【文献】
Adv. Carbohydr. Chem. Biochem.,1974年,vol.29,173-227
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の製造方法が前記効果を発現する理由は以下のように推定される。塩基性無機物質存在下でのホルムアルデヒドの縮合反応は、一定の誘導期(ほとんど温度変化がない状態)の後、急激な発熱反応となり反応が一気に加速する。このため反応生成物は炭素数が2以上の様々な単糖および、または糖アルコールからなる混合物となる。また急激な発熱反応であることから、高濃度での製造は反応制御が困難であり、ホルムアルデヒドを高濃度にすることができず、例えば、反応系の水を多く含んだ形態で製造されている。また、特許文献1及び2のように、触媒として一般的に使用される塩基性無機物質である水酸化カルシウムを用いると水溶解度が低いため、反応系に必要量を粉末状で一括添加することが必要であり、発熱反応の制御が困難になる。本発明では、ホルモース反応の触媒となる水可溶性の塩基性無機物質を所定条件で反応系内に導入することで、急激な発熱反応を抑制可能である。これにより、ホルモース縮合物の環化反応であるフラノース環(5員環)、及びピラノース環(6員環)の生成が促進され、環構造の糖はホルモース反応を起こさないために、炭素数の増加が起きず、低分子量の炭素数2以上、6以下の単糖類を効率よく製造できるものと考えられる。
【0015】
本発明の製造方法では、ホルムアルデヒド水溶液中に水可溶性の塩基性無機物質を滴下し、水可溶性の塩基性無機物質の存在下で、ホルムアルデヒドを縮合反応させる。ホルムアルデヒド水溶液中に水可溶性の塩基性無機物質を反応系に導入することにより、水可溶性の塩基性無機物質が触媒となり、ホルムアルデヒドの縮合反応が進行する。そして、炭素数2以上、6以下の単糖類、中でも、マンノース、ガラクトース、タロース、リボース、及びエリトロースからなる群から選ばれる1種以上の単糖類を含有し、未反応のホルムアルデヒドが少なく、且つ炭素数7以上の単糖類といった副生物が少ない反応生成物を得ることができる。
【0016】
工程Aでは、ホルムアルデヒド水溶液中に水可溶性の塩基性無機物質を滴下する。
【0017】
ホルムアルデヒド水溶液は、ホルムアルデヒドを好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは35質量%以上、そして、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下を含有する水溶液である。ホルムアルデヒド水溶液の温度は、反応に用いる化合物の溶解性の観点から、好ましくは0℃以上、より好ましくは20℃以上であり、炭素数2以上、6以下の単糖類を高濃度で含有する反応生成物を得る観点から、好ましくは60℃以下である。
【0018】
また、水可溶性の塩基性無機物質について、「水可溶性」とは、20℃の水100gに溶解する物質の質量(水溶解度)が1g以上であることをいい、水可溶性の塩基性無機物質としては、1価のアルカリ金属水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウム(水溶解度:109)及び水酸化カリウム(水溶解度:112)から選ばれる水可溶性の塩基性無機物質がより好ましい。
【0019】
ホルムアルデヒド水溶液に水可溶性の塩基性無機物質を滴下する方法は、塩基性無機物質を含有する液体、例えば、水溶液を滴下する方法が挙げられる。
【0020】
具体的には、塩基性無機物質と水とを含有する水溶液を、一定速度、不定速度又はこれらの組み合わせで、滴下する方法が挙げられる。炭素数2以上、6以下の単糖類を高濃度で含有する反応生成物を得る観点から、水可溶性の塩基性無機物質と水とを含有する水溶液は、水可溶性の塩基性無機物質を、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上、そして、好ましくは50質量%以下含有する。水可溶性の塩基性無機物質と水とを含有する水溶液の温度は、炭素数2以上、6以下の単糖類を高濃度で含有する反応生成物を得る観点から、好ましくは0℃以上であり、好ましくは40℃以下である。
【0021】
本発明の製造方法は、以下の要件1を満足する。
要件1:ホルムアルデヒドと反応系に導入される水の全量との質量比が、ホルムアルデヒド/反応系に導入される水の全量で、10/90以上、50/50以下である。
反応系に導入される水とは、ホルムアルデヒド水溶液中の水、水可溶性の塩基性無機物質の水溶液中の水、別途反応系に添加される水など、反応系に取り込まれる水が挙げられる。本発明では、反応に用いるホルムアルデヒドの濃度を高くすることで、得られる単糖類の濃度も高くすることができる。ホルムアルデヒドと反応系に導入される水の全量との質量比は、得られる単糖類の濃度を高める観点から、10/90以上であり、好ましくは20/80以上、より好ましくは25/75以上、更に好ましくは30/70以上である。また、炭素数2以上、6以下の単糖類の収率を向上する観点から、50/50以下であり、好ましくは45/55以下、より好ましくは36/64以下である。
【0022】
本発明の製造方法は、以下の要件2を満足する。
要件2:ホルムアルデヒド水溶液中のホルムアルデヒドと、滴下する塩基性無機物質の全量とのモル比が、ホルムアルデヒド/塩基性無機物質の全量で、1/0.50以上、1/0.10以下である。
