特許第6121119号(P6121119)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6121119
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】回転伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 41/08 20060101AFI20170417BHJP
   F16D 27/118 20060101ALI20170417BHJP
【FI】
   F16D41/08
   F16D27/118
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-205387(P2012-205387)
(22)【出願日】2012年9月19日
(65)【公開番号】特開2013-83353(P2013-83353A)
(43)【公開日】2013年5月9日
【審査請求日】2015年5月22日
(31)【優先権主張番号】特願2011-209238(P2011-209238)
(32)【優先日】2011年9月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(72)【発明者】
【氏名】北山 直嗣
(72)【発明者】
【氏名】秋吉 幸治
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光司
【審査官】 瀬川 裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−230588(JP,A)
【文献】 実開昭63−178629(JP,U)
【文献】 特開2009−156283(JP,A)
【文献】 特開2009−293679(JP,A)
【文献】 実開昭63−160064(JP,U)
【文献】 特開2002−345206(JP,A)
【文献】 特開2003−056599(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 41/08
F16D 27/118
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸と、その入力軸と同軸上に配置された出力軸の相互間において回転の伝達と遮断とを行なう2方向クラッチおよびその2方向クラッチの係合および解除を制御する電磁クラッチを有し、前記電磁クラッチの電磁石に対する通電によって前記2方向クラッチを係合解除させるようにした回転伝達装置において、
前記2方向クラッチおよび前記電磁クラッチのそれぞれを収容する筒状ハウジングの一端部の内周に前記2方向クラッチがハウジングの一端開口側に向けて移動するのを防止する位置決め部と前記出力軸を回転自在に支持する軸受とを設け、ハウジングの他端部内周に前記電磁クラッチがハウジングの他端開口から抜け出るのを防止する抜止めリングを設け、前記電磁クラッチの電磁石のコア内に前記電磁石と前記入力軸とを相対回転自在に支持する軸受を設け、前記ハウジング内に組み込まれた前記2方向クラッチおよび前記電磁クラッチを、その抜止めリングと前記位置決め部の少なくとも一方に向けて付勢する弾性部材を前記筒状ハウジングの一端部または他端部の内周に設けた回転伝達装置。
【請求項2】
前記弾性部材が、前記位置決め部で支持される組込みとされた請求項1に記載の回転伝達装置。
【請求項3】
前記抜止めリングが、弾性部材とされた請求項1に記載の回転伝達装置。
【請求項4】
前記弾性部材が、ウェーブばねからなる請求項1乃至3のいずれかの項に記載の回転伝達装置。
【請求項5】
前記弾性部材が、皿ばねからなる請求項1乃至3のいずれかの項に記載の回転伝達装置。
【請求項6】
前記2方向クラッチが、前記出力軸の軸端部に設けられた外輪と前記入力軸の軸端部に設けられた内輪の対向部間に制御保持器と回転保持器を、各保持器に設けられた複数の柱部が周方向に交互に配置される組込みとし、隣接する柱部間に形成された複数のポケットのそれぞれ内部に一対の係合子と、その係合子を離反する方向に付勢する弾性部材を組込み、その弾性部材の押圧により制御保持器と回転保持器をポケットの周方向幅が大きくなる方向に相対回転させて一対の係合子を外輪の内周と内輪の外周に係合させる構成とされ、
