(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の技術にあっては、以下の点で課題が残されている。一般に、振り石は振り座に対して圧入固定されるが、2個の振り石を振り座に圧入した場合には、1個の振り石を振り座に圧入する場合よりも大きな応力が振り座に発生する。また、一般に、振り座はてん真に対して圧入固定されるが、2個の振り石を振り座に圧入した状態で振り座をてん真に圧入した場合には、さらに大きな応力が振り座に発生する。とりわけ、てん真が挿入される貫通孔と振り石が挿入される貫通孔との間に応力が集中するため、振り座が破損するおそれがある。
【0010】
そこで、本発明は、振り石およびてん真の圧入時における応力集中を抑制して破損を防止できる振り座、この振り座を備えた脱進機、この脱進機を備えた時計用ムーブメントおよびこの時計用ムーブメントを備えた時計の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の振り座は、てん真に固定され、少なくとも1個の振り石を備えた振り座であって、てん真が挿入される挿入孔と、前記振り石を挿入可能な開口を有し、挿入された前記振り石を保持する保持部と、を備え、前記保持部は、前記振り石の側面のうち少なくとも一の側面と接する当接部と、前記当接部を変位可能に支持するとともに、前記振り石に向かって前記当接部を付勢する弾性変形部と、を備えたことを特徴としている。
【0012】
本発明によれば、開口に挿入された振り石を保持する保持部は、当接部を変位可能に支持するとともに、振り石に向かって当接部を付勢する弾性変形部を備えているので、振り石を開口から挿入した際に、当接部が変位するとともに弾性変形部が弾性変形し、振り石を付勢して保持することができる。これにより、振り石を開口に挿入し、さらにてん真に振り座を圧入した時に、挿入孔周りへの応力集中を抑制できるので、振り座の破損を防止できる。
また、弾性変形部を備えることにより、振り石を保持部により保持した後も、当接部を変位させて振り石を容易に着脱できるので、振り石の位置調整を容易に行うことができる。
【0013】
また、前記振り石は、外部から衝撃が付与される衝撃面を備え、前記保持部は、前記衝撃面と接する規制面を備え、前記当接部は、前記規制面と対向する位置に設けられていることを特徴としている。
【0014】
本発明によれば、振り石の衝撃面と保持部の規制面とが接しつつ、振り石を規制面に対して付勢した状態で保持できるので、振り石の衝撃面を精度よく位置決めできる。これにより、例えば、がんぎ車と振り石の衝撃面とを接触させてエネルギーを伝達する際の衝撃範囲を精度よく設定できるので、衝撃範囲のばらつきによるエネルギーの伝達効率の低下を防止できる。
【0015】
また、前記振り石は、角柱状に形成され、前記振り石の側面のうち、前記振り石の角部に、面取り部を設けたことを特徴としている。
【0016】
本発明によれば、振り石の角部に面取り部を設けているので、振り石を保持部の開口に挿入する際に、開口縁部に振り石が引っ掛かるのを防止できる。したがって、振り石の組付および位置調整の作業性を向上できるとともに、保持部の開口縁部と振り石の角部との接触による振り石の欠け(チッピング)を防止できる。
【0017】
また、前記保持部の前記開口の縁部が面取りされていることを特徴としている。
【0018】
本発明によれば、振り石を保持部の開口に挿入する際に、開口の縁部に振り石の角部が引っ掛かるのを防止できるとともに、振り石を保持部の開口内に誘導して容易に取り付けることができる。したがって、振り石の組付および位置調整の作業性を向上できるとともに、振り石の欠けを防止できる。
【0019】
また、前記当接部は、前記振り石と接する凸部を有することを特徴としている。
【0020】
本発明によれば、当接部は、凸部により振り石と接するので、当接部と振り石とが線接触または点接触できる。これにより、弾性変形部による付勢力を当接部と振り石との接触部分に集中させることができるので、振り石を確実に保持できる。
【0021】
また、前記振り座は、前記保持部と、前記挿入孔と、が形成された円盤状の大つばを有し、前記弾性変形部は、前記大つばの外縁部に形成されていることを特徴としている。
【0022】
本発明によれば、弾性変形部を挿入孔から離間した位置に形成できるので、弾性変形部の変形時の応力が挿入孔の周辺に発生するのを抑制できる。これにより、振り石およびてん真の圧入時における挿入孔周りへの応力集中を確実に抑制できるので、振り座の破損を防止できる。
【0023】
また、前記振り座は、第一振り座体と第二振り座体とにより形成され、前記振り石として、第一振り石と第二振り石とを備え、前記第一振り座体は、前記第一振り石を保持し、前記第二振り座体は、前記第二振り石を保持し、前記第一振り座体および前記第二振り座体の少なくともいずれか一方に、前記保持部を設けたことを特徴としている。
【0024】
本発明によれば、第一振り石を保持する第一振り座体と、第二振り石を保持する第二振り座体と、を備えているので、振り座に第一振り石と第二振り石とを固定した場合であっても、第一振り石の固定により発生する応力と、第二振り石の固定により発生する応力とを、それぞれ第一振り座体と第二振り座体とに分散できる。これにより、振り座の剛性を確保できるので、第一振り石および第二振り石を振り座に固定し、さらにてん真に圧入したときに、振り座の挿入孔周りへの応力集中を抑制できる。したがって、振り座の破損を確実に防止できる。
【0025】
