特許第6121337号(P6121337)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6121337架橋したナノ構造化されたキャストシート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6121337
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】架橋したナノ構造化されたキャストシート
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/06 20060101AFI20170417BHJP
   C08F 212/34 20060101ALI20170417BHJP
   C08F 212/08 20060101ALI20170417BHJP
   C08F 4/00 20060101ALI20170417BHJP
   C08L 33/10 20060101ALI20170417BHJP
   C08L 33/08 20060101ALI20170417BHJP
【FI】
   C08F220/06
   C08F212/34
   C08F212/08
   C08F4/00
   C08L33/10
   C08L33/08
【請求項の数】16
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-545483(P2013-545483)
(86)(22)【出願日】2011年12月22日
(65)【公表番号】特表2014-501300(P2014-501300A)
(43)【公表日】2014年1月20日
(86)【国際出願番号】FR2011053168
(87)【国際公開番号】WO2012085487
(87)【国際公開日】20120628
【審査請求日】2014年12月17日
(31)【優先権主張番号】1061113
(32)【優先日】2010年12月23日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100092277
【弁理士】
【氏名又は名称】越場 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100155446
【弁理士】
【氏名又は名称】越場 洋
(72)【発明者】
【氏名】ブリゴー,シルヴァン
(72)【発明者】
【氏名】カゾマヨ, シルヴィ
(72)【発明者】
【氏名】ペリ, ステファニ
【審査官】 井津 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−199638(JP,A)
【文献】 特表2008−523191(JP,A)
【文献】 特開平07−070400(JP,A)
【文献】 特開平04−198112(JP,A)
【文献】 特表2004−529992(JP,A)
【文献】 特開2008−274290(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00−246/00
C08L 1/00−101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度が0℃以上の脆性マトリックス(I)と、ガラス転移温度が0℃未満の可撓性を有する高分子単位(II)から成る固有寸法が100nm以下のエラストマー領域とから成る透明な耐衝撃性の架橋したアクリル組成物において、
上記高分子単位(II)の数平均分子量が30,000〜500,000g/モルであり、上記架橋に使用する架橋剤の含有量が上記の架橋したアクリル組成物に対して0.4〜2重量%であることを特徴とする組成物。
【請求項2】
上記高分子単位(II)の含有量が5〜20重量%である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
上記架橋剤をポリオールポリアクリレート、アルキレングリコールポリアクリレートまたはアリルアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレートまたは1,4−ブチレングリコールジアクリレート、多官能性メタクリルモノマー、ジビニルベンゼンまたはトリビニルベンゼンの中から選択する請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
上記多官能性メタクリルモノマーをポリオールポリメタクリレート、アルキレングリコールポリメタクリレートまたはアリルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレートまたは1,4−ブチレングリコールジメタクリレートの中から選択する請求項3に記載の組成物
【請求項5】
上記架橋剤がブチレングリコールジメタクリレートである請求項1または2に記載の組成物。
【請求項6】
上記高分子単位(II)下記の群の中から選択されるモノマーから成る請求項1に記載の組成物:
CH2=CH−C(=O)−O−R1(ここで、R1は水素原子またはハロゲン原子またはヒドロキシル、アルコキシ、シアノ、アミノまたはエポキシ基で置換されていてもよい直鎖、環状または分岐鎖のC1−C40アルキル基を表す)のアクリルモノマー、
CH2=C(CH3)C(=O)OR2(ここで、R2は水素原子またはハロゲン原子またはヒドロキシル、アルコキシ、シアノ、アミノまたはエポキシ基で置換されていてもよい直鎖、環状または分岐鎖のC1−C40アルキル基を表)のメタクリルモノマー、または、
芳香族ビニルモノマー
【請求項7】
上記アクリルモノマーがアクリル酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、tert-ブチルアクリレート、2−エチル−ヘキシルアクリレート、グリシジルアクリレート、ヒドロキシアルキルアクリレートまたはアクリロニトリルの中から選択され、
上記メタクリルモノマーがメタクリル酸、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、tert-ブチルメタクリレート、2−エチル−ヘキシルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ヒドロキシアルキルメタクリレートまたはメタクリロニトリルの中から選択され、
