(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6121839
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】減酸素装置
(51)【国際特許分類】
B01D 53/22 20060101AFI20170417BHJP
C25B 9/00 20060101ALI20170417BHJP
【FI】
B01D53/22
C25B9/00 A
【請求項の数】9
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-163426(P2013-163426)
(22)【出願日】2013年8月6日
(65)【公開番号】特開2015-29978(P2015-29978A)
(43)【公開日】2015年2月16日
【審査請求日】2016年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】503376518
【氏名又は名称】東芝ライフスタイル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100124707
【弁理士】
【氏名又は名称】夫 世進
(74)【代理人】
【識別番号】100059225
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 璋子
(72)【発明者】
【氏名】及川 巧
(72)【発明者】
【氏名】品川 英司
(72)【発明者】
【氏名】兼坂 尚宏
【審査官】
富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−220051(JP,A)
【文献】
特開2013−067850(JP,A)
【文献】
特開平09−164192(JP,A)
【文献】
特開平06−111827(JP,A)
【文献】
特開2005−074387(JP,A)
【文献】
特開2005−257208(JP,A)
【文献】
特開平09−019621(JP,A)
【文献】
特開平09−287869(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00−71/82
B01D 53/22
C25B 9/00
F25D 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜と、
前記高分子電解質膜の一方の側に設けられたアノードと、
前記高分子電解質膜の他方の側に設けられ、減酸素室へ通じるカソードと、
前記アノードに通電するアノード集電体と、
前記カソードに通電するカソード集電体と、
とを有する減酸素セルと、
前記アノード側に設けられ、前記アノードに水を供給する粉体又は粒体の吸水剤を含む給水体と、
を有し、
前記給水体の前記吸水剤は、坦体に坦持され、
前記坦体に金属が含まれている、
減酸素装置。
【請求項2】
前記坦体が複数組み合わされて、前記坦体の間に空気の流通路が形成されている、
請求項1に記載の減酸素装置。
【請求項3】
前記流通路から流れ出る空気の方向に、前記減酸素セルが設けられている、
請求項2に記載の減酸素装置。
【請求項4】
シート状の前記坦体が、金属箔を含んでいる、
請求項1に記載の減酸素装置。
【請求項5】
前記吸水剤が、シリカゲルである、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の減酸素装置。
【請求項6】
前記坦体は、シート状であって、前記給水体が前記坦体の両面に坦持されている、
請求項1に記載の減酸素装置。
【請求項7】
前記給水体は、シート状の前記坦体が積層されている、
請求項1に記載の減酸素装置。
【請求項8】
空気の流通路が、積層されたシート状の前記坦体の間に形成されている、
請求項7に記載の減酸素装置。
【請求項9】
前記坦体が、紙である、
請求項6に記載の減酸素装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、減酸素装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、CA(Controlled Atmosphere)貯蔵方法には、食品業界で多く用いられているガス置換方法、減圧することで酸素を低減する真空方法、高分子電解質膜を用いてCA貯蔵室の酸素を減少させる高分子電解質方法、酸素吸着剤を用いる吸着方法などがある。
【0003】
ガス置換方法は、窒素や炭酸ガスに代表されるガスを空気に置き換えて貯蔵するもので、食品や野菜の流通過程での鮮度維持のために広く用いられている。
【0004】
