(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
顔面の老化プロセスは、皮膚のボリュームと弾性的緊張状態の双方の損失を表す予測し得る一連の事象によって現れる。コラーゲンの損失など多くの要因からもたらされる皮膚のボリューム損失は皮膚の皮下脂肪、下層筋肉および筋膜層の衰退に繋がり、鼻唇溝形成、下あごラインの明確さ損失、皮膚の粗雑化を促進させる。皮膚の弾性的緊張状態の損失は弛緩し、たるんだ顔面組織をもたらすものである。これらの作用と対抗させるため、ボリューム損失および組織の緊張状態を修正し、その治療された皮膚に自然な様相を生じさせる若返り手法がなされてきた。これらの手法としては、例えばコラーゲン注射などの組織充填剤の使用、“リフト”外科手術による引締め固定などが、その他の選択と共に、個々に又は組合せで採用されてきた。
【0003】
多くの一時的組織充填剤、例えばコラーゲン、ヒアルロナンおよびハイドロキシアパタイト(hydroxyapatite)が現在入手可能である。しかし、これらの充填剤は一連の注射を介して投与され、一時的な効果が与えられるに過ぎなく、その効果はコラーゲン、ヒアルロナンの場合、12ヶ月を超えて継続することができないことがしばしば見られた。より長期的解決法、例えばハイドロキシアパタイト(2ないし5年継続する)の場合でも、顔面のボリューム損失およびたるみの双方を修正し顔面皮膚をより若々しい様相に復元させるため、皮下含脂肪細胞を利用する脂肪自家移植(1ないし3年継続する)が用いられる
1,2,3。注射治療の後作用(一週間も継続することがある)としては、腫れ、赤変、痛み、あざ、圧痛などが含まれる。更に、治療には多重の注射を介しての熟練した適用が要求され、注射部位での感染の危険性もある。
【0004】
ケラチノサイト(Keratinocytes)は皮膚に若々しい様相を提供するのに最も重要な細胞型である。これは皮膚水分補給を維持するのに必要であり、UV照射などの環境的要因の老化作用を特に受け易い。なぜならば、これは他の皮膚細胞型よりも、より常にこれらの要因に対し曝されるからである。更に、遺伝子学的に判定されるケラチノサイトファクターも内因性老化プロセスに寄与するという証拠が最近提案されている。ケラチノサイトが、線維芽細胞および他の皮膚細胞の健康/機能に対し悪影響するパラクリン・ファクターを起生させるので、ケラチノサイトの機能に有害なファクターは従って皮膚細胞の機能に対しても有害である
6。
【0005】
ヒアルロナン(ヒアルロン酸塩並びにヒアルロン酸としても知られている)は、大きい、そして負に帯電したグリコサミノグリカン・ポリサッカリド(多糖類)であり、これは体内のいたるところに存在し、特に皮膚に大量に存在する
4。真皮および表皮層の双方ともヒアルロナンに富んでおり、これは包み込まれた細胞外マトリックス(コラーゲンおよび他のたんぱく質も含んでいる)の一部として存在し、そこで細胞(例えば、表皮ケラチノサイトおよび真皮線維芽細胞)を囲んでいる
5。若い皮膚はケラチノサイトおよび真皮層の双方において細胞周囲ヒアルロナンに富んでいるが、その量は老化皮膚の双方の層において減少し、ケラチノサイト層からのヒアルロナンの損失は真皮層におけるものよりも顕著である
6。
【0006】
若々しい皮膚においては、ヒアルロナンはゼリー状カプセル(細胞皮膜)の表皮内のケラチノサイトおよび真皮内の線維芽細胞を効率的に包み込み、それにより細胞に対し適切な生育および栄養因子が提供され、それにより若々しい様相の皮膚に典型的なコラーゲンおよびエラスチンの生産が促進される。ヒアルロナンに加えて、細胞カプセル又は皮膜の主成分は細胞外たんぱく質並びにコラーゲン、TSG-6のようなプロテオグリカン(PG)および他のグリコサミノグリカンのような他の物質である。ヒアルロナンの三次元構造は奥域のない螺旋状のもの(長い直鎖として検知される高分子量型)であり、絡み合うことにより細胞の周りに細胞間質を集結させるための理想的なテンプレートが提供される。これらのカプセル又はエンケイスメントは一般的に、細胞レセプター(例えば、CD44, RHAMM,LYVE 1など)へのヒアルロナンの結合を介して細胞の周りに保持されている。皮膚が老化したとき、真皮線維芽細胞およびケラチノサイトのヒアルロナンカプセル維持機能が減少し、乾燥し、たるんだ様相の老化皮膚がもたらされることになる
5,7。更に、例えば過度のUV照射への露出(日焼け)を介して皮膚が傷つけられたとき、真皮における細胞によるヒアルロナン生産が減少し、ヒアルロナン劣化の増大、皮膚中におけるヒアルロナン劣化物の増大した存在がもたらされる。
【0007】
ヒアルロナンのカプセルは、水和し細胞を保護する双方の構造マトリクスたんぱく質、並びに栄養素、サイトカイン、ホルモン並びに細胞の最良の代謝状態および分化状態を維持するのに必要な成長因子を含有している。マトリックスを構築する能力は、若々しい皮膚を促進するためのヒアルロナンの使用の根本をなす主な要因となっている。第2の要因はヒアルロナンの粘弾性である。これは血管供給からの栄養素の拡散並びに皮膚の弾性に影響を及ぼし、これらの作用が共同して若々しい皮膚に典型的な質感となめらかさが提供される。第3の要因は、UVA/B放射線への露出の後に生産され、ヒアルロナンを攻撃、破壊する反応性酸素種(ROS)のための標的を提供する細胞周囲のヒアルロナンの能力であり、これは翻って、他の細胞因子をROS誘起損傷から保護するものである。最後の要因は、ケラチノサイトおよび線維芽細胞に対するヒアルロナンの直接的生物学的作用に関係する。ヒアルロナンはケラチノサイトの増殖と分化の双方を促進する。例えば、ケラチノサイトの分化を高めるレチノイン酸などの因子は細胞周囲ヒアルロナン膜をも増加させる。更に、in vitroでもin vivoでもケラチノサイトに添加されたヒアルロナンはケラチノサイト層の厚みを促進させ、CD44およびケラチン発現で検出されるようにケラチノサイトの分化を高める
5。ヒアルロナンは更に、コラーゲンIの高レベルを生産すると共に内在的収縮特性を有し、シワ形成を促進する真皮細胞である筋芽細胞への分化転換を阻止することにより線維芽細胞の分化に影響を与える。
【0008】
時がたつにつれ、細胞のヒアルロナン膜は劣化(破壊)し、老化プロセスの一部として細胞によりますます取り込まれることになる。この劣化は一部として経時的に発生する酸素自由ラジカルの蓄積に起因し、また一部としてヒアルロナン膜を崩壊又は破壊するヒアルロニダーゼの送出を促進する遺伝子的に規定されて変化する発達プログラム(例えば老化)に起因するものである。この結果として生じた破壊が細胞の取込み機構を刺激し、細胞のリゾチームによるヒアルロナン膜の分解および破壊につながることになる。老化皮膚、特にケラチノサイトの周りからのますますの涸渇に加えて、UVA/UVB照射への露出、ステロイドの使用又は炎症から生じる若者のシワになった皮膚の領域からもヒアルロナンの涸渇が見出される
5,6,8,9。
【0009】
ヒアルロナンレセプターCD44は皮膚中におけるケラチノサイトおよび他の細胞上に恒常的に発現し、細胞の周りに“細胞皮膜”として知られる層としてヒアルロナンを保持させるのに必須のものであると信じられている。更に、このレセプターは皮膚中での適切なヒアルロナン代謝のために必須のものであると信じられている
5,10,11,12。このCD44レセプターは老化プロセスの間並びにUV照射への露出などの老化因子又は皮膚萎縮を生じさせる疾患/因子に起因して皮膚から損失する
5,9。対照的に、更なるヒアルロナンレセプターであるRHAMM(正常な皮膚では通常大きく発現しない)は、UVA/Bへの露出および他の傷害因子と共にその発現が増大する。RHAMMは、ヒアルロナンを内在化/新陳代謝させるCD44の能力を促進させるものと思われている。TSG-6のような非不可欠(non-integral)の細胞外ヒアルロナン結合たんぱく質も、真皮細胞を囲むヒアルロナン細胞皮膜の生産および保持に重要である
13。
【0010】
ヒアルロナンは若々しい皮膚の特性を取り戻すための組織フィラーとしての用途として理想的な特性を有することが知られているが、皮膚の表面上よりもむしろ皮膚バリアの下にその効果を生じさせる現在唯一の入手可能な製品はヒアルロナンの架橋型のものであり、これらは顔面のシワを平滑にし、唇などの顔面領域のボリュームを増大させるために注射される。ヒアルロナンの架橋により注射部位でその保持が向上するが、これらの注射は永久的なものではなく、若返り効果を継続させるには規則的ベース(6-12ヶ月)で繰り返す必要がある。しかし、ヒアルロナンの架橋自体では細胞−表面レセプターたんぱく質に対するその結合能力(すなわち、ヒアルロナン皮膜により細胞を包み込むために必要な主たる特性)が減少すると信じられている。遭遇する更なる困難としては、注射されたヒアルロナンを如何にして皮膚の下で局在化し、あるいは平均的に“平滑化(smooth)”するかということである。すなわち、注射可能なヒアルロナンの使用は効果的な一時的フィラーとして作用するが、皮膚被覆作用を提供するに際し自然のヒアルロナンと同じように作用することはできない。架橋した注射可能なヒアルロナンフィラーの劣化はヒアルロナンの資源として役立つと考えられるが、ヒアルロナンレセプターの知られている真皮細胞表面上での枯渇のため、並びに皮膚内での高い速度のヒアルロナン劣化のため、ヒアルロナンの保持は期待することはできない。
【0011】
架橋したヒアルロナンを含む注射可能なフィラー(fillers)は、シワ又は鼻唇溝の部位に投与されるのみであるから、これらの治療は隣接する領域における涸渇したヒアルロナンのレベルを再び満たすことによる皮膚の“若返り”に役立つものではない。むしろ、この注射治療は窪んだ領域を充填することにより若返りの様相を提供するものに過ぎない。その結果、注射可能な皮膚フィラーを用いた治療は、隣接の非治療領域での新たなシワの発現を防止ないし遅延させる助けにはならない。それと共に、このような治療法は内在する問題であるヒアルロナン欠乏並びにその結果生じる皮膚水和の減少に対処するものとはならない。
【0012】
皮膚内のヒアルロナンの自然の存在および老化、UV照射への露出(日焼けおよび光老化)および他の皮膚の外傷に基づくヒアルロナンの涸渇のため、ヒアルロナンは、その注射可能なフィラーとしての用途に加えて多くの皮膚製品にも含まれている。局所的に適用されるヒアルロナンは、ケラチノサイトの表層を覆うセラミド/ケラチンの疎水層を貫通する入口を得なければならない。しかし、ヒアルロナンは多価陰イオンであるため、皮膚のケラチノサイト層を効率的に透過することを期待できない。従って、局所投与されたヒアルロナンは表面的治療(例えば、伝統的なヒアルロナン含有スキンクリーム)に留まるか、若しくは皮膚への有意な浸透が望まれる場合(例えば、シワの治療においては架橋ヒアルロナンをそこに注射する)は注射するしかない。
【0013】
或る分子量のヒアルロナンがこの皮膚バリアを或る程度透過し得ることが報告されている。Brownら
14は分子量250kDaおよび400kDaのヒアルロナンで公知の透過向上剤、ポリエチレングリコールおよびベンジルアルコールと共に調合されたものが皮膚バリアを透過し得ることを報告している。幾つかの他のレポートでも、40ないし400kDaのヒアルロナンを含有するとしているはっきりしない画分のものがマウスおよびヒトの皮膚を透過し得ると報告されている
5が、>400kDaの生来のヒアルロナンは、それが局所的に適用されたとき皮膚を透過しないことも報告されている
5,15。更に、Brownらはヒアルロナンが皮膚バリアを透過し得ることを実証したが、皮膚を透過し得るヒアルロナンの割合は低く、ヒアルロナンは急速に血流中に通過し急激に劣化してしまうことも明確となっている。Kayaら
5も局所的に適用されたヒアルロナンは表皮層に保持されることが少なく、その保持は真皮層において一時的であり、適用されたヒアルロナンは皮膚細胞およびケラチノサイトにより取り上げられるということを実証している。従って、ヒアルロナンが皮膚バリアを透過し得るようにしたことだけでは、必ずしも有用な効果を提供するものとはならない。つまり、多くの用途において、ヒアルロナンがその効果を発揮するためには長期の滞留時間を示すものでなければならない。これはSchultzらによるところの、局所的投与を介してヒアルロナンを送出させるための経皮キャリアの使用により明白になっている(米国特許No.4,808,576)。このような適用方法はヒアルロナンの皮膚バリア透過を容易にするのに有効であるが、ヒアルロナンは皮膚内に留まることなく、下層の関節や腱へと通過し続ける。更に、経皮キャリア(その最も効果的なものはDMSO)についての要件は一般に長期の使用と相容れないものである。
【0014】
Schwach-AbdellaouiおよびMalle(WO 2008/000260)は、2つの分子量画分のヒアルロナンを含有し、保湿および抗シワ特性を有する組成物を報告している。第1の低分子量画分(50kDa)のものは皮膚バリアを透過することができ、第2の高分子量画分(300kDa)のものは皮膚の表面に優先的に蓄積することにより皮膚の粗さを減少させるのに、より明白な効果を提供するものとしている。このヒアルロナンの使用(典型的には化粧用製剤)は、短命の外部フィラーとしてのヒアルロナンの使用に依存するものであり、これはヒアルロナンの水溶性のため、洗顔したときに除去されてしまう。上記のBrownらとの関連で述べたように、皮膚バリアを透過し得るヒアルロナンの割合は低く、この皮膚バリアを透過し得たものは皮膚内での保留割合が低い。その結果、現在のバイオ若返り手法(メソセラピー
