特許第6121898号(P6121898)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6121898表面保護フィルムの製造方法および製造装置ならびに表面保護フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6121898
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】表面保護フィルムの製造方法および製造装置ならびに表面保護フィルム
(51)【国際特許分類】
   B29C 47/88 20060101AFI20170417BHJP
   B29C 47/14 20060101ALI20170417BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20170417BHJP
【FI】
   B29C47/88 Z
   B29C47/14
   B29L7:00
【請求項の数】17
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-512688(P2013-512688)
(86)(22)【出願日】2012年11月26日
(86)【国際出願番号】JP2012080496
(87)【国際公開番号】WO2013080925
(87)【国際公開日】20130606
【審査請求日】2015年11月4日
(31)【優先権主張番号】特願2011-259730(P2011-259730)
(32)【優先日】2011年11月29日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000222462
【氏名又は名称】東レフィルム加工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182785
【弁理士】
【氏名又は名称】一條 力
(72)【発明者】
【氏名】松本 忠
(72)【発明者】
【氏名】一ノ宮 崇
(72)【発明者】
【氏名】中川 金三
(72)【発明者】
【氏名】古市 奈菜子
【審査官】 川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−240131(JP,A)
【文献】 特開2001−194747(JP,A)
【文献】 特開2001−312169(JP,A)
【文献】 特開昭62−267110(JP,A)
【文献】 特開2009−248364(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/129167(WO,A1)
【文献】 特開2012−011735(JP,A)
【文献】 特開2012−245708(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 47/00−47/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Tダイから溶融樹脂を吐出し、冷却ローラーとニップローラーで挟圧、冷却することによりプラスチックフィルムを得る表面保護フィルムの製造方法であって、
前記ニップローラーは、前記表面保護フィルムの被着体と粘着する面とは反対側の面に接触し、
前記冷却ローラーとして算術平均粗さRaが0.2μm以下であるものを用い、
前記ニップローラーとして表面がエラストマーであって、十点平均粗さRzが2〜8μmかつ凹凸の平均間隔Smが90μm以下であるものを用いることを特徴とする表面保護フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記エラストマーは固体粒子を含むものであり、前記固体粒子のうち、粒子径が19μmを超えるものの体積が、固体粒子全体の体積の1%以下であることを特徴とする請求項1に記載の表面保護フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記エラストマーに含まれる前記固体粒子として、酸化アルミニウムを添加したことを特徴とする請求項2に記載の表面保護フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記エラストマーは回転する砥石で最終研磨されていることを特徴とする請求項2または3に記載の表面保護フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記エラストマーがRTVシリコーンゴムであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の表面保護フィルムの製造方法。
【請求項6】
Tダイ、冷却ローラー、および該冷却ローラーとともにTダイから吐出される溶融樹脂を狭圧、冷却するためのニップローラーを備えた表面保護フィルムの製造装置であって、
前記ニップローラーは、前記表面保護フィルムの被着体と粘着する面とは反対側の面に接触するものであり、
前記冷却ローラーの算術平均粗さRaが0.2μm以下であって、
前記ニップローラーの表面がエラストマーであり、十点平均粗さRzが2〜8μmかつ凹凸の平均間隔Smが90μm以下であることを特徴とする表面保護フィルムの製造装置。
【請求項7】
前記エラストマーは固体粒子を含むものであり、前記固体粒子のうち、粒子径が19μmを超えるものの体積が、固体粒子全体の体積の1%以下であることを特徴とする請求項6に記載の表面保護フィルムの製造装置。
【請求項8】
前記エラストマーに含まれる前記固体粒子として、酸化アルミニウムを添加したことを特徴とする請求項7に記載の表面保護フィルムの製造装置。
【請求項9】
前記エラストマーがRTVシリコーンゴムであることを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項に記載の表面保護フィルムの製造装置。
【請求項10】
表面がエラストマーであり、冷却ローラーとともにTダイから吐出される溶融樹脂を狭圧、冷却するためのフィルム製膜用ニップローラーであって、
前記ニップローラーは、表面保護フィルムの被着体と粘着する面とは反対側の面を形成するためのものであり、
前記ニップローラーの表面の十点平均粗さRzが2〜8μmかつ凹凸の平均間隔Smが90μm以下であり、
前記エラストマーは固体粒子を含むものであり、前記固体粒子のうち、粒子径が19μmを超えるものの体積が、固体粒子全体の体積の1%以下であることを特徴とするフィルム製膜用ニップローラー。
【請求項11】
前記エラストマーに含まれる前記固体粒子として、酸化アルミニウムを添加したことを特徴とする請求項10に記載のフィルム製膜用ニップローラー。
【請求項12】
前記エラストマーがRTVシリコーンゴムであることを特徴とする請求項10または11に記載のフィルム製膜用ニップローラー。
【請求項13】
単層または複数の層からなる表面保護フィルムであって、
一方の面の算術平均粗さRaが0.4μm以下であって、
もう一方の面が被着体と粘着する面とは反対側の面であり、十点平均粗さRzが3〜10μmかつ凹凸の平均間隔Smが90μm以下であって、
少なくとも十点平均粗さRzが3〜10μmかつ凹凸の平均間隔Smが90μm以下である面を形成する層が低密度ポリエチレン(LDPE)または直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)またはエチレン−メチルメタクリレート共重合体(EMMA)からなることを特徴とする表面保護フィルム。
【請求項14】
前記表面保護フィルムの前記もう一方の面における、大きさが0.05mm以上で高さ5μm以上の突起の数が1mあたり0個であることを特徴とする請求項13に記載の表面保護フィルム。
【請求項15】
単層または複数の層からなる表面保護フィルムであって、全ての層が低密度ポリエチレンまたは直鎖状低密度ポリエチレンで構成されていることを特徴とする請求項13または14に記載の表面保護フィルム。
【請求項16】
