特許第6120076号(P6120076)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6120076Cu−Ga合金スパッタリングターゲット及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6120076
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】Cu−Ga合金スパッタリングターゲット及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20170417BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20170417BHJP
   C22C 1/04 20060101ALI20170417BHJP
   C22C 1/05 20060101ALI20170417BHJP
【FI】
   C23C14/34 A
   C22C9/00
   C22C1/04 A
   C22C1/05 R
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-160134(P2013-160134)
(22)【出願日】2013年8月1日
(65)【公開番号】特開2015-30870(P2015-30870A)
(43)【公開日】2015年2月16日
【審査請求日】2016年3月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【弁理士】
【氏名又は名称】影山 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100119921
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 正之
(74)【代理人】
【識別番号】100113826
【弁理士】
【氏名又は名称】倉地 保幸
(74)【代理人】
【識別番号】100076679
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 和夫
(72)【発明者】
【氏名】吉田 勇気
(72)【発明者】
【氏名】石山 宏一
(72)【発明者】
【氏名】森 曉
【審査官】 今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−214140(JP,A)
【文献】 特開2010−265544(JP,A)
【文献】 特開2012−017481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
C22C 1/04
C22C 1/05
C22C 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu−Ga合金のγ相及びζ相を有する素地中に、Na化合物相が分散した組織を有し、Ga:20〜30原子%、Na:0.05〜10原子%を含有し、残部がCu及び不可避不純物(Na化合物におけるNa以外の元素を含む)からなる成分組成を有する焼成体であって、
前記γ相の平均粒径が、30〜100μmであり、
前記Na化合物相の平均粒径が、8.5μm以下であり、かつ、前記Na化合物相の最大粒径が20μm以下であることを特徴とするCu−Ga合金スパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記ζ相に帰属するX線回折の主ピーク強度が、前記γ相に帰属するX線回折の主ピーク強度の5%以上であることを特徴とする請求項に記載のCu−Ga合金スパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記Na化合物相は、NaF、NaS、NaSe及びNaAlFの少なくとも1種以上からなることを特徴とする請求項1又は2に記載のCu−Ga合金スパッタリングターゲット。
【請求項4】
前記焼成体の酸素含有量は、200質量ppm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のCu−Ga合金スパッタリングターゲット。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のCu−Ga合金スパッタリングターゲットを製造する方法であって、