水溶液中に存在するホルムアルデヒドは仕込みホルムアルデヒドであり、そのモル数と、滴下によりホルムアルデヒド水溶液中に添加される塩基性無機物質の全量のモル数とを対比する。要件2のモル比は、未反応ホルムアルデヒド量低減の観点から、1/0.10以下であり、好ましくは1/0.12以下である。また、炭素数2以上、6以下の単糖類の収率を向上する観点から、1/0.50以上であり、好ましくは1/0.40以上である。
【0023】
また、本発明の製造方法は、以下の要件3を満足する。
要件3:水可溶性の塩基性無機物質の滴下速度が、ホルムアルデヒド水溶液中のホルムアルデヒド1.0モルに対して、0.01モル/1時間以上、0.25モル/1時間以下である。
前記滴下速度は、0.01モル/1時間以上であり、反応時間短縮の観点から、好ましくは0.08モル/1時間以上、より好ましくは0.10モル/1時間以上、更に好ましくは0.12モル/1時間以上である。また急激な発熱反応を抑制して炭素数2以上、6以下の単糖類の収率を向上する観点からも、前記滴下速度は、0.25モル/1時間以下であり、好ましくは0.20モル/1時間以下、より好ましくは0.17モル/1時間以下である。なお、滴下速度は、反応系の温度が90℃を超えないように事前に予備合成試験を行い、その結果を基に設定することが好ましい。
【0024】
本発明の製造方法は、以下の要件4を満足することが好ましい。
要件4:工程Aでの水可溶性の塩基性無機物質の滴下開始後の反応系の反応温度が、20℃以上、90℃以下である。
可能な限り反応所要時間を短縮する観点から、前記温度は、好ましくは20℃以上、より好ましくは25℃以上、更に好ましくは30℃以上である。また、炭素数2以上、6以下の単糖類の収率を向上する観点から、前記温度は、好ましくは90℃以下、より好ましくは85℃以下、更に好ましくは80℃以下である。反応温度を前記範囲内とするために、反応系を加熱操作及び冷却操作をすることができる。反応系において誘導期後に発熱反応が急激に進行するため、温度制御を容易にする観点から、事前に予備実験を行い、反応温度が90℃を超えない反応条件、例えば、ホルムアルデヒド/水可溶性の塩基性無機物質の全量のモル比、水可溶性の塩基性無機物質の滴下速度、ホルムアルデヒド水溶液の濃度など、を設定することが好ましい。ホルムアルデヒド水溶液におけるホルムアルデヒドの濃度は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは35質量%以上、そして、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。
【0025】
ここで、反応系とは、ホルムアルデヒドの反応が進行する場であり、ホルムアルデヒド、水可溶性の塩基性無機物質、水を含む混合物が挙げられる。また、反応終了時とは、反応系内のホルムアルデヒド量が極めて少量になった時点であり、反応系の全質量を100とした場合に、反応系中のホルムアルデヒドの質量が0.1以下となった時点であってよい。
【0026】
本発明の製造方法は、工程Aの前に以下の工程Bを有することが好ましい。工程Bにより、滴下する塩基性無機物質の量を低減できる。
工程B:ホルムアルデヒド水溶液に水可溶性のアルカリ土類金属塩を溶解させる工程
【0027】
工程Bでの水可溶性のアルカリ土類金属塩について、「水可溶性」とは、20℃の水100gに溶解する物質の質量(水溶解度)が1g以上であることをいう。アルカリ土類金属としてはカルシウム及びマグネシウムが挙げられ、水可溶性のアルカリ土類金属塩としては、塩化カルシウム(水溶解度:74.5)、酢酸カルシウム二水和物(水溶解度:34.7)、及び硝酸カルシウム(水溶解度:121)からなる群から選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。工程Bでは、ホルムアルデヒド水溶液中のホルムアルデヒド、すなわち仕込みホルムアルデヒドと、水可溶性のアルカリ土類金属塩のモル比は、ホルムアルデヒド/水可溶性のアルカリ土類金属塩で、1/0.50以上、1/0.01以下が好ましい。アルカリ土類金属塩の使用は、滴下する塩基性無機物質の量を抑制することが目的であり、未反応ホルムアルデヒド量低減の観点から、前記モル比は、好ましくは1/0.03以下、より好ましくは1/0.05以下である。また、低温における金属塩の析出防止の観点から、前記モル比は、好ましくは1/0.40以上、より好ましくは1/0.30以上である。
【0028】
本発明では、ホルムアルデヒドと水可溶性の塩基性無機物質との最初の接触が、工程Aでのホルムアルデヒド水溶液への水可溶性の塩基性無機物質の滴下により生じることが好ましい。すなわち、ホルムアルデヒド水溶液に水可溶性の塩基性無機物質を滴下することにより、ホルムアルデヒドの縮合反応が開始されることが好ましい。
【0029】
また、本発明では、ホルムアルデヒド水溶液に水可溶性の塩基性無機物質の全量を滴下した後、反応系を30℃以上、90℃以下で、15分以上、120分以下に維持して反応を進行させる熟成反応を行うことが好ましい。ホルムアルデヒドの縮合反応は一定の誘導期を経た後、急激な発熱反応を伴って進行する。最高到達温度を迎えた後、系内の温度は自然冷却により下降するが、熟成途中又は熟成後、冷却が進行した時点でサンプリングを行い、系内のホルムアルデヒド残存量を測定し、反応終了の判断を行なう。熟成反応工程において特に加熱操作は必要なく、温度は自然冷却による成り行きでよい。また、熟成後も、自然冷却による成り行きで反応系を冷却することができる。本発明では、水可溶性の塩基性無機物質の滴下に要する時間と熟成反応に要する時間の合計が、好ましくは60分以上であり、そして、好ましくは450分以下である。
