特許第6121311号(P6121311)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6121311
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】磁気検知装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/09 20060101AFI20170417BHJP
   H01L 43/08 20060101ALI20170417BHJP
【FI】
   G01R33/06 R
   H01L43/08 Z
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-235640(P2013-235640)
(22)【出願日】2013年11月14日
(65)【公開番号】特開2015-94732(P2015-94732A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年2月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプス電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】尾花 雅之
(72)【発明者】
【氏名】安藤 秀人
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 努
(72)【発明者】
【氏名】金子 一明
【審査官】 荒井 誠
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/068146(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0138346(US,A1)
【文献】 特開2002−207071(JP,A)
【文献】 特開2004−271244(JP,A)
【文献】 特開2013−044641(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/06−33/09
H01L 43/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向の磁界成分を誘導する磁界誘導層と、前記磁界誘導層の端部が対向する仮想面上に位置して前記第1の方向と直交する第2の方向へ感度軸を有する磁気センサとが設けられた磁気検知装置において、
前記磁気センサは、前記第2の方向において、前記磁界誘導層の端部の中心に対してその中心が位置ずれして配置された第1の磁気センサと、前記磁界誘導層の端部の中心に対してその中心が、前記第1の磁気センサとは反対側に位置ずれして配置された第2の磁気センサとを含み、前記第1の磁気センサと前記第2の磁気センサは直列に接続されており、
前記磁界誘導層は、前記磁気センサと対向する第1の部分と、前記磁気センサから離れた第2の部分とを有しており、第1の部分の透磁率が第2の部分よりも低いことを特徴とする磁気検知装置。
【請求項2】
第2の部分の保磁力が第1の部分よりも低い請求項1記載の磁気検知装置。
【請求項3】
前記磁界誘導層は、鉄を含む合金で形成されており、鉄の含入量は、第1の部分が第2の部分よりも少ない請求項1または2記載の磁気検知装置。
【請求項4】
前記磁気誘導層は、前記第2の部分よりも前記磁気センサから離れた第3の部分を有しており、第3の部分の透磁率が第2の部分よりも低い請求項1ないし3のいずれかに記載の磁気検知装置。
【請求項5】
第2の部分の保磁力が第3の部分よりも低い請求項4記載の磁気検知装置。
【請求項6】
前記磁界誘導層は、鉄を含む合金で形成されており、鉄の含入量は、第3の部分が第2の部分よりも少ない請求項4または5記載の磁気検知装置。
【請求項7】
前記第1の部分の鉄の含有量が11質量%以上で14質量%以下である請求項1ないし6のいずれかに記載の磁気検知装置。
【請求項8】
前記第1の部分の第1の方向での厚さ寸法が、前記磁界誘導層の同方向での厚さ寸法の45%以下である請求項1ないし7のいずれかに記載の磁気検知装置。
【請求項9】
