特許第6121454号(P6121454)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6121454非水電解質二次電池用正極及び非水電解質二次電池
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  • 特許6121454-非水電解質二次電池用正極及び非水電解質二次電池 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6121454
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20170417BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20170417BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20170417BHJP
【FI】
   H01M4/131
   H01M4/62 Z
   H01M4/36 C
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-559361(P2014-559361)
(86)(22)【出願日】2013年10月4日
(86)【国際出願番号】JP2013005928
(87)【国際公開番号】WO2014118834
(87)【国際公開日】20140807
【審査請求日】2016年2月15日
(31)【優先権主張番号】特願2013-17614(P2013-17614)
(32)【優先日】2013年1月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 和弘
(72)【発明者】
【氏名】川村 渥史
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 翔
(72)【発明者】
【氏名】福井 厚史
【審査官】 小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/147507(WO,A1)
【文献】 特開2007−287446(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/096834(WO,A1)
【文献】 特開2004−207055(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/001636(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/131
H01M 4/62
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体と、正極集電体上に設けられ、リチウム含有遷移金属酸化物を備える正極活物質と、正極添加剤とを含む正極活物質層と、を有する非水電解質二次電池用正極であって、
前記正極添加剤は、前記非水電解質二次電池用正極を具備する非水電解質二次電池の初回充電時に4.2V(vs.Li/Li+)以下でガス発生する、一般式Li(x=4〜7、y=0.5〜1.5、MはCo、Fe、Mn、Zn、Al、Ga、Ge、Ti、Si、Snから選択される少なくとも1種の金属)であるLi含有化合物を含み、
前記正極活物質層中の前記正極活物質に対する前記Li含有化合物の混合比率は0.1質量%以上10質量%以下の範囲であって、
前記非水電解質二次電池の初回充電前の前記正極活物質層の空孔率は30%以下である、非水電解質二次電池用正極。
【請求項2】
前記Li含有化合物は、逆蛍石型結晶構造を有する、請求項1記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項3】
前記正極活物質の表面には希土類元素が付着している、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項4】
前記請求項1〜のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極と、負極と、前記正極と負極との間に介在するセパレータと、非水電解質と、を備える、非水電解質二次電池。
【請求項5】
正極と、負極と、正極と負極との間に介在するセパレータと、非水電解質と、を備える非水電解質二次電池であって、
前記正極は、正極集電体と、前記正極集電体上に設けられ、リチウム含有遷移金属酸化物を備える正極活物質と、正極添加剤とを含む正極活物質層と、を有し、
前記正極添加剤は、前記非水電解質二次電池の初回充電時に4.2V(vs.Li/Li+)以下でガス発生する、一般式Li(x=4〜7、y=0.5〜1.5、MはCo、Fe、Mn、Zn、Al、Ga、Ge、Ti、Si、Snから選択される少な
くとも1種の金属)であるLi含有化合物を含み、
前記非水電解質二次電池の初回充電後の前記正極活物質層の空孔率は33%以下である、非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記初回充電後の前記正極活物質層の空孔率は、15%以上33%以下の範囲である、請求項記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
正極と、負極と、正極と負極との間に介在するセパレータと、非水電解質と、を備える非水電解質二次電池であって、
前記正極は、正極集電体と、前記正極集電体上に設けられ、リチウム含有遷移金属酸化物を備える正極活物質と正極添加剤とを含む正極活物質層と、を有し、
前記正極添加剤は、前記非水電解質二次電池の初回充電時に4.2V(v
s.Li/Li+)以下でガス発生する、一般式Li(x=4〜7、y=0.5〜1.5、MはCo、Fe、Mn、Zn、Al、Ga、Ge、Ti、Si、Snから選択される少なくとも1種の金属)であるLi含有化合物を含み、
