(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
真空バルブに対する印加電圧に応じて内部放電が生じた際、放電開始電圧と真空度との相関を有するパッシェン曲線に基づいた判定線を用いて前記真空バルブの真空度を推定する真空バルブの真空度監視方法であって、
前記真空バルブの内部放電に伴って生じる電磁波の周波数分析を行いその周波数分布様相を加味することで、前記パッシェン曲線に基づく判定線上で前記真空バルブに対する印加電圧にて2つの真空度の推定値を取り得る場合の一方側を選択可能としたことを特徴とする真空バルブの真空度監視方法。
真空バルブに対する印加電圧に応じて内部放電が生じた際、放電開始電圧と真空度との相関を有するパッシェン曲線に基づいた判定線を用いて前記真空バルブの真空度を推定する構成の真空バルブの真空度監視装置であって、
前記真空バルブの内部放電に伴って生じる電磁波の周波数分析を行いその周波数分布様相を加味することで、前記パッシェン曲線に基づく判定線上で前記真空バルブに対する印加電圧にて2つの真空度の推定値を取り得る場合の一方側を選択可能に構成されたことを特徴とする真空バルブの真空度監視装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、パッシェン曲線の特徴として、真空度を実質的な真空状態から大気圧まで変化させると、放電開始電圧は十分大きな電圧値から一旦小さくなり、再び大きな電圧値に変化する。つまり、放電開始電圧が最低電圧値より高い範囲では、同一の放電開始電圧で2つの真空度を取り得てしまう。
【0006】
ただ、従来より行われている真空度の良否判定では、大気圧時の放電開始電圧よりも十分高い電圧値に閾値が設定されているため、放電開始電圧の特定にて良否判定を適切に行うことは可能である。
【0007】
しかしながら、大気圧時の放電開始電圧よりも低い範囲では、上記したように同一の放電開始電圧で2つの真空度を取り得ることから、真空度が否判定の中でもその真空度がどのような状況かが判断不能である。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、真空度の劣化状態の段階的判断が可能な真空バルブの真空度監視方法、及び真空バルブの真空度監視装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する真空バルブの真空度監視方法は、真空バルブに対する印加電圧に応じて内部放電が生じた際、放電開始電圧と真空度との相関を有するパッシェン曲線に基づいた判定線を用いて前記真空バルブの真空度を推定する真空バルブの真空度監視方法であって、前記真空バルブの内部放電に伴って生じる電磁波の周波数分析を行いその周波数分布様相を加味することで、前記パッシェン曲線に基づく判定線上で前記真空バルブに対する印加電圧にて2つの真空度の推定値を取り得る場合の一方側を選択可能としている。
【0010】
この構成によれば、真空バルブの内部放電に伴って生じる電磁波の周波数分析を行いその周波数分布様相を加味することで、パッシェン曲線に基づく判定線のみから真空バルブの真空度を推定するのに比べてより詳細な真空度の推定が可能となる。これにより、真空度の劣化状態の段階的な判断が可能となる。
【0011】
また上記の真空バルブの真空度監視方法において、前記パッシェン曲線に基づく判定線上で放電開始電圧が最低値となる真空度の両側で前記電磁波の周波数分布様相を分け、その2つの周波数分布様相の何れに該当するかで前記真空度の推定値を選択することが好ましい。
【0012】
この構成によれば、パッシェン曲線に基づく判定線上で放電開始電圧が最低値となる真空度の両側で電磁波の周波数分布様相を大別できるため、その2つの周波数分布様相の何れに該当するかを判断するだけで容易に真空度の推定が可能である。
【0013】
また上記の真空バルブの真空度監視方法において、前記真空バルブに対する印加電圧は、通常使用時に印加される交流電圧を含むことが好ましい。
この構成によれば、真空バルブに対して通常使用時に印加される交流電圧にて真空度の推定が可能なため、通常使用状態で容易にまた何時でも真空度の推定が可能である。
【0014】