16)は、ヒアルロナンの局所的投与に依存するよりは、むしろ非架橋のヒアルロナンを単独ないし他の活性成分と共に注射することを採用するようになっている。
【0015】
従って、注射を要することなく、より大きい分子量画分のヒアルロナンを皮膚バリアを介して送出させることができる方法を開発する必要性が依然として存在している。より大きい分子量画分のヒアルロナン(例えば、>100kDa)は、より大きいバイオ弾性(bioresilient)を有すると予測され、皮膚内に自然に見られる大きい分子量のヒアルロナンにより良く似たものとすることができると予測される。
【0016】
或るヒアルロナンフラグメント(fragments)は外傷修復および正常な皮膚の生理機能に対し治療作用を奏することが最近、明らかになっている。このヒアルロナンフラグメントはより大きい分子量のヒアルロナンよりも皮膚に良く浸透するが、皮膚の細胞外画分に保持されない
5。
【0017】
今日までヒアルロナンおよび他のグリコサミノグリカンの例として多くのものが知られており、これらは種々の目的のため脂質の結合を介して変性されたものである。Sakuraiら(米国特許No.5,464,942)には、脂質化されたグリコサミノグリカン(ヒアルロナンを含み)の製造が記載され、ここでは単一の脂質側鎖がグリコサミノグリカンの末端位置又は単一の任意の内方位置のいずれかに付加されている。これらの組成物は血管内皮細胞およびその細胞外マトリックスへの癌細胞の付着を抑制することができるとしている。
【0018】
Yerushalmiら(WO 2006/050246)には難水溶性薬剤の標的送出に使用するための微粒状脂質化グリコサミノグリカン(ヒアルロナンを含み)キャリアの製造が記載されている。脂質化に続いて、この変性されたグリコサミノグリカンは自己集合し球状となり、ここでグリコサミノグリカンの親水性部位は外表面にあり、疎水性脂質部位は保護された内側面内に存在する。同様の自己集合したナノ球体およびミクロ球体もMargarlitおよびPeer(WO 03/015755)に記載され、ここでは、ヒアルロン酸へのリン脂質結合量次第でナノ粒子(連結部位の~20%が占められている)又はミクロ粒子(連結部位の~33%が占められている)を形成することができる。
【0019】
ヒアルロナンを皮膚へ透過させることが困難であることを強調しているScott(EP 0295 092 B1)には、局所投与のための7ないし50の単糖単位を有するヒアルロン酸フラグメントの製造が記載されている。皮膚バリア透過は、製剤への活性向上剤の添加を介して、又は送出用ベヒクルとしてホスファチジルコリンから形成されたリポソームの使用又はバッテリー駆動のイオン導入パッチの使用を介して補助されている。しかし、ヒアルロナンを皮膚バリアから透過させることが困難であるために選択された好ましくは7ないし25の単糖単位を有するヒアルロナンの範囲(約1,300-4,700 Da)が表すように、これらの製剤は、より大きい分子量のヒアルロナンの皮膚バリア透過を可能にするには適していない。
【0020】
Della ValleおよびRomeo(米国特許No.4,851,521)には、化粧品など種々の用途での使用、組織フィラーとして、およびフィルムおよび糸の製造のためのヒアルロン酸エステルの製造が記載されている。種々の用途での使用が記載されているが、その変性されたヒアルロナン組成物がヒアルロナンを皮膚バリアを透過させ得るという教示はなく、むしろ、皮下投与、皮内投与が教示されている。
【0021】
一般に、表皮バリアを通しての物質の拡散は分子量が700 Daを超えたときに急激に減少する。Pinsky(WO 2009/086504)には、低分子量コラーゲンフラグメント(8.5 kDa)および任意としてのヒアルロナンを皮膚内に送出させるためリポソームを利用したスキンケア組成物が記載されているが、より大きい分子量のコラーゲンおよびエラスチン、並びにリポソームの使用、準備を要求されない場合は治療的に有用なペプチドおよびたんぱく質の経皮投与を可能にする方法の必要性が存在する。ペプチドおよびたんぱく質についての表皮送出技術(経皮送出を含めて)が最近、Antosavaらにより検討されている
17。これには経皮送出が、高い生体学的利用能、作用の持続性、無痛適用などの理由から発展のための魅力的なアプローチであるけれども、これは浸透を妨げる皮膚バリアの作用および長期の適用を妨げる局所的炎症などの問題から、その実行が妨げられていると記されている。
【0022】
リン脂質ベースのリポソームを使用してヒアルロナンを皮膚バリアに透過させることを記したレポートもあるが、その使用には多くの問題(最も顕著なものは貯蔵時の安定性である)が絡んでいる。更に、リン脂質ベースのリポソームは化粧用製剤に要求されるスケールで製造、純化するために高い経費を必要とする。
【0023】
ヒアルロナンを含み局所的に投与される化粧用組成物についての特許文献に多くの報告がなされており、そこにはヒアルロナンが皮膚バリアを介して表皮層並びに真皮層へ容易に送出させることができると記されているが、それらの約束事を果たすような化粧用製剤は商業的には入手できない。特に、大きい分子量のヒアルロナン(例えば、>250,000kDa)を十分量を、局所用化粧用製剤を用いて皮膚の表皮層並びに真皮層へ送出し、皮膚内に保留させるのに効果的な実行可能な方法は現在、存在しない。むしろ、化粧を目的とする場合は、新しいフィラー製品の開発は注射可能なヒアルロナンフィラー(例えば、Hyal-System
TM)に向けられたり、あるいは皮膚表面に一時的に保留される表面フィラーとしてのヒアルロナンの使用に向けられている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0066】
本発明は、局所投与により皮膚バリアを通って変性グリコサミノグリカンを透過させ得る組成物を提供するものであり、これにより該組成物を化粧用調剤としての使用に適したものとし、更に美容的に、薬剤的に活性な治療剤の経皮投与および経皮投与のためのビヒクルとして適したものとするものである。これらのグリコサミノグリカン組成物は、グリコサミノグリカンに対する脂質部分の共有結合を介して形成されるものであり、この場合、皮膚バリア透過を容易にするようにグリコサミノグリカンに十分な親油性を与えるため、結合度が二糖類モノマー単位の約1ないし約15%に制限される。これは同時に、グリコサミノグリカンの特性、特に細胞質相互作用の維持を可能にするものである。好ましくは、この結合度が二糖類モノマー単位の約1ないし約12%に、より好ましくは約1ないし約10%に、更に好ましくは約1ないし約7.5%に、最も好ましくは約2ないし約6%(例えば5.5%、6%)にする。この脂質部分を導入する1つの効果的な方法は、グリコサミノグリカン全体のその糖残基に存在するカルボン酸基のところに結合させることである。本発明の組成物の製造において、グリコサミノグリカンに脂質部分を結合させる場合、使用される利用可能な結合部位を考慮することが重要である。Margarlit and Peer (WO 03/015755)で教示されているように、利用可能なカルボン酸部位の20-33%でのホスファチジルエタノールアミンの共有結合は、自己集合して、不溶性又は難可溶性化合物のためのキャリアとして作用することのできる粒状ナノスフェア又はマイクロスフェアを形成する。つまり、これらの好ましくない粒状構造の形成を回避するため、本発明の組成物を製造する場合、低い度合いの結合を使用することが必要であることが見出された。
【0067】
本発明の変性グリコサミノグリカン組成物を製造する場合、脂質部分は公知の任意の様式でグリコサミノグリカンに共有結合させることが出来る。例えば、この結合には現存する官能基(例えば、カルボン酸およびヒドロキシ)又はマスクされていない官能基(例えば、N-アセチル基の部分加水分解を介して第1アミンを提供させる)に対するものが含まれる。グリコサミノグリカンと脂質部分との間で任意の共有結合の形を利用することができるが、この結合は体内で加水分解可能であることが一般に好ましい。例えばアミドおよびエステル結合である。それにより、この変性されたグリコサミノグリカンを生来の形に戻すことができ、その最終的な生体吸収を容易にし、皮膚に生来存在するグリコサミノグリカンおよび脂質が使用された場合の毒性及び/又はアレルギー性反応についての可能性を減少させることができる。
【0068】
本発明のグリコサミノグリカン組成物はヒアルロナンを用いて好ましく製造できるが、他のグリコサミノグリカン、特にヒアルロナン誘導体(部分的にN-デアセチル化ヒアルロナン)も使用することができる。ヒアルロナンを除いて、自然に発生するグリコサミノグリカンはたんぱく質に付着されているが、本発明の文脈において、グリコサミノグリカンの用語はグリコサミノグリカンのみの多糖類部分を指すものである。本発明の組成物で使用に適したグリコサミノグリカンは、枝なしの多糖類であり、それは主として、ウロン酸又はヘキソサミンに結合したヘキソースからなる二糖類繰返し単位からなる任意の長い、枝なし多糖類(ただし、以下に記載するサイズについての要求が満たされれば)が含まれる。
【0069】
ヒアルロナンは皮膚内に高いレベルで存在しており、美容用並びに医薬用治療剤(たんぱく質および同様のサイズの生体高分子を含めて)のための送出用装置として本発明の組成物を使用したとき、二重の効果、すなわち、これら治療剤の送出および処置部位でのヒアルロナン細胞皮膜の向上が得られるであろう。この二重の効果は、或る治療薬の以前の局所投与がその適用部位での皮膚への損傷に関連する場合(例えば、皮膚ヒアルロナンのレベルを減少させることが知られているグルココルチコイドの局所投与の場合に見られるように
18)、特に有利である。皮膚内の他の生来のグリコサミノグリカン(例えば、ヘパリンスルフェート、デルマチンスルフェート、ケラチンスルフェート、コンドロイチンスルフェート)の上にヒアルロナンを使用することが好ましいとする更なる理由は、バクテリアを使用する生合成手段を介しての高分子量(>100 kDa)に容易に近づけることであり、それにより動物源とは独立した、その供給を可能にし、その結果、動物誘起物質と関連するアレルギー問題を生じにくくすることができる。
【0070】
本発明で使用されるグリコサミノグリカンは典型的には、約50 kDaないし約2,500 kDaの範囲の分子量、好ましくは約100 kDaないし約2,000 kDaの範囲の分子量である。更に好ましくは、グリコサミノグリカンは約350 kDaないし約1,500 kDaの範囲の分子量、最も好ましくは約500 kDaないし約1,500 kDaの範囲の分子量とする。しかし、傷における特定の医薬的使用、例えば先天性免疫の促進、血管形成、傷部の再表面化での使用の場合、最良のヒアルロナンサイズは、より小さくなる。なぜならば、フラグメント化されたヒアルロナンは生来のヒアルロナンよりも生物活性がより大きく、約2 kDaないし約100 kDaの範囲で使用することができる。
【0071】
本発明の組成物の脂質部分は、1又はそれ以上の脂質、好ましくは脂肪酸、グリセロ脂質、リン脂質、スフィンゴ脂質、ステロール脂質、プレノール脂質から選択することができる。本発明では、この脂質部分がグリコサミノグリカンに共有結合されることを必要とするが、本発明の組成物は、共有結合されていない他の脂質と同じように、脂質化グリコサミノグリカンを含むことができる。
【0072】
グリコサミノグリカンを変性させる際の或る脂質の使用上の唯一の要件は、グリコサミノグリカンに対し、その極性頭基を介して共有結合することのできる能力である。治療されるべきヒト又は動物に生来存在する脂質の使用は好ましいが、生来の脂質の誘導型も、それらの脂質特性が維持されている限り、使用することができる。このような誘導体化は、脂質の極性頭基上の利用可能な官能基がこの脂質のグリコサミノグリカンへの結合を可能にしない場合に必要となる。誘導脂質の例としては、グリコサミノグリカンへの脂質の結合を容易にするように変性されたもの(例えば、脂質の極性頭基への第1アミンの付加を介して)が含まれる。その他の例としては、脂質の疎水性尾部に対し変性したもの(但し、この領域の親油性特性が維持される限り)が含まれる。更に、生来の脂質の立体異性体も使用可能である。この場合、必要に応じて更なる誘導体化を行いグリコサミノグリカンへの結合を容易にしてもよい。脂質に対する必要な変性を行うための方法は当業者に公知のものである。
【0073】