前記非水電解質二次電池の初回充電前の前記正極活物質層の空孔率は30%以下であり、前記初回充電後の前記正極活物質層の空孔率は、前記初回充電前の前記正極活物質層の空孔率より高くなる、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用正極及び非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池を高容量化する方策としては、活物質の容量を高くする方策や、電池の充電電圧を高くする方策の他、正負極の塗布後電極を高い圧力で圧縮し、単位体積当りの電極の空孔率を下げるといった方策がある。ただし電極の空孔率を下げた場合、電極内の電解液保液量が減少してLiイオン拡散性が低下するため、負荷特性や低温特性が低下するという課題がある。
【0003】
これに対し、例えば特許文献1では、正極の空孔率が25%以下である非水電解質電池において、塩濃度が伝導度ピークを与える濃度を越えている電解質を用いる手法が提案されている。
【0004】
また特許文献2では、正極の空孔率が28体積%〜40体積%の範囲である巻回型リチウムイオン二次電池において、正極中に2種類のカーボンを用い、電解液量を規定する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−173821号公報
【特許文献2】特開2003−242966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、電池高容量化のため正極の空孔率を30%以下とした場合、上記手法のみでは負荷特性の低下が依然として大きい。
【0007】
そこで、本発明の目的は、高容量で、且つ負荷特性が良好な非水電解質二次電池用正極及び非水電解質二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様の非水電解質二次電池用正極は、正極集電体と、正極集電体上に設けられ、正極活物質と正極添加剤とを含む正極活物質層と、を有し、正極添加剤は、非水電解質二次電池用正極を具備する非水電解質二次電池の初回充電時に4.2V(vs.Li/Li+)以下でガス発生するLi含有化合物を含み、非水電解質二次電池の初回充電前の正極活物質層の空孔率は30%以下である。
【0009】
また、本発明のある態様の非水電解質二次電池は、非水電解質二次電池用正極と、負極と、非水電解質二次電池用正極と負極との間に介在するセパレータと、非水電解質と、を備え、非水電解質二次電池用正極は、正極集電体と、正極集電体上に設けられ、正極活物質と正極添加剤とを含む正極活物質層と、を有し、正極添加剤は、非水電解質二次電池の初回充電時に4.2V(vs.Li/Li+)以下でガス発生するLi含有化合物を含み、非水電解質二次電池の初回充電前の正極活物質層の空孔率は30%以下である。
【0010】
また、本発明のある態様の非水電解質二次電池は、正極と、負極と、正極と負極との間に介在するセパレータと、非水電解質と、を備え、前記正極は、正極集電体と、正極集電体上に設けられ、正極活物質と正極添加剤とを含む正極活物質層と、を有し、正極添加剤は、非水電解質二次電池の初回充電時に4.2V(vs.Li/Li+)以下でガス発生するLi含有化合物を含み、非水電解質二次電池の初回充電後の正極活物質層の空孔率は33%以下である。
【0011】
また、本発明のある態様の非水電解質二次電池は、正極と、負極と、正極と負極との間に介在するセパレータと、非水電解質と、を備え、正極は、正極集電体と、正極集電体上に設けられ、正極活物質と正極添加剤とを含む正極活物質層と、を有し、正極添加剤は、非水電解質二次電池の初回充電時に4.2V(vs.Li/Li+)以下でガス発生するLi含有化合物を含み、非水電解質二次電池の初回充電前の正極活物質層の空孔率は30%以下であり、初回充電後の正極活物質層の空孔率は、初回充電前の正極活物質層の空孔率より高くなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高容量で、且つ負荷特性が良好な非水電解質二次電池用正極及び非水電解質二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本実施形態に係る非水系電解質二次電池の構成の一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0015】
図1は、本実施形態に係る非水系電解質二次電池の構成の一例を示す模式断面図である。図1に示す非水電解質二次電池30は、負極1と、正極2と、負極1と正極2との間に介在するセパレータ3と、非水電解質(不図示)と、円筒型の電池ケース4と、封口板5と、を備える。非水電解質は電池ケース4内に注入されている。負極1と正極2とは、セパレータ3を介在させた状態で巻回され、セパレータ3と共に捲回型電極群を構成している。この捲回型電極群の長手方向の両端部には、上部絶縁板6及び下部絶縁板7が装着され、電池ケース4内に収容されている。正極2には正極リード8の一端が接続され、封口
板5に設けられた正極端子10には正極リード8の他端が接続されている。負極1には負極リード9の一端が接続され、電池ケース4の内底には負極リード9の他端が接続されている。リードと部材との接続は溶接等により行われる。電池ケース4の開口端部は、封口板5にかしめ付けられ、電池ケース4が封口されている。
【0016】
正極2は、正極集電体と、正極活物質層とを備える。正極活物質層は、正極集電体の両面に配置されることが好ましいが、正極集電体の片面側にのみ配置されていてもよい。正極活物質層は、正極活物質と正極添加剤とを含む。そして、非水電解質二次電池の初回充電前の正極活物質層の空孔率は30%以下である。正極活物質層の空孔率は以下の式により求められる。
空孔率(%)=(1−単位面積当たりの正極活物質層量/正極活物質層厚み/正極活物質層真密度)×100
【0017】
正極活物質としては、例えば、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池に使用される公知の正極活物質であり、少なくとも非水電解質二次電池の初回充電時に4.2V(xs.Li/Li+)以下でガス発生が起こらない正極活物質であることが望ましい。
