(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6120875
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】機械的表面活性化を使用してパラジウム−銀合金ガス分離膜を調製する方法
(51)【国際特許分類】
B01D 71/02 20060101AFI20170417BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20170417BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20170417BHJP
B01D 53/22 20060101ALI20170417BHJP
C23C 18/44 20060101ALI20170417BHJP
【FI】
B01D71/02 500
B01D69/10
B01D69/12
B01D53/22
C23C18/44
【請求項の数】14
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-549170(P2014-549170)
(86)(22)【出願日】2012年12月17日
(65)【公表番号】特表2015-509040(P2015-509040A)
(43)【公表日】2015年3月26日
(86)【国際出願番号】US2012070065
(87)【国際公開番号】WO2013096184
(87)【国際公開日】20130627
【審査請求日】2015年12月10日
(31)【優先権主張番号】61/577,761
(32)【優先日】2011年12月20日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590002105
【氏名又は名称】シエル・インターナシヨナル・リサーチ・マートスハツペイ・ベー・ヴエー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソウカイティス,ジョン・チャールズ
【審査官】
池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2011/0232821(US,A1)
【文献】
特表2006−520686(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00−71/82
C23C 18/00−18/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウム−銀合金ガス分離膜システムを調製する方法であって、
パラジウムを含む層を支持する多孔質支持体を用意するステップ;
前記パラジウム層を研磨媒体で研磨して、研磨模様および0.85ミクロンから2.5ミクロンまでの平均表面粗さ(Sa)を付すことによって、前記パラジウム層の表面を活性化するステップ;
前記活性化パラジウム層の表面上に、化学的活性化を行わずに、前記活性化パラジウム層の表面上にめっきされる銀を含む上層を堆積させるステップ;ならびに
400℃と800℃の間の温度で前記パラジウム層および銀の上層をアニールするステップ
を含む方法。
【請求項2】
銀の上層を堆積させる前に、パラジウム層が0.85ミクロンから1.5ミクロンの範囲内の平均表面粗さ(Sa)に研磨される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
銀の上層をめっきする前に、パラジウム層が、0.9ミクロンから1.2ミクロンの範囲内の平均表面粗さ(Sa)に研磨される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
金属間拡散バリアが多孔質基材に施用され、前記多孔質基材とパラジウム層の間に配置される、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
パラジウム層を堆積させる前に、銀の層が金属間拡散バリア上に堆積される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
銀層上にパラジウム層を堆積させる前に、金属間拡散バリア上に堆積された前記銀層が0.85ミクロンと1.5ミクロンの間の平均表面粗さ(Sa)に研磨されることによって活性化される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
堆積される銀の量が、全パラジウム層の1wt%から35wt%の間である、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
