、本発明に係るチタン板が得られない。焼鈍時の温度が810℃より高い場合、チタン中に第二相であるβ相が析出し、金属組織の制御が困難となる。
【0057】
また、大気中で焼鈍を行った場合、表面に酸化スケールが生成するため、その後の酸洗工程が必須となり、その結果、表面の炭素濃化層が除去される。
【0058】
したがって、本発明に係るチタン板の製造方法においては、前述のような冷間圧延工程と、高温かつ短時間保持の条件で真空又はAr雰囲気での焼鈍工程を行うことにより、チタン板の表面に均一に安定して炭素濃化層を形成することができる。これにより、その後の成形工程において表面に微小のクラックを多数発生させることができる。その結果、成形時の応力集中を均一に緩和することが可能となり、チタン板の成形性を向上させることができる。
【0059】
なお、冷間圧延板を焼鈍する場合、α相の平均結晶粒径は、焼鈍温度と保持時間によって決まる。本発明で規定する焼鈍温度であれば、保持時間を0.5〜5分程度とすることにより、α相の平均結晶粒径を上記の好ましい範囲とすることができる。
【実施例1】
【0060】
以下、実施例にて本発明のチタン板の効果を説明する。供試材として、電子ビーム溶解されたチタンJIS−1種のインゴットを分塊圧延、熱間圧延し、その後、硝ふっ酸を用いて酸洗処理を行って作製された、厚さ4.5mmのチタン板を用いた。このチタン板に下記のa1)〜a4)の工程を順に施し、本発明材としての試験用チタン板を作製した(試験材No.A1〜A14)
【0061】
a1)酸洗処理後に、厚さ20〜200nmの酸化皮膜を形成する工程
本工程では各試験材に対して大気中で500℃、3分の酸化処理を施した。その際に形成された酸化皮膜の厚さは72nmであった。また、グロー放電発光分光分析装置(GDS)を用いてチタン板表面におけるチタン板の深さ方向の酸素濃度の分布を測定し、その濃度分布から、深さ方向に沿って低下する酸素濃度が安定したときの値(母材の酸素濃度)が表面近傍における酸素濃度の最大値の二分の一になる時の深さを求め、その深さを酸化皮膜の厚さとした。
a2)圧延率が70%に達するまで各パス当たり15%以上の圧下率で圧延を実施した後、少なくとも最終パスの圧下率を5%以下として圧延率が89%に達するまで圧延を行う冷間圧延工程
なお、本実施例では、圧延率70%以降から最終パスの1パス前までの各パス当たりの圧下率を15%未満とした。
a3)アルカリ(水酸化ナトリウムを主成分とする水溶液中)で行う洗浄工程
a4)750〜810℃の温度域で0.5〜5分保持する真空、あるいはArガス雰囲気焼鈍工程
【0062】
本発明における試験材に加え、下記の比較材を作製した。
【0063】
比較材I:圧延率70%までの各パス当たりの圧下率を15%未満で冷間圧延した後に、上記工程a4)に示す焼鈍を実施した試験用チタン板(試験材No.A15〜A22)
【0064】
比較材II:上記工程a1)、a2)、a3)を行った後に真空中で600〜700℃の温度域で240分保持する焼鈍を実施した試験用チタン板(試験材No.A23〜A28)
【0065】
比較材III:最終パスの圧下率が5%を超える冷間圧延をした後に、上記工程a3)に示す焼鈍を実施した試験用チタン板(試験材No.A29〜A30)
【0066】
各試験材の平均結晶粒径、成形性、成形試験後の表面状態、表面ビッカース硬さ、炭素濃化層厚みを以下に示す条件で評価した。
【0067】
・平均結晶粒径
光学顕微鏡により撮影した組織写真において、JIS
G 0551(2005)に準拠した切断法によりα相の平均結晶粒径を算出した。
【0068】
・成形性
(株)東京試験機製:型番SAS−350Dの深絞り試験機にてφ40mmの球頭ポンチを用いて、平面歪変形となるようにチタン板を70mm×95mmの形状に加工して球頭張出し試験を行った。なお、試験片は圧延方向が95mmとなるように加工を行った。
【0069】
張出し成形は、日本工作油(株)製高粘性油(#660)を塗布し、この上にポリシートを乗せ、ポンチとチタン板が直接触れないようにし、試験片が破断した時の張出し高さを比較することで評価した。球頭張出し試験での張出し高さが20.5mm以上の試験材を、優れた成形性を示すチタン板と判定とした。
【0070】
・成形試験後の表面状態
球頭張出し試験後の試験片の表面について、(株)キーエンス製:型番VK9700のレーザー顕微鏡を用いて、表面プロファイルを圧延方向に平行な方向に200μm測定し、深さ1μm以上の凹凸の個数を計測した後、前述の(1)式より平均クラック間隔を計測した。また、(株)キーエンス製:型番VHX−D510のSEMを用いて成形試験後の表面観察を行った。
【0071】
・表面ビッカース硬さ
