(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
粒子径が0.010〜6.0μmであるリン及びケイ素を含有していない無機粉体を主体とする粉体がフィルム樹脂重量当たり0.05〜1.00重量%の割合で、フィルム中に均一に分散され、かつ表面には微細な突起が形成されていることを特徴とする請求項1記載のポリイミドフィルム。
粒子径が0.010〜6.0μmであるリン及びケイ素を含有していない無機粉体を主体とする粉体をフィルム樹脂重量当たり0.05〜1.00重量%含有させることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムは、耐熱性、耐寒性、耐薬品性、電気絶縁性及び機械強度等において優れた特性を有することが知られており、電線の電気絶縁材料、断熱材、フレキシブルプリント配線基板(FPC)のベースフィルム、ICのテープオートメイティッドボンディング(TAB)用のキャリアテープフィルム、及びICのリードフレーム固定用テープ等に広く利用されている。
【0003】
また、ポリイミドフィルムを不活性ガス中で2400℃以上の温度で熱処理し、必要に応じて圧延して得られるグラファイトシートでは、高温熱処理することによって均一発泡状態をつくり出し、これを圧延処理することで柔軟性と弾性とを有する可撓性のグラファイトシートが得られることが知られている(特許文献1及び2参照)。
【0004】
ポリイミドが、これらの用途に用いられる際、重要な実用特性はフィルムの滑り性(易滑性)である。様々なフィルム加工工程において、フィルム支持体(例えば、ロール)とフィルムの易滑性、またフィルム同士の易滑性が確保されることにより、各工程における操作性、取り扱い性を向上させ、更にはフィルム上にシワ等の不良個所の発生が回避できる。
【0005】
従来のポリイミドにおける易滑化技術では、不活性無機化合物(例えば、アルカリ土類金属のオルトリン酸塩、第2リン酸カルシウム無水物、ピロリン酸カルシウム、シリカ、タルク)をポリアミック酸に添加する方法(特許文献3参照)が知られている。
【0006】
また、ポリイミド等の高分子化合物をグラファイト化するために無機質や有機質のフィラーを添加するのが好ましいことが知られている(特許文献2及び特許文献4参照)。フィラーの役割は熱処理後のフィルムを均一発泡の状態にすることにある。即ち、添加されたフィラーは、加熱中にガスを発生し、このガスが発生した後の空洞が通り道となってフィルム内部から分解ガスの穏やかな通過を助ける。フィラーは、こうして均一発泡状態をつくり出すのに役立つ。
【0007】
しかしながら、高分子化合物に添加されているフィラーが高温で熱分解され分解ガスとして放出されたのち、ガスが冷却された際に熱分解物が析出する。その際、例えば第2リン酸水素カルシウムやピロリン酸カルシウム等のようなリンが含有されている化合物が添加されていると、無機リンが析出し、蓄積した無機リンが発火し、グラファイトの発泡を妨げる場合がある。また、シリカのようにケイ素が含有されていると、ケイ素の融点が1414℃であることから、ケイ素が溶解してグラファイトに溶け込み、グラファイトの性能を劣化させるおそれがある。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。本発明のポリイミドフィルムは、リン及びケイ素を含有していない無機粉体を含有することを特徴とする。
【0014】
本発明のポリイミドフィルムを得るに際しての前駆体であるポリアミド酸について説明する。
【0015】
本発明においては、例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン又は、この両者を主成分とする化学物質を、有機溶媒中で付加重合させることによってワニス状ポリアミド酸溶液を得る。
【0016】
本発明のポリイミドフィルムにおけるポリイミドの先駆体であるポリアミド酸とは、芳香族テトラカルボン酸類と芳香族ジアミン類とからなり、次式(1)に示される繰り返し単位を有するものである。
【0018】
上記式(1)において、R
1は、式(2)又は式(3)で表される4価の芳香族基を示す。R