パラジウム層が、1から10ミクロンの粒径を有する研磨媒体で研磨される、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
活性化パラジウム層上に堆積される銀の上層が、0.01ミクロンと10ミクロンの間の厚さを有する、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
0.8ミクロンより大きく2.5ミクロンまでの表面粗さ(Sa)に研磨することによって銀の上層を活性化した後、さらなるパラジウム層が前記銀の上層上に堆積される、請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
パラジウム−銀合金膜が0.001ミクロンから10ミクロンの厚さを有する、請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
活性化パラジウム層上に堆積された銀の上層が、1ミクロンと2ミクロンの間の厚さを有する、請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
銀の上層が、めっき液を循環させない無電解めっきによって堆積される、請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
水素を水素含有ガス混合物から分離する方法であって、
パラジウム−銀合金ガス分離膜を、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法により調製するステップ、および
前記ガス混合物を、前記パラジウム−銀合金ガス分離膜に通すステップ、
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラジウム−銀合金ガス分離膜システムを調製する方法、ガス分離膜システム自体、およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
複合ガス分離モジュールは、ガス混合物から特定のガスを選択的に分離するために汎用される。これらの複合ガス分離モジュールは、例えばポリマーおよび金属複合材を含めた様々な材料で作製することができる。これらの複合ガス分離モジュールは、低温プロセス条件でガスを分離するための効果的で費用効率の高い選択肢を提供することができるが、これらは、高温および高圧ガス分離処理での使用には適していないことが多い。
【0003】
高温ガス分離用途に使用することが意図され、多孔質基材の表面上に取り付けられた選択的ガス透過性金属膜からなる構造を有する、ある種のガス分離モジュールが先行技術に開示されている。例えば、米国特許公開第2004/0237780号および第2009/0120287号は、選択的にガスを分離するためのガス分離システムを開示している。この両方で、ガス分離システムは、一般にパラジウムであるガス選択性金属を無電解めっきによって多孔質基材上にまず堆積させ、次に得られた被覆基材を研磨し、その後、磨かれた被覆多孔質基材上にやはり一般にパラジウムであるガス選択性金属の第2の層を堆積させることによって作製されることが教示されている。US2004/0237780では、被覆基材を研磨するまたは磨く中間ステップは、被覆基材の表面から不都合な形態を除去するために使用される。US2009/0120287では、中間の研磨ステップは、第1の堆積材料のかなりの部分を除去して、より薄く稠密なガス選択性膜を得ることを目的として使用される。これらの文献は、パラジウムの層の上に銀の層を堆積させる試みに伴う問題を扱っていない。
【0004】
銀の凝集の問題はよく知られている。「The Inhibition of Silver Agglomeration by Gold Activation in Silver Electroless Plating」、Chaら、Journal of the Electrochemcial Society(2005)、C388−C391は、銀の凝集を、銀の薄いフィルムを得るのに障害となるものとして記載している。金の層が基材の活性化材料として使用され、その後、銀のフィルムが金で活性化された基材上に無電解で堆積された。銀はパラジウムとは異なる結晶構造を有しており、パラジウム上に銀をめっきしようとすれば、銀はそれ自体の上にめっきされ、パラジウムの表面上に島状のものが形成される。
【0005】
銀の凝集の問題を克服する別の手法は、銀を堆積させる前に、めっきしようとする表面を化学的に活性化させることである。かかる化学的活性化の一方法がUS7,175,694に開示されており、そこでは、酸化ステンレス鋼の管が、SnCl
2およびPdCl
2の水性浴中に浸されることによって表面活性化され、その後、パラジウムおよび銀の層が続けて施用された。この活性化方法は、大量の水を消費し、廃棄前に処理を必要とする相当量の水性廃棄物を生じ、除去する必要があるスズおよび塩素イオンの残留物も残す。