正極活物質としては、例えば、リチウム含有複合金属酸化物、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNiCoMnO2)、ニッケルコバルトアルミ酸リチウム(LiNiCoAlO2)等の層状酸化物、マンガン酸リチウム(LiMn24)等のスピネル系複合酸化物などが挙げられる。好ましくは、体積エネルギー密度が高いコバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNiCoMnO2)、ニッケルコバルトアルミ酸リチウム(LiNiCoAlO2)等の層状酸化物が挙げられる。正極活物質の平均粒子径は、例えば、1μm以上100μm以下程度の範囲であることが好ましい。
【0018】
正極添加剤は、非水電解質二次電池の初回充電時に4.2V(vs.Li/Li+)以下でガス発生するLi含有化合物を含むものである。ガス発生のメカニズは明らかでないが、例えば、非水電解質二次電池の初回充電の際における正極の電位上昇(4.2V(vs.Li/Li+)まで)の間に、Li含有化合物の一部が分解される等して、ガス発生が起こると考えられる。なお、Li含有化合物が酸化物である場合、発生するガスは主に酸素である。非水電解質二次電池の初回充電とは、正極電位が、Li含有化合物が分解してガスを発生する電位に最初に到達する充電のことを言う。
【0019】
前述したように、非水電解質二次電池の高容量化をはかるためには、正極活物質の充填量を増加させ、正極集電体上の正極活物質層の密度を高めることが望ましい。しかし、正極活物質層の密度を高めると、正極活物質層の空孔率が低下するため、正極活物質層中への非水電解質の浸透が不十分になり易く、負荷特性を低下させる原因となる。本実施形態の非水電解質二次電池30のように、初回充電前の正極活物質層の空孔率を30%以下にすることにより、高容量化をはかることが可能となる。しかし、通常、初回充電前の正極活物質層の空孔率を30%以下にすると、非水電解質の浸透が不十分となり、負荷特性が
低下してしまう。
【0020】
本実施形態では、初回充電前の正極活物質層の空孔率を30%以下としても、非水電解質二次電池の初回充電の際に、前述のLi含有化合物が分解する等して発生したガスにより、正極活物質層内に非水電解質(電解液)が浸透し易くなり、負荷特性の低下が抑制される。ガス発生によって正極活物質層内に非水電解質が浸透し易くなるメカニズは明らかではないが、例えば、発生したガスにより正極活物質層内に空孔が形成され、正極活物質層内の状態が変化することにより、正極活物質層内に非水電解質が引き込まれ易くなったと考えられる。また、例えば、発生したガスが正極活物質層から放出される際に、正極活物質層にガス抜けの経路が形成され、その経路を通して非水電解質が浸透するため、正極活物質層内に非水電解質が浸透し易くなったと考えられる。特に、ガス発生量が少ない場合や、空孔率の上昇幅が小さい場合でも、電解液が活物質表面へ選択的に供給されるため、負荷特性が向上すると考えられる。このように、本実施形態では、非水電解質二次電池の初回充電前の正極活物質層の空孔率を30%以下にし、初回充電時に4.2V(vs.Li/Li+)以下でガス発生するLi含有化合物を含む正極活物質層を用いることにより、高容量で、且つ負荷特性の低下が抑制される。
【0021】
本実施形態で用いられるLi含有化合物は、非水電解質二次電池の初回充電時に4.2V(vs.Li/Li+)以下でガス発生するものであれば、特に制限されるものではないが、Li含有率が高く、少量添加で負荷特性の低下を効率的に抑制できる点等から、逆蛍石型結晶構造を有することが好ましく、一般式Lixy4(x=4〜7、y=0.5〜1.5、MはCo、Fe、Mn、Zn、Al、Ga、Ge、Ti、Si、Snから選択される少なくとも1種の金属)であることがより好ましい。逆蛍石型結晶構造とは、負電荷を有するアニオンによって構成される面心立方格子の四面体サイトに正電荷を有するカチオンが入る構造である。すなわち、単位格子あたり4個のアニオンで構成されており、
かつ最大で8個のカチオンの原子が入り得る。逆蛍石型結晶構造を有するLi含有化合物としては、例えば、アニオンが主として酸素で構成され、カチオンが主としてリチウムで構成されているLi2O等、アニオンが主として酸素で構成され、カチオンがリチウムと少なくとも1種の遷移金属元素等で構成されているLi6CoO4、Li5FeO2、Li6MnO4、Li6ZnO4、Li5AlO4、Li5GaO4等が挙げられる。
【0022】
正極活物質層におけるLi含有化合物の含有量は、負荷特性の低下を抑制する点等から、0.1質量%以上10質量%未満の範囲、更には0.2質量%以上10質量%未満であることが好ましい。Li含有化合物の含有量が上記範囲外の場合では、負荷特性の低下を十分に抑制できない場合がある。
【0023】
正極活物質の表面には、Li含有化合物の分解を促進させ、負荷特性を更に向上する点等から、希土類元素が付着していることが好ましい。付着させる希土類元素は、例えば、プラセオジム、ネオジム、エルビウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムから選択される少なくとも1種の元素であることが好ましく、プラセオジム、ネオジム、エルビウムから選択される少なくとも1種の元素であることがより好ましい。また、付着する希土類元素は、酸化物、水酸化物等の化合物の状態であることが好ましい。希土類元素の付着
量は、希土類元素換算で、0.005質量%以上1.0質量%以下であることが好ましく、特に、0.01質量%以上0.3質量%以下であることが好ましい。希土類化合物の固着量が0.005質量%未満になると、負荷特性の改善が十分に得られない場合がある。
一方、希土類化合物の固着量が1.0質量%を超えると、分極が大きくなって、負荷特性の改善が十分に得られない場合がある。
【0024】