一般に、全ての脂肪酸(単独でも、脂肪酸のグループの一部として、あるいは他の脂質として)を本発明の組成物において使用することができる。この場合、炭素原子数が12を超えるものが好ましく、これには飽和、モノ不飽和、ポリ不飽和脂肪酸が含まれる。ヒトにおいて生来の脂肪酸を使用することが好ましいが、これは、皮膚バリアを透過するそれらの能力というよりは、むしろ組成物の生体吸収性の観点からであり、又、毒性及び/又はアレルギー性副作用の低い潜在性からである。単独又はより大きい脂質の成分として使用される脂肪酸は12-24の炭素原子を有するものが好ましい。以下に例示する(但し限定的なものでない)本発明の組成物で有用な脂肪酸(単独又はより大きい脂質の一部として)は、飽和脂肪酸:ミリスチン酸(12:0テトラデカン酸)、パルミチン酸(16:0ヘキサデカン酸)、ステアリン酸(18:0オクタデカン酸)、アラキン酸(20:0エイコサン酸)、ベヘン酸(22:0デコサン酸);モノ不飽和脂肪酸:パルミトレン酸(16:1(n-7)シス-9-ヘキサデセン酸)、ペトロセリン酸(18:1(n-12)シス-6-オクタデセン酸)、オレイン酸(18:1(n-9)、シス-オクタデセン酸、シス-ワクチン酸(18:1(n-7)、シス-11-オクタデセン酸)、エルカ酸(22:1(n-9)、シス-13-ドコセン酸;およびポリ不飽和脂肪酸:リノレン酸(18:2(n-6)、9,12-オクタデカジエン酸)、γ-リノレン酸(18:3(n-6)、6,9,12-オクタデカトリエン酸)、α-リノレン酸(18:3(n-3)、9,12,15-オクタトリエン酸)、アラキドン酸(20:4(n-6)、5,8,11,14,17-エイコサテトラエン酸)、EPA(20:5(n-3)、5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸)、DHA(22:6(n-3)、4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸)である。これらは生来の形のものに加えて、それらを変性しグリコサミノグリカンへの共有又は非共有結合をより容易にしたものでもよい。例えば、酸の頭基をアルコール又はアミンに変換し、アルコールを更に脱離基として誘導体化する、または脱離基とする。同様に、短いスペーサーを付加して脂肪酸を誘導体化してもよい。例えば、2-アミノエタノール、エチレングリコール又は所望の官能基を有するエタノール誘導体を用いたエステルの形成である。このような変性脂肪酸を製造するための技法は有機合成に熟知した化学者にとって公知の日常的なものである。明らかなように、必須脂肪酸(すなわち、ヒトの組織で生産されない脂肪酸であって、食餌を介して得なければならないもの(例えばアラキドン酸、リノール酸、リノレン酸およびそれらの代謝物質(EPA,DHAなど))は、とりわけ、本発明でのそれらの機能に加えて、皮膚バリアを通ってヒアルロナンの送出のため使用することにより食餌とは別に、本発明の組成物が生物分解されたときに、これら栄養素の追加資源を提供するものとなる。必須脂肪酸の使用は、それ自身でもよいし、より大きい脂質の一部として、又は脂質化グリコサミノグリカンに共有結合されていないがその代わりに脂質化グリコサミノグリカンにより真皮投与又は経皮投与される補助脂質としてでもよい。炭素鎖に沿って置換基又は分枝を有する脂肪酸誘導体も、誘導体化脂肪酸の脂質特性が維持される限り、本発明で使用することができる。
【0074】
本発明の組成物で有用な更なる脂肪酸としては、炭素原子数10ないし30を有する分岐鎖脂肪酸が含まれる。この分岐鎖には1又はそれ以上のメチル基であって飽和又は不飽和脂肪酸鎖に沿う任意の位置で置換したもの、又はより大きいアルキル基が関与するものを含んでいてもよい。他の有用な脂肪酸としては、脂肪酸の主鎖に沿って、又は末端位置に1又はそれ以上の脂環基を有するものも含まれる。更に有用な脂肪酸としては、ヒドロキシ脂肪酸が含まれる。ここでヒドロキシ基はカルボン酸の2つの炭素内に存在する(α-およびβ-ヒドロキシ脂肪酸)。このヒドロキシ脂肪酸のα-又はβ-ヒドロキシ基は更にエーテル又はエステルの形成を介して誘導体化し第2の脂肪酸鎖を脂質に付加することにより親油性特性を増強したものでもよい。
【0075】
脂肪酸についての上述の説明は、脂肪酸成分を含む脂質の以下のタイプでの使用にも適用される。
【0076】
脂肪酸の使用に加えて、本発明で使用に適した脂質としては、脂肪アミド、脂肪酸のアミド類似体が含まれる。好ましい脂肪アミドは、例えば2-アミノエタノールでの処理により脂肪酸がアミドに変換され、アルコールを提供するものが含まれる。このアルコールは所望により更に変性することができる。同様に、脂肪アミドはジアミン(1,2-ジアミノエタン)を用いて形成することができ、それにより第1アミンを形成しグリコサミノグリカンへの結合を容易にしてもよい。脂肪酸およびアミノ酸を用いて適当な脂肪アミドを形成してもよく、これらは更に所望により誘導体化してもよい。好ましい脂肪アミドとしては、抗炎症および抗ガン特性を示すものとして知られているアナンドアミド、N-アラキドノイルグリシン、N-パルミトイルエタノールアミド(炎症を治療するのにも使用される)が含まれる。このような脂肪アミドの使用は、とりわけ、治療作用と共に、二重の作用を提供することができる。例えば、グリコサミノグリカンの皮膚バリアを介しての移送を容易にし、体内における脂質化グリコサミノグリカンからの加水分解によりもたらされる公知の治療効果を提供する。
【0077】
本発明で使用可能なグリセロ脂質としては、モノ-およびジアシルグリセロ脂質が含まれる。好ましいグリセロ脂質はモノ-およびジアシルグリセロールおよびグリコシルグリセロールである。より好ましいグリセロ脂質は上述の好ましいグループから選択される脂肪酸を有するものである。更に好ましいグリセロ脂質は、トリアシルグリセロールおよび他の脂質の生合成において中間体として作用するものである。しかし、この好ましい点は、皮膚バリアの透過を容易にする能力というよりは、本発明の脂質化グリコサミノグリカンからの加水分解に対する更なる作用を提供する能力に基づくものである。所望とするグリコサミノグリカンとの結合型のタイプによっては、上記グリセロ脂質を、例えばスペーサーの使用又は直接誘導体化を介して更に誘導体化し、第1アミノ基を形成し、グリコサミノグリカンのカルボン酸基とのアミド形成を可能とするようにしてもよい。
【0078】
本発明の組成物での使用に適したリン脂質としては、ホスファチジルエタノールアミン(セファリン)、ホスファチジルセリン、ホスファチジル-L-トレオニン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチド酸、ビスホスファチジルグリセロール(カルジオリピン)およびホスホグリコリピドを例示することができる。リン脂質の好ましいタイプのものはホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトールおよびホスファチジルセリンである。より好ましいものとしては、ホスファチジルエタノールアミンと、ホスファチジルセリンとを挙げることができる。最も好ましいものはホスファチジルエタノールアミンである。皮膚透過を容易にするというよりは、生物吸収性の観点から生来のリン脂質が好ましいが、生来のものでないリン脂質を使用することもできる。生来のものでないリン脂質の例としては、グリコサミノグリカンへの結合に適しないリン脂質の誘導体バージョンであるリン脂質が含まれる。例えば、ホスファチジルコリンであり、ここで誘導体化によりグリコサミノグリカンに対する脂質の共有結合を可能にする官能基が提供される。伝統的なジアシル形であることに加えて、適当なリン脂質はエーテルリン脂質(例えば、アルキルアシルリン脂質、アルケニルアシルリン脂質)も含まれる。更に、本発明での使用に適したものは、上記リン脂質の任意のもののリゾリン脂質であり、この場合、脂肪酸鎖の1つが加水分解され、モノアシル、モノアルキル又はモノアルケニルリン脂質が与えられる。適当なリン脂質も、それらの頭基で変性されていてもよい。ただし、それがグリコサミノグリカンへのリン脂質の共有結合を向上させるか、妨げない場合である。
【0079】
本発明の組成物での使用に適したスフィンゴリン脂質としては、スフィンゴシンおよび他のスフィンゴイド塩基、セラミド、セラミドリン脂質およびグリコスフィンゴリン脂質が挙げられる。本発明の目的において、セラミドリン脂質とは、セラミドがホスフェート基に結合しているスフィンゴミエリン以外のスフィンゴリン脂質を指しており、セラミドホスホリルエタノールアミン、セラミドホスホリルグリセロール、セラミドイノシトールおよび同様のクラスのものが含まれる。スフィンゴ脂質として単独、あるいはセラミド、セラミドリン脂質、スフィンゴミエリン、グリコスフィンゴ脂質又は他のスフィンゴ脂質の1成分として使用される適当なスフィンゴイド塩基も、異なる炭素鎖(長さ、不飽和度、ヒドロキシル化)を有するスフィンゴイド塩基の類似体を含むものであってもよい。ただし、炭素原子数14-24のものが好ましい。スフィンゴ脂質として単独、あるいはセラミド、セラミドリン脂質、グリコスフィンゴ脂質又は他のスフィンゴ脂質の1成分として使用される好ましいスフィンゴイド塩基としては、スフィンゴシン(d18:1, d18:1
Δ4t, 4E-d18:1又はそのシス異性体:d18:1
Δ4c, 4Z-d18:1)、ジヒドロスフィンゴシン(d18:0, スフィンガニン)、フィトスフィンゴシン(t18:0)、デヒドロフィトスフィンゴシン(t18:1, t18:1
Δ8t, 8E-t18:1又はそのシス異性体:t18:1
Δ8c, 8Z-t18:1)、およびエイコサスフィンゴシン(d20:1, 4E-d20:1, d20:1
Δ4t)が含まれる。上述の脂質のクラスについて述べると、スフィンゴリン脂質の中で好ましいものは、自然発生のものである。スフィンゴリン脂質の好ましいタイプのものは、セラミドホスホリルエタノールアミン、セラミドホスホリルイノシトールおよびモノグリコスフィンゴ脂質である。好ましいスフィンゴ脂質として、エタノールアミン、セリン又は他の適当な基が直接、セラミドに結合したものが含まれる。他の好ましいスフィンゴ脂質として、グリコソスフィンゴ脂質が含まれ、これは糖基が変性されたもので、それにはホスホリルエタノールアミン、ホスホリルセリン、ホスホノエタノールアミン、セリン、エタノールアミンが含まれる。スフィンゴ脂質は本来的に上述のようなグリセロール基脂質とは異なる脂肪酸を有することが知られているから、スフィンゴ脂質内で好ましい脂肪酸は、上述の脂肪酸の一般的な記述のものとは異なる。従って、スフィンゴ脂質について云うと、好ましい脂肪酸は28以下の炭素原子を有するもので、奇数又は偶数の炭素原子を有するものである。これらの脂肪酸(飽和のもの、モノ不飽和のもの、又はポリ不飽和のものでもよい)のうち、炭素原子数16-24のもので、飽和又はモノ不飽和のものが好ましい。
【0080】
上述のホスファチド酸ベースのリン脂質およびスフィンゴ脂質に加えて、本発明の組成物は類似したホスホノ脂質、例えばホスホニルエタノールアミンおよびホスホニル-1-ヒドロキシ-2-アミノエタンを利用することもできる。好ましいホスホノ脂質はホスホニルエタノールアミンである。
【0081】
セラミドは皮膚の自然の成分で、年齢又は病気によるその減少は、皮膚の脱水、しわ/たるみをもたらし、病気を受けやすくなるため、セラミドおよびセラミド基脂質(皮膚内で加水分解によりセラミドとなる)の使用は二重の利益を生じさせる。本発明の組成物において、皮膚内で加水分解によりセラミドとなるセラミド基脂質の使用は、皮膚バリアを通ってのヒアルロナンの送出を補助すると共に、この組成物の分解時にセラミドのレベルの補充を助ける源を提供する。
【0082】
本発明の組成物で使用に適したステロール脂質としては、ステロールおよびオキシステロールが含まれる。この場合、アルキル鎖よりむしろ、コレステロールのA又はB環が酸化されている。その例として7β-ヒドロキシコレステロール又は4β-ヒドロキシコレステロールが挙げられる。アルキル側鎖がヒドロキシル化され、随意にアミンに変換されているオキシステロールも使用に適している。その場合、コレステロール骨格のAおよびB環は還元形(脱ヒドロキシル化)となっている。第1ヒドロキシ基が酸化されカルボン酸となっているものを有するオキシステロールも使用することができる。特に、2-アミノエタノールでエステル化し末端アミノ基を提供し、グリコサミノグリカンへの結合を容易にしているものを使用することができる。哺乳動物に一般に見られるステロールに加えて、他の源からのステロール(植物をベースとするステロール(フィトステロール))も本発明の組成物で使用することができる。有用なフィトステロールの例として、限定的ではないが、キャンペステロール、シトステロール、ブラシカステロール、スチグマステロール、アベナステロールなどが挙げられる。例えば、2-アミノエタノール、イノシトール、セリン、グリコシド、ホスホリルエタノールアミン、ホスホニルエタノールアミン、ホスホリルセリン、ホスホリルイノシトール、ホスホリルグリコシドあるいは2-アミノエタノール、セリン、ホスホリルエタノールアミン又はホスホニルエタノールアミンで誘導体化されたグリコシドを、上記A環の3-ヒドロキシ置換基に、又は上記のステロール又はオキシステロールの任意のアルキル側鎖のヒドロキシ置換基に付加することによりステロールを誘導体化してもよい。更に、エステルはアミノ酸を用いて形成することができ、それによりアミノ基が提供されて、グリコサミノグリカンへの結合を容易とすることもできる。
【0083】
7-デヒドロコレステロールの使用は、皮膚の表皮への浸透に続いてのUV露出時においてビタミンD
3(コレカルシフェロール)への変換という更なる利益を提供するものとなる。その他、コレカルシフェロール又はその前駆プロビタミンD
3を脂質として直接的に使用してもよい。同様の利益がエルゴステロール、ビオステロール又はエルゴカルシフェロール(ビタミンD
2)又はシトカルシフェロール(ビタミンD
5)(UV照射により7-デヒドロシトステロールから作られる)の使用を介して得ることもできる。その結果、本発明のためグリコサミノグリカンの変性に使用された脂質部分は、その変性されたグリコサミノグリカンが体内で崩壊された際(生理学的条件下で脂質の解放を可能にする加水分解可能な結合が使用されたとき)、生物学的に重要な脂質のための送出用ビヒクルとしても役立つ。上述の任意のものが本発明の組成物において脂質として使用されたとき、他の脂質との関連で使用される量は、グリコサミノグリカンからの加水分解により生じる所望とするビタミンD補助の量に従って種々変化させることができる。
