特許第6120147号(P6120147)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6120147エッチング用液体組成物およびそれを用いた多層プリント配線板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6120147
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】エッチング用液体組成物およびそれを用いた多層プリント配線板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23F 1/18 20060101AFI20170417BHJP
   H05K 3/06 20060101ALI20170417BHJP
   H05K 3/46 20060101ALN20170417BHJP
   H05K 3/38 20060101ALN20170417BHJP
【FI】
   C23F1/18
   H05K3/06 N
   !H05K3/46 Z
   !H05K3/38 B
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-55307(P2013-55307)
(22)【出願日】2013年3月18日
(65)【公開番号】特開2014-29011(P2014-29011A)
(43)【公開日】2014年2月13日
【審査請求日】2016年1月5日
(31)【優先権主張番号】特願2012-147081(P2012-147081)
(32)【優先日】2012年6月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】高 橋 健 一
(72)【発明者】
【氏名】池 田 和 彦
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−013340(JP,A)
【文献】 特開2009−019270(JP,A)
【文献】 特開2000−174421(JP,A)
【文献】 特開2005−005341(JP,A)
【文献】 特開2000−064067(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 1/00−4/04
H05K 3/06,3/38,3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に施された化学銅メッキおよび電気銅メッキをエッチング処理して、銅配線を形成することを含む多層プリント配線板の製造方法であって、
0.2〜5質量%の過酸化水素と、0.5〜8質量%の硫酸と、0.3〜3ppmの塩化物イオンと、0.003〜0.3質量%のテトラゾール類とを含んでなるエッチング用液体組成物を用いて、前記化学銅メッキの溶解速度と前記電気銅メッキの溶解速度の比を3以上でエッチング処理して、前記銅配線の比表面積を1.2〜2とする、多層プリント配線板の製造方法。
(但し、銅配線の比表面積は、銅配線の縦1μm×横1μmの単位領域当たりの表面積であり、銅配線の比表面積は、前記銅配線の表面を走査型トンネル顕微鏡で観測したときに得られる値である)
【請求項2】
セミアディティブ工法において前記化学銅メッキを除去すると共に前記電気銅メッキを粗化して、前記銅配線を形成する、請求項に記載の多層プリント配線板の製造方法。
【請求項3】
前記テトラゾール類が、1H−テトラゾール、1−メチルテトラゾール、5−メチルテトラゾール、1,5−ジメチルテトラゾール、および1,5−ジエチルテトラゾールからなる群から選択される1種以上である、請求項1または2に記載の多層プリント配線板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッチング用液体組成物およびそれを用いた多層プリント配線板の製造方法に関し、より詳細には、電気、電子機器等に使用される多層プリント配線板の製造に用いられるエッチング用液体組成物、および基板上に施された化学銅メッキおよび電気銅メッキをエッチング処理して銅配線を形成することを含む多層プリント配線板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の小型化、軽量化、高機能化に伴い、プリント配線板には銅配線の微細化かつ多層化が強く要求されてきている。
【0003】