一般的に、非水電解質二次電池を製品として出荷する際には、初回充電が行われる場合が多いが、本実施形態の非水電解質二次電池30では、初回充電の際に、前述のLi含有化合物が分解してガス発生が起こるため、正極活物質層の密度等が減少する。すなわち、本実施形態の非水電解質二次電池30において、通常、初回充電後の正極活物質層の空孔率は、初回充電前の正極活物質層の空孔率より高くなる。そこで、本発明者らは、初回充電前後の正極活物質の空孔率の関係を鋭意検討した結果、本実施形態の非水電解質二次電池30は、非水電解質二次電池の初回充電時に4.2V(vs.Li/Li+)以下でガ
ス発生するLi含有化合物を含む正極活物質層を有し、初回充電後の正極活物質層の空孔率が33%以下であれば、高容量で、負荷特性の低下を抑制することが可能となることを見出した。また、本実施形態の非水電解質二次電池30は、非水電解質二次電池の初回充電時に4.2V(vs.Li/Li+)以下でガス発生するLi含有化合物を含む正極活物質層を有し、初回充電前の正極活物質層の空孔率が30%以下であれば、初回充電後の正極活物質層の空孔率が、初回充電前の正極活物質層の空孔率より高くなってもよい。そして、初回充電後の正極活物質層の空孔率は、33%以下であればよく、15%以上30%以下の範囲であることが好ましい。
【0025】
また、一般式Lixy4(x=4〜7、y=0.5〜1.5、MはCo、Fe、Mn、Zn、Al、Ga、Ge、Ti、Si、Snから選択される少なくとも1種の金属)で示されるLi含有化合物を用いた場合、負荷特性の低下を抑制する点等から、充放電後のLi含有化合物は、一般式Lixy4(x≦3、y=0.5〜5.5、MはCo、Fe、Mn、Zn、Al、Ga、Ge、Ti、Si、Snから選択される少なくとも1種の金属)で示されるLi含有化合物となっていることが好ましい。xが3以上の場合、Li含有化合物の分解量が少なく初回充電時のガス発生量が少なくなり、負荷特性の改善が十分に得られない場合がある。また、Li含有化合物中の遷移金属MはFeであることが好まし
い。これは、Li6CoO4やLi6MnO4の場合は初回充電の際に、Li含有化合物が分解して形成されたコバルト酸化物やマンガン酸化物が、Li5FeO4が分解して形成された鉄酸化物よりも不安定で溶解しやすいため、負極上に析出して特性が低下することがあるためと考えられる。
【0026】
Li含有化合物の平均粒子径は、例えば、1μm以上100μm以下程度の範囲であることが好ましい。
【0027】
正極活物質層は、前述の正極活物質とLi含有化合物に加え、結着剤や導電剤などをさらに含んでいてもよい。好ましい結着剤の具体例としては、例えば、カルボキシメチルセルロースやスチレンブタジエンゴムなどが挙げられる。
【0028】
正極集電体の厚みは、特に制限されないが、1μm以上500μm以下程度の範囲にあることが好ましい。正極集電体は、例えば、リチウムイオン電池等の非水電解質二次電池に使用される公知の導電性材料により構成され、例えば、無孔の導電性基板等が挙げられる。
【0029】
負極1は、負極集電体と、負極集電体上に設けられる負極活物質層と、を備える。負極活物質層は、負極集電体の両面に配置されることが好ましいが、負極集電体の片面に設けられてもよい。
【0030】
負極集電体は、例えば、リチウムイオン電池等の非水電解質二次電池に使用される公知の導電性材料により構成され、例えば、無孔の導電性基板等が挙げられる。負極集電体の厚みは、例えば、1μm以上500μm以下程度の範囲であることが好ましい。
【0031】
負極活物質は、例えば、リチウムイオン電池等の非水電解質二次電池に使用される公知の負極活物質であり、例えば、カーボン系活物質、合金系活物質、カーボン系活物質と合金系活物質との混合物などが挙げられる。カーボン系活物質としては、例えば、人造黒鉛、天然黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化性炭素などが挙げられる。合金系活物質としては、負極電位下で、充電時にリチウムと合金化することによりリチウムを吸蔵し、かつ放電時にリチウムを放出するものであり、例えば、ケイ素を含むケイ素系活物質等が挙げられる。好ましいケイ素系活物質としては、例えば、ケイ素、ケイ素化合物、これらの部分置換
体及び固溶体などが挙げられる。ケイ素化合物としては、例えば、SiOa(0.05<a<1.95)で表される酸化ケイ素などが好ましい。非水電解質二次電池30の充放電容量をより高める観点等から、負極活物質層は、合金系活物質を含むことが好ましく、ケイ素を含むことがより好ましい。負極活物質層は、1種類の負極活物質を含むものであってもよいし、複数種類の負極活物質を含むものであってもよい。
【0032】
負極活物質の平均粒子径は、例えば、1μm以上100μm以下程度の範囲であることが好ましい。負極活物質層は、負極活物質に加え、結着剤や導電剤などをさらに含むことが好ましい。好ましい結着剤の具体例としては、例えば、カルボキシメチルセルロースやスチレンブタジエンゴムなどが挙げられる。
【0033】
セパレータ3は、例えば、所定のイオン透過度、機械的強度、絶縁性などを併せ持つ樹脂等のシート等が用いられる。セパレータ3の厚みは、例えば、10μm以上300μm以下程度の範囲であることが好ましい。また、セパレータ3の空孔率は、30%以上70%以下程度の範囲であることが好ましい。なお、空孔率とは、セパレータ3の体積に対するセパレータ3が有する細孔の総容積の百分率である。
【0034】
非水電解質には、リチウム塩を溶解した非水溶媒を用いることが好ましい。リチウム塩には、例えばLiPF6、LiBF4などを用いることができる。非水溶媒には、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)などを用いることができる。これらは複数種を組み合わせて用いることが好ましい。
【0035】
なお、図1の非水電解質二次電池30は、捲回型電極群を含む円筒形電池であるが、電池形状は、特に限定されるものではなく、例えば、角形電池、扁平電池、コイン電池、ラミネートフィルムパック電池などであってもよい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
<実施例1−1>
[正極活物質の作製]
