【実施例】
【0012】
実施例に係る防食リングにつき、
図1から
図13を参照して説明する。以下、
図1の紙面手前側を流体管の側面側として説明する。
【0013】
図1に示すように、本実施例の流体管2は、例えば、地中に埋設される上水道用のダクタイル鋳鉄製であり、断面視略円形状に形成され、内周面が粉体塗装あるいはモルタル層で被覆されている。尚、本発明に係る流体管は、その他鋳鉄、鋼等の金属製であってもよい。更に尚、流体管の内周面はモルタル層に限らず、例えばエポキシ樹脂等により被覆されてもよく、若しくは適宜の材料を粉体塗装により流体管の内周面に被覆してもよい。また、本実施例では流体管内の流体は上水であるが、流体管の内部を流れる流体は必ずしも上水に限らず、例えば工業用水や農業用水、下水等の他、ガスやガスと液体との気液混合体であっても構わない。
【0014】
図1に示される符号1は、既設の流体管網における受口形状を有する受口管3に挿入されて、押輪3a等で受口管3と接続される挿口管である流体管2の管端部に対して取付けられ、流体管2の管端面2aの防食を行う防食リングである。流体管は同程度の規格であってもその内径及び外径に若干のズレがあり、例えば
図2(a)に示される流体管2を防食リング1の取付け対象の標準とした場合、(b)に示される流体管20は同じ規格でありながら、(a)の標準の流体管2に比べ外径,内径ともに僅かに大径となっている。尚、後述するが防食リング1は、これら同程度の規格の流体管に対して共通して取付けて防食効果を奏することができる。
【0015】
図1及び
図3に示されるように、防食リング1は、流体管2の管端面2aを全周に亘って防食する防食粘着層4と、防食粘着層4を管端面2aに押圧する第1樹脂体5と、流体管2の外周に外嵌する取付部7及び該取付部7の端部より内径方向に延出する保持部8を有する第2樹脂体6と、を備えている。
【0016】
防食粘着層4は、粘着力を有するブチルゴム等で形成されており、自らの粘着力で流体管2の管端面2aに貼着されて管端面2aの防食が可能である。また、防食粘着層4は弾性変形可能な素材であり、流体管2の管端面2aへ取付けていない状態では
図3に示されるように第1樹脂体5の径方向の一部に亘り軸方向の厚みを有して貼着され、流体管2の管端面2aへの取付け時において
図1に示されるように第1樹脂体5と管端面2aとで圧潰されて径方向に広がるようになっている。尚、防食粘着層4はブチルゴムに限らず、例えばスチレンブタジエンゴム、天然ゴム、ウレタンゴム等の樹脂体、軟質塩ビ、スチレン系、オレフィン系等の軟質樹脂や、パテ、エポキシ樹脂系の接着材でもよい。
【0017】
第2樹脂体6は、ポリプロピレン等の弾性を有する合成樹脂材により正面視環状をなすように形成されており、その保持部8に後述する第1樹脂体5が固着されている。尚、第2樹脂体6を構成する取付部7及び保持部8の材質は、例えばポリカーボネート、ポリアセタール、ウレタン樹脂等の軟質樹脂材、あるいはステンレス等の金属により構成されてもよい。また、保持部8は、その管軸方向における内径側の厚みH1が外径側の厚みH2より薄く形成されて弾性変形し易く、反対に外径側は変形し難くなっている。
【0018】
また、保持部8と取付部7との境界、すなわち第2樹脂体6の内径は、防食リング1の取付け対象となる同規格内における流体管のいずれの外径よりも大径となるように設計されているため、同規格内における外径の異なる種々の流体管に対して共通して取付けて防食することができる。
【0019】
また、第2樹脂体6における取付部7は、流体管への取付け方向に向かって漸次縮径するテーパーに形成され、その内周面には、管軸方向に離間する2条の係合突部7a,7aが突設されている。尚、この係合突部7a,7aは、取付部7を流体管2の外周に外嵌した際に、流体管2の外周面に弾性押圧されて防食リング1を抜止めするものであるが、後述するように、防食リング1は、防食粘着層4の粘着力により流体管2の管端面2aに接着されるので、係合突部7aは省略することもあるし、あるいは、防食粘着層4の粘着力が低い場合には係合突部を複数設けて流体管2の外周面への係合力を高めるようにしても構わない。
