【文献】
F. Bouamrane, et al.,"Underpotential Deposition of Cu on Boron-Doped Diamond Thin Films",Journal of Physical Chemistry B,1998年 1月 1日,Vol.102,p.134-140,URL,http://pubs.acs.org/doi/pdfplus/10.1021/jp971516g
【文献】
F. Bouamrane, et al.,"Electrochemical study of diamond films in neutral and basic solutions of nitrate",Journal of Electroanalytical Chemistry,1996年 4月12日,Vol. 405, Nos. 1-2,p.95-99
【文献】
Takeshi Kondo, et al.,"Homoepitaxial Single-Crystal Boron-Doped Diamond Electrodes for Electroanalysis",Journal of The Electrochemical Society,米国,Electrochemical Society,2002年 6月 1日,Vol.149, No.6,P E179-E184
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記溶剤窓は、少なくとも、4.1V、4.3V、4.5V又は4.7Vの電位範囲にわたって延び、前記ボロンドープ合成ダイヤモンド材料のところで測定された陽極及び陰極電流密度が38mA・cm-2に達したときに前記溶剤窓に関する前記電位範囲の端点が定められる、請求項1記載のボロンドープ合成ダイヤモンド材料。
前記溶剤窓は、少なくとも、−2.0V〜+2.1V、−2.1V〜+2.2V、−2.2V〜+2.3V又は−2.3V〜+2.4Vの電位範囲にわたって延びている、請求項2記載のボロンドープ合成ダイヤモンド材料。
前記溶剤窓は、少なくとも、3.3V、3.4V、3.5V又は3.6Vの電位範囲にわたって延び、前記ボロンドープ合成ダイヤモンド材料のところで測定された陽極及び陰極電流密度が0.4mA・cm-2に達したときに前記溶剤窓に関する前記電位範囲の端点が定められる、請求項1記載のボロンドープ合成ダイヤモンド材料。
前記ボロンドープ合成ダイヤモンド材料は、単結晶ボロンドープ合成ダイヤモンド材料である、請求項1〜9のうちいずれか一に記載のボロンドープ合成ダイヤモンド材料。
前記単結晶ボロンドープ合成ダイヤモンド材料は、請求項7〜10のうちいずれか一に記載のボロン含有量を有するキャッピング層及び前記キャッピング層よりも低いボロン含有量を有する支持層を構成している、請求項10記載のボロンドープ合成ダイヤモンド材料。
前記ボロンドープ合成ダイヤモンド材料は、多結晶ボロンドープ合成ダイヤモンド材料である、請求項1〜9のうちいずれか一に記載のボロンドープ合成ダイヤモンド材料。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ボルタンメトリ及び電流測定検出では、電位を検出電極(基準電極に対して)に印加して電気化学的反応が検出電極の表面のところで起こるようにし、そして電気化学的反応の結果として生じる電流を測定する。代表的には、結果がボルタンモグラムとして提供される。例えば、典型的な周期的なボルタンモグラムが
図1に示されており、この周期的ボルタンモグラムは、検出電極を電位範囲にわたって走査しているときの電流(I)と電位(V)との関係を示すプロットを有する。周期的ボルタンモグラムは、分析されている溶液内の(酸化還元)活性種の還元反応及び関連の酸化反応に対応した電位E
pcのところの還元ピークi
pc及び電位E
paのところでの酸化ピークi
paを含む。
【0012】
可逆反応は、溶液中の電極とレドックス種との間の電子移動キネティックスが非常に速いので(系の質量輸送特性と比較して)電極表面のところの種の濃度は、平衡状態に維持され、そしてネルンストの式により互いに関連付けられるような可逆反応である。このプロセスは、質量輸送律速と呼ばれ、通常、これは、拡散、即ち拡散律速を考慮する必要があるに過ぎない。支持電解質が移動を抑制するために添加され、溶液を静止条件下に保つことができ、即ち、対流を考慮する必要はない。
【0013】
陽極ピーク電流と陰極ピーク電流の電位相互間の間隔、即ち、ピークピーク電位ΔE
pは、系の可逆性に関する診断として用いられる場合が多い。旧式の金属マクロディスク電極に関し、静止だけの条件下において、質量輸送(拡散)は、可逆的応答をもたらす電気化学的な高速外圏型電子移動プロセスの速度を制限することになる。外圏型電子移動は、関心のあるレドックス分析物が電子を移動させるために基板の表面と相互作用する必要がない場合である。金属電極のところの可逆的種の場合、この間隔は、2.3RT/nF(25℃の場合59/n)に近く、ここで、Rは、モル気体定数、Tは、温度、nは、電子の見かけの移動数、Fは、ファラデー定数である。したがって、理想電極材料は、かくして、25℃の単一の電子プロセスに関し、約59mVのΔE
pを有する電極材料であろう。
【0014】
上述の説明は、典型的には100μmを超える全ての作用面長さ寸法を有するマクロ電極に関している。上述したように、かかる電極を用いて得られる典型的な周期的なボルタンモグラムは、酸化及び還元ピークを含み、マクロ電極に関する可逆性の条件は、ピークピーク間隔ΔE
pを測定することによって得られる。これとは対照的に、マイクロ電極は、100μm以下のその作用面を横切る少なくとも1つの長さ寸法を有する電極である。マイクロ電極は、典型的には、マクロ電極の場合よりも極めて高い拡散速度を有し、酸化及び還元ピークが観察されない。その代わり、電流は、適当な電位で定常応答を達成する。この場合、可逆性に関する条件は、電流がゼロ電流から最大定常電流に移行するときの電流‐電圧曲線の勾配を分析することによって得られる。具体的に説明すると、電流(I
1/4)がその定常値(I
st)の1/4である場合に電圧(E
1/4)を測定することができ、電流(I
3/4)がその定常値の3/4である場合に電圧(E
3/4)を測定することができる。四分位電位ΔE
3/4-1/4は、E
1/4をE
3/4から減算することによって得られる(即ち、ΔE
3/4-1/4=|E
3/4−E
1/4|)。マイクロ電極に関する典型的なボルタンモグラムトレースは、
図2に示されており、
図2は、ΔE
3/4-1/4をどのようにして得るかを示している。マクロ電極に関するΔE
pの場合と同様、マイクロ電極に関し、ΔE
3/4-1/4が一電子移動プロセスに関し59mVに近づく場合、反応は、可逆的であるとみなされる。以下の説明は、主として、マクロ電極及びピークピーク間隔ΔE
pに関する。しかしながら、理解されるべきこととして、同じ説明は、マイクロ電極及び四分位電位ΔE
3/4-1/4にも同じように当てはまる。
【0015】
図3は、(a)小さなΔE
pを有する相対的に狭く且つ明確に規定された酸化及び還元ピークを有する周期的ボルタンモグラムと(b)大きなΔE
pを有する相対的に広い酸化及び還元ピークを有する周期的ボルタンモグラムとの間で周期的ボルタンモグラムがどのように変化するかを示している。速い電子移動外圏型レドックス(酸化還元)対の場合、結果的に大きなΔE
pを有する比較的広い酸化及び還元ピークが生じるようになる電極材料が選択される状況においては、溶液中の或る範囲の互いに異なる分析物を検出するためのこの材料の感度及び選択性が悪影響を受ける。
【0016】
上述のことに加えて、感度を高めるためには、電極材料が信号対雑音比を高めるための平坦なベースライン応答を提供し、かくして分析物を検出するための感度を提供することが望ましい。広くて平坦なベースラインの提供に望ましい特徴としては、広い溶剤窓、平坦な電気化学的応答及び低いキャパシタンスが挙げられる。
【0017】
溶剤窓は、溶剤、代表的には水又は支持電解質が酸化され又は還元されて大きな電流が流れるようにする電位限度によって定められる。したがって、溶剤窓は、電気化学的検出を実施することができる有用な電位範囲を定める。互いに異なる電極材料は、互いに異なる溶剤窓を有し、かくして、溶剤窓内で電気化学的に検出可能な種の数を最大にするためには広い溶剤窓を有する材料を選択することが望ましい。
図4は、(a)広い溶剤窓を有する電極材料と(b)狭い溶剤窓を有する電極材料との間で周期的ボルタンモグラムが支持電解質を含む脱イオン水についてどのように変化するかを示している。
【0018】
溶剤窓内において、電極材料が動作レンジ内の信号(ファラデー)対雑音(非ファラデー)比を高めるために平坦な応答を示すことも又望ましい。例えば電極材料それ自体の酸化/還元及び二重層充電、即ちキャパシタンスのような要因は、全て、非ファラデー電流に影響を及ぼす。例えば、これは、金属を容易に酸化させることができ、次に金属酸化物表面を還元することができるので金属電極に関して大きな問題となり得る。これは、ボロンドープダイヤモンド材料に関して問題の程度は小さい。しかしながら、ボロンドープダイヤモンド材料の表面層中の任意のsp
2炭素を酸化させて還元させることができ、かくして、これは問題である場合がある。
【0019】
測定キャパシタンスは、次式によって与えられる幾つかの寄与要因の関数である。
上式において、C
measuredは、実験的に測定されたキャパシタンス値、C
Hは、ヘルムホルツ二重層のキャパシタンス(20μFcm
-2)、C
scは、ボロンドープ合成ダイヤモンド電極の空間電荷キャパシタンス、C
diffは、拡散二重層のキャパシタンスである(この場合、0.1M電解質では、C
diff>>C
Hである)。
【0020】
図5は、(a)低いキャパシタンスを示す電極材料と(b)高いキャパシタンスを示す電極材料との間で周期的ボルタンモグラムのベースライン応答がどのように変化するかを示している。これら両方は、無視できる表面酸化/還元プロセスを示しているとみなされる。図示のように、キャパシタンスを増大させると、酸化と還元の両方に関するベースラインが増大し、かくして、関心のある分析物を検出する感度が低下する。したがって、キャパシタンスが低い電極が望ましい。さらに又、電極の組成のばらつきの結果として、電極の溶剤窓を横切る電極の電気化学的応答のばらつきが生じる場合があり、これ又望ましくない。
【0021】
ボロンドープダイヤモンド材料に関し、低ボロンドーパント含有量は、所望に応じて広い溶剤窓、平坦な電気化学的応答及び低いキャパシタンスを提供するのを助けることができる。しかしながら、かかる材料は、金属のような特性を示すわけではなく、その結果、正電位窓と負電位窓の両方において単純な速い電子移動外圏型レドックス対について非可逆的電気化学的特性が生じ、かくして、かかる材料は、電気化学的検出用途には望ましくない。ボロンドーパント含有量を著しく増大させると、溶剤窓が縮小すると共にキャパシタンスが増大し、これは、上述の理由で望ましくない。したがって、単純な高速電子移動外圏型レドックス対と広い溶剤窓、平坦な電気化学的応答及び低いキャパシタンスという所望の特性との関係について可逆的電気化学的特性の要件のバランスを取る最適範囲のボロン濃度が存在することが判明した。
【0022】
上述したことに加えて、ボロンドープダイヤモンド材料中のsp
2炭素含有量が望ましくないことが判明した。というのは、これ又、溶剤窓を縮小させ、キャパシタンスを増大させ、そして電極材料の電気化学的応答の非一様性を増大させる傾向があるからである。ボロンドーパント含有量が高すぎる場合、非ダイヤモンド炭素、例えば、sp
2炭素の存在を制御することが困難であり、種検出のための広くて平坦なベースラインを提供する観点において電極材料の性能に対して追加的な悪影響を及ぼす。
【0023】
本発明者は、最適化されたボロン濃度を有し、しかも実質的にsp
2炭素を含まない(ラマン分光法により検出可能な程度の)多結晶CVD合成ダイヤモンド材料及び単結晶CVDダイヤモンド材料を開発した。したがって、次の特徴、即ち、
溶剤窓(SCE基準電極に対してpH6において0.1MのKNO
3の条件下で測定して)が次の基準、即ち、(i)少なくとも、4.1V、4.2V、4.3V、4.5V、4.6V又は4.7Vの電位範囲にわたって延び、この場合、ボロンドープ合成ダイヤモンド材料のところで測定された陽極及び陰極電流密度が38mA・cm
-2に達したときに溶剤窓に関する電位範囲の端点が定められるという基準、(ii)少なくとも、3.3V、3.4V、3.5V又は3.6Vの電位範囲にわたって延び、この場合、ボロンドープ合成ダイヤモンド材料のところで測定された陽極及び陰極電流密度が0.4mA・cm
-2に達したときに溶剤窓に関する電位範囲の端点が定められるという基準のうちの一方又は両方を満たすという特性、
正の電位窓と負の電位窓の両方において高速な電子移動一電子外圏型レドックス対について70mV以下、68mV以下、66mV以下、64mV以下、62mV以下、60mV以下又は59mV以下のΔE
p(マクロ電極)又はΔE
3/4-1/4(マイクロ電極)という特性、及び
10μFcm
-2未満、8μFcm
-2未満、6μFcm
-2未満、5μFcm
-2未満、4μFcm
-2未満、3μFcm
-2未満、2μFcm
-2未満又は1μFcm
-2未満の測定キャパシタンスという特性を有するボロンドープ合成ダイヤモンド材料を提供することが可能であることが判明した。
【0024】
ボロンドープ合成ダイヤモンド材料がこれら望ましいパラメータ(例えば、広い溶剤窓及び低いキャパシタンス、しかしながら大きなΔE
pを備え、或いは、変形例として、低いΔE
pを備えるが、狭い溶剤窓及び高いキャパシタンス)のうちの1つ又は2つを満たすことができるということが既に実証されているが、3つ全ての要件が最適化された選択性及び感度を有する状態で電気化学的検出を達成する上で望ましいことが認識されると共に本発明の材料が3つ全ての所望の特徴を組み合わせた状態でまず最初に達成することができるということが考えられる。
【0025】
また、上述の電気化学的パラメータの値がこれらパラメータを測定する仕方に応じてばらつきのあることに注目することが重要である。上述の値は、以下に定めるような特定の測定技術を用いて得られた値に対応している。
【0026】
溶剤窓は、溶剤(脱イオン水)及び0.1Mの支持電解質(KNO
3)だけを含む溶液中で基準電極に対してボロンドープ合成ダイヤモンド電極の電位をスイープすることによって測定される。一オプションによれば、ボロンドープ合成ダイヤモンド電極材料のところで測定された陽極及び陰極電流密度が38mA・cm
-2に達したときに溶剤窓に関する上述の電位範囲の端点が定められる。例えば、実施形態は、このように測定された少なくとも、−2.0V〜+2.1V、−2.1V〜+2.2V、−2.1V〜+2.3V、−2.2V〜+2.3V、−2.2V〜+2.4V又は−2.3V〜+2.4Vの電位範囲にわたって延びる溶剤窓を有するのが良い。追加的な又は別のオプションによれば、ボロンドープ合成ダイヤモンド電極材料のところで測定された陽極及び陰極電流密度が0.4mA・cm
-2に達したときに溶剤窓に関する上述の電位範囲の端点が定められる。この場合、溶剤窓は、僅かに幅が狭くなるよう定められる。好ましくは、本発明のボロンドープ合成ダイヤモンド材料は、両方の溶剤窓の定義を満たしている。ただし、或る特定の用途に関し、溶剤窓を定義のうちの一方を満たすだけですむ場合がある。例えば、溶剤窓のより中央の領域に位置する電気化学的プロセスの場合、重要な基準は、中央領域にわたる窓の平坦さであり、他方、溶剤窓の周辺領域に位置する電気化学的プロセスの場合、重要な基準は、溶剤窓の周辺広がりである。
【0027】
ΔE
p(マクロ電極)又はΔE
3/4-1/4(マイクロ電極)は、脱イオン水、0.1MのKNO
3支持電解質及び1mMのFcTMA
+又はRu(NH
3)
363+だけを含むpH6の溶液中の飽和カロメル基準電極に対してボロンドープ合成ダイヤモンド材料の電位を100mVs