単層または複数の層からなる表面保護フィルムであって、全ての層が直鎖状低密度ポリエチレンで構成され、前記一方の面の算術平均粗さRaが0.2μm以下であることを特徴とする請求項13または14に記載の表面保護フィルム。
【請求項17】
フィルム厚み方向の圧縮弾性率が20〜70MPaであることを特徴とする請求項13乃至16のいずれか1項に記載の表面保護フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックフィルム、特に位相差フィルムなどの光学フィルムの表面を保護するための表面保護フィルムの製造方法および製造装置ならびに表面保護フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
表面保護フィルムはプラスチックフィルム、樹脂板、金属箔や金属板といった製品(以下、被着体と称す)を、製造工程中または輸送中のキズや汚れから守るために、被着体の表面に貼り付けて用いられる粘着性のプラスチックフィルムである。
【0003】
表面保護フィルムは使用条件に耐える必要最小限の粘着機能を保持しながら、表面保護機能を終えた際には、容易に剥離できる程度の密着力であることが要求され、しかも被着体に汚染や傷といった表面保護フィルムの痕跡を残さないことが要求される。特に、液晶ディスプレイに用いられる位相差フィルムなどの光学フィルムに用いる場合は、表面保護フィルム中のフィッシュアイと呼ばれる異物や酸化した樹脂による突起が被着体に打痕として転写しないことが厳しく要求される。この要求は近年、益々厳しくなってきており、被着体に表面保護フィルムが貼り合わされた後、ロール状に巻き取られ、巻体として長期間保管された際に、フィルム自身の張力によって内部圧力が上昇した場合においても、かかる転写欠点が発生しないことが要求される。
【0004】
かかるフィッシュアイを低減する手段として、表面保護フィルムに関してのものではないが特許文献1にTダイから吐出された溶融樹脂を平滑な表面(最大高さRyが0.5μm以下)を有する金属ローラーと弾性を有する表面平滑な(最大高さRyが0.5μm以下)タッチローラーで挟圧し、フィッシュアイを押し潰すという方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、表面保護フィルムは粘着性のフィルムであるため、ロール状に巻取った際に粘着力のある面(以下、粘着面と称す)ともう一方の面(以下、背面と称す)が粘着し、ブロッキングが発生しやすいという特徴を有しており、かかる特許文献1の技術を用いるだけでは、仮にフィッシュアイをすべて押し潰すことができたとしても、表面保護フィルムの両表面が平滑なものとなり、かかるブロッキングの問題が顕著となり、フィルムが巻き戻せなくなるなど、実用に耐えがたいものとなる問題があった。
【0006】
このブロッキング問題に対し、上記ニップローラー表面をゴムとすることで、背面に磨り硝子状面あるいはエンボス面を形成する方法が開示されている。(例えば特許文献2および3)
この方法によればニップローラーに被覆されたゴムの表面形状が転写されるために、フィルム背面が磨り硝子状の凹凸表面となり、クッション効果によってフィルム層間に空気が存在することとなり離型性が付与される。この離型性によりブロッキングを防止することができる。加えて、フィルムが滑りやすくなるために、きれいな巻姿が得られ易くなる。
【0007】
しかしながら、本発明者らの知見によれば、被着体がたとえば位相差フィルムなどの非常に軟質なフィルムである場合には、貼り合わせた後にロール状に巻取り、長期間保管した際に、背面の凹凸表面形状が被着体表面に打痕として転写してしまい、使用することが出来ないという問題がある。
【0008】
また、特許文献4においても、ブロッキング対策としてニップローラーおよびフィルム凹凸面の算術平均粗さRaを0.8〜10μmと規定しているものの、凹凸表面形状の被着体への転写については何ら考慮されていないため、Raが1μm以上では上記のとおり背面の凹凸表面形状が被着体表面に打痕として転写してしまう可能性が高く、また、Raが1μm未満であっても、凹凸の形状によっては同様に凹凸形状の転写を引き起こしてしまうという問題がある。これは算術平均粗さRaが頻度の少ない比較的大きな凹凸の形状や凹凸の密度を反映し難いパラメータであることに起因している。すなわち、凹凸表面形状の被着体への転写は凹凸の大きさや密度が影響するため、算術平均粗さRaのみを考慮していては凹凸表面形状の被着体への転写を防止することは困難であることを本発明者らは見いだした。
【0009】
また、本発明者らの提案(特許文献5)では、複数の層からなる表面保護フィルムにおいて、背面を担う層(以下、背面層)をポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂から構成することで、冷却ローラーとニップローラーで挟圧すること無く、緻密なエンボス面を形成する方法を提案しているが、この方法ではポリプロピレン系樹脂によって、背面が硬くなってしまうため、位相差フィルムのような特に軟質な被着体に貼り合わせ、ロール状に巻取り、長期間保管した場合では、背面の凹凸表面形状の被着体表面への転写を完全には防止できない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−330651号公報
【特許文献2】特開2005−28618号公報
【特許文献3】特許第2804609号公報
【特許文献4】特開2004−268328号公報
【特許文献5】特開2012−11735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上記問題を解決し、ロール状に巻き取った際にブロッキングを生じること無く、かつ、被着体に貼り合わせた後にロール状に巻取り、長期保管した際にも、背面の凹凸形状が被着体に転写することのない表面保護フィルムを製造することができる製造方法および製造装置、ならびに表面保護フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、Tダイから溶融樹脂を吐出し、冷却ローラーとニップローラーで挟圧、冷却することによりプラスチックフィルムを得る表面保護フィルムの製造方法であって、前記冷却ローラーの算術平均粗さRaが0.2μm以下であって、前記ニップローラーの表面がエラストマーであり、十点平均粗さRzが2〜8μmかつ凹凸の平均間隔Smが90μm以下であることを特徴とする表面保護フィルムの製造方法を提供する。
【0013】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記エラストマーは固体粒子を含むものであり、前記固体粒子のうち、粒子径が19μmを超えるものの体積が、固体粒子全体の体積の1%以下であることを特徴とする上記表面保護フィルムの製造方法を提供する。
【0014】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記エラストマーに含まれる前記固体粒子として、酸化アルミニウムを添加したことを特徴とする上記表面保護フィルムの製造方法を提供する。
【0015】
また、本発明の好ましい形態によれば前記エラストマーは回転する砥石で最終研磨されていることを特徴とする上記表面保護フィルムの製造方法を提供する。
【0016】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記エラストマーがRTVシリコーンゴムであることを特徴とする上記表面保護フィルムの製造方法を提供する。
【0017】
また、本発明の別の形態によれば、Tダイと冷却ローラーとニップローラーを備えた表面保護フィルムの製造装置であって、前記冷却ローラーの算術平均粗さRaが0.2μm以下であって、前記ニップローラーの表面がエラストマーからなり、十点平均粗さRzが2〜8μmかつ凹凸の平均間隔Smが90μm以下であることを特徴とする表面保護フィルムの製造装置を提供する。
