特許第6120856号(P6120856)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6120856環式エステルおよびカーボネートのイモータル開環重合用のフェノレート錯体をベースにした触媒系
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6120856
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】環式エステルおよびカーボネートのイモータル開環重合用のフェノレート錯体をベースにした触媒系
(51)【国際特許分類】
   C08G 64/34 20060101AFI20170417BHJP
【FI】
   C08G64/34
【請求項の数】11
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-527668(P2014-527668)
(86)(22)【出願日】2012年8月31日
(65)【公表番号】特表2014-525487(P2014-525487A)
(43)【公表日】2014年9月29日
(86)【国際出願番号】EP2012066939
(87)【国際公開番号】WO2013030324
(87)【国際公開日】20130307
【審査請求日】2015年8月28日
(31)【優先権主張番号】11290394.3
(32)【優先日】2011年9月2日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504469606
【氏名又は名称】トタル リサーチ アンド テクノロジー フエリユイ
(73)【特許権者】
【識別番号】505252333
【氏名又は名称】サントル・ナシヨナル・ド・ラ・ルシエルシユ・シヤンテイフイク
(74)【代理人】
【識別番号】100092277
【弁理士】
【氏名又は名称】越場 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100155446
【弁理士】
【氏名又は名称】越場 洋
(72)【発明者】
【氏名】ポワリエ,ヴァランタン
(72)【発明者】
【氏名】カルパンティエ,ジャン−フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】スラウィンスキ,マルティーヌ
(72)【発明者】
【氏名】サラザン,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】エル,マリオン
【審査官】 繁田 えい子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/125138(WO,A1)
【文献】 特開平07−292083(JP,A)
【文献】 JINCAI WU,COORDINATION CHEMISTRY REVIEWS,2006年,V250,P602-626
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 64/34
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)と(b)を含む触媒系を用いた、環式カボネートまたは環式エステルから選択される一種または複数の環式モノマーの、イモータル開環単独重合または逐次(sequential)二段階開環ブロック共重合方法:
(a)式:M(OAr)nmの金属錯体(ここで、MはSn金属であり、OArはフェノレートリガンドであり、Xは1〜6の炭素原子を有するアルキル基またはアミ基またはアルコキシド基であり、nは少なくとも1であり、n+mは金属Mの結合価である)、
(b)アルコールROHまたは一級アミンRNH2(ここで、Rは脂肪族および/または芳香族部分を含む1〜20の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖のヒドロカルビル基で、上記金属錯体に対して1以上のモル比で用いられ)、
さらに、上記フェノレートリガンドは下記式のフェノールベースのプロ−リガンドから調製される:
【化1】
(ここで、R1、R2およびR3は互いに同じでも異なっていてもよく、水素であるか、環式エステルおよび環式カボネートの単独重合または二段階ブロック共重合の場合にはメチル、エチル、イソプロピル、tert−ブチル、ネオペンチル、クミル、トリチル、2,4,6−トリメチルフェニルおよび2,6−ジイソプロピルフェニルの中から選択され、環式エステルおよび環式カボネートの二段階ブロック共重合の場合にはR1および/またはR3基はN、O、S、P元素を含む官能性配位単位をさらに含むことができる)
【請求項2】
Xがメチル、エチル、n−ブチルまたはフェニルから選択されるか、N(SiMe32、NMe2、NEt2、NiPr2から選択されるか、OEt、OiPr、OtBut、OCH2PhまたはOSiPh3から選択される請求項に記載の方法。
【請求項3】
1および/またはR3が(CH2mNCH2CH2(OCH2CH2nまたは(CH2mN(CH2CH2OCH32タイプ(ここで、mは1、2または3であり、n≧1)である請求項1または2に記載方法。
【請求項4】
1が(CH2)NCH2CH2(OCH2CH24({LO3}とよぶ)またはCH2N−モルホリン({LO2}とよぶ)で、R2およびR3がtert−ブチルである請求項に記載の方法。
【請求項5】
1およびR3がtert−ブチルで、R2が水素で、n=2、m=0である請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
アルコールROHまたは一級アミンRNH2中のRが第1または第2アルキル残基またはベンジル基またはポリオールである請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
RがiPrまたはベンジル基または(CH27CH3である請求項に記載の方法。
【請求項8】
アルコール/金属モル比が1〜1000である請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
モノマー/金属モル比が500〜500,000である請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
下記(a)〜(d)の段階を含むポリエステルブロックとポリカーボネートブロックとを含む逐次二段階ブロックコポリマーの製造方法:
(a)請求項1〜のいずれか一項に記載の金属錯体と、金属Mに対する2当量以上のアルコールと、第1環式モノマーとを反応器に注入し、
(b)第1重合条件下に維持して、末端にOH基を有する第1ポリマーブロックを生成し、
(c)第2環式モノマーを上記と同じ反応器に注入し、
(d)第2重合条件下に維持して、第1ブロックに結合した第2ポリマーブロックを生成する。
【請求項11】
環式エステルモノマーが、L−ラクチド(L−LA)、rac−ラクチド(rac−LA)、ε−カプロラクトンまたはδ−バレロラクトンから選択され、環式カーボネートがTMCおよびその下記置換誘導体から選択される請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法:
【化2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環式のエステルおよびカーボネートのイモータル(immortal)開環重合のためのフェノレートに担持された金属錯体をベースにした新規な触媒系に関するものである。
【背景技術】
【0002】
環式エステルの開環重合(ROP)は、例えば非特許文献1〜4に記載のように生物分解可能な脂肪族ポリエステルを作る最も便利な方法である。
【0003】
最初に注目された方法は、例えば非特許文献5〜8に記載のようにε−カプロラクトン(CL)とグリコシド(GL)とを(共)重合して生医学分野の用途に適したポリマーを作る方法である。
【0004】
しかし、最近では例えば非特許文献9、10に記載のように、多くの研究者は乳酸に由来する環式ジエステルの重合、特にL−ラクチド(L−LA=S,S−ラクチド)の重合へ関心を移している。このL−LAは生物−再生可能な資源であり、糖含有植物、例えば砂糖やトウモロコシの発酵で製造できる。L−LA、ラクチドのその他の立体異性体(例えばmeso−LAおよびrac−LA,L−とD−LAの50:50混合物)およびその他の環式モノマーのROPには工業的には錫ベースの触媒系、一般には錫(II)2-ヘキサン酸エチル(オクタン酸錫とよばれることが多く、以降Sn(oct)2)をベースにしたものが共通して使われている。ラクチドのROP用の触媒としてのSn(oct)2の人気はそのコストの低さ、その堅牢性(不純物に対してほとんど反応せず、180℃の高温で溶融ラクチドを重合して高分子量材料にできる)と、その多用途性に負うところが大きい。一方で、この触媒系は、例えば非特許文献11、12に記載のように、全体的に遅く、制御性が悪く、重元素の錫に関連する大きな問題がある。
【0005】
最近になって、例えば非特許文献13〜18に記載のような、rac−、L−、D−およびmeso−LAのようなLAの各種異性体の制御されたリビングROPのための金属開始剤が開発された。これらは主として下記をベースにしたものである:
(1)無毒な亜鉛(非特許文献19〜23)
(2)アルミニウム(非特許文献24〜28)
(3)第3族金属およびランタニド(非特許文献29〜31)
【0006】
これらのシングルサイト錯体はアイソタクチック立体異性体としてのある種の海草およびバクテリアが製造する極めて結晶性の高い天然に生じる熱可塑性樹脂のポリ(3−ヒドロキシブチレート)を製造するためのβ−ブチロラクトン(BBL)のROPに対しても効率的であり、いくつかの触媒系はシンジオタクチックポリマーをつくる(非特許文献32〜35)。
【0007】
トリメチレンカボネート(TMC)のROPも過去3年間で大きな注意をひき始めた。非特許文献36〜39、特許文献1に記載のように、TMCはグリセロールに直接由来するバイオ資源のモノマーであり、それ自体はトリグリセライドの副生成物である。この分子はLAとは違って資源に由来せず、非特許文献40、41に記載のように食物連鎖で使われる。
【0008】
金属-ベースの系の他に、非特許文献42、43に記載の複素環式モノマーの制御されたROPのための有機触媒の開拓についても言及する必要がある。
【0009】
これらのモノマーのROP、特に触媒生産性に関して最も大きな前進が成し遂げられた。工業的触媒系は1つの活性中心当たり数千当量のモノマーを重合でき、何百ポリマー鎖を生ずることができなければならない。ROPの分野でこの目的を信頼性良く実行する一つの方法は、特許文献1または非特許文献44〜48に記載のように、いわゆる「イモータル」リビング重合時に連鎖移動剤を添加して連鎖移動を操作することである。例えば、特許文献1では、50当量のベンジルアルコールの存在下で二元系(BDI)ZnN(SiMe3)2Bn-OHを使用するトリメチレンカボネート(TMC)のROPによって極めて大きい効率でTMCを50000当量まで制御された重合をすることができる(ここで、BDI=(2,6-iPr2-C6H3)N=C(Me)-CH=C(Me)-N(2,6-iPr2-C6H3)であり、Bn-=C6H5CH2-である)。この方法では使用した20〜100ppmの金属触媒の金属残留物が最終ポリマー中に残る。それに加えて、この金属触媒が亜鉛ベースの「バイオ-金属」であるため、活性金属中心を支持するBDIリガンドは潜在的毒性問題と関連する芳香族アミン部分を含む。
【0010】
従って、理想的には、非毒性金属をベースとし且つ触媒中の金属に結合した補助リガンドから毒性化合物を放出しない、活性および生産性がより優れた環式(ジ)エステルのROP用触媒系を開発する、というニーズがある。
この触媒系には改良する余地が十分にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】欧州特許出願第08290187.7号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Uhrich et al. (K. E. Uhrich, S. M. Cannizzaro, R. S. Langer, K. M. Shakesheff, Chem. Rev., 1999, 99, 3181-3198)
【非特許文献2】Ikada and Tsujt (Y. ikada, H. Tsuji, Macromol. Rapid. Commun., 2000, 21, 117-132)
【非特許文献3】Langer (R. Langer, Acc. Chem. Res., 2000, 33, 94-101)
【非特許文献4】Okada (M. Okada, Prog. Polym. Sci., 2002, 27, 87-133)
【非特許文献5】Vert (M. Vert, Biomacromolecules 2005, 6, 538-546)
【非特許文献6】Albertsson and Varma (A. -C. Albertsson, I.K. Varma, Biomacromolecules 2003, 4, 1466-1486)
【非特許文献7】Sudesh et al. (K. Sudesh, H. Abe, Y. Doi Prog.Polym.Sci.2000,25,1503-1555)
【非特許文献8】Nair and Laurence (L. S. Nair, C. T. Laurence, Prog. polym. Sci. 2007, 32, 762-798)
【非特許文献9】Mecking (S. Mecking, Angew. Chem. Int. Ed, 2004, 43, 1078-1085)
【非特許文献10】Dechy-Cabaret et al. (O. Dechy- Cabaret, B. Martin-Vaca, D. Bourissou, Chem. Rev., 2004, 104, 6147-6176)
【非特許文献11】Drumright et al. (R, E. Drumright, P. R. Gruber, D. E. Henton, Adv. Mater., 2000, 12, 1841-1846)
