(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現行のスライダ作成工程と親和性を持たせるためには、「熱アシスト記録」方式の記録装置に用いられる半導体レーザ素子は、従来の光ピックアップ用の半導体レーザ素子とは異なり、小さいチップサイズで高い出力を得る必要がある。
また、半導体レーザ素子の実装空間には制限があるため、光学系設計によっては従来の半導体レーザ素子での一般的なTE(Tranverse Electric)偏光だけではなく、TM(Tranverse Magnetic)偏光を実現する必要が生じる場合もある。
【0006】
この発明の目的は、高出力化に適した半導体レーザ素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の半導体レーザ素子は、p型クラッド層およびn型クラッド層と、前記p型クラッド層およびn型クラッド層に挟まれ、砒素系化合物半導体からなるp側ガイド層およびn側ガイド層と、前記p側ガイド層およびn側ガイド層に挟まれ、少なくとも1つの量子井戸層を含む活性層とを備えている。前記p型クラッド層およびn型クラッド層は、それぞれ
Alx1Ga(1−x1))0.51In0.49P層(0≦x1≦1)からなる。前記量子井戸層は、
AlyGa(1−y)As(1−x3)Px3層(0<x3<1,0<y≦0.3)からなる。前記n型クラッド層は、前記n側ガイド層よりもバンドギャップが広く、前記p型クラッド層は、前記p側ガイド層よりもバンドギャップが広い。
【0011】
前記構成では、量子井戸層は、
AlyGa(1−y)As(1−x3)Px3層(0<x3<1,0<y≦0.3)からなる。
AlyGa(1−y)As(1−x3)Px3は、量子井戸層として用いられる他の材料、たとえば、InGaPに比べて、バンドギャップが小さい。このため、クラッド層と活性層との間のバンドギャップ差を大きくすることができる。これにより、温度特性の良い、すなわち、温度が変化したときにしきい値電流や動作電流の変動が少ない半導体レーザ素子を実現することができる。
【0013】
量子井戸層がAlGaAsP層からなる半導体レーザ素子においては、クラッド層はAlGaAs層で形成されるのが一般的である。この発明の構成では、量子井戸層が、
AlyGa(1−y)As(1−x3)Px3層で形成されているのに対し、クラッド層は
Alx1Ga(1−x1))0.51In0.49P層で形成されている。このため、クラッド層と活性層との間のバンドギャップ差を大きくすることができるから、温度特性を向上できる。また、次に詳しく説明するように、亜鉛を拡散させやすくなるため、端面窓構造を作製が容易となる。
【0014】
端面光学損傷(COD:Catastrophic Optical Damage)を抑制するために、レーザ共振器端面部分に亜鉛などの不純物を拡散して、活性層のバンドギャップを拡大する端面窓構造を作製することが考えられる。このような端面窓構造を作製するために、亜鉛等の不純物を拡散する場合、不純物を拡散すべき領域が燐を含んでいれば拡散速度が速くなる。
端面光学損傷とは、半導体レーザを高出力で動作させるために、注入電流を増加させていった場合に、自らの光出力によってレーザ共振器端面が破壊される現象をいう。端面光学損傷は、高出力化を制限する要因となっている。
端面の光学損傷は、次のようにして生ずる。半導体レーザの端面(劈開面)には、多くの界面準位が存在している。電子と正孔がこの界面準位を介して非発光再結合すると、再結合に伴って放出されるエネルギーは熱となる。半導体では、温度が上がるにしたがってそのエネルギーギャップは狭くなるので、放出された熱で暖められた端面のエネルギーギャップが狭くなる。半導体レーザの内部で電子と正孔とが再結合してできた誘導放出光は、端面のエネルギーギャップが狭いため、そこで吸収されて再び熱となり、さらに端面のエネルギーギャップを狭くする。この繰り返しにより、急速に端面が高温になり、溶融して発振が停止する。
前述したように、この発明の構成では、p型クラッド層およびn型クラッド層は、それぞれ燐を含む
Alx1Ga(1−x1))0.51In0.49P層からなる。したがって、亜鉛等の不純物を拡散させやすいので、端面窓構造の作製が容易である。これにより、高出力化に適した半導体レーザ素子を実現することができる。
【0018】
TEモード発振が要求される場合には、
