【文献】
Mol. Ther.,2005年 5月,Vol. 11, Suppl.,p. S376, 974.
【文献】
Biochem. Biophys. Res. Commun.,2005年 9月23日,Vol. 335,p. 447-457
【文献】
Biochem. Biophys. Res. Commun.,2000年,Vol. 276,p. 917-923
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記切断ハーフドメインが、野生型FokI切断ハーフドメイン、又はE490K、E490R及びQ486Eからなる群より選ばれるアミノ酸変異を含む操作されたFokI切断ハーフドメインである、請求項1又は2記載の方法。
前記切断ハーフドメインが、野生型FokI切断ハーフドメイン、又はE490K、E490R及びQ486Eからなる群より選ばれるアミノ酸変異を含む操作されたFokI切断ハーフドメインである、請求項5記載の細胞株。
【発明を実施するための形態】
【0026】
詳細な説明
例えば、標的化された切断、それに続く非-相同末端連結(それらの間に挿入された外来配列を伴う又は伴わない)によるか、又は、標的化された切断、それに続く外来ポリヌクレオチド(細胞ヌクレオチド配列と相同である1個又は複数の領域を含む)とゲノム配列の間の相同組換えによる、細胞クロマチンの標的化された切断及び細胞ヌクレオチド配列の標的化された変更のために有用な組成物及び方法が、ここで明らかにされている。ゲノム配列は、染色体、エピソーム、オルガネラゲノム(例えば、ミトコンドリア、葉緑体)、人工の染色体及び細胞に存在する他の種類の核酸、例えば、増幅された配列、二重微小染色体並びに内在性ゲノム又は細菌及びウイルスを感染するゲノムに存在するものを含む。ゲノム配列は、正常(すなわち野生型)又は変異体であることができ;変異体配列は、例えば、挿入、欠失、転位、再配列、及び/又は点変異を含むことができる。ゲノム配列は、多くの異なる対立遺伝子のひとつを含むこともできる。
【0027】
標的化された切断及び組換えに有用な組成物は、切断ドメイン(又は切断ハーフ-ドメイン)及びジンクフィンガー結合ドメインを含む融合タンパク質、これらのタンパク質をコードしているポリヌクレオチド並びにポリペプチド及びポリペプチド-コードしているポリヌクレオチド組合せを含む。ジンクフィンガー結合ドメインは、1個又は複数のジンクフィンガー(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9又はそれよりも多いジンクフィンガー)を含むことができ、任意にゲノム配列に結合するように操作することができる。従って、そこでの切断又は組換えが望ましい関心対象の標的ゲノム内の領域を同定することにより、本明細書に開示された方法に従い、切断ドメイン(又は切断ハーフ-ドメイン)及び該ゲノム領域において標的配列を認識するように操作されるジンクフィンガードメインを含む、1種又は複数の融合タンパク質を構築することができる。細胞内のそのような融合タンパク質(又はタンパク質類)の存在は、融合タンパク質(複数)のその(それらの)結合部位(複数)への結合、及び該ゲノム領域内又はその近傍での切断を生じるであろう。更にこのゲノム領域に相同である外来ポリヌクレオチドも、そのような細胞に存在することができ、相同組換えは、ゲノム領域と外来ポリヌクレオチドの間で高率で生じる。
【0028】
(概要)
本方法の実践に加え、本明細書に開示された組成物の調製及び使用は、特に指定されない限り、分子生物学、生化学、クロマチン構造及び分析、コンピュータ化学、細胞培養、組換えDNA及び当該技術の関連分野における通常の技術を利用する。これらの技術は、文献において十分に説明されている。例えば、Sambrookら、「MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL」、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989、及び第3版、2001;Ausubelら、「CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY」、John Wiley & Sons、ニューヨーク、1987及び定期的改訂版;「METHODS IN ENZYMOLOGY」シリーズ、Academic Press、サンディエゴ;Wolffe、「CHROMATIN STRUCTURE AND FUNCTION」、第3版、Academic Press、サンディエゴ、1998;「METHODS IN ENZYMOLOGY」、第304巻、「Chromatin」(P.M. Wassarman及びA. P. Wolffe編集)、Academic Press、サンディエゴ、1999;及び、「METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY」、第119巻、「Chromatin Protocols」(P.B. Becker編集)、Humana Press、トトワ、1999を参照のこと。