【0020】
第1樹脂体5は、比較的弾性変形しやすいエラストマー等の軟質樹脂で形成されており、一方の面5aが前記保持部8の内面側に一体成型あるいは接着剤等により接着されるとともに、他方の面5bに前記防食粘着層4が設けられている。尚、第1樹脂体5と保持部8との接着は接着剤に限らず、熱溶着等によって行われてもよく、同様に第1樹脂体5と防食粘着層4とは防食粘着層4自らが持つ粘着力に限らず、別途接着剤等を用いて接着されていてもよい。更に尚、第1樹脂体5はエラストマーに限らず、例えば天然ゴム、ウレタンゴム等の樹脂体、軟質塩ビ、スチレン系、オレフィン系等の軟質樹脂でもよい。
【0021】
また、第1樹脂体5の内径は、同規格の流体管における金属部のいずれの内径よりも小径であるように設計されているため、同規格内における内径の異なる種々の流体管に対して共通して取付け、防食を行うことができる。尚、第1樹脂体5はその内径側端部5cが自然状態において前記保持部8の内径方向端部より突出するように設計されており、これによれば第1樹脂体5の内径側端部5cが保持部8と重ならず弾性変形しやすくなっている。また、この内径側端部5cは、前記防食粘着層4が設けられる面5aから面一に延長されている。
【0022】
更に、第1樹脂体5の内径側端部5cは切欠き5dが形成されて軸方向の厚みが薄く形成されており、より弾性変形しやすくなっている。尚、第1樹脂体5の内径側端部5cは、防食粘着層が接着される側の反対側に切欠き5dを備えずとも、後述する洗管ピグ10等の移動に伴い生じる防食リング1が離脱する方向へ掛かる外力を吸収するのに十分な弾性変形が可能である。
【0023】
続いて、流体管内を洗浄するための洗管ピグ等が、流体管内を移動する際における防食リング1の形状変形について
図4から
図9を用いて説明する。尚、
図4から
図6における流体管は
図1及び
図2(a)に示される標準寸法の流体管2である。また、
図4に示される洗管ピグ10は、詳しく図示して説明することは省略するが、スポンジ等で断面円形に形成されており、自然状態では流体管2の内径より大径であり、流体管内に圧縮されて挿入され、ここでは図示しない移動手段又は流体圧等により既設の流体管内を移動しながら流体管内周面を洗浄するものである。
【0024】
図4は、洗管ピグ10が流体管2から受口管3方向へ移動し、洗管ピグ10の先端が防食リング1の第1樹脂体5に当接している様子を示しており、この洗管ピグ10の当接により第1樹脂体5の内径側端部5cが洗管ピグ10の進行方向に倒れるようにして一時的に弾性変形する。
【0025】
続いて洗管ピグ10が受口管3方向へ更に進行すると、
図5に示されるように、第1樹脂体5の内径側端部5cは、外径方向へ押し上げられるようにして変形することで、洗管ピグ10の移動に伴い生じる防食リング1が離脱する方向へ掛かる外力を吸収して軽減することができる。また、このとき内径側端部5cは、洗管ピグ10と保持部8の下端面8bとの間に侵入することで洗管ピグ10の当接状況から逃げることができるため、流体管2の管端面2aから防食粘着層4が剥離されることを防止することができる。
【0026】
このようにして、内径方向に突出する第1樹脂体5の内径側端部5cによって、防食可能な面の面積を広げて種々の内径を有する流体管を防食可能であるとともに、その内径側端部5cが弾性変形することで、流体の流体圧や洗管ピグ等により流体管内において防食リング1が離脱する方向へ掛かる外力を吸収して軽減するため、防食粘着層4が流体管2の管端面2aから離間するのを防ぎ、流体管の管理者が点検などの際に積極的に防食リング1を取り外すまで、永続的に防食することができる。
【0027】
そして、
図6に示されるように、洗管ピグ10が防食リング1の取付け部分の通過を完了すると、第1樹脂体5の内径側端部5cが元の自然状態の形状に弾性復帰する。
【0028】
次に、
図2(b)に示されるような、標準の流体管2に比べ外径,内径ともに大径である流体管20に対して防食リング1を取付けた場合を例にとり洗管ピグ10が流体管20から受口管3方向へ移動する様子を
図7から
