特許第6121301号(P6121301)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6121301
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/17 20160101AFI20170417BHJP
【FI】
   A23L33/17
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-201893(P2013-201893)
(22)【出願日】2013年9月27日
(65)【公開番号】特開2015-65853(P2015-65853A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2016年3月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 浩一
(72)【発明者】
【氏名】鉢村 恵里佳
(72)【発明者】
【氏名】西谷 弘
(72)【発明者】
【氏名】加藤 務
【審査官】 福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−508803(JP,A)
【文献】 特開2009−102235(JP,A)
【文献】 特開2011−250768(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23G
A21D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソロイシン、ロイシン、およびバリンの3種類の分岐鎖アミノ組成物と共に、糖質および脂質を含有する分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品であって、該食品は前記分岐鎖アミノ酸の含有量が前記食品100kcalあたり3.0〜5.0gであり全脂大豆または脱脂大豆を原料とする大豆素材を9〜16質量%の割合で配合し二糖類および糖アルコールを含有し且つ焼菓子形態をなし、前記二糖類の含量が前記分岐鎖アミノ酸1重量部に対し、0.25〜0.75重量部であり、前記糖アルコールの含量が前記分岐鎖アミノ酸1重量部に対し、0.30〜0.80重量部であり、前記二糖類がマルトースまたはトレハロースであり、前記糖アルコールがソルビトールまたはキシリトールである分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品。
【請求項2】
アルミ密封包装した状態で9箇月間室温保存した後の水分活性が0.45〜0.60である請求項1に記載の分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分岐鎖アミノ酸と共に、糖質および脂質を含有する分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品に関する。より詳細には、本発明は、分岐鎖アミノ酸に起因する苦みがなく、しかも焼菓子の形態をなしていることにより、従来の分岐鎖アミノ酸含有製剤に比べて、摂取性が大幅に向上していて且つ長期保存安定性に優れる分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品に関する。
【背景技術】
【0002】
イソロイシン、ロイシン、およびバリンからなる3種類の分岐鎖アミノ酸は、いずれも体内でつくることができないために外部から補給しなければならない必須アミノ酸であって、蛋白合成促進作用と筋蛋白崩壊抑制作用を有している。これら3種類の分岐鎖アミノ酸は、筋でまずケト酸にアミノ基転移され、肝やその他の組織でインスリン依存性に代謝され、エネルギー基質となる。これら3種類の分岐鎖アミノ酸は、侵襲時や感染時には効率の良いエネルギー源となることから、術後早期や肝障害、腎障害などの場合にはこれら3種類の分岐鎖アミノ酸を含む製剤が良く使用される(非特許文献1、2)。
例えば、肝硬変患者は、(1)エネルギー需要の亢進に伴う分岐鎖アミノ酸酸化の亢進、(2)高インスリン血症による筋肉組織への分岐鎖アミノ酸の取り込みの増加、(3)高アンモニア血症による筋肉組織での分岐鎖アミノ酸代謝の亢進などが原因となり、血中分岐鎖アミノ酸濃度が低下する。分岐鎖アミノ酸は、蛋白代謝におけるanticatabolic作用のあることが報告されており、分岐鎖アミノ酸の供給は肝硬変患者の筋肉における蛋白質代謝を改善する。
【0003】
従来、肝硬変患者に対しては、食事の一部分をアミノ酸、糖質、および脂質などを配合した市販の製剤で置き換えることによって栄養状態の改善が行われてきた。しかしながら、市販の製剤の多くは、粉末状の製剤を水で溶解して液剤にして患者に給与するため、液剤の調製の手間がかかり、しかも摂取形態が液状であることから、摂取後に腹部膨満感あるいは胃もたれがあり、所定量を摂取できない場合がある。しかしアミノ酸が分岐鎖アミノ酸である場合には、分岐鎖アミノ酸の苦味を強く感じて服用しにくいという問題があった(非特許文献3)。
