特許第6120580号(P6120580)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6120580ホログラム表示用有機フォトリフラクティブ部材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6120580
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】ホログラム表示用有機フォトリフラクティブ部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/361 20060101AFI20170417BHJP
   C09B 29/40 20060101ALI20170417BHJP
   G03H 1/02 20060101ALI20170417BHJP
【FI】
   G02F1/361
   C09B29/40
   G03H1/02
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-9049(P2013-9049)
(22)【出願日】2013年1月22日
(65)【公開番号】特開2014-142393(P2014-142393A)
(43)【公開日】2014年8月7日
【審査請求日】2015年11月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100125508
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 愛
(72)【発明者】
【氏名】三浦 さき子
【審査官】 佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−520929(JP,A)
【文献】 特開平02−000937(JP,A)
【文献】 特開2006−018113(JP,A)
【文献】 特開平07−258563(JP,A)
【文献】 TSUTSUMI,N. et al.,Photorefractive performance of polycarbazoylethylacrylate composites with photoconductive plasticizer,JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,2009年10月28日,Vol.106,083113-1 - 083113-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00−1/125,1/21−7/00
C09B 29/40
G03H 1/02
Scitation
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトリフラクティブ部材の製造方法であって、
フォトリフラクティブ材料のフィルムを形成する工程、および
フィルムをアニーリングする工程
を含み、
前記フォトリフラクティブ材料が、非線形光学色素および非光導電性な透明樹脂を含み、
前記非線形光学色素が、一般式(2)
【化1】
(式中、A1およびA2はそれぞれ、水素原子であるか、又は−NO基、−NO基、−CHO基、−CN基およびハロゲンからなる群から選択される電子受容性基であり、Dは、−N(CH基、−NH基、−OCH基および−OH基からなる群から選択される電子供与性基であり、Aは、−NO基、−NO基、−CHO基、−CN基およびハロゲンからなる群から選択される電子受容性基であり、mは0〜18の整数であり、nは0〜18の整数である)
で表される化合物である、前記方法。
【請求項2】
一般式(2)において、A1およびA2はそれぞれ、水素原子又はハロゲンであり、Dは−OH基であり、Aは−NO基又はハロゲンであり、mは2〜6の整数であり、nは0である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
アニーリング工程を、フォトリフラクティブ材料の補外ガラス転移開始温度以上かつ中間点ガラス転移温度より40℃高い温度以下の温度で実施する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
アニーリングしたフィルムを延伸する工程をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
非線形光学色素が3−[(4−ニトロフェニル)アゾ]−9H−カルバゾール−9−エタノール、または3−[(2、4、6−トリクロロフェニル)アゾ]−9H−カルバゾール−9−エタノールであり、非光導電性な透明樹脂がポリメタクリル酸メチルである、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の方法によって製造されるフォトリフラクティブ部材。
【請求項7】