Li源としてのLi2CO3と、Co34で表される酸化物とを、Liと遷移金属元素のモル比が1:1になるように石川式らいかい乳鉢にて混合した後、空気雰囲気中にて950℃で20時間熱処理後に粉砕することにより、平均二次粒子径が約16μmのLiCoO2を得た。
【0038】
[正極添加剤であるLi含有化合物の作製]
Li源としてのLi2Oと、Fe23で表される酸化物とを、Liと遷移金属元素のモル比が5:1になるように石川式らいかい乳鉢にて混合した後、窒素雰囲気中にて600℃で12時間熱処理後に粉砕することにより、平均二次粒径が約10μmのLi5FeO4を得た。ここで、得られた正極添加剤のみ正極として、以下に記載の単極セルを作製し、15mAの定電流で、正極の電位がリチウム基準で4.2V(vs.Li/Li+)になるまで初回充電を行った結果、単極セルの電池膨れが確認された。単極セル内のガスをガスクロマトグラフィーにて分析した結果、酸素ガスが確認された。すなわち、得られた正極添加剤は、初回充電時に4.2V(vs.Li/Li+)以下でガス発生することが確
認された。
【0039】
[正極の作製]
上記のようにして得られた正極活物質(LiCoO2)と、正極添加剤(Li5FeO4)とを、質量比で98:2となるように混合し、活物質混合物を得た後、導電剤としての炭素粉末と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)と、分散媒としてのN−メチル−2−ピロリドンを、活物質混合物と導電剤と結着剤との質量比が95:2.5:2.5の割合になるように加えた後に混練して、正極スラリーを調製した。この正極スラリーを、正極集電体としてのアルミニウム箔(厚み15μm)の両面に塗布、乾燥し、アルミニウム箔上に正極活物質層を作製し後、圧延ローラにより圧延し、正極活物質層の空孔率を27%として、正極を作製した。なお、正極添加剤は大気中の水分と反応し分解する場合があるため、正極の作製においては、露点−30℃のドライ雰囲気下にて実施した。また、得られた正極に正極リードを取り付けた。
【0040】
[非水電解質の調製]
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを、3:7の体積比で混合した混合溶媒に対し、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1.0モル/リットルの濃度になるように溶解させて、非水電解質(電解液)を調製した。
【0041】
[単極式セル]
単極式セルA1は、上記のように作製した正極、負極(対極:リチウム金属)、正極と負極との間に配置されるセパレータ、を有する測定極部と、測定極部と所定の間隔を設けて配置される参照極(リチウム金属)と、上記のように作製した非水電解質と、それらを収容する外装体としてのアルミラミネートフィルムとから構成されている。測定極部及び参照極を収容するアルミラミネートフィルム内は、非水電解液で満たされている。負極は、正極に対して対向可能な寸法となっている。作製された単極式セルA1の理論容量は100mAhである。
【0042】
<実施例1−2>
正極活物質(LiCoO2)と、正極添加剤(Li5FeO4)とを、質量比で96:4となるように混合して正極を作製したこと以外は実施例1−1と同様に単極式セルを作製し、これを単極式セルA2とした。実施例1−2の正極中の正極活物質層の空孔率を27%とした。
【0043】
<実施例1−3>
正極活物質(LiCoO2)と、正極添加剤(Li5FeO4)とを、質量比で94:6となるように混合して正極を作製したこと以外は実施例1−1と同様に単極式セルを作製し、これを単極式セルA3とした。実施例1−3の正極中の正極活物質層の空孔率を27%とした。
【0044】
<比較例1>
正極添加剤を添加せず、正極活物質(LiCoO2)のみを用いたこと以外は実施例1−1と同様に単極式セルを作製し、これを単極式セルA4とした。比較例1の正極中の正極活物質層の空孔率を27%とした。
【0045】
[単極式セルA1〜A4の評価]
上記作製した単極式セルを0.15It(=15mA)の定電流により、正極の電位がリチウム基準で4.50Vとなるまで充電し、その後、4.50Vの定電圧で電流が1/50It(=2mA)となるまで充電を行った。この時に流れた電気量を測定して、初期充電容量(mA/g)を求め、以下の式により、充電容量(mAh/cc)を算出した。
充電容量(mAh/cc)=初期充電容量(mAh/g)
×充電前の正極活物質層密度(g/cc)
【0046】
次いで、0.10It(=10mA)の定電流で電池電圧が2.50Vとなるまで放電を行い、このときに流れた電気量を測定することにより、初期放電容量(mAh/g)を求めた。なお単極式セルA1〜A3では、初期充電後にガス発生による電池膨れが確認された。次いで、上記と同じ条件で充電した後、2.0It(=200mA)の定電流で電池電圧が2.50Vとなるまで放電を行い、このときに流れた電気量を測定して、放電負荷容量(mAh/g)を求め、以下の式により負荷特性を算出した。
負荷特性(%)=[放電負荷容量(2.0It)/初期放電容量(0.1It)]×100
【0047】
上記充放電後、単極式セルA1〜A4を分解し、正極を取り出して、正極活物質層の空孔率を測定した。実施例1−1〜1−3の正極活物質層の空孔率は29%であり、比較例1の正極活物質層の空孔率は28%であった。
【0048】
表1に、実施例1−1〜1−3及び比較例1の正極活物質及び正極添加剤の組成、正極活物質に対する正極添加剤の混合比率、正極活物質層の空孔率、充電容量及び負荷特性(2.0It)の結果をまとめた。
【0049】
【表1】
【0050】