純Cu粉末、Cu−Ga合金粉末及びNa化合物との混合粉末からなる成形体を、還元性雰囲気中で加熱して常圧焼結する工程を有することを特徴とするCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CIGS薄膜型太陽電池の光吸収層を形成するためのCu−In−Ga−Se化合物膜(以下、CIGS膜と略記する。)を形成するときに使用するCu−Ga合金スパッタリングターゲット及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、カルコパイライト系の化合物半導体による薄膜型太陽電池が実用に供せられるようになり、この化合物半導体による薄膜型太陽電池は、ソーダライムガラス基板の上にプラス電極となるMo電極層を形成し、このMo電極層の上にCIGS膜からなる光吸収層が形成され、この光吸収層上にZnS、CdSなどからなるバッファ層が形成され、このバッファ層上にマイナス電極となる透明電極層が形成された基本構造を有している。
【0003】
上記光吸収層の形成方法として、例えば、多元蒸着法により成膜する方法が知られている。この方法により得られた光吸収層は、高いエネルギー変換効率が得られるが、点源からの蒸着のため、大面積の基板に成膜した場合には、膜厚分布の均一性が低下しやすい。そのため、スパッタリング法によって光吸収層を形成する方法が提案されている。
【0004】
スパッタリング法により上記光吸収層を形成する方法としては、先ず、Inターゲットを使用してスパッタによりIn膜を成膜し、このIn膜上に、Cu−Ga二元系合金スパッタリングターゲットを使用してスパッタリングすることにより、Cu−Ga二元系合金膜を成膜し、次いで、得られたIn膜及びCu−Ga二元系合金膜からなる積層プリカーサ膜をSe雰囲気中で熱処理してCIGS膜を形成する方法(セレン化法)が採用されている。
【0005】
さらに、以上の技術を背景に、前記Cu−Ga合金膜及びIn膜の積層プリカーサ膜を、金属裏面電極層側からGa含有量の高いCu−Ga合金層、Ga含有量の低いCu−Ga合金層、In層の順序でスパッタリング法により作製し、これをセレン及び/又は硫黄雰囲気中で熱処理することにより、界面層(バッファ層)側から金属裏面電極層側への薄膜光吸収層内部でのGaの濃度勾配を徐々(段階的)に変化させることで、開放電圧の大きい薄膜型太陽電池を実現すると共に、薄膜光吸収層の他の層からの剥離を防止する技術が提案されている。この場合、Cu−Ga合金スパッタリングターゲット中のGa含有量は、1〜40原子%とすることが提案されている(特許文献1)。
【0006】
このようなCu−Ga合金層を形成するためのCu−Ga合金スパッタリングターゲットとして、水アトマイズ装置で作製したCu−Ga混合微粉をホットプレスにより焼結させたCu−Ga合金焼成体スパッタリングターゲットが提案されている(特許文献2)。このCu−Ga合金焼成体スパッタリングターゲットは、単一組成からなり、Cu−Ga合金のX線回折で得られたグラフにおける主ピーク(γ相:CuGa相)以外のピーク強度が、主ピークに対して5%以下であり、その平均結晶粒径が、5〜30μmとなっている。また、このターゲットでは、酸素含有量が350〜400ppmのものが得られている。
【0007】
一方、CIGS膜からなる光吸収層の発電効率を向上させるため、アルカリ性ガラス基板からの拡散により光吸収層にNaを添加することが有効とされている(非特許文献1)。しかしながら、アルカリ性ガラスに代えてポリマーフィルムなどを基材とするフレキシブルCIGS太陽電池の場合、アルカリ性ガラス基板がないためNaの供給源を失ってしまう不都合がある。
【0008】
上記Naの添加については、ソーダライムガラスをMo電極層と基板との間に成膜する方法が提案されている(非特許文献1)。しかし、この非特許文献のようにソーダライムガラスを成膜する場合、製造プロセスが増え、生産性が低下してしまう。
そこで、特許文献3に示されているように、Cu−In−Ga(以下、CIGと称する)プリカーサ膜にナトリウム化合物を添加し、光吸収層へのNa供給を確保する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−135495号公報
【特許文献2】国際公開第2011/010529号公報
【特許文献3】米国特許第7935558号明細書
【0010】
【非特許文献1】石塚 他、「カルコパライト系薄膜太陽電池の開発の現状と将来展望」、Journal of the Vacuum Society of Japan, Vol53, 2010 p.25
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した従来の技術には、以下に示す課題が残されている。