-1の速度でスイープすることによってによって測定される。
【0028】
キャパシタンスは、溶剤(脱イオン水)及び0.1MのKNO
3支持電解質だけを含むpH6の溶液中で飽和カロメル基準電極に対して70mV〜−70mVのボロンドープ合成ダイヤモンド材料の電位をスイープすることによって測定される。ボロンドープ合成ダイヤモンド材料のところの結果的に得られた電流を測定する。負の電位に向かってスイープしたときの0Vでの電流値を正の電位に向かってスイープしたときの0Vでの電流値から減算し、減算結果の電流値を2で除算する。次に、除算結果をボロンドープ合成ダイヤモンド材料の面積(cm
2)及び電位のスイープ速度(Vs
-1で除算してFcm
-2で表されるキャパシタンスの値を出す。
【0029】
注目されるべきこととして、本発明のボロンドープ合成ダイヤモンド材料は、上述したように水溶液中で特徴付けられるが、これらボロンドープ合成ダイヤモンド材料は、別の種類の溶液(例えば、有機溶剤を含む)中で使用できることが想定される。したがって、材料の特徴付けは、或る範囲の用途における材料の使用に限定するものではないことが理解されよう。
【0030】
ボロンドープ合成ダイヤモンド材料は、これらの機能的電気化学的特性の面で上記において定義されている。というのは、これは、ボロンドープ合成ダイヤモンド材料を特徴付ける最も好都合で明確なしかも簡潔な仕方だからである。実際には、本発明者は、これら機能的電気化学的特性を実現する多くの互いに異なる形式のボロンドープ合成ダイヤモンド材料を製作した。これら材料は、次の3つの主要な形式にカテゴリー化できる。
【0031】
単結晶合成ダイヤモンド材料の大部分全体を通じて上述の機能的電気化学的性質を達成するよう適当なボロンドーパント含有量及び結晶学的品質を備えたバルクボロンドープ単結晶合成ダイヤモンド材料、
上述の機能的電気化学的特性を達成する適当なボロンドーパント含有量及び結晶学的品質を備えたキャッピング層及び低いボロン含有量を有する支持層を有するキャッピングされたボロンドープ単結晶合成ダイヤモンド材料、及び
上述の機能的電気化学的特性を達成するために多数のボロンドープ合成ダイヤモンド結晶粒を含むボロンドープ多結晶合成ダイヤモンド材料であって、材料の露出面のところの結晶粒の十分な部分が相純度を維持しながら(即ち、実質的にゼロのsp
2炭素含有量)適当なボロンドーパント含有量を有する。
【0032】
これら材料形式の各々には以下に概要を示すようにそれ自体の利点と欠点がある。
【0033】
機能的観点から見て最適な材料は、バルクボロンドープ単結晶合成ダイヤモンド材料であると考えられる。というのは、これらは、少なくとも原理的には、最も一様な材料特性をもたらし、かくして最も一様な機能的電気化学的特性をもたらすことができるからである。しかしながら、かかる材料は、本来的に高価であり、製造するのが困難でありしかも妥当な成長速度で所望の機能的電気化学的特性を実現するよう正確な組成上の要件で単結晶合成ダイヤモンド材料の厚手の自立型プレートを成長させるのは本来的に困難である。例えば、必要な高いボロン濃度は、成長速度の減少、かくしてコストの増大を招く。さらに、成長パラメータは、非常に高いボロンドーピング濃度でかかる材料の厚手の層が成長する場合に実質的に結晶学的欠陥の形成を阻止するよう注意深く制御されなければならない。とはいうものの、本発明者は、かかる材料の合成を達成し、かくしてかかる材料の用途における制限要因は、コストがかかる可能性が多分にある。
【0034】
キャップドボロンドープ単結晶合成ダイヤモンド材料は、製作するのが容易且つ安価である。というのは、低いボロン濃度で作ることができる厚手の支持層上に上述の機能的電気化学的特性を達成するよう成長させるのに高度にボロンをドープした材料の比較的薄い層を必要とするに過ぎず、低いボロン濃度は、キャッピング層への電気的接続を達成するのに十分であるが、それ自体、上述の機能的電気化学的特性をもたらさないからである。かかるキャッピングされた材料に関する一問題は、キャッピング層が使用の際に支持層から離層する場合があり、それによりバルクボロンドープ単結晶合成ダイヤモンド材料よりもこの材料のロバストの度合いを低くすることにある。さらに、低いボロン含有量及びかくして高い電気抵抗率を有する支持層の使用により、使用の際のデバイスの電力消費量が増大することになる。
【0035】
ボロンドープ多結晶合成ダイヤモンド材料は、特に大面積電極が必要とされる場合又は単一の成長操作において多数の小型電極を製造するよう大面積ウェーハが作製されて処理される場合、製作するのが最も容易且つ安価である。しかしながら、ボロン含有量は、ボロンドープ多結晶合成ダイヤモンド材料中の個々の結晶粒相互間でばらつきがあり、それにより、本来的に、それほど一様でない材料が作られ、しかもその機能的電気化学的特性もそれほど一様ではない。とはいうものの、材料の露出面のところの結晶粒の少なくとも一部分が適当な組成を有する場合、sp
2炭素含有量を減少させ又はゼロにした場合には上述の機能的電気化学的特性を達成することができるということが判明した。したがって、適切な最適化によって、この材料は、電気化学的性能の観点から見て多くの電気化学的検出用途に適当であるのに十分良好に作られた。
【0036】
上述のことに加えて、電気化学的用途に有利であると考えられる別の形式のボロンドープダイヤモンド材料は、ボロンドープ材料と非ボロンドープ材料の交互の層が設けられたボロンドープダイヤモンド材料である。これら層状構造体は、ボロンを成長プロセス中に定期的に導入して層状構造体を構成することによって作製できる。かかる材料を垂直方向にスライスすると、バンドセンサ構造体を形成するようボロンドープ材料と非ボロンドープ材料の交互のバンドを有する表面を露出させることができる。かかる構造体は、多結晶又は単結晶合成ダイヤモンド材料中に作製できる。
上述の形式の材料のうちどれが設けられても、ボロンドープ合成ダイヤモンド材料を作製するのが有利であることが判明しており、この場合、露出面層の少なくとも一部分が1×10
20個のボロン原子cm
-3から7×10
21個のボロン原子cm
-3までの範囲のボロン含有量を有するボロンドープ合成ダイヤモンド材料から成る。好ましくは、露出面層の少なくとも50%、70%、90%又は95%が、1×10
20個のボロン原子cm
-3から7×10
21個のボロン原子cm
-3までの範囲のボロン含有量を有するボロンドープ合成ダイヤモンド材料から成る。
【0037】
ボロンドープ合成ダイヤモンド材料をボロン含有量が1×10
22個のボロン原子cm
-3を超えるボロン含有量を備えた状態で作製できるということが判明した。しかしながら、かかる材料は、低いΔE
pを提供することができるが、この材料は、比較的高いキャパシタンス(例えば、10μFcm
-2を超える)を備える。さらに、ボロン含有量を増大させると、sp
2炭素含有量及び結晶学的欠陥は、増大する傾向があり、これによっても、溶剤窓の縮小に加えて材料のキャパシタンスが好ましくないことに増大する。したがって、本発明者は、これら要因の全てを考慮に入れてボロン濃度に適した上限が7×10
21個ボロン原子cm
-3であることを見出した。
【0038】
これとは逆に、ボロン含有量を1×10
20個ボロン原子cm
-3を下回るよう減少させた場合、この材料は、広い溶剤窓(ボロン含有量が十分に低くて材料がp型半導体挙動を示す場合最高8Vまで)及び平坦な電気化学的応答を備えた低いキャパシタンスを有することが分かる。しかしながら、かかる材料は、大きなΔE
p(70mVを超え、それどころか最高数百mVに及ぶ)を備える。したがって、1×10
20個ボロン原子cm
-3から7×10
21個ボロン原子cm
-3までの範囲内に収まるボロン含有量を選択することが有利であることが判明した。例えば、露出面層の少なくとも一部分は、少なくとも2×10
20個ボロン原子cm
-3、3×10
20個ボロン原子cm
-3、5×10
20個ボロン原子cm
-3、7×10
20個ボロン原子cm
-3、9×10
20個ボロン原子cm
-3、1×10
21個ボロン原子cm
-3又は3×10
21個ボロン原子cm
-3のボロン含有量を有するボロンドープ合成ダイヤモンド材料から成るのが良い。さらに、露出面層の上述の部分は、6×10
21個ボロン原子cm
-3以下、5×10
21個ボロン原子cm
-3以下、4×10
21個ボロン原子cm
-3以下、3×10
21個ボロン原子cm
-3以下、2×10
21個ボロン原子cm
-3以下又は1×10
21個ボロン原子cm
-3以下のボロン含有量を有するボロンドープ合成ダイヤモンド材料から成っていても良い。例示の範囲としては、2×10
20個ボロン原子cm
-3から5×10
21個ボロン原子cm
-3までの範囲、4×10
20個ボロン原子cm
-3から3×10
21個ボロン原子cm
-3までの範囲又は8×10
20個ボロン原子cm
-3から1×10
21個ボロン原子cm
-3までの範囲が挙げられる。或る特定の実施形態に関し、1×10
20個ボロン原子cm
-3から1×10
21個ボロン原子cm
-3までの範囲、1×10
20個ボロン原子cm
-3から7×10
20個ボロン原子cm
-3までの範囲又は1.5×10
20個ボロン原子cm
-3から5×10
20個ボロン原子cm
-3までの範囲が好ましいと言える。
【0039】
ボロン含有量は、二次イオン質量分析法(SIMS)によって測定可能である。SIMSを用いて得られたボロン濃度値は、SIMS測定をどのように行って較正するかに応じてばらつきのある場合がある。上述の値は、以下に概要を示すように較正型SIMS測定技術を用いて得られた値に対応している。
【0040】
ボロン信号の割合が1×10
14個原子cm
-3から7×10
21個原子cm
-3までの濃度範囲にわたってダイヤモンド中の炭素信号の線形関数であるということを仮定することによりSIMSを較正する。較正規格は、1μmの深さのところにおけるピークボロン濃度が1×10
19個原子cm
-3の場合の単結晶ダイヤモンドサンプル中へのボロンのイオン打ち込みによって調製された。この研究における全てのサンプルは、単一の規格に照らして較正された。
【0041】
上述したことの代替手段として、適切に較正されたラマン分光法技術からボロン濃度を測定することが可能である。ラマン分光法技術が較正されない場合であっても、材料のボロン含有量に関する定性的情報を識別することができる。例えば、約1332cm
-1のところのラマンピークの領域及びこのピークの非対称性を評価することによってボロン濃度を定性的に調べることができる。ファノ共鳴により、このピークに非対称性が生じ、ボロン濃度が1×10
20個ボロン原子cm
-3を超えることが分かる。ボロン‐ボロン相互作用からのピークも又、550cm
-1から400cm
-1までの高いボロン濃度について見られる。このピークは、低い波数にシフトし、そしてボロン濃度の増大につれて強くなる。マイクロラマン分光法を用いると、多結晶合成ダイヤモンド材料中の個々の結晶粒についてボロン濃度をこのようにマップすることができる。
【0042】
上述したように、本発明の一実施形態は、バルクボロンドープされた単結晶合成ダイヤモンド材料を含み、その結果、単結晶合成ダイヤモンド材料の全て又は実質的に全てが上述の電気化学的特性を達成するのに適したレベルまでドープされるようになる。例えば、単結晶合成ダイヤモンド材料は、単結晶合成ダイヤモンド材料の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%又は95%の大部分を通じて上述したようなボロンドーパント濃度を有するのが良い。しかしながら、注目されるように、電気化学的用途における材料の機能的性能は、露出作用面のところのボロンの濃度で決まり、従って、単結晶合成ダイヤモンド材料は、好ましくは、少なくとも、材料の露出作用面の少なくとも大部分にわたり(例えば、露出作用面の少なくとも、50%、60%、70%、80%、90%又は95%にわたり)上述したようなボロンドーパント濃度を有するべきである。
【0043】
変形例として、単結晶ボロンドープ合成ダイヤモンド材料は、上述したボロン含有量を有する1つ又は2つ以上の層を有するのが良い。例えば、この材料は、バンド電極構造体を形成するボロンドープ材料と非ボロンドープ材料の交互の層を有するのが良い。変形例として、この材料は、高度にドープされたキャッピング層及びキャッピング層よりも低いボロン含有量を有する支持層を有しても良い。この場合、支持層は、少なくとも5×10
18個ボロン原子cm
-3、1×10
19個ボロン原子cm
-3、5×10
19個ボロン原子cm
-3、1×10
20個ボロン原子cm
-3又は3×10
20個ボロン原子cm
-3のボロン含有量を有するのが良い。ボロンドーパントのかかるレベルは、キャッピング層を電気的にアドレスするのに十分な電気コンダクタンスを提供することができる。キャッピング層は、1nmから100μmまで、5nmから50μmまで、10nmから20μmまでの範囲を有するのが良い。かかる薄いキャッピング層は、厚い層と比較したときに非常に高いボロン濃度で作製するのが容易である。さらに、薄いキャッピング層は、厚い材料層と比較したときにより一様なボロンドーパント分布状態を有する状態で作製できる。オプションとして、支持層をまず最初に成長させ、次にその成長面を処理してこの上にキャッピング層を成長させる前に成長面の粗さを減少させるのが良い。
【0044】
さらに変形例として、ボロンドープ合成ダイヤモンド材料を多結晶ボロンドープ合成ダイヤモンド材料で提供することができる。かかる材料は、一般に、ボロンドーパントの様々な濃度を含むダイヤモンド材料の結晶粒を有する。或る特定の多結晶ボロンドープ合成ダイヤモンド材料によれば、電極材料の露出作用面のところの結晶粒の一部分だけが規定された範囲内のボロン含有量を有するのが良い。例えば、露出面層中の結晶粒の少なくとも1%、5%、10%、20%、30%、50%、70%、90%、95%又は実質的に全てが上述したボロン含有量を有するのが良い。
【0045】
多結晶合成ダイヤモンド材料中のボロン取り込みは、結晶粒が成長中、互いに異なる結晶方位に向けられる場合があるので結晶粒相互間でばらつきがあり、互いに異なる結晶方位は、異なるボロン取り込み量を有する。多結晶合成ダイヤモンド材料の結晶粒中のボロン取り込み量の差に起因して、非常に高いボロン含有量を有する結晶粒の割合を増大させると、結晶粒の大部分が高すぎるボロン含有量を有する場合があり、それにより材料のキャパシタンスの増大が生じる場合のあることが判明した。さらに、ボロン含有量を高すぎる状態にした場合、sp
2炭素の相当な割合は、成長中に材料中に形成される場合がある。したがって、或る特定の多結晶合成ダイヤモンド材料は、最適化された電気化学的性能を得るよう所望のボロン含有量を有する結晶粒の一部分だけを有するのが良い。例えば、露出面層中の結晶粒の70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下又は5%以下が上述したような1×10
20個ボロン原子cm
-3から7×10
21個ボロン原子cm
-3までの範囲内のボロン含有量を有するのが良い。残りの結晶粒は、これよりも低いボロン含有量を有するのが良い。しかしながら、露出面層中の結晶粒の少なくとも60%、70%、80%又は90%が1×10
19個ボロン原子cm
-3以下、好ましくは1×10
20個ボロン原子cm
-3以下のボロン含有量を有するのが有利である。かくして、結晶粒の大部分は、1×10
19個ボロン原子cm
-3を超えるボロン含有量を有するのが良く、結晶粒の割合は、1×10
20個ボロン原子cm
-3を超えるボロン含有量を有する。例えば、材料の露出面層中の結晶粒の例えば、5%〜50%、10%〜45%、15%〜40%、20%〜40%又は25%〜35%が1×10
20個ボロン原子cm
-3から7×10
21個ボロン原子cm
-3の範囲のボロン含有量を有する。さらに、露出面層中の結晶粒の50%〜95%、55%〜90%、60%〜85%、60%〜80%又は65%〜75%は、1×10
