【実施例】
【0027】
実施例1:豆乳リパーゼ処理物
豆乳(817g、豆乳脂肪3.6%含有)に食塩(155g)を加え攪拌しながら加熱し、85℃達温後、10分保持し原料の殺菌を行った。40℃まで冷却後、リパーゼAY(0.9g、天野エンザイム社製)を殺菌水(16.0g)に分散したリパーゼ剤を添加した。同温でリパーゼ処理反応を行い、定期的にサンプリングを行い、酸価を基準として反応の終点を決定した。40℃/22時間で豆乳脂肪が完全に分解された。反応液を85℃加温、15分保持した後、45〜50℃に冷却、メッシュろ過し、豆乳リパーゼ処理物960gを得た。この処理物の酸価は5.8で豆乳脂肪分が100%分解されたことを示し、このリパーゼ処理された豆乳960g中には豆乳リパーゼ処理物を3.1%含有することを示す。これを本発明品1とした。
【0028】
ここで大豆油のけんか価は190とした。また、酸価は日本工業規格(JIS K0070)に定められた方法により測定した。
【0029】
実施例2:大豆油添加豆乳リパーゼ処理物
豆乳(750g、豆乳脂肪3.6%含有)、食用大豆油(67g)に食塩(155g)を加え攪拌しながら加熱し、85℃達温後、10分保持し原料の殺菌を行った。40℃に冷却後、リパーゼAY(1.7g、天野エンザイム社製)を殺菌水(16.0g)に分散したリパーゼ剤を添加した。同温でリパーゼ処理反応を行い、定期的にサンプリングを行い、酸価を基準として反応の終点を決定した。40℃/22時間で設定した酸価となった。反応液を85℃加温、15分保持した後、45〜50℃に冷却、メッシュろ過し、大豆添加豆乳リパーゼ処理物988g)を得た。この処理物の酸価は11.2であり、原料豆乳中の脂肪と添加した大豆油の62質量%がリパーゼにより分解したことを示す。これを本発明品2とした。
【0030】
比較例1:大豆油リパーゼ処理物
食用大豆油(750g)、リン酸バッファー水(150g、pH7.1)を加え攪拌しながら加熱し、85℃達温後、15分保持し原料の殺菌を行った。30℃に冷却後、リパーゼAY(0.1g、天野エンザイム社製)を添加した。同温で実施例1と同様に反応のモニタリングを行った。30℃/24時間、酸価119を示した。20%食塩水(300g)を加え、85℃達温後、15分保持し反応物を殺菌、水層を分離し、大豆油リパーゼ処理物720gを得た。この処理物の酸価は127であり、添加した大豆油の67質量%がリパーゼにより分解したことを示す。これを比較品1とした。
【0031】
実施例3:本発明品1、2および比較品1の官能評価
本発明品1および2の1%豆乳希釈液を調製した。比較品1の大豆油リパーゼ処理物は、リパーゼ分解物の濃度を勘案し、0.1%豆乳希釈液を調製した。
それぞれの希釈液の添加量を表1示した通り0.1g〜10.0gまで段階的に変え、豆乳を加えて全量を100gに調整し、風味を熟練したパネラー7名で評価した。
評価は無添加の豆乳を比較対象として、各希釈液を添加した豆乳についてコク味・濃厚感、エグ味の強度を以下の指標で表した。−:全く感じられない、+/−:明確な差が感じられない、+:明確に感じられる、++:強く感じられる、+++:非常に強く感じられる。
【0032】
【表1】
【0033】
表1に示した通り、本発明品1(豆乳リパーゼ処理物)は希釈液添加量0.5g(本発明品1の豆乳への添加濃度50ppm)からコク味の付与効果が感じられ、希釈品添加量2.0g(本発明品1の豆乳への添加濃度200ppm)添加すると、コク味に加えて濃厚感も感じると評価された。それに対し、マイナスの効果であるエグ味は希釈品添加量10.0g(本発明品1の豆乳への添加濃度1000ppm)まで感じられなかった。本発明品2(大豆油添加豆乳リパーゼ処理物)は希釈液添加量0.5g(本発明品2の豆乳への添加濃度50ppm)でコク味・濃厚感が感じられ、エグ味については希釈液添加量5.0g(本発明品2の豆乳への添加濃度500ppm)まで感じないと評価された。一方、比較品1(大豆油リパーゼ処理物)は希釈液添加量0.5g(比較品1の豆乳への添加濃度5ppm)からコク味・濃厚感が感じられるが、エグ味については、希釈液添加量0.5g(比較品1の豆乳への添加濃度5ppm)の低濃度の添加においても、すでにエグ味が認識され、添加濃度を増やすとエグ味がさらに増加すると評価された。すなわち、コク味・濃厚感を付与する濃度と同程度の濃度でエグ味も付与されることが示された。これらの結果から、本発明品1〜3は豆乳に対してエグ味を付与することなくコク味・濃厚感を増強させる効果があり、大豆風味付与剤として有用であることが認められた。