上記特許文献2に記載の技術では、ホットプレスにより、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットの作製を行うことで、酸素含有量が低減されるとともに、スパッタリング時の異常放電が少なくなるが、CIGS薄膜型太陽電池の製造の観点からは、より酸素含有量の少ないスパッタリングターゲットが要望されている。また、特許文献2に開示されているように、溶解法により作製したスパッタリングターゲットでは、酸素含有量を40〜50ppmに大幅に低減できる反面、平均粒径が830〜1100μmと非常に大きくなり、異常放電が増大する不都合がある。
【0012】
また、上記特許文献3に開示された製造方法によってスパッタリングターゲットを製造する場合、金属素地のCIGスパッタリングターゲットに非導電性のナトリウム化合物を適切に混入できず、スパッタリング時に異常放電が発生しやすく、安定した成膜が困難であるという問題があった。
【0013】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであって、Cu−Ga焼成体のスパッタリングターゲットに関して、酸素含有量をさらに低減可能であると共に、高濃度のNaを含有しつつも、異常放電を抑制したCu−Ga焼成体のスパッタリングターゲット及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明では、上述した課題を解決するために以下の構成を採用した。
(1)本発明のCu−Ga合金スパッタリングターゲットは、Cu−Ga合金のγ相及びζ相を有する素地中に、Na化合物相が分散した組織を有し、Ga:20〜30原子%、Na:0.05〜10原子%を含有し、残部がCu及び不可避不純物(Na化合物におけるNa以外の元素を含む)からなる成分組成を有する焼成体であって、前記γ相の平均粒径が、30〜100μmであり、前記Na化合物相の平均粒径が、8.5μm以下であり、かつ、前記Na化合物相の最大粒径が20μm以下であることを特徴とする。
(2)前記(1)のCu−Ga合金スパッタリングターゲットは、前記ζ相に帰属するX線回折の主ピーク強度が、前記γ相に帰属するX線回折の主ピーク強度の5%以上であることを特徴とする。
(3)前記(1)又は(2)のCu−Ga合金スパッタリングターゲットは、前記Na化合物相が、NaF、NaS、NaSe及びNaAlFの少なくとも1種以上からなることを特徴とする。
(4)前記(1)乃至(3)のいずれかのCu−Ga合金スパッタリングターゲットは、前記焼成体の酸素含有量が、200質量ppm以下であることを特徴とする。
(5)本発明のCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法は、前記(1)乃至(4)のいずれかのCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法であって、純Cu粉末、Cu−Ga合金粉末及びNa化合物との混合粉末からなる成形体を、還元性雰囲気中で加熱して常圧焼結する工程を有することを特徴とする。



【0015】
なお、本発明における前記γ相とζ相とは、図1に示されるCu−Ga合金に係る状態図におけるγ相(化学式:CuGa)とζ相(化学式:CuGa)とにそれぞれ対応している。
【0016】
一方、上記特許文献3に開示されたスパッタリングターゲットの製造方法においては、CIG合金に、Naを添加していた。これに対して、本発明では、Cu−Ga合金に、Na単体ではなく、Naを化合物の状態で添加するとともに、Na化合物相の粗大化を抑制すること、スパッタリングターゲット中の酸素含有量を制限すること、また、スパッタリングターゲット中のγ相の平均粒径を最適化することにより、Naを含有しつつも異常放電を抑制したスパッタリングターゲットを実現した。
【0017】
なお、Na化合物の状態で含まれるNa含有量を上記範囲内に設定した理由は、Na含有量が10原子%を超えると、十分な焼結密度を確保することができなくなると同時に、スパッタリング時の異常放電が増加するためである。一方、Na含有量が0.05原子%より少ないと、膜中のNa含有量が不足し、目的とするNa添加を達成できない。
【0018】
本発明に係るCu−Ga合金スパッタリングターゲットの焼成体は、γ相とζ相とが共存する金属素地であって、この素地中におけるγ相の平均粒径が、30〜100μmであり、その素地中に、Na化合物相が分散した組織を有し、前記Na化合物相の平均粒径が8.5μm以下であることが特徴である。ここでの平均粒径とは、投影面積円相当径である。
【0019】
Na化合物を含有するスパッタリングターゲットは、絶縁体であるNa化合物を含有するため、Na化合物相の分散が適正でないと、スパッタリング時に異常放電が発生しやすい。本発明者らは、Na化合物の平均粒径が8.5μm以下になると、Na化合物による異常放電が大幅に低減されることを見出した。
【0020】
