特許第6121282号(P6121282)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6121282ルテチウムアルミニウムガーネットの透明多結晶焼結体、及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6121282
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】ルテチウムアルミニウムガーネットの透明多結晶焼結体、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/44 20060101AFI20170417BHJP
   C09K 11/80 20060101ALI20170417BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20170417BHJP
   C04B 35/50 20060101ALI20170417BHJP
【FI】
   C04B35/44
   C09K11/80CPM
   C09K11/80CPP
   C09K11/08 E
   C09K11/08 B
   C04B35/50
【請求項の数】11
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-164157(P2013-164157)
(22)【出願日】2013年8月7日
(65)【公開番号】特開2015-30662(P2015-30662A)
(43)【公開日】2015年2月16日
【審査請求日】2016年2月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】390036722
【氏名又は名称】神島化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】八木 秀喜
(72)【発明者】
【氏名】村松 克洋
(72)【発明者】
【氏名】伊達 直也
(72)【発明者】
【氏名】柳谷 高公
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−235388(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/067474(WO,A1)
【文献】 特開2008−001556(JP,A)
【文献】 特開2010−126430(JP,A)
【文献】 特開2009−143751(JP,A)
【文献】 特開2012−062444(JP,A)
【文献】 特開2005−008844(JP,A)
【文献】 特開2008−213466(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
C09K 11/08−11/89
H01S 3/16−3/17
G01T 1/20−1/208
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結助剤として酸化ゲルマニウムを含有することを特徴とする、ルテチウムアルミニウムガーネットの透明多結晶焼結体。
【請求項2】
前記酸化ゲルマニウムの含有量が、焼結体の重量に対して20〜200wt ppmである請求項1に記載の透明多結晶焼結体。
【請求項3】
Feの含有量が、焼結体の重量に対して10wt ppm以下である請求項1又は2に記載の透明多結晶焼結体。
【請求項4】
さらに賦活剤を含有している請求項1〜3のいずれか1項に記載の透明多結晶焼結体。
【請求項5】
前記賦活剤が、セリウム(Ce)及び/又はイッテルビウム(Yb)である請求項1〜4のいずれか1項に記載の透明多結晶焼結体。
【請求項6】
前記賦活剤の含有量が、前記ルテチウムアルミニウムガーネット結晶のルテチウム(Lu)に対して0.01〜20mol%である請求項4又は5に記載の透明多結晶焼結体。
【請求項7】
光学材料である請求項1〜6のいずれか1項に記載の透明多結晶焼結体。
【請求項8】
前記光学材料が、蛍光材料、固体レーザー材料、又は固体シンチレータ材料である請求項7に記載の透明多結晶焼結体。
【請求項9】
焼結助剤として酸化ゲルマニウムを含有するルテチウムアルミニウムガーネットの透明多結晶焼結体の製造方法において、不活性ガス雰囲気下でHIP(熱間等方加圧)処理を行う工程を含むことを特徴とする、ルテチウムアルミニウムガーネットの透明多結晶焼結体の製造方法。
【請求項10】
前記HIP処理を1400℃〜1700℃で行うことを特徴とする請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
