特許第6121972号(P6121972)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6121972
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】モータ停止距離を短縮する数値制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/00 20160101AFI20170417BHJP
   B23Q 15/00 20060101ALI20170417BHJP
   G05B 19/19 20060101ALI20170417BHJP
   G05B 19/18 20060101ALI20170417BHJP
   H02P 3/00 20060101ALI20170417BHJP
   H02P 5/46 20060101ALI20170417BHJP
【FI】
   H02P29/00
   B23Q15/00 C
   G05B19/19 X
   G05B19/18 X
   G05B19/19 W
   H02P3/00 A
   H02P3/00 H
   H02P5/46 F
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-215564(P2014-215564)
(22)【出願日】2014年10月22日
(65)【公開番号】特開2016-82850(P2016-82850A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2015年11月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大西 優輝
【審査官】 森山 拓哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−341944(JP,A)
【文献】 特開平01−106120(JP,A)
【文献】 特開平04−069132(JP,A)
【文献】 特開平05−146989(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/00−29/68
H02P 3/00− 3/26
B23Q 15/00
G05B 19/18
G05B 19/19
H02P 5/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを制御する数値制御装置において、緊急停止指令時には緊急停止用の位置制御のゲインを用いて停止させる停止手段を有し、現在の速度と緊急停止用のゲインから算出される緊急停止位置に指令位置を変更して、位置制御のままで急停止することを特徴とする数値制御装置。
【請求項2】
前記緊急停止用の位置制御のゲインは、あらかじめモータ制御方式を速度制御として急停止を行い、前記急停止したときの速度および前記急停止までに要した移動距離から算出することを特徴とする請求項1に記載の数値制御装置。
【請求項3】
複数軸が補間しながら指令経路に沿って運転中に、前記緊急停止指令を実行した場合、各軸が同期を保って停止できる最短の位置となるよう指令位置を出力することで緊急停止時に軸同士の位置関係を失わないことを特徴とする請求項1または2に記載の数値制御装置。
【請求項4】
前記緊急停止用の位置制御のゲインは、条件の異なる複数のパターンに応じて複数の緊急停止用位置制御のゲインを保持でき、緊急停止時には状況に応じた緊急停止用の位置制御のゲインを選択することを特徴とする請求項1〜の何れか一つに記載の数値制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータを制御する数値制御装置に関し、特に、モータ停止距離を短縮する数値制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械や産業用ロボットなどのモータで駆動される機械において、安全対策上の要請により緊急停止スイッチが押されたり、アラームの発生などによって緊急停止状態となり、被駆動体を緊急停止させる必要がある場合がある。
モータを停止させる場合、通常時はモータ制御方式が位置制御のままで停止させるが、異常発生などの緊急時はモータ制御方式を位置制御から速度制御へと切り替え、速度ゼロを指令することにより、モータの回転速度がゼロとなるよう速度制御してモータの緊急停止を行っていた。図1はモータを停止させる従来技術を説明する図である。モータの回転速度がゼロとなるように速度制御し、通常停止より停止距離が短縮される。
