特許第6121238号(P6121238)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6121238
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】ビニルエーテル系樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 116/12 20060101AFI20170417BHJP
   C08F 299/02 20060101ALI20170417BHJP
【FI】
   C08F116/12
   C08F299/02
【請求項の数】1
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-105795(P2013-105795)
(22)【出願日】2013年5月20日
(65)【公開番号】特開2014-227433(P2014-227433A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2016年4月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004592
【氏名又は名称】日本カーバイド工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】北條 卓馬
(72)【発明者】
【氏名】加藤 育巳
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−053297(JP,A)
【文献】 特開2014−065772(JP,A)
【文献】 特開2014−227432(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 116/12
C08F 299/02−299/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)または式(2)のいずれかの化合物と、光重合開始剤とを含むビニルエーテル系樹脂組成物において、
前記ビニルエーテル系樹脂組成物は前記化合物以外のビニルエーテル化合物を含まず、
光重合開始剤は、
4−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、
4-イソプロピル-4‘-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート、
エタノン,1,1’−[1,3−プロパンジイルビス(オキシ-4,1-フェニレン)]ビス[2,2,2-トリフルオロ-1,1’ビス[O-プロピルスルフォニル)オキシム]、
4-イソブチルフェニル(4-メチルフェニル)ヨードニウム・ヘキサフルオロホスファート
およびp−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェートからなる群から選択される少なくともひとつであることを特徴とするビニルエーテル系樹脂組成物。
【化1】
【化2】
[式(1)および式(2)中、−X−、−X−、−X−、−X−は、それぞれ独立に、−C−、−C−、−COC2−、−COCOC−、−C−、−COC−、−COCOC−または式(3)の置換基を表す。式(1)および式(2)中、−Z−は、式(4)の置換基を表す。また、式(1)および式(2)中、l、m、nはそれぞれ正の整数を表す。]
【化3】
【化4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニルエーテル系樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルエーテルは、可とう性に優れるため、各種接着剤、インク組成物、コーティング膜、潤滑油、電気部品材料、光学材料および医療用材料に用いられている。
【0003】
ポリビニルエーテルを含むコーティング膜は、可とう性が優れるものの、実用に供する強度を保つためたとえば分子量を大きくすると、伸び特性が小さくなるという問題がある。ポリビニルエーテルを含むコーティング膜の伸び特性を改善するため、ポリビニルエーテルの主鎖構造に、たとえばウレタン骨格のような置換基を導入することが提案されている。
【0004】
特許文献1、2には、ポリビニルエーテルを用いたコーティング膜が開示されている。これらのコーティング膜は、低粘度、速硬化性、高密着性、柔軟性という特徴を有する。これらの組成物は、ビニルエーテル基をもつオリゴマーと、二官能性のビニルエーテルモノマーとを含む。
【0005】
特許文献3には、ビニルエーテル基を2つ以上有するビニルエーテルモノマーと、ウレタン骨格を有するとともに末端にビニルエーテル基を有する化合物と、光重合開始剤とを含有するビニルエーテル系樹脂組成物が開示されている。この樹脂組成物は、ポリオレフィン系材料に対し優れた接着力を示すため、接着剤用途に適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2843767号公報
【特許文献2】特許第3115317号公報
