(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
該アクリル酸ポリマーが、ポリアルケニルエーテル、ポリアルコールおよび/またはジビニルグリコールを使用して架橋されることを特徴とする、請求項6に記載の組成物。
該抗原が、アクチノバチルス・プルロニューモニエ抗原、ヘモフィルス・パラスイス抗原およびブタサーコウイルス2型抗原から成る群より選択されることを特徴とする、請求項9または10に記載の組成物。
単回投与後、ブタサーコウイルス2型並びに任意にマイコプラズマ・ハイオニューモニエおよびローソニア・イントラセルラリスによる感染に対して適切な免疫応答を提供するワクチンとしての使用のために、ブタサーコウイルス2型抗原、マイコプラズマ・ハイオニューモニエ抗原および任意にローソニア・イントラセルラリス抗原を含む、請求項1〜13のいずれかに記載の組成物。
【背景技術】
【0002】
生物学的抗原とアクリル酸ポリマーとを含む水性組成物(即ち、水素結合の形成を可能
とする水または他の親水性液体に基づく組成物)を提供することは、例えば国際公開第2
010/025469号で知られている(生物学的抗原は、例えば細菌、ウイルス、動物
、原生生物、糸状菌等、典型的には生きた若しくは死滅した微生物等の生物、または生体
分子に由来する抗原、好ましくは生物に由来するタンパク質若しくは多糖類である。用語
「に由来する」とは、生体分子それ自体またはその前駆体が生物によって産生されること
を包含する)。この先行技術文献におけるアクリル酸ポリマーは、アジュバント、即ち免
疫学的事象のカスケードにおける特別な過程に有利に働くかまたは該過程を増幅し、最終
的により良好な免疫応答をもたらす組成物中に含有される非特異的免疫賦活剤として使用
されている。アクリル酸ポリマーは、種々のタイプの抗原、例えば生きた若しくは死滅し
た微生物、これらの微生物のサブユニットまたは組換え生成されたサブユニット、例えば
タンパク質、多糖類および他の種類の分子等に対する免疫応答を改善することのできる安
全かつ適切なアジュバントとして長い間認識されてきた。例えば、米国特許第3,178
,350号は既にアジュバントとしてのアクリル酸ポリマーの使用について記載している
。これらのアジュバントは商標Carbopol(商標)の下、入手可能である。
【0003】
アクリル酸ポリマーの顕著な特性は、それらが水性組成物中で連結したポリマー鎖を本
質的に提供するので、水性組成物の粘度を著しく増加させることである。即ち、ポリマー
鎖の酸残基が水素結合によって相互作用し得る。水素結合は共有結合よりも著しく弱いに
もかかわらず、ポリマー鎖間のこの相互作用は水溶液の粘度に顕著な影響を及ぼし得る。
このアクリル酸ポリマーの固有の特性は、ポリマー鎖長および側鎖/側基の種類にほとん
ど左右されず、例えばアクリル酸ポリマーが増粘剤として用いられているクリームまたは
ローションにおいて広く使用されている。連結されたポリマーが組成物の隅々までポリマ
ー鎖の純粋なネットワークを形成し(一定のポリマー濃度以上、典型的には0.2〜0.
