(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6120620
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】固体酸化物形燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0606 20160101AFI20170417BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20170417BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20170417BHJP
【FI】
H01M8/06 K
H01M8/12
H01M8/04 N
H01M8/04 J
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-51348(P2013-51348)
(22)【出願日】2013年3月14日
(65)【公開番号】特開2014-179187(P2014-179187A)
(43)【公開日】2014年9月25日
【審査請求日】2015年12月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092727
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 忠昭
(72)【発明者】
【氏名】中尾 孝之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 稔
【審査官】
大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−16356(JP,A)
【文献】
特開平7−138069(JP,A)
【文献】
特開2001−255299(JP,A)
【文献】
特開2007−103194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/04−8/0668,8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質膜、前記固体電解質膜の片面側に配設された燃料極および前記固体電解質膜の他面側に配設された酸素極を備えた燃料電池セルと、燃料ガスを改質する改質器とを備え、前記燃料電池セルおよび前記改質器が高温空間を規定する電池ハウジング内に収容され、前記改質器にて改質された水素を含有する改質燃料ガスが前記燃料極側に供給され、酸素を含有する酸化ガスが前記酸素極側に供給される固体酸化物形燃料電池システムであって、
前記電池ハウジング内の酸素雰囲気中の酸素分圧低下による前記燃料電池セルの前記酸素極の還元膨張を抑えるために、酸素不定比性を有する酸素不定比性材が前記電池ハウジング内の前記酸素雰囲気中に配設されており、前記酸素雰囲気中の酸素分圧が低下すると、前記酸素不定比性材は酸素欠陥状態となって酸素を放出することを特徴とする固体酸化物形燃料電池システム。
【請求項2】
前記燃料電池セルは、前記燃料極を支持体として前記固体電解質膜および前記酸素極がこの順に配設されていることを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池システム。
【請求項3】
前記燃料電池セルは、所定方向に複数配設されて燃料電池セルスタックを構成し、前記燃料電池セルスタックにおける隣接する燃料電池セルの間に、酸素を含有する酸化ガスが流れる酸化ガス流路が規定され、前記酸素不定比性材は前記酸化ガス流路および/または前記電池ハウジングの内面に配設されていることを特徴とする請求項2に記載の固体酸化物形燃料電池システム。
【請求項4】
前記燃料電池セルは、前記酸素極を支持体として前記固体電解質膜および前記燃料極がこの順に配設されていることを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池システム。
【請求項5】
前記燃料電池セルは、所定方向に複数配設されて燃料電池セルスタックを構成し、前記燃料電池セルスタックの複数の燃料電池セルの各々には、これを貫通して酸化ガス流路が設けられ、前記酸素不定比性材が前記酸化ガス流路に配設されていることを特徴とする請求項4に記載の固体酸化物形燃料電池システム。
【請求項6】