真空方法は、食品の酸化を防ぐために酸素を減らす方法として減圧する方法であり、性能が真空度と相関するため貯蔵容器の強度や真空ポンプの能力が必要であり、比較的大きな装置となる。
【0005】
酸素吸着剤を用いた方法もガス置換方法と同様に菓子類などの流通過程で広く用いられているが、吸着剤が吸着破過すると効果が無くなり寿命が短い。
【0006】
高分子電解質膜方法は、アノードで水を電気分解して水素イオンを作り、その水素イオンが高分子電解質膜内を移動してカソードに到達し、減酸素室内の酸素と反応して水を生成することで、酸素を消費する。そのため、圧力変化が少なく減酸素室の強度が余り必要ないというメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−218924号公報
【特許文献2】特開平9−287869号公報
【特許文献3】特開平6−184237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、高分子電解質膜方法においては、アノードへ供給する水に不純物が含まれていると、水中のイオンコンタミ成分が高分子電解質膜の中で反応を起こし、高分子電解質膜の性能を劣化させる。そのため、水は、純水、イオン交換水である必要があり、例えば、水道水をイオン交換して供給しなければならないという問題点があった。
【0009】
また、ユーザが、減酸素装置のタンクに水を補給するためには、このタンクは補給し易い場所に設置する必要があり、減酸素装置の設計上の制限となるという問題点があった。
【0010】
そこで、本発明の実施形態は上記問題点に鑑み、ユーザが水を供給することなく、イオンコンタミ成分のない純水を供給できる減酸素装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施形態の減酸素装置は、高分子電解質膜と、前記高分子電解質膜の一方の側に設けられたアノードと、前記高分子電解質膜の他方の側に設けられ、減酸素室へ通じるカソードと、前記アノードに通電するアノード集電体と、前記カソードに通電するカソード集電体と、とを有する減酸素セルと、前記アノード側に設けられ、前記アノードに水を供給する粉体又は粒体の吸水剤を含む給水体と、を有
し、前記給水体の前記吸水剤は、坦体に坦持され、前記坦体に金属が含まれている、減酸素装置である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態の減酸素装置の拡大縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、一実施形態の減酸素装置10について
図1〜
図6に基づいて説明する。本実施形態の減酸素装置10は、減酸素室12と、高分子電解質膜方法を利用した減酸素セル14を有している。なお、本実施形態の減酸素装置10の使用例としては、例えば、食品の貯蔵庫、家庭用冷蔵庫の内部に減酸素室12を設け、この減酸素室12内部を減酸素する減酸素装置10として用いる。
【0014】
減酸素装置10について、
図1及び
図2に基づいて説明する。
図1は、減酸素装置10の縦断面図であり、
図2は減酸素セル14の分解斜視図である。なお、
図1及び
図2において、各部材の厚みは薄いものであるが、説明を判り易くするために、その厚みを拡大して記載している。
【0015】
高分子電解質膜(以下、単に「電解質膜」という)16が縦方向に設けられ、電解質膜16の後部にはアノード18が設けられ、電解質膜16の前部にはカソード20が設けられている。カソード20は、カーボン触媒とカーボンペーパーを積層したものである。また、アノード18とカソード20には白金の触媒がそれぞれ担持されている。電解質膜16、アノード18及びカソード20がホットプレスなどを用いて一体に接合されている。アノード18の後方にはアノード集電体22が設けられ、カソード20の前方にはカソード集電体24が設けられている。両集電体22,24は、表面に白金メッキを行なったメッシュ状のチタン膜であり、アノード集電体22はアノード18にプラス通電を行い、カソード集電体24はカソード20にマイナス通電を行う。両集電体22,24は電線26,28から通電される。また、両集電体22,24が接触しないようにするために、絶縁体30が両集電体22,24の間に設けられている。この絶縁体30は額縁状であって、電解質膜16とアノード18とカソード20がその内部に収納されている。
【0016】
上記のようにして順番に積層した減酸素セル14を、前後一対の固定部材32と固定部材34によって挟持してネジ50で固定する。
【0017】
まず、カソード20側に取り付けられる固定部材32は、
図2に示すように、直方体を成し、縦方向にスリット状の通気孔36が複数開口している。
