特許第6121161号(P6121161)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 川崎重工業株式会社の特許一覧

特許6121161車両空調システム、及びこれを備えた鉄道車両
<>
  • 特許6121161-車両空調システム、及びこれを備えた鉄道車両 図000002
  • 特許6121161-車両空調システム、及びこれを備えた鉄道車両 図000003
  • 特許6121161-車両空調システム、及びこれを備えた鉄道車両 図000004
  • 特許6121161-車両空調システム、及びこれを備えた鉄道車両 図000005
  • 特許6121161-車両空調システム、及びこれを備えた鉄道車両 図000006
  • 特許6121161-車両空調システム、及びこれを備えた鉄道車両 図000007
  • 特許6121161-車両空調システム、及びこれを備えた鉄道車両 図000008
  • 特許6121161-車両空調システム、及びこれを備えた鉄道車両 図000009
  • 特許6121161-車両空調システム、及びこれを備えた鉄道車両 図000010
  • 特許6121161-車両空調システム、及びこれを備えた鉄道車両 図000011
  • 特許6121161-車両空調システム、及びこれを備えた鉄道車両 図000012
  • 特許6121161-車両空調システム、及びこれを備えた鉄道車両 図000013
  • 特許6121161-車両空調システム、及びこれを備えた鉄道車両 図000014
  • 特許6121161-車両空調システム、及びこれを備えた鉄道車両 図000015
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6121161
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】車両空調システム、及びこれを備えた鉄道車両
(51)【国際特許分類】
   B61D 27/00 20060101AFI20170417BHJP
【FI】
   B61D27/00 V
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-285030(P2012-285030)
(22)【出願日】2012年12月27日
(65)【公開番号】特開2014-125166(P2014-125166A)
(43)【公開日】2014年7月7日
【審査請求日】2015年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100100479
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 三喜夫
(72)【発明者】
【氏名】近藤 恒幾
(72)【発明者】
【氏名】坂川 佳司
(72)【発明者】
【氏名】三谷 亮介
(72)【発明者】
【氏名】中井 一人
【審査官】 前原 義明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−132982(JP,A)
【文献】 特開平09−030241(JP,A)
【文献】 特開2009−113656(JP,A)
【文献】 特開2007−216962(JP,A)
【文献】 特開2010−203760(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車幅方向において通路を挟んで左右で座席数が異なることで車体中心位置と通路中心位置とが異なる車体において、客室内空気を吸引して温度調整した調和空気を客室内へ送り込む空調装置を有する車両空調システムであって、
客室天井部において車体中心位置に対して左右対称の位置に配置され、略同等風量の調和空気を車内へ吹き出す第1及び第2の吹出口と、
この第1及び第2の吹出口に配置され、上記第1及び第2の吹出口から下方へ吹き出される各気流の合流位置を、上記車体中心位置と上記通路中心位置とを結ぶ線分を内分する位置に設定する整風と、
を備えたことを特徴とする車両空調システム。
【請求項2】
上記合流位置は、上記車体中心位置と上記通路中心位置とを結ぶ線分を20:80〜86:14の比に内分する位置である、請求項1に記載の車両空調システム。
【請求項3】
上記整風、水平面に対するその配置角度、空気吹出方向における整風板の長さ、整風板の厚さ、及び整風板の枚数の少なくとも一つを、上記第1及び第2の吹出口で異ならせて上記合流位置を設定する、請求項1又は2に記載の車両空調システム。