前記酸素不定比性材は、ランタンマンガナイト系酸化物材料、ランタンコバルタイト系酸化物材料、ランタンフェライト系酸化物材料およびランタンニッケライト系酸化物材料のいずれか、あるいはこれらのうちの任意の二つ以上の混合材料から形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の固体酸化物形燃料電池システム。
【請求項7】
前記ランタンマンガナイト系酸化物材料は、ランタンとマンガンとの比率(La:Mn)が1:1のもの(LaMnO(3±δ))であることを特徴とする請求項6記載の固体酸化物形燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料ガスおよび酸化材(酸化ガス)の酸化および還元により発電する燃料電池セルを備えた固体酸化物形燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池システムにおける燃料電池セルは、酸化物イオンを伝導する固体電解質膜を備え、この固体電解質膜の片側に燃料ガスを酸化する燃料極が設けられ、その他側に酸化ガス(例えば、空気中の酸素)を還元する酸素極が設けられている。固体電解質膜の材料としては、一般的に、イットリアを置換固溶させたジルコニアが用いられており、600〜1000℃の高温で燃料ガス(例えば、天然ガス、都市ガスなど)中の水素、一酸化炭素、炭化水素と酸化ガス(例えば、空気)中の酸素が電気化学反応して発電が行われる。
【0003】
この電解質膜材料として、希土類を置換固溶させたセリア系、またストロンチウム、マグネシウムなどを置換固溶させたランタン-ガリウム複合酸化物、ランタン-ケイ素からなるランタンシリケート系酸化物などが候補として挙げられる。
【0004】
燃料極の材料としては、ニッケルと電解質材料などからなるサーメットなどが用いられている。このサーメットを用いた場合、ニッケルの粒子サイズにもよるが、350〜400℃以上の温度状態において酸化雰囲気に曝されると、サーメイト中のニッケルが酸化ニッケルに酸化し、高温になるほどこの酸化反応は速度が大きくなる。
【0005】
また、酸素極の材料としては、ランタンマンガナイト系酸化物、ランタンコバルタイト系酸化物、ランタンフェライト系酸化物などが用いられている。酸素極に用いられるこれらの材料は、500℃以上の高温状態で還元雰囲気に曝されると、速やかに還元されて膨張し、クラックや剥離が発生し性能が急速的に低下する。
【0006】
この固体酸化物形燃料電池システムでは、燃料極、電解質膜及び酸素極が同室(即ち、電池ハウジング)内に設置され、燃料電池セル(燃料電池セルスタック)の劣化を抑制するためには、燃料極及び酸素極の近傍を適切な温度状態に管理すること、燃料極を還元雰囲気状態に制御すること、また酸素極を酸化雰囲気状態に制御することが必要不可欠であるが、燃料ガス、酸化ガス(例えば、空気)の逆流により酸化還元を伴う破損は急速な劣化を生じ、燃料電池セル(燃料電池セルスタック)の性能低下を引き起こす原因となっている。
【0007】
特に、停止工程時においては、燃料ガスおよび酸化ガスの供給が停止した状態となるために、燃料極に使用されるニッケルの酸化が起りやすくなる。このニッケルの酸化を防止するために、酸化ガス(例えば、空気)が入り込まないように電池ハウジングの気密性を高めることが従来から取り組まれている。しかし、気密性を高め、酸化ガスの入り込みを抑制し過ぎると、ニッケルの酸素消費が進行して電池ハウジング内の酸素量が低下し、これによって、電池ハウジング内の酸素分圧が低下し、その結果、酸素極の還元膨張に伴う燃料電池セルの寸法変化による割れなどが生じ、燃料電池セル(燃料電池セルスタック)の性能低下の原因となる。
【0008】
また、この停止工程中に、酸化ガス(例えば、空気)の供給を継続すれば、空気極の還元を防ぐことはできるが、燃料ガス供給を停止した状態で酸化ガスの供給を継続すると、ニッケル酸化によりニッケルサーメットの寸法変化が起こり、燃料電池セル(燃料電池セルスタック)の割れや性能低下の原因となる。
【0009】
このようなことから、異常停止時に、燃料極側に還元性ガスを酸素極側に酸化ガスをパージガスとして供給することで、燃料極(例えば、ニッケルサーメット)および/または酸素極の寸法変化による燃料電池セルの割れなどを抑制することが知られている(例えば、特許文献1および2)。このように燃料極側に燃料ガスを供給することによって、燃料極の酸化を抑えることができ、また酸素極側に酸化ガスを供給することによって、酸素極側の酸素量の低下を抑えることができ、上述した問題を解消することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−221836号公報