2は式(4)又は式(5)で表される2価の芳香族基を示し、R
3は独立に炭素数1〜6の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、X及びYは独立に単結合又は炭素数1〜15の2価の炭化水素基、O、S、CO、SO、SO
2若しくはCONHである2価の基を示し、nは独立に0〜4の整数を示す。
【化2】
【化3】
【0019】
上記の芳香族テトラカルボン酸類の具体例としては、特に限定されず、ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンジカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル、ピリジン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−デカヒドロナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,8−ジメチル−1,2,5,6−ヘキサヒドロナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,6−ジクロロ−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,7−ジクロロ−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−テトラクロロ−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,8,9,10−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ベンゼン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、3,4,3',4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられ、ピロメリット酸二無水物が好ましい。ポリアミド酸の製造にあたっては、これらの芳香族テトラカルボン酸類の酸無水物が好ましく使用される。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0020】
上記の芳香族ジアミン類の具体例としては、特に限定されず、パラフェニレンジアミン、3,3'−ジアミノジフェニルエーテル、メタフェニレンジアミン、4,4'−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4'−ジアミノジフェニルプロパン、3,3'−ジアミノジフェニルプロパン、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、3,4'−ジアミノジフェニルメタン、3,3'−ジアミノジフェニルメタン、ベンチジン、4,4'−ジアミノジフェニルサルファイド、3,4'−ジアミノジフェニルサルファイド、3,3'−ジアミノジフェニルサルファイド、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、3,4'−ジアミノジフェニルスルホン、3,3'−ジアミノジフェニルスルホン、2,6−ジアミノピリジン、ビス−(4−アミノフェニル)ジエチルシラン、3,3'−ジクロロベンチジン、ビス−(4−アミノフェニル)エチルホスフィノキサイド、ビス−(4−アミノフェニル)フェニルホスフィノキサイド、ビス−(4−アミノフェニル)−N−フェニルアミン、ビス−(4−アミノフェニル)−N−メチルアミン、1,5−ジアミノナフタレン、3,3'−ジメチル−4,4'−ジアミノビフェニル、3,4'−ジメチル−3',4−ジアミノビフェニル3,3'−ジメトキシベンチジン、2,4−ビス(p−β−アミノ−t−ブチルフェニル)エーテル、ビス(p−β−アミノ−t−ブチルフェニル)エーテル、p−ビス(2−メチル−4−アミノペンチル)ベンゼン、p−ビス−(1,1−ジメチル−5−アミノペンチル)ベンゼン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、1,3−ジアミノアダマンタン、3,3'−ジアミノ−1,1'−ジアミノアダマンタン、3,3'−ジアミノメチル1,1'−ジアダマンタン、ビス(p−アミノシクロヘキシル)メタン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、3−メチルヘプタメチレンジアミン、4,4'−ジメチルヘプタメチレンジアミン、2,11−ジアミノドデカン、1,2−ビス(3−アミノプロポキシ)エタン、2,2−ジメチルプロピレンジアミン、3−メトキシヘキサエチレンジアミン、2,5−ジメチルヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘプタメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,12−ジアミノオクタデカン、2,5−ジアミノ−1,3,4−オキサジアゾール、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、N−(3−アミノフェニル)−4−アミノベンズアミド、4−アミノフェニル−3−アミノベンゾエート等が挙げられ、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルが好ましい。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0021】
本発明において、上記したもののうち、芳香族ジアミン成分として4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを、芳香族テトラカルボン酸二無水物成分としてピロメリット酸二無水物を、それぞれ主たる構成成分に使用するものが好ましい。
【0022】
本発明において、ポリイミドフィルムの前駆体であるポリアミド酸溶液の形成に使用される有機溶媒の具体例としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホオイサイド又はN−メチル−2−ピロリドン等の有機極性アミド系溶媒が挙げられ、これらの有機溶媒は単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができ、さらにはベンゼン、トルエン、キシレン等の非溶媒と組み合わせて使用することもできる。
【0023】
重合方法は公知のいずれの方法で行ってもよく、例えば
(1)先に芳香族ジアミン成分全量を溶媒中に入れ、その後芳香族テトラカルボン酸類成分を芳香族ジアミン成分全量と当量になるよう加えて重合する方法。
(2)先に芳香族テトラカルボン酸類成分全量を溶媒中に入れ、その後芳香族ジアミン成分を芳香族テトラカルボン酸類成分と当量になるよう加えて重合する方法。
(3)一方の芳香族ジアミン化合物を溶媒中に入れた後、反応成分に対して芳香族テトラカルボン酸類化合物が95〜105モル%となる比率で反応に必要な時間混合した後、もう一方の芳香族ジアミン化合物を添加し、続いて芳香族テトラカルボン酸類化合物を全芳香族ジアミン成分と全芳香族テトラカルボン酸類成分とがほぼ当量になるよう添加して重合する方法。
(4)芳香族テトラカルボン酸類化合物を溶媒中に入れた後、反応成分に対して一方の芳香族ジアミン化合物が95〜105モル%となる比率で反応に必要な時間混合した後、芳香族テトラカルボン酸類化合物を添加し、続いてもう一方の芳香族ジアミン化合物を全芳香族ジアミン成分と全芳香族テトラカルボン酸類成分とがほぼ当量になるよう添加して重合する方法。
(5)溶媒中で一方の芳香族ジアミン成分と芳香族テトラカルボン酸類をどちらかが過剰になるよう反応させてポリアミック酸溶液(A)を調整し、別の溶媒中でもう一方の芳香族ジアミン成分と芳香族テトラカルボン酸類をどちらかが過剰になるよう反応させポリアミック酸溶液(B)を調整する。こうして得られた各ポリアミック酸溶液(A)と(B)を混合し、重合を完結する方法。この時ポリアミック酸溶液(A)を調整するに際し芳香族ジアミン成分が過剰の場合、ポリアミック酸溶液(B)では芳香族テトラカルボン酸成分を過剰に、またポリアミック酸溶液(A)で芳香族テトラカルボン酸成分が過剰の場合、ポリアミック酸溶液(B)では芳香族ジアミン成分を過剰にし、ポリアミック酸溶液(A)と(B)を混ぜ合わせこれら反応に使用される全芳香族ジアミン成分と全芳香族テトラカルボン酸類成分とがほぼ当量になるよう調整する。なお、重合方法はこれらに限定されることはなく、その他公知の方法を用いてもよい。