【請求項4】
上記車体の左右両側に、客室に向けて突出し、車長方向に延びる荷棚をさらに備え、
上記第1及び第2の吹出口は、上記各荷棚の上面から客室天井部の位置であって、上記車体中心位置を中心として車幅方向において対称位置に配置される、請求項1から3のいずれかに記載の車両空調システム。
【請求項5】
車幅方向において通路を挟んで左右で座席数が異なることで車体中心位置と通路中心位置とが異なる車体において、客室内空気を吸引して温度調整した調和空気を客室内へ送り込む空調装置を有する車両空調システムであって、
車体中心位置に対して左右対称の位置に配置され、略同等風量の調和空気を車内へ吹き出す第1及び第2の吹出口と、
この第1及び第2の吹出口にから吹き出される各気流の合流位置を、上記車体中心位置と上記通路中心位置とを結ぶ線分を内分する位置に設定する整風部材と、
上記車体の左右両側に、客室に向けて突出し、車長方向に延びる荷棚とを備え、
上記第1及び第2の吹出口は、上記各荷棚の下側に配置され、
上記整風部材は、上記各荷棚であり、一方の荷棚は、他方の荷棚と異なる形状の下面を有する、車両空調システム。
【請求項6】
車幅方向において通路を挟んで左右で座席数が異なることで車体中心位置と通路中心位置とが異なる車体において、客室内空気を吸引して温度調整した調和空気を客室内へ送り込む空調装置を有する車両空調システムであって、
車体中心位置に対して左右対称の位置に配置され、略同等風量の調和空気を車内へ吹き出す第1及び第2の吹出口と、
この第1及び第2の吹出口にから吹き出される各気流の合流位置を、上記車体中心位置と上記通路中心位置とを結ぶ線分を内分する位置に設定する整風部材と、
上記車体の左右両側に、客室に向けて突出し、車長方向に延びる荷棚とを備え、
上記第1及び第2の吹出口は、上記各荷棚の下側に配置され、
上記整風部材は、左右一方の荷棚の下面に設けられ、下方に向けた突起である、車両空調システム。
【請求項7】
通路を挟んだ座席の下部に配置され、通路中心位置からの距離が略等しい少なくとも2つの客室内空気吸引口をさらに備える、請求項1から6のいずれかに記載の車両空調システム。
【請求項8】
上記第1及び第2の吹出口が車体中心位置から車幅方向に約1m間隔で設置され、
上記整風板は、上記第1の吹出口に設けられる第1整風板と、上記第2の吹出口に設けられる第2整風板とを有し、
上記第1整風板の水平方向に対する第1角度は17度から22度であり、上記第2整風板の水平方向に対する第2角度は27度から41度である、請求項1から4のいずれかに記載の車両空調システム。
【請求項9】
請求項1からのいずれかに記載の車両空調システムを備えたことを特徴とする鉄道車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鉄道車両、航空機、船舶、バスなどの大型車両等に設置される車両空調システム、及びこれを備えた鉄道車両に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば鉄道車両等における空調では、空調装置によって吸引口を介して客室内空気が吸引され、温度調整された空気が調和空気として車体左右側あるいは天井の左右側に設けた吹出口より客室内に吹き出される。このとき、車体の左右両側の吹出口から客室内へ吹き出した調和空気は、車幅方向における車両中心部で合流し、車両中心部にて下降気流となり送風される。
このように車両中心部で下降気流が発生する場合、車両中心部に通路が位置する車両では問題は生じないが、車両の左右で、例えば3列席と2列席のように、座席数が異なる車両では、3列席における通路席の乗客に下降気流があたってしまう。人体に不快感を与える気流をドラフトと呼ぶが、客室内ではドラフトの発生を防止するため、客室内の風速をある程度以下に抑制することが必要である。
【0003】
このようなドラフト発生防止を図る従来技術として、例えば3列席と2列席のように左右での座席数が異なる車両の場合を想定した、例えば特許文献1の技術がある。この発明は、車両中心とは異なる通路上に下降気流を発生させるために、左右での吹き出し風量比を任意に調整するという技術であり、3列席側と2列席側との風量比を54:46に設定したときが最も良いとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】日本国特許第4206298号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような従来技術にて、左右の吹き出し風量を調整するためには、下記1又は2のような構成あるいは方法を採る必要がある。即ち、
