(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第一円盤及び前記第二円盤のいずれもが前記乾式材に対して押さえ付けられた状態において、前記距離を縮めるような力が前記第一円盤及び/又は前記第二円盤に対して加えられた際においては、
前記拡幅維持手段による前記第一状態の維持が行われなくなるように構成されていることを特徴とする、請求項3に記載の押さえ工具。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0031】
図1は、本発明の実施形態に係る押さえ工具を用いて形成された目地の構造を示す断面図である。目地10は、複数の外壁パネルを並べることによって外壁を構成してなる建物において、互いに隣り合う外壁パネル100a、100bの間に形成される。
図1では、目地10を水平面で切断した断面を描いており、外壁パネル100aのうち屋外側の面である表面Saと、外壁パネル100bのうち屋外側の面である表面Sbとが、いずれも上方となるように描いている。目地10の断面形状は、切断面の位置(高さ)によらず略一様となっている。
【0032】
外壁パネル100a、100bは、いずれもALC(Autoclaved Light-weight Concrete;軽量気泡コンクリート)によって形成された板状の部材であり、それぞれの表面形状は矩形となっている。
図1に示したように、外壁パネル100a、100bは、表面Saと表面Sbとが略同一平面上に位置するように配置されている。外壁パネル100a、100bの断面形状は、少なくとも目地10近傍の部分(
図1に示した部分)において、互いに左右対称となっている。このため、以下では、主に外壁パネル100aの形状について詳細な説明を行い、外壁パネル100bの形状については説明を省略することがある。尚、ここでいう「左右」とは、目地10を
図1のように見た場合における左右のことである。
【0033】
外壁パネル100a、100bは、それぞれ屋外側の一部が切り欠かれており、これにより両者の間に溝GRが形成されている。溝GRは、外壁パネル100aの端面(
図1では右側の端面)の一部と、外壁パネル100bの端面(
図1では左側の端面)の一部とによって、その側壁面及び底面が区画されている。目地10は、溝GRの内部に、湿式シール材200と乾式材300とを備えた構成となっている。尚、以下の説明及び
図1等でも明らかなように、ここでいう「端面」とは、表面Saや表面Sbに対して垂直な面に限定されるものではない。
【0034】
外壁パネル100aの端面は、第一傾斜面101aと、第二傾斜面102aと、第一底面103aと、垂直面104aと、第二底面105aと、対向面106aとを有している。
【0035】
第一傾斜面101aは、表面Saの端部から溝GRの奥側(以下、単に「奥側」ともいう)に向かって伸びる面である。第一傾斜面101aは、その法線方向が屋外側且つ外壁パネル100b側に向かう方向(すなわち、
図1では右上方向)となるよう、表面Saに対して傾斜した面となっている。
【0036】
第二傾斜面102aは、第一傾斜面101aよりも奥側となる位置に形成された面である。第二傾斜面102aは、その法線方向が奥側且つ外壁パネル100b側に向かう方向(すなわち、
図1では右下方向)となるよう、表面Saに対して傾斜した面となっている。このため、
図1に示した断面においては、外壁パネル100aの端面の一部が、第一傾斜面101aと第二傾斜面102aとにより略山形の形状となっている。
【0037】
目地10においては、第一傾斜面101aと第二傾斜面102aとの間には微小な垂直面TSa(表面Saに対して垂直な面)が形成されている。垂直面TSaは、外壁パネル100aの端面のうち、上記のように略山形の形状を成す部分の頂点に該当する。
【0038】
第一底面103aは、第二傾斜面102aの奥側端部から外壁パネル100b側に向かって伸びる面である。第一底面103aは、表面Saに対して平行である。
【0039】
垂直面104aは、第一底面103aのうち外壁パネル100b側の端部から奥側に向かって伸びる面である。垂直面104aは、表面Saに対して垂直であり、垂直面TSaと同一平面上に形成されている。
【0040】
第二底面105aは、垂直面104aの奥側端部から外壁パネル100b側に向かって伸びる面である。第二底面105aは、表面Saに対して平行である。
【0041】