また、前記振り座は、シリコンを主成分とする材料により形成されていることを特徴としている。
【0026】
本発明によれば、シリコンを主成分とする材料により振り座を形成することで、振り座の軽量化ができる。また、シリコンを主成分としたとき、フォトリソグラフィ技術により振り座の外形状を精度よく形成できる。したがって、振り座の軽量化および小型化に好適である。
【0027】
また、本発明の脱進機は、上述の振り座と、がんぎ車と、アンクル真周りに回動可能なアンクルと、を備え、前記振り座は、前記振り石として、前記振り座の回動にともなって前記アンクルに接触し、前記アンクルを前記アンクル真周りに回動させる第一振り石と、前記がんぎ車の歯部と接触可能な第二振り石と、を備え、前記アンクルは、前記アンクルの回動にともなって前記がんぎ車の歯部に係脱可能とされ、前記がんぎ車を回転および停止させる入りつめ石および出つめ石を備えたことを特徴としている。
【0028】
本発明によれば、保持部は、第一振り石および第二振り石の少なくともいずれかを保持しているので、第一振り石および第二振り石の固定およびてん真の圧入時における挿入孔周りへの応力集中を抑制できる。
また、振り座は、振り座の回動にともなってアンクルに接触してアンクル真周りに回動させる第一振り石と、がんぎ車の歯部と接触可能な第二振り石とを備えているので、例えばつめ石とがんぎ車の歯部とに注油が必要な脱進機であっても、第一振り石とアンクルとの接触部分に油が伝播するのを抑制できる。したがって、油分の付着や付着した油分の劣化等による粘性抵抗の増加を防止し、脱進機およびてんぷを含む調速機の安定した作動を確保できるので、計時精度の悪化を防止できる。
また、第一振り石の位置に依存することなく第二振り石の位置やがんぎ車の外径、てん真とがんぎ車の回転中心との離間距離等を所望に設定できる。これにより、がんぎ車の歯部と第二振り石とが衝突するときの衝撃範囲を所望に設定できるので、脱進機のエネルギーの伝達効率と計時精度とのバランスを所望に設定できる。
【0029】
また、前記がんぎ車の歯部は、前記入りつめ石および前記出つめ石と接触する接触面を有し、前記入りつめ石および前記出つめ石は、それぞれ前記がんぎ車の前記接触面と係合する係合面を有し、前記がんぎ車の回転中心の軸方向からみて、前記アンクル真の中心軸と、前記がんぎ車の歯部の歯先とを結ぶ直線を第一直線とし、前記第一直線と直交する直線を第二直線とし、前記がんぎ車の前記接触面と、前記入りつめ石および前記出つめ石のいずれかのつめ石の前記係合面とが係合しているとき、前記係合面は、前記第二直線に対して、前記がんぎ車の回転方向に所定角度傾斜していることを特徴としている。
【0030】
本発明によれば、入りつめ石または出つめ石の係合面が第二直線に対して、がんぎ車の回転方向に所定角度傾斜しているので、がんぎ車の歯部と入りつめ石または出つめ石とが係合すると、入りつめ石または出つめ石には、がんぎ車の回転トルクによってがんぎ車側に引き込まれるようにトルクが作用する。これにより、がんぎ車の歯部と入りつめ石または出つめ石との係合状態を安定させることができるので、例えば外乱により入りつめ石および出つめ石とがんぎ車の歯部との係合位置にずれが発生するのを防止できる。したがって、アンクルが外乱により回動し、例えば小つばと剣先が接触する等しててんぷと干渉することにより、てんぷの自由振動を妨げる異常動作を防止できる。
【0031】
また、本発明の時計用ムーブメントは、上述の脱進機を備えたことを特徴としている。また、本発明の時計は、上述の時計用ムーブメントを備えたことを特徴としている。
【0032】
本発明によれば、振り座の破損を防止できるとともに、計時精度に優れた高性能な時計用ムーブメントおよび時計とすることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、開口に挿入された振り石を保持する保持部は、当接部を変位可能に支持するとともに、振り石に向かって当接部を付勢する弾性変形部を備えているので、振り石を開口から挿入した際に、当接部が変位するとともに弾性変形部が弾性変形し、振り石を付勢して保持することができる。これにより、振り石を開口に挿入し、さらにてん真に振り座を圧入した時に、挿入孔周りへの応力集中を抑制できるので、振り座の破損を防止できる。
また、弾性変形部を備えることにより、振り石を保持部により保持した後も、当接部を変位させて振り石を容易に着脱できるので、振り石の位置調整を容易に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
(第一実施形態)
以下に、この発明の実施形態について、図面を用いて説明する。
以下では、まず実施形態に係る機械式の時計について説明したあと、脱進機の詳細について説明する。
一般に、時計の駆動部分を含む機械体を「ムーブメント」と称する。このムーブメントに文字板、針を取り付けて、時計ケースの中に入れて完成品にした状態を時計の「コンプリート」と称する。時計の基板を構成する地板の両側のうち、時計ケースのガラスのある方の側、すなわち文字板のある方の側をムーブメントの「裏側」と称する。また、地板の両側のうち、時計ケースのケース裏蓋のある方の側、すなわち文字板と反対の側をムーブメントの「表側」と称する。
【0036】
図1は、時計100のムーブメント101(請求項の「時計用ムーブメント」に相当。)を表側からみた平面図である。
図1に示すように、時計100は、ムーブメント101を備えている。ムーブメント101は、基板を構成する地板102を有している。地板102には、巻真案内孔103が形成されている。巻真案内孔103内には、巻真104が回転可能に組み込まれている。