【0029】
(定義)
用語「核酸」、「ポリヌクレオチド」、及び「オリゴヌクレオチド」は、互換的に使用され、線状又は環状のコンホメーションで、及び一本鎖又は二本鎖型のいずれかの、デオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドポリマーを意味する。本開示の目的に関して、これらの用語は、ポリマーの長さに関する限定として構築されるものではない。これらの用語は、天然のヌクレオチドの公知のアナログに加え、塩基部分、糖部分及び/又はリン酸部分が修飾されたヌクレオチド(例えばホスホロチオアート主鎖)を包含することができる。一般に、特定のヌクレオチドのアナログは、同じ塩基対形成特異性を有し、すなわちAのアナログは、Tとの塩基対を形成するDNAあろう。
【0030】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」は、アミノ酸残基のポリマーを意味するように互換的に使用される。この用語は、1種又は複数のアミノ酸が対応する天然のアミノ酸の化学アナログ又は修飾された誘導体であるアミノ酸ポリマーにもあてはまる。
【0031】
「結合」は、巨大分子間(例えばタンパク質及び核酸の間)の配列-特異的、非共有的相互作用を意味する。結合相互作用の全ての成分は、全体としての相互作用が配列-特異性である限りは、配列-特異性を必要としない(例えばDNA主鎖中のリン酸残基との接触)。このような相互作用は一般に、10
-6/M又はそれ未満の解離定数(K
d)により特徴付けられる。「親和性」は、結合の強度を意味し:増加した結合親和性は、より低いK
dと相関している。
【0032】
「結合タンパク質」は、別の分子に非共有的に結合することができるタンパク質である。結合タンパク質は、例えば、DNA分子(DNA-結合タンパク質)、RNA分子(RNA-結合タンパク質)及び/又はタンパク質分子(タンパク質-結合タンパク質)と結合することができる。タンパク質-結合タンパク質の場合、これはそれ自身結合することができ(ホモ二量体、ホモ三量体など形成)、及び/又はこれは異なるタンパク質もしくはタンパク質類の1種もしくは複数の分子に結合することができる。結合タンパク質は、1種よりも多い結合活性型を有することができる。例えばジンクフィンガータンパク質は、DNA-結合、RNA-結合及びタンパク質-結合活性を有する。
【0033】
「ジンクフィンガーDNA結合タンパク質」(又は結合ドメイン)は、その構造が亜鉛イオンとの配位により安定化される結合ドメイン内のアミノ酸配列の領域内である、1個又は複数のジンクフィンガーを介して、配列-特異的様式で DNAに結合する、タンパク質、又は比較的大きいタンパク質のドメインである。用語ジンクフィンガーDNA結合タンパク質は、ジンクフィンガータンパク質又はZFPと略されることが多い。
【0034】
ジンクフィンガー結合ドメインは、予め決定されたヌクレオチド配列に結合するように「操作する」ことができる。ジンクフィンガータンパク質を操作する方法の非限定的例は、デザイン及び選択される。デザインされたジンクフィンガータンパク質は、そのデザイン/組成は主に理論的基準から生じる天然に生じないタンパク質である。デザインの理論的基準は、置換則並びに現存するZFPデザインの情報及び結合データを保存しているデータベース内の情報の処理のためのコンピュータ化されたアルゴリズムの適用を含む。例えば、米国特許US 6,140,081;US 6,453,242;及び、US 6,534,261を参照のこと;同じく、WO 98/53058;WO 98/53059;WO 98/53060;WO 02/016536及びWO 03/016496も参照のこと。
【0035】
「選択された」ジンクフィンガータンパク質は、その生成がファージディスプレイ、相互作用トラップ又はハイブリッド選択などのような経験的プロセスから主に生じる、天然には認められないタンパク質である。例えば、US 5,789,538;US 5,925,523;US 6,007,988;US 6,013,453;US 6,200,759;WO 95/19431;WO 96/06166;WO 98/53057;WO 98/54311;WO 00/27878;WO 01/60970;WO 01/88197及びWO 02/099084を参照のこと。
【0036】
用語「配列」は、DNA又はRNAであることができ;線状、環状又は分枝鎖であることができ、及び一本鎖又は二本鎖であることができる、任意の長さのヌクレオチド配列を意味する。用語「ドナー配列」は、ゲノムに挿入されたヌクレオチド配列を意味する。ドナー配列は、任意の長さ、例えば、2〜10,000ヌクレオチド長(又はそれらの間もしくはそれらを超える任意の整数値)、好ましくは約100〜1,000ヌクレオチド長(又はそれらの間の整数)、より好ましくは約200〜500ヌクレオチド長であることができる。
