(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
溶融時に異方性を示す芳香族ポリエステルを溶融紡糸し、単糸繊度4.0dtex以下のマルチフィラメントを得る芳香族ポリエステル繊維の製造方法において、融点+30℃、剪断速度を1000sec−1における溶融粘度が、10Poise以上、50Poise以下である芳香族ポリエステルを用い、紡糸巻取り張力が5cN以上、60cN以下であることを特徴とする芳香族ポリエステル繊維の製造方法。
総繊度が10dtex以上、500dtex以下、フィラメント数が3〜1000の範囲である、請求項1の方法で得られた芳香族ポリエステル繊維記載の芳香族ポリエステル繊維の製造方法。
【背景技術】
【0002】
溶融異方性芳香族ポリエステルは剛直な分子鎖からなるポリマーであり、溶融紡糸においては、分子鎖を繊維軸方向に高度に配向させることが可能である。また、溶融異方性芳香族ポリエステルは固体状態で重合反応が進む為、紡糸後の繊維を高温下で熱処理して固相重合することにより、溶融紡糸で得られる繊維の中では最も高い強度、弾性率となることが知られている。これらの特性から、従来から、スクリーン印刷用の紗織物、セールクロス、各種電気製品のコード補強材、防護手袋、プラスチックの補強材、光ファイバーのテンションメンバーへ利用されている。また近年では、低誘電率や低誘電正接といった高周波特性や、寸法安定性に優れていることから、プリント基板用基布への利用が期待されている。更に最近では、携帯電話やパソコン、タブレットの小型化、薄型化に伴い、総繊度、単糸繊度の比較的細い溶融異方性芳香族ポリエステル繊維の需要が見込まれている。
【0003】
しかしながら、高度に配向した溶融異方性芳香族ポリエステル繊維は、破断伸度が低い為、紡糸後の延伸はほとんど不可能である。このため、単糸繊度を細くするためには紡糸の段階で目標単糸繊度とすることが必要である。単糸繊度の細い溶融異方性芳香族ポリエステル繊維の製造方法としては、例えば特許文献1において、水分散性ポリエステルを海成分、溶融異方性芳香族ポリエステルを島成分とした海島型複合繊維をチーズに巻き、そのチーズ形態のまま水中にて海成分を溶解処理することにより、単糸繊度0.05〜1.0dtexで、かつ熱処理後の強度が20cN/dtex以上の溶融異方性芳香族ポリエステル繊維を得る方法が提案されている。
また、特許文献2では、異方性溶融相を形成し得る芳香族ポリエステルを、直径0.1mm以下の細孔のノズルより吐出して紡糸し巻き取る溶融紡糸方法において、以下の条件(1)〜(7)を用いることを特徴とする、溶融異方性芳香族ポリエステル極細繊維の製造方法が提案されている。
(1)該溶融異方性芳香族ポリエステルの融点+20℃の剪断速度1000sec
−1における溶融粘度が500Poise未満であるポリマーを用いること(2)ノズル通過時の剪断速度を10
3〜10
9sec
−1とすること(3)ノズルにおける吐出線速度を5m/分以上40m/分以下とすること(4)巻取速度を150m/分以上8000m/分以下とすること(5)該吐出線速度に対する該巻取速度比を20以上とすること(6)紡糸口金温度を融点+15℃以上とすること(7)吐出後ノズル面から30cm離れた時点での繊維の温度をTm−150℃以下とすること
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明における芳香族ポリエステルは、溶融時に異方性を示す芳香族ポリエステルである。この、溶融時に異方性を示す芳香族ポリエステルとは、90°直交した2枚の偏光板の間にある加熱試料台上にポリエステル試料粉末を置いて昇温していったときに、流動可能な温度域において、光を透過し得る性質を有するものを意味している。このような芳香族ポリエステルとしては、特公昭56−18016号公報や特公昭55−20008号公報等に示される芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール及び/又は芳香族ヒドロキシカルボン酸やこれらの誘導体からなるもので、場合により、これらと、脂環族ジカルボン酸、脂環族ジオール、脂肪族ジオールやこれらの誘導体との共重合体も含まれる。