上記芳香族ビニルモノマーがスチレンまたは置換スチレン、α−メチルスチレン、モノクロロスチレンまたはtert-ブチルブチレンの中から選択される、請求項6に器の組成物。
【請求項8】
上記高分子単位(II)ブチルアクリレートスチレンから成り、ブチルアクリレート/スチレン重量比70/30〜90/10である請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
上記高分子単位(II)が、その製造時にこの高分子単位(II)を形成するためのモノマーに一般式:Z(−T)n(ここで、Zは多価の基を表し、Tはニトロオキシドを表し、nは2以上の整数である)のアルコキシアミンを混合して得られたものである請求項1〜のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
上記アルコキシアミンが下記式に対応する(ここで、SG1はN−(tert−ブチル)−1−ジエチルホスホノ−2,2−ジメチルプロピルニトロオキシドである)請求項に記載の組成物:
【化1】
【請求項11】
上記アルコキシアミンが下記式に対応する請求項に記載の組成物:
【化2】
【請求項12】
ガラス転移温度が0℃以上の脆性マトリックス(I)と、ガラス転移温度が0℃未満の可撓性を有する高分子単位(II)から成る固有の寸法が100nm以下のエラストマー領域とから成る透明な耐衝撃性の架橋したアクリル組成物であって、上記高分子単位(II)の数平均分子量が30,000〜500,000g/モルであり、上記架橋に使用する架橋剤の含有量が上記の架橋したアクリル組成物に対して0.4〜2重量%であることを特徴とする組成物の製造方法であって、
下記(1)〜(3)の段階を含む方法:
(1)一般式:Z(−T)n(ここで、Zは多価の基を表し、Tはニトロオキシドを表し、nは2以上の整数である)のアルコキシアミンを上記高分子単位(II)を形成するためのモノマーと一緒に混合して高分子単位(II)を製造し、
(2)段階(1)で得られた高分子単位(II)をメチルメタクリレート、架橋剤および少なくとも一種のラジカル開始剤と混合し、
(3)段階(2)で得られた混合物を金型に流し込み(cast)、温度サイクルに従って加熱してキャストシートを得る。
【請求項13】
上記(2)の段階で少なくとも一種のコモノマーMをさらに混合する請求項12に記載の方法。
【請求項14】
上記段階(3)で金型に流し込む混合物に下記の中から選択される別の成分を添加する請求項12または13に記載の方法:
(1)乳白剤
(2)着色有機染料または着色無機顔料、
(3)可塑剤
(4)紫外線安定剤
(5)光または熱安定剤
(6)酸化防止剤
(7)難燃剤
(8)増粘剤
(9)離型剤
(10)光を散乱するための無機または有機充填剤
【請求項15】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物から得られる物品。
【請求項16】
請求項15に記載の物品の窓、遮音壁、フラットスクリーンまたは浴室用備品の分野での使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はキャスト(注型)アクリルシートの耐衝撃性を強化する技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリメチルメタクリレート(PMMA)はその優れた光学特性(特に光沢と透過率が可視光の少なくとも90%である高い透明性)が評価されている材料である。しかし、ポリメチルメタクリレートは衝撃に弱い脆性な熱可塑性材料でもある。この特徴はPMMAのガラス転移温度が約110℃であることに関連し、従って、この材料では、ポリマー鎖は室温で容易に移動することができない。用途によってはPMMAの透明性を保持したまま、その衝撃強度を改良する必要がある。
【0003】
PMMAの耐衝撃性強化は一般に多層球形粒子の形で提供されるコア−シェル添加剤とよばれる衝撃添加剤をアクリル樹脂に導入することによって改良される。これらの粒子は乳化重合で製造され、噴霧によって粉末の形態で回収される。これらの粒子は一般に「ハード」層と「ソフト」層の単位を含む。二層(ソフト−ハード)または三層(ハード−ソフト−ハード)粒子等がある。モノマーの混合物を金型中で重合して得られるキャスト(注型)アクリルシートの場合は、衝撃添加剤をモノマー混合物中に予め分散させる。押出アクリルシートの場合は、衝撃添加剤をアクリル樹脂と一緒に押出機中でコンパウンディングする。いずれの場合も、衝撃強度を変えず、また、均一なレベルを維持するために、衝撃添加剤をアクリル樹脂内部によく分散させる必要がある。
【0004】
特許文献1(国際公開第WO 99/29772号公報)には、SBM型のブロックコポリマー(スチレン−ブタジエン−メチルメタクリレートブロックコポリマー)を用いた半結晶性熱可塑性樹脂の衝撃強化方法が記載されている。
特許文献2(国際公開第WO 02/055573号公報)には、ABA型のブロックコポリマー(Bはジエンから得られるブロック、例えばSBMを表す)を用いたメタクリレートホモ−またはコポリマーの衝撃強化方法が記載されている。
【0005】
本出願人の特許文献3(国際公開第WO 03/062293号公報)には、ブロックBおよびn個の分岐鎖Aとから成り且つ制御ラジカル重合法を用いて調製されるB(−A)nブロックコポリマーを用いて熱可塑性材料の耐衝撃性を強化する方法が記載されている。この方法は多くの熱可塑性樹脂(PS, PC, PVDF等)の強化、特にキャストPMMAシートの製造に適用される。
【0006】
キャストシートの製造に適用される上記特許文献3(国際公開願第WO 03/062293号公報)の方法は溶剤の除去段階と、その後のコポリマーの再分解段階を必要とするという欠点があるため、工業的規模では使えない。これらの2つの単位操作は第1にサイクル時間全体を増加させ、プロセス収率に影響を与える。第2に、溶剤の除去段階でもB(-A)nコポリマー中にゲルを生成することがあり、これはモノマー混合物中のコポリマー再分解に影響を与え、結果としてキャストシートの透明性が損なわれる危険性がある。
【0007】