【特許文献2】特開2009−87862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一般的に、中大型の固体酸化物形燃料電池システムでは、いかなる状況でも高温時は燃料極側に還元性ガスが、また空気極側に酸化ガス(例えば、空気)が流れるように構成されており、例えば、燃料電池セルに関連して高圧ボンベラックが設けられ、この高圧ボンベラックから燃料極側に還元性ガス(例えば、窒素-水素混合ガスなど)が供給され、空気極側に酸化ガス(例えば、空気)が供給されるように構成されている。
【0012】
しかし、このようなパージガスを供給する技術は、中大型の個体酸化物形燃料電池システムには適用することができるが、小型の固体酸化物形燃料電池システム(特に、家庭用コージェネレーションシステムに用いる燃料電池システム)では、このような技術の採用は、製造コスト、メンテナンスコストなどが高くなり、また設置スペースが大きくなり、高圧ガスの保管という法規制の面からも難しくなる。
【0013】
本発明の目的は、電池ハウジング内部の酸素分圧を制御し、酸素極の還元膨張による燃料電池セルの割れなどを抑制することができる固体酸化物形燃料電池システムを提供することである。
【0014】
本発明の他の目的は、酸素分圧の制御を比較的簡単な構成でもって、安価に行うことができる固体酸化物形燃料電池システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池システムは、固体電解質膜、前記固体電解質膜の片面側に配設された燃料極および前記固体電解質膜の他面側に配設された酸素極を備えた燃料電池セルと、燃料ガスを改質する改質器とを備え、前記燃料電池セルおよび前記改質器が高温空間を規定する電池ハウジング内に収容され、前記改質器にて改質された水素を含有する改質燃料ガスが前記燃料極側に供給され、酸素を含有する酸化ガスが前記酸素極側に供給される固体酸化物形燃料電池システムであって、
前記電池ハウジング内の酸素雰囲気中の酸素分圧低下による前記燃料電池セルの前記酸素極の還元膨張を抑えるために、酸素不定比性を有する酸素不定比性材が前記電池ハウジング内の
前記酸素雰囲気中に配設されており、前記酸素雰囲気中の酸素分圧が低下すると、前記酸素不定比性材は酸素欠陥状態となって酸素を放出することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項2に記載の固体酸化物形燃料電池システムでは、前記燃料電池セルは、前記燃料極を支持体として前記固体電解質膜および前記酸素極がこの順に配設されていることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の請求項3に記載の固体酸化物形燃料電池システムでは、前記燃料電池セルは、所定方向に複数配設されて燃料電池セルスタックを構成し、前記燃料電池セルスタックにおける隣接する燃料電池セルの間に、酸素を含有する酸化ガスが流れる酸化ガス流路が規定され、前記酸素不定比性材は前記酸化ガス流路および/または前記電池ハウジングの内面に配設されていることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の請求項4に記載の固体酸化物形燃料電池システムでは、前記燃料電池セルは、前記酸素極を支持体として前記固体電解質膜および前記燃料極がこの順に配設されていることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の請求項5に記載の固体酸化物形燃料電池システムでは、前記燃料電池セルは、所定方向に複数配設されて燃料電池セルスタックを構成し、前記燃料電池セルスタックの複数の燃料電池セルの各々には、これを貫通して酸化ガス流路が設けられ、前記酸素不定比性材が前記酸化ガス流路に配設されていることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の請求項6に記載の固体酸化物形燃料電池システムでは、前記酸素不定比性材は、ランタンマンガナイト系酸化物材料、ランタンコバルタイト系酸化物材料、ランタンフェライト系酸化物材料およびランタンニッケライト系酸化物材料のいずれか、あるいはこれらのうちの任意の二つ以上の混合材料から形成されていることを特徴とする。