ムーブメント101の裏側(
図1における紙面奥側)には、おしどり、かんぬき、およびかんぬき押さえを含む切換装置(不図示)が配置されている。この切換装置により、巻真104の軸方向の位置が決定するようになっている。
ムーブメント101の表側(
図1における紙面手前側)には、表輪列105を構成する四番車106、三番車107、二番車108および香箱車110が配置されているとともに、表輪列105の回転を制御する脱進機1および調速機2が配置されている。
【0037】
香箱車110は、ぜんまい111を有しており、巻真104を回転させると不図示のつづみ車が回転し、さらにきち車、丸穴車、および角穴車(いずれも不図示)を介してぜんまい111が巻き上げられるようになっている。そして、ぜんまい111が巻き戻される際の回転力により香箱車110が回転し、さらに二番車108が回転するように構成されている。
二番車108は、香箱車110の不図示の香箱歯車に噛合する二番かなと、二番歯車(いずれも不図示)とを有している。二番車108が回転すると、三番車107が回転するように構成されている。
【0038】
三番車107は、二番車108の二番歯車に噛合う不図示の三番かなと、三番歯車(何れも不図示)とを有している。三番車107が回転すると、四番車106が回転するように構成されている。
四番車106は、三番車107の三番歯車に噛合う不図示の四番かなと、四番歯車(何れも不図示)とを有している。四番車106が回転することにより脱進機1および調速機2が駆動する。
【0039】
脱進機1は、四番車106と噛み合うがんぎ車11と、このがんぎ車11を脱進させて規則正しく回転させるアンクル12とを備えている。
調速機2は、脱進機1を調速する機構であって、てんぷ5を有している。
そして、脱進機1および調速機2が駆動することにより、四番車106が1分間に1回転するように制御されるとともに、二番車108が1時間に1回転するように制御される。
【0040】
(脱進機)
続いて、脱進機1について説明する。
図2は、脱進機1の斜視図であり、
図3は、ムーブメント101(
図1参照)の表側から見たときのがんぎ車11の平面図である。なお、
図2においては、てん輪52を二点鎖線にて図示している。
図2に示すように、脱進機1は、がんぎ車11と、アンクル12と、振り座53と、を備えている。
【0041】
がんぎ車11は、軸部13と、軸部13に外嵌固定されているがんぎ歯車部14とを備えている。
軸部13は、軸部本体16を有している。軸部本体16には、ムーブメント101(
図1参照)の表側(
図2における上側)の端部に第一ほぞ部17aが一体形成され、ムーブメント101(
図1参照)の裏側(
図2における下側)の端部に第二ほぞ部17bが一体成形されている。第一ほぞ部17aの軸径と第二ほぞ部17bの軸径とは、それぞれほぼ同一となっている。第一ほぞ部17aは、不図示の輪列受に回転自在に支持され、第二ほぞ部17bは、上述の地板102(
図1参照)に回転自在に支持されている。
軸部本体16には、軸方向略中央から第一ほぞ部17aに至る間に、がんぎかな18が一体成形されている。がんぎかな18は、上述した四番車106(
図1参照)の歯車部に噛合され、四番車106の回転力が軸部13に伝達されるようになっている。
【0042】
図3に示すように、がんぎ歯車部14は、例えば金属材料や単結晶シリコン等の結晶方位を有する材料等により形成された部材あって、電鋳加工や、フォトリソグラフィ技術のような光学的な手法を取り入れたLIGA(Lithographie Galvanoformung Abformung)プロセス、DRIE(Deep Reactive Ion Etching)、MIM(Metal Injection Molding)等により形成されている。
【0043】
がんぎ歯車部14は、軸部13に圧入される略円環状のハブ部20を有している。ハブ部20の外周部には、径方向に沿って長くなるように略長円形状に形成された複数(本実施形態では10本)のスポーク21が、周方向に等間隔となるように一体成形されている。そして、隣接するスポーク21は、径方向略中央部よりも根元側の部分が連結された状態になっている。
スポーク21は、ハブ部20から放射状に延びる複数の第一スポーク21aと、第一スポーク21aの先端から二又状に延びる第二スポーク21bとにより構成されている。そして、第二スポーク21bの先端同士が連結されており、第一スポーク21aと第二スポーク21bとにより複数(10個)の開口部22が形成された状態になっている。がんぎ歯車部14は、開口部22を形成することによって軽量化されている。
また、第二スポーク21bの先端同士が連結された連結部21cには、がんぎ車11の回転方向(
図3における時計回り方向)に向かって先細りとなる歯部23が一体成形されている。
【0044】
がんぎ車11の歯部23は、がんぎ車11の回転方向側の面が、後述するアンクル12の入りつめ石45および出つめ石38(いずれも
図2参照)に接触する接触面23aとなっている。がんぎ車11の歯部23の接触面23aは、がんぎ車11の回転中心Q側に向かって傾斜している。
【0045】
図4は、入りつめ石45の係合面45aとがんぎ車11の歯部23の接触面23aとが係合している状態を示した説明図である。