【0030】
本発明の製造方法は、工程Aの後に以下の工程Cを有することが好ましい。工程Cにより反応生成物の保存安定性が向上する。
工程C:工程Aの後に得られた反応生成物のpHを5.0以上、7.0以下に調整する工程
【0031】
工程CでのpHの調整は、工程Aの後に得られた反応生成物に、pH調整剤、好ましくは酸を添加して行うことができる。pH調整剤は、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸などの無機酸、ギ酸、酢酸、乳酸などの有機酸などが挙げられるが、中和後の金属塩の析出防止、反応槽、また反応生成物を保存する容器やタンクの腐食防止の観点から、ギ酸、及び酢酸から選ばれる化合物がより好ましい。また、前記pH範囲でアルカリ側にするためにアンモニア水を用いることができる。経時的な反応抑制による炭素数2以上、6以下の単糖類の含有量を保持する観点から、pHは、好ましくは6.8以下、より好ましくは6.5以下、更に好ましくは6.2以下である。また反応生成物を保存する容器やタンクの腐食の観点から、好ましくは5.5以上、より好ましくは5.8以上である。このpHは、反応生成物の調製直後から冷却までの温度で測定されたものであってよいが、20℃でのpHが前記範囲であることが好ましい。工程Cを設けることにより、反応生成物の保存安定性が向上するため、例えば、反応生成物は、好ましくは10日以上、より好ましくは20日以上、そして、好ましくは6カ月以下、より好ましくは3カ月以下、更に好ましくは1.5カ月以下の保存期間でも、経時的な反応抑制による炭素数2以上、6以下の単糖類の含有量を保持できる。また、反応生成物中の炭素数7以上の単糖類の含有量の増加を抑制することができる。この場合の保存温度は、0℃以上、50℃以下とすることができ、例えば、40℃という高温条件を採用できる。
【0032】
本発明の製造方法では、炭素数2以上、6以下の単糖類を含有する反応生成物を得ることができる。該反応生成物は、炭素数2以上、好ましくは3以上、6以下の単糖類を、ホルムアルデヒドより誘導された有機分中、好ましくは80質量%以上、より好ましくは98質量%以下含有する。また、該反応生成物は、炭素数7以上の単糖類を、ホルムアルデヒドより誘導された有機分中、好ましくは0質量%以上、そして、好ましくは12質量%以下含有する。また、該反応生成物は、ギ酸を、ホルムアルデヒドより誘導された有機分中、好ましくは1質量%以上、そして、好ましくは8質量%以下含有する。
【0033】
ここで、反応生成物についてのホルムアルデヒドより誘導された有機分とは、ホルムアルデヒド、炭素数2以上、6以下の単糖類、炭素数7以上の単糖類、及びギ酸をいう。
【0034】
炭素数2以上、6以下の単糖類として、マンノース、ガラクトース、タロース、リボース、エリトロース、グルコース、アラビノース、グリセルアルデヒド及びグリコールアルデヒドからなる群から選ばれる1種以上の化合物を含有する反応生成物を得ることができる。本発明の製造方法では、反応生成物中の未反応ホルムアルデヒド量を低減でき、また、炭素数7以上の単糖類の副生を抑制することができる。
【0035】
本発明の製造方法により、マンノース、ガラクトース、タロース、リボース、エリトロース、グルコース、アラビノース、グリセルアルデヒド及びグリコールアルデヒドからなる群から選ばれる1種以上の化合物を、ホルムアルデヒドより誘導された有機分中、80質量%以上、98質量%以下含有し、かつ炭素数7以上の単糖類を、ホルムアルデヒドより誘導された有機分中、0質量%以上、12質量%以下含有する反応生成物を得ることができる。また、反応生成物は、ギ酸を、ホルムアルデヒドより誘導された有機分中、好ましくは1質量%以上、好ましくは8質量%以下含有する。
【0036】
炭素数2以上、6以下の単糖類として、マンノース、ガラクトース、タロース、リボース、エリトロース、グルコース、アラビノース、グリセルアルデヒド及びグリコールアルデヒドからなる群から選ばれる1種以上の化合物を含有する反応生成物において、マンノース、ガラクトース、タロース、リボース、エリトロース、グルコース、アラビノース、グリセルアルデヒド及びグリコールアルデヒドからなる群から選ばれる1種以上の化合物の含有量は、ホルムアルデヒドより誘導された有機分中、好ましくは88質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは92質量%以上であり、そして、好ましくは96質量%以下である。また、炭素数2以上、6以下の単糖類として、マンノース、ガラクトース、タロース、リボース、エリトロース、グルコース、アラビノース、グリセルアルデヒド及びグリコールアルデヒドからなる群から選ばれる1種以上の化合物を含有する反応生成物において、炭素数7以上の単糖類の含有量は、ホルムアルデヒドより誘導された有機分中、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8.0質量%以下、更に好ましくは6.0質量%以下である。また、炭素数2以上、6以下の単糖類として、マンノース、ガラクトース、タロース、リボース、エリトロース、グルコース、アラビノース、グリセルアルデヒド及びグリコールアルデヒドからなる群から選ばれる1種以上の化合物を含有する反応生成物において、ギ酸の含有量は、ホルムアルデヒドより誘導された有機分中、好ましくは8.0質量%以下、より好ましくは6.0質量%以下、更に好ましくは4.0質量%以下、より更に好ましくは2.0質量%以下である。