さらに、酸素を含有する雰囲気下でアニール処理を行う工程を含む、請求項9又は10に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学材料として優れた特性を有するルテチウムアルミニウムガーネットの透明多結晶焼結体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体レーザー材料として、従来YAG結晶(イットリウムアルミニウムガーネット結晶、YAl12)が一般に広く用いられてきた。また、近年では、Yb(イッテルビウム)を結晶にドープ(添加)させたYb系の固体レーザーが、その量子効率の高さから精力的に研究、開発されている。しかしながら、YAG結晶にYbをドープさせると、YAG結晶の熱伝導率が低下してしまうという問題があり、熱伝導率の高い結晶が必要とされる高出力固体レーザーに、YbをドープさせたYAG結晶(Yb:YAG結晶)を用いるには課題があった。
【0003】
一方、例えば、非特許文献1には、LuAG結晶(ルテチウムアルミニウムガーネット結晶、LuAl12)にYbをドープさせても、その熱伝導率は、ドープ前のLuAG結晶と比較して大きく低下しないことが開示されている。したがって、Yb系固体レーザーに用いる結晶として、LuAG結晶は有用であるとして期待されている。
【0004】
また、照明分野では、発光素子LEDから発せられる光を波長変換させる蛍光材料として、従来Ce系ガーネット粉末を樹脂に混合した蛍光体が用いられている。例えば、Ce:LuAG結晶の蛍光体は、青色LEDの光を白色光に変換するために用いられている。近年、発光素子の高輝度化が求められているが、高輝度化により発熱量が上がり、熱によって樹脂が劣化してしまうといった問題がある。一方、セラミックは熱伝導性、耐熱性が良好なため、熱劣化を生じにくい。そのため、一般照明として高輝度LEDが急速に普及しているこの分野において、多結晶セラミックス蛍光材料への期待は大きくなりつつある。
【0005】
また、LuAG結晶は、固体シンチレータ材料としての高いポテンシャルを有していることが知られている(例えば、非特許文献2)。その優れた特性から、既存のシンチレータ材料LSO(ケイ酸ルテチウム)、BGO(ゲルマニウム酸ビスマス)に代わる新しい材料として期待されている。
【0006】
ところで、LuAGの単結晶は、一般にチョクラルスキー(Czochralski、Cz)法により製造されている。この方法においては、融点(1950℃)を超える高い温度と、長い製造時間が必要となる。具体的なLuAG単結晶の製法は、例えば、特許文献1、非特許文献2等を参照できる。しかしながら、Cz法のような溶融法によってLuAG結晶を製造した場合、単結晶内で添加剤(ドーパント等)の偏析が生じてしまうため、添加剤が均一に結晶内に分布したLuAG結晶の製造は困難であり、得られる結晶は濃度分布を有している。
【0007】
近年、上記した添加剤の偏析の課題を解決するため、溶融法に替わるLuAG結晶の製造法として、焼結法が期待されている。この焼結法では、ニアネットシェイプが可能となることから、非常に高価なルテチア(Lu)のロスを抑えることができるため、コストメリットも期待できる。
【0008】
しかしながら、溶融法で得られる結晶が単結晶であるのに対し、焼結法で得られる結晶は多結晶であるが、非特許文献3には、LuAG多結晶のシンチレーション特性が、単結晶のそれと比較して極めて低いことが、記載されている。また、非特許文献4には、焼結助剤としてTEOS(テトラエチルシリケート)を用いて製造された透明LuAGセラミックスの光学的特性が記載されているが、その透光性は高くない。
【0009】
上記のとおり、LuAG結晶は、多岐にわたる様々な分野で有用な材料となることが期待されているが、焼結法で製造されるLuAG多結晶には、シンチレーション特性や透光性等に課題がある。したがって、より高品質なLuAG多結晶の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−16251号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】OPTICS EXPRESS , Vol.18, No.20, pp.20712-20722, 2010
【非特許文献2】日本結晶学会誌 Vol.35, No.2, p89
【非特許文献3】IEEE TRANSACTIONS ON NUCLEARSCIENCE, Vol.56, No.5, pp.2955-2959, 2009