【0003】
特許文献1には、異常発生等でモータの緊急停止を行う場合、緊急停止指令時にモータ制御方式を位置制御から速度制御に切り替え、モータの回転速度がゼロとなるよう速度制御し、通常停止よりも停止距離が短縮される緊急停止を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−143780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
緊急停止指令に応じモータの速度指令値をゼロとするため、モータ制御方式を緊急停止指令時は位置制御から速度制御に切り替えて停止させる従来技術には、位置制御の打ち切りに起因する問題が生じていた。
速度制御に切り替わったモータを位置制御で再度駆動させる場合、位置制御を打ち切った時点からの移動によって蓄積したサーボ位置偏差量をクリアし、数値制御装置が管理する現在位置へそのクリア量について反映(フォローアップ)する必要があり、緊急停止から運転復旧までのタイムロスの一因となってしまう。なお、フォローアップを行わずに位置制御に戻した場合、蓄積していたサーボ位置偏差量がゼロになるようモータが急激に動く可能性があり危険である。
【0006】
また、緊急停止指令に応じて、モータ制御方式を位置制御から速度制御に切り替えて停止させるために短い停止距離での停止が実現できるが、切り替えによって、以下の新たな課題が発生することになる。複数モータが補間しながら指令経路に沿った運転を行っている最中に、緊急停止指令を実行すると、位置制御から速度制御に切り替わり、複数モータが協調せず別々に急停止する。その結果、モータ間の位置制御における同期性が失われ、指令経路から外れた位置で停止する。これにより、加工継続および運転復旧が困難になり、また、不良品が発生する可能性もある。
【0007】
そこで本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、速度制御による停止を事前に試行しておくことでモータの停止特性データを取得し、この取得データから緊急停止用の位置制御のゲインを算出しておき、緊急停止時は通常のゲインから緊急停止用に算出しておいた高いゲインへと切り替え、位置制御のままで緊急停止を行い、モータ停止距離を短縮する数値制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明ではまず、速度制御による停止を事前に試行しておくことでモータの停止特性データを取得し、この取得データから緊急停止用の位置制御のゲインを算出しておく。緊急停止時は通常のゲインから緊急停止用に算出しておいた高いゲインへと切り替え、位置制御のままで緊急停止を行う。位置制御のゲインとは位置指令に対する応答の係数であり、ゲインの値を高くすると位置制御の応答は上がるが、値を高くしすぎると不安定な動作となる。
【0009】
本願の請求項1に係る発明は、モータを制御する数値制御装置において、緊急停止指令時には緊急停止用の位置制御のゲインを用いて停止させる停止手段を有し、現在の速度と緊急停止用のゲインから算出される緊急停止位置に指令位置を変更して、位置制御のままで急停止することを特徴とする数値制御装置である。
請求項2に係る発明は、前記緊急停止用の位置制御のゲインは、あらかじめモータ制御方式を速度制御として急停止を行い、前記急停止したときの速度および前記急停止までに要した移動距離から算出することを特徴とする請求項1に記載の数値制御装置である
請求項に係る発明は、数軸が補間しながら指令経路に沿って運転中に、前記緊急停止指令を実行した場合、各軸が同期を保って停止できる最短の位置となるよう指令位置を出力することで緊急停止時に軸同士の位置関係を失わないことを特徴とする請求項1または2に記載の数値制御装置である。