【0006】
パラジウムの表面を活性化する別の方法は、酢酸パラジウムのクロロホルム中溶液を利用し、該酢酸塩を蒸発、乾燥、分解させた後にパラジウム金属種に還元するものである。
【0007】
化学的に活性化する方法、例えば上述のものなどは複数のステップを含むので、処理が必要な廃棄物を生じることに加えて、費用および時間がかかる傾向がある。
【0008】
金属の表面を活性化させる非化学的方法が、US2011/0232821に開示されている。しかし、開示された方法は、本発明の方法で採用されたものとは異なる表面粗さおよび形態を採用している。
【0009】
したがって、化学的活性化を必要とせずに、または活性化材料として金の層を含むことを必要とせずに、銀がパラジウムの層の上に均一に堆積され得る、パラジウム−銀合金ガス分離膜システムを調製するための効率的で費用対効果が大きい方法が、当技術分野で求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0237780号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2009/0120287号明細書
【特許文献3】米国特許第7,175,694号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2011/0232821号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】「The Inhibition of Silver Agglomeration by Gold Activation in Silver Electroless Plating」、Chaら、Journal of the Electrochemcial Society(2005)、C388−C391
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
(発明の要旨)
本発明は、高価で時間がかかる化学的活性化を行わずに銀の上層および/またはパラジウムの追加層を施用しやすくするための、パラジウムの表面を活性化する安価で効率の高い方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、時間がかかる化学的活性化技法を必要とせずにまたは金の層を含むことを必要とせずに、次のステップ:パラジウム層の表面を、研磨媒体で表面を研磨することによって活性化させて、後述する通りの特定の表面粗さおよび研磨模様を実現するステップ;活性化パラジウム層の上に、化学的活性化を行わずに銀を含む上層を堆積させるステップであって、該上層がパラジウム層の上にめっきされるステップ;ならびにパラジウム層および銀の上層をアニールして、パラジウム−銀合金ガス分離膜システムを得るステップによって、銀がパラジウムの表面に施用され得るという知見に一部基づく。本方法は、パラジウム層上に銀を、銀層上に銀を、または銀層上にパラジウムをめっきするために使用され得る。
【0014】
パラジウム表面の磨きまたは研磨は当技術分野で公知であるが、かかる磨きまたは研磨は、典型的には、化学的に活性化された後に、次のパラジウム層が上に堆積され得るパラジウムの表面を平滑化するために行われる。本方法における研磨ステップは主に、例えば表面上に掻き傷を付ける、さもなければ化学的活性化を行わずに追加的にめっきすることを可能とする表面模様および制御された表面粗さを付すことによって、表面を活性化するために行われる。よって、本方法の記載に使用される用語「研磨」または「磨き」は、金属膜の表面を活性化させて化学的活性化を必要とせずに追加的にめっきしやすくなるように、金属膜表面に研磨媒体を施用することを指す。
【0015】
本発明はまた、パラジウム−銀合金ガス分離膜システムを提供し、該パラジウム−銀合金ガス分離膜システムは、多孔質支持体を含み、研磨媒体を使用して特定の表面粗さにすることによって活性化されたパラジウム層がその上に支持され、ここで、活性化パラジウム層は、パラジウム層の上にめっきされる、銀を含む上層で重層され、合わされたパラジウムと銀との層は、アニールされてパラジウム−銀合金ガス分離膜システムを形成している。好ましい実施形態では、多孔質支持体は金属間拡散バリアで被覆され、その上にパラジウム層および/または銀の層が堆積される。
【0016】
本発明のパラジウム−銀合金ガス分離膜システムは特に、高温および高圧の条件下で、水素含有ガス流から水素を分離するためのプロセスで使用され得る。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、少なくとも1層のパラジウム層およびその上に堆積される少なくとも1層の銀層を有するガス分離膜システムを製造する、経済的に有利な方法に関する。本発明はまた、それによって生成されたガス分離膜システム、およびガスを分離するためのこのシステムの使用に関する。