AlyGa(1−y)As(1−x3)Px3層のP組成を減らせばよい。その場合には、製造上はP組成を零にすることが好ましい。
また、前記半導体レーザ素子は、具体的には、発振波長が770nm以上830nm以下であり、かつ前記量子井戸層の膜厚が9nm以上14nm以下であることが好ましい。半導体レーザ素子をTMモードで発振させるためには、活性層を厚くしてTEモードとTMモードの相対発振しきい値電流を小さくすればよいからである。
【0019】
また、前記半導体レーザ素子は、具体的には、レーザ共振器の端面部分に、前記活性層のバンドギャップを拡大する端面窓構造が形成されていることが好ましい。レーザ共振器の端面部分に端面窓構造が形成されると、その端面部分において、活性層のバンドギャップを拡大させることができる。このため、内部で電子と正孔が再結合してできた誘導放出光がレーザ共振器の端面部分で吸収されにくくなるから、発熱を抑制できる。これにより、端面光学損傷を抑制できるので、高出力化が可能となる。
【0020】
端面窓構造は、レーザ共振器の端面部分に例えばZnを選択的に拡散することによって形成することが、量産性の観点から好ましい。レーザ共振器の端面部分に別の材料(例えばクラッド層と同じ材料)を埋め込んだり、端面部分のみ活性層を薄くしたりする方法等を用いて、端面窓構造を形成してもよい
。
【0021】
この発明の一実施形態では、前記半導体レーザ素子は、GaAs基板を含み、TMモードで発振するものである。
この発明の一実施形態では、前記半導体レーザ素子の共振器長が、200μm以上600μm以下である。
この発明の一実施形態では、前記半導体レーザ素子のチップ幅が、50μm以上250μm以下であ
り、チップ厚が、30μm以上150μm以下である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下では、この発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係る半導体レーザダイオードの構成を説明するための平面図であり、
図2は
図1のII-II線に沿う断面図であり、
図3は
図1のIII-III線に沿う断面図である。
この半導体レーザダイオード70は、基板1と、基板1上に結晶成長によって形成された半導体積層構造2と、基板の裏面(半導体積層構造2と反対側の表面)に接触するように形成されたn型電極3と、半導体積層構造2の表面に接触するように形成されたp型電極4を備えたファブリぺロー型のものである。
【0025】
基板1は、この実施形態では、GaAs単結晶基板で構成されている。GaAs基板1の表面の面方位は、(100)面に対して、10°のオフ角を有している。半導体積層構造2を形成する各層は、基板1に対してエピタキシャル成長されている。エピタキシャル成長とは、下地層からの格子の連続性を保った状態での結晶成長をいう。下地層との格子不整合は、結晶成長される層の格子の歪によって吸収され、下地層との界面での格子の連続性が保たれる。
【0026】
半導体積層構造2は、活性層10と、n型半導体層11と、p型半導体層12と、n側ガイド層15と、p側ガイド層16とを備えている。n型半導体層11は活性層10に対して基板1側に配置されており、p型半導体層12は活性層10に対してp型電極4側に配置されている。n側ガイド層15はn型半導体層11と活性層10との間に配置され、p側ガイド層16は活性層10とp型半導体層12との間に配置されている。こうして、ダブルヘテロ接合が形成されている。活性層10には、n型半導体層11からn側ガイド層15を介して電子が注入され、p型半導体層12からp側ガイド層16を介して正孔が注入される。これらが活性層10で再結合することにより、光が発生するようになっている。
【0027】
n型半導体層11は、基板1側から順に、n型GaAsバッファ層13(たとえば100nm厚)およびn型(Al
x1Ga
(1−x1))
0.51In
0.49Pクラッド層(0≦x1≦1)14(たとえば3000nm厚)を積層して構成されている。一方、p型半導体層12は、p型ガイド層16上に、p型(Al
x1Ga
(1−x1))
0.51In
0.49Pクラッド層(0≦x1≦1)17(たとえば1600nm厚)、p型InGaPバンド不連続緩和層18(たとえば50nm厚)およびp型GaAsコンタクト層19(たとえば300nm厚)を積層して構成されている。
【0028】
n型GaAsバッファ層13は、GaAs基板1とn型(Al