本発明のスパッタリングターゲットでは、上記のようにNa化合物相の平均粒径を最適化することで、スパッタリングでの高速成膜を可能にした。即ち、本発明のスパッタリングターゲットでは、上記の各Na化合物相の平均粒径を8.5μm以下にすることで、Na化合物による異常放電が抑制され安定したスパッタリングが可能になる。なお、スパッタリングターゲット中に分散したNa化合物相の大きさは、できるだけ小さいことが好ましく、その大きさを、平均粒径:8.5μm以下としたが、最大粒径についても、20μm以下とすることが好ましい。
【0021】
また、本発明に係るCu−Ga合金スパッタリングターゲットは、酸素含有量が200質量ppm以下であることが好ましい。
【0022】
Na化合物を添加したCu−Ga合金スパッタリングターゲット中に酸素が存在すると、酸素とNa化合物とが反応し、吸湿性の高いNaOが形成される可能性がある。特に、酸素含有量が200質量ppmを超えると、スパッタリングターゲットに異常放電が発生する可能性が高いため、酸素含有量を200質量ppm以下とした。
【0023】
さらに、本発明に係るCu−Ga合金スパッタリングターゲットでは、金属素地中のγ相の平均粒径が30〜100μmであるので、上記のNa化合物を含有していても、粗大なNa化合物相が生成されない。なお、γ相の平均粒径が100μmを超えると、Na化合物相が粗大化しやすくなり、好ましくない。また、γ相の平均粒径が30μm未満であると、酸素含有量が200質量ppmを超えやすくなり、好ましくない。
【0024】
以上の様に、本発明のCu−Ga合金スパッタリングターゲットでは、金属素地中に、γ相とζ相とが共存し、そのγ相の平均粒径が30〜100μmであり、平均粒径が8.5μm以下のNa化合物相が微細に分散し、さらには、酸素含有量が200質量ppm以下であるので、酸素含有量が低くかつ粒径が小さいため、異常放電が大幅に低減される。
【0025】
なお、Gaの含有量を20原子%以上とした理由は、20原子%未満であると、γ相の平均粒径が減少し、酸素含有量が増加しやすくなるためである。また、Gaの含有量を30原子%以下とした理由は、30原子%を超えると、ζ相の存在割合が減少し、γ相の平均粒径が増大して、粗大なNa化合物相が生成されやすくなるためである。また、Na化合物には、NaF、NaS、NaSe及びNaAlFの少なくとも1種以上を用いることができる。ここで、Na化合物におけるNa以外の元素F、S、Se及びAlについては、ターゲット組成における不純物として扱い、不可避不純物に含めた。
【0026】
一方、本発明に係るCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法は、上記した本発明に係るCu−Ga合金スパッタリングターゲットを製造する方法であって、純Cu粉末、Cu−Ga合金粉末及びNa化合物を混合した混合粉末からなる成形体を、還元性雰囲気中で加熱して常圧焼結する工程を有していることを特徴とする。
即ち、このスパッタリングターゲットの製造方法では、純Cu粉末、Cu−Ga合金粉末及びNa化合物との混合粉末からなる成形体を、還元性雰囲気中で加熱して常圧焼結するので、焼成中にそれぞれの原料粉から相互拡散が起こることで、焼成体中に金属相として、γ相とζ相が出現し、Cu−Ga合金のγ相に帰属するX線回折ピークとζ相に帰属するX線回折ピークとが観察される焼成体が、非常に少ない酸素含有量で得られる。
【0027】
なお、塑性変形し易い純Cu粉末を原料に用いることで、成形体とする際に、形状保持が容易になる。また、純Cu粉末は室温大気中で酸化されるが、還元性雰囲気中での加熱で容易に還元されるため、酸素含有量を増加させる原因にはならない。さらに、50原子%GaのCu−Ga合金粉末を使用することで、焼結時に液相が発生し、高密度な焼成体が得られる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
即ち、本発明に係るCu−Ga合金スパッタリングターゲット及びその製造方法によれば、ζ相に帰属するX線回折ピークの主ピーク強度が、γ相に帰属するX線回折ピークの主ピーク強度の5%以上であって、焼成体中にはγ相とζ相とが共存するとともに、γ相の平均粒径が30〜100μmと小さく、焼成体中において、Na化合物相が、平均粒径:8.5μm以下で分散し、しかも、酸素含有量が200質量ppm以下であるので、酸素含有量が低くかつ粒径が小さいため、異常放電が大幅に低減されると共に、スパッタリングで得られるプリカーサ膜中の酸素量の増大が抑制される。