【0018】
本発明の方法の重要な特徴は研磨ステップであり、このステップにおいて、パラジウム層の表面は、表面を研磨または研削して適切な研磨模様および制御された表面粗さを付すことによって活性化される。パラジウムの表面が後述の通りに活性化されれば、高価で時間のかかる化学的活性化を必要とせずにまたは活性化材料として金の層を含むことを必要とせずに、パラジウムの表面を銀の均一な層または被膜で被覆することができることが見出されたが、1層以上の金の層がパラジウム−銀合金膜に施用されて、その耐硫化性が改善されてもよい。
【0019】
本発明によれば、比較的平滑なパラジウム表面(0.8ミクロン未満の平均表面粗さ(Sa)を有するパラジウム表面として定義される。)を均一な銀の上層で被覆するために、パラジウム表面は、0.8ミクロンより大きく2.5ミクロンまでの平均表面粗さ(Sa)を、適切な研磨模様と共に実現するように研磨することによって活性化される。好ましくは、平均表面粗さ(Sa)は、0.85ミクロンから1.5ミクロンの範囲内、より好ましくは0.9ミクロンから1.2ミクロンの範囲内に制御される。
【0020】
適切な研磨模様はレイパターンの形であってもよく、それはパラジウムの表面上の反復的なへこみである。表面仕上げのレイパターンの例には、縦状、横状、放射状、クロスハッチング、円状、正弦曲線状、楕円状、長円状、輪状、ピーナッツ状および他の模様が含まれる。適切で好ましいレイパターンおよびかかるレイパターンをパラジウム表面上に型押するまたは付す方法および手段のいくつかは、参照により本明細書に組み込む、米国特許出願公開第2011−0232821号明細書においてより詳細に考察されている。クロスハッチング研磨模様は、本方法による表面活性化に好ましい。
【0021】
平均表面粗さまたは算術平均高さ(Sa)は、表面の粗さを測定する公知の測定値であり、光学式粗さ計を使用することで容易に決定され得る。任意の購入可能な任意の光学式粗さ計が使用されてもよい。かかる購入可能な光学式粗さ計の一例はST400 3D Profilometerであり、Nonoveaによって市販されている。
【0022】
研磨ステップにおいて所望の表面粗さを生じるために使用するのに適した研磨材は、固定砥粒、研磨布紙、および液体に懸濁された研磨粒子またはペーストに含有される研磨材を含めた遊離砥粒などの、いかなる種類の研磨材から選択されてもよい。研磨粒子の大きさは、適切な研磨模様を作り、表面粗さを規定された範囲内に制御する機能を果たすようなものであるべきである。1から10ミクロンの平均粒径を有する研磨媒体が適切な表面粗さを生じることが見出された。しかし、0.8ミクロンより大きく2.5ミクロンまでの最終的な平均表面粗さ(Sa)を生じる限り、この範囲より上または下の平均粒径を有する他の研磨媒体が使用されてもよい。
【0023】
研磨粒子の組成は重要ではなく、研磨粒子は、天然の研磨材、例えば、ダイアモンド、コランダム、エメリー、およびシリカなどから選択されてもよく、または製造された研磨材、例えば、炭化ケイ素、酸化アルミニウム(溶融、焼結、ゾルゲル焼結)、炭化ホウ素、および立方晶窒化ホウ素などから選択されてもよい。
【0024】
パラジウム表面を所望の表面粗さおよび研磨模様に研磨することによって活性化させた後、1層以上の銀層が、例えば、無電解めっき、熱蒸着、化学蒸着、電気めっき、噴霧堆積、スパッタ被覆、電子ビーム蒸着、イオンビーム蒸着および噴霧熱分解を含めた任意の公知の手段によってパラジウム表面上に堆積されてもよい。好ましい堆積方法は、無電解めっきである。
【0025】
銀は積層されてもよく、すなわち複数層に堆積されてもよく、または1層で堆積されてもよい。銀はまた、金属間拡散バリア上に堆積され、金属間拡散バリアを多孔質支持体に固定するために使用された後に、追加的な銀めっきステップが行われてもよい。本発明の別の実施形態では、銀層はパラジウムの層の間に挟まれていてもよい。パラジウム層が最後に、すなわち、最後の銀層の後にめっきされることが好ましい。
【0026】
堆積される銀の量は、全パラジウム層の1wt%から35wt%を構成してもよい。好ましくは、銀は全パラジウム層の5wt%から30wt%の間、より好ましくは全パラジウム層の10wt%から25wt%の間を構成する。
【0027】
上述のパーセンテージの銀は、1回以上のめっき操作で施用されてもよい。一般に、銀の上層の厚さは、10ミクロン未満であり、好ましくは8ミクロン未満、最も好ましくは5ミクロン未満である。上層の厚さの下限は約0.01ミクロンである。よって、銀の上層の厚さは、0.01ミクロンから10ミクロンの間の範囲内、好ましくは0.1ミクロンから5ミクロンの間、最も好ましくは1ミクロンから2ミクロンの間であってもよい。