表1の結果から分かるように、正極添加剤として、初回充電時に4.2V(vs.Li/Li+)以下でガス発生するLi含有化合物を用いた実施例1−1〜1−3は、上記Li含有化合物を添加してない比較例1と比較して、負荷特性の低下が抑制された。また、正極活物質層の空孔率が30%以下である実施例1−1〜1−3(及び比較例1)は、いずれも高い充電容量が得られた。また、実施例1―1〜1−3の結果から分かるように、Li含有化合物の混合比率を増加させるほど負荷特定の低下が抑制される。なお、Li含有化合物の混合比率を10質量%以上とする正極の作製を試みたが、正極スラリーのゲル化が起こりやすく、正極の作製が困難であった。したがって、Li含有化合物の混合比率は2質量%以上10質量%未満の範囲とすることが好ましい。なお、Li含有化合物の添加比率が2質量%未満であると、2質量%以上の場合と比較して、ガス発生量が少なく、正極活物質層の空孔率緩和効果が小さくなるため、負荷特性が低下すると考えられる。また、Li含有化合物の添加量が10質量%以上である正極を作製した場合でも、10質量%未満の場合と比較して、ガス発生量が多くなり、正極活物質間の電子伝導が阻害され、負荷特性が低下すると考えられる。
【0051】
<実施例2−1>
正極活物質(LiCoO2)と、正極添加剤(Li5FeO4)とを、質量比で96:4となるように混合し、圧延ローラの圧力を調整して、正極中の正極活物質層の空孔率を20%として正極を作製したこと以外は、実施例1−1と同様に単極式セルを作製し、これを単極式セルB1とした。
【0052】
<実施例2−2>
正極活物質(LiCoO2)と、正極添加剤(Li5FeO4)とを、質量比で96:4となるように混合し、圧延ローラの圧力を調整して、正極中の正極活物質層の空孔率を27%として正極を作製したこと以外は、実施例1−1と同様に単極式セルを作製し、これを単極式セルB2とした。
【0053】
<実施例2−3>
正極活物質(LiCoO2)と、正極添加剤(Li5FeO4)とを、質量比で96:4となるように混合し、圧延ローラの圧力を調整して、正極中の正極活物質層の空孔率を28%として正極を作製したこと以外は、実施例1−1と同様に単極式セルを作製し、これを単極式セルB3とした。
【0054】
<比較例2−1>
正極添加剤を添加せず、正極活物質(LiCoO2)のみを用い、圧延ローラの圧力を調整して、正極中の正極活物質層の空孔率を27%として正極を作製したこと以外は、実施例1−1と同様に単極式セルを作製し、これを単極式セルB4とした。
【0055】
<比較例2−2>
正極添加剤を添加せず、正極活物質(LiCoO2)のみを用い、圧延ローラの圧力を調整して、正極中の正極活物質層の空孔率を33%として正極を作製したこと以外は、実施例1−1と同様に単極式セルを作製し、これを単極式セルB5とした。
【0056】
<比較例2−3>
正極活物質(LiCoO2)と、正極添加剤(Li5FeO4)とを、質量比で96:4となるように混合し、圧延ローラの圧力を調整して、正極中の正極活物質層の空孔率を32%として正極を作製したこと以外は、実施例1−1と同様に単極式セルを作製し、これを単極式セルB6とした。
【0057】
単極式セルB1〜B6の充放電を単極式セルA1と同様に行い、充電容量(mAh/cc)及び負荷特性(%)を算出した。充放電後、単極式セルB1〜B6を分解し、正極を取り出して、正極活物質層の空孔率を測定した。その結果、実施例2−1の正極活物質層の空孔率は22%であり、実施例2−2の正極活物質層の空孔率は29%であり、実施例2−3の正極活物質層の空孔率は31%であり、比較例2−1の正極活物質層の空孔率は28%であり、比較例2−2及び2−3の正極活物質層の空孔率は34%であった。
【0058】
表2に、実施例2−1〜2−3及び比較例2−1〜2−3の正極活物質及び正極添加剤の組成、正極活物質に対する正極添加剤の混合比率、正極活物質層の空孔率、充電容量及び負荷特性(2.0It)の結果をまとめた。
【0059】
【表2】
【0060】
表2の結果から分かるように、正極活物質層の正極添加剤として、初回充電時に4.2V(vs.Li/Li+)以下でガス発生するLi含有化合物を用いた実施例2−1〜2−3は、上記Li含有化合物を添加してない比較例2−1と比較して、負荷特性の低下が抑制された。また、正極活物質層の空孔率が30%以下である実施例2−1〜2−3は、正極活物質層の空孔率が30%を超える比較例2−2〜2−3と比較して、高い充電容量を確保することができた。
【0061】
また、実施例2−1〜2−3の結果から分かるように、正極活物質層の空孔率が20%超30%以下の実施例2−2,2−3は、正極活物質層の空孔率が20%の実施例2−1と比較して、より負荷特性の低下が抑制された。正極活物質層の空孔率が20%以下であると、20%超の場合と比較して、Li含有化合物を添加しても非水電解質の保液量が十分に増加せず、負荷特性が低下したと考えられる。したがって、初回充電前の正極活物質層の空孔率は20%超から30%以下の範囲であることが好ましい。なお、初回充電前の正極活物質層の空孔率が30%を超える比較例2−2は、Li含有化合物を添加しなくて
も、実施例2−1と同等の負荷特性が得られるが、実施例2−1と比較して、低い充電容量を示した。
【0062】
また、実施例2−3は、充電後の正極活物質層の空孔率が31%であるが、高い充電容量が確保され、負荷特性の低下が抑制されている。また、充電後の正極活物質層の空孔率が34%である比較例2−2及び2−3は、負荷特性の低下は抑制されているが、高い充電容量が得られなかった。したがって、初回充電時に4.2V(vs.Li/Li+)以下でガス発生するLi含有化合物を用い、初回充電後の正極活物質層の空孔率が33%以下であれば、高容量で、負荷特性の低下が抑制される。
【0063】
<実施例3−1>
実施例1−1と同様に単極式セルを作製し、これを単極式セルC1とした。実施例3−1の正極中の正極活物質層の空孔率を27%とした。
【0064】
<実施例3−2>
正極活物質(LiCoO2)と、正極添加剤(Li5FeO4)とを、質量比で96:4となるように混合して正極を作製したこと以外は実施例1−1と同様に単極式セルを作製し、これを単極式セルC2とした。実施例3−2の正極中の正極活物質層の空孔率を27%とした。
【0065】
<実施例3−3>
[正極添加剤としてのLi6CoO4の作製]
Li源としてのLi2Oと、CoOで表される酸化物とを、Liと遷移金属元素のモル比が6:1になるように石川式らいかい乳鉢にて混合した後、窒素雰囲気中にて700℃で12時間熱処理後に粉砕することにより、平均二次粒径が約10μmのLi6CoO4を得た。