【0018】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記エラストマーは固体粒子を含むものであり、前記固体粒子のうち、粒子径が19μmを超えるものの体積が、固体粒子全体の体積の1%以下であることを特徴とする上記表面保護フィルムの製造装置を提供する。
【0019】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記エラストマーに含まれる前記固体粒子として、酸化アルミニウムを添加したことを特徴とする上記表面保護フィルムの製造装置を提供する。
【0020】
また、本発明の好ましい形態によれば前記エラストマーは回転する砥石で最終研磨されていることを特徴とする上記表面保護フィルムの製造装置を提供する。
【0021】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記エラストマーがRTVシリコーンゴムであることを特徴とする上記表面保護フィルムの製造装置を提供する。
【0022】
また、本発明の別の形態によれば、表面がエラストマーからなるフィルム製膜用ニップローラーであって、該ニップローラー表面の十点平均粗さRzが2〜8μmかつ凹凸の平均間隔Smが90μm以下であることを特徴とするフィルム製膜用ニップローラーを提供する。
【0023】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記エラストマーは固体粒子を含むものであり、前記固体粒子のうち、粒子径が19μmを超えるものの体積が、固体粒子全体の体積の1%以下であることを特徴とする上記フィルム製膜用ニップローラーを提供する。
【0024】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記エラストマーに含まれる前記固体粒子として、酸化アルミニウムを添加したことを特徴とする上記フィルム製膜用ニップローラーを提供する。
【0025】
また、本発明の好ましい形態によれば前記エラストマーは回転する砥石で最終研磨されていることを特徴とする上記フィルム製膜用ニップローラーを提供する。
【0026】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記エラストマーがRTVシリコーンゴムであることを特徴とする上記フィルム製膜用ニップローラーを提供する。
【0027】
また、本発明の別の形態によれば、単層または複数の層からなる表面保護フィルムであって、一方の面の算術平均粗さRaが0.4μm以下であって、もう一方の面の十点平均粗さRzが3〜10μmかつ凹凸の平均間隔Smが90μm以下であって、少なくとも十点平均粗さRzが3〜10μmかつ凹凸の平均間隔Smが90μm以下である面を形成する層が低密度ポリエチレン(LDPE)または直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)またはエチレン−メチルメタクリレート共重合体(EMMA)からなることを特徴とする表面保護フィルムを提供する。
【0028】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記表面保護フィルムの前記もう一方の面において、大きさが0.05mm以上で高さ5μm以上の突起の数が1mあたり0個であることを特徴とする上記表面保護フィルムを提供する。
【0029】
また、本発明の好ましい形態によれば、単層または複数の層からなる表面保護フィルムであって、全ての層が低密度ポリエチレン(LDPE)または直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)で構成されていることを特徴とする上記表面保護フィルムを提供する。
【0030】
また、本発明の好ましい形態によれば、単層または複数の層からなる表面保護フィルムであって、全ての層が直鎖状低密度ポリエチレンで構成され、一方の面の算術平均粗さRaが0.2μm以下であることを特徴とする上記表面保護フィルムを提供する。
【0031】
また、本発明の好ましい形態によれば、フィルム厚み方向の圧縮弾性率が20〜70MPaであることを特徴とする上記表面保護フィルムを提供する。
【0032】
本発明における算術平均粗さ(Ra)、十点平均粗さ(Rz)および凹凸の平均間隔(Sm)はJIS B0601-1994に定義されているものを指す。
【0033】
また、本発明において、エラストマーとは高分子有機化合物またはそれを基本成分とする固体材料であって、JIS K6200において定義されているものをいう。例えば、シリコーンゴムやブダジエン・アクリロニトリル共重合体(NBR)やポリクロロプレン(CR)、クロロスルフォン化ポリエチレン(CSM)、エチレン・プロピレン共重合体、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、あるいはそれらに耐候性や滑り性、耐摩耗性などを向上する添加剤を加えたり、処方を施したりしたものである。
【0034】
また、本発明において、固体粒子とは有機物または無機物からなり、単体でゴム状弾性を有さない粒子状の固体を指す。エラストマーに充填剤として配合される固体粒子としては、たとえば酸化ケイ素や酸化アルミニウムおよびこれらを含む混合物が挙げられる。
【0035】
また、本発明において、回転する砥石で最終研磨されているとは、本研磨工程から使用までの間に、研磨紙および研磨布や固定された砥石および刃物などによる実質的な除去加工が行われないことを指す。たとえば不織布や織布による汚れや粗大突起などの除去工程は実質的にニップローラー表面の形状による特性を変化させるものではないため、上記除去加工には当たらない。
【0036】
本発明において、RTV(Room Temperature Vulcanization)シリコーンゴムとは室温環境にて液状からエラストマーに架橋するタイプのシリコーンゴムを指す。反対に架橋に加熱を要するシリコーンゴムをHTV(High Temperature Vulcanization)シリコーンゴムという。シリコーンゴムとしては、例えばメチルシリコーンゴム、ビニルメチルシリコーンゴム、フェニルメチルシリコーンゴム、フロロシリコーンゴムなどが挙げられる。
【0037】
本発明において、算術平均粗さRaが0.4μm以下である表面保護フィルムの一方の面は算術平均粗さRaが0.2μm以下である冷却ローラーの表面形状が転写されることにより形成され、十点平均粗さRzが3〜10μmかつ凹凸の平均間隔Smが90μm以下であるもう一方の面は十点平均粗さRzが2〜8μmかつ凹凸の平均間隔Smが90μm以下であるニップローラーの表面形状が転写されることにより形成される。
【0038】
本発明における低密度ポリエチレンおよび直鎖状低密度ポリエチレンとは、当業者が通常解釈するものと同一のものであって、公知の方法により製造されたものを好ましく使用できる。
【0039】
また本発明におけるフィルム厚み方向の圧縮弾性率とは、0.6MPaから12MPaの圧力下でフィルム厚み方向の弾性率を計測した値を言う。通常、測定値は図2に示すとおり上記圧力範囲内で一定の値を示さないため、その最大値と最小値の範囲を弾性率の範囲とし、圧縮弾性率が20〜70MPaであるとは、この最大値と最小値が共に20〜70MPaの範囲にあることを指す。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、以下に説明する通り、ロール状に巻き取った際にブロッキングを生じること無く、かつ、被着体に貼り合わせた後にロール状に巻取り、長期保管した際にも、背面の凹凸形状が被着体に転写することのない表面保護フィルムを製造することができる製造方法および製造装置、ならびに表面保護フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明における表面保護フィルムの製造装置の側面概略図である。
図2】本発明における表面保護フィルムの厚み方向の圧縮弾性率の測定結果の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の最良の実施形態の例を図面を参照しながら説明する。
