【実施例】
【0069】
以下、本発明を実施例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、各種物性値の測定方法、および評価方法を以下に示す。
【0070】
(1)表面粗さ
冷却ローラーおよびニップローラーの表面粗さは株式会社ミツトヨ製小型表面粗さ測定器(サーフテスト SJ−301)を用い、触針先端半径2.0μm、頂角60°のダイヤモンド針を使用、測定力0.75mNにて、JIS B0601−1994に準拠し、算術平均粗さ(Ra)、十点平均粗さ(Rz)および凹凸の平均間隔(Sm)をロール軸方向に評価長さ4mm、基準長さ0.8mm、カットオフ0.8mmで測定した。
【0071】
また、表面保護フィルムの表面粗さは、株式会社小坂研究所製の全自動微細形状測定機(SURFCORDER ET4000A)を用い、JIS B0601−1994に準拠し、フィルム横方向(フィルムのTD方向)に測定長さ2mmで、長手方向(フィルムのMD方向)に10μmピッチで20回測定して3次元解析し、算術平均粗さ(Ra)、十点平均粗さ(Rz)および凹凸の平均間隔(Sm)をそれぞれ求めた(単位はμm)。尚、触針先端半径2.0μm、頂角60°のダイヤモンド針を使用、測定力10μN、カットオフ0.8mmで測定した。
【0072】
(2)表面保護フィルムの貼り付け
温度23℃、湿度50%RHの条件下で24時間、保管・調整した実施例および比較例の試料サンプルを厚み50μmの環状オレフィンからなる位相差フィルム(被着体)に、ロールプレス機(株式会社安田精機製作所製特殊圧着ローラ)を用い、貼込圧力9,100N/m、貼込速度300cm/分で貼り付けた。しかる後、温度23℃、湿度50%RH条件下で24時間保管した後、各測定と評価に用いた。
【0073】
(3)粘着力
引張試験機(株式会社オリエンテック“テンシロン”万能試験機)を用い、引張速度300mm/分、剥離角度180°にて粘着力を測定した。
【0074】
(4)フィッシュアイの被着体への転写性(被着体へのへこみ発生)
予め表面保護フィルムのフィッシュアイ欠点を国立印刷局製造のきょう雑物測定図表と対比し、0.05mm
2〜0.1mm
2サイズのフィッシュアイ欠点部を選別し、該欠点を有する部分を含む表面保護フィルムを被着体と貼り合わせた後、両側を平滑なポリカーボネート板(板厚み2mm)で挟み込み、荷重1.3kg/cm
2を負荷し、60℃熱風オーブン中で3日間保管した後、室温に戻し、その後、被着体より試料フィルムを剥がした後、被着体にフィッシュアイによるへこみが生じていないか判定した。
【0075】
○:フィッシュアイによるへこみ発生が全く認められない
△:僅かにフィッシュアイによるへこみが認められる
×:フィッシュアイによるへこみが明らかに認められる。
【0076】
(5)巻姿
表面保護フィルムをロール状に巻取った後、12時間経過したものを目視にて確認し、シワの発生状況を確認し、シワの発生が認められなかった物を○、軽度のシワの発生が認められたものを△、強度のシワの発生が認められた物を×とした。
【0077】
(6)ブロッキング
ロール状に巻き取った表面保護フィルムを手で50m巻き出し、その地点からさらに5m巻き出す際に、目視で粘着面と背面の粘着が認められなかったものを○、認められたものを×とした。
【0078】
(7)背面の凹凸形状の被着体への転写性
表面保護フィルムと被着体を5枚ずつ交互に重ね合わせ貼り合わせたのち、両側を平滑なポリカーボネート板(板厚み2mm)で挟み込み、荷重1.3kg/cm
2を負荷し、60℃熱風オーブン中で3日間保管した後、室温に戻し、その後、被着体より試料フィルムを剥がした後、被着体の表面を目視にて観察し、背面の凹凸形状により被着体に凹みが生じていないか判定した。
【0079】
○:背面の凹凸形状によるへこみ発生が全く認められない
△:僅かに背面の凹凸形状によるへこみが認められる
×:背面の凹凸形状によるへこみが明らかに認められる。