【0024】
本発明においてポリアミド酸を構成する芳香族テトラカルボン酸類と芳香族ジアミン類とは、それぞれのモル数が大略等しくなる割合で重合されるが、その一方が10モル%、好ましくは5モル%の範囲内で他方に対して過剰に配合されてもよい。
【0025】
重合反応は、有機溶媒中で撹拌・混合しながら、0〜80℃の温度の範囲で、10分〜30時間連続して進められるが、必要により重合反応を分割したり、温度を上下させてもよい。両反応体の添加順序には特に制限はないが、芳香族ジアミン類の溶液中に芳香族テトラカルボン酸類を添加することが好ましい。重合反応中に真空脱泡することは、良質なポリアミド酸の有機溶媒溶液を製造するのに有効な方法である。また、重合反応の前に芳香族ジアミン類に少量の末端封止剤を添加することによって、重合反応の制御を行ってもよい。前記末端封止剤は、特に限定されず、公知のものを使用することができる。
【0026】
かかるワニス状ポリアミド酸溶液と無水酢酸を主成分とする脱水環化試剤とを混合した後、得られる混合液を支持体に流延させ、支持体上で予備乾燥の上、高温加熱し、脱溶媒とイミド環閉環を同時に進行させる化学的転化法でポリイミドを得ることが好ましい。また、ワニス状ポリアミド酸溶液を脱水環化試剤と反応させ、ワニス状態を維持したままイミド環を完全又は部分的に閉環させた後、ワニス状ポリアミド酸溶液を支持体上に流延し、支持体上で予備乾燥の上、拘束下に高温加熱することにより、脱溶媒とイミド環閉環を行い製膜することも好ましい。
【0027】
本発明で用いるポリアミド酸の有機溶媒溶液(ポリアミド酸溶液)は、特に限定されないが、固形分を、通常5〜40重量%、好ましくは10〜30重量%を含有する。また、その粘度はブルックフィールド粘度計による測定値であり、特に限定されないが、通常10〜2000Pa・sであり、安定した送液のために、好ましくは100〜1000Pa・sである。また、有機溶媒溶液中のポリアミド酸は部分的にイミド化されていてもよい。
【0028】
本発明のフィルム表面に突起を形成させるために樹脂に添加される、リン及びケイ素を含有していない無機粉体は、前記のポリイミドフィルム製造工程で接触する全ての化学物質に対して不溶であるものが好ましい。また、本発明の無機粉体(以下、フィラー粒子ともいう。)は、ワニス状ポリアミド酸溶液中で安定し、かつ物理的に安定し、ポリイミドの諸物性に影響を与えることがない。さらに、本発明の無機粉体は、凝集を防止することができる点から、N,N−ジメチルホルムアミド、N、N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホオキサイド、n−メチルピロリドン等の極性溶媒に均一に分散させたスラリーとして使用することが好ましい。
【0029】
また、スラリーの沈降、凝集を防止するため、有機極性溶媒中に予め重合したポリアミド酸溶液を添加することが好ましい。ここで使用するポリアミド酸溶液は、予め重合したポリアミド酸溶液であってもよく、フィラー粒子を含有させる際に順次重合したものであってもよい。また、フィラー粒子を均一に分散させるため、ホモジナイザー、摩砕型ミルを用いて分散させることが好ましい。前記ホモジナイザー、摩砕型ミルは、特に限定されず、公知のものを使用することができる。
【0030】
本発明における無機粉体の粒径は、0.010〜6.0μmの範囲内にあるものが好適である。0.010μm未満になると、走行性不良が発生するので好ましくなく、また6.0μmを超えるとグラファイト化する際に発泡が不均一となり、発泡が大きい膨れが発生するため外観上好ましくない。そのため、無機粉体の粒径は、0.010〜6.0μmの範囲内が好ましく、0.15〜3.0μmの範囲内がより好ましく、0.20〜2.0μmの範囲内が更に好ましい。また、無機粉体の平均粒子径は、発泡がより均一になる点から、0.5〜1.5μmが好ましく、0.7〜1.3μmがより好ましく、0.8〜1.2μmが更に好ましい。前記粒度分布、平均粒子径は、堀場製作所の超遠心式自動粒径分布測定装置CAPA−700を用いて測定した値である。