請求項に係る発明は、前記緊急停止用の位置制御のゲインは、条件の異なる複数のパターンに応じて複数の緊急停止用位置制御のゲインを保持でき、緊急停止時には状況に応じた緊急停止用の位置制御のゲインを選択することを特徴とする請求項1〜の何れか一つに記載の数値制御装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により急停止時に最短距離で停止するための適切な位置制御のゲインが算出できる。緊急停止時にはこの位置制御のゲインを適用することで、モータ制御方式を位置制御から速度制御に切り替えずに最短距離で緊急停止を行える。したがって、複数軸が補間したまま停止するため、軸同士の同期性を維持して停止できる。また、速度制御に切り替えて緊急停止させていた場合に停止後に行っていた、サーボ位置偏差量をクリアし数値制御装置が管理する現在位置へそのクリアした量を反映(フォローアップ)し、速度制御から位置制御に戻すといった一連の動作が必要ないため、緊急停止から運転復旧までの稼動停止時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】モータを停止させる従来技術を説明する図である。
図2】回転しているモータを停止させる場合、ゲインを高くすると素早く停止することが可能であるが、ゲインを高くしすぎるとオーバシュートしてモータが逆回転してしまうことを説明する図である。
図3】高ゲインに切り替え位置制御で緊急停止させる制御を説明する図である。
図4】緊急停止用の位置制御のゲインを算出する手段を備えた制御装置を説明する図である。
図5】緊急停止が実行された場合、位置制御のゲインを事前に試行しておいた従来の緊急停止(速度制御)により算出しておいた緊急停止用の位置制御のゲインへと切り替える制御を説明するフローチャートである。
図6】緊急停止指令時に終点(停止位置)変更なしの場合(図6(a))と、終点(停止位置)変更ありの場合(図6(b))を説明する図である。
図7】緊急停止指令が実行された場合、位置制御のゲインを事前に試行しておいた従来の緊急停止(速度制御)により算出しておいた緊急停止用の位置制御のゲインへと切り替え、次に、現在のモータ速度より緊急停止位置を算出し、指令位置を緊急停止位置に変更する制御を説明するフローチャートである。
図8】緊急停止時に軸同士の位置関係を失わない各軸の緊急停止指令位置を決定して指令経路を外れずに停止する制御を説明する図である。
図9】補間している全ての軸でループ処理を行い、基準軸以外の軸ならば緊急停止用の位置制御のゲインを基準軸と同じ値に変更し、指令経路上で停止できるよう終点位置を変更する処理を示すフローチャートである。
図10】複数軸で加工する平歯車の熱間転造を示す図である。
図11】モータ停止距離を短縮する数値制御装置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
速度制御による緊急停止の事前試行により緊急停止時のモータ停止特性データを取得し、取得したデータから緊急停止用の位置制御のゲインを算出しておく。緊急停止時はあらかじめ算出しておいた緊急停止用の位置制御のゲインへと切り替え、位置制御で急停止させることによりモータ停止距離を短縮する数値制御装置を提供する。また、複数軸が補間しながら動作している場合も位置制御での停止を行うことで軸同士の同期性を維持したまま最短距離で停止できる。
【0013】
<請求項1、2の実施形態>
回転しているモータを停止させる場合、ゲインを高くすると素早く停止させることが可能であるが、ゲインを高くしすぎるとオーバシュートしてモータが逆回転してしまう(図2参照)。
【0014】
そこで本発明では、最初に、従来の緊急停止手段である速度制御での速度ゼロ指令による緊急停止を試行し、このときの停止開始時の速度と、停止までに移動した距離から、最適な位置制御のゲインを算出する。緊急停止時は、モータの位置制御のゲイン設定値を事前の試行において算出しておいた緊急停止用の位置制御のゲインへと切り替えることで、速度制御での速度ゼロ指令に相当する急停止が可能となる。
【0015】
図3は高ゲインに切り替え位置制御で緊急停止させる制御を説明する図である。図3(a)は位置制御による通常の停止を説明する図である。図3(b)は速度制御による緊急停止を説明する図である。図3(c)は高ゲインに切り替え位置制御で緊急停止することを説明する図である。ゲイン切り替えを実行することにより高いゲインのため早く停止する。
【0016】
(緊急停止用の位置制御のゲインの算出)
本発明では図3(b)に示される従来の緊急停止を試行した結果、減速開始までの速度がVで、減速開始から停止までの間の移動量がLであった場合、以下の計算式(数1)によって緊急停止用の位置制御のゲインが算出される。
[緊急停止用の位置制御のゲイン]=V÷L ・・・ (数1)
【0017】