1.左右で異なるダクト構成にする、
2.左右で同じダクト構成としたときには、
A)左右のダクトに対して1台の送風機で送風を行う場合には、風量を減らしたい側のダクトあるいは吹出口に、絞りなどの抵抗部材を付加する、
B)左右のダクトに対して2台以上の送風機を1台のモータで駆動して使用する場合には、同一回転で性能の異なる送風機を使用する、同一回転で性能の等しい送風機を使用し各回転数を異ならせる、又は、風量を減らしたい側のダクトあるいは吹出口に、絞りなどの抵抗部材を付加する、
C)左右のダクトに対して2台以上の送風機を2台以上のモータで駆動して使用する。
【0006】
しかしながら、このような左右の吹き出し風量を調整する手法は、以下の問題を発生させる。
即ち、左右で異なるダクトあるいは送風機を使用する場合には、空調関係の製造部品種類の増加、及び施工時において左右での取り付けミス発生の恐れ、が生じ得る。また、絞りなど抵抗部材を付加する場合には、騒音発生の恐れが生じる。1台のモータにて同軸で2台の送風機を駆動する場合に各回転数を異ならせるには、変速機が必要となる。さらに、モータを2台以上使用する場合には機器数が増加する。いずれの場合も部品点数及び設置スペースの増加、などが考えられる。
これらはいずれも、コスト、性能、及び設置スペースの観点において不利である。
【0007】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、左右の吹き出し風量は同程度とした構造において、乗客に直接調和空気を当てず不快感の発生を防止可能な車両空調システム、及びこれを備えた鉄道車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は以下のように構成する。
即ち、本発明の第1態様における車両空調システムは、車幅方向において通路を挟んで左右で座席数が異なることで車体中心位置と通路中心位置とが異なる車体において、客室内空気を吸引して温度調整した調和空気を客室内へ送り込む空調装置を有する車両空調システムであって、
車体中心位置に対して左右対称の位置に配置され、略同等風量の調和空気を車内へ吹き出す第1及び第2の吹出口と、
この第1及び第2の吹出口から吹き出される各気流の合流位置を、上記車体中心位置と上記通路中心位置とを結ぶ線分を内分する位置に設定する整風部材と、
を備えたことを特徴とする。
【0009】
車幅方向における車体両側に配置した第1及び第2の吹出口は、それぞれ同程度の風量を車内へ吹き出すことから、ダクト及び送風機に関してコスト、性能、及び設置スペースにおいて不利な点は発生しない。また、車幅方向において車体中心位置と通路中心位置とが異なる車体では、単に、通路中心位置で両気流を合流させると、車体中心から通路中心側へ流れる気流の方が強くなる傾向があり、通路側座席の乗客に、上述の強い方の気流があたる場合がある。しかしながら本第1態様では、整風部材を備えたことで、第1及び第2の吹出口から吹き出される各気流の合流位置を、車体中心位置と通路中心位置とを結ぶ線分を内分する位置、例えば通路中心よりもわずかに車体中心側へ配置することができる。したがって、左右いずれの通路側座席の乗客にも、直接調和空気は当たらず、不快感の発生を防止することができる。
【0010】
また、本発明の第2態様における鉄道車両は、上述の第1態様の車両空調システムを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第1態様における車両空調システム、及び第2態様の鉄道車両によれば、左右の吹き出し風量は同程度とした構造において、乗客に直接調和空気を当てず不快感の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態1の車両空調システムの一例における概略構成を示す図である。
図2図1に示す整風板の作用を説明するための図である。
図3A図1に示す一方の整風板の詳細図である。
図3B図1に示す他方の整風板の詳細図である。
図4図1に示す車両空調システムの他の例における概略構成を示す図である。
図5図1及び図4に示す車両空調システムにおいて、吹出口及び吸引口の配置可能位置を説明するための図である。
図6】実施形態2の車両空調システムの一例における概略構成を示す図である。
図7図6に示す車両空調システムの変形例を示す図である。
図8】従来の一般的な車両空調システムの一例における概略構成を示す図である。
図9図8に示す断面Aにおける断面図である。
図10図8に示す空調装置の平面図であり、概略構成を示す図である。
