特許第6120181号(P6120181)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6120181
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】消火用ノズル及びこれを用いた消火方法
(51)【国際特許分類】
   A62C 31/02 20060101AFI20170417BHJP
   A62C 3/00 20060101ALI20170417BHJP
【FI】
   A62C31/02
   A62C3/00 D
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-524730(P2014-524730)
(86)(22)【出願日】2013年6月26日
(86)【国際出願番号】JP2013067534
(87)【国際公開番号】WO2014010424
(87)【国際公開日】20140116
【審査請求日】2016年2月19日
(31)【優先権主張番号】特願2012-157258(P2012-157258)
(32)【優先日】2012年7月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085523
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】100078101
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 達雄
(74)【代理人】
【識別番号】100154461
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 由布
(72)【発明者】
【氏名】福原 基広
【審査官】 石川 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−288169(JP,A)
【文献】 実開昭63−189358(JP,U)
【文献】 登録実用新案第3127847(JP,U)
【文献】 特表平05−508580(JP,A)
【文献】 ソ連国特許発明第00822686(SU,A)
【文献】 特開昭53−055514(JP,A)
【文献】 特開平08−173851(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62C 3/00
A62C 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
扁平な上部空間を持つ消火対象物の上面に、消火砂を均一に放射するための消火用ノズルであって、消火砂をガス圧によって放射する扁平なノズル本体の先端部の外側に、扁平なノズル本体の先端から放射される消火砂の進行方向を下向きに変更し、消火砂を消火対象物の上面に向かって斜め下方に吹き付けてバウンドさせる偏向板を全幅にわたり設けたことを特徴とする消火用ノズル。
【請求項2】
扁平なノズル本体の下面に、ノズル本体の位置決め用凹部を備えたガイド板を設けたことを特徴とする請求項1記載の消火用ノズル。
【請求項3】
前記偏向板は、消火対象物の上面に対して30〜45度の下向き角度を持つことを特徴とする請求項1記載の消火用ノズル。
【請求項4】
ノズル本体の基部が斜め下向きに屈曲され、その下端に消火砂をガス圧により供給する金属パイプの接続部を形成したことを特徴とする請求項1記載の消火用ノズル。
【請求項5】
請求項1記載の消火用ノズルを用いた消火方法であって、消火対象物の上面に形成された扁平な上部空間の一端からノズル本体を消火対象物上面の端部まで差し込み、ノズル本体の先端部からガス圧によって放射される消火砂を偏向板によって斜め下方に吹き付け、消火対象物の上面でバウンドさせながら奥側まで分散させることを特徴とする消火方法。
【請求項6】
消火砂が蛭石であることを特徴とする請求項5記載の消火方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集合電池を収納した電池モジュールケースのような扁平な上部空間を持つ消火対象物の消火に適した消火用ノズル及びこれを用いた消火方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
集合電池を用いた充電システムは、数百本の単電池を断熱容器に収納した電池モジュールを多数個組み合わせて構成されている。これらの電池モジュールはラックの内部に多段に収納されており、例えば一般的な5段積みの場合には床面(地面)から最上段までの高さは約5mに達する。しかも設置スペースをできるだけ小さくするために、ラックの一段当たりの高さは電池モジュールの高さよりも僅かに大きく設定されているだけであるため、電池モジュールの上部空間は高さが数cm程度しかない。しかし奥行及び横幅は約2m程度と大きい扁平な空間である。
【0003】
このような電池モジュールが万一発火した場合には、多段に収納された電池モジュールへ次々と連鎖し、拡大する可能性がある。例えば、集合電池として、ナトリウム硫黄電池を用いた場合、高温のナトリウムと硫黄の溶融物が断熱容器の上面に噴出し、空気と接触すると激しい酸化反応を生じて火災が拡大する可能性がある。ナトリウムが存在するために水消火は不可能であるから、消火砂により空気を遮断する窒息消火が必要となるが、上記のような上段の高位置にある扁平な上部空間内を充填するように、消火砂を放出することは容易ではない。すなわち放射速度が高すぎると消火砂は消火対象物である電池モジュールの上面を飛び越してしまい、電池モジュールの上面を均一に覆うことができない。また飛び越さない程度に放射速度を落とすと、消火砂がノズル内で閉塞してしまう。このため、従来は効果的な消火を行うことができなかった。