【0037】
「相同の非同一の配列」は、第二の配列とある程度の配列同一性を共有するが、その配列は第二の配列と同一でない、第一の配列を意味する。例えば、変異遺伝子の野生型配列を含むポリヌクレオチドは、変異遺伝子の配列に相同かつ非同一である。ある実施態様において、ふたつの配列間の相同性の程度は、通常の細胞機序を利用し、それらの間での相同組換えをもたらすのに十分である。ふたつの相同で非同一の配列は、任意の長さであることができ、及びそれらの非-相同性の程度は、単独のヌクレオチドのように小さい(例えば標的化された相同組換えによるゲノム点変異の補正)か、又は10キロベースもしくはそれ以上と大きい(例えば染色体内の予め決定された異所での遺伝子の挿入)であることができる。相同の非同一の配列を含むふたつのポリヌクレオチドは、同じ長さである必要はない。例えば20〜10,000ヌクレオチド又はヌクレオチド対の外来ポリヌクレオチド(すなわちドナーポリヌクレオチド)を使用することができる。
【0038】
核酸及びアミノ酸配列同一性を決定する技術は、当該技術分野において公知である。典型的にはそのような技術は、遺伝子のmRNAのヌクレオチド配列の決定及び/又はそれによりコードされたアミノ酸配列の決定、並びにこれらの配列の第二のヌクレオチド又はアミノ酸配列との比較を含む。ゲノム配列は、この様式で決定及び比較することもできる。一般に同一性は、2種のポリヌクレオチド又はポリペプチド配列の、各々、正確なヌクレオチド-対-ヌクレオチド又はアミノ酸-対-アミノ酸への対応を意味する。2種以上の配列(ポリヌクレオチド又はアミノ酸)は、それらの%同一性を決定することにより比較することができる。核酸又はアミノ酸配列のいずれかふたつの配列の%同一性は、ふたつの並置された配列間の正確なマッチ数の、より短い配列の長さで除算され、かつ100倍された値である。核酸配列に関するおおよその並置は、Smith及びWaterman、
Advances in Applied Mathematics 2:482-489 (1981)のローカルホモロジーアルゴリズムによりもたらされる。このアルゴリズムは、Dayhoffにより開発され(
Atlas of Protein Sequences and Structure. M.O. Dayhoff編集, 補遺5. 3:353-358, National Biomedical Research Foundation, ワシントンD.C., 米国)及びGribskovにより標準化された(
Nucl. Acids Res. 14(6):6745-6763 (1986))、スコア化マトリックスを使用することにより、アミノ酸配列に適用することができる。配列の%同一性を決定するためのこのアルゴリズムの履行の例は、「BestFit」ユーティリティーアプリケーションにおいてGenetics Computer Group(マジソン, WI)により提供されている。この方法のデフォルトのパラメータは、Wisconsin Sequence Analysis Package Program Manual, バージョン8 (1995)(Genetics Computer Group, マジソン, WIから入手可能)に説明されている。本発明の開示の状況において%同一性を確立する好ましい方法は、エジンバラ大学に版権があり、John F. Collins及びShane S. Sturrokにより開発され、並びにIntelliGenetics, Inc. (マウンテンビュー, CA)により頒布されている、MPSRCHパッケージプログラムを使用することである。このパッケージの一揃いから、スコアリングテーブルに関してデフォルトのパラメータを使用する、Smith-Watermanアルゴリズムを利用することができる(例えば、ギャップオープンペナルティ12、ギャップイクステンションペナルティ1、及びギャップ6)。作製されたデータから、「Match」値は配列同一性を反映している。配列間の%同一性又は類似性を算出する他の好適なプログラムは、当該技術分野において一般に公知であり、例えば、別のアラインメントプログラムは、デフォルトのパラメータと共に使用されるBLASTである。例えば、BLASTN及びBLASTPは、以下のデフォルトのパラメータを使って、使用することができる:遺伝暗号=標準;フィルター=なし;鎖=両鎖;カットオフ=60;除外=10;マトリックス=BLOSUM62;説明=50配列;ソート=HIGH SCORE;データベース=非-冗長, GenBank+EMBL+DDBJ+PDB+GenBank CDS translations+Swiss Protein+Spupdate+PIR。これらのプログラムの詳細は、インターネット上で調べることができる。本明細書に説明された配列に関して、所望の配列同一性の程度の範囲は、およそ80%〜100%及びその間の任意の整数値である。典型的には、配列間の%同一性は、少なくとも70〜75%、好ましくは80〜82%、より好ましくは85〜90%、なおより好ましくは92%、更により好ましくは95%、最も好ましくは98%配列同一性である。