ここで、がんぎ車11の回転中心Qの軸方向からみて、後述のアンクル真33の中心軸Pと、がんぎ車11の歯部23の歯先とを結ぶ第一直線L1とし、第一直線L1と直交する直線を第二直線L2とし、がんぎ車11の接触面23aと入りつめ石45の係合面45aとが係合しているとき、入りつめ石45の係合面45aは、第二直線L2に対して、がんぎ車の回転方向に所定角度αだけ傾斜している。なお、所定角度αは、例えば11°から16°程度に設定される。
このように、入りつめ石45の係合面45aが第二直線L2に対して、がんぎ車11の回転方向に所定角度αだけ傾斜しているので、がんぎ車11の歯部23と入りつめ石45とが係合すると、入りつめ石45には、がんぎ車11の回転トルクによってがんぎ車11側に引き込まれるようにトルクが作用する。これにより、がんぎ車11の歯部23と入りつめ石45との係合状態を安定させることができるので、例えば外乱により入りつめ石45とがんぎ車11の歯部23との係合位置にずれが発生するのを防止できる。なお、詳細な説明は省略するが、前述のがんぎ車11の接触面23aと入りつめ石45の係合面45aとの関係と同様に、がんぎ車11の接触面23aと出つめ石38の係合面38bとが係合しているとき、出つめ石38の係合面38bは、第二直線L2に対して、がんぎ車の回転方向に所定角度αだけ傾斜するように構成されている。したがって、がんぎ車11の歯部23と出つめ石38との係合状態を安定させることができるので、例えば外乱により出つめ石38とがんぎ車11の歯部23との係合位置にずれが発生するのを防止できる。
【0046】
図2に示すように、アンクル12は、2本のアンクルビーム31a,31bによって平面視略L字状に形成されたアンクル体32と、アンクル体32を軸支するアンクル真33と、入りつめ石45および出つめ石38と、を備えたものである。
アンクル真33は、軸部34を有している。そして、軸部34には、ムーブメント101(
図1参照)の表側(
図2における上側)の端部に第一ほぞ部35aが一体形成され、ムーブメント101(
図1参照)の裏側(
図2における下側)の端部に第二ほぞ部35bが一体成形されている。第一ほぞ部35aの軸径と第二ほぞ部35bの軸径とは、それぞれほぼ同一となっている。第一ほぞ部35aは、不図示のアンクル受に回転自在に支持され、第二ほぞ部35bは、上述の地板102(
図1参照)に回転自在に支持されている。
軸部34の軸方向略中央には、フランジ部36が設けられている。フランジ部36には、アンクル体32が載置されている。
【0047】
図5は、アンクル体32の斜視図である。
図5に示すように、アンクル体32における2本のアンクルビーム31a,31bの接続部には、アンクル真33の軸部34(
図2参照)を挿通可能な挿通孔32aが形成されている。挿通孔32aに軸部34を挿通させることにより、軸部34のフランジ部36(
図2参照)上にアンクル体32が載置される。
図2に示すように、2本のアンクルビーム31a,31bのうち、一方のアンクルビーム31aの先端には、がんぎ車11側が開口するようにスリット37が形成されている。スリット37には、出つめ石38が例えば接着剤等により固定されている。
【0048】
出つめ石38は、例えばルビーにより矩形板状に形成されており、アンクルビーム31aの先端からがんぎ車11の径方向の内側に向かって突出するとともに、がんぎ車11の軸方向に沿うようにがんぎ車11に向かって突出している。出つめ石38は、アンクル12の回動により、がんぎ車11の歯部23に対して係脱可能となっている。
出つめ石38の先端には、がんぎ車11の周方向と交差するとともに、がんぎ車11の回転時にがんぎ車11の歯部23が摺動可能な摺動面38aが形成されている。がんぎ車11の歯部23は、出つめ石38との係合が解除されるとともにがんぎ車11が回転することにより、摺動面38a上を摺動するようになっている。これにより、出つめ石38ががんぎ車11の径方向の外側に向かって移動するとともに、アンクル12がアンクル真33の中心軸Pを回動中心としてアンクル真33周りに回動する。
また、出つめ石38の摺動面38aよりも基端側は、がんぎ車11の歯部23と係合する係合面38bとなっている。
【0049】
図5に示すように、2本のアンクルビーム31a,31bのうち、他方のアンクルビーム31bの先端側には、クワガタ46,47がアンクルビーム31bの幅方向に並んで設けられている。クワガタ46,47の先端部には、それぞれアンクルビーム31bの幅方向における外側から内側に向かって、クワガタ46,47の基端側に漸次傾斜する傾斜面46a,47aが形成されている。
【0050】
クワガタ46,47の内側には、振り座53(
図2参照)が回動することにより第一振り石57(
図2参照)が係脱可能なアンクルハコ39が形成される。
アンクルハコ39の根元部39aには、例えば凸部(不図示)が一体成形されており、この凸部にアンクルハコ39を構成する剣先41が取り付けられている。
剣先41は、剣先本体42と、剣先本体42の基端に一体成形された円板状の取付部43とにより構成されている。取付部43には、根元部39aの凸部に嵌合可能な略円筒状の嵌合部43aが一体成形されている。剣先41は、嵌合部43aを凸部に嵌合した状態で、例えば圧入固定される。なお、剣先41は、アンクルハコ39の根元部39aに対して、例えば接着剤等により接着固定されてもよい。
【0051】
図2に示すように、アンクルハコ39が形成されたアンクルビーム31bには、アンクルハコ39の基端側に、石取付孔44が形成されている。石取付孔44には、入りつめ石45が、例えば接着剤等により接着固定されている。入りつめ石45は、例えばルビー等により四角柱状に形成されており、アンクルビーム31bの先端からアンクル真33の中心軸Pに沿うように、がんぎ車11側に向かって突出している。入りつめ石45のアンクル真33とは反対側に面する側面は、がんぎ車11の歯部23と係合する係合面45aとなっている。入りつめ石45は、アンクル12の回動により、がんぎ車11の歯部23に対して係脱可能となっている。