そこで、本発明者らは、これらの課題を解決する手段としては分岐鎖アミノ酸を含有する固形食品、中でも、患者が通常の菓子類を食するのと同じ感覚で、楽しみながら継続して摂取できる焼菓子形態が最適と考えて研究を行ってきた。しかしながら、本発明者らの検討によって、分岐鎖アミノ酸を含有する焼菓子は、一般的な焼菓子の焼成条件によって製造すると保存中に水分活性が上昇する現象が認められることが明らかになった。これは、分岐鎖アミノ酸を大量に含有しているため、焼成直後には半結合状態として存在する水が、保存中に自由水へと遷移することが原因と考えられる。すなわち、分岐鎖アミノ酸を含有する焼菓子は、一般的な焼菓子の製法によっては、十分な保存性を確保することが不可能であった(特許文献1)。
【0004】
ここで、水分活性とは、食品衛生検査指針理化学編(2005年 社団法人日本食品衛生協会発行)の水分活性試験法電気抵抗式機器による方法で測定した食品中の自由水の割合を示す指標である。食品の腐敗は、ある種の微生物が原因であるが、微生物の増殖には適当な栄養素や温度のほかに、適量な水の存在が不可欠である。食品中の水は、大きく自由水と結合水に分類される。自由水とは分子が自由に動き回ることのできる水であり、これに対して、結合水は分子の動きが束縛されている水である。微生物が利用できるのは、食品に含まれる水のうち自由水のみであるため、水分活性が高いほど保存中に微生物が繁殖しやすい。多くの食中毒菌の生育最低水分活性は0.94以上、黄色ブドウ球菌は0.86、酵母は0.88、カビは0.80以上である。微生物の生育がみられるもっとも低い水分活性は0.61である(非特許文献4)。水分活性を0.60以下にすると、ほとんどすべての微生物の生育を防ぐことが可能であり、食品の保存性が向上する。
【0005】
分岐鎖アミノ酸含有焼菓子の保存中における水分活性の上昇を抑制するには、焼成条件を厳しくして焼成直後の水分活性を低くする方法が考えられる。本発明者らの検討によれば、焼成後の水分活性が0.35未満になるように焼成条件を設定すれば、その後の水分活性の上昇が抑制できることが明らかになっている。
しかし、水分活性が0.35未満になるような焼成条件で分岐鎖アミノ酸含有焼菓子を製造すると、苦味が強くなる、固くなりすぎる等の問題が生じ、特に高齢者の摂食が困難となる。また、高温下で化学反応が進行して配合成分に変動が生じる可能性もある。さらに、着色が著しい、ひびが割れるなど外観状の問題もある。従って、長期間の保存に耐え、かつ風味および食感が良好な焼菓子形態の分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品を製造するための有効な手段はこれまで存在しなかった。
【0006】
そこで、特許文献1では分岐鎖アミノ酸の含有量が100kcalあたり2.0〜4.5gであり; 乳糖果糖オリゴ糖,フラクトオリゴ糖,グリセリン,ラクチュロース,ラフィノース,キシリトール,ソルビトール,トレハロース,マルトースの少なくとも1種の甘味料を含有し;且つ 焼菓子形態をなしている;ことを特徴とする分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品の開示がなされている。これは、通常の焼物菓子形態であるため、水分活性の上昇を抑制することができる点では有効であったが、焼成後に硬いという課題があった。特に、高齢者に対しては摂取しにくい硬さであることから、高齢者が抵抗感を有し、継続摂取が困難となり、結果として栄養状態の改善が期待できなくなるものであった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「タンパク質・アミノ酸の新栄養学」、第1刷、株式会社講談社、2007年3月20日、p.172−175
【非特許文献2】「全科に必要な栄養管理Q&A」、株式会社総合医学社、2008年2月20日、p.14−15、68−69および184−185
【非特許文献3】沖田極、「栄養−評価と治療」、株式会社メディカルレビュー社、2007年6月15日、第24巻、第3号、p.64−73
【非特許文献4】「食品と水分活性」、株式会社学会出版センター、1981年12月10日、p.102−103
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−250768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、保存安定性に優れていて、長期間にわたって変質などを生ずることなく、安全に且つ安定して保存することができるとともに、外観および食感が良好な焼菓子形態の分岐鎖アミノ酸含有製品を提供することである。
さらに、本発明の目的は、分岐鎖アミノ酸と共に、糖質および脂質などの他の栄養成分を患者に同時に給与することのできる、焼菓子形態の分岐鎖アミノ酸含有総合栄養製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的は、下記の(1)及び(2)の本発明により達成される。