【0021】
更に、本発明の請求項7に記載の固体酸化物形燃料電池システムでは、前記ランタンマンガナイト系酸化物材料は、ランタンとマンガンとの比率(La:Mn)が1:1のもの(LaMnO
(3±δ))であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池システムによれば、
電池ハウジング内の酸素雰囲気中に、燃料電池セルの酸素極の還元膨張を抑えるための酸素不定比性材が配設されているので、通常稼働運転時においては、酸素雰囲気中に存在する酸素によって、この酸素不定比性材は結晶構造中に酸素欠陥が少ない状態に保たれる。一方、異常停止などにおいては、高温状態で燃料極のニッケルの酸化に伴う酸素消費により電池ハウジング内部の酸素分圧が低下するが、このような酸素分圧低下時には、酸素不定比性材の結晶構造中に酸素欠陥が生じて酸素を放出し、これにより、電池ハウジング内の酸素分圧の低下が抑えられ、その結果、酸素極の還元膨張、寸法変化による燃料電池セル(燃料電池セルスタック)の割れなどを抑制することができる。尚、この酸素不定比性材の酸素欠陥の増減は、酸素雰囲気中の酸素分圧に依存しており、その反応は可逆的に行われる。
【0023】
また、本発明の請求項2に記載の固体酸化物形燃料電池システムによれば、燃料極を支持体として固体電解質膜および酸素極がこの順に配設された燃料電池セルに適用することができる。
【0024】
また、本発明の請求項3に記載の固体酸化物形燃料電池システムによれば、燃料電池セルは、所定方向に配設されて燃料電池セルスタックを構成し、酸素不定比性材は、隣接する燃料電池セルの間に規定された酸化ガス流路(および/または電池ハウジングの内面)に配設されているので、通常稼働運転時においては、酸化ガス流路を流れる酸化ガス中の酸素(および/または電池ハウジング内に存在する酸素)によって、酸素不定比性材は結晶構造中に酸素欠陥が少ない状態に保たれる一方、異常停止などにおける燃料極の酸化に伴う酸素分圧の低下時においては、この酸素不定比性材は、結晶構造中に酸素欠陥が生じて酸素を酸化ガス流路(および/または電池ハウジング内)に放出する。
【0025】
また、本発明の請求項4に記載の固体酸化物形燃料電池システムによれば、酸素極を支持体として固体電解質膜および燃料極がこの順に配設された燃料電池セルに適用することができる。
【0026】
また、本発明の請求項5に記載の固体酸化物形燃料電池システムによれば、燃料電池セルは、所定方向に配設されて燃料電池セルスタックを構成し、酸素不定比性材は各燃料電池セルを貫通して設けられた酸化ガス流路に配設されているので、通常稼働運転時においては、この酸化ガス流路を流れる酸化ガス中の酸素によって、酸素不定比性材は結晶構造中に酸素欠陥が少ない状態に保たれる一方、異常停止などにおける燃料極の酸化に伴う酸素分圧の低下時においては、この酸素不定比性材は、結晶構造中に酸素欠陥が生じて酸素を酸化ガス流路に放出する。
【0027】
また、本発明の請求項6に記載の固体酸化物形燃料電池システムによれば、酸素不定比性材が、ランタンマンガナイト系酸化物材料、ランタンコバルタイト系酸化物材料、ランタンフェライト系酸化物材料およびランタンニッケライト系酸化物材料のいずれか、あるいはこれらのうちの任意の二つ以上の混合材料から形成されているので、酸素分圧が低下すると酸素欠陥状態となって酸素を放出する酸素不定比性を充分に発揮する。
【0028】
例えば、ランタンマンガナイト系酸化物材料は、ペロブスカイト構造を有し、酸素分圧変化に応じて遷移金属であるマンガンイオンの価数変化が生じ、その価数変化を電気的に補償するために、酸素量の変化が生じる。ランタンコバルタイト系酸化物材料、ランタンフェライト系酸化物材料およびランタンニッケライト系酸化物材料も同様の性質を示す。これらの酸素不定比性材料は、酸素分圧変化に応じて酸素量が変化するが、これらは可逆反応であり、酸素分圧が低下すると酸素欠陥形成に伴い酸素を放出し、酸素分圧が上昇すると酸素欠陥が減少する。
【0029】
また、本発明の請求項7に記載の固体酸化物形燃料電池システムによれば、酸素不定比性材料のランタンマンガナイト系酸化物は、ランタンとマンガンとの比率(La:Mn)が1:1のもの(LaMnO