微細な配線を形成する製造法の一つとしてセミアディティブ工法がある。この配線形成法は、絶縁材上にシード層と呼ばれる金属層を形成(金属層として一般的には化学銅メッキを使用)、その表面にメッキレジスト層を形成、その後に露光、現像してレジストパターンを形成する。その後、電気銅メッキを施して、レジストを剥離し、シード層をエッチング除去して銅配線を形成する。
【0004】
更に、多層化するため上記載で形成された銅配線上に層間絶縁材を積層して、上記載と同様に配線を形成させる。最外層の配線の場合は、外部接続端子以外の銅配線を保護するため銅配線上にソルダーレジストやカバーレイと呼ばれる樹脂を塗布させる。
【0005】
銅配線と層間絶縁材やソルダーレジスト等の樹脂との密着性を良好とするため、バフ研磨、スクラブ研磨等の機械処理や粗化剤等の化学研磨処理により銅表面を粗化している。
【0006】
従来、セミアディティブ工法におけるシード層である化学銅メッキのエッチング除去処理(一般的にフラッシュエッチング処理と呼ばれている)と多層化のための銅配線表面粗化処理は別々の工程(薬剤)で行われる。
【0007】
化学銅メッキのエッチング用液体組成物として、過酸化水素、硫酸、アゾール類、臭素イオンを含有するエッチング用液体組成物(特許文献1)、硫酸、過酸化水素、ベンゾトリアゾール誘導体を含むことを特徴とするエッチング剤(特許文献2)、過酸化水素、硫酸を主成分としてアゾール類を添加剤として含むことを特徴とするエッチング用液体組成物(特許文献3)等が開示されている。従来の化学銅メッキのエッチング用液体組成物では、配線表面を粗化出来ないため層間絶縁材等の樹脂との密着性が良好ではなく、ゆえに化学銅メッキ除去と配線粗化処理は同時に出来ない。
【0008】
また、銅配線粗化剤として、オキソ酸、過酸化物、アゾール類、ハロゲン化物50mg/L以下を含有するエッチング用液体組成物(特許文献4)、硫酸、過酸化水素、フェニルテトラゾール類及びニトロベンゾトリアゾール類、塩化物イオンを含むエッチング用液体組成物(特許文献5)、硫酸、過酸化水素、フェニルテトラゾール、塩素イオン源を含有するマイクロエッチング剤(特許文献6)、硫酸、過酸化水素、5−アミノテトラゾール、5−アミノテトラゾール以外のテトラゾール化合物、ホスホン酸系キレート剤を含有する表面粗化剤(特許文献7)、硫酸、過酸化物、テトラゾール化合物、銅よりも電位が貴である金属イオンを含有するマイクロエッチング用液体組成物(特許文献8)、過酸化水素、硫酸、ベンゾトリアゾール類、塩化物イオンを含有する表面粗化処理液(特許文献9)、無機酸及び銅の酸化剤からなる主剤とアゾール類及びエッチング抑制剤からなる助剤とを含む水溶液からなるマイクロエッチング剤(特許文献10)等が開示されている。従来液では、化学銅メッキの溶解速度が電気銅メッキの溶解速度より大きくないためセミアディティブ工法による微細配線形成が困難となる。
【0009】
従来の粗化剤(エッチング剤)では、銅表面を数μmエッチングして銅表面を粗面化して物理的(アンカー)効果で銅と層間絶縁材等の樹脂との密着を確保している。しかし、近年、銅配線幅が従来の30〜50μmから15μm以下へ最小では数μmまで微細化されてきており、従来の粗化剤(エッチング剤)では、銅配線幅細りが大きくなり配線の消失、また銅配線表面の粗さが大きい(深さ方向の凹凸が大きい)ため断線の発生、伝送損失の問題が懸念されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−13340号公報
【特許文献2】特開2009−149971号公報
【特許文献3】特開2006−9122号公報
【特許文献4】特開2000−64067号公報
【特許文献5】特開2009−191357号公報
【特許文献6】特開2002−47583号公報
【特許文献7】特開2009−19270号公報
【特許文献8】特開2004−3020号公報
【特許文献9】特開2005−213526号公報
【特許文献10】特開2000−282265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、多層プリント配線板製造におけるセミアディティブ工法でのシード層である化学銅メッキを効率良く除去すると同時に、多層化のための配線と層間絶縁材等の樹脂との密着性に優れる配線表面の緻密粗化処理を一括処理するエッチング用液体組成物およびそれを用いたプリント配線板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、多層プリント配線板製造におけるセミアディティブ工法でのシード層である化学銅メッキを効率良く除去すると同時に、多層化のための配線と層間絶縁材等の樹脂との密着性に優れる配線表面の緻密粗化処理を一括処理するエッチング用液体組成物およびそれを用いたプリント配線板の製造方法を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