【特許文献3】特開2013−53297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2に記載のコーティング膜は、コーティング膜が含む二官能性のビニルエーテルモノマーの構造により伸び特性が小さいという問題があった。
また、特許文献3に記載の樹脂組成物に用いたウレタン骨格を有するとともに末端にビニルエーテル基を有する化合物は、凝集力が高く、高伸度を示すことが期待できるが、たとえば一般的な光重合開始剤であるトリス(4-メチルフェニル)スルホニウムヘキサフルオロホスフェートを溶解させることができないため、この化合物単体と光重合開始剤の混合物に光を照射しても硬化せず、たとえばトリエチレングリコールジビニルエーテルのように分子量が小さいビニルエーテルとの共重合体として用いられている。このような分子量が小さいビニルエーテルとの共重合体は、伸び特性に改善の余地がある。
この化合物単体と、光重合開始剤と、たとえば酢酸エチルなどの有機溶剤とを混合し、この混合物に光を照射することでこの化合物単体の硬化物を得ることはできる。しかしながら、このようにして得られた硬化物は、光硬化物の特長である溶剤を用いない硬化物ではため、その使用用途が制限される。さらに、コーティング膜から完全に有機溶剤を除去することが困難であるため、コーティング膜の強度が下がるという問題がある。したがって、この化合物単体の硬化物を含む実用的なコーティング膜を得ることができなかった。
【0008】
本発明者は、特定のウレタン骨格とビニルエーテル基とを有する化合物と特定の光重合開始剤とを用いることで、この化合物に光重合開始剤が溶解することができることを確認し、したがってこの化合物単体の硬化物が得られることを見出した。さらに、本発明者は、前記特定のウレタン骨格とビニルエーテル基とを有する化合物以外のビニルエーテル化合物を含まないため、得られたビニルエーテル系樹脂組成物をコーティング膜に用いると優れた伸び特性を示すことを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明の課題は、コーティング膜に用いた際に優れた伸び特性を有する、ビニルエーテル系樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を達成するため鋭意研究した結果、特定の光重合開始剤を含むビニルエーテル系樹脂組成物が、優れた伸び特性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は以下の態様を包含する。
【0011】
下記式(1)または式(2)のいずれかの化合物と、光重合開始剤とを含むビニルエーテル系樹脂組成物において、
前記ビニルエーテル系樹脂組成物は、前記化合物以外のビニルエーテル化合物を含まず、
光重合開始剤は、
4−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、
4-イソプロピル-4‘-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート、
エタノン,1,1’−[1,3−プロパンジイルビス(オキシ-4,1-フェニレン)]ビス[2,2,2-トリフルオロ-1,1’ビス[O-プロピルスルフォニル)オキシム]、4-イソブチルフェニル(4-メチルフェニル)ヨードニウム・ヘキサフルオロホスファートおよびp−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェートからなる群から選択される少なくともひとつであることを特徴とするビニルエーテル系樹脂組成物である。
【0012】
【化1】
【0013】
【化2】
[式(1)および式(2)中、−X−、−X−、−X−、−X−は、それぞれ独立に、−C−、−C−、−COC2−、−COCOC−、−C−、−COC−、−COCOC−または式(3)の置換基を表す。式(1)および式(2)中、−Z−は、式(4)の置換基を表す。また、式(1)および式(2)中、l、m、nはそれぞれ正の整数を表す。]
【0014】
【化3】
【0015】
【化4】
【0016】
本発明のビニルエーテル系樹脂組成物は、式(1)または式(2)のいずれかの化合物を含み、かつ前記化合物以外のビニルエーテル化合物を含まないため、硬化時に化合物単体の硬化物となることで、高い凝集力と、優れた伸び特性とを示す。また、光重合開始剤が特定の光重合開始剤であるため、化合物に光重合開始剤が溶解する。さらに、有機溶剤を含まないため、本発明のビニルエーテル系樹脂組成物から得られるコーティング膜は強度を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、優れた伸び特性を有するビニルエーテル系樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下本発明のビニルエーテル系樹脂組成物を詳細に説明する。
【0019】
本発明のビニルエーテル系樹脂組成物は、式(1)または式(2)のいずれかの化合物と、光重合開始剤とを含み、
前記化合物以外のビニルエーテル化合物を含まず、