【0039】
あるいは、ポリヌクレオチド間の配列類似性の程度は、相同領域間の安定した二重鎖の形成を可能にする条件下でのポリヌクレオチドのハイブリダイゼーション、引き続きの一本鎖-特異的ヌクレアーゼ(複数)による消化及び消化された断片のサイズ決定により決定することができる。2種の核酸、又は2種のポリペプチド配列が前述の方法を用い決定される場合、それらの配列が分子の規定された長さについて少なくとも約70%〜75%、好ましくは80%〜82%、より好ましくは85%〜90%、なおより好ましくは92%、更により好ましくは95%、最も好ましくは98%配列同一性である場合に、互いに実質的に相同である。本明細書において使用される実質的に相同とは、特定されたDNA又ポリペプチド配列と完全な同一性を示す配列も意味する。実質的に相同であるDNA配列は、特定のシステムについて規定されたような、例えばストリンジェント条件下でのサザンハイブリダイゼーション実験において同定することができる。適当なハイブリダイゼーション条件の規定は、当該技術分野内である。例えばSambrookらの前掲;
Nucleic Acid Hybridization: A Practical Approach, B.D. Hames及びS.J. Higgins編集、(1985) Oxford; ワシントンDC; IRL Press)を参照のこと。
【0040】
2種の核酸断片の選択的ハイブリダイゼーションは、以下のように決定することができる。2種の核酸分子間の配列同一性の程度は、そのような分子間のハイブリダイゼーション事象の効率及び強度に影響を及ぼす。部分的に同一である核酸配列は、完全に同一の配列の標的分子へのハイブリダイゼーションを少なくとも部分的に阻害するであろう。完全に同一の配列のハイブリダイゼーションの阻害は、当該技術分野において周知であるハイブリダイゼーションアッセイを用いて評価することができる(例えばサザン(DNA)ブロット、ノーザン(RNA)ブロット、液中ハイブリダイゼーションなど、Sambrookら、
Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版、(1989) Cold Spring Harbor, NY参照)。そのようなアッセイは、変動する選択性の程度を用い、例えば、低から高まで変動するストリンジェンシー条件を用い、実行することができる。低ストリンジェンシーの条件が使用される場合、非-特異的結合の非存在は、配列同一性の程度をほんの一部欠いている二次的プローブ(例えば、標的分子との約30%未満の配列同一性を有するプローブ)を用いて評価することができ、その結果非特異的結合事象の非存在下で、二次的プローブは標的にはハイブリダイズしないであろう。
【0041】
ハイブリダイゼーション-ベースの検出システムを利用する場合、参照核酸配列と相補的である核酸プローブが選択され、従って適当な条件の選択により、このプローブ及び参照配列は、互いに選択的にハイブリダイズ、又は結合し、二重鎖分子を形成する。中等度のストリンジェントのハイブリダイゼーション条件下で、参照配列への選択的ハイブリダイズが可能である核酸分子は、典型的には選択された核酸プローブの配列と少なくとも約70%配列同一性を有する少なくとも約10〜14ヌクレオチド長の標的核酸配列の検出を可能にする条件下でハイブリダイズする。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は典型的には選択された核酸プローブの配列と約90〜95%よりも大きい配列同一性を有する少なくとも約10〜14ヌクレオチド長の標的核酸配列の検出を可能にする。プローブ/参照配列ハイブリダイゼーションに有用なハイブリダイゼーション条件は、プローブ及び参照配列が特定の配列同一性の程度を有する場合、当該技術分野において公知のように決定することができる(例えば、
Nucleic Acid Hybridization: A Practical Approach, B.D. Hames及びS.J. Higgins編集、(1985) Oxford; ワシントンDC;IRL Press参照のこと)。
【0042】