【0043】
図1は、本発明における表面保護フィルムの製造装置の概略図である。本発明における表面保護フィルムの製造装置では、Tダイ1から吐出された溶融樹脂2を冷却ローラー4とニップローラー3によって挟圧、冷却することにより表面保護フィルム6を得る。
【0044】
次いで必要に応じ、スリット工程11にて裁断、もしくはエッジ13のトリミングを行い、巻取り工程12にてロール状に巻取られ、フィルムロール10となる。その後、必要に応じ再度スリット工程やその他の加工工程を経て製品ロールとなる。
【0045】
Tダイ1は図示しない押出機によって溶融混練され、送られてきた溶融樹脂2を、図面に対し奥行き方向に設けられたスリットから連続的に吐出することにより、溶融樹脂2をシート状に押出す。押出機とTダイ1の間にポリマーフィルターと呼ばれる濾過装置を設けると、フィッシュアイの混入を低減できるため好ましい。Tダイ1のスリットの幅は好ましくは調整可能であって、フィルム6の幅方向の厚み斑を制御する。製膜されるフィルム厚みは、樹脂の吐出速度と冷却ローラーの回転速度の比によって調整できる。製膜する表面保護フィルムが多層構造である場合には、Tダイ1の上流にフィードブロックを設けるか、Tダイ1をマルチマニホールド構造とし共押出とすることにより多層フィルムを得ることが可能である。
【0046】
Tダイ1と冷却ローラー4およびニップローラー3の位置関係は、効果的にフィッシュアイを圧潰し、ニップローラー3の表面形状を溶融樹脂2に精度良く転写するために、冷却前の溶融状態で溶融樹脂2を挟圧することが好ましいため、図1に示すようにニップ点に直接溶融樹脂2が侵入するようTダイ1または冷却ローラー4の位置を調整することが好ましいが、粘着面や背面の面性状を見ながら必要に応じ適宜調整してもよい。
【0047】
冷却ローラー4は例えば内部に冷媒を流通させる流路を有し、表面温度を制御することができる構造のものが用いられる。冷却ローラー4の表面温度は溶融樹脂2の種類や溶融樹脂2と冷却ローラー4との接触時間、および室温や湿度によって適宜設定されるが、製膜速度や表面保護フィルムの表面品位の観点から10〜60℃であることが好ましく、より好ましくは15〜40℃である。冷却ローラー4表面の温度が上記範囲内であれば、実用的な製膜速度の範囲において溶融樹脂2を冷却、固化させることが容易であり、また、製膜中の冷却ローラー4表面上に結露が発生することによる表面保護フィルム6の表面品位の悪化を防止することも容易となる。
【0048】
冷却ローラー4の表面の材質は特に限定されないが、金属またはセラミックスまたは樹脂および樹脂と金属の複合膜、さらにはダイヤモンドライクカーボンなどの炭素系被膜を用いることができる。また、エラストマーを冷却ローラー4の表面材質として用いることも可能であるが、断熱性により冷却効率が低下しやすくなるほか、ゴム硬度の柔らかいものでは摩耗による表面形状の変化が起きやすくなるため、表面層の厚みが1〜5mmであってゴム硬度が80Hs JIS A以上のエラストマーを用いることが好ましく、熱伝導率が高く硬質な金属やセラミックスなどを用いる方がより好ましい。金属としては鉄や鋼、ステンレスやクロム、ニッケルなどが好ましく使用できる。また、セラミックスとしては、アルミナや炭化ケイ素、窒化ケイ素の焼結体を好ましく使用することができる。冷却ローラー4の表面形状は溶融樹脂に転写し、表面保護フィルムの粘着面形状となるため、表面保護フィルム6の外観品位低下や凸状欠点の発生を防止する観点からも、耐久性および防錆に優れた工業用クロムメッキやセラミックスを用いることが好ましい。冷却ローラー4の表面を金属とするためには、金属素材を用いた機械加工の他、電気メッキや無電解メッキなどの公知の表面処理技術を適宜用いることができる。また、同様にセラミックス表面を得るためには、セラミックス素材を用いた機械加工の他、熔射やコーティングなどの公知の表面処理技術を適宜用いることができる。
【0049】
上述の通り、冷却ローラー4の表面形状は溶融樹脂2に転写し、表面保護フィルム6の粘着面の形状を決定する。表面保護フィルム6の粘着力は粘着面の算術平均粗さRaが大きいほど小さくなり、被着体に粘着しなくなる。粘着付与剤などの添加剤を樹脂に混ぜることにより、粘着力を強くすることも可能であるが、表面保護フィルム6を被着体から剥がした際に被着体に添加剤が残留してしまったり、添加剤によって樹脂の再利用が困難になってしまうことから、樹脂単体で表面保護フィルムとして十分な粘着力を発現することは品質面でもコスト面でも重要となる。このため、冷却ローラー4の算術平均粗さRaを0.2μm以下としている。より好ましくは0.1μm以下である。冷却ローラー4の算術平均粗さRaを0.2μm以下とすることによって、低密度ポリエチレンや直鎖状低密度ポリエチレンといったポリエチレン樹脂単体でも被着体に対し十分な粘着力を発現することが可能である。なお、算術平均粗さRaを0.001μm未満とすることは、製作上、非常に困難でありコストもかかることから算術平均粗さRaは0.001μm以上であることが好ましいが、0.001μm未満であっても本発明の効果を失うものでははい。
【0050】
冷却ローラー4の算術平均粗さRaを0.2μm以下にすることは、たとえばバフ研磨加工などの一般的な鏡面研磨加工により達成可能である。
【0051】
ニップローラー3は金属、またはプラスチック、または繊維強化樹脂などの円筒状構造材料にエラストマーを被覆した構造であって、冷却ローラー4と同様に表面温度を制御出来る構造であることが好ましい。ニップローラー3の表面をエラストマーとすることにより、冷却ローラー4とニップローラー3の製作精度やたわみ、および溶融樹脂2の吐出厚み斑に起因するニップ斑を防止することが可能となり、例えば厚みが100μm以下であるような薄い表面保護フィルム6を製膜する場合にも、全幅に渡り均一な表面形状を得ることが可能となる。エラストマーを被覆する手段としては、各種ゴムローラーを製造する場合と同様に、シート状の未加硫ゴムを巻き付けて加硫する方法や、液状の未加硫ゴムを塗布または金型内に充填させて加硫する方法、さらには、加硫済みのゴムチューブに芯金を挿入し接着する方法などがある。
【0052】
通常、プラスチックや繊維強化樹脂は金属に比べ熱伝導率が低いために、内部からの冷却が表面まで伝達されず、表面温度を効果的に下げることが出来ないため、前記円筒状構造材料としては金属が好ましく、たとえば鉄や鋼、ステンレスが好ましく用いられる。
【0053】
また、エラストマーとしては、例えばシリコーンゴムやブダジエン・アクリロニトリル共重合体(NBR)やポリクロロプレン(CR)、クロロスルフォン化ポリエチレン(CSM)、エチレン・プロピレン共重合体、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、あるいはそれらに耐候性や滑り性、耐摩耗性、熱伝導率などを向上する添加剤を加えたり、処方を施したりしたものを使用できるが、本発明においては、RTVシリコーンゴムが特に好適に使用される。
【0054】
RTVシリコーンゴムはHTVシリコーンゴムやその他のゴムに比べ、溶融ポリオレフィン系樹脂に対し、特に優れた離型性を有し、ニップローラー3の表面温度が高温となる条件においても、溶融樹脂2がゴム表面に粘着することを防ぐことが出来る。溶融樹脂2がニップローラー3の表面に粘着し難いということは、粘着起因のニップローラー3への溶融樹脂2の巻き付きによる製膜速度の制限が著しく上昇し、生産性が向上するという効果を得るに留まらず、ニップローラー3の表面温度を下げるためにバックアップローラーを用いる必要がなくなる。すなわち、バックアップローラーによってニップローラー3の表面を摩耗することがないために、長期間にわたりニップローラー3の表面形状を所望の状態に維持することができる。これにより、後述するように表面保護フィルム6をロール状に巻き取った際にブロッキングやシワといった巻姿欠点を生じることなく、かつ、被着体に表面保護フィルム6の背面の凹凸形状を転写させることのない表面粗さをもつ表面保護フィルム6を安定して得ることが可能となる。