19個ボロン原子cm
-3から1×10
20個ボロン原子cm
-3までの範囲のボロン含有量を有するのが良い。
【0046】
上述の内容に従って、或る特定の多結晶合成ダイヤモンド材料は、金属のような導電性を示す材料の作用面のところにある割合の結晶粒を有するに過ぎず、成長を制御してこの材料の作用面のところの全ての結晶粒が成長中、この材料中への相当な割合のsp
2炭素を導入することなく、金属のような導電性を示すことは困難である。残りの結晶粒は、ホッピング伝導を示すことができるが、半導体の伝導範囲内では低いとも言える。当然のことながら、多結晶ダイヤモンド材料の結晶粒中のボロン取り込みを例えばこの材料の成長によって一様にすることができ、その結果、結晶粒は、選択された結晶方位において成長する傾向があり、この場合、これ又成長中、材料中にsp
2炭素の相当な部分を導入することなく、1×10
20個ボロン原子cm
-3から7×10
21個ボロン原子cm
-3までの所望の範囲のボロン含有量を有する作用面のところに上述の割合の結晶粒を増大させることが可能である。
【0047】
事実、本発明者は、ボロンドープ多結晶ダイヤモンド材料の成長プロセスを最適化して、この場合も又sp
2炭素の相当な部分を成長中、材料中に導入することなく、金属のような伝導率範囲内で全て又は実質的に全ての結晶粒を有する作用面を達成した。これは、成長パラメータの組み合わせを成長パラメータ空間の狭い範囲内に注意深く制御することによって達成され、この成長パラメータ空間の狭い範囲は、基板温度を1050℃から1120℃までの範囲に制御し、比較的低い濃度の炭素含有ガス(例えば、全ガス流量のうちの1%から3%までの範囲内)を有する合成雰囲気を用い、高い電力密度(例えば、50mm直径の基板に対して5〜6kW)を比較的高い反応器圧力(例えば、200トルから300トルまで(即ち、26.66kPaから40.00kPaまで)の範囲内)と組み合わせて用い、構成上、高いガス流量及び高い全ガス流量を用いるプロセスを含むかかる材料の合成に適していることが判明した。例えば、かかる成長条件を用いると、3×10
20個ボロン原子cm
-3の平均ボロン濃度を有する作用面を備えた多結晶ボロンドープダイヤモンド材料を合成することが可能であり、かかる作用面は、1.9×10
20個ボロン原子cm
-3のボロン濃度を有するボロン含有量の低い結晶粒及び4.7×10
20個ボロン原子cm
-3のボロン濃度を有するボロン含有量の高い結晶粒を含む。すなわち、作用面のところの全て又は実質的に全ての結晶粒は、金属のような伝導率に関して所望の範囲内のボロン濃度を有する。
【0048】
ボロンドーパントの取り込みが一様である単結晶実施形態の場合、材料の作用面の大部分又は全ては、金属のような伝導率を示すことができる。いずれの場合においても、ボロン含有量を7×10
21個ボロン原子cm
-3を超えて増加させることによって材料を「金属過ぎる」状態にすべきではない。というのは、これにより、上述したように電気化学的検出用途に関して材料のキャパシタンスが増大すると共にその感度が減少するからである。
【0049】
理論に束縛されるものではないが、以下の記載内容は、ボロンドープダイヤモンド材料の導電率及び電気化学的機能がボロン濃度につれてどのように変化するかそしてなぜ変化するかについての理論的説明を提供する。
【0050】
軽くボロンをドープしたダイヤモンド材料(ボロン濃度が約10
18cm
-3未満)では、導電率を隔離されたアクセプタが価電子帯から熱的に活性化された電子を捕捉し、導電率に寄与する正孔が後に残されるという表現で説明できる。
ダイヤモンド(及び他の半導体)内の有効質量のようなアクセプタについて予想される結合エネルギーに関する単純な推定値を次の方程式から計算することができ、即ち、
上式において、R
y=13.6eV(リュードベリエネルギー)、m
H=正孔有効質量、ε
r≒5.7(比誘電率)である。m
H=0.7m
0(電子の静止質量)であると仮定すると、E
a=0.3eVであり、これは、思いがけないこととして、実際の実験によるボロン結合エネルギーに近い。束縛された正孔基底状態波動関数は、3つの格子係数よりもほんの小さいレベルにわたって延びるので、有効質量理論は、極めて信頼性が低く且つ不正確であるはずである。
【0051】
アクセプタ基底状態のボーア半径(nm)は、次の通りである。
【数1】
ε
r=5.7且つm
H=0.7m
0であるとすると、a
0=0.43nmである。
【0052】
ボロンアクセプタの濃度を増大させると、それにより、捕捉された電子を有するアクセプタと中立であるアクセプタとの間のホッピング伝導が全体的電気伝導に寄与することが可能になる。高い濃度であっても、アクセプタ波動関数は、互いにオーバーラップし始めることになる。これにより、非局在化及び不純物帯の生成が生じ、この不純物帯中のフェルミレベルにより、ゼロ温度であっても金属伝導率が得られる。モット(Mott)は、この単純化された一電子描写が失敗することを提案した。確かに、強いオンサイト相関に鑑みて、スピン縮退ハーフフィルド不純物帯は、エンプティ帯とフル帯に分かれる。別のドーピングの際、これら2つの帯は、互いにオーバーラップし始め、金属‐絶縁体移行が起こる。
【0053】
金属‐絶縁体移行(モット移行)が次式のドーパント濃度について見込まれる。
上式において、n
bは、材料のボロンドーパント密度である。a
0=0.43nmの場合、n
b>6×10
20cm
-3であると推定される。基準が満たされた場合、材料は、導電性(金属)になり、その他の場合、これは、絶縁体になる(キッテル・チャールズ(Kittel, Charles),「イントロダクション・トゥ・ソリッド・ステート・フィジックス第8版(Introduction to Solid State Physics(8th ed.)」,ジョン・ワイリー・アンド・サンズ(John Wiley & Sons),2005年,p.407〜409)。
【0054】
モット変換に関するn
b>6×10
20cm
-3の値は、身長に扱われるべきであり、但し、全体的単純化がその計算においてなされることを条件とし、そして、単純な計算において、m
H=m
0であることが仮定された場合に高い値(n
b>6×10
20cm
-3)となることが注目される。n
b>4×10
20cm
-3の値が報告された(ティー・クライン他(T. Klein et al.),「メタル・インシュレイタ・トランジション・アンド・スーパーコンダクティビティ・イン・ボロン‐ドープド・ダイヤモンド(Metal insulator transition and superconductivity in boron-doped diamond)」,フィジカル・レビュー・ビー・コンデンスド・マター・アンド・マテリアルズ・フィジックス(Physical Review B. Condensed Matter and Materials Physics),2007年,(75),165313,http://dx.doi.org/10.1103/PhysRevB.75.165313)。しかしながら、利用可能な実験及び理論データが与えられた場合、ボロンドープダイヤモンドに関する金属‐絶縁体移行がn
b>1〜5×10
20cm
-3の範囲で起こることを推定することは、妥当である。
【0055】
図6は、p型ドーピングの増大につれて状態及びバンド構造体の電子密度の進展を示している(ブレイズ他(Blase et al.),「プログレス・アーティクル(Progress Article)」,ネイチャー・マテリアルズ(Nature Materials),2009年,第8巻,p.375〜382)。ドーピングは、(a)から(e)まで増大している。陰影付きの領域は、充填状態及びμ
F(フェルミエネルギー)を表している。
【0056】
濃度n
b>1〜5×10
20cm
-3でボロンをドープしたダイヤモンドの場合、金属のような導電率が期待される。しかしながら、状態の密度は、ダイヤモンドの電気分析用途において電流を持続させるのに十分であるべきである。また、金属のような導電性を保証するのに十分高いボロンドーピングと共に、ダイヤモンドの魅力のある電気化学的特性(例えば、耐腐食性、低いバックグラウンド電流、広い電位窓等)を劣化させないようにすることが必要である。これは、例えば、ボロンドーピングの増大につれて、それと同時に非ダイヤモンド材料(例えば、sp
2炭素)の取り込み量の増加が生じる場合に起こることがある。この操作の際、7×10
21個ボロン原子cm
-3を超えるボロン濃度の場合、望ましくない材料相を抑制することがますます困難である。したがって、1×10
20個ボロン原子cm
-3から7×10
21個ボロン原子cm
-3までの範囲、例えば、2×10
20個ボロン原子cm
-3から5×10
21個ボロン原子cm
-3までの範囲、4×10
20個ボロン原子cm
-3から3×10
21個ボロン原子cm
-3までの範囲又は8×10
20個ボロン原子cm
-3から1×10
21個ボロン原子cm
-3までの範囲に収まるボロン含有量を選択することが有利であることが判明した。
【0057】
上記において示唆したように、ボロンドーパント含有量の制御に加えて、最適化された電気化学的特性を有する材料の実現を達成するためには、ボロンドープ合成ダイヤモンド材料の成長中、sp
2炭素の生成を最小限に抑えることが重要であることが判明した。ラマン分光法は、sp
2炭素含有量を測定する特に有用な技術であることが分かっている。非ダイヤモンド炭素ピークとしては、1580cm
-1‐黒鉛、1350〜1580cm
-1‐ナノ結晶黒鉛、1550〜1500cm
-1‐非晶質炭素及び黒鉛相が挙げられる。sp
2炭素が材料のラマンスペクトル中に存在することが明白な場合、この材料は、小さい溶剤窓、高いキャパシタンス及び表面酸化/還元特徴部を有することが判明した。したがって、好ましくは、sp
2炭素含有量は、この材料のラマンスペクトル中に非ダイヤモンド炭素ピークを示さないほど十分低い。ラマンスペクトル中のsp
2炭素サイン(signature)を高いキャパシタンス、非ファラデー表面プロセス及び減少した溶剤窓と相関させた。マイクロラマン分光法を514.5nmの励起波長、出力が10mWのAr
+レーザ及びCCD検出器を用いたレニショウ・インビア(Renishaw inVia)社製のラマン顕微鏡を用いて室温で実施することができる。ラマン分光法に関する倍率は、可視及び近赤外線(NIR)周波数では5倍、10倍、20倍、50倍及び100倍対物レンズの使用であり、紫外線(UV)周波数では5倍及び20倍である。50倍の倍率では、xyスポットサイズ(及びそれ故分解能)は、約5×5ミクロンであり、100倍では、xyスポットサイズは、約2×2ミクロンである。かくして、空気中における拡大対物レンズに関する代表的な値は、5倍から100倍の範囲にある。
【0058】
また、上述したボロン及びsp
2炭素の組成上の要件に加えて、最高100倍までの倍率においてDIC(ノルマスキ(Normaski))可視顕微鏡によって観察可能な結晶欠陥がほとんどなく又は全くない材料を製作することが望ましいことが判明した。例えば、ボロンドープ単結晶合成ダイヤモンド材料のサンプルは、小さなロッド状特徴部、顕微鏡画像化を用いて目に見える拡張多結晶混入を示すことが判明した。かかる欠陥の結果として、変わりやすい電気化学的挙動が生じる場合があり、かかる欠陥は、かくして、望ましくないと考えられる。したがって、成長の制御によるか電気化学的電極を形成するようかかる欠陥が実質的にない材料の領域を選択することにより材料を処理するかのいずれかによってかかる欠陥を最小限に抑えることが望ましいと考えられる。したがって、有利には、単結晶ボロンドープ合成ダイヤモンド材料の露出面は、最高100倍までの倍率で可視顕微鏡により観察可能な結晶欠陥の面積で5%以下、3%以下、1%以下、0.5%以下又は0.3%以下を占めるのが良い。
【0059】
不純物、ドーパント及び結晶学的品質の観点における材料の組成上の要件に加えて、材料の表面特性は又、電気化学的用途において機能的性能に影響を及ぼす場合がある。例えば、材料の表面が粗すぎる場合、キャパシタンスは、望ましいレベルを超えて増大する。したがって、材料の露出作用面は、有利には、キャパシタンスに悪影響を及ぼすことのない表面粗さ、例えば、20nm以下の表面粗さR
a又は最も好ましくは10nm以下の表面粗さR
aまで処理されるべきである。さらに、ボロンドープ合成ダイヤモンド材料は、±0.05mm以下の厚さのばらつきを有するよう処理されるのが良い。
【0060】
さらに又、露出作用面のところの表面及び内層面損傷を最小限に抑えることが有利である。これは、表面処理により形成され又は成長させたばかりの材料に特有の微小亀裂(マイクロクラック)及びチップの形態をしている場合がある。かかる表面及び内層面損傷特徴部は、例えば欧州特許第1292726号明細書に記載されているような露出プラズマエッチングを用いて定量化できる。したがって、好ましくは、特に単結晶実施形態のためのボロンドープダイヤモンド材料の露出作用面は、露出プラズマエッチングによって露出させて5×10
3/mm
2以下、より好ましくは10
2/mm
2以下の密度の表面欠陥特徴部を有する。露出作用面をラップ仕上げすると共にポリッシングした後、欧州特許第1292726号明細書に記載されているように露出作用面にプラズマエッチングを施して表面の表面損傷を最小限に抑えるのが良い。変形例として、成長プロセスが低い表面粗さダイヤモンド材料を製作するよう制御される場合、材料の表面中に損傷をもたらす場合のある成長後処理を必要としないで成長させたばかりのダイヤモンド材料を用いることが可能である場合がある。比較的高い粗さを備えた成長面を有する傾向のある多結晶ダイヤモンド材料に関し、処理後の表面が低レベルの表面及び内層面損傷を有するようにするために成長後ラップ仕上げ及びポリッシングを制御すべきである。
【0061】
さらに、合成ダイヤモンド材料の表面上の表面末端の形式も又、電気化学的用途において機能上の性能に影響を及ぼす場合がある。例えば、ボロン含有量が低い(例えば、ボロン含有量が1×10
19個原子cm
-3未満)の合成ダイヤモンド材料の場合、かかる材料を処理して水素末端とすることによってΔE
pを有利に減少させることができる。したがって、これは、有利であると考えられる。しかしながら、かかる水素を末端基とする表面は、印加される電気化学的電位を受けた場合に本来的に不安定であり、かくして、水素末端が失われ、その結果としてΔE
pが大幅に増大するにつれて経時的に性能が次第に劣化することになる。これとは対照的に、本明細書において説明する材料は、酸素を末端基とする表面を用いた場合であっても規定された電気化学的機能パラメータを達成することができる。さらに又、本明細書において説明する材料は、表面末端の変化に対して極めて安定している電気化学的機能パラメータを有することが判明した。これは、商業的に採算の取れる製品に極めて有利な安定したデバイス性能の実現が可能である。例えば、本明細書において説明する材料は、ボロンドープ合成ダイヤモンド材料の露出面の表面末端を酸素を末端基とする表面から水素を末端基とする表面に変更することによって5mV以下、4mV以下、3mV以下、2mV以下又は1mV以下だけ変化するΔE
pを呈することができる。この操作において、全ての電気化学的測定を酸素を末端基とする合成ダイヤモンド材料について実施した。かかる表面は、典型的には、酸洗浄(KNO
3で飽和させた濃縮12MのH
2SO
4中でダイヤモンドを30分間沸騰させる)を行い、次に、合成ダイヤモンド材料の表面をアルミナマイクロポリッシュ(0.05μm)を用いて2分間ポリッシングし、その後この材料を分析のために溶液中に配置することによって達成できる。
【0062】