ここで芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジカルボキシジフェニル、2,6−ジカルボキシナフタレン、1,2−ビス(4−カルボキシフェノキシ)エタン等や、これらの芳香族環の水素をアルキル、アリール、アルコキシ、ハロゲン基で置換したものが挙げられる。芳香族ジオールとしては、ヒドロキノン、レゾルシン、4,4 ’−ジヒドロキシジフェニル、4 ,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’− ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、2,6−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン等や、これらの芳香族環の水素をアルキル、アリール、アルコキシ、ハロゲン基で置換したものが挙げられる。芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、p−ヒドロキシ安息香酸、m−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシナフタレン−6−カルボン酸、1−ヒドロキシナフタレン−5−カルボン酸等や、これらの芳香族環の水素をアルキル、アリール、アルコキシ、ハロゲン基で置換したものが挙げられる。脂環族ジカルボン酸としては、トランス−1,4−ジカルボキシシクロヘキサン、シス−1,4−ジカルボキシシクロヘキサン等や、これらの芳香族環の水素をアルキル、アリール、アルコキシ、ハロゲン基で置換したものが挙げられる。脂環族及び脂肪族ジオールとしては、トランス−1,4−ジヒドロキシシクロヘキサン、シス−1,4−ジヒドロキシシクロヘキサン、エチレングリコール、14−ブタンジオール、キシリレンジオール等が挙げられる。
【0013】
これらの組み合わせの中で、本発明において好ましい芳香族ポリエステルとしては、例えば、(1)p−ヒドロキシ安息香酸残基及び/又は2−ヒドロキシナフタレン−6−カルボン酸残基40〜70モル%と上記芳香族ジカルボン酸残基15〜30モル%と芳香族ジオール残基15〜30モル%からなるコポリエステル、(2)テレフタル酸及び/又はイソフタル酸とクロルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、及び/又はハイドロキノンからなるコポリエステル、(3)p−ヒドロキシ安息香酸残基20〜80モル%と2−ヒドロキシナフタレン−6−カルボン酸残基20〜80モル%からなるコポリエステル等が挙げられる。
【0014】
これらの出発原料を用い、本発明に用いる芳香族ポリエステルを得るには、そのままで、あるいは脂肪族又は芳香族モノカルボン酸又はそれらの誘導体、脂肪族アルコール又はフェノール類又はそれらの誘導体等によるエステル化により、重縮合反応を行う。重縮合反応としては、既知の塊状重合、溶液重合、懸濁重合等を採用することができ、得られたポリマーはそのままで紡糸用試料としてもよいし、又は粉体状で不活性気体中、又は減圧下に熱処理して紡糸用試料としてもよい。あるいは、一度押出機により造粒して用いてもよい。
【0015】
成分中には、溶融異方性芳香族ポリエステル繊維の物性が実質的に低下しない範囲で、他のポリマーあるいは添加剤(顔料、カーボン、熱安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、蛍光増白剤等)を含んでいてもよい。
【0016】
本発明における芳香族ポリエステルには、紡糸に適した分子量範囲が存在する。この溶融紡糸条件に適する分子量に対応する物性値として「流動開始温度」を用いる。「流動開始温度」は、島津製作所製のフローテスターCFT−500を用い、径1mm、長さ10mmのノズルで、圧力100kg/cm
2の状態で、芳香族ポリエステル試料を4℃/分で昇温し、試料がノズルを通って流動し、かつ4,800パスカル秒の見かけ粘度を与える温度で定義される。