したがって、本発明のスパッタリングターゲットを用いたスパッタリング法によりCIGS薄膜型太陽電池の光吸収層を成膜することで、光吸収層中の光電変換効率の向上に寄与することができ、発電効率の高い太陽電池の製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】Cu−Ga合金系状態図を示している。
図2】Gaを22.9原子%含有する実施例2のスパッタリングターゲットについて、X線回折により測定した回折ピークを示すグラフである。
図3】Gaを29.1原子%含有する実施例4のスパッタリングターゲットについて、X線回折により測定した回折ピークを示すグラフである。
図4】Gaを30.4原子%含有する比較例4のスパッタリングターゲットについて、X線回折により測定した回折ピークを示すグラフである。
図5】Gaを22.9原子%含有する実施例2のスパッタリングターゲットについて、電子線マイクロアナライザ(EPMA)により取得した組成像(COMPO像)である。
図6】Gaを22.9原子%含有する実施例2のスパッタリングターゲットについて、EPMAにより取得したGaの元素分布マッピング像である。
図7】Gaを22.9原子%含有する実施例2のスパッタリングターゲットについて、EPMAにより取得したNaの元素分布マッピング像である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係るCu−Ga合金スパッタリングターゲット及びその製造方法の実施形態について説明する。
【0031】
本実施形態のスパッタリングターゲットは、Ga:20〜30原子%、Na:0.05〜10原子%を含有し、残部がCu及び不可避不純物(Na化合物におけるNa以外の元素を含む)からなる成分組成を有する焼成体からなり、この焼成体の金属素地には、Cu−Ga合金のγ相(CuGa相)及びζ相(CuGa相)がともに存在し、Na化合物相が分散した組織を有し、前記γ相の平均粒径が、30〜100μmであり、前記Na化合物相の平均粒径が、8.5μm以下であって、その最大粒径が20μm以下である。さらには、焼成体の酸素含有量は、200質量ppm以下である。
【0032】
また、このスパッタリングターゲットは、相対的にGaが多く含有されているγ相(Ga−rich領域:CuGa相)が分散した結晶組織を有している。上記Ga−rich領域は、例えば、図5に示すように、EPMAによるCOMPO像において白く観察される領域である。
【0033】
上記γ相の平均粒径は、スパッタリングターゲットから切り出した試料の表面を鏡面に研磨し、硝酸と純水とからなるエッチング液にてエッチングした後、結晶粒界を判別することができる倍率:50〜1000倍の範囲内の光学顕微鏡にて顕微鏡写真を撮り、得られた写真の1辺を11等分する10本の直線を描き、この10本の直線が通過する結晶粒を計数し、下記計算式を用いて求めた。
平均粒径=(写真上の10本の線分の長さを実際の長さに補正した値)/(10本の線分が通過する結晶粒の数)
【0034】
上記Na化合物相の平均粒径は、図7に示されるように、EPMAにより取得したNaの元素分布マッピング像に基づいて測定した。図7の画像においては、白い領域がNaの存在を示しており、Na化合物相の大きさを表している。この白い領域をNa化合物粒子1個として、その占める面積S(μm)を測定して求め、粒径D=(S/π)1/2の式から、当該Na化合物の粒径Dを求めた。そして、一辺100μmの正方形の領域10箇所中に観察されたNa化合物粒子の個数と粒径Dから平均粒径(Dの平均値)と最大粒径(Dの最大値)を算出した。
【0035】
また、上記酸素含有量は、JIS Z 2613「金属材料の酸素定量方法通則」に記載された赤外線吸収法で測定した。
【0036】
上記本実施形態のスパッタリングターゲットを製造する方法は、純Cu粉末、Cu−Ga合金粉末及びNa化合物との混合粉末からなる成形体を、還元性雰囲気中で加熱して常圧焼結する工程を有している。
この製造方法の一例について詳述すると、先ず、マイクロトラックで測定したD50が2〜3μmの純Cu粉と、D50が20〜30μmのCu−Ga合金アトマイズ粉末と、D50が10〜20μmになるように篩分したNa化合物とを、目標組成となるように秤量し、ヘンシェルミキサーを用いてAr雰囲気中で混合して混合粉末とする。なお、このCu−Ga合金アトマイズ粉末は、Gaの濃度が50原子%となるようにガスアトマイズ装置内で溶解し、Arガスでアトマイズすることによって製造される。
【0037】
次に、得られた混合粉末を、500〜2000kgf/cmの成型圧で圧粉体(成形体)とする。この圧粉体を炉中に配し、10〜100L/minで還元性ガスを流しつつ、700〜1000℃の焼成温度まで10℃/minで加熱し、5時間保持する。この後、炉内を自然冷却し、得られた焼成体の表面部と外周部とを旋盤加工して、直径50mm、厚み6mmのスパッタリングターゲットを作製する。