【0084】
ステロール誘起ビタミンDに加えて、本発明の組成物は他の脂溶性ビタミン(ビタミンAおよびE)および他のプレノール脂質(他のトコフェロール、トコトリエノール、レチノイン酸、ドリコールおよびポリプレノール(グリコサミノグリカンに対する結合を容易にする官能基を有するもの)を含めて)を利用することもできる。このような脂質も更に誘導体化してもよい。これは例えば、2-アミノエタノール、イノシトール、セリン、グリコシド、ホスホリルエタノールアミン、ホスホニルエタノールアミン、ホスホリルセリン、ホスホリルイノシトール、ホスホリルグリコシドあるいは2-アミノエタノール、セリン、ホスホリルエタノールアミン又はホスホニルエタノールアミンで誘導体化されたグリコシドを、利用可能なヒドロキシ置換基に付加することにより誘導体化される。更に、アミノ酸と共にエステルを形成し、グリコサミノグリカンへの結合を容易にするアミノ基を提供するようにしてもよい。上記グリコサミノグリカンからの開裂による生物学的応答を提供することのできる任意の脂質を使用する場合のように、製剤に使用される量は、提供されることを望む脂質の量により決定することができる。更に有用なものはプレノールのジホスフェート誘導体(ファルネシルピロフォスフェートおよびプレスクアレンジホスフェート)であり、これはステロールの生合成に使用される。好ましいプレノール脂質の例は、トコフェロール(ビタミンEを含めて)およびトコトリエナール(これらは更に皮膚バリアを透過したとき抗酸化剤として作用することができる)、ビタミンA(より好ましくはその酸化型)、レチノイン酸(皮膚内でコラーゲン生産を刺激することが知られている)、並びにファルネゾール脂質(表皮の脂質外側層に寄与することが知られている)である。皮膚内の抗酸化剤の存在は、ヒアルロナン(生来のもの、又は本発明の組成物を介して提供されるもの)の破壊を防止するのを更に助ける。
【0085】
上述のように、脂質の中で最も好ましいものは、ヒトにおける生来のものであるが、その優先性は、皮膚バリアを介してのグリコサミノグリカンの浸透を容易にする能力というよりは、むしろ、生体吸収が容易であるという能力並びに毒性及び/又はアレルギー性副作用が潜在的に低いということに基づくものである。本発明の組成物は美容用および治療用としての使用を意図するものである。従って、この組成物は脂質が体内で徐々に加水分解されたときに有意な毒性を示さないことが望まれる。その結果、特定の脂質を使用する前には、テストを行い、特定の脂質が、皮膚内に送出されたときに毒性作用、アレルギー性応答又は炎症に関連するか否かを判定する。本発明の組成物で有用な脂質の多くはヒトにおいて生物学的作用を示すことが知られているので、使用される特定の脂質の量は、その組成物の使用について設定したベンチマークに準じて上述のような作用を利用するか又は回避するよう変更することができる。
【0086】
これら脂質類の中で、より好ましいものはリン脂質又はスフィンゴ脂質で、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴシン、セラミドおよびセラミド基脂質からなる群から選択されるものである。最も好ましいことは、ホスファチジルエタノールアミンの使用である。
【0087】
1つのタイプの脂質の付加を介して変性されるグリコサミノグリカンに加えて、本発明のグリコサミノグリカン組成物は更に、2又はそれ以上の異なるタイプの脂質を付加したものでもよい。この種のものとしては、例えば、親油性尾部に異なる脂肪酸を保有するホスファチジルエタノールアミンの付加、又はホスファチジルエタノールアミンおよびセラミド基脂質の付加、すなわち、同じグリコサミノグリカンに異なるクラスの脂質を結合させたものの付加が含まれる。
【0088】
好ましくは、グリコサミノグリカンに共有結合されるべき脂質が第1アミン基を有することであり、それによりグリコサミノグリカンの単糖類単位上に存在するカルボン酸基とのアミド形成が容易になる。その他の脂質の好ましいクラスとしては、グリコサミノグリカンのカルボキシ基とエステル結合を形成することができるヒドロキシ基を有するもの、あるいは、グリコサミノグリカンのヒドロキシ基とエステル結合、又はグリコサミノグリカン上のアミノ基とアミド結合を形成するカルボン酸基を有するものがある(部分的に脱アセチル化した又はアセチル化されていないグリコサミノグリカンの一部として存在する)。上述のようなグリコサミノグリカンに脂質を結合させる好ましい形に加えて、当業者に公知の他の方法によっても結合を達成することができるが、そのような形は余り好ましくない。
【0089】
好ましい結合はグリコサミノグリカンのカルボン酸基と、脂質のアミノ基との間でアミド結合を介して形成される。このような結合は、同様に共有結合される脂質/グリコサミノグリカンシステムについて当該技術分野で教示されているカルボジイミド-アプローチ(例えば、Sakuraiら、米国特許5,464,942; Yerushalmiら、WO 2006/050246又はMargarlit and Peer WO 03/015755)を用いて容易に形成することができる。本発明の組成物の製造におけるカルボジイミド-アプローチの適用と、当該技術分野で先に使用されていたものとの主たる違いは、手法の簡潔さ、結合剤の使用量の減少、及び有機溶媒の使用を要しないこと(所望により使用することもできる)である。水溶液中でカップリング反応を有機溶媒無し又は少量で行うこと、並びに少ない量の結合試薬を使用することは、双方とも脂質部がグリコサミノグリカンに結合される程度を制限することになり、それにより好ましくない粒状ナノ-およびミクロスフェアの形成を高い割合(>20% 置換割合)で防止することができ、同じく、最終製品に含まれるかも知れない潜在的なアレルギー成分(例えば、分解された結合剤、結合反応からの副産物)の量を減少させることができる。
【0090】
アミド結合の形成を介して脂質化グリコサミノグリカンを製造する際に使用される簡素化した一般的な方法(実施例2および実施例3でヒアルロナンについて更に例示されている)は以下の工程からなる:
(i) グリコサミノグリカンを含有する水溶液を、脂質又は脂質含有混合物(水又は水混和性、半水混和性溶媒に溶かして)と混合する(所望により過熱を伴って);
(ii) 結合剤(例えば、カルボジイミド)を、脂質結合の量を制御する制限試薬となるような量を以って添加する;
(iii) 30分ないし3時間攪拌しつつカップリング(結合)を起こさせる。
【0091】
以下の実施例で使用されている方法において、結合剤(アミド形成を容易にするためのカルボジイミド)は制限試薬であって、各鎖に取着される脂質分子の所望とする率に基づいた量を以って添加されている。この脂質は通常、使用される結合剤の量をモル過剰で、好ましくは大過剰で添加され、それにより脂質付着の程度を、使用される結合剤の量で制御するようにしている。すなわち、使用される結合剤の量は、グリコサミノグリカンに共有結合される脂質の量の理論的最大値を表している。その結果、或る製造においてグリコサミノグリカンに結合することができる脂質の最大量をより正確に制御するため、本発明の組成物を製造する際は、最近購入した、新しく精製した及び/又は最近分析評価した結合剤を使用することが好ましい。
【0092】
更に、結合剤(例えば、アミド形成のためのカルボジイミド)の使用(試薬中における制限試薬として、並びに有機溶媒の使用を少なくし又は除外するものとして)は、上記組成物を皮膚に適用したときにアレルギー応答の可能性を減少させるのに有益である。グリコサミノグリカンに対する脂質部分の結合の後、その製造された組成物を所望に応じて任意に精製してもよい。その場合、任意の都合のよい方法を用い、残存する結合剤、分解物質及び/又は副生成物を上記結合反応物から除去する。この結合済み組成物の精製は、本発明の組成物の局所投与に対するアレルギー応答の予想される低い可能性を更に減少させるものとなる。所望により、この精製した組成物を更なる脂質-結合工程にて1又はそれ以上の脂質と更に反応させてもよい。その結果、異なる方法でグリコサミノグリカンに結合した多重の脂質及び/又は脂質を有する変性グリコサミノグリカンが提供される。更に、この組成物の皮膚バリアを通っての移送を助ける非共有結合の脂質を更に含む組成物を製造することも望ましいことがある。
【0093】
グリコサミノグリカンの糖類ユニットに存在するカルボン酸基を脂質と結合させる他の方法は、エステル形成の伝統的な任意の方法を用いてエステル結合を形成することを伴い、又、US 4,851,521(della Valle)で教示されているものと同様のアプローチが含まれる。このアプローチの適用は、脂質の親水性部分上の脱離基を有する誘導体化脂質の使用に適している。例えば、ヨードはグリコサミノグリカンのカルボキシレート基の酸素により置換されエステルを形成する。前述のカルボジイミド アミド結合の使用に関して、della Valleの手法に対する主な変更は、使用される脂質に対するグリコサミノグリカンの割合が関与する。
【0094】
上述の方法に加えて、任意の他の適当な方法を使用して脂質部分をグリコサミノグリカンに共有結合させることができる。適当な方法は、グリコサミノグリカンの利用可能な官能基、脂質の利用可能な官能基、形成されることが望まれる共有結合のタイプなどに基づいて決定される。
【0095】
本発明の組成物は以下のものを使用して製造することができる。(1)グリコサミノグリカンに共有結合される脂質の単一のタイプ;(2)グリコサミノグリカンに結合される脂質の多重のタイプ、すなわち、1又はそれ以上の反応において多重の脂質を使用してグリコサミノグリカンがそこに付着した多重のタイプの脂質を有するようにして組成物を製造する;(3)脂質化グリコサミノグリカンの混合物、すなわち、脂質Aに結合したグリコサミノグリカン、脂質Bに結合したグリコサミノグリカンなどを含有する混合物;又は(4)2以上のタイプのグリコサミノグリカンの使用。
【0096】
本発明の好ましい態様は以下に例示するようにヒアルロナンの使用に関するものであるが、他のグリコサミノグリカンを同様な様式で用いて類似の処方を実行することも可能である。
【0097】
本発明の組成物は多くの異なる用途に使用することができる。例えば以下のような例で、ここではヒアルロナンがグリコサミノグリカンとして使用されている:
(a) 化粧用としてであり、ヒアルロナンをヒアルロナン細胞皮膜の補充のために提供することにより表皮および真皮細胞を若返らせる。これらの層においてヒアルロナンの増加したレベルの存在の結果、これら皮膚層に対し再水和作用を細胞レベルでもたらし、その細胞に対し“若返り”作用をもたらし、それにより、より若く見える皮膚の様相を生じさせる。この再水和作用を通して、この組成物を、しわの様相を減少させるため、並びに若い皮膚の明度および露けさを補給するための処置として使用することができる。
(b) 皮膚浸透/保持システムとしてであり、ここでは変性ヒアルロナンは局所投与を介して適用されたとき皮膚バリアを透過することができ、皮膚内において、在住のヒアルロナンよりも長い半減期を有することになる。すなわち、本発明の組成物は皮膚層内において、生来のヒアルロナンよりも、より遅い速度で分解されるものである。
(c) 皮膚萎縮(例えばがん患者に見られるような免疫の問題又はステロイドの使用によるもの)を有する患者の皮膚再成長を促進して傷痕化の減少、外科手術のあとの傷痕の減少、全体的な傷痕(例えば、全身的傷痕、セルライト関連の傷痕、ストレッチマークなど)の除去での使用である。
(d) 光線性角化と関連する炎症を減少させ、更なるUVA/B損傷からの損傷皮膚を保護するための光線性角化症の治療での使用である。変性ヒアルロナン組成物は更に、光線性角化により影響される角化細胞層の繁殖を抑える対生物活性剤が送出されるよう処方してもよい。
(e) たんぱく質、ポリペプチド又は他の同様のサイズの生体高分子も皮膚バリアを通して局所的に投与できる投与システムとして。
(f) 薬剤学的活性成分を本発明の脂質化ヒアルロナン組成物を混合し経皮投与を容易にする投与システムとして。このシステムは二重の作用、すなわち、薬剤成分とヒアルロナンとの双方を経皮的に送出させ、薬剤が経皮投与されることに続いて、このシステムのヒアルロナン部分がついで、上述のように真皮細胞および表皮細胞のための若返り剤として作用する。
【0098】
本発明の薬剤投与システムのための具体的治療用途として以下のことが挙げられる。
1.ストローマ細胞欠乏を標的とするもので、炎症性疾患、ガン、皮膚再生/傷修復、薬品やけど、熱やけどの治療での使用;
2.皮膚ガンの治療;
3.にきび、接触皮膚炎、乾癬、湿疹などの皮膚疾患の治療;
4.傷痕の減少および組織再生の促進を介して皮膚外観損傷の治療;
5.関節炎、特に指など注射が困難な部分の治療。
【0099】