【非特許文献12】Okada (M. Okada, Prog. Polym, Sci., 2002, 27, 87-133)
【非特許文献13】O'Keefe et al. (B. J. O'Keefe, M. A. Hilimyer, W. B. Tolman, J. Chem. Soc, Dalton Trans., 2001, 2215-2224)
【非特許文献14】Lou et al. (Lou, C. Detrembleur, R. Jerome, Macromol. Rapid. Commun., 2003, 24, 161-172)
【非特許文献15】Nakano et al. (K. Nakano, N. Kosaka, T. Hiyama, K.. Nozaki, J. Chem. Soc, DaltonTrans., 2003, 4039-4050)
【非特許文献16】Dechy-Cabaret et al. (O. Dechy-Cabaret, B. Martin- Vaca, D. Bourissou, Chem. Rev., 2004, 104, 6147-6176)
【非特許文献17】Wu et al. (Wu, T.-L Yu, C-T. Chen, C-C. Lin, Coord. Chem. Rev., 2006, 250, 602-626)
【非特許文献18】Amgoune et al. (Amgoune, C. M. Thomas, J.-F. Carpentier, Pure Appl. Chem. 2007, 79, 2013- 2030)
【非特許文献19】M. Cheng, A. B. Attygalle, E. B. Lobkovsky, G. W. Coates, J. Am. Chem. Soc, 1999, 121, 11583-11584
【非特許文献20】B. M. Chamberlain, M. Cheng, D. R. Moore, T. M. Ovitt, E. B. Lobkovsky, G. W. Coates, J. Am. Chem. Soc, 2001, 123, 3229-3238
【非特許文献21】C K. Williams, L. E. Breyfogle, S. K. Choi, W. Nam, V. G. Young Jr., M. A. Hillmyer, W. B.Tolman, J. Am. Chem. Soc, 2003, 125, 11350-11359
【非特許文献22】G. Labourdette, D. J. Lee, B. O. Patrick, M. B. Ezhova, P. Mehrkhodavandi, Organometallics, 2009, 28, 1309-1319
【非特許文献23】Z. Zheng, G. Zhao, R. Fablet, M. Bouyahyi, C. M. Thomas, T. Roisnel, O. Casagrande Jr., J. -F. Carpentier, New J. Chem., 2008, 32, 2279-2291)
【非特許文献24】N. Spassky, M. Wisniewski, C. Pluta, A. LeBorgne, Macromol. Chem. Phys., 1996, 197, 2627-2637
【非特許文献25】T. M. Ovitt, G. W. Coates, J. Am. Chem. Soc, 1999, 121, 4072-4073
【非特許文献26】M. Ovitt, G. W. Coates, J, Am. Chem. Soc, 2002, 124, 1316-1326
【非特許文献27】N. Nomura, R. ishii, Y. Yamamoto, T. Kondo, Chem. Eur. J., 2007, 13, 4433-4451
【非特許文献28】H. Zhu, E. Y.-X. Chen, Organometallics, 2007, 26, 5395-5405)
【非特許文献29】C-X. Cai, A. Amgoune, C. W. Lehmann, J.-F. Carpentier, Chem. Commun., 2004, 330-331
【非特許文献30】A, Amgoune, C. M. Thomas, T. Roisnel, J -F. Carpentier, Chem. Eur. J., 2006, 12, 169-179
【非特許文献31】A. Amgoune, C. M. Thomas, S. llinca, T. Roisnel, J.-F. Carpentier, Angew. Chem. Int. Ed., 2006, 45, 2782-2784
【非特許文献32】Amgoume et al. A. (Amgoune, C. M. Thomas, S. ilinca, T. Roisnel, J.-F. Carpentier, Angew. Chem. Int. Ed, 2006, 45, 2782-2784)
【非特許文献33】Rieth et al. (L. R. Rieth, D. R. Moore, E. B. Lobkovsky, G. W. Coates, J. Am. Chem. Soc, 2002, 124, 15239-15248)
【非特許文献34】Ajellal et al. (N. Ajellal, D. M.Lyubov, M. A. Sinenkov, G. K. Fukin, A. V. Cherkasov, C. M. Thomas, J.-F. Carpentier, A. A. Trifonov, Chem. Eur. J., 2008, 14, 5440-5448)
【非特許文献35】Ajellal et al. (N. Ajellal, M. Bouyahyi, A. Amgoune, C. M. Thomas, A. Bondon, I. Piliin, Y. Grohens, J.-F. Carpentier, Macromolecules, 2009, 42, 987-993
【非特許文献36】S. Matsumura Adv. Polym. Sci 2005, 194, 95-132
【非特許文献37】Hellaye et al. (M.Le Hellaye, N. Fortin, J. Guilloteau, A. Soum, S. Lecommandoux, S. M. Guillaume Blomacromolecules, 2008, 9, 1924-1933)
【非特許文献38】Darensbourg et al. (D. J. Darensbourg, W. Choi, P. Ganguly, C. P. Richers Macromolecules, 2006, 39, 4374-4379)
【非特許文献39】Helou et al. (M. Helou, O. Miserque, J.- M. Brusson, J.-F. Carpentier, S. M. Guillaume, Chem. Eur. J., 2008, 14, 8772-8775)