【0037】
炭素数2以上、6以下の単糖類のうち、マンノース、ガラクトース、タロース、リボース、エリトロースは、例えば、酸化鉄の還元剤として有用である。具体的には、本発明の製造方法により、炭素数2以上、6以下の単糖類として、マンノース、ガラクトース、タロース、リボース及びエリトロースからなる群から選ばれる1種以上の化合物を含有する反応生成物を得ることができる。炭素数2以上、6以下の単糖類として、マンノース、ガラクトース、タロース、リボース及びエリトロースからなる群から選ばれる1種以上の化合物を含有する反応生成物において、マンノース、ガラクトース、タロース、リボース及びエリトロースからなる群から選ばれる1種以上の化合物の合計の含有量は、ホルムアルデヒドより誘導された有機分中、好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上、更に好ましくは78質量%以上であり、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下である。
【0038】
また、本発明の製造方法では、ホルムアルデヒドより誘導された有機分中において、エリトロースの割合が2質量%以上、20質量%以下である反応生成物を得ることが好ましい。エリトロースは炭素数4の単糖であり、低分子量による還元効果が高く、更に酸化鉄を還元する機能を有する。保存安定性の観点から、反応生成物におけるエリトロース含有量は、ホルムアルデヒドより誘導された有機分中、好ましくは20質量%以下、より好ましくは17質量%以下である。更に炭素数7以上の化合物低減の観点から、好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは5質量%以上、より更に好ましくは10質量%以上である。
【0039】
ホルムアルデヒドより誘導された有機分中の炭素数2以上、6以下の単糖類の量、炭素数7以上の単糖類の量、及びホルムアルデヒドの量は、それぞれ、2,4−ジニトロフェニルヒドラジン誘導体化法(DNPH法による誘導体化)と高速液体クロマトグラフィー分離法により測定することができる。具体的には実施例に記載の方法で行うことができる。また、ホルムアルデヒドより誘導された有機分中のギ酸の量は、イオンクロマト分離法により測定することができる。具体的には実施例に記載の方法で行うことができる。
【0040】
本発明の製造方法で得られる反応生成物は、液体組成物として得られ、炭素数2以上、6以下の単糖類の含有量が多く、平均分子量が小さくなるため、単位質量当たりの還元効果の高い組成物である。そのためこの反応生成物、すなわち液体組成物は、例えば、酸化物スケール抑制剤として用いることができる。また酸化物スケール抑制剤以外に、家庭用漂白剤、紙パルプ用漂白剤、ポリエステル繊維染色後の還元洗浄、水硬性組成物用添加剤、合成ゴムの重合停止剤、無電解めっき用添加剤、酸化防止剤、写真現像薬等に用いることができる。
【0041】
本発明の製造方法で得られた反応生成物を用いた酸化物スケール抑制剤は、弱酸性から中性環境下で、金属表面から金属酸化物を含むスケールを溶解除去させる効果を奏する。
【0042】
本発明の製造方法で得られる液体組成物を用いた酸化物スケール抑制剤は、錯体形成、還元効果により、弱酸性から中性環境下で、金属表面から金属酸化物を含むスケールを溶解除去させる効果を有するものと推定される。その効果は、炭素数2以上、6以下の単糖類の中でもマンノース、ガラクトース、タロース、リボース、エリトロースに顕著であり、更にエリトロースは酸化鉄の溶解に有効である。
【0043】
本発明の態様を以下に例示する。
<1>
ホルムアルデヒドを水可溶性の塩基性無機物質の存在下で縮合させる炭素数2以上、6以下の単糖類の製造方法であって、
ホルムアルデヒド水溶液に水可溶性の塩基性無機物質を滴下する工程Aを有し、以下の要件1、2、及び3を満足する、単糖類の製造方法。
要件1:ホルムアルデヒドと反応系に導入される水の全量との質量比が、ホルムアルデヒド/反応系に導入される水の全量で、10/90以上、50/50以下である。
要件2:ホルムアルデヒド水溶液中のホルムアルデヒドと、滴下する水可溶性の塩基性無機物質の全量とのモル比が、ホルムアルデヒド/水可溶性の塩基性無機物質の全量で、1/0.50以上、1/0.10以下である。
要件3:水可溶性の塩基性無機物質の滴下速度が、ホルムアルデヒド水溶液中のホルムアルデヒド1.0モルに対して、0.01モル/1時間以上、0.25モル/1時間以下である。
【0044】
<2>
以下の要件4を満足する、前記<1>記載の単糖類の製造方法。
要件4:工程Aでの水可溶性の塩基性無機物質の滴下開始後の反応系の反応温度が、20℃以上、好ましくは25℃以上、より好ましくは30℃以上、そして、90℃以下、好ましくは85℃以下、より好ましくは80℃以下である。
【0045】
<3>
工程Aの前に以下の工程Bを有する、前記<1>又は<2>記載の単糖類の製造方法。
工程B:ホルムアルデヒド水溶液に水可溶性のアルカリ土類金属塩を溶解させる工程
【0046】
<4>
アルカリ土類金属塩が、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、及び硝酸カルシウムからなる群から選ばれる1種以上の化合物である、前記<3>記載の単糖類の製造方法。
