(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6120007
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】電源制御装置
(51)【国際特許分類】
B60R 16/03 20060101AFI20170417BHJP
【FI】
B60R16/02 670A
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-60868(P2014-60868)
(22)【出願日】2014年3月24日
(65)【公開番号】特開2015-182607(P2015-182607A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2016年7月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 徹
【審査官】
谷治 和文
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−046737(JP,A)
【文献】
特開2012−240487(JP,A)
【文献】
特開2009−001124(JP,A)
【文献】
特開2009−148090(JP,A)
【文献】
特開2008−296608(JP,A)
【文献】
特開2005−335669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 16/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルタネータから供給される発電電力を充電するキャパシタと、
前記オルタネータ及び前記キャパシタの出力電圧を電圧変換して負荷群若しくは鉛電池に供給する直流電圧変換部と、
前記オルタネータの発電動作に基づく前記キャパシタの充電動作を制御する第一の制御部と、
前記直流電圧変換部の動作を制御する第二の制御部と
を備えた電源制御装置において、
前記第一の制御部には、回生動作機会の減少を判定したとき判定信号を出力する判定部を備え、前記第二の制御部には前記判定信号の入力に基づいて、前記キャパシタの放電しきい値電圧を初期設定値から引き上げるしきい値電圧再設定手段を備えたことを特徴とする電源制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電源制御装置において、
前記第二の制御部を前記直流電圧変換部に備え、前記判定部は、車速センサから出力される車速信号に基づいて、回生動作機会の減少を判定する第一の判定部を備えたことを特徴とする電源制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電源制御装置において、
前記判定部をエンジン制御装置に設けるとともに、前記しきい値電圧再設定手段を前記直流電圧変換部に備え、前記判定部は、ナビゲーションシステムの走行位置情報に基づいて、回生動作機会の減少を判定する判定信号を出力する第二の判定部を備えたことを特徴とする電源制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載の電源制御装置において、
前記第一の判定部は、前記車速信号に基づいて、あらかじめ設定された車速より高い車速があらかじめ設定された時間以上継続したとき、前記判定信号を出力することを特徴とする電源制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電源制御装置において、
前記第一の判定部は、
前記車速信号に基づいて、あらかじめ設定されたしきい値に満たない車速があらかじめ設定された時間以上継続したとき前記判定信号を解除し、前記しきい値電圧再設定手段は、前記判定信号の解除に基づいて前記キャパシタの放電しきい値電圧を初期設定値に戻すことを特徴とする電源制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速走行時のエンジン回転エネルギーを電力に変換する回生システムを備えた自動車用電源制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
減速走行時のエンジン回転エネルギーを電力に変換する回生システムの一種類として、可変電圧式オルタネータと、電気二重層キャパシタと、DC/DCコンバータを備えたものがある。このような回生システムでは、減速走行時にオルタネータで発電された電力をキャパシタに蓄電し、通常走行時にはキャパシタに蓄電された電力をDC/DCコンバータを介して負荷群及び鉛バッテリーに供給する。
【0003】