また上記課題を解決する真空バルブの真空度監視装置は、真空バルブに対する印加電圧に応じて内部放電が生じた際、放電開始電圧と真空度との相関を有するパッシェン曲線に基づいた判定線を用いて前記真空バルブの真空度を推定する構成の真空バルブの真空度監視装置であって、前記真空バルブの内部放電に伴って生じる電磁波の周波数分析を行いその周波数分布様相を加味することで、前記パッシェン曲線に基づく判定線上で前記真空バルブに対する印加電圧にて2つの真空度の推定値を取り得る場合の一方側を選択可能に構成される。
【0015】
この構成によれば、上記したように、真空度の劣化状態の段階的な判断が可能な監視装置として提供できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の真空バルブの真空度監視方法及び監視装置によれば、真空度の劣化状態の段階的判断を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、真空バルブの真空度監視方法及び監視装置の一実施形態について説明する。
図1に示すように、真空遮断器10のタンク11内において、同一電路を構成する一対の電路導体12間に真空バルブ13が介在されている。真空バルブ13は、各電路導体12とそれぞれ接続される一対の電極(図示略)を自身の容器内に備え、操作器14の動作により電極の接続・切り離しが行われる構成となっている。タンク11の内壁には、真空バルブ13の内部放電に伴う電磁波を受信可能なアンテナ21が装着されている。
【0019】
図2に示すように、真空バルブ13の真空度監視装置20は、アンテナ21及び監視回路22を備えている。監視回路22は、受信機23、A/D変換部24、処理部(CPU)25、及びメモリ26を備える。アンテナ21及び受信機23は、真空バルブ13の内部放電に伴って生じる電磁波を含む所定帯域(f1〜fn帯域)の電磁波を受信する。本実施形態では、受信する電磁波のf1〜fn帯域は、例えば1[MHz]〜1000[MHz]である。また、受信機23は、受信した所定帯域の電磁波をn個に細分し、次段のA/D変換部24は、その細分した各区間の電磁波レベル(例えば区間最大値)をデジタル値に変換して処理部25に出力する。処理部25は、細分したn個の電磁波レベル、即ち受信した電磁波の周波数分析に基づいて、真空バルブ13の真空度の推定を行っている。
【0020】
また、この真空度の推定(内部放電に伴う電磁波の周波数分析)は、電圧印加状態で行われ、例えば通常使用時における交流電圧印加中に行われる。即ち、
図4に示すように、判定時に印加される交流電圧はプラス及びマイナスの定格電圧間で正弦波状に変化するものであり、処理部25は、ゼロ電圧を含む電圧V1からプラス側のピーク電圧を含む電圧V5までの間を等分した電圧V1〜V5の5段階に設定し、真空バルブ13にて内部放電が発生した時の電圧値を特定する。因みに、マイナス側については電圧−V1〜−V5に振り分けられるが、プラス側の電圧V1〜V5として同等に扱う。そして、処理部25は、電圧V1〜V5を含む印加電圧を把握することで、内部放電に伴う電磁波が発生した時の印加電圧を特定する。
【0021】
ここで、
図3は、放電開始電圧と真空度との相関を示したパッシェン曲線の一例を示す。同
図3の放電開始電圧には、真空バルブ13の印加電圧V1〜V5も合わせて示している。
【0022】
パッシェン曲線は、真空度が10
1 [Pa]付近で放電開始電圧が電圧V1以下に低下する。この真空度10
1 [Pa]から真空度が低くなり大気圧に近づくほど、放電開始電圧が上昇する。真空度が10
4 〜10
5 [Pa]の略中間で定格電圧V5と同等の放電開始電圧となり、大気圧の10
5 [Pa]ではその電圧V5よりも高い放電開始電圧となる。一方、真空度10
1 [Pa]から真空度が高くなるほど、同様に放電開始電圧が上昇する。真空度が10
0 〜10
-1[Pa]の略中間で定格電圧V5と同等の放電開始電圧となり、真空度が約10
-1[Pa]で大気圧(10
5 [Pa])と同等の放電開始電圧となる。そして、真空度が10
-1[Pa]を超えたところから真空度が10
-3[Pa]、10
-4[Pa]と高まっても、放電開始電圧は略最高電圧で大きく変化しなくなる。因みに、真空度10
-4[Pa]が一般的な真空管理値である。
