特許第6120633号(P6120633)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6120633
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】ハニカム構造体
(51)【国際特許分類】
   B28B 3/20 20060101AFI20170417BHJP
   B01D 39/20 20060101ALI20170417BHJP
   B01D 46/00 20060101ALI20170417BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20170417BHJP
   B28B 11/02 20060101ALI20170417BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20170417BHJP
【FI】
   B28B3/20 E
   B01D39/20 D
   B01D46/00 302
   B01J35/04 301F
   B01J35/04 301A
   B01J35/04 301E
   B28B11/02
   F01N3/28 301P
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-67379(P2013-67379)
(22)【出願日】2013年3月27日
(65)【公開番号】特開2014-188882(P2014-188882A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2015年11月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100089347
【弁理士】
【氏名又は名称】木川 幸治
(74)【代理人】
【識別番号】100154379
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】高木 智由
【審査官】 伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−260322(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/126692(WO,A1)
【文献】 特開2002−046117(JP,A)
【文献】 特開2012−210610(JP,A)
【文献】 特許第3060539(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 3/20 − 3/26
B28B 11/00 −11/24
C04B 38/00 −38/10
B01D 53/34 −53/96
B01J 35/02 −35/10
F01N 3/021− 3/035
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの端面の間を連通する複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と、当該隔壁と一体的に形成された外周壁とを有し、その長さ方向に垂直な断面の外周形状が曲線を含む形状であり、
前記セルは、四角形の完全なセル断面を有する完全セルと、その一部が前記外周壁と接していることにより四角形を形成せず不完全な断面を有する不完全セルとからなり、
前記端面の重心を通って前記完全セルの断面形状である四角形の対角線方向に延びる直線を、前記重心を回転中心として±5゜の範囲で回転させたときの回転領域内に、少なくともその一部が含まれており、かつ、その断面形状が三角状である不完全セルを区画形成している前記隔壁と前記外周壁との交点に形成される角部の内、少なくともその角度が鈍角である角部が、R形状、逆R形状及びC面形状からなる群より選択される何れかの形状となるように厚肉化されており、
前記回転領域内にその一部が含まれていない不完全セルを区画形成している前記隔壁と前記外周壁との交点に形成される角部、及び、前記回転領域内に少なくともその一部が含まれているが、その断面形状が三角状ではない不完全セルを区画形成している前記隔壁の内、前記回転領域内に少なくともその一部が含まれており、かつ、その断面形状が三角状である不完全セルを区画形成している前記隔壁を兼ねるものではないものと前記外周壁との交点に形成される角部は厚肉化されていないハニカム構造体。
【請求項2】
前記回転領域内に、少なくともその一部が含まれており、かつ、その断面形状が三角状である不完全セルを区画形成している前記隔壁と前記外周壁との交点に形成される前記角部の内、その角度が鈍角である角部のみが、R形状、逆R形状及びC面形状からなる群より選択される何れかの形状となるように厚肉化されている請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項3】
所定のセルの一方の開口端部を目封止するとともに、残余のセルの他方の開口端部を目封止する目封止部材が形成された請求項1又は2に記載のハニカム構造体。
【請求項4】
二つの端面の間を連通する複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と、当該隔壁と一体的に形成された外周壁とを有し、その長さ方向に垂直な断面の外周形状が曲線を含む形状であり、
前記セルは、四角形の完全なセル断面を有する完全セルと、その一部が前記外周壁と接していることにより四角形を形成せず不完全な断面を有する不完全セルとからなり、
前記不完全セルの内、前記端面の重心を通って前記完全セルの断面形状である四角形の対角線方向に延びる直線を、前記重心を回転中心として±5゜の範囲で回転させたときの回転領域内に、少なくともその一部が含まれており、かつ、その断面形状が三角状である不完全セルのみが、その全長に渡って閉塞されているハニカム構造体。
【請求項5】
その全長に渡って閉塞されている前記不完全セルを除いて、所定のセルの一方の開口端部を目封止するとともに、残余のセルの他方の開口端部を目封止する目封止部材が形成された請求項4に記載のハニカム構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒コンバーターにおける触媒担体や、ディーゼルパティキュレートフィルタ等の微粒子捕集フィルタ等に使用されるハニカム構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
ハニカム構造体は、自動車エンジン等の内燃機関の排ガス浄化用触媒コンバーターにおける触媒担体や、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)等の微粒子捕集フィルタ等に広く使用されている。
【0003】
