【実施例】
【0025】
図1〜
図16に実施例とその変形とを示し、
図1は実施例のニットデザインシステム2を示し、4はバス、6はカラーモニタ、8はマニュアル入力装置で、スタイラス、マウス、キーボード等である。10はファイル入出力装置で、LANインターフェース、ディスクドライブ、外部メモリ等であり、指示サイズ、パターンデータ、ニットのデザインデータ(以下、デザインデータという)、編成データ(編機を駆動するためのデータ)等のファイルを入出力する。12はカラープリンタ、14はメモリで、適宜のデータ、データベース、プログラム等を記憶し、これ以外に図示しないCPUが有る。
【0026】
ニットデザイン部16は、マニュアル入力装置8,ファイル入出力装置10等からの入力に従い、編地のデザインデータを作成する。この間、作成中のデザインをカラーモニタ6に表示し、マニュアル入力装置8からの入力を表示制御部22により解釈する。またカラーモニタ6への表示等のユーザインターフェースを、表示制御部22により実現できる。そしてニットデザイン部16は、デザインデータを横編機等の編機の駆動データ(編成データ)に変換する。
【0027】
演算部18は、デザインデータあるいは編成データを元に、編成後の編地のサイズを演算して予測する。デザインデータ等の他に、編目のループ長、あるいは編目のゲージ、ピッチ等の、編目のサイズを表すデータを、演算部18に入力する。
【0028】
デザイン修正部20は、
編地の指示サイズ等の形状データと演算部18で演算した編地のサイズとを比較する、
あるいは編地の目標形状を表すパターンデータと、演算部18で演算した編地のサイズとを比較する、
等の処理を行う。これにより、デザインした編地の外形と出来上がりの編地の外形との違いが判明する。デザイン修正部20は、この誤差を解消するように、編地の指示サイズを変更する、編目の数(以下目数という)を増減する、編目のループ長を変更する等の処理を施す。指示サイズあるいは目数を変更する場合、編地の形状が変化するので、デザイン修正部20はこれに伴い、編組織の位置を移動する、編目の寄せの位置と個数を変更する、等のデザイン上の処理も行う。さらに身頃のアームホールは、曲線に成ることを意図していても直線状にデザインされることが多いので、曲線状のアームホールに対してデザインデータを修正しない、等のルールに従い、デザインの修正が必要な個所と、そうでない個所とを判別する。デザイン修正部20が修正したデザインを、必要に応じてニットデザイン部16により再度処理して、デザインデータ及び編成データへ変換する。
【0029】
表示制御部22は、カラーモニタ6への表示を制御すると共に、マニュアル入力装置8からの入力を解釈し、ユーザインターフェースを提供する。
【0030】
データベース24は、編地のデザインデータと、編成した編地の実測サイズ等を、検索可能に記憶する。ユーザは、データベース24を検索することにより、どのようなデザインで、かつどのような条件(編機の種類、糸の種類等)で、どの程度の誤差がデザインデータと実際の編地の間に生じるか、を知ることができる。そしてこの知識を、編地のデザイン、あるいはデザインデータの修正等に利用できる。
【0031】
図2は、実施例でのデザインの流れを示す。編地の形状データを入力するため、指示サイズ(編地の主要ポイント間の距離等)を入力し、あるいは編地の外形を図形的に入力する。なお編地の形状の入力方法は任意である。ニットデザイン部16は、ゲージ変換により編地のサイズを目数に変換し、パターンデータとする。なお所定長さ当たりのウェール方向の編目の数とコース方向の編目の数がゲージで、編地のサイズとゲージとが定まると、目数が定まる。パターンデータに対し、リブ、ガータ、タック、ミス、寄せ、伏目、増し目、減らし目等の編組織を入力すると、デザインデータが得られる。そして、デザインデータを編機を駆動するための編成データへ変換する。編目のサイズを指定するため、実施例では例えば編目のピッチ(ゲージの逆数)を用いるが、編目当たりの糸の長さ、即ちループ長も編目のサイズに影響する。そこで編成データにループ長を追加するか、次のシミュレーションでループ長を追加する。指示サイズの入力から、編成データへの変換までは、ニットデザイン部16により行われる。
【0032】