さらに、上記の方法、特に実施例では、第2段階で、マトリックスの生成と同時に、分岐鎖Aの生成を開始するのが好ましい。そのためには、モノマーAを2種類の開始剤、一般的なラジカル開始剤および再活性化可能ブロックBと接触させる。モノマーAは各機構が独自の反応速度を示す2つの競合ラジカル重合機構に従って同時に消費される。この第2段階の制御はブロックAおよびマトリックスの生成速度の整合を意味するので、極めて問題がある。これは、ラジカル開始剤の種類をブロックBに合わせる必要があり、従って、温度サイクルを慎重に調整する必要があることを意味する。実際には、矛盾する必要条件に直面し、一般に以下のような妥協をさせる可能性がある:
(1)コポリマーB(-A)nの重合中に早期分離し、このコポリマーがシートおよび金型の界面に移動(migrate)する。この場合は、離型が不可能なおよび/または部分的または完全に不透明なシートが得られる;
(2)シートが完成したときに離型できない残留メチルメタクリレートの許容以上の含有量が生じる。
【0008】
特許文献4(欧州特許第1 858 939号公報)では改善がされ、この特許のプロセスのサイクル時間は、溶剤の除去/再分解の段階を全く必要としないので、特許文献3(国際公開第WO 03/062293号公報)に記載のものより良くなっている。
しかし、上記プロセスで得られた材料の機械的特性は完全に満足のいくものではなく、特性、例えば衝撃強度および曲げ弾性率の改良が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第WO 99/29772号公報
【特許文献2】国際公開第WO 02/055573号公報
【特許文献3】国際公開第WO 03/062293号公報
【特許文献4】欧州特許第1 858 939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者は、ある種の組成物が架橋剤を含む場合、衝撃強度および曲げ弾性率に全面的な改良が観察されるということを見出した。
上記文献には架橋剤の使用可能性が頻繁に記載されているが、架橋剤を含む組成物の実施例、または、架橋剤を含む組成物の特性、特に曲げ弾性率と衝撃強度の両方の増加を目的とした架橋剤の使用によって与えられる利点に関する記載はない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の対象は、ガラス転移温度が0℃以上の脆性マトリックス(I)と、ガラス転移温度が0℃未満の可撓性を有する高分子単位(II)から成る固有の寸法が100nm以下のエラストマー領域(ドメイン)とから成る透明な耐衝撃性の架橋アクリル組成物において、数平均分子量が30,000〜500,000g/モルであることを特徴とする組成物にある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
「架橋」とは、複数の鎖が共有結合または化学的または物理的相互作用を介して互いに結合しているポリマーまたはコポリマーを意味する。これらの鎖は、互いに結合し、大部分が空間の三次元で分布している。
【0013】
マトリックス(I)は、DSCで測定したTg全体が0℃以上で、メチルメタクリレートホモまたはコポリマーと相溶性がある。
マトリックス(I)はメチルメタクリレートと、必要に応じて用いる下記の中から選択される一種以上のモノマーとから調製される:
(1)CH2=CH−C(=O)−O−R1(ここで、R1は水素原子または直鎖、環状または分岐鎖のC1−C40アルキル基を表し、必要に応じてハロゲン原子またはヒドロキシル、アルコキシ、シアノ、アミノまたはエポキシ基で置換される)のアクリルモノマー、例えばアクリル酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、tert-ブチルアクリレート、2−エチル−ヘキシルアクリレート、グリシジルアクリレート、ヒドロキシアルキルアクリレートまたはアクリロニトリル、
(2)CH2=C(CH3)C(=O)OR2(ここで、R2は水素原子または直鎖、環状または分岐鎖のC1−C40アルキル基を表し、必要に応じてハロゲン原子またはヒドロキシル、アルコキシ、シアノ、アミノまたはエポキシ基で置換される)のメタクリルモノマー、例えばメタクリル酸、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、tert-ブチルメタクリレート、2−エチル−ヘキシルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ヒドロキシアルキルメタクリレート、またはメタクリロニトリル、
(3)芳香族ビニルモノマー、例えばスチレンまたは置換スチレン、α−メチルスチレン、モノクロロスチレンまたはtert-ブチルブチレン。
【0014】
メチルメタクリレートが主成分である。マトリックス(I)は従って、メチルメタクリレートの比率が50〜100%、好ましくは75〜100%、有利には90〜100%である。
【0015】
可撓性を有する高分子単位(II)に関しては、ガラス転移温度が0℃未満である(DSCで測定、Tgで表す)。さらに、ガラス転移温度が0℃未満の可撓性を有する高分子単位(II)の数平均分子量は30,000g/モル以上、好ましくは60,000g/モル以上、有利には120,000g/モル以上で、500,000g/モル以下である。多分散性指数は1.5〜2.5である。
【0016】
高分子単位(II)は下記の中から選択される一種以上のモノマーから調製される:
(1)CH2=CH−C(=O)−O−R1(ここで、R1は水素原子または直鎖、環状または分岐鎖のC1−C40アルキル基を表し、必要に応じてハロゲン原子またはヒドロキシル、アルコキシ、シアノ、アミノまたはエポキシ基で置換される)のアクリルモノマー、例えばアクリル酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、tert-ブチルアクリレート、2−エチル−ヘキシルアクリレート、グリシジルアクリレート、ヒドロキシアルキルアクリレートまたはアクリロニトリル、
(2)CH2=C(CH3)C(=O)OR2(ここで、R2は水素原子または直鎖、環状または分岐鎖のC1−C40アルキル基を表し、必要に応じてハロゲン原子またはヒドロキシル、アルコキシ、シアノ、アミノまたはエポキシ基で置換される)のメタクリルモノマー、例えばメタクリル酸、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、tert-ブチルメタクリレート、2−エチル−ヘキシルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ヒドロキシアルキルメタクリレート、またはメタクリロニトリル、