このような用途で使用されるハニカム構造体は、急峻な温度変化に晒されるため、当該温度変化によって破損しないような高い耐熱衝撃性が必要となる。ハニカム構造体の耐熱衝撃性を向上させる手段としては、一般に、熱容量を増大させたり、構造耐久性を高めたりすることが知られている。当該手段を用いたものとして、例えば、特許文献1には、最外周部に位置する全てのセルに、セラミック材料を充填したハニカム構造体が開示されている。また、特許文献2には、所定の外周領域に位置するセルの90%以上を閉塞したハニカム構造体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−12658号公報
【特許文献2】特開2004−154768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このように外周部に位置するセルの大部分を閉塞すると、熱容量が大きくなり過ぎて、触媒を担持させたハニカム構造体を、その触媒の作用温度まで上昇させるのに時間が掛かり、内燃機関の始動時における排ガス浄化性能が低下する。また、圧力損失も増大するため、内燃機関の燃費が悪化する。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、熱容量や圧力損失を過度に増大させることなく、耐熱衝撃性を向上させたハニカム構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明によれば、以下のハニカム構造体が提供される。
【0008】
[1] 二つの端面の間を連通する複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と、当該隔壁と一体的に形成された外周壁とを有し、その長さ方向に垂直な断面の外周形状が曲線を含む形状であり、前記セルは、四角形の完全なセル断面を有する完全セルと、その一部が前記外周壁と接していることにより四角形を形成せず不完全な断面を有する不完全セルとからなり、前記端面の重心を通って前記完全セルの断面形状である四角形の対角線方向に延びる直線を、前記重心を回転中心として±5゜の範囲で回転させたときの回転領域内に、少なくともその一部が含まれており、かつ、その断面形状が三角状である不完全セルを区画形成している前記隔壁と前記外周壁との交点に形成される角部の内、少なくともその角度が鈍角である角部が、R形状、逆R形状及びC面形状からなる群より選択される何れかの形状となるように厚肉化されており、前記回転領域内にその一部が含まれていない不完全セルを区画形成している前記隔壁と前記外周壁との交点に形成される角部、及び、前記回転領域内に少なくともその一部が含まれているが、その断面形状が三角状ではない不完全セルを区画形成している前記隔壁の内、前記回転領域内に少なくともその一部が含まれており、かつ、その断面形状が三角状である不完全セルを区画形成している前記隔壁を兼ねるものではないものと前記外周壁との交点に形成される角部は厚肉化されていないハニカム構造体。
【0009】
[2] 前記回転領域内に、少なくともその一部が含まれており、かつ、その断面形状が三角状である不完全セルを区画形成している前記隔壁と前記外周壁との交点に形成される前記角部の内、その角度が鈍角である角部のみが、R形状、逆R形状及びC面形状からなる群より選択される何れかの形状となるように厚肉化されている[1]に記載のハニカム構造体。
【0010】
[3] 所定のセルの一方の開口端部を目封止するとともに、残余のセルの他方の開口端部を目封止する目封止部材が形成された[1]又は[2]に記載のハニカム構造体。
【0011】
[4] 二つの端面の間を連通する複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と、当該隔壁と一体的に形成された外周壁とを有し、その長さ方向に垂直な断面の外周形状が曲線を含む形状であり、前記セルは、四角形の完全なセル断面を有する完全セルと、その一部が前記外周壁と接していることにより四角形を形成せず不完全な断面を有する不完全セルとからなり、前記不完全セルの内、前記端面の重心を通って前記完全セルの断面形状である四角形の対角線方向に延びる直線を、前記重心を回転中心として±5゜の範囲で回転させたときの回転領域内に、少なくともその一部が含まれており、かつ、その断面形状が三角状である不完全セルのみが、その全長に渡って閉塞されているハニカム構造体。
【0012】
[5] その全長に渡って閉塞されている前記不完全セルを除いて、所定のセルの一方の開口端部を目封止するとともに、残余のセルの他方の開口端部を目封止する目封止部材が形成された[4]に記載のハニカム構造体。
【発明の効果】
【0013】
本発明のハニカム構造体は、急峻な温度変化が生じた際に応力が集中する特定の部位のみを、角部の厚肉化又はセルの閉塞により、限定的(選択的)に補強したものである。このため、本発明のハニカム構造体は、熱容量や圧力損失の過度な増大を生じることなく、高い耐熱衝撃性を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係るハニカム構造体の実施形態の一例を示す概略斜視図である。
図2】本発明に係るハニカム構造体の実施形態の一例を示す端面方向から見た概略平面図である。
図3】本発明における三角状の不完全セルが、どのようなものであるかを示す説明図である。
図4】回転領域内に少なくともその一部が含まれる三角状の不完全セルとその周辺の部位を拡大して示した要部拡大図である。
図5】角部の角度を測定する方法を示す説明図である。
図6】R形状となるように厚肉化された角部の状態を示す要部拡大図である。
図7】逆R形状となるように厚肉化された角部の状態を示す要部拡大図である。
図8】C面形状となるように厚肉化された角部の状態を示す要部拡大図である。
図9】回転領域内に少なくともその一部が含まれる三角状の不完全セルが閉塞された状態を示す要部拡大図である。
図10】実施例1〜8及び比較例1〜7の評価結果を示すグラフである。
図11】実施例9〜15及び比較例8〜12の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具体的な実施形態に基づき説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0016】
(1)ハニカム構造体:
図1は、本発明に係るハニカム構造体の実施形態の一例を示す概略斜視図であり、図2は、本発明に係るハニカム構造体の実施形態の一例を示す端面方向から見た概略平面図である。
【0017】