【0028】
合わされたパラジウムと銀との層の総厚さは、10ミクロン未満であるべきであり、好ましくは8ミクロン未満、最も好ましくは6ミクロン未満であるべきである。
【0029】
本発明の好ましい実施形態では、パラジウム−銀合金ガス分離膜システムは、金属間拡散バリアで被覆された多孔質基材で支持される。この実施形態では、金属間拡散バリアが多孔質基板に施用され;1層以上のパラジウムまたはパラジウム合金の層が金属間拡散バリア上に堆積され;研磨媒体を使用して研磨して、所望の研磨模様を作り、規定された範囲内の表面粗さに制御することによって、パラジウム層の表面が活性化され;次いで、活性化されたパラジウム層を硝酸銀などの銀の塩を含む溶液と接触させることによって、化学的活性化を行わずに、1層以上の銀層が研磨により活性化されたパラジウム層上に堆積される。銀層およびパラジウム層は熱処理されて、すなわちアニールされて、パラジウム−銀合金ガス分離膜システムを生成する。
【0030】
本発明の別の実施形態では、銀層が金属間拡散バリア上に最初に堆積される。次いで銀層の表面が研磨によって活性化され、次いで1層以上のパラジウム層が銀層上に堆積され、合わされた層がアニールされる。
【0031】
本発明の方法の様々な実施形態において採用されてもよい多孔質支持体には、金属間拡散バリアならびにパラジウムおよび/またはパラジウム−銀合金の層のための支持体として使用するのに適した任意の多孔質金属材料が含まれる。多孔質支持体は、いかなる形状または幾何学的形状であってもよい;ただし、金属間拡散バリアならびにパラジウム、パラジウム合金および銀の層を、そこに施用することができるまたはその上に堆積させることができる表面を有することを条件とする。かかる形状には、一緒になってシート厚を規定する下面および上面を有する多孔質金属材料の平面状もしくは曲線状のシートが含まれてもよく、または該形状は、一緒になって壁厚を規定する内面および外面を有し、管の形状の内面が管の導管を規定する、例えば、長方形、正方形、および円形の管の形状などの管状であってもよい。
【0032】
多孔質金属材料は、それだけには限らないが、ステンレス鋼、例えば、301、304、305、316、317、および321系列のステンレス鋼など、HASTELLOY(登録商標)合金、例えば、HASTELLOY(登録商標)B−2、C−4、C−22、C−276、G−30、Xなど、ならびにINCONEL(登録商標)合金、例えば、INCONEL(登録商標)合金600、625、690および718を含めた、当業者に公知の材料のいずれかから選択されてもよい。多孔質金属材料は、このように、水素透過性であり鉄およびクロムを含む合金を含んでもよい。多孔質金属材料は、ニッケル、マンガン、モリブデンおよびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される追加の合金金属をさらに含んでもよい。
【0033】
多孔質金属材料として使用するのに適した特に望ましい1つの合金は、合金の総重量の上限約70重量パーセントの範囲内の量のニッケル、および合金の総重量の10から30重量パーセントの範囲内の量のクロムを含んでもよい。多孔質金属材料として使用するのに適した別の合金は、30から70重量パーセントの範囲内のニッケル、12から35重量パーセントの範囲内のクロム、および5から30重量パーセントの範囲内のモリブデンを含んでおり、これらの重量パーセントは、合金の総重量に基づいている。Inconel合金が、他の合金よりも好ましい。
【0034】
多孔質金属基材の厚さ(例えば、上記の壁厚またはシート厚)、多孔度、および細孔の細孔径分布は、所望の性質を有する本発明のガス分離膜システムを提供するために、また本発明のガス分離膜システムを製造するのに要求される通りに選択される、多孔質支持体の性質である。水素分離用途に使用されるとき、多孔質支持体の厚さが増加するにつれて、水素フラックスは減少しやすくなることが理解される。圧力、温度および流体ストリームの組成などの操作条件も、水素フラックスに影響を与える可能性がある。しかし、いずれにせよ、そこを通る高ガスフラックスを提供するように合理的に少ない厚さを有する多孔質支持体を使用することが望ましい。本記載に従って企図される典型的な用途向けの多孔質基材の厚さは、約0.1mmから約25mmの範囲内であってもよいが、好ましくは、該厚さは1mmから15mmの範囲内であり、より好ましくは2mmから12.5mm、最も好ましくは2mmから10mmである。
【0035】