【0034】
実施例4:本発明品1(豆乳リパーゼ処理物)に食用植物油脂を添加した大豆風味付与剤の官能評価
実施例1で得られた豆乳リパーゼ処理物(本発明品1:原料として豆乳80%使用)100質量部にキサンタンガム0.1質量部を添加し、さらに、食用植物油脂として大豆油、サフラワー油またはこめ油をそれぞれ、本発明品1(100質量部)に対し、食用植物油脂0.4g(対原料豆乳0.5質量%)、0.8g(対原料豆乳1質量%)、3.2g(対原料豆乳4質量%)、6.4g(対原料豆乳8質量%)、9.6g(対原料豆乳12質量%)、12.8g(対原料豆乳16質量%)、16.0g(対原料豆乳20質量%)添加し、ホモゲナイザーで均質化して、以下の大豆風味付与剤(各7種類、合計21種類)を調製した。
これらの大豆風味付与剤を、実施例3と同様に、1%豆乳希釈液を調製し、更に、希釈液2.0gを豆乳98.0gに添加し、大豆風味付与剤添加量が200ppmである豆乳(官能評価用サンプル)を調整した。これらの官能評価用サンプルの風味を熟練したパネラー7名で官能評価した。
食用植物油脂を添加した大豆風味付与剤によるコク味・濃厚感、エグ味および添加した油脂の油脂感について実施例3と同一の評価基準、油脂感については以下の基準で評価した。
油脂感の評価基準:−:油脂感が感じられない、+/−:油脂感がわずかに感じられる、+:油脂感が明確に感じられる、++:油脂感が強く感じられる、+++:油脂感が非常に強く感じられる。
【0035】
【表2】
【0036】
表2に示した通り、大豆油、サフラワー油およびこめ油を豆乳リパーゼ処理物(本発明品1)に対し0.8質量%添加したものは、明確にコク味・濃厚感を感じ、エグ味は感じられないと評価された。また、添加量が12.8%を超えると油脂感が感じられはじめ、16%以上では油脂感を強く感じるようになった。特に、大豆油では添加量が12.8%以上において、油脂感が感じられるものの、コク味・濃厚感が強く感じられ良好であった。
【0037】
これらの結果から、原料豆乳に対し0.5〜20質量%(豆乳リパーゼ処理物である本発明品1を100質量部に対して対し0.4質量部〜16質量部)、特に原料豆乳に対し1.0〜15質量%程度の食用植物油脂を添加することにより良好な風味となり、大豆風味付与剤として有用であると認められた。
【0038】
実施例5:豆乳リパーゼ処理物からなる大豆風味付与剤
豆乳(817g、豆乳脂肪3.6%含有)に食塩(155g)を加え攪拌しながら加熱し、85℃達温後、10分保持し原料の殺菌を行った。40℃まで冷却後、リパーゼAY(0.9g、天野エンザイム社製)を殺菌水(16.0g)に分散したリパーゼ剤を添加した。同温でリパーゼ処理反応を行い、定期的にサンプリングを行い、酸価を基準として反応の終点を決定した。40℃/22時間で豆乳脂肪が完全に分解された反応液にキサンタンガム(1.0g)および食塩(10.0g)を添加し、85℃加温、15分保持し殺菌した後、45〜50℃に冷却、ホモゲナイザーで均質化した後、メッシュろ過し、大豆風味付与剤885gを得た。この大豆風味付与剤は酸価:5.4を示した。これを本発明品3とした。
【0039】
実施例6:豆乳リパーゼ処理物に食用植物油脂を添加した大豆風味付与剤
実施例5と同様に、豆乳(817g、豆乳脂肪3.6%含有)に食塩(155g)の混合物に対してリパーゼ処理操作を行った。22時間反応により豆乳脂肪を完全に分解した後、大豆油(73g)、キサンタンガム(1.0g)および食塩(10.0g)を添加し、85℃加温、15分保持し殺菌した後、45〜50℃に冷却、ホモゲナイザーで均質化した後、メッシュろ過し、豆乳リパーゼ処理物に食用植物油脂を添加した大豆風味付与剤960gを得た。この大豆風味付与剤は酸価:5.8を示した。これを本発明品4とした。
【0040】
実施例7:大豆油添加量の異なる大豆油添加豆乳リパーゼ処理物(リパーゼ処理前に大豆油添加)