x1Ga
(1−x1))
0.51In
0.49Pクラッド層14との接着性を高めるために設けられた層である。n型GaAsバッファ層13は、GaAsにたとえばn型ドーパントとしてのSiをドープすることによって、n型半導体層とされている。
p型GaAsコンタクト層19は、p型電極4とオーミックコンタクトをとるための低抵抗層である。p型GaAsコンタクト層19は、GaAsにたとえばp型ドーパントとしてのZnをドープすることによって、p型半導体層とされている。
【0029】
n型クラッド層14と、p型クラッド層17とは、活性層10からの光をそれらの間に閉じ込める光閉じ込め効果を生じるものである。n型(Al
x1Ga
(1−x1))
0.51In
0.49Pクラッド層14は、(Al
x1Ga
(1−x1))
0.51In
0.49Pにたとえばn型ドーパントとしてのSiをドープすることによって、n型半導体層とされている。p型(Al
x1Ga
(1−x1))
0.51In
0.49Pクラッド層17は、(Al
x1Ga
(1−x1))
0.51In
0.49Pにたとえばp型ドーパントとしてのZnをドープすることによって、p型半導体層とされている。n型(Al
x1Ga
(1−x1))
0.51In
0.49Pクラッド層14は、n側ガイド層15よりもバンドギャップが広く、p型(Al
x1Ga
(1−x1))
0.51In
0.49Pクラッド層17は、p側ガイド層16よりもバンドギャップが広い。これにより、良好な光閉じ込めおよびキャリア閉じ込めを行うことができ、高効率の半導体レーザダイオードを実現できる。
【0030】
高出力化を可能とするためには、端面光学損傷を抑制することが重要である。そこで、後述するように、レーザ共振器端面部分に亜鉛などの不純物を拡散することにより、活性層10のバンドギャップを拡大する端面窓構造40を作製することが好ましい。端面窓構造40を作製するために、亜鉛等の不純物を拡散する場合、不純物を拡散すべき領域が燐を含んでいれば拡散速度が速い。この実施形態では、n型クラッド層14およびp型クラッド層17は、それぞれ燐を含む(Al
x1Ga
(1−x1))
0.51In
0.49P層からなる。したがって、亜鉛等の不純物を拡散させやすいので、端面窓構造40の作製が容易である。これにより、高出力化に適した半導体レーザダイオードを実現できる。
【0031】
また、この実施形態におけるn型クラッド層14およびp型クラッド層17は、(Al
x1Ga
(1−x1))の組成に対するInの組成の比を、0.49/0.51としているので、GaAs基板1と格子整合するため、高品質の結晶を得ることができる。この結果、信頼性の高い半導体レーザ素子が得られる。
n側ガイド層15は、Al
x2Ga
(1−x2)As(0≦x2≦1)層(たとえば50nm厚)からなり、n型半導体層11上に積層されることにより構成されている。p側ガイド層16は、Al
x2Ga
(1−x2)As(0≦x2≦1)層(たとえば50nm厚)からなり、活性層10上に積層されることにより構成されている。
【0032】
n側Al
x2Ga
(1−x2)Asガイド層15およびp側Al
x2Ga
(1−x2)Asガイド層16は、活性層10に光閉じ込め効果を生じる半導体層であり、かつ、クラッド層14,17とともに、活性層10へのキャリア閉じ込め構造を形成している。これにより、活性層10における電子および正孔の再結合の効率が高められるようになっている。
【0033】
Al
x2Ga
(1−x2)Asの屈折率は、Alの組成x2に応じて変化する。たとえば、入射光のエネルギー(フォトンエネルギー)が1.38eVであるとすると、x2=0の場合の屈折率(GaAsの屈折率)は、3.590となり、x2=1の場合の屈折率(AlAsの屈折率)は、2.971となる(前記非特許文献1参照)。したがって、Al
xGa
(1−x)Asでは、屈折率の調整幅が広い。
【0034】
n側ガイド層15およびp側ガイド層17を形成しているAl
x2Ga
(1−x2)As(0≦x2≦1)は、前述したように、バンドギャップ(屈折率)の調整幅が大きいため、出射ビームの設計が容易である。たとえば、横断面の縦横比が1に近い光ビーム、すなわち、横断面が円に近い形状の光ビームを出力させることが可能となる。
ガイド層15,16を形成しているAl
x2Ga