5%(w/w)以上で)、ネットワークのすき間が連続相で充たされる場合、該組成物は
ゲルと称される。水性組成物の局所適用(例えば、ハンドクリーム、日焼け用ローション
等)には、これは組成物の好ましい状態である。生物学的抗原を含んだ組成物にとって、
当該組成物は典型的には注射によって投与されるので、粘度の上昇は重大な不利益である
。組成物の粘度が約5〜70mPas(抗原を含んだ水性組成物には典型的である)から
約200mPasに上昇するときでさえ、組成物を被験動物(本明細書および添付の特許
請求の範囲における動物の語には人間も包含される)に注射により(手で)投与する場合
、これは非常に顕著である。組成物のゲル化は通常、いかなる時でも回避される。ゲル化
した組成物は容易に注射することができないからである。従って、現実面では、生物学的
抗原を含んだ組成物に対しては、典型的には0.1から最高で0.2%(重量分の重量;
w/w)のアクリル酸ポリマーが適用される。実際、最先端のワクチンに関する国際公開
第2010/025469号では、0.1%(w/w)のアクリル酸ポリマーが適用され
る。アクリル酸ポリマーを含んだ市販のワクチンの例は、Suvaxyn(商標)M.H
yo‐Parasuis(Pfizer Animal Healthから入手可能)で
あり、0.2%(w/w)のCarbopol(商標)941を含んでいる。
【0004】
好ましいアジュバント特性を同時に保持しながらも組成物が実際に商業的に利用し得る
程度まで組成物の粘度を低下させるべく、生理学的に許容可能な電解質(即ち、導電性溶
媒を産生するために溶解または溶融されるとイオン化する化合物、例えば、‘811号特
許、第4欄、28〜42行目に記載される電解質等)を注射可能な組成物に添加すること
は、当該技術分野で説明されている(米国特許第3,920,811号明細書)。しかし
ながら、’811号特許に明確に示されている通り(第7欄、3〜6行)、電解質濃度は
、アジュバント溶液と生物学的抗原との混合物である最終的な注射剤において等張性を生
じさせる濃度と同じであることがある。特に、実際の注射可能な組成物は、典型的には約
1/2の等張性である。この理由は、高張液は注射に際して組織損傷を与え得ることが一
般に知られていることにある。組成物がほんのわずかに高張性であるが故に究極的な損傷
を無視し得る場合でさえ、注射の結果、動物が注射部位に非常に不快感を覚える可能性が
あり、それによって例えばストレス、掻痒、刺咬等がもたらされる可能性がある。従って
、動物投与用組成物に対して一般的に要求される安全基準に適合させるべく、生物学的抗
原とアクリル酸ポリマーとを含んだ市販の組成物はそれぞれ、最高でも標準的な体液(例
えば、血清)と等張であり、即ち0.9%(w/v)食塩水溶液のモル浸透圧濃度(約3
00 mOsm/l)を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
より広い用途を持った、序文に記載の新規組成物を提供することが本発明の目的である
。
【0006】
驚くべきことに、アクリル酸ポリマーを含んだ組成物において、高張液を与える量の電
解質の使用にもかかわらず、一般的に許容される安全基準に適合する組成物がもたらされ
ることが見出された。著しく高張性である場合でさえも安全な組成物に関して明確な技術
的理由はないが、動物組織中への組成物の注射の際でさえ、アクリル酸ポリマーの存在が
、過剰の電解質の存在によって問題を生じさせない組成物を提供するようである。理論に
拘束されるものではないが、連結されたポリマー鎖のネットワーク形態におけるポリマー
の存在が、周辺組織を損傷させることなく、過剰な電解質の、制御され且つ迅速な希釈を
生じさせる組成物を構成し得ると考えられている。これは、‘811号特許が公告されて
以来一般的に受け入れられていた説である該特許の教示とは全く矛盾する。過剰な電解質
を使用することができるという本発見の重要な利益の一つは、アクリル酸ポリマーを含ん
だ組成物の粘度をさらに低下させることができ、それによって組成物のより容易な実用的
利用が可能になることである。また本発明は、非常に低い粘度を保持しつつも、はるかに
大量のアクリル酸ポリマー、0.5%(w/w)を超える使用さえも可能にする。かかる
量のポリマーの使用は、生物学的抗原の(超)徐放性製剤の可能性を提供する。電解質が
投与に際して組成物から動物組織中に急速に希釈されるという明確な特徴を考慮すると、
組成物の粘度は投与直後に著しく上昇し、投与部位でゲル化した組成物を形成しさえし得
る。本質的に生物学的抗原は、かかるゲルからは、水性(低粘性)組成物自体からの放出
と比較して、とりわけゲル特性に依存しつつより緩徐に放出されるであろう。一般的に、
粘度が高ければ高いほど、抗原がより緩徐に放出されることが予想される。
【0007】
特に生物学的抗原を含んだ水性組成物中のアクリル酸ポリマーは、組成物が被験動物に
投与される場合、これらの生物学的抗原によって誘発される発熱を低減するために使用す
ることができることが見出された。注射後の初めの24時間以内の2℃の体温上昇は一般
的に認められ安全とみなされているとはいえ、1℃未満の体温上昇が一般的に望ましい。
本発明に従う組成物によって、1℃未満又はさらに0.5℃未満の体温上昇が達成され得
る。この理由は定かでないが、低粘性高張液が、投与のほぼ直後に高粘度に達するため、
程度の差はあるが徐放製剤へと変化するという事実に関連している可能性がある。徐放性
によって、強くはないがより長期に渡る免疫応答がもたらされ得る。力価にも少なくとも
ある程度の低下が見られるだろうと予想されたが、驚くべきことに、発熱が著しく低下す
る場合でさえなお高い力価が得られることが見出された。これは、例えば、大腸菌(E.