前記磁気センサは、固定磁性層とフリー磁性層が非磁性層を介して積層された磁気抵抗効果素子を有しており、前記固定磁性層の固定磁化が第2の方向へ向けられている請求項1ないし8のいずれかに記載の磁気検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GMR素子などの磁気センサによって、その感度軸と直交する向きの磁界成分を検知する磁気検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1と特許文献2に記載された磁気検知装置は、感度軸が水平方向に向けられた磁気抵抗効果素子でブリッジ回路が構成されており、磁気抵抗効果素子には、垂直方向に延びる軟磁性材料で形成された磁性体が対向して設けられている。垂直方向の磁界成分は、磁性体によって誘導され、磁性体の下端部からの漏れ磁束のうちの水平方向成分が磁気抵抗効果素子で検知される。これにより、垂直方向の磁界の強度を検知することが可能となっている。
【0003】
この磁気検知装置では、外部磁界の水平方向成分に基づく検知出力が本来の検知出力に重畳されないことが必要である。そのため、水平方向の磁界成分で個々の磁気抵抗効果素子の抵抗値が変化しても、その変化を相殺できるようにブリッジ回路が構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−276159号公報
【特許文献2】国際公開 WO 2011/068146 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記磁気検知装置は、垂直方向の磁界を誘導するための磁性体が、透磁率の高い軟磁性材料で形成されている。ところが、磁性体の透磁率が高いと、本来は検知すべきでない水平方向の磁界成分に対して感度のばらつきが発生するという課題が生じる。
【0006】
すなわち、この種の磁気検知装置は、複数の磁気抵抗効果素子に水平方向の磁界成分が同じ強度で作用した場合には、磁気抵抗効果素子の抵抗値が変化しても、抵抗値の変化が互いに相殺されて検知出力として現れないようになっている。しかし、磁性体の透磁率が高いと、水平方向の磁界成分が磁性体に引き込まれるため、個々の磁気抵抗効果素子に与えられる水平方向の磁界強度にばらつきが発生しやすくなる。このばらつきが大きくなると、ブリッジ回路で抵抗値の変化を相殺できなくなり、本来は感知すべきではない水平方向の磁界強度に応じた検知出力が検知ノイズとなって現れてしまう。
【0007】
そこで、前記磁性体の軟磁気特性をやや劣化させて透磁率を下げることで、水平方向の磁界成分が磁性体に引き込まれにくくする対策が考えられる。しかし、磁性体の軟磁気特性を劣化させると保磁力が大きくなり、比較的大きな外部磁界が与えられたときに磁性体内に磁化が残留しやすくなる。その結果、垂直方向の磁界成分を検知するときに、検知出力にオフセット成分が重畳し、また感度のばらつきが発生するようになる。
【0008】
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、磁気センサの感度軸に向く磁界成分がノイズとして重畳しにくく、また外部から強い磁界が作用したときの影響を受けにくい構造の磁気検知装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、第1の方向の磁界成分を誘導する磁界誘導層と、前記磁界誘導層の端部が対向する仮想面上に位置して前記第1の方向と直交する第2の方向へ感度軸を有する磁気センサとが設けられた磁気検知装置において、
前記磁気センサは、前記第2の方向において、前記磁界誘導層の端部の中心に対してその中心が位置ずれして配置された第1の磁気センサと、前記磁界誘導層の端部の中心に対してその中心が、前記第1の磁気センサとは反対側に位置ずれして配置された第2の磁気センサとを含み、前記第1の磁気センサと前記第2の磁気センサは直列に接続されており、
前記磁界誘導層は、前記磁気センサと対向する第1の部分と、前記磁気センサから離れた第2の部分とを有しており、第1の部分の透磁率が第2の部分よりも低いことを特徴とするものである。
また本発明は、第2の部分の保磁力が第1の部分よりも低いものとなる。
【0010】
本発明は、前記磁界誘導層は、鉄を含む合金で形成されており、鉄の含入量は、第1の部分が第2の部分よりも少ないものとして構成できる。
【0011】
さらに、本発明の磁気検知装置は、前記磁気誘導層は、前記第2の部分よりも前記磁気センサから離れた第3の部分を有しており、第3の部分の透磁率が第2の部分よりも低いことが好ましい。
この場合も、第2の部分の保磁力が第3の部分よりも低いものとなる。