【非特許文献4】J.Am.Ceram. Vol.89 pp.2356-2358, 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記した状況に鑑み、本発明は、優れた光学的性質(例えば、シンチレーション特性、透光性等)を有する透明LuAG多結晶を提供すること、ならびに、その製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、光散乱源となる内部のポアと異相を多結晶内部から除去することで透光性を向上させることができるという知見を得た。さらに、焼結助剤としてGeOを用いることでポアの除去ができるという驚くべき知見、加えて、Feの含有量を少なくすることで焼結助剤の効果を十分に発揮させることができるという驚くべき知見を得て、さらに検討を重ね、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下に関する。
(1)焼結助剤として酸化ゲルマニウムを含有することを特徴とする、ルテチウムアルミニウムガーネットの透明多結晶焼結体。
(2)前記酸化ゲルマニウムの含有量が、焼結体の重量に対して20〜200wt ppmである前記(1)に記載の透明多結晶焼結体。
(3)Feの含有量が、焼結体の重量に対して10wt ppm以下である前記(1)又は(2)に記載の透明多結晶焼結体。
(4)さらに賦活剤を含有している前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の透明多結晶焼結体。
(5)前記賦活剤が、セリウム(Ce)及び/又はイッテルビウム(Yb)である前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の透明多結晶焼結体。
(6)前記賦活剤の含有量が、前記ルテチウムアルミニウムガーネット結晶のルテチウム(Lu)に対して0.01〜20mol%である前記(4)又は(5)に記載の透明多結晶焼結体。
(7)光学材料である前記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の透明多結晶焼結体。
(8)前記光学材料が、蛍光材料、固体レーザー材料、又は固体シンチレータ材料である前記(7)に記載の透明多結晶焼結体。
(9)焼結助剤として酸化ゲルマニウムを含有するルテチウムアルミニウムガーネットの透明多結晶焼結体の製造方法において、不活性ガス雰囲気下でHIP(熱間等方加圧)処理を行う工程を含むことを特徴とする、ルテチウムアルミニウムガーネットの透明多結晶焼結体の製造方法。
(10)前記HIP処理を1400℃〜1700℃で行うことを特徴とする前記(9)に記載の製造方法。
(11)さらに、酸素を含有する雰囲気下でアニール処理を行う工程を含む、前記(9)又は(10)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、シンチレーション特性、透光性等の光学的特性に優れたLuAGの透明多結晶焼結体を提供することができる。また、本発明のLuAG透明多結晶焼結体の製造方法は、賦活剤の偏析が起こりにくいため、品質の高いLuAG透明多結晶焼結体を製造することができる。さらに、本発明の前記製造方法は、ニアネットシェイプ成形が可能なため、加工ロスの抑制及び大型化ができるため、製造品のコストダウンを実現できる。
【0016】
さらに、本発明のLuAG多結晶焼結体の製造方法は、大型化が可能であり、加工ロスも抑えられるため、本発明によれば、高品質でかつ安価なLuAG多結晶焼結体、ならびにその製造方法を提供できる。また、前記LuAG多結晶焼結体を使用した蛍光材料、固体レーザー材料、固体シンチレータ材料等の光学材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0018】
本発明は、LuAG(ルテチウムアルミニウムガーネット)の透明多結晶焼結体に関する。前記焼結体は、焼結助剤を含有していてよい。
【0019】
本発明のひとつの態様において、前記焼結体は、焼結助剤として酸化ゲルマニウム(GeO)を含有する。酸化ゲルマニウムを焼結助剤として含有することで、好ましくは、結晶中のポアの排除、結晶粒径の調節等が可能となる。
【0020】
本発明の好ましい態様において、前記焼結体は、焼結助剤としての有効な量のシリコンを含有せず、焼結助剤として酸化ゲルマニウムを含有する。
【0021】
本発明のひとつの態様において、前記酸化ゲルマニウムの含有量は、特に限定されないが、例えば、焼結体の重量に対して通常約0.1wt ppm〜約1000wt ppmとしてもよく、焼結助剤としての効果向上の観点から、好ましくは約10wt ppm〜約500wt ppm、より好ましくは約20wt ppm〜約200wt ppmである。
