(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フィルム補助押圧治具のフィルム押圧部は、前記フィルム補助治具を使用せずに前記フィルムを一または複数の物品表面にラミネートする際に当該フィルムの浮き上がりが生じる領域に応じた形状と配置を備える、請求項1に記載のフィルム成型装置。
加熱手段を備えた真空または加圧状態に保持可能な第1チャンバーと、前記第1チャンバーに対向して、接合または離間可能に配置され、物品を載置する稼動可能な載置台を備えた、真空または加圧状態に保持可能な第2チャンバーと、前記第1チャンバーと前記第2チャンバー間に配置され、フィルムを保持する枠状のフィルム保持部材とを有し、前記載置台は、前記物品を前記第1チャンバーの底部を超える位置に移動させることができる、フィルム成型装置に対して取り付ける、フィルム補助押圧治具であって、
前記フィルム補助押圧治具は、前記第1チャンバーの底部もしくは、フィルム保持部材に取り外し、交換可能に取り付けられ、前記載置台に複数の物品が載置される場合に、各物品の間隙領域の物品に接しない位置にフィルム押圧部が配置され、前記フィルムを前記物品表面にラミネートする際に、当該フィルムの浮き上がりを抑制するフィルム押圧部を持つフィルム補助押圧治具。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という)に係るフィルム成型装置の概念的断面図を
図1(a)および
図1(b)に示す。
図1(a)は、物品の設置時、
図1(b)は、フィルムを物品にラミネートした際のフィルム成型装置の状態を示す。
【0016】
同図に示すように、本実施形態のフィルム成型装置100は、真空または大気圧以上の加圧状態に保持可能な第1チャンバー10と、第2チャンバー20とを有する。第1チャンバー10と第2チャンバー20とは対向して配置されており、少なくともいずれかのチャンバーは外部の駆動装置により移動し、両チャンバーは、接合配置し閉塞状態とすることができるとともに、両チャンバーを引き離し開放状態とすることもできる。なお、第1チャンバー10と第2チャンバー20の配置方向に限定はない。例えば、
図1(a)に示すように、上下に配置される場合のみならず、左右に配置されてもよい。
【0017】
第1チャンバー10と第2チャンバー20との間には、枠状のフィルム保持部材30が配置され、物品300にラミネートされるフィルム200はこれにより保持される。
【0018】
第1チャンバー10内にはフィルム200を加熱する加熱手段50が備えられており、第2チャンバー20内には、物品300を載置する載置台60が備えられている。載置台60は、第1チャンバー10のある方向に稼動し、物品を押し上げることができる。物品300は、必要に応じて、その形状に応じて設計された台座70の上に固定され、台座70とともに載置台60上に載置される。
【0019】
ここで、本実施形態のフィルム成型装置100の主たる特徴のひとつは、フィルム補助押圧治具40が取り付けられている点である。フィルム補助押圧治具40は、第1チャンバー10の底部に、またはフィルム保持部材30に一体として、あるいは解除可能に固定することができる。このフィルム補助押圧治具40は、フィルム200を物品300のラミネートする際に、フィルム200を部分的に押圧するフィルム押圧部を持ち、フィルムの浮き上がりを抑制する。
【0020】
なお、「フィルムの浮き上がり」とは、フィルムを物品にラミネートした際に、フィルムが物品の表面、あるいは台座の形状に十分に追従できず、物品表面から浮いている状態をいう。多くの場合は、物品とその周囲の台座や載置台上にひれ状の浮き上がりが生じるため、本明細書では「ひれの発生」と呼ぶ場合もある。
【0021】
図1(a)に示すように、第2チャンバー20内の載置台60に、複数の物品300が載置される場合、フィルム補助押圧治具40のフィルム押圧部は、各物品300の間隙部に応じた位置に配置できる。フィルム補助押圧治具40は、シート状のフィルム200を押圧するために十分な剛性を有する部材であればよく、その形状に特に限定はない。フィルム200がラミネートされる物品300の大きさ、形状、数、隣接物品との間隔、あるいはラミネートするフィルムの大きさ、チャンバーの大きさ等の種々の条件に基づき生じるフィルムの浮き上がり状態に応じた形状に設定される。
【0022】