対向面106aは、外壁パネル100aの端面のうち溝GRよりも更に奥側の部分である。対向面106aは、第二底面105aのうち外壁パネル100b側の端部から奥側に向かって伸びており、表面Saに対して垂直である。対向面106aと、外壁パネル100bの対向面106bとは、互いに近接した状態で対向している。対向面106aと対向面106bとの間にはわずかな隙間が形成されている。
【0042】
溝GRの内部のうち、垂直面104a、垂直面104b、第二底面105a、第二底面105bにより区画された部分、すなわち、溝GRの内部のうち第一底面103aよりも奥側の部分には、湿式シール材200が打設されている。湿式シール材200はポリウレタン系の湿式シール材であって、垂直面104a、垂直面104b、第二底面105a、第二底面105bのそれぞれに対して密着(接着)した状態で硬化している。このため、目地10は湿式シール材200によって水密に塞がれており、外壁パネル100aと外壁パネル100bとの間から水や埃が侵入してしまうことがない。
【0043】
乾式材300は紐状に形成された合成ゴムからなり、その長手方向が溝GRの長手方向に沿った状態で、溝GRの内部に配置されている。乾式材300は、溝GRのうち湿式シール材200よりも屋外側であり、且つ、垂直面TSaよりも奥側となる位置に嵌め込まれている。
【0044】
図1に示したように、乾式材300は湿式シール材200を屋外側から覆うように配置されている。換言すれば、湿式シール材200と乾式材300とは、外壁パネル100a、100bの厚さ方向(
図1では上下方向)に沿って重ねられた状態で、溝GRの内部に配置されている。乾式材300のうち奥側の部分は、湿式シール材200のうち屋外側の部分に密着(接着)した状態となっている。
【0045】
既に説明したように、外壁パネル100aのうち目地10側の端面は、第一傾斜面101aと第二傾斜面102aとによって略山形の形状を有している。換言すれば、略山形の形状を成す部分の頂点に該当する垂直面TSaが、外壁パネル100b側に向かって突出するような形状となっている。同様に、外壁パネル100bのうち目地10側の端面は、第一傾斜面101bと第二傾斜面102bとによって略山形の形状を有している。換言すれば、略山形の形状を成す部分の頂点に該当する垂直面TSbが、外壁パネル100a側に向かって突出するような形状となっている。
【0046】
乾式材300は、溝GRの内部において、上記のように両側から突出する略山形の形状をなす部分と湿式シール材200との間に挟みこまれた状態で保持されている。つまり、乾式材300のうち奥側の部分は湿式シール材200に対して当接しており、乾式材300のうち屋外側(外壁パネル100aの表面Sa側)の部分は、第二傾斜面102a及び第二傾斜面102bに対して奥側から当接している。
【0047】
図1に示したように、乾式材300の幅(
図1における左右方向の寸法)は、垂直面TSaと垂直面TSbとの間隔よりも大きい。このため、屋外側から目地10を見た場合においては、乾式材300のうち幅方向(
図1では左右方向)における両端部のひれ部が、それぞれ、外壁パネル100aの端面の一部(第一傾斜面101a、第二傾斜面102a)及び外壁パネル100bの端面の一部(第一傾斜面101b、第二傾斜面102b)によって覆われた状態となっている。
【0048】
従って、溝GRの幅が場所によってばらついている場合であっても、当該ばらつきは、乾式材300と第一傾斜面101a等との重なり幅(乾式材300のうち、第二傾斜面102a等によって覆われている部分の面積といってもよい)が変化することによって吸収される。その結果、外壁パネル100a、100bの端面と乾式材300との間の一部に隙間が空いてしまうことや、乾式材300が溝GRに収まりきれずに浮き上がってしまうことが抑制される。
【0049】
また、乾式材300は、第二傾斜面102a及び第二傾斜面102bによって屋外側から湿式シール材200側に向かって(
図1では下方側に向かって)押さえつけられた状態となっており、これによる乾式材300と第二傾斜面102a等との密着部分が、溝GRの長手方向に沿って連続するように伸びている。その結果、乾式材300と第二傾斜面102a等との間はある程度水密な状態に維持されている。
【0050】
以上のように、目地10では、外壁パネル100a、100b間に形成された溝GRの幅がばらついている場合であっても、目地10全体において、外壁パネル100a、100bの端面(第二傾斜面102a、第二傾斜面102b)と乾式材300とが密着している状態となっている。また、そのような状態を長期間にわたって維持することが可能となっている。
【0051】
続いて、目地10を形成する方法について説明する。まず、