前記電磁クラッチが、前記制御保持器に連結されたアーマチュアと、そのアーマチュアと軸方向で対向するロータと、そのロータと軸方向で対向し、通電によりロータにアーマチュアを吸着させる電磁石とを有し、その電磁石に対する通電により前記制御保持器と回転保持器をポケットの周方向幅が小さくなる方向に相対回転させて係合子を係合解除させるようにした構成からなる請求項1乃至5のいずれか1項に記載の回転伝達装置。
【請求項7】
前記入力軸に前記アーマチュアをスライド自在に支持する支持リングを嵌合し、前記入力軸には制御保持器に設けられて前記複数の柱部を支持するフランジの内径面をスライド自在に支持するスライド案内面を設けた請求項6に記載の回転伝達装置。
【請求項8】
前記支持リングが、非磁性体からなる請求項7に記載の回転伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転の伝達と遮断の切換えを行なうことができるようにした回転伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動軸から従動軸への回転の伝達と遮断とを行う回転伝達装置として、2方向クラッチを有し、その2方向クラッチの係合および解除を電磁クラッチにより制御するようにしたものが従来から知られている。
【0003】
特許文献1に記載された回転伝達装置においては、外輪とその内側に組み込まれた内輪との間に制御保持器と回転保持器とを、各保持器に形成された柱部が周方向で交互に配置されるよう組込み、隣接する柱部間に形成されたポケット内に対向一対のローラを組込み、その一対のローラをその対向部間に組み込まれた弾性部材で離反する方向に付勢して、外輪の内周に形成された円筒面と内輪の外周に形成されたカム面に係合する位置にスタンバイさせ、上記内輪の一方向への回転により一方のローラを円筒面およびカム面に係合させ、内輪の回転を外輪に伝達するようにしている。
【0004】
また、内輪に接続された入力軸上に電磁クラッチを設け、その電磁クラッチにより制御保持器を軸方向に移動させ、その制御保持器のフランジと回転保持器のフランジの対向面間に設けられたトルクカムの作用によりポケットの周方向幅が小さくなる方向に制御保持器と回転保持器とを相対回転させて、各保持器の柱部で一対のローラを係合解除位置まで移動させ、内輪から外輪への回転伝達を遮断するようにしている。
【0005】
上記回転伝達装置においては、電磁クラッチにより制御保持器のフランジが回転保持器のフランジから離反する方向に制御保持器を移動させると、対向一対のローラ間に組み込まれた弾性部材の押圧作用により制御保持器と回転保持器とがポケットの周方向幅が大きくなる方向に相対回転して対向一対のローラが円筒面およびカム面に直ちに係合するため、回転方向ガタがきわめて小さく、応答性に優れているという特徴を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−293679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記特許文献1に記載された回転伝達装置においては、外輪、内輪、一対のローラおよび保持器によって形成される2方向クラッチおよびその2方向クラッチを制御する電磁クラッチのそれぞれをハウジングで覆うようにしているが、2方向クラッチや電磁クラッチのハウジング内への組込み状態で、その2方向クラッチおよび電磁クラッチにガタツキがあると、2方向クラッチを精度よく制御することができない。
【0008】
そのような不都合を解消するため、従来では、ハウジングとその内側に組み込まれた2方向クラッチおよび電磁クラッチからなる内蔵部品との対向部間にシムを組み入れるシム調整によってガタツキを取り除くことが行なわれる。しかし、シム調整は、厚さの異なる数種のシムを順次交換しながら組み付ける必要があるため、非常に手間がかかる作業であり、また、シムの組み込みにより部品点数が増えてコストが高くなり、回転伝達装置の組立性の向上やコストの低減を図る上において改善すべき点が残されていた。