(3)芳香族ビニルモノマー、例えばスチレンまたは置換スチレン、α−メチルスチレン、モノクロロスチレンまたはtert-ブチルブチレン。
【0017】
高分子単位(II)はジエンから調製されない。下記(1)および(2)に調整するためのこれらのモノマーの組み合わせ方は当業者に周知である:
(1)ブロックB全体のTg。Tgが0℃未満のブロックBを得るためには、Tgが0℃未満の少なくとも一種のモノマー、例えばブチルアクリレートまたは2−エチルヘキシルアクリレートを用いる必要がある。
(2)ブロックBの屈折率。目標とされる用途で透明性が要求されるときに最高の透明性を提供するために、マトリックス(I)の屈折率にできるだけ近づけなければならない。
【0018】
高分子単位(II)はTgが0℃未満のモノマー、例えばブチルアクリレートまたは2−エチルヘキシルアクリレートのみで構成することができる。高分子単位(II)は少なくとも一種のアルキルアクリレートおよび芳香族ビニルモノマーで構成することもできる。高分子単位(II)はブチルアクリレート/スチレン重量比を70/30〜90/10、好ましくは75/25〜85/15にしてブチルアクリレートおよびスチレンで構成するのが有利である。
【0019】
架橋を可能にする化合物(架橋剤)は多官能性アクリルモノマー、例えば下記のものであるのが好ましい:ポリオールポリアクリレート、アルキレングリコールポリアクリレートまたはアリルアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレートまたは1,4−ブチレングリコールジアクリレート、多官能性メタクリルモノマー、例えばポリオールポリメタクリレート、アルキレングリコールポリメタクリレートまたはアリルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレートまたは1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼンまたはトリビニルベンゼン。1,4−ブチレングリコールジメタクリレート(BDMA)であるのが好ましい。架橋剤の含有量は本発明の対象である架橋ポリマー材料に対して0.1〜2重量%である。
【0020】
架橋剤の含有量は本発明の対象である架橋ポリマー材料に対して0.4〜2重量%であるのが好ましく、さらに、本発明の対象である架橋ポリマー材料に対して0.6〜0.8重量%であるのがより好ましい。
【0021】
本発明の第1実施例では、高分子単位(II)を用いて耐衝撃性が強化されたメチルメタクリレートホモまたはコポリマーで作られるキャストシートの製造は下記(1)〜(3)の段階を含む:
(1)一般式Z(−T)n(ここで、Zは多価の基を表し、Tはニトロオキシドを表し、nは2以上の整数である)のアルコキシアミンを高分子単位(II)を形成するためのモノマーと一緒に混合して高分子単位(II)を製造する、
(2)段階(1)の高分子単位(II)をメチルメタクリレート、架橋剤、必要に応じて少なくとも一種のコモノマーMおよび少なくとも一種のラジカル開始剤と混合する、
(3)段階(2)で得られる混合物を金型に流し込み(cast)、次いでこれを温度サイクルに従って加熱してキャストシートを得る。
【0022】
シート中のブロックB(高分子単位(II))の含有量は、本発明の対象である架橋ポリマー材料に対して5〜20重量%、好ましくは5〜15重量%である。
【0023】
本発明の第2実施例では、ブロックB(高分子単位(II))とn個の分岐鎖A(nは1〜3の整数)とから成るブロックコポリマーB(-A)nを用いて耐衝撃性が強化された架橋メチルメタクリレートコポリマーで作られるキャストシートの製造は下記(1)〜(4)の段階を含む:
(1)一般式Z(−T)n(ここで、Zは多価の基を表し、Tはニトロオキシドを表し、nは2以上の整数である)のアルコキシアミンを、ブロックBを形成するためのモノマーと一緒に混合してブロックBを製造する、
(2)段階(1)で得られたブロックBを、分岐鎖Aを形成するためのモノマー、必要に応じてさらに少なくとも一種のコモノマーMと架橋剤の非存在下で混合してブロックコポリマーB(-A)nを製造する;分岐鎖Aを形成するためのモノマーはマトリックス1のものと同一である、すなわちメチルメタクリレートである、
(3)段階(2)のブロックコポリマーB(-A)nをメチルメタクリレート、架橋剤、必要に応じてさらに少なくとも一種のコモノマーMおよび少なくとも一種のラジカル開始剤と混合する、
(4)段階(3)で得られる混合物を金型中に流し込み(cast)、次いでこれを温度サイクルに従って加熱してキャストシートを得る。
【0024】
シート中のブロックB(高分子単位(II))の含有量は、本発明の対象である架橋ポリマー材料に対して5〜20重量%、好ましくは5〜15重量%である。
【0025】
ブロックコポリマーB(−A)nに関しては、互いに共有結合を介して結合した複数のポリマーブロックから成る(下記文献を参照)。
【非特許文献1】カークオスマ(kirk-Othmer) 化学技術百科事典、第3版、第6巻、第798頁
【0026】
ブロックBはコポリマーのコアであり、ブロックAはブロックBに結合した分岐鎖を表す。従って、ブロックコポリマーB(−A)nはブロックBとn個の分岐鎖とから成り、nは2以上、好ましくは2〜10、有利には2〜8の整数である。ブロックコポリマーB(−A)nはブロックBを有するが、乳化重合で得られるほぼ球形の粒子から成る耐衝撃性強化剤(一般にコア−シェル剤とよばれる)とは全く関係がない。
【0027】
本発明では、ブロックコポリマーB(−A)nはトリブロックコポリマーにすることができる。この場合は、n=2(一つの中心ブロックおよび2つの分岐鎖)。トリブロックコポリマーの例としては下記のものが挙げられる:
PMMA-b-ポリ(n-ブチルアクリレート)-b-PMMA
PMMA-b-ポリ(n-ブチルアクリレート- co -スチレン)-b-PMMA
PMMA-b-ポリ(イソブチルアクリレート- co -スチレン)-b-PMMA
poly(メチルメタクリレート- co -n-ブチルアクリレート)-b-ポリ(n-ブチルアクリレート-co -スチレン)-b-ポリ(メチルメタクリレート- co -n-ブチルアクリレート)