【0031】
本発明において、無機粒子の添加量は、1.00重量%を越えると機械的強度低下がみられる又は外観不良を起こすため好ましくなく、0.05重量%以下では、十分な易滑性効果が見られない等の不具合が見られ好ましくない。そのため、無機粉体の添加量は、前記ポリアミド酸溶液に樹脂重量当たり0.05〜1.00重量%が好ましく、0.07〜0.30重量%がより好ましい。前記無機粉体の添加量は、堀場製作所の超遠心式自動粒径分布測定装置CAPA−700を用いて測定した値である。
【0032】
無機粉体としては、通常フィルムの易滑性を発現させ、かつリンやケイ素を含まないものであれば特に限定されず、例えば、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。これらの中では、グラファイトに悪影響を及ぼさないカルシウムと、炭酸ガスとして容易に除去できる成分とからなる炭酸カルシウムが特に好ましい。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0033】
本発明の他の態様としては、前記ポリイミドフィルムを、不活性ガス中で加熱処理(以下、本焼成ともいう。)する工程を含むグラファイトシートの製造方法が挙げられる。前記加熱処理の温度は、2400℃以上が好ましく、2600℃以上がより好ましい。最終加熱処理の温度は、2700℃以上が好ましく、2800℃以上がより好ましく、3000℃近辺がさらに好ましい。焼成温度が3500℃より大きいと焼成炉の耐熱劣化が大きく長時間の生産が難しい。最高焼成温度が2000℃未満の場合は、得られたグラファイトは硬くて脆くなる傾向がある。また、必要に応じて、加熱処理後に公知の方法で圧延してもグラファイトシートが得られる。加熱処理には、公知の加熱手段を使用できる。加熱時間は、特に限定されないが、10分〜80分程度が好ましい。
【0034】
グラファイト化の加熱処理は、通常、不活性ガス中で行われる。前記不活性ガスとしては、特に限定されず、ヘリウム、アルゴン、窒素等が挙げられる。焼成時の圧力は常圧でよい。また、必要に応じて、加熱処理後に公知の方法で圧延処理をしてもよい。このグラファイト化工程において炭素−炭素の結合がグラファイト結晶へ転化するグラファイト化が生じてグラファイトシートが形成される。
【0035】
さらに、グラファイトシートの製造方法においては、必要に応じて、前記加熱処理の前に、予備加熱処理(以下、予備焼成ともいう。)を行ってもよい。予備加熱処理の温度は、本加熱処理の温度より低い温度が好ましい。具体的には、900℃以上1500℃以下程度が好ましい。予備加熱処理の昇温速度は、特に限定されないが、例えば、1〜15℃/分程度で行われる。予備加熱処理も、通常、不活性ガス中で行われる。前記不活性ガスとしては、上記と同様のものが使用できる。予備加熱処理の時間は、特に限定されないが、10〜120分程度が好ましい。
【0036】
熱処理の際、グラファイト化の過程で発生するガスの影響を抑えるために、ポリイミドフィルム厚さは、5μm以上200μm以下の範囲であるのが好ましく、10μm以上150μm以下の範囲であるのがより好ましい。原料フィルムの厚さが200μmを超えると、熱処理過程時にフィルム内部より発生するガスによって、フィルムがボロボロになり、単独で良質の材料として使用することは難しくなるおそれがある。
【0037】
上記のようにして得られるグラファイトシートは、外観上も好ましく、1mm以上の大きな膨れが発生しない。
【実施例】
【0038】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0039】
本発明における測定方法及び外観の評価基準について以下に説明する。
【0040】
(a)無機粒子の粒度分布
堀場製作所(株)製のCAPA−700を用い、極性溶媒に分散させた試料を測定した。
(b)摩擦係数(静摩擦係数)
フィルムの処理面同士を重ね合わせ、JIS K−7125(1999)に基づき測定した。すなわち、スベリ係数測定装置Slip Tester(株式会社テクノニーズ製)を使用し、フィルム処理面同士を重ね合わせて、その上に200gのおもりを載せ、フィルムの一方を固定、もう一方を100mm/分で引っ張り、摩擦係数を測定した。