【0009】
この発明の課題は、電磁クラッチによって2方向クラッチの係合および解除を制御する回転伝達装置において、ガタツキを取り除くシム調整作業を不要にして組立性の向上を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、この発明においては、入力軸と、その入力軸と同軸上に配置された出力軸の相互間において回転の伝達と遮断とを行なう2方向クラッチおよびその2方向クラッチの係合および解除を制御する電磁クラッチを有し、前記電磁クラッチの電磁石に対する通電によって前記2方向クラッチを係合解除させるようにした回転伝達装置において、前記2方向クラッチおよび前記電磁クラッチのそれぞれを収容する筒状ハウジングの一端部内に前記2方向クラッチがハウジングの一端開口側に向けて移動するのを防止する位置決め部を設け、ハウジングの他端部内周に前記電磁クラッチがハウジングの他端開口から抜け出るのを防止する抜止めリングを設け、前記ハウジング内に組み込まれた前記2方向クラッチおよび前記電磁クラッチを、その抜止めリングと前記位置決め部の少なくとも一方に向けて付勢する弾性部材を設けた構成を採用したのである。
【0011】
上記のように、位置決め部により軸方向に位置決めされ、抜止めリングにより抜止めされる2方向クラッチおよび電磁クラッチからなる内蔵部品を弾性部材によって位置決め部と抜止めリングの一方に向けて付勢することにより、ハウジング内に組込まれた内蔵部品のガタツキをなくすことができる。
【0012】
このため、シム調整を不要とし、回転伝達装置の組立ての容易化とコストの低減を図ることができる。
【0013】
ここで、弾性部材として、ウェーブばねや皿ばねを採用することができる。その弾性部材は、位置決め部で支持される組込みとして、2方向クラッチおよび電磁クラッチからなる内蔵部品を抜止めリングに向けて付勢してもよい。
【0014】
また、弾性部材を抜止めリングと電磁クラッチの対向部間に組み込んで、2方向クラッチおよび電磁クラッチからなる内蔵部品を位置決め部に向けて付勢してもよい。上記抜止めリングを弾性部材で形成して上記内蔵部品を位置決め部に向けて付勢することにより、部品点数をさらに少なくすることができる。
【0015】
この発明に係る回転伝達装置において、2方向クラッチとして、出力軸の軸端部に設けられた外輪と入力軸の軸端部に設けられた内輪の対向部間に制御保持器と回転保持器を、各保持器に設けられた複数の柱部が周方向に交互に配置される組込みとし、隣接する柱部間に形成された複数のポケットのそれぞれ内部に一対の係合子と、その係合子を離反する方向に付勢する弾性部材を組込み、その弾性部材の押圧により制御保持器と回転保持器をポケットの周方向幅が大きくなる方向に相対回転させて一対の係合子を外輪の内周と内輪の外周に係合させるようにした構成のものを採用することができる。
【0016】
また、電磁クラッチとして、制御保持器に連結されたアーマチュアと、そのアーマチュアと軸方向で対向するロータと、そのロータと軸方向で対向し、通電によりロータにアーマチュアを吸着させる電磁石とを有し、その電磁石に対する通電により制御保持器と回転保持器をポケットの周方向幅が小さくなる方向に相対回転させて係合子を係合解除させるようにした構成からなるものを採用することができる。
【0017】
上記のような2方向クラッチおよび電磁クラッチの採用において、入力軸にアーマチュアをスライド自在に支持する支持リングを嵌合し、入力軸には制御保持器に設けられて複数の柱部を支持するフランジの内径面をスライド自在に支持するスライド案内面を設けることによって、アーマチュアは軸方向に間隔をおいた2箇所でもってスライド自在に支持されることになり、アーマチュアをロータに対して常に平行状態に保持することができる。
【0018】
このため、アーマチュアとロータとの対向面間に形成される磁気吸引隙間は周方向の全体にわたって均一な大きさとされ、電磁石への通電によってアーマチュアをロータに確実に磁気吸引することができ、ローラの係合および係合解除を精度よく行うことができる。
【0019】