【非特許文献40】Zhou et al. (C-H. Zhou, J. N. Beltramini, Y -X. Fan, G. Q. Lu Chem. Soc. Rev. 2008, 37, 527-549)
【非特許文献41】Behr et al. (A. Behr, J. Eilting, K. Irawadi, J. Leschinski, F. Lindner Green Chem. 2008, 10, 13-30)
【非特許文献42】Kamber et al. (N. E. Kamber, W. Jeong, R. M. Waymouth, R. C. Pratt, B. G. G. Lohmeijer, J. L. Hedrick, Chem. Rev., 2007, 107, 5813-5840
【非特許文献43】Bourissou et al. (D. Bourissou, S. Moebs-Sanchez, B. Martin-Vaca, C. R. Chimie, 2007, 10, 775-794)
【非特許文献44】Asano et al. (S. Asano, T. Aida, S. Inoue, J. Chem. Soc, Chem.Commum., 1985, 1148-1149)
【非特許文献45】Aida et al. (T. Aida, Y. Maekawa, S. Asano, S. Snoue, Macromolecules, 1988, 21, 1195-1202)
【非特許文献46】Aida and Inoue (T. Aida, S. Inoue, Acc. Chem. Res., 1996, 29, 39-48)
【非特許文献47】Martin et al. (E. Martin, P. Dubois, R. Jerome, Macromolecuies, 2000, 33, 1530-1535)
【非特許文献48】Amgoume et al. (A. Amgoune, C. M. Thomas, J.-F. Carpentier, Macromol. Rapid Commun., 2007, 28, 693-697)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、新規なフェノレートベースの金属錯体を製造することにある。
本発明の他の目的は、環式(ジ)エスエルおよび環式カーボネートの制御されたイモータルROP用触媒系でこの金属錯体を使用することにある。
本発明のさらに他の目的は、エステルおよびカーボネートの(マルチ)ブロックコポリマーを調製することにある。
上記目的は特許請求の範囲の独立項に記載の方法で実施される。好ましい実施例は従属項に記載されている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、下記の(a)と(b)とを含む、環式カボネートまたは環式エステルのイモータル開環(immortal ring-opening)単独重合または逐次二段階開環(two-step sequential ring-opening)ブロック共重合用の触媒系を開示する:
(a)式M(OAr)nmの金属錯体(ここで、MはSn金属であり、OArは置換または非置換のフェノレートリガンドであり、Xはメチル、エチル、n−ブチルまたはフェニルから選択される1〜6の炭素原子を有するアルキル、またはN(SiMe32、NMe2、NEt2、NiPr2から選択されるアミ基、またはOEt、OiPr、OtBut、OCH2Ph、OSiPh3から選択されるアルコキシド基であり、nは少なくとも1であり、n+mは金属Mの結合価である)、
(b)外部求核試薬、例えばアルコールROHまたは一級アミンRNH2(ここで、Rは1〜20の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖のヒドロカルビル基であり、脂肪族および/または芳香族部分を含み、金属錯体に対して過剰に用いられる)
【0015】
金属Mは好ましくはSnまたはZnから選択され、より好ましくはSnである。
mは0であるのが好ましい。
OArはフェノレートタイプのリガンドである。対応する出発材料のフェノールプロリガンド(pro-ligand)は下記式を有する:
【化1】
【0016】
[ここで、
1,R2およびR3は互いに同じでも異なっていてもよく、水素または1〜20の炭素原子を有するヒドロカルビル基、好ましくはメチル、エチル、イソプロピル、tert-ブチル、ネオペンチル、クミル、トリチル、2,4,6−トリメチルフェニル、2,6−ジイソプロピルフェニルから選択されるヒドロカルビル基であるか、
1および/またはR3基はN、O、S、P元素を含む官能性配位単位をさらに含む。特に、R1および/またはR3基は[化2]のタイプ:
【化2】
【0017】
または(CH2mN(CH2CH2OCH32のタイプまたは(CH2mN−モルホリンのタイプである(ここで、mは1、2または3で、n≧1であり、R2は10以下の炭素原子を有するヒドロカルビル基である)]
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】は金属錯体Sn(O−2,6−ditBuPh)2の固体状態の構造を表す図。
図2】は金属錯体[LO3]SnN(SiMe32の固体状態の構造を表す図。
図3】は種々の温度での金属錯体[LO3]SnN(SiMe321H NMRスペクトル(500MHz,トルエン−d8)。
図4】は金属錯体[Ln3O]SnOSiPh3の固体状態の構造を表す図。
図5】は金属錯体[LO3]SnOSiPh31H NMRスペクトル(500MHz,トルエン−d8)。
図6】は触媒Sn(Oct)2およびSn(OAr)2の([LA]0/[Sn]0/[オクタノール]0比が6000/1/14.8での転化率(%表記)を時間(分)の関数で表した図。
図7】は触媒Sn(Oct)2およびSn(OAr)2の([LA]0/[Sn]0/[オクタノール]0の比が72000/1/178での転化率(%)を時間(分)の関数で表した図。
図8】は[L−ラクチド]/[Sn]/[iPrOH]を1000:1:20比で用いた触媒系Sn(O−2,6−tBu−Ph)2iPrOH二元系で得られたポリ(L−ラクチド)の1H NMRスペクトル(400MHz,CDCl3,298K)。転化率87%(*13Cサテライト)。
図9】は[L−ラクチド]/Sn(O−2,6−tBu−Ph)2/[iPrOH]比=1000:1:20を用いて製造したポリ(L−ラクチド)サンプル(M?n,SEC=6300g?mol-1)のMALDI−TOFマススペクトル(主な個体群:Na+、マイナー個体群:K+)。転化率87%。オンマトリックス(on-matrix)化合物で観察された分子量と、(H)(C484n(O−iPr).Na+式(nは重合度である)を用いて計算した分子量の差は1Da以下である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上記のプロリガンドは公知の任意の方法で製造できる。プロ-リガンドおよび金属複合体を製造するための本発明方法は下記文献に記載の方法の一変形例である。