coli)、サルモネラ属菌、赤痢菌属および他の腸内細菌科の菌、シュードモナス属菌
、モラクセラ属菌、ヘリコバクター属菌、ステノトロホモナス属菌、ブデロビブリオ属菌
、酢酸菌、レジオネラ属菌およびウォルバキア属のアルファプロテオバクテリア、藍藻、
スピロヘータ、緑色硫黄細菌および緑色非硫黄細菌、淋菌、髄膜炎菌、カタル球菌、イン
フルエンザ菌等のヘモフィルス属菌、肺炎桿菌、在郷軍人病菌、緑膿菌、プロテウス・ミ
ラビリス、エンテロバクター・クロアカ、セラチア・マルセセンス、ヘリコバクター・ピ
ロリ並びにアシネトバクター・バウマンニ等のグラム陰性細菌を含んだ多くのワクチンに
存在する、例えばリポ多糖類(LPS)含有抗原等、典型的に発熱を誘発する抗原に基づ
いたより安全なワクチンを獲得することを可能にする。
【0008】
上記の他、本発明は、単回投与(one single administration)後にブタサーコウイル
ス2型(PCV2)およびマイコプラズマ・ハイオニューモニエおよびローソニア・イン
トラセルラリス感染に対する適切な免疫応答をもたらすワクチンを提供するために、ブタ
サーコウイルス2型(PCV2)抗原および任意にマイコプラズマ・ハイオニューモニエ
抗原およびローソニア・イントラセルラリス(ブタ回腸炎病原菌)抗原を含む組成物中で
、有利に使用することができることも見出された。
【0009】
なお本発明はまた、上述の水性組成物を含んだ注射可能な組成物(特に、粘度が200
mPa.s未満、好ましくは100mPa.s未満の組成物)にも関連する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
一実施形態において、組成物のモル浸透圧濃度は、0.9%(w/v)塩化ナトリウム
溶液のモル浸透圧濃度よりも少なくとも30%高い(即ち、約400 mOsmol/l
以上)。この高いモル浸透圧濃度でさえ、投与部位における負の副作用を伴わずに使用で
きることが見出された。これはアクリル酸ポリマーの使用の自由度を増大させる。今や、
一般的に使用される0.2%を大きく上回る量でさえも、非常に低い粘度を保持しながら
使用することができる。
【0011】
一実施形態において、組成物のモル浸透圧濃度は、0.9%(w/v)塩化ナトリウム
溶液のモル浸透圧濃度よりも少なくとも50%高い(即ち、約450 mOsmol/l
以上)。この高いモル浸透圧濃度でさえ、投与部位における負の副作用を伴わずに使用で
きることが見出された。これはアクリル酸ポリマーの使用の自由度を増大させる。今や、
一般的に適用される0.2%を大きく上回る量でさえも、非常に低い粘度を保持しながら
使用することができる。
【0012】
好ましい一実施形態において、該組成物は、0.2%(w/w)超または0.5%(w
/w)超ものアクリル酸ポリマーを含む。アクリル酸ポリマーをこれらの量含むと、組成
物は粘性のゲル形態となり得る。ゲル化した組成物に過剰の電解質を添加することによっ
て、粘度は10〜70 mPa.sの標準値まで低下し得る。よって、組成物は、標準的
な携帯式注射器を使用して容易に適用され、注射後には過剰な電解質の希釈によって高粘
性ゲルに戻るであろう。かかるアクリル酸ポリマーゲルは、発熱を典型的に誘発する抗原
に対する高抗体力価を獲得するのに特に適する一方で、結果として生じた熱を低下させる
ことが見出された。0.8%〜1.6%(w/w)のアクリル酸ポリマーを含んだ組成物
が特に好ましい。この実施形態において、過剰な電解質は好ましくは、標準的な組織液(
0.9%塩化ナトリウム溶液)のモル浸透圧濃度の、典型的に2〜3倍超のモル浸透圧濃
度、従って約600〜900 mOsmol/l超をもたらす。このように、投与前の粘
度は、注射を可能にするほど十分低く保つことができる。注射後、電解質は希薄になり組
成物はゲルへと変化するであろう。
【0013】