明石製作所製:型番MVK−Eのマイクロビッカース硬さ試験機にて、荷重0.245N(25gf)、0.49N(50gf)、9.8N(1000gf)で、チタン板の表面ビッカース硬さを測定した。
【0072】
・炭素濃化層厚み
(株)理学電機工業製:型番GDA 750Aのグロー放電発光分析装置を用いて、表面から深さ方向の炭素濃度分布を測定した。なお、それ以上深さが深くなっても一定の炭素濃度となった時の濃度値を母材の炭素濃度とした。ここで、母材の炭素濃度をC
b(質量%)、表面からの深さdμmの炭素濃度をC
d(質量%)としたときに、C
d/C
b>1.5を満たす深さdを炭素濃化層厚みとした。
【0073】
これらの評価結果を、製造条件とともに表1に示す。また、表面の微小クラックの一例として、
図2(a)には試験材No.A4、(b)にはNo.A24の球頭張出し試験後の表面プロファイル測定結果を示す。また
図3(a)には試験材No.A4、(b)にはNo.A24の球頭張り出し試験後の表面SEM画像を示す。
【0074】
【表1】
【0075】
図2(a)及び
図3(a)に示すように、本発明材であるNo.A4は、成形過程で表面に微小クラックが多数発生している。一方、比較材であるNo.A24は表面に微小クラックが発生しておらず、粗大なクラックが発生している。
【0076】
本発明に該当する試験材No.A1〜A14は、いずれも成形過程で表面に微小クラックが発生しており、成形時の応力集中が緩和されたため、張出し高さが20.5mm以上と優れた成形性を示した。
【0077】
比較材IであるNo.A15〜A22は、圧延率70%までの各パス当たりの圧下率が15%未満と小さかったため、炭素濃化層が形成されず、それによりHV
0.025が小さくなっている。そのため、成形過程で表面に微小クラックが発生せず、成形が進んだときに発生した低頻度のクラックに応力が集中し、成形性が劣っている。
【0078】
比較材IIであるNo.A23〜A28は、結晶粒径は満足しているものの、焼鈍時の保持時間が長時間になっているため、炭素濃化層厚みが10.0μm以上となり、HV
0.025とHV
0.05の差が30未満、又はHV
0.025よりもHV
0.05の方が大きくなっている。そのため、成形時に表面に粗大なクラックが発生し、応力集中が緩和されず、成形性が劣っている。
【0079】
比較材IIIであるNo.A29〜A30は、冷間圧延工程における最終パスの圧下率が5%を超えていたため、チタン板表面で圧延ロールがスリップしたことにより擦れ痕が形成された。また、HV
0.025とHV
0.05の差が30未満となり、所定の炭素濃化層が形成されていない。そのため、成形過程においてチタン板表面に微小クラックが発生せず、成形が進んだ際に発生した低頻度のクラックに応力が集中し、成形性が劣っている。
【実施例2】
【0080】
次に、酸洗処理後の酸化皮膜を形成する工程の酸化皮膜形成条件の違いによる酸化皮膜厚さへの影響について評価した。まず、硝ふっ酸を用いて酸洗処理を行って作製された厚さ4.5mmのチタン板に下記のb1)〜b4)の工程を順に施し、本発明材としての試験用チタン板を作製した(試験材No.B1〜B9)。
【0081】
b1)酸洗処理後に、厚さ20〜200nmの酸化皮膜を形成する工程
本実施例では、この工程で大気中での加熱処理と、りん酸水溶液を用いた陽極酸化処理といった2種類の酸化皮膜形成処理を実施した。大気中での加熱処理では350〜650℃の温度域で酸化皮膜厚さを調整し、陽極酸化では20〜130Vの電圧域によって酸化皮膜厚さを調整した。なお、酸化皮膜厚さは、上述と同じグロー放電発光分光分析装置(GDS)を用いて測定した。
b2)圧延率が70%に達するまで各パス当たり15%以上の圧下率で圧延を実施した後、少なくとも最終パスの圧下率を5%以下として圧延率が89%に達するまで圧延を行う冷間圧延工程
なお、本実施例では、圧延率70%以降から最終パスの1パス前までの各パス当たりの圧下率を15%未満とした。
b3)アルカリ(水酸化ナトリウムを主成分とする水溶液中)で行う洗浄工程
b4)800℃の温度で1分保持する真空雰囲気で行う焼鈍工程
【0082】
本発明における試験材に加え、下記の比較材を作製した。
【0083】
比較材IV:酸化皮膜の厚さが20nm未満か、200nmの超えるチタン板に対して、上記工程b2)、b3)、b4)に示す条件で冷間圧延、アルカリ洗浄、焼鈍を施した試験用チタン板(試験材No.B10〜B14)。
【0084】
比較材V:酸洗処理後に酸化皮膜を形成する工程を経ることなく自然酸化皮膜が形成されたチタン板、あるいは上記工程b1)に示す条件で酸化皮膜が形成されたチタン板に対して、上記工程b2)、b3)に示す条件で冷間圧延、アルカリ洗浄を施した後、真空中で630℃の温度で240分保持する焼鈍を施した試験用チタン板(試験材No.B15〜B17)。