【0038】
次に、加工後のスパッタリングターゲットを、Cu製のバッキングプレートにボンディングし、スパッタリングに供する。
【0039】
このように作製したCu−Ga合金スパッタリングターゲットは、Arガスをスパッタガスとして直流(DC)マグネトロンスパッタ装置に供される。
【0040】
この本実施形態のCu−Ga合金スパッタリングターゲットでは、ζ相に帰属するX線回折ピークの主ピーク強度が、γ相に帰属するX線回折ピークの主ピーク強度の5%以上であり、酸素含有量が200質量ppm以下であり、Cu−Ga合金のγ相の平均粒径が100μm以下であるので、Na化合物相が平均粒径:8.5μm以下で分散し、さらには、その最大粒径が20μm以下に抑えられているので、異常放電が大幅に低減される。
また、酸素含有量を大幅に低減したことにより、スパッタで得られるプリカーサ膜中の酸素量の増大を抑制することにより、CIGS薄膜型太陽電池の光吸収層中の光電変換効率の向上に寄与することができる。
【0041】
また、本実施形態のスパッタリングターゲットの製造方法では、純Cu粉末とCu−Ga合金粉末とNa化合物との混合粉末からなる成形体を、還元性雰囲気中で加熱して常圧焼結するので、焼成中にそれぞれの原料粉から相互拡散が起こることでγ相とζ相とが出現し、CuGaのγ相に帰属するX線回折ピークとζ相に帰属するX線回折ピークとが観察される焼成体が、非常に少ない酸素含有量で得られる。
【0042】
γ相とζ相との2相が共存する理由は、焼成の際に、Cu−Ga合金粉末からGa−richの液相が出現し、いわゆる液相焼結となることで粒子の再配列が容易に起こり、常圧の粉末焼結でありながら高密度焼成体が得られ、その焼成体が冷却される過程において620℃付近でγ相とζ相とに分離するためである。図1に示されたCu−Ga系状態図(出典、Desk Handbook : Phase Diagrams for Binary Alloys(ASM International) )によると、この相分離はGaの原子比率が30%未満の場合に必ず起こると予想される。2相共存の利点は、ζ相の存在によってγ相の結晶粒の粗大化が抑制され、ターゲット組織の平均粒径が小さくなり、スパッタリング時の異常放電が起こり難くなることである。
【実施例】
【0043】
次に、本発明に係るスパッタリングターゲット及びその製造方法を、上記実施形態に基づき作製した実施例により、評価した結果を説明する。
【0044】
先ず、Gaの濃度が50原子%のCu−Ga合金アトマイズ粉末(表中のCuGa粉)と、Cu粉末と、Na化合物(NaF、NaS、NaSe、NaAlF)とを、表1に示される重量比率になるように配合し、実施例1〜11の混合粉末とした。次に、得られた混合粉末を、1500kgf/cmの成型圧で圧粉体(成形体)とした。さらに、表2に示されるように、これらの混合粉末のうち実施例1〜7は水素雰囲気中で常圧焼結させ、また、実施例8、9は一酸化炭素雰囲気中で常圧焼結させ、さらに実施例10、11はアンモニア分解ガス雰囲気中で常圧焼結させた。なお、これらの常圧焼結は、50L/minで還元性ガスを流しつつ、840℃の焼成温度で5時間保持して行った。
【0045】
一方、比較例として、Gaの濃度が50原子%のCu−Ga合金アトマイズ粉末(表中のCuGa粉)と、Cu粉末と、Na化合物を、表1に示される重量比率になるように配合し、比較例1〜5の混合粉末とした。なお、比較例3、4では、Gaの含有量が、本発明の範囲から外れるように、Cu−Ga合金粉末を配合し、比較例5では、Na化合物を過剰に配合した。次に、得られた混合粉末を、上記実施例と同様に圧粉体(成形体)とした。
【0046】
さらに、表2に示されるように、これらの粉末のうち比較例1は大気雰囲気中で常圧焼結させ、また比較例2は真空中でホットプレス法により焼結させた。この際のホットプレス条件は、保持温度740℃で保持時間60minである。さらに、比較例3〜5は水素雰囲気中で実施例と同様に常圧焼結させた。
なお、表2には、実施例1〜11及び比較例1〜5のスパッタリングターゲットについて、Ga、Na、Cuに関する組成分析の結果が、「ターゲット組成(原子%)」欄に示されている。このターゲットの組成は、ICP法(高周波誘導結合プラズマ法)を用いて測定した。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
このように作製した本発明の実施例及び比較例のスパッタリングターゲットについて、γ相およびNa化合物相の平均粒径と、Na化合物相の最大粒径と、X線回折による分析と、酸素含有量と、異常放電回数とについて調べた結果が表3に示されている。
【0050】
【表3】

【0051】