【非特許文献49】Schanmuga et al. (S. Shanmuga Sundara Raj, M. N. Ponnuswamy, G. Shanmugam, M. Kandaswamy, J. Crystallogr, Sp.beta.ctrosc. Res., 1993, 23, 607-610)
【非特許文献50】Teipel et al. (S. Teipel, K. Griesar, W. Haase, B. Krebs, Inorg. Chem., 1994, 33, 456-464)
【0020】
数グラムのオーダーで分析的に純粋な化合物をリガンドの完全合成および金属複合体の合成で48時間以内に得ることができる。比較のために示すと、LA、BBLまたはTMCのROPに非常に効果的な亜鉛ベースの開始剤である(BDI)ZnN(SiMe32の合成には2週間と厳しい条件が必要である。
【0021】
このプロ−リガンドを用いて周期律表の第2族および第12族の二価金属の錯体を製造する。好ましい金属はZnおよびSnである。錯体はプローリガンドを前駆体M(X)2と反応させて得られる。ここで、Xは1〜6個の炭素原子を有するアルキル、例えばメチル、エチル、n−ブチル、フェニルまたはアミ基、例えば、N(SiMe32、NMe2、NEt2、NiPr2またはアルコキシド基、例えばOEt、OiPr、OtBu、OCH2Ph、OSiPh3である。
【0022】
本発明のフェノレートリガンドは安定なリガンドであり、環式エステルまたはカーボネートの開環重合の開始剤の役目をするアルコキシドリガンドとは違って、単独では不活性である。
本発明の実施例では、R1は下記[化3]([LO3]とよぶ)か、CH2N−モルホリン([LO2]とよぶ)である:
【化3】
【0023】
2およびR3は互いに同じで且つtert-ブチルであるのが好ましい。
【0024】
本発明の他の実施例では、R1およびR3が互いに同じで且つtert-ブチルであり、R2が水素またはメチル、好ましくは水素である。驚くべきことに、上記リガンドをベースとした金属錯体は環式エステルまたは環式カボネートの単独開環重合または共開環重合で活性が非常に高いことが観察された。
アルコールまたはアミンの場合、Rは第1または第2アルキル残基またはベンジル基であるのが好ましく、イソプロピル(iPr)またはベンジルである(Bn)であるのが好ましい。また、ポリオール、例えばジオール、トリオール、さらに高次の官能性ポリハイドリックアルコールでもよく、一般に1,3- プロパンジオールまたはトリメチロールプロパンから選択され、バイオマス、例えばグリセロール、その他任意の糖ベースのアルコール、例えばエリトリトールまたはシクロデキストリンに由来するものでもよい。各アルコールを個別に使用するか、組み合わせて使用できる。
アルコールはイソプロパノール、sec-ブタノールまたはベンジルアルコールから選択するのが好ましい。
【0025】
これらの金属錯体は1〜1,000当量、好ましくは5〜200当量のアルコール、アミンまたはポリ−オールの存在下で非常に活性で、ラクチド、環式エステルおよび5〜7員の環式カーボネートを制御されたイモータルROPするための生産性に優れた触媒前駆体になる。重合は有機溶剤の溶液中または無溶剤の溶融状態で20℃〜250℃、好ましくは50℃〜180℃の温度で行うことができる。
一般に、1つの金属中心当たり数百当量までのアルコールの存在下で、少なくとも50000〜500000当量、好ましくは50 000〜100000当量のモノマーの変換ができる。
【0026】
環式エステルはL−ラクチド(L−LA)、rac−ラクチド(rac−LA)、ε−カプロラクトンまたはδ−バレロラクトンの中から選択するのが好ましい。
好ましい環式カーボネートはTMCとその置換誘導体の中から選択される。非制限的な例としては下記が挙げられる:
【化4】
【0027】
こうして得られたポリマーは一般に1.1〜5.0、より典型的には1.1〜2.5の単峰形の分子量分布を有する。
数平均分子量Mnはモノマー−to−アルコール比で調整でき、1000〜100000 g/モル、より典型的には10000〜50000 g/モルである。さらに、サイズ除外クロマトグラフィ(SEC)で求めた実験分子量はモノマー−to−アルコール(アミン)比とモノマー転化率から計算した分子量とよく一致する。
【0028】
本発明のさらに他の実施例では、下記の段階を含むポリエステルブロックとポリカーボネートブロックを含むブロックコポリマーを調製する逐次二段階法を開示する:
(a)金属錯体、過剰アルコール、および第1環式モノマーを反応器に注入し、
(b)第1重合条件下に維持して、末端にOH基を有する第1ポリマーブロックを生成し、
(c)第2環式モノマーを同じ反応器に注入し、
(d)第2重合条件下に維持して、第1ブロックに結合した第2ポリマーブロックを生成する。
【実施例】
【0029】
無水のSnCl2(Acros、98%)およびLiNMe2(Aldrich,95%)をそのまま用いた。Sn(NMe22は例えば下記文献のいずれかに記載の方法で調製された。
【非特許文献51】Schaeffer and Zuckerman (Schaeffer,C.D.and Zuckerman,J.J., in J. Am. Chem. Soc., 96, 7160-7162, 1974)
【非特許文献52】Foley and Zeldin (Foley,P. and Zeldin,M., in Inorg. Chem., 14, 2264-2267, 1975)
【非特許文献53】Wang and Roskamp (Wang,W.B. and RoskampE.J., in. J. Am. Chem. Soc., 115, 9417-9420, 1993)
【0030】
119Sn NMRスペクトルはBruker AC-300およびAM-400分光計で記録し、SnMe4に対して外部較正した。
【0031】
Sn(O−2,6−tBu−Ph)2の合成
2当量の2,6−tBu−フェノールと、1当量のアミ前駆体Sn[N(SiMe322とを室温のジエチルエーテル中で反応させて錯体Sn(O−2,6−tBu−Ph)2(1)を調製した。Sn[N(SiMe322のSn[N(SiMe3220.88g(2.0mmol)をbent fingerを用いて室温の30mLのジエチルエーテルで調製した0.82gの2,6−tBu−フェノール(4.0mmol)の溶液に添加した。得られた混合物を室温で16時間撹拌し、黄色沈殿物が高速に形成されることを観察した。次いで、溶剤を濾過で除去し、得られた粉末を10mLのペンタンで2回洗浄し、真空乾燥後、0.86gのホモレプティック錯体Sn(O−2,6−tBu−Ph)を収率87%で生成した。
【0032】
脂肪族炭化水素に不溶であり且つ芳香族溶剤に一部可溶である得られた黄色粉末のNMR (1H, 13C, 119Sn) 分光法によって、溶液中でこの粉末の所望の性質が確認された。
【0033】