豆乳(75g、豆乳脂肪3.6%含有)、食塩(15.5g)の混合物に大豆油を下記に示す量添加した。0.8g(対豆乳1質量%添加、その後引き続き行う工程により得られた処理品を本発明品5とした、以下同様。)、1.5g(対豆乳2質量%:本発明品6)、6.0g(対豆乳8質量%:本発明品7)、9.0g(対豆乳12質量%:本発明品8)、12.0g(対豆乳16質量%:本発明品9)、15.0g(対豆乳20質量%:本発明品10)。
大豆油添加後、それぞれを加熱攪拌し85℃達温後、10分保持し原料の殺菌を行った。40℃に冷却後、各サンプルにリパーゼ剤(リパーゼAY(0.2g、天野エンザイム社製)を殺菌水(1.6g)に分散)を加え、同温でリパーゼ処理反応を行った。酸価を分解の指標として、定期的にモニタリングを行い、全脂肪の約2/3が分解された時点で反応を終点とした。40℃/22〜24時間で設定した酸価を示した。各反応液を85℃、15分間保持した後、45〜50℃に冷却、メッシュろ過し、キサンタンガム(0.1g)を加え、ホモゲナイザーで均質化し、大豆油添加量の異なる大豆油添加豆乳リパーゼ処理物を原料とした本発明品5〜10を調製した。
【0041】
実施例8:本発明品5〜本発明品10の官能評価
本発明品5〜10の1%豆乳希釈品を調製した。さらに、各希釈品2.0gを豆乳98.0gに加え、豆乳に対して本発明品5〜10、それぞれの添加量が200ppmとなるように調整した官能評価用サンプル6品を調製し、熟練したパネル7名で風味について評価した。
評価は大豆風味付与剤無添加の豆乳を比較対象として、コク味、濃厚感、エグ味および油脂感の強度を以下の指標で表した。−:全く感じられない、+/−:明確な差が感じられない、+:明確に感じられる、++:強く感じられる、+++:非常に強く感じられる。
【0042】
【表3】
【0043】
表3に示した通り、豆乳に対して1質量%の大豆油を添加してリパーゼ処理した本発明品5は、コク味は感じられるが濃厚感が不足するという評価であった。大豆油添加量が豆乳に対して2質量%以上の本発明品6〜10は、コク味、濃厚感共に良好な効果が得られたが、コク味は大豆油添加量が豆乳に対して2〜12質量%の範囲で特に強かった。一方、エグ味は大豆油の添加量が16質量%の本発明品9では明確に感じ、20質量%添加した本発明品10では強く感じるという評価であった。
また、大豆油を添加したことによる油脂感は20質量%まで添加した本発明品10でも感じることはできなかった。
以上の結果より、豆乳に対してリパーゼ処理する前に食用植物油脂を添加する場合、豆乳に対し1〜15%の範囲であれば、エグ味を付与せずに、特にコク味・濃厚感を強化できる大豆風味付与剤として使用できることが認められた。
【0044】
実施例9:大豆油を添加した豆乳をリパーゼ処理した大豆風味付与剤
豆乳(750g、豆乳脂肪3%含有)、食用大豆油(67g)に食塩(155g)を加え攪拌しながら加熱し、85℃達温後、10分保持し原料の殺菌を行った。40℃に冷却後、リパーゼAY(1.7g、天野エンザイム社製)を殺菌水(16.0g)に分散したリパーゼ剤を添加した。同温でリパーゼ処理反応を行い、定期的にサンプリングを行い、40℃/22時間で全体の油脂の2/3が分解した時点で反応を終了した。キサンタンガム(1.0g)および食塩(10.0g)を添加し、反応液を85℃加温、15分保持した後、45〜50℃に冷却し、ホモゲナイザーで均質化した後、メッシュろ過し、大豆添加豆乳リパーゼ処理物を原料とした大豆風味付与剤(850g、酸価:11.2=豆乳脂肪:0.8%、豆乳脂肪リパーゼ処理物:1.5%、大豆油:2.3%および大豆油リパーゼ分解物4.5%との混合物)を得た。実施例9で得た大豆風味付与剤を本発明品11とした。
実施例10:本発明品3、4および11の大豆風味付与効果
市販豆乳(成分無調整)に本発明品3を200ppm、本発明品4を200ppm、または、本発明品11を200ppmそれぞれ添加した豆乳を調製した。市販豆乳(成分無調整)を比較品として、それぞれの風味を熟練したパネル7名により評価した。
また、市販豆腐用豆乳に本発明品3を200ppm、本発明品4を200ppm、または、本発明品11を200ppmそれぞれ添加し、ニガリを加え、豆腐を調整した。本発明品無添加の豆腐用豆乳にて調整した豆腐を比較品として、それぞれの風味を熟練したパネル7名により評価し、その平均的な評価結果を表4に示した。
【0045】
【表4】
【0046】
表4に示したように本発明品3、4および11は低濃度の添加で大豆風味を増強する効果があることが認められた。