(c)フィルムの機械強度(抗張力、伸度)
ASTM D−882−68に準じて、オートグラフ装置で測定した。
(d)外観
100mm四方のグラファイトシートを目視により、以下の評価基準で評価した。
○:異常膨れもなく、1mm以上の大きな膨れなし
△:1mm以上の大きな膨れあり
×:割れ、異常膨れあり
(e)発泡
100mm四方のグラファイトシートを目視により、以下の評価基準で評価した。
良好:発泡が全体的に均一
不良:発泡しない、あるいは斑がある
【0041】
[実施例1]
乾燥したN,N−ジメチルアセトアミド190.6Kg中に4,4’−ジアミノジフェニルエーテル20.024kg(0.1キロモル)を溶解し、20℃で撹拌しながら、精製した粉末状のピロメリット酸二無水物21.812kg(0.1キロモル)を少量ずつ添加し、1時間撹拌し続けて、透明なポリアミド酸溶液を得た。
次いで、粒径が0.01μm未満及び6μm以上が排除された平均径1.0μmの炭酸カルシウムをN,N−ジメチルアセトアミドにて摩砕型ミルを用いて分散させたスラリーを前記ワニス状ポリアミド酸溶液に樹脂重量当たり0.07重量%添加し、十分攪拌、分散させた後、ワニス状ポリアミド酸溶液を得た。
【0042】
このワニス状ポリアミド酸溶液に無水酢酸(分子量102.09)とβ−ピコリンを、ポリアミド酸溶液に対しそれぞれ17重量%、17重量%の割合で混合、攪拌した。得られた混合物を、T型スリットダイより回転する75℃のステンレス製ドラム上にキャストしたのち、ゲルフィルムをドラムから引き剥がし、両端を把持し、加熱炉にて250℃×50秒、400℃×75秒処理し、幅2.2m、厚さ38μmのポリイミドフィルムを得た。
【0043】
このポリイミドフィルムを熱処理による発泡性を出すために、予備焼成を窒素中で昇温速度5℃/分で昇温し、最高処理温度を1200℃とした。さらに、本焼成をArガス雰囲気下で昇温速度20℃/分で行い、最高処理温度を2800℃とした。2800℃で1時間熱処理して黒鉛化処理を行い、グラファイトシートが得られた。得られたグラファイトシートには均一に発泡が見られた。1mm以上の大きな膨れの発生はなかった。
【0044】
[実施例2]
実施例1と同様の方法で、炭酸カルシウムの添加量を0.15重量%に変更し、十分攪拌、分散させた後、実施例1と同一の方法で、厚さ25μmのポリイミドフィルムを得た。
また、実施例1と同一の方法でグラファイトシートを得た。得られたグラファイトシートには均一に発泡が見られた。また1mm以上の大きな膨れの発生はなかった。
【0045】
[実施例3]
実施例1と同様の方法で、粒径が0.01μm未満及び6μm以上が排除された平均径0.8μmの炭酸カルシウム添加量を0.50重量%に変更し、十分攪拌、分散させた後、実施例1と同一の方法で、厚さ75μmのポリイミドフィルムを得た。
また、実施例1と同一の方法でグラファイトシートを得た。得られたグラファイトシートには均一に発泡が見られた。また1mm以上の大きな膨れの発生はなかった。
【0046】
[実施例4]
乾燥したN,N−ジメチルアセトアミド186.67Kg中にパラフェニレンジアミン(分子量108.14)3.244kg及び4,4’−ジアミノジフェニルエーテル14.017kgを溶解し、20℃で撹拌しながら、精製した3,3’,4、4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(分子量294.22)7.356kg及びピロメリット酸二無水物16.359kgを少量ずつ添加し、1時間撹拌し続けて、透明なポリアミド酸溶液を得た。つづいて粒径が0.01μm未満及び6μm以上が排除された平均径1.2μmの炭酸カルシウム添加量を0.30重量%に変更し、十分攪拌、分散させた後、実施例1と同一の方法で厚さ38μmのポリイミドフィルムを得た。
また、実施例1と同一の方法でグラファイトシートを得た。得られたグラファイトシートには均一に発泡が見られた。また、1mm以上の大きな膨れの発生はなかった。
【0047】
[実施例5]