【0017】
本発明の溶融紡糸に適した芳香族ポリエステルの「流動開始温度」は、290〜330℃ が好適である。
【0018】
本発明における芳香族ポリエステル繊維の単糸繊度は4.0dtex以下であり、好ましくは2.5dtex以下であり、より好ましくは1.0dtex以下である。総繊度の範囲は10〜500dtexが好ましく、より好ましくは15〜450dtexであり、さらに好ましくは20〜400dtexである。フィラメント数の範囲は3〜1000が好ましく、より好ましくは10〜800であり、さらに好ましくは20〜600である。
【0019】
本発明の溶融紡糸に適した芳香族ポリエステルは、融点+30℃、剪断速度1000sec
−1における溶融粘度が10Poise以上、50Poise以下である。この範囲であれば、単糸繊度4.0dtex以下の芳香族ポリエステル繊維を安定して製造するのに好適である。すなわち、溶融粘度が10Poise未満になると、口金から押し出されたポリマーが雫状になりやすく、紡糸の安定性に欠ける傾向がある。溶融粘度が50Poiseを超える場合、繊度を細くするに従って、単糸切れの発生する恐れがあり、紡糸の安定性に欠ける傾向がある。なお、溶融粘度はキャピログラフ(東洋精機製作所製 型式1B)を用い、径0.5mm、長さ5mmのノズルで、芳香族ポリエステル試料を融点+30℃で昇温し、試料がノズルを通る際、1000sec
−1の剪断速度がかかった時の粘度で定義される。
【0020】
本発明の製造方法は、例えば、
図1に示すような溶融紡糸装置を用いることにより行う。
図1において、1は紡糸ヘッド、2は紡糸パック、3は紡糸口金、4はヒーター、5は保温筒である。
【0021】
溶融紡糸において、芳香族ポリエステルの溶融押出は公知の方法を用いればよい。芳香族ポリエステルは、溶融紡糸に適するように、通常ペレット化されており、エクストルーダー型の押出機を使用する。押出された樹脂は配管を通り、紡糸ヘッド1へ送られ、ギアポンプ等の公知の計量装置(図示せず)で計量され、紡糸パック2内でフィルターを通過した後、紡糸口金3に入る。ポリマー配管から紡糸口金3までの温度は、芳香族ポリエステルの融点以上、熱分解温度以下とすることが好適である。
【0022】
紡糸口金3の直下にヒーター4と保温筒5とを設置することで、吐出された繊維の径を安定化させると共に、外気によって紡糸口金表面温度及び紡糸口金下の雰囲気温度の変化を抑えられ、ドラフトでの細化が均一になり、糸切れや毛羽発生等がない、安定した紡糸となり易い傾向がある。
【0023】
また、紡糸口金孔内の剪断速度を10
4〜10
5sec
−1とすることが好適である。本発明にいう剪断速度γ は、次式により求める。
γ=4Q/πr
3
(但し、rは紡糸口金孔の半径(cm)、Qは単孔当たりのポリマー吐出量(cm
3/sec))
上記範囲であると、繊維の配向が十分となり、細繊度の繊維が得られやすく、目的の物性が得られやすい傾向にある。
【0024】
また、芳香族ポリエステル繊維の場合、紡糸巻取り後の後工程で延伸することは困難であるため、単糸繊度4.0dtex以下のマルチフィラメントを得るためには、できる限り細孔より樹脂を吐出することが好適である。そのためには、紡糸口金の孔径(直径)は0.2mm以下が好ましく、0.18mm以下であることがより好ましい。
【0025】
上記のようにして紡糸された芳香族ポリエステル繊維は、油剤付与装置6で所定の油剤が付与された後、第一ゴデットロール7及び第二ゴデットロール8で引き取られ、巻取りボビン9(紡糸巻取りボビン)に巻き取られる。第二ゴデットロール8と巻取りボビン9との間で測定される紡糸巻取り張力は5cN以上、60cN以下が好ましく、10cN以上、50cN以下がより好ましく、さらに好ましくは、20cN以上、40cN以下である。張力が5cN未満になると、繊維が弛むことによりゴデットロール8に糸が巻きついたり、巻取りボビン9の形状不良を起こしたりする。通常、単糸繊度4.0dtexを超える繊維であれば、紡糸巻取り張力が70〜100cN程度であっても、紡糸巻取りボビンの形状が崩れることなく安定して巻き取ることが可能であるが、単糸繊度4.0dtex以下では、紡糸巻取り張力が60cNを超える場合、紡糸での糸切れやその後の巻き返し工程で単糸切れやフィブリル化が起こり、糸品位が損なわれる。なお、本発明において紡糸巻取り張力は、巻取りボビン9で巻き取られる際にかかる張力について測定したものを示したものである。