本発明に係るハニカム構造体1は、二つの端面10,11の間を連通する複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁3と、隔壁3と一体的に形成された外周壁4とを有する。セルは、四角形の完全なセル断面を有する完全セル5と、その一部が外周壁4と接していることにより四角形を形成せず不完全な断面を有する不完全セル6とからなる。また、不完全セル6には、断面形状が三角状である不完全セル(以下、「三角状不完全セル」と言う。)6aと、それ以外の断面形状が三角状ではない不完全セル6bとが存在する。ここで言う「三角状」とは、セルの断面形状が完全な三角形であることをのみを意味するものではなく、セルの断面形状を構成する輪郭の一部(外周壁4と接している部分)が円弧状のような曲線状であるものも含む。具体的には、図3に示すように、その不完全セル6を区画形成している隔壁3と外周壁4との交点間を線分Sで結んだ場合において、線分Sとその不完全セル6を区画形成している隔壁3とによって三角形が形成されるときに、その不完全セルを、三角状不完全セル6aとする。
【0018】
本発明に係るハニカム構造体1においては、特定の領域内に少なくともその一部が含まれる三角状不完全セル6aを区画形成している隔壁3と外周壁4との交点に形成される角部の内、少なくともその角度が鈍角である角部が厚肉化されている。ここで言う特定の領域とは、図2に示すように、端面の重心Gを通って完全セル5の断面形状である四角形の対角線方向に延びる直線L1,L2を、重心Gを回転中心として±5゜の範囲で回転させたときの回転領域20a,20b,20c,20dのことである。尚、本明細書においては、以下、このような回転領域のことを、単に「回転領域」と言う。
【0019】
図4は、回転領域20a,20b,20c,20d内に少なくともその一部が含まれる三角状不完全セル6aとその周辺の部位を拡大して示した要部拡大図である。回転領域20a,20b,20c,20d内に少なくともその一部が含まれる三角状不完全セル6aを区画形成している隔壁3と外周壁4との交点に形成される角部8には、その角度が鈍角である角部8aと、その角度が鋭角である角部8bとがある。本発明者らが、熱応力解析によって、ハニカム構造体に急峻な温度変化が生じた際の応力集中部位を調査したところ、これらの角部8、特に角部8aに応力が集中することがわかった。
【0020】
本発明に係るハニカム構造体1は、このような知見に基づいて、角部8a及び8bの内、少なくともその角度が鈍角である角部8aを厚肉化したものである。ハニカム構造体に急峻な温度変化が生じた際に、特に応力が集中する部位である角部8aを選択的に厚肉化することで、熱容量や圧力損失の過度な増大を生じることなく、耐熱衝撃性を効果的に向上させることができる。本発明に係るハニカム構造体1は、その角度が鈍角である角部8aと、その角度が鋭角である角部8bとが、両方とも厚肉化されていてもよいが、角部8aのみを厚肉化するだけでも、十分な耐熱衝撃性向上効果が得られる。また、角部8aと角部8bとの両方を厚肉化するよりも、角部8aのみを厚肉化する方が、角部の厚肉化による圧力損失の増大を小さく抑えることができる。
【0021】
尚、三角状不完全セル6aの断面形状を構成する輪郭の一部(外周壁4と接している部分)が円弧状のような曲線状である場合、三角状不完全セル6aを区画形成している隔壁3と外周壁4との交点に形成される角部の角度は、以下のようにして求められた角度とする。まず、図5に示すように、三角状不完全セル6a及びそれに隣接する不完全セル6bを区画形成している隔壁3と外周壁4との交点間を線分S1,S2,S3で結ぶ。そしてこれら線分S1,S2,S3と隔壁3とにより形成される角部の角度α1,α2,β1,β2を求める。図5では、このようにして求められた角部の角度の内、α1,α2が鈍角であり、β1,β2が鋭角である。
【0022】
本発明に係るハニカム構造体1においては、角部8が、R形状、逆R形状及びC面形状からなる群より選択される何れかの形状となるように厚肉化されている。図6は、角部8aが、R形状となるように厚肉化された状態を示しており、図7は、角部8aが、逆R形状となるように厚肉化された状態を示している。また、図8は、角部8aが、C面形状となるように厚肉化された状態を示している。尚、図6〜8では、角部8aのみが厚肉化されているが、前記の通り、角部8aと角部8bとの両方が厚肉化されていてもよい。
【0023】
角部8が、R形状又は逆R形状となるように厚肉化されている場合、そのR(曲率半径)は80μm以上であることが好ましく、100μm以上であることが更に好ましい。また、角部8が、C面形状となるように厚肉化されている場合、Cが55μm以上であることが好ましく、70μm以上であることが更に好ましい。Rが80μm未満、あるいはCが55μm未満であると、十分な耐熱衝撃性向上効果が得られない場合がある。
【0024】
本発明に係るハニカム構造体1において、前記のように厚肉化される角部は、回転領域20a,20b,20c,20d内に少なくともその一部が含まれる三角状不完全セル6aを区画形成している隔壁3と外周壁4との交点に形成される角部8のみである。それ以外の角部までもが厚肉化されていると、耐熱衝撃性は向上しても、熱容量や圧力損失の過度な増大を生じる。
【0025】
本発明に係るハニカム構造体1においては、前記のような角部の厚肉化の代わりに、回転領域20a,20b,20c,20d内に少なくともその一部が含まれる三角状不完全セル6aが、その全長に渡って閉塞されていてもよい。図9は、回転領域20a,20b,20c,20d内に少なくともその一部が含まれる三角状不完全セル6aが、充填材12によって閉塞された状態を示している。このように、回転領域20a,20b,20c,20d内に少なくともその一部が含まれる三角状不完全セル6aを選択的に閉塞することで、熱容量や圧力損失の過度な増大を生じることなく、耐熱衝撃性を効果的に向上させることができる。
【0026】
尚、本発明に係るハニカム構造体1において、前記のように、その全長に渡って閉塞される不完全セルは、回転領域20a,20b,20c,20d内に少なくともその一部が含まれる三角状不完全セル6aのみである。それ以外の不完全セルまでもが閉塞されていると、耐熱衝撃性は向上しても、熱容量や圧力損失の過度な増大を生じる。
【0027】
本発明に係るハニカム構造体1は、その長さ方向に垂直な断面の外周形状が曲線を含む形状である。具体的な形状としては、例えば、図1に示すような円形の他、楕円形、長円形(オーバル形)等が挙げられる。また、本発明に係るハニカム構造体1の完全セル5のセル形状(セルの軸方向に直交する断面におけるセルの形状)は、正方形、長方形等の四角形である。
【0028】
本発明に係るハニカム構造体1を、DPF等の微粒子捕集フィルタに用いる場合には、所定のセルの一方の開口端部を目封止するとともに、残余のセルの他方の開口端部を目封止する目封止部材が形成されることが好ましい。このように、各セルの一方の開口端部を目封止部にて目封止することにより、ハニカム構造体は、ウォールフロー型の微粒子捕集フィルタとなる。尚、目封止部は、ハニカム構造体の一方の端面と他方の端面とが、それぞれ、目封止部によって開口端部が目封止されたセルと、目封止部によって開口端部が目封止されていないセルとにより、市松模様を呈するような配置となるように形成されることが好ましい。但し、その全長に渡って閉塞されている三角状不完全セルを有するハニカム構造体においては、当該三角状不完全セルは、目封止部の形成対象から除外される。