乾燥したN,N−ジメチルアセトアミド178.0Kg中にパラフェニレンジアミン(分子量108.14)3.244kg及び4,4’−ジアミノジフェニルエーテル14.017kgを溶解し、20℃で撹拌しながら、精製した粉末状のピロメリット酸二無水物21.812kgを少量ずつ添加し、1時間撹拌し続けて、透明なポリアミド酸溶液を得た。実施例1と同様の方法で、炭酸カルシウム添加量を0.2重量%に変更し、十分攪拌、分散させた後、実施例1と同一の方法で厚さ68μmのポリイミドフィルムを得た。
また、実施例1と同一の方法でグラファイトシートを得た。得られたグラファイトシートには均一に発泡が見られた。また、1mm以上の大きな膨れの発生はなかった。
【0048】
[比較例1]
炭酸カルシウムを添加しない以外は実施例1と同様にして作製したワニス状ポリアミド酸溶液を用いて、厚さ50μmのポリイミドフィルムを得た。しかし、フィルム搬送工程で皺やキズが入り、外観上よくなかった。
また、実施例1と同一の方法でグラファイトシートを製造しようとしたが、焼成の際に割れが生じて均一に発泡しなかった。
【0049】
[比較例2]
比較例1と同一の方法により得られたワニス状ポリアミド酸溶液に、粒径において0.01μm未満及び6μm以上が排除された平均粒径1.0μmの無水第2リン酸カルシウム(Ca
2HPO
4)を樹脂重量当たり、0.15重量%添加し十分攪拌、分散させた後、比較例1と同一の方法にて、厚さ25μmのポリイミドフィルムを得た。
また、実施例1と同一の方法でグラファイトシートを得た。しかし、熱分解により発生した無機リンの影響と思われる1mm以上の大きな膨れの発生がいくつか見られ均一に発泡しなかった。
【0050】
[比較例3]
比較例1と同一の方法により得られたワニス状ポリアミド酸溶液に、粒径において0.01μm未満及び6μm以上が排除された平均粒径1.0μmの無水第2リン酸カルシウム(Ca
2HPO
4)を樹脂重量当たり、0.3重量%添加し十分攪拌、分散させた後、比較例1と同一の方法にて、厚さ50μmのポリイミドフィルムを得た。
また、実施例1と同一の方法でグラファイトシートを得た。しかし、熱分解により発生した無機リンの影響と思われる1mm以上の大きな膨れが多く発生し均一に発泡しなかった。
【0051】
[比較例4]
実施例1と同様の方法で、炭酸カルシウムの添加量を0.03重量%に変更し、十分攪拌、分散させた後、実施例1と同一の方法で、厚さ50μmのポリイミドフィルムを得た。しかし、十分な易滑性効果が得られなかったため、フィルム搬送工程で皺やキズが入り外観上よくなかった。
また、実施例1と同一の方法でグラファイトシートを得たが、焼成の際に割れが生じて外観上優れていなかった。
【0052】
[比較例5]
実施例1と同様の方法で、炭酸カルシウムの添加量を1.2重量%に変更し、十分攪拌、分散させた後、実施例1と同一の方法で、厚さ50μmのポリイミドフィルムを得た。
また、実施例1と同一の方法でグラファイトシートを得たが、グラファイトシート全面で凹凸が見られて外観が悪かった。焼成時の際にグラファイトシート内で層間剥離が発生し外観上優れていなかった。
【0053】
[比較例6]
比較例1と同一の方法により得られたワニス状ポリアミド酸溶液に、粒径において0.08μm未満及び2μm以上が排除された平均粒径0.3μmのシリカを樹脂重量当たり、0.3重量%添加し十分攪拌、分散させた後、比較例1と同一の方法にて、厚さ25μmのポリイミドフィルムを得た。
また、実施例1と同一の方法でグラファイトシートを製作したが、均一に発泡せずグラファイトフィルムを生成することができなかった。
【0054】
[比較例7]
比較例1と同一の方法により得られたワニス状ポリアミド酸溶液に、粒径において0.08μm未満及び2μm以上が排除された平均粒径0.3μmのシリカを樹脂重量当たり、0.3重量%添加し十分攪拌、分散させた後、比較例1と同一の方法にて、厚さ25μmのポリイミドフィルムを得た。
また、実施例1と同一の方法でグラファイトシートを製作したが、均一に発泡せずグラファイトフィルムを生成することができなかった。
【0055】
実施例1〜5及び比較例1〜7において得られた各ポリイミドフィルムの機械的物性、静摩擦係数及びそれらを用いて得られたグラファイトシートの外観評価結果を表1及び表2に示す。
【0056】
【表1】
【表2】