【0080】
(8)背面の突起数
表面保護フィルムを1m
2にカットし、背面の突起を国立印刷局製造のきょう雑物測定図表と対比し、0.05mm
2以上の大きさの突起を選定したのち、超深度カラー3D形状測定顕微鏡(株式会社キーエンス製VK−9500)にて大きさ及び高さを測定し、大きさが0.05mm
2以上で高さが5μm以上の突起を計数した。なお、フィッシュアイと突起の判別は、フィッシュアイ(突起)部分を切断し、フィッシュアイの核となる異物および酸化物の有無によって行った。
【0081】
(9)スジ状の研磨跡
暗室にてニップローラー表面に、ローラ軸方向に対し5〜20°の角度でライトを照射し、目視にてスジ状の研磨跡の有無を確認した。スジ状の研磨跡をはっきりと確認出来るものを×、うっすらと確認出来るものを△、確認出来ないものを○とした。
【0082】
(10)圧縮弾性率
表面保護フィルムを厚みが2mmとなるように重ね、株式会社島津製作所製オートグラフ(AGS−100)にてひずみ速度0.5mm/秒にて圧縮し圧力を測定した。測定した圧力と歪みから応力−歪み線図を求め、圧力が0.6MPaから12MPaの範囲内で縦弾性率の最大値と最小値を求めた。
【0083】
(11)ニップローラー最高表面温度
製膜中のニップローラーの温度を株式会社キーエンス製放射温度計(IT2−100)にて測定し、製膜速度を徐々に増加させていった際に、溶融樹脂がニップローラーに粘着し巻き付く直前の温度をニップローラー最高表面温度とした。
【0084】
(実施例1)
図1に示すプラスチックフィルムの製膜装置を用いて、スリット幅を0.9mmに調整したマルチマニホールド式Tダイから密度0.91g/cm
3の直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を単種2層構成にて吐出し、冷却ローラーとニップローラーにて挟圧、冷却し、厚み30μmの表面保護フィルムとし、ワインダーにて巻き取り、フィルムロールを得た。冷却ローラーの表面は工業用クロムめっきとし、算術平均粗さRaは0.1μmとした。また、ニップローラー表面にはRTVシリコーンゴムを被覆し、十点平均粗さRzを3.4μm、凹凸の平均間隔Smを44μmとした。得られた表面保護フィルムの粘着面の表面粗さは算術平均粗さRaが0.11μm、背面の表面粗さは十点平均粗さRzが4.5μm、凹凸の平均間隔Smが37μmで、厚み方向の圧縮弾性率は31〜44MPaであった。
【0085】
(実施例2)
ニップローラー表面十点平均粗さRzを6.4μm、凹凸の平均間隔Smを67μmとしたこと以外は、実施例1と同じ装置および方法にて表面保護フィルムを製膜し、フィルムロールを得た。得られた表面保護フィルムの粘着面の算術平均粗さRaは0.12μm、背面の十点平均粗さRzは7.7μm、凹凸の平均間隔Smが49μmで、厚み方向の圧縮弾性率は28〜55MPaであった。
【0086】
(実施例3)
樹脂を密度0.92g/cm
3の高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)の単種2層構成とした以外は、実施例2と同じ装置および方法にて表面保護フィルムを製膜し、フィルムロールを得た。得られた表面保護フィルムの粘着面の算術平均粗さRaは0.28μm、背面の十点平均粗さRzが7.9μm、凹凸の平均間隔Smが49μmで、厚み方向の圧縮弾性率は32〜63MPaであった。
【0087】
(実施例4)
ニップローラーにHTVシリコーンゴムを被覆し、十点平均粗さRzを7.2μm、凹凸の平均間隔Smを70μmとした以外は、実施例1と同じ装置および方法にて表面保護フィルムを製膜し、フィルムロールを得た。得られた表面保護フィルムの粘着面の算術平均粗さRaは0.12μm、背面の十点平均粗さRzが9.2μm、凹凸の平均間隔Smが63μmで、厚み方向の圧縮弾性率は26〜44MPaであった。
【0088】
(実施例5)