図2に示したように、ALCからなる外壁パネル100a、100bを図示しない鉄骨造建物に取り付けて、当該建物の外壁を構成する。既に説明したように、互いに隣り合う外壁パネル100a、100bは、表面Saと表面Sbとが略同一平面上に位置するように配置されている。また、対向面106aと対向面106bとは、僅かに間を開けた状態で対向している。外壁パネル100aと外壁パネル100bとの距離(対向面106aと対向面106bとの距離)は、それぞれの寸法誤差や鉄骨造建物への取り付け誤差に起因して、所定の設計値よりも狭くなっている場合や、広くなっている場合がある。
【0052】
外壁パネル100aの端面のうち溝GRを区画する面、すなわち、第一傾斜面101a、垂直面TSa、第二傾斜面102a、第一底面103a、垂直面104a、及び第二底面105aは、これらの全体が一つの塗膜層によって覆われた状態となっている。この塗膜層は、外壁パネル100aが鉄骨造建物に取り付けられる前の段階において事前に形成されたものであって、例えば合成樹脂エマルジョンあるいは溶液形合成樹脂などを塗布して乾燥させることにより形成されている。ALCは、無数の空隙を有する部材であるから、その表面は一般に滑らかではなく凹部が形成されている。しかし、上記のように塗膜層で覆われた部分は、当該凹部が埋められて、比較的滑らかな面となっている。
【0053】
外壁パネル100bの端面についても同様であって、溝GRを区画する面、すなわち、第一傾斜面101b、垂直面TSb、第二傾斜面102b、第一底面103b、垂直面104b、及び第二底面105bは、これらの全体が一つの塗膜層によって覆われた状態となっている。外壁パネル100a、100bの一部を上記のように塗膜層で覆っておく理由については、後に説明する。
【0054】
続いて、コーキングガンを用いて、溝GRの内部に湿式シール材200を打設する。湿式シール材200を打設する際には、湿式シール材200と垂直面104a等との密着性(接着性)を向上させるために、溝GRの内面に対して(塗膜層の上から)事前にプライマーを塗布しておくことが望ましい。
【0055】
図3は、溝GRの内部に湿式シール材200が打設された状態を示している。湿式シール材200は、コーキングガンによって打設された後、ヘラによって成形されており、屋外側の表面が表面Sa、Sbに対して平行となっている。
図3に示したように、湿式シール材200の屋外側の表面は、第一底面103a、103bと略同一平面上に位置している。また、湿式シール材200は、垂直面104a、垂直面104b、第二底面105a、第二底面105bのそれぞれに対し、全面に密着した状態となっている。
【0056】
続いて、乾式材300を溝GRの内部に嵌め込んで、
図1の状態とする。具体的には、先ず乾式材300の長手方向を溝GRの長手方向と一致させた状態で、乾式材300を第一傾斜面101a、第一傾斜面101bの両方に当接させた状態とする。その後、(後に詳しく説明するように、)本実施形態に係る押さえ工具700によって、乾式材300を屋外側から奥側に向けて押さえ付ける。乾式材300は、第一傾斜面101a、第一傾斜面101bによって溝GRの中央且つ奥側に向かうように案内される。
【0057】
このとき、乾式材300は、押さえ工具700によって抑えつけられることによって変形し、垂直面TSa、TSbを乗り越えて奥側に移動する。最終的には、乾式材300の全体が、溝GRのうち垂直面TSa、TSbよりも奥側の空間に収容される。乾式材300のうち最も奥側の部分は、湿式シール材200のうち屋外側の部分に密着(接着)した状態となる。このため、湿式シール材200が硬化した後は、乾式材300は溝GRの内部において強固に保持され、溝GRから外れてしまうことが抑制される。
【0058】
ここで、乾式材300を溝GRに嵌め込むための具体的な方法について説明する前に、乾式材300の具体的な形状について
図4を参照しながら説明する。
図4は、乾式材300の形状を示す断面図であって、乾式材300をその長手方向に対して垂直な面で切断した場合の断面を示している。
図4に示したように、乾式材300の断面形状は左右対称である。尚、ここでいう「左右」とは、乾式材300を
図1及び
図4のように見た場合における左右のことである。尚、以下の説明においては、
図1の状態における乾式材300から外壁パネル100aに向かう方向を「左方向」のように称することがあり、乾式材300から外壁パネル100bに向かう方向を「右方向」のように称することがある。
【0059】