図4は緊急停止用の位置制御のゲインを算出する手段を備えた制御装置を説明する図である。後述するモータを制御する数値制御装置10は、試行実行手段30、緊急用のゲイン記憶部31、停止手段32を備えている。試行実行手段30は、減速開始するときの速度Vと、減速開始から停止するまでの移動量Lを用いて、数式1によって、緊急停止用の位置制御のゲインを算出する。速度Vや移動量Lは従来から数値制御装置10が取得可能な物理量である。試行実行手段30により算出された緊急停止用の位置制御のゲインは緊急用のゲイン記憶部31に記憶される。そして、緊急時に実行される停止手段32は緊急用のゲイン記憶部31に記憶されたゲインを読み込み、本発明に係る緊急停止用の位置制御によるモータの停止を実行する。
【0018】
(フローチャート)
図5は緊急停止が実行された場合、位置制御のゲインを事前に試行しておいた従来の緊急停止(速度制御)により算出しておいた緊急停止用の位置制御のゲインへと切り替える制御を説明するフローチャートである。以下、各ステップに従って説明する。
●[ステップsa01]緊急停止指令がなされたか否かを判別し、緊急停止指令がなされた場合、ステップsa02へ移行し、緊急停止指令がなされていない場合、ステップsa03へ移行する。
●[ステップsa02]ゲインの設定値を緊急用に切り替えて処理を終了する。
●[ステップsa03]ゲインの設定値を切り替えないで処理を終了する。
【0019】
<請求項3の実施形態>
図6は緊急停止指令時に終点(停止位置)変更なしの場合(図6(a))と、終点(停止位置)変更ありの場合(図6(b))を説明する図である。
【0020】
位置制御のゲインを高めることによって緊急停止時に素早い停止を実現することができるが、緊急停止指令時に位置指令を変更しないと、通常の位置制御のゲインで停止できる大きな量のサーボ位置偏差量が蓄積されているため、停止時間は短くなるが、停止距離はゲインを高めない場合と変わらず長くなってしまう(図6(a))。
【0021】
そこで、緊急停止時には緊急停止位置を算出し、その位置を指令終点へと変更することにより、停止可能な最短の距離で停止させる。これにより緊急停止時に速度制御に切り替えて速度指令ゼロで停止する場合と同等の距離での停止ができ、かつ、停止時には位置制御のままでサーボ位置偏差量もゼロであるため、すぐに次の移動を指令することが可能となる(図6(b))。
【0022】
(緊急停止位置の算出)
以下の計算式によって緊急停止位置が算出される。
[緊急停止位置]=[速度]÷[緊急停止用の位置制御のゲイン]+[減速開始位置] ・・・ (数2)
【0023】
図4の数値制御装置10に示したように、緊急停止位置の算出手段33により、緊急停止位置を数2式により算出する。減速開始を開始する時の速度は、緊急停止の指令がなされたときの、サーボモータの回転速度のデータを用いることができる。また、減速開始位置は、緊急停止の指令がなされたときの、各軸の位置(サーボモータの回転位置)のデータを用いることができる。
【0024】
(フローチャート)
図7は緊急停止指令が実行された場合、位置制御のゲインを事前に試行しておいた従来の緊急停止(速度制御)により算出しておいた緊急停止用の位置制御のゲインへと切り替え、次に、現在のモータ速度より緊急停止位置を算出し、指令位置を緊急停止位置に変更する制御を説明するフローチャートである。以下、各ステップに従って説明する。
【0025】
●[ステップsb01]緊急停止指令がなされたか否かを判別し、緊急停止指令がなされた場合、ステップsb02へ移行し、緊急停止指令がなされていない場合、ステップsb05へ移行する。
●[ステップsb02]ゲインの設定値を緊急用に切り替える。
●[ステップsb03]緊急停止位置を算出する。
●[ステップsb04]緊急停止位置に指令位置を変更し処理を終了する。
●[ステップsb05]ゲインの設定値を切り替えないで処理を終了する。
【0026】
<請求項4の実施形態>
従来の制御方式により複数モータが補間しながら指令経路に沿った運転を行っている最中に、緊急停止指令を実行すると、位置制御から速度制御に切り替わり、複数モータが協調せず別々に急停止する。このため、モータ間の位置制御における同期性が失われ、指令経路から外れた位置で停止する危険性がある。
【0027】
そこで本発明では、補間している軸の中の1軸を基準軸とする。そして基準軸以外の軸が、同期を保って経路を外れずに停止できる最短の位置となるよう指令位置を出力することで、緊急停止時に軸同士の位置関係を失わない各軸の緊急停止指令位置を決定して指令経路を外れずに停止する。
【0028】