図11】従来の一般的な車両空調システムの他の例における概略構成を示す図である。
図12図11に示す断面Aにおける断面図である。
図13図11に示す断面Bにおける断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施形態である車両空調システム及びこれを備えた鉄道車両について、図を参照しながら以下に説明する。尚、各図において、同一又は同様の構成部分については同じ符号を付している。また、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け当業者の理解を容易にするため、既によく知られた事項の詳細説明及び実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。また、以下の説明及び添付図面の内容は、特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
また、以下に説明する実施の形態では、当該車両空調システムを備える車体として鉄道車両を例に採るが、実施形態における車両空調システムは、鉄道車両に限定されず、航空機、船舶、バスなどの大型車両等にも適用することが可能である。
【0014】
まず、図8から図13を参照して、鉄道車両1における従来からの一般的な車両空調システム50、51の全体構成について、その概略を説明する。
車両空調システム50、51は、冷房及び暖房によって客室の車内温度を一定に維持するシステムであり、大きく分けて、空調装置30とダクト40とを備える。ここで空調装置30は、客室内空気2を吸引し温度調整した調和空気3を送出する装置であり、図10に示すように、客室内空気2の吸引口31、温度調整用の熱交換器32、ブロワー33、及びブロワー駆動用モータ34を有する。また空調装置30の構造は、空調装置30の上述の機能を満足する限りこれらの構成に限定するものではない。
ダクト40は、空調装置30に接続された空胴体であり、図9に示すように車幅方向4における車体の左右にて車長方向5に沿って設置され、調和空気3を客室である車内へ吹き出す吹出口を有する。尚、ダクト40の形状は特に限定されないが、空調装置30からの距離に応じて、車長方向5に垂直な断面における断面積を変化させてもよく、かかる場合、一方の空調装置30に接続されたダクト40と他方の空調装置30に接続されたダクト40との断面積の和は、略一定に保たれるように変化させることが好ましい。
【0015】
図8では、鉄道車両1の客室天井部1aに、空調装置30及びダクト40を配置した車両空調システム50の例を示している。尚、図8では、鉄道車両1の前後端部のそれぞれに、空調装置30及びダクト40のセットを設け、ダクト40を車長方向5の前後に分割した構成を示すが、車両全長5に亘ってダクト40を配置してもよく、空調装置30の設置位置を車長方向5の中央寄りとしてもよい。また、前後端部のいずれか一方のみに空調装置30を設け車両全長に渡りダクト40を配置した構成、あるいは車長方向5の中央寄りに空調装置30を設け、空調装置30を挟んで前後方向にダクト40を配置した構成を採ることもできる。
【0016】
また、図11から図13では、鉄道車両1の床下部分1bに空調装置30を配置した車両空調システム51の例を示している。この例では、ダクト40は、床下ダクト41、床中ダクト42、立上ダクト43、天井ダクト44、及び戻しダクト45を有する。ここで、床下ダクト41は、床下部分1bにある空調装置30に接続され、空調装置30から吐出した調和空気3を床中ダクト42へ供給する。床中ダクト42は、車幅方向4における車体左右両側にて車体の床中に配置され、それぞれ車長方向5へ延在する。立上ダクト43は、床中ダクト42に接続され、車体の左右側構体7に沿って車体天井へ立ち上げられている。ここで立上ダクト43は、車長方向5において規定の間隔毎に配置されている。天井ダクト44は、天井部1aにて車体左右両側に配置され、それぞれの立上ダクト43に接続されてそれぞれ車長方向5に延在する。また、各天井ダクト44は、空調装置30から床下ダクト41、床中ダクト42、立上ダクト43を介して供給された調和空気3を客室車内へ吹き出す吹出口を有している。
【0017】
また戻しダクト45は、車体床を貫通して客室内空気2を、床下部分1bにある空調装置30へ導くダクトであり、客室内の座席床部分に、客室内空気2を吸引するための吸引口45aを有する。
【0018】
実施の形態1:
本実施形態の車両空調システムも、基本的には、上述した車両空調システム50又は車両空調システム51の構成を採るが、以下に説明する特徴的な構成を有する点で車両空調システム50、51とは相違する。