(1)イソロイシン、ロイシン、およびバリンの3種類の分岐鎖アミノ組成物と共に、糖質および脂質を含有する分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品であって、該食品は前記分岐鎖アミノ酸の含有量が前記食品100kcalあたり3.0〜5.0gであり全脂大豆または脱脂大豆を原料とする大豆素材を9〜16質量%の割合で配合し二糖類および糖アルコールを含有し且つ焼菓子形態をなし、前記二糖類の含量が前記分岐鎖アミノ酸1重量部に対し、0.25〜0.75重量部であり、前記糖アルコールの含量が前記分岐鎖アミノ酸1重量部に対し、0.30〜0.80重量部であり、前記二糖類がマルトースまたはトレハロースであり、前記糖アルコールがソルビトールまたはキシリトールである分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品。
(2)アルミ密封包装した状態で9箇月間室温保存した後の水分活性が0.45〜0.60である上記(1)に記載の分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品。
【発明の効果】
【0011】
以上述べたように、本発明の分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品は、全脂大豆または脱脂大豆を原料とする大豆素材を含有し、二糖類および糖アルコールを含有することにより、保存中の水分活性の上昇を抑制し、長期保存が可能で、かつ食感および外観が良好な焼菓子形態の分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品およびその製造方法を詳細に説明する。
本発明に示される「焼菓子」とは、生地を混合して賦型後、加熱焼成したものを意味する。
生地に使用する原料は、従来、焼菓子を調製する際に使用されているものはいずれも可能である。例えば、小麦粉、糖類、食用油脂、卵を主原料とし、必要に応じて食塩、乳製品、膨張剤などを加えたものである。限定されるものではないが、焼菓子形態をなす本発明の分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品における焼菓子形態の具体例としては、クッキー、サブレ、ビスケット、ウエハース、パフパイ、ロシアケーキなどを挙げることができる。
【0013】
本発明の分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品の水分活性は、焼成後アルミ密封包装した状態で9箇月室温保存した後の水分活性が0.45〜0.60であることが好ましい。焼成後の水分活性が0.45未満であると、食感が粗悪になる。保存中に水分活性が0.60を超えると微生物が増殖する可能性があり、保存安定性が悪くなる。
【0014】
本発明の分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品の形状、サイズ、重さなどは特に制限されるものでなく、喫食し易い形状であればいずれでもよく、一般的に分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品1個の重さが約8〜30g、特に10〜25g程度にしておくことが、喫食性、各種栄養成分の摂取量の調整容易性、携帯性などの点から好ましい。
また、本発明の分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品のカロリーとしては、分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品1g当りのカロリーが3.2〜4.8kcal、特に3.6〜4.4kcalにしておくことが、カロリー摂取量の調整の容易性の点から好ましい。
ここで、分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品のカロリー量は、分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品中に含まれる成分の種類および量に基づいて、五訂増補日本食品標準成分表に対応したエクセル栄養君Ver.4.5(株式会社建帛社)にしたがって算出したカロリー量をいう。
【0015】
本発明の分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品は、イソロイシン、ロイシン、およびバリンという3種類のアミノ酸組成物からなる分岐鎖アミノ酸を含有している。本発明の分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品に含有されている分岐鎖アミノ酸であるイソロイシン、ロイシン、およびバリンは、いずれもL−アミノ酸であり、天然物から得られたものであってもよいし、合成により得られたものであってもよいし、または天然物から得られたものと合成により得られたものを併用してもよい。
【0016】
本発明の分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品に配合される分岐鎖アミノ酸の配合量は、100kcal当り3.0〜5.0gの割合で含有しており、3.0〜4.5gの割合で含有していることが好ましく、3.5〜4.5gの割合で含有していることがより好ましい。分岐鎖アミノ酸の含有量が前記範囲であることによって、患者に必要な量の分岐鎖アミノ酸を供給することができる。分岐鎖アミノ酸の含有量が前記範囲よりも少ないと、患者に必要な量の分岐鎖アミノ酸を供給できにくくなり、一方分岐鎖アミノ酸の含有量が前記範囲よりも多いと、アミノ酸の苦味を強く感じるようになり、患者が継続して摂取しにくくなる。