ここで、図8を例として、X軸とY軸の2軸が補間しながら位置制御で動作している最中に緊急停止指令を実行する場合を説明する。図8(a)は従来方式(速度制御)による停止で、指令経路上で停止しない。図8(b)は本発明の位置制御による停止で、各軸の位置をX軸とY軸とで独立して停止位置を設定する場合であって、この場合、各軸を指令経路上で停止しない可能性がある。図8(c)は本発明の位置制御による停止で、基準軸に基づいて各軸の終点位置を変更する場合、指令経路上で各軸を停止することができる。
【0029】
上述したように、従来方式(速度制御)では、位置制御を行わないためX軸とY軸が独立に停止する。その結果、元々の指令経路上ではない位置で停止してしまう危険性がある(図8(a))。また、本発明による位置制御で軸ごとにあらかじめ測定した緊急停止用の位置制御のゲインに基づいて終点位置を設定する場合、図8(a)の従来方式(速度制御)と同様の停止位置となるため、元々の指令経路上ではない位置に停止してしまう可能性がある(図8(b))。
【0030】
そこで、本発明の位置制御で緊急停止制御を行う際に、基準軸を用いる場合、例えば緊急停止用の位置制御のゲインがX軸よりも低いY軸を基準軸とする。Y軸で請求項3と同様にあらかじめ算出した緊急停止用の位置制御のゲインに対応した終点位置を設定する。もう一方のX軸では基準軸であるY軸と同期して経路上で停止できるよう、Y軸の終点位置をもとにしてX軸の終点位置を決定し、緊急停止用の位置制御のゲインを基準軸であるY軸と同じになるよう変更して緊急停止する。これにより、X軸とY軸の位置関係を失わずに緊急停止させることができる(図8(c))。
【0031】
(フローチャート)
図9は補間している全ての軸でループ処理を行い、基準軸以外の軸ならば緊急停止用の位置制御のゲインを基準軸と同じ値に変更し、指令経路上で停止できるよう終点位置を変更する処理を示すフローチャートである。
【0032】
複数モータが補間しながら指令経路に沿った運転を行っている最中に緊急停止指令を実行した場合、まず、補間している全ての軸で緊急停止用の位置制御のゲインを比較して基準軸を決定する。次に、基準軸の緊急停止用の位置制御のゲインから基準軸の終点位置を算出する。補間している全ての軸でループ処理を行い、基準軸以外の軸ならば緊急停止用の位置制御のゲインを基準軸と同じ値に変更し、経路上で停止できるよう終点位置を変更する。以下、各ステップに従って説明する。
●[ステップsc01]緊急停止ゲインから基準軸を決定する。
●[ステップsc02]基準軸の終了位置を算出する。
●[ステップsc03]補間している全ての軸についてループ処理を実行する。
【0033】
●[ステップsc04]軸が基準軸であるか否かを判断し、基準軸であればステップsc07へ移行し、基準軸でなければステップsc05へ移行する。
●[ステップsc05]緊急停止のゲインを基準軸に合わせる。
●[ステップsc06]指令経路上に停止するため終点位置を変更する。
●[ステップsc07]ループ終了判定を行い、ループ終了でなければステップsc03に戻り、ループ終了であれば処理を終了する。
【0034】
<請求項1〜4の具体的な適用例>
図10は複数軸で加工する平歯車の熱間転造を示す図である。平歯車の熱間転造は、周部に転造する歯型が形成された工具1と工具2との間に加工物3を矢印4方向に向かって通過させることで、加工物3に歯車が転造される。平歯車の製造作業中に、何らかの異常が生じた場合は工具1、2を駆動するモータを緊急に停止する必要がある。また、加工物3は高温で加工されているため、異常が発生した場合は工具1、2を逆回転し、温度低下前に速やかに加工物3を戻す必要がある。
【0035】
[従来技術]
従来の速度制御による停止では、各々のモータが別々に急停止するために工具同士の同期が乱れ、歯車がかみ合わなくなり、加工物が破損する可能性がある。また、モータを位置制御で再度駆動させるためには、蓄積したサーボ位置偏差量をクリアし、数値制御装置が管理する現在位置へそのクリア量を反映(フォローアップ)する必要があるため、停止後に速やかに加工物を戻せなかった。このため、加工物の破損や加工機の故障が発生する危険性があった。
【0036】
[本発明]
これに対して本発明は位置制御で停止させるため同期関係が失われず、歯車のかみ合いが乱れることはない。また、停止後すぐに位置制御で動作させることが可能であるため、速やかに加工物を戻すことができる。
【0037】
<請求項5の実施形態>