本発明の組成物は従って、化粧品、医薬(例えば、やけど、およびヒアルロナンが有益であることが知られている疾患の治療)、粘膜のための潤滑剤、薬剤のための微小環境薬剤局所投与システムとして使用することができる。美容用用途としては、しわの様相の減少、皮膚外観のわかわかしさの向上、皮膚中におけるコラーゲン生産の増加、老化又は乾燥した皮膚の再水和、皮膚の養分の増加、光線性角化症に関連するしみの治療などが挙げられる。薬剤送出の用途としては、関節炎の全身的又は局所的治療のためのNSAIDsなどの薬剤の局所投与、皮膚ガンの全身的又は局所的治療のための化学療法、エストロゲン、ニコチン又は他の物質の投与のため、パッチ代替物又はパッチの一部としての用途(例えば、本発明の組成物をパッチに埋め込み、皮膚に適用し、それにより時間と共に徐々に吸収させる)。好ましい非美容用用途としては、全身治療ではなく、局所的に向けられたもので、薬剤の全身的暴露を最小化することにより全身的曝露に起因する副作用の大きさを減少させるものを挙げられる。
【0100】
本発明の組成物は更に,幹細胞を集めることにより(ヒアルロナンは幹細胞を集めることが知られている)、在来の幹細胞をアポトーシスから保護することにより(ヒアルロナンは幹細胞を保護することが知られている)、更に傷痕を減少させることにより(皮膚中でのハイレベルのヒアルロナンは線維修理を減少させる)、組織の復活を促進する再生医療に関連する用途にも使用することができる。傷痕の減少のための本発明の組成物の使用は、麻痺からの回復の助けになることも予想される。なぜならば、例えば脳卒中又は頭部損傷後においては神経経路の通路ブロックとして基本的に作用する線維症のため、神経細胞はそれらの当初の走路に沿って再生することができないからである。線維症的傷痕の減少は従って、線維組織の周りにさまようことを余儀なくされ当初の通路を再獲得することができない神経細胞の量の減少につながる。それによって、これらの形の麻痺を減少させ、又は一時的なものとさせる。
【0101】
ヒアルロナン以外のグリコサミノグリカン(特にコンドロイチンスルフェートであって、ヒアルロナンに密に関係する)を使用した組成物も、以下のような多くの異なる用途に使用することができる:
(a) 化粧品としてであり、ヒアルロナンに代わって、細胞表面の保水及び/又は細胞表面への結合を果たす皮膚の能力を向上させることができるグリコサミノグリカンを提供することにより表皮および真皮皮膚細胞を若返らせる。
(b) 皮膚浸透/保持システムとしてであり、ここでグリコサミノグリカンは、局所投与されたとき、皮膚バリアを浸透することができる。
(c) 投与システムとしてであり、ここでたんぱく質、ポリペプチド又は他の同様のサイズの大きな生体高分子は皮膚バリアを通して局所的に送出することができる。
(d) 薬剤投与システムとしてであり、ここで薬剤学的活性成分は本発明の脂質化グリコサミノグリカン組成物を混合され経皮投与を容易にすることができる。
【0102】
本発明の薬剤投与システムのための具体的治療用途として以下のことが挙げられる。
1.ストローマ細胞欠乏を標的とするもので、炎症性疾患、ガン、皮膚再生/傷修復、薬品やけど、熱やけどの治療での使用;
2.皮膚ガン;
3.接触皮膚炎、乾癬、湿疹などの皮膚疾患;
4.傷痕の減少および組織再生の促進を介して皮膚外観損傷;
5.関節炎、特に注射が困難な指。
【0103】
適宜添加された治療的活性物質の送出が含まれるグリコサミノグリカン組成物の使用は主として、皮膚関連疾患の治療に向けられる。しかし、適宜添加された治療的活性物質(therapeutically-active substance)が皮膚バリアを介しての投与により表皮および真皮層を通って全身循環系に入り込み移行することが出来る場合は、その組成物はより一般的に経皮投与を供するシステムとして使用することができる。
【0104】
本発明の組成物の主たる使用は局所的に適用される処方ではあるが、本発明の適用範囲は、グリコサミノグリカンおよび薬剤の経口摂取を容易にすること (この場合、変性ヒアルロナンは薬剤送出システム(a drug delivery system )として作用する) 並びにヒアルロナンの沈積を容易にすることを含み、更に皮下注射、経皮注射又は他の形の注射に続く薬剤送出システムとしての適用も含む。皮膚バリアを浸透する能力に加えて、ここに記載した組成物はこれらの追加された経路によって粘膜の浸透を容易にし、従って、グリコサミノグリカン組成物並びに適宜添加された治療薬の投与を容易にするためにも使用することができる。すなわち、本発明の組成物は、口腔投与、食道投与、胃内投与、腸内投与、経鼻投与、臭覚投与、経口投与、気管支投与、子宮投与、陰茎粘膜投与など適用法に適した処方においても使用することができる。更に、本発明の組成物は、脂質化グリコサミノグリカン(lipidated glycosaminoglycan)及び/又は追加の治療薬を、注射を要することなく、軟膏、点眼又は他の適当な製剤の局所投与を介して内方眼(inner eye)に送出するよう処方することができる。
【0105】
本発明の組成物は、化粧品及び/又は薬剤製品の製造分野の熟練者に公知の方法に従って、所望の適用方法に適した製剤の製造に使用することができる。そのような方法は、例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy or Cosmetic and Toiletry Formulations、その他文献に記載されている。好ましい製剤の例としては、クリーム、軟膏、ゲル、ローション、ペーストなど皮膚に局所的に適用されるものが含まれる。更に本発明の組成物は、薬剤の経皮送出のために典型的に使用されているようなパッチの形で、それ自体として、あるいは薬剤、たんぱく質のような治療用物質のための送出用ビヒクルとして使用することができる。
【0106】
標準的方法および賦形剤を用いた製剤の製造に加えて、本発明の組成物は更に、標準的な、市販の化粧クリームと混合してもよく、更なる又は特別の浸透向上剤の添加を要することはない。標準タイプの化粧クリームと共に投与される場合も、本発明の組成物の皮膚浸透能力は、表面水を失う皮膚の能力を防止乃至減少することにより皮膚バリア浸透を容易にするためのラップなどの湿気バリア、不透過性プラスチックフィルム又は他のタイプのバリアの使用を要することもない。
【0107】
本発明のグリコサミノグリカン組成物を含む製剤は、ヒアルロナンおよび他のグリコサミノグリカン(生来のもの、又は本発明の組成物の一部として投与されたもの)の破壊を防止するのに役立つ抗酸化剤などの追加の成分を含むものであってもよい。この製剤は更にビタミン、精油、皮膚の健康及び/又は外観(様相)に有益な作用をもたらすことが知られている他の栄養素を含んでいてもよい。更に、この製剤は、皮膚へのUV照射による損傷作用を減少ないし防止するための成分、例えば日焼けローション、日焼け止め剤などに見られるものを含むものでもよい。
【0108】
本発明の理解、組成物の製造の参考として以下に実施例を記載するが、これらは説明のためのものであり、制限を意図するものではない。下記の実施例において、CD44-/-マウスはJackson Laboratories (Bar Harbor, Maine)から得たものである。RHAMM-/-マウスは、Charles River Laboratoriesから得たC57-BL6野生型マウスを使用してTolgらによる方法に従って社内開発されたものである。CD44-/-:RHAMM-/-マウスは、Tolgらによる方法に従って社内開発されたものである。細胞もTolgらによる方法を用いて得たものである。
【0109】
実施例1.(非共有結合されたヒアルロナン-ホスファチジルエタノールアミン複合体(HA+PE)の製造)
ヒアルロナン水溶液(78.5mL; 12mg/mL; Baxyl(登録商標), Cogent Solution Group, Lexington, KY, USA)と大豆レシチン(78.5mL; Soya Lecithin GT Non-GM IP(13%のホスファチジルエタノールアミンを含む;Imperial-Oel-Import))とを10mLのイソプロパノール(混合を促進するため)とともに、ブレンダー内で30分間室温で混合することにより、会合した(非共有結合された)ヒアルロナン-ホスファチジルエタノールアミン複合体(HA+PE)を製造した。この混合物を4℃で48時間培養したのち、実施例4に本発明の結合組成物について記載した局所用クリームの製造に使用した。
【0110】
この実施例および他の実施例で使用したレシチンは15%のホスファチジルコリン、13%のホスファチジルエタノールアミン、10%のホスファチジルイノシトール、19%の他の脂質、5%の炭水化物、38%の大豆油を含むものであった。これらのリン脂質は主としてC
14- C
22の脂肪酸を疎水性成分として、更に主としてステアリン酸、パルミチン酸、更に少量のオレイン酸、パルミトレイン酸、ミリスチン酸を含むものであった。
【0111】
本発明の範囲外のこの非共有結合物質は、以下の実施例の幾つかにおいて比較の目的で用いられ、それにより本発明の組成物の皮膚浸透能力についての共有結合の作用が実証されている。
【0112】
実験を、類似の非共有結合複合体(〜350kDaヒアルロナンを用いて作られた)を用いても行ったが、上述の〜500kDa複合体で作られたものと、結果において差異は認められなかった。
【0113】
実施例2.(結合されたヒアルロナン-ホスファチジルエタノールアミン複合体(HA+PE-1)の製造)
ヒアルロナン水溶液(5mL, 10mg/mL;脱イオン水, 50mg;〜350 kDa (Life Core, MN, USA), 〜1.3 x 10
-4 mol -CO
2H基)とホスファチジルエタノールアミン(PE)(250mg; Sigma-Aldrich(登録商標),cat no.60648; 500mg 〜50%で検定)とをハンドブレンダーを用いて急速攪拌した。このヒアルロナンにホスファチジルエタノールアミンを添加する前に、それをクロロホルム(0.5mL)に最初に溶解させた。ついで、クロロホルムを蒸発させた後、イソプロパノール(0.5mL)で置き換え、手動振動プローブを用いて懸濁させた。ついで、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)(1.2mg, 7.7 x 10
-6mol;脱イオン水(1mL)に溶解させたEDC 120mgを含む新鮮な原液10μL)を添加し、30分間十分に攪拌し、ついで室温で2時間放置した。
【0114】
HA-PE-1は細胞検定(実施例5、6、7、8)で使用した。
【0115】
結合剤として使用したEDCの量並びにEDCの新鮮な溶液(前記のように使用した)がほぼ定量的結合を可能にするとの予想に基づいて、実施例2での結合度は、ヒアルロナンの二糖類単位の〜6%(上限)が共有結合されたホスファチジルエタノールアミン基で変性されていると予想される。結合効率は、EDCが予め水に曝されていた場合には、減少するものと予想される。
【0116】
実施例3.(結合されたヒアルロナン-ホスファチジルエタノールアミン複合体(HA+PE-2)の製造)
実施例2のような純粋なホスファチジルエタノールアミンの使用に加えて、ホスファチジルエタノールアミンを含有する脂質の混合物も使用することができる。例えば、液状大豆レシチン(Soya Lecithin GT Non-GM IP, Imperial-Oel-Import)は約15%のホスファチジルコリン、13%のホスファチジルエタノールアミン、10%のホスファチジルイノシトール、19%の他のリン脂質および脂質、5%の炭水化物、38%の大豆油を含む。これはテーブルスプーン一杯(14.79mL)当り約330mgのホスファチジルエタノールアミン(EDCを結合剤として使用して、脂質のみが大量に反応すると予想される)である。
【0117】
未精製の液状大豆レシチン(78.5mL; Soya Lecithin GT Non-GM IP, Imperial-Oel-Import)を、ハンドブレンダーを用いた急激な攪拌下で、ヒアルロナン(78.5mL, 12mg/mL, 942mg, 〜2.5 x 10
-3mol -CO
2H基;500-2,500 kDa, polydisperse Baxyl HA, Cogent Solutions Group, Lexington, KY)およびイソプロパノール(10mL)と10-15分間室温で混合した。ついで、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)(22mg, 1.4 x 10
-4mol;氷冷脱イオン水(1mL)に溶解させたEDC 220mgを含む新鮮な原液100μL)を添加し、更に10-15分間攪拌し、ついで室温で2時間放置した。その他、反応のスケールがEDCの正確な計量を可能にする場合は、EDCを直接、すなわち原液を作成することなく、添加して組成物を製造してもよい。得られたHA-PE-2を4℃で貯蔵し、更なる精製を行うことなく、化粧用製剤(実施例4参照)の製造のため使用した。これはマウスでの研究(実施例9、10、11、13参照)およびヒトでの研究(実施例14、15、16、17、18、19)に使用された。
【0118】
結合剤として使用したEDCの量並びにEDCの新鮮な溶液(前記のように使用した)がほぼ定量的結合を可能にするとの予想に基づいて、実施例3での結合度は、ヒアルロナンの二糖類単位の〜5.5%(上限)が共有結合されたホスファチジルエタノールアミン基で変性されていると予想される。結合効率は、EDCが予め水に曝されていた場合には、減少するものと予想される。
【0119】
実施例4.(局所用クリームの製造)
実施例2又は実施例3で製造した変性ヒアルロナンの局所用クリームは、局所投与のための化粧用クリームおよび薬用クリームの製造について当業界で一般的に用いられている適当な手法で作ることができる。下記の製造例は非限定的なものと理解されるべきである。