上記のような支持リングの採用において、その支持リングを非磁性体で形成することにより、アーマチュアから入力軸に磁束が漏洩するのを防止することができ、電磁石として小型のものを採用することができる。
【0020】
上記非磁性体は、非磁性金属であってもよく、樹脂であってもよい。樹脂を採用する場合において、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等の自己潤滑性樹脂を採用することにより、アーマチュアの摺動抵抗を低減し、そのアーマチュアを軸方向にスムーズに移動させることができる。
【発明の効果】
【0021】
この発明においては、上記のように、位置決め部により軸方向に位置決めされ、抜止めリングにより抜止めされる2方向クラッチおよび電磁クラッチを弾性部材により位置決め部と抜止めリングの一方に向けて付勢することにより、ハウジング内に組込まれた2方向クラッチおよび電磁クラッチからなる内蔵部品のガタツキをなくすことができるため、シム調整を不要とし、回転伝達装置の組立ての容易化と、コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】この発明に係る回転伝達装置の実施の形態を示す縦断正面図
図2図1のII−II線に沿った断面図
図3図1のIII−III線に沿った断面図
図4図3のIV−IV線に沿った断面図
図5図1のV−V線に沿った断面図
図6】(a)は、図5のVI−VI線に沿った断面図、(b)は、作動状態を示す断面図
図7図1の外輪の支持部を拡大して示す断面図
図8】この発明に係る回転伝達装置の他の実施の形態を示す縦断正面図
図9】この発明に係る回転伝達装置のさらに他の実施の形態を示す縦断正面図
図10】2方向クラッチの他の例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、この発明に係る回転伝達装置の実施の形態を示す。図示のように、回転伝達装置は、入力軸1と、その入力軸1と同軸上に配置された出力軸2と、その両軸の軸端部を覆うハウジング3と、そのハウジング3内に組み込まれて入力軸1から出力軸2への回転の伝達と遮断とを行なう2方向クラッチ10およびその2方向クラッチ10の係合、解除を制御する電磁クラッチ50とからなる。
【0024】
ハウジング3は円筒状をなし、その一端部には小径の軸受筒4が設けられている。軸受筒4の内周には位置決め部5が設けられている。また、軸受筒4内には出力軸2を回転自在に支持する軸受6と弾性部材7とが組み込まれている。位置決め部5として、ここでは、軸受筒4の内周に一体に形成されたリング状のものを示したが、複数の突起部を環状の配置でもって設けたものであってもよい。また、軸受筒4と別体のものを軸受筒内に取付けるようにしてもよい。
【0025】
弾性部材7は、2方向クラッチ10およびその2方向クラッチ10の係合、解除を制御する電磁クラッチ50のそれぞれをハウジング3の他端開口部の内周に取付けられた止め輪からなる抜止めリング8に向けて付勢して、電磁クラッチ50を抜止めリング8に押し付けている。このため、ハウジング3内に組込まれた2方向クラッチ10と電磁クラッチ50からなる内蔵部品は、ガタツキのない組込みとされている。
【0026】
弾性部材7として、ここでは、図7に示すように、ウェーブばねを採用しているが、皿ばねを用いるようにしてもよい。
【0027】
図1および図2に示すように、2方向クラッチ10は、出力軸2の軸端部に設けられた外輪11の内周に円筒面12を設け、入力軸1の軸端部に設けられた内輪13の外周に複数のカム面14を周方向に形成し、その複数のカム面14のそれぞれと円筒面12間に係合子としての一対のローラ15と弾性部材21とを組込み、そのローラ15を保持器16で保持し、上記内輪13の一方向への回転により一対のローラ15の一方を円筒面12およびカム面14に係合させて内輪13の回転を外輪11に伝達し、また、内輪13の他方向への回転時に他方のローラ15を円筒面12およびカム面14に係合させて内輪13の回転を外輪11に伝達するようにしている。
【0028】