フィルム補助押圧治具40を使用することにより、フィルムの浮き上がりを抑制できるため、より均質で、物品の表面形状への追従性の高いフィルムラミネートが可能になる。
【0023】
また、一般に、複数の物品を同一チャンバー内に配置する場合は、物品間距離が近接していると、フィルムの追従性が悪化するため、浮き上がりが生じやすくなるが、フィルム補助押圧治具40を使用することにより、物品300の配置間隔を狭めることができる。より多くの物品をチャンバー内に設置できるため、生産性を上げることができる。
【0024】
フィルム補助押圧治具40のフィルム200と接する面に粘着剤層を形成していてもよい。この場合は、フィルム200は、粘着剤層により、フィルム補助押圧治具に接着支持され、自重による中央部の垂れ下がりを抑制できる。
【0025】
なお、フィルム補助押圧治具を除くフィルム成型装置としては、市販の一般的な真空成型装置を使用することができる。例えば、布施真空株式会社製の真空成型機等を例示できる。フィルム補助押圧治具は、これらの真空成型装置の第1チャンバーの底部に設けられている開口部を有するフレーム部材に機械的に、あるいは接着剤等を用いて取り付けることができる。その取り付け方に限定はない。使用する物品ごとに、適したフィルム補助押圧治具を取り替えられるよう、取り外し可能に設置することが望ましい。
【0026】
次に、
図2(a)〜
図3(b)に示す装置の概略斜視図を参照して、本実施形態のフィルム成型装置を用いたフィルム成型プロセスについて説明する。なお、ここでは、軸状のフィルム補助治具41を使用した場合を例示するとともに、自動車内装部品を想定した仮想的な物品310にフィルムラミネートを行う場合について例示する。
【0027】
まず、
図2(a)に示すように、フィルム成型装置110の第1チャンバーおよび第2チャンバーを大気圧に開放した状態で、ラミネートを行う対象となる物品310を第2チャンバー21内の載置台61上に設置するとともに、物品310にラミネートするシート状のフィルム210をフィルム保持部材31に設置する。
【0028】
一方、フィルム補助押圧治具41を第1チャンバー11の開口部を有する枠状の底部に設置する。例えば、開口部のほぼ中央を二分するように、フィルム補助押圧治具41の軸を配置する。この配置は、2つの物品310の間隙のほぼ中央に相当する。
【0029】
図2(a)〜
図3(b)において、載置台61は、第2チャンバー底面全体を載置台61とする例を示しているが、その形状や大きさは特に限定されない。物品310は、載置台61の上に直接載置されてもよいが、必要に応じて、物品310の形状に応じて用意された台座(図示しない)の上に固定してもよい。ここでは、2つの物品310を載置台61に配置しているが、物品の数は特に限定されない。
【0030】
また、ここでフィルム保持部材31に保持されるフィルム210としては、後述するように、少なくとも、加熱されることで150%〜200%、あるいは300%の伸張が可能なものを用いることが好ましい。
【0031】
次に、
図2(b)に示すように、第2チャンバー21全体を外部の駆動装置(図示しない)により上方に移動させ、フィルム210を介して、上下の第1チャンバー11と第2チャンバー22とを閉鎖し、それぞれのチャンバーを別個に真空引きし、各チャンバーの内部を真空(例えば、1kPa以下)にする。また、第1チャンバー21の天井部に設けられた加熱手段51をオンにし、フィルム210を加熱する。なお、加熱手段51は、特に限定されないが、真空中でも効率よく加熱できるように、輻射熱を利用できる加熱手段が好ましく、例えば赤外線ランプヒータ等を使用できる。
【0032】
次に、
図3(a)に示すように、フィルム210を加熱しながら、第2チャンバー21の載置台61を徐々に上方に押し上げ、物品210が、第1チャンバー底面の開口部から物品のほぼ全体が第1チャンバーの底面を越える位置まで載置台61を移動させる。
【0033】
フィルム210は、加熱手段51によって加熱され、延伸可能な状態とされる。フィルムの加熱温度に限定はなく、使用するフィルム、必要な延伸に応じて、例えば約80℃以上、200℃以下、あるいは90℃以上、180℃以下、例えば約120℃に調整できる。延伸可能となったフィルムは、物品210が押し上げられる際の移動に伴い、物品の表面に接し、引き伸ばされるとともに、2つの物品の丁度間隙部に配された軸状のフィルム補助押圧治具41により押圧される。
【0034】
この状態で、第1チャンバー内のみを適当な圧力(例えば、大気圧〜2MPa)に加圧する。第1チャンバー11内と第2チャンバー内の圧力差によりフィルム210は物品210の露出表面の凹凸形状に追従して密着し、物品表面をラミネートする。一方、軸状のフィルム補助押圧治具41により、2つの物品の間隙にあるフィルムが押圧されるため、間隙部のフィルムの浮き上がりが抑制される。
【0035】
この後、
図3(b)に示すように、第1チャンバー11内と第2チャンバー21内を再び開放し、大気圧に戻して、フィルム210がラミネートされた物品310を外に取り出せる状態にする。この後、物品310の表面に密着したフィルム310のエッジ等の不要部分をトリミングする。
【0036】
図4および
図5を参照し、フィルム補助押圧治具の効果についてより詳細に説明する。
図4(a)は、本実施形態に係るフィルム補助押圧治具41を用いて、上述した本実施形態のフィルム成型装置を用いたフィルムラミネートプロセスにより形成された2つの物品310へのフィルムのラミネート状態をシミュレーションにより可視化した斜視図であり、
図4(b)は、フィルム補助押圧治具41を用いないで、それ以外はほぼ同じ条件下でフィルムラミネートを行った場合のフィルムのラミネート状態をシミュレーションにより可視化した斜視図である。
【0037】
なお、このシミュレーションにおいて使用した条件は、以下のものである。
1)物品の条件: 車両用のドアパーツを2つ用いた。後述する実施例の条件とほぼ同じ物品を用いた、物品の最大幅約70mm、最大長さ約205mm、高さ約33mmである、台座に設置した場合の最大高さ70mmとした。2つのドアパーツは、物品の重心を通る長軸が平行になるように、同一向きに載置台に配置することとし、ドアパーツ間距離の最小値が25mmになる条件を用いた。
2)フィルムの条件:フィルム面積を260mm×260mm、ラミネート時のフィルム温度を120℃とした。フィルムの熱膨張係数を10
−5/℃とし、ラミネート時のフィルム温度における弾性率を19.4MPa、ポアソン比を0.45、降伏応力を0.53MPaとする条件を用いた。
3)フィルム補助押圧治具の条件: 直径2mmの断面を持つ軸状部材を、2つの物品間の間隙のほぼ中央に配置する条件とした。
シミュレーション結果によれば、フィルム補助押圧治具41を用いない場合は、特に2つの物品310の端部で、フィルムの浮き上がり現象が生じやすく、
図4(b)の破線の円内に示すように、物品間に「ひれ」のようなフィルムの浮き上がりが最終的に生じてしまう。
【0038】
一方、
図4(a)に示すように、本実施形態に係るフィルム補助押圧治具41を用いて、上述した本実施形態にかかるフィルム成型装置を用いて物品へのフィルムラミネートを行った場合のシミュレーション結果によれば、2つの物品310間距離が25mmの場合においてもフィルムの浮き上がりによる「ひれの発生」がほとんど生じないことが確認できる。
【0039】
このように本実施形態のフィルム補助押圧治具41を用いれば、複数の物品にラミネートする際に、物品間に発生しやすいフィルムの浮き上がりを効果的に抑制できるため、配置する物品間距離を狭めることができる。従って、ひとつのチャンバーに、より多くの物品を配置することができるため、フィルムラミネーションの生産性を大幅に改善できる。
【0040】
例えば、
図5に示すように、4つの物品310a〜310dを均等に載置台上に配列する場合において、物品の重心を通る長軸方向のピッチDlと短軸方向のピッチDsは、本実施形態のフィルム補助押圧治具41を用いない場合、フィルムの浮き上がりの発生を抑制するには、少なくとも物品間ピッチDlが106mm以上、物品間ピッチDsが253mm以上必要である。これに対し、軸状のフィルム補助押圧治具41を長軸方向、短軸方向それぞれの物品間隙のほぼ中央に配置した場合は、フィルムの浮き上がりの発生を抑制できる物品間ピッチDlを91mm、物品間ピッチDsを223mmまで狭くできる。すなわち、たとえば
図5に示すような4つの物品を配置する場合の配置効率を24%上げることが可能になる。ひとつのチャンバー内に多数の物品を載置する場合は、フィルム補助押圧治具41を用いることでより多くの物品を配置できる。
【0041】
なお、ひとつのチャンバー内に配置する物品の数をさらに増やした場合も、各物品間隙のほぼ中央にフィルム補助押圧治具を配置することで、フィルムの浮き上がりを抑制し、個々の物品表面へのフィルムの追従性を改善するとともに、個々の物品へのラミネート状態を均質化することができる。