【0029】
本発明に係るハニカム構造体1を、排ガス浄化用触媒コンバーターにおける触媒担体に用いる場合には、隔壁3に排ガス浄化用の触媒が担持されることが好ましい。隔壁3に担持する排ガス浄化用の触媒としては、例えば、三元触媒、SCR触媒、酸化触媒等の従来公知の触媒が挙げられる。
【0030】
本発明に係るハニカム構造体1の形成材料は、特に限定されないが、セラミック材料であることが好ましい。特に、強度及び耐熱性に優れることより、コージェライト、炭化珪素、珪素−炭化珪素系複合材料、ムライト、アルミナ、チタン酸アルミニウム、窒化珪素、及び炭化珪素−コージェライト系複合材料からなる群から選択される少なくとも1種のセラミック材料が好適に使用できる。
【0031】
また、目封止部を形成する場合、その目封止部の形成材料には、ハニカム構造体の形成材料と同じ材料を用いることが好ましい。そうすることにより、ハニカム構造体と目封止部との熱膨張差を小さくすることができ、ハニカム構造体と目封止部との間に生じる熱応力を緩和することができる。
【0032】
本発明に係るハニカム構造体1において、隔壁3の平均細孔径は、特に限定されないが、5〜40μmであることが好ましく、10〜25μmであることが更に好ましい。隔壁3の平均細孔径が5μm未満では、ハニカム構造体の圧力損失が大きくなりすぎる場合がある。一方、隔壁3の平均細孔径が40μmを超えると、十分な強度が得られない場合がある。尚、ここで言う「平均細孔径」は、水銀ポロシメータによって測定された値である。
【0033】
本発明に係るハニカム構造体1において、隔壁3の気孔率は、特に限定されないが、30〜85%であることが好ましく、35〜70%であることが更に好ましい。隔壁3の気孔率が30%未満では、ハニカム構造体の圧力損失が大きくなりすぎる場合がある。一方、隔壁3の気孔率が85%を超えると、十分な強度が得られない場合がある。尚、ここで言う「気孔率」は、水銀ポロシメータによって測定された値である。
【0034】
本発明に係るハニカム構造体1において、隔壁3の厚さは、特に限定されないが、100〜600μmであることが好ましく、110〜560μmであることが更に好ましい。隔壁3の厚さが100μm未満であると、十分な強度が得られない場合がある。また、隔壁3の厚さが600μmを超えると、ハニカム構造体の圧力損失が大きくなりすぎる場合がある。
【0035】
本発明に係るハニカム構造体1において、セル密度は、特に限定されないが、10〜70セル/cmであることが好ましく、15〜50セル/cmであることが更に好ましい。セル密度が、10セル/cm未満では、排ガスとの接触効率が低下する場合がある。一方、セル密度が、70セル/cm超えると、十分な強度が得られない場合がある。
【0036】
本発明に係るハニカム構造体は、排ガス浄化用触媒コンバーターにおける触媒担体や、DPF等の微粒子捕集フィルタ等に好適に使用することができる。
【0037】
(2)ハニカム構造体の製造方法:
以下、本発明に係るハニカム構造体の製造方法の一例を説明する。まず、セラミック原料を含有する成形原料を混合し、混練して坏土を得る。セラミック原料としては、コージェライト化原料、コージェライト、炭化珪素、珪素−炭化珪素系複合材料、ムライト、アルミナ、チタン酸アルミニウム、窒化珪素、及び炭化珪素−コージェライト系複合材料からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。尚、コージェライト化原料とは、焼成されることによりコージェライトになる原料のことであり、具体的には、シリカが42〜56質量%、アルミナが30〜45質量%、マグネシアが12〜16質量%の範囲に入る化学組成となるように配合された原料である。
【0038】
成形原料は、前記セラミック原料に、分散媒、焼結助剤、有機バインダ、界面活性剤、造孔材等を混合して調製することが好ましい。
【0039】
分散媒としては、水を用いることが好ましい。分散媒の含有量は、成形原料を混練して得られる坏土が成形しやすい硬度となるように適宜調整する。具体的な分散媒の含有量としては、成形原料全体に対して20〜80質量%であることが好ましい。
【0040】
焼結助剤としては、例えば、イットリア、マグネシア、酸化ストロンチウム等を用いることができる。焼結助剤の含有量は、成形原料全体に対して0.1〜0.3質量%であることが好ましい。
【0041】
有機バインダとしては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等のを挙げることができる。これらの中でも、メチルセルロースとヒドロキシプロポキシルセルロースとを併用することが好ましい。バインダの含有量は、成形原料全体に対して2〜10質量%であることが好ましい。
【0042】
界面活性剤としては、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等を用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。界面活性剤の含有量は、成形原料全体に対して2質量%以下であることが好ましい。
【0043】
造孔材としては、焼成後に気孔となるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、グラファイト、澱粉、発泡樹脂、中空樹脂、吸水性樹脂、シリカゲル等を挙げることができる。造孔材の含有量は、成形原料全体に対して10質量%以下であることが好ましい。
【0044】
次に、成形原料を混練して坏土を形成する。成形原料を混練して坏土を形成する方法としては特に制限はなく、例えば、ニーダー、真空土練機等を用いる方法を挙げることができる。
【0045】
次いで、得られた坏土を成形して、ハニカム状の成形体(ハニカム成形体)を形成する。坏土を成形してハニカム成形体を形成する方法としては、押出成形を用いることが好ましい。この押出成形において、厚肉化しようとする角部に対応した部位が、その厚肉化した状態に対応した形状となっている口金を用い、その口金を通じて坏土を押し出すことにより、所定の角部が厚肉化されたハニカム成形体が得られる。また、所定の角部を厚肉化する代わりに、所定の三角状不完全セルをその全長に渡って閉塞する場合は、まず、前記のような所定の角部の厚肉化には対応していない一般的な口金を用いて、通常のハニカム成形体を押出成形する。その後、得られたハニカム成形体の所定の三角状不完全セルに、充填材を充填することにより、当該三角状不完全セルを、その全長に渡って閉塞する。充填材には、成形原料と同じ材料を用いることが好ましい。尚、充填材の充填は、ハニカム成形体の乾燥後に行ってもよい。
【0046】