デザインデータあるいは編成データを元に、演算部18は、シミュレーション等により、編成後の編地のサイズを演算により求める。シミュレーション結果から編地の外形を抽出し、編地の形状データとの誤差をデザイン修正部20で求めて、誤差が小さくなるように編地サイズ等の編地の形状の変更、目数の変更、編地の組織の変更、ループ長の変更等の処理を、デザイン修正部20で行う。次いで、ニットデザイン部16により必要なデータを補い、デザインデータとして完成し、編成データに変換し、再度、編成後の編地のサイズを演算する。デザインデータの修正に関する処理は、デザイン修正部20が、ユーザの指示を待たずに、自動的に行う。なお編地サイズの再演算を省略し、ユーザが要求したときのみ実行しても良い。
【0033】
演算した編地のサイズと、当初入力した編地の形状データとの誤差が分かるように、例えばシミュレーションした編地の画像と、編地の形状データ等を重ね合わせて、カラーモニタ6に合成表示する。この表示に対して、ユーザが承認すると、編成データあるいはデザインデータを出力する。修正する場合、カラーモニタ6とマニュアル入力装置8により、編地の形状データ、パターンデータ、デザインデータあるいは編成データを修正する。以上の処理により、試編み無しに指示サイズにほぼ合致する編地を編成できる編成データが得られる。
【0034】
図3に、実施例の各段階での、データの意味を示す。編地の形状データは、指示サイズあるいは編地の外形そのものから成り、指示サイズは編地の主要部のサイズを指定する。パターンデータは、編地の形状データを目数に変換したデータで、コース数とウェール数とを指定する。デザインデータは、パターンデータ中の編目(編目の種類と接続関係は未指定)に対し、編目の種類と接続関係、寄せ等を指定することにより、編組織を指定したものである。デザインデータにより、編地の構造は一意に定まる。デザインデータを編機を駆動できるデータに変換すると、編成データとなる。編成データに、ループ長、編目のピッチ等を追加すると、編地のサイズを演算でき、必要なデータの種類は演算方法により異なる。
【0035】
図4は、編地のサイズの演算のため、デザインシステム2へ入力するデータを示す。ゲージデータは、平編地(表目のみあるいは裏目のみから成る編地)での、所定の長さ当たりのコース方向の目数とウェール方向の目数である。ゲージデータから、同じ種類の編目が連続する際の、編目のピッチが分かり、これにはコース方向のピッチとウェール方向のピッチとがある。
【0036】
好ましくは、表目と裏目とが接続されている場合の編目のピッチも、デザインシステム2へ入力する。これにはリブ(コース方向に沿って表目と裏目とが隣接)と、ガータ(ウェール方向に沿って表目と裏目とが隣接)との2種類があり、各々にコース方向のピッチとウェール方向のピッチがある。
【0037】
また好ましくは、編目が寄せられている、即ちコース方向に沿ってシフトさせられている場合の、編目のコース方向のピッチとウェール方向のピッチを入力する。何目寄せるか(何目シフトさせるか)等の種類があるので、シフトさせる目数に応じて、ピッチを複数種類入力する。表目と裏目とが接続されている場合のピッチ、寄せがある場合のピッチ等は、特許文献1のようにして風合いサンプルを編成する際に、風合いサンプル中にこれらの編組織を含めると、実測できる。またこれらのデータを入力せずに、ゲージデータから、適当なモデルを用いて、演算部18内で求めても良い。
【0038】
編地の構造以外に、編目の目標ループ長が、編地のサイズを左右する。ループ長は、平編、リブ、ガータ等の編組織毎に、指定する。なお同種の編目でも、編地内の位置により、ループ長を変えても良い。これらのデータが豊富に入力されるほど、編地サイズの予測が容易になり、入力データが少ないと、力学モデルに頼ることになるので、計算量が増加する。
【0039】
図5は、編地のサイズを演算するための方法を示す。力学シミュレーションでは、編目のループ長、弾性率により、編成データに従って編成した編地が、どのような形状になるかを、シミュレーションする。力学シミュレーションは、一般に計算量が過大である。半経験的シミュレーションの例が、特許文献2,3に記載されている。半経験的シミュレーションは、長時間ユーザを待たせることはないが、短時間で編地のサイズを予測できるとは言いにくい。グリッドモデルは
図10〜
図16に示すもので、短時間で編地のサイズを予測できる。これらのいずれを用いるかは、ニットデザインシステム2の計算力に依存する。
【0040】
図6に、データベース24の構成を示す。データ30は、編地のデザイン毎に、修正前のデザインデータ、及びもし有れば修正後のデザインデータと、糸の種類、編機の種類等の編成条件、編成した編地の実測サイズ、検索用のキーワードなどを記憶する。編地のサイズを実測することは、量産前に通常に行われていることである。また検索用キーワードには、デザインデータ、あるいは編地の写真等をサムネール画像として、含めることが好ましい。検索エンジン32は、サムネール画像等をカラーモニタ6に表示し、マニュアル入力装置8からのキーワード入力、あるいはサムネール画像の選択により、選ばれたデータ30を、カラーモニタ6に表示する。