【0017】
本発明の分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品における、イソロイシンとロイシンとバリンの含有比率は、一般的には、イソロイシン:ロイシン:バリン=1:1.6〜2.4:0.8〜1.2の質量比であることが好ましく、1:1.8〜2.2:0.9〜1.1であることがより好ましい。イソロイシン:ロイシン:バリンの含有比率を前記範囲にすることによって、分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品中でのそれら3種類の分岐鎖アミノ酸の含有比率が、人体を構成しているタンパク質におけるイソロイシンとロイシンとバリンの比率に近い値となり、人体にとって必要なそれぞれの分岐鎖アミノ酸を過度に多くなったり、過度に少なくなったりせずに、適切な量で供給することができる。
【0018】
本発明の分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品の食感を良くするために、全脂大豆または脱脂大豆を原料とする大豆素材が必要である。
本発明の分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品に使用する全脂大豆または脱脂大豆を原料とする大豆素材としては、大豆粉、おからパウダーなど大豆加工品以外に、濃縮大豆たんぱく、大豆ふすまなどを使用しても良い。
本発明の分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品に配合する全脂大豆または脱脂大豆を原料とする大豆素材は、9〜16質量%、より好ましくは10〜14質量%の範囲である。全脂大豆または脱脂大豆を原料とする大豆素材の配合量が、9質量%より少ないと、硬くなり、食べにくくなるため、好ましくない。また、16質量%を越えると、焼成後の焼物菓子が十分な焼成されなくなり、食品として好ましくない。
本発明の分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品に、食感保持の目的で配合する甘味料は、二糖類である。その中でも、二糖類としてマルトースまたはトレハロースが好ましい。
二糖類は主に食感保持の目的で配合され、該二糖類の配合量は、分岐鎖アミノ酸1重量部に対し、0.25〜0.75重量部であることが好ましい。0.25重量部未満であると、十分な食感保持が得られない。0.75重量部を超えると、生地のまとまりがなくなり調製が難しく、また、焦げやすく焼成作業が困難になり、食感が悪くなる等の問題があり好ましくない。
本発明の分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品に、保存中の水分活性上昇抑制の目的で配合する甘味料は、糖アルコールである。その中でも、糖アルコールとしてソルビトールまたはキシリトールが好ましい。
糖アルコールは主に水分活性上昇抑制の目的で配合され、該糖アルコールの配合量は、分岐鎖アミノ酸1重量部に対し、0.30〜0.80重量部であることが好ましい。0.30重量部未満であると、十分な水分活性上昇抑制が得られない。0.80重量部を超えると、生地のまとまりがなくなり調製が難しく、また、焦げやすく焼成作業が困難になり、食感が悪くなる等の問題があり好ましくない。
【0019】
本発明の分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品に配合する糖質としては、医薬、栄養剤、食品で従来利用されている公知の糖質のいずれもが使用できる。例えば、小麦粉、ライ麦粉、米粉、トウモロコシ粉などの穀粉類、小麦澱粉、トウモロコシ澱粉、米澱粉、タピオカ澱粉などの澱粉類、デキストリン、砂糖・ブドウ糖などの単糖類・二糖類などが挙げられ、これらの1種または2種以上を使用できる。
【0020】
本発明の分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品に配合する脂質としては、従来、食品で利用されている公知の各種の食用油脂類が単独または2種以上混合して使用できる。例えば、アマニ油、エゴマ油、オリーブ油、ゴマ油、米油、米糠油、サフラワー油、シソ油、大豆油、コーン油、ナタネ油、胚芽油、パーム油、パーム核油、ヒマワリ油、綿実油、ヤシ油、ナッツ油、落花生油、カカオ脂などの植物性油脂やラード、牛脂、魚油、乳脂などの動物性油脂、中鎖脂肪酸、高度不飽和脂肪酸、DHA、EPA、ジアシルグリセロールなどの加工油脂、また、これら油脂を含有するバター、マーガリン、ショートニングなどの油脂加工品が挙げられる。
【0021】