図1に示すように、この固定部材32の後部側に減酸素セル14が取り付けられ、前側に減酸素室12が取り付けられる。なお、減酸素室12の後面には、
図1に示すように、通気孔36に通じる開口部38が開口している。
【0018】
次に、アノード18側に取り付けられる固定部材34について説明する。固定部材34は箱型をなし、その内部に収納室43が設けられ、固定部材34の前面には横方向の通気孔40が複数開口し、後面は開口し、この後面には、着脱自在に板状の蓋42が取り付けられる。固定部材34の両側面には縦方向に延びた通気孔44がそれぞれ複数開口している。
【0019】
固定部材34内の収納室43の底部前方には、板状のヒータ46が配され、また、底部にはヒータ46と接するように直方体の給水体48が載置されている。給水体48については後から詳しく説明する。
【0020】
減酸素室12、固定部材32、減酸素セル14、箱型の固定部材34は複数のネジ50によって互いに固定される。
【0021】
次に、給水体48の構造について
図1〜
図4に基づいて説明する。
【0022】
給水体48は、
図3に示すように、段ボール原紙と同様に、シート状のライナー52と中芯54とライナー52とを順番に積層して直方体をなしている。
図4の拡大図に示すように、2枚のシート状のライナー52,52の間に、断面波状に形成されたシート状の中芯54が挟持されて固定されている。
【0023】
図4に示すように、中芯54は三層構造であり、金属箔(例えばアルミ箔)56の両側を紙58,58でラミネートしている。中芯54の両側面の紙58,58には、粉体又は粒体の吸水剤64が全面に担持されている。吸水剤64としては、例えば粉体のA型のシリカゲルを用いる。この担持方法としては、例えば、中芯54の紙58,58の全面に糊を塗布し、その上に粉体又は粒体の吸水剤64を全面に吹き付ける。
【0024】
図4に示すように、ライナー52も同様に三層構造であり、金属箔60の両側を紙62,62でラミネートしている。ライナー52の両側面の紙62,62にも粉体又は粒体の吸水剤64が全面に担持されている。
図3に示すように、坦持方法としては、例えば、ライナー52の紙62,62の全面に糊を塗布し、その上に粉体又は粒体の吸水剤64を全面に吹き付ける。
【0025】
これにより、本実施形態では給水体48のライナー52と中芯54が、粉体又は粒体の吸水剤64の担体となる。このようにして形成された直方体状の給水体48が、
図1と
図2に示すように、固定部材34内の収納室43の底部に載置され、この載置された両側に通気孔44,44がある。そして、
図1に示すように、給水体48を設置後、蓋62を取り付ける。
【0026】
次に、減酸素装置10の動作状態について説明する。
図1、
図5に示すように、給水体48から水蒸気が通気孔40と通りアノード18に供給される。一方、
図1に示すように、減酸素室102の空気が、開口部38、固定部材32の通気孔36を経て減酸素セル14に供給され、両集電体22,24が通電されているため、流入した空気から減酸素が行われ、減酸素室102内部の酸素が減少する。アノード18とカソード20では次の式(1)と式(2)のような減酸素反応が行なわれる。
【0027】
アノード・・・2H
2O→O
2+4H
++4e
− ・・・(1)
カソード・・・O
2+4H
++4e
−→2H
2O ・・・(2)
この式(1)と式(2)の減酸素反応式を説明すると、給水体48から水蒸気が供給され、アノード18で電気分解してプロトン(水素イオン)を作り、そのプロトンが電解質膜16内を移動してカソード20に到達し、減酸素室12内部の酸素と反応して水を生成し、酸素を消費する。これにより、減酸素室12内部において減酸素が行われる。
【0028】
次に、給水体48がどのように水蒸気を供給するかについて
図3〜
図6に基づいて説明する。固定部材34の一側面にある通気孔44から空気が流入し、給水体48内部の空気の流通路66を通過し、その際に吸水剤64が空気から吸水を行い、かつ、水の放出を行う。そして、空気は固定部材34の他方の側面にある通気孔44から流れ出る。一方、水蒸気は、給水体48の両側部から上方に流れ、通気孔40からアノード18に至り、水蒸気を供給する。
【0029】
上記したように、粉体のA型のシリカゲルからなる吸水剤64が、空気中の水分を吸水して、放出する。このときに、吸水剤64は、空気中の水分から水を給水するためにイオンコンタミ成分のない純水を放出できる。
【0030】
また、粉体又は粒体の吸水剤64を用いるのは、その表面積が大きいほど吸水量と吸水速度が早くなるためである。