乾式材300は、その左側面のうち屋外側の端部近傍から左方向に向かって延びる第一ひれ部310aと、その右側面のうち屋外側の端部近傍から右方向に向かって延びる第一ひれ部310bと、を有している。
図4に示したように、乾式材300の屋外側の表面は全体が平坦面となっている。第一ひれ部310aの屋外側の表面と、第一ひれ部310bの屋外側の表面とは、いずれも上記平坦面と同一平面内に配置されている。
【0060】
乾式材300は、更に、その左側面のうち奥側の端部近傍から左方向に向かって延びる第二ひれ部320aと、その右側面のうち奥側の端部近傍から右方向に向かって延びる第二ひれ部320bと、を有している。
【0061】
このように構成されているため、乾式材300のうち左右両端の部分は、圧縮された際において容易に変形することが可能となっている。その結果、乾式材300を溝GRの内部に嵌め込む際においては、両端部分が変形してスムーズに垂直面TSa、TSbを乗り越えることができる。すなわち、乾式材300を溝GRに嵌め込む作業が容易なものとなっている。
【0062】
また、第一ひれ部310aの左側端部の傾斜面311aは、その法線方向が左上方向に向かうように傾斜している。このため、
図1のように乾式材300が溝GRの内部に嵌め込まれた状態においては、左側端部の傾斜面311aが第二傾斜面102aに対して密着した状態となりやすい。その結果、湿式シール材200に向かって水や埃等が侵入してしまうことが抑制される。
【0063】
同様に、第一ひれ部310bの右側端部の傾斜面311bは、その法線方向が右上方向に向かうように傾斜している。このため、
図1のように乾式材300が溝GRの内部に嵌め込まれた状態においては、右側端部の傾斜面311bが第二傾斜面102bに対して密着した状態となりやすい。その結果、湿式シール材200に向かって水や埃等が侵入してしまうことが抑制される。
【0064】
乾式材300は、その奥側の表面のうち左右方向の中央部において、突起330が形成されている。
図4に示したように、突起330は、第二ひれ部320a、320bよりも更に奥側に向かって突出している。
【0065】
このため、乾式材300が溝GRの内部に嵌め込まれる際には、突起330が未硬化の湿式シール材200に入り込んだ状態となる。その結果、乾式材300と湿式シール材200との接触面積(接着面積)が増大するため、湿式シール材が硬化した後においては、乾式材300はさらに強固に保持される。
【0066】
ところで、突起330が未硬化の湿式シール材200に入り込む際においては、
図3に示した状態であった未硬化の湿式シール材200の一部が、突起330によって押し拡げられる。その結果、湿式シール材200の一部が当初の打設位置からはみ出てしまい、第一底面103aよりも屋外側の部分に到達してしまう場合がある。
【0067】
しかし、目地10においては、
図1に示したように、外壁パネルの端面(第二傾斜面102a、102b)と乾式材300(第二ひれ部320a、320b)との間に、突起330によって押し出された湿式シール材200を収容し得る空間SPa、SPbが形成されている。換言すれば、このような空間SPa、SPbが形成されるように、第二ひれ部320a、320bの左右方向に沿った長さが調整されている。
【0068】
このため、湿式シール材200が上記のようにはみ出てしまった場合であっても、当該湿式シール材200は空間SPa、SPbに収容され、乾式材300よりも屋外側にはみ出てしまうことがない。その結果、はみ出た湿式シール材200によって目地10の外観が損なわれてしまうことが防止されている。
【0069】
本発明の実施形態に係る押さえ工具700を用いて、溝GRの内部に乾式材300を嵌め込むための具体的な方法について説明する。
図5は、湿式シール材200の打設が完了した状態、すなわち、
図3に示した状態の溝GRの内部に、押さえ工具700を用いて乾式材300を嵌め込む作業が行われている様子を示している。
図5に示したように、押さえ工具700は、所謂「押さえローラー」として機能する二つの回転自在な円盤(第一円盤710、第二円盤720)を有している。
【0070】
乾式材300を嵌め込む際には、まず、紐状の乾式材300の一端を溝GRの内部に嵌め込んだ状態とする。その後、乾式材300のうち嵌め込まれた部分における表面(屋外側に露出している表面)に対し、第一円盤710、第二円盤720のそれぞれの外周部を当接させ、奥側に向けて乾式材300を嵌め込むように力を加える。
【0071】
上記のように乾式材300に対して力を加えた状態のまま、第一円盤710、第二円盤720を乾式材300の表面に沿って転がしながら、押さえ工具700を溝GRに沿って(