【0052】
アンクル12を挟んでがんぎ車11の反対側には、一対のドテピン61a,61bが設けられている。ドテピン61a,61bは、地板102(
図1参照)から立設されており、それぞれアンクル12の位置よりも高くなっている。アンクル12は、回動することにより、アンクルビーム31a,31bがドテピン61a,61bと接触する。これにより、アンクル12の回動量が規制される。
【0053】
(振り座)
図2に示すように、振り座53は、てん真51を中心として回動する後述のてんぷ5に設けられており、てんぷ5の構成部品であるとともに、脱進機1の構成部品となっている。振り座53は、筒状に形成された部材であり、てん真51の中心軸Oと同軸上に配置されるように、てん真51に外嵌固定されている。振り座53は、がんぎ歯車部14と同様に、例えば金属材料や単結晶シリコン等の結晶方位を有する材料等により形成された部材あって、電鋳加工や、フォトリソグラフィ技術のような光学的な手法を取り入れたLIGAプロセス、DRIE、MIM等により形成されている。なお、振り座53の製造方法は上記に限定されることはなく、例えば金属材料に機械加工を施すことにより振り座53を形成してもよい。
【0054】
図6は、振り座53の斜視図であり、
図7は振り座53の平面図である。
図6に示すように、振り座53は、第一振り石57および第二振り石58の2個の振り石を備えている。
第一振り石57および第二振り石58は、それぞれ例えばルビー等に形成されている。第一振り石57は、軸方向から見て径方向の外側に平坦面57aを有するとともに、径方向の内側に弧状面57bを有する半円形状に形成されている。
第二振り石58は、径方向に沿って設けられており、先端部が振り座53の外周面から径方向の外側に向かって突出している。第二振り石58の突出部分には、径方向に沿う平坦な衝撃面58aが形成されている。衝撃面58aには、がんぎ車11の歯部23(
図2参照)が衝突可能となっている。また、第二振り石58の突出部分には、径方向の内側に傾斜する傾斜面58bが形成されている。
【0055】
振り座53は、中心軸Oに沿って軸方向に貫通する挿入孔53aと、てん真の軸方向においてがんぎ車11(
図2参照)に対応した位置に形成された大つば54と、大つば54よりもムーブメント101(
図1参照)の裏側(
図2における下側)に形成された小つば55と、大つば54と小つば55とを接続する接続部56とを備え、大つば54、小つば55および接続部56が一体形成されている。
挿入孔53aは、てん真51(
図2参照)における振り座53の固定部分に対して圧入固定可能なように、てん真51における振り座53の固定部分の直径よりも小径となっている。
【0056】
図7に示すように、大つば54は、円盤状の部材であり、軸方向に貫通する貫通孔54aと、保持部70と、を備えている。
貫通孔54aは、軸方向から見て、径方向の外側に平面を有するとともに径方向の内側に円弧を有しており、第一振り石57の形状に対応した半円形状に形成されている。貫通孔54aには、第一振り石57が例えば圧入固定されている。これにより、第一振り石57は、大つば54からムーブメント101(
図1参照)の裏側(
図2における下側)に向かって突出するように、軸方向に沿って設けられる。そして、
図2に示すように、第一振り石57は、入りつめ石45および出つめ石38とがんぎ車11の歯部23とが接触する位置よりもムーブメント101(
図1参照)の裏側であって、てん真51の軸方向にずれた位置において、アンクル12のアンクルハコ39に対して係脱可能とされる。
【0057】
図7に示すように、第二振り石58を保持する保持部70は、第二振り石58を挿入可能な開口71を有するとともに、当接部75と、弾性変形部77と、を備えている。
開口71は、軸方向視で、径方向に沿って延びるとともに、径方向の内側に底部72を有するように形成されており、第二振り石58が径方向の外側から挿入可能とされる。
開口71の内側面のうち、第一振り石57側の側面は、平坦に形成された規制面71aとなっている。規制面71aは、本実施形態において第二振り石58の衝撃面58aとは反対側の第一側面59aと面接触しており、振り座53の周方向において第二振り石58の位置を規制している。
また、開口71の規制面71a側における径方向の外側の縁部は、面取りされたテーパ面71bとなっている。これにより、径方向の外側から第二振り石58を保持部70の開口71に挿入する際に、開口71の縁部に第二振り石58の角部が引っ掛かるのを防止できるとともに、第二振り石58を保持部70の開口71内に誘導して容易に取り付けることができる。
【0058】
底部72における第二振り石58の角部に対応する一対の隅部には、それぞれ逃げ凹部72aが形成されている。逃げ凹部72aは、径方向の内側に向かって凹んだ曲面状に形成されている。これにより、開口71の底部72と、第二振り石58とが当接した場合であっても、第二振り石58の角部と開口71の底部における隅部との干渉を防止できる。
また、底部72には、開口71と連通するとともに、開口71を挟んで第一振り石57とは反対側において、径方向の内側から外側に向かって開口71から漸次離間するように径方向に対して斜めに延びるスリット73が形成されている。スリット73の径方向の外側における端部と大つば54の外周面との間の部分は、径方向に薄肉に形成された弾性変形部77となっている。すなわち、弾性変形部77は、スリット73よりも径方向の外側であって、大つば54の外縁部に形成される。