即ち、本発明は以下の通りである。
1. 多層プリント配線板の製造に用いられるエッチング用液体組成物であって、
0.2〜5質量%の過酸化水素と、
0.5〜8質量%の硫酸と、
0.3〜3ppmのハロゲンイオンと、
0.003〜0.3質量%のテトラゾール類と、
を含んでなる、エッチング用液体組成物。
2. 前記テトラゾール類が、1H−テトラゾール、1−メチルテトラゾール、5−メチルテトラゾール、1,5−ジメチルテトラゾール、および1,5−ジエチルテトラゾールからなる群から選択される1種以上である、上記1に記載のエッチング用液体組成物。
3. 前記ハロゲンイオンが、フッ素イオン、塩化物イオン、臭素イオン、およびヨウ素イオンからなる群から選択される1種以上である、上記1または2に記載のエッチング用液体組成物。
4. 基板上に施された化学銅メッキおよび電気銅メッキをエッチング処理して、銅配線を形成することを含む多層プリント配線板の製造方法であって、
0.2〜5質量%の過酸化水素と、0.5〜8質量%の硫酸と、0.3〜3ppmのハロゲンイオンと、0.003〜0.3質量%のテトラゾール類とを含んでなるエッチング用液体組成物を用いてエッチング処理する、多層プリント配線板の製造方法。
5. セミアディティブ工法において前記化学銅メッキを除去すると共に前記電気銅メッキを粗化して、前記銅配線を形成する、上記4に記載の多層プリント配線板の製造方法。
6. 前記化学銅メッキの溶解速度と前記電気銅メッキの溶解速度の比が3以上でエッチング処理する、上記5に記載の多層プリント配線板の製造方法。
7. エッチング処理して、前記銅配線の比表面積を1.2〜2とする、上記4〜6のいずれかに記載の多層プリント配線板の製造方法。
(但し、銅配線の比表面積は、銅配線の縦1μm×横1μmの単位領域当たりの表面積であり、銅配線の比表面積は、前記銅配線の表面を走査型トンネル顕微鏡で観測したときに得られる値である)
8. 前記テトラゾール類が、1H−テトラゾール、1−メチルテトラゾール、5−メチルテトラゾール、1,5−ジメチルテトラゾール、および1,5−ジエチルテトラゾールからなる群から選択される1種以上である、上記4〜7のいずれかに記載の多層プリント配線板の製造方法。
9. 前記ハロゲンイオンが、フッ素イオン、塩化物イオン、臭素イオン、およびヨウ素イオンからなる群から選択される1種以上である、上記4〜8のいずれかに記載の多層プリント配線板の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のプリント配線板製造方法によって、従来困難であったセミアディティブ工法によるプリント配線板製造において、シード層である化学銅メッキを効率良く除去すると同時に、多層化のための配線と層間絶縁材等の樹脂との密着性に優れる配線表面の緻密粗化処理を一括処理(一工程で処理)することができるため、産業上の利用価値は極めて高い。このように、シード層である化学銅メッキを選択的に除去することによって、配線幅減少量を抑制し、断線や欠落を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例4の銅表面の3次元画像(×30000)。
図2】比較例8の銅表面の3次元画像(×30000)。
図3】実施例6の配線断面電子顕微鏡写真(×3000)。
図4】比較例11の配線断面電子顕微鏡写真(×3000)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のエッチング用液体組成物は、過酸化水素と、硫酸と、ハロゲンイオンと、テトラゾール類とを含むものであり、水をさらに含むことが好ましい。過酸化水素の濃度は、0.2〜5.0質量%であり、好ましくは0.3〜3.0質量%であり、更に好ましくは0.4〜2.5質量%であり、特に好ましくは0.5〜2.0質量%である。過酸化水素の濃度が0.2〜5.0質量%であるとき、良好な銅の溶解速度が得られ、経済的にも優れる。
【0017】
硫酸の濃度は、0.5〜8.0質量%であり、好ましくは0.6〜7.0質量%であり、更に好ましくは0.8〜6.0質量%であり、特に好ましくは1.0〜5.0質量%である。硫酸の濃度が0.5〜8.0質量%であるとき、良好な銅の溶解速度が得られ、経済的にも優れる。
【0018】