1H NMR (C6D6, 400.13 MHz, 25 ℃): δH 7.37 (4 H, d, 3JHH = 7.8 Hz, 芳香族-H), 6.90 (2 H, t, 3JHH = 7.8 Hz, 芳香族-H), 1.58 (36 H, br s, C(CH3)3) ppm. 13C{1H} NMR (C6D6, 75.47 MHz, 25 ℃): δC 157.9, 139.5, 125.2, 119.1 (芳香族), 34.9 (C(CH3)3), 30.0 (C(CH3)3) ppm. 119Sn{1H} NMR (C6D6, 149.20 MHz, 25 ℃): δSn −216 ppm。
その固体状態の構造をX線回折結晶学で決定し、[図1]に示す。これによって、88.9ーの狭いO-Sn-O角度を有するモノマー種が明らかになり、錫中心の電子イオン対の影響が証明された。キレート化の欠如にもかかわらず、錯体は数日間にわたって分解が全く観察されず、溶液(C6D6)中で完全に安定であることがわかった。
【0034】
[LO32Sn(16)の合成
30mLのペンタンで調製した1.43gの[LO3]H(3.28mmol)溶液を室温で、30mLのペンタンで調製した0.329gのSn[NMe22(1.59mmol)溶液に添加した。得られた混合物を室温で3時間撹拌し、白色沈殿物が高速に形成されるのを観察した。溶液の濃縮後、溶剤を濾過で除去し、得られた固体を10mLのペンタンで2回洗浄し、真空乾燥後、1.40gのホモレプティック錯体16を収率89%で生成した。
【0035】
元素分析実験値:
C 60.6%, H 8.4%, N 2.7 %. C50H84N2O10Sn 必要値: C 60.5%, H 8.5%, N 2.8 %. 1H NMR (C6D6, 500.13 MHz, 25 ℃): δH = 7.64 (2 H, d, 4JHH = 2.7 Hz, 芳香族-H), 6.94 (2 H, d, 4JHH = 2.7 Hz, 芳香族-H), 4.80 (2 H, br s, Ar-CH2-N), 3.95-3.70 and 3.45-3.25 (38 H, br m, O-CH2, N-CH2-CH2, N-CH2-Ar), 3.04 (4 H, br s, N-CH2-CH2), 1.75 (9 H, s, C(CH3)3), 1.46 (9 H, s, C(CH3)3) ppm. 13C{1H} NMR (C6D6, 125.76 MHz, 25 ℃): δC = 159.2, 137.5, 137.2, 127.1, 123.7, 123.0 (芳香族), 71.0, 70.3, 70.2, 66.4 (O-CH2), 56.0 (Ar-CH2-N), 50.2 (N-CH2-CH2), 35.2 (C(CH3)3), 33.8 (C(CH3)3), 31.8 (C(CH3)3), 30.2 (C(CH3)3) ppm. 119Sn{1H} NMR (C6D6, 149.20 MHz, 25 ℃): δSn = − 566 ppm
【0036】
[LO3]SnNMe2(17)の合成
15mLのペンタンで調製した0.43gの[LO3]H(0.98mmol)溶液を−80℃の温度で10分かけて30mLのペンタンで調製した0.21gのSn[NMe22(1.01mmol)溶液に添加した。得られた混合物を2時間の間撹拌し、温度を−30℃に上げ、沈殿物の形成を観察した。次いで、揮発性物質を室温で真空下に除去し、得られた固体を3mLのペンタンで3回洗浄し、真空乾燥して、5%以下のホモレプティック錯体16(0.28g,48%)が混入した錯体17を生成した。
【0037】
1H NMR (C6D6, 500.13 MHz, 25 ℃): δH = 7.63 (1 H, d, 4JHH = 2.5 Hz, 芳香族-H), 6.91 (1 H, d, 4JHH = 2.5 Hz, 芳香族-H), 4.20-2.50 (22 H, br m, O-CH2, N-CH2-CH2, N-CH2-Ar), 3.26 (6 H, s, N-CH3), 1.77 (9 H, s, C(CH3)3), 1.44 (9 H, s, C(CH3)3) ppm. 13C{1H} NMR (C6D6, 125.76 MHz, 25 ℃): δC = 159.3, 139.1, 137.5, 125.9, 124.0, 122.6 (芳香族), 71.4, 69.9, 65.8 (O-CH2, N-CH2-CH2), 57.3 (Ar-CH2-N), 40.9 (N-CH3), 35.2 (C(CH3)3), 33.9 (C(CH3)3), 31.9 (C(CH3)3), 30.2 (C(CH3)3) ppm. 119Sn{1H} NMR (C6D6, 149.20 MHz, 25 ℃): δSn = −147 ppm.
【0038】
[LO3]SnN(SiMe32(18)の合成
30mLのジエチルエーテルで調製した2.77gの[LO3]H(6.32mmol)溶液を−80℃の温度で60分かけて50mLのジエチルエーテルで調製した2.92gのSn[N(SiMe322(6.64mmol)溶液に添加した。この溶液は濃い橙色の溶液から淡黄色の溶液に変化した。得られた混合物を90分の間撹拌し、温度を−40℃まで上げ、揮発性物質を真空下に除去した。得られた粉末を10mLの−20℃の温度の低温ペンタンで3回洗浄し、真空乾燥して、白色粉末として4.1gの錯体18を収率91%で生成した。X線回折に適した単結晶を、低温ペンタン溶液から再結晶して得た。錯体18の固体構造は[図2]に示し、1H NMR は[図3]に示す。
【0039】
1H NMR (C6D6, 500.13 MHz, 25 ℃): δH = 7.63 (1 H, d, 4JHH = 2.6 Hz, 芳香族-H), 7.00 (1 H, d, 4JHH = 2.6 Hz, 芳香族-H), 4.18 (1 H, br s, Ar-CH2-N), 3.88, 3.79, 3.64, 3.64 (4 H, br s, N-CH2-CH2), 3.47-3.17 (15 H, br m, O-CH2, N-CH2-CH2, Ar-CH2-N), 2.88 (2 H, br s, N-CH2-CH2), 1.70 (9 H, s, C(CH3)3), 1.39 (9 H, s, C(CH3)3), 0.50 (18 H, s, N(Si(CH3)3)2) ppm. 13C{1H} NMR (C6D6, 125.76 MHz, 25 ℃): δC = 158.4, 140.33, 139.13, 126.6, 124.5, 124.3 (芳香族), 71.0, 70.2 (O-CH2), 65.5, 65.2 (N-CH2-CH2), 57.2 (Ar-CH2-N), 53.1, 51.8 (N-CH2-CH2), 34.9 (C(CH3)3), 33.9 (C(CH3)3), 31.7 (C(CH3)3), 30.3 (C(CH3)3), 6.5 (N(Si(CH3)3)2) ppm. 29Si{1H} NMR (C7D8, 79.49 MHz, 25 ℃): δSi = −0.49 ppm. 119Sn{1H} NMR (C6D6, 149.20 MHz, 25 ℃): δSn = −55 ppm.