【0012】
本発明は、前記磁界誘導層は、鉄を含む合金で形成されており、鉄の含入量は、第3の部分が第2の部分よりも少ないものとして構成できる。
【0013】
本発明は、前記第1の部分の鉄の含有量が11質量%以上で14質量%以下であることが好ましい。また、前記第1の部分の第1の方向での厚さ寸法が、前記磁界誘導層の同方向での厚さ寸法の45%以下であることが好ましい。
【0014】
本発明は、例えば前記磁気センサは、固定磁性層とフリー磁性層が非磁性層を介して積層された磁気抵抗効果素子を有しており、前記固定磁性層の固定磁化が第2の方向へ向けられているものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の磁気検知装置は、第1の方向の磁界成分を誘導する磁界誘導層の第1の部分の非透磁率を低めに設定している。これにより、第2の方向の磁界成分が磁界誘導層に引き込まれにくくなり、第2の方向の磁界成分に対する磁気センサの感度のばらつきを抑制できる。そのため、本来の検知方向ではない第2の方向の磁界成分による検知ノイズを低減できるようになる。
【0016】
また、第2の部分の軟磁気特性を高くしておくことにより、磁界誘導層の全体での軟磁気特性を高く維持でき、全体として保磁力を小さくでき、大きな外部磁界が与えられても、磁界誘導層に大きな磁化が残留できないようにしている。これにより、検知出力のオフセットの発生や感度のばらつきの発生を防止できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態の磁気検知装置の全体構造を示す平面図、
図2図1に示す磁気検知装置の等価回路図、
図3】磁気検知装置に設けられている磁気センサの拡大断面図、
図4】(A)は、磁界誘導層で誘導された磁界成分が第1の抵抗変化部と第2の抵抗変化部で検知される動作を示す説明図、(B)は、磁界誘導層で誘導された磁界成分が第3の抵抗変化部と第4の抵抗変化部で検知される動作を示す説明図、
図5】(A)は、第1の抵抗変化部と第2の抵抗変化部に第2の方向の外部磁界が印加された状態を示す説明図、(B)は、第3の抵抗変化部と第4の抵抗変化部に第2の方向の外部磁界が印加された状態を示す説明図、
図6】磁界誘導層と磁気センサの配置の変形例を示す説明図、
図7】磁界誘導層の構造を示す説明図、
図8】オフセットと感度を説明するための説明図、
図9】第2の方向の磁界成分の感度を示す線図、
図10】磁界誘導層に大きな外部磁界を与えたときの検知出力のオフセットの変化量を示す線図、
図11】磁界誘導層に大きな外部磁界を与えたときの検知出力の感度の変化率を示す線図、
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に示す磁気検知装置Szは外部磁界のうちのZ方向(第1の)の成分を検知するものである。磁気検知装置Szは、外部磁界のうちのX方向(第2の方向)の成分を検知する磁気検知装置SxならびにY方向の成分を検知する磁気検知装置Syと組み合わされて、直交する3方向の外部磁界を検知できるものとなる。この磁気センサは地磁気センサなどとして使用される。
【0019】
図1に示すように、磁気検知装置Szは、第1の抵抗変化部1と第2の抵抗変化部2ならびに第3の抵抗変化部3と第4の抵抗変化部4とから構成されている。
【0020】
図2の等価回路図にも示されているように、第1の抵抗変化部1と第3の抵抗変化部3とが直列に接続され、第2の抵抗変化部2と第4の抵抗変化部4とが直列に接続されている。第2の抵抗変化部2と第3の抵抗変化部3は配線部5aを介して端子5に接続され、端子5に電源電圧Vccが印加される。第1の抵抗変化部1と第4の抵抗変化部4との接続部は、配線部6aを介して端子6に接続され、端子6は接地されている。第1の抵抗変化部1と第3の抵抗変化部3との接続中間部は、配線部7aを介して第1の検知端子7に接続され、第2の抵抗変化部2と第4の抵抗変化部4との接続中間点は、配線部8aを介して第2の検知端子8に接続されている。第1の検知端子7の出力と第2の検知端子8の出力との差動出力が磁気検知装置Szの検知出力となる。
【0021】
第1の抵抗変化部1ないし第4の抵抗変化部4には、Y方向へ細長い磁気センサ20が2本ずつ設けられている。
【0022】