ハイブリダイゼーション条件は、当業者に周知である。ハイブリダイゼーションストリンジェンシーは、ハイブリダイゼーション条件が、ミスマッチしたヌクレオチドを含むハイブリッドの形成を疎んじる程度を意味し、より高いストリンジェンシーは、ミスマッチしたハイブリッドのより低い忍容性に相関している。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を及ぼす因子は、当業者に周知であり、温度、pH、イオン強度、並びに例えばホルムアミド及びジメチルスルホキシドのような有機溶媒の濃度を含むが、これらに限定されるものではない。当業者に公知のように、ハイブリダイゼーションストリンジェンシーは、温度の上昇、イオン強度の低下及び溶媒濃度の低下により増大する。
【0043】
ハイブリダイゼーションのストリンジェンシー条件に関して、例えば以下の因子を変動することにより、特定のストリンジェンシーを確立するために、多くの同等の条件を使用することができることは当該技術分野において周知である:配列の長さ及び性質、様々な配列の塩基組成、塩及び他のハイブリダイゼーション液成分の濃度、ハイブリダイゼーション液内のブロック剤の存在もしくは非存在(例えば硫酸デキストラン、及びポリエチレングリコール)、ハイブリダイゼーション反応温度及び時間パラメータ、更には洗浄条件の変動。ハイブリダイゼーション条件の特定のセットの選択は、以下の当該技術分野における標準的方法に従い選択される(例えば、Sambrookら、
Molecular Cloning: A. Laboratory Manual. 第2版, (1989) Cold Spring Harbor, NY参照)。
【0044】
「組換え」は、ふたつのポリヌクレオチド間で遺伝情報を交換するプロセスを意味する。本開示の目的に関して、「相同組換え(HR)」は、例えば、細胞内の二本鎖破損の修復時に生じる、そのような交換の特定された型を意味する。このプロセスは、ヌクレオチド配列相同性、「標的」分子(すなわち二本鎖破損を経験したもの)の修復の鋳型のための「ドナー」分子の使用を必要とし、並びにこれは遺伝情報のドナーから標的への移行につながるので、「非-クロスオーバー遺伝子転換」又は「ショートトラクト(short tract)遺伝子転換」として様々に知られている。いずれか特定の理論に結びつけられることを欲するものではないが、そのような移行は、破損された標的及びドナーの間で形成するヘテロ二本鎖DNAのミスマッチ補正、並びに/又はドナーが標的の一部となり始める遺伝情報の再合成に使用される「合成-依存鎖アニーリング」及び/もしくは関連したプロセスに関与することができる。そのような特定されたHRは、標的分子の配列の変更を生じることが多く、その結果ドナーポリヌクレオチド配列の一部又は全ては、標的ポリヌクレオチドへ組込まれる。
【0045】
「切断」は、DNA分子の共有的主鎖の破損を意味する。切断は、ホスホジエステル結合の酵素的又は化学的加水分解を含むが、これらに限定されるものではない、様々な方法により開始することができる。一本鎖切断及び二本鎖切断の両方が可能であり、二本鎖切断は、ふたつの個別の一本鎖切断事象の結果として起こり得る。DNA切断は、平滑末端又は付着末端のいずれかの形成を生じることができる。ある実施態様において、融合ポリペプチドは、標的化された二本鎖DNAの切断のために使用される。
【0046】
「切断ドメイン」は、DNA切断に関する触媒活性を有する、1種又は複数のポリペプチド配列を含む。切断ドメインは、単ポリペプチド鎖に含まれることができるか、又は切断活性は、2種(又はそれよりも多い)ポリペプチドの会合から生じることができる。
「切断ハーフ-ドメイン」は、第二のポリペプチド(同一又は異なるのいずれか)と共に、切断活性(好ましくは二本鎖切断活性)を有する複合体を形成する、ポリペプチド配列である。
【0047】
「クロマチン」は、細胞のゲノムを含む核タンパク質構造である。細胞クロマチンは、核酸、主にDNA、並びにヒストン及び非-ヒストン染色体タンパク質を含むタンパク質を含む。真核細胞クロマチンの大部分は、ヌクレオソームの形で存在し、ここでヌクレオソームコアは、ヒストンH2A、H2B,、H3及びH4の各ふたつを含む八量体に結合しているDNAの約150塩基対を含み;並びに、リンカーDNA(生物に応じ様々な長さ)が、ヌクレオソームコア間に伸びている。ヒストンH1の分子は、一般にリンカーDNAに結合している。本開示の目的に関して、用語「クロマチン」は、原核及び真核の両細胞の核タンパク質の全ての種類を包含することを意味する。細胞クロマチンは、染色体及びエピソームの両方のクロマチンを含む。
【0048】
「染色体」は、細胞ゲノムの全て又は一部を含む、クロマチン複合体である。細胞のゲノムは、細胞ゲノムを含む染色体の全ての集合であるその核型により特徴付けられることが多い。細胞のゲノムは、1種又は複数の染色体を含むことができる。
「エピソーム」は、細胞の染色体の核型の一部ではない核酸を含む、複製する核酸、核タンパク質複合体又は他の構造である。エピソームの例は、プラスミド及びある種のウイルスゲノムを含む。
【0049】