一実施形態において、アクリル酸ポリマーは、架橋ポリマー、好ましくは、架橋剤とし
てポリアルケニルエーテル、ポリアルコールおよび/またはジビニルグリコールを使用す
る架橋ポリマーである。ポリマーを架橋すると、ネットワーク形成の部分が本質的に共有
結合的な架橋の形態で存在するというだけの理由で、例えば温度およびpHにそれほど依
存することなく、組成物中にポリマー鎖からなるネットワーク形成が生じる。
【0014】
他の実施形態において、組成物は、多価陽イオン(1+超、典型的には2+または3+
を有する陽イオン)を含んだ電解質を含む。多価陽イオンを使用すると、一価(1+)の
陽イオンを使用した場合とモル浸透圧濃度が同じときでさえ、粘度がより効果的に低減さ
れることが見出された。好ましい実施形態において陽イオンは、最高0.05Mまで、好
ましくは最高約0.03Mまでの濃度で存在する。使用することのできる陽イオンの量は
、アクリル酸ポリマー溶液中のカルボキシレート基の量に依存する。過剰な量の陽イオン
は沈殿を誘発し得る。多価陽イオンを最高でこれらの量使用する場合、組成物投与時の安
全性を保持しつつ、粘度を非常に効果的に低下できることが見出された。
【0015】
一実施形態において、生物学的抗原は、投与に際して発熱、即ち0.5℃超、さらにと
りわけ1.0℃超、1.5℃超、またはさらに2.0℃超の発熱を誘発する抗原である。
実際のところ、投与に際して多少の発熱を誘発する抗原が多い。誘発してもよい発熱の上
限値は、監督当局により規定されていることが多い。かかる上限値に適合させるため、場
合によっては抗原の量を最適レベル以下まで低下させ、そのために非最適の免疫応答しか
得られないことを甘受する必要がある。ワクチンが防御を提供すべき実際の疾病を予防す
るためには、これは不利な状況である。驚くべきことに、本発明に従う組成物を使用する
ことによって、免疫応答を保持しつつも、抗原によって誘発された発熱を低減し得ること
が見出された。該発熱が徐放性によって低減されるならば、免疫応答もまた弱くなるであ
ろうことが予想されるため、抗原の徐放性がこの効果に対する唯一の理由ではありえない
。しかしながら出願人は、本発明を使用することにより、適切な免疫応答を維持しつつも
発熱を低減させ得ることを見出した。
【0016】
一実施形態において抗原は、グラム陰性細菌抗原およびサーコウイルス抗原からなる群
より選択される。特定の一実施形態において抗原は、アクチノバチルス・プルロニューモ
ニエ(ブタ呼吸器病原菌)抗原、ヘモフィルス・パラスイス(ブタのグレーサー病病原菌
)抗原およびブタサーコウイルス2型(PCV2)抗原から成る群より選択される。これ
らの抗原は投与の際に発熱を誘発することで特に知られている。本発明を使用することに
より、組成物の免疫学的有効性を適正水準に保ちつつ、発熱を顕著に低減させ得る。
[実施例]
本発明について、以下の例を使用してさらに説明する。
【0017】
例1は、粘度に関するアクリル酸ポリマーの効果を示す。
【0018】
例2は、本発明に従う組成物の物理的性質およびその安全性に関する。
【0019】
例3は、本発明に従う組成物の構成を説明する。
【0020】
例4は、本発明に従う組成物によるワクチン接種実験を示す。
【0021】
例5は、本発明に従う組成物による第2のワクチン接種実験を示す。
【0022】
例6は、本発明に従う組成物による第3のワクチン接種実験を示す。
【0023】
例7は、本発明に従う更なる組成物およびこれら組成物の製剤化方法を説明する。
【0024】
例1
組成物の粘度に関するポリマーの効果を評価するべく、架橋されたアクリル酸ポリマー
を使用して種々の水性等張製剤を作製した。該製剤は抗原を含んでいない(通常、抗原は
粘度を上昇させる)。また過剰量の二重荷電電解質の添加の効果も評価した。
【0025】
製剤は全て、架橋されたアクリル酸ポリマーであるCarbopol 974P(BF