(3±δ))であるので、大きな酸素不定比性を有し、酸素分圧が低下した際に多くの酸素を放出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明に伴う固体酸化物形燃料電池システムの一実施形態を示す簡略断面図。
【
図2】
図1の固体酸化物形燃料電池システムにおける燃料電池セルスタックを簡略的に示す図。
【
図3】
図2の燃料電池セルスタックにおける燃料電池セルおよびこれに関連する構成を示す簡略断面図。
【
図4】他の形態の燃料電池セルスタックにおける燃料電池セル及びこれに関連する構成を示す簡略断面図。
【
図5】各種酸素不定比性材料の酸素不定比性を示す図。
【
図6】ランタンマンガナイト系酸化物におけるストロンチウム置換固溶量と酸素不定比性の酸素分圧依存性との関係を示す図。
【
図7】ランタンマンガナイト系酸化物の各温度における酸素不定比性の酸素分圧依存性の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、添付図面を参照して、本発明に従う固体酸化物形燃料電池システムの一実施形態について説明する。
図1において、図示の固体酸化物形燃料電池システム2は、燃料としての燃料ガス(例えば、天然ガス、都市ガス)を改質するための改質器4と、改質器4にて改質された改質燃料ガスおよび酸化ガスとしての空気の酸化および還元によって発電を行う燃料電池セルスタック6とを備えている。燃料電池セルスタック6は、電気化学反応によって発電を行うための複数の固体酸化物形の燃料電池セル8(
図2及び
図3参照)を所定方向(
図2及び
図3において左右方向)に複数配設されて構成される(理解を容易にするために、
図2において4個示し、
図3において2個示す)。燃料電池セルスタック6の各燃料電池セル8は、酸化物イオンを伝導する固体電解質膜10と、固体電解質膜10の片面側(この形態では、内面側)に設けられた燃料極12と、固体電解質膜10の他面側(この形態では、外面側)に設けられた酸素極14とを備えており、固体電解質膜10として、たとえばイットリアを置換固溶したジルコニアが用いられる(
図2参照)。
【0032】
燃料電池セルスタック6(即ち、複数の燃料電池セル8)の燃料極12側は、改質燃料ガス送給ライン16を介して改質器4に接続され、この改質器4は、燃料ガス・水蒸気送給ライン18を介して気化混合器20に接続され、この気化混合器20は燃料ガス供給ライン22を介して燃料ガス供給源24に接続される。この燃料ガス供給源24は、例えば埋設管、貯蔵タンクなどから構成される。この燃料ガス供給ライン18には、ガス開閉弁26、脱硫器28および燃料ポンプ30が下流側に向けてこの順に配設されている。脱硫器28は、燃料ガスに含まれている硫黄成分を除去し、燃料ポンプ30は、燃料ガス供給ライン22を通して供給される燃料ガスを昇圧して下流側に供給する。また、ガス開閉弁26は、燃料ガス供給ライン22を開閉し、開状態のときには燃料ガスを供給し、閉状態のときには燃料ガスの供給を停止する。
【0033】
燃料電池セルスタック6の酸素極14側は、酸化ガスとしての空気を送給する酸化ガス送給ライン32を介して酸化ガス予熱器34に接続され、この酸化ガス予熱器34は、酸化ガス供給ライン36を介して酸化ガスブロア38に接続されている。
【0034】
燃料電池セルスタック6(即ち、複数の燃料電池セル8)の燃料極12側および酸素極14側の排出側には燃焼室40が設けられ、燃料電池セルスタック6の燃料極12側から排出された反応燃料ガス(残余燃料ガスを含む)と酸素極14側から排出された酸化ガス(例えば、空気)とが燃焼室40に送給されて燃焼され、この燃焼熱を利用して改質器4、燃料電池セルスタック6および気化混合器20が加熱される。この燃焼室40は排気ガスライン42を介して酸化ガス予熱器34に接続され、この酸化ガス予熱器34には排気ガス排出ライン44が接続されている。
【0035】
この固体酸化物形燃料電池システム2では、燃料ガスを改質するための水(即ち、改質用水)を供給するための水供給ライン46が気化混合器20に接続され、この水供給ライン46に水ポンプ48が配設されている。この水供給ライン46は、改質に用いる水を供給するための水タンク50(水供給源)に接続され、水タンク50内の水は、水ポンプ48によって水供給ライン46を通して気化混合器20に供給される。尚、燃料ガスを改質するための水は、水タンク50から供給することに代えて、またはこれに加えて、例えば燃焼室40からの排気ガスに含まれる水蒸気を凝縮回収して得られる凝縮水を用いるようにしてもよい。