【0022】
また、前記焼結体に含有される鉄(Fe)は、前記焼結体に異相を生じさせることにより前記焼結体のレーザー特性及びシンチレーション特性等に悪影響を及ぼし、また、焼結助剤の効果を打ち消し得るため、前記焼結体中のFeの含有量はできるだけ少なくすることが好ましい。そのため、本発明のひとつの態様において、前記焼結体は、鉄(Fe)の含有量が、焼結体の重量に対して、通常約100wt ppm、好ましくは約50wt ppm、より好ましくは約10wt ppm以下である。
【0023】
本発明の好ましい態様において、前記焼結体は、酸化ゲルマニウムの含有量が約20wt ppm〜約200wt ppm、かつFeの含有量が約10wt ppm以下である。なお、含有量は、前記焼結体の重量に対する値である。
【0024】
本発明の前記焼結体は、さらに賦活剤を含有していてもよい。
前記賦活剤としては、特に限定されず、ユーロピウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、マンガン、スズ又はビスマス等が挙げられる。これらの中でも、プラセオジム(Pr)、セリウム(Ce)及び/又はイッテルビウム(Yb)が好ましい。
【0025】
前記賦活剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、本発明の前記LuAG結晶焼結体のLu(ルテチウム)に対して、通常0.001〜100mol%、賦活効果の向上の観点から、好ましくは0.05〜80mol%、より好ましくは0.01〜20mol%である。
【0026】
なお、本発明のひとつの態様において、前記焼結体は、プラセオジム(Pr)を含有しないものであってもよい。
【0027】
本発明の前記焼結体は、厚さ1.5mmでの波長700mmの光の特異的吸収以外の直線透過率が、特に限定されないが、例えば、通常約40%以上、光学特性の観点から、好ましくは約60%以上、より好ましくは70%以上である。
【0028】
さらに、本発明の前記焼結体は、放射線照射時のエネルギー分解能が、特に限定されないが、例えば、通常約10%以下、光学特性の観点から、好ましくは7%以下、より好ましくは5%以下である。
【0029】
また、本発明の前記焼結体は、放射線照射時の発光量が、特に限定されないが、例えば、同条件にて測定した酸化ビスマスゲルマニウムの1.5倍以上、好ましくは2倍以上、より好ましくは2.5倍以上である。
【0030】
本発明のひとつの態様において、前記焼結体は光学材料である。前記光学材料としては、特に限定されないが、例えば、蛍光材料、固体レーザー材料、固体シンチレータ材料等が挙げられる。
【0031】
続いて、本発明の前記焼結体の製造方法について説明する。
【0032】
本発明の前記焼結体の製造方法は、硝酸ルテチウム水溶液と硝酸アルミニウム水溶液とを混合する工程が含まれていてもよい。硝酸ルテチウム水溶液と硝酸アルミニウムの混合割合は特に限定されないが、目的のLuAG結晶の組成(LuAl12)と同じ比率となることが好ましく、モル比で3:2(硝酸ルテチウム:硝酸アルミニウム)としてよい。
【0033】
本発明の前記製造方法は、さらに、硝酸ルテチウム水溶液と硝酸アルミニウム水溶液の混合溶液(以降、LuA混合溶液ともいう。)を、炭酸水素アンモニウム水溶液に添加して沈殿物を生成させる工程が含まれていてもよい。前記炭酸水素アンモニウム水溶液のpHは、特に限定されないが、pH約7〜約9としてよい。また、前記炭酸水素アンモニウムの温度は、特に限定されないが、約20〜約30℃に維持されてもよい。
【0034】
また、本発明の前記製造方法は、前記LuA混合溶液を炭酸水素アンモニウム水溶液に添加して生成させた沈殿物を、水溶液から分離する工程が含まれていてもよい。分離方法は特に限定されず、この分野で通常用いられる種々の方法を採用してよい。具体的には、例えば、ろ過と水洗を繰り返すことにより、前記沈殿物を水溶液から分離してもよい。
【0035】
本発明の前記製造方法は、水溶液から分離した前記沈殿物を、乾燥し、さらに仮焼する工程が含まれていてもよい。乾燥条件は特に限定されないが、例えば、沈殿物を空気中で約100〜約200℃に加熱して乾燥させてもよい。仮焼の条件は特に限定されないが、例えば、乾燥させた前記沈殿物を空気中で約1000℃〜約1500℃に加熱することで行ってもよい。本工程によって、好ましくはLuAGの粉末が得られる。
【0036】