ハロゲンイオンは銅又は銅合金表面を粗化させる効果があり、銅又は銅合金と樹脂との密着性が良好となる。ハロゲンイオンはフッ素イオン、塩化物イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンが挙げられるが、これらのうち好ましいものは、塩化物イオン、臭素イオンであり、特に好ましくは塩化物イオンである。ハロゲンイオンの濃度は、0.3〜3ppmであり、好ましくは0.5〜3ppmであり、特に好ましくは0.5〜2ppmである。
【0019】
テトラゾール類は、ハロゲンイオンと併用されることにより、銅又は銅合金表面を微小に緻密粗化させる効果があり、銅又は銅合金と層間絶縁材等の樹脂との密着性を向上させる。テトラゾール類の中でも、1H−テトラゾール、1−メチルテトラゾール、1−エチルテトラゾール、5−メチルテトラゾール、5−エチルテトラゾール、5−n−プロピルテトラゾール、5−メルカプトテトラゾール、5−メルカプト−1−メチルテトラゾール、1,5−ジメチルテトラゾール、1,5−ジエチルテトラゾール、1−メチル−5−エチルテトラゾール、1−エチル−5−メチルテトラゾール、1−イソプロピル−5−メチルテトラゾール、1−シクロヘキシル−5−メチルテトラゾールの少なくとも一種が好ましい。更に好ましくは、1H−テトラゾール、1−メチルテトラゾール、5−メチルテトラゾール、5−エチルテトラゾール、5−メルカプト−1−メチルテトラゾール、1,5−ジメチルテトラゾール、1,5−ジエチルテトラゾール、1−エチル−5−メチルテトラゾールであり、特に好ましくは、1H−テトラゾール、1−メチルテトラゾール、5−メチルテトラゾール、1,5−ジメチルテトラゾール、1,5−ジエチルテトラゾールである。テトラゾール類の濃度は、0.003〜0.3質量%であり、好ましくは0.005〜0.25質量%であり、特に好ましくは0.01〜0.2質量%である。
【0020】
銅配線の表面粗さ(Ra値)は、伝送損失の点から0.5μm以下が好ましく、より好ましくは0.4μm以下で、特に好ましくは0.3μm以下である。0.5μmを越えると伝送損失に問題が出る可能性が高い。
【0021】
化学銅メッキの溶解速度は、種々の条件下で変化するが、例えば30℃の処理条件下で、好ましくは0.4〜2μm/分であり、より好ましくは0.6〜2μm/分であり、特に好ましくは0.8〜1.5μm/分である。
【0022】
電気銅メッキの溶解速度は、種々の条件下で変化するが、例えば30℃の処理条件下で、好ましくは0.1〜0.5μm/分であり、より好ましくは0.15〜0.4μm/分であり、特に好ましくは0.2〜0.35μm/分である。
【0023】
化学銅メッキの溶解速度と電気銅メッキの溶解速度の比(化学銅メッキの溶解速度/電気銅メッキの溶解速度)は、3以上が好ましく、より好ましくは3.5以上8以下であり、特に好ましくは4以上7.5以下である。化学銅メッキの溶解速度と電気銅メッキの溶解速度の比が上記範囲内にあれば、化学銅メッキを効率良く除去しながら、電気銅メッキの表面を粗化することができる。
【0024】
銅箔の引き剥がし強度(ピール強度)は、対象となる層間絶縁材等の樹脂材料にもよるが、好ましくは0.6kgf/cm以上であり、より好ましくは0.8kgf/cm以上であり、更に好ましくは0.9kgf/cm以上であり、特に好ましくは1.0kgf/cm以上である。
【0025】
本発明のエッチング用液体組成物の使用温度に関しては特に制限はないが、好ましくは20〜50℃であり、より好ましくは25〜40℃であり、更に好ましくは25〜35℃である。使用温度が20℃以上であれば銅の溶解速度を早くすることができ、50℃以下であれば過酸化水素の分解を抑えることができる。
【0026】
本発明のエッチング用液体組成物の処理時間に関しては特に制限はないが、1〜600秒が好ましく、5〜300秒がより好ましく、10〜180秒が更に好ましく、15〜120秒が特に好ましいが、金属表面の状態、エッチング用液体組成物の濃度、温度、処理方法等の種々の条件により適宜選択される。
【0027】
本発明のエッチング用液体組成物による処理方法に関しては、特に制限はないが浸漬、噴霧等の手段による。又、処理時間に関しては溶解される銅又は銅合金の厚さにより適宜選択される。
【0028】
銅の表面積[μm]は、銅の表面を走査型トンネル顕微鏡で観測することで算出できる。すなわち、銅の表面積[μm]は、銅の表面を走査型トンネル顕微鏡で観測して3次元形状データを得た後、この3次元形状データに基づいて算出できる。
【0029】
銅の表面の走査型トンネル顕微鏡での観察倍率は、例えば30000倍である。