【0036】
この形態では、断熱された高温空間52を規定する電池ハウジング54が設けられ、この電池ハウジング54の内面が断熱材(図示せず)により覆われており、この高温空間52内に、改質器4、燃料電池セルスタック6、気化混合器20および酸化ガス予熱器34が収容されている。この電池ハウジング54内の高温空間52は、固体酸化物形燃料電池システム2の稼働運転時に高温状態に保持される。
【0037】
この固体酸化物形燃料電池システム2の稼働運転は、次のようにして行われる。燃料ガス供給源24からの燃料ガスは、燃料ガス供給ライン22を通して気化混合器20に供給される。また、水タンク50からの水(改質用水)は、水供給ライン46を通して気化混合器20に供給される。気化混合器20においては、供給された燃料ガスおよび水が加熱され、水は気化して水蒸気となり、加熱された燃料ガスおよび水蒸気が燃料ガス・水蒸気送給ライン18を通して改質器4に送給される。
【0038】
改質器4には、水蒸気改質を促進するための改質触媒が充填されており、この改質器4に送給された燃料ガスは水蒸気によって水蒸気改質され、このように水蒸気改質された改質燃料ガスが改質燃料ガス送給ライン16を介して燃料電池セルスタック6(即ち、複数の燃料電池セル8)の燃料極12側に供給される。また、酸化ガスブロア38からの酸化ガス(例えば、空気)は、酸化ガス供給ライン36を介して酸化ガス予熱器34に送給され、この酸化ガス予熱器34にて加熱された後に、酸化ガス送給ライン32を介して燃料電池セルスタック6(即ち、複数の燃料電池セル8)の酸素極14側に送給される。
【0039】
燃料電池セルスタック6においては、その燃料極12側において改質された改質燃料ガスが酸化され、その酸素極14側において酸化ガス(例えば、空気)中の酸素が還元され、燃料極12側の酸化および酸素極14側の還元による電気化学反応により発電が行われる。燃料電池セルスタック6の燃料極12側からの反応燃料ガスおよび酸素極14側からの酸化ガスは燃焼室40に排出され、この燃焼室40にて酸化ガス中の酸素を利用して反応燃料ガス(具体的には、反応燃料ガス中の余剰の燃料ガス)が燃焼され、この燃焼熱を利用して改質器4が所定の改質温度に維持され、気化混合器20が所定の気化混合温度に維持される。
【0040】
燃焼室40からの排気ガスは、排気ガスライン42を介して酸化ガス予熱器34に送給され、この酸化ガス予熱器34において酸化ガスブロア38からの酸化ガスとの熱交換に用いられ、その後排気ガス排出ライン44を通して大気に排出される。
【0041】
次に、
図2及び
図3を参照して、上述した固体酸化物形燃料電池システム2の燃料電池スタック6及びこれに関連する構成について説明する。この実施形態では、燃料電池セルスタック6は基部ハウジング56を備え、この基部ハウジング56の上面に所定方向に複数の燃料電池セル8が配設されている。基部ハウジング56内は仕切り板58により下部空間58と上部空間60とに仕切られ、下部空間68が改質燃料ガス送給管62(改質燃料ガス送給ライン16の一部を構成する)に接続され、上部空間70が酸化ガス送給管64(酸化ガス送給ライン32の一部を構成する)に接続されている。
【0042】
この実施形態の各燃料電池セル8においては、
図3に示すように、燃料極12を支持体として固体電解質膜10および酸素極14が外側に向けてこの順に配設され、この燃料極12には、
図2及び
図3において上下方向にこれを貫通して燃料ガス流路66が設けられ、各燃料電池セル8の燃料ガス流路66が基部ハウジング56の下部空間60に連通されている。従って、改質燃料ガス送給ライン16を通して基部ハウジング56の下部空間60に送給された改質燃料ガスは、この下部空間60にて分配された後に各燃料電池セル8の燃料ガス流路66を通して矢印68で示すように流れる。
【0043】
また、基部ハウジング56の上壁の所定部位(隣接する燃料電池セル8間の部位)には開口68が設けられており、従って、酸化ガス送給ライン32を通して基部ハウジング56の上部空間62に送給された酸化ガスは、この上部空間62にて分配された後に各開口68から隣接する燃料電池セル8間に排出され、隣接する燃料電池セル8間を矢印72で示すように流れる。この場合、隣接する燃料電池セル8間の空間が、酸化ガスが流れる酸化ガス流路として機能する。
【0044】