図5においては上方に向けて)移動させて行く。その際、押さえ工具700の移動先側(
図5では上方側)においては、乾式材300の長手方向を溝GRの長手方向と一致させ、乾式材300を第一傾斜面101a、第一傾斜面101bの両方に当接させた状態としながら、押さえ工具700を移動させて行く。その結果、乾式材300は下方から順に溝GRの内部に嵌め込まれて行き、最終的には、その全体が溝GRの内部に嵌め込まれた状態となる。
【0072】
押さえ工具700の構成について説明する。
図6は、押さえ工具700の構成を模式的に示す図である。このうち、
図6(A)は押さえ工具700を側面から見た図、すなわち、乾式材300を嵌め込む際における押さえ工具700の進行方向に対し垂直な方向から見た図である。また、
図6(B)は押さえ工具700を正面から見た図、すなわち、乾式材300を嵌め込む際における押さえ工具700の進行方向に沿った方向から見た図である。
図6(A)及び
図6(B)に示したように、押さえ工具700は、取っ手701と、支持板702と、軸703と、第一円盤710と、第二円盤720とを有している。尚、これらの他に、押さえ工具700は保持部材750を有しているが、
図6(A)及び
図6(B)においてはその図示を省略している。保持部材750の形状や機能については、後に説明する。
【0073】
取っ手701は、乾式材300を嵌め込む際において作業者が把持する部分である。支持板702は板状の金属であって、取っ手701の一端から取っ手701の長手方向に沿って伸びている。軸703は、支持板702の先端部近傍(取っ手701とは反対側における端部の近傍)を貫くように配置された円柱形状の部材である。軸703は、その中心軸が支持板702に対して垂直となっており、支持板702の両面側においてそれぞれ等しい長さだけ突出している。
【0074】
第一円盤710は、金属からなる円盤であって、その中心を軸703に貫かれた状態で保持されている。第一円盤710は、軸703の回りに回転自在となっている。また、第一円盤710が軸703から外れて落下するのを防止するための外れ止め部材(図示省略)が、第一円盤710と隙間をあけて、軸703に設けられている。
【0075】
第二円盤720は、第一円盤710と同一形状の金属からなる円盤であって、その中心を軸703に貫かれた状態で保持されている。第二円盤720は、軸703の回りに回転自在となっている。また、第二円盤720が軸703から外れて落下するのを防止するための外れ止め部材(図示省略)が、第二円盤720と隙間をあけて、軸703に設けられている。
【0076】
第一円盤710及び第二円盤720は、軸703の両端部近傍にそれぞれ保持されている。第一円盤710の中心位置から支持板702までの距離は、第二円盤720の中心位置から支持板702までの距離に等しい。
【0077】
第一円盤710の外周面711は、平面部712(第一円盤710のうち円形を成す面)に対して垂直とはなっておらず、傾斜した面となっている。具体的には、外周面711は、その法線方向が第二円盤720側に向かうように、第一円盤710の中心軸(平面部712の中心を通り、平面部712の法線に沿った軸)に対して傾斜している。
【0078】
同様に、第二円盤720の外周面721は、平面部722(第二円盤720のうち円形を成す面)に対して垂直とはなっておらず、傾斜した面となっている。具体的には、外周面721は、その法線方向が第一円盤710側に向かうように、第二円盤720の中心軸(平面部722の中心を通り、平面部722の法線に沿った軸)に対して傾斜している。
【0079】
図6(B)に示したように、第一円盤710及び第二円盤720は互いに対向するように配置されており、いずれも、軸703に対して略垂直となっている。換言すれば、支持板702に対して略平行となっている。但し、第一円盤710と軸703とのなす角度、及び、第二円盤720と軸703とのなす角度は、いずれも固定されていない。従って、第一円盤710と第二円盤720とは互いに略並行ではあるが、互いの平面部(712、722)同士が成す角度は可変となっている。
【0080】
この点について、
図7を参照しながら説明する。
図7(A)及び
図7(B)は、いずれも押さえ工具700の動作を説明するための図であって、押さえ工具700のうち軸703、第一円盤710、第二円盤720、及び、(
図6においては図示を省略していた)保持部材750のみを模式的に描いたものである。
図7(A)、
図7(B)は、軸703に対して垂直な方向から見た場合における形状を描いたものである。