「接近可能な領域」は、核酸に存在する標的部位が、標的部位を認識する外来分子により結合され得る、細胞クロマチン内の部位である。いずれか特定の理論に結びつけられることを欲するものではないが、接近可能な領域は、ヌクレオソーム構造へパッケージングされないものであると考えられる。接近可能な領域の個別の構造は、化学的及び酵素的プローブ、例えばヌクレアーゼに対するその感度により検出されることが多い。
【0050】
「標的部位」又は「標的配列」は、結合に十分な条件が存在する場合に、結合分子が結合する核酸の部分を規定する核酸配列である。例えば配列5'-GAATTC-3'は、Eco RI制限エンドヌクレアーゼの標的部位である。
「外来」分子は、通常細胞内に存在しないが、1種又は複数の遺伝的方法、生化学的方法又はその他の方法により、細胞へ導入することができる分子である。「細胞内の通常の存在」は、細胞の特定の発生段階及び環境条件に関して決定される。従って例えば、筋肉の胚発生時にのみ存在する分子は、成体の筋細胞に関して、外来分子である。同様に、熱ショックにより誘導された分子は、非-熱ショック細胞に関して外来分子である。外来分子は、例えば、多機能内在性分子の機能型、又は正常に-機能する内在性分子の機能不全型を含むことができる。
【0051】
外来分子は、とりわけ、コンビナトリアルケミストリープロセスにより作出されるような小型分子、又はタンパク質、核酸、炭水化物、脂質、糖タンパク質、リポタンパク質、多糖のような巨大分子、並びに前記分子の修飾された誘導体、又は1種又は複数の前記分子を含む任意の複合体であることができる。核酸は、DNA及びRNAを含み、一本鎖又は二本鎖であることができ;線状、分枝鎖又は環状であることができ;並びに、任意の長さであることができる。核酸は、二重鎖を形成することが可能であるものに加え、三重鎖形成する核酸を含む。例えば、米国特許US 5,176,996及びUS 5,422,251を参照のこと。タンパク質は、DNA-結合タンパク質、転写因子、クロマチンリモデリング因子、メチル化されたDNA結合タンパク質、ポリメラーゼ、メチラーゼ、デメチラーゼ、アセチラーゼ、デアセチラーゼ、キナーゼ、ホスファターゼ、インテグラーゼ、リコンビナーゼ、リガーゼ、トポイソメラーゼ、ジャイレース及びヘリカーゼを含むが、これらに限定されるものではない。
【0052】
外来分子は、内在性分子と同じ型の分子、例えば外来タンパク質又は核酸であることができる。例えば、外来核酸は、感染性ウイルスゲノム、細胞へ導入されるプラスミドもしくはエピソーム、又は通常細胞内に存在しない染色体であることができる。外来分子の細胞への導入法は、当業者に公知であり、脂質-媒介型移入(すなわち、リポソーム、中性脂質及び陽イオン性脂質を含む)、電気穿孔法、直接注入、細胞融合、粒子銃、リン酸カルシウム共沈、DEAE-デキストラン-媒介型移入及びウイルスベクター媒介型移入を含むが、これらに限定されるものではない。
【0053】
対照的に「内在性」分子は、特定の環境条件下、特定の発生段階で特定の細胞内に通常存在するものである。例えば内在性核酸は、染色体、ミトコンドリア、葉緑体もしくは他の細胞小器官のゲノム、又は天然のエピソームの核酸を含むことができる。追加の内在性分子は、タンパク質、例えば転写因子及び酵素を含むことができる。
【0054】
「融合」分子は、2個又はそれよりも多いサブユニット分子が、好ましくは共有的に連結された分子である。サブユニット分子は、同じ分子の化学型であるか、又は異なる分子の化学型であることができる。融合分子の第一の型の例は、融合タンパク質(例えば、ZFP DNA-結合ドメインと切断ドメインの間の融合)並びに融合核酸(例えば、先に説明された融合タンパク質をコードしている核酸)を含むが、これらに限定されるものではない。融合分子の第二の型の例は、三重鎖-形成核酸とポリペプチドの間の融合、及び副溝バインダーと核酸の間の融合を含むが、これらに限定されるものではない。
【0055】
細胞内の融合タンパク質の発現は、融合タンパク質の細胞への送達から、又は融合タンパク質をコードしているポリヌクレオチドの細胞への送達により、生じ、ここでポリヌクレオチドは転写され、転写産物は翻訳され、融合タンパク質を作出する。トランス-スプライシング、ポリペプチド切断及びポリペプチド連結も、細胞内のタンパク質発現に関与し得る。細胞へのポリヌクレオチド及びポリペプチド送達法は、本開示の別所に記されている。
【0056】
本開示を目的とする「遺伝子」は、遺伝子産物をコードしているDNA領域(下記参照)に加え、遺伝子産物の生成を調節する全てのDNA領域を含み、そのような調節配列は、コード配列及び/又は転写配列に隣接してもしなくてもよい。従って遺伝子は、プロモーター配列、ターミネーター、リボソーム結合部位及び配列内リボソーム進入部位などの翻訳調節配列、エンハンサー、サイレンサー、インスレーター、境界エレメント、複製起点、マトリックス結合領域及び遺伝子座調節領域を含むが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0057】