さらに、本発明の前記製造方法は、焼結助剤を添加する工程が含まれてもよい。好ましい態様において、前記焼結助剤は酸化ゲルマニウム(GeO)を含有する。焼結助剤の添加の方法は、特に限定されず、焼結助剤を均一に前記LuAG粉末中に分散できる方法であればよい。例えば、酸化ゲルマニウムは、酸化物粉末、又はアルコキシド等の形態で前記LuAG粉末中に添加されてもよい。本発明の好ましい態様において、酸化ゲルマニウムは、最終的に得られる焼結体中に、焼結体の重量に対して、GeOに換算して約20wt ppm〜約200wt ppm含有されるように、添加される。
【0037】
また、前記焼結助剤を添加する工程において、所望により、分散剤を添加してもよい。分散剤としては、特に限定されないが、例えば、カルボキシル基含有ポリマー変性物又はその塩、あるいはアクリルポリマー等が挙げられる。より具体的には、フローレン G−700、フローレン WK−13E、フローレン GW−1500、又はフローレン GW−1640(共栄社化学製)等が挙げられる。さらに、本工程において、所望によりバインダーを添加してもよい。バインダーとしては、特に限定されないが、例えば、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、又はポリビニルブチラール樹脂等が挙げられる。
【0038】
本発明のひとつの態様において、前記LuAG粉末、前記焼結助剤、分散剤及びバインダーをボールミルに仕込み、成形用スラリーを作製する。
【0039】
前記成形用スラリーは、溶媒としてアルコールを用いたアルコールスラリーであってもよい。前記アルコールとしては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、メトキシプロパノール、エトキシプロパノール等の低級アルコール等が挙げられる。
【0040】
本発明の好ましい態様において、前記成形用スラリーを成形して、成形体とする。前記成形体の成形法は、特に限定されず、セラミックスの成形法として一般的に用いられる種々の方法を採用してよい。具体的には、例えば、プレス成形、押出成形、鋳込み成形等が挙げられる。ただし、前記成形法は、高密度の成形体が得られ、かつ不純物(特に、Fe)の混入が少ないものが好ましく、上記の中でも、鋳込み成形(スリップキャスティング)が好ましい。
【0041】
そして、前記鋳込み成形に用いられる鋳型は、特に限定されないが、吸湿性の鋳型であってよい。なお、本発明のひとつの態様において、鋳型に流し込む前に、前記成形用スラリーを撹拌放置させる工程があってもよい。
【0042】
前記成形体は、最終的に得られる本発明の前記焼結体の物性向上の観点から、できるだけ高密度とすることが好ましい。そして、前記成形体を高密度とするため、成形体の粒子の充填率は、通常約40%以上、好ましくは約50%以上、より好ましくは約58%以上である。
【0043】
本発明の前記製造方法において、前記成形体を大気雰囲気下又は窒素雰囲気下で、約800℃以上で熱処理し、脱バインダー処理する工程があってよい。熱処理の時間は、特に限定されないが、例えば、通常約1〜約20時間、好ましくは約5〜約18時間、より好ましくは約8時間〜約15時間である。
【0044】
さらに、前記脱バインダー処理の後に、水素雰囲気下又は真空雰囲気下(約0.01Pa以下)で、約1000℃以上で焼成する工程があってよい。焼成時間は、特に限定されないが、例えば、通常約0.5〜15時間、好ましくは約1〜10時間、より好ましくは約2〜8時間である。このような処理により、好ましくは、焼結密度を約93%以上とする。
【0045】
そして、前記焼成工程の後に、得られた焼結体にHIP(Hot Isostatic Press、熱間等方加圧)処理を行う工程があってもよい。HIP処理を行う圧力条件としては、特に限定されないが、例えば、圧力は通常約50MPa〜約300MPa、好ましくは約80MPa〜約200MPaである。HIP処理を行う温度条件としては、特に限定されないが、通常約1000〜約2000℃、好ましくは約1400〜約1700℃である。HIP処理を行う圧力媒体としては、特に限定されないが、例えば、窒素、アルゴン等の不活性ガスを用いることが好ましい。
【0046】
前記HIP処理は、得られる結晶の粒径が3μm未満となるように条件を設定することが好ましい。
【0047】
本発明の好ましい態様において、前記HIP処理工程の後に、約1000℃以上で、酸素を含む雰囲気下にて焼結体のアニール処理を行う。
【0048】