【0026】
本発明における重要な点は紡糸巻取り張力を5cN以上、60cN以下にすることにある。従来の芳香族ポリエステル繊維はロープやケーブルなどの産業資材用途が主であり、総繊度は太く、単糸繊度も4.0dtexを超え、単糸あたりの強力は20cN以上のものが一般的であった。単糸繊度が4.0dtex以下になると、単糸あたりの強力が低くなり、僅かなダメージでもフィブリル化、単糸切れ及び断糸が容易に起こり易くなる。また、芳香族ポリエステル繊維は、一般的なポリエステル繊維に比べて伸度が極端に低い為、繊維に掛かる張力が吸収出来ないことも、フィブリル化や断糸の原因となる。更には、単糸繊度が4.0dtex以下になると、紡糸巻取りボビンの嵩密度は高くなる。このとき、折り重なった単糸同士が食い込みやすくなっている為、紡糸巻取りボビンの繊維を解舒する際に、単糸同士が干渉することでフィブリル化や単糸切れ等が起こる。これらのことから、本発明においては、紡糸の際に巻取り張力を5cN以上、60cN以下として、紡糸巻取りの際の糸に掛かる負担をできるだけ軽減し、紡糸巻取りボビンの嵩密度を極力下げ単糸の食い込みを軽減させることにより、フィブリル化、単糸切れ及び断糸を防止し、高品位の芳香族ポリエステル繊維を安定的に製造できる。
【0027】
上記のように得られた芳香族ポリエステル繊維は、単糸繊度が4.0dtex以下の細物繊維であっても、後述する巻き返しや熱処理において、単糸切れやフィブリル化が無く、その後の工程通過性にも優れた高品質のものである。
【0028】
上記芳香族ポリエステルを溶融紡糸して得られる繊維の強度は、3.0cN/dtex以上が好ましく、5.0cN/dtex以上がより好ましい。また、伸度は、0.5%以上が好ましく、1.0%以上がより好ましい。更に、弾性率は、300cN/dtex以上が好ましく、400cN/dtex以上がより好ましい。
【0029】
紡糸で得られた芳香族ポリエステル繊維は、そのままでも使用できるが、熱処理をすることで更に高強度化、高弾性化することができる。この場合、熱処理前に、紡糸巻取りボビンの繊維を一旦別の熱処理用ボビンへ巻き返し、パッケージとすることが好ましい。この時、先に述べたように、紡糸工程での紡糸巻取り張力を5cN以上、60cN以下にすることで、巻き返しでの繊維の解舒性が良好になり、単糸切れや糸切れが無い、高品位な糸を得ることが出来る。熱処理用ボビンへの巻き返しの際、均一に固相重合が進むように、パッケージの嵩密度が0.01g/cc以上、1.0g/cc以下とすることが好ましく、0.8g/cc以下とすることがより好ましい。ここで嵩密度とは、パッケージの外寸法と芯材となる熱処理用ボビンの外寸法から求められる繊維の占有体積Vf(cc)と繊維の質量Wf(g)からWf/Vfにより計算される値である。なお、占有体積Vfはパッケージの外形寸法を実測し、巻き返されたボビンが回転対称であることを仮定して計算することで求められる値であり、Wfは繊度と巻取長から計算される値、もしくは巻取前後での質量差により実測される値である。嵩密度を低くするためには巻き返し速度を500m/分以下とすることが好ましく、400m/分以下とすることがより好ましい。
【0030】
熱処理は、上記芳香族ポリエステル繊維の融点以下の温度で行うことが好適である。これにより、芳香族ポリエステル繊維は固相重合が進み、強度、弾性率を向上させることができる。なお、熱処理の際、繊維間が融着し易い傾向がある為、繊維間の融着防止の為には、常温から融点以下の温度まで、段階的に上げていくことが好適である。
【0031】