Goodrich Specialty Chemicals,Cleveland,O
hioから入手可能)を含んでいた。種々の量のポリマー(0.1〜1.6%(w/w)
)を0.9%(w/v)塩化ナトリウム溶液の水溶液に溶解した。製剤の粘度は、ブルッ
クフィールド実験用粘度計を用いて測定した。結果は次の通りであった。
【0026】
【表1】
なお、本発明の水性組成物は、油相と共にエマルジョンを形成し、典型的には、油中水
型エマルジョン、水中油型エマルジョンまたは水中油中水型エマルジョンに到達させるべ
く、使用され得る。従って、かかるエマルジョンは本発明に従う水性組成物を含む。エマ
ルジョンを処方することは、もちろん粘度に影響を及ぼし、通常、顕著な増加をもたらす
であろう。例えば、油(例えば10%(w/v))が、粘度約3mPasの水溶液中で乳
化される場合、粘度は約25mPa.sまたはさらに高くまで増加し得る。
【0027】
次の実験では、0.8%Carbopol製剤を使用して、過剰な電解質を使用するこ
とにより粘度に及ぼす影響を評価した。粘度への影響を明らかにするため、この製剤に、
様々な量の塩化ナトリウムおよび塩化カルシムを添加した。結果を表2に示す。
【0028】
【表2】
表から分かる通り、過剰量の電解質の添加は、アクリル酸ポリマー含有組成物の粘度を
顕著に低下させる。注射に際し、この過剰分は組成物から周辺組織へと薄まり、それによ
って組成物の粘度を上昇させてゲルにまでなることが見出された(例2を参照のこと)。
かかるゲルは、注射部位に残り、その成分の緩徐な拡散と分解とが起こるであろう。
【0029】
例2
この例は、本発明に従う組成物の物理的特性、特に注射後のそのゲル形成および分散内
容物の放出、並びに、動物組織への注射の安全性に関する。
【0030】
本実験において4匹のブタを使用した。各ブタに、1.6%Carbopol 974
Pと2.5%塩化ナトリウムと0.48%塩化カルシウムとを含んだ組成物(モル浸透圧
濃度約925 mOsmol/l)1mlを筋肉内注射により投与した。診断目的のため
、製剤は0.075%の着色料パテントブルーを追加的に含んでいた。製剤投与の2時間
後、番号1のブタを安楽死させ、投与部位を検査すべく、直ちに筋肉組織を切開した。ゼ
リー状の青い物質を含有するくっきりとしたスポットが見えた。スプーンを利用してスポ
ットをゲルとして除去することができた。ゲルは流動しなかった。同一の組成物を投与し
た24時間後、番号2のブタを安楽死させ、投与部位を検査するためにその筋肉組織もま
た切開した。くっきりとした無色のゲルが投与部位に点状となっており、それはブタ体内
へのパテントブルーの拡散を示している。48時間後に番号3のブタを、1週間後に番号
4のブタを安楽死させた。どちらのブタからもゲルは単離し得なかった。青色は完全に消
失していた。
【0031】
これらの結果は、ゲルが注射2日後まで存在することを示している。小分子はゲルから
1日以内に拡散する。タンパク質のような大分子の放出は、この特定の製剤において約2
日間遅くなると予想される。
【0032】
局所反応(即ち、正常組織の偏位(deviation)を含むスポット)もまた種々の時点で
記録した。結果、即ち、偏位を有するスポットの大きさ、を次の表3に記載する。なお、
2時間後の偏位は主にゼリー状のスポット自体に限られている。24時間後にやや大きな
組織体積(5cm
3)のいくつかの偏位が観察されたが、安全な(許容可能な)レベルで
あった。1週間後、偏位を有する残りのスポットは事実上消失していた。生きたブタはい
かなる局所反応の症状(ストレス、掻痒、発赤、刺咬等)も示さなかった。これらの結果
に基づき、モル浸透圧濃度が0.9%塩化ナトリウム溶液のモル浸透圧濃度の約3倍であ
るにもかかわらず、該組成物は安全とみなし得ると結論付けることができる。
【0033】
【表3】