図1に示すように、外輪11には、閉塞端部の内面側に小径の凹部18が形成され、その凹部18内に組み込まれた軸受19によって軸端部に上記内輪13を有する入力軸1が回転自在に支持されている。
【0029】
図1では、入力軸1の軸端部に内輪13を一体に設けた例を示しているが、図8に示すように、入力軸1に対して内輪13を別体とし、その内輪13の内側に入力軸1の軸端部を嵌合し、その嵌合面間に形成されたセレーション36により内輪13と入力軸1とを連結一体化してもよい。
【0030】
図2に示すように、内輪13の外周に形成されたカム面14は、相反する方向に傾斜する一対の傾斜面14a、14bから形成されて外輪11の円筒面12との間に周方向の両端が狭小のくさび形空間を形成しており、上記一対の傾斜面14a、14b間には内輪13の接線方向に向く平坦なばね支持面20が設けられ、そのばね支持面20によって前述の弾性部材21が支持されている。
【0031】
弾性部材21として、図4では、断面が円形の矩形コイルばねが示されているが、これに限定されるものではない。この弾性部材21は、図2に示すように、上記支持面20で支持されるようにして一対のローラ15間に組込まれ、その弾性部材21により一対のローラ15は離反する方向に付勢されている。
【0032】
図1に示すように、保持器16は、制御保持器16Aと、回転保持器16Bとからなる。図1および図5に示すように、制御保持器16Aは、環状のフランジ24の片面外周部にカム面14と同数の柱部25を周方向に等間隔に設け、その隣接する柱部25間に円弧状の長孔26を形成し、外周には柱部25と反対向きに筒部27を設けた構成とされている。
【0033】
一方、回転保持器16Bは、環状のフランジ28の外周にカム面14と同数の柱部29を周方向に等間隔に設けた構成とされている。
【0034】
制御保持器16Aと回転保持器16Bは、制御保持器16Aの長孔26内に回転保持器16Bの柱部29が挿入されて、制御保持器16Aの柱部25と回転保持器16Bの柱部29が周方向に交互に並ぶ組み合わせとされている。そして、その組み合わせ状態で柱部25、29の先端部が外輪11と内輪13間に配置され、制御保持器16Aのフランジ24および回転保持器16Bのフランジ28が入力軸1の外周に嵌合された支持リング30と外輪11間に位置する組込みとされている。
【0035】
上記のような保持器16A、16Bの組込みによって、図2に示すように、制御保持器16Aの柱部25と回転保持器16Bの柱部29間にポケット31が形成され、そのポケット31は内輪13のカム面14と径方向で対向し、各ポケット31内に対向一対のローラ15および弾性部材21が組込まれている。
【0036】
図1に示すように、制御保持器16Aのフランジ24および回転保持器16Bのフランジ28は入力軸1の外周に形成されたスライド案内面32に沿ってスライド自在に支持され、上記回転保持器16Bのフランジ28と入力軸1の支持リング30間にスラスト軸受33が組み込まれている。
【0037】
図1図5および図6(b)に示すように、制御保持器16Aのフランジ24と回転保持器16Bのフランジ28間には、制御保持器16Aの軸方向の移動を回転保持器16Bの回転運動に変換する運動変換機構としてのトルクカム40が設けられている。トルクカム40は、制御保持器16Aのフランジ24と回転保持器16Bのフランジ28の対向面それぞれに周方向の中央部で深く両端に至るに従って次第に浅くなる対向一対のカム溝41、42を設け、一方のカム溝41の一端部と他方のカム溝42の他端部間にボール43を組み込んだ構成としている。
【0038】
カム溝41、42として、ここでは円弧状の溝を示したが、V溝であってもよい。
【0039】
上記トルクカム40は、制御保持器16Aのフランジ24が回転保持器16Bのフランジ28に接近する方向に制御保持器16Aが軸方向に移動した際に、図6(a)に示すように、ボール43がカム溝41、42の溝深さの最も深い位置に向けて転がり移動して、制御保持器16Aと回転保持器16Bをポケット31の周方向幅が小さくなる方向に相対回転させるようになっている。
【0040】