【0023】
そして、
図3のようなパッシェン曲線(準じたものも含む)に基づく判定線がメモリ26に保持されている。処理部25は、内部放電が発生した時点の印加電圧が上記の電圧V1〜V5のいずれであったかを特定し、特定した電圧V1〜V5をもとに
図3の判定線から真空度の推定を行う。
【0024】
ところで、
図3に示すパッシェン曲線の特徴として、真空度が10
1 [Pa]で放電開始電圧が略最低値(略電圧V1)を取り、この両側では放電開始電圧がともに上昇していく。つまり、真空バルブ13に対する印加電圧が電圧V1の時に内部放電が生じれば、真空度は10
1 [Pa]と推定可能であるが、真空バルブ13に対する印加電圧が電圧V2以上となると、真空度の推定値としては2つ取り得る。
【0025】
そこで、受信した電磁波の周波数分析を試みたところ、真空度10
1 [Pa]が放電開始電圧の略最低値(略電圧V1)の両側で、電磁波の周波数分布の様相が比較的大きく異なることがわかった。これを踏まえ、電磁波の周波数分析を取り入れることで、2つ取り得る真空度の推定値のうち1つを選択できるようにした。
【0026】
図5(a)は、真空バルブ13の真空度が正常値(真空管理値)での電磁波の周波数分布様相であり、周波数f1〜fnの帯域全体で一様に電磁波レベルが小さくなっている。一方、
図5(b)(c)は、真空バルブ13の真空度が劣化範囲となって内部放電が発生した場合の電磁波の周波数分布様相であり、
図5(b)に示す分布様相と、
図5(c)に示す分布様相の2つに大別される。
【0027】
図5(b)は、
図3参照の放電開始電圧が略最低となる真空度10
1 [Pa]を分岐点Aとしこの分岐点Aよりも真空度が高い領域X1側の周波数分布様相であって、f1〜fn間の所定周波数fx(本実施形態では、例えば200[MHz])よりも低い周波数帯域で電磁波レベルが一様に大きく、所定周波数fxよりも高い周波数帯域で電磁波レベルが一様に小さくなっている。つまり、真空度が分岐点Aよりも高い状況での内部放電は、低い周波数の電磁波が発生し、所定周波数fxより低い周波数帯に偏倚して電磁波レベルが増大する。
【0028】
図5(c)は、
図3参照の分岐点Aよりも真空度が低い領域X2側の周波数分布様相であって、所定周波数fxを含め周波数f1〜fn間全体で一様に電磁波レベルが大きくなる。つまり、真空度が分岐点Aよりも低い状況での内部放電は、上記よりも高い周波数の電磁波が発生し、周波数f1〜fnの帯域全体で電磁波レベルが増大する。
【0029】
これらを踏まえ、本実施形態の処理部25は、
図5(a)〜(c)の各分布様相が判定可能な判定値、例えば同
図5の判定値aのように設定されてメモリ26に保持され、真空バルブ13での内部放電の発生からその真空度の推定を行うようになっている。
【0030】
つまり、周波数f1〜fx間及び周波数fx〜fn間の両方で電磁波レベルが判定値a以下である場合は、真空バルブ13の真空度は10
-2[Pa]より高く、真空度が正常であるという判定となる。これに対し、周波数f1〜fx間の例えば80%で電磁波レベルが判定値aを上回る場合は、真空バルブ13の真空度は分岐点Aである真空度10
1 [Pa]よりも高い真空度の領域X1にあるという判定となる。周波数f1〜fx間及び周波数fx〜fn間のそれぞれ例えば80%で電磁波レベルが判定値aを上回る場合は、真空バルブ13の真空度は分岐点Aである真空度10
1 [Pa]よりも低い真空度の領域X2にあるという判定となる。
【0031】
次に、本実施形態の動作(作用)を説明する。
真空バルブ13の真空度の推定は電圧印加状態で行われ、例えば通常使用における交流電圧印加状態で行われる。真空度監視装置20の処理部25は、
図4のように印加電圧を電圧V1〜V5(電圧−V1〜−V5も同様)の各領域に分け、アンテナ21を介して受信した電磁波の周波数分析(周波数f1〜fn帯域)を各電圧V1〜V5毎に行う。
【0032】
次いで、処理部25は、電磁波の周波数分布を行い、細分した個々の電磁波レベルと判定値aとの比較を行う(
図5参照)。処理部25は、電磁波レベルが周波数f1〜fx及び周波数fx〜fnのいずれの帯域において判定値aを上回ったかのレベルの大小及びその周波数分布様相、更にはその時の印加電圧V1〜V5に基づいて、真空バルブ13の真空度を推定する(