こうして得られたハニカム成形体を乾燥させた後、焼成する。乾燥方法は、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等を挙げることができる。中でも、誘電乾燥、マイクロ波乾燥又は熱風乾燥を単独で又は組み合わせて行うことが好ましい。
【0047】
乾燥後のハニカム成形体は、焼成(本焼成)の前に仮焼することが好ましい。仮焼は、脱脂のために行うものである。仮焼の方法については特に制限はない。例えば、ハニカム成形体中の有機物の少なくとも一部を除去することができればよい。前記有機物としては、有機バインダ、界面活性剤、造孔材等を挙げることができる。有機バインダの燃焼温度は100〜300℃程度である。このため、仮焼は、酸化雰囲気において、200〜1000℃程度で、10〜100時間程度加熱することが好ましい。
【0048】
ハニカム成形体の焼成(本焼成)は、仮焼したハニカム成形体を構成する成形原料を焼結させて緻密化し、所定の強度を確保するために行われるものである。焼成の条件は、成形原料の種類により異なるため、その種類に応じて適当な条件を選択すればよい。例えば、コージェライト化原料を使用している場合には、焼成温度は、1350〜1440℃が好ましい。また、焼成時間は、最高温度でのキープ時間として、3〜10時間が好ましい。仮焼、本焼成を行う装置としては、電気炉、ガス炉等を挙げることができる。
【0049】
目封止部が形成されたハニカム構造体を製造する場合、その目封止部の形成には、従来公知の方法を用いることができる。具体的な方法の一例としては、まず、前記のような方法で作製したハニカム成形体の端面にシートを貼り付ける。次いで、このシートの、目封止部を形成しようとするセルに対応した位置に穴を開ける。次に、このシートを貼り付けたままの状態で、目封止部の形成材料をスラリー化した目封止用スラリーに、ハニカム成形体の端面を浸漬し、シートに開けた孔を通じて、目封止しようとするセルの開口端部内に目封止用スラリーを充填する。こうして充填した目封止用スラリーを乾燥した後、焼成して硬化させることより、目封止部が形成される。目封止部は、ハニカム構造体の両端面が相補的な市松模様を呈するような配置で形成されることが好ましい。また、目封止部の形成材料には、ハニカム成形体の形成材料と同じ材料を用いることが好ましい。尚、目封止部の形成は、ハニカム成形体の乾燥後、仮焼後、焼成(本焼成)後の何れの段階で行ってもよい。
【0050】
このような製造方法によって、急峻な温度変化が生じた際に応力が集中する特定の部位のみが、角部の厚肉化又はセルの閉塞により、限定的(選択的)に補強された本発明のハニカム構造体が得られる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
セラミック原料として、コージェライト化原料(アルミナ、タルク、カオリン)を用いた。アルミナ、タルク、カオリンの質量比は、焼成後、コージェライトが得られる質量比とした。このセラミック原料に、バインダ(メチルセルロース)と、水とを混合して、セラミック成形原料を得た。得られたセラミック成形原料を、ニーダーを用いて混練して、坏土を得た。
【0053】
次に、得られた坏土をハニカム形状に押出成形し、ハニカム成形体を得た。尚、この押出成形には、所定の角部の厚肉化には対応していない一般的な口金を用いた。こうして得られたハニカム成形体を、マイクロ波乾燥機で乾燥した後、更に熱風乾燥機で乾燥して、ハニカム乾燥体を得た。
【0054】
次いで、このハニカム乾燥体の不完全セルの内、回転領域内に少なくともその一部が含まれる三角状不完全セルであって、ハニカム乾燥体の端面の重心を通って完全セルの断面形状である正方形の対角線方向に延びる直線上に存在するものに、成形原料と同じ材料からなる充填材を充填し、その三角状不完全セルを全長に渡って閉塞した。
【0055】
こうして、所定の三角状不完全セルに充填した充填材を乾燥した後、このハニカム乾燥体を、大気雰囲気にて550℃で3時間かけて仮焼(脱脂)した。その後、約1400℃〜1500℃で2時間焼成して、実施例1のハニカム構造体を得た。このハニカム構造体は、回転領域内に少なくともその一部が含まれる三角状不完全セルであって、当該ハニカム構造体の端面の重心を通って完全セルの断面形状である正方形の対角線方向に延びる直線上に存在するもののみが、その全長に渡って閉塞されたものである。また、このハニカム構造体は、その長さ方向に垂直な断面の外周形状が円形で、当該断面の直径が143.8mmである。また、このハニカム構造体は、長さが152.4mm、完全セルのセル形状が正方形、セル密度が46.5セル/cm、隔壁の厚さが305μm、隔壁の気孔率が52%、隔壁の平均細孔径が13μmである。
【0056】
(実施例2)
実施例1と同様にして作製した坏土を、厚肉化しようとする角部に対応した部位が、その厚肉化した状態に対応した形状となっている口金を用いて、ハニカム形状に押出成形し、ハニカム成形体を得た。こうして得られたハニカム成形体を、実施例1と同様の方法で、乾燥、仮焼及び焼成して、実施例2のハニカム構造体を得た。このハニカム構造体は、回転領域内に少なくともその一部が含まれる三角状不完全セルを区画形成している隔壁と外周壁との交点に形成される角部の内、その角度が鈍角である角部のみが、R形状となるように厚肉化されたものである。R形状におけるR(曲率半径)は、100μmとした。また、このハニカム構造体の長さ方向に垂直な断面の外周形状は円形で、当該断面の直径は、実施例1のハニカム構造体と同一である。また、このハニカム構造体の長さ、完全セルのセル形状、セル密度、隔壁の厚さ、隔壁の気孔率、及び隔壁の平均細孔径も、実施例1のハニカム構造体と同一である。
【0057】
(実施例3)
実施例1と同様にして作製した坏土を、厚肉化しようとする角部に対応した部位が、その厚肉化した状態に対応した形状となっている口金を用いて、ハニカム形状に押出成形し、ハニカム成形体を得た。こうして得られたハニカム成形体を、実施例1と同様の方法で、乾燥、仮焼及び焼成して、実施例3のハニカム構造体を得た。このハニカム構造体は、回転領域内に少なくともその一部が含まれる三角状不完全セルを区画形成している隔壁と外周壁との交点に形成される角部であって、その角度が鈍角であるものと鋭角であるものとの両方が、R形状となるように厚肉化されたものである。R形状におけるR(曲率半径)は、100μmとした。また、このハニカム構造体の長さ方向に垂直な断面の外周形状は円形で、当該断面の直径は、実施例1のハニカム構造体と同一である。また、このハニカム構造体の長さ、完全セルのセル形状、セル密度、隔壁の厚さ、隔壁の気孔率、及び隔壁の平均細孔径も、実施例1のハニカム構造体と同一である。
【0058】
(実施例4)