図3および図4に示すように、内輪13に形成されたカム面14の軸方向他側には小径の円筒面45が形成され、その円筒面45に環状の保持プレート46が嵌合されて内輪13に固定されている。保持プレート46の外周面には制御保持器16Aの柱部25と回転保持器16Bの柱部29間の各ポケット31内に配置される複数の回り止め片47が形成されている。
【0041】
複数の回り止め片47は、制御保持器16Aと回転保持器16Bとがポケット31の周方向幅を縮小する方向に相対回転した際に、制御保持器16Aの柱部25および回転保持器16Bの柱部29を両側縁で受け止めて対向一対のローラ15を中立位置に保持するようになっている。
【0042】
保持プレート46の外周部には複数の弾性部材21のそれぞれ外径側に張り出すばね押えアーム48が設けられ、そのばね押えアーム48によって弾性部材21は一対のローラ15間より外径側に逃げでるのが防止されている。
【0043】
図1に示すように、電磁クラッチ50は、制御保持器16Aに形成された筒部27の端面と軸方向で対向するアーマチュア51と、そのアーマチュア51と軸方向で対向するロータ52と、そのロータ52と軸方向で対向する電磁石53とを有している。
【0044】
アーマチュア51は、入力軸1の支持リング30の外周に嵌合されて回転自在に、かつ、スライド自在に支持され、そのアーマチュア51の外周部に設けられた連結筒55内に制御保持器16Aの筒部27が圧入されて制御保持器16Aとアーマチュア51が連結一体化されている。その連結によってアーマチュア51は、支持リング30の円筒状外径面54と入力軸1の外周のスライド案内面32の軸方向の2箇所においてスライド自在の支持とされている。
【0045】
ロータ52は、入力軸1に圧入され、そのロータ52と入力軸1の外周に設けられた支持リング30との間にシム56が設けられている。
【0046】
ここで、支持リング30は、入力軸1のスライド案内面32の軸方向他側に形成された段部34によって軸方向に位置決めされており、その支持リング30とロータ52の間にシム56を組み込むことによって、ロータ52は、軸方向に位置決めされることになる。
【0047】
また、支持リング30は、非磁性体から形成されている。非磁性体は、非磁性金属であってもよく、樹脂であってもよい。
【0048】
図1に示すように、電磁石53は、電磁コイル53aと、その電磁コイル53aを支持するコア53bとからなり、上記コア53bの外側端面には筒部57が形成され、その筒部57内に組み込まれた軸受58は、筒部57の内周に取付けられた止め輪59によって筒部57から抜け出るのが防止されている。また、軸受58は、入力軸1の外径面に形成された段部60と上記止め輪59によって軸方向に位置決めされ、その軸受58によって電磁石53と入力軸1は相対的に回転自在とされている。
【0049】
また、コア53bは、ハウジング3の他端部内に位置する組込みとされて、軸受筒4内に組み込まれた前述の弾性部材7の弾性力によりハウジング3の他端部開口内に取付けた前述の抜止めリング8に押し付けられて抜止めされている。
【0050】
実施の形態で示す回転伝達装置は上記の構造からなり、図1は、電磁石53の電磁コイル53aに対する通電の遮断状態を示し、アーマチュア51はロータ52から離反する状態にある。また、2方向クラッチ10の対向一対のローラ15は、図5に示すように、外輪11の円筒面12および内輪13のカム面14に対して係合するスタンバイ位置に位置している。なお、図1では、アーマチュア51とロータ52は密着した状態が示されているが、実際には両者間に隙間が存在している。
【0051】
2方向クラッチ10のスタンバイ状態において、電磁コイル53aに通電すると、アーマチュア51に吸引力が作用し、アーマチュア51が軸方向に移動してロータ52に吸着される。
【0052】
ここで、アーマチュア51は制御保持器16Aに連結一体化されているため、アーマチュア51の軸方向への移動に伴って制御保持器16Aは、そのフランジ24が回転保持器16Bのフランジ28に接近する方向に移動する。
【0053】
