(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、従来の勾配排水システムに代わって、サイフォン排水システムが提案されている。このサイフォン排水システムは、特許文献1に記載されているように、サイフォン排水管の垂下部をなす流出垂直管にて発生するサイフォン力(負圧力)を利用して、水廻り器具からの排水効率を向上させるシステムである。
【0003】
このようなサイフォン排水システムでは、従来の勾配排水システムと比較して、床スラブ上に配接され、水廻り器具と排水立て管とを水平方向につなぐ水平管について勾配を必要としないため、床下寸法を大きくせずとも水平管を長くすることができる。一方、従来の勾配排水システムでは勾配が必要であり、所定の床下寸法内に収めようとすると、水平管は長くても水回り器具から2〜3m程度となり、水平管を長くしようとすると、床下寸法を大きくしなければならなかった。
【0004】
このように、サイフォン排水システムでは水平管を長くすることができるため、排水立て管を水回り器具の近傍に設置する必要がなくなり、設計の自由度を高くすることができるというメリットや、多層集合住宅の場合には、排水立て管を共用部に設置することによりメンテナンスや更新を容易にすることができるというメリットを有している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら上述のサイフォンシステムにおいて、さらに水廻り器具の配置に関する設計自由度を高めるに当たっては、1本あたりのサイフォン排水管の流出垂直管の長さを大きく取り、発生する負圧力を増大させることで水平管長さを伸ばすことが可能であるが、1フロア分の階高さ以上の流出垂直管の長さを取ろうとすると、上階の流出垂直管と下階の流出垂直管とが干渉するので配置が難しく、水廻り器具の配置に関する設計自由度の向上には限界がある。
【0007】
本発明は、上記事実を考慮し、多層集合住宅において水廻り器具の配置に関する設計自由度を向上させることができるサイフォン排水システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に記載のサイフォン排水システムは、多層集合住宅のN階の住居に配設され、サイフォン力を作用させて排水を促進するNサイフォン排水管と、
前記多層集合住宅のN−1階の住居より下方において前記Nサイフォン排水管が合流する第1排水立て管と、前記多層集合住宅のN−1階の住居に配設され、サイフォン力を作用させて排水を促進するN−1サイフォン排水管と、前記第1排水立て管と別位置に設けられ、
前記多層集合住宅のN−2階の住居より下方において前記N−1サイフォン排水管が合流する第2排水立て管と、を有する。
【0009】
請求項1に記載のサイフォン排水システムでは、多層集合住宅のN階の住居に配設されたNサイフォン排水管が、
多層集合住宅のN−1階の住居より下方において第1排水立て管
と合流している。また、多層集合住宅のN−1階の住居に配設されたN−1サイフォン排水管が、
多層集合住宅のN−2下階の住居より下方において、前記第1排水立て管と別位置に設けられた第2排水立て管に
合流している。即ち、上下隣あう住居のNサイフォン排水管とN−1サイフォン排水管とが異なる排水立て管に連結されている。このため、Nサイフォン排水管とN−1サイフォン排水管の各流出垂直管の長さを1フロア分の階高さ以上に設定しても、N階の流出垂直管とN−1階の流出垂直管とが干渉することがない。この結果、Nサイフォン排水管の流出垂直管の長さとN−1サイフォン排水管の流出垂直管の長さを1フロア分の階高さより大きく取れる。従って、1本あたりのNサイフォン排水管の流出垂直管とN−1サイフォン排水管の流出垂直管において発生する負圧力を増すことができる。この負圧力の増大に伴い、単位時間当たりの排水処理流量を増大させることが可能となり、排水性能を向上させることができる。このため、水廻り器具から接続されるサイフォン排水管の水平管の管路長を長く取ることが可能となり、以て多層集合住宅での水廻り器具の配置に関する設計自由度を向上させることができる。
【0012】
本発明の請求項
2は請求項1
に記載のサイフォン排水システムにおいて、前記第1排水立て管と前記第2排水立て管とが前記多層集合住宅の同一階の住居を介して反対側に配置されている。
【0013】
請求項