【0040】
[LO3]SnOSiPh3(21)の合成
10mLのジエチルエーテルで調製した0.63gの[LO3]H(1.44mmol)溶液を−50℃の温度で20分かけて、ジエチルエーテル(20mL)で調製した0.64gのSn[N(SiMe322(1.46mmol)溶液に添加した。得られた混合物を−50℃の温度でさらに20分間撹拌し、その後、10mLのジエチルエーテルで調製した0.41gのHOSiPh3(1.39mmol)溶液を一滴ずつ添加した。得られた溶液を−30℃の温度でさらに20分間撹拌し、次いで、揮発性物質を真空下に除去した。得られた固体を10mLのペンタンで3回洗浄し、真空乾燥して、白色粉末として1.0gの錯体21を収率88%で生成した。X線回折に適した単結晶を、ペンタン溶液から再結晶して得た。錯体21の固体構造は[図4]に示し、その1H NMR は[図5]に示す。
【0041】
元素分析実験値: C 62.3, H 6.8, N 1.6 %. C43H57NO6SiSn 必要値: C 62.2, H 6.9, N 1.7 %. 1H NMR (C6D6, 500.13 MHz, 25 ℃): δH = 8.06 (6 H, m, 芳香族-H), 7.66 (1 H, d, 4JHH = 2.6 Hz, 芳香族-H), 7.24 (6 H, m, 芳香族-H), 7.29 (3 H, m, 芳香族-H), 6.80 (1 H, d, 4JHH = 2.6 Hz, 芳香族-H), 4.63 (1 H, m, Ar-CH2-N), 3.91 (1 H, br m, N-CH2-CH2), 3.64 (1 H, br m, N-CH2-CH2), 3.57 (1 H, br m, N-CH2-CH2), 3.27, 3.20, 3.14-2.92 (14 H, br m, O-CH2, N-CH2-CH2), 2.82 (2 H, br m, Ar-CH2-N, N-CH2-CH2), 2.43, 2.09 (2 H, br s, N-CH2-CH2), 1.81 (9 H, s, C(CH3)3), 1.44 (9 H, s, C(CH3)3) ppm. 13C{1H} NMR (C6D6, 125.76 MHz, 25 ℃): δC = 158.9, 140.7, 138.5, 137.0, 135.6, 128.7, 128.0 (C6D6とオーバーラップ), 128.5, 124.1, 122.0 (芳香族), 70.8, 70.6, 69.5, 69.0 (O-CH2), 66.2, 64.5 (N-CH2-CH2), 58.9 (Ar-CH2-N), 53.8, 48.6 (N-CH2-CH2), 35.2 (C(CH3)3), 33.9 (C(CH3)3), 31.9 (C(CH3)3), 30.1 (C(CH3)3) ppm. 29Si{1H} NMR (C6D6, 79.49 MHz, 25 ℃): δSi = −22.2 ppm. 119Sn{1H} NMR (C6D6, 149.20 MHz, 25 ℃): δSn = −459 ppm.
【0042】
[LO2]SnN(SiMe32 (23)の合成
20mLのジエチルエーテルで調製した0.25gの[LO2]H(0.81mmol)溶液を−45℃の温度で15分かけて、20mLのジエチルエーテルで調製した0.37gのSn[N(SiMe322(0.84mmol)溶液に添加した。得られた混合物を−45℃の温度で15分の間撹拌し、次いで、揮発性物質を真空下に除去した。粘着性固体を5mLのペンタンで6回ストリッピングしたが、アミンを完全に除去することはできなかった。濃縮液を−50℃の温度のペンタン中に数週間にわたって沈殿することによって、完全に純粋な少量の約30gの錯体23を得ることができた。
【0043】
1H NMR (C6D6, 400.13 MHz, 25 ℃):
δH = 7.68 (1 H, d, 4JHH = 2.6 Hz, 芳香族-H), 6.80 (1 H, d, 4JHH = 2.6 Hz, 芳香族-H), 4.3-1.8 (10 H, br m, Ar-CH2-N-CH2-CH2-O), 1.68 (9 H, s, C(CH3)3), 1.41 (9 H, s, C(CH3)3), 0.45 (18 H, s, N(Si(CH3)3)2) ppm. 13C{1H} NMR (C6D6, 100.62 MHz, 25 ℃): δC 157.8, 139.8, 138.8, 125.6, 124.1, 122.3 (芳香族), 64.0 (O-CH2), 60.1 (Ar-CH2-N), 52.4 (N-CH2-CH2), 34.3 (C(CH3)3), 33.4 (C(CH3)3), 31.1 (C(CH3)3), 29.7 (C(CH3)3), 5.8 (N(Si(CH3)3)2) ppm. 29Si{1H} NMR (C7D8, 79.49 MHz, 25 ℃): δSi = 0.14 ppm. 119Sn{1H} NMR (C7D8, 149.20 MHz, 25 ℃): δSn = −42 ppm.