例3
異なる生物学的抗原と、異なるタイプおよび異なる量のアクリル酸ポリマーとを含んだ
種々の組成物を作製した。アクリル酸ポリマーの量は、各々の場合、注射後の高粘性を確
保するため、少なくとも0.8%(w/w)であった。各組成物の一般成分を表4に示す
。なお、示した粘度は注射前の粘度である。注射後、電解質は製剤から迅速に薄まり、す
ると製剤が高粘度となり、投与部位において安定なゲルとして留まり得る。
【0034】
【表4】
概して、2種類のアクリル酸ポリマー含有組成物、即ち、0.8%アクリル酸ポリマー
を含んだ0.8タイプと1.6%アクリル酸ポリマーを含んだ1.6タイプとを作製した
。組成物の粘度を十分に低く保ち、標準的な皮下注射器による組成物の注射を可能にする
ため、上掲の表4に示す通り、電解質を添加した。二つの異なるタイプの架橋アクリル酸
ポリマー、即ち、Carbopol 974PおよびCarbopol 971P(いず
れもBFGoodrichから入手可能)を使用した。細菌アクチノバチルス・プルロニ
ューモニエ、ヘモフィルス・パラスイス、マイコプラズマ・ハイオニューモニエおよびブ
タサーコウイルス2型(PCV2)由来の様々な種類の抗原を使用した。これらの抗原を
用い、以下の組成物を作製した。
【0035】
1 Mhyo/PCV2組成物
第一の組成物(「A」と表示)は、アクリル酸ポリマーであるCarbopol 97
4Pを0.8%の濃度で含んでいた。この組成物中には、不活化マイコプラズマ・ハイオ
ニューモニエ抗原(Intervet Schering−Plough Animal
Health,Boxmeer,The Netherlandsから入手可能な市販
のワクチンPorcilis Mhyo中に存在するのと同一濃度の同一の抗原)と、P
CV抗原(Intervet Schering−Plough Animal Hea
lth,Boxmeerから入手可能な市販のワクチンPorcilis PCV中に存
在するのと同一濃度の同一の抗原)とが含まれていた。
【0036】
第二の組成物(「B」と表示)は、アクリル酸ポリマーであるCarbopol 97
1Pを0.8%の濃度含んでいた。この組成物中には、不活化マイコプラズマ・ハイオニ
ューモニエ抗原(Intervet Schering−Plough Animal
Health,Boxmeerから入手可能な市販のワクチンPorcilis Mhy
o中に存在するのと同一濃度の同一の抗原)と、PCV抗原(Intervet Sch
ering−Plough Animal Health,Boxmeerから入手可能
な市販のワクチンPorcilis PCV中に存在するのと同一の濃度の同一の抗原)
とが含まれていた。
【0037】
第一の対照組成物として、Intervet Schering−Plough An
imal Health,Summit,NJ,USAから入手可能な市販のワクチンM
+Pac中で使用されるのと同一の抗原を同一の濃度で含むが、アジュバントエマルジョ
ンEmunadeにおいて製剤化された、「C」と表示される組成物を作製した。厳格対
照製剤「D」はPBS溶液のみを含んで作製された。
【0038】
2 APP組成物
第一の組成物(「E」と表示)は、アクリル酸ポリマーであるCarbopol 97
4Pを0.8%の濃度含んでいた。この組成物は、Intervet Schering
−Plough Animal Health,Boxmeer,The Nether
landsから入手可能な市販のワクチンPorcilis APP中に存在するのと同
一のアクチノバチルス・ハイオニューモニエ抗原(すなわち、APXI,APXII,A
PXIII及びOMP)を同量含んでいた。
【0039】
対照組成物として、市販のワクチンPorcilis APP(「F」と表示)を使用
した。
【0040】
3 ヘモフィルス・パラスイス組成物