本発明の分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品には、製品の種類に応じて通常用いられる適当なビタミン類やミネラル類などの成分を配合することができる。ビタミン類としては、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチン、ビタミンC、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKなどが挙げられる。これら複数をできるだけ組み合わせて配合するのが好ましい。ビタミンとしてビタミン誘導体を用いてもよい。本発明の分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品中には、複数のビタミンを組み合わせて含有させることが、各種ビタミン類を同時に摂取できることから好ましい。
【0022】
ビタミンの配合量としては、分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品100kcal当り、下記の範囲が適当である。
[分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品100kcal当りのビタミン類の好ましい含有量]
ビタミンB1 0.1〜40mg、好ましくは0.3〜25mg
ビタミンB2 0.1〜20mg、好ましくは0.33〜12mg
ビタミンB6 0.1〜60mg、好ましくは0.3〜10mg
ビタミンB12 0.1〜100μg、好ましくは0.60〜60μg
ナイアシン 1〜300mg、好ましくは3.3〜60mg
パントテン酸 0.1〜55mg、好ましくは1.65〜30mg
葉酸 10〜1000μg、好ましくは60〜200μg
ビオチン 1〜1000μg、好ましくは14〜500μg
ビタミンC 10〜2000mg、好ましくは24〜1000mg
ビタミンA 0〜3000μg、好ましくは135〜600μg
ビタミンD 0.1〜50μg、好ましくは1.5〜5.0μg
ビタミンE 1〜800mg、好ましくは2.4〜150mg
ビタミンK 0.5〜1000μg、好ましくは2〜700μg
【0023】
本発明の分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品に配合することができるミネラル類としては、ナトリウム、カルシウム、カリウム、マグネシウム、リン、および亜鉛などが挙げられる。これらをできるだけ組み合わせて配合するのが好ましい。これらは、無機電解質成分として配合されてもよいし、有機電解質成分として配合されてもよい。無機電解質成分としては、例えば、塩化物、硫酸化物、炭酸化物、リン酸化物などのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩類が挙げられる。また、有機電解質成分としては、有機酸、例えばクエン酸、乳酸、アミノ酸、アルギン酸、リンゴ酸またはグルコン酸が挙げられる。
【0024】
ミネラルの配合量としては、分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品100kcal当り下記の範囲が適当である。
[分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品100kcal当りのミネラルの好ましい含有量]
ナトリウム 5〜6000mg、好ましくは10〜3500mg
カリウム 1〜3500mg、好ましくは25〜1800mg
マグネシウム 1〜740mg、好ましくは25〜300mg
カルシウム 10〜2300mg、好ましくは250〜600mg
リン 1〜3500mg、好ましくは25〜1500mg
亜鉛 0.1〜30mg、好ましくは1〜15mg
【0025】
なお、本発明の分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品には、食塩、イースト、膨張剤などを必要に応じて添加することもできる。膨張剤としては、食品業界で汎用されている例えば炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウムが挙げられ、その代表例としては市販のベーキングパウダーが挙げられる。これら食塩、イースト、膨張剤などの添加量は約1重量%までとすることが好ましい。
【0026】
本発明に係る分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品は次のようにして製造することができる。まず、前記各成分から選択した成分を含有する生地を作製する。各成分の混合、混練による生地の調製は、得られる生地が均一になるように適宜通常の装置、機器などを利用して行う。まず、粉末状の各原料成分を秤量する。脂質源、全卵、糖質、および乳化剤を混合し、クリームを形成した後、前記粉末状の各原料成分を含むその他の原料成分を混合する。
次いで、本発明では前記で得られる生地を任意の形状に賦型する。この賦型は、通常の方法に従い、例えば麺棒あるいはデポジター、圧延ローラーなどの機械を用いて生地を延ばした後に型抜きする。また、搾り出し(ワイヤーカット)、ロータリーモルダー、ステンシルモルダーなどの方法も挙げられる。これら賦型物の大きさおよび長さは最終製品の食べやすさ、取扱いの容易さなどを考慮し適宜定めればよい。
