(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
配管同士の接続部をシールするために用いられる配管シール用フッ素樹脂製ガスケットの高温時における面圧保持性を評価する方法であって、200℃の温度で面圧35MPaの締め付け圧における圧縮率が15%以下であることを基準として配管シール用フッ素樹脂製ガスケットの高温時における面圧保持性を評価することを特徴とする配管シール用フッ素樹脂製ガスケットの高温時における面圧保持性の評価方法。
【背景技術】
【0002】
一般に、配管用シール材には、フッ素樹脂製ガスケット、メタルジャケットガスケット、うず巻形ガスケットなどのガスケットが用いられている。高い応力緩和性と高い気密性(シール性)とが両立した配管シール用フッ素樹脂製ガスケットとして、例えば、黒鉛、カーボンブラックなどの炭素系充填材、タルクなどの無機系充填材、樹脂粉体、炭素繊維などの繊維材などの充填材が配合された充填材入りフッ素樹脂シートからなるガスケットなどが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
前記ガスケットは、応力緩和性および高い気密性が良好であるが、当該ガスケットを2つのフランジの間に挟み、ボルトで固定した直後から、ボルト軸力が徐々に低下する。ボルト軸力の低下は、特に配管内に導入された高温の流体の流動が停止し、前記ガスケットの温度が低下したときに大きくなる。ガスケットが一般に使用される状況を考慮すれば、配管内への高温の流体の導入の停止が1カ月あたり1回の割合で行なわれたときに、短くても1年間はガスケットを使用することができることが望まれる。
【0004】
ガスケットの高温時における特性を評価する方法として、例えば、JIS R3453で規定されている応力緩和率を指標とする方法が一般的である(例えば、特許文献2の「表2」参照)。しかし、応力緩和率を指標としてボルト軸力の低下の程度を評価したとき、当該応力緩和率は、フランジ締付体におけるフランジの大きさ、ガスケットの大きさ、ボルトの大きさ、使用期間などによって左右されるため、実際にガスケットが使用されている環境におけるガスケットの高温時における面圧保持性を適切に評価することが困難である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の配管シール用フッ素樹脂製ガスケットの高温時における面圧保持性の評価方法は、前記したように、200℃の温度で面圧35MPaの締め付け圧における圧縮率が15%以下であることを基準として配管シール用フッ素樹脂製ガスケットの高温時における面圧保持性を評価することを特徴とする。200℃の温度で面圧35MPaの締め付け圧における配管シール用フッ素樹脂製ガスケットの圧縮率が15%以下であるとき、短くても1年間は面圧保持性に優れると評価することができる。
【0011】
なお、本明細書において、「圧縮率」は、ガスケットに所定面圧を付加した際に、ガスケットが圧縮される変位(mm)をガスケットの元の厚さ(mm)で除した値の百分率(%)を意味する。「応力緩和率」は、ガスケットに一定の歪を与えた状態で加熱した後、冷却し、生じた応力の低下を起こす比率を意味し、より具体的にはJIS R3453に準じて測定された値を意味する。「ボルト軸力」は、2つのフランジ間にガスケットを挟み、フランジ同士をボルトで締め付けることによって発生する軸力(ボルトの軸方向に加わる力)を意味する。このボルト軸力が低下すると、フランジ間に緩みが生じるため、配管内の流体が当該フランジ間から漏洩するようになる。
【0012】
本発明に用いられる配管シール用フッ素樹脂製ガスケットは、例えば、フッ素樹脂、充填材、および必要により加工助剤を含有するガスケット形成用樹脂組成物をシート状に成形することによって製造することができる。
【0013】
フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体(ECTFE)などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのフッ素樹脂は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらのフッ素樹脂のなかでは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、成形性および加工性の観点から好ましい。
【0014】