【0041】
図7に示すように、データベース24を用いると、類似のデザインの編地を検索し(ステップS1)、修正前のデザインと修正後のデザイン、及び実測したサイズ等から、編地のサイズが指示サイズからどのように変化しやすいかを把握できる。また編地のどの位置で変化が生じやすいかも把握できる。そこでこれらの情報を、デザインデータの修正等に利用する(ステップS2)ことにより、より的確にほぼ指示サイズ通りのサイズとなる編地をデザインできる。
【0042】
図8では、編地の形状データ(外枠)と、平編地(薄色の大きな編地で、表目をベースとする編地で、成型のための寄せや伏目等の編組織を含む)と、ケーブル等の編組織を有する編地(やや濃色のやや小さな編地)とを重ねて表示している。これらの編地の指示サイズとパターンデータは同一で、相違点は編組織である。またいずれも半経験的シミュレーションによる画像である。編組織を追加すると、編地は形状が変化する。例えば表目ベースの平編地であっても、成型のために寄せや伏目を入れることにより、編地の形状データに比べ、編地の幅方向(コース方向)に縮む。さらにケーブル等の編組織を身頃等の編地内に入れると、より編地は編幅方向に縮む傾向にある。本発明では編地の形状データと演算した編地サイズとの誤差を無くすように、デザイン修正、編地サイズ等の編地形状の変更、目数の変更、編地編組織の変更等を行う。そして実施例では、編成後の編地サイズを予測できるので、試編無しでほぼ指示サイズ通りの編地を編成できる。
【0043】
変形例
本発明では、短時間で編地のサイズを演算できることが重要である。編目はコース方向とウェール方向とに接続されているので、編目の形状は周囲の編目の影響を受けて変化する。周囲の編目の影響を盛り込み、かつ短時間で、繰り返し計算無しに、編地の外形サイズを求めるための処理を、
図10〜
図16に示す。また編地サイズの演算に絞って、変形例を説明する。これらの処理は演算部18で実行する。
【0044】
図9のステップS11で、指示サイズ等を基に編地の形状データを定め、ステップS12で、ゲージを基に編地の形状データを目数に変換しパターンデータとする。ステップS13で、編組織、編目の種類等を追加し、デザインデータとする。そしてステップS14で、デザインデータを編成データに変換する。
【0045】
ステップS15で、表−裏間ピッチ及び寄せピッチに基づき、コース方向のグリッドラインとウェール方向のグリッドラインを変形させ、より現実的な編目の位置を求める。ステップS16では、求めた編目の位置に基づき、編地の外形サイズを演算する。
【0046】
グリッドラインのモデルを、
図10に破線で示す。コースc1〜c4とウェールw1〜w5が表示され、ウェールw1〜w3は表目、ウェールw4,w5は裏目で、コース番号をjで、ウェール番号をiで示す。各コースc1〜c4及び各ウェールw1〜w5での、編目が配置されている直線あるいは曲線が、グリッドラインである。また編地の起点を、例えば
図10の左下に置く。ウェールw2−w1間のピッチは、ウェールw2の4個の編目(j=1〜4)のx方向ピッチxpjの平均とする。コースc1−c2間のピッチは、コースc2の5個の編目(i=1〜5)のy方向ピッチypiの平均とする。即ち、編目を単独で移動させずに、編目が属するコース方向とウェール方向とのグリッドラインを変形し、変形には各編目のピッチの平均値あるいは移動平均を用いる。なおウェールw1−w2,w4−w5等のピッチは、ゲージで定まるピッチに等しい。またコースc1−c2のピッチは、表目−表目のピッチ×3と、裏目−裏目のピッチ×2の、重み付きの平均で、重みはそのピッチとなる編目の数である。さらにコースc1−c2〜c3−c4のピッチは共通である。グリッドラインを定めるデータは、例えばグリッドラインの交点(編目)の座標の配列であり、グリッドラインの変形とは編目の座標を移動させることである。
【0047】
短いグリッドラインは直線に近く、長いグリッドラインは直線から外れるのが自然である。言い換えると、1個の編目のピッチは、遠く離れた編目の配置に僅かしか影響しないはずである。そこで編目の位置が直線上に揃う程度の編目数で平均する、移動平均が好ましい。
【0048】