請求項6記載のフォトリフラクティブ部材を備えるホログラム記録媒体。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項記載の方法によってフォトリフラクティブ部材を製造し、得られたフォトリフラクティブ部材を挟むように一対の電極を形成することを含む、ホログラム記録媒体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光記録などの分野に用いられるフォトリフラクティブ材料を用いてフォトリフラクティブ部材を製造する方法、該方法によって得られるフォトリフラクティブ部材、ならびに該フォトリフラクティブ部材を備えるホログラム記録媒体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトリフラクティブ材料は2つの光をフォトリフラクティブ材料上で交差させ、照射光の干渉により生じた空間電界に対応して、屈折率が変化する材料である。
【0003】
そのため、フォトリフラクティブ材料のこのような特性を利用することにより信号光に対し非線形な信号処理を行う光変調素子への利用が可能である。すなわち、回折格子の形成を利用したホログラム記録媒体や、エネルギー移動を利用した光スイッチング素子として用いることができる。また、回折格子から発生する回折光は位相共役となっていることから、位相共役鏡としても用いることができる。
【0004】
このようなフォトリフラクティブ材料としては、従来用いられている無機フォトリフラクティブ材料に代えて、低コストで成形加工性に優れることから、非晶質の有機化合物を用いた有機フォトリフラクティブ材料が求められている。
【0005】
これまでの研究では主に、光導電性機能を有する高分子化合物に非線形光学色素化合物などの電界応答光学機能化合物を配合したもの、逆に非線形光学色素含有高分子化合物に光導電性機能を有する低分子化合物を配合したもの、あるいはポリメチルメタクリレートやポリスチレンなどのフォトリフラクティブ特性について不活性な高分子化合物をバインダ材料として用い、非線形光学色素を低分子化合物として配合したものなどの種々の提案がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−318993号公報
【特許文献2】特開2007−41324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、透過率が高く、回折応答速度および回折効率に優れたフォトリフラクティブ部材を提供することである。また、本発明は、このようなフォトリフラクティブ部材を用いて得られるホログラム記録媒体を提供することも目的とする。さらに、優れたフォトリフラクティブ部材およびホログラム記録媒体を生産性良く、低コストで生産することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、成膜したフォトリフラクティブ材料を所定の温度でアニーリングする事で、透過率が高く、回折応答速度および回折効率に優れたフォトリフラクティブ部材が得られる事を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
(1)フォトリフラクティブ部材の製造方法であって、
フォトリフラクティブ材料のフィルムを形成する工程、および
フィルムをアニーリングする工程
を含む、前記方法。
(2)アニーリング工程を、フォトリフラクティブ材料の補外ガラス転移開始温度以上かつ中間点ガラス転移温度より40℃高い温度以下の温度で実施する、(1)記載の方法。
(3)アニーリングしたフィルムを延伸する工程をさらに含む、(1)または(2)記載の方法。
(4)フォトリフラクティブ材料が、非線形光学色素および非光導電性な透明樹脂を含む、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)非線形光学色素が3−[(4−ニトロフェニル)アゾ]−9H−カルバゾール−9−エタノール、または3−[(2、4、6−トリクロロフェニル)アゾ]−9H−カルバゾール−9−エタノールであり、非光導電性な透明樹脂がポリメタクリル酸メチルである、(4)記載の方法。
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載の方法によって製造されるフォトリフラクティブ部材。
(7)(6)記載のフォトリフラクティブ部材を備えるホログラム記録媒体。
(8)(1)〜(5)のいずれかに記載の方法によってフォトリフラクティブ部材を製造し、得られたフォトリフラクティブ部材を挟むように一対の電極を形成することを含む、ホログラム記録媒体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、透過率が高く、回折応答速度および回折効率に優れたフォトリフラクティブ部材、並びに、当該フォトリフラクティブ部材を用いて得られるホログラム記録媒体を提供する事が出来る。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず、本発明のフォトリフラクティブ部材を形成するためのフォトリフラクティブ材料について説明する。
【0012】
<フォトリフラクティブ材料>