可変電圧式オルタネータは、電気二重層キャパシタの蓄電状態に応じて出力電圧が調整されて、キャパシタを効率よく充電可能である。また、電気二重層キャパシタは、鉛バッテリーに比して充電効率に優れ、寿命も長い。従って、電気二重層キャパシタの充放電動作を鉛バッテリーに優先して利用することにより、エンジンの負荷を軽減して燃料消費量を低減するとともに、鉛バッテリーの寿命を延ばすことも可能となる。
【0004】
特許文献1には、上記のようなオルタネータと、キャパシタと、DC/DCコンバータを備えた回生システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−240487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような回生システムを備えた自動車では、例えば高速道路を走行している場合のように、定速走行状態にある時間が長く、減速走行を行う時間が短いとき、電気二重層キャパシタから負荷群へ電力を供給している時間が長くなる。
【0007】
すると、キャパシタの出力電位が低くなるため、減速走行時にキャパシタへの充電効率が低下する。一般的に、電気二重層キャパシタでは充電開始時の出力電位が低いと、充電開始時の出力電位が高い場合に比して、充電エネルギー量が低下するためである。
【0008】
すると、定速走行時にキャパシタから負荷群に十分な電力を供給することができなくなるため、鉛バッテリーから負荷群に電力を供給し、さらにオルタネータを作動させる必要が生じることがある。この結果、エンジンの負荷が増大して燃料消費量が増大するという問題点がある。
【0009】
特許文献1に開示された回生システムでは、キャパシタの出力上限電位を25Vとして通常より高く設定することにより、充電エネルギー量を増大させることが可能である。しかし、これにともなって高耐圧のキャパシタが必要となって部品コストが上昇するとともに、DC/DCコンバータで12Vへ降圧するためのエネルギー損失が増大するという問題点がある。
【0010】
この発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は減速走行の機会が減少しても、キャパシタへの充電エネルギー量を確保して、燃料消費量の増大を防止し得る電源制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する電源制御装置は、オルタネータから供給される発電電力を充電するキャパシタと、前記オルタネータ及び前記キャパシタの出力電圧を電圧変換して負荷群若しくは鉛電池に供給する直流電圧変換部と、前記オルタネータの発電動作に基づく前記キャパシタの充電動作を制御する第一の制御部と、前記直流電圧変換部の動作を制御する第二の制御部とを備えた電源制御装置において、前記第一の制御部には、回生動作機会の減少を判定したとき判定信号を出力する判定部を備え、前記第二の制御部には前記判定信号の入力に基づいて、前記キャパシタの放電しきい値電圧を初期設定値から引き上げるしきい値電圧再設定手段を備えたことを特徴とする。
【0012】
この構成により、回生動作機会が減少したとき、キャパシタの放電しきい値電圧が引き上げられる。
また、上記電源制御装置は、前記第二の制御部を前記直流電圧変換部に備え、前記判定部は、車速センサから出力される車速信号に基づいて、回生動作機会の減少を判定する第一の判定部を備えることが好ましい。
【0013】
この構成により、車速信号に基づいて回生動作機会の減少を判定する判定信号が第一の判定部から出力され、その判定信号に基づいて直流電圧変換部はキャパシタの放電しきい値電圧を引き上げた状態で動作する。
【0014】
また、上記電源制御装置の前記制御部は、前記判定部をエンジン制御装置に設けるとともに、前記しきい値電圧再設定手段を前記直流電圧変換部に備え、前記判定部は、ナビゲーションシステムの走行位置情報に基づいて、回生動作機会の減少を判定する判定信号を出力する第二の判定部を備えることが好ましい。
【0015】
この構成により、走行位置情報に基づいて回生動作機会の減少を判定する判定信号が第二の判定部から出力され、その判定信号に基づいて直流電圧変換部はキャパシタの放電しきい値電圧を引き上げた状態で動作する。
【0016】
また、上記電源制御装置の前記制御部は、前記第一の判定部は、前記車速信号に基づいて、あらかじめ設定された車速より高い車速があらかじめ設定された時間以上継続したとき、前記判定信号を出力することが好ましい。
【0017】
この構成により、あらかじめ設定された車速より高い車速があらかじめ設定された時間以上継続したとき、第一の判定部から判定信号が出力される。
また、前記第一の判定部は、前記車速信号に基づいて、あらかじめ設定されたしきい値に満たない車速があらかじめ設定された時間以上継続したとき前記判定信号を解除し、前記しきい値電圧再設定手段は、前記判定信号の解除に基づいて前記キャパシタの放電しきい値電圧を初期設定値に戻すことが好ましい。