【0055】
エラストマーには通常、主にエラストマーの補強や、増量によるエラストマーの価格低減のため、充填剤と呼ばれる有機物および/または無機物からなる固体粒子が配合されている。充填剤としてはたとえば酸化ケイ素や酸化アルミニウム、カーボンブラックおよびこれらを含む混合物が用いられる。充填剤の粒子径は用途やコストにより様々なものが用いられ、一般的なローラー用途としては平均粒子径が10μmから30μm程度で最大粒子径が30μmから70μm程度である充填剤が用いられることが多い。本発明においても充填剤を配合したエラストマーを好ましく適用することができ、また、モバイル端末用位相差フィルムなどの非常に厳密な打痕欠点を指摘される用途においては、固体粒子のうち、粒子径が19μmを超えるものの体積が、固体粒子全体の体積の1%以下である充填剤を配合したエラストマーが特に好ましく用いられる。固体粒子のうち、粒子径が19μmを超えるものの体積が、固体粒子全体の体積の1%以下である充填剤であれば平均粒子径などの粒度分布は特に限定されるものではないが、酸化アルミニウムなどの金属酸化物からなる充填剤の場合、一般的に平均粒子径は5μmから17μmの範囲を取る。
【0056】
エラストマーに配合された充填剤は、表面研磨時や使用中にエラストマーから脱落し、ニップローラー表面に凹みを発生させる。特に粒子が複数個集まった状態で存在している場合や、周辺のエラストマーを巻き込んで脱落する場合には、粒子の大きさよりも大きな凹みを発生させる。冷却ローラー4とニップローラー3で溶融樹脂2を挟圧する際、この凹みに溶融樹脂2が入り込み、表面保護フィルム6の背面に突起を形成する。充填剤の固体粒子のうち、粒子径が19μmを超えるものが1%を超えると、大きさが0.05mm以上で高さが5μm以上の突起が表面保護フィルム6の背面に形成される可能性が高くなる。大きさが0.05mm以上で高さが5μm以上の突起が表面保護フィルム6の背面に形成されると、非常に厳密な打痕欠点を指摘される用途においては、被着体に貼り合わせた後にロール状に巻取り、長期間保管した際に、突起が転写し打痕欠点と見なされる場合がある。充填剤の固体粒子のうち、粒子径が19μmを超えるものの体積が、固体粒子全体の体積の1%以下であるエラストマーを用いることで、背面における大きさが0.05mm以上で高さが5μm以上の突起が0個である表面保護フィルムを得ることが可能となる。
【0057】
充填剤は通常、エラストマー原料の製造段階で配合されており、エラストマー原料は大量生産されている場合がほとんどであるから、ユーザーが充填剤の粒子径を任意に変更することは難しい。本発明においては、充填剤の最大粒子径を任意に決定するために、充填剤が配合されていないエラストマー原料または極めて粒子径の小さな充填剤が配合されているエラストマー原料に酸化アルミニウムの粒子を混合させる手法を用いることが好ましい。酸化アルミニウムの粒子は研磨材用に市販されているため、安価に混合が可能であり、JIS R 6001−1998に規定されている精密研磨用微粉#2000から#4000が好適に使用出来る。精密研磨用微粉#2000よりも粒子径が大きいと粒子径が19μmを超えるものが1%を超えてしまい、#4000よりも粒子径が小さくなると、研磨後のニップローラー3の表面が平滑になりやすく、十点平均粗さRzが後述する2μmより大きくすることが困難になる場合があるため、上記範囲が好ましい。なお、固体粒子の粒子径の測定にはレーザ回折・散乱法を用いた粒度分布測定器(たとえば株式会社セイシン企業製LMS−30)を用いることが出来る。
【0058】
エラストマーの硬さは特に限定されないが、樹脂の厚み斑への追従性と耐久性の観点から40〜95Hs JIS A(JIS K 6301―1995)が好ましく、より好ましくは65〜90Hs JIS Aである。すなわち、エラストマーの硬度が40Hs JIS A未満であるような軟質のゴムではすぐに表面が摩耗してしまい、一定の表面形状を保つことが難しくなる。また、製膜する表面保護フィルム6の厚みが100μm以下であるような場合には、硬度が95Hs JIS Aを超えるような硬さであると、Tダイ1から吐出された溶融樹脂2の厚みの斑にゴムが追従することが出来ずに、ニップ斑が発生し、ローラー表面形状の溶融樹脂2への転写斑となり品位を低下させてしまうおそれがある。また、冷却ローラー4とニップローラー3で溶融樹脂2を挟圧する際に、溶融樹脂中のフィッシュアイを押しつぶすといった効果を得るためには、65Hs JIS A以上のゴム硬度を有していることが好ましい。
【0059】
エラストマーの厚みは1〜15mmであることが好ましく、より好ましくは3〜5mmである。エラストマーの厚みを上記範囲とすることにより、ニップローラー3表面の冷却効果とゴム弾性によるニップ斑防止効果の両立を得やすくなる。
【0060】
ニップローラー3の表面の十点平均粗さRzは2〜8μmであり、かつ凹凸の平均間隔Smが90μm以下であり、好ましくはSmが70μm以下である。ニップローラー3の表面粗さは溶融樹脂2に転写され、表面保護フィルム6の背面の凹凸形状を形成するため、ニップローラー3の十点平均粗さRzが8μmを超えると、表面保護フィルム背面6の十点平均粗さRzが10μmを超えてしまい位相差フィルムなどの軟質な被着体に表面保護フィルム6を貼り合わせた後、ロール状に巻取り長期間保管した際に、背面の凹凸表面形状が被着体表面に転写してしまう。また、ニップローラー3の十点平均粗さRzが2μmを下回ると、表面保護フィルム6の背面の十点平均粗さRzが3μmを下回り、粘着面との離型性が低下し、表面保護フィルム3を巻取った際にブロッキングが発生する可能性が高くなる。また、摩擦係数が上昇し滑りにくくなるために、シワなどの巻姿欠点が発生し易くなる。加えて、表面保護フィルム6の背面の凹凸形状によるクッション性が著しく低下するために、フィッシュアイが被着体に転写し易くなる。さらに、十点平均粗さRzが上記範囲にあったとしても、ニップローラー3の表面の凹凸の平均間隔Smが90μm以上である場合、上述のような凹凸表面形状の被着体への転写や、巻取り時のブロッキングやシワといった欠陥が生じやすくなる。ニップローラー3の表面の凹凸の平均間隔Smが90μmよりも大きくなると、表面保護フィルム6の背面の凹凸の平均間隔Smも90μm以上となり表面の凹凸形状における凸の数が少なくなり、被着体と表面保護フィルム6の背面の真実接触面積が減少する。これにより局所圧力が上昇するため、凹凸形状の被着体への転写が発生し易くなると考えられる。また、凹凸の平均間隔Smが100μmを超えるような面では、表面保護フィルム6の背面のほとんどが平滑となってしまうために、凹凸によるクッション性も失われ、フィッシュアイも転写し易い上、離型性も低下するためにブロッキングなどの原因となってしまう。上記の通りニップローラー3の表面の凹凸の平均間隔Smは値が小さいほど凹凸表面形状の被着体への転写や、巻取り時のブロッキングやシワに有利となるが、ローラー表面の加工が困難なことや表面保護フィルム6の背面への転写が困難となることから凹凸の平均間隔Smは10μm以上であることが好ましい。
【0061】
ニップローラー3および表面保護フィルム6の背面の表面形状のパラメータとして十点平均粗さRzを用いることで凹凸形状の転写の原因となる凹凸の絶対的な高さおよび深さを、凹凸の平均間隔Smを用いることで凹凸の密度を制御することが可能となる。なお、ニップローラー3および表面保護フィルム6の背面の算術平均粗さRaと十点平均粗さRzの値にはほとんど関係性は無く、発明者らの知見によれば、Rzの値はRaの値の3〜20倍と広い範囲の値をとる。
【0062】