樹脂を2種2層構成とし、粘着面側の層の樹脂を直鎖状低密度ポリエチレンとし、背面側の層の樹脂をエチレン−メチルメタクリレート共重合体(EMMA)とした以外は、実施例1と同じ装置および方法にて表面保護フィルムを製膜し、フィルムロールを得た。得られた表面保護フィルムの粘着面の算術平均粗さRaは0.17μm、背面の十点平均粗さがRzは5.0μm、凹凸の平均間隔Smが39μmで、厚み方向の圧縮弾性率は40〜79MPaであった。
【0089】
(実施例6)
ニップローラー表面に充填剤の固体粒子のうち、粒子径が19μmを超えるものが約3%となるように酸化アルミニウム粉を混入したRTVシリコーンゴムを被覆し、粒度P600のサンドペーパーで最終研磨を行った。ニップローラー表面の十点平均粗さRzは4.0μm、凹凸の平均間隔Smは55μmであった。これらを除いて実施例1と同じ装置および方法にて表面保護フィルムを製膜し、フィルムロールを得た。得られた表面保護フィルムの粘着面の算術平均粗さRaは0.12μm、背面の十点平均粗さRzが4.4μm、凹凸の平均間隔Smが53μmで、厚み方向の圧縮弾性率は32〜46MPaであった。
【0090】
(実施例7)
ニップローラー表面に充填剤の最大粒子径が19μm、すなわち固体粒子のうち、粒子径が19μmを超えるものが0%となるように酸化アルミニウム粉を混入したRTVシリコーンゴムを被覆し、回転する粒度#800の砥石で最終研磨を行った。ニップローラー表面の十点平均粗さRzは3.6μm、凹凸の平均間隔Smは51μmであった。これらを除いて実施例1と同じ装置および方法にて表面保護フィルムを製膜し、フィルムロールを得た。得られた表面保護フィルムの粘着面の算術平均粗さRaは0.11μm、背面の十点平均粗さRzが3.9μm、凹凸の平均間隔Smが51μmで、厚み方向の圧縮弾性率は32〜45MPaであった。
【0091】
(実施例8)
ニップローラー表面に充填剤の最大粒子径が11μmとなるように酸化アルミニウム粉を混入したRTVシリコーンゴムを被覆し、回転する粒度#800の砥石で最終研磨を行った。ニップローラー表面の十点平均粗さRzは3.2μm、凹凸の平均間隔Smは50μmであった。これらを除いて実施例1と同じ装置および方法にて表面保護フィルムを製膜し、フィルムロールを得た。得られた表面保護フィルムの粘着面の算術平均粗さRaは0.14μm、背面の十点平均粗さRzが3.4μm、凹凸の平均間隔Smが49μmで、厚み方向の圧縮弾性率は33〜45MPaであった。
【0092】
(比較例1)
冷却ローラーの算術平均粗さRaを0.3μmとした以外は、実施例1と同じ装置および方法にて表面保護フィルムを製膜し、フィルムロールを得た。得られた表面保護フィルムの粘着面の算術平均粗さRaが0.42μm、背面の十点平均粗さRzが5.7μm、凹凸の平均間隔Smが38μmで、厚み方向の圧縮弾性率は32〜50MPaであった。
【0093】
(比較例2)
ニップローラーの十点平均粗さRzを1.6μm、凹凸の平均間隔Smを35μmとした以外は、実施例1と同じ装置および方法にて表面保護フィルムを製膜し、フィルムロールを得た。得られた表面保護フィルムの粘着面の算術平均粗さRaは0.11μm、背面の十点平均粗さRzが2.6μm、凹凸の平均間隔Smが31μmで、厚み方向の圧縮弾性率は31〜50MPaであった。
【0094】
(比較例3)
ニップローラーの十点平均粗さRzを9.5μm、凹凸の平均間隔Smを72μmとした以外は、実施例1と同じ装置および方法にて表面保護フィルムを製膜し、フィルムロールを得た。得られた表面保護フィルムの粘着面の算術平均粗さRaは0.28μm、背面の十点平均粗さRzが11.5μm、凹凸の平均間隔Smが66μmで、厚み方向の圧縮弾性率は24〜48MPaであった。
【0095】
(比較例4)
ニップローラーの十点平均粗さRzを6.8μm、凹凸の平均間隔Smを93μmとした以外は、実施例1と同じ装置および方法にて表面保護フィルムを製膜し、フィルムロールを得た。得られた表面保護フィルムの粘着面の算術平均粗さRaは0.14μm、背面の十点平均粗さRzが6.7μm、凹凸の平均間隔Smが91μmで、厚み方向の圧縮弾性率は34〜68MPaであった。