本発明においては、前記生地を加熱焼成することを不可欠とし、これによって分岐鎖アミノ酸を含有する焼菓子形態の総合栄養食品を得ることができる。加熱焼成の条件は、使用した原料素材、生地の水分含量などに応じて適宜選択でき、一般に製菓製造において採用されているそれらの条件と特に異なるものではない。通常、加熱温度範囲は約60〜250℃の範囲から選ばれ、加熱時間は約2〜60分の範囲から選ばれる。好ましい温度および時間は、約130〜220℃および8〜45分程度である。
前記加熱焼成のための熱源としては、特に制約はなく熱水、蒸気、電気ヒーター、ガスオーブンなどの燃焼熱を利用するもの、電子レンジなどのマイクロ波、遠赤外線、赤外線などの各種のものを用いることができる。
【0027】
本発明の分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品の水分量は5〜15重量%、好ましくは6〜12重量%である。分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品の水分量が5重量%より少ないと、分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品が硬くなり、食べにくくなるため好ましくない。また、水分量が15重量%を超えると長期保存に適さなくなり好ましくない。
このようにして得られた分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品は、大豆素材、二糖類、および糖アルコールが配合されていることにより、保存中の水分活性の上昇を抑制し、食感を保持しながら長期保存が可能なものである。
【実施例】
【0028】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
表1に示す配合に基づき、後述する調製法1の方法により分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品を得た。アミノ酸含有量は、100kcal当り4g、マルトースおよびソルビトールを、分岐鎖アミノ酸1重量部に対して0.37および0.48重量部になるように配合した。
これより得られた分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品では、焼成後の質量は12g(熱量50kcal)、分岐鎖アミノ酸の含有量が100kcal当り2gであった。
この栄養食品の外観、水分活性および食感について以下の評価法1〜3に従って評価を行った。その結果、外観、水分活性および食感いずれも良好であることが確認された。結果を表3に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
(調製法1)
マーガリン、チョコレート香料、バター香料、マルトース(サンマルトS、株式会社林原)、ソルビトール(D−ソルビトール、三菱商事フードテック株式会社)、グァーガム加水分解物、オレンジピール、はちみつを4.8L容ステンレルボウルに入れ、ミキサー(KitchenAid 型式:KSM5、平面ビーター、株式会社エフ・エム・アイ)を用い、速度目盛り2で2分間ミキシングした。次に、凍結全卵(製菓用、キユーピータマゴ株式会社)、水、ネオテーム製剤を加えて、速度目盛り2で2分間ミキシングした。さらに、天然ドロマイト、グルコン酸亜鉛、ビタミンミックス、ビタミンCを加えて、速度目盛り2で3分間ミキシングした後、イソロイシン、ロイシン、バリン(L−イソロイシン、L−ロイシン、L−バリン、いずれも協和発酵バイオ株式会社)、ココアパウダーを加えて、速度目盛り2で2分間ミキシングした。最後に、大豆粉(アルファプラスHS−600、日清オイリオグループ株式会社)、おからパウダー(おからパウダー、キッコーマンソイフーズ株式会社)、小麦粉を加えて、速度目盛り1で30秒間、速度目盛り2で1分間ミキシングして分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品用生地を調製した。得られた生地を麺棒で8mm厚の均一な板状に伸ばし、幅21mm、長さ100mm、重量14gに成型した。その後、成型した生地をオーブンレンジ(品番:NE−M250、松下電器産業株式会社)で130℃、30分間焼成し、放冷後アルミ蒸着フィルムを用いて密封包装して、本発明の分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品を得た。
【0032】
(評価法1)
焼成後の外観を観察し、色調を確認した。均一に焼色がついているものを『○』、焼色がまだらになったものを『△』、焦げたものを『×』と判断した。
(評価法2)
焼成後、十分に冷却した分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品をアルミ包装して室温に9箇月保存し、保存後の水分活性を測定した。水分活性の測定は、水分活性測定装置(LabMaster−aw Standard、Novasina社)を用いた。水分活性が0.60以下を『適』、0.61以上を『不適』と判断した。
(評価法3)
焼成後の食感について、パネラー10名により官能評価を行った。評価は、『良い』あるいは『悪い』の2段階とした。10名中8名以上が『良い』と回答したものを『○』、10名中8名以上が『悪い』と回答したものを『×』、前記に該当しないものを『△』と判断した。評価法2において、『不適』と判断されたサンプルについては、評価法3は行わなかった。比較例5以降は、評価法1で『×』と判断されたサンプルについては、食感に関する官能評価は行わなかった。