この固体酸化物形燃料電池システム2では、異常停止時などにおける燃料電池セルスタック6(即ち、複数の燃料電池セル8)の燃料極12の酸化による酸素消費に伴う電池ハウジング54内(具体的には、燃料電池セルスタック6の内部)の酸素分圧低下を抑制するために、酸素雰囲気中に酸素不定比性材74が設けられている。
【0045】
主として、
図3を参照して、この実施形態では、電池ハウジング54の内面にプレート状の酸素不定比性材74が設けられ、このような酸素不定比性材74は、例えば電池ハウジング54の内面の断熱材(図示せず)に埋め込むように設けることができる。この酸素不定比性材74は、酸化ガス経路内に酸素極14に近接するように設けるようにしてもよい。
【0046】
この酸素不定比性材74は、周囲の酸素分圧が低下すると酸素欠陥状態となって酸素を放出する酸素不定比性を有する材料から形成され、このような酸素不定比性材料として、例えばランタンマンガナイト系酸化物材料、ランタンコバルタイト系酸化物材料、ランタンフェライト系酸化物材料およびランタンニッケライト系酸化物材料などを用いることができ、これらの材料のいずれかを単独で用いるようにしてもよく、或いはこれらの材料のうち任意の二つ以上を混合して混合材料として用いるようにしてもよい。例えば、ランタンマンガナイト系酸化物材料としては、ランタンサイトにストロンチウムやカルシウムなどの2価の元素を置換固溶させたものを用いることができる。
【0047】
このような酸素不定比性材料は、結晶構造中に遷移金属の価数変化に応じて、酸素欠陥を生じる材料であり、材料周辺の酸素分圧に依存して酸素欠陥量が増減する。酸素分圧が低下すると、遷移金属の価数が減少し、電気的中性を保つための電荷補償として酸素欠陥が生成され、酸素を放出するが、周囲の酸素分圧が高くなると、遷移金属の価数が増大し、酸素欠陥は酸素を取り込むことで消滅する。酸素不定比性材料の酸素不定比性は可逆反応であり、周囲の酸素分圧に応じて、酸素欠陥の生成に伴う酸素の取り込み、取り込んだ酸素の放出が行われる。
【0048】
図5は、各種酸素不定比性材における酸素分圧と酸素量との関係を示し、ランタンマンガナイト系酸化物材料(Mn:−▲−)、ランタンコバルタイト系酸化物材料(Co:−□−)、ランタンフェライト系酸化物材料(Fe:−◇−)の酸素分圧と酸素量との関係を示している。
図5から明らかなように、これらの酸素不定比性材料のうち最も酸素不定比性を示すのはランタンマンガナイト系酸化物材料であり、このようなことからランタンマンガナイト系酸化物材料から形成されたものを用いるのが望ましい。
【0049】
図6は、ランタンマンガナイト系酸化物材料の酸素欠陥量と酸素分圧依存性との関係を示し、
図6の横軸に酸素分圧、縦軸に酸素欠陥量を示している。ランタンマンガナイト系酸化物は酸素雰囲気において、酸素過剰領域(δ>0)の生成と還元雰囲気における酸素欠陥領域(δ<0)が存在する。ランタンマンガナイト系酸化物は2価のストロンチウム又はカルシウムが置換固溶され(ストロンチウムの場合の一般式:La
(1−X)Sr
XMnO
(3+δ))、
図6は、ストロンチウムの各固溶量(重量割合)(0.0重量%:−◇−、0.1重量%:−□−、0.2重量%:−△−、0.3重量%:−○−、4重量%:−X−)における酸素不正比量を示しており、その傾きが大きいほど酸素不定比性が大きくなることを示す(酸素分圧が低下したときにより多くの酸素を放出する)。
【0050】
図6から明らかなように、ランタンマンガナイト系酸化物材料では、2価元素の置換固溶により酸素欠陥量は減少するようになり、このようなことから、ランタンマンガナイト系酸化物材料を用いる場合、ランタンとマンガンとの比率(La:Mn)が1:1(一般式:LaMnO
(3±δ))の組成ものを用いるのが最も望ましい。
【0051】
図7は、ランタンマンガナイト系酸化物材料(LaMnO
(3±δ))の600〜1000℃の温度範囲における酸素不定比性の酸素分圧依存性を示しており、その傾きが大きいほど酸素不定比性が大きくなることを示す。
図7は、各温度(600℃:−□−、700℃:−◇−、800℃:−△−、900℃:−○−、1000℃:−X−)における酸素不定比量を示している。一般的に、固体酸化物形燃料電池システム2における燃料電池セルスタック6の作動温度は600〜1000℃程度であり、このようなことから酸素不定比性材料としてはランタンマンガナイト系酸化物材料が効果的であり、その組成もランタンとマンガンとの比率が1:1であるもの(LaMnO