(1−x2)As層は、x2≧0.4を満たす組成を有していることが好ましい。この理由は、x2が0.4より小さいと、レーザ共振器端面部分に端面窓構造を作製したとしても、端面部分での活性層のバンドギャップを十分に拡大することができなくなるからである。これについての詳細は、後述する。
【0035】
活性層10は、たとえば、AlGaAsPを含む多重量子井戸(MQW:multiple-quantum well)構造を有しており、電子と正孔とが再結合することにより光が発生し、その発生した光を増幅させるための層である。
活性層10は、この実施形態では、
図4に示すように、アンドープのAl
yGa
(1−y)As
(1−x3)P
x3層(0<x3<1,0≦y≦0.3)からなる量子井戸(well)層(たとえば13nm厚)221とアンドープのAl
x4Ga
(1−x4)As層(0≦x4≦1)層からなる障壁(barrier)層(たとえば7nm厚)222とを交互に複数周期繰り返し積層して構成された多重量子井戸構造を有している。無歪の状態でのAlGaAsP層の格子定数はGaAs基板1の格子定数より小さいので、Al
yGa
(1−y)As
x3P
(1−x3)層からなる量子井戸層221には引っ張り応力(引っ張り歪)が生じている。これにより、半導体レーザダイオード70は、TMモードで発振することが可能となる。なお、TMモードの出力光は、光伝搬方向に対して磁界方向が垂直(光伝搬方向に対して電界方向が平行)となるTM波となる。
【0036】
量子井戸層221の膜厚は、9nm以上14nm以下であることが好ましい。TMモードで発振させるためには、活性層を厚くしてTEモードとTMモードの相対発振しきい値電流を小さくすればよいからである。
半導体レーザダイオード70をTEモード発振させる場合には、量子井戸層221のP組成を小さくすればよい。その場合には、製造上は、P組成を零にすることが好ましい。
【0037】
量子井戸層221を形成しているAl
yGa
(1−y)As
(1−x3)P
x3は、量子井戸層として用いられる他の材料、たとえば、InGaPに比べて、バンドギャップが小さい。このため、クラッド層14,17と活性層10との間のバンドギャップ差を大きくすることができる。これにより、温度特性の良い、すなわち、温度が変化したときにしきい値電流や動作電流の変動が少ない半導体レーザダイオードを実現できる。
【0038】
量子井戸層221を形成しているAl
yGa
(1−y)As
(1−x3)P
x3層は、Asの組成(1−x3)に対するPの組成X3の比X3/(1−X3)が、1/4以下を満たす組成を有していることが好ましい。この理由は、その比が1/4より大きくては、P組成の増大により、量子井戸層221に生じる引っ張り歪が増大し、クラックやリーク電流が発生するおそれがあるからである。
【0039】
さらに、Al
yGa
(1−y)As
(1−x3)P
x3層は、Asの組成(1−x3)に対するPの組成X3の比X3/(1−X3)が、1/9以上を満たす組成を有していることが好ましい。この理由は、TEモードよりもTMモードの比率(強度比)を高くするためである。半導体レーザ素子70をTMモードで発振させるためには、量子井戸層221に引っ張り歪が生じることが必要である。量子井戸層221の格子定数が小さいほど、量子井戸層221に大きな引っ張り歪を生じさせることができる。量子井戸層221を形成しているAl
yGa
(1−y)As
(1−x3)P
x3層の格子定数は、Asの組成に対するPの組成の比が大きいほど小さくなる。
【0040】
図3に示すように、p型半導体層12内の、p型クラッド層17、p型バンド不連続緩和層18およびp型コンタクト層19は、その一部が除去されることによって、リッジストライプ30を形成している。より具体的には、p型クラッド層17、p型バンド不連続緩和層18およびp型コンタクト層19の一部がエッチング除去され、横断面視がほぼ矩形のリッジストライプ30が形成されている。
【0041】
p型コンタクト層19の側面、p型バンド不連続緩和層18の露出面および(Al
x1Ga
(1−x1))
0.51In
0.49Pクラッド層17の露出面は、電流ブロック層6によって覆われている。
半導体積層構造2は、リッジストライプ30の長手方向両端における劈開面により形成された一対の端面(劈開面)31,32を有している。この一対の端面31,32は、互いに平行である。こうして、n側ガイド層15、活性層10およびp側ガイド層16によって、前記一対の端面31,32を共振器端面とするファブリペロー共振器が形成されている。すなわち、活性層10で発生した光は、共振器端面31,32の間を往復しながら、誘導放出によって増幅される。そして、増幅された光の一部が、共振器端面31,32からレーザ光として素子外に取り出される。