【0047】
<5>
ホルムアルデヒド水溶液中のホルムアルデヒドと、水可溶性のアルカリ土類金属塩のモル比が、ホルムアルデヒド/水可溶性のアルカリ土類金属塩で、1/0.50以上、好ましくは1/0.40以上、より好ましくは1/0.30以上、そして、1/0.01以下、好ましくは1/0.03以下、より好ましくは1/0.05以下である、前記<1>〜<4>のいずれかに記載の単糖類の製造方法。
【0048】
<6>
工程Aの後に以下の工程Cを有する、前記<1>〜<5>のいずれかに記載の単糖類の製造方法。
工程C:工程Aの後に得られた反応生成物のpHを5.0以上、好ましくは5.5以上、より好ましくは5.8以上、そして、7.0以下、好ましくは6.8以下、より好ましくは6.5以下、更に好ましくは6.2以下に調整する工程
【0049】
<7>
ホルムアルデヒド水溶液が、ホルムアルデヒドを好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは35質量%以上、そして、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下と、水とを含有する、前記<1>〜<6>のいずれかに記載の単糖類の製造方法。
【0050】
<8>
水可溶性の塩基性無機物質を、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上、そして、好ましくは50質量%以下と、水とを含有する水溶液を、好ましくは一定速度、不定速度又はこれらの組み合わせで、ホルムアルデヒド水溶液に滴下する、前記<1>〜<7>のいずれかに記載の単糖類の製造方法。
【0051】
<9>
要件1において、ホルムアルデヒドと反応系に導入される水の全量との質量比が、ホルムアルデヒド/反応系に導入される水の全量で、10/90以上、好ましくは20/80以上、より好ましくは25/75以上、更に好ましくは30/70以上、そして、50/50以下、好ましくは45/55以下、より好ましくは36/64以下である、前記<1>〜<8>のいずれかに記載の単糖類の製造方法。
【0052】
<10>
要件2において、ホルムアルデヒド水溶液中のホルムアルデヒドと、滴下する塩基性無機物質の全量とのモル比が、ホルムアルデヒド/塩基性無機物質の全量で、1/0.50以上、好ましくは1/0.40以上、そして、1/0.10以下、好ましくは1/0.12以下である、前記<1>〜<9>のいずれかに記載の単糖類の製造方法。
【0053】
<11>
要件3において、水可溶性の塩基性無機物質の滴下速度が、ホルムアルデヒド水溶液中のホルムアルデヒド1.0モルに対して、0.01モル/1時間以上、好ましくは0.08モル/1時間以上、より好ましくは0.10モル/1時間以上、更に好ましくは0.12モル/1時間以上、そして、0.25モル/1時間以下、好ましくは0.20モル/1時間以下、より好ましくは0.17モル/1時間以下である、前記<1>〜<10>のいずれかに記載の単糖類の製造方法。
【0054】
<12>
炭素数2以上、6以下の単糖類として、マンノース、ガラクトース、タロース、リボース、エリトロース、グルコース、アラビノース、グリセルアルデヒド及びグリコールアルデヒドからなる群から選ばれる1種以上の化合物を含有する反応生成物を得る、前記<1>〜<11>のいずれかに記載の単糖類の製造方法。
【0055】
<13>
炭素数2以上、6以下の単糖類として、マンノース、ガラクトース、タロース、リボース、エリトロース、グルコース、アラビノース、グリセルアルデヒド及びグリコールアルデヒドからなる群から選ばれる1種以上の化合物を含有する反応生成物であって、
マンノース、ガラクトース、タロース、リボース、エリトロース、グルコース、アラビノース、グリセルアルデヒド及びグリコールアルデヒドからなる群から選ばれる1種以上の化合物を、ホルムアルデヒドより誘導された有機分中、80質量%以上、好ましくは88質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは92質量%以上、そして、98質量%以下、好ましくは96質量%以下、
炭素数7以上の単糖類を、ホルムアルデヒドより誘導された有機分中、0質量%以上、12質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8.0質量%以下、更に好ましくは6.0質量%以下
含有する反応生成物を得る、前記<1>〜<12>のいずれかに記載の単糖類の製造方法。
【0056】
<14>
炭素数2以上、6以下の単糖類として、マンノース、ガラクトース、タロース、リボース及びエリトロースからなる群から選ばれる1種以上の化合物を含有する反応生成物であって、
マンノース、ガラクトース、タロース、リボース及びエリトロースからなる群から選ばれる1種以上の化合物を、ホルムアルデヒドより誘導された有機分中、好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上、更に好ましくは78質量%以上、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下含有する反応生成物を得る、
前記<1>〜<13>のいずれかに記載の単糖類の製造方法。
【0057】
<15>
ホルムアルデヒドより誘導された有機分中、エリトロースの割合が2質量%以上、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上、そして、20質量%以下、好ましくは17質量%以下である反応生成物を得る、前記<1>〜<14>のいずれかに記載の単糖類の製造方法。