光重合開始剤は、4−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、4-イソプロピル-4‘-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート、エタノン,1,1’−[1,3−プロパンジイルビス(オキシ-4,1-フェニレン)]ビス[2,2,2-トリフルオロ-1,1’ビス[O-プロピルスルフォニル)オキシム]、4-イソブチルフェニル(4-メチルフェニル)ヨードニウム・ヘキサフルオロホスファートおよびp−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェートからなる群から選択される少なくともひとつであることを特徴とする。
【0020】
【化5】
【0021】
【化6】
[式(1)および式(2)中、−X−、−X−、−X−、−X−は、それぞれ独立に、−C−、−C−、−COC2−、−COCOC−、−C−、−COC−、−COCOC−または式(3)の置換基を表す。式(1)および式(2)中、−Z−は、式(4)の置換基を表す。また、式(1)および式(2)中、l、m、nはそれぞれ正の整数を表す。]
【0022】
【化7】
【0023】
【化8】
【0024】
本発明に用いる化合物は、式(1)または式(2)で示したようにいずれもウレタン骨格を有する。通常、式(1)または式(2)の化合物のように分子量が大きいビニルエーテル化合物は、単独で重合反応が起きにくく、分子量が小さい他のビニルエーテル化合物との共重合体として利用されることが多い。本発明に用いる前記化合物は、後述する特定の光重合開始剤を用いることで単独で重合反応が起きる。本発明のビニルエーテル系樹脂組成物の硬化物は、前記化合物以外のビニルエーテル化合物を含まず、式(1)または式(2)の化合物単体の硬化物であることで、高い凝集力と、優れた伸び特性とを示す。
【0025】
本発明に用いる化合物の重量平均分子量が300〜50,000の範囲であれば、本発明のビニルエーテル系樹脂組成物により得られるコーティング膜は、分子量が大きいため実用に供する強度を有し、かつ揮発性が小さいため臭気が抑えられるため好ましい。
【0026】
さらに、式(1)および式(2)で示される化合物の特性より、本発明のビニルエーテル系樹脂組成物から得られるコーティング膜は、ビニルエーテル化合物特有の臭気が抑えられる。
【0027】
また、式(1)中、l、mは、それぞれ独立に1〜200が好ましく、製造の容易さの観点より1〜50がより好ましい。また、式(2)中、nは、1〜700が好ましく、製造の容易さの観点より1〜100がより好ましい。
【0028】
本発明に用いる化合物は、実施例に示した方法で作製することができる。
【0029】
本発明に用いる光重合開始剤は、4−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、4-イソプロピル-4‘-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート、エタノン,1,1’−[1,3−プロパンジイルビス(オキシ-4,1-フェニレン)]ビス[2,2,2-トリフルオロ-1,1’ビス[O-プロピルスルフォニル)オキシム]、4-イソブチルフェニル(4-メチルフェニル)ヨードニウム・ヘキサフルオロホスファートおよびp−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェートからなる群から選択される少なくともひとつであるため、化合物に光重合開始剤が溶解する。
化合物に溶解した光重合開始剤は、光の作用により分解してカチオン種が発生することで、化合物の重合反応を開始する。そのため、本発明のビニルエーテル系樹脂組成物は、化合物単体の硬化物として得ることができる。
【0030】
本発明に用いる光重合開始剤は、たとえば、4−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェートとして、サンアプロ株式会社製 商品名CPI−210S、4-イソプロピル-4‘-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラートとして、ローディアジャパン社製 商品名 Rhodorsil Photoinitiator 2074、エタノン,1,1’−[1,3−プロパンジイルビス(オキシ-4,1-フェニレン)]ビス[2,2,2-トリフルオロ-1,1’ビス[O-プロピルスルフォニル)オキシム]として、BASFジャパン社製 商品名Irgacure PAG 203、4-イソブチルフェニル(4-メチルフェニル)ヨードニウム・ヘキサフルオロホスファートとして、BASFジャパン社製 商品名Irgacure 250およびp−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェートとして、サンアプロ株式会社製 商品名CPI−100P(50wt%プロピレンカーボネート含有品)を用いることができる。
【0031】