図11に寄せのピッチの演算を示し、風合いサンプルに寄せの編目が含まれている場合は、測定値を用いる。編目のサイズ自体は寄せで変化しないものとし、表目−表目のピッチあるいは表目−裏目のピッチに対応する標準的なピッチをxp、yp(以下同様)として、サイズ(xp
2+yp
2)
1/2 は変化しないものとする。そして編目の基端等の基準位置を中心に円73に沿って、編目71を編目72へと回転させる。なお寄せピッチを求めるためのモデルは他にも考えられ、モデルとピッチの近似方法は任意である。
【0049】
図12,
図13に、寄せの編目に対するピッチの演算方法を補足して示す。寄せられた編目に対して、ピッチが縮む方向のみを対象とし、
図12の●は編目の起点を、○は先端を示し、ウェール3-4におけるこの編目のピッチを考える。aを寄って来る前の編目の先端位置、a’を寄って来た後の位置とする。位置a'がウェール3上にある時、この編目のウェール3-4でのピッチを0とする。位置a'に対し、x,yを
図12のように定義すると、この編目のウェール3-4におけるピッチは-xp+x(xpは標準ピッチ)となり、コース2-3におけるピッチはyとなる。次に位置a’は基端と位置aとを結ぶ線上に有り、位置a'と基端との距離はypに等しいとすると、x,yが定まる。
図13は、他の編目に対する同様の演算例を示す。
【0050】
図14は、引き伸ばされた編目のピッチの考え方を示し、この編目の先端は位置bから位置b'へ収束するとする。コース3-4におけるこの編目のピッチを考えると、先端の位置b'がJ=3のグリッドライン上にあるときピッチを0とする。先端の位置b'はj=2のグリッドライン上に収束するので、コース3-4におけるピッチは−ypとする。
【0051】
図12,
図13のモデルを用いると、
図15におけるコース間のピッチとウェール間のピッチを演算できる。図のコース1等は、コース1-2間等のピッチを表す。またa-dは編目の記号である。なおウェール2-3におけるピッチ(xp+xp−(xp−xpa)+xp)/4 は、ピッチxpの編目が2個有り、編目aはピッチが−(xp−xpa)となり、編目cの基端がピッチxp分の寄与をしていると考えて求めた。ただし演算方法の詳細は適宜に変更できる。
【0052】
図14のモデルと
図12等のモデルとを用いると、
図16におけるピッチを演算できる。コース3-4におけるピッチを (2ypa+0)/3 とするのは、編目a、及びこれと同じ形状の編目の寄与が2ypaで、編目eは、先端がj=3のグリッドライン上に収束しようとするのでピッチへの寄与は0である。同様にしてコース4-5等におけるピッチも演算できる。ウェール1-2におけるピッチは、通常の編目が2目で寄与が2xp、編目aの寄与がxpaで、平均すると (2xp+xpa)/3 となる。
【0053】
このようにして各編目のコース方向とウェール方向のピッチを求め、破線で示すグリッドライン毎に平均すると、変形後のグリッドラインの位置が定まる。なお
図15,
図16では単純平均を示しているが、グリッドラインが長い場合、移動平均が好ましい。
【0054】
以上のように、寄せを伴う場合のピッチは、
・ 風合いサンプルから測定する
・
図12,
図13,
図14のモデルをそのままあるいは修正して用いる、ことにより求めることができる。これらのピッチは、ピッチ記憶部17に記憶するか、その都度、グリッドライン変形部19で演算して求める。またミス及びタックは、グリッドラインの変形に関係しないとするが、適当なモデルを別に定めても良い。そしてグリッドラインがどのように変形するかが判明すると、編目の位置が求まる。この処理は繰り返し演算無しで、短時間で実行できるので、編地の外形サイズを短時間で求めることができる。
【0055】
実施例及び変形例では、以下の効果が得られる。
1) 編成後の編地のサイズを、演算部18により試編み無しで予測できる。
2) 指示サイズ等との誤差を解消するように、デザイン修正部20によりデザインデータ等を修正する。
3) デザイン修正部20が修正したデザインを、ユーザが承認あるいは編集できる。
4) データベース24により、どのようなデザインとどのような編成条件で、どのような個所に、どの程度の形状誤差が生じるか、を検索できる。
5)
図9〜
図13の処理では、短時間で編地のサイズを演算できるので、デザイン修正が容易になる。
【0056】
なお編糸を複数種類用いるデザインでも、編地の一部で他とはループ長が変化するデザインでも、同様に対応できる。また編地サイズの予測のために入力するデータの種類は任意である。編機は横編機に限らず、丸編機等の他の編機でも良い。