図7(A)、
図7(B)では、乾式材300を溝GRに嵌め込む際において、第一円盤710及び第二円盤720のうち乾式材300に対して当接する箇所(以下、「当接個所」とも称する)が最も下方となるように描いている。
【0081】
本実施形態においては、第一円盤710の中心に形成された貫通穴の直径よりも、当該貫通孔を貫く軸703の直径が一回り小さくなっており、貫通穴の内壁と軸703の外周面との間には僅かな隙間が形成されている。その結果、第一円盤710と軸703とのなす角度が所定範囲において変化し得るように構成されている。尚、第一円盤710の回転軸方向は平面部712の法線に沿った方向であるから、第一円盤710の回転軸方向が変化し得るように構成されているといってもよい。
【0082】
第二円盤720についても同様であって、第二円盤720の中心に形成された貫通穴の直径よりも、当該貫通孔を貫く軸703の直径が一回り小さくなっており、貫通穴の内壁と軸703の外周面との間には僅かな隙間が形成されている。その結果、第二円盤720と軸703とのなす角度が所定範囲において変化し得るように構成されている。尚、第二円盤720の回転軸方向は平面部722の法線に沿った方向であるから、第二円盤720の回転軸方向が変化し得るように構成されているといってもよい。
【0083】
図7(A)は、第一円盤710及び第二円盤720の傾斜角度が変化して、当接個所における第一円盤710と第二円盤720との距離(以下では「押さえ距離」とも称する)が最大(WB1)となっている状態を示している。
図7(A)に示した状態においては、第一円盤710の中心に形成された貫通穴の内壁と軸703の外周面とが一部において当接しており、また、第二円盤720の中心に形成された貫通穴の内壁と軸703の外周面とが一部において当接しているため、押さえ距離をこれ以上広げることができない。
【0084】
また、
図7(B)は、第一円盤710及び第二円盤720の傾斜角度が変化して、押さえ距離が最小(WB2)となっている状態を示している。
図7(B)に示した状態においては、第一円盤710の中心に形成された貫通穴の内壁と軸703の外周面とが一部において当接しており、また、第二円盤720の中心に形成された貫通穴の内壁と軸703の外周面とが一部において当接しているため、押さえ距離をこれ以上狭くすることができない。
【0085】
尚、
図7(A)及び
図7(B)においては、説明の便宜のため、第一円盤710及び第二円盤720の傾斜を誇張して描いている。実際の押さえ工具700においては、第一円盤710と第二円盤720とのなす角度は
図7に示したものよりも小さい。
【0086】
本実施形態においては、押さえ距離の最大値であるWB1が、乾式材300の幅WSよりも僅かに小さくなるように構成されている。また、押さえ距離の最小値であるWB2が、溝GRにおける垂直面TSaと垂直面TSbとの距離よりも僅かに小さくなるように構成されている。
【0087】
換言すれば、WB1及びWB2がこのような大きさとなるように、第一円盤710等の中心に形成された貫通穴の大きさや、軸703の形状等が調整されている。尚、押さえ距離を上記のように規制することを目的として、第一円盤710と第二円盤720との間にスペーサを配置してもよい。
【0088】
尚、ここでいう乾式材300の幅WSとは、乾式材300の屋外側の表面のうち、溝GRの内部に嵌め込まれる際において屋外側から押されるべき部分の幅である。すなわち、屋外側から力が加えられると、その力が溝GRへの嵌め込みに対して有効に働くこととなるような部分の幅である。本実施形態においては、乾式材300の屋外側の表面のうち、左側端部の傾斜面311a及び右側端部の傾斜面311bを除く部分の幅である(
図4を参照)。
【0089】
溝GRの内部に乾式材300を嵌め込む際は、まず、第一円盤710等を乾式材300に当接させる前の段階において、押さえ工具700を
図7(A)に示した状態とする。すなわち、押さえ距離が最大(WB1)となっている状態とする。このとき、第一円盤710のうち、軸703を挟んで当接個所と対向する部分は、第二円盤720に対して最も近づいている。
【0090】
図7(A)に示したように、第一円盤710と第二円盤720とが最も近づいている部分(当接個所の上方側における端部といってもよい)には、当該部分において両者を上方から挟み込むように、保持部材750が取り付けられている。保持部材は、断面が略コの字型の金属板であって、第一円盤710に当接する保持板751と、第二円盤720に当接する保持板752とを有している。保持板751と保持板752とは互いに並行ではなく傾斜しており、軸703側に行くほど両者の間が広くなっている。保持板751と保持板752とのなす角度は、