(3±δ))が好適であり、このような材料から形成された酸素不定比材74を電池ハウジング54内の温度状態が600℃近傍である箇所に配置するのが最も望ましい。
【0052】
一般的に、固体酸化物形燃料電池システムにおいては、通常稼働運転中に異常停止状態になると、燃料ガス、水(改質用水)および酸化ガス(例えば、空気)の供給が停止される。燃料電池セルスタックが高温状態にて停止すると、その燃料極として例えばニッケルサーメットが採用されているとニッケルの酸化反応が生じる。ニッケルは350〜400℃以上の酸化雰囲気でニッケルの酸化反応が起こり、この酸化反応は高温ほど速度が大きくなる。従って、燃料ガスおよび酸化ガスが供給停止されると、電池ハウジング54内の酸素はニッケルの酸化により消費され続け、電池ハウジング54内の酸素分圧が低下していく。このようにして酸素分圧が低下すると、酸素極として例えばランタンコバルタイト系酸化物、ランタンフェライト系酸化物などが採用されていると還元膨張が生じるおそれがあり、例えば600〜800℃の温度領域で酸素分圧が10
3 Pa以下まで低下すると還元膨張による寸法変化が生じ、燃料電池セルスタックの割れなどの性能低下が生じる。
【0053】
一方、上述した固体酸化物形燃料電池システム2(酸素不定比性材74を備えたもの)においては、異常停止時において電池ハウジング54内の酸素分圧が低下すると、酸素不定比性材74は、その結晶構造中に酸素欠陥が生じて取り込んでいた酸素を放出し、これによって、電池ハウジング54内の酸素分圧の低下が抑えられる。その結果、燃料電池セルスタック6の酸素極14における還元膨張による割れなどの発生が抑制され、燃料電池セルスタック6を長期に渡って安定して稼働させることができる。
【0054】
尚、酸素不定比性材74の酸素欠陥状態は、通常稼働運転時に酸素を取り込んで解消される。即ち、通常稼働運転において酸化ガス(例えば、空気)が供給されると、電池ハウジング54内の酸素分圧が上昇し、かかる酸素分圧の上昇によって、酸素不定比性材74は、その結晶構造中に酸素を取り込み、このようにして酸素欠陥状態が解消され、酸素不定比性材74の酸素の取り込み、酸素の放出が繰り返し行われる。
【0055】
例えば、上述した実施形態では、燃料極を支持体とした燃料電池セルを備えた燃料電池セルスタックに適用して説明したが、このような形態のものに限定されず、
図4に示す形態の燃料電池セルスタック6Aにも同様に適用することができる。尚、
図4の変形形態において、上述した実施形態と実質同一の部材には同一の参照番号を付し、その説明を省略する。
【0056】
図4において、この変形形態の燃料電池セルスタック6Aの各燃料電池セル8Aにおいては、酸素極14Aを支持体として固体電解質膜10および燃料極12Aが外側に向けてこの順に配設され、この酸素極14Aには、
図4において上下方向にこれを貫通して酸化ガス流路82が設けられている。この形態では、図示していないが、燃料電池セルスタック6Aの基部ハウジングの下部空間に酸化ガス(例えば、空気)が送給され、各燃料電池セル8Aの酸化ガス流路82が基部ハウジングの下部空間に連通され、基部ハウジングの下部空間に送給された酸化ガスが矢印84で示すように流れる。また、基部ハウジングの上部空間に送給された燃料ガス(改質燃料ガス)はその上壁の開口から隣接する燃料電池セル8A間に排出され、隣接する燃料電池セル8A間を矢印86で示すように流れ、この変形形態では、隣接する燃料電池セル8A間の空間が、燃料ガスが流れる燃料ガス流路として機能する。
【0057】
このような燃料電池セルスタック6Aを用いた場合、酸素不定比性材74Aは、酸素雰囲気中である酸化ガス流路82内に配設され、このように構成することによって、上述したと同様の作用効果が達成され、異常停止時などにおける燃料電池セルスタック6Aの割れ発生などを抑えることができる。
【0058】
以上、本発明に従う固体酸化物形燃料電池システムの一実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形乃至修正が可能である。
【符号の説明】
【0059】
2 固体酸化物形燃料電池システム
4 改質器
6,6A 燃料電池セルスタック
8,8A 燃料電池セル
10 固体電解質
12,12A 燃料極
14,14A 酸素極
52 高温空間
54 電池ハウジング
74,74A 酸素不定比性材