上述したように、本発明のボロンドープダイヤモンド材料に関し、表面末端は、電子移動キネティックス及び電気化学的性能に対する影響はそれほどないことが判明した。しかしながら、注目されるべきこととして、これは、「外圏」型反応に関する場合である。外圏型反応は、反応物、生成物及び中間物が電極材料とは強く相互作用せず、電子移動が溶剤の少なくともモノレーヤを横切るトンネル効果によって起こる反応である。これとは対照的に、「内圏」型反応は、反応物又は生成物と電極表面との強い相互作用が存在する反応である。内圏型反応の場合、反応物、中間物又は生成物は、電極表面に特異的に吸着される場合が多い。これら内圏型反応は、ボロンドープダイヤモンド材料の表面末端によって影響を受ける。さらに、ボロンドープ合成ダイヤモンド表面上に存在する官能基は、ボロンドープダイヤモンド材料の結晶方位並びに表面末端化方法に依存することが判明している。この点に関し、{100}方位ボロンドープダイヤモンド表面は、内圏型反応の場合、他の結晶方位、例えば{110}及び{111}方位材料よりも良好な電気化学的性能を有することが判明している。したがって、本発明のボロンドープ合成ダイヤモンド材料は、好ましくは、{100}結晶面を基準としてその20°以内、10°以内、5°以内、4°以内、3°以内、2°以内又は1°以内に存在する作用面を有するのが良い。単結晶材料の場合、実質的に全ての作用面は、この結晶方位中に形成されるのが良い(少なくとも、ボロンドープ合成ダイヤモンド材料の作用面を基準としてその少なくとも50%、60%、70%、80%又は90%)。多結晶ボロンドープダイヤモンド材料の場合、{100}、{111}及び{110}表面の組み合わせを露出させることが通例である。したがって、正確な方位の単結晶ダイヤモンド材料は、或る特定の内圏型反応の場合、優れていると考えられる。かかる結晶方位は、酸素末端と組み合わせて使用されるのが良い。
【0063】
上述したことに加えて、多くの用途に関し、ボロンドープ合成ダイヤモンド材料が機械的に頑丈であり、しかも良好な熱伝導率を有することも又有利である。例えば、ボロンドープ合成ダイヤモンド材料は、以下の特徴、即ち、
760MPa以下、より好ましくは800MPa以下の核形成側破壊応力、
400MPa以下、より好ましくは450MPa以下の成長側破壊応力、
950MPa以下、より好ましくは1000MPaのヤング率、
7MPa・m
1/2以下、より好ましくは8MPa・m
1/2以下の破壊靱性、
9以下、より好ましくは10以下のワイブルモジュラス、
70Gpa以下、より好ましくは80GPa以下の硬度、及び
300Kで平面を介して測定して600W/mK以下、より好ましくは700W/mK以下の熱伝導率のうちの1つ又は2つ以上を有するのが良い。
【0064】
上述したボロンドープ合成ダイヤモンド材料特性に加えて、良好なオーム接点が検出用途のためにボロンドープ合成ダイヤモンド材料に提供されるようにすることも又重要である。この点に関し、オーム接点の接触抵抗は、ボロンドープ合成ダイヤモンド材料の抵抗率と同じオーダ又はこのような低いオーダのものであって良い。例えば、接触抵抗は、1×10
-3Ωm未満であるのが良く、ボロンドープ合成ダイヤモンド材料の抵抗率も又、1×10
-3Ωm未満であるのが良い。オーム接点は、ボロンドープ合成ダイヤモンド材料の表面部分を黒鉛化して、黒鉛化表面部分に金属結合部、例えば金を用いて結合することによって提供されるのが良い。変形例として、炭化物形成金属をボロンドープ合成ダイヤモンド材料の表面部分に被着させて結合金属を被着させることができる薄い金属炭化物層を形成しても良い。例えば、チタンを薄いチタン炭化物層を形成するよう被着させるのが良く、そして金属、例えば金を炭化チタン層上に被着させてオーム接点のための金属結合部を形成するのが良い。1つの有用なオーム接点は、チタン、白金及び金の層を含む層状構造体から成る。チタン層は、金属層を結合させることができるボロンドープ合成ダイヤモンド材料の表面部分上に炭化物層をもたらす。白金層は、上に位置する結合金属、例えば金と下に位置する炭化物層、例えば炭化チタンとの有害反応を阻止するための中間パッシベーションバリヤを提供する。
【0065】
上述の本発明を裏付けする実験操作について以下に説明する。実験操作を4つのセクションで説明する。第1のセクションは、ダイヤモンド合成に関する。第2のセクションは、多結晶ボロンドープダイヤモンド(pBDD)材料に関し、本発明のpBDD材料と本発明によるものではない数種類のpBDD材料の比較結果を含む。第3のセクションは、バルクボロンドープ単結晶ダイヤモンド材料と高度にドープされた材料のキャッピング層を含む単結晶ダイヤモンド材料の両方を含む単結晶ボロンドープダイヤモンド(scBDD)材料に関する。最後に第4のセクションは、硫化水素センサとしてのこれら材料の例示の使用を記載している。
【0066】
ボロンドープダイヤモンド材料の合成
本発明の実施形態としての材料を、マイクロ波プラズマ活性化化学気相成長(CVD)合成プロセスを用いて作製した。マイクロ波プラズマ活性化CVDダイヤモンド合成システムは、代表的には、原料ガス供給源とマイクロ波電力源の両方に結合されたプラズマ反応器容器を含む。プラズマ反応器容器は、定在マイクロ波を支える空胴共振器を形成するよう構成され、この加熱用途に用いられる代表的な周波数は、各国のRFスペクトル割り当てに応じて2.45GHz及び約900MHzを含む。この操作では、例示の条件は、2.45GHzマイクロ波源を備えたシステムについて与えられている。炭素源及び分子水素を含む原料ガスは、プラズマ反応器容器中に送り込まれ、定在マイクロ波によってかかる原料ガスを活性化させて高電界領域中にプラズマを生成するのが良い。適当な基板がプラズマに密接して設けられている場合、ラジカルを含む反応性炭素は、プラズマから基板に拡散することができ、そしてこの基板上に蒸着可能である。原子水素も又、プラズマから基板に拡散することができ、そして選択的に、非ダイヤモンド炭素を基板からエッチング除去し、その結果、ダイヤモンド成長が起こることができるようになる。ボロンの源、例えばジボランガスが合成雰囲気中に導入される場合、ボロンドープ合成ダイヤモンド材料を成長させることができる。単結晶合成ダイヤモンド材料は、代表的には、単結晶ダイヤモンド基板上のホモエピタキシャル成長を介して作製される。これとは対照的に、多結晶合成ダイヤモンドウェーハをシリコン又は耐熱金属基板上で成長させることができる。
【0067】
重要な成長パラメータとしては、プラズマチャンバ中に導入されるマイクロ波電力密度(代表的には、基板面積<20cm
2の場合、1kW以下から5kW以上までの範囲にわたる)、プラズマチャンバ内の圧力(代表的には、50トル(即ち、6.67kPa)以下から350トル(即ち、46.66kPa)以上までの範囲にわたる)、プラズマチャンバを通って流れるガス流速(代表的には、数十sccm(標準立方センチメートル毎分)から最高数百又はそれどころか数千sccmまでの範囲にわたる)、基板の温度(代表的には、700℃から1200℃までの範囲にわたる)及び合成雰囲気の組成(代表的には、1〜20体積%の炭素含有ガス(通常、メタン)を含み、合成雰囲気の残部は、水素で構成される)が挙げられる。ボロンドーピングの場合、合成雰囲気は、代表的には、0.01体積%以下から数体積%までの濃度でボロン含有ガス、例えばジボランを含む。
【0068】
解決されるべき課題は、最適化される電気化学的検出特性を備えた合成ボロンドープダイヤモンド材料を作製するためにどの成長パラメータを選択すべきかということにある。単結晶ダイヤモンド材料と多結晶ダイヤモンド材料の両方に適した成長パラメータについて以下に説明する。
【0069】
単結晶ボロンドープダイヤモンド材料
上述したように、1×10
20個ボロン原子cm
-3から7×10
21個ボロン原子cm
-3までの範囲のボロンドーパント濃度が電気化学的検出用途向きの高性能合成ダイヤモンド材料の作製を達成するのに望ましいことが判明した。しかしながら、単結晶ボロンドープダイヤモンド材料の電気化学的性能は、倍率が最高100倍までの可視顕微鏡によって観察可能な結晶欠陥特徴部の存在によって悪影響を受ける場合のあることも又判明している。単結晶CVD合成ダイヤモンド材料を高い電力及び高い圧力(5cm径キャリヤ基板領域を用いて例えば、250トル(即ち、33.33kPa)、2.45GHzの動作周波数で5.0kW)で成長させると、良好な結晶品質材料が作られるが、高い電力及び圧力では、ボロンドーパントの取り込み量が減少して所要レベルを達成することができないということが判明した。これとは逆に、電力及び圧力を減少させた場合、(例えば、100トル(即ち、13.33kPa)、2kW)、ボロン取り込み量は、所要レベルまで増大するが、材料の結晶品質が低下し、その結果、所望の電気化学的パラメータが達成されない。電力及び圧力は所要の結晶品質を達成するのに十分高く且つ所望レベルのボロンドーパント取り込みを達成するのに十分低い狭い動作窓が存在することが判明した。好ましくは、圧力は、120トルから160トルまで(即ち、16.00kPaから21.33kPaまで)、より好ましくは130トルから150トルまで(即ち、17.33kPaから20.00kPaまで)の範囲にあるよう、特に好ましくは約140トル(即ち、18.67kPa)に制御される。加うるに、好ましくは、電力は、3.1kWから3.9kWまでの範囲、より好ましくは3.3kWから3.8kWまでの範囲にあり、最も好ましくは約3.6kWに制御される。基板の温度は、750℃から850℃までの範囲にあるよう制御されるのが良い。
【0070】
上述したことに加えて、第1に、例えば、基板よりも上方に50mm〜180mmの距離のところに配置されてガスを基板のほうへ差し向けるノズルを含む同軸ガス注入システムを備えた反応器を用い、第2に、全ガス流量とチャンバガス注入ノズル直径の組み合わせによりガス流速を増大させることによってガス流量を操作することによって、ボロン導入量が増大することが判明した。基板よりも75mm上方のところに配置された直径2mmの軸方向ガス注入ノズルを用いると、全ガス流量は、少なくとも500sccm、より好ましくは少なくとも600sccmであり、最も好ましくは650sccmを超えるのが良い。例えば、500〜700sccmの水素ガス流を25〜40sccmのメタンガス流及び15〜30sccmのジボランガス流と共に利用するのが良い。アルゴンガスも又、例えば20〜30sccmの流量で合成雰囲気中に導入するのが良い。これら成長パラメータを組み合わせて提供することによってのみ、ボロン含有量に関する要件と結晶品質に関する要件の両方を満たす単結晶ダイヤモンド成長を達成することが可能であることが判明し、その結果、本明細書において説明する電気化学的性能特性を有する材料が得られる。また、結晶面に対して単結晶ダイヤモンド基板上に浅いミスカット角度を提供することが電力及び圧力が所与の場合、高い結晶品質材料をもたらすステップフロー(step-flow)成長の促進を助けることができるということも又判明した。
【0071】
多結晶ボロンドープダイヤモンド材料
単結晶ボロンドープダイヤモンドについて上述した説明と同様な説明が多結晶ボロンドープダイヤモンド材料についても当てはまる。多結晶材料を考慮して、課題は、成長中におけるsp
2炭素の導入を回避しながら高レベルのボロンドーピングをどのように達成するかということにある。これは、比較的低い濃度の炭素含有ガス(例えば、全ガス流量の1%から3%の範囲にある)、高電力密度(50mm径基板にかかる5〜6kW)を有する合成雰囲気を比較的高い反応器圧力(例えば、200トルから300トルまで(即ち、26.66kPaから40.00kPaまで)の範囲にある)と組み合わせて用い、そして単結晶成長について上述したような高いガス流形態及び前流量を用いて基板温度を1050℃から1120℃までの範囲に制御することによって達成された。
【0072】
多結晶ボロンドープダイヤモンド(pBDD)材料
数種類の高速電子移動外圏型レドックス種が様々なレベルのボロンドーパントの酸素を末端基とする合成ダイヤモンドサンプルのために電子移動特性に対するボロンドーピングを介して状態密度の作用効果を研究するために用いられた(5つの多結晶ボロンドープ合成ダイヤモンドサンプルA〜Eが本明細書において説明され、サンプルA〜Dは、比較サンプルであり、サンプルEは、本発明の実施形態である)。この作用効果は、プロービング(probing)されている系の形式的レドックス電位及び再構成キネティックスに照らして考慮される。また、マイクロラマンで観察されたボロン含有量及び非ダイヤモンド炭素含有量がボロンドープ合成ダイヤモンド電極のための電位窓及びバックグラウンド電流中にどのように反映されているかが示されている。相当な量のsp
2炭素含有量を含む合成ダイヤモンド材料が狭い電位窓、バックグラウンドレドックスプロセス及び大きなキャパシタンス値を生じさせることができるということも又示されている。
【0073】
ダイヤモンド特徴付け
電気化学的性質に対するボロン濃度及びダイヤモンド品質の影響を様々なボロン及びsp
2炭素含有量の5つのpBDDサンプルA〜Eの使用により研究した。マイクロ波化学気相成長(蒸着)により全てを成長させ、サンプルAをナーバル・リサーチ・ラボラトリー(Naval Research Laboratory)によって成長させ、サンプルB,D,Eをエレメント・シックス・リミティッド(Element Six Ltd)によって成長させ、サンプルCをアドバンスド・ダイヤモンド・テクノロジーズ・インコーポレイテッド(Advanced Diamond Technologies Inc.)によって成長させた。電気化学的性質に先立って、二次イオン質量分光法(SIMS)、抵抗測定法、電界放出走査型電子顕微鏡(FE‐SEM)及びマイクロラマンを用いて材料特性を特徴付けした。サンプルに関する平均ボロン含有量をSIMSによって求め、サンプルシーケンスA〜Eについて2×10
18個原子cm
-3以下から7×10
20個原子cm
-3までの増大が判明した(例えば、サンプルBについて2×10
18個原子cm
-3、サンプルDについて3×10
20個原子cm
-3、サンプルEについて7×10
20個原子cm
-3)。サンプルA〜Eについてそれぞれ4.07×10
4、87.9、0.1、0.085及び0.039Ω・cmの抵抗値により、抵抗値が平均ボロン濃度の増大につれて減少することが確認された。これら値は、様々なボロン濃度の単結晶BDDを研究したラグランジェ等(Lagrange et al.)によって求められた値と一致している。抵抗率測定値から、サンプルA,Bは、価電子帯を介して電気を伝え、かくして、半導体として挙動し、これに対し、サンプルCの抵抗率は、ホッピング伝導機構を示唆している。高度にドープされたサンプルD,Eは、ちょうど金属伝導領域内に位置し、多結晶サンプル内の種々の結晶粒は、ホッピング伝導か金属伝導かのいずれかを示す場合があった。
【0074】
ダイヤモンド表面の結晶粒形態学的特徴にアクセスするためにFE‐SEMを実施した。
図7の内挿図は、(a)サンプルA、(b)サンプルB、(c)サンプルC、(d)サンプルD及び(e)サンプルEのレンズ内二次電子FE‐SEM画像を示している。サンプルA,B,D,Eは、pBDDが高速回転ポリッシングホイールと接触状態にある間にpBDDを回転させると共に並進させるポリッシングプロセスに起因して低い表面粗さを示している。結果として得られる特徴部は、互いに異なる成長ファセットの個々の結晶粒であり、この場合、コントラストは、結晶粒に依存するボロン取り込み量に起因しており、即ち、ボロンは、(100)セクタよりも(111)成長セクタ中に約10倍にわたって容易に導入される。他方、サンプルCは、SiO
2ウェーハ上に成長させた2μm薄膜であり、従って、薄すぎるのでポリッシングできなかった。かくして、サンプルCに関するFE‐SEM画像は、高い表面粗さを有する蒸着結晶を示している。微結晶/結晶粒度は、サンプルの相対厚さを反映しており、サンプルCは、70nmという平均微結晶粒度を有している。ポリッシングされたサンプルのうちで、サンプルAは、最も薄くて30nm直径で最も小さな結晶粒度を有し、サンプルBは、最も厚くて結晶粒度が7〜100μmである。
【0075】