2に記載のサイフォン排水システムでは、第1排水立て管と第2排水立て管とが多層集合住宅の同一階の住居を介して反対側に配置されている。このため、第1排水立て管に合流するNサイフォン排水管の流出垂直管と、第2排水立て管に合流するN−1サイフォン排水管の流出垂直管の各長さを1フロア分の階高さ以上に設定しても、N階の流出垂直管とN−1階の流出垂直管とが干渉することがない。この結果、Nサイフォン排水管の流出垂直管の長さとN−1サイフォン排水管の流出垂直管の長さを1フロア分の階高さより大きく取れる。従って、1本あたりのNサイフォン排水管の流出垂直管とN−1サイフォン排水管の流出垂直管において発生する負圧力を増すことができる。この負圧力の増大に伴い、単位時間当たりの排水処理流量を増大させることが可能となり、排水性能を向上させることができる。このため、水廻り器具から接続されるサイフォン排水管の水平管の管路長を長く取ることが可能となり、以て多層集合住宅での水廻り器具の配置に関する設計自由度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の本発明のサイフォン排水システムは、上記構成としたため、多層集合住宅で水廻り器具の配置に関する設計自由度を向上させることができる。
【0015】
請求項2に記載の本発明のサイフォン排水システムは、上記構成としたため、多層集合住宅で水廻り器具の配置に関する設計自由度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るサイフォン排水システムの構成を示す概略側面図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係るサイフォン排水システムが適用された多層集合住宅を示す概略側面図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係るサイフォン排水システムの貯留槽の内部、及びサイフォン排水管との接続部を示す斜視図である。
【
図4】本発明の第2実施形態に係るサイフォン排水システムの構成を示す概略側面図である。
【
図5】本発明の第3実施形態に係るサイフォン排水システムの構成を示す概略平面図である。
【
図6】本発明の第4実施形態に係るサイフォン排水システムの構成を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態を
図1〜
図3に従って説明する。
なお、
図1には、本実施形態に係るサイフォン排水システムの構成が概略側面図にて示されており、
図2には、本実施形態に係るサイフォン排水システムが適用された多層集合住宅を示す概略側面図が示されている。
【0019】
図2は、本実施形態に係るサイフォン排水システム10であり、サイフォン力を利用して水廻り器具からの排水を効率よく排出するようになっている。また、本実施形態のサイフォン排水システム10は、多層集合住宅、一例として10階(F1〜F10)で構成された多層集合住宅12に用いられている。
【0020】
サイフォン排水システム10は、排水を下方へ流す複数の排水立て管14を備えており、各排水立て管14はそれぞれ多層集合住宅12の別の場所に設けられている。また、これらの排水立て管14は、多層集合住宅12の各階の各住居、一例として各住居(住戸ともいう)12A、12B、12C、12D、12E、12Fとは壁で区画された配管スペース15内に上下方向(縦方向)に収容されており、多層集合住宅12の各階の床スラブ16を貫いている。なお、多層集合住宅12の1階(F1)部分は、従来の排水システムとなっている。
【0021】
図1に示すように、多層集合住宅12の各住居12A、12B、12C、12D、12E、12Fには、それぞれ複数の水回り器具17が設けられており、これらの水回り器具17には、水回り器具17から排出される排水を流す排水導入管18の一端がそれぞれ接続されている。また、排水導入管18の他端は、貯留槽20と接続されており、排水導入管18は、貯留槽20側が低くなるように勾配をもって配設されている。
【0022】
図3には、本実施形態に係るサイフォン排水システムの貯留槽の内部、及びサイフォン排水管との接続部が斜視図にて示されている。
【0023】
図3に示すように、貯留槽20は、水廻り器具からの排水を一時貯留するためのものであり、貯留槽20の内部には、貯留空間22が構成されている。また、貯留空間22は、仕切部材24によって、一例として2つの個別貯留部22A、22Bに区画されている。なお、各水廻り器具からの複数の排水導入管18A、18Bは、個別貯留部22A、22Bへ各々連結されている。
【0024】
貯留槽20の個別貯留部22A、22Bには、接続部21A、21Bが設けられており、接続部21A、21Bにはサイフォン排水管26が接続されている。
【0025】
図1に示すように、多層集合住宅12における上下隣あう住居12A、12BのN階の住居12Aに配設されたサイフォン排水管をNサイフォン排水管26Aとし、N−1階の住居12Bに配設されたサイフォン排水管をN−1サイフォン排水管26Bとする。また、N階の住居12Aに隣接する住居12Cに配設されたサイフォン排水管をNサイフォン排水管26Cとし、N−1階の住居12Bに隣接する住居12Dに配設されたサイフォン排水管をN−1サイフォン排水管26Dとする。