【0019】
即ち、図1に示すように本実施形態の車両空調システム101は、車幅方向4において通路9を挟んで左右で座席数が異なることによって、車体中心位置10と通路中心位置11とが異なる車体1に設置される。尚、本実施形態では、図示のように車幅方向4において通路9を挟んだ左右の客室座席数が3列、2列の座席6の場合を例に採るが、座席数をこれに限定するものではなく、例えば2列、1列であってもよい。尚、各座席6は、車長方向5に沿って複数配置されている。また、車両空調システム101においても、上述の構成を有する空調装置30を備えている。尚、この車両空調システム101では、図8に示す構成と同様に、車長方向5における車体両端部分の天井部1aに空調装置30をそれぞれ配置し、各空調装置30からダクト40が天井部1aを車長方向5に延在している。ダクト40は、車幅方向4における両側に設置されており、各空調装置30は、両側のダクト40に略均等に調和空気3を吐出する。
【0020】
このような構成を有する車両空調システム101は、特徴的な構成部分として、第1及び第2の吹出口111,112と、整風部材120とを有する。
第1及び第2の吹出口111,112は、各空調装置30から延在する左右それぞれのダクト40に設けられ、空調装置30からの調和空気3を客室内へ吹き出す開口部であり、左右の各ダクト40に沿って車長方向5に連続して開口している。ここでは説明の便宜上、3列の座席側に対応して第1吹出口111、2列の座席側に対応して第2吹出口112とする。第1吹出口111及び第2吹出口112は、車体中心位置10に対して車幅方向4において左右対称位置に配置され、それぞれ同程度の風量の調和空気3を客室内へ送り出す。
【0021】
このように本実施形態の車両空調システム101では、車幅方向4における左右側において、空調装置30の構造を異ならせること、あるいはダクト40の構造を異ならせることは行っておらず、かつ、第1及び第2の吹出口111,112から均等もしくは略均等に調和空気3を吐出する。
したがって、本実施形態の車両空調システム101では、空調関係の製造部品種類の増加、及び施工時において左右での取り付けミス発生を抑制することができ、また仮に取り付けミスが発生しても、客室内から容易に交換が可能である。また、騒音発生、別個の制御追加の発生もない。よって車両空調システム101は、コスト、性能、及び設置スペースの観点において有利なシステムである。
【0022】
整風部材120は、図2に示すように、第1及び第2の吹出口111,112から吹き出される各気流3a、3bの合流位置115を、車体中心位置10と通路中心位置11とを結ぶ線分を内分する位置に設定する部材である。ここでは、第1吹出口111から客室へ吹き出される気流を気流3a、第2吹出口112から客室へ吹き出される気流を気流3bとしている。また、合流位置115は、車体中心位置10と通路中心位置11とを結ぶ線分を、本実施形態では例えば20:80〜86:14の比に内分する位置である。
このような作用を行う整風部材120を設けることで、第1及び第2の吹出口111,112から客室へ吹き出される各気流3a、3bは、客室内の通路9の領域で下降気流となり下向きに流れる。
また本実施形態では、整風部材120は、第1及び第2の吹出口111,112に取り付けた整風板121、122が相当する。整風板121、122は、短冊状の板材であり、第1及び第2の吹出口111,112に車長方向5に沿って連続して延在する。
【0023】
整風板121、122によって合流位置115を上述の内分位置に設定するために、本実施形態では、図3A及び図3Bに示すように、整風板121、122はそれぞれ、客室内の合流位置115に向けて配向され、かつ整風板121、122の水平方向に対する角度を、第1吹出口111と第2吹出口112とで異ならせている。つまり、第1吹出口111に設けた整風板121は、水平方向に対して角度θ1の傾斜で配向し、第2吹出口112に設けた整風板122は、水平方向に対して角度θ2の傾斜で配向している。尚、天井面は水平であってもよいし、水平面に対して傾斜していてもよい。図3A及び図3Bでは、天井面が傾斜している場合を示している。
【0024】
本実施形態では、第1及び第2の吹出口111,112が車体中心位置10から車幅方向4に約1m間隔の位置に設置される場合において、角度θ1は、例えば17度から22度であり、一実施例として約20度に設定しており、角度θ2は、例えば27度から41度であり、一実施例として約30度に設定している。勿論、車幅方向4における車体中心位置10からの第1及び第2の吹出口111,112の設置位置が変われば、相応して角度θ1、θ2も変更される。