多孔質金属基材の多孔度は、0.01から約1の範囲内であってもよい。多孔度という用語は、多孔質金属基材材料の総体積(すなわち、非固体および固体)に対する非固体の体積の割合として定義される。より典型的な多孔度は、0.05から0.8の範囲内であり、さらには0.1から0.6の範囲内である。
【0036】
多孔質金属基材の細孔の細孔径分布は、典型的には約0.1ミクロンから約50ミクロンの範囲内である、多孔質金属基材材料の細孔の中央孔径によって変化し得る。より典型的には、多孔質金属基材材料の細孔の中央孔径は0.1ミクロンから25ミクロンの範囲内であり、最も典型的には0.1ミクロンから7ミクロンの範囲内である。
【0037】
上で論じたように、本発明の改善された方法は、多孔質基材の表面上にパラジウム、銀またはパラジウム合金の層を形成する前に、多孔質基材の表面に金属間拡散バリアを施用することも含む。適切な金属間拡散バリアには、無機酸化物、耐熱金属および貴金属エッグシェル触媒からなる群から選択される材料の粒子が含まれる。これらの粒子は、これらまたは少なくとも粒子の一部が、パラジウム−銀の膜を支持するのに使用される多孔質基材のいくつかの細孔内に少なくとも部分的に適合することが可能であるような大きさであるべきである。よって、それらは一般に、約50ミクロン(μm)未満の最大寸法を有するべきである。
【0038】
粒子の粒径(すなわち、粒子の最大寸法)は一般に、本発明の方法に使用される多孔質基材の細孔の細孔径分布にも依存する。典型的には、無機酸化物、耐熱金属または貴金属エッグシェル触媒の粒子の中央粒径は、0.1ミクロンから50ミクロンの範囲内である。より詳細には、中央粒径は、0.1ミクロンから15ミクロンの範囲内である。好ましくは、粒子の中央粒径は0.2ミクロンから3ミクロンの範囲内である。
【0039】
金属間拡散バリア粒子の層として適切に使用され得る無機酸化物の例には、アルミナ、シリカ、ジルコニア、イットリア安定化ジルコニアまたはセリア安定化ジルコニアなどの安定化ジルコニア、チタニア、セリア、ケイ素、カーバイド、酸化クロム、セラミック材料、およびゼオライトが含まれる。耐熱金属には、タングステン、タンタル、レニウム、オスミウム、イリジウム、ニオブ、ルテニウム、ハフニウム、ジルコニウム、バナジウム、クロムおよびモリブデンが含まれてもよい。多孔質基材の表面に施用される金属間拡散バリアの粒子の層として適切に使用され得る貴金属エッグシェル触媒に関しては、文章全体を参照により本明細書に組み込む、米国特許第7,744,675号に、貴金属エッグシェル触媒が非常に詳しく定義および記載されている。本発明の方法に使用するのに好ましい金属間拡散バリアは、イットリアで安定化されたジルコニアを含む、特に6から8wt%のイットリアで安定化されたジルコニアを含む貴金属エッグシェル触媒である。場合によってセリアを追加すると安定性が増すことも見出された。
【0040】
多孔質基材の表面に施用されて被覆基材をもたらす金属間拡散バリア粒子の層は、多孔質基材の細孔を覆い、0.01ミクロンより大きい層厚、一般に0.01ミクロンから25ミクロンの範囲内の層厚を有する層をもたらすようなものであるべきである。金属間拡散バリアの層厚が、0.1ミクロンから20ミクロンの範囲内、最も好ましくは2ミクロンから3ミクロンの範囲内であることが好ましい。
【0041】
多孔質基材への金属間拡散バリアの施用に続いて、パラジウムまたは銀などのガス選択性材料の1層以上の層が、当業者に公知の任意の適切な手段または方法、例えば、無電解めっき、熱蒸着、化学蒸着、電気めっき、噴霧堆積、スパッタ被覆、電子ビーム蒸着、イオンビーム蒸着および噴霧熱分解などを使用して被覆多孔質基材上に堆積され得る。被覆多孔質基材上にパラジウムおよび/または銀を堆積させる好ましい堆積方法は、無電解めっきである。
【0042】
ガス選択性材料とは、該用語が本明細書で使用される場合、それが稠密で薄いフィルムの形であるときにガスに対して選択的に透過性である材料であり、よって、かかる材料の稠密で薄い層は、選択されたガスがその中を選択的に通過できるように機能する一方で、他のガスの通過を防止する。本明細書で使用される好ましいガス選択性金属は、パラジウムおよび銀ならびにそれらの合金である。銀は、他の金属のパラジウム合金と共に使用されてもよい。
【0043】
多孔質支持体上に支持されるパラジウム膜層の典型的な膜厚は、1ミクロンから50ミクロンの範囲内であってもよいが、多くのガス分離用途の場合、この範囲の上限の膜厚は、所望のガス分離を可能とする合理的なガスフラックスを提供するには厚過ぎる可能性がある。また、先行技術の製造方法のうち様々なものが、許容し難いほど厚いガス選択性材料の膜層を有し、その結果許容し難いガス分離能をもたらすようなガス分離膜システムを提供することが多い。一般に、20ミクロンを超える膜厚はガス流から水素を許容可能に分離させるには厚過ぎ、15ミクロンを超える膜厚であっても望ましくない。