(b:ブロックコポリマーを表すのに用いる記号, co:ランダムコポリマーを表すのに用いる記号)
【0028】
n>2の場合、コポリマーは星形コポリマーであると考えられている。
【0029】
ブロックコポリマーB(-A)nはアルコキシアミンZ(−T)n、および、ブロックBと分岐鎖Aとを得ることができるモノマーを用いて上述のように調製される。コポリマーB(−A)nはアルコキシアミンZ(−T)n、および、制御されたラジカル重合法を用いて得るのが好ましい。この方法によって、重合の制御に従って全部または一部で分岐鎖Aはニトロオキシドを末端に有する。分岐鎖の一部は、例えば[化1]の反応に示すように、ニトロオキシドとアルキルメタクリレートとの間で移動反応が起きたときにニトロオキシドを末端に有することができる:
【化1】
【0030】
ブロックコポリマーA(−B)nは数平均分子量が40,000〜1,000,000g/モル、好ましくは100,000〜1,000,000g/モルである。多分散性指数は1.5〜3.0、好ましくは1.8〜2.7、さらに好ましくは1.9〜2.7である。
【0031】
アルコキシアミンは、一般式Z(−T)n(ここで、Zは多価の基を表し、Tはニトロオキシドを表し、nは2以上、好ましくは2〜10、有利には2〜8の整数を表す)で表される。
nはアルコキシアミンの官能価、すなわち、アルコキシアミンが下記の機構に従って遊離できるニトロオキシド基Tの数を表す:
【化2】
【0032】
この反応は温度によって活性化される。モノマーの存在下で、活性化アルコキシアミンは重合を開始する。アルコキシアミンをベースにしたコポリマーpolyM2-polyM1-polyM2(n=2)の製造を下記のスキームに示す。アルコキシアミンの活性化後、モノマーM1を第1に重合し、次いで、ブロックpolyM1が完成したら、続いてモノマーM2を重合する:
【化3】
【0033】
ブロックコポリマーの製造原理はn>2の場合にも有効である。
Zは多価の基、すなわち活性化後に複数のラジカル部位を遊離可能な基を表す。この活性化は共有結合Z−Tの開裂によって起こる。
【0034】
一例として、Zは下記の(I)〜(VIII)から選択できる:
【化4】
【0035】
(ここで、R3およびR4は同一でも異なっていてもよく、炭素原子数が1〜10の直鎖または分岐鎖のアルキル基、フェニルまたはチエニル基を表し、これらはハロゲン原子、例えばF、ClまたはBrまたは炭素原子数が1〜4の直鎖または分岐鎖のアルキル基、またはニトロ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボニル基またはカルボキシル基で置換されていてもよい;炭素原子数が3〜12のベンジル基、シクロアルキル基、一つ以上の不飽和を含む基を表し;Bは炭素原子数が1〜20の直鎖または分岐鎖のアルキレン基を表し;mは1〜10の整数である)
【化5】
【0036】
(ここで、R5およびR6は同一でも異なっていてもよく、アリール、ピリジル、フリルまたはチエニル基を表し、これらはハロゲン原子、例えばF、ClまたはBrまたは炭素原子数が1〜4の直鎖または分岐鎖のアルキル基、またはニトロ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボニル基またはカルボキシル基で置換されていてもよい;Dは炭素原子数が1〜6の直鎖または分岐鎖のアルキレン基、フェニレン基またはシクロアルキレン基を表し;pは1〜10の整数である)
【化6】
【0037】
(ここで、R7, R8およびR9は同一でも異なっていてもよく、式(I)のR3およびR4と同じ意味を有し、q, rおよびsは1〜10の整数である)
【化7】
【0038】
(ここで、R10は式(II)のR5およびR6と同じ意味を有し、tは1〜4の整数、uは2〜6の整数である(芳香族基は置換されている));
【化8】
【0039】
(ここで、R11は式(IV)の基R10と同じ意味を有し、vは2〜6の整数である);
【化9】
【0040】
(ここで、R12, R13およびR14は同一でも異なっていてもよく、フェニル基を表し、これはハロゲン原子、例えばClまたはBrまたは炭素原子数が1〜10の直鎖または分岐鎖のアルキル基;Wは酸素、硫黄またはセレン原子を表し、wは0または1である);
【化10】
【0041】
(ここで、R15は式(I)のR3 と同じ意味を有し、R16 は式(II)のR5またはR6 と同じ意味を有する);
【化11】
【0042】
(ここで、R17 およびR18,は同一でも異なっていてもよく、水素原子、炭素原子数が1〜10の直鎖または分岐鎖のアルキル基またはハロゲン原子またはヘテロ原子で置換されていてもよいアリール基を表す)。
【0043】
Tはニトロオキシドを表し、=N−O・基を有する安定なフリーラジカル、すなわち不対電子が存在する基である。「安定なフリーラジカル」とは持続時間が長く、空気および大気中の湿分と反応せず、大部分のフリーラジカルよりはるかに長期間制御でき且つ維持することができるラジカルを意味する(この点に関しては下記文献を参照されたい)
【非特許文献2】Accounts of Chemical Research、1976、9、13-19
【0044】
従って、安定なフリーラジカルは寿命が瞬間的(数ミリ秒〜数秒)なフリーラジカル、例えばペルオキシド、ヒドロペルオキシドまたはアゾ型の開始剤のような通常の重合開始剤から生じるフリーラジカルとは区別される。重合を開始させるこれらのフリーラジカルは重合を加速させるのに対し、安定なフリーラジカルは一般に重合を減速する。フリーラジカルが重合開始剤でなく、且つ本発明の使用条件下で平均寿命が少なくとも1分である場合に、本発明の意味においてフリーラジカルは安定であるということができる。
【0045】
ニトロオキシドTは下記の構造(IX)によって表される:
【化12】
【0046】
(ここで、R19, R20, R21, R22, R23およびR24
(1)C1〜C20、好ましくはC1〜C10のアルキル基、例えば置換または非置換のメチル、エチル、プロピル、ブチル、イソプロピル、イソブチル、tert-ブチルまたはネオペンチル基、
(2)置換または非置換のC6〜C30アリール基、例えばベンジルおよびアリール(フェニル)基
(3)C1〜C30飽和環式基
を表し、R19およびR22基は置換されていてもよい下記の中から選択することができる環状構造R19−CNC−R22の一部を成すことができる:
【0047】
【化13】