また、一実施例として整風板121、122の、気流3a,3bの吹き出し方向に沿った長さL(図3A)は、約20mm、板厚t(図3A)は約3mmである。
【0025】
このように本実施形態では、第1及び第2の吹出口111,112に整風板121、122を備えたことで、第1及び第2の吹出口111,112から客室へ吹き出される各気流3a,3bの合流位置115を、上述のように車体中心位置10と通路中心位置11とを結ぶ線分を上述の比に内分する位置に設定でき、例えば車体中心位置10からわずかに通路中心位置11側へ配置することができる。既に説明したように、従来、比較的、3列側座席における通路9側の乗客に気流があたる傾向があったが、本実施形態の車両空調システム101によれば、このような傾向は改善され、左右いずれの通路側座席の乗客にも、直接調和空気は当たらず、不快感の発生を防止することができる。
【0026】
尚、本実施形態では、整風板121、122は、第1及び第2の吹出口111,112に対して客室内側へ突出した形態にて設置しているが、突出させることなく第1及び第2の吹出口111,112内に設置してもよい。また、第1及び第2の吹出口111,112と、整風板121、122とを一体で成型して構成してもよい。
【0027】
さらに、合流位置115を上述の内分位置に設定するため、本実施形態では上述のように角度θ1、θ2を変化させたが、これに限定されず、整風板121、122における上述の角度、長さL、厚みt、及び枚数の少なくとも一つのパラメータを変化させてもよい。
【0028】
また、図4に示すように、空調装置30を客室天井部1aではなく床下部分1bに設置してもよい。この場合、空調装置30から吐出された調和空気3は、既に説明したように床下ダクト41、床中ダクト42、立上ダクト43、及び天井ダクト44を介して、天井ダクト44に設けた第1及び第2の吹出口111,112から整風板121、122を通り客室内へ吹き出される。また、客室内空気2は、座席6の床部分に設けた吸引口45aから吸引され、戻しダクト45を介して空調装置30へ戻される。
【0029】
さらにまた、第1及び第2の吹出口111,112は、図5に示すように客室天井部1aにおいて、座席6の上方から各荷棚8の上面に至る吹出口区間116内で、車体中心位置10に対して左右対称位置に配置することができる。ここで各荷棚8は、車幅方向4における車体1の左右側構体7に客室に向けて突出し車長方向5に延在して設置される。また、床下部分1bに空調装置30を設置した場合、吸引口45aにおいても、座席6の通路9側から窓側に至る吸引口区間117内の位置に配置することができる。
吸引口区間117に吸引口45aを配置する場合には、例えば、通路中心位置11に対して等距離もしくは略等距離の位置に配置する。これは、通路中心位置11から見た車体左右両側における吸引力を等しくすることにより、調和空気の気流位置を通路中心位置11とするためである。
【0030】
以上説明したように本実施形態1の車両空調システム101によれば、空調装置30及びダクト40関連の構成部分は、左右における各構成を変更せず同一構成としていることから、既に説明したようにコスト、性能、及び設置スペースの観点において有利な構成となっている。その上で、整風部材120を設けるだけで、乗客に直接調和空気を当てず不快感の発生を防止することが可能となる。
【0031】
実施の形態2:
上述の実施形態1では、整風部材120として整風板121、122を用いた例を説明した。一方、本実施の形態2の車両空調システム102では、整風部材120として荷棚8を利用する形態を説明する。また、本実施の形態2の車両空調システム102では、空調装置30は床下部分1bに配置され、第1及び第2の吹出口111,112は、図6に示すように、荷棚8の下面に対応して車体1の左右側構体7に設置される。また、客室内空気2を吸引する吸引口45aは、座席6の床部分に設けられる。このとき吸引口45aは、例えば上述のように、通路中心位置11に対して等距離もしくは略等距離の位置に配置することができる。尚、第1及び第2の吹出口111,112は、車長方向5において、図11に示すように規定の間隔で設置される立上ダクト43に対応して立上ダクト43毎に配置してもよいし、立上ダクト43毎の吹出口を車長方向5において互いに連通して連続的に配置してもよい。
車両空調システム102におけるその他の構成部分は、上述の車両空調システム101の場合と変わらない。よって、同じ構成部分について、ここでの説明は省略する。