「遺伝子発現」は、遺伝子に含まれた情報の、遺伝子産物への転換を意味する。遺伝子産物は、遺伝子の直接の転写産物(例えばmRNA、tRNA、rRNA、アンチセンスRNA、リボザイム、構造的RNAもしくはいずれか他の型のRNA)、又はmRNAの翻訳により産生されたタンパク質であることができる。遺伝子産物は、キャッピング、ポリアデニル化、メチル化、及び校正などのプロセスにより修飾されたRNA、並びに例えば、メチル化、アセチル化、リン酸化、ユビキチン化、ADP-リボシル化、ミリストイル化(myristilation)、及びグリコシル化などにより修飾されたタンパク質も含む。
【0058】
遺伝子発現の「変調」は、遺伝子の活性の変化を意味する。発現の変調は、遺伝子活性化及び遺伝子抑制を含むが、これらに限定されるものではない。
「真核」細胞は、真菌細胞(例えば酵母)、植物細胞、動物細胞、哺乳類細胞及びヒト細胞を含むが、これらに限定されるものではない。
【0059】
「関心対象の領域」は、細胞クロマチンの任意の領域、例えば、その中で外来分子に結合することが望ましい遺伝子の内側又は隣接する遺伝子又は非-コード領域配列である。結合は、標的化されたDNA切断及び/又は標的化された組換えの目的のためであることができる。関心対象の領域は、例えば、染色体、エピソーム、細胞小器官ゲノム(例えばミトコンドリア、葉緑体)、又は感染性ウイルスゲノム中に存在することができる。関心対象の領域は、遺伝子のコード領域内、転写された非-コード領域内、例えば、リーダー配列、トレーラー配列もしくはイントロンなど、又はコード領域の上流もしくは下流のいずれかの非-転写領域内であることができる。関心対象の領域は、長さが単ヌクレオチド対のように小さいか、又は最大2,000ヌクレオチド対、もしくは任意の整数値のヌクレオチド対であることができる。
【0060】
用語「機能的連結」及び「機能的に連結される」(又は「機能連結される」)は、2種又はそれよりも多い成分(配列エレメントなど)の近位部に関して互換的に使用され、ここでこれらの成分は、両方の成分が正常に機能し、かつこれらの成分の少なくとも1種が、他方の成分の少なくとも1種が作用する機能を媒介することが恐らく可能であるように配置される。例としてプロモーターのような転写調節配列は、1種又は複数の転写調節因子の存在又は非存在に反応して、この転写調節配列がコード配列の転写のレベルを制御する場合に、コード配列に機能的に連結される。転写調節配列は一般に、コード配列とcisで機能的に連結されるが、これに直接隣接する必要はない。例えばエンハンサーは、例えそれらが連続していなくとも、コード配列に機能的に連結された転写調節配列である。
【0061】
融合ポリペプチドに関して、用語「機能的に連結された」は、これらの成分の各々が、他方の成分への連結においてそのように連結していない場合と同じ機能を発揮するという事実を意味する。例えば、ZFP DNA-結合ドメインが切断ドメインに融合された融合ポリペプチドに関して、ZFP DNA-結合ドメイン及び切断ドメインは、融合ポリペプチドにおいて、ZFP DNA-結合ドメイン部分がその標的部位及び/又は結合部位に連結することができると同時に、切断ドメインは標的部位の近傍でDNAを切断することができる場合に、機能的である。
【0062】
タンパク質、ポリペプチド又は核酸の「機能断片」は、その配列が完全長タンパク質、ポリペプチド又は核酸と同一でないが、依然完全長タンパク質、ポリペプチド又は核酸と同じ機能を保持する、タンパク質、ポリペプチド又は核酸である。機能断片は、対応する未変性の分子よりもより多く、より少なくもしくは同じ数の残基を有し、及び/又は1個よりも多いアミノ酸もしくはヌクレオチド置換を含むことができる。核酸の機能(例えばコード機能、別の核酸にハイブリダイズする能力)の決定法は、当該技術分野において周知である。同様に、タンパク質機能の決定法も周知である。例えば、ポリペプチドのDNA-結合機能は、フィルター-結合アッセイ、電気泳動移動度シフトアッセイ、又は免疫沈降アッセイなどにより決定することができる。DNA切断は、ゲル電気泳動によりアッセイすることができる。Ausubelら、前掲を参照のこと。タンパク質の別のタンパク質との相互作用能は、例えば、遺伝子的及び生化学的の両方で、同時免疫沈降、ツー-ハイブリッドアッセイ又は相補性により決定することができる。例えば、Fieldsら、(1989) Nature, 340:245-246;米国特許US 5,585,245及びPCT WO 98/44350を参照のこと。
【0063】
(標的部位)