熱処理中、固相重合を安定的に進ませるため、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。ただし、コスト面から乾燥空気を使用する場合には、予め露点−40℃以下に除湿することが望ましい。すなわち、固相重合時に水分が存在すると、加水分解を誘発し、強度が十分に上がらない場合があるからである。
【0032】
熱処理後の繊維は、パッケージのまま製品として供することもできるが、製品運搬効率を高めるために、紙管等に再度巻き返すことが好ましい。熱処理後の巻き返しにおいては、巻き返し速度の上限は特に制限されないが、繊維へのダメージを軽減させる点から500m/分以下とすることが好ましく、400m/分以下とすることがより好ましい。
【0033】
上記のように熱処理することで、さらに高強度、高弾性率であり、また品位の高い芳香族ポリエステル繊維を生産効率良く、安定して得ることができる。上記のように熱処理して得られる繊維の強度は、10.0cN/dtex以上が好ましく、12.0cN/dtex以上がより好ましく、さらに好ましくは、20.0cN/dtex以上である。また、伸度は、1.0%以上が好ましく、2.0%以上がより好ましい。更に、弾性率は、400cN/dtex以上が好ましく、500cN/dtex以上がより好ましい。
【実施例】
【0034】
以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。実施例及び比較例は
図1の溶融紡糸装置を用い、芳香族ポリエステル繊維の紡糸を行った。なお、本発明は以下に述べる実施例に限定されるものではない。実施例中の各評価は以下のようにして行った。
【0035】
1)引張り試験(強度、伸度、弾性率)
JISL 1013(2010)の標準時試験に準じ、島津製作所製の引張り試験機AGS−500NXを用い、試料長200mm、引張り速度200mm/分にて破断強伸度及び弾性率(初期引張抵抗度)を求め、10点の平均値で表した。
【0036】
2)紡糸巻り取張力
金井工機社製の電子式張力計CM−100Rを用い、紡糸巻取り中、
図1の第二ゴデットロール8と巻取りボビン9間の走行張力を3回測定し、その平均値で表した。
【0037】
3)紡糸操業性評価
2時間以上紡糸した際の紡糸操業性を下記のように評価した。
○ 糸切れがなく安定的に紡糸ができた。
△ 2時間の紡糸中に5回以内の糸切れが発生した。
× 糸切れが多発して巻き取りができなかった。
【0038】
4)紡糸原糸巻き返し評価
紡糸後の繊維を鉄ボビンに50000m巻き返した時の操業性を下記のように評価した。
○ 単糸切れや糸切れがなく安定的に巻き返しができた。
△ 単糸切れや糸切れが発生した。
× 糸切れが多発して最後まで巻き返しができなかった。
【0039】
5)熱処理糸巻き返し評価
熱処理後の繊維を製品紙管に50000m巻き返したときの操業性を下記のように評価した。
○ 単糸切れや糸切れがなく安定的に巻き返しができた。
△ 単糸切れが発生した。
× 糸切れが多発して最後まで巻き返しができなかった。
【0040】
6)毛羽数評価
熱処理後の繊維を春日電気(株)製、毛羽発見器F9−AN型を用いて、50000mの糸長を測定し、測定結果を下記のように評価した。
○ 毛羽数0個
△ 毛羽数1〜2個
× 毛羽数3個以上
【0041】
〔実施例1〕
溶融異方性を示す芳香族ポリエステルとして、p−アセトキシ安息香酸40モル、テレフタル酸15モル、イソフタル酸5モル及び4,4’−ジアセトキシジフェニル20.2モルで重合した芳香族ポリエステルを用いた。この芳香族ポリエステルの融点は340℃であり、融点+30℃、剪断速度1000sec