【0042】
共振器長は、たとえば、200μm以上600μm以下であり、この実施形態では300μmである。また、この半導体レーザダイオード70のチップ幅は、たとえば、50μm以上250μm以下であり、この実施形態では、120μmである。また、チップ厚は、たとえば、30μm以上150μm以下であり、この実施形態では、50μmである。
n型電極3は、たとえばAuGe/Ni/Ti/Au合金からなり、そのAuGe側が基板1側に配されるように、基板1にオーミック接合されている。p型電極4は、p型コンタクト層19および電流ブロック層6の露出面を覆うように、形成されている。p型電極4は、たとえばTi/Au合金からなり、そのTi側がp型コンタクト層19に配されるように、p型コンタクト層19にオーミック接合されている。
図1および
図2に示すように、共振器の端面部分には、活性層10のバンドギャップを拡大する端面窓構造40が形成されている。この端面窓構造40は、たとえば、共振器の端面部分に亜鉛(Zn)を拡散することによって形成される。
【0043】
このような構成によって、n型電極3およびp型電極4を電源に接続し、n型半導体層11およびp型半導体層12から電子および正孔を活性層10に注入することによって、この活性層10内での電子および正孔の再結合を生じさせ、たとえば、発振波長が770nm以上830nm以下の光を発生させることができる。この光は、共振器端面31,32の間をガイド層15,16に沿って往復しながら、誘導放出によって増幅される。そして、レーザ出射端面である共振器端面31から、より多くのレーザ出力が外部に取り出されることになる。
【0044】
図5Aは、クラッド層14,17、ガイド層15,16ならびに活性層10の各層のバンドギャップを説明するためのエネルギーバンド図である。
図5Bは、ガイド層を燐系化合物半導体であるInGaAlPで形成した場合の、各層のバンドギャップを説明するためのエネルギーバンド図である。
この実施形態の半導体レーザダイオード70では、活性層10内の量子井戸層221は、砒素系化合物半導体であるAl
yGa
(1−y)As
(1−x3)P
x3層(0<x3<1,0≦y≦0.3)からなる。この実施形態の半導体レーザダイオード70では、クラッド層14,17は、燐系化合物半導体((Al
x1Ga
(1−x1))
0.51In
0.49P(0.5≦x1≦1))で形成されている一方、ガイド層15,16は、燐系化合物半導体ではなく、砒素系化合物半導体(Al
x2Ga
(1−x2)As(0≦x2≦1))で形成されている。
【0045】
図5Aおよび
図5Bに対比して示すように、砒素系化合物半導体であるAl
x2Ga
(1−x2)Asによってガイド層15,16を形成した場合(
図5A)には、燐系化合物半導体であるInGaAlPによってガイド層を形成した場合(
図5B)に比べて、ガイド層15,16のバンドギャップEuを小さくすることができる。したがって、本実施形態による半導体レーザダイオード70では、ガイド層15,16のバンドギャップEuと量子井戸層221のバンドギャップEgとの差(Eu−Eg)を小さくすることができる。
【0046】
一般的に、半導体の場合、バンドギャップ差が小さくなるほど屈折率差が小さくなるので、光閉じ込め効果が過度に大きくなるのを防止でき、レーザ共振器端面部分での光密度を緩和することができる。これにより、端面光学損傷を抑制できるので、高出力化が可能となる。また、Al
x2Ga
(1−x2)Asガイド層15,16は、InGaAlPからなるガイド層よりも熱伝導率が高いので、熱を効率よく逃がすことができるという利点もある。これによっても、半導体レーザダイオード70の制御を安定化できる上、端面光学損傷の抑制に寄与できる。
【0047】
図6(a)は、共振器端面部間の中央部の各層のバンドギャップを示すエネルギーバンド図である。
図6(b)は共振器端面部に形成された端面窓構造におけるバンドギャップを示すエネルギーバンド図である。
前記実施形態では、共振器の端面部分には、活性層10のバンドギャップを拡大する端面窓構造40が形成されている。したがって、
図6(b)に示すように、共振器の端面部分では、活性層10のバンドギャップEgは、共振器中央部の活性層10のバンドギャップEg(