図1に示すように、第1の抵抗変化部1では、2本の磁気センサ20のY1側の端部が導通連結層9aによって接続され、第1の抵抗変化部1は磁気センサ20がいわゆるミアンダパターンで接続され、Y方向への磁気センサの実質的な寸法が長くなっている。同様に、第2の抵抗変化部2では、2本の磁気センサ20のY1側の端部が導通連結層9bで接続され、第3の抵抗変化部3では、2本の磁気センサ20のY1側の端部が導通連結層9cで接続され、第4の抵抗変化部4では、2本の磁気センサ20のY1側の端部が導通連結層9dで接続されている。抵抗変化部2,3,4では、それぞれ磁気センサ20がミアンダパターンで接続されている。
【0023】
配線部5a,6a,7a,8a,と端子5,6,7,8、ならびに導通連結層9a,9b,9c,9dは、銅や銀などの低抵抗材料で形成されている。
【0024】
図3には、磁気センサ20をY−Z面と平行な切断面で切断した断面図が示されている。基板11の表面に絶縁下地層12が形成され、その上に金属が多層に積層された磁気センサ20が形成されている。磁気センサ20を構成する金属層はスパッタ工程やCVD工程で成膜されている。
【0025】
磁気センサ20は、巨大抵抗効果を発揮する磁気抵抗効果素子層(GMR層)であり、絶縁下地層12の上に、固定磁性層22と非磁性層23とフリー磁性層24が順に積層され、フリー磁性層24が保護層25で覆われている。
【0026】
固定磁性層22は、第1の固定層22aと第2の固定層22b、ならびに第1の固定層22aと第2の固定層22bとの間に位置する非磁性中間層22cを有する積層フェリ構造である。第1の固定層22aと第2の固定層22bは、CoFe合金(コバルト−鉄合金)などの軟磁性材料で形成されている。非磁性中間層22cはRu(ルテニウム)などである。
【0027】
積層フェリ構造の固定磁性層22は、第1の固定層22aと第2の固定層22bの磁化が反平行に固定されたいわゆるセルフピン構造である。セルフピン構造は、固定磁性層22の磁化を固定するために反強磁性層を用いていない。反強磁性層を用いるものでは、反強磁性層と固定磁性層とを積層し、磁場中で熱処理することで、固定磁性層の磁化を固定するが、積層フェリ構造の固定磁性層22では、磁化中で熱処理を行うことなく、第1の固定層22aと第2の固定層22bの反強磁性結合により、磁化の向きが固定されている。
【0028】
固定磁性層22の磁化の固定方向は第2の固定層22bの磁化方向であり、全ての抵抗変化部1,2,3,4において、固定磁性層22の固定磁化Pの方向が第2の方向であるX2方向に向けられている。
【0029】
図3に示す非磁性層23はCu(銅)などの非磁性材料で形成されている。フリー磁性層24は、NiFe合金(ニッケル−鉄合金)などの軟磁性材料で形成されている。フリー磁性層24は、縦方向(Y方向)の長さ寸法が横方向(X方向)の幅寸法よりも十分に大きく、その形状異方性によって、磁化がX2方向へ向けて揃えられている。したがって、フリー磁性層24の磁化を縦方向へ揃えるための縦バイアス付与構造を備えていない。固定磁性層22が積層フェリ構造であり、磁場中の熱処理が不要であると、フリー磁性層24の磁気異方性を保持しやすくなっている。フリー磁性層24を覆う保護層25はTa(タンタル)などで形成されている。
【0030】
図1に示すように、全ての抵抗変化部1,2,3,4には、それぞれの磁気センサ20に対してZ方向から対向する磁界誘導層30が設けられている。図1に示すように、磁界誘導層30は複数設けられており、Y方向に直線的に延びて互いに平行に配置されている。また、図4図5に示すように、磁界誘導層30は、Z方向へ立ち上がるように壁体状に形成されている。
【0031】
図3に示すように、磁気センサ20はフリー磁性層24が保護層25で覆われているが、保護層25の上に図示しない絶縁層が形成されており、この絶縁層の上面が平坦面に加工され、その上に磁界誘導層30がめっき工程などによって形成される。
【0032】
磁界誘導層30は軟磁性材料で形成されている。図4(A)に示すように、第1の抵抗変化部1と第2の抵抗変化部2では、磁界誘導層30の下端面30aに対して距離を空けて対向する仮想面(仮想平面)21の上に磁気センサ20が配置されている。磁気センサ20の中心は、下端面30aのX方向の幅中心に対してX1方向へ位置ずれして配置されている。図4(B)に示すように、第3の抵抗変化部3と第4の抵抗変化部4でも、磁界誘導層30の下端面30aに対して距離を空けて対向する仮想面(仮想平面)21の上に磁気センサ20が配置されており、磁気センサ20の中心は、下端面30aのX方向の幅中心に対してX2方向へ位置ずれして配置されている。