サンプルD,Eのサンプル厚さは、ほぼ800nmということで類似しているが、ランダム方位の結晶粒構造は、明らかに異なっており、CVD成長中に用いられた互いに異なるパラメータに起因していると考えられそうである。FE‐SEM画像中の暗い領域は、カソードルミネセンス、ラマン分光法及び同一領域内に記録されたC‐AFMマップによって確認されるように高いボロンドープ領域と相関した。
【0076】
マイクロラマン分光法を利用して結果として得られるスペクトル中のD(sp
3)及びG(sp
2)ピークの観察により得られたpBDDの品質を確かめると共にボロン取り込み量を調べた。過酷な酸の洗浄によってラマンマッピングに先立って全てのサンプルを同一処理した。
図7は、(a)サンプルA、(b)サンプルB、(c)サンプルC、(d)サンプルD及び(e)サンプルEについて514.5nmの波長で得た代表的なマイクロラマンスペクトルを示している。
図7(d)及び
図7(e)は、明るい結晶粒及び暗い結晶粒を個別的に調査することができた2つのスペクトルを示している(低いボロン含有量を有する軽い結晶粒に対応したスペクトルは、
図7(d)及び
図7(e)に示されている2つのスペクトルのうちの下のほうである)。約1332cm
-1のダイヤモンドゾーン中を光学フォノンピークは、全てのスペクトルにおいて、サンプルCから離れたものとして即座に明らかであり、これは、ダイヤモンド表面の性質上ナノ結晶の結果であるといえる。
【0077】
サンプルA,Bの両方のDピークは、1332cm
-1のところで起き、低い波数へのシフトは、特に暗い結晶粒中でサンプルD,Eについて観察される。Dピークの僅かに非対称の変形が
図7(d)の軽い結晶粒について見え、
図7(e)について大きな程度に見える。この特徴は、別個のゾーン中央フォノンと電子励起の連続スペクトルとのファノ型干渉のためであり、結晶粒が1×10
19個原子cm
-3から1×10
20個原子cm
-3までの範囲内のドーパント密度を有していることが示されている。暗い結晶粒のところで取られたラマンスペクトルは、大幅に減衰されて広げられたダイヤモンドピークを示しており、このことは、ファノ効果が大きいことを実証している。サンプルA,Bは、かかる減衰を示しておらず、このことにより、これらサンプルが金属的にドープされていないという上述の記載が確認される。
【0078】
約1220cm
-1及び500cm
-1のところのピークは、あらかじめ、ボロンドープダイヤモンドについて記録されており、多量にドープしたサンプル中のボロン濃度と相関していることが判明した。この場合も又、これらは、サンプルA,Bにはなく、例えば、C,D及びEについて見られる。強度の弱いピークを1220cm
-1及び600cm
-1のところでサンプルD,Eについて明るい結晶粒中に観察でき、このことは、ドーピングレベルがちょうど3×10
20個原子cm
-3未満であることを示している。しかしながら、暗い結晶粒及びサンプルCに関する460cm
-1への後者のピークのシフトは、ボロン濃度が高いことを示している。これらスペクトルは、FE‐SEMと一致しており、このことにより、暗い結晶粒が明るい結晶粒よりも高いボロン濃度を有していることが示されている。重要なこととして、pBDDサンプルD,Eの明るい領域と暗い領域の両方におけるファノ干渉の存在により、明るいドープ領域内であっても、ボロン濃度は、1×10
20個原子cm
-3以上であり、このことは、これらの領域がホッピング伝導か金属伝導かのいずれかを介して電気を伝導していると見込まれることが示されている。
【0079】
非ダイヤモンド炭素に起因する特徴部がサンプルB,C,Dについて見える。サンプルCは、不規則sp
2炭素と関連した約1530cm
-1のところに大きなピークを有している。サンプルのナノ結晶構造は、結晶粒界の数の増大に起因して高いsp
2炭素含有量を生じさせている。このピークは、サンプルDの高度ドープ結晶粒中にも観察される。高度ドープサンプルEに関する両方のスペクトルは、約1350cm
-1〜1580cm
-1のところではピークが存在していないことを示しており、このことにより、ダイヤモンド表面のところに存在する非ダイヤモンドsp
2炭素の量が無視できることが示唆されている。
【0080】
溶液及び材料
全ての溶液を25℃の抵抗率18.2MΩ・cmのMilli-Q(商標)水(ミリポア・コーポレーション(Millipore Corp.))から調製した。ボロンドープダイヤモンド電極の電気化学的特性を試験するため、カリウムヘキサクロロイリデート(IV)(アルドリッチ・ケミカル・カンパニー(Aldrich Chemical Co))、ヘキサアミンルテニウム(III)クロリド(マサチューセッツ州ニューベリーポート所在のストレム・ケミカルズ(Strem Chemicals))、フェロセニルメチルトリメチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート(企業内製造)、フェロシアン化カリウム(シグマ・アルドリッチ・カンパニー(Sigma Aldrich Co))、トリ(ビピリジン)ルテニウム(II)クロイド(シグマ・アルドリッチ・カンパニー)、メチルビオロゲン(シグマ・アルドリッチ・カンパニー)及び硫化鉄(II)(シグマ・アルドリッチ・カンパニー)を含む溶液を0.1MのKNO
3(フィッシャー・サイエンティフィック(Fischer Scientific))中に採用した。
【0081】
電極作製‐サンプルA,B,D,E
明確に規定された寸法を有するボロンドープダイヤモンドディスク電極を作製するため、レーザ微細加工装置(オックスフォード・レーザーズ(Oxford Lasers)製のE-355H-3-ATHI-Oシステム)を用いて提供された材料サンプルA,B,D,Eから直径1mmのBDDコラム(厚さ約500μm)を切断した。サンプルEは、極めて高いボロン含有量及び極めて低いsp
2含有量を含むよう開発された新多結晶ボロンドープダイヤモンド(pBDD)材料である。次の調製に先立って、ボロンドープダイヤモンドコラムをKNO
3で過飽和した沸騰中の濃縮H
2SO
4(98%)中で酸洗浄した。溶液を加熱し、ついには、この溶液がちょうど沸騰するようにし、そしてKNO
3が排出された(放出された煙が茶色から白色に変わった)。溶液をいったん冷却すると、サンプルを取り出し、水の中で繰り返し濯ぎ洗いし、空中で乾燥させるようにした。このプロセスにより、レーザ微細加工中に生じると共にpBDD表面を酸素末端基状態にする可能性のある非ダイヤモンド状炭素を除去した。
【0082】
導電性ダイヤモンドを電極として利用するため、Ti(20nm)の層、次にAu(1μm)をスパッタリングすること(エドワーズ(Edwards)製のE606スパッタ/エバポレータ)によって確実なオーム接続部をBDDコラムの後側に施した。次に、サンプルを空中で4時間かけて400℃で管オーブン内でアニールした。アニール時、Tiは、ダイヤモンドとTiCとの間に炭化物を主成分とするトンネル効果接点を形成し、この接点を介して、キャリヤが通り抜け、接点抵抗率が1Ω・cm未満に低下する。Au頂部接点は、高い導電性の酸化防止層としての役目を果たす。金属マイクロ電極の製作のために金属ワイヤをガラス内に封止するための標準手順と類似した方法を採用してpBDDコラムを絶縁し、その結果、頂部(ディスク)面だけが露出されるようにした。ダイヤモンドディスクを引き込みガラス毛管(英国ケント所在のハーバード・アパレイタス・リミテッド(Harvard Apparatus Ltd)製、外径2mm、内径1.16mm)内に封入した後、カルビメット(carbimet)グリッドペーパーディスク(独国ビュエラー(Buehler)社)を用いたポリッシングによって露出させた。銀エポキシ(英国ノーサンツ所在のアールエス・コンポーネンツ・リミテッド(RS Components Ltd))及び外側電気接点を形成するために用いられる錫めっき銅線を用いて電気接点をpBDD|Au表面に施した。最後に、エポキシ樹脂(英国ファインドリー(Findley)のAraldite(商標)及びBostik(商標))を毛管の頂部周りに配置して銅線を安定させた。
【0083】
電極作製‐サンプルC並びに水素を末端基とするサンプルB及びD
これらサンプルも又、当初酸洗浄し、次にTi/Au接点をバンドとしてpBDDの頂縁部上にスパッタリングした。サンプルB及びDのための水素末端基化をブリストル・ユニバーシティ(Bristol University)によって水素プラズマを介し1kW及び60トルの状態でCVD反応器内で実施した。次に電気分解のための領域をKapton(商標)テープ(英国ノーサンツ所在のアールエス・コンポーネンツ・リミテッド)を用いて覆い隠した。
【0084】
電気機械的測定
ラップトップ型コンピュータに接続されたポテンシオスタット(テキサス州シーエイチ・インストゥルメンツ・インコーポレイテッド(CH Instruments Inc.)製のCHI730A)を用いて全ての電気化学的測定を3電極モードで行った。飽和カロメル電極(SCE)を基準電極として用い、Pt金網は、対向電極としての役目を果たした。実験室を全ての測定に関して23±1℃に空調した。
【0085】
ボロンドープダイヤモンド電気化学的特性
次に5つの電極の電気化学的特性を調べた。全ての実験を別段の指定がなければ新たにアルミナでポリッシングされると共に濯ぎ洗いされた表面を用いて実施した。作製したpBDD1mm径ディスク電極を用いて溶剤窓を100mVs
-1の走査速度において0.1MのKNO
3内で記録し、これら溶剤窓は、
図8(a)及び
図8(d)に示されている。全ての電極は、他の市販の材料、例えばPt及びガラス状炭素と比較して、広い電位窓を示した。水分解の電気化学的プロセスは、溶剤窓の範囲を定め、水素及び炭素の発生は、かかる溶剤窓内において陰極端部及び陽極端部のところでそれぞれ起こり、これらは、電極表面上への吸着中間物を含む複雑な機構を介して起こることが知られている。これらの場合、電極の活性度は、その表面組織及び例えば白金上における外側電子配置の関数であり、水電気分解の中間物は、部分的に満たされたd軌道を介して化学吸着することができ、効率的な電気分解が利用可能である。しかしながら、pBDD電極の場合、水分解は、高い電位で起こり、このことは、これら反応がpBDD表面のところでは阻止される可能性があることを示している。これは、ダイヤモンド表面がC−H結合(338kJmol
-1)によって水素末端基化されるかこの場合、強いC−O結合(358kJmol
-1)及びC=O結合(805kJmol
-1)を含む種々の官能基で酸素末端基化されているかのいずれかなので最もありそうである。中間物を形成するためにこれら結合の再配置又は破壊は、水素及び酸素の発生反応を阻害する恐れのある要因である。
【0086】
最も広い溶剤窓は、サンプルAについて特に陰極領域で観察される。上述したように、このサンプルは、全てのサンプルのうちで最も低いボロン濃度及び導電率を有し、これら負の電位での限られた数の電荷キャリヤが水の還元を阻止する。金属pBDDと比較して低ドープpBDDに関する広い電位窓も又、他の場所で観察された。これとは対照的に、サンプルCは、5つのサンプルのうちで最も狭い電位窓を示し、大きな還元プロセスは、−1Vのところで起き、酸化プロセスは、1.2Vのところで起きる。後者の酸化プロセスは又、1.6VでのサンプルB,Dについて少ない程度ではあるが見受けられる。還元電流の開始は、−0.4Vで起こり、このことは、sp
2炭素で酸素の還元が起こることを示唆している。正の電位で観察されたプロセスは、あらかじめpBDDについて報告されており、かかるプロセスは、sp
2炭素の官能価の酸化によるものである。サンプルEは、最も高度にドープされたものであるが、広い溶剤窓は、依然として、水の電気分解が起こる前に得られ、この場合、キャパシタンスから離れてそれほどのバックグラウンドプロセスは生じない。観察された電位窓は、マイクロラマンスペクトル中に存在する種と一貫した量のばらつきがあり、sp
2炭素は、サンプルB,C,Dについて観察されたが、イオン化可能な表面基を欠くサンプルEについては観察されなかった。
【0087】
サンプルEの溶剤窓は、−1.5Vから+1.8Vまでの範囲の3.3Vにわたっては特徴がなく、3.6Vの範囲にわたって0.4mA・cm
-2を超える特徴を備えておらず、4.1Vの範囲を超えるまで延びており、38mA・cm
-2を超えると特徴がない。例えば0.4mA・cm
-2を下回る小さなバックグラウンド特徴部は、水の電気分解に起因するものではなく、大抵の場合恐らくは、酸素又は窒化物の還元及びダイヤモンド表面上の表面処理に起因する。本発明の実施形態としての高品質ボロンドープ合成ダイヤモンド材料は、これらバックグラウンドプロセスのうちのほんの僅かなプロセスを有し、これらは、本明細書において説明するボロンドープ合成ダイヤモンド材料の重要な利点である性能に悪影響を及ぼす相当大きな大きさに達することはないということに注目することが重要である。
【0088】
3.2、8.5、11及び6.5μFcm
-2のキャパシタンス値をそれぞれ、0Vと0.1MのKNO
3中のSCE(Ptについて予想される大きさの程度よりも小さい大きさの程度)との関係においてそれぞれpBDDのサンプルA,B,D,Eについて計算したが、これらキャパシタンス値は、
図8(b)に示されている。他の非金属電極、例えば高度配向パイロライトグラファイト(HOPG:ベーサル面)の低いキャパシタンスは、あらかじめ、フェルミレベルでの低い状態密度によって引き起こされる電極/溶液インターフェースのところでの空間電荷層によるものである。空間電荷層は又、pBDD表面のところで生じることが予想される。確かに、2つのsp
2炭素のないpBDDサンプルA,Eを比較すると、キャパシタンスは、ボロン含有量の増大につれ、かくして状態密度の増大につれて増大することが理解できる。ボロン含有量が金属伝導範囲内にある場合であっても、低いキャパシタンスは、金属電極で比較してサンプルDについて依然として観察され、このことは、状態密度が比較的低いことを示している。サンプルB,Dは、予想外にも、高度にドープされたサンプルEのキャパシタンス値と比較して高いキャパシタンス値を有し、マイクロラマン中に示されているsp
2炭素の存在も起因していそうであり、電位窓、例えばガラス状炭素電極は、30μFcm
-2〜40μFcm
-2までの範囲内のキャパシタンス値を有することが知られている。サンプルCについてのキャパシタンスは、他のpBDD電極と比較して非常に高く、35μFcm
-2の値が算出された。この極めて高いキャパシタンスは、相当多くのsp
2炭素含有量を含む幾つかの要因に起因する場合があるが、高い表面粗さにも起因する場合がある。
【0089】
電位窓の極値に向かう電気化学的応答も又、0.1MのKNO
3中の1mMのRu(bpy)
32+/3+を用いてサンプルA,C,Eについて調べた。
図8(c)は、ΔE
pが59mVの場合にRu
2+/3+と関連したサンプルEについて1.06Vでの可逆的単一電子酸化ピークとSCEとの関係について示している。[Ru
II(bpy)(bpy)(bpy
-)]への第1ビピリジン配位子(リガンド)π
*の還元も又、pBDD電極上のSCEに対して−1.5Vで見える。大抵の他の電極材料に関し、水の電気分解によっては、水溶液中のこのプロセスの研究は可能ではなく、事実、曝気溶液中の酸素の還元が関心のある信号を覆い隠すサンプルC上では観察できない。サンプルAについての周期的ボルタンモグラムの示すところによれば、5つの電極の最も広い電位窓及び最も低いバックグラウンド電流の原因となる同じ要因は、Ru(bpy)
32+/3+レドックスプロセスを著しく阻害する。
【0090】
pBDD電極A,B,C,Dを更に、導電性表面の化学官能基により影響を受けない多数の外圏型レドックス活性種を用いて様々な電位で特徴付けした。これらは、
図9に示されているように、IrCl
3623、FcTMA
+/2+、Ru(NH
3)
363+/2+及びMV
2+/1+を含んでいた。pBDD電極に関するボルタンメトリデータが表1にまとめて記載されている。ランドレス‐セブシック(Randles-Sevcik)の式、即ちシミュレーションによって定められたΔE
p及びk