【0044】
本明細書に記載される本発明の方法の利点の1つは、多孔質支持体上に支持されたパラジウム層上に均一に分散された銀層を有するガス分離膜システムの着実な製造をもたらすことである。特に、稠密なパラジウム−銀合金膜が、10ミクロン以下まで着実に作製され得る。典型的には、本発明の方法によって作製された稠密なパラジウム−銀合金膜は、0.001ミクロンから10ミクロンの間の範囲内、好ましくは0.01ミクロンから8ミクロンの間、最も好ましくは0.1ミクロンから6ミクロンの間の厚さを有する。
【0045】
上で論じたように、一般に、活性化されていないパラジウム層の上に銀の層を堆積させようとすると、銀は、均一に分散された層となる代わりに、パラジウムの表面上に島の形で堆積する。これにより、稠密で気密性の膜を得るために、最後の銀層上に多数の追加のパラジウム層を堆積させることが必要となる。非化学的表面活性化を採用する本方法は、この問題を克服し、極めて薄いにもかかわらず効果の高い、パラジウム−銀ガス分離膜の形成を可能とする。
【0046】
銀の上層をパラジウム膜層上に堆積させるために、当業者に公知の任意の適切な手段または方法が使用されてもよく、例えば、無電解めっき、熱蒸着、化学蒸着、電気めっき、噴霧堆積、スパッタ被覆、電子ビーム蒸着、イオンビーム蒸着および噴霧熱分解が含まれる。銀の上層を堆積させる好ましい堆積方法は、無電解めっきである。
【0047】
パラジウム層、または合わされて合金を形成するパラジウム−銀層のアニールまたは熱処理は、400℃から800℃の間、好ましくは500℃から550℃の間の温度で適切に遂行され得る。上述の層のアニールは、水素雰囲気またはおよび不活性ガス、例えば窒素、アルゴンもしくはヘリウムなどの中で実施されてもよい。好ましい実施形態では、アニールは、水素100%の雰囲気で、または窒素、アルゴンおよびヘリウムからなる群から選択される不活性ガス3wt%から97wt%と水素との混合物を含む雰囲気で遂行される。
【0048】
パラジウム層の堆積およびアニールに続いて、次いで、パラジウムの表面は、上で特定した範囲内、すなわち0.8ミクロンより大きく2.5ミクロンまで、好ましくは0.85ミクロンから1.5ミクロンの間、より好ましくは0.9から1.2ミクロンの間の平均表面粗さ(Sa)を生じるように研磨される。被覆された多孔質基材上のパラジウム表面は比較的平滑である、すなわち制御された表面粗さの範囲内であることが一般に望ましいが、その表面は平滑過ぎないことが重要であることが見出された。パラジウム層の表面が高度にバフ磨きされると、銀は表面上に均一にめっきされない。
【0049】
本発明のガス分離膜は、選択したガスをガス混合物から選択的に分離するのに使用されてもよい。該ガス分離膜は、水素含有ガス流から水素を分離するのに特に有用であり、とりわけ高温用途において有用である。本発明のガス分離膜が使用されてもよい高温用途の一例は、一酸化炭素と水素とを生じる炭化水素(メタンなど)の水蒸気改質、それに続く、生じた一酸化炭素が水と反応して二酸化炭素と水素とを生じる反応、いわゆる水性ガスシフト反応におけるものである。こうした触媒反応は平衡型反応であり、本発明のガス分離膜は、平衡条件を良くして水素収率を有利にするために、反応を行いながら生じた水素を同時に分離するのに有用である。該反応が同時に行われる反応条件には、400℃から600℃の範囲内の反応温度および1から30バールまでの範囲内の反応圧力が含まれてもよい。
【0050】
既に述べた通り、本発明のガス分離膜は、他のガス、例えば、二酸化炭素、水、メタンまたはそれらの混合物からなるガスの群から選択されるものを含むガス流から、水素を分離することを含む広範な用途に使用されてもよい。かかる用途では、温度条件は、上限600℃の範囲内、例えば100℃から600℃の範囲内であってもよく、圧力条件は、上限60バールの範囲内、例えば、1から60バールの範囲内であってもよい。
【0051】
次の実施例は本発明をさらに例示するために提供されるが、しかしこれらは本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0052】
実施例1
本実施例は、金属間拡散バリアで被覆された多孔質基材の上に堆積された1層以上のパラジウム層の上に、1層以上の銀層を堆積させることを含む本発明の方法を利用する、パラジウムおよび銀を含有するガス分離膜システムの製造を例示する。
【0053】