図7(A)における第一円盤710と第二円盤720とのなす角度よりも大きい。このような保持部材750が取り付けられているため、自重等の影響によって第一円盤710と第二円盤720とのなす角度が変化してしまうことが抑制されている。換言すれば、押さえ距離が最大(WB1)となっている状態が維持されている。
【0091】
押さえ工具700をこのような状態とした後、乾式材300の嵌め込み作業を開始する。
図8は、押さえ工具700を乾式材300に近づけて、第一円盤710と第二円盤720とが乾式材300に当接した直後における状態を模式的に示している。尚、第一円盤710と第二円盤720とが傾斜していることを明確に示すために、
図8においては第一円盤710等を実際よりも小さく描いている。
【0092】
既に述べたように、当接個所における第一円盤710と第二円盤720との距離(押さえ距離)は最大(WB1)となっているが、乾式材300の幅WSよりも僅かに狭くなっている。このため、乾式材300のうち幅方向の両端部近傍における二箇所に対して、第一円盤710、第二円盤720を確実に当接させることが可能となっている。尚、乾式材300のうち幅方向の両端部近傍とは、第一円盤710等がそれぞれに当接して力が加えられた際において、乾式材300が捩じれてしまうことが抑制されるような位置である。例えば、乾式材300の端部から1mm程度中央側寄りの位置である。
【0093】
図8に示した状態から、第一円盤710等を乾式材300に押し付けるように更に力を加えると、乾式材300は垂直面TSa、TSbを乗り越えて溝GRの奥側に移動する。このとき、乾式材300は変形して、一時的にその幅方向の寸法が狭くなる。
【0094】
第一円盤710及び第二円盤720は、それぞれの外周面711、721において乾式材300から摩擦力を受けており、当該摩擦力によってその傾斜角度を変化させる。換言すれば、幅方向に沿った乾式材300の縮小に追従するように、押さえ距離を変化させる。このため、乾式材300を溝GRの内部に嵌め込む過程において、第一円盤710及び第二円盤720は、それぞれ乾式材300の幅方向における端部近傍に対して常に当接した状態となる。乾式材300に対して加えられる押し込み力は、乾式材300のうち幅方向の中央部分にのみ加えられるのではなく、幅方向の両端部近傍に常に加えられる。その結果、乾式材300が溝GRに嵌め込まれる過程において、乾式材300が捩じれてしまうことが抑制される。
【0095】
尚、
図8に示した状態においては、第一円盤710及び第二円盤720の上部は保持部材750によって挟み込まれている。このため、乾式材300を溝GRの内部に嵌め込んでいく過程においては、押さえ距離が小さくなることが保持部材750によって妨げられてしまうようにも思われる。
【0096】
しかし、乾式材300から受ける摩擦力により、押さえ距離が小さくなるような力が第一円盤710等に対して加えられると、第一円盤710の上端部と第二円盤720の上端部との距離が大きくなって、保持部材750の保持板752を内側から押すような力が加わる。
【0097】
その結果、保持部材750は軸703から遠ざかる方向に向かって移動し、第一円盤710及び第二円盤720から外れる。すなわち、押さえ距離が最大(WB1)に維持されている状態が解除される。従って、押さえ距離が小さくなることが、保持部材750により妨げられてしまうことはない。
【0098】
尚、本実施形態における保持部材750は、図示しないリンク機構によって取っ手701に接続されている。当該リンク機構により、保持部材750は軸703に対して垂直な方向に移動することが可能となっている。また、保持部材750が第一円盤710から外れた後においても、保持部材750が落下してしまうことはない。
【0099】
このように、第一円盤710及び第二円盤720に外力(重力等は除く)が加えられていない状態においては、保持部材750によって押さえ距離が最大(WB1)に維持される。また、第一円盤710及び第二円盤720に対して押さえ距離を狭めるような外力(例えば乾式材300から受ける力)が加えられると、保持部材750による押さえ距離の維持が行われなくなる。第一円盤710及び第二円盤720を乾式材300に当接させた状態においては、乾式材300の変形や移動に追従して押さえ距離が適宜変化することとなるため、乾式材300を容易に且つ適切に嵌め込むことが可能となっている。