【0042】
なお、物品を高さ(H)、幅(W)、長さ(L)の直方体をとし、2つの同じ形状の物品が、物品間距離(D)で、長軸方向に平行に配置された場合のシミュレーションモデルにおいて、物品の高さ(H)に対する物品間距離(D)の比率(D/H)が短いほど、および物品の高さ(H)に対する物品の長さ(L)の比率(L/H)が短いほど、フィルムの浮き上がりによるひれの発生は顕著になるため、フィルム補助押圧治具を採用することによるひれの発生の抑制効果が高まる。
【0043】
さらに、フィルム補助押圧治具は、フィルムに接する面に、粘着剤層を備え、フィルムを粘着剤層で保持してもよい。物品表面のラミネートを行う際、フィルムは加熱軟化されるため、中央部のフィルムが自重で垂れ下がる場合がある。特に、生産性を上げるため、チャンバー面積を広げると、フィルム中央部で自重による垂れ下がりが顕著になり、フィルム中央部と周辺部とでフィルムのラミネート条件の違いが大きくなる。場所によるラミネート条件の違いは、フィルムの延伸性にも違いを生じるため、装飾フィルムをラミネートする場合は、場所による均一な装飾が得られ難くなる。フィルム補助押圧治具に備えた粘着剤層は、フィルムを保持し、その垂れ下がりを防止し、ラミネート状態の均質化を図ることができる。
【0044】
なお、この場合に用いる粘着剤層は、特に限定されないが、アクリル系、ポリエステル系、ウレタン系、ゴム系、シリコーン系粘着剤等の汎用の粘着剤を挙げることができる。このうち、ラミネートプロセスの加熱条件、120℃以上、150℃以上、あるいは180℃以上の温度に耐える耐熱性を持ったものが好ましい。例えば、アクリル系粘着剤を使用することが好ましい。粘着剤層は、種々のコーティング法により形成することもできるが、市販の両面テープ型の粘着剤層を使用し、フィルム補助押圧治具の押圧面に貼り付けることもできる。
【0045】
さらに、個々のフィルム補助押圧治具に温度センサーを備えてもよい。フィルム補助押圧治具はフィルムに直接接触するため、フィルム温度をより正確に測定し、フィルムの加熱条件をより適確にコントロールすることができる。
【0046】
図3、
図4では、フィルム補助押圧治具として軸状のフィルム押圧部を有するものを例示したが、フィルム補助押圧治具の形状は、使用する物品の形状、数、配置等に応じて、フィルムの浮き上がりを効果的に抑制できるものであれば、その形状は限定されない。また、物品が複数の場合のみならず、単数の場合であっても、効果的に使用することができる。したがって、フィルム補助押圧治具は、個々のフィルムラミネート条件に合わせて、設計することが好ましい。
【0047】
図6は、フィルム補助押圧治具の形状や配置の設計プロセスの一例を示すフローチャートである。シミュレーションにより、まず、フィルム補助押圧治具を用いない状態でのフィルムラミネート状態を把握し、フィルムの浮き上がりの発生しやすい領域を特定する。このシミュレーション結果を基礎に、フィルム補助押圧治具の形状を決定することができる。
【0048】
この場合のシミュレーションの計算手法としては、例えば、有限要素法、より詳しくは、有限要素法の手法のひとつである陽解法を用いることができる。例えば、市販のシミュレーションソフトウェアであるSIMULIA社により販売されている有限要素解析を行うプロプライエタリ・ソフトウェアであるAbaqusを用いてシミュレーションを行うことができる。
【0049】
図6に示す以下の手順によって具体的なシミュレーション行う。まず、シミュレーションに必要なフィルムの物性値データを取得する(1010)。これらの物性値としては、引張り試験や粘弾性試験に基づいて得られた、フィルムラミネート条件でのフィルムの延伸性データが挙げられる。
【0050】
次に、フィルムをラミネートする物品の立体形状データを取得する(1020)。このデータは、通常、物品の3DのCDAデータとして取得される。なお、物品が複雑な形状の小さな部品(小さな穴や突起など)の場合は、シミュレーション結果にほとんど影響を及ぼさないが、計算を複雑化させるため、物品形状データを簡略化してもよい。その他にも、物品が多くの部品から構成されている場合、これらを連結して1つの一体的な物品として扱ってもよい。
【0051】
続いて、物品を固定するための台座の設計を行う(1030)。物品の形状に合わせた形で、台座の設計を行う。台座の設計は、物品の形状、大きさ、高さ、物品の固定角度、物品の個数、物品との位置関係、および、物品の形状以外の台座独自の凹凸形状等のデータに基づき行う。