本発明の上記製造方法により得られるルテチウムアルミニウムガーネット多結晶焼結体は、好ましくは、酸化ゲルマニウム(GeO)の含有量が約20〜約200wt ppmであり、Feの含有量が約10wt ppm未満であり、結晶粒径が約3μm未満である。また、本発明の上記製造方法により得られるルテチウムアルミニウムガーネット多結晶焼結体は、好ましくは、ポアと異相が排除され、光散乱が抑制されているため、光学材料として有用である。
【実施例】
【0049】
次に、実験例、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0050】
<実施例1>
0.5mol/Lの硝酸ルテチウム水溶液300mLと0.5mol/Lの硝酸アルミニウム水溶液500mLを1Lビーカーにとり混合し、LuAG組成の混合溶液とした。この溶液を、アンモニア水を加えてpH8.0とした2mol/Lの炭酸水素アンモニウム水溶液800mL中に、28mL/分の速度で滴下した。この際、LuAG組成の混合液と、炭酸水素アンモニウム水溶液は共に25℃に維持した、滴下の途中でのpHの最小値は7.0で、滴下終了後3時間程度でのpHは一定値の8.0に達した。滴下終了後、25℃で24時間熟成した後、ろ過と水洗を4回繰り返した。沈殿中の無関係陰イオン、ここでは、硝酸イオンと遊離の炭酸イオン、の濃度は、200wt ppm以下に低下した。水洗後の沈殿はアモルファスであるが、形態は粒状で濾過と水洗が容易にでき、組成は炭酸塩ないし塩基性炭酸塩である。
このアモルファス沈殿を空気中、130℃で乾燥した後に、空気中1200℃で仮焼することにより、LuAG微粉末を作製した。
得られたLuAG粉末50gをボールミルに仕込んだ。この際、酸化ゲルマニウム(和光純薬工業製)を、10wt ppm(重量ppm)の割合でそれぞれ仕込んだ。また、分散剤として、フローレンG−7000(共栄社化学製)を1g添加し、エタノール50gを加え、12時間混合し、アルコールスラリーとした。このスラリーを1日攪拌放置して養生した後、吸水性の樹脂型に流し込み成形体を得た。
この成形体を60℃にて乾燥した後に、脱バインダーのために950℃、12時間の熱処理を行った(その際、室温からの昇温速度は5℃/時間とした。)。
次いで、これらの成形体を真空雰囲気で、1300℃で5時間、焼成を行った。また次に、得られた焼結体をHIP炉にてArガスを圧力媒体として150MPaで1400℃にて5時間のHIP処理を行った。得られたHIP処理品を大気雰囲気下にて1200℃で8時間、アニールを行った。
【0051】
<実施例2〜8>
酸化ゲルマニウムの量を、表1に示した値とする以外は、実施例1と同様にして実施した。
【0052】
実施例1〜8で得られた処理品は、機械加工によりその厚みを1.5mmとして、ダイヤモンドスラリーとアルミナスラリーを用い両面鏡面研磨を行った。この研磨品の透過率を、分光光度計(日立製作所製U4100)を用いて、波長700nmでの透過率を測定した。各サンプルの平均粒径と透過率を求めた結果を、表1に示す。
【表1】
【0053】
本発明の焼結体はいずれも、良好な透過率を示した。中でも、GeOの添加量が20〜200wt ppmである場合は、特に高い透過率を示した。
【0054】
<実施例9〜14>
HIP処理の温度を表2の値とする以外は、実施例5と同様にして実施した。
【0055】
実施例9〜14で得られた処理品は、機械加工によりその厚みを1.5mmとして、ダイヤモンドスラリーとアルミナスラリーを用い両面鏡面研磨を行った。この研磨品の透過率を、分光光度計(日立製作所製U4100)を用いて、波長700nmでの透過率を測定した。各サンプルの平均粒径と透過率を求めた結果を、表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
本発明の実施品はいずれも、高い透過率を示した。
【0058】
<実施例15〜20>
LuAG原料に、表3に示したFe含有量のものを用いる以外は、実施例11と同様にして実施した。また、実施例11と同様に透過率を測定した。
結果を表3に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
本発明の実施品はいずれも、高い透過率を示した。また、Feが10wt ppm以下の場合、特に高い透過率となった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、シンチレーション特性、透光性等の光学的特性に優れたLuAGの透明多結晶焼結体を提供することができる。また、本発明のLuAG透明多結晶焼結体の製造方法によれば、品質の高いLuAG透明多結晶焼結体を製造することができ、さらに、本発明の製造方法によれば、加工ロスの抑制及び大型化ができるため、製造品のコストダウンを実現できる。