【0032】
本実施の形態2の車両空調システム102では、整風部材120は、車幅方向4における左右の各荷棚8が相当し、一方の荷棚8は、他方の荷棚8と異なる形状の下面を有する。本実施形態2では、図6に示すように、整風部材120は一方の荷棚81であり、この荷棚81は、他方の荷棚82の下面とは異なる下面130を有する。ここで荷棚81は、車幅方向4において通路中心位置11とは反対側に位置する荷棚8が相当する。
【0033】
荷棚81は、車幅方向4における断面が、左右側構体7への取付部である荷棚81の基部81aから荷棚81の先端81bに向けて、その厚みを徐々に大きくするくさび形断面の下面130を有する。また、荷棚81の下面130は、車長方向5に沿って連続して荷棚81に設けている。
【0034】
このように、整風部材120として荷棚81の下面130を用いることで、実施の形態1において図2を参照して説明した場合と同様に、第1及び第2の吹出口111,112から吹き出される各気流3a、3bの合流位置115を、車体中心位置10と通路中心位置11とを結ぶ線分を内分する位置、例えば上述のように、20:80〜86:14の比に内分する位置に設定することができる。
したがって、本実施形態2の車両空調システム102においても、左右いずれの通路側座席の乗客にも、直接調和空気3は当たらず、不快感の発生を防止することができる。
【0035】
上述のように本実施形態2では、整風部材120としての下面130は、通路中心位置11とは反対側に位置する荷棚81の下面であるが、合流位置115を上述の内分位置に設定するために、通路中心位置11側に位置する荷棚82も、荷棚81の下面130とは異なる下面を有しても良い。
【0036】
さらにまた、上述では、荷棚81の下面全体を整風部材120とした形態を説明したが、図7に示すように、荷棚81の先端81bの下面にのみ、下方へ突出する突起131を整風部材120として形成してもよい。突起131は、荷棚81の下面に沿って車長方向5に連続して形成されている。
【0037】
このような突起131によっても、第1及び第2の吹出口111,112から客室内へ吹き出される各気流3a、3bの合流位置115を、車体中心位置10と通路中心位置11とを結ぶ線分を内分する位置、例えば上述のように、20:80〜86:14の比に内分する位置に設定することができる。よって、左右いずれの通路側座席の乗客にも、直接調和空気3は当たらず、不快感の発生を防止することができる。
尚、上述の下面130及び突起131は、荷棚81と別体で形成してもよいし、荷棚81と一体で成型してもよい。
また、実施の形態1で説明したように、客室内空気2を吸引する吸引口45aは、座席6の床部分において座席6の通路9側から窓側に至る吸引口区間117内の位置に配置することができる。またこの場合、吸引口45aは、例えば上述のように、通路中心位置11から等距離もしくは略等距離となる座席6の下部に配置することができる。
【0038】
また、図6に示すような、第1及び第2の吹出口111,112が荷棚8の下面に対応して車体1の左右側構体7に設置され、客室内空気2を吸引する吸引口45aが座席6の床部分に設けられる構成において、上述の下面130及び突起131の構成の代わりに、実施の形態1で説明した整風板121、122を第1及び第2の吹出口111,112に設置してもよい。
このような構成においても、上述と同様の効果を得ることが可能である。
【0039】
また、上述の実施の形態では、通路9が一つの場合について説明したが、これに限られず、航空機や船舶等、2つ以上の通路を備える車両に適用可能であり、各通路中心位置11と車体中心位置10とを結ぶ線分を内分する位置に気流が合流するように整風部材120を備えればよい。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、例えば鉄道車両、航空機、船舶、バスなどの大型車両等における車両空調システム、及びこれを備えた鉄道車両に適用可能である。
【符号の説明】
【0041】
1…車体、1a…客室天井部、2…客室内空気、3…調和空気、4…車幅方向、
5…車長方向、6…座席、7…左右側構体、8…荷棚、10…車体中心位置、
11…通路中心位置、30…空調装置、45a…吸引口、
101,102…車両空調システム、111…第1吹出口、112…第2吹出口、
115…合流位置、120…整風部材、121,122…整風板、
130…下面、131…突起。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13