【0030】
銅の比表面積は、銅表面の所定の領域内の凹凸を考慮した場合の表面積を、その領域が平坦であると仮定した場合の表面積で除した値に等しい。例えば、銅表面の縦5μm×横5μmの領域内の凹凸を考慮した場合の表面積を、その領域が平坦であると仮定した場合の表面積(つまり、5μm×5μm=25μm)で除した値に等しい。
【0031】
銅の比表面積は、銅の表面の凹凸を考慮した値である。したがって、銅の表面が緻密であればあるほど、銅の比表面積は大きくなる傾向がある。ここでいう「緻密」とは、銅表面の凸部の一つ一つが微小であり、かつ、凸部が密集している状態のことをいう。
【0032】
走査型トンネル顕微鏡は、金属探針と試料の間に流れるトンネル電流を検出するタイプの顕微鏡である。先端の尖った白金やタングステンなどの金属探針を試料に近づけた後、それらの間に微小なバイアス電圧を印加すると、トンネル効果によってトンネル電流が流れる。このトンネル電流を一定に保つように探針を走査することにより、試料の表面形状を原子レベルで観測することができる。
【実施例】
【0033】
以下に実施例及び比較例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
・表面積測定
走査型トンネル顕微鏡:エスアイアイナノテクノロジー社製 L−traceII/
NanoNaviIIステーションを使用し、3万倍で観測した。
・銅溶解量測定方法;以下の式により質量法にて算出した。
溶解量=(処理前質量−処理後質量)/(処理面積×銅の密度)
(式中、銅の密度は、8.96g/cmである。)
・配線幅測定
金属顕微鏡 オリンパス製 MX61Lを使用した。
・銅箔の引き剥がし強さ(ピール強度)測定
引き剥がし強さは、JIS C 6481に規定された方法に従って測定した。
【0034】
実施例1
化学銅メッキ基板(寸法15cm×15cm、メッキ厚1μm)、電気銅メッキ基板(寸法15cm×15cm、メッキ厚10μm)を、過酸化水素1質量%、硫酸3質量%、5−メチルテトラゾール0.1質量%、塩化物イオン1ppmを含むエッチング用液体組成物で液温30℃、スプレー圧0.1MPaでスプレー処理した。処理前後の基板の質量差より銅溶解量を算出して、単位時間あたりの銅溶解速度を算出した。更に、化学銅メッキ溶解速度と電気銅メッキ溶解速度の比を算出した。
【0035】
実施例2
過酸化水素0.5質量%、硫酸2.5質量%、5−メチルテトラゾール0.01質量%、1,5−ジメチルテトラゾール0.01質量%、塩化物イオン1ppmを含むエッチング用液体組成物を用いた以外は実施例1と同様に行った。
【0036】
実施例3
過酸化水素1.5質量%、硫酸4.5質量%、1−メチルテトラゾール0.02質量%、1,5−ジメチルテトラゾール0.02質量%、臭素イオン3ppmを含むエッチング用液体組成物を用いた以外は実施例1と同様に行った。
【0037】
比較例1
過酸化水素4質量%、硫酸9質量%、5−アミノテトラゾール0.3質量%、塩化物イオン10ppmを含むエッチング用液体組成物(特許文献4の実施例7と同様の組成)を用いた以外は実施例1と同様に行った。
【0038】
比較例2
過酸化水素2.5質量%、硫酸13.7質量%、5−フェニルテトラゾール0.03質量%、4−ニトロベンゾトリアゾール0.07質量%、塩化物イオン8ppmを含むエッチング用液体組成物(特許文献5の実施例1と同様の組成)を用いた以外は実施例1と同様に行った。
【0039】
比較例3
過酸化水素3質量%、硫酸10質量%、5−フェニルテトラゾール0.02質量%、トルエンスルホン酸0.2質量%、塩化物イオン3ppmを含むエッチング用液体組成物(特許文献6の実施例1と同様の組成)を用いた以外は実施例1と同様に行った。
【0040】
比較例4
過酸化水素5.25質量%、硫酸12.5質量%、5−アミノテトラゾール0.06質量%、5−メチルテトラゾール0.02質量%、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸0.4質量%を含むエッチング用液体組成物(特許文献7の実施例1と同様の組成)を用いた以外は実施例1と同様に行った。
【0041】
比較例5
過酸化水素1.5質量%、硫酸9質量%、5−メチルテトラゾール0.1質量%、テトラゾール0.05質量%、パラジウム1ppmを含むエッチング用液体組成物(特許文献8の実施例8と同様の組成)を用いた以外は実施例1と同様に行った。
【0042】
比較例6