【0004】
なお本出願人の特許文献1には、セラミック粒子を消火対象物に向かって散布するための消火装置が記載されている。しかしノズル部分の構造は開示されておらず、上記した課題を解決する手段は従来存在しないと思われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−269509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、扁平な上部空間を持つ消火対象物の上面全体に、消火砂を均一分散させて消火することができる消火用ノズル及びこれを用いた消火方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するためになされた本発明の消火用ノズルは、扁平な上部空間を持つ消火対象物の上面に、消火砂を均一に放射するための消火用ノズルであって、消火砂をガス圧によって放射する扁平なノズル本体の先端部の外側に、扁平なノズル本体の先端から放射される消火砂の進行方向を下向きに変更し、消火砂を消火対象物の上面に向かって斜め下方に吹き付けてバウンドさせる偏向板を全幅にわたり設けたことを特徴とするものである。
【0008】
なお請求項2のように、扁平なノズル本体の下面に、ノズル本体の位置決め用凹部を備えたガイド板を設けた構造とすることが好ましい。また請求項3のように、前記偏向板は消火対象物の上面に対して30〜45度の下向き角度を持つことが好ましい。さらに請求項4のように、ノズル本体の基部が斜め下向きに屈曲され、その下端に消火砂をガス圧により供給する金属パイプの接続部を形成した構造とすることができる。
【0009】
また本発明の消火方法は、請求項1記載の消火用ノズルを用いた消火方法であって、消火対象物の上面に形成された扁平な上部空間の一端からノズル本体を消火対象物上面の端部まで差し込み、ノズル本体の先端部からガス圧によって放射される消火砂を偏向板によって斜め下方に吹き付け、消火対象物の上面でバウンドさせながら奥側まで分散させることを特徴とするものである。なお請求項6のように、消火砂が蛭石であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の消火用ノズルによれば、扁平なノズル本体の先端部の外側に全幅にわたり設けられた偏向板によって、ノズル本体の先端から放射される消火砂の進行方向は下向きに変更され、消火砂は消火対象物の上面に向かって斜め下方に吹き付けられ、扁平な上部空間内でバウンドしながら前進する。そして消火砂が堆積した位置から順次手前側に堆積し、最終的に消火対象物上面の全面に均一に分散して空気遮断層を形成する。このため扁平な上部空間を持つ消火対象物の消火が可能である。
【0011】
請求項2のように、ノズル本体の下面にノズル本体の位置決め用凹部を備えたガイド板を設けた構造とすれば、高い位置にあるため直接目視することができない消火対象物の扁平な上部空間内に、ノズル本体を確実に位置決めすることができる。
【0012】
請求項3のように、偏向板に消火対象物の上面に対して30〜45度の下向き角度を持たせておけば、上記した消火砂のバウンドを確実に行わせることができる。
【0013】
請求項4のように、ノズル本体の基部が斜め下向きに屈曲され、その下端に消火砂をガス圧により供給する金属パイプの接続部を形成した構造とすれば、金属パイプを接続することによって、発火源が高所である場合にも対応可能である。
【0014】
また本発明の消火方法によれば、扁平な上部空間内で消火砂をバウンドさせながら消火対象物上面の全面に均一に分散させることができ、消火砂により空気を遮断して確実な消火が可能となる。
【0015】
さらに請求項6のように消火砂を蛭石とし、エジェクタの作動ガスとして窒素ガスを使用すれば、窒素ガスによる空気遮断効果も発揮され、より確実な消火効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ナトリウム硫黄電池の充電システムの正面図である。
図2】ナトリウム硫黄電池の充電システムの垂直断面図である。
図3】電池モジュールの斜視図である。
図4】本発明の消火用ノズルの平面図と正面図である。
図5】使用状態を示す要部説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。以下の実施形態では消火対象物はナトリウム硫黄電池の充電システムであり、図1はナトリウム硫黄電池の充電システムの正面図、図2は縦断面図、図3は電池モジュールの斜視図である。
【0018】
これらの図中、1は電池モジュールであり、前述したとおり断熱容器の内部に多数のナトリウム硫黄単電池を収納したものである。ナトリウム硫黄電池の充電システムは、このような電池モジュール1を充電容量に応じて多数個組み合わせて構成されている。これらの各電池モジュール1は幅と奥行きが約2m、高さが約1mの直方体であり、全高が5mに近いラック2の内部に多段に収納されている。ラック2の床板3と電池モジュール1の上面との間には高さが5cm程度しかない扁平な上部空間4が形成されている。なおラック2の前面には扉5が配置されているが、図示のように各上部空間4に対応する位置に、横長の開口6を形成しておく。これらの開口6は常に開口させておいてもよいが、火災発生時に容易に破壊することができるパンチアウト構造としておくこともできる。なお図3に示すように、電池モジュール1の上面の周囲には、高さが3cm程度の枠7が全周にわたり突設されている。