【0058】
<16>
炭素数2以上、6以下の単糖類として、マンノース、ガラクトース、タロース、リボース及びエリトロースからなる群から選ばれる1種以上の化合物を含有する反応生成物であって、
マンノース、ガラクトース、タロース、リボース及びエリトロースからなる群から選ばれる1種以上の化合物を、ホルムアルデヒドより誘導された有機分中、好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上、更に好ましくは78質量%以上、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、
エリトロースを、ホルムアルデヒドより誘導された有機分中、2質量%以上、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上、そして、20質量%以下、好ましくは17質量%以下、
炭素数7以上の単糖類を、ホルムアルデヒドより誘導された有機分中、0質量%以上、12質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8.0質量%以下、更に好ましくは6.0質量%以下、
含有する反応生成物を得る、前記<1>〜<14>のいずれかに記載の単糖類の製造方法。
【0059】
<17>
前記<1>〜<16>のいずれかに記載の炭素数2以上、6以下の単糖類の製造方法で得られた反応生成物からなる酸化鉄スケールの溶解除去剤。
【実施例】
【0060】
<実施例A−1>
ホルムアルデヒド37%(質量基準、以下同様)水溶液162gを容量500mLの三口フラスコに添加し、続いて塩化カルシウム17.4gを添加した。その後、攪拌翼(3枚翼、直径70mm)を用いて200rpmで10分間、均一溶液となるまで混合し、オイルバスにより40℃に昇温した(工程B)。続いて、20℃の48%水酸化ナトリウム水溶液25.0gを容量50mLの滴下ロートで連続して60分かけて滴下した(工程A)。滴下終了後、30分間攪拌を継続し熟成させ、室温に冷却し、固形分約44質量%の反応生成物を得た。反応生成物中のホルムアルデヒド残存量が1ppm以下であったため、反応が終了したと判断した。この反応生成物は糖を含有する組成物であり、該組成物のpH(20℃)は10.5であった。なお、反応生成物の経時変化を抑制するため、99%酢酸を用いてpH(20℃)5.0まで中和を行い(工程C)、最終的な反応生成物を得た。
【0061】
<実施例A−2〜A−4>
48%水酸化ナトリウム25.0gを表1に示す速度で系内に滴下した以外は、実施例A−1と同様に反応を行い、反応生成物を得た。
【0062】
<実施例A−5>
塩基性無機物質として48%水酸化ナトリウム水溶液に代えて48%水酸化カリウム水溶液を35g滴下した以外は、実施例A−1と同様に反応を行い、反応生成物を得た。
【0063】
<実施例A−6、比較例R−3〜R−4>
塩化カルシウムを使用せず、48%水酸化ナトリウムを表1に示す質量部滴下し、反応生成物を中和しなかった以外は、実施例A−1と同様にして反応生成物を得た。なお、実施例A−6では、表1に示す量の蒸留水を反応系に加えた。反応生成物を中和しなかった理由は、ホルモース反応を起こす為に多量の塩基性無機物質を用いたため、中和するには多量の酸が必要になるためである。また、比較例R−3は、反応を完結させるに必要な量に対して塩基性無機物質の量が不足し、熟成時間中の反応生成物中のホルムアルデヒド量の減少速度が遅く、熟成を延長しても収量が頭打ちとなるため熟成30分で反応を打ち切った。
【0064】
<実施例A−7>
塩化カルシウムの量を66.4gにし、表1に示す量の蒸留水を反応系に加えた以外は、実施例A−1と同様に反応を行い、反応生成物を得た。
【0065】
<実施例A−8>
塩化カルシウムに代えて、酢酸カルシウムを25.3g使用した以外は、実施例A−1と同様に反応を行い、反応生成物を得た。
【0066】
<実施例A−9>
塩化カルシウムに代えて、硝酸カルシウムを26.2g使用した以外は、実施例A−1と同様に反応を行い、反応生成物を得た。
【0067】
<比較例R−1>
ホルムアルデヒド37%水溶液162gを容量500mLの三口フラスコに添加し、オイルバス温度40℃、攪拌翼(3枚翼、直径70mm)を用いて200rpmで10分間攪拌した。続いて、水酸化カルシウム14.7gを一括添加した。添加終了後、90分間攪拌を継続し熟成させた。その後、室温に冷却し、反応生成物を得た。反応生成物中のホルムアルデヒド残存量が1ppm以下であったため、反応が終了したと判断した。この反応生成物は糖を含有する組成物であり、該組成物のpH(20℃)は9.9であった。その後、99%酢酸を用いてpH(20℃)5.0まで中和を行い、最終的な反応生成物を得た。
【0068】
<比較例R−2>
ホルムアルデヒド37%水溶液32.4gを容量300mLの三口フラスコに添加し、さらに蒸留水130gを添加した。その後、オイルバス温度40℃とし、攪拌翼(3枚翼、直径70mm)を用いて200rpmで10分間攪拌した。続いて、水酸化カルシウム4.7gを一括添加した。添加終了後、180分間攪拌を継続し熟成させた。その後、室温に冷却し、反応生成物を得た。反応生成物中のホルムアルデヒド残存量が1ppm以下であったため、反応が終了したと判断した。この反応生成物は糖を含有する組成物であり、該組成物のpH(20℃)は8.9であった。その後、99%酢酸を用いてpH(20℃)5.0まで中和を行い、最終的な反応生成物を得た。