【0085】
以下に示す表2では、真空雰囲気で800℃の温度で1分保持する焼鈍工程を条件A、真空雰囲気で630℃の温度で240分保持する焼鈍工程を条件Bとして記載する。焼鈍条件A,Bを実施した後の結晶粒径はいずれも約26μmと同等である。
【0086】
なお、各試験材の平均結晶粒径、成形性、成形試験後の表面状態、表面ビッカース硬さ、炭素濃化層厚みは上述と同じ条件で評価した。
【0087】
【表2】
【0088】
本発明に該当する試験材No.B1〜B9は、厚さ20〜200nmの酸化皮膜が形成された状態で冷間圧延されており、焼鈍後には所定の炭素濃化層が形成されている。その結果、いずれも成形過程で表面に微小クラックが発生しており、成形時の応力集中が緩和されたため、張出し高さが20.5mm以上と優れた成形性を示した。
【0089】
比較材IVであるNo.B10,B11,B13は、冷間圧延前の酸化皮膜が20nm未満と薄いために冷間圧延後の試験材表面にむしれ状肌荒れが散在していた。さらに炭素濃化層厚みが10.0μm以上となり、HV
0.025とHV
0.05の差が小さく、30未満となっている。そのため、成形時において表面に粗大なクラックが発生し、応力集中が緩和されず、成形性が劣っている。また、比較材IVであるNo.B12、B14は、冷間圧延前の酸化皮膜が200nmを超えて厚いために、炭素濃化層が形成されず、それによりHV
0.025が小さくなっている。そのため、成形過程で表面に微小クラックが発生せず、成形が進んだときに発生した低頻度のクラックに応力が集中し、成形性が劣っている。
【0090】
比較材VであるNo.B15〜B17は、焼鈍時の保持時間が長時間になっているため、炭素濃化層厚みが10.0μm以上となり、HV
0.025とHV
0.05の差が小さく、30未満となっている。そのため、成形時に表面に粗大なクラックが発生し、応力集中が緩和されず、成形性が劣っている。
【実施例3】
【0091】
次に、冷間圧延のパススケジュールの効果について詳細な実施例を示す。まず、硝ふっ酸を用いて酸洗処理を行って作製された厚さ4.5mmのチタン板に下記のc1)〜c4)の工程を順に施し、本発明材としての試験用チタン板を作製した(試験材No.C1〜C3,C7〜C9)。
【0092】
c1)酸洗処理後に、厚さ20〜200nmの酸化皮膜を形成する工程
本実施例では、この工程で大気中での加熱処理と、りん酸水溶液を用いた陽極酸化処理といった2種類の酸化皮膜形成処理を実施した。大気中での加熱処理では350〜650℃の温度域で酸化皮膜厚さを調整し、陽極酸化では20〜130Vの電圧域によって酸化皮膜厚さを調整した。なお、酸化皮膜厚さは、上述と同じグロー放電発光分光分析装置(GDS)を用いて測定した。
c2)下記表3のP1〜P3に示す冷間圧延パススケジュールに基づいて圧延する冷間圧延工程
c3)アルカリ(水酸化ナトリウムを主成分とする水溶液中)で行う洗浄工程
c4)800℃の温度で1分保持する真空雰囲気で行う焼鈍工程
【0093】
本発明における試験材に加え、下記の比較材を作製した。
【0094】
比較材VI:上記工程c1)に示す条件で酸化皮膜が形成されたチタン板に対して、下記表3のP4〜P6に示す冷間圧延パススケジュールで冷間圧延を施し、その後、上記工程c3)、c4)に示す条件でアルカリ洗浄、焼鈍を施した試験用チタン板(試験材No.C4〜C6,C10〜C12)。
【0095】
【表3】
【0096】
各試験用チタン板の特性について評価した結果を下記表4に示す。なお、各試験材の平均結晶粒径、成形性、成形試験後の表面状態、表面ビッカース硬さ、炭素濃化層厚みは上述と同じ条件で評価した。
【0097】
【表4】
【0098】
本発明に該当する試験材No.C1〜C3,C7〜C9は、圧延率が70%に達するまで各パスあたりの圧下率が15%以上であり、その後の圧延の少なくとも最終パスにおいては5%以下の圧下率で冷間圧延されている。その結果、いずれも成形過程で表面に微小クラックが発生しており、成形時の応力集中が緩和されたため、張出し高さが20.5mm以上と優れた成形性を示した。
【0099】
比較材VIであるNo.C4〜C6,C10〜C12は、本発明に係る冷延条件である“圧延率70%までの各パスあたりの圧下率が15%以上、かつ、その後の圧延の少なくとも最終パスで圧下率が5%以下”の少なくともいずれか一方を満たさない条件で冷間圧延されている。その結果、炭素濃化層が形成されず、成形過程で表面に微小クラックが発生せず、成形が進んだときに発生した低頻度のクラックに応力が集中し、成形性が劣っている。
が150以下であり、張出し成形過程で圧延方向に25%のひずみを付与した際に表面に発生するクラックの平均間隔が50μm未満であり、深さが1μm以上10μm未満であることを特徴とするチタン板。