フッ素樹脂は、粉末状のものであってもよく、あるいはフッ素樹脂粉末を溶媒に分散させた分散液であってもよい。フッ素樹脂粉末の分散液は、充填材を容易に均一に分散させることができるという利点がある。
【0015】
充填材としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、活性炭、カーボンナノチューブなどの炭素系充填材;タルク、マイカ、クレー、炭酸カルシウム、酸化マグネシウムなどの無機充填材;ポリフェニレンサルファイドなどの樹脂の紛体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。充填材の平均粒子径は、好ましくは0.1〜100μm、より好ましくは1〜30μmである。なお、充填材の平均粒子径は、レーザー回折散乱法で測定した粒度分布において、累積個数が50%となるときの粒子径(メジアン径)である。充填材の形状は、均一に分散させる観点から、球状であることが好ましい。ガスケット形成用樹脂組成物における充填材の含有率は、当該ガスケットの種類などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、5〜60質量%程度であることが好ましい。
【0016】
加工助剤としては、例えば、パラフィン系炭化水素溶媒などの石油系炭化水素溶媒などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。石油系炭化水素溶媒は、商業的に容易に入手することができるものであり、その例としては、アイソパーC、アイソパーE、アイソパーG、アイソパーH、アイソパーL、アイソパーM〔以上、エクソンモービル(有)製、商品名〕などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。ガスケット形成用樹脂組成物における加工助剤の含有率は、当該ガスケットの種類などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、5〜35質量%程度であることが好ましい。
【0017】
ガスケット形成用樹脂組成物には、本発明の目的が阻害されない範囲内で、例えば、テルペン樹脂、テルペン−フェノール樹脂、クマロン樹脂、クマロン−インデン樹脂、ロジンなどの粘着性付与剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、重合禁止剤、充填剤、顔料などの着色剤などが適量で含まれていてもよい。
【0018】
ガスケット形成用樹脂組成物は、フッ素樹脂、充填材、必要により、加工助剤、添加剤などを任意の順序で一度に、または少量ずつ複数回に分けて均一な組成を有するように混合することによって調製することができる。なお、均一な組成を有するガスケット形成用樹脂組成物を得るために、ガスケット形成用樹脂組成物に加工助剤を過剰量で添加し、十分に撹拌した後に、過剰量の加工助剤を、例えば、濾過、揮散などの手段によって除去してもよい。
【0019】
200℃の温度で面圧35MPaの締め付け圧で締め付けたときの配管シール用フッ素樹脂製ガスケットの圧縮率は、前記ガスケット形成用樹脂組成物の組成を適宜調整することにより、容易に調節することができる。
【0020】
配管シール用フッ素樹脂製ガスケットは、前記ガスケット形成用樹脂組成物を用い、予備成形、圧延、乾燥および焼成を順次行なうことによって製造することができる。
【0021】
ガスケット形成用樹脂組成物の予備成形は、例えば、ガスケット形成用樹脂組成物を押出成形することによって行なうことができる。この押出成形により、プレフォーム(押出成形物)が得られる。押出成形物(プレフォーム)の形状は、特に限定されないが、その後のシート形成の効率、シート性状の均質性などを考慮すると、ロッド状またはリボン状であることが好ましい。
【0022】
次に、前記で得られた押出成形物(プレフォーム)を圧延する。押出成形物(プレフォーム)を圧延する方法としては、例えば、押出成形物(プレフォーム)を二軸ロールなどの圧延ロール間に通過させ、シート状に圧延、成形する方法などが挙げられる。押出成形物(プレフォーム)を圧延することによって得られた圧延シートをさらに複数回圧延してもよい。圧延シートの圧延を繰り返すことにより、圧延シートの内部をさらに緻密化させることができる。なお、圧延シートをさらに圧延させる場合には、通常、圧延を繰り返すごとに圧延ロールのロール間隔を狭くする。例えば、二軸ロールを用いて押出成形物(プレフォーム)を圧延することにより、圧延シートを製造する場合には、たとえば圧延ロール間距離を0.5〜20mmに調整し、圧延ロールの表面の移動速度(シート押出速度)を5〜50mm/秒に設定して押出成形物(プレフォーム)を圧延することができる。