0により定められる実験i
pを理論i
pと比較することによって各種に関する電子移動の可逆的性質及びキネティックスを分析した。
【0091】
サンプルAが4つ全てのメディエータについて最も大きなΔE
pを有し、これは、IrCl
3623について553mVの範囲から増大する範囲にわたり、というのは、種の見かけの電位が負になるからであり、ついには、拡散限定応答がMV
2+/1+については見られないようになる。描出された周期的ボルタンモグラムは、低いボロン濃度に起因して抵抗性のある応答を表しているが、電子移動キネティックスは、より負の電位ではより大きな程度まで阻害される。この傾向は、ゲライシャー(ゲライシャー・エイチ(Gerischer, H.),「フィジカル・ケミストリー、アン・アドバンスド・トリアタイズ(Physical Chemistry, An Advanced Treatise),ニューヨーク,アカデミック・プレス(Academic Press),1970年)によって提案されたモデルを反映しており、この場合、半導体電極のところの電子移動速度は、レドックスエネルギーのところで利用できる電荷キャリヤの数に比例する。したがって、大きなΔE
p値がサンプルBよりもサンプルAについて観察されるが、両方とも、更にバンドギャップ中に延びる負の見かけの電位を備えた種についてはΔE
p値の増大を示し、この場合、電極空乏層が大きい。
【0092】
興味深いこととして、最も高度にドープされた電極、サンプルD,Eについては、ΔE
p値は、電位範囲とは独立しているが、自己交換速度定数k
excにほぼ追従する。これは、マーカス(マーカス・アール・エー(Marcus, R. A.),「ザ・ジャーナル・オブ・ケミカル・フィジックス(The Journal of Chemical Physics)」,1956年,第24巻,p.966)により提案された金属電極の外圏型反応理論に従っており、これらの電位のところの状態密度が、化学種の再配置が今や制限要因である速度での電子移動を容易にするのに足るほど高いことを示している。
【0093】
良好な品質のBDD酸素末端基電極に関する電荷キャリヤの数は、主として、上記において例示したボロン濃度の結果であることに注目することが重要である。しかしながら、水素末端基化がダイヤモンド/溶液インターフェースのところのキャリヤの数を増大させることができ、従って表面導電率を増大させることは詳細に文献記載されている。
図10(a)は、水素を末端基とするサンプルB,Eについての1mMのRu(NH
3)
363+/2+の還元状態を示している。サンプルBに関し、140mVへのΔE
pの大幅な減少が酸素を末端基とする電極と比較したときに観察される。電荷キャリヤ密度の増大に起因した電子キネティックスのこの増大は、半導体に関するゲライシャーモデルに準拠する。他方、2つの形式の表面末端基化相互間におけるサンプルEの応答の変化は生じず、この場合も又、サンプルEのpBDDがボロン含有量だけによって電子移動を容易にするのに十分な電荷キャリヤ密度を有し、キネティックスが主として、k
excによって制限されるということを示している。サンプルBの半電導性pBDDの電気化学的応答を水素末端基化により一時的に向上させることができたが、表面は、不安定であることが判明し、かかる表面を1Vまでの周期的ボルタンモグラムを実施した後、即ち、IrCl
3623について変更し、かくして、導電率が失われた。
【0094】
図10(b)は、4つの電極A,B,D,Eについての0.1MのKNO
3内での10mMのRu(NH
3)
363+/2+の還元に関する周期的ボルタンモグラムを示している。抵抗性のある作用効果がサンプルA,Bについて明確に理解でき、この場合、かかる大きな電流を通そうとすることにより、ボルタンモグラムが押し出されている。高度にドープされたサンプルDの場合、ΔE
pの増大は、高い濃度でのレドックス対について、即ち、100mVs
-1について見られ、1mMから10mMまで1桁だけ濃度を増大させることにより、ΔE
p値が70mVから110mVに増大する。この作用効果は、最も高度にドープされた電極、即ち、サンプルEについては非常に低く、この場合、ΔE
pは、65mVから74mVに増大している。同様な作用効果が10mMのIrCl
3623について観察される。これについて考えられる一説明は、レドックス種の濃度の増大によりpBDDが単位面積当たり多くの電荷キャリヤを交換せざるを得ないことにある。金属ドープpBDDに関する場合であっても、伝統的な金属電極と比較して、状態密度の減少が生じ、かくして、高い濃度では、電子移動の容易さに大幅な悪影響を及ぼす場合がある。考えられる一理論は、pBDDが電荷キャリヤの数及び易動度によって定まる固有の抵抗を有することである。この操作で用いられるpBDDサンプルEは、4点プローブ測定法から求められた150mΩの抵抗を有する。電極が高い電流を通さなければならない場合、前後のオーム低下(iR)が増大し、これは、ΔE
pに悪影響を及ぼす場合がある。したがって、オームの法則を用いると、10mMの溶液に関する500mVs
-1でのiR低下は、約6μVとして計算され、これがありそうもないことを示している。
【0095】
結論
上述の結果の示すところによれば、サンプルEの新たに開発された多結晶ボロンドープ合成ダイヤモンド材料がサンプルA〜Dと比較したときに優れた電気機械的性能を有し、これは、ラマン分光法により測定されるsp
2炭素の不存在と組み合わせて材料の高いボロン含有量に関連付けられる。特に、サンプルEの材料は、次の特性を有することが判明した。
【0096】
溶剤窓(SCE基準電極に対してpH6において0.1MのKNO
3の条件下で測定して)が次の基準、即ち、(i)少なくとも4.1Vの電位範囲にわたって延び、この場合、ボロンドープ合成ダイヤモンド材料のところで測定された陽極及び陰極電流密度が38mA・cm
-2に達したときに溶剤窓に関する電位範囲の端点が定められるという基準、(ii)少なくとも3.3Vの電位範囲にわたって延び、この場合、ボロンドープ合成ダイヤモンド材料のところで測定された陽極及び陰極電流密度が0.4mA・cm
-2に達したときに溶剤窓に関する電位範囲の端点が定められるという基準のうちの一方又は両方を満たすという特性、
脱イオン水、0.1MのKNO
3支持電解質及び1mMのFcTMA
+又はRu(NH
3)
363+だけを含むpH6の溶液中の飽和カロメル基準電極に対してボロンドープ合成ダイヤモンド材料の電位を100mVs
-1の速度でスイープすることによって測定された70mV以下のΔE
pという特性、及び
【0097】
脱イオン水及び0.1MのKNO
3支持電解質だけを含むpH6の溶液中で飽和カロメル基準電極に対して70mV〜−70mVのボロンドープ合成ダイヤモンド材料の電位をスイープし、合成電流を測定し、負の電位に向かってスイープしたときの0Vでの電流値を正の電位に向かってスイープしたときの0Vでの電流値から減算し、減算結果の電流値を2で除算し、次に除算結果をボロンドープ合成ダイヤモンド材料の面積(cm
2)及び電位のスイープ速度(Vs
-1で除算してFcm
-2で表されるキャパシタンスの値を出すことによって測定された10μFcm
-2以下のキャパシタンスという特性。
【0098】
pBDDサンプルの別の特徴付け
pBDDサンプルを更に特徴付けるため、材料に間欠的接触走査型電気化学的顕微鏡(IC‐SECM)と呼ばれている比較的新しい電気化学的画像化技術を施した。この点に関し、電極‐電解質インターフェースの電子移動(ET)特性を真の意味で理解するためには、表面反応度を空間的にマップすると共に定量化することができるということが重要である。さらに、ET電極システムの挙動を良好にいったん理解すると、ET性能を最高にするために電極の材料特性を設計しなおすことが可能である。これは、多結晶ボロンドープダイヤモンド(pBDD)材料について特にそうである。というのは、表面の多結晶という性質により定められることとして、ボロンドーピングプロセス中、互いに異なる結晶粒が互いに異なる量のボロンを吸収し、その結果、表面の不均質なドーピング及び表面の電気的性質の変化が生じる。
【0099】
様々なモデルが半電導性の且つ金属のようなpBDD電極のところの不均一ET(HET)を説明するために提案されたが、依然として、最も現実的なモデルについてのコンセンサスは得られていない。というのは、局所ドーパント密度及び特にフェルミレベルのところの局所状態密度(LDOS)が結晶粒ごとにHET速度にどのような影響を及ぼすかについての研究が依然として可能ではないからである。pBDDのところのHETキネティックスを導き出す従来の試みでは、表面特性の大幅なばらつきについて平均を取った周期的ボルタンメトリか局所的技術、例えば走査型電気化学的顕微鏡検査法(SECM)及び蛍光顕微鏡検査法かのいずれかが用いられた。HETにおける著しい不均一性がSECMによって観察されたが、空間分解能は、測定を結晶粒特性に対して直接関連付けることができるには不十分であった。
【0100】
本発明者は、外圏型HETに焦点を当てて、まず最初に、(i)金属状pBDDのところのHETが個々の結晶粒中の局所ドーピングレベルに直接関連付けられること、(ii)結晶粒界のところでのHETの向上の証拠がないこと、(iii)HET速度がこの不均一材料中のLDOSと定量的に相関することを示すことができた。これら新たな洞察は、pBDDを利用する電気化学的技術の合理的な設計を助ける上で重要であるだけでなく、HETを固体電極のところで制御する重要な要因を識別する際に相当大きな全体的値のものでもある。
【0101】
溶液、材料及び電極の調製
Milli-Q(商標)試薬水(ミリポア・コーポレーション(Millipore Corp.))を用いて水溶液を調製した。溶液は、1mM又は5mMのヘキサミンルテニウムクロイド(シグマ・アルドリッチ又は1mMのフェロセニルメチルトリメチルアンモニウム(FcTMA
+)ヘキサフルオロホスフェートから成っていた。全ての溶液は、支持電解質として0.1MのKNO
3(シグマ・アルドリッチ)を含んでいた。FcTMA
+ヘキサフルオロホスフェートを対応のヨウ化物塩(99%、ストレム(Strem))とアンモニウムヘキサフルオロホスフェート(99.5%、ストレム)のメタセシスを介して調製した。
【0102】
市販のマイクロ波プラズマCVDプロセス(英国アスコット所在のエレメント・シックス・リミテッド)を用いてここで用いられたpBDDを成長させたが、このpBDDは、上述したサンプルEとほぼ同じである。すなわち、この材料は、非常に高いボロン含有量及び非常に低いsp
2含有量を有するよう開発された新pBDD材料である。この材料の平均ボロンドーピングレベルは、二次イオン質量分光法により求められた約5×10
20個原子cm
-3である。その結果生じる表面粗さは、原子間力顕微鏡法(AFM)によって測定して一結晶粒内で約1〜2nmであり、結晶粒相互間では1〜5nmであり、結晶粒度は、5μmから40μmの範囲にわたり、サンプル厚さは、約500μmである。
【0103】
レーザ微細加工装置(E-355H-3-ATHI-Oシステム、オックスフォード・レーザーズ)を用いてpBDDの2mm径コラムを切断し、酸洗浄後、Ti(20nm)の層、次にAu(1μm)をスパッタリングすること(モアフィールド・ミニボックス(Morefield Minibox )によって確実なオーム接点をコラムの後側に施した。次に、サンプルを4時間かけて500℃で管炉(英国カルボライト(Carbolite )内でアニールしてpBDDに対する炭化チタン接点を作った。
【0104】
Ag塗料(英国所在のアガール・サイエンティフィック・リミテッド(Agar Scientific Ltd.))を用いてpBDDサンプルをTi(20nm)及びAu(400nm)スパッタ被覆ガラススライドに接触させ、この場合も又Ag塗料を用いてスライドに接触させたワイヤを用いて電気接点を作った。両面テープ(3M)を用いてガラススライドをTeflon(商標)SECMセルのベースに固定した。サンプルをpBDDコラムの頂面を除き、全ての領域において5分エポキシ樹脂(アールエス・コンポーネンツ、英国)を用いて電気的に絶縁した。
【0105】
顕微鏡検査法
CCD検出器(ペリチエ冷却式)により514.5nmAr
+レーザを用いてマイクロラマン分光法(英国所在のレニショウ・インビア社)を実施した。分光計は、1800ライン/mm拡散格子を備えていた。自動化ステージ(1.2μmの小刻みなステップサイズ)を用いてマップを作り、この場合、レーザビームを100倍対物レンズにより収束させた。約1332cm
-1でのピークシフトを分析した(Wire3.0)。
【0106】
ツアイス・スープラ55Vを用いて電界放出走査型電子顕微鏡検査法(FE‐SEM)を実施した。2kVを印加し、この操作の際の顕微鏡写真についてレンズ内検出器を用いた。
【0107】
電気化学的測定
確立された手順を用いてウォラストン線(Wollaston wire)から企業内でPtディスクUME(直径1〜1.3μm)を作製した。溶液中のレドックス活性メディエータの既知の濃度の電気分解のために定常電流を記録することによって電極のサイズを求めた。この操作におけるIC‐SECM画像の全ては、2μmごと(ステップサイズ)且つ0.25μmごとのサブステップ(先端部が走査中、どのように再位置決めされる場合が多いか‐基板を「感じる」)で読みを取ることによって得られた。
【0108】
基準として飽和カロメル電極(SCE)及び対向電極のためにPtワイヤを用い且つポテンシオスタット(シーエイチ・インストゥルメンツ(CH instruments)のモデルCH760C)を用いて全ての電気化学的測定を実施した。
【0109】
手短に言えば、IC‐SECM中、先端UMEの振動振幅は、
図11(a)に示されているように先端部と表面の接触と関連した一定の減衰値で一定に保たれ、
図11(a)は、a=1.3μm直径のディスクPtUMEの自由振動(自由振動数=80Hz)(RG=10)が、先端部がpBDDの表面に近づいてこれに接触したときにどのように変化するかを示しており、振動振幅の突然の減少により、先端部と表面が接触したことが分かる。注目すべきこととして、先端部とpBDD材料との完全な整列状態を得ることは、事実上ほぼ不可能なので、接触は、PtディスクUMEを包囲したガラスシースのエッジから起こりそうである。これは、これにより結果的に短絡の可能性を生じさせる直接的なpBDDと先端部電極の接触が回避されるので一般的に言えば好ましい。画像化中、先端部は、表面と「接触」状態にある1本のラインを走査し、先端部電流信号に関する情報だけでなく、pBDDトポグラフィに関する情報をも集める(減衰振動を一定に保つために先端部が動く必要のある距離により)。先端部は、パスバック時に、ユーザによって定められると共に用いられる電極のサイズに適切な距離のところで電流に関するデータを収集するよう設定されるのが良い。
【0110】
図11(b)は、pBDD発生における不均一に活性したpBDD表面へのIC‐SECMの適用‐先端部収集モードを強調して示す略図である。種々の結晶粒が各々固有の速度定数k
0によって特徴付けられた互いに異なるボロンドーパントレベルを含んでいる。さらに、非ダイヤモンド状不純物(存在している場合)も又、これら自体のk
0で特徴付けられたET活性度を示すであろう。
【0111】
図12は、(a)1μm及び(b)2μmの一定のd値のところでの5mMのRu(NH
3)
362+の先端部収集のためのpBDD表面の代表的な70μm×70μmIC‐SECM SG‐TC画像を示している。基板を銀‐塩化銀電極(Ag/AgCl)に対して−0.4V(η=−0.138V)でバイアスしてRu(NH
3)
363+還元を促進し、他方、先端部をAg/AgClに対して0.0Vに保持して拡散制限速度でRu(NH
3)
362+を収集した。また、IC‐SECMスキャンの同一の領域で2kVで記録されたFE‐SEM画像(