ニップローラー3の十点平均粗さRzおよび凹凸の平均間隔Smはエラストマーに配合された充填剤の粒子径と表面研磨方法によって決定される。ニップローラー3の十点平均粗さRzおよび凹凸の平均間隔Smを上記の範囲とするためには、たとえば、充填剤の最大粒子径が90μm以下であるエラストマーを用い、最終研磨仕上げに用いるサンドペーパーの粒度をP600(JIS R 6010―2000)とすることで可能であるが、前述のとおり充填剤の最大粒子径が19μm以下のエラストマーを用いることが特に好ましい。また、最終研磨仕上げは回転する砥石による研磨であることが特に好ましい。研磨工程では通常、ローラーを回転させながら研磨していくが、サンドペーパーによる手仕上げなどの研磨材が固定された研磨方法では、ローラー回転方向にスジ状の研磨跡が発生しやすい。ニップローラー3の表面にスジ状の研磨跡があると、表面保護フィルム6の背面にスジ状の突起が形成されるため、被着体が特に軟らかい場合では、被着体に欠点として転写してしまう場合がある。回転する砥石による研磨の場合、研磨材が常に移動しているため、スジ状の研磨跡は発生しない。通常、砥石による研磨はサンドペーパーによる研磨よりも表面粗さが粗くなるため、上記表面粗さを実現することが困難であるが、充填剤の固体粒子のうち、粒子径が19μmを超えるものが1%以下であるエラストマーを用いて、たとえば粒度#800(JIS R 6001−1998)の砥石を回転させながら研磨することにより、容易に上記表面粗さを実現することが可能となる。
【0063】
冷却ローラー4にニップローラー3を押し付ける手段としては、冷却ローラー4とニップローラー3間の隙間またはニップローラー3の押し込み量、すなわちニップローラー3と冷却ローラー4との相対位置をテーパーブロックなどを挟み込む方法などによって制御する方法を用いても良いし、ニップローラー3を押し付ける力をエアシリンダーなどによって制御する方法を用いても良いが、ニップ点での溶融樹脂2の厚みが100μm以下であるような薄いフィルムを製膜する場合や、ニップローラー3に被覆されたエラストマーのゴム硬度が90Hs JIS A以上の場合は、押し込み量による制御では圧力の斑が大きくなりすぎてしまう場合があるため、押付力を制御する方法が好ましい。押付圧力は適宜設定されるが、0.1〜5kN/m程度の範囲とすることが好ましい。押付圧力が上記範囲であればニップローラー3表面の溶融樹脂2への転写が良好に行われ、フィッシュアイを押しつぶす効果も得られ易く、ニップローラー3表面のエラストマーの寿命も長くなり、かつニップローラー3のたわみも抑えられるため幅方向に均一な挟圧が得やすい。
【0064】
溶融樹脂2は単層または複数の層からなるポリオレフィン系樹脂であって、少なくともニップローラー3に接触する側の層は低密度ポリエチレンまたは直鎖状低密度ポリエチレンまたはエチレン−メチルメタクリレート共重合体(EMMA)である。ニップローラー3に接触する側の層を軟質な低密度ポリエチレンまたは直鎖状低密度ポリエチレンまたはエチレン−メチルメタクリレート共重合体(EMMA)とすることで、表面保護フィルム6の背面の凹凸形状の被着体への転写を防止することが可能となる。また、「ポリオレフィン系樹脂」とは、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、およびエチレン−メチルメタクリレート共重合体などのエチレン共重合体などから選ばれる少なくとも1種類以上のポリオレフィン系樹脂であって、ポリエチレン樹脂としては低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンなどを挙げることができる。本実施形態においては、低密度ポリエチレンおよび直鎖状低密度ポリエチレンが好ましく用いられ、密度0.91〜0.935g/cmの低密度ポリエチレンおよび密度0.87〜0.935g/cmの直鎖状低密度ポリエチレン(ここで直鎖状低密度ポリエチレンとは密度0.87〜0.92g/cmのいわゆる直鎖状超低密度ポリエチレンをも含む)が特に好ましく用いられる。
【0065】
また、これらの樹脂であれば、上述の通り、粘着面の表面粗さを算術平均粗さRaを0.4μm以下とすることにより、粘着付与剤等の添加剤無しに十分な粘着力を得られるため、品質面、コスト面共に優れた表面保護フィルム6を得ることが出来る。通常、位相差フィルムなどの平滑表面を有する光学フィルムにおいては、粘着力は0.02〜0.3N/50mmであることが好ましく、0.04〜0.2N/50mmであることがさらに好ましい。粘着力を上記範囲とすることにより粘着力不足による被着体の製造工程中の表面保護フィルム6の剥がれや、被着体から表面保護フィルム6を剥がす際の被着体へのダメージを防止し易くなる。この目的のために、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂を用い、さらに粘着面の算術平均粗さRaを0.2μm以下とすることにより、安定した粘着力を達成しやすい。粘着面の算術平均粗さRaを0.2μm以下とするためには、冷却ローラー4の算術平均粗さRaが0.1μm以下であることが好ましい。また、ニップローラー3表面のエラストマーに含まれる固体粒子のうち、粒子径が19μmを超えるものの体積が、固体粒子全体の体積の1%以下であることが好ましい。前述の通り、エラストマーに含まれる固体粒子のうち、粒子径が19μmを超えるものの体積が、固体粒子全体の体積の1%以下であれば、表面保護フィルム4の背面に、大きさが0.05mm以上で高さが5μm以上の突起が形成され難くなり、また上記サイズを下回る突起の数も減少する。背面に突起が形成される際には、同時に逆側の面である粘着面に凹みが形成されるため、背面の突起を減らすことにより、粘着面の凹みも減少するため、算術平均粗さRaが0.2μm以下の粘着面が得やすくなる。
【0066】
また、表面保護フィルム6は多層構造であっても良いし、単層構造であっても良い。例えば、3層構造として中間層に再利用原料を用いた場合では、原料コストを抑えることが出来るし、単層構造とした場合には装置構成が単純になるために、設備費および保全費を抑えることが出来る。また、単層構造または多層構造とする場合においても各層の樹脂を同種のものとすれば、容易に原料を再利用することが出来るために好ましい。しかしながら、樹脂を再利用した場合ではフィッシュアイの発生数が多くなり易いため、フィッシュアイによる被着体への打痕転写防止の観点からは、再利用品ではない樹脂を用いることが好ましい。
【0067】
表面保護フィルム6の厚み方向の圧縮弾性率は20〜70MPaであることが好ましく、より好ましくは25〜50MPaである。冷却ローラー4とニップローラー3で挟圧することによって、フィッシュアイや異物は圧潰または埋没するが、フィッシュアイや異物の大きさがフィルム厚みに対して大きい場合や異物が硬い場合には圧潰または埋没が十分に行われないことがある。この場合に厚み方向の圧縮弾性率が70MPa以下であると、厚み方向のクッション性によって、フィッシュアイや異物が被着体により転写し難くなる。また、厚み方向の圧縮弾性率が20MPa以上であれば、巻取り時のフィルム層間圧力により表面保護フィルム6の背面の凹凸の潰れが抑制されやすく、より離型性が損なわれ難いために、巻取張力などの巻取条件に大きな制約をかけること無く、良好な巻姿を得やすくなる。溶融樹脂2を低密度ポリエチレン又は直鎖状低密度ポリエチレンの単種構造とすることにより、上記圧縮弾性率を持った表面保護フィルムを容易に得ることが可能となる。
【0068】
圧縮弾性率の測定方法としては、例えば成型されたフィルムを厚みが2mmとなるように重ね、オートグラフにて歪み速度0.5mm/秒にて圧縮歪みを与えて、歪みに対する圧力を測定し弾性率を計算する。プラスチックフィルムの弾性率は通常、図2に示すように圧力に対し一定の値を示さないため、本発明においては、圧力が0.6〜12MPaの範囲内における弾性率の最大値と最小値の範囲を圧縮弾性率の範囲とする。
【実施例】
【0069】
以下、本発明を実施例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、各種物性値の測定方法、および評価方法を以下に示す。
【0070】
(1)表面粗さ