【0059】
当接部75は、軸方向から見て三角形状に形成されており、開口71の規制面71aと対向する位置に設けられて弾性変形部77によって支持されている。当接部75は、第二振り石58の衝撃面58aと当接する当接面75aを有している。当接面75aは、軸方向から見て第二振り石58側に頂部75b(請求項の「凸部」に相当。)を有するV字形状に形成されている。
【0060】
当接面75aの頂部75bと、規制面71aとの離間距離は、第二振り石58の幅よりも狭くなっている。これにより、第二振り石58を開口71に挿入配置したとき、弾性変形部77が弾性変形して当接部75が変位するとともに、当接部75によって第二振り石58が規制面71aに向かって付勢された状態となる。このとき、当接部75の頂部75bと第二振り石58の衝撃面58aとは、互いに線接触する。このとき、保持部70の頂部75bと第二振り石58の衝撃面58aとが互いに線接触するとともに、保持部70の規制面71aと第二振り石58の第一側面59aとが互いに面接触する。これにより、第二振り石58は、保持部70の規制面71aによって周方向の位置が決定される。
保持部70における第二振り石58と開口71との隙間およびスリット73内には、例えば接着剤が充填される。これにより、第二振り石58は、保持部70に対して強固に接着固定される。
【0061】
図6に示すように、小つば55は、円盤状の部材であり、大つば54よりも小径となっている。小つば55の外周面55aには、第一振り石57に対応した位置に、径方向の内側に凹む曲面状のツキガタ55bが形成されている。ツキガタ55bは、アンクル12(
図2参照)と第一振り石57とが係合しているときに、アンクル12の剣先41(
図5参照)が小つば55と接触するのを防止する逃げ部として機能している。また、小つば55の外周面55aのうち、ツキガタ55bを挟んで周方向の両側の一部領域は、アンクル12の剣先41が摺接可能となっている。アンクル12の剣先41が小つば55に対して摺接することにより、第一振り石57がアンクルハコ39(
図5参照)から離脱した状態であっても、アンクル12が回動するのを防止できる。したがって、第一振り石57がアンクルハコ39から離脱した後、第一振り石57がアンクルハコ39の外側面に接触し、第一振り石57の移動がアンクル12により妨げられててんぷ5(
図2参照)の回動が停止する異常動作、いわゆる振り切りを防止できる。
また、
図2に示すように、本実施形態の脱進機1は、入りつめ石45および出つめ石38とがんぎ車11の歯部23との噛み合い量を所定の必要量以上確保することで、本来脱進機1の作動上、入りつめ石45および出つめ石38とがんぎ車11の歯部23との係合が解除されてはいけない作動状態、例えば、第一振り石57がアンクルハコ39に入っていない状態で、強い外乱等により入りつめ石45および出つめ石38とがんぎ車11の歯部23との係合が解除され、がんぎ車11が例えば出つめ石38の摺動面38aに落ちてしまい、がんぎ車11からアンクル12に衝撃が伝わりアンクル12が回動することにより、クワガタ46,47が第一振り石57を押圧すること、または、剣先41(
図5参照)が小つば55を押圧すること等で、てんぷ5がアンクル12によりてんぷ5の径方向へ押圧されて、てんぷ5の回動を停止してしまうという異常動作、いわゆる半振り切り現象を防止することもできる。
【0062】
(調速機、てんぷ)
調速機2のてんぷ5は、回動軸であるてん真51と、てん真51に外嵌固定されているてん輪52と、上述の振り座53と、不図示のひげぜんまいとを有している。てん真51の両端は、不図示のてんぷ受および地板102によって回転自在に支持されている。てんぷ5には、がんぎ車11が回転して第二振り石58に衝突することにより、がんぎ車11からのエネルギーが回転力として付与される。また、てんぷ5には、がんぎ車11の歯部23が摺動面38a上を摺動するとともにアンクル12が回動し、第一振り石57に衝突することにより、がんぎ車11からのエネルギーが回転力として付与される。さらに、てんぷ5のひげぜんまいには、がんぎ車11のエネルギーがばね力として蓄積される。したがって、てんぷ5は、がんぎ車11から付与されるエネルギーによる回転力およびひげぜんまいのばね力により、てん真51の中心軸O周りに所定周期で自由振動して回動できる。
そして、入りつめ石45ががんぎ車11の歯部23と係合するとともに、出つめ石38ががんぎ車11の歯部23から離脱している状態と、出つめ石38ががんぎ車11の歯部23と係合するとともに、入りつめ石45ががんぎ車11の歯部23から離脱している状態とが、交互に繰り返し行われる。これにより、がんぎ車11が一定速度で回転する。
【0063】
本実施形態によれば、開口71に挿入された第二振り石58を保持する保持部70は、当接部75を変位可能に支持するとともに、第二振り石58に向かって当接部75を付勢する弾性変形部77を備えているので、第二振り石58を開口71から挿入した際に、当接部75が変位するとともに弾性変形部77が弾性変形し、第二振り石58を付勢して保持することができる。これにより、第二振り石58を開口71に挿入し、さらにてん真51に振り座53を圧入した時に、挿入孔53a周りへの応力集中を抑制できるので、振り座53の破損を防止できる。