設定できる緊急停止用の位置制御のゲインが1つだけの場合、加工物の重量や機械の位置によって、最短距離で停止できなかったり、ゲインが大きすぎてオーバシュートしたりする可能性がある。そこで、あらかじめ想定される種類の緊急停止用の位置制御のゲインを種類ごとに格納しておき、緊急停止時の状況に応じて選択することで、様々な状況において最短距離で停止させることが可能となる。以下に、ゲインの切り替えについて説明する。
【0038】
[信号による切り替え]
加工物の重量に応じて事前に選択信号を設定しておき、緊急停止時はその信号を参照し、切り替える緊急停止用の位置制御のゲインを選択する。
[速度による切り替え]
パラメータ等により、各速度において選択する緊急停止用の位置制御のゲインを決定しておく。緊急停止時の速度を確認し、切り替える緊急停止用の位置制御のゲインを選択する。
[位置による切り替え]
パラメータ等により、各座標値において選択する緊急停止用の位置制御のゲインを決定しておく。緊急停止時の座標値を確認し、切り替える緊急停止用の位置制御のゲインを選択する。
【0039】
負荷や重量、機械位置や速度など、上述の条件を複数組み合わせた場合も同様であり、それらの測定を事前に行うことで様々なパターンに対応できる。
【0040】
図11はモータ停止距離を短縮する数値制御装置を説明する図である。
数値制御装置10は工作機械や産業用機械などの機械本体(図示せず)を制御する装置である。図5図7図9に示すフローチャートの処理を実行するプログラムを記憶装置に記憶し、該プログラムを実行することにより、モータ停止距離を短縮する。プロセッサ(CPU)11は数値制御装置10を全体的に制御するプロセッサである。プロセッサ(CPU)11はバス18を介してROM12に格納されたシステムプログラムを読み出し、このシステムプログラムに従って数値制御装置10を全体的に制御する。
【0041】
ROM12に格納されているシステムプログラムには、加工プログラムの作成及び編集のために必要となる編集モードの処理や自動運転のための再生モードの処理を実施するための各種のものがある。なお、本明細書では産業用機械を含めて工作機械と称する。RAM13は一時的な計算データなどの各種データを一時的に格納するメモリである。SRAM14は図示しないバッテリーでバックアップされ不揮発性メモリとして機能し、LCD/MDIユニット20を用いてオペレータが入力した各種データがインタフェース15を介して、SRAM14のデータ領域に格納されている。また、SRAM14には、読み込まれた加工プログラムやLCD/MDIユニット20を介して入力された加工プログラム等が記憶されるようになっている。LCD/MDIユニット20は液晶表示装置などのディスプレイとキーボードなどの手動入力装置とから構成されている。
【0042】
工作機械の各軸の現在位置、アラーム、パラメータ、及び画像データ等の画像信号は、LCD/MDIユニット20に送られ、LCD/MDIユニット20に備わったディスプレイに表示される。LCD/MDIユニット20は液晶表示装置などのディスプレイやキーボードなどの手動入力装置を備えている。
【0043】
インタフェース15はLCD/MDIユニット20の手動入力装置からデータを受けてプロセッサ(CPU)11に渡す。インタフェース16は手動パルス発生器21に接続され、手動パルス発生器21からのパルスを受ける。手動パルス発生器21は機械本体の操作盤に実装され、手動操作に基づく分配パルスによる各軸制御で工作機械の可動部を精密に位置決めするために使用される。
【0044】
軸制御回路17はプロセッサ(CPU)11から各軸の移動指令を受けて、サーボアンプ22に出力する。サーボアンプ22はこの指令を受けて、工作機械各軸のサーボモータ23を駆動する。各軸のサーボモータ23には位置・速度検出用の検出器(図示せず)が内蔵されており、この検出器からの位置データが軸制御回路17にそれぞれフィードバックされる。なお、この位置データは、差分を取ることによって速度データを生成することができる。図11では、これらの位置・速度のフィードバック信号については記載を省略している。
【符号の説明】
【0045】
1 工具
2 工具
3 加工物
4 移動方向

10 数値制御装置
11 プロセッサ
12 ROM
13 RAM
14 SRAM
15 インタフェース
16 インタフェース
17 軸制御回路
18 バス

20 LCD/MDIユニット
21 手動パルス発生器
22 サーボアンプ
23 モータ

30 試行実行手段
31 緊急用のゲイン記憶部
32 停止手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11