実施例1と同様にして作製した坏土を、厚肉化しようとする角部に対応した部位が、その厚肉化した状態に対応した形状となっている口金を用いて、ハニカム形状に押出成形し、ハニカム成形体を得た。こうして得られたハニカム成形体を、実施例1と同様の方法で、乾燥、仮焼及び焼成して、実施例4のハニカム構造体を得た。このハニカム構造体は、回転領域内に少なくともその一部が含まれる三角状不完全セルを区画形成している隔壁と外周壁との交点に形成される角部の内、その角度が鈍角である角部のみが、C面形状となるように厚肉化されたものである。C形状におけるCは、70μmとした。また、このハニカム構造体の長さ方向に垂直な断面の外周形状は円形で、当該断面の直径は、実施例1のハニカム構造体と同一である。また、このハニカム構造体の長さ、完全セルのセル形状、セル密度、隔壁の厚さ、隔壁の気孔率、及び隔壁の平均細孔径も、実施例1のハニカム構造体と同一である。
【0059】
(実施例5)
実施例1と同様にして得たハニカム乾燥体の不完全セルの内、回転領域内に少なくともその一部が含まれる三角状不完全セルに、成形原料と同じ材料からなる充填材を充填し、その三角状不完全セルを全長に渡って閉塞した。こうして、所定の三角状不完全セルに充填した充填材を乾燥した後、このハニカム乾燥体を、実施例1と同様の方法で、仮焼及び焼成して、実施例5のハニカム構造体を得た。このハニカム構造体は、回転領域内に少なくともその一部が含まれる三角状不完全セルのみが、その全長に渡って閉塞されたものである。また、このハニカム構造体の長さ方向に垂直な断面の外周形状は円形で、当該断面の直径は、実施例1のハニカム構造体と同一である。また、このハニカム構造体の長さ、完全セルのセル形状、セル密度、隔壁の厚さ、隔壁の気孔率、及び隔壁の平均細孔径も、実施例1のハニカム構造体と同一である。
【0060】
(実施例6)
実施例1と同様にして作製した坏土を、厚肉化しようとする角部に対応した部位が、その厚肉化した状態に対応した形状となっている口金を用いて、ハニカム形状に押出成形し、ハニカム成形体を得た。こうして得られたハニカム成形体を、実施例1と同様の方法で、乾燥、仮焼及び焼成して、実施例6のハニカム構造体を得た。このハニカム構造体は、回転領域内に少なくともその一部が含まれる三角状不完全セルを区画形成している隔壁と外周壁との交点に形成される角部の内、その角度が鈍角である角部のみが、R形状となるように厚肉化されたものである。R形状におけるR(曲率半径)は、80μmとした。また、このハニカム構造体の長さ方向に垂直な断面の外周形状は円形で、当該断面の直径は、実施例1のハニカム構造体と同一である。また、このハニカム構造体の長さ、完全セルのセル形状、セル密度、隔壁の厚さ、隔壁の気孔率、及び隔壁の平均細孔径も、実施例1のハニカム構造体と同一である。
【0061】
(実施例7)
実施例1と同様にして作製した坏土を、厚肉化しようとする角部に対応した部位が、その厚肉化した状態に対応した形状となっている口金を用いて、ハニカム形状に押出成形し、ハニカム成形体を得た。こうして得られたハニカム成形体を、実施例1と同様の方法で、乾燥、仮焼及び焼成して、実施例7のハニカム構造体を得た。このハニカム構造体は、回転領域内に少なくともその一部が含まれる三角状不完全セルを区画形成している隔壁と外周壁との交点に形成される角部の内、その角度が鈍角である角部のみが、C面形状となるように厚肉化されたものである。C形状におけるCは、55μmとした。また、このハニカム構造体の長さ方向に垂直な断面の外周形状は円形で、当該断面の直径は、実施例1のハニカム構造体と同一である。また、このハニカム構造体の長さ、完全セルのセル形状、セル密度、隔壁の厚さ、隔壁の気孔率、及び隔壁の平均細孔径も、実施例1のハニカム構造体と同一である。
【0062】
(実施例8)
実施例1と同様にして作製した坏土を、厚肉化しようとする角部に対応した部位が、その厚肉化した状態に対応した形状となっている口金を用いて、ハニカム形状に押出成形し、ハニカム成形体を得た。こうして得られたハニカム成形体を、実施例1と同様の方法で、乾燥、仮焼及び焼成して、実施例8のハニカム構造体を得た。このハニカム構造体は、回転領域内に少なくともその一部が含まれる三角状不完全セルを区画形成している隔壁と外周壁との交点に形成される角部の内、その角度が鈍角である角部のみが、逆R形状となるように厚肉化されたものである。逆R形状におけるR(曲率半径)は、50μmとした。また、このハニカム構造体の長さ方向に垂直な断面の外周形状は円形で、当該断面の直径は、実施例1のハニカム構造体と同一である。また、このハニカム構造体の長さ、完全セルのセル形状、セル密度、隔壁の厚さ、隔壁の気孔率、及び隔壁の平均細孔径も、実施例1のハニカム構造体と同一である。
【0063】
(比較例1)
実施例1と同様にしてハニカム乾燥体を得た。このハニカム乾燥体を、何れのセルにも充填材を充填することなく、実施例1と同様の方法で、仮焼及び焼成して、比較例1のハニカム構造体を得た。このハニカム構造体は、所定の角部の厚肉化も、所定の三角状不完全セルの閉塞も施されていない通常のハニカム構造体である。このハニカム構造体の長さ方向に垂直な断面の外周形状は円形で、当該断面の直径は、実施例1のハニカム構造体と同一である。また、このハニカム構造体の長さ、完全セルのセル形状、セル密度、隔壁の厚さ、隔壁の気孔率、及び隔壁の平均細孔径も、実施例1のハニカム構造体と同一である。
【0064】
(比較例2)
実施例1と同様にして得たハニカム乾燥体の不完全セルの内、回転領域内に少なくともその一部が含まれる全ての不完全セル(三角状不完全セル以外の不完全セルも含む)に、成形原料と同じ材料からなる充填材を充填し、その不完全セルを全長に渡って閉塞した。こうして、所定の不完全セルに充填した充填材を乾燥した後、このハニカム乾燥体を、実施例1と同様の方法で、仮焼及び焼成して、比較例2のハニカム構造体を得た。このハニカム構造体は、回転領域内に少なくともその一部が含まれる全ての不完全セル(三角状不完全セル以外の不完全セルも含む)が、その全長に渡って閉塞されたものである。また、このハニカム構造体の長さ方向に垂直な断面の外周形状は円形で、当該断面の直径は、実施例1のハニカム構造体と同一である。また、このハニカム構造体の長さ、完全セルのセル形状、セル密度、隔壁の厚さ、隔壁の気孔率、及び隔壁の平均細孔径も、実施例1のハニカム構造体と同一である。
【0065】
(比較例3)
実施例1と同様にして得たハニカム乾燥体の全ての不完全セル(その全体が回転領域内に含まれていない不完全セルも含む)に、成形原料と同じ材料からなる充填材を充填し、その不完全セルを全長に渡って閉塞した。こうして、不完全セルに充填した充填材を乾燥した後、このハニカム乾燥体を、実施例1と同様の方法で、仮焼及び焼成して、比較例3のハニカム構造体を得た。このハニカム構造体は、全ての不完全セル(その全体が回転領域内に含まれていない不完全セルも含む)が、その全長に渡って閉塞されたものである。また、このハニカム構造体の長さ方向に垂直な断面の外周形状は円形で、当該断面の直径は、実施例1のハニカム構造体と同一である。また、このハニカム構造体の長さ、完全セルのセル形状、セル密度、隔壁の厚さ、隔壁の気孔率、及び隔壁の平均細孔径も、実施例1のハニカム構造体と同一である。
【0066】
(比較例4)