また、X線回折による分析では、γ相に帰属する回折ピークとζ相に帰属する回折ピークとの両方が観察され、ζ相に帰属する回折ピークの主ピーク強度が、γ相に帰属する回折ピークの主ピーク強度の5%以上である場合を、表3において「γ、ζ」と表記し、ζ相に帰属する回折ピークの主ピーク強度が、γ相に帰属する回折ピークの主ピーク強度の5%未満である場合を、表3において「γ」と表記した。
【0052】
この分析に使用した装置及び測定条件を以下に示す。
装置:理学電気社製(RINT−Ultima/PC)
管球:Cu
管電圧:40kV
管電流:40mA
走査範囲(2θ):20°〜120°
測定ステップ幅:2θで0.02度
スキャンスピード:毎分2度
【0053】
また、異常放電については、下記の成膜条件で12時間スパッタを行い、異常放電の回数を測定した。
・電源:パルスDC500W
・全圧:0.4Pa
・スパッタガス:Ar=47.5sccm、O:2.5sccm
・ターゲット−基板(TS)距離:70mm
・異常放電回数は、MKSインスツルメンツ社製DC電源(型番:RPDG−50A)のアークカウント機能により計測した。
【0054】
これらの結果からわかるように、本発明の実施例のスパッタリングターゲットは、いずれもγ相の平均粒径が40〜90μmと小さく、X線回折においてはγ相とζ相との2相が観察されている。また、これら実施例のスパッタリングターゲットでは、酸素含有量が70〜180質量ppmと非常に少なく、かつ、Na化合物相の平均粒径及び最大粒径が小さいため、異常放電回数も、1回以下と大幅に低減されている。
【0055】
これらに対して、大気中で常圧焼結した比較例1のスパッタリングターゲットでは、酸素含有量が400質量ppmと高いと共に、異常放電回数が13回と大幅に増加してしまっている。また、Gaが本発明の組成範囲から外れて少ない比較例3のスパッタリングターゲットでは、酸素含有量が290質量ppmと増えていると共に異常放電回数も6回に増えてしまっている。さらに、Gaが本発明の組成範囲から外れて多い比較例4のスパッタリングターゲットでは、ほぼγ相の単相になってしまい、異常放電回数も3回に増えてしまっている。
【0056】
また、ホットプレス法により焼成された比較例2のスパッタリングターゲットでは、酸素含有量が350質量ppmに増大してしまい、異常放電回数も5回に増えてしまっている。
【0057】
次に、Gaの含有量を22.9原子%、29.1原子%、30.4原子%とした本発明の実施例及び比較例を、それぞれ50L/minで水素ガスを流しつつ、840℃の焼成温度で5時間保持する常圧焼結で作製し、XRDによる回折ピークを測定した結果を、図2図4に示す。
【0058】
これらの結果からわかるように、Gaの含有量が22.9原子%、29.1原子%では、CuGaのγ相(CuGa相)に帰属する回折ピークとζ相(CuGa相)に帰属する回折ピークとが両方観察され、ζ相に帰属する回折ピークの主ピーク強度が、γ相に帰属する回折ピークの主ピーク強度の5%以上であることから、γ相とζ相との2相が明確に組織中に形成されていることがわかる。しかしながら、Gaの含有量が30.4原子%になると、ζ相に帰属する回折ピークが5%未満になり、組織がほぼγ相の単相になってしまっていることがわかる。
【0059】
次に、Gaを22.9原子%含有する実施例2のスパッタリングターゲットを、50L/minで水素ガスを流しつつ、840℃の焼成温度で5時間保持して行った常圧焼結で作製し、その組織をEPMAによって観察した組成像(COMPO像)と、Gaの元素マッピング像を、図6及び図7に示す。COMPO像においては、最も白い部分がGaの含有量が相対的に高い領域を示している。Gaの元素マッピング像は、元画像がカラー像であるが、グレースケールによる白黒画像に変換して記載しており、明度が暗い部分でGa含有量が高い傾向にある。これらの画像からわかるように、本発明の実施例では、相対的にGaが多く含有されている相(Ga−rich領域)が分散した結晶組織を有している。
【0060】
なお、本発明を、スパッタリングターゲットとして利用するためには、面粗さ:1.5μm以下、電気抵抗:1×10−4Ω・cm以下、不純物金属量:0.1原子%以下、抗折強度:150MPa以上であることが好ましい。上記各実施例は、いずれもこれらの条件を満たしたものである。
また、本発明の技術範囲は上記実施形態および上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態及び上記実施例のスパッタリングターゲットは、平板状のものであるが、円筒状のスパッタリングターゲットとしても構わない。



図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7