【0048】
(xは1〜12の整数を表す)
例として、下記のニトロオキシドを用いることができる;
【化14】
【0049】
本発明で特に好ましいのは式(X)のニトロオキシドである:
【化15】
【0050】
(ここで、
aおよびRbは1〜40個の炭素原子を有するアルキル基で、同一でも異なっていてもよく、互いに連結して環を形成することができ、ヒドロキシル、アルコキシまたはアミノ基で置換することができ、
Lはモル質量が16g/mol以上、好ましくは30g/mol以上の一価の基を表す)
基RLは例えばモル質量を40〜450g/molにすることができ、この基は一般式(XI)のリン基であるのが好ましい。
【0051】
【化16】
【0052】
(ここで、XおよびYはアルキル、シクロアルキル、アルコキシル、アリールオキシル、アリール、アラルキシルオキシル、ペルフルオロアルキルまたはアラルキル基の中から選択することができ、同一でも異なっていてもよく、1〜20個の炭素原子を有することができ、
Xおよび/またはYはハロゲン原子、例えば塩素、臭素またはフッ素原子にすることもできる)
Lは下記式のホスホン酸基であるのが有利である:
【0053】
【化17】
【0054】
(ここで、RcおよびRdは1〜40個の炭素原子を有する2つのアルキル基で、同一でも異なっていてもよく、互いに連結して環を形成することができ、置換されていてもよい)。
L基は、例えば1〜10個の炭素原子を有する一種以上のアルキル基で置換された少なくとも一種の芳香族環、例えばフェニル基またはナフチル基をさらに含むことができる。
上記特許文献3(国際公開第WO 03/062293号公報)に開示のように、式(X)のニトロオキシドは(メタ)アクリルモノマーのラジカル重合で優れた制御を行うことができるので好ましい。式(XIII)のアルコキシアミンが好ましい:
【0055】
【化18】
【0056】
(ここで、
Zは多価の基を表し、nは1以上の整数を表し;
aおよびRbは1〜40個の炭素原子を有するアルキル基で、同一でも異なっていてもよく、互いに連結して環を形成することができ、ヒドロキシル、アルコキシまたはアミノ基で置換することができ、
Lはモル質量が16g/mol以上、好ましくは30g/mol以上の一価の基を表す)
基RLは例えばモル質量を40〜450g/molにすることができ、この基は一般式(XI)のリン基であるのが好ましい:
【化19】
【0057】
(ここで、XおよびYはアルキル、シクロアルキル、アルコキシル、アリールオキシル、アリール、アラルキシルオキシル、ペルフルオロアルキルまたはアラルキル基の中から選択することができ、同一でも異なっていてもよく、1〜20個の炭素原子を有することができ、
Xおよび/またはYはハロゲン原子、例えば塩素、臭素またはフッ素原子にすることもできる)
Lは下記式のホスホン酸基であるのが有利である:
【0058】
【化20】
【0059】
(ここで、RcおよびRdは1〜40個の炭素原子を有する2つのアルキル基で、同一でも異なっていてもよく、互いに連結して環を形成することができ、置換されていてもよい)。
L基は、例えば1〜10個の炭素原子を有する一種以上のアルキル基で置換された少なくとも一種の芳香族環、例えばフェニル基またはナフチル基をさらに含むことができる。
【0060】
アルコキシアミン(XIII)に含むことができる式(X)のニトロオキシドの例としては、下記のものが挙げられる:
N-(tert-ブチル)-1-フェニル-2-メチルプロピル ニトロオキシド,
N-(2ヒドロキシメチルプロピル)-1-フェニル-2-メチルプロピル ニトロオキシド,
N-(tert-ブチル)-1-ジベンジルホスホノ-2,2-ジメチルプロピル ニトロオキシド,
N-(tert-ブチル)-1-ジ(2,2,2-トリフルオロエチル)-ホスホノ-2,2-ジメチルプロピル ニトロオキシド,
N-(tert-ブチル)-1-ジエチルホスホノ-2-メチルプロピル ニトロオキシド,
N-(1-メチルエチル)-1-シクロヘキシル-1-ジエチルホスホノ ニトロオキシド,
N-(1-フェニルベンジル)-1-ジエチルホスホノ-1-メチルエチル ニトロオキシド,
N-フェニル-1-ジエチルホスホノ-2,2-ジメチルプロピル ニトロオキシド,
N-フェニル-1-ジエチルホスホノ-1-メチルエチル ニトロオキシド,
N-(1-フェニル-2-メチルプロピル)-1-ジエチルホスホノ-メチルエチル ニトロオキシド,
または下記式のニトロオキシド:
【化21】
【0061】
式(XIV)のニトロオキシドが特に好ましい:
【化22】
【0062】
これはN-(tert-ブチル)-1-ジエチルホスホノ-2,2-ジメチルプロピル ニトロオキシドである。一般に、簡単にSG1とよばれる。
【0063】
アルコキシアミン(I)、特にアルコキシアミン(XIII)は例えば特許文献5(米国特許第5910549号明細書)または特許文献6(フランス特許第99.04405号公報)に記載の製法によって調製できる。使用可能な一つの方法は、炭素ベースのラジカルをニトロオキシドとカップリングすることにある。カップリングはハロゲン化誘導体から出発して有機金属系、例えばCuX/リガンド(X=ClまたはBr)の存在下で、下記文献に記載されているようなATRA(原子移動ラジカル付加)型の反応に従って実施できる。
【化23】
【非特許文献3】D.Greszta et al. in Macromolecules, 1996, 29, 7661-7670
【0064】
本発明で使用可能なアルコキシアミンを以下に示す:
【化24】
【0065】
ジアミンを用いるのが好ましい。
式(I)に対応する複数のアルコキシアミン、特に式(XIII)の複数のアルコキシアミンを組み合わせても本発明の範囲を逸脱するものではない。このようにして、これらの混合物は例えば、n1ニトロオキシドが結合したアルコキシアミンおよびn2ニトロオキシドが結合したアルコキシアミン(n1はn2と異なる)を含むことができる。異なるニトロオキシドを有するアルコキシアミンの組合せを考えることもできる。
【0066】