−1における溶融粘度は30Poiseであった。この芳香族ポリエステルを140℃の真空乾燥機中で24時間乾燥し、水分率5ppmとした後、単軸押出機にて溶融押出し、ギアポンプで計量して、紡糸パックに樹脂を供給した。このときの押出機出口から紡糸パックまでの紡糸温度は360℃とした。孔径0.09mmの孔を48個有する紡糸口金より吐出量11.6cc/分で樹脂を吐出した。吐出した樹脂に油剤を付与し、第一ゴデットロール、次いで第二ゴデットロールに導き、48フィラメント共に867m/分にて巻取りボビンに巻き取り、芳香族ポリエステル繊維を得た。このときの巻取り張力(紡糸巻取り張力)は20cNであった。約120分間の巻き取り中、糸切れは発生せず、紡糸操業性は良好であった。なお、得られた繊維の総繊度は144.3dtex、強度は7.1cN/dtex、伸度は2.1%、弾性率は480cN/dtexであった。次いで、紡糸巻取りボビンから熱処理ボビンへ300m/分で巻き返しを行った。50000mの巻き返し中、単糸切れや糸切れは発生せず、巻き取りは良好に実施でき、操業性も良好であった。この繊維を、310℃で10時間、窒素中で処理した後、熱処理ボビンから紙管へ巻き返しを行った。50000mの巻き返し中、単糸切れや糸切れは発生せず、巻き取りは良好に実施でき、操業性も良好であった。なお、得られた繊維は総繊度144.3dtex 、単糸繊度3.0dtex、強度26.0cN/dtex、伸度2.4%、弾性率1000cN/dtexの繊維が得られた。紙管に巻き取った熱処理後繊維の毛羽数は、50000m測定中0個であり、良好な品位であった。上記紡糸条件及び結果を表1に合わせて示す。
【0042】
〔実施例2〜16〕
実施例1で用いた芳香族ポリエステルを用い、総繊度、単糸繊度、紡糸巻取り張力を表1の通り変えた以外は実施例1と同様に紡糸して芳香族ポリエステル繊維を得た。次いで、実施例1と同様に、得られた芳香族ポリエステル繊維を紡糸巻取りボビンから熱処理ボビンに巻き返し、窒素中で処理し、熱処理ボビンから紙管へ巻き返して熱処理後の芳香族ポリエステル繊維を得た。表1に示すとおり、芳香族ポリエステル繊維の巻き返しは、熱処理前と後で共に単糸切れや断糸の発生はなく、良好であった。熱処理後の繊維の毛羽数も、50000m測定中0個であり、良好な品位であった。
【0043】
〔実施例17、18〕
融点+30℃、剪断速度1000sec
−1における溶融粘度が20Poise及び40Poiseである芳香族ポリエステルを用い、紡糸温度を変更した以外は、実施例1と同様に紡糸して芳香族ポリエステル繊維を得た。次いで、実施例1と同様に、得られた芳香族ポリエステル繊維を紡糸巻取りボビンから熱処理ボビンに巻き返し、窒素中で処理し、熱処理ボビンから紙管へ巻き返して熱処理後の芳香族ポリエステル繊維を得た。表1に示すとおり、芳香族ポリエステル繊維の巻き返しは、熱処理前と後で共に単糸切れや断糸の発生はなく、良好であった。熱処理後の繊維の毛羽数も、50000m測定中0個であり、良好な品位であった。
【0044】
〔比較例1〕
紡糸巻取り張力を4cNに変えた以外は実施例1と同様に樹脂を吐出し、油剤を付与し、紡糸した。ところが、巻取りボビン9に巻きつけた途端、ゴデットロール8に糸が取られ、すぐ糸切れとなった。
【0045】
〔比較例2〕
紡糸巻取り張力を70cNに変えた以外は、実施例1と同様に熱処理後の芳香族ポリエステル繊維を得た。芳香族ポリエステル繊維の巻き返しは、熱処理前と後で共に単糸切れや断糸の発生があり、熱処理後の繊維の毛羽数は、50000m測定中、5個であり、品位の悪いものであった。
【0046】
〔比較例3〕
単糸繊度を5.0dtexに変えた以外は比較例1と同様に紡糸した。ところが、巻取りボビン9に巻きつけた途端、ゴデットロール8に糸が取られ、すぐ糸切れとなった。
【0047】
〔比較例4〕
単糸繊度を5.0dtexに変えた以外は比較例2と同様に熱処理後の芳香族ポリエステル繊維を得た。芳香族ポリエステル繊維の巻き返しは、熱処理前と後で共に単糸切れや断糸の発生はなく良好であった。また、熱処理後の繊維の毛羽数も、50000m測定中、0個であり、良好な品位であった。
【0048】
〔比較例5、6〕
融点+30℃、剪断速度1000sec
−1における溶融粘度が5Poise及び70Poiseである芳香族ポリエステルを用いた以外は、実施例1と同様にして紡糸したが、比較例5、6共に巻取りできなかった。
【0049】
【表1】
【0050】
実施例1〜18の熱処理後の芳香族ポリエステル繊維を、織物に加工したところ、整経工程や緯糸打ち込みでの断糸が無く、工程通過性が優れていた。比較例2から得られたものは、整経工程や緯糸打ち込みでの断糸があり、工程通過性が悪かった。