【0044】
重合結果
[表1]に示すようにトルエン中で[L−LA]02.0Mまたは4.0Mを用いてL−ラクチドの開環重合を実施した。
種々の金属プレ触媒を[表1]に示す過剰iPrOHと一緒に用いた。モノマーの量、重合温度および時間および重合結果も[表1]に示す。
【表1】
【0045】
多分散性指数は数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比Mw/Mnによって表される。
数平均分子量はサイズ除外クロマトグラフィ(SEC)によって測定され、ポリスチレン標準品に対して求め、0.58の因数で補正した。これは式:Mn=[L−ラクチド]0/[iPrOH]0×モノマー転化率×ML-lactide+MiPrOHから計算される(ここで、ML-lactide=144g・mol-1、MiPrOH=60g・mol-1)。
未精製のL−LAと、触媒系Sn(Oct)2/オクタノールまたはSn(O−2,6−tBu−Ph)2/オクタノールを用い、2回精製したL−LAとで追加の実施例を調製した。未精製L−LAの重合条件および結果は[表2]にまとめてある。2回精製したL−LAの重合条件および結果は[表3]にまとめてある。
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
図6]は2つ触媒Sn(Oct)2およびSn(OAr)2の([LA]0/[Sn]0/[オクタノール]0比が6000/1/14.8の場合の転化率(%)を時間(分)の関数で表している。[図7]は同じ2つの触媒の比72000/1/178の場合を表している。
2回精製したL−LAの開環重合も触媒系Zn(LO32/オクタノールを用いて実施した。
【0048】
Zn(LO32の合成
50mLのトルエンで調製した2.20gの[LO3]H(5.02mmol)溶液を室温で、40mLのトルエンで調製した0.92gのZn[N(SiMe322(2.39mmol)溶液に添加した。得られた混合物を40℃の温度で3時間の間撹拌し、揮発性物質を真空下に除去した。得られたオイルに白色固体が沈殿するまでペンタンを添加した。この固体を濾過で単離し、10mLのペンタンで3回洗浄して、2.20gのZn(LO32を真空乾燥した無色粉末として収率98%で得た。
実験値: C 64.2, H 8.8, N 2.9 %. C50H84N2O10Zn 必要値: C 64.0, H 9.0, N 3.0 %。
【0049】
1H NMR (C6D6, 500.13 MHz, 25 ℃): δH = 7.57 (2 H, d, 4JHH = 2.6 Hz, 芳香族-H), 6.94 (2 H, d, 4JHH = 2.6 Hz, 芳香族-H), 4.3-3.0 (44 H, br m, 大環状-H), 1.69 (18 H, s, C(CH3)3), 1.45 (18 H, s, C(CH3)3) ppm。
13C{1H} NMR (C6D6, 100.03 MHz, 25 ℃): δC = 163.9, 137.9, 134.8, 125.9, 124.0, 119.8 (芳香族), 71.1, 70.8, 70.5 (br), 67.0, 65.4, 61.2, 54.3, 49.8, 35.3 (C(CH3)3), 33.8 (C(CH3)3), 31.9 (C(CH3)3), 30.0 (C(CH3)3) ppm.
重合条件および結果は[表4]に示す。
【0050】
【表4】
【0051】
150℃および185℃の温度では黄色溶液で、転化率が非常に低いことが観察された。これからL−LaのROPを効率的且つ制御された状態で実施するには110?Cの温度が最も適していると思われる。
制御されたイモータルROPプロセスを、これらのSn(OAr)2iPrOHをベースにした触媒系を用いて観察し、分子量をモノマー/アルコール比によって決定した。対応する多分散性指数も非常に狭いことがはっきりと見られる。
【0052】
得られたポリマーのNMR分光法[図8]およびMALDI−ToF−MS[図9]分析によってその予想構造、特にその鎖末端の種類が確認された。なお、MALDI−ToF質量分光の2つの連続信号の間に144Daではなく72Daとして測定される増分が検出され、定量エステル交換反応が生じたように見える。このタイプの錯体Sn(O−2,6−tBu−Ph)2で得られた結果は、工業用途に特に適している。すなわち、この錯体は非常に堅牢で、安価で、複合ヘテロレプティック錯体、例えば[LO3]SnNMe2または[LO3]SnN(SiMe32と同程度に効率的である。驚くことに、この錯体は現在使用されているSn(Oct)2よりも効率的であることが観察された。
【0053】
さらに、フェノレートリガンドをベースにした本発明の触媒前駆体、Sn−bis(フェノレートまたは[LO3]SnNMe2または[LO3]SnN(SiMe32はSn(Oct)2より良い触媒前駆体であることも付け加えなければならない。すなわち、Sn前駆体の量が同じ場合、重合反応がSn(Oct)2前駆体を用いた場合よりも速い。結果として、必要な前駆体の量が従来の系よりも少なくなり、それによって、最終ポリマー中に残る残留金属が減少する。
【0054】
約5000当量の多量に添加したモノマーを110℃の重合温度で完全に変換した。一般に、反応時間を過剰に長くすると通常の分子量の分布より広い分布が得られることに注意しなければならない。典型的なSn(Oct)2を用いた比較例との比較で、全てのモノマー添加量および重合温度で60℃の触媒活性に関するSn(O−2,6−tBu−Ph)2の優位性が確認されている。
【0055】
トリメチレンカーボネートおよびラクチドの逐次ブロック共重合
トリメチレンカーボネート(Snに対して1000当量)の開環重合を、トルエンで調製したSn(O−2,6−tBu−Ph)2/BnOH系(1:10)溶液([TMC]0=2.0M)を用いて、60℃の温度で3時間行った。この時間の後、反応混合物のアリコートをサンプリングし、1H−NMRおよびSECによって分析した。これによって、TMCの96%転化率およびBnO−PTMC−OHポリマーの製造(Mn=9,800g/molおよびMw/Mn=1.25)が示された。次いで、L−ラクチド(Snに対して1000当量)を制御された雰囲気下で反応容器に導入し、反応混合物を60℃でさらに3時間の間加熱した。混合物を1H−NMRおよびSECによって分析した。これによって、L−LAの90%転化率およびBnO−PTMC−b−PLLA−OHブロックコポリマーの製造(Mn=22,800g/molおよびMw/Mn=1.30)が示された。メタノールを反応混合物に添加した後にブロックコポリマーを沈殿で単離した。
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図9