【0033】
図4(A)(B)では、磁界誘導層30の下端面30aと磁気センサ20の一部とがZ方向に重複するように磁気センサ20が配置されている。ただし、図6の実施の形態に示すように、第1の抵抗変化部1と第2の抵抗変化部2において、磁気センサ20が磁界誘導層30の下端面30aとZ方向に重複しないように、磁気センサ20が配置されていてもよい。これは、第3の抵抗変化部3と第4の抵抗変化部4においても同じである。
【0034】
また、図6の実施の形態において、仮想面21が磁界誘導層30の下端面30aと同一面に位置してもよい。この場合も、磁界誘導層30で第1の方向(Z方向)の磁界が誘導されたときに、下端面30aからの洩れ磁界の第2の方向(X方向)の成分を磁気センサ20で検知できる。
【0035】
すなわち、本発明では、磁界誘導層30の下端面(端面)30aと対向し且つ磁界誘導層30と垂直に形成された仮想面21を想定したときに、この仮想面21上に磁気センサ20が配置され、且つ下端面30aの幅中心に対して磁気センサ20が第2の方向に向けて位置ずれしていることが必要である。仮想面21は、例えば、基板の表面やその他磁気センサ20を支持する支持部材の表面である。
【0036】
なお、第1の抵抗変化部1ならびに第2の抵抗変化部2において、磁気センサ20が下端面30aの中心からX1方向へ位置ずれする位置ずれ距離と、第3の抵抗変化部3ならびに第4の抵抗変化部4において、磁気センサ20が下端面30aの中心からX2方向へ位置ずれする位置ずれ距離とでは、絶対値が互いに等しく設定される。
【0037】
図4には、磁気検知装置SzがZ1方向の磁界成分Hvを検知している状態が示されている。Z1方向の磁界成分Hvは磁界誘導層30で誘導されるが、磁界誘導層30の下端面30aから出た磁界が平面的に分散される。図4(A)に示すように、第1の抵抗変化部1と第2の抵抗変化部2では、磁気センサ20で、X1方向へ向かう磁界成分Hh1が検知される。図4(B)に示すように、第3の抵抗変化部3と第4の抵抗変化部4では、磁気センサ20で、X2方向へ向かう磁界成分Hh2が検知される。
【0038】
抵抗変化部1,2,3,4において、全ての磁気センサ20は、固定磁性層22の固定磁化Pの方向がX2方向である。図4(A)に示す第1の抵抗変化部1と第2の抵抗変化部2では、Z1方向への磁界成分Hvの強度が高くなるにしたがって、磁気センサ20の電気抵抗値が大きくなり、図4(B)に示す第3の抵抗変化部3と第4の抵抗変化部4では、Z1方向への磁界成分Hvの強度が高くなるにしたがって、磁気センサ20の電気抵抗値が小さくなる。
【0039】
その結果、図2の等価回路図に示すように、直列に接続された第3の抵抗変化部3と第1の抵抗変化部1との中間に位置する検知端子7の電圧が変動し、直列に接続された第2の抵抗変化部2と第4の抵抗変化部4の中間に位置する検知端子8の電圧が変動する。検知端子7と検知端子8とで電圧の変化が逆極性となるため、検知端子7と検知端子8との電圧の差動を取ることで、Z1方向の磁界成分Hvの強度を検知することができる。
【0040】
また、Z2方向へ向かう磁界成分も磁界誘導層30に導かれ、このとき、それぞれの磁気センサ20で、X方向の磁界成分が検知される。よって、Z2方向の磁界強度も検知することが可能である。
【0041】
一方で、磁気検知装置Szは、第2の方向であるX方向の磁界成分については基本的に感度を持たないように構成されている。
【0042】
図5(A)に示す第1の抵抗変化部1ならびに第2の抵抗変化部2と、図5(B)に示す第3の抵抗変化部3ならびに第4の抵抗変化部4とで、磁気センサ10の固定磁性層22の固定磁化Pの向きが同じである。図5に示すように、磁気検知装置Szに対してX2方向への磁界成分Hv0が与えられると、全ての抵抗変化部1,2,3,4において抵抗値が低下するため、第1の検知端子7と第2の検知端子8の電位は変化しない。よって磁気検知装置Szの検知出力は変化しない。これは、X1方向への磁界成分が作用したときも同じである。
【0043】
しかし、磁界誘導層30は透磁率が高い軟磁性材料で形成されているため、図5(B)に示すように、X2方向の磁界成分Hv0の一部の成分Hvxが磁界誘導層30に誘導されやすい。一部の成分Hvxが磁界誘導層30に誘導されると、全ての磁気センサ20に与えられる磁界成分Hv0の大きさが均一にはならない。その結果、本来は検知すべきではない第2の方向(X方向)の磁界成分に感度を持つことになり、X方向の磁界成分に対する出力が、本来検知すべき第1の方向であるZ方向の磁界成分の検知出力にノイズとして重畳することになる。