【0026】
こられのNサイフォン排水管26A、26CとN−1サイフォン排水管26B、26Dとは、それぞれ床スラブ16に沿って配設される無勾配部となっている水平管(横引き管ともいう)28と、水平管28と連通する流出垂直管(竪管ともいう)30とを備えている。また、水平管28は、貯留槽20と連通されており、床スラブ16上で水平方向に無勾配で配設されている。また、水平管28と連通する流出垂直管30は、排水立て管14に沿って、上下方向(鉛直方向)に配設されている。流出垂直管30は、合流部継手32Aに達しており、合流部継手32は、流出垂直管30からの排水を排水立て管14へ合流させるようになっている。
【0027】
なお、ここでの無勾配とは、必ずしも水平方向である必要はなく、床スラブや天井に沿って多少の段差、勾配のあるものを含む。
【0028】
また、サイフォン排水管26の水平管28及び流出垂直管30は、合流部継手32までは他の排水管と途中で合流することなく、連続した排水管で構成されており、排水立て管14へ排水を導くようになっている。また、サイフォン排水管26の水平管28及び流出垂直管30は、排水が満流で流れるように管の内径が設定されており、水平管
28内の排水には、サイフォン水頭のエネルギーにより、排水方向へ向かうサイフォン力が作用される。
【0029】
図1に示すように、貯留槽20には、さらに、通気管34が接続されており、通気管34は、合流部継手32に達している。なお、
図3では通気管34を図示していない。
【0030】
ここで、多層集合住宅12のN階における住居12A、12Cから伸びるNサイフォン排水管26A、26Cが合流する排水立て管を第1排水立て管14Aとする。また、多層集合住宅12のN−1階における隣接する住居12B、12Dから伸びるN−1サイフォン排水管26B、26Dが合流する排水立て管を第2排水立て管14Bとする。なお、第1排水立て管14Aと第2排水立て管14Bとは異なる排水立て管であり、この実施形態では、異なる場所に設けられている。一例として、第1排水立て管14Aと第2排水立て管14Bとは住居12Aや住居12Cを介して反対側に配置されている。そして、Nサイフォン排水管26A、26Cが第1排水立て管14Aに合流する合流部継手32Aは、N階の住居12A、12Cに対して下階となるN−1階の住居12B、12Dの床スラブ16の下方に配置されている。また、N−1サイフォン排水管26B、26Dが第2排水立て管14Bに合流する合流部継手32Bは、N−1階の住居12B、12Dのさらに1階下となるN−2階の住居(下階に隣接する住居)12E、12Fの床スラブ16の下方に配置されている。
【0031】
このため、多層集合住宅12のN階の住居12A、12CのNサイフォン排水管26A、26Cの各流出垂直管30の長さHoと、N−1階の住居12B、12DのN−1サイフォン排水管26B、26Dの各流出垂直管30の長さHoを1フロア分の階高さHF以上にしても、Nサイフォン排水管26A、26Cの流出垂直管30と、N−1サイフォン排水管26B、26Dの流出垂直管30とが干渉することがない。この結果、多層集合住宅12のN階の住居12A、12CのNサイフォン排水管26A、26Cの各流出垂直管30の長さHoと、N−1階の住居12B、12DのN−1サイフォン排水管26B、26Dの各流出垂直管30の長さHoをそれぞれ1フロア分の階高さHFより大きく取れるようになっている。
【0032】
(作用及び効果)
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
本実施形態のサイフォン排水システム10は、多層集合住宅12のN階の住居12A、12Cから伸びるNサイフォン排水管26A、26Cが合流する第1排水立て管14Aと、多層集合住宅12のN−1階の住居12B、12Dから伸びるN−1サイフォン排水管26B、26Dが合流する第2排水立て管14Bと、を有している。即ち、偶数階(2F、4F、6F、8F、10F)と奇数階(3F、5F、7F、9F)とで使用する排水立て管を変えている。
【0033】
従って、合流部継手32AをN階の住居12A、12Cに対して下階となるN−1階の住居12B、12Dの床スラブ16の下方に配置すると共に、合流部継手32Bを、N−1階における隣接する住居12B、12Dのさらに1階下となるN−2階の住居12E、12Fの床スラブ16の下方に配置しても、