本発明に用いる化合物と光重合開始剤との質量比は、(化合物)/(光重合開始剤)=10〜1000の範囲が好ましく、12.5〜200の範囲がより好ましい。化合物と光重合開始剤の混合物に光を照射した際、前記質量比が、10〜1000の範囲内であれば、化合物の未反応物が残存しないことで、硬化物をコーティング膜とした際にタックがないため好ましく、また、光重合開始剤の未反応物が残存しないことで、外観の不具合や、伸び特性等にばらつきが生じないため好ましい。光照射時に前記混合物中の化合物と光重合開始剤とがすべて反応することで、本発明のビニルエーテル系樹脂組成物の硬化物は、優れた伸び特性を示すことにくわえ、タックがなく、外観が良好である特性を有する。
【0032】
本発明のビニルエーテル系樹脂組成物は、有機溶剤を含まない。したがって、本発明のビニルエーテル系樹脂組成物から得られるコーティング膜に有機溶剤が残存することによる強度の低下が起きない。さらに、ビニルエーテル系樹脂組成物がすべて硬化するため、本発明のビニルエーテル系樹脂組成物は、溶剤を用いることができないたとえば電子部材用途に使用することができる。
なお、本発明のビニルエーテル系樹脂組成物は、化合物と光重合開始剤以外に、発明の効果を阻害しない範囲で、各種の添加剤や非反応性の樹脂等を含むことができる。
【0033】
本発明のビニルエーテル系樹脂組成物を含むコーティング膜は、式(1)または式(2)で示される化合物と光重合開始剤との混合物をポリプロピレンフィルム基材等にアプリケーター等を用いて塗布後、光照射し硬化させ、ポリプロピレンフィルムから剥離することで得ることができる。
【0034】
本発明のビニルエーテル系樹脂組成物を含むコーティング膜の厚さの範囲は、1〜2000μmが好ましく、10〜250μmがより好ましく、50〜100μmがさらにより好ましい。本発明のコーティング膜は、厚さが1μm以上であれば、強度が大きくなるため好ましい。また厚さが2000μm以下であれば、光照射時に前記混合物中に未反応の化合物および光重合開始剤が残存せず、得られるコーティング膜が、優れた伸び特性を示し、かつ外観が良好になり、さらにタックがなくなるため好ましい。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。但し、本発明は、その主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
温度計、攪拌機および還流冷却管を備えた反応容器内に、プラクセル205U(株式会社ダイセル製 カプロラクトンジオール)50質量部、イソホロンジイソシアネート42質量部、およびジブチルスズジラウレート0.01質量部を入れ、攪拌下で、前記反応容器の内容物温度を60℃に昇温させ2時間反応させた。その後、ジブチルスズジラウレート0.08質量部および4−ヒドロキシブチルビニルエーテル20質量部を投入し、さらに2時間反応させた。反応終了は、反応液の一部を取り出し、赤外線吸収スペクトル(IR)でイソシアネート由来の2250cm−1のピークが消失したことにより確認した。このようにして、透明液体であるウレタン骨格とビニルエーテル基とを有する化合物113gを得た。この化合物に、光重合開始剤である4−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(サンアプロ社製、商品名CPI−210S)を1.13質量部配合して、ビニルエーテル系樹脂組成物を得た。
このビニルエーテル系樹脂組成物を、塗布膜厚90μmのアプリケータ―を用いてポリプロピレンフィルム上にコーティングし、照射強度160Wの高圧水銀ランプを用いて、照射量200mJ/cmの条件で光を照射することでコーティング膜を得た。
【0037】
(実施例2)
照射量を1000mJ/cmの条件にした以外は、実施例1と同様にしてコーティング膜を得た。
【0038】
(実施例3)
温度計、攪拌機および還流冷却管を備えた反応容器内に、ポリテトラメチレングリコール(三菱化学社製 商品名 PTMG1000)50質量部、イソホロンジイソシアネート22質量部、およびジブチルスズジラウレート0.01質量部を入れ、攪拌下で、前記反応容器の内容物温度を60℃に昇温させ2時間反応させた。その後、ジブチルスズジラウレート0.05質量部、及び4−ヒドロキシブチルビニルエーテル11質量部を投入し、さらに2時間反応させた。反応終了は、反応液の一部を取り出し、赤外線吸収スペクトル(IR)でイソシアネート由来の2250cm−1のピークが消失したことにより確認した。このようにして、透明液体であるウレタン骨格とビニルエーテル基とを有する化合物83gを得た。この化合物に、光重合開始剤である4−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(サンアプロ社製、商品名CPI−210S)を0.83質量部配合して、ビニルエーテル系樹脂組成物を得た。
このビニルエーテル系樹脂組成物を用いて、実施例1と同じ手順によりコーティング膜を得た。
【0039】
(実施例4)
照射量を1000mJ/cmの条件にした以外は、実施例3と同様にしてコーティング膜を得た。
【0040】
(実施例5〜20、比較例1〜7)