本発明のフォトリフラクティブ部材を形成するためのフォトリフラクティブ材料としては、フォトリフラクティブ特性を発現する材料であれば何でもよく特に限定されない。すなわち、本発明においては、フォトリフラクティブ材料としては、電場を印加した状態でフォトリフラクティブ特性を発現するもの、あるいは、電場を印加しない状態でフォトリフラクティブ特性を発現するもののいずれも使用することができるが、高電圧での電場の印加が不要であるという点より、電場を印加しない状態でフォトリフラクティブ特性を発現するものを用い、電場を印加しない状態でフォトリフラクティブ特性を示すフォトリフラクティブ部材を得ることが好ましい。
【0013】
なかでも、本発明においては、このようなフォトリフラクティブ材料として、非線形光学色素と、非光導電性な透明樹脂とを含有するものを用いることが好ましい。
【0014】
非線形光学色素としては、非線形光学特性を有するものであればよく、特に限定されないが、たとえば、下記一般式(1)で表される化合物を好ましく用いることができる。
【化1】
【0015】
上記一般式(1)において、Rは、炭素数6〜18の、置換基を有していてもよい芳香族基、または炭素数2〜18の、置換基を有していてもよい−N=N−と共役二重結合を形成する不飽和脂肪族基であり、好ましくは、炭素数6〜12の、置換基を有していてもよい芳香族基、または炭素数2〜6の、置換基を有していてもよい−N=N−と共役二重結合を形成する不飽和脂肪族基であり、Rが芳香族基である場合には、Rを構成する芳香環は、複素原子を含有していてもよい。不飽和脂肪族基は、直鎖でも分岐鎖でもよく、好ましくは1〜3の不飽和結合を有する。
【0016】
また、Rは、炭素数6〜18の、置換基を有していてもよい芳香族基、または炭素数2〜18の、置換基を有していてもよい−N=N−と共役二重結合を形成する不飽和脂肪族基であり、好ましくは、炭素数6〜12の、置換基を有していてもよい芳香族基、または炭素数2〜6の、置換基を有していてもよい−N=N−と共役二重結合を形成する不飽和脂肪族基であり、Rが芳香族基である場合には、Rを構成する芳香環は、複素原子を含有していてもよい。不飽和脂肪族基は、直鎖でも分岐鎖でもよく、好ましくは1〜3の不飽和結合を有する。
【0017】
およびRにおける芳香族基は、芳香環を有する二価の基であり、芳香環は単環式でも多環式(たとえば、二環式、三環式)でもよく、芳香族炭化水素環でも、芳香族複素環でもよい。芳香族基の具体例としては、フェニレン基、ピリジレン基、ピリダジニレン基、ピリミジニレン基、ピラジニレン基、フリレン基、チエニレン基、ピロリレン基、イミダゾリレン基、チアゾリレン基、オキサゾリレン基、ナフチレン基、アントリレン基、ピレニレン基、インダニレン基、テトラヒドロナフチレン基、キノリレン基、イソキノリレン基、シンノリニレン基、キナゾリニレン基、キノキサリニレン基、ナフチリジニレン基、フタラジニレン基、インドリレン基、イソインドリレン基、ベンゾフリレン基、ベンゾチエニレン基、インダゾリレン基、ベンゾイミダゾリレン基、ベンゾチアゾリレン基、カルバゾリレン基が挙げられる。
【0018】
なお、上記芳香族基および不飽和脂肪族基における置換基としては、特に限定されないが、たとえば、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素から選ばれるハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、アルコキシカルボニル基およびカルボキシル基などが挙げられる。
【0019】
また、上記一般式(1)において、Dは、電子供与性基であり、好ましくは、アミノ基、アルコキシ基およびヒドロキシル基からなる群から選択される少なくとも1つである。このような電子供与性基の具体例としては、−N(CH基、−NH基、−OCH基、−OH基などが挙げられ、これらのなかでも、フォトリフラクティブ特性をより高めることができるという観点より、−OH基、−N(CH基が特に好ましい。
【0020】
さらに、上記一般式(1)において、Aは、電子受容性基であり、その具体例としては、−NO基、−NO基、−CHO基、−CN基、ならびに−Cl基および−Br基などのハロゲンが挙げられ、これらのなかでも、フォトリフラクティブ特性をより高めることができるという観点より、−NO基、−NO基が特に好ましい。
【0021】
また、上記一般式(1)において、mは0〜18の整数であり、好ましくは2〜6の整数である。なお、m=0の場合は、RとDとが直接結合した構造となる。上記一般式(1)において、nは0〜18の整数であり、好ましくは2〜6の整数であり、m=0の場合と同様に、n=0の場合は、RとAとが直接結合した構造となる。
【0022】
本発明においては、上記一般式(1)で表される化合物の中でも、フォトリフラクティブ特性をより高めることができるという観点より、下記一般式(2)で表される化合物が好ましい。
【化2】
なお、上記一般式(2)において、D、A、m、nは、上記一般式(1)と同様である。
【0023】
A1とA2は、電子受容性基であり、その具体例としては、−NO基、−NO基、−CHO基、−CN基、ならびに−Cl基および−Br基などのハロゲンが挙げられ、これらのなかでも、フォトリフラクティブ特性をより高めることができるという観点より、−NO基、−NO基が特に好ましい。