図9を用いて説明する。
【0029】
図7は、洗管ピグ10が流体管20から受口管3方向へ移動し、洗管ピグ10の先端が防食リング1の第1樹脂体5に当接している様子を示している。この洗管ピグ10の当接により第1樹脂体5の内径側端部5cが洗管ピグ10の進行方向に倒れるようにして変形する。
【0030】
続いて洗管ピグ10が受口管3方向へ更に進行すると、
図8に示されるように、洗管ピグ10に押圧されて第1樹脂体5が第2樹脂体6の保持部8に対して押圧される。このとき、保持部8は第1樹脂体5に比べ変形しづらい材質で形成されているものの、その内径側8aは第1樹脂体5の変形に合わせて若干の変形が可能であるため、第1樹脂体5に押されて保持部8の内径側8aが外径方向へ押し広げられるようにして変形して第1樹脂体5の弾性変形では吸収しきれない外力が吸収され、洗管ピグ10の進行によって防食粘着層4が流体管20の管端面20aより離脱することがない。
【0031】
更に、前記保持部8の内径側8aの変形時において、第1樹脂体5は第2樹脂体6の保持部内径側8aの変形方向に追随して伸びるように変形するため、第2樹脂体6が防食粘着層4から離れることで防食粘着層4を流体管20の管端面20aから剥離させるように働く力を吸収し、軽減することができる。このように、防食リング1は、標準の流体管2(
図2(a)参照)に比べ内径が大径である流体管20等に対して取付けられた場合でも、防食粘着層4が流体管20の管端面20aから離間するのを防ぐことができる。
【0032】
尚、上述した例のように流体管の内径によっては、第1樹脂体5の内径側端部5cが防食可能な面として活用されない場合もあるが、その場合は
図8に示すように、前記保持部内径側8aの変形により保持部8と流体管20の管端面20aとの間の空間に第1樹脂体5の内径側端部5cが入り込むようになっている。
【0033】
そして、
図9に示されるように、洗管ピグ10が防食リング1の取付け部分を通過すると、第1樹脂体5の内径側端部5cが元の自然状態の形状に弾性復帰する。
【0034】
また、防食リングは上記した実施例の態様に限らず、例えば
図10に示される第1の変形例は、第1樹脂体50の内径側端部50cにおける流体管に取付けられる側の面の周方向に所定距離離間してスリット30が複数箇所形成されており、第1樹脂体内径側端部50cが流体の流体圧や洗管ピグ等による外力により変形し易くなっている。
【0035】
また、
図11に示される第2の変形例は、第1樹脂体が弾性率の異なる2つ第1樹脂体から構成され、保持部81と防食粘着層41との間に介在する第1樹脂体51Aの弾性率よりも、第1樹脂体51A及び保持部81の下方に接着された第1樹脂体51Bの弾性率が小さく設計されている。これによれば、流体の流体圧や洗管ピグ等による外力を受けやすい第1樹脂体51Bを変形し易くするとともに、第1樹脂体51Aに所定の反発力を備えることで防食粘着層41を確実に保持可能である。尚、弾性率の異なる2つの第1樹脂体51A,51Bを、別種類の樹脂材料により構成しても構わない。
【0036】
また、
図12に示される第3の変形例は、保持部82の内径側にスリット31が設けられて変形し易くなっており、更にこのスリット31が開口方向に漸次開口面積を拡大する形状とすることで保持部82の内径側端部82aの移動代を設けたため、流体の流体圧や洗管ピグ等による外力を受け流し易い。
【0037】
尚、スリットの形状は開口方向に漸次開口面積を拡大する形状に限らず、例えば
図13に示されるように、スリット32の形成によって保持部82の内径側管軸方向の厚みを薄くして変形し易くしたものでもよい。更に尚、これらのスリットは、保持部82の全周に亘って設けられなくともよく、周方向に所定距離離間して複数箇所設けられてもよい。
【0038】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0039】
また、前記実施例では、第2樹脂体6と第1樹脂体5とが別々の部材で構成されているが、これらを少なくとも防食粘着層4を保持可能な形状維持力を持つエラストマー等の軟質樹脂により一体に形成してもよい。