【0018】
この構成により、あらかじめ設定されたしきい値に満たない車速があらかじめ設定された時間以上継続したとき、第一の判定部により判定信号が解除され、しきい値電圧再設定手段によりキャパシタの放電しきい値電圧が初期設定値に戻された状態で前記直流電圧変換部が動作する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の電源制御装置によれば、減速走行の機会が減少しても、キャパシタへの充電エネルギー量を確保して、燃料消費量の増大を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】電源制御装置の動作を示すフローチャートである。
【
図3】電源制御装置の動作を示すフローチャートである。
【
図4】電源制御装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、電源制御装置の一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示す自動車の電源制御装置は、オルタネータ1の出力電力が電気二重層キャパシタ(以下キャパシタという)2及びDC/DCコンバータ3に供給される。DC/DCコンバータ3は、オルタネータ1若しくはキャパシタの直流出力電圧を降圧して、鉛バッテリー8及び負荷群9に供給する。
【0022】
前記オルタネータ1は、エンジン制御ECU(第一の制御部)4から出力される制御信号CS1に基づいてその発電動作と、出力電圧が制御され、前記DC/DCコンバータ3はエンジン制御ECU4から出力される制御信号CS2に基づいてその降圧動作が制御される。
【0023】
詳述すると、エンジン制御ECU4には車速センサ5で検出された車速信号Vと、自動車に搭載されているナビゲーションシステム6から出力されるナビゲーション信号NSが入力される。ナビゲーション信号NSは、GPSによる現在位置情報と、目的地の設定に基づいて地図上で経路を案内する経路案内情報とを含む。
【0024】
前記エンジン制御ECU4は、前記オルタネータ1に制御信号CS1を出力し、バッテリー電圧が低下したとき、あるいは回生動作時にオルタネータ1の発電動作を制御する。
前記エンジン制御ECU4は、前記ナビゲーションシステム6から出力されるナビゲーション信号NSに基づいて高速走行に移行するか否かを判定し、その判定信号Yを前記制御信号CS2に含めてDC/DCコンバータ3に出力する。
【0025】
前記DC/DCコンバータ3は、電圧変換動作及び出力電圧を制御するコントローラー(第二の制御部)7を備え、そのコントローラー7には前記キャパシタ2の出力電圧CVと前記判定信号Yが入力される。そして、コントローラー7は判定信号Yに基づいて高速走行を認識すると、キャパシタ2の放電しきい値電圧を通常走行時より高い電圧に設定する。
【0026】
すなわち、DC/DCコンバータ3は例えば通常走行時にはキャパシタ2の出力電圧が9Vに低下するまでキャパシタ2を放電させて電圧変換動作を行い、高速走行時にはキャパシタ2の出力電圧が12.5Vまで低下したとき電圧変換動作を停止してキャパシタ2の放電を停止させる。
【0027】
キャパシタ2は一般的に出力電圧が高い状態での充電動作時により高い充電エネルギーを蓄積可能である。
図5に示すように、同一の回生時間すなわち同一の充電電力が供給されるとき、キャパシタ2の充電エネルギーは9Vを初期電位としたときの充電エネルギーP1に対し、12.5Vを初期電位としたときの充電エネルギーP2の方が高くなる。
【0028】
前記DC/DCコンバータ3は、その作動時にオルタネータ1あるいはキャパシタ2の出力電圧を12Vに変換して、鉛バッテリー8及び負荷群9に供給する。
次に、上記のように構成された電源制御装置の作用を説明する。
【0029】
図2に示すように、自動車の走行中にエンジン制御ECU4はナビゲーションシステム6からのナビゲーション信号NSを受信し、且つ目的地の設定がされていると(ステップ1,2)、ステップ3に移行する。ステップ3では、経路案内情報と現在位置情報に基づいて高速走行が開始されるか否かを判定し、高速走行の開始が予期されると、回動動作機会の減少を予期してキャパシタ2の放電しきい値電圧を再設定する下限再設定モードに移行する(ステップ4)。
【0030】
高速走行時には、単位時間あたりに回生動作が発生する頻度が減少し、あるいは減速走行により回生動作を行う時間が短いため、これらを含めて回生動作機会の減少として認識する。
【0031】
ステップ1,2でナビゲーション信号NSを受信していないとき若しくは目的地の設定に基づく経路案内情報を受信していないとき、ステップ5に移行して車速があらかじめ設定されたしきい値を一定時間以上越えたか否かを判定する。ここでは、例えば80km/h以上の速度が60秒以上継続したか否かを判定する。そして、ステップ5で80km/h以上の速度が60秒以上継続したとき、高速走行であると判定して、ステップ4に移行する。