【0066】
正極添加剤として、上記のように得られたLi6CoO4を用い、正極活物質(LiCoO2)と、正極添加剤(Li6CoO4)とを、質量比で98:2となるように混合して正極を作製したこと以外は実施例1−1と同様に単極式セルを作製し、これを単極式セルC3とした。実施例3−3の正極中の正極活物質層の空孔率を27%とした。
【0067】
<実施例3−4>
正極添加剤として、上記のように得られたLi6CoO4を用い、正極活物質(LiCoO2)と、正極添加剤(Li6CoO4)とを、質量比で96:4となるように混合して正極を作製したこと以外は実施例1−1と同様に単極式セルを作製し、これを単極式セルC4とした。実施例3−4の正極中の正極活物質層の空孔率を27%とした。
【0068】
<実施例3−5>
正極添加剤としてLi2Oを用い、正極活物質(LiCoO2)と、正極添加剤(Li2O)とを、質量比で96:4となるように混合して正極を作製したこと以外は実施例1−1と同様に単極式セルを作製し、これを単極式セルC5とした。実施例3−5の正極中の正極活物質層の空孔率を27%とした。
【0069】
<実施例3−6>
[正極添加剤としてのLi6MnO4の調製]
Li源としてのLi2Oと、MnOで表される酸化物とを、Liと遷移金属元素のモル比が6:1になるように石川式らいかい乳鉢にて混合した後、窒素雰囲気中にて950℃で12時間熱処理後に粉砕することにより、平均二次粒径が約10μmのLi6MnO4を得た。
【0070】
正極添加剤として、上記のように得られたLi6MnO4を用い、正極活物質(LiCoO2)と、正極添加剤(Li6MnO4)とを、質量比で96:4となるように混合して正極を作製したこと以外は実施例1−1と同様に単極式セルを作製し、これを単極式セルC6とした。実施例3−6の正極中の正極活物質層の空孔率を27%とした。
【0071】
[単極式セルC1〜C6の評価]
上記作製した単極式セルを0.15It(=15mA)の定電流により、正極の電位がリチウム基準で4.50Vとなるまで充電し、その後、4.50Vの定電圧で電流が1/50It(=2mA)となるまで充電を行った。この時に流れた電気量を測定して、初期充電容量(mA/g)を求め、上記と同様に充電容量(mAh/cc)を算出した。次いで、0.10It(=10mA)の定電流で電池電圧が2.50Vとなるまで放電を行い、このときに流れた電気量を測定することにより、初期放電容量(mAh/g)を求めた。なお、初期充電後にはガス発生による電池膨れが確認された。次いで、上記と同じ条件
で充電した後、0.50It(=50mA)の定電流で電池電圧が2.50Vとなるまで放電を行い、このときに流れた電気量を測定して、放電負荷容量(mAh/g)を求め、以下の式により負荷特性を算出した。
負荷特性(%)=[放電負荷容量(0.50It)/初期放電容量(0.1It)]×100
【0072】
充放電後、単極式セルC1〜C6を分解し、正極を取り出して、正極活物質層の空孔率を測定した。その結果、実施例3−1〜3−6の正極活物質層の空孔率は29%であった。
【0073】
表3に、実施例3−1〜3−6の正極活物質及び正極添加剤の組成、正極活物質に対する正極添加剤の混合比率、正極活物質層の空孔率、充電容量及び負荷特性(0.5It)の結果をまとめた。
【0074】
【表3】
【0075】
表3の結果から分かるように、Li含有化合物としてLi5FeO4、Li6CoO4、Li6MnO4を用いた実施例3−1〜3−4、3−6は、Li2Oを用いた実施例3−5と比較して、負荷特性の低下がより抑制された。特に、Li5FeO4を用いた実施例3−1、3−2は、Li6CoO4、Li6MnO4を用いた実施例3−3、3−4、3−6と比較しても、負荷特性の低下がさらにより抑制された。これは、初回充電の際に、Co、Mn、Fe元素が、結晶構造中の酸素の分解反応の触媒として働き、特にFe元素が良好な触媒作用を発揮することで、正極活物質層中の空孔形成状態が良化するためと考えられる。
【0076】
<実施例4−1>
正極活物質(LiCoO2)と、正極添加剤(Li5FeO4)とを、質量比で96:4となるように混合して正極を作製したこと以外は実施例1−1と同様に単極式セルを作製し、これを単極式セルD1とした。実施例4−1の正極中の正極活物質層の空孔率を27%とした。
【0077】
<実施例4−2>
[希土類元素が付着した正極活物質の調製]
上記LiCoO2粒子1000質量部を用意し、この粒子を3000質量部の純水に添加し攪拌して、LiCoO2が分散した懸濁液を調製した。次に、この懸濁液に、硝酸エルビウム5水和物[Er(NO33・5H2O]1.05質量部が200質量部の純水に溶解された溶液を加えた。この際、LiCoO2を分散した溶液のpHを9に調整するために、10質量%の硝酸水溶液、或いは、10質量%の水酸化ナトリウム水溶液を適宜加えた。次いで、上記硝酸エルビウム5水和物溶液の添加終了後に、吸引濾過し、更に水洗を行った後、得られた粉末を120℃で乾燥し、上記LiCoO2の表面の一部に水酸化エルビウム化合物が固着したものを得た。その後、得られた粉末を300℃で5時間空気
中にて熱処理した。このように300℃で熱処理すると、全部或いは大部分の水酸化エルビウムがオキシ水酸化エルビウムに変化するので、正極活物質粒子の表面の一部にオキシ水酸化エルビウムが固着した状態となる。但し、一部は水酸化エルビウムの状態で残存する場合があるので、正極活物質粒子の表面の一部には水酸化エルビウムが固着されている場合もある。得られた正極活物質について、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察したところ、正極活物質の表面の一部に、平均粒子径100nm以下のエルビウム化合物が固着していることが認められた。また、エルビウム化合物の固着量をICPにより測定したと
ころ、エルビウム元素換算で、LiCoO2に対して0.06質量%であった。この得られた正極活物質のBET値を測定すると0.60m2/gであった。以下、このようにして得られた正極活物質を(コートLCO)と称する。