過酸化水素1.5質量%、硫酸5質量%、ベンゾトリアゾール0.3質量%、塩化物イオン5ppmを含むエッチング用液体組成物(特許文献9の実施例1と同様の組成)を用いた以外は実施例1と同様に行った。
【0043】
比較例7
過酸化水素10質量%、硫酸16質量%、トリルトリアゾール0.2質量%、亜リン酸1質量%を含むエッチング用液体組成物(特許文献10の実施例1と同様の組成)を用いた以外は実施例1と同様に行った。
【0044】
【表1】
【0045】
実施例4
厚み35μm電気銅箔(寸法150mm×150mm)のシャイニー面を、過酸化水素1質量%、硫酸3質量%、5−メチルテトラゾール0.2質量%、塩化物イオン1ppmを含むエッチング用液体組成物で液温30℃、スプレー圧0.1MPaで1分間スプレー処理した。処理前後の銅箔の質量差より銅溶解量を算出した結果、0.3μmであった。次に、エッチング後の銅箔表面を、走査型トンネル顕微鏡で30000倍の倍率で観測した。図1は、このときに観測された銅箔表面の3次元画像である。
【0046】
走査型トンネル顕微鏡を用いて、エッチング後の銅箔表面の縦5μm×横5μmの領域内の表面積を測定した。その結果、銅箔の表面積は、42.5[μm]であった。比表面積は、42.5[μm]/25[μm]=1.7であった。
【0047】
エッチング後の銅箔を、真空熱プレスによって層間絶縁樹脂(三菱ガス化学製商品名:HL832NS)に積層し、銅張積層板を作製した。この銅張積層板において、銅箔のエッチングされた側の表面は、層間絶縁樹脂に密着している。このようにして得られた銅張積層板を用いて、銅箔の引き剥がし強さ(ピール強度)を測定した。その結果、銅箔の引き剥がし強さは、1.00kgf/cmであった。
【0048】
実施例5
過酸化水素0.5質量%、硫酸2.5質量%、5−メチルテトラゾール0.01質量%、1,5−ジメチルテトラゾール0.01質量%、塩化物イオン1ppmを含むエッチング用液体組成物を用いた以外は実施例4と同様に行った。
【0049】
比較例8
過酸化水素2質量%、硫酸10質量%、1−(1,2−ジカルボキシエチル)ベンゾトリアゾール0.05質量%を含むエッチング用液体組成物(特許文献2の実施例4と同様の組成)を用いた以外は実施例4と同様に行った。
【0050】
比較例9
過酸化水素0.8質量%、硫酸4質量%、臭素イオン3ppmを含むエッチング用液体組成物(特許文献1の実施例1と同様の組成)を用いた以外は実施例4と同様に行った。
【0051】
比較例10
過酸化水素2質量%、硫酸9質量%、ベンゾトリアゾール0.025質量%、1,2,3−トリアゾール0.1質量%、フェノールスルホン酸ナトリウム一水和物0.1質量%を含むエッチング用液体組成物(特許文献3の実施例1と同様の組成)を用いた以外は実施例4と同様に行った。
【0052】
【表2】
【0053】
実施例6
樹脂上に化学銅メッキ0.7μmを形成した基板(寸法510mm×340mm)にドライフィルムレジストを用いて導体部に厚み18μmの電気銅メッキを施した。次に、アミン系レジスト剥離液(三菱ガス化学製製品名:R−100S)にてレジストを剥離した。導体部の配線幅を金属顕微鏡(オリンパス株式会社製MX61L)にて測定した結果、配線幅は10μmであった。次に、シード層の化学銅メッキ(厚み0.7μm)を、過酸化水素1質量%、硫酸3質量%、5−メチルテトラゾール0.2質量%、塩化物イオン1ppmを含むエッチング用液体組成物(実施例4と同様の組成)で液温30℃、スプレー圧0.1MPaで1分間スプレー処理して化学銅メッキを完全に除去した。シード層(化学銅メッキ)を除去した後の配線幅の減少量を、金属顕微鏡(オリンパス株式会社製、MX61L)を用いて測定した結果、図3に見られるように線幅減少量は0.5μmで良好であった。
【0054】
比較例11
過酸化水素4質量%、硫酸9質量%、5−アミノテトラゾール0.3質量%、塩化物イオン10ppmを含むエッチング用液体組成物(比較例1と同様の組成)を用いた以外は実施例6と同様に行った。シード層(化学銅メッキ)を除去した後の配線幅の減少量を、金属顕微鏡(オリンパス株式会社製、MX61L)を用いて測定した結果、図4に見られるように線幅の減少がひどく、使用不可であった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
表1、表2の結果から、本発明のエッチング用液体組成物で処理すると、化学銅メッキの溶解速度と電気銅メッキの溶解速度の比が3以上であることから、選択的に化学銅メッキが溶解できると同時に、電気銅表面を緻密に粗化出来るため層間絶縁樹脂との引き剥がし強さ(ピール強度)が強いことがわかる。
図1
図2
図3
図4