第一の組成物(「G」と表示)は、アクリル酸ポリマーであるCarbopol 97
4Pを0.8%の濃度含んでいた。この組成物は、Intervet Schering
−Plough Animal Health,Boxmeer,The Nether
landsから入手可能な市販のワクチンPorcilis Glasser中に存在す
るのと同一のヘモフィルス・パラスイス抗原(即ち、ヘモフィルス・パラスイス細菌の不
活化細胞)を同量含んでいた。
【0041】
対照組成物として市販のワクチンPorcilis Glasser(「H」と表示)
を使用した。
【0042】
組成物A、B、EおよびGは、まず、必要量の約70%の水で電解質の溶液を調製する
ことにより作製された。その後、アクリル酸ポリマーを添加し、該ポリマーが完全に水和
するまで混合した。次に、数滴の4M NaOH溶液を使用して溶液のpHを7.2に調
整した。この生成物を121℃で20分間、加圧滅菌器で処理した。次に、撹拌しながら
生成物を約20℃まで冷却し、その後pHを確認し、必要であれば調整した。次いで、撹
拌しながら抗原を添加し、その後pHを再度確認して必要であれば調整した。残りの量の
水を添加した。容器に充填する前に生成物を一晩撹拌し、充填後、窒素ガス雰囲気下、2
〜8℃で保存した。
【0043】
例4
ワクチン接種実験において、各々が10匹の子ブタから成る4つの群を使用した。組成
物A、B、CおよびDを3週齢時に2mlの用量で筋肉内に投与した。直腸温をワクチン
接種直前(t=0時間)およびワクチン接種4時間後(最大体温上昇が予想される)に測
定した。
【0044】
以下の結果が得られた。どの群においても疾病の臨床症状は観察されず、これは、いず
れの組成物も安全とみなし得ることを意味する。測定された平均体温を表5に示す。
【0045】
【表5】
表から分かる通り、使用した抗原はワクチン接種した動物において顕著な体温上昇を誘
発し得る(組成物Cの結果を参照のこと)。しかしながら本発明に従って製剤化した場合
、体温上昇はより低くなり、完全に抑制することもできる。
【0046】
体温上昇に次いで、組成物投与6週間後に抗原に対する抗体力価を測定した。結果を表
6に示す。
【0047】
【表6】
なお、Mhyo部分が市販の単回接種用ワクチンM+Pacと同一であるので、組成物
CはMhyoからの防御をもたらすワクチンである。従って、組成物AおよびBもまた病
原性マイコプラズマ・ハイオニューモニエからの防御をもたらすことが予期される。PC
V2に関しては、市販のワクチンPorcilis PCVは、投与約6週間後に力価が
9を超える場合に防御を生じさせることが知られている(特にEP2 291 195の
例3の結果を参照のこと)。
【0048】
例5
20匹のブタを5
1/
2〜6週齢時に使用した。それらを各々10匹のブタから成る2
つの処理群に無作為に割り当てた。ブタは、組成物EおよびFをそれぞれ6および10週
齢時に投与された。動物は全身反応、特に直腸温および臨床症状、並びに局所反応につい
て、両ワクチン接種後に観察された。ワクチンに対する血清学的応答の測定のため、血液
採取は6、10、13および23週齢時に実施した。動物は、23週齢時死後に注射部位
の局所反応について調査された。
【0049】
後者に関しては、屠殺時、注射部位に容認できない局所反応は観察されなかった。平均
体温上昇は、組成物の投与4、6および8時間後に立証された。結果を表7に示す。
【0050】
【表7】
表から分かる通り、使用した抗原はワクチン接種した動物において顕著な体温上昇を引
き起こし得る(組成物Fによる追加免疫の結果を参照のこと)。しかしながら、本発明に
従って製剤化すると、体温上昇はより低くなることがあり、完全に抑制されることもある
(特に追加ワクチン接種後t=8時間の結果を参照のこと)。
【0051】