パラジウムとイットリア安定化ジルコニアとを含む貴金属エッグシェル触媒のスラリーを、1インチOD×15インチのInconel多孔質金属管の表面上に堆積させて、2〜3ミクロンの厚さを有する金属間拡散バリアを形成し、5〜8インチHgの下で5分間めっきすることによって付着させた。その後、被覆された多孔質管の表面上に、水、水酸化アンモニウム、テトラアミンパラジウム(II)塩化物、EDTA二ナトリウムおよびヒドラジンを含有するパラジウム浴液を、1〜2ミクロンの厚さを有する第1のパラジウム層が得られるまで循環させることによって、第1のパラジウムのフィルムを金属間拡散バリアで被覆された多孔質管上に堆積させた。パラジウム層を、洗浄し、乾燥し、アニールした。次いで、アニールされたパラジウム層の表面を5ミクロンの研磨紙で研磨し(すなわち、クロスハッチングし)、0.85ミクロンから2.5ミクロンの間の平均表面粗さ(Sa)を得た。その後、研磨されたパラジウム表面の表面上に、1リットル当り651mlの28〜30%水酸化アンモニウム溶液、1リットル当り4.86gの硝酸銀(AgNO
3)、0.54gのテトラアミンパラジウム(II)塩化物(Pd(NH
3)
4C1
2)、1リットル当り33.6gのエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩(Na
2EDTA・2H
20)、2.9mlの1Mヒドラジン溶液および1リットルの総容積を成すのに十分な脱イオン(DI)水を含有する溶液を、第1の銀層が堆積されるまで用いて、アニールされ研磨されたパラジウム表面層を有する被覆多孔質管を、第1の銀のフィルムでめっきした。加えて、該複合膜を、15分毎に1/4回回転させた。溶液の温度は50℃であり、めっき時間は120分であった。めっき、洗浄、乾燥、アニールおよび磨きステップを繰り返して、膜が気密性になるまで追加の銀またはパラジウムの層を生成した。採用されたアニール温度は、約500〜550℃であった。
【0054】
アニールされ研磨された表面を有する、銀またはパラジウムで被覆された多孔質管は、本明細書では「複合膜」と称される。
【0055】
実施例2
Mott corp.製の6インチのInconel 625多孔質支持体を、イットリア安定化ジルコニアの金属間拡散バリアで被覆し、50℃、5〜7インチのHgでパラジウムめっき液に支持体を通すことによって付着させた。金属間拡散バリアを含有するこの多孔質管を、洗浄し、乾燥し、その後、第1のめっきステップでめっきした。パラジウムおよび銀の膜を、7回のめっきステップで調製した。金属は次の順番でめっきされた:
1)パラジウム
2)銀
3)パラジウム
4)銀
5)パラジウム
6)パラジウム
7)パラジウム
【0056】
パラジウムめっきステップは、被覆された多孔質管の表面上に、水、水酸化アンモニウム、テトラアミンパラジウム(II)塩化物、EDTA二ナトリウムおよびヒドラジンを含有するパラジウム浴液を、1〜2ミクロンの厚さを有する第1のパラジウム層が得られるまで循環させることによって実施した。パラジウム層を、洗浄し、乾燥し、アニールした。次いで、アニールされたパラジウム層の表面を研磨紙で研磨し(すなわち、クロスハッチングし)、パラジウム層の表面粗さを、0.85ミクロンから2.5ミクロンの間の平均表面粗さ(Sa)に増大させた。その後、研磨されたパラジウム表面の表面上に、水酸化アンモニウム溶液、硝酸銀(AgNO
3)、テトラアミンパラジウム(II)塩化物(Pd(NH
3)
4C1
2)、およびエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩(Na
2EDTA・2H
20)を1Mヒドラジン溶液と共に含有する銀浴液を、第1の銀層が堆積されるまで用いて、アニールされ研磨されたパラジウム表面層を有する被覆多孔質管を、第1の銀層のフィルムでめっきした。加えて、該複合膜を、15分毎に1/4回回転させた。銀で被覆されたパラジウム層を有する多孔質の被覆管を、洗浄し、乾燥し、アニールし、研磨紙で研磨し(すなわち、クロスハッチングし)、0.85ミクロンから2.5ミクロンの間の平均表面粗さ(Sa)を得た。めっき操作を、上で与えられた順序で繰り返した。
【0057】
膜の組成を、組成についてはXRF(X線蛍光)によって監視し、また表面粗さ、Saについては光学式粗さ計測によって監視した。以下の一覧表は、様々な操作に関する値を示している。最終的な漏れないパラジウム/銀の膜は、22wt.%の銀を含有していた。
【0058】
【表1】
硝酸銀溶液を使用する銀の無電解めっきは、通常めっき液を循環させて遂行されるが、硝酸銀が上の実施例1において使用されるめっき液に採用される濃度で使用されるとき、銀めっき液からの堆積は拡散律速ではないことが見出された。したがって、銀めっき液の循環は必要とされず、すなわち、銀めっきは、比較的静的な条件下での無電解めっき浴で効果的に遂行され得る。
【0059】
本発明を、その好ましい実施形態を参照して記載してきたが、以下の特許請求の範囲に記載される本発明の範囲から逸脱することなく、形態および細部における様々な変更をそこに行うことができることが、当業者により理解されよう。