【0024】
フォトリフラクティブ材料中における、非線形光学色素の含有割合は、好ましくは10〜40重量%であり、より好ましくは20〜35重量%、さらに好ましくは25〜30重量%である。非線形光学色素の含有割合が少なすぎても、また、多すぎても、得られるフォトリフラクティブ部材のフォトリフラクティブ特性が不十分となるおそれがある。
【0025】
非光導電性な透明樹脂は、光導電的に不活性で、透明性を有し、マトリックス樹脂として作用するものであれば何でもよいが、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ならびにポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル(PEMA)、およびポリメタクリル酸ブチル(PBMA)などのアクリル樹脂が挙げられる。これらのなかでも、透明性が高いという点より、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)が特に好ましく、ガラス転移温度が低いという点より、ポリエチレンテレフタレート(PET)が特に好ましい。
【0026】
また、非光導電性な透明樹脂としては、たとえばアクリル樹脂の場合、重量平均分子量(Mw)が15,000〜3,500,000の範囲にあるものが好ましく、97,000〜2,500,000の範囲にあるものがより好ましく、350,000〜1,500,000の範囲にあるものがさらに好ましい。重量平均分子量が小さすぎると、機械的強度が低下するおそれがある。一方、重量平均分子量が大きすぎると、高分子の合成が困難となる。
【0027】
フォトリフラクティブ材料中における、非光導電性な透明樹脂の含有割合は、好ましくは20〜85重量%であり、より好ましくは60〜80重量%、さらに好ましくは65〜70重量%である。非光導電性な透明樹脂の含有割合が少なすぎると、得られるフォトリフラクティブ部材の機械的強度が低下するおそれがあり、一方、多すぎると、十分な非線形光学効果が得られないおそれがある。
【0028】
また、本発明のフォトリフラクティブ部材を形成するためのフォトリフラクティブ材料としては、非線形光学色素、および非光導電性な透明樹脂に加えて、可塑剤や増感剤をさらに含有するものを用いてもよい。
【0029】
可塑剤は、得られるフォトリフラクティブ部材のガラス転移温度Tgを低下させ、これにより、回折応答速度を向上させる作用を有する。可塑剤としては、特に限定されず、従来公知のものを制限なく用いることができるが、非光導電性な透明樹脂に対する相溶性の観点より、非光導電性な透明樹脂とSP値(溶解パラメータ)の近いものが好ましく用いられる。
【0030】
可塑剤の具体例としては、アジピン酸ジ(2-エチルヘキシル)、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジ(ブトキシエトキシエチル)などのアジピン酸エステル類;アゼライン酸ジブトキシエチル、アゼライン酸ジ(2-エチルヘキシル)などのアゼライン酸エステル類;クエン酸トリn-ブチルなどのクエン酸エステル類;テトラヒドロキシ無水フタル酸のエポキシ化物やエポキシ化不飽和油脂などのエポキシ誘導体;フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジ−n−オクチル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸ジヘプチルなどのフタル酸エステル類;トリメリット酸トリ(2−エチルヘキシル)、トリメリット酸トリ−n−オクチル、トリメリット酸トリイソデシル、トリメリット酸トリイソオクチルなどのトリメリット酸エステル類;2−エチルヘキシルジフェニルホスフェートなどのリン酸エステル類;ジエチレングリコールジアセテートなどのグリコールジアセテート類;エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレートなどのアルキルフタリルアルキルグリコレート類;などが挙げられる。
【0031】
フォトリフラクティブ材料中の可塑剤の含有割合は、好ましくは0.01〜41重量%であり、より好ましくは1〜25重量%、さらに好ましくは1〜20重量%、特に好ましくは5〜15重量%である。可塑剤の含有割合を上記範囲とすることにより、可塑剤の添加効果、すなわち、回折応答速度の向上効果をより顕著なものとすることができる。
【0032】
また、フォトリフラクティブ材料には、上述した各成分に加えて、酸化防止剤などの各種成分が配合されていてもよい。
【0033】
さらに、フォトリフラクティブ材料は、必要に応じて、溶媒を含有していてもよい。溶媒としては、上述した非線形光学色素および非光導電性な透明樹脂を溶解可能なものであれば制限なく用いることができるが、たとえば、テトラヒドロフラン(THF)、N−メチルピロリドン(NMP)やN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)などが挙げられる。
【0034】
<フォトリフラクティブ部材>