【0052】
次に、フィルムラミネートプロセス条件の取得を行う(1040)。ここで、プロセス条件には、ラミネートするフィルムのサイズ(真空成型装置のフィルム保持部材の枠サイズ)、フィルムラミネート時のフィルムの加熱温度、第2チャンバーの載置台の上昇量などが含まれる。
【0053】
上述した取得データを基に、物品にラミネートされたフィルムの状態をシミュレーションする(1050)。
【0054】
シミュレーション結果より、ラミネートされたフィルムの物品表面形状の追従性について評価を行う(1060)。具体的には、ラミネートされたフィルムの伸張が破断の可能性のある延伸度を超えていないか、極端な延伸が一部に局在し、破断の可能性がないか等を評価する。評価の結果、良好なフィルムラミネートが行えるようであれば、設計は終了する(1100)が、フィルムラミネーションの評価結果により、台座の形状を変更する必要性があれば、台座形状の設計を見直す(1040)。
【0055】
台座形状の設計が終了したら、これらのデータを基に、再度フィルムラミネートのシミュレーションを行い(1050)、フィルムラミネーションの追従性について再評価を行う(1060)。次に、この結果に基づき、台座の設計変更のみでは対応できないフィルムの浮き上がりを抑制するため、フィルム補助押圧治具の設計を行う(1070)。即ち、フィルム補助押圧治具の形状、大きさ、配置場所等の設計を行う。
【0056】
設計したフィルム補助押圧治具のデータを加え、再度、フィルムラミネート結果のシミュレーションを行う(1080)。このシミュレーション結果から、ラミネートされたフィルムの追従性について評価を行い(1090)、十分なフィルム追従性を得られない場合は、再度フィルム補助押圧治具の設計を行う。評価(1090)とフィルム補助押圧治具の設計(1070)を必要に応じて繰り返し、フィルム補助押圧治具の形状を設定する。さらに、フィルムラミネーションの結果のシミュレーション(1080)と評価(1090)を経て、良好なフィルム追従性が確認できれば、設計は終了する(1100)。
【0057】
図7および
図8に、別の物品例と、これに応じたフィルム補助押圧治具を用いた場合のフィルムラミネーションのシミュレーション結果の例を示す。
図7(a)は、例えばリング形状の一部が欠けた形状を持つ単一の物品320にフィルムのラミネートを行った場合を想定したフィルムラミネートのシミュレーション結果である。リング形状の一部が欠けた物品部分において、フィルムの浮き上がりが生じていることがわかる。この物品に対するフィルム補助押圧治具としては、欠けた部分のみに対応して、フィルム押圧部42aを有する三次元形状を持つフィルム補助押圧治具42を使用することができる。
図7(b)は、フィルム補助押圧治具42を使用した場合のフィルムラミネーションのシミュレーション結果を示す。フィルムの浮き上がりが効果的に抑制できていることがわかる。
【0058】
このように、単一の物品の場合においてもその形状により部分的にフィルムの浮き上がりが生じる場合は、その部分のみに対応したフィルム押圧部42aを持つフィルム補助押圧治具を使用することができる。また、このようにフィルム補助押圧治具42の形状は、物品の形状に応じた種々の形状を採用できる。
【0059】
図8(a)は、2つのL字状の物品を回転対称に配置した場合のフィルムラミネーションのシミュレーション結果であり、
図8(b)は、2つの物品間の間隙部の形状に応じたクランプ形状を持つフィルム補助押圧治具43を採用した場合のフィルムラミネートのシミュレーション結果である。物品間隙部のフィルムの浮き上がりが効果的に抑制できることがわかる。
【0060】
上述の例では、物品の形状や物品の間隙形状、すなわち物品の配置にあわせて軸状部材を加工したフィルム補助押圧治具を使用しているが、軸状部材に限らず、帯状部材や、間隙の幅に合わせて場所によって幅のサイズや形状を変化させたものを使用することができる。また、三次元に軸状または帯状のものを加工したものであってもよい。
【0061】
フィルム補助押圧治具の材質は、フィルムラミネート時の加熱条件である約80℃以上、200℃以下、あるいは90℃以上、180℃以下の温度で変形しない金属、合金、セラミックスや耐熱性ブラスチック剤等の剛性素材であれば、いずれも使用できる。
【0062】