【0100】
既に説明したように、本実施形態に係る押さえ工具700は、外周面711が平面部712に対して垂直とはなっておらず、傾斜した面となっている。また、外周面721が平面部722に対して垂直とはなっておらず、傾斜した面となっている。このため、
図8に示したように第一円盤710及び第二円盤720のそれぞれの外周面(712、721)が乾式材300に押しつけられると、第一円盤710及び第二円盤720は、押さえ距離が大きくなる方向に力(反力)を受けることとなる。このため、仮に保持部材750を備えていない場合であっても、押さえ距離が小さくなりすぎた状態のまま乾式材300を押さえてしまうことはなく、乾式材300のうち狭い範囲(例えば、幅方向における中央部分)のみに対して力を加えてしまうようなことは防止される。換言すれば、本実施形態のように保持部材750を備えている場合には、外周面711を平面部712に対して垂直とし、外周面721を平面部722に対して垂直としてもよい。
【0101】
続いて、湿式シール材200が経年劣化した際において、目地10を改修する方法について説明する。目地10を改修する際は、まず、乾式材300のみを溝GRから取り外す。具体的には、乾式材300のうち奥側の面を湿式シール材200から引き剥がしながら、溝GRの内部から乾式材300を除去して行く。
図9は、目地10を改修する際の手順を説明するための図であって、上記のように乾式材300を除去した状態における目地10の断面を示している。
【0102】
乾式材300を除去した後、第一底面103a、103b、第二傾斜面102a、102bに付着して硬化している湿式シール材200を除去する。このような湿式シール材200は、目地10を形成する際において、乾式材300の突起330によって押し拡げられ、当初の(乾式材300が嵌め込まれる前の)打設位置からはみ出てしまったものである。すなわち、空間SPa、SPbに収容された状態で硬化していたものである。
【0103】
図2を参照しながら説明したように、第二傾斜面102a、102b、第一底面103a、103b(乾式材300と対向する部分の表面)は、事前に塗膜層で覆われた状態となっている。このため、上記のように付着して硬化している湿式シール材200は、平滑な塗膜の上に乗っている状態であるから、容易に除去することが可能となっている。尚、目地10では、外壁パネル100a、100bの端面のうち溝GRを区画する面の全体に塗膜層を形成したが、このような態様に限る必要はない。例えば、溝GRを区画する面のうち、第二傾斜面102a、102b、第一底面103a、103bのみに塗膜層を形成し、他の部分には塗膜層を形成しない態様としてもよい。
【0104】
乾式材300、及び、第二傾斜面102a等に付着していた湿式シール材200を除去した後、溝GRの内部に新たな湿式シール材400を打設する。すなわち、(経年劣化した)湿式シール材200の全体を除去することなく、乾式材300が占めていた空間を埋めるように、新しい湿式シール材400を打設する。湿式シール材400は、湿式シール材200と同一の材料からなるポリウレタン系の湿式シール材である。
【0105】
図10は、目地10を改修する際の手順を説明するための図であって、上記のように湿式シール材400を打設した状態における目地10の断面を示している。
図10に示したように、湿式シール材400は、第二傾斜面102a、102b、第一底面103a、103bのそれぞれに対して密着した状態となっており、その屋外側の表面の位置は、第二傾斜面102a、102bの屋外側の端部の位置と略等しい。
【0106】
このような状態で湿式シール材400が硬化すると、目地10の改修は完了する。改修が完了した後においては、目地10は湿式シール材400によって水密に塞がれることとなる。以上の説明から明らかなように、目地10を形成する際において溝GRに嵌め込まれていた乾式材300は、将来の改修時における新しい湿式シール材400の「打設しろ」を確保しておくためのものであるということができる。
【0107】
尚、改修時において打設される湿式シール材400の量や、湿式シール材400が打設される空間の形状(すなわち、外壁パネル100a、100bの端面の形状)は、湿式シール材400の耐用年数(更に次の改修が行われるまでの期間)を考慮して設計されている。
【0108】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、前述した各具体例が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。