図6(a)参照)とガイド層15,16(障壁層222)のバンドギャップEu(
図6(a)参照)との平均値となる。つまり、共振器の端面部分では、それらの中間部分に比べて、活性層10のバンドキャップEgが大きくなる。このため、内部で電子と正孔が再結合してできた誘導放出光が共振器の端面部分で吸収されにくくなるから、発熱が抑制される。これにより、端面光学損傷の発生を抑制できるので、高出力化が可能となる。
【0048】
ガイド層15,16を形成しているAl
x2Ga
(1−x2)As層が、x2≧0.4を満たす組成を有していることが好ましい理由について詳しく説明する。レーザ共振器端面部分に端面窓構造40を作製すると、端面部分での活性層10のバンドギャップは、ガイド層15,16のバンドギャップと量子井戸層221のバンドギャップとの平均値となる。したがって、端面窓構造40を作製することによって端面部分での活性層10のバンドギャップを十分に拡大するためには、ガイド層15,16のバンドギャップが所定値(具体的には、1.8eV程度)以上であることが必要となる。一方、ガイド層15,16を形成しているAl
x2Ga
(1−x2)As層のバンドギャップは、それに含まれるAlの組成が多いほど、すなち、X2が大きいほど、大きくなる。そして、x2を0.4以上とすることによって、ガイド層15,16のバンドギャップを前記所定値以上とすることができる。
【0049】
図7〜
図10は、
図1〜
図3に示す半導体レーザダイオード70の製造方法を示す横断面図である。
まず、
図7に示すように、GaAs基板1上に、有機金属化学気相成長法(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)によって、n型GaAsバッファ層13、n型(Al
x1Ga
(1−x1))
0.51In
0.49Pクラッド層14、n側Al
x2Ga
(1−x2)Asガイド層15、活性層10、p側Al
x2Ga
(1−x2)Asガイド層16、p型(Al
x1Ga
(1−x1))
0.51In
0.49Pクラッド層17、p型InGaPバンド不連続緩和層18およびP型GaAsコンタクト層19を順に成長させる。なお、活性層10は、Al
yGa
(1−y)As
(1−x3)P
x3層からなる量子井戸層221と、Al
x4Ga
(1−x4)As層からなる障壁層222とを交互に複数周期繰り返し成長させることによって形成される。
【0050】
次に、
図1を参照して、半導体レーザダイオード70の端面近傍に相当する領域に、ZnO(酸化亜鉛)をパターニングする。そして、たとえば、500〜650°Cで約8時間、アニール処理を行うことにより、半導体レーザダイオード70の端面近傍に相当する領域にZnを拡散させる。この際、Znの拡散が活性層10およびn側ガイド層15を通り越して、n型クラッド層14まで達するように、アニール処理を行なう。これにより、半導体レーザダイオード70の端面近傍に相当する領域に、端面窓構造40が形成される。
【0051】
次に、ZnO層除去する。それから、
図8に示すように、ストライプ状の絶縁膜をマスク54として、エッチングにより、P型GaAsコンタクト層19、InGaPバンド不連続緩和層18およびp型(Al
x1Ga
(1−x1))
0.51In
0.49Pクラッド層17の一部を除去する。そうすると、
図9に示すように、頂面にマスク層54が積層されたリッジストライプ30が形成される。
【0052】
次に、
図10に示すように、表面に電流ブロック層6を成膜させる。このとき、マスク層54がマスクとして機能する。そのため、リッジストライプ30の頂面は電流ブロック層6によって覆われない。
この後、マスク層54を除去する。そして、電流ブロック層6およびP型GaAsコンタクト層19の露出面を覆うように、p型GaAsコンタクト層19にオーミック接触するp型電極4が形成される。また、GaAs基板1にオーミック接触するn型電極3が形成される。
【0053】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明はさらに他の形態で実施することができる。たとえば、量子井戸層にPを添加せずに、TEモードで発振する半導体レーザダイオードとしてもよい。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で種々の設計変更を施すことが可能である。