体温上昇の次に、組成物投与13週間後、抗原に対する抗体力価を測定した。結果を表
8に示す。
【0052】
【表8】
本発明に従う組成物(組成物E)が、市販され且つ効果的なワクチンであると一般にみ
なされているワクチンPorcilis APP(組成物F)よりも高い力価を更に誘導
するという事実を考えると、新規組成物は病原性細菌アクチノバチルス・プルロニューモ
ニエによる感染から動物を防御するための効果的なワクチンであることが明らかである。
【0053】
例6
ワクチン接種実験において、6匹の子ブタから成る2つの群を使用した。組成物Gおよ
びHを1週齢時(初回)および4週齢時(追加)に2mlの用量で筋肉内に投与した。直
腸温を、ワクチン接種直前(t=0時間)およびワクチン接種6時間後(最大体温上昇が
予想される)に測定した。
【0054】
どの群においても疾病の臨床症状は観察されなかったが、これは、いずれの組成物も安
全とみなし得ることを意味する。平均体温上昇(t=6対t=0時間)を表9に示す。
【0055】
【表9】
表から分かる通り、使用した抗原はワクチン接種した動物において顕著な体温上昇を引
き起こし得る(特に、組成物Hによる追加免疫の結果を参照のこと)。しかしながら、本
発明に従って製剤化すると、体温上昇は顕著により低くなり得る。
【0056】
体温上昇に次いで、組成物投与6週間後に抗原に対する抗体力価を測定した。結果を表
10に示す。
【0057】
【表10】
本発明に従う組成物(組成物G)が、市販され且つ効果的なワクチンであると一般的に
みなされているワクチンPorcilis Glasser(組成物H)と同じ力価を誘
導するという事実を考えると、新規組成物は病原性細菌ヘモフィルス・パラスイスによる
感染から動物を防御するための効果的なワクチンであることが明らかである。
【0058】
例7
この例は、本発明に従う更なる組成物と、これらの組成物を製剤化する方法とを説明す
る。これらの組成物を表11に示す。表は、組成物1000ml当たりの単位を示す。
【0059】
記載された抗原に関して、Mhyo抗原はIntervet Schering−Pl
ough Animal Health,Boxmeer,The Netherlan
dsから入手可能な市販のワクチンPorcilis Mhyo中に存在するのと用量当
たり同一の濃度(1U/用量)の同一の抗原である。PCV抗原はIntervet S
chering−Plough Animal Health,Boxmeerから入手
可能な市販のワクチンPorcilis PCV中に存在するのと用量当たり同一の濃度
(5E3(5x103) U/用量)の同一の抗原である。ローソニア属菌抗原は死滅全
菌体の数である。得られたワクチンは、ブタサーコウイルス2型、マイコプラズマ・ハイ
オニューモニエおよびローソニア・イントラセルラリスによる感染からブタを防御するた
めの、用量当たり1mlの単回接種用ワクチンとしての使用のためのものである。該ワク
チンは3日齢以上のブタにおける使用に適している。部位反応は、特に製剤A、Bおよび
Cについては生じないと考えられている。
【0060】
【表11】
表11に記載の製剤A〜Dを構成するために適した手順は以下の通りである。
1.WFI(注射用水)を容器に加える。
2.塩化ナトリウムおよび塩化カルシウムの溶液を作製する。
3.carbopolを添加する。均質なサスペンションが得られるまで内容物を混合す
る。
4.ペレット状水酸化ナトリウムにより溶液のpHを約7(6.9〜7.1)に調整し、
必要であれば塩酸(4M)により再調整する。
5.生成物を121℃で20分間、加圧滅菌器で処理する。
6.生成物を20℃(15〜25)に冷却する。
7.pHを確認し、必要であれば調整する。
8.撹拌しながら抗原を添加する。
9.pHを確認し、必要であれば調整する。
10.残りの量の注射用水を添加する。
11.生成物を2〜8℃で保存する。