【0023】
前記で得られた圧延シートには、加工助剤が残存している場合には、必要により、当該圧延シートを常温で放置するか、またはフッ素樹脂の沸点以下の温度で圧延シートを加熱することにより、加工助剤を除去してもよい。
【0024】
次に、前記で得られた圧延シートを焼成する。圧延シートを焼成する方法としては、例えば、圧延シートをフッ素樹脂の融点以上の温度で加熱し、焼結させる方法などが挙げられる。加熱温度は、フッ素樹脂の種類によって異なるが、圧延シート全体を均一に焼成するとともに、高温でフッ素系ガスが発生することを抑制する観点から、340〜370℃程度であることが好ましい。
【0025】
以上のようにして焼成された配管シール用フッ素樹脂製ガスケットは、そのままの状態でガスケットとして用いてもよく、あるいは所望の形状に裁断した後にガスケットとして用いてもよい。
【0026】
本発明においては、200℃の温度で面圧35MPaの締め付け圧における圧縮率が15%以下であることを基準として配管シール用フッ素樹脂製ガスケットの高温時における面圧保持性を評価するという操作が採られているので、実際に配管内に導入されている高温の流体の導入の停止が1カ月あたり1回の割合で1年間試験を行なわなくても、容易に高温時における面圧保持性を評価することができる。
【0027】
以下に、図面を参照しながら、本発明の配管シール用フッ素樹脂製ガスケットの高温時における面圧保持性の評価方法を説明する。
【0028】
図1は、本発明の配管シール用フッ素樹脂製ガスケットの高温時における面圧保持性を評価する際に用いられる圧縮率測定装置の概略説明図である。
【0029】
図1に示される圧縮率測定装置において、ヒーター1の上にフランジ2を介して配管シール用フッ素樹脂製ガスケット3を載置し、配管シール用フッ素樹脂製ガスケット3の上にフランジ4を介してヒーター5を載置し、ヒーター5の上部に圧縮試験機6が配置されている。
【0030】
圧縮試験機6により、配管シール用フッ素樹脂製ガスケット3の面圧が35MPaとなるように調整し、配管シール用フッ素樹脂製ガスケット3が圧縮されたときの変位は、ダイヤルゲージ7で測定することができる。配管シール用フッ素樹脂製ガスケット3の面圧が35MPaとなるように調整するのは、一般に配管シール用フッ素樹脂製ガスケット3の面圧が35MPaとなるように締め付け圧が調整されていることに基づく。
【0031】
配管シール用フッ素樹脂製ガスケット3の温度は、ヒーター1,5により、容易に調節することができる。配管シール用フッ素樹脂製ガスケット3の加熱温度は、200℃に調節される。配管シール用フッ素樹脂製ガスケット3の加熱温度を200℃に調節するのは、配管シール用フッ素樹脂製ガスケット3が加熱される一般的な温度が200℃であることに基づく。
【0032】
以上のようにして配管シール用フッ素樹脂製ガスケット3の面圧が35MPaとなるように調整し、配管シール用フッ素樹脂製ガスケット3を200℃に加熱し、配管シール用フッ素樹脂製ガスケット3の変位をダイヤルゲージ7で測定することにより、200℃の温度で面圧35MPaの締め付け圧における配管シール用フッ素樹脂製ガスケット3の圧縮率を求めることができる。
【0033】
次に、配管シール用フッ素樹脂製ガスケット3を200℃に加熱し、1カ月経過ごとに、配管シール用フッ素樹脂製ガスケットの加熱を停止し、配管シール用フッ素樹脂製ガスケットを室温(通常、20℃程度)にまで冷却した後、配管シール用フッ素樹脂製ガスケットの面圧を測定する。
【0034】
配管シール用フッ素樹脂製ガスケット3の加熱温度を200℃に調節、1カ月経過ごとに室温にまで配管シール用フッ素樹脂製ガスケットの冷却、および配管シール用フッ素樹脂製ガスケットの面圧の測定という一連の操作を繰り返し、配管シール用フッ素樹脂製ガスケットの面圧が0MPaとなるまでに要する期間が1年間以上であるとき、当該フッ素樹脂製ガスケットは、高温時における面圧保持性に優れていると評価することができる。
【0035】