図12(c))が表示されている。先のEM研究結果(テンネ・アール(Tenne, R.),パテル・ケイ(Patel, K.),ハシモト・ケイ(Hashimoto, K.),フジシマ・エイ(Fujishima, A.),ジャーナル・オブ・エレクトロアナリティカル・ケミストリー(J. Electroanal. Chem.),1993年,第347号,p.409)の示すところによれば、BDDからの二次電子放出収量が10
19cm
-3を超えるボロン濃度で最大に達し、かくして、この画像中の暗い領域は、多くのボロンを含むゾーンを表している。ポリッシング済みpBDD表面(AFMで表された一結晶粒内で約1〜2nm表面粗さ、結晶粒相互間で約1〜5nm)のFE‐SEM画像の示すところによれば、表面は、不均一にドープされ、或る特定の結晶粒組織は、周りの領域よりも取り込んだボロンの量が少なかった。
【0112】
図12(c)の結晶粒組織のFE‐SEM画像と表面電気活性度のIC‐SECM先端部電流マップ(特に
図12(a))との間の相関関係が強いことが明白である。結晶粒構造が組織を明確に表した電気化学的画像は、pBDDの電気化学的マッピング中以前では決して観察されなかった。結晶粒中のほんの僅かな電流差であっても明らかである。本質的には、定量的に、高レベルのボロンを収容した領域は、先端部電流の増加を示し、即ち、電気的活性度の向上を示している。また、画像の電気化学的分解能が小さな先端部‐基板画像化離隔を採用することによって高められ、そしてこの技術のうちの利点のうちの1つ、即ち、先端部‐基板離隔を正確に制御して維持することができる能力を強調していることも又明らかである。これは、1μmというdの差であってもこれにより
図12(a)と
図12(b)との差によって証拠付けられるように電気化学的画像の分解能に対して極めて大きな差となる高分解能先端部を用いる場合に必要不可欠である。
【0113】
従来のSECM研究は、電流の増大領域を表面の粒間非ダイヤモンド状(sp
2)炭素の領域か金属状領域かのいずれかに関連付けた。これら画像から、電流大きさのばらつきが主として表面の結晶粒組織及びかくしてボロンドーパントレベルと関連していることが既に著しく明確である。ボロンドーパントレベル及びsp
2炭素汚染物質の存在に関する別の情報がIC‐SECM画像と同一の領域中の表面のマイクロラマンマップを記録することによって得られた。
【0114】
図13(a)は、sp
3炭素と関連したゾーン中心光学フォノン(約1332cm
-1)に関するピーク下の積分領域についてのラマンマップを示している。ボロン濃度が増大すると、ピークは、低い波数にシフトし、積分ピーク領域が小さくなる。
図13(a)中の画像に関し、900cm
-1から1800cm
-1までの波数範囲にわたり1.2μmごとにラマンスペクトルを記録した。採用したスポットサイズは、5μm未満であったが、この強度は、中心のところが非常に大きい。かくして、画像中の暗いゾーンは、高いボロン含有量と関連しており、
図12に記録されたデータと相関している。
【0115】
ボロンドーピングレベルに関するそれ以上の情報を提供するため、最も低いボロンレベル及び最も高いボロンレベルを含むサンプルの領域の個々のスペクトルを分析した。両方のスペクトル(
図13(bi)及び
図13(bii))は、中心が1332cm
-1のところに位置するダイヤモンド(sp
3)ピークを示し、ピークの非対称性(ファノ共鳴)は、両方の領域において、ボロン濃度[B]が10
20個原子cm
-3以上でなければならないことを示している。ボロン濃度が増大するにつれて、ピークは、非対称になる。電気的特性に関して、p型半導体挙動が1×10
19個原子cm
-3未満の[B]について予測され、というのは、[B]は、電気伝導がホッピング機構を介して行われる約1×10
19個原子cm
-1から1×10
20個原子cm
-1まで増大するからであり、ついには、[B]≒1×10
20個原子cm
-3では、材料は、金属のような導電率を示すようになる。それ故、ボロン濃度は、サンプルのどの領域も真に半電導性であるとみなすに足るほど低くはない。また、
図13(bi)では、約1350〜1580cm
-1のところで非ダイヤモンド状sp
2炭素と関連したピークが存在していないことも又重要である。
図13(bi)及び
図13(bii)に示されたスペクトルは、非ダイヤモンド炭素の証拠を示していない。sp
2炭素も又先に、結晶粒界と関連しているので、
図13(a)の少なくとも10個の結晶粒界についてもスペクトルを分析した。著しいsp
2炭素の証拠は何ら示されなかった。
【0116】
有限要素シミュレーションを採用し、バトラー‐ボルマーキネティックスを用いてk
0の観点で先端部電流を定量化した。
図14(b)は、
図14(a)に示された生の制限電流データから導き出された1μmの一定dについて先端部のx,y位置の関数としての結果としてのk
0マップを示している。これは、SECMを利用して不均一に活性化した電極表面上の逐点方式によるk
0を抽出した最初のことである。これは、先端部‐基板離隔がスキャン中全ての箇所で曖昧さなく知られている場合のみ可能である。
図14(b)では、k
0は、3.3(±1.5)×10
2cms
-1(高ボロン含有量)の値から0.7(±0.3)×10
2cms
-1(低ボロン含有量)までの範囲にわたる。
【0117】
pBDD電極のところでHET速度を更に調べるため、レドックス対としてFcTMA
+/2+を用いた。これは、これが炭素を主成分とする電極のところでの電極キネティックスの研究を可能にするよう大々的に用いられるので選択されており、見かけの電位E
O′は、FcTMA
+/2+に関し、Ru(NH
3)
363+の場合よりも約0.55Vだけかなりの程度正である。この方式の威力は、FE‐SEM画像とラマン画像(
図15(d)及び
図15(c))の両方がそれぞれ、IC‐SECM画像(
図15(a))と同じ領域で記録してドーピングレベルにつれて電気化学的活性度の直接的な相関を可能にすることができたということにある。この場合に、バルク溶液は、1mMのFcTMA
+(50mMのKNO
3)を含み、a=1.3μm、d=1.0μmの先端部を用いたが、基板は、FcTMA
+を酸化するためにAg/AgCl(飽和KCl)(η=0.045V)に対して+0.420Vの電位にバイアスし、先端部を0.0Vでバイアスして拡散制御速度でpBDD基板のところに生じたFcTMA
2+を収集した。高いドーパント濃度及び低いドーパント濃度の領域と正確に相関した先端部電流活性度の別々のゾーンが、この場合も又観察される。
図15(b)に示された対応のk
0マップが、互いに異なる固有の結晶粒相互間のコントラストをなす電気化学的活性度を更に強調して示し、2つの互いに異なるドープ領域に関するk
0の分析により、9.7(±0.4)×10
2cms
-1(高)及び2.2(±0.8)×10
2cms
-1(低)が得られた。
【0118】
このデータの示唆するところによれば、両方の結晶粒タイプ(高及び低ドープ)に関し、FcTMA
+/2+に関するk
0は、Ru(NH
3)
363+/2+に関する場合よりも約3倍高い。これは、FcTMA
+/2+に関する高い自己交換速度定数と定量的に一致している。各結晶粒タイプと関連した高k
0値と低k
0値の比が両方のレドックス対についてほぼ同じ(約4〜5)であることが恐らくは最も関心のあることである。この挙動に関する理由を探求するため、2つの特徴的な結晶粒タイプのLDOSに関する情報を局所キャパシタンス測定により求めた。電気化学的方法によるマイクロスケールでのキャパシタンスを測定することは、迷走キャパシタンスの源からの信号と比較して、最小限に抑えられなければならない結果としての僅かな信号に起因して課題となっている。フォトリソグラフィ技術がグラフェン(graphene)の量子キャパシタンスの測定を可能にするために従来用いられたが、かかる方式は、高ドープ及び低ドープ結晶粒の不規則な間隔及び幾何学的形状に起因して、pBDDサンプルには容易には利用できない。かくして、本発明者は、高空間分解能キャパシタンス測定のための新たな方式として走査型電気化学的セル顕微鏡検査法(SECCM)を用いることを選択した。
【0119】
SECCM装置の概略が
図16(a)に示されている。プローブは、サイズ約1.5μmの先端部まで絞り加工されたテーパ付きシータガラス毛管(TC)から成っていた。ピペットの各チャンバに電解質溶液を充填し、かかるチャンバは、疑似基準対向電極(QRE)として機能する塩化物被覆銀線を収容していた。これら測定のため、溶液充填毛管の端部のところのメニスカス(M)がpBDD基板作用電極に接触したときに電気化学的セルを作り、そして周囲条件下で接地した。
図16(b)は、(i)シータガラス毛管端部及び(ii)電極面積Aを正確に定めるメニスカス接点から残された残留物からのインプリントの代表的なFE‐SEM画像を示している。キャパシタンス測定を表面の固有の高ドープ領域及び低ドープ領域について実施し、現場でSECCMにより光学顕微鏡によって識別した(低ドープ結晶粒は明るく見える)。中心が0.000Vに位置し、走査速度ν=30Vs
-1の0.150Vピークピーク三角形波をQRE相互間に加えた。対応の方形波電流‐時間応答は、pBDD表面の2つの互いに異なる程度にドープされた領域に関する容量性充電応答の特徴であった。
図16(c)は、電流振幅i
ampがドーピングレベルを反映していることを明らかに示す典型的な応答を示している。
図16(d)は、モード値がi
amp−t方形波応答の最大値及び最小値を表す。2つの互いに異なる領域中のpBDD電極のところで測定された電流の代表的なヒストグラムを示している。キャパシタンスは、C
meas=i
amp/2νAとして抽出される。平均キャパシタンス値は、高ドープ領域及び低ドープ領域のそれぞれの5.2±0.8μFcm
-2及び3.1±0.4μFcm
-2であると計算された。
【0120】
pBDDに関し、C
measは、ダイヤモンドが金属状であると考えられるのに十分ドープされた場合であっても、ヘルムホルツキャパシタンスC
H、拡散層キャパシタンスC
diff及び空間電荷領域のキャパシタンスC
scからの貢献分を有する。というのは、pBDDは、代表的な金属と比較して制限された電荷キャリヤ密度を有するからである。かくして、他の炭素材料、例えば高度配向熱分解グラファイトや単壁炭素ナノチューブに関し、キャパシタンスは、次のように書き表せる。
これら研究における高イオン強度条件下において、C
diff>>C
Hであり、従って、これがC
measに貢献する度合いは、無視できるほどである。
【0121】
C
scは、次式によってフェルミレベルD(E
F)のところでLDOSに関連付けられる。
上式において、e
0は、電子電荷であり、εは、pBDD(5.5)の誘電率であり、ε
0は、真空透過性である。C
H≒20μFcm
-2という代表的な値を前提にすると、高及び低ボロンドープ結晶粒に関するLDOSは、それぞれ、約1.7(±0.02)×10
20cm
-3eV
-1及び約7.5(±0.08)×10
20cm
-3eV
-1と推定され、即ち、LDOS中に約4〜5倍の違いが存在する。比較すると、金属は、約10
23cm
-3eV
-1というD(E
F)を有する。
【0122】
高及び低ボロンドープ結晶粒中のLDOSの比は、2つの互いに異なる外圏型レドックス対の各々についてこれら領域内で測定されるk
0値の比と相関している。かくして、この比較的高度にドープされた炭素材料に関し、HETキネティックスは、LDOSによって大幅に決定され、このLDOSは、ボロン濃度によって制御される。これにより、速度が結晶粒界のところのボロン又はsp
2炭素蓄積によってではなく特定の結晶粒の特性によって決定される空間HET活動度の明確なパターンが作られる。電極表面のところのHETの制御に対するこれらの新たな洞察は、基本的な値のものであるだけでなく、台頭しつつある導電性ダイヤモンド電気化学的技術の開発及び最適化を助けるはずである。
【0123】
結論
新たな多結晶ボロンドープ合成ダイヤモンド材料は、結晶粒界領域内であってもラマン分光法により検出可能なsp
2炭素を含まない。さらに、ボロン濃度は、材料の表面上において、結晶粒の大部分が1×10
20個ボロン原子cm
-3から7×10
21個ボロン原子cm
-3までの範囲のボロン濃度を有するようなものである。かくして、電気化学的機能性が向上した多結晶ボロンドープ合成ダイヤモンド材料を実質的にsp
2炭素を含まず、1×10
20個ボロン原子cm
-3から7×10
21個ボロン原子cm
-3までの範囲のボロン濃度中で金属伝導を示す表面結晶粒の大部分を含む材料によって提供できることが示された。
【0124】
単結晶ボロンドープダイヤモンド(scBDD)材料
約1×10
19個原子cm
-3のボロン含有量を有する支持基板層及びサンプルごとにばらつきのある高いボロン含有量を有する薄いキャッピング層を含む一連の単結晶合成ダイヤモンドサンプルを作製した。キャッピング層内のボロン含有量を上述したようにSIMSによって測定した。電気化学的電極を各サンプルについてpBDDサンプルについて上述した仕方とほぼ同じ仕方で作製した。全てのサンプルを処理して上述したように酸素を末端基とするようにした。
【0125】
次に、溶剤(脱イオン水)、1.0M支持電解質(KNO
3)及び1mMのレドックス活性種(pH7でFcTMA
+)だけを含む溶液中でボロンドープ合成ダイヤモンド電極を基準電極に対して100mV・s
-1の速度でスイープすることによってΔE
pを各サンプルについて測定した。
【0126】
E
pは、キャッピング層が1×10
20個原子cm
-3の金属伝導に関する限度を下回るボロン含有量を有するサンプルについては高すぎることが判明した。ボロン含有量を増大させると、過剰電位が59mVの理想的な挙動の限度に向かって減少することが判明した。しかしながら、溶剤窓は、ボロン濃度が増大すると共にキャパシタンスが増大するにつれて減少することが判明した。したがって、ボロン含有量を増大させることが過剰電位を減少させる上で有利であるとしても、7×10
21個原子cm
-3を下回るボロン濃度が、溶剤窓が十分に広いままであり且つキャパシタンスが十分に低いままであるようにする上で望ましいことが判明した。約10
19個原子cm
-3のボロン含有量を有する支持基板層及び約1〜2×10
21個原子cm
-3のボロン含有量を有するキャッピング層を含む適当な単結晶合成ダイヤモンドサンプルが本発明の実施形態に必要な溶剤窓ΔE
p及びキャパシタンスを有することが判明した。
【0127】
上述の操作に続き、一連のダルクボロンドープ単結晶サンプルを作製し、キャッピングされた実施例について上述したのと類似した仕方で分析した。バルクボロンドープ単結晶サンプルは、同様なパターンに従うことが判明した。すなわち、ボロン含有量を増大させると、ΔE
pが減少するので有利であるが、溶剤窓を縮小させると共にキャパシタンスを増大させるという欠点がある。この場合も又、ボロン含有量を1×10
20個原子cm
-3から7×10
21個原子cm
-3の範囲内に選択することによってバランスを見出すことができるということが判明した。例えば、1.22×10
21個原子cm
-3のボロン含有量を有するダルクボロンドープ単結晶合成ダイヤモンド材料は、66.8mVという平均FcTMA
+ΔE
p、7μF・cm
-2というキャパシタンス及び−2.1Vから+2.3Vまでの電位範囲にわたる溶剤窓を有することが判明した。合成について記載したセクションで上述したように、材料は又、これら電気化学的特性を達成するために正確なボロン濃度の達成に加えて高い結晶品質のものであることが必要とされる。
【0128】
上述したことに加えて、本発明の実施形態としての単結晶ボロンドープダイヤモンド材料は、内圏型反応のために電気化学的性能に対する結晶方位及び表面末端基化の影響を調べるために用いられた。文献全体を通じて、BDD電極のための最もありふれた表面末端基化は、水素末端基化又は酸素末端基化である。上述したように、金属ドープBDDに関し、表面末端基化は、外圏型レドックス種のための電子移動キネティックスに対する影響が極めて少ないことが示された。しかしながら、伝統的な電極材料上の内圏型レドックス種、例えばFe(CN)