【0096】
(比較例5)
ニップローラーの十点平均粗さRzを7.0μm、凹凸の平均間隔Smを154μmとした以外は、実施例1と同じ装置および方法にて表面保護フィルムを製膜し、フィルムロールを得た。得られた表面保護フィルムの粘着面の算術平均粗さRaは0.15μm、背面の十点平均粗さRzが5.0μm、凹凸の平均間隔Smが199μmで、厚み方向の圧縮弾性率は34〜73MPaであった。
【0097】
(比較例6)
樹脂を2種2層構成とし、粘着面側の層の樹脂を直鎖状低密度ポリエチレンとし、背面側の層の樹脂をポリプロピレンホモポリマー(PP)とした以外は、実施例1と同じ装置および方法にて表面保護フィルムを製膜し、フィルムロールを得た。得られた表面保護フィルムの粘着面の算術平均粗さRaは0.14μm、背面の十点平均粗さがRzは5.3μm、凹凸の平均間隔Smが39μmで、厚み方向の圧縮弾性率は38〜60MPaであった。
【0098】
各実施例および比較例の評価結果を表1、表2に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
実施例1〜7にて得られた表面保護フィルムは、粘着面の算術平均粗さRaが0.11〜0.28μmとなり、粘着力は被着体への粘着に十分とされる0.03N/50mm
2以上であり、また、背面の十点平均粗さRzは3.4〜9.2μmかつ凹凸の平均間隔Smが37〜63μmであり、フィッシュアイおよび背面の凹凸形状が被着体に転写することなく、ブロッキングやシワのない良好な巻姿であった。
【0102】
また、ニップローラー表面にRTVシリコーンゴムを被覆した実施例1〜3および5〜7では、ニップローラーの表面温度が140℃に達しても溶融樹脂とニップローラー表面の粘着は確認されなかった。ニップローラー表面にHTVシリコーンゴムを被覆した実施例4ではニップローラーの表面温度が80℃に達すると溶融樹脂とニップローラー表面の粘着が発生し、溶融樹脂がニップローラーに巻き付いたため、製膜が不可能となったが、製膜速度を下げ、ニップローラー表面温度を60℃とした状態では安定して製膜が可能であった。
【0103】
実施例5では粘着層と背面層に異なる樹脂を用いたため再生原料とすることが困難であるものの、評価項目については良好な結果であった。
【0104】
実施例7および8ではエラストマーの充填剤の固体粒子のうち、粒子径が19μmを超えるものが1%以下となるようにしたため、表面保護フィルム背面における大きさが0.05mm
2以上で高さが5μm以上の突起は0個であった。また、回転する砥石にてニップローラー表面の最終研磨を行ったため、スジ状の研磨跡は確認されなかった。モバイル端末用位相差フィルムを被着体とするような、非常に厳密な打痕欠点を指摘される用途においては、実施例7及び8のように0.05mm
2以上で高さが5μm以上の突起が0個である表面保護フィルムが特に好ましく、スジ状の研磨跡のない表面保護フィルムがより好ましく用いられる。
【0105】
比較例1にて得られたフィルムは粘着面の算術平均粗さRaが0.42μmとなり、粘着力は発現しなかった。また、比較例2では背面の十点平均粗さRzが2.6μmと小さいために微量ながらフィッシュアイの被着体への転写が発生し、また、粘着面と背面の離型性が不足したために、ブロッキングおよびシワが発生した。比較例3では背面の十点平均粗さRzが11.5μmと大きく、被着体への背面の凹凸形状の転写が確認された。比較例4および5では背面の凹凸の平均間隔が大きいために被着体への背面の凹凸形状の転写およびフィッシュアイの転写が確認され、また、比較例5では粘着面と背面の離型性が不足したために、ブロッキングおよびシワが発生し巻姿不良となった。比較例6では背面層にPPを用いたため硬くなってしまい、背面の凹凸が被着体に転写した。