本発明者らは、前記一連の操作を繰り返し、フッ素樹脂製ガスケットを200℃に加熱し、室温まで冷却したときに配管シール用フッ素樹脂製ガスケットの面圧が0MPaとなるまでに要する期間が1年間以上である高温時における面圧保持性に優れたフッ素樹脂製ガスケットを開発するべく鋭意研究を重ねた結果、配管を接続する際に、200℃の温度で面圧35MPaの締め付け圧で締め付けたときの配管シール用フッ素樹脂製ガスケットの圧縮率が15%以下であるとき、前記高温時における面圧保持性に優れることが見出された。本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものである。
【0036】
したがって、本発明によれば、わざわざ1年間という長期間にわたってフッ素樹脂製ガスケットの高温特性を調べなくても、200℃の温度で面圧35MPaの締め付け圧における圧縮率が15%以下であることを基準として配管シール用フッ素樹脂製ガスケットの高温時における面圧保持性を評価するだけで、配管シール用フッ素樹脂製ガスケットが高温時における面圧保持性に優れた品質を有するかどうかを容易に評価することができる。
【0037】
また、本発明の配管シール用フッ素樹脂製ガスケットは、200℃の温度で面圧35MPaの締め付け圧で締め付けたときの配管シール用フッ素樹脂製ガスケットの圧縮率が15%以下であるので、短くても1年間は面圧保持性に優れるという性質を有するものである。
【0038】
なお、配管の種類、配管内に導入される流体の種類などは、当該配管の用途などによって異なるので一概には決定することができない。流体の種類としては、例えば、空気、水蒸気、窒素ガスなどの気体、オイル、水などの液体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。配管内に導入される流体の圧力は、任意であり、本発明は、当該流体の圧力によって限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
次に本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0040】
実施例1〜2および比較例1〜3
配管シール用フッ素樹脂製ガスケットとして
、外径74mm、内径35mm、厚さ1.5mmを有し、200℃の温度での面圧35MPaにおける圧縮率が10%であるフッ素樹脂製シートガスケット(実施例1)、200℃の温度での面圧35MPaにおける圧縮率が14%であるフッ素樹脂製シートガスケット(実施例2)、200℃の温度での面圧35MPaにおける圧縮率が16%であるフッ素樹脂製シートガスケット(比較例1)、200℃の温度での面圧35MPaにおける圧縮率が20%であるフッ素樹脂製シートガスケット(比較例2)または200℃の温度での面圧35MPaにおける圧縮率が30%であるフッ素樹脂製シートガスケット(比較例3)を用いた。
【0041】
なお、配管シール用フッ素樹脂製ガスケットの200℃の温度での面圧35MPaにおける圧縮率は、
図1に示される圧縮率測定装置を用いて測定した。
【0042】
次に、配管シール用フッ素樹脂製ガスケットの200℃の温度での初期面圧35MPaにおける面圧の経時変化を以下のようにして調べた。すなわち、本発明者らは、フランジ締結体の高温軸力評価実験を行ない、有限要素解析結果と対比することにより、当該有限要素解析方法が妥当であることを見出し、ガスケット締結体の長期特性予測方法を確立している(特開2011−17392号公報、および「山梨講演会 講演論文集」、社団法人日本機械学会関東支部および社団法人精密工学会共催、2010年10月23日、講演番号606「有限要素解析を用いた締結体軸力挙動評価」参照)。したがって、各実施例および各比較例において、配管シール用フッ素樹脂製ガスケットの200℃の温度での初期面圧35MPaにおける面圧の経時変化を特開2011−17392号公報に記載のガスケット締結体の長期特性予測方法に準じて予測した。その結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示された結果から、各実施例で用いられたガスケットは、いずれも、200℃の温度で面圧35MPaの締め付け圧における圧縮率が15%以下であることから、各比較例で用いられたガスケット(200℃の温度で面圧35MPaの締め付け圧における圧縮率が15%よりも大)と対比して、200℃の温度で12カ月間加熱してもガスケットの面圧の低下が小さく、正の面圧を有することから、1年間以上の面圧保持性を有すると評価することができることがわかる。また、各実施例で得られた配管シール用フッ素樹脂製ガスケットは、200℃の温度で面圧35MPaの締め付け圧における圧縮率が15%以下であることから、1年間以上の高温時における面圧保持性に優れていることがわかる。