実施例1と同様にして作製した坏土を、厚肉化しようとする角部に対応した部位が、その厚肉化した状態に対応した形状となっている口金を用いて、ハニカム形状に押出成形し、ハニカム成形体を得た。こうして得られたハニカム成形体を、実施例1と同様の方法で、乾燥、仮焼及び焼成して、比較例4のハニカム構造体を得た。このハニカム構造体は、回転領域内に少なくともその一部が含まれる不完全セル(三角状不完全セル以外の不完全セルも含む)を区画形成している隔壁と外周壁との交点に形成される角部の全てが、R形状となるように厚肉化されたものである。R形状におけるR(曲率半径)は、100μmとした。また、このハニカム構造体の長さ方向に垂直な断面の外周形状は円形で、当該断面の直径は、実施例1のハニカム構造体と同一である。また、このハニカム構造体の長さ、完全セルのセル形状、セル密度、隔壁の厚さ、隔壁の気孔率、及び隔壁の平均細孔径も、実施例1のハニカム構造体と同一である。
【0067】
(比較例5)
実施例1と同様にして作製した坏土を、厚肉化しようとする角部に対応した部位が、その厚肉化した状態に対応した形状となっている口金を用いて、ハニカム形状に押出成形し、ハニカム成形体を得た。こうして得られたハニカム成形体を、実施例1と同様の方法で、乾燥、仮焼及び焼成して、比較例5のハニカム構造体を得た。このハニカム構造体は、回転領域内に少なくともその一部が含まれる三角状不完全セルを区画形成している隔壁と外周壁との交点に形成される角部の内、その角度が鋭角である角部のみが、R形状となるように厚肉化されたものである。R形状におけるR(曲率半径)は、100μmとした。また、このハニカム構造体の長さ方向に垂直な断面の外周形状は円形で、当該断面の直径は、実施例1のハニカム構造体と同一である。また、このハニカム構造体の長さ、完全セルのセル形状、セル密度、隔壁の厚さ、隔壁の気孔率、及び隔壁の平均細孔径も、実施例1のハニカム構造体と同一である。
【0068】
(比較例6)
実施例1と同様にして作製した坏土を、厚肉化しようとする角部に対応した部位が、その厚肉化した状態に対応した形状となっている口金を用いて、ハニカム形状に押出成形し、ハニカム成形体を得た。こうして得られたハニカム成形体を、実施例1と同様の方法で、乾燥、仮焼及び焼成して、比較例6のハニカム構造体を得た。このハニカム構造体は、全ての不完全セル(その全体が回転領域内に含まれていない不完全セルも含む)を区画形成している隔壁と外周壁との交点に形成される角部が、全てR形状となるように厚肉化されたものである。R形状におけるR(曲率半径)は、100μmとした。また、このハニカム構造体の長さ方向に垂直な断面の外周形状は円形で、当該断面の直径は、実施例1のハニカム構造体と同一である。また、このハニカム構造体の長さ、完全セルのセル形状、セル密度、隔壁の厚さ、隔壁の気孔率、及び隔壁の平均細孔径も、実施例1のハニカム構造体と同一である。
【0069】
(比較例7)
実施例1と同様にして作製した坏土を、厚肉化しようとする角部に対応した部位が、その厚肉化した状態に対応した形状となっている口金を用いて、ハニカム形状に押出成形し、ハニカム成形体を得た。こうして得られたハニカム成形体を、実施例1と同様の方法で、乾燥、仮焼及び焼成して、比較例7のハニカム構造体を得た。このハニカム構造体は、その全体が回転領域内に含まれていない不完全セルを区画形成している隔壁と外周壁との交点に形成される角部が、全てR形状となるように厚肉化されたものである。R形状におけるR(曲率半径)は、100μmとした。また、このハニカム構造体の長さ方向に垂直な断面の外周形状は円形で、当該断面の直径は、実施例1のハニカム構造体と同一である。また、このハニカム構造体の長さ、完全セルのセル形状、セル密度、隔壁の厚さ、隔壁の気孔率、及び隔壁の平均細孔径も、実施例1のハニカム構造体と同一である。
【0070】
(評価)
実施例1〜8及び比較例1〜7のハニカム構造体について、下記の方法で、電気炉スポーリング性(ESP)及び圧力損失の評価を行い、その結果を表1及び図10に示した。
【0071】
[電気炉スポーリング性(ESP)の評価]
室温より所定温度高い温度に保った電気炉に室温のハニカム構造体を入れて20分間保持後、耐火レンガ上へハニカム構造体を取り出し15分間以上自然放置した後、室温になるまで冷却してから、ハニカム構造体にクラックが生じているか調べた。この操作を、ハニカム構造体にクラックが生じるまで繰り返した。尚、電気炉内温度は、前記操作を繰り返す度に50℃ずつ上昇させていった。ハニカム構造体にクラックが生じていることが確認された操作の1回前の操作における電気炉内温度を、ハニカム構造体の安全温度とした。そして、比較例1のハニカム構造体(所定の角部の厚肉化も、所定の三角状不完全セルの閉塞も施されていない通常のハニカム構造体)の安全温度を基準とし、それに対する実施例1〜8及び比較例2〜7のハニカム構造体の安全温度の上昇率を算出した。この上昇率が高い程、耐熱衝撃性が高いハニカム構造体であると言える。
【0072】
[圧力損失の評価]
室温条件下において、ハニカム構造体に、10m/分の流量で空気を流通させ、ハニカム構造体の入口側と出口側とで圧力を測定した。こうして測定された入口側における圧力と出口側における圧力との圧力差を、ハニカム構造体の圧力損失とした。そして、比較例1のハニカム構造体(所定の角部の厚肉化も、所定の三角状不完全セルの閉塞も施されていない通常のハニカム構造体)の圧力損失を基準とし、それに対する実施例1〜8及び比較例2〜7のハニカム構造体の圧力損失の上昇率を算出した。この上昇率が低い程、エンジン等の内燃機関への影響(燃費の悪化等)が小さいハニカム構造体であると言える。
【0073】
【表1】
【0074】
(考察)
表1及び図10に示すとおり、本発明の実施例である実施例1〜8のハニカム構造体は、比較例1のハニカム構造体と比較して、圧力損失がほとんど上昇していないにも係わらず、ESPが向上していることが確認された。一方、本発明に含まれない比較例2〜7のハニカム構造体は、比較例1のハニカム構造体と比較して、圧力損失が大幅に上昇しているか、ESPが同等以下であることが確認された。
【0075】
(実施例9)
その長さ方向に垂直な断面の外周形状を長円形(オーバル形)とした以外は、実施例1と同様にして、実施例9のハニカム構造体を得た。尚、このハニカム構造体の長さ方向に垂直な断面の外周形状である長円形は、長径が198.3mmであり、短径が102.2mmである。また、このハニカム構造体の長さ、完全セルのセル形状、セル密度、隔壁の厚さ、隔壁の気孔率、及び隔壁の平均細孔径は、実施例1のハニカム構造体と同一である。
【0076】
(実施例10)
その長さ方向に垂直な断面の外周形状を長円形(オーバル形)とした以外は、実施例2と同様にして、実施例10のハニカム構造体を得た。尚、このハニカム構造体の長さ方向に垂直な断面の外周形状である長円形の長径及び短径は、実施例9のハニカム構造体と同一である。また、このハニカム構造体の長さ、完全セルのセル形状、セル密度、隔壁の厚さ、隔壁の気孔率、及び隔壁の平均細孔径は、実施例1のハニカム構造体と同一である。