また、弾性変形部77を備えることにより、第二振り石58を保持部70により保持した後も、当接部75を変位させて第二振り石58を容易に着脱できるので、第二振り石58の位置調整を容易に行うことができる。
【0064】
また、保持部70の開口71の縁部が面取りされたテーパ面71bとなっているので、第二振り石58を保持部70の開口71に挿入する際に、開口71の縁部に第二振り石58の角部が引っ掛かるのを防止できるとともに、第二振り石58を保持部70の開口71内に誘導して容易に取り付けることができる。したがって、第二振り石58の組付および位置調整の作業性を向上できるとともに、第二振り石58の欠けを防止できる。
【0065】
また、当接部75は、当接面75aの頂部75bにより第二振り石58と接するので、当接部75と第二振り石58とが線接触できる。これにより、弾性変形部77による付勢力を当接部75と第二振り石58との接触部分に集中させることができるので、第二振り石58を確実に保持できる。
【0066】
また、弾性変形部77は、大つば54の外縁部に形成されているので、弾性変形部77を挿入孔53aから離間した位置に形成でき、弾性変形部77の変形時の応力が挿入孔53aの周辺に発生するのを抑制できる。これにより、第二振り石58およびてん真51の圧入時における挿入孔53a周りへの応力集中を確実に抑制できるので、振り座53の破損を防止できる。
【0067】
また、シリコンを主成分とする材料により振り座53を形成することで、振り座53の軽量化ができる。また、シリコンを主成分としたとき、フォトリソグラフィ技術により振り座53の外形状を精度よく形成できる。したがって、振り座53の軽量化および小型化に好適である。
【0068】
また、振り座53は、振り座53の回動にともなってアンクル12に接触してアンクル真33周りに回動させる第一振り石57と、がんぎ車11の歯部23と接触可能な第二振り石58とを備えているので、入りつめ石45および出つめ石38とがんぎ車11の歯部23とに注油が必要な脱進機1であっても、第一振り石57とアンクル12との接触部分に油が伝播するのを抑制できる。したがって、油分の付着や付着した油分の劣化等による粘性抵抗の増加を防止し、脱進機1およびてんぷ5を含む調速機2の安定した作動を確保できるので、計時精度の悪化を防止できる。
また、第一振り石57の位置に依存することなく第二振り石58の位置やがんぎ車11の外径、てん真51とがんぎ車11の回転中心との離間距離等を所望に設定できる。これにより、がんぎ車11の歯部23と第二振り石58とが衝突するときの衝撃範囲を所望に設定できるので、脱進機1のエネルギーの伝達効率と計時精度とのバランスを所望に設定できる。
【0069】
また、入りつめ石45の係合面45aおよび出つめ石38の係合面38bが第二直線L2に対して、がんぎ車11の回転方向に所定角度αだけ傾斜しているので、がんぎ車11の歯部23と入りつめ石45または出つめ石38とが係合すると、入りつめ石45および出つめ石38には、それぞれがんぎ車11の回転トルクによってがんぎ車11側に引き込まれるようにトルクが作用する。これにより、がんぎ車11の歯部23と入りつめ石45および出つめ石38との係合状態を安定させることができるので、例えば外乱により入りつめ石45および出つめ石38とがんぎ車11の歯部23との係合位置にずれが発生するのを防止できる。したがって、アンクル12が外乱により回動し、例えば小つば55と剣先41が接触する等しててんぷ5と干渉することにより、てんぷ5の自由振動を妨げる異常動作を防止できる。
【0070】
また、振り座53の破損を防止できるとともに、計時精度に優れた高性能なムーブメント101および時計100とすることができる。
【0071】
(第一実施形態の変形例)
図8は、第一実施形態の変形例に係る振り座53の平面図である。
続いて、第一実施形態の変形例に係る振り座53について説明する。
第一実施形態に係る振り座53は、保持部70の規制面71aが、第二振り石58の衝撃面58aとは反対側の第一側面59aと面接触していた(
図7参照)。
これに対して、第一実施形態の変形例に係る振り座53は、保持部70の規制面71aが、第二振り石58の衝撃面58aと面接触している点で、第一実施形態とは異なっている。なお、以下では、第一実施形態と同様の構成部分については説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0072】
開口71の内側面のうち、第一振り石57側とは反対側の側面は、平坦に形成された規制面71aとなっている。規制面71aは、第二振り石58の衝撃面58aと面接触しており、振り座53の周方向において第二振り石58の衝撃面58aの位置を規制している。
保持部70の底部72には、開口71と連通するとともに、開口71を挟んで第一振り石57側において、径方向の内側から外側に向かって開口71から漸次離間するように径方向に対して斜めに延びるスリット73が形成されている。
【0073】
当接面75aの頂部75bと、規制面71aとの離間距離は、第二振り石58の幅よりも狭くなっている。これにより、第二振り石58を開口71に挿入配置したとき、弾性変形部77が弾性変形して当接部75が変位するとともに、当接部75によって第二振り石58が規制面71aに向かって付勢された状態となる。このとき、保持部70の頂部75bと第二振り石58の第一側面59aとが互いに線接触するとともに、保持部70の規制面71aと第二振り石58の衝撃面58aとが互いに面接触する。これにより、第二振り石58の衝撃面58aは、保持部70の規制面71aによって周方向の位置が精度よく決定される。