【0069】
<比較例R−5>
48%水酸化ナトリウム水溶液を使用しなかった以外は、実施例A−1と同様に反応を行った。しかし、触媒である塩基性無機物質を使用しなかったため、ホルモース反応がほとんど進行しなかった。熟成時間中に反応生成物中のホルムアルデヒド量が減少しなかったので、熟成30分で反応を打ち切った。
【0070】
<比較例R−6>
48%水酸化ナトリウム水溶液を滴下せず、塩化カルシウムと同時期に一括で添加した以外は、実施例A−1と同様に反応を行い、反応生成物を得た。
【0071】
<比較例R−7>
48%水酸化ナトリウムの滴下時間を30分とした以外は、実施例A−1と同様に反応を行い、反応生成物を得た。
【0072】
実施例、比較例の反応条件を表1に示す。表1中、ホルムアルデヒドをHCHO、水酸化ナトリウムをNaOH、水酸化カリウムをKOHで示した(他の表でも同様)。また、「滴下速度」は、ホルムアルデヒド水溶液中のホルムアルデヒド1.0モルに対する滴下速度である。また、反応時間は、滴下時間と熟成時間の合計である。
【0073】
また、表2、3に、実施例、比較例で得られた反応生成物の、ホルムアルデヒドより誘導された有機分(表中、有機分と表記した)中の組成を示す。反応生成物におけるホルムアルデヒドより誘導された有機分の測定は、以下の方法で行った。表2、3に示した有機分の組成は、反応の触媒として用いた無機塩や水酸化物等、並びに中和に用いた酸やアルカリの量を含まないものである。なお、炭素数2の単糖類の含有量は0質量%であった。表3には、炭素数3以上、6以下の単糖類の詳細を示した。
【0074】
<ホルムアルデヒド及び単糖類の測定方法>
単糖類の分析は2,4−ジニトロフェニルヒドラジン誘導体化法(Journal of Chromatography A,1216(2009) 5116-5121)により行った。下記の試料の前処理及び方法で行った。
1)2,4−ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)誘導体化溶液の調製
2,4−ジニトロフェニルヒドラジン(東京化成工業株式会社)4gを100mLメスフラスコに精秤し、エタノールを約50mL加える。その後、該メスフラスコを氷水で冷却しながら、98%硫酸(キシダ化学株式、試薬特級)20mLを少量ずつ加え、振り混ぜながら均一に混合する。続いて、エタノールを用いて100mLまでメスアップする。
2)ホルモース糖水溶液の調製
蒸留水を用いて、反応生成物を固形分濃度1200ppmまで希釈する。これをホルモース糖水溶液とする。
3)希釈ホルマリン水溶液の調製
蒸留水を用いて、37%ホルムアルデヒド水溶液(和光純薬、試薬一級)を500ppmまで希釈する。
4)測定サンプル調製
1)〜3)の各溶液及び蒸留水を下記の質量比でサンプル瓶に混合する。攪拌により沈殿物を生じる場合があるが、この時点では分離しない。
・DNPH誘導体化溶液(40000ppm):1g
・ホルモース糖水溶液(1200ppm):1g
・ホルマリン水溶液(500ppm):1g
・蒸留水:2g
5)DNPH誘導体化反応
4)のサンプルを試験管に移し、90℃、1時間加熱しDNPH誘導体化を行う。その後、氷水を用いて約0〜5℃まで冷却する。続いて、4000rpmで10分間遠心分離を行い、沈殿物を分離する。
6)サンプル作製
5)の上澄み液1.5gを2.5mLシリンジ、及びPTFE(テフロン(登録商標))20μmフィルターを用いて濾過し、高速液体クロマトグラフィー(LC)測定用バイアル管に注入する。
【0075】
各単糖の試薬を用いてDNPH誘導体化法及びLC分離分析により、各単糖におけるピークの保持時間の検量線を作成した。各単糖で主に4つのピークが観察された。これらは各単糖において、6員環(ピラノース)、あるいは5員環(フラノース)と、さらにそれぞれの環構造においてα体、β体が存在するためと推察した。
各単糖類の保持時間範囲は以下の通りであった。
・12.0〜16.5分:炭素数7以上の単糖類:
・16.5〜19.0分:表3における単糖類(a1)、及びグルコースのピラノース体
・19.0〜20.5分:単糖類(a1)のフラノース体、単糖類(a2)のピラノース、及びフラノース体、単糖類(a3)
・21.5〜22.5分:炭素数3の単糖類
・24〜27分:残存するDNPH
・28〜30分:炭素数2の単糖類
・31〜33分:ホルムアルデヒド
単糖標品(試薬)のピークを上記保持時間範囲により分類し、ホルモース糖同定分析の指標とした。炭素数が大きい順にピークが出現するため炭素数8以上の単糖類は標品を準備せず、炭素数7までの領域のピークを炭素数7以上とした。なお、定量分析は各ピーク面積の総面積に対する割合により算出した。
【0076】
高速液体クロマトグラフィー(LC)測定条件を以下に示す。
・LC装置:Waters 2690(Separation Module)、Waters 992(Photodiode Allay Detector)、日本ウォーターズ株式会社製
・カラム:メルク株式会社製 Chromolith Performance RP-18e(100mm×4.6mm) を3本連結
・測定波長:353nm
・測定温度:25℃
溶液配合(グラジエント)を以下に示す。
・A液:超純水
・B液:アセトニトリル(和光純薬工業製、高速液体クロマトグラフ用)
1) 0分〜60分:A液95%、B液:5% ⇒A液:0%、B液:100%(60分かけて傾斜配合) 流量:1mL/min