【0077】
(実施例11)
その長さ方向に垂直な断面の外周形状を長円形(オーバル形)とした以外は、実施例3と同様にして、実施例11のハニカム構造体を得た。尚、このハニカム構造体の長さ方向に垂直な断面の外周形状である長円形の長径及び短径は、実施例9のハニカム構造体と同一である。また、このハニカム構造体の長さ、完全セルのセル形状、セル密度、隔壁の厚さ、隔壁の気孔率、及び隔壁の平均細孔径は、実施例1のハニカム構造体と同一である。
【0078】
(実施例12)
その長さ方向に垂直な断面の外周形状を長円形(オーバル形)とした以外は、実施例4と同様にして、実施例12のハニカム構造体を得た。尚、このハニカム構造体の長さ方向に垂直な断面の外周形状である長円形の長径及び短径は、実施例9のハニカム構造体と同一である。また、このハニカム構造体の長さ、完全セルのセル形状、セル密度、隔壁の厚さ、隔壁の気孔率、及び隔壁の平均細孔径は、実施例1のハニカム構造体と同一である。
【0079】
(実施例13)
その長さ方向に垂直な断面の外周形状を長円形(オーバル形)とした以外は、実施例6と同様にして、実施例13のハニカム構造体を得た。尚、このハニカム構造体の長さ方向に垂直な断面の外周形状である長円形の長径及び短径は、実施例9のハニカム構造体と同一である。また、このハニカム構造体の長さ、完全セルのセル形状、セル密度、隔壁の厚さ、隔壁の気孔率、及び隔壁の平均細孔径は、実施例1のハニカム構造体と同一である。
【0080】
(実施例14)
その長さ方向に垂直な断面の外周形状を長円形(オーバル形)とした以外は、実施例7と同様にして、実施例14のハニカム構造体を得た。尚、このハニカム構造体の長さ方向に垂直な断面の外周形状である長円形の長径及び短径は、実施例9のハニカム構造体と同一である。また、このハニカム構造体の長さ、完全セルのセル形状、セル密度、隔壁の厚さ、隔壁の気孔率、及び隔壁の平均細孔径は、実施例1のハニカム構造体と同一である。
【0081】
(実施例15)
その長さ方向に垂直な断面の外周形状を長円形(オーバル形)とした以外は、実施例8と同様にして、実施例15のハニカム構造体を得た。尚、このハニカム構造体の長さ方向に垂直な断面の外周形状である長円形の長径及び短径は、実施例9のハニカム構造体と同一である。また、このハニカム構造体の長さ、完全セルのセル形状、セル密度、隔壁の厚さ、隔壁の気孔率、及び隔壁の平均細孔径は、実施例1のハニカム構造体と同一である。
【0082】
(比較例8)
その長さ方向に垂直な断面の外周形状を長円形(オーバル形)とした以外は、比較例1と同様にして、比較例8のハニカム構造体を得た。尚、このハニカム構造体の長さ方向に垂直な断面の外周形状である長円形の長径及び短径は、実施例9のハニカム構造体と同一である。また、このハニカム構造体の長さ、完全セルのセル形状、セル密度、隔壁の厚さ、隔壁の気孔率、及び隔壁の平均細孔径は、実施例1のハニカム構造体と同一である。
【0083】
(比較例9)
その長さ方向に垂直な断面の外周形状を長円形(オーバル形)とした以外は、比較例2と同様にして、比較例9のハニカム構造体を得た。尚、このハニカム構造体の長さ方向に垂直な断面の外周形状である長円形の長径及び短径は、実施例9のハニカム構造体と同一である。また、このハニカム構造体の長さ、完全セルのセル形状、セル密度、隔壁の厚さ、隔壁の気孔率、及び隔壁の平均細孔径は、実施例1のハニカム構造体と同一である。
【0084】
(比較例10)
その長さ方向に垂直な断面の外周形状を長円形(オーバル形)とした以外は、比較例3と同様にして、比較例10のハニカム構造体を得た。尚、このハニカム構造体の長さ方向に垂直な断面の外周形状である長円形の長径及び短径は、実施例9のハニカム構造体と同一である。また、このハニカム構造体の長さ、完全セルのセル形状、セル密度、隔壁の厚さ、隔壁の気孔率、及び隔壁の平均細孔径は、実施例1のハニカム構造体と同一である。
【0085】
(比較例11)
その長さ方向に垂直な断面の外周形状を長円形(オーバル形)とした以外は、比較例4と同様にして、比較例11のハニカム構造体を得た。尚、このハニカム構造体の長さ方向に垂直な断面の外周形状である長円形の長径及び短径は、実施例9のハニカム構造体と同一である。また、このハニカム構造体の長さ、完全セルのセル形状、セル密度、隔壁の厚さ、隔壁の気孔率、及び隔壁の平均細孔径は、実施例1のハニカム構造体と同一である。
【0086】
(比較例12)
その長さ方向に垂直な断面の外周形状を長円形(オーバル形)とした以外は、比較例6と同様にして、比較例12のハニカム構造体を得た。尚、このハニカム構造体の長さ方向に垂直な断面の外周形状である長円形の長径及び短径は、実施例9のハニカム構造体と同一である。また、このハニカム構造体の長さ、完全セルのセル形状、セル密度、隔壁の厚さ、隔壁の気孔率、及び隔壁の平均細孔径は、実施例1のハニカム構造体と同一である。
【0087】
(評価)
実施例9〜15及び比較例8〜12のハニカム構造体について、上記の方法と同様にして、電気炉スポーリング性(ESP)及び圧力損失の評価を行い、その結果を表2及び図11に示した。但し、電気炉スポーリング性(ESP)の評価においては、比較例8のハニカム構造体の安全温度を基準とし、それに対する実施例9〜15及び比較例9〜12のハニカム構造体の安全温度の上昇率を算出した。同様に、圧力損失の評価においては、比較例8のハニカム構造体の圧力損失を基準とし、それに対する実施例9〜15及び比較例9〜12のハニカム構造体の圧力損失の上昇率を算出した。
【0088】
【表2】
【0089】
(考察)
表2及び図11に示すとおり、本発明の実施例である実施例9〜15のハニカム構造体は、比較例8のハニカム構造体と比較して、圧力損失がほとんど上昇していないにも係わらず、ESPが向上していることが確認された。一方、本発明に含まれない比較例9〜12のハニカム構造体は、比較例8のハニカム構造体と比較して、圧力損失が大幅に上昇しているか、ESPが同等以下であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、排ガス浄化用触媒コンバーターにおける触媒担体や、DPF等の微粒子捕集フィルタ等に利用することができる。
【符号の説明】
【0091】
1:ハニカム構造体、3:隔壁、4:外周壁、5:完全セル、6:不完全セル、6a:断面形状が三角状である不完全セル(三角状不完全セル)、6b:断面形状が三角状ではない不完全セル(三角状不完全セル以外の不完全セル)、8:角部、8a:角部(その角度が鈍角である角部)、8b:角部(その角度が鋭角である角部)、10:端面、11:端面、12:充填材、20a,20b,20c,20d:回転領域、G:重心、S,S1,S2,S3:線分。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11