冷却ローラーおよびニップローラーの表面粗さは株式会社ミツトヨ製小型表面粗さ測定器(サーフテスト SJ−301)を用い、触針先端半径2.0μm、頂角60°のダイヤモンド針を使用、測定力0.75mNにて、JIS B0601−1994に準拠し、算術平均粗さ(Ra)、十点平均粗さ(Rz)および凹凸の平均間隔(Sm)をロール軸方向に評価長さ4mm、基準長さ0.8mm、カットオフ0.8mmで測定した。
【0071】
また、表面保護フィルムの表面粗さは、株式会社小坂研究所製の全自動微細形状測定機(SURFCORDER ET4000A)を用い、JIS B0601−1994に準拠し、フィルム横方向(フィルムのTD方向)に測定長さ2mmで、長手方向(フィルムのMD方向)に10μmピッチで20回測定して3次元解析し、算術平均粗さ(Ra)、十点平均粗さ(Rz)および凹凸の平均間隔(Sm)をそれぞれ求めた(単位はμm)。尚、触針先端半径2.0μm、頂角60°のダイヤモンド針を使用、測定力10μN、カットオフ0.8mmで測定した。
【0072】
(2)表面保護フィルムの貼り付け
温度23℃、湿度50%RHの条件下で24時間、保管・調整した実施例および比較例の試料サンプルを厚み50μmの環状オレフィンからなる位相差フィルム(被着体)に、ロールプレス機(株式会社安田精機製作所製特殊圧着ローラ)を用い、貼込圧力9,100N/m、貼込速度300cm/分で貼り付けた。しかる後、温度23℃、湿度50%RH条件下で24時間保管した後、各測定と評価に用いた。
【0073】
(3)粘着力
引張試験機(株式会社オリエンテック“テンシロン”万能試験機)を用い、引張速度300mm/分、剥離角度180°にて粘着力を測定した。
【0074】
(4)フィッシュアイの被着体への転写性(被着体へのへこみ発生)
予め表面保護フィルムのフィッシュアイ欠点を国立印刷局製造のきょう雑物測定図表と対比し、0.05mm〜0.1mmサイズのフィッシュアイ欠点部を選別し、該欠点を有する部分を含む表面保護フィルムを被着体と貼り合わせた後、両側を平滑なポリカーボネート板(板厚み2mm)で挟み込み、荷重1.3kg/cmを負荷し、60℃熱風オーブン中で3日間保管した後、室温に戻し、その後、被着体より試料フィルムを剥がした後、被着体にフィッシュアイによるへこみが生じていないか判定した。
【0075】
○:フィッシュアイによるへこみ発生が全く認められない
△:僅かにフィッシュアイによるへこみが認められる
×:フィッシュアイによるへこみが明らかに認められる。
【0076】
(5)巻姿
表面保護フィルムをロール状に巻取った後、12時間経過したものを目視にて確認し、シワの発生状況を確認し、シワの発生が認められなかった物を○、軽度のシワの発生が認められたものを△、強度のシワの発生が認められた物を×とした。
【0077】
(6)ブロッキング
ロール状に巻き取った表面保護フィルムを手で50m巻き出し、その地点からさらに5m巻き出す際に、目視で粘着面と背面の粘着が認められなかったものを○、認められたものを×とした。
【0078】
(7)背面の凹凸形状の被着体への転写性
表面保護フィルムと被着体を5枚ずつ交互に重ね合わせ貼り合わせたのち、両側を平滑なポリカーボネート板(板厚み2mm)で挟み込み、荷重1.3kg/cmを負荷し、60℃熱風オーブン中で3日間保管した後、室温に戻し、その後、被着体より試料フィルムを剥がした後、被着体の表面を目視にて観察し、背面の凹凸形状により被着体に凹みが生じていないか判定した。
【0079】
○:背面の凹凸形状によるへこみ発生が全く認められない
△:僅かに背面の凹凸形状によるへこみが認められる
×:背面の凹凸形状によるへこみが明らかに認められる。
【0080】
(8)背面の突起数
表面保護フィルムを1mにカットし、背面の突起を国立印刷局製造のきょう雑物測定図表と対比し、0.05mm以上の大きさの突起を選定したのち、超深度カラー3D形状測定顕微鏡(株式会社キーエンス製VK−9500)にて大きさ及び高さを測定し、大きさが0.05mm以上で高さが5μm以上の突起を計数した。なお、フィッシュアイと突起の判別は、フィッシュアイ(突起)部分を切断し、フィッシュアイの核となる異物および酸化物の有無によって行った。
【0081】
(9)スジ状の研磨跡
暗室にてニップローラー表面に、ローラ軸方向に対し5〜20°の角度でライトを照射し、目視にてスジ状の研磨跡の有無を確認した。スジ状の研磨跡をはっきりと確認出来るものを×、うっすらと確認出来るものを△、確認出来ないものを○とした。
【0082】
(10)圧縮弾性率
表面保護フィルムを厚みが2mmとなるように重ね、株式会社島津製作所製オートグラフ(AGS−100)にてひずみ速度0.5mm/秒にて圧縮し圧力を測定した。測定した圧力と歪みから応力−歪み線図を求め、圧力が0.6MPaから12MPaの範囲内で縦弾性率の最大値と最小値を求めた。
【0083】
(11)ニップローラー最高表面温度
製膜中のニップローラーの温度を株式会社キーエンス製放射温度計(IT2−100)にて測定し、製膜速度を徐々に増加させていった際に、溶融樹脂がニップローラーに粘着し巻き付く直前の温度をニップローラー最高表面温度とした。
【0084】
(実施例1)
図1に示すプラスチックフィルムの製膜装置を用いて、スリット幅を0.9mmに調整したマルチマニホールド式Tダイから密度0.91g/cmの直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を単種2層構成にて吐出し、冷却ローラーとニップローラーにて挟圧、冷却し、厚み30μmの表面保護フィルムとし、ワインダーにて巻き取り、フィルムロールを得た。冷却ローラーの表面は工業用クロムめっきとし、算術平均粗さRaは0.1μmとした。また、ニップローラー表面にはRTVシリコーンゴムを被覆し、十点平均粗さRzを3.4μm、凹凸の平均間隔Smを44μmとした。得られた表面保護フィルムの粘着面の表面粗さは算術平均粗さRaが0.11μm、背面の表面粗さは十点平均粗さRzが4.5μm、凹凸の平均間隔Smが37μmで、厚み方向の圧縮弾性率は31〜44MPaであった。
【0085】
(実施例2)
ニップローラー表面十点平均粗さRzを6.4μm、凹凸の平均間隔Smを67μmとしたこと以外は、実施例1と同じ装置および方法にて表面保護フィルムを製膜し、フィルムロールを得た。得られた表面保護フィルムの粘着面の算術平均粗さRaは0.12μm、背面の十点平均粗さRzは7.7μm、凹凸の平均間隔Smが49μmで、厚み方向の圧縮弾性率は28〜55MPaであった。
【0086】
(実施例3)
樹脂を密度0.92g/cmの高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)の単種2層構成とした以外は、実施例2と同じ装置および方法にて表面保護フィルムを製膜し、フィルムロールを得た。得られた表面保護フィルムの粘着面の算術平均粗さRaは0.28μm、背面の十点平均粗さRzが7.9μm、凹凸の平均間隔Smが49μmで、厚み方向の圧縮弾性率は32〜63MPaであった。
【0087】
(実施例4)
ニップローラーにHTVシリコーンゴムを被覆し、十点平均粗さRzを7.2μm、凹凸の平均間隔Smを70μmとした以外は、実施例1と同じ装置および方法にて表面保護フィルムを製膜し、フィルムロールを得た。得られた表面保護フィルムの粘着面の算術平均粗さRaは0.12μm、背面の十点平均粗さRzが9.2μm、凹凸の平均間隔Smが63μmで、厚み方向の圧縮弾性率は26〜44MPaであった。
【0088】
(実施例5)
樹脂を2種2層構成とし、粘着面側の層の樹脂を直鎖状低密度ポリエチレンとし、背面側の層の樹脂をエチレン−メチルメタクリレート共重合体(EMMA)とした以外は、実施例1と同じ装置および方法にて表面保護フィルムを製膜し、フィルムロールを得た。得られた表面保護フィルムの粘着面の算術平均粗さRaは0.17μm、背面の十点平均粗さがRzは5.0μm、凹凸の平均間隔Smが39μmで、厚み方向の圧縮弾性率は40〜79MPaであった。
【0089】
(実施例6)