【0074】
第一実施形態の変形例によれば、第二振り石58の衝撃面58aと保持部70の規制面71aとを面接触させつつ、第二振り石58を規制面71aに対して付勢した状態で保持できるので、第二振り石58の衝撃面58aを精度よく位置決めできる。これにより、がんぎ車11と第二振り石58の衝撃面58aとを接触させてエネルギーを伝達する際の衝撃範囲を精度よく設定できるので、衝撃範囲のばらつきによるエネルギーの伝達効率の低下を防止できる。
【0075】
(第二実施形態)
図9は、第二実施形態に係る振り座253およびてんぷ5の斜視図であり、
図10は、第二実施形態に係る振り座253を構成する第二振り座体253bの平面図である。
続いて、第二実施形態に係る振り座53について説明する。
第一実施形態に係る振り座53は、大つば54、小つば55および接続部56を備え、大つば54に第一振り石57および第二振り石58が固定されていた(
図6参照)。
これに対して、
図9に示すように、第二実施形態における振り座253は、第一振り座体253aと第二振り座体253bとを備え、第一振り座体253aに第一振り石57が固定され、第二振り座体253bに第二振り石58が固定されている点で、第一実施形態とは異なっている。なお、以下では、第一実施形態および第一実施形態の変形例と同様の構成部分については説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0076】
振り座253は、第一振り座体253aと、第一振り座体253aよりもてん輪52側において、第一振り座体253aに対しててん真51の軸方向に重ねて設けられた第二振り座体253bと、を備えている。
第一振り座体253aは、第一大つば254aと、第一大つば254aよりもムーブメント101(
図1参照)の裏側(
図9における下側)に形成された小つば55と、第一大つば254aと小つば55とを接続する接続部56とを備えている。
第一大つば254aには、軸方向に貫通する貫通孔54aが形成されており、第一振り石57が例えば圧入固定されている。
【0077】
第二振り座体253bは、円盤状の部材であり、全体が第二大つば254bとなっている。第二大つば254bには、第二振り石58を保持する保持部70が設けられている。保持部70は、第二振り石58を挿入可能な開口71を有するとともに、当接部75と、弾性変形部77と、を備えている。
図10に示すように、保持部70の構成は、第一実施形態の変形例と同一である。すなわち、第二振り石58を開口71に挿入配置したとき、当接部75によって第二振り石58が規制面71aに向かって付勢されて、保持部70の規制面71aと第二振り石58の衝撃面58aとが互いに面接触する。これにより、第二振り石58の衝撃面58aは、保持部70の規制面71aによって周方向の位置が精度よく決定される。
【0078】
ここで、第二振り石58の側面のうち、衝撃面58aとは反対側の第一側面59aと、底部72と対向する第二側面59bとにより形成される角部には、面取り部60が形成されている。面取り部60は、角部が除去されたC面取り形状となっている。これにより、第二振り石58を保持部70の開口71に挿入する際に、当接部75側の開口縁部に第二振り石58が引っ掛かるのを防止できる。なお、面取り部60の形状は、C面取り形状に限定されることはなく、例えばR面取り形状となっていてもよい。
【0079】
第二実施形態によれば、第一振り石57を保持する第一振り座体253aと、第二振り石58を保持する第二振り座体253bと、を備えているので、振り座253に第一振り石と第二振り石とを固定した場合であっても、第一振り石57の固定により発生する応力と、第二振り石58の固定により発生する応力とを、それぞれ第一振り座体253aと第二振り座体253bとに分散できる。これにより、振り座253の剛性を確保できるので、第一振り石57および第二振り石58を振り座253に固定し、さらにてん真51に圧入したときに、振り座253の挿入孔53a周りへの応力集中を抑制できる。したがって、振り座253の破損を確実に防止できる。とりわけ、小型化等の要求により第一振り石57と第二振り石58とを近接配置する場合に、応力集中を抑制しつつ、第一振り座体253aと第二振り座体253bとに応力を分散できるので、振り座253の剛性の確保に極めて効果的である。
【0080】
また、第二振り石58の第一側面59aと第二側面59bとで形成される角部に面取り部60を設けているので、第二振り石58を保持部70の開口71に挿入する際に、開口縁部に第二振り石58が引っ掛かるのを防止できる。したがって、第二振り石58の組付および位置調整の作業性を向上できるとともに、保持部70の開口縁部と第二振り石58の角部との接触による第二振り石58の欠け(チッピング)を防止できる。
なお、この発明の技術範囲は上記の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0081】
がんぎ車11やアンクル12、振り座53,253、保持部70、入りつめ石45、出つめ石38、第一振り石57、第二振り石58等の形状や材質等は各実施形態に限定されない。
また、各実施形態では、第二振り石58が保持部70により保持されていたが、第一振り石57が保持部により保持されていてもよいし、第一振り石57および第二振り石58の両方が保持部により保持されていてもよい。
【0082】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。