【0044】
そこで、本発明の第1の実施の形態の磁気誘導層30は、図7(A)に示すように、下端面30aを含んで磁気センサ20に対向する第1の部分31と、磁気センサ20から離れた第2の部分32とで、軟磁性材料の組成を相違させ、第1の部分31の透磁率を第2の部分よりも低くしている。その結果、X方向の磁界成分が磁界誘導層30に引き込まれにくくしている。
【0045】
第1の部分31を構成している磁性材料の透磁率を低下させるためには、軟磁気特性を劣化させることが必要になるため、第1の部分31は第2の部分32と比較して保磁力がやや大きくなる。保磁力が大きくなると、外部から大きな磁界が与えられたときに磁界誘導層30の内部に磁化が残留しやすくなる。ただし、第2の部分32は軟磁気特性が高い磁性材料で形成されているため、磁界誘導層30の全体では保磁力が大きくなりすぎるのを抑制でき、磁界誘導層30に大きな残留磁化が生じるのを抑制できるようにしている。
【0046】
本発明の第2の実施の形態の磁界誘導層30は、図7(B)に示すように、磁気センサ20に対向する第1の部分31と、それよりも磁気センサ20から離れた第2の部分32と、さらに磁気センサ20から離れた第3の部分とから構成されている。そして、第1の部分31と第3の部分は、第2の部分よりも軟磁気特性が劣化したもので、透磁率が低くなっている。
【0047】
図7(B)に示す実施の形態においても、第1の部分31の透磁率が低いために、X方向の磁界成分が磁界誘導層30に引き込まれにくくなっている。また、磁界誘導層30が3層構造であると、外部からの大きな磁界が作用したときに磁界誘導層30に残留磁化が残りにくくなる。
【0048】
磁界誘導層30は鉄を含む軟磁性材料で形成されている。図7(A)の実施の形態では、第1の部分31の鉄の含有量を第2の部分よりも低下させることで、第1の部分31の軟磁気特性をやや劣化させて透磁率を低下させることができる。図7(B)の実施の形態では、第1の部分31と第3の部分33の鉄の含有量を第2の部分32よりも低下させることで、透磁率を下げることができる。
【0049】
磁界誘導層30が、NiFe合金(ニッケル−鉄合金)で形成される場合に、第2の部分32は、第1の部分31と第2の部分33よりも透磁率が高くなり、且つ保磁力ができるだけ低くなるように、鉄を15〜17質量%含むもので構成することが好ましい。また第1の部分31と第3の部分33は、鉄の含有量が11質量%以上で14質量%以下であることが好ましい。
【0050】
磁界誘導層30が、FeCoNi合金(鉄−コバルト−ニッケル合金)で形成される場合には、第2の部分32は、第1の部分31と第2の部分33よりも透磁率が高くなり、且つ保磁力ができるだけ低くなるように、Niが80〜85質量%で、Coが3質量%以下のものを使用することが好ましい。また第1の部分31と第3の部分33は、Niが86〜92質量%でCoが3質量%以下のものを使用することが好ましい。
【0051】
前記実施の形態では、磁気センサとして磁気抵抗効果素子層が使用され、固定磁性層の固定磁化Pの方向が感度軸になっている。しかし、本発明では、第2の方向(X方向)に感度軸を持つものであれば、磁気センサが他の素子で例えばホール素子などで構成されてもよい。
【0052】
また、磁気センサが磁気抵抗効果素子層である場合に、固定磁性層を積層フェリ構造ではなく、反強磁性層と固定磁性層とが積層され、反強磁性結合で固定磁性層の磁化が固定されるものであってもよい。またフリー磁性層は、磁気異方性で磁化が揃えられているものではなく、Y方向へのバイアス磁界を与えるバイアス構造を備えているものであってもよい。
【実施例】
【0053】
表1と図9ないし図11には資料番号が1〜9で示されている。磁気検知装置Szは1個のウエハに複数個が一緒に形成される。前記資料番号1〜9はウエハ番号であり、同じ資料番号の磁気検知装置Szがそれぞれ複数個形成される。実施例では、各々の磁気検知装置Szを使用して、検知感度と検知出力のオフセットについて測定した。磁気センサ20のX方向の幅寸法は2μm、Y方向の長さ寸法を150mmとした。磁界誘導層30は、Z方向の高さ寸法を95μmとし、X方向の幅寸法を5μmとした。
【0054】