【0120】
実施例3で得られたゲル、HA-PE-2を、市販のベースクリーム(NIVEAクリーム、成分:水、鉱油、微結晶ワックス、グリセリン、ラノリン・アルコール、パラフィン、パンテノール、デシルオレート、オクチルドデカノール、アルミニウムステアレート、クエン酸、硫酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、メチルクロロイソチアゾリノン、香料)と1:1(v/v)の割合でブレンダー内で混合し、使用するまで4℃で貯蔵した。この貯蔵温度は、ヒアルロナンの潜在的劣化を防止する抗菌剤などクリームに追加される添加剤が欠けているため、予防的手段として採用されたものであり、従って、この製剤自体を制限するものと解釈されるべきではない。
【0121】
以下の実施例中の、その他のベースクリーム、例えばOIL OF OLAY(登録商標)(OLAY (登録商標)Classic Moisturing Creme; 成分:水、グリセリン、セチルアルコール(cetyl alcohol)、ワセリン、シクロペナシロキサン、ステアリルアルコール、イソプロピルパルミテート、ジメチコーン、カルボマー、PEG-100 ステアレート(stearate)、ステアリン酸(stearic acid)、水酸化ナトリウム、DMDMヒダントイン、ヨードプロピニルブチルカルバメート、EDTA、香料、二酸化チタン、Red 4)又はL’OREAL(登録商標)(皮膚用しわ防止抗老化クリーム;成分:水、シクロペンタシロキサン(cyclopentasiloxane)、水素化ポリイソブテン、セチルアルコール、グリセリン、グリセリルステアレート、PEG-40 ステアレート、ミリスチルミリステート、エチルヘキシルパルミテート、ブチロ-スペルマンパルキバター(butyro-spermum parkii butter)、ソルビタントリステアレート、グリシン大豆たんぱく質、メチルパラベン、ジゾリヂニル尿素、トコフェリルアセテート、アクリレートコポリマー、プロピルパラベン、リモネン、ナトリウムEDTA、ヒドロキシシトロネラル、リナロール、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、ブチルフェニルメチルプロピオナル、グアノシン、アルファ-イソメチルイオノン、シトラール、ユーゲノール、クロルフェネシン、デヒドロ酢酸ナトリウム、香料、FIL K29371/2)の使用は、変性ヒアルロナンの生物活性又は作用において差異を生じさせるものではなかった。
【0122】
上述又は他の市販のクリームの使用に加えて、局所的使用のための適当な製剤も一般に公知の方法を用いて製造することができる。変性グリコサミノグリカンに加えて、他の成分(芳香のため又は他の美容的特性、皮膚科的又は医薬的特性の為の如何を問わず)も上記製剤に添加することができる。
【0123】
実施例5.(変性ヒアルロナン(HA-PE-1)製剤がヒトの真皮線維芽細胞上の細胞皮膜を増加させる)
本発明の組成物の適性を、ヒトの皮膚のパンチ生検から成長させた培養真皮線維芽細胞を閉じ込み/囲む能力を判定することにより評価した。パンチ生検を滅菌組織培養皿(35 x 10mm, 組織培養皿)中に置き、小さな(例えば、19G)滅菌針を用いて小片に切断した。これらの小片を簡単に(例えば、10分未満)組織培養皿の底まで乾燥させ、組織片の付着を促進させた。ついで、Dulbecco's変性Eagles Medium (DMEM)(10%ウシ胎児血清で補足した)を静かに添加し、その培養物を加湿37℃培養器(5%CO
2で補足)内に約1週間置いた。外植片(explants)から成長した線維芽細胞をついで組織培養皿から滅菌0.025%トリプシン/EDTA混合物に取り出し、ついで3分間、1.1 x gで紡いだ。その後、トリプシンを除去し、細胞を、新鮮な滅菌組織培養皿中、1:5の希釈、〜50,000/穴(ウエル)(24穴プレート)の密度で、加湿した5%CO
2雰囲気内、1mLのDMEM(10%ウシ胎児血清で補足した)中の滅菌ガラスカバースリップ上で培養した。18時間後、細胞をヒアルロナン溶液(500μg/mL,350kDa)又は変性ヒアルロナン(HA-PE-1)(25μg/mL)に1時間、曝した。30-40nmの蛍光黄色ポリスチレンナノ球体(Corpuscular Inc., Cold Spring, NY)を上記ウエルに添加し、37℃で30分間に亘って付着細胞上に沈積させた。ついで、培養物を新しく準備したパラホルムアルデヒド中に定着させ、中空ウエルを有するガラススライド上に乗せた。これらの細胞の写真を、Hoffman Opticsおよび落射蛍光(epifluorescence)エピフルオレスンスを備えたNikon Eclipse TE300 倒立顕微鏡に撮った(
図1参照)。下記実施例7で使用したヒアルロナン皮膜を検出するための他の方法においては、パラホルムアルデヒド-固定羊成熟赤血球を上記ウエルに添加し上述のように沈積させた。この方法により現れた細胞皮膜をHoffman opticsを使用した上記のニコン倒立顕微鏡で写真を撮った(
図5参照)。
【0124】
図1に示す画像において、ヒアルロナン細胞皮膜は暗い空間として観察される。なぜならば、小さな蛍光ビーズは画像内の矢線で示すように皮膜で除外されるからである。皮膜のない細胞はこの分析では検出することができない。なぜならば、それらは蛍光ビーズで完全に覆われてしまうからである。
図1に見られるように、培養基に対するヒアルロナン単独(画像12)の添加は、PBS対照(画像11)と比較してヒアルロナン皮膜のサイズに対する付加的作用は殆んどない。蛍光ビーズが細胞の周りから除外され後光効果を生じさせたことが検知され、それにより培養基に対する(HA-PE-1)の添加(画像13)はヒアルロナン皮膜の増加を明らかに示していた。
【0125】
実施例6.(変性ヒアルロナン(HA-PE-1)の、ヒアルロナン皮膜を有する細胞の率およびヒアルロナン皮膜サイズに対する効果)
実施例2で作られた変性ヒアルロナン(HA-PE-1)又はヒアルロナン単独(350 kDa; 10mg/mL原液(生理食塩水))を老化ヒト線維芽細胞に濃度を増加させながら(0-100μg/mL)添加した。ヒアルロナン皮膜を示した細胞の率はHA-PE-1の濃度と共に増大し、これはヒアルロナン単独の添加のものとは対照的であった。非変性ヒアルロナン単独の使用はヒアルロナン皮膜を有する細胞の率が小さく、その細胞の率も10μg/mLの濃度で平坦化した。対照的に、変性ヒアルロナン(HA-PE-1)の添加は投与量に比例してヒアルロナン皮膜を有する細胞の率が増大し、HA-PE-1を100μg/mL存在させたときは、50μg/mLのHA-PE-1の場合よりもヒアルロナン皮膜を有する細胞の率が可なり大きかった(Student’s“t”テスト、p<0.01)。全ての濃度において、HA-PE-1の添加は、非変性ヒアルロナン単独の添加よりもヒアルロナン皮膜を有する細胞の率が可なり大きかった(Student’s“t”テスト、p<0.0001)。
【0126】
細胞の細胞膜領域に対する、変性ヒアルロナン(HA-PE-1;50μg/mL)添加対ヒアルロナン単独(50μg/mL)添加の効果は、画像分析(Elements 3.1, ニコン)を用いて定量化した。これらの濃度において、変性ヒアルロナン(HA-PE-1)の適用は、HA単独のものと比較したとき、平均ヒアルロナン皮膜サイズ/細胞が可なり増大した(Student’s“t”テスト、p<0.05)(
図3参照)。これらの値は、10のサンプルについての平均およびS.E.M.である。
【0127】
実施例7.(ヒアルロナンレセプターを有しないマウスの胚線維芽細胞を被覆する変性ヒアルロナン(HA-PE-1)の能力)
ヒアルロナンは通常、CD44, RHAMM, LYVE-1およびToll様レセプター2,4のようなヒアルロナンレセプターとの相互反応を介して細胞に結合している。マウスの胚線維芽細胞は選択的にCD44およびRHAMMを発現する。この2つのレセプターは、ヒアルロナンに対するこれら細胞の結合能力並びにヒアルロナン皮膜を生じさせる能力にとって重要なものである。
【0128】
マウスの胚線維芽細胞をCD44-/-, RHAMM-/-およびCD44-/-:RHAMM-/-胚子から分離した(14日目)。すなわち、それぞれCD44、RHAMM、およびCD44およびRHAMMヒアルロナンレセプターのない胚子である。不死クローンは限界希釈法により得た。実施例2で作られた変性ヒアルロナン(HA-PE-1)又はヒアルロナン単独を実施例5に記載した培養基に添加した。実施例5の場合(蛍光ナノ球体を用いて細胞皮膜を可視化した)とは異なり、ヒアルロナン細胞皮膜は固定羊赤血球(粒子として作用する)を用いて可視化した。ヒアルロナン皮膜を形成した細胞は培養皿の底から排除した。これはエピ蛍光ではなく、ホフマン光学器を使用して観察した。皮膜を形成しない細胞は上記赤血球の下に埋め込まれ、検出条件では可視できない。赤血球が欠乏した領域は、ヒアルロナン皮膜を有するマウスの胚線維芽細胞を有する細胞を表している。
図4のグラフで得られた値は、各処置および遺伝子型の10のサンプルについての平均およびS.E.M.である。
【0129】
図5に見られるように、変性ヒアルロナン(HA-PE-1)(画像51(RHAMM-/-細胞), 画像52(CD44-/-細胞), 画像53(RHAMM-/-:CD44-/-細胞))の添加は、ヒアルロナン単独(画像54(RHAMM-/-細胞), 画像55(CD44-/-細胞), 画像56(RHAMM-/-:CD44-/-細胞))で処置した細胞と比較して、ヒアルロナン皮膜のサイズ並びにヒアルロナン皮膜を有する細胞の数の双方において増大した。本発明の変性ヒアルロナン(HA-PE-1)の能力は、線維芽細胞に共通するヒアルロナンレセプターの発現に依存しないと思われる。なぜならば、CD44又はRHAMMレセプター(最も関係するヒアルロナンレセプターの2つ)のいずれか一方又は双方の損失が、ヒアルロナン皮膜を有する細胞の数を有意に影響しないからである(画像51(RHAMM-/-細胞), 画像52(CD44-/-細胞), 画像53(RHAMM-/-:CD44-/-細胞)および
図4参照)。更に、変性ヒアルロナン(HA-PE-1)の適用は、全ての遺伝子型においてヒアルロナン皮膜を有する細胞の率を、生理食塩水の添加(画像は示されていない。結果は
図4に含まれている)又はヒアルロナンの添加(500μg/mL; 350 kDa)との対比において有意に増大させた(Student’s“t”テスト、p<0.001)。
【0130】
上記のin vitroテスト(実施例5,6、7)は、共有結合したヒアルロナン・リン脂質誘導体(例えば、HA-PE-1)が非変性ヒアルロナンよりも、より良く細胞皮膜を提供し得ることを示している。ヒアルロナンレセプターを発現しないマウス胚線維芽細胞へのHA-PE-1の結合能力は、本発明の変性ヒアルロナンが細胞膜と会合するのにヒアルロナンレセプターとの相互作用を必要とせず、その脂質尾部(tail)を細胞膜のリン脂質層に直接挿入するらしいことを示唆するものである。これは変性ヒアルロナンのヒアルロナンレセプター(これらが細胞により発現される場合は)との会合を排除するものではない。更に、CD44およびRHAMM発現が欠ける細胞中に見られる大きな細胞皮膜からして、変性ヒアルロナン-細胞相互作用が安定であることが示唆される。
【0131】
実施例8.(変性ヒアルロナン組成物によるSKL-カタラーゼの機能の向上)
SKL-カタラーゼは遺伝子的に変性した酵素であり、これは非変性の内生性カタラーゼよりも細胞内の反応性酸素種(ROS)を減少させるのにより効果的である。カタラーゼは、老化に寄与するROSからその毒性を減少させるのに必要である。SKL-カタラーゼの一つの機能は、ROSからもたらされるヒアルロナンの断片化を減少させることである。本発明の組成物の使用を介して、ここに記載したホスファチジルエタノールアミン-ヒアルロナン複合体がSKL-カタラーゼの機能を向上させ得ることが見出された。
【0132】
カタラーゼ組換えたんぱく質(ヒト赤血球、10μg/mL, Sigma)を、SKLを用いて誘導体化し細胞内への導入を可能にした
21。その結果得られたSKL-カタラーゼをHA-PE-1と混合し、老化ヒト線維芽細胞の培養物に添加した。その結果得られた画像(
図6参照)は、実施例2のヒアルロナン-ホスファチジルエタノールアミン複合体(HA-PE-1)およびSKL-カタラーゼ(画像63)で処理した細胞については、SKL-カタラーゼ(画像61)又はHA-PE-1(画像62)を単独で添加した際に形成されたものより細胞皮膜が大きいことを示した。これらの結果は、細胞皮膜サイズの増大が観察されたことから、本発明のヒアルロナン組成物がROS生産に対するSKL-カタラーゼの作用を向上させることを示している。これらの結果は、本発明のヒアルロナン誘導体が種々のたんぱく質を捕捉し、それらを細胞表面に保持させことができることを示唆しており、これは本発明の組成物が分子ネット型機構を介して作用することと一致するものである。
【0133】
以下の実施例(実施例9、10、11、12)は、本発明の組成物が局所投与によりマウスの皮膚バリアを透過し得ることを実証するものである。このモデルは本発明の組成物がヒトの皮膚バリアを同様に透過し得ることを合理的に予測させるのに十分なものであると確信する。
【0134】
実施例9.(HA-PE-2のマウスへの局所投与)