363-/4-に関する大々的な研究結果は、電極材料並びに支持電解質種類、レドックス種濃度及び表面化学的状態/機能性に依存した複雑な電気化学的応答を示した(これについては、例えば、シャクシベル・ピー(Shakkthivel, P.),チェン・エス・エム(Chen, S.-M.),バイオセンサーズ・アンド・バイオエレクトロニクス(Biosens. Bioelectron.),2007年,第22巻,p.1680、及び、ピエール・ケー(Pihel, K.),ウォーカー・キュー・ディー(Walker, Q. D.)ワイトマン・アール・エム(Wightman, R. M.),アナリティカル・ケミストリー(Anal. Chem.),1996年,第68巻,p.2084を参照されたい)。幾つかの論文が高度に且つ多量にボロンをドープしたpBDD電極のところでのFe(CN)
363-/4-のボルタンメトリを提供しており、ここでは、電子移動キネティックスが水素を末端基とするサンプルと比較して酸素を末端基とするpBDD表面のところでは遅いことが示唆されている(これについては、例えば、グレンジャー・エム・シー(Granger, M. C),スウェイン・ジー・エム(Swain, G. M.),ジャーナル・オブ・ザ・エレクトロケミカル・ソサイエティ(J. Electrochem. Soc.),1999年,第146巻,p.4551、ブーゲローブ・アール(Boukherroub, R.),ウォールアート・エックス(Wallart, X.),スズネリッツ・エス(Szunerits, S.)マーカス・ビー(Marcus, B.),ボウビアー・ピー(Bouvier, P.),マーモウクス・エム(Mermoux, M.),エレクトロケミストリー・コミュニケーションズ(Electrochem. Commun.),2005年,第7巻,p.937、アクティス・ピー(Actis, P.),ディノイェーリ・エー(Denoyelle, A.),ブーゲローブ・アール(Boukherroub, R.),スズネリッツ・エス(Szunerits, S.),エレクトロケミストリー・コミュニケーションズ(Electrochem. Commun.),2008年,第10巻,p.402及びマーケン・エフ(Marken, F.),パドン・シー・エー(Paddon, C. A.),アソガン・ディー(Asogan, D.),エレクトロケミストリー・コミュニケーションズ(Electrochem. Commun.),2002年,第4巻,p.62を参照されたい)。これとは対照的に、多くの研究では、pBDDの陽極予備処理後、電荷移動の増大が達成され、即ち、ΔE
p値が220mVから90mVに減少したことが判明した(これについては、例えば、プラド・シー(Prado, C),ウィルキンス・エス・ジェイ(Wilkins, S. J.),マーケン・エフ(Marken, F.),コンプトン・アール・ジー(Compton, R. G.),エレクトロアナリシス(Electroanalysis),2002年,第14巻,p.262及びエル・トール・オー(El Tall, O.),ジフレジック・レナウルト・エヌ(Jaffrezic-Renault N.),シガウド・エム(Sigaud, M.),ヴィットーリ・オー(Vittori, O.),エレクトロアナリシス(Electroanalysis),2007年,第19巻,p.1152を参照されたい)。Fe(CN)
363-/4-の電子移動キネティックスに対する表面末端基化の影響は、幾つかの要因によるものであり、かかる要因としては、反応面の電位が挙げられ、これは、酸素含有基上の負の電荷が負に帯電したレドックス種を反発させることができる場合である。サイトブロッキング酸素官能基も又、電子移動を妨げるものとして示唆されている。
【0129】
ダイヤモンド表面上に位置する官能基は、結晶方位及び末端基化方法で決まる。2つの互いに異なる方法により酸素末端基化された多結晶表面並びに単結晶表面のところのFe(CN)
363-/4-の酸化を調べた。まず最初に、
図17(ai)は、金属的にドープされたpBDD、{100}、{110}及び{111}単結晶BDDのところの0.1MのKNO
3中における1mMのFe(CN)
363-/4-の酸化に関する周期的ボルタンモグラムを示しており、この場合、ダイヤモンドを酸沸騰及び次のアルミナポリッシングにより酸素末端基化する。4つ全ての電極は、可逆的に近いΔE
p値を与え、即ち、約62mV〜70mVを与えている。波の形状は、全ての結晶面のアルミナポリッシング済みBDDのところのFe(CN)
363-/4-のレドックス電気化学的性質に関する高速電子キネティックス(即ち、拡散制御)を示している。マックエボイ(McEvoy)による先の研究は、アルミナポリッシング済みBDD電極のところでのFe(CN)
363-/4-に関するキネティックスの向上を示しているが、炭化水素汚染物除去の面で説明されたものである(マックエボイ・ジェイ・ピー(McEvoy, J. P.),フォード・ジェイ・エス(Foord, J. S.),エレクトロケミカ・アクタ(Electrochim. Acta),2005年,第50巻,p.2933)。周期的ボルタンモグラムは、アルミナポリッシングにより作られたFe(CN)
363-/4-酸化のための活性サイトの数は、結晶面とは無関係であることを示唆している。
【0130】
酸素を末端基とするBDDがこの種に関して遅い電子移動キネティックスを有することがなぜほとんどの場合に観察されるかを調べるため、4つ全ての電極に最もありふれた酸素末端基化方法、即ち、陽極分極を施した。
図17(aii)は、金属的にドープされたpBDD、{100}、{110}及び{111}単結晶BDDのところでの0.1MのKNO
3中の1mMのFe(CN)
363-/4-の酸化のための周期的ボルタンモグラムを示しており、この場合、ダイヤモンドを酸沸騰及び次の0.1MのH
2SO
4中でのSCEに対して3Vで60秒間陽極分極により酸素末端基化する。ΔE
p値の劇的な増加が、この表面を{100}表面が413mVという最も小さい値を有する状態でこのようにして末端基化したときに全てのダイヤモンド電極について見受けられ、次に、500mV離隔の状態で多結晶ダイヤモンドについて見られる。{110}及び{111}表面は、{100}のΔE
p値よりも大きい互いにほぼ同じΔE
pを呈する。周期的ボルタンモグラムは、陽極予備処理がFe(CN)
363-/4-酸化のための活性サイトの数を減少させ、しかも、ダイヤモンド結晶面に特有の機構を介してこれを行うことを示している。{110}及び{111}表面のところの酸素官能基は、同一であり、即ち、C−OH基であると見込まれるが、{100}表面のところの酸素官能基は、異なる形態、即ちC−O−C又はC=Oを取る可能性があるということが文献記載されている(ネベル・シー・イー(Nebel, C. E.),リステイン・ジェイ(Ristein, J.),シン・フィルム・ダイヤモンド・ツー(Thin-Film Diamond II),エルセバイヤー・アカデミック・プレス(Elsevier Academic Press),2004年,第77巻)。これは、ピークピーク離隔における技術動向を説明しているといえ、多結晶表面は、2つの種類の官能基の混合物を有する。
sp
2炭素電極のところの旧式の内圏型レドックス対Fe
2+/3+の調査結果の示すところによれば、電子移動キネティックスは、電極表面、大抵の場合、特に酸化物の存在によって強い影響を受ける場合がある(オオニシ・ケー(Ohnishi, K.),エイナガ・ワイ(Einaga, Y.),ノツ・エイチ(Notsu, H.),テラシマ・シー(Terashima, C),ラオ・ティ・エヌ(Rao, T. N.),パーク・エス・ジー(Park, S. G.),フジシマ・エー(Fujishima, A.),エレクトロケミカル・アンド・ソリッド・ステート・レターズ(Electrochem. Solid-State Lett.),2002年,第5巻,D1)。
図17(b)は、(i)ポリッシングされたアルミナ及び(ii)陽極化された表面に関する1mm径BDDディスク電極のところでの100mVs
-1の走査速度で0.1MのHClO
4中の1mMのFe
2+/3+の酸化に関する周期的ボルタンモグラムを示している。アルミナポリッシング済み表面のところのこのシステムに関するΔE
p値は、{100}結晶面に関する830mVから{110}結晶面に関する885mVまでの範囲にあることが示されており、これは、疑似可逆系であることを示している。これらの値は、蒸着したばかりの(837mVのΔE
p)pBDDについて他のシステムにより観察される値よりも僅かに大きい。しかしながら、陽極予備処理時、ΔE
p値は、
図17(bii)に示されているように全てのダイヤモンド電極について減少することが示された。大抵の場合、特に、{100}結晶面ピークピーク間隔は、234mVであることが判明した。この場合も又、多結晶サンプルは、{100}及び{110}/{111}表面影響の組み合わせであることが判明した。
【0131】
Fe(CN)
363-/4-の場合と同様な方式では、特定の酸素含有官能基が電子移動キネティックスに影響を及ぼすことが示唆されている。この場合、カルボニルがグラッシー炭素電極について従来示唆されているようにFe
2+/3+電子移動を容易にする原因となっている。上述したように、{100}ダイヤモンド表面上の主要な酸素官能基は、C=O又はC−O−Oであることが見込まれ、{110}及び{111}ダイヤモンド表面に関しては、C−OH基が主である可能性がある。提供される周期的ボルタンモグラムは、陽極分極時、C=O基が{100}ダイヤモンド表面のところで生じ、かくして、Fe
2+/3+電子移動を容易にすることを示唆している。しかしながら、これらの基は、{110}、{111}又は多結晶表面のところではかかる程度までは作られず、低密度の活性サイトが後に残る。この操作は、単結晶ダイヤモンドの使用により、{100}方位単結晶材料を用いることにより或る特定のレドックス種までの電子移動を容易にするために多数の特定の活性サイトを作ることができるということを示唆している。
【0132】
硫化水素センサとしてのボロンドープダイヤモンド材料の使用
H
2Sは、室温且つ1気圧(即ち、101.3kPaの圧力)状態では無色で可燃性且つ有毒のガスである。H
2Sは、腐った卵のにおいをしており、H
2Sは、8時間にわたる10ppmの暴露限度で中枢神経系に作用する(昏睡状態)。100ppmの暴露により、頭痛が生じ、300ppmでは、H
2Sは、713ppmという致死濃度値LC
50で即座に危険な状態になると考えられる。H
2Sは、弱酸であり、還元剤は、空気酸化され、そして金属に吸着する(腐食性)。その可溶性は、温度、圧力、攪拌、相(油/水)及びpHで決まる。H
2Sは、液体と蒸気との間で高い分配係数を有し、即ち、液相におけるppmは、蒸気空間中で50ppmを超える濃度を生じさせることができる。
【0133】
H
2O(25℃)で溶解させたH
2Sは、以下の生成物を生じさせる。
【0134】
電気化学的に、溶液のpHに応じてHS
-又はS
2を検出することが可能である。それ故、ナトリウム塩(即ち、NaHS又はNa
2S)を用いることによって溶液中のH
2Sの存在を真似ることが可能である。
【0135】
13.9未満のpHレベルの硫化物(S
2)は、亜硫酸塩(HS
-)に変換する。亜硫酸塩の酸化により、次が生じる。
HS
-はS
0(固体)+H
++e
-へ
【0136】
水中におけるH
2Sの検出のための最も普及している技術は、分光法、クロマトグラフィ及び電気化学的技術を含む。水中のH
2Sの検出のための旧式の方法は、イオジン又はメチレンブルーによる硫化物の滴定を含み、イオジン又はメチレンブルーの両方は、H
2Sの間接的な検出を含む。本発明者は、本明細書において説明したようなボロンドープダイヤモンド材料を用いて水中のH
2Sの直接的な酸化を含む方式を案出した。健康及び環境上の用途に加え、この方法は、硫黄含有量が石油及びガス燃料の量に影響を及ぼす場合のある石油及びガス用途に関する硫黄含有量の検出にも利用できるであろう。
【0137】
pH10でのH
2S(特にHS
-)の検出に関するボロンドープダイヤモンド材料の有効性を評価するための実験を行った。全ての溶液を脱ガスし、Teflon(商標)蓋、攪拌器及び攪拌バー、白金ワイヤ対向電極及びSCE基準電極を含む電気化学セルを用いた。ゴムストッパで封止された脱ガス円錐形フラスコ内で25mMのNaOH中に溶かした10mMのNa
2Sを含む原液を調製した。次に、10mLの四硼酸ナトリウムバッファ(pH10、添加塩なし)への増大する量の原液の追加によってサンプル溶液を調製した。
【0138】
上述の電気化学セルの作用電極として本発明の実施形態としてのボロンドープダイヤモンド電極を用いると、硫黄作用電極上に直接再現可能に沈殿させ、かくして先に報告された濃度よりも極めて低い濃度まで水溶液中のHS
-含有量を直接測定することが可能であることが判明した。結果が
図18及び
図19に示されている。
図18は、Na
2Sの漸変濃度について得られたボルタンモグラムを示しており(内挿図は、ボルタンモグラムの端の部分を詳細に示している)、
図19は、HS
-濃度の増大につれて生じる電流応答の線形増加を示したピーク電流とHS
-の濃度の関係を示すプロット図である。従来、ローレンス他(Lawrence et al.)(エレクトロアナリシス(Electroanalysis),2002年,第14巻(7〜8),p.499〜504)は、1000μMから200μMまでの水溶液中のHS
-を電気化学的に検出することを報告した。しかしながら、ローレンス他は、上述した材料よりも短い溶剤窓を用いて又は変形例として高いバックグラウンド電流と共に作用電極材料の使用に起因して低い濃度を検出することができなかった。これとは対照的に、本明細書において説明したボロンドープダイヤモンド材料を用いると、HS
-濃度に対するピーク電流の線形応答を示しながらpH10で200μM未満、175μM未満、150μM未満、125μM未満、100μM未満、75μM未満、50μM未満、40μM未満、30μM未満、20μM未満、10μM未満、5μM未満、少なくとも2μMまでの濃度で水溶液中のHS
-を検出することが可能であった。すなわち、本発明の材料により、正孔技術において報告された最も低い値と比較して、水溶液中のHS
-の電気化学的検出に関する感度において1桁から2桁の向上が可能であった。この手順をpH8.5で繰り返し実施すると、ピーク電流とHS
-濃度との間に同一の線形応答が示された。これら結果は、
図20及び
図21に示されている(
図20は、Na
2Sの様々な濃度について得られたボルタンモグラムを示し、
図21は、約2μMの濃度までHS
-濃度を増加させた状態で電流応答の線形増加を示すピーク電流とHS
-濃度との関係を示すプロット図である)。
【0139】
さらに、潜在的に邪魔をする種、例えばKNO
3、NaCl及び硫酸塩(SO
42)を添加した場合の作用効果を調べ、そして、これら種が上述したようにHS
-を検出する能力には影響を及ぼすことがなかったということが判明した。
【0140】
したがって、本発明の材料は、極めて低い濃度での硫化水素を検出する能力において著しい向上を提供することが示された。感度におけるそれ以上の向上は、本明細書において説明したボロンドープダイヤモンド材料を用いてマイクロバンド電極構造体を作製することによって得ることができると考えられる。また、本明細書において説明したボロンドープダイヤモンド材料が他の標的種、例えば重金属(環境用途及び石油・ガス用途に関連している)及び有機種(医療診断及び医薬用途に関連している)に関する選択性及び感度の対応の向上を示すことが想定される。
【0141】
本発明を好ましい実施形態に関して具体的に図示すると共に説明したが、当業者であれば理解されるように、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲から逸脱することなく、形態及び細部における種々の変更を行うことができる。