表1に示す配合および照射条件に従い、実施例1、実施例2と同様の手順で、それぞれの実施例および比較例のコーティング膜を得た。実施例5〜8で用いた光重合開始剤は、4-イソプロピル-4‘-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート(ローディア社製 商品名Rhodorsil Photoinitiator 2074)、実施例9〜12で用いた光重合開始剤(B)は、エタノン,1,1’−[1,3−プロパンジイルビス(オキシ-4,1-フェニレン)]ビス[2,2,2-トリフルオロ-1,1’ビス[O-プロピルスルフォニル)オキシム](BASFジャパン社製 商品名Irgacure PAG 203)、実施例13〜16で用いた光重合開始剤は、4-イソブチルフェニル(4-メチルフェニル)ヨードニウム・ヘキサフルオロホスファート(BASFジャパン社製 商品名Irgacure250)、実施例17〜20で用いた光重合開始剤は、p−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート(サンアプロ社製 商品名CPI−100P)、比較例1〜5で用いた光重合開始剤は、4−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(サンアプロ社製、商品名CPI−210S)および比較例6、7で用いた光重合開始剤は、トリス(4-メチルフェニル)スルホニウムヘキサフルオロホスフェート(三和ケミカル社製 商品名TS−91)である。
【0041】
(溶解性試験)
溶解性試験は、化合物に光重合開始剤が溶解するかを評価することで行った。表1に示す配合に従い、化合物と光重合開始剤とを含むビニルエーテル系樹脂組成物を調製し、2時間室温に静置後、光重合開始剤が溶解しているものを○と、また、不溶化物として光重合開始剤が析出したものを×とそれぞれ評価した。
【0042】
(硬化性試験)
硬化性試験は、ビニルエーテル系樹脂組成物に光を照射し、硬化するかを評価することでおこなった。表1に示す配合に従い、化合物と光重合開始剤とを含むビニルエーテル系樹脂組成物を調製後、塗布膜厚90μmのアプリケーターを用いてポリプロピレンフィルム上にビニルエーテル系樹脂組成物を塗工し、次いで照射強度160Wの高圧水銀ランプを用いて、照射量200または1000mJ/cmのいずれかの条件で光を照射した。
表1の評価結果において、硬化したものは、○と判定した。
【0043】
(引張強度試験)
伸び特性を評価するための引張強度試験は、JIS K7127に準じ、引張速度10mm/minの条件にて伸び率(%)と強度(MPa)とを測定することでおこなった。試験片は、硬化性試験で得た厚さ70〜80μmのコーティング膜を、幅15mmの短冊型に切断し、チャック間の距離25mmの条件で測定した。
コーティング膜の伸度が60%以上のものを○、60%未満のものを×と評価した。
【0044】
(柔軟性試験)
柔軟性試験は、引張強度試験と同様にして調製した試験片を用いて行った。柔軟性は、各実施例および比較例の試験片を、5mm径のステンレス棒に試験片を巻きつけた際、試験片が割れや破断等の外観異常がおきるかで判断した。測定は実施例および比較例につきそれぞれ5回繰り返して行った。
【0045】
(表面硬度試験)
強度を評価するための表面硬度試験は、引張強度試験と同様にして調製した試験片を用いて行った。表面硬度の評価は、JIS K5600に準じ、各実施例および比較例の試験片表面を硬度Bの鉛筆を用いてひっかき、割れ等の外観異常が起きるかでおこなった。測定は実施例および比較例につきそれぞれ5回繰り返しておこなった。
なお、各実施例、比較例の試験片とも表面硬度試験において外観異常はなかった。
【0046】
表1に、ビニルエーテル系樹脂組成物の化合物と光重合開始剤との配合と、ビニルエーテル系樹脂組成物を含むコーティング膜の評価結果とをまとめた。
なお、比較例6、7のビニルエーテル系樹脂組成物は、化合物に光重合開始剤が溶解しなかった。さらに、化合物と光重合開始剤との混合物に光を照射しても硬化しなかった。そのため、コーティング膜の評価はおこなわなかった。
【0047】
【表1】
【0048】
表1に示した評価結果によれば、実施例1〜20に示したとおり、本発明のビニルエーテル系樹脂組成物を含むコーティング膜は、伸度が60%以上であり、したがって優れた伸び特性を有することがわかる。
また、実施例1〜20に示したコーティング膜は、ビニルエーテル系樹脂組成物の特徴である柔軟性(可とう性)を有することがわかる。
一方、比較例1〜5に示したとおり、化合物以外のビニルエーテル化合物を含有する樹脂組成物を含むコーティング膜は、伸度が60%未満であり、化合物単体の実施例1〜20に示すコーティング膜と比べて伸度が小さいことがわかる。
さらに、比較例6、7では、化合物に光重合開始剤が溶解せず、コーティング膜が得られない。したがって、本発明のコーティング膜は、化合物に溶解する特定の光重合開始剤を用いる必要があることがわかる。
さらに、本発明のビニルエーテル系樹脂組成物は、有機溶剤を含まないため、コーティング膜として有用な強度を有し、溶剤を用いることができない用途にも使用することができる。
以上により、本発明のビニルエーテル系樹脂組成物は、コーティング膜に用いた際に優れた伸び特性を有することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のビニルエーテル系樹脂組成物は、優れた伸び特性を有するため、コーティング膜として有用である。