表1に示すように、資料1〜9のそれぞれは、磁界誘導層30の構成が相違している。表1中で、「Bot」は第1の部分31のZ方向の高さ寸法、「Mid」は第2の部分32のZ方向の高さ寸法、「Top」は第3の部分33のZ方向の高さ寸法を示している。単位はいずれも「μm」である。
【0055】
磁気検知装置Szに使用されている磁界誘導層30は、NiFe合金であるが、図9ないし図11に示すように、資料1〜9では、磁界誘導層30の第1の部分31(Bot)と第2の部分32(Mid)ならびに第3の部分33(Top)のそれぞれの部分で鉄の量(質量%)が相違している。
【0056】
図9ないし10における「Avg」は、同じウエハで構成された複数の磁気検知装置Szから得られた検知出力の感度やオフセット変化量あるいは感度の変化率の平均値であり、「3σ」はその標準偏差である。
【0057】
【表1】
【0058】
図9は、各資料1〜9に示されている磁気検知装置SzにX1方向とX2方向の磁界を交互に与えたときの検知出力の感度を示している。資料1〜9のそれぞれにおいて複数個ずつの磁気検知装置Szが使用されて検知出力の感度が測定され、それぞれの資料毎の検知出力の感度の平均値(Avg)と標準偏差(3σ)が示されている。ここで、検知感度とは、X方向の測定磁界を変化させたときに、横軸を測定磁界の大きさとし縦軸を検知出力の大きさとして、変化直線を求めたときに、その変化直線の傾きを意味している。これは後に説明する図8の感度Stと同じ考え方で求められる。
【0059】
図9では、第1の部分31の鉄の量が多く透磁率が高くなっている資料2と資料8で、検知出力の感度のばらつきが大きくなっていることが解る。これは、X1方向の磁界成分とX2方向の磁界成分が与えられたときに、いずれかの磁界誘導層30に磁界成分が引き込まれ、その結果、複数の磁気センサ10に与えられるX方向の磁界成分の大きさにばらつきが生じていることを意味している。
【0060】
図9から、資料1,3,4,5,6,7,9が本発明の実施例であり、資料2,8が比較例である。
【0061】
図10図11は、各資料1〜9毎に複数個ずつ作成された磁気検知装置Szに設けられた磁界誘導層30の残留磁化の影響を示している。それぞれの磁気検知装置Szの磁界誘導層30に対して上方から磁石を接近させて離反させ、磁界誘導層30に対してZ1方向への500mT(ミリテスラ)の磁界を与える。その後に、それぞれの磁界検知装置Szに対してZ方向へ0.5mT(ミリテスラ)の強度の測定磁界を与えたときの検知出力を測定した。また、500mTの磁界を与える前に、同様に測定磁界を与えて検知出力を測定しており、このときの出力をオリジナルの検知出力としている。
【0062】
図10は、500mTの磁界を与えた直後の検知出力と、オリジナルの検知出力とでのオフセットの変化量であり、オフセットの変化量を磁界強度(μT)に置き換えて示している。図11は、500mTの磁界を与えた直後の検知出力の感度と、オリジナルの検知出力の感度との差を、オリジナルの感度に対する比率(%)で表した感度変化率を示している。
【0063】
図8に示すように、測定用のZ方向の外部磁界を与えたときのオリジナルの検知出力の測定磁界Hの強度に対する変化直線をLoとし、500mTの磁界を接近させ離反させた後の検知出力の検知出力の測定磁界Hの強度に対する変化直線をLsとすると、オフセットの変化量がOfであり、検知感度は、変化直線Lo,Lsの傾きである。
【0064】
図10図11から、磁界誘導層30を三層構造にすると、外部磁界に対する耐力が向上することが解る。また、前記第1の部分31の鉄の含有量が11質量%以上で14質量%以下であることが好ましい。さらに、第1の部分31の第1の方向(Z方向)での厚さ寸法が、前記磁界誘導層30の同方向での厚さ寸法の45%以下であることが好ましい。下限は、資料5から16%である。
【符号の説明】
【0065】
Sz 磁気センサ
Z 第1の方向
X 第2の方向
1 第1の抵抗変化部
2 第2の抵抗変化部
3 第3の抵抗変化部
4 第4の抵抗変化部
11 基板
20 磁気センサ
20a 第1の磁気検知部
20b 第2の磁気感知部
20c 非感知部
21 仮想面
22 固定磁性層
23 非磁性層
24 フリー磁性層
30 磁界誘導層
31 第1の部分
32 第2の部分
33 第3の部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11