【0019】
図2に示すように、発火源の高さに応じて金属パイプ10を適当本数接続し、その先端に取り付けた消火用ノズル11を扉5の開口6から挿入し、消火砂を上部空間4内に放射する。消火砂としては消防法によって認められている膨張蛭石(バーミキュライト)を用いることが好ましい。膨張蛭石は比重が小さく、熱を受けると膨張して空気遮断層を形成する性質を持つ。実験によれば蛭石を3cm程度に堆積させれば、十分な消火効果を得ることができる。消火砂の粒径は3〜5mm程度が望ましい。本発明では真空エジェクタ方式により消火砂を吸引しているため、これよりも消火砂の粒径が小さくても、粒径が大きくても詰まるおそれがあるためである。また圧力源としては窒素ガスを使用することが好ましい。
【0020】
図4に本発明の消火用ノズルの構造を示す。ノズル本体12は厚さが15mm程度の扁平な内部空間を持つ平板状のもので、その後端部分は斜め下向きに屈曲され、その下端に金属パイプ10の接続部14が形成されている。この接続部14はノズル本体12に対して120度の角度で下向きに屈曲している。またノズル本体12と接続部14との間は、先端が平板状で基端が円形の連結部15となっている。なおこれらの部分は全て耐熱性のあるステンレス製とすることが好ましい。
【0021】
ノズル本体12の先端には、図4に示すように偏向板16が全幅にわたり設けられている。この偏向板16はノズル本体12の先端から放射される消火砂の進行方向を変え、消火対象物の上面に向かって斜め下方に吹き付けるためのものである。消火砂は消火対象物の上面でバウンドしながら奥行方向に進み、消火対象物上面の周囲に突設された枠7(後側の枠)に堰き止められて奥側から上面に堆積する。堆積した消火砂はその後から放射されてくる消火砂を堰き止めるため、消火対象物の奥側から手前側に向かって順次堆積し、最終的に消火対象物上面の全面に厚さが3cm程度の砂層が均一に形成される。このような堆積状況は実験により確認済みである。なお、偏向板16がない場合には水平方向に飛び出す消火砂は消火対象物の上面を飛び越えてしまい、飛び越えないように放射速度を落とすとノズル部分で閉塞してしまうことは前述したとおりである。
【0022】
偏向板16は消火対象物の上面に対して30〜45度の下向き角度で形成する。この角度が30度よりも小さいと放射角度が水平に近くなるので、消火対象物の上面を飛び越え易くなる。逆に45度よりも大きくなるとノズル出口で堆積してしまい、消火対象物上面の奥側まで到達しにくくなる。なお扉5の開口6が左右方向に延びているため、手動操作によりノズル本体12を左右に動かすことができ、左右方向にも均一に分散させることができる。
【0023】
図2に示すように、発火源が高所である場合には地上の作業員はノズル本体12を目視することができないため、ノズル本体12を所定位置に安定させることは容易ではない。そこで本実施形態では、扁平なノズル本体12の下面に、位置決め用凹部17を備えたガイド板18を設けた。このガイド板18は平板状であり、先端側の傾斜部19とその後側の水平部20とからなり、この水平部20に四角形状の位置決め用凹部17が形成されている。この位置決め用凹部17の幅は前記した扉5の板厚よりも大きくなっている。
【0024】
このため、ノズル本体12の先端を発火源に対応する扉5の開口6に挿入したうえでそのまま奥側に押し込めば、図5のように位置決め用凹部17が開口6の下端縁に係合する位置でノズル本体12を位置決めすることができる。従って発火源が高所である場合にも、確実な消火作業を行うことができる。発火源は電圧の挙動により検出可能であり、制御パネルに表示することができる。
【0025】
なお、金属パイプ13は発火源の高さに応じて適当本数を順次継ぎ足して使用できるようにしておくことが好ましい。
【0026】
また窒素ガスは、図2に示すように元圧が約15MPaの窒素ボンベ21から減圧弁を介してエジェクタに供給される。このガス流によりエジェクタ内部で発生する負圧を利用してタンク22の内部から消火砂を吸い上げ、ガス流に随伴させてノズル本体12から放射する。このように窒素ボンベ21をガス源とすれば、適切な電源を探す必要もなく、直ちに消火作業を開始することができる。
【0027】
このように構成された消火用ノズルを用いれば、火災発生時に作業員が消火対象物の上面に形成された扁平な上部空間4の一端からノズル本体12を消火対象物上面の端部まで差し込み、ノズル本体12の先端部からガス圧によって消火砂を上部空間4内に放射することができる。消火砂は偏向板16によって斜め下方に吹き付けられ、消火対象物の上面でバウンドしながら奥側まで分散させることができるので、堆積した消火砂が空気遮断層を形成し、確実に消火することができる。
【0028】
上記した実施形態では消火対象物はナトリウム硫黄電池のモジュールであるがこれに限定されるものではなく、本発明は扁平な上部空間を持つ消火対象物の消火に広く適用することができることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0029】
1 電池モジュール
2 ラック
3 床板
4 扁平な上部空間
5 扉
6 開口
7 枠
10 金属パイプ
11 消火用ノズル
12 ノズル本体
14 接続部
15 連結部
16 偏向板
17 位置決め用凹部
18 ガイド板
19 傾斜部
20 水平部
21 窒素ボンベ
22 タンク
図1
図2
図3
図4
図5