ラジカル開始剤は、ジアシルペルオキシド、ペルオキシエステル、ジアルキルペルオキシド、ペルオキシアセタールまたはアゾ化合物の中から選択できる。適したラジカル開始剤は、例えばイソプロピルカーボネート、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、カプロイルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、tert-ブチルペルベンゾエート、tert-ブチルペル-2-エチルヘキサノエート、クミルヒドロペルオキシド、1,1-ジ(tert-ブチルペルオキシ)‐3,3,5‐トリメチルシクロヘキサン、tert-ブチルペルオキシイソブチレート、tert-ブチルぺルアセテート、tert-ブチルぺルピバレート、アミルぺルピバレート、1,1-ジ(tアミルペルオキシ)シクロヘキサン、tert-ブチルぺルオクトエート、アゾジイソブチロニトリル(AIBN)、アゾジイソブチラミド、2,2' _アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、4,4'-アゾビス-(4-シアノ-ペンタン酸)または1,1'-アゾビス(シアノシクロヘキサン)。上記リストから選択されるラジカル開始剤の混合物を用いても本発明の範囲から逸脱するものではない。好ましいラジカル開始剤は1,1-ジ(t-アミルペルオキシ)シクロヘキサンである。
【0067】
金型に流し込む混合物のモノマーに対するラジカル開始剤の含有量は100〜2000ppm(重量で)、好ましくは200〜1000ppm(重量で)である。この含有量は目標とされる用途および厚さに応じて変えることができる。
【0068】
必要に応じてさらに、(本発明の方法の段階(3)または変形例の段階(1)で)金型に流し込む混合物に別の成分を添加することができる。下記の成分が挙げられるがこれらに限定されるものではない:
(1)乳白剤、例えばTiO2またはBaSO4、一般に、ジアルキルフタレートタイプの可塑剤に前もって作られたペーストの形で用いられる、
(2)着色有機染料または着色無機顔料、
(3)可塑剤、
(4)紫外線安定剤、例えばCiba社の製品である Tinuvin P、金型に流し込む混合物に対して0〜1000ppm、好ましくは50〜500ppmの含有量で用いる、
(5)光または熱安定剤、例えばTinuvin 770、
(6)酸化防止剤、
(7)難燃剤、例えばトリス(2-クロロプロピル)ホスフェート、
(8)増粘剤、例えば酢酸酪酸セルロース、
(9)離型剤、例えばジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、金型に流し込む混合物に対して0〜500ppm、好ましくは0〜200ppmの含有量で用いる、
(10)(例えば、エッジライトにすることができるシートを提供するための)光を散乱するための無機または有機充填剤(例えばポリアミド、PTFEまたはBaSO4)。
【0069】
別の成分は(必要に応じて)、キャストシートの分野で一般的に用いる連鎖制限剤、例えばSYMBOL 103 \f "Symbol" \s 12-テルピネンまたはテルピノレンにすることもできる。好ましい連鎖制限剤は含有量が金型に流し込む混合物のモノマーに対して0〜500ppm、好ましくは0〜100ppmのγ-テルピネンである。
【0070】
連鎖制限剤を分岐鎖Aの生成前(本発明の第2実施例の段階(2))に、分岐鎖Aを形成するためのモノマーに対して、0〜500ppm、好ましくは0〜100ppmの含有量で添加することもできる。
【0071】
本発明の耐衝撃性の強化は高分子単位(II)によって生じるが、コポリマーB(-A)nとの相乗効果を有するコア−シェル型の耐衝撃性強化剤の添加を除外するものではない。コア−シェル型のこれらの添加剤は当業者に周知であり、例えば、ソフト−ハードまたはハード−ソフト−ハード型、特にアルケマから商品名Durastrength(登録商標)またはMetablend(登録商標)(例えば, D320)で市販のものにすることができる。従って、コア−シェル型添加剤/ブロックコポリマーB(-A)nの比率を90/10〜10/90にすることができる。
【0072】
本発明の方法は厚さが2〜30mm、好ましくは2.5〜12mmのキャストシートの製造に役立つ。
【0073】
本発明方法は下記の段階を含む:
第1段階では、アルコキシアミンZ(−T)nと、ブロックBを形成するためのモノマーとを混合し、得られた混合物を、アルコキシアミンを活性化するのに十分な温度で加熱してブロックBを調製する。
【0074】
重合の制御をより良くするためにニトロオキシドを混合物に添加することもできる。添加するニトロオキシドはアルコキシアミンに含まれるニトロオキシドと同一でも異なっていてもよい。アルコキシアミンに対する、添加するニトロオキシドのモル比は0〜20%、好ましくは0〜10%である。
変換率は10〜100%で変えることができる。しかし、50〜100%、有利には50〜80%の変換率で重合を停止するのが好ましい。
【0075】
この段階は密閉反応器または開放反応器、例えばプラグ流反応器で実施できる。反応器は密閉反応器であるのが好ましい。ブロックBは80〜150℃、好ましくは80〜130℃の温度で調製される。この温度はアルコキシアミンおよび用いるモノマーに関連する。重合時間は30分〜8時間、好ましくは1〜8時間、有利には2〜6時間で変えることができる。酸素の存在を避けるのが好ましい。そのために、反応混合物を一般に、減圧下に脱気し、反応物を導入した後に窒素またはアルゴンでフラッシングして反応器を不活性にする。
【0076】
第1段階の最後に、ブロックB(場合によって、消費されなかったモノマーと混合される)が得られる。消費されなかったモノマーは80℃以下の温度で減圧蒸留によって除去できる。本発明の第1実施例では、高分子単位(II)を構成するブロックBをメチルメタクリレート、架橋剤、必要に応じてさらに少なくとも一種のコモノマーMおよび少なくとも一種のラジカル開始剤と混合し、次いで、金型に流し込み、続いて金型に温度サイクルを実施してキャストシートを得る。この熱サイクルは、60〜120℃の温度で2〜6時間で変えることができる時間である第1固定相、その後の、100〜150℃の温度で1〜4時間で変えることができる時間である第2固定相を含む。本発明の第2実施例では、第1段階で得られたブロックB(場合によって、消費されなかったモノマーと混合される)に、分岐鎖Aを形成するためのモノマーの存在下で、架橋剤を除いて、重合の第2段階を実施する。この段階は第1段階で使用した反応器と同じ反応器または別の反応器で実施できる。反応器は同じ密閉反応器であるのが好ましい。
【0077】