【0078】
正極活物質として、上記のように得られたコートLCOを用い、正極活物質(コートLCO)と、正極添加剤(Li5FeO4)とを、質量比で96:4となるように混合して正極を作製したこと以外は実施例1−1と同様に単極式セルを作製し、これを単極式セルD2とした。実施例4−2の正極中の正極活物質層の空孔率を26%とした。
【0079】
<実施例4−3>
[正極活物質としてのNCM333の調製]
Li2CO3と、Ni1/3Co1/3Mn1/3(OH)2で表される共沈水酸化物を、Liと遷移金属全体のモル比が1.08:1になるように石川式らいかい乳鉢にて混合した後、空気雰囲気中にて950℃で20時間熱処理後に粉砕することにより、平均二次粒子径が約12μmのLi1.04Ni0.32Co0.32Mn0.322(NCM333と称する)を得た。
【0080】
正極活物質として、上記のように得られたNCM333を用い、正極活物質(NCM333)と、正極添加剤(Li5FeO4)とを、質量比で96:4となるように混合して正極を作製したこと以外は実施例1と同様に単極式セルを作製し、これを単極式セルD3とした。実施例4−3の正極中の正極活物質層の空孔率を23%とした。
【0081】
<実施例4−4>
[正極活物質としてのNCM523の調製]
Li2CO3と、Ni0.5Co0.2Mn0.3(OH)2で表される共沈水酸化物を、Liと遷移金属全体のモル比が1.08:1になるように石川式らいかい乳鉢にて混合した後、空気雰囲気中にて950℃で20時間熱処理後に粉砕することにより、平均二次粒子径が約12μmのLi1.04Ni0.5Co0.2Mn0.32(NCM523と称する)を得た。
【0082】
正極活物質として、上記のように得られたNCM523を用い、正極活物質(NCM523)と、正極添加剤(Li5FeO4)とを、質量比で96:4となるように混合して正極を作製したこと以外は実施例1−1と同様に単極式セルを作製し、単極式セルD4とした。実施例4−4の正極中の正極活物質層の空孔率を25%とした。
【0083】
<実施例4−5>
[正極活物質としてのNCAの調製]
LiOHと、Ni0.8Co0.17Al0.03(OH)2で表される共沈水酸化物を、Liと遷移金属全体のモル比が1.08:1になるように石川式らいかい乳鉢にて混合した後、酸素雰囲気中にて800℃で20時間熱処理後に粉砕することにより、平均二次粒子径が約12μmのLi1.04Ni0.8Co0.17Al0.032(NCAと称する)を得た。
【0084】
正極活物質として、上記のように得られたNCAを用い、正極活物質(NCA)と、正極添加剤(Li5FeO4)とを、質量比で96:4となるように混合して正極を作製したこと以外は実施例1−1と同様に単極式セルを作製し、これを単極式セルD5とした。実施例4−5の正極中の正極活物質層の空孔率を24%とした。
【0085】
<比較例4−1>
正極添加剤を添加せず、正極活物質(LiCoO2)のみを用いたこと以外は実施例1−1と同様に単極式セルを作製し、これを単極式セルD6とした。比較例4−1の正極中の正極活物質層の空孔率を27%とした。
【0086】
<比較例4−2>
正極添加剤を添加せず、正極活物質(NCM333)のみを用いて、正極を作製したこと以外は、実施例1−1と同様に単極式セルを作製し、これを単極式セルD7とした。比較例4−2の正極中の正極活物質層の空孔率を27%とした。
【0087】
<比較例4−3>
正極添加剤を添加せず、正極活物質(NCM523)のみを用いて、正極を作製したこと以外は、実施例1−1と同様に単極式セルを作製し、これを単極式セルD8とした。比較例4−3の正極中の正極活物質層の空孔率を24%とした。
【0088】
<比較例4−4>
正極添加剤を添加せず、正極活物質(NCA)のみを用いて、正極を作製したこと以外は、実施例1−1と同様に単極式セルを作製し、これを単極式セルD9とした。比較例4−4の正極中の正極活物質層の空孔率を28%とした。
【0089】
単極式セルD1〜D9の充放電を単極式セルA1と同様に行い、充電容量(mAh/cc)及び負荷特性(%)を算出した。充放電後、単極式セルD1〜D9を分解し、正極を取り出して、正極活物質層の空孔率を測定した。その結果、実施例4−1及び比較例4−4の正極活物質層の空孔率は29%であり、実施例4−2、4−4、比較例4−1、4−2の正極活物質層の空孔率は28%であり、実施例4−3の正極活物質層の空孔率は25%であり、比較例4−3の正極活物質層の空孔率は26%であり、実施例4−5の正極活物質層の空孔率は27%であった。
【0090】
表4に、実施例4−1〜4−5及び比較例4−1〜4−4の正極活物質及び正極添加剤の組成、正極活物質に対する正極添加剤の混合比率、正極活物質層の空孔率、充電容量及び負荷特性(2.0It)の結果をまとめた。
【0091】
【表4】
【0092】
表4の結果から分かるように、正極活物質層の正極添加剤として、初回充電時に4.2V(vs.Li/Li+)以下でガス発生するLi含有化合物を用いた実施例4−1〜4−5は、上記Li含有化合物を添加してない比較例4−1〜4−4と比較して、負荷特性の低下が抑制された。また、正極活物質層の空孔率が30%以下である実施例4−1〜4−5は、いずれも高い充電容量が得られた。
【0093】
また、実施例4−1〜4−5の結果から分かるように、種々の正極活物質を用いても、同様に負荷特性の低下が抑制されたが、特に、正極活物質に希土類元素を付着させた実施例4−2は、正極活物質に希土類元素を付着させていない実施例4−1、4−3〜4−5と比較して、負荷特性の低下がより抑制された。これは、正極活物質の表面上の希土類元素の触媒作用により、初回充電時のLi含有化合物の分解反応が特に正極活物質表面で促進され、正極活物質層中の空孔形成状態が良化し、活物質表面に効果的に電解液が供給されるためと考えられる。
【符号の説明】
【0094】
1 負極、2 正極、3 セパレータ、4 電池ケース、5 封口板、6 上部絶縁板、7 下部絶縁板、8 正極リード、9 負極リード、10 正極端子、30 非水電解質二次電池。
図1