HA-PE-2(実施例3で製造されたもの)を、実施例4に記載したNIVEA Cremeベースクリームと共に処方した(1:1 v/v)。ついで、このクリームを9月齢の雌マウスの剃った背中(BL6 種、剃った皮膚の領域40x30mm)に毎日一回4日間適用した(0.18g HA-PE-2/投与)。ベースクリームを大豆レシチンと混合したもの(1:1)を投与したものを対照として用いた。5日目にマウスを安楽死させ、処置した皮膚を8mm生検パンチで採取し、新たに作られた4%パラホルムアルデヒド/ホスフェート緩衝食塩水中に固定させた。固定した組織をパラフィン内で処理し、切断し、Echelon(登録商標)キット(Hyaluronan ELISA テストキット、Echelon)を用いてヒアルロナンについて染色した。HA-PE-2を適用した皮膚内のケラチン生成細胞は、クリームのみを適用した皮膚内のもの(p<0.00001、Student’s“t”テスト)よりもより暗く染色され、対照マウスよりもより厚い表皮層を示した。ヒアルロナン染色の濃度を、画像分析(Elements 3.1, ニコン)を用いて定量化した。
図7は処理したもの(画像71、72)および対照(画像73、74)の皮膚片の画像を示している。ケラチン生成細胞内のヒアルロナンの存在の増加は、
図8に付したグラフに示すように画像の画素密度を計算することにより実証された。マウスの下方の真皮層はHA-PE処理動物および対照動物の双方において高いレベルのヒアルロナンを有するものであった(
図8参照)。これらの結果は本発明の変性ヒアルロナンが皮膚バリアを浸透し、少なくとも真皮ケラチン生成細胞層内で結合することを示している。これらの値は、各処理における4匹のマウスについての平均およびS.E.M.である。
【0135】
実施例10.(マウスの皮膚バリアを浸透するときのHA-PE-2およびヒアルロナンの能力の比較)
実施例3で記載したようにして作られたHA-PE-2、実施例3に示したレシチン中の脂質と混合した(但し、共有結合されていない)ヒアルロナン(実施例1参照)およびヒアルロナン単独(リン脂質の追加のない)をそれぞれ実施例4に記載したNIVEA Creme化粧用ベースクリームと共に処方した(1:1 v/v)。ついで、このクリームを9月齢のBL6 野生型雌マウスの剃った背中(0.18g HA-PE-2/投与、剃った皮膚の領域40x30mm)に毎日一回4日間適用した。この後、マウスの第1グループを安楽死させ、実施例9に記載の手法に従って処理した。マウスの第2グループは更に2日間更なる処置を施すことなく放置し、7日目に安楽死させ、実施例9に記載の手法に従って処理した。
図9の画像および付随するグラフ(
図10)(皮膚バリアを浸透することができたヒアルロナンの量を定量化したもの)は、ヒアルロナンとホスファチジルエタノールアミンとの混合物(画像92)又はヒアルロナン単独(画像93)と比較して、HA-PE-2で処理したマウスの場合(画像91)はヒアルロナンについての染色が有意に強いことを示している。ヒアルロナンとホスファチジルエタノールアミンとの混合物およびヒアルロナン単独の双方ともHA-PE-2と比較して皮膚バリアを浸透するヒアルロナンの量は極めて少なかった(Student’s “t” テスト,p<0.000001)。この処置を停止したとき、ケラチン生成細胞に存在するヒアルロナンの量は徐々に減少した。これはHA-PE-2で処理したマウスにおけるヒアルロナン染色の減少により説明できる(画像94および
図10参照)。予想したように、他のマウスにおけるヒアルロナン染色の量は極めて少ないままであった(画像95、96および
図10参照)。
【0136】
これらの結果は、化粧用ベースクリーム中でのヒアルロナンと、大豆レシチンに存在する脂質(ホスファチジルエタノールアミンを含めて)との混合物の使用と比較して、あるいはヒアルロナン単独での使用と比較して、本発明の変性ヒアルロナン組成物の向上した皮膚バリア浸透能力を実証するものである。更に重要なことは、実施例5で実証されているように、本発明の変性ヒアルロナン組成物の細胞との会合する能力の向上に応じて、皮膚バリアを浸透することができる変性ヒアルロナンがケラチン生成細胞層内に保持されることである。上述のように、Brownら
14は同じようなサイズのヒアルロナンフラグメントの皮膚バリア透過を先に報告している。しかし、このヒアルロナンは直ちに全身循環系に入り、体内から除去される。同じような知見がKayaら
5により報告されている。これには50-400 kDaヒアルロナンが表皮を透過しケラチン生成細胞層の厚みを増大させたことが同様に示されている。しかし、適用されたヒアルロナン(タグ付きヒアルロナンを使用して)は表皮内には保持されず、真皮から急速に失われ、機能的効果のためには細胞内のCD44発現を必要とする。これらの結果は、仮に非変性ヒアルロナンによる皮膚浸透がなされたとしても、有意な程度には皮膚内に留まることはなく、従って皮膚内のヒアルロナンレベルを補充するようには作用しないことを更に確認させるものである。
【0137】
皮膚内の内生性ヒアルロナンの量は場所により変わるから、内部対照は処理部のヒアルロナン染色を評価するよう設計され、対照皮膚は、処理済み皮膚領域対未処理皮膚領域間の差異を確認するよう開発された。HA-PE-2クリームおよび対照クリーム(control creams)(ヒアルロナンのみ)を上述のようにマウスの剃った背中に適用した。処理領域にマークを付した(近傍の未処理余白部の毛はNair(登録商標)を用いて除去した。パンチは処理および未処理領域を含むように整合させた;組織パンチ(tissue punches)は小さな組織バスケット(tissue baskets)内で配向させ、処理の間を通して組織が正しい配向に保たれるようにし、組織学的マーカーペンでマークした。組織は前述のようにして採取し処理した(実施例9)。その結果得られたサンプルは以下のことを示している(
図11参照:適用エッジ部は矢印で示され、適用領域は破線で示されている)。すなわち、ヒアルロナン単独で適用したときに、染色の明確な縁を認めることができない(画像111)。これは適用されたヒアルロナンの非常に小さい(もし、あるとすると)浸透/保持が適用領域に発生したことを確認させるものである。対照的に、染色の明確な境界(皮膚の未処置領域に対し処置領域では可なり高い染色(Student’s“t”テスト、p<0.000001))がHA-PE-2の適用部のエッジで認められた(画像112)。付随する
図12のグラフにより定量化されているように、これらの結果は、本発明の変性ヒアルロナン組成物が浸透し表皮内にて適用箇所に蓄積することを確認させるものであり、適用された当初の領域に局在化されたままに留まることを示唆するものである。
【0138】
実施例11.(ヒアルロナンレセプターのないマウスにおけるHA-PE-2の使用によるヒアルロナン細胞皮膜の置換)
HA-PE-2を含むクリーム(0.18g HA-PE-2 前記のようにして作られてもの)を9月齢のメスRHAMM-/-マウス(CD44ヒアルロナンレセプターを発現するがRHAMMヒアルロナンレセプターを発現しないマウス)の剃った背中に毎日一回(40 x 30mm 剃りパッチ)4日間適用した。マウスを処置5日目に安楽死させ、処置した皮膚を実施例9に記載したようにして採取した。ベースクリームのみを適用したマウスの皮膚を対照として用いた。
図13に示すように、画像131および132および付随するグラフに示すように、HA-PE-2で処置した表皮(画像131)は、ヒアルロナンレベルが極めて低い対照皮膚(画像132)と比較して、ヒアルロナンを有意に大きい程度まで保持させた(Student’s “t”テスト,p<0.000001)。これらの値は、4匹のマウスについての平均およびSEMである。
【0139】
更に、HA-PE-2を9月齢のメスCD44-/-:RHAMM-/-マウス(CD44のみならずRHAMMヒアルロナンレセプターも発現しないマウス;Tolgら
22により記載されているようにして開発された)の剃った背中に上述のように適用し、同様の対照を使用した。
図14、画像141、142および付随するグラフに示すように、処理された皮膚(画像141)は、対照皮膚(画像142)との比較において、有意に多くのヒアルロナンを表皮層に蓄積した。これらの値は、4匹のマウスについての平均およびS.E.M.である。これは本発明の変性ヒアルロナン組成物がケラチン生成細胞との会合のためにヒアルロナンレセプター(皮膚内の主たるレセプターであるCD44およびRHAMM)を必要としないことを示すものである。細胞膜内に入り込むホスファチジルエタノールアミンの公知の能力と共に、これらの結果は、変性ヒアルロナンがヒアルロナンレセプターの助けを要せずに細胞膜内に直接挿入され得ることを示している。RHAMM-/-(CD44+)マウスの表皮層における内在性ヒアルロナンおよびHA-PE-2についての染色(
図13)を、ヒアルロナンレセプター・ネガティブ(CD44-/-: RHAMM-/-)マウスのもの(
図14)との比較により、内在性ヒアルロナン(画像132および142)およびHA-PE-2(画像131および141)処理表皮についての染色は、双方のヒアルロナンレセプターが欠けている場合と比較してCD44が発現されている場合の方がより大きかった。これらの結果は、内在性ヒアルロナンおよびヒアルロナン-ホスファチジルエタノールアミン複合体(HA-PE-2)皮膜の双方ともCD44レセプターの存在により安定化されることを示唆するものであり、これは培養細胞において公知のCD44レセプターの関与が内在性ヒアルロナン皮膜を促進すると言うことと一致するものである。
【0140】
実施例12.(本発明の組成物と、WO 2003/015755に記載の粒状ホスファチジルエタノールアミン-ヒアルロナン物質との比較)
粒状(ナノ球体およびミクロ球体)ホスファチジルエタノールアミン-ヒアルロナン複合体を、Margalit(WO 2003/015755)により記載されている方法論を用いて製造した。ビーカーを2mL大豆レシチンを用いてコーティングした。ヒアルロナン(2mL, 12mg/mL, 6.3 x 10
-5mol -CO
2H基;500-2,500 kDa polydisperse, Baxyl(登録商標), Cogent Solutions Group)を、pHを4.5に下げ、ついで、EDC(2.5mg, 1.6 x 10
-5mol; 新たに作られた原液)を添加することにより活性化させた。次に、この活性化されたヒアルロナンをレシチン被覆ビーカーに添加し、更に、脱イオン水(1mL)を添加し、NaOHを用いてpHを8.6に調整した。得られた混合物を37℃で培養し、一晩反転させながら攪拌し、その後、pHを7.2に調整した。ついで、混合物を10分間、超音波処理し、40℃で1.2 x 10
5Gで40分間、2度遠心分離し、粒状物質を分離した。新たに作られたEDC原液の使用量に基づいて、ホスファチジルエタノールアミンと、ヒアルロナンとの間の結合の予想される最大理論量を〜25%と見積もった。この得られた物質をガラススライドに直接添加し、本発明について記載した同様の様式でクリームベースと混合し、その後、それをガラススライドに適用した。
【0141】
Margalitによる特許文献に先に記載された方法論を用いて作られた粒状サンプルを、本発明の組成物と比較した。実施例3に記載したヒアルロナン-ホスファチジルエタノールアミン複合体(HA-PE-2)をそのまま直接、ガラススライドに適用し、実施例4(NIVEA Creme ベース クリーム)に記載したようにベースクリームとの1:1混合物として、これもガラススライドに適用した。
【0142】
全てのサンプルをカバースリップで覆い、Hoffman光学器を備えたNikon TE300反転顕微鏡(40X)で検査した。得られた画像は
図15に再生されている。Margalit(WO 2003/015755)により記載されている方法論を用いて製造された粒状組成物の小胞又は粒状性が画像153(直接投与)および154(クリーム調剤)に明確に見られる。しかし、本発明の組成物は、画像151および152に見られるように、同じように自己集合した物質の存在を示唆するものはなかった。
【0143】
本発明の主たる用途は、皮膚の表皮層および真皮層へのヒアルロナンの送出のためのビヒクルとしてであり、ヒアルロナンの存在量が欠乏する皮膚の領域を補充するのに役立つものである。
【0144】
例えば、実施例2又は実施例3に記載したように、本発明の変性ヒアルロナンの製造に続いて、製剤を当業界に公知の以下のような方法および手法を用いて、あるいは実施例4に記載したように市販又は他の化粧用原料クリームの使用を介して製造することができる。本発明の変性ヒアルロナン組成物を含めることに加えて、製剤は他の美容的活性成分を含めることができる。例えば、市販のスキンクリーム内に一般的に見られるもの、例えば、皮膚の外観を若返らせるのに役立つ公知のもの、例えば、ビタミン、アミノ酸、補酵素、β-グルカン、ポリヌクレオチド、ラジカル捕捉剤、成長因子、エストロゲン、脂肪形成因子などが挙げられる。製剤は更に、皮膚内でのヒアルロナン分解の速度を減少させるためのヒアルロニダーゼ阻害剤
23の添加、老化プロセスを介して失われる皮下脂肪細胞の生成を誘起することが実証されているRHAMM阻害剤の添加