第1段階の変換率が100%以下である場合は、第1段階で生じた完全には重合されていないモノマーが混合物中に見られる。従って、混合物はブロックBと、ブロックAを形成するための添加されたモノマーと、場合によって第1段階の完全に重合されていないモノマーとを含む。この混合物中のブロックBの比率は1〜20%、好ましくは5〜15%である。
【0078】
分岐鎖Aは80〜150℃、好ましくは80〜130℃の温度で形成される。重合時間は30分〜8時間、好ましくは1〜4時間、有利には1〜2時間で変えることができる。第1段階では、酸素の存在を避けるのが好ましい。そのために、反応混合物を一般に、減圧下に脱気し、反応物を導入した後に窒素またはアルゴンでフラッシングして反応器を不活性にする。この段階でニトロオキシドの添加を考えることもできる。このニトロオキシドはアルコキシアミンに含まれるものとは別のものにすることができる。この段階で添加するニトロオキシドの比率はアルコキシアミンに対して0〜20モル%、好ましくは0〜10モル%である。
【0079】
第2段階では、変換率は10〜100%で変えることができる。しかし、過度に粘性のある混合物が作られないように、変換率を5〜50%、好ましくは5〜30%に制限するのが好ましく、それによって、この第2段階の最後に得られた混合物は未変換モノマーと混合したブロックコポリマーB(−A)nを含む。この混合物は一般に「シロップ」とよばれる。
【0080】
第3段階では、さらに本発明の第2実施例によれば、第2段階で得られた混合物に、メチルメタクリレート、架橋剤、必要に応じてさらに少なくとも一種の別のモノマーM、少なくとも一種のラジカル開始剤、必要に応じてさらに連鎖制限剤を添加する。
この段階は室温で実施され、別の反応器または好ましくは第2段階で用いたものと同じ反応器で実施できる。上記の3つの段階で同じ密閉反応器を用いるのが有利である。
【0081】
第4段階では、第3段階で得られた混合物を金型に流し込み、加熱する。この最終段階は、周知のアクリルシートの製造方法の場合に見られる段階と極めて似ている。金型は例えばPVCで作られたシールによって分離された2つのガラスシートで形成される。加熱は例えば、水を満たした容器または換気オーブンを用いることにあり、この容器の中に、混合物の入った金型を一列に配置し、容器の温度は変更される。
本発明では、加熱を一定温度(等温線)で実施できるか、または、極めて正確な温度プログラムに従うことができる。温度プログラムは一般に約70℃の温度での第1固定相、その後の約120℃の温度での第2固定相を含む。冷却後、得られたシートを金型から取り出す。
本発明の方法は種々の厚さの工業用アクリルシートの製造に適用できる。アクリルシートの厚さに応じて、特に第3段階(ラジカル開始剤および温度プログラムの選択)に関して、製造プロセスを適合させる方法は当業者には周知である。
【0082】
本発明のキャストシートはマトリックスを構成する架橋メチルメタクリレートコポリマーから成り、このマトリックス中に高分子単位(II)が均一に分散している。高分子単位(II)はマトリックス内部沈殿する傾向があり、均一に分散した領域を形成する。従って、マトリックスは架橋したメチルメタクリレートコポリマーの連続相構成される。上記領域は、電子顕微鏡法または原子間力顕微鏡を用いて可視でき、100nm以下の寸法のノジュール(節)の形で存在する。この領域の寸法は原子間力顕微鏡分析から求める。
【0083】
本発明に従って製造したシートは窓、遮音壁、フラットスクリーン等として使用できるか、または、熱成形、切り出し、研磨、接着剤結合または折り畳みによって種々の物品に加工できる。これらのシートは特に浴室用備品(浴槽、シンク、シャワートレイ等)の製造で使用できる。そのために、シートは当業者に周知な方法で熱成形される。
【0084】
分子量は立体除外クロマトグラフィー(SEC)またはゲル透過クロマトグラフィー(GPC)によって求める。ポリマーはBHTで安定化したTHF中に1g/lで溶かす。較正は単分散ポリスチレン標準品を用いて行う。
ガラス転移温度(Tg)を求めるために、示差走査熱量測定(DSC)をISO 11357−2に従って行う。
【実施例】
【0085】
第1段階:
ブチルアクリレートとスチレンをベースにしたブロックBの調製
下記(1)〜(4)を、プロペラミキサ、オイル循環による加熱用ジャケットおよび真空/窒素ラインを備えた2リットルの金属反応器に導入する:
(1)616gのブチルアクリレート
(2)84gのスチレン
(3)2.4gのジアルコキシアミン DIAMS(純度94%、遊離SG1=0.35%)、すなわち、2.3gの純粋なDIAMS
(4)0.09gのSG1(純度85%、すなわち、0.077gの純粋なSG1)、これはDIAMS中に既に存在している0.35%の遊離SG1を考慮して、DIAMSに含まれるアルコキシ官能基一つ当たり5モル%過剰を表す。
【0086】
反応物を導入した後、反応混合物を真空/窒素下に3回脱気する。次いで、反応器を閉じ、撹拌(50回転/分)および加熱(設定温度:125℃)を開始する。反応混合物の温度は約30分で113℃になる。圧力は約1.5バールで安定する。反応器の温度は115℃で522分間動かさない。冷却後、固体含有率が67%の混合物、608gを回収する。過剰ブチルアクリレートを続いて70℃で減圧下に3時間蒸発させて除去し、700gのMMAで置換する。このようにして、MMAを用いて調製した「剥離した」マクロラジカル(過剰ブチルアクリレートから遊離した)の37%溶液、1110gを回収する。得られたマクロラジカルのブチルアクリレート:スチレン重量比は83:17である。ブロックBのGPC分析の結果は以下の通り:Mn:120 000g/モル、Mw:252 000g/モル、多分散性指数:2:1。
【0087】
段階2
段階1で調製した10重量%のポリ(ブチルアクリレート-co-スチレン)マクロ開始剤高分子単位と、メチルメタクリレートと、1,4-ブチレン グリコール ジメタクリレート(BDMA,量は対象試験に応じて変えることができる)と、800 ppmの1,1-ジ(t-アミル-ペルオキシ)シクロヘキサンとの混合物からシートを製造する。続いて混合物を金型に流し込む。金型は初めに約90℃の温度で約3時間加熱する。続いてシートを約130℃の温度で約2時間、後重合する。
【0088】
【表1】
【0089】
衝撃強度(強靭性)および曲げ弾性率は架橋剤の含有量の増加関数であり、0.7%の近くで最大となることが観察される。