本発明の実施形態で使用する物品およびフィルムについて、さらに説明する。
【0063】
フィルムのラミネートを行う物品としては、種々のものを使用できる。代表的には、車の内装部品、外装部品、あるいは二輪車の装飾部品等を使用できる。具体的に車の内装部品としては、ドアグリップ、パワーウィンドウスイッチパネル、ガーニッシュ、ステアリング、シフトパネル、コンソールボックス、ドリンクホルダー、センターコンソール、メーターパネル、センターガーニッシュ、ドアガーニッシュ、ダッシュボード、スカッフプレート、ピラー等が挙げられる。また、車の外装部品としては、ドアハンドル、フロントグリル、ピラー、バックドア、ピラーガーニッシュ、ランプベゼル、モール、フューエルリッド、エンブレム、バンパー、ドアミラーカバーが挙げられる。さらに二輪車の装飾部品としては、フェンダー、シュラウド、タンク、タンクカバー、サイドカバー、ミドルカウル、サイドカウル、アッパーカウル、フレームカバー、ラジエターカバー、フロントカバー、マフラーカバー、サイドパネル等を挙げることができる。
【0064】
さらに、その他の物品としては、家電製品や電子部品、家具が挙げられる。さらに具体的に例示すれば、冷蔵庫の化粧版、テレビのボディ、ノートPCの化粧版、携帯電話の加飾パーツ、パーソナルコンピュータのボディ、椅子、机、棚、トイレ便座ふた、ヘルメットに加飾/反射フィルム、プランター、植木鉢、照明用反射フィルム、ランプシェード、スーツケース、楽器等を例示できる。
【0065】
ラミネートに使用するフィルムは、特に限定されないが、ラミネート時の加熱温度に対し耐熱性があるものが使用できる。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)、アクリロニトリル/エチレン-プロピレン-ジエン/スチレン(AES)、ポリウレタン、ポリメタクリル酸メチル等のポリ(メタ)アクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、熱可塑性樹脂の単体、もしくは複合体を挙げることができる。これらの中では、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ABS、AESが、加熱時の伸び、被着体への貼着性を有しつつ、耐候性に優れる。特に、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリプロピレンが、適する。
【0066】
フィルムは、通常、キャスティング成形、押し出し成形などによって成形された単層又は積層のベースフィルムを含み、任意選択的に、ベースフィルム上に印刷層、金属蒸着層、粘着剤層などを含む積層構造を有する積層フィルムを用いてもよい。
【0067】
フィルムのベースフィルムとしては、表面の保護、耐候性、強度、美観などの向上を図る目的で、同種または異種の材質で形成された積層フィルムを使用してもよい。
【0068】
また、装飾目的で、フィルム積層体中に単層または多層の印刷層を含んでもよい。印刷には、スクリーン、グラビア、オフセット、インクジェット、静電塗装などの知られた方法が用いられる。印刷層は、例えば、ベースフィルムと粘着層の間に配置される。
【0069】
フィルムは、装飾性を付与するために、クロム、アルミニウム、チタン、インジウム、スズ、ニッケル、ステンレススチール、銀、金、銅、チタンなどの単独、もしく複数の金属膜の蒸着、および/または粉末状の金属微粒子を含んだコーティングの適用などによる加工が、単層または複層で施されていてもよい。特に、インジウム蒸着膜、粉末状金属微粒子のコーティング層は、フィルムのラミネート時に、白化、金属膜のわれなどが生じにくいため好ましい。金属蒸着層および粉末状金属微粒子含有層の厚みについては、特に制限はなく、例えば数nm以下のものから数十nmまで、デザイン上意図された模様および/又は光線透過率にあわせた厚みにできる。
【0070】
フィルムは、そのほか、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、フィラーなどの添加剤を含むことができる。
【0071】
フィルム全体の厚みは、限定されないが、約200μm以下、さらに約100μm以下であれば、物品の表面形状への追従性を上げることができる。一方、物品保護の観点からは一定の強度を確保するため、フィルムの最低厚みは、約50μm以上、または約80μm以上とすることが好ましい。