【0033】
(実施例2)
実施例1において、大豆粉を濃縮大豆たんぱく(ARCON S、日本新薬株式会社)0.26重量部に代えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品を得た。この栄養食品の外観、水分活性および食感について上記評価法1〜3に従って評価を行った。その結果、外観、水分活性および食感いずれも良好であることが確認された。結果を表3に示す。
(実施例3)
実施例1において、おからパウダーを濃縮大豆たんぱく(ARCON S、日本新薬株式会社)0.12重量部、大豆食物繊維(FIBRIM(登録商標) 2000 IP、デュポン株式会社)0.16重量部に代えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品を得た。この栄養食品の外観、水分活性および食感について上記評価法1〜3に従って評価を行った。その結果、外観、水分活性および食感いずれも良好であることが確認された。結果を表3に示す。
(実施例4)
実施例1において、ソルビトールをキシリトール(キシリトール、物産フードサイエンス株式会社)に変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品を得た。この栄養食品の外観、水分活性および食感について上記評価法1〜3に従って評価を行った。その結果、外観、水分活性および食感いずれも良好であることが確認された。結果を表3に示す。
(実施例5)
実施例1において、マルトースをトレハロース(トレハ、株式会社林原)に変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品を得た。この栄養食品の外観、水分活性および食感について上記評価法1〜3に従って評価を行った。その結果、外観、水分活性および食感いずれも良好であることが確認された。結果を表3に示す。
【0034】
(比較例1)
実施例1において、大豆粉をカゼイン(カゼインカルシウムS、日本新薬株式会社)に変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品を得た。この栄養食品の外観、水分活性および食感について上記評価法1〜3に従って評価を行った。その結果、食感が不良であることが確認された。結果を表3に示す。
(比較例2)
実施例1において、大豆粉を乳清たんぱく(Lacprodan DI−9224、アーラフーズイングレディエンツジャパン株式会社)に変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品を得た。この栄養食品の外観、水分活性および食感について上記評価法1〜3に従って評価を行った。その結果、外観および食感が不良であることが確認された。結果を表3に示す。
(比較例3)
実施例1において、マルトースをグラニュー糖(精製グラニュ糖、和田精糖株式会社)に変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品を得た。この栄養食品の外観、水分活性および食感について上記評価法1〜3に従って評価を行った。その結果、外観、水分活性および食感のいずれも不良であることが確認された。結果を表3に示す。
(比較例4)
実施例1において、マルトースをキシロオリゴ糖(キシロオリゴ95P、サントリーウエルネス株式会社)に変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品を得た。この栄養食品の外観、水分活性および食感について上記評価法1〜3に従って評価を行った。その結果、外観および食感が不良であることが確認された。結果を表3に示す。
(比較例5)
実施例1において、ソルビトールをグリセリン(食添用グリセリン、花王株式会社)に変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品を得た。この栄養食品の外観、水分活性および食感について上記評価法1〜3に従って評価を行った。その結果、外観および食感が不良であることが確認された。結果を表3に示す。
(比較例6)
実施例1において、ソルビトールをエリスリトール(Erythritol、物産フードサイエンス株式会社)に変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品を得た。この栄養食品の外観、水分活性および食感について上記評価法1〜3に従って評価を行った。その結果、外観および食感が不良であることが確認された。結果を表3に示す。
【0035】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品は、焼菓子の形態をなしているため、患者などが、菓子類を食べる感覚で、楽しみながら継続して喫食することができ、しかも保存時の水分活性の上昇を抑えた焼菓子の形態になっていて長期保存安定性、取り扱い性に優れているので、総合栄養食として極めて有効である。