本発明のフォトリフラクティブ部材は、たとえば、上記したフォトリフラクティブ材料のフィルムを形成する工程、および得られたフィルムをアニーリングする工程によって製造される。アニーリングは、好ましくは、フォトリフラクティブ材料の補外ガラス転移開始温度以上で中間点ガラス転移温度より40℃高い温度以下の温度で実施される。
【0035】
本発明のフォトリフラクティブ部材の製造方法において、アニーリング温度は好ましくは、補外ガラス転移開始温度以上かつ中間点ガラス転移温度より40℃高い温度以下、より好ましくは、補外ガラス転移開始温度より10℃高い温度以上かつ中間点ガラス転移温度より20℃高い温度以下である。
【0036】
本発明において補外ガラス転移開始温度および中間点ガラス転移温度を含むガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定したものをさす。具体的には、実施例に記載の方法により測定したものさす。
【0037】
アニーリング方法は特に制限されないが、たとえば、熱風を用いる方法、遠赤外線放射による方法、熱ロールによる方法などを使用できる。
【0038】
本発明によれば、フォトリフラクティブ材料のフィルムを、上記温度範囲でアニーリングすることにより、非線形光学色素の会合分子を分離させホログラム書き込みや表示のためのフォトリフラクティブ特性が向上する。
【0039】
本発明のフォトリフラクティブ部材は、上述したフォトリフラクティブ材料を用いて得られ、通常は、フィルム状の形状を有するものである。フィルムの厚みは特に制限されないが、好ましくは10〜500μm、より好ましくは50〜300μmである。
【0040】
フィルム厚みは、厚い方が回折効率が大きくなり、物体光と参照光によるホログラム画像の書き込みが容易となる。厚すぎると、フィルム内部が不均一になり、ホログラム画像の画質低下の原因となる。
【0041】
本発明のフォトリフラクティブ部材の製造方法では、たとえば、上述した本発明のフォトリフラクティブ材料を用いてフィルムを形成し、得られたフィルムをアニーリングの前に熱プレスすることが好ましい。
【0042】
フォトリフラクティブ材料を用いてフィルムを形成する際には、当技術分野で公知の成膜方法を使用できる。たとえば、フォトリフラクティブ材料を、ガラス板などの基材上にスピンコートするスピンコート法、滴下などにより直接塗布して、目的の膜厚、形状に応じて溶液を流延するキャスト法などの成膜方法が挙げられる。なお、フィルムを形成する際には、成膜後、溶媒を除去するために、必要に応じて30〜250℃程度の温度で加熱乾燥してもよい。その後、基材から成膜したフィルムを剥離することにより、フォトリフラクティブフィルムが得られる。
【0043】
フィルムについて熱プレスする際の熱プレスの温度は、フォトリフラクティブフィルムのガラス転移温度(中間点ガラス転移温度)以上、非線形光学色素の分解温度以下の範囲であり、好ましくは、90〜320℃、より好ましくは160〜300℃、さらに好ましくは210〜260℃であり、熱プレスの時間は、好ましくは0.1〜60分、より好ましくは0.5〜30分、さらに好ましくは1〜3分である。また、熱プレスに用いる成形型として、フィルムに接する面の算術平均粗さRaが、0.3μm以下であるものを用いることが好ましく、0.06μm以下であるものを用いることがより好ましく、0.03μm以下であるものを用いることが特に好ましい。Ra>0.3μmの場合、再生光の照射により再生されたホログラム再生像が、表面の凹凸の影響による散乱光に埋もれてしまい、ホログラム像の観測が困難となる。
【0044】
また本発明においては、アニーリングしたフィルムを延伸することが好ましい。延伸することにより、さらにフォトリフラクティブ特性が向上する。延伸は一軸延伸でも、二軸延伸でもフォトリフラクティブ特性は向上する。延伸倍率は1.4倍以上が好ましい。さらに、延伸により、フォトリフラクティブ部材の機械的強度も向上する。
【0045】
このようにして得られる本発明のフォトリフラクティブ部材は、透過率が高く、回折応答速度および回折効率に優れるものであり、このような特性を活かし、ホログラム記録媒体の他、高密度光データ記録、3Dディスプレイ、3Dプリンター、さらには光の波面や位相のマニュピレーション、パターン認識、光増幅、非線形光情報処理、光相関システム、光コンピュータなどの各種用途に好適に用いることができる。これらのなかでも、ホログラム記録媒体に備えられるフォトリフラクティブ部材として特に好適に用いることができる。
【0046】
本発明のフォトリフラクティブ部材を用いて、慣用の方法によりホログラム記録媒体を製造することができる。その方法や形状等は特に限定されない。フォトリフラクティブ部材からなる記録媒体に物体光および参照光を照射してフォトリフラクティブ部材中に屈折率パターンを形成する。従って、物体光の波長は、フォトリフラクティブ部材の吸収波長の範囲内でなければならない。再生光としては、特に限定はない。たとえば、物体光としては、波長400〜800nmのレーザ光を好ましく使用できる。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0048】
<実施例1>