図6のグラフに示すように、吸水剤64の直径が5〜10mmであると、吸水量が2時間で10wt%、5時間で16wt%である。これに対し、より直径が小さい粉体のシリカゲル(粒子径が、数100μm〜1mm)であると、吸水量が2時間で18wt%、5時間で34wt%となり、ほぼ2倍の吸水量となる。
【0031】
また、
図3に示すように、吸水剤64をライナー52や中芯54などのシート状の担体に担持していることにより、給水体48を自由な形状で、その収納する部分に応じて作ることができる。そのため、給水体48は、直方体に限らず、他の形状に形成できる。
【0032】
また、
図3に示すように、シート状の担体の全面に粉体又は粒体の吸水剤64を担持しているため、表面積を増やすことができ、空気の流通がより可能となり、水の吸水及び放出を促進できる。
【0033】
また、
図3と
図4に示すように、本実施形態では、段ボールの原紙のように、ライナー52と波状の中芯54との間に空気が流れる流通路66が形成されている。これにより、給水体48の内部まで空気が入り込み、ライナー52と中芯54の全面に坦持されている吸水剤64全体を有効利用できる。
【0034】
また、
図4に示すように、ライナー52及び中芯54には、その内部に金属箔56,60が内蔵されているため、減酸素セル14の発熱及びヒータ46からの熱を給水体48全体に伝え易く、給水体48からの水の放出をより促進できる。
【0035】
また、紙58と金属箔56の三層構造のライナー52と、紙62と金属箔60の三層構造の中芯54であるため、シート状の金属箔56,60によってライナー52と中芯54全体に熱を伝えることができ、しかも金属箔56,60は表面に露出しないため、吸水剤64を担持させる工程が簡単となる。
【0036】
吸水剤64として粉体のA型シリカゲルを用いているため、材料が安価であり、低温で水分を放出でき、放出時に使用するエネルギーを少なくできる。なお、A型シリカゲルとは、JISによって規格されたものである。
【0037】
本実施形態によれば、減酸素装置10のアノード18側へイオンコンタメのない純水を供給でき、また、ユーザが水をタンクなどに供給する必要もない。
【0038】
また、給水体48は、様々な形状に形成できるため、減酸素セル14を作る場合に設計上の制限となることもない。
【0039】
また、粉体又は粒体の吸水剤64であるため、吸水をより促進できる。
【0040】
また、粉体又は粒体の吸水剤64をシート状の担体(ライナー52、中芯54)に担持させるだけであるため、給水体48を容易に形成できる。
【0041】
また、シート状の担体(ライナー52、中芯54)に粉体又は粒体の吸水剤64を担持しているので、表面積を増やすことができ、空気の流通がより可能となり、水の吸水及び放出を促進できる。
【0042】
また、給水体48を、ライナー52と中芯54を積層した形状にするため、空気の流通路66を形成でき、給水体48の内部まで空気が入り込み、ライナー52と中芯54の全面に坦持されている吸水剤64全体を有効利用できる。
【0043】
また、シート状の担体(ライナー52、中芯54)内部には、金属箔56と金属箔60がそれぞれ含まれているため、給水体48全体に熱を容易に伝えることができる。
【0044】
また、シート状の金属箔56、金属箔60がライナー52と中芯54に内蔵されているため、ライナー52と中芯54全体に熱を均一に伝えることができる。
【0045】
また、吸水剤64としてA型のシリカゲルを用いているため、材料自体が安価であり、低温で水分を放出でき、放出時に使用するエネルギーを少なくできる。
【0046】
上記実施形態では、給水体48の空気の流れとは直交する上方に通気孔40を設けていたが、これに限らず、空気が流れる方向に減酸素セル14のアノード18を設けてもよい。これにより、より水蒸気がアノード18に到達し易くなる。
【0047】
また、上記実施形態ではシリカゲルで吸水剤64を形成したが、これに限らずゼオライトでもよい。なお、塩化カルシウムのような水分を含むとその状態を保持する不可逆性のものは適さない。
【0048】
また、上記実施形態では、紙58、紙62に吸水剤64を担持させたが、これに限らず不織布、セラミック多孔質体、メッシュ状の金属などに担持させてもよい。
【0049】
また、減酸素セル14の放熱が充分である場合には、給水体48を加熱するヒータ46を設ける必要がない。
【符号の説明】
【0050】
10・・・減酸素装置、12・・・減酸素室、14・・・減酸素セル、16・・・電解質膜、18・・・アノード、20・・・カソード、22・・・アノード集電体、24・・・カソード集電体、30・・・絶縁体、32・・・固定部材、34・・・固定部材、46・・・ヒータ、48・・・給水体、52・・・ライナー、54・・・中芯、56・・・金属箔、58・・・紙、60・・・金属箔、62・・・紙、64・・・吸水剤、66・・・流通路