2) 60分超〜65分:B液100% 流量:1.5mL/min
3) 65分超〜80分:A液0%、B液:100% ⇒A液95%、B液5%(15分かけて傾斜配合) 流量:1.0mL/min
なお、2)及び3)は、1)の開始時の状態に戻すための操作である。
【0077】
ホルムアルデヒドより誘導された有機分中におけるギ酸の量は、イオンクロマト分離法により検量線を作成し定量した。測定条件を以下に示す。
・装置:DX320(日本ダイオネクス株式会社製)
・カラム:Ion Pac AS11-HC+Ion Pac AG11-HC
溶液配合(グラジエント)を以下に示す。
・検量線
1) 0分〜15分 1mM 水酸化カリウム水溶液
・試料
1) 0分〜15分 1mM 水酸化カリウム水溶液
2) 15分〜30分 50mM 水酸化カリウム水溶液
*2)は試料追い出し操作
・流量:1.5mM/min
・サンプレッサー:ASRS-300
・検出:電気伝導度
・検出器温度:35℃
・導入量:25μL
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
表1及び2から、実施例A−1〜A−9は、ホルムアルデヒドより誘導された有機分中、未反応のホルムアルデヒドの含有量が少なく、炭素数2以上、6以下の単糖類の含有量が84質量%以上、炭素数7以上の単糖類は10質量%以下であることがわかる。比較例R−3及びR−5は、未反応のホルムアルデヒドが含有量が多く、比較例R−1、R−2、R−4、R−6及びR−7は炭素数7以上の単糖類は13質量%以上であることがわかる。
【0081】
【表3】
【0082】
表3より、実施例A−1〜A−9は、炭素数2以上、6以下の単糖類の中でも、酸化鉄の溶解性が高い、マンノース、ガラクトース、タロース、リボース、エリトロースの含有量が多いことがわかる。
【0083】
<実施例B−1、B−2>
実施例A−1で、工程Cを設けた場合と設けなかった場合、すなわち、反応生成物を中和したpHを調整した場合としない場合とで、保存による反応生成物の組成の変動がどのように相違するかを評価した。
実施例A−1で製造したpH10.5の反応生成物を2分割した。一方を中和せずに、(1)製造直後、(2)40℃、1ヶ月保存後、のそれぞれについて、実施例A−1等と同様に組成を測定した(実施例B−1)。他方を酢酸でpH5.0に調整した後、(1)製造直後、(2)40℃、1ヶ月保存後、のそれぞれについて、実施例A−1等と同様に組成を測定した(実施例B−2)。結果を表4に示す。
【0084】
【表4】
【0085】
40℃、1ヶ月保存後の反応生成物は、工程Cを設けることにより、炭素数2以上、6以下の単糖類の含有量の減少と、炭素数7以上の単糖類の含有量の増加が、それぞれ、抑制されることがわかる。
【0086】
<試験例>
イオン交換水及び硬水を用いて、実施例、比較例で得られた反応生成物等の酸化鉄スケールの溶解除去剤としての有用性を評価した。表5に示す化合物及び/又は還元剤を添加したイオン交換水又は硬水について、酸化還元電位、及び鉄溶出量を、下記手法により定量した。結果を表5に示す。
【0087】
なお、硬水は、塩化カルシウム(和光純薬工業製、純度95%)66.7gと塩化マグネシウム6水和物(和光純薬工業製、純度98%)29.60gとを、イオン交換水1Lに溶解したCa/Mg=8/2(モル比)の硬水原液(ドイツ硬度4000°DH)を、更に、イオン交換水により200倍に希釈して調製したものを用いた。
【0088】
(1)酸化還元電位
酸化還元電位計YK−23RP(アズワン)の電極をイオン交換水でよく洗浄した後、電極を対象溶液である、表5に示す化合物及び/又は還元剤を添加したイオン交換水又は硬水に直接浸し、酸化還元電位を測定した(20℃)。
【0089】
(2)鉄溶出量
酸化鉄(III)9g、及びスターラーチップを100mlバイアル管に入れ、さらにイオン交換水を82g、1%サンプル化合物溶液(表5に示す化合物及び/又は還元剤を添加したイオン交換水又は硬水)を9g添加した(添加化合物がない場合はイオン交換水を91g添加)。その後、スターラーでスラリー状混合液を1時間よく攪拌し、ついで30分静置した。静置後、上澄み液を50mlシリンジにより採取し、0.80μmディスミックフィルターを用いて濾過した。イオン交換水を用いて濾過液を10倍に希釈した後、株式会社共立理化学研究所製鉄パックテスト試験(JIS K 010257.1)を行い、蛍光分析測定用の水溶液を得た。蛍光分析測定波長は534nmとし、塩化鉄(II)・4水和物(和光純薬工業製)を用いた検量線(Feイオン濃度0.1〜10ppm)より水溶液中の鉄イオン濃度を算出した。
【0090】
【表5】
【0091】
表5の結果から、A−1の反応生成物は、イオン交換水中で高い還元能を発揮し、鉄イオン溶出能力を有する。また、硬水中においてもイオン交換水中と同様に高い還元能を示し、鉄イオン溶出能力を有する。
R−1、R−2の反応生成物は、還元能や鉄イオン溶出能力がA−1の反応生成物の水準には及ばないことがわかる。とりわけ、硬水中では鉄イオン溶出能力が無い。
一般のキレート剤であるEDTAは、鉄イオン溶出能力が無い。また鉄(III)イオンを鉄(II)イオンに還元し、溶解度を向上させる剤として還元剤が有効であると予想されるが、一般的な還元剤である塩化スズは還元能力が不足しており、鉄イオン溶出能力を持たない。トリエタノールアミンは、鉄イオン溶出能力は良好であるものの、還元能が小さい。