【0032】
ステップ5で80km/h以上の速度が60秒以上継続していないときには、通常制御モードに移行する(ステップ6)。また、ステップ3で高速走行が予期されないときは、ステップ6に移行する。
【0033】
図3は、ステップ4の下限再設定モードの動作を示す。DC/DCコンバータ3のコントローラー7で下限再設定モードが開始されると(ステップ11)、キャパシタ2の出力電圧が測定される(ステップ12)。
【0034】
次いで、コントローラー7はキャパシタ2の出力電圧のしきい値を初期設定値の9Vから12.5Vに引き上げ、そのしきい値とキャパシタ2の出力電圧とを比較する(ステップ13)。そして、キャパシタ2の出力電圧が12.5V以上であれば、その信号電圧が12.5Vに低下するまでキャパシタ2からの放電電圧がDC/DCコンバータ3で電圧変換されて、鉛バッテリー8及び負荷群9に供給される(ステップ14)。
【0035】
また、減速走行による回生動作時には、オルタネータ1が動作して、その発電電力がキャパシタ2に供給される。
ステップ13でキャパシタの出力電圧が12.5V未満であれば、ステップ16に移行してDC/DCコンバータ3の動作が停止されて、キャパシタ2からの放電動作が禁止される。次いで、ステップ15で減速走行時の回生動作によりキャパシタ2が充電される。
【0036】
図4に示すように、DC/DCコンバータ3のコントローラー7が下限再設定モードで動作しているとき(ステップ21)、エンジン制御ECU4は車速信号Vがあらかじめ設定されたしきい値を所定時間以上の間で下回っているか否かを判定する(ステップ22)。
【0037】
ここでは、例えば60km/h未満の速度が60秒以上継続したか否かを判定する。そして、ステップ22で60km/h未満の速度が60秒以上継続したとき、高速走行が終了したことを認識して、再設定モードから通常モードに移行する(ステップ23)。
【0038】
通常モードでは、キャパシタ2の出力電圧が放電しきい値電圧の初期設定値である9Vに低下するまでDC/DCコンバータ3を介した放電動作が継続されるとともに、回生動作時にはオルタネータ1の発電電力がキャパシタ2に供給されて充電される。
【0039】
ステップ22で60km/h未満の速度が60秒以上継続していないときには、ステップ24に移行して、下限再設定モードを継続する。
上記のような電源制御装置では、次に示す効果を得ることができる。
(1)高速走行時には、キャパシタ2の放電しきい値電圧を通常走行時より高く設定することができるので、高速走行中の回生動作時に、キャパシタ2に蓄えられる充電エネルギーを増大させることができる。従って、回生動作が行われる機会の少ない高速道路上での走行時においても、キャパシタ2の充電エネルギーを確保することができる。
(2)高速走行中にキャパシタ2の充電エネルギーを確保することができるので、キャパシタ2あるいは鉛バッテリー8の充電量の低下によるオルタネータ1の作動時間を短くすることができる。従って、高速定速走行中でのオルタネータ1の作動時間を短くして、燃費の低減を図ることができる。
(3)ナビゲーションシステムでの目的地の設定に基づいて、高速走行への移行を予期して、キャパシタ2の放電しきい値電圧を引き上げる下限再設定モードへ自動的に移行することができる。
(4)ナビゲーションシステムで目的地が設定されていないときには、80km/h以上の車速が60秒以上継続したとき、キャパシタ2の放電しきい値電圧を引き上げる下限再設定モードへ自動的に移行することができる。
(5)下限再設定モードで走行中に、60km/h未満の速度が60秒以上継続したとき、高速走行が終了したことを認識して、下限再設定モードから通常モードに自動的に移行することができる。
【0040】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・高速走行を車速で認識する条件は、80km/h以上の速度が60秒以上継続する場合以外にも、任意の速度と時間を設定してもよい。
・高速道路あるいは自動車専用道路の走行時以外にも、一般道で定速運転が一定時間以上継続するときに、下限再設定モードに移行するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1…オルタネータ、2…キャパシタ、3…直流電圧変換部(DC/DCコンバータ)、4…第一の制御部(判定部、第一の判定部、第二の判定部)、5…車速センサ、6…ナビゲーションシステム、7…第二の制御部(しきい値電圧再設定手段、コントローラー)、8…鉛電池(鉛バッテリー)、9…負荷群、V…車速信号、NS…ナビゲーション信号、Y…判定信号、CV…出力電圧。