図3参照)。つまり、電磁波レベルの大小で真空バルブ13の内部放電の有無がわかり、電磁波の周波数分布様相で真空バルブ13の真空度状態(領域X1,X2)がわかり、更には内部放電が生じた場合のその時の印加電圧(電圧V1〜V5)で真空度のより具体的な値が推定可能となる。
【0033】
例えば、真空バルブ13に対する印加電圧が電圧V2で、内部放電に伴う電磁波のレベルが周波数f1〜fxに偏倚して判定値aを超えると、処理部25は、真空バルブ13の真空度が約10
0 [Pa]であると推定する。また、真空バルブ13に対する印加電圧が電圧V2で、内部放電に伴う電磁波のレベルが周波数f1〜fxと周波数fx〜fnとの両方で判定値aを超えると、処理部25は、真空バルブ13の真空度が約10
3 [Pa]であると推定する。
【0034】
このように本実施形態では、真空バルブ13に対する印加電圧に基づく内部放電の有無の検出に加え、その内部放電に伴って生じる電磁波の周波数分析を行うことで、
図3のパッシェン曲線から具体的な1つの真空度の数値の推定が可能となり、段階的な真空度の劣化状況が判断可能である。
【0035】
次に、本実施形態の特徴的な効果を記載する。
(1)真空度監視装置20は、真空バルブ13の内部放電に伴って生じる電磁波の周波数分析を行い、その周波数分布様相を加味して真空バルブ13の真空度の推定を行っている。これにより、パッシェン曲線に基づく判定線のみから真空バルブ13の真空度を推定するのに比べて、本実施形態ではより詳細な真空度の推定が可能で、真空度の劣化状態の段階的な判断を行うことができる。
【0036】
(2)パッシェン曲線に基づく判定線上で放電開始電圧が最低値となる真空度(10
1 [Pa])の両側(領域X1,X2)で電磁波の周波数分布様相を大別できるため、本実施形態ではその2つの周波数分布様相の何れに該当するかを判断するだけで容易に真空度の推定を行うことができる。
【0037】
(3)真空バルブ13に対して通常使用時に印加される交流電圧にて真空度の推定を行う構成のため、通常使用状態で容易にまた何時でも真空度の推定を行うことができる。
尚、上記実施形態は、以下のように変更してもよい。
【0038】
・監視装置20のアンテナ21を真空遮断器10のタンク11の内側に設けたが、設置場所はこれに限らず、例えば
図1の破線にて示すようにタンク11の外側に設けてもよい。この場合、タンク11内の真空バルブ13からの電磁波が受信可能な位置(絶縁スペーサやブッシングといった非金属部分等)に設置する必要がある。
【0039】
・真空バルブ13の真空度の推定を通常使用時の交流電圧印加に基づいて行ったが、例えば試験用の電圧(交流又は直流)を別途用意して行うようにしてもよい。
・電圧V1〜V5の5段階を以て真空度の推定を行ったが、4段階以下、6段階以上で真空度の推定を行うようにしてもよい。
【0040】
・
図6及び
図7に示すように、
図5(b)の周波数分布様相となる真空度の領域X1と、
図5(c)の周波数分布様相となる真空度の領域X2との間に、中間領域X3を設定してもよい。印加電圧が高い側(マイナスでは低い側)では、
図5(b)又は
図5(c)のように周波数分布様相がより明確に分かれることが考えられるため、印加電圧が高い側(低い側)の電圧Vbの範囲(領域X1,X2)では、上記実施形態と同様に電磁波の周波数分析を併用して真空バルブ13の真空度の推定を行う。一方、印加電圧がゼロに近い電圧Vaの範囲となる中間領域X3(例えば真空度10
0 〜10
3 [Pa])において、周波数分布様相の差が小さいような場合では、電磁波の周波数分析を省略してもよい。
【0041】
・電磁波レベルと判定値aとの比較において各判定領域の80%以上で電磁波レベルが判定値aを上回るか否かで真空バルブ13での放電有無の判定を行っていたが、各判定領域の電磁波レベルの積算値、平均値等で行ってもよい。
【0042】
・周波数分析後の細分した電磁波レベルにて真空バルブ13での放電有無の判定を行っていたが、全体の電磁波レベルで一先ず真空バルブ13での放電有無の判定を行ってから、その後に周波数分析を行うようにしてもよい。
【0043】
・周波数f1、fx、fnや分岐点A等の設定値は、使用する真空バルブ13等に応じて適宜変更してもよい。