【0072】
フィルムは、物品表面に接する面に粘着剤層を含んでもよい。粘着剤層の形成は、コーティング、スプレーなどを用いることができる。粘着剤層の厚さは、フィルムのラミネート後の剥がれ、めくれ、高温下での滲み出しなどが生じなければ、限定されない。例えば約10〜約50μm、さらに別の態様では、約20〜約40μmにできる。
【0073】
物品表面が、表面自由エネルギーが低くて接着が難しいポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン樹脂の場合には、接着を促進するために、粘着層にタッキファイアなどの粘着性付与剤を含んでいてもよい。
【0074】
なお、ラミネートされる物品の表面自由エネルギーを上げて濡れ性を上げ、粘着力を向上させるために、物品表面に、プラズマ処理、コロナ放電処理などを行ってもよい。物品表面が、特にポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂などである場合、接着力の向上に有効である。
【実施例】
【0075】
以下、本発明の実施例について説明する。
<実施例>
フィルム成型装置として、布施真空(株)社製両面真空成形機(型式NGF−0709)を用いた。第2チャンバーの載置台の台座上に2つの物品であるドアパーツを回転対称に、かつ物品重心を通る長軸が互いに平行になるように配置した。ドアパーツの形状は、
図4(a)に示したシミュレーションで用いたものと略同様な形状であり、大きさは、最大幅約70mm、最大長さ約205mm、高さ約33mm、台座に設置した場合の最大高さ70mmであった。2つのドアパーツ間距離が最小幅で25mmになるよう配置した。
【0076】
フィルム補助押圧治具として、断面直径約2mmのワイヤーハンガー用の鉄製ワイヤーを準備した。これを真空成型装置の第1チャンバー底面に取り付けられた260mm×260mmの開口部を持つフレームに、ワイヤーの線が、ほぼ開口部の中心を通るように配置し、両端部のワイヤーを折り曲げ、フレームにワイヤーをくくりつけることで固定した。こうして、ワイヤーを2つのドアパーツの間隙のほぼ中央に対応する位置に配置した。
【0077】
一方、フィルムは、枠状のフィルム保持部材に固定した。フィルム保持部材の開口部はほぼ第1チャンバー底面の開口部とほぼ同じ面積であった。フィルムとしては、以下に示す7層構造の装飾フィルム(住友スリーエム製、ITF1201J)を使用した。各層の種類と厚みは以下のとおりである。なお、ラミネート時には、裏面のライナーを剥離し、物品表面に直接接するアクリル接着剤層(第1層)を露出させて用いた。
【0078】
<使用フィルムの構造>:
第1層:アクリル粘着剤層、40μm厚、
第2層:プライマー層、1μm厚、
第3層:ウレタン層、30μm厚、
第4層:金属蒸着層、1μm厚、
第5層:ウレタン粘着剤層、15μm厚、
第6層:着色透明アクリル層、30μm厚、
第7層:透明アクリル層、30μm厚
【0079】
図3を参照して先に説明した手順で、物品へのフィルムラミネートを行った。すなわち、第1チャンバーと第2チャンバーとを閉鎖し、それぞれのチャンバーを別個に真空引きし、各チャンバーの内部を1kPa以下に設定した後、フィルムを第1チャンバーの天井に取り付けられた近赤外ランプで、約120℃に加熱した。続いて、第2チャンバーの載置台を押し上げるとともに、フィルム補助押圧治具であるワイヤーでフィルムを部分的に押圧した。この後、第1チャンバー内を約2kPaに加圧した。こうして、物品表面にフィルムのラミネートを行った。物品間距離が約25mmと狭いにもかかわらず、フィルム浮き上がり(ひれ)の発生のないフィルムラミネートを行うことができた。
【0080】
<比較例>
比較例として、フィルム補助押圧治具を用いずに真空成型装置を用いてフィルムラミネートを行った。フィルム補助押圧治具を用いない以外の条件は、上述の実施例と同様の条件でフィルムラミネートを行った。ただし、物品間の距離を40mm、45mm、50mm及び55mmとした。物品間距離が40mmの場合、物品間に大きなひれ状のフィルムの浮き上がりが観察され、45mmの場合は、フィルムの浮き上がりの高さは約半分になるものの、やはりひれが残った。物品間距離が50mmの場合もフィルムの浮き上がりが一部に残り、完全なフィルムの追従性は得られなかった。物品間に生じるフィルムの浮き上がりを略完全になくすには、物品間距離を55mmとする必要があった。