ニップローラー表面に充填剤の固体粒子のうち、粒子径が19μmを超えるものが約3%となるように酸化アルミニウム粉を混入したRTVシリコーンゴムを被覆し、粒度P600のサンドペーパーで最終研磨を行った。ニップローラー表面の十点平均粗さRzは4.0μm、凹凸の平均間隔Smは55μmであった。これらを除いて実施例1と同じ装置および方法にて表面保護フィルムを製膜し、フィルムロールを得た。得られた表面保護フィルムの粘着面の算術平均粗さRaは0.12μm、背面の十点平均粗さRzが4.4μm、凹凸の平均間隔Smが53μmで、厚み方向の圧縮弾性率は32〜46MPaであった。
【0090】
(実施例7)
ニップローラー表面に充填剤の最大粒子径が19μm、すなわち固体粒子のうち、粒子径が19μmを超えるものが0%となるように酸化アルミニウム粉を混入したRTVシリコーンゴムを被覆し、回転する粒度#800の砥石で最終研磨を行った。ニップローラー表面の十点平均粗さRzは3.6μm、凹凸の平均間隔Smは51μmであった。これらを除いて実施例1と同じ装置および方法にて表面保護フィルムを製膜し、フィルムロールを得た。得られた表面保護フィルムの粘着面の算術平均粗さRaは0.11μm、背面の十点平均粗さRzが3.9μm、凹凸の平均間隔Smが51μmで、厚み方向の圧縮弾性率は32〜45MPaであった。
【0091】
(実施例8)
ニップローラー表面に充填剤の最大粒子径が11μmとなるように酸化アルミニウム粉を混入したRTVシリコーンゴムを被覆し、回転する粒度#800の砥石で最終研磨を行った。ニップローラー表面の十点平均粗さRzは3.2μm、凹凸の平均間隔Smは50μmであった。これらを除いて実施例1と同じ装置および方法にて表面保護フィルムを製膜し、フィルムロールを得た。得られた表面保護フィルムの粘着面の算術平均粗さRaは0.14μm、背面の十点平均粗さRzが3.4μm、凹凸の平均間隔Smが49μmで、厚み方向の圧縮弾性率は33〜45MPaであった。
【0092】
(比較例1)
冷却ローラーの算術平均粗さRaを0.3μmとした以外は、実施例1と同じ装置および方法にて表面保護フィルムを製膜し、フィルムロールを得た。得られた表面保護フィルムの粘着面の算術平均粗さRaが0.42μm、背面の十点平均粗さRzが5.7μm、凹凸の平均間隔Smが38μmで、厚み方向の圧縮弾性率は32〜50MPaであった。
【0093】
(比較例2)
ニップローラーの十点平均粗さRzを1.6μm、凹凸の平均間隔Smを35μmとした以外は、実施例1と同じ装置および方法にて表面保護フィルムを製膜し、フィルムロールを得た。得られた表面保護フィルムの粘着面の算術平均粗さRaは0.11μm、背面の十点平均粗さRzが2.6μm、凹凸の平均間隔Smが31μmで、厚み方向の圧縮弾性率は31〜50MPaであった。
【0094】
(比較例3)
ニップローラーの十点平均粗さRzを9.5μm、凹凸の平均間隔Smを72μmとした以外は、実施例1と同じ装置および方法にて表面保護フィルムを製膜し、フィルムロールを得た。得られた表面保護フィルムの粘着面の算術平均粗さRaは0.28μm、背面の十点平均粗さRzが11.5μm、凹凸の平均間隔Smが66μmで、厚み方向の圧縮弾性率は24〜48MPaであった。
【0095】
(比較例4)
ニップローラーの十点平均粗さRzを6.8μm、凹凸の平均間隔Smを93μmとした以外は、実施例1と同じ装置および方法にて表面保護フィルムを製膜し、フィルムロールを得た。得られた表面保護フィルムの粘着面の算術平均粗さRaは0.14μm、背面の十点平均粗さRzが6.7μm、凹凸の平均間隔Smが91μmで、厚み方向の圧縮弾性率は34〜68MPaであった。
【0096】
(比較例5)
ニップローラーの十点平均粗さRzを7.0μm、凹凸の平均間隔Smを154μmとした以外は、実施例1と同じ装置および方法にて表面保護フィルムを製膜し、フィルムロールを得た。得られた表面保護フィルムの粘着面の算術平均粗さRaは0.15μm、背面の十点平均粗さRzが5.0μm、凹凸の平均間隔Smが199μmで、厚み方向の圧縮弾性率は34〜73MPaであった。
【0097】
(比較例6)
樹脂を2種2層構成とし、粘着面側の層の樹脂を直鎖状低密度ポリエチレンとし、背面側の層の樹脂をポリプロピレンホモポリマー(PP)とした以外は、実施例1と同じ装置および方法にて表面保護フィルムを製膜し、フィルムロールを得た。得られた表面保護フィルムの粘着面の算術平均粗さRaは0.14μm、背面の十点平均粗さがRzは5.3μm、凹凸の平均間隔Smが39μmで、厚み方向の圧縮弾性率は38〜60MPaであった。
【0098】
各実施例および比較例の評価結果を表1、表2に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
実施例1〜7にて得られた表面保護フィルムは、粘着面の算術平均粗さRaが0.11〜0.28μmとなり、粘着力は被着体への粘着に十分とされる0.03N/50mm以上であり、また、背面の十点平均粗さRzは3.4〜9.2μmかつ凹凸の平均間隔Smが37〜63μmであり、フィッシュアイおよび背面の凹凸形状が被着体に転写することなく、ブロッキングやシワのない良好な巻姿であった。
【0102】
また、ニップローラー表面にRTVシリコーンゴムを被覆した実施例1〜3および5〜7では、ニップローラーの表面温度が140℃に達しても溶融樹脂とニップローラー表面の粘着は確認されなかった。ニップローラー表面にHTVシリコーンゴムを被覆した実施例4ではニップローラーの表面温度が80℃に達すると溶融樹脂とニップローラー表面の粘着が発生し、溶融樹脂がニップローラーに巻き付いたため、製膜が不可能となったが、製膜速度を下げ、ニップローラー表面温度を60℃とした状態では安定して製膜が可能であった。
【0103】
実施例5では粘着層と背面層に異なる樹脂を用いたため再生原料とすることが困難であるものの、評価項目については良好な結果であった。
【0104】
実施例7および8ではエラストマーの充填剤の固体粒子のうち、粒子径が19μmを超えるものが1%以下となるようにしたため、表面保護フィルム背面における大きさが0.05mm以上で高さが5μm以上の突起は0個であった。また、回転する砥石にてニップローラー表面の最終研磨を行ったため、スジ状の研磨跡は確認されなかった。モバイル端末用位相差フィルムを被着体とするような、非常に厳密な打痕欠点を指摘される用途においては、実施例7及び8のように0.05mm以上で高さが5μm以上の突起が0個である表面保護フィルムが特に好ましく、スジ状の研磨跡のない表面保護フィルムがより好ましく用いられる。
【0105】
比較例1にて得られたフィルムは粘着面の算術平均粗さRaが0.42μmとなり、粘着力は発現しなかった。また、比較例2では背面の十点平均粗さRzが2.6μmと小さいために微量ながらフィッシュアイの被着体への転写が発生し、また、粘着面と背面の離型性が不足したために、ブロッキングおよびシワが発生した。比較例3では背面の十点平均粗さRzが11.5μmと大きく、被着体への背面の凹凸形状の転写が確認された。比較例4および5では背面の凹凸の平均間隔が大きいために被着体への背面の凹凸形状の転写およびフィッシュアイの転写が確認され、また、比較例5では粘着面と背面の離型性が不足したために、ブロッキングおよびシワが発生し巻姿不良となった。比較例6では背面層にPPを用いたため硬くなってしまい、背面の凹凸が被着体に転写した。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、ポリオレフィン系表面保護フィルムの製造方法および製造装置に限らず、その他プラスチックフィルムの製造方法および製造装置などにも応用することができるが、その応用範囲が、これらに限られるものではない。
【符号の説明】
【0107】
1 Tダイ
2 溶融樹脂
3 ニップローラー
4 冷却ローラー
5 引き剥がしローラー
6 表面保護フィルム
7 カッター
8 エッジ吸引管
9 ニアローラー
10 フィルムロール
11 スリット工程
12 巻取り工程
13 フィルムエッジ
A フィルム進行方向
図1
図2