このとき、図6(b)に示すボール43が図6(a)に示すように、カム溝41、42の溝深さの最も深い位置に向けて転がり移動し、制御保持器16Aと回転保持器16Bはポケット31の周方向幅が小さくなる方向に相対回転し、図2に示す対向一対のローラ15が制御保持器16Aの柱部25と回転保持器16Bの柱部29で押されて互いに接近する方向に移動する。このため、ローラ15は円筒面12およびカム面14から係合解除して中立状態となり、2方向クラッチ10は係合解除状態とされる。
【0054】
2方向クラッチ10の係合解除状態において、入力軸1に回転トルクを入力して内輪13を一方向に回転すると、保持プレート46に形成された回り止め片47が制御保持器16Aの柱部25と回転保持器16Bの柱部29の一方を押圧するため、内輪13と共に制御保持器16Aおよび回転保持器16Bが回転する。このとき、対向一対のローラ15は係合解除された中立位置に保持されているため、内輪13の回転は外輪11に伝達されず、内輪13はフリー回転する。
【0055】
ここで、制御保持器16Aと回転保持器16Bがポケット31の周方向幅を小さくなる方向に相対回転すると、制御保持器16Aの柱部25と回転保持器16Bの柱部29が保持プレート46の回り止め片47の両側縁に当接して相対回転量が規制される。
【0056】
このため、弾性部材21は必要以上に収縮することはなくなり、伸長と収縮が繰り返し行われても疲労によって破損するようなことはない。
【0057】
内輪13のフリー回転状態において、電磁コイル53aに対する通電を解除すると、アーマチュア51は吸着が解除されて回転自在となる。その吸着解除により、弾性部材21の押圧によって制御保持器16Aと回転保持器16Bがポケット31の周方向幅が大きくなる方向に相対回転し、対向一対のローラ15のそれぞれが、図2に示すように、円筒面12およびカム面14に係合するスタンバイ状態とされ、その対向一対のローラ15の一方を介して内輪13と外輪11の相互間で一方向の回転トルクが伝達される。
【0058】
ここで、入力軸1を停止して、その入力軸1の回転方向を切換えると、他方のローラ15を介して内輪13の回転が外輪11に伝達される。
【0059】
このように、電磁コイル53aに対する通電の遮断により、制御保持器16Aと回転保持器16Bがポケット31の周方向幅が大きくなる方向に相対回転して、対向一対のローラ15のそれぞれが円筒面12およびカム面14に直ちに噛み込むスタンバイ状態とされるため、回転方向ガタは小さく、内輪13の回転を外輪11に直ちに伝達することができる。
【0060】
また、内輪13から外輪11への回転トルクの伝達は、カム面14と同数のローラ15を介して行われるため、内輪13から外輪11に大きな回転トルクを伝達することができる。
【0061】
なお、制御保持器16Aと回転保持器16Bがポケット31の周方向幅が大きくなる方向に相対回転すると、ボール43は対向一対のカム溝41、42の浅溝部に向けて転がり移動して、図6(b)に示す状態となる。
【0062】
上記のように、電磁クラッチ50の電磁石53への通電を遮断して電磁クラッチ50をOFFにすると2方向クラッチ10が係合し、電磁クラッチ50をONにすると2方向クラッチ10が係合解除するため、フェールセーフ機構が求められる用途にきわめて有効である。
【0063】
図1に示す実施の形態では、制御保持器16Aおよび回転保持器16Bを、その柱部25、29が外輪11と内輪13間に位置し、軸方向で対向するフランジ24,28が外輪11とアーマチュア51間に配置される組込みとしているため、外輪11の軸方向長さのコンパクト化と軽量化とを図ることができる。
【0064】
また、アーマチュア51に設けた連結筒55と制御保持器16Aのフランジ外周部に形成された筒部27とを圧入による嵌合として一体化し、そのアーマチュア51の内径面を入力軸1に嵌合された支持リング30の円筒状外径面でスライド自在に支持し、かつ、制御保持器16Aのフランジ内径面を入力軸1の外周に形成されたスライド案内面32で移動自在に支持することによって、アーマチュア51をロータ52に対して常に平行状態に保持することができ、電磁石53への通電によってアーマチュア51をロータ52に確実に磁気吸引することができる。このため、ローラ15の係合および係合解除を精度よく行うことができる。
【0065】