図1に示すように、Nサイフォン排水管26A、26Cの流出垂直管30と、N−1サイフォン排水管26B、26Dの流出垂直管30とが干渉することがない。このため、多層集合住宅12のN階の住居12A、12CのNサイフォン排水管26A、26Cの各流出垂直管30の長さHoと、N−1階の住居12B、12DのN−1サイフォン排水管26B、26Dの各流出垂直管30の長さHoをそれぞれ1フロア分の階高さHFより大きく取れる。この結果、本実施形態では、1本あたりのNサイフォン排水管26A、26Cの流出垂直管30とN−1サイフォン排水管26B、26Dの流出垂直管30において発生する負圧力を増すことができる。この1本あたりのNサイフォン排水管26A、26Cの流出垂直管30とN−1サイフォン排水管26B、26Dの流出垂直管30において発生する負圧力の増大に伴い、単位時間当たりの排水処理流量を増大させることが可能となり、排水性能を向上させることができる。このため、水廻り器具17から接続される各水平管28の管路長を長く取ることが可能となり、以て多層集合住宅12での水廻り器具17の配置に関する設計自由度を向上させることができる。
【0034】
また、貯留槽20を備えた本実施形態のサイフォン排水システム10では、多量の排水が行われた際に水廻り器具への排水の溢れを防止することが可能であり、サイフォン排水管26の本数を増やさなくても排水性能を向上させることができる。
【0035】
また、上記実施形態では通気管34が用いられたが、通気手段としてこれに限られるものでなく、例えば貯留槽に通気弁などの弁体を用いてもよい。
【0036】
(第2実施形態)
以下、本発明の第2実施形態を
図4に従って説明する。
図4には、本実施形態に係るサイフォン排水システムの構成が概略側面図にて示されている。
なお、第1実施形態と同一部材に付いては、同一符号を付してその説明を省略する。
【0037】
図4に示すように、本実施形態のサイフォン排水システム10では、第1実施形態の貯留槽20を備えず、Nサイフォン排水管26B、26D及びN−1サイフォン排水管26B、26Dが水回り器具17の排水管に直接接続されている。なお、本実施形態においても、第1実施形態と同様な作用及び効果が得られる。
【0038】
(その他の実施形態)
以上に於いては、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかである。例えば、
図1及び
図4では、第1排水立て管14Aと第2排水立て管14Bとを住居12Aや住居12Cを介して反対側に配置したが、これに代えて、第1排水立て管14Aと第2排水立て管14Bとを住居12Aや住居12Cを介さない接近した場所や、同じ配管スペース15に配置してもよい。
【0039】
また、上記各実施形態では、サイフォン排水管の水平管が長くとれるようになる。このため、
図5に示す第3実施形態のように、N階の隣接する住居12A、12C、12G、12H、12Jのうち、一戸おきの住居12A、12G、12Jに配設されたNサイフォン排水管26A、26G、26Jを住居12A、12C、12G、12H、12Jの一方側(例えば、共用廊下側)に沿って配置された複数の排水立て管14A、14B、14C、14D、14Eにおける1本おきの第1排水立て管14A、14C、14Eに連結し、一戸おきの住居12C、12Hに配設されたNサイフォン排水管26C、26Hを住居12A、12C、12G、12H、12Jの他方側(例えば、バルコニー側)に沿って配置された複数の排水立て管14F、14G、14H、14J、14K、14Lにおける1本おきの第1排水立て管14H、14Kに連結した構成とすることも可能である。なお、本実施形態では、排水立て管14B、14D、14G、14J、14LがN−1サイフォン排水管を連結する第2排水立て管となっている。
【0040】
また、
図6に示す第4実施形態のように、N階の隣接する住居12A、12C、12G、12H、12J、12Kのうち、隣接する住居12A、12CのNサイフォン排水管26A、26Cを、住居12A、12C、12G、12H、12J、12Kの一方側(例えば、共用廊下側)に沿って配置された複数の排水立て管14A、14B、14C、14D、14Eのうちの1本の第1排水立て管14Aに連結し、隣接する住居12G、12HのNサイフォン排水管26G、26Hを1本の第1排水立て管14Cに連結し、隣接する住居12J、12KのNサイフォン排水管26J、26Kを1本の第1排水立て管14Eに連結した構成とすることも可能である。なお、本実施形態では、排水立て管14B、14DがN−1サイフォン排水管を連結する第2排水立て管となっている。
【0041】
また、N階の3つ以上の住居のNサイフォン排水管を第1排水立て管に合流させ、N−1階の3つ以上の住居のN−1サイフォン排水管を第2排水立て管に合流させた構成としてもよい。