非線形光学色素としての3−[(4−ニトロフェニル)アゾ]−9H−カルバゾール−9−エタノール(NACzE)12g、非光導電性な透明樹脂としてのポリメタクリル酸メチル(Sigma−Aldrich社製、重量平均分子量(Mw): 996,000、SP値:9.7)28gを、溶媒としてのN,N−ジメチルホルムアミド10ccに溶解する事で、フォトリフラクティブ材料溶液を得た。
【0049】
次いで、得られたフォトリフラクティブ材料溶液を、ガラス基板上に、N雰囲気下、110℃、2時間の条件でキャスト成膜し、次いで、100℃、20時間の条件で減圧乾燥することにより、溶媒としてのN,N−ジメチルホルムアミドを除去した後、フィルムをガラス基板から剥離することで、20cm×20cmの大きさのフィルムを得た。
【0050】
次いで、上記にて得られたフィルムを、一対の成形型により、上下から熱プレスし、次いで、室温で冷却することにより、厚み222μmのフォトリフラクティブフィルムを得た。なお、熱プレスの条件は、成形型温度:240℃、プレス圧:15MPaとした。成形型のフィルムに接する面の算術平均粗さRaは、0.07μmであった。
【0051】
上記にて得られたフィルムを治具で固定し、80℃の熱風で5分間アニーリングすることによりフォトリフラクティブ部材を得た。
【0052】
ガラス転移温度(Tg)
上記にて得られたフォトリフラクティブフィルムについて、示差走査熱量計(製品名「DSC8500」、PerkinElmer社製)を用いて、測定温度範囲10〜220℃にて、昇温速度10℃/分で昇温し、次いで、220℃に到達した後、降温速度10℃/分の条件で降温し、再度、昇温速度10℃/分で昇温した際におけるDSC曲線に基づいて、ガラス転移温度(Tg)を求めた。補外ガラス転移開始温度は77℃、中間点ガラス転移温度は87℃であった。
【0053】
透過率
上記にて得られたフォトリフラクティブ部材の波長633nmの光の透過率を、グロスメーター(日本電色工業(株)製、グロスメーターVG2000)を用い、JIS K 7105に準拠して測定した。結果を表1に示す。
【0054】
回折効率
回折効率は、材料による光の損失を考慮した回折効率で、全ての次数の回折光の放射束の和に対する再生波の放射束の比(%)で定義する。
【0055】
測定方法は、フォトリフラクティブ部材にHe−Neレーザ(波長:633nm:)1mW/mmを書き込みおよび再生光としたとき、ホログラムが記録されていない場合の透過光の放射束を光検出器(THORLABS製DET100A/M)で測定し、その値を全ての次数の回折光の放射束の和とした。その後、2光波結合法によりホログラム記録を3分間を行ない、その間の、再生波の放射束を光検出器により測定し、全ての次数の回折光の放射束の和に対する再生波の放射束最大値との比を回折効率として評価した(JIS Z8791)。
【0056】
相対回折効率(%)={再生波の放射束/全ての次数の回折光の放射束の和}×100
【0057】
応答時間(回折応答速度)
応答時間は、回折効率が30%となるまでの時間を測定することにより行った。具体的には、上記した回折効率の測定において、回折効率が30%となった時間を検出し、回折効率が30%となった時間を応答時間とした。なお、応答時間が短いほど、回折応答速度が速いと評価することができる。結果を表1に示す。
【0058】
<実施例2、3、比較例1〜4>
実施例1と同様にフォトリフラクティブフィルムを作製し、アニーリングのために用いる熱風の温度を、100℃(実施例2)、120℃(実施例3)、40℃(比較例1)、60℃(比較例2)、140℃(比較例3)、160℃(比較例4)とし、アニーリングしたフォトリフラクティブ部材を作製し、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【表1】
【0059】
<実施例4、5>
実施例1と同様にフォトリフラクティブフィルムを作製し、120℃でアニーリングしたフォトリフラクティブ部材(実施例4)と、120℃でアニーリングした後、縦軸方向に1.4倍延伸したフォトリフラクティブ部材(実施例5)を作製し、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【表2】
【0060】
<比較例5〜7、実施例6〜8>
非線形光学色素としての3−[(2、4、6−トリクロロフェニル)アゾ]−9H−カルバゾール−9−エタノール12g、非光導電性な透明樹脂としてのポリメタクリル酸メチル(Sigma−Aldrich社製、重量平均分子量(Mw): 996,000、SP値:9.7)28gを、溶媒としてのN,N−ジメチルホルムアミド10ccに溶解する事で、フォトリフラクティブ材料溶液を得た。
【0061】
実施例1と同様にフォトリフラクティブフィルムを作製し、アニーリングのために用いる熱風の温度を、80℃(実施例6)、100℃(実施例7)、120℃(実施例8)、40℃(比較例5)、60℃(比較例6)、160℃(比較例7)とし、アニーリングしたフォトリフラクティブ部材を作製し、実施例1と同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【表3】