実施の形態で示すように、入力軸1に嵌合した支持リング30を非磁性体で形成することにより、アーマチュア51から入力軸1に磁束が漏れるのを防止することができ、電磁石53として小型のものを採用することができる。
【0066】
図1に示す実施の形態のように、ハウジング3の軸受筒4内に弾性部材7を組込み、その弾性部材7によってハウジング3内に組み込まれた2方向クラッチ10およびその2方向クラッチ10を制御する電磁クラッチ50からなる内蔵部品をハウジング3の他端部内周に形成された抜止めリング8に向けて付勢して、電磁クラッチ50の電磁石53をその抜止めリング8に押し付けることにより、内蔵部品をガタツキのない組込みとすることができる。
【0067】
このため、従来で必要とされていたシムの組付けによってガタツキをなくすシム調整を不要とすることができ、回転伝達装置の組立ての容易化とコストの低減を図ることができる。
【0068】
図9は、この発明に係る回転伝達装置の他の実施の形態を示す。この実施の形態では、抜止めリング8を弾性部材とし、その弾性部材からなる抜止めリング8の外周部をハウジング3の他端部内周に形成された環状溝9に嵌合して抜止めし、その抜止めリング8により2方向クラッチ10およびその2方向クラッチ10を制御する電磁クラッチ50からなる内蔵部品を抜止めし、かつ、軸受筒4に設けられた位置決め部5に向けて付勢している点で、図1に示す回転伝達装置と相違する。
【0069】
このため、図1に示す部品と同一の部品には同一の符号を付して説明を省略する。
【0070】
図9に示す実施の形態においても、内蔵部品をガタツキのない組込みとすることができ、しかも、図1に示す弾性部材7を省略することができるため、部品点数が少なくなり、コストの低減と組立てのさらなる容易化を図ることができる。
【0071】
弾性部材8として、ここでは、ウェーブばねを示しているが、皿ばねであってもよい。
【0072】
図2に示す実施の形態においては、2方向クラッチ10として、電磁石53に対する通電の解除により制御保持器16Aを軸方向に移動させて、その制御保持器16Aと回転保持器16Bを相対回転させ、係合子としてのローラ15を外輪11の内周と内輪13の外周に係合させるようにしたローラタイプのものを示したが、2方向クラッチはこれに限定されるものではない。
【0073】
例えば、図10に示すように、径の異なる一対の保持器C、Cを内外に配置し、径の大きな外側保持器Cを、図1および図2に示す実施の形態と同様に、制御保持器16Aと回転保持器16Bとで形成し、上記制御保持器16Aの柱部25と回転保持器16Bの柱部29間に形成されたポケット31内に一対の係合子としてのスプラグ37と、その一対のスプラグ37間に弾性部材38とを組込み、上記一対のスプラグ37のそれぞれ内端部を小径側保持器Cに形成されたポケット39内に挿入して、その内端部を中心に揺動自在に支持したスプラグタイプのものであってもよい。
【0074】
上記スプラグタイプの2方向クラッチ10においては、電磁クラッチ50の電磁石53に対する通電を解除すると、一対のスプラグ37が弾性部材38の押圧により外端部が離反する方向に揺動して外輪11の内周円筒面12と内輪13の外周円筒面13aに係合し、また、電磁石53に通電し、制御保持器16Aの軸方向への移動により、その制御保持器16Aと回転保持器16Bを相対回転させると、一対のスプラグ37の外端部が各保持器の柱部25、29で押圧されて外端部が近接する方向に揺動し、外輪11の内周円筒面12および内輪13の外周円筒面13aに対して係合解除するようになっている。
【符号の説明】
【0075】
1 入力軸
2 出力軸
3 ハウジング
5 位置決め部
7 弾性部材
8 抜止めリング
10 2方向クラッチ
11 外輪
12 円筒面
13 内輪
13a 円筒面
14 カム面
15 ローラ(係合子)
16A 制御保持器
16B 回転保持器
21 弾性部材
25 柱部
29 柱部
30 支持リング
31 ポケット
32 スライド案内面
37 スプラグ(係合子)
38 弾性部材
50 電磁クラッチ
51 アーマチュア
52 ロータ
53 電磁石
保持器
保持器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10