22を含むものであってもよい。製剤は更に、薬学的活性成分、特に皮膚の症状(皮膚ガン、接触皮膚炎、乾癬、湿疹など)を処置するのに使用される活性成分を含むものであってもよい。その結果、本発明は、口腔又は静脈投与形態を介しての全身投与、もしくは皮下又は経皮投与を行うため必要な注射などではなく、薬剤送出のための局在化した局所的治療を可能にする方法を提供するものとなる。
【0145】
本発明の更なる形態において、誘導体化グリコサミノグリカンは皮膚バリアを通ってたんぱく質を移送するのにも使用することができる。この移送能力は予想外のものであり、少なくとも皮膚の真皮および表皮層ならびに下方の筋肉への小(700 Da)から大(400-500 kDa)のたんぱく質の標的移送を可能にするのに十分であると信じられる。このように、本発明の組成物は局所投与を介してBotox(登録商標)のような美容的に重要な大きいたんぱく質を追加的に提供するのに有用であり、それにより一連の注射の必要性をなくすことができる。たんぱく質を経皮的に送出することができる本発明の能力は、治療用たんぱく質、例えばヒアルロニダーゼおよびRHAMM阻害剤;インターフェロン、抗炎症性たんぱく質/サイトカイン;抗皮膚ガン治療薬、例えば抗体、組換えたんぱく質、たんぱく質フラグメントおよびペプチド;およびペプチド/たんぱく質を使用する予防接種などの局所投与を可能にするものである。それにより、全身的又は注射経路を介しての投与ではなく、局所的領域への治療を提供するものとなり、これは全身的治療で一般的に伴う副作用の発生を減少ないし排除するものとなることが予想される。同じく、本発明の組成物はヒアルロナン合成酵素などの酵素を送出するのにも使用することができ、皮膚内のヒアルロナン生産を助けることができる。更に、他の大きい分子、例えばDNA、RNA又はcDNAなどもこの方法で局所的に投与することができる。
【0146】
脂質化グリコサミノグリカンの使用を、たんぱく質のための送出用ビヒクルとしての使用として先に記載したが(例えば、Margarlit and Peer WO 03/015755)、これらの例は自己集合粒子構造内へのたんぱく質の捕捉を伴うものである。先の実施例に記載したような、本発明の組成物の作用並びに今日まで行われた実験の結果に基づいて、当業界で公知のたんぱく質送出について従来記載されているものとは異なり、此処に記載されている組成物はカプセル封止機構(encapsulation mechanism)に依存するものではない。なぜならば、本発明の組成物は組織化された形で自己集合するものではないと思われるからである。むしろ、本発明の組成物は、たんぱく質の周りおよびたんぱく質内での脂質化グリコサミノグリカンの非組織的絡み機構を介してたんぱく質が皮膚バリアを透過するのを容易にさせるものと信じられる。以下の実施例は、たんぱく質の経皮送出を提供する本発明の能力について記載するものである。
【0147】
実施例13.(変性グリコサミノグリカン(HA-PE-2)を使用しての皮膚バリア透過によるRHAMMたんぱく質の移送)
ハツカネズミGST-RHAMM(35μg 1mg/mL原液から)、84 kDaタグ付きたんぱく質、又はハツカネズミGST(26 kDa)単独(35μg 3mg/mL原液から)を、HA-PE-2(0.18g)と、実施例4に記載したのと同様の方法でNIVEA Cremeベースクリーム中にて混合した。たんぱく質を用いてのNIVEA Cremeベースクリーム中のヒアルロナン製剤を対照として使用した。35μgのたんぱく質を含む治療薬0.18gおよび対照クリームを9月齢のBL6 野生型雌マウスの剃った背中の40 x 30mm領域に毎日一回5日間適用し、処置6日目に安楽死させた。皮膚パッチを8mm生検パンチで採取し、その組織を新たに作られた4%パラホルムアルデヒド中に固定させ、ついでパラフィンで処理した。8μmの断片を生検組織に対し垂直に裁断し、断片を、ヤギで作られた抗GST抗体を用いてGSTについて染色した。結合した抗体は、ビオチン化ヤギ抗ラビット抗体、ストレプトアビジン西洋ワサビ・ペルオキシダーゼおよびDab(これは抗GST抗体が上記スライドに結合したとき褐色染色を生じさせる)を用いて可視化させた。むしろRHAMM抗体ではなく、GST抗体も使用し、GST-RHAMMを検出させた。なぜならば、皮膚は通常、GSTを発現しないからである。これらサンプルの可視化(
図16参照)は、本発明の組成物を投与したとき、GST-RHAMMがマウスの皮膚バリアを通って下方の筋肉層へと運ばれたことを示している(画像161)。これに対し、非変性ヒアルロナンを含有する対照サンプルにおいては、GST-RHAMMはケラチン生成細胞層に殆んど検出されなかった(画像163)。ケラチン生成細胞層および下方の筋肉層の双方に到達したGST-RHAMMの相対量は付随の
図17のグラフに定量化されている。このグラフは5匹のマウスについての平均値を表している。同様の結果がより小さいGSTたんぱく質(26 kDa)についても観察された(
図16参照、画像162(HA-PE-2を用いて送出された)、画像164(非変性ヒアルロナンを用いて送出された))。
【0148】
従前は、たんぱく質の経皮送出は、浸透向上剤を用いても、10,000 Daに限定されると考えられていた。たんぱく質およびペプチド(リポソームなど)、向上剤(アルコールなど)、DMSO、モノテルペンおよび脂肪酸エステルの局所投与および経皮投与を促進させることを意図して考案された多数の方法、プロドラッグ(pro-drugs)の物理的改良、皮膚の浸透を増大させるための物理的方法の使用(例えば、エタノール-水での水和作用、外側ケラチン生成細胞層の剥離)、および化学的送出手段(例えば、皮膚の電気的および熱的処置)はいずれも、経皮送出の困難性並びに効率的および効果的送出方法についての必要性を証明するものである。このような方法は例えば、Suginoら
24、Skountzou and Kang
25、Antosovaら
17などに記載されている。従って、本発明の組成物を使用するたんぱく質送出方法は、皮膚バリアを介してのたんぱく質送出能力についての有意な改善を表すものである。たんぱく質及び/又は他の薬剤的又は化粧的に好ましい物質を皮膚バリア透過用のキャリアとして作用させる為、如何なるグリコサミノグリカンも本発明に従って変性させることができるが、グリコサミノグリカンとしてのヒアルロナンの使用は一般的に好ましい。その理由は、それが皮膚中に生来存在するものであり、高分子量のものを容易に入手できるからである。
【0149】
皮膚バリアを通ってのたんぱく質の送出(delivery)における使用に加えて、本発明のグリコサミノグリカン組成物は更に他の生体高分子を皮膚バリアを通して送出させるのにも使用することができる。他の生体高分子としては、例えば、ポリペプチド(酵素を含む)、プロテオグリカン、炭水化物/多糖類、核酸鎖、たんぱく質/ペプチド治療薬、アンチセンス治療薬(antisense therapeutics)、対生物活性人工ポリマーおよび対生物活性脂質ポリマーなどを挙げることができる。
【0150】
実施例13で皮膚バリアを通って移送されたたんぱく質は84 kDaであったが、これは制限的サイズであると信ずるべきではない(RHAMMは二量体化又は三量体化することが知られており、自己会合するGSTはそれとRHAMMとの凝集を促進し、従って移送されるたんぱく質の実際のサイズは225 kDa(GST- RHAMMトリマー)に達することがある)。従って、たんぱく質はその入手可能性およびBotox(登録商標)(150 kDa)(本発明の化粧用用途において興味あるたんぱく質)とのサイズ類似性に従って選択された。適当な生体高分子の選択において主たる制限因子は、サイズよりも、分子ネット内に絡み得る能力であると予想される。この分子ネット内の絡みは本発明のグリコサミノグリカン組成物により形成されると思われる。従って、サイズ増大と共に、実質的に線状の生体高分子(例えば、コラーゲンフラグメント)は、同じようなサイズの非線状生体高分子(例えば、たんぱく質)のように大きく移送されにくいことが予想される。
【0151】
以下の実施例(本発明の範囲を制限することを意図していない)は、種々の皮膚関連疾患を有するヒトの局所的処置に使用したときに、上述の変性ヒアルロナン(HA-PE-2)の効果を実証するものである。
【0152】
実施例14(しわの治療)
手の皮膚は一般に他の皮膚の箇所よりもより急速に老化する。これは一部、皮膚線維芽細胞にサイトカイン(cytokines)並びに成長因子を提供するのに重要である皮下脂肪層の不足に起因する。更に、手の皮膚は例えば顔の皮膚よりも薄い。
【0153】
59歳の女性の手を、実施例4で作られたHA-PE-2/NIVEA Cremeベースクリーム混合物2.5mLを用いて10日間毎日2−3回処置した。この治療期間が始まる前では、手の皮膚には小さな線維性傷痕又はしわがあり、乾燥/鱗状様相を示していた。治療後、手の皮膚はより光沢となり、乾燥/鱗状外観は消え、線維性傷痕が劇的に減少した。治療停止の2週間以内に、この治療領域は、より乾燥した様相に反転したが小さな傷痕は再び現れることはなかった。
【0154】
実施例15(光線性角化症に関連する炎症の治療)
以前、光線性角化病変を液体窒素で治療した患者を、実施例4で作られたHA-PE-2/NIVEA Cremeベースクリーム混合物で治療した。この治療は、この病変部を取除くため窒素での治療に続くものであって、患者の頭皮の1側に上記クリームを〜2.5mL適用し、これを毎日一回、7−10日間継続した。この治療の間において、炎症部は著しく減少し、この病変部の治癒速度は、病変部を除去した皮膚科医により提供されたスキンクリームと比較して増加した。この知見は、生来の、又は高分子量のヒアルロナンが抗炎症特性(皮膚内に生来発生するヒアルロナンの機能の1つである
6)を有する証拠と合致するものである。
【0155】
実施例16(乾燥した顔の肌の治療)
にきびを患い易い25歳の女性を、全身トレチノイン(systemic tretinoin)A養生法(regimen)に置いた。この治療は、塩素化プールでの毎日の水泳と一緒のこの治療は、可なり乾燥し、痛々しい顔肌を生じさせた。特に割れたフレーク状皮膚が口の周りに見られた。この患者を実施例4で作られたHA-PE-2/Oil of Olay(登録商標)ベースクリーム混合物で1週間、治療した。この治療期間の終わりにおいて、乾燥し、痛々しい顔肌は消失した。この治療は下層のにきびに対しプラスにもマイナスにも悪影響を及ぼさなかった。
【0156】
実施例17(傷痕を有する皮膚の治療)
ビオラを長年演奏したために肩に線維状傷痕を有するプロの演奏家に対し、実施例4で作られたHA-PE-2を含有するクリームを適用した。すなわち、このクリーム〜2.5mLを傷痕皮膚に毎日一回、30日間すり込んだ。この治療期間の終わりにおいて、長年存在していた傷痕は消失した。
【0157】
実施例18(指の上の割れた皮膚の治療)
多数の演奏家(チェロ、バイオリン、ビオラ、ピアノの演奏)の指の上の割れた皮膚を実施例4で作られたHA-PE-2を含有する組成物で治療した。弦楽器の演奏家においては、冬の期間において、乾燥し寒い天候において楽器を演奏する間において弓のフロッグに対し押圧するため、特に親指がひび割れする。ピアニストの場合、特に年配の演奏家においては、ひび割れがしばしば指の皮膚に現れる。これは演奏の間において指先に圧力が加わることが原因の一つになっている。
【0158】
3人の弦楽器演奏家および2人のピアニストに対し、実施例4で作られたHA-PE-2/NIVEA Cremeベースクリーム混合物からなるクリーム(〜1mL)をひび割れした指先に適用した。その結果、ひび割れ皮膚は3-4日以内に消失した。
実施例4で使用されたNIVEA Cremeベースクリームを含有するペースト状の他のクリームの使用は、このひび割れ皮膚の治癒に効果を示さなかった。
【0159】
実施例19(かかとの上の割れた皮膚の治療)
年と共に、かかとの皮膚が厚くなり、ひび割れし易くなることは一般的なものであり、特に寒い乾燥した冬の月の間にはそうなる。3人の個人(年齢55-65)で、かかとのひび割れが著しく歩行時に痛みを生じさせる人たちに対し、実施例4で作られたHA-PE-2をNIVEA Cremeベースクリームと共に含有するクリーム(〜2.5mL)を毎晩一回、5-7日間、彼らのかかとに適用した。各個人は、歩行時に痛みを感じなくなった者を含め症状の改善を2-3日以内に示した。治療停止後において、この治療の利益は5-7日以内に消失した。このクリームを再度、2-3日間適用したところ、各個人において、ひび割れおよび痛みの度合いが減少した。ベースクリームのみの使用はこれらの人々の誰にも症状の軽減を与えることはできなかった。
【0160】
実施例20(顔の皮膚の治療)
3人の個人に対し、実施例4で作られたHA-PE-2をNIVEA Cremeベースクリームと共に含有するクリームを顔の皮膚に毎日1-2回適用した。治療開始から1週間以内に、皮膚の光沢、平滑性の増加が認められた。この間において、皮膚は水和の増加を示し(この適用は、乾いた皮膚になり易い、より冷たい温度の冬の月の間に行われた)、眼の周りの小さなしわが消失した。治療を1ヶ月継続したところ、初期に観察された効果が高められ、皮膚はより厚い様相を示した。特に眼の周りに改善が認められ、唇の周りのしわの様相は減少した。この治療期間の停止後においては、治療領域は以前の乾燥状態に戻り、眼および唇の周りのしわが徐々に再現された。
【0161】
本発明の範囲を逸脱することなく、上記実施例に関し様々な変更を加えることが可能だが、本件の全ての内容は本発明を説明するものであり、制限するものではない。