開示された方法及び組成物は、切断ドメイン(又は切断ハーフ-ドメイン)及びジンクフィンガードメインを含む、融合タンパク質を含み、ここでジンクフィンガードメインは、細胞クロマチン内の配列(例えば標的部位又は結合部位)に結合することにより、その配列の近傍へ切断ドメイン(又は切断ハーフ-ドメイン)の活性を方向付け、その結果標的配列の近傍で切断を誘導する。本開示の別所に記したように、ジンクフィンガードメインは、任意の所望の配列に事実上結合するように操作することができる。従って、そこでの切断又は組換えが望ましい配列を含む関心対象の領域の同定後、1個又は複数のジンクフィンガー結合ドメインは、関心対象の領域の1個又は複数の配列に結合するように操作することができる。細胞内における、ジンクフィンガー結合ドメイン及び切断ドメインを含む融合タンパク質(又は各々ジンクフィンガー結合ドメイン及び切断ハーフ-ドメインを含む、ふたつの融合タンパク質)の発現は、関心対象の領域の切断に作用する。
【0064】
ジンクフィンガードメインによる結合に関する細胞クロマチン内の配列(例えば標的部位)の選択は、例えば、共有の米国特許US 6,453,242(2002年9月17日)に開示された方法に従い実現され、これは選択された配列に結合するZFPをデザインする方法も開示している。当業者には、ヌクレオチド配列の簡単な目視検査も、標的部位の選択のために使用することができることは明らかであろう。従って標的部位選択の任意の手段を、請求された方法において使用することができる。
【0065】
標的部位は一般に、多くの隣接する標的サブサイトで構成される。標的サブサイトは、個々のジンクフィンガーにより結合された配列(通常、ヌクレオチドトリプレット、又は隣接クアドロプレットと1個のヌクレオチドが重複することができるヌクレオチドクアドロプレットのいずれか)を意味する。例えば、WO 02/077227を参照のこと。ジンクフィンガータンパク質がほとんどの接触を生じる鎖が、標的鎖「一次認識(primary recoginition)鎖」又は「一次接触(primary contact)鎖」と称される場合、一部のジンクフィンガータンパク質は、標的鎖の3個の塩基トリプレット及び非-標的鎖上の4番目の塩基に結合する。標的部位は一般に、少なくとも9ヌクレオチドの長さを有し、従って少なくとも3個のジンクフィンガーを含むジンクフィンガー結合ドメインにより結合される。しかし例えば、4-フィンガー結合ドメインの12-ヌクレオチド標的部位への、5-フィンガー結合ドメインの15-ヌクレオチド標的部位への、又は6-フィンガー結合ドメインの18-ヌクレオチド標的部位への結合も可能である。明らかなように、より大きい結合ドメイン(例えば7-、8-、9-フィンガー又はそれよりも多い)のより長い標的部位への結合も可能である。
【0066】
標的部位に関して、複数の3ヌクレオチドであることは必要ではない。例えば、鎖間相互作用が生じる(例えば米国特許US 6,453,242及びWO 02/077227を参照)ような場合、マルチ-フィンガー結合ドメインの個々のジンクフィンガーの1個又は複数は、重複するクアドロプレットサブサイトに結合することができる。結果的に、3-フィンガータンパク質は、10-ヌクレオチド配列に結合することができ、ここで10番目のヌクレオチドは、末端フィンガーにより結合されたクアドロプレットの一部であり、4-フィンガータンパク質は、13-ヌクレオチド配列に結合することができ、ここで13番目のヌクレオチドは、末端フィンガーにより結合されたクアドロプレットの一部であるなどである。
【0067】
マルチ-フィンガー結合ドメイン中の個々のジンクフィンガー間のアミノ酸リンカー配列の長さ及び性質も、標的配列への結合に影響を及ぼす。例えば、マルチ-フィンガー結合ドメイン内の隣接ジンクフィンガー間のいわゆる「非-正準リンカー」、「長いリンカー」又は「構造されたリンカー」の存在は、これらのフィンガーが、すぐに隣接しないサブサイトへ結合することを可能にする。そのようなリンカーの非限定的例は、例えば、米国特許US 6,479,626及びWO 01/53480に説明されている。従ってジンクフィンガー結合ドメインの標的部位中の1個又は複数のサブサイトは、1、2、3、4、5又はそれよりも多いヌクレオチドにより、互いに隔てられ得る。単なる一例を提供すると、4-フィンガー結合ドメインは、配列において、2個の近接する3-ヌクレオチドサブサイト、介在ヌクレオチド、及び2個の近接するトリプレットサブサイトを含む、13-ヌクレオチド標的部位に結合することができる。
【0068】
配列(例えば標的部位)間の距離は、互いに最も近い配列の端から測定される、ふたつの配列間に介在する、ヌクレオチド又はヌクレオチド対の数を意味する。
切断が、標的部位を分離するためのふたつのジンクフィンガードメイン/切断ハーフ-ドメイン融合分子の結合により決まるある実施態様において、これらふたつの標的部位は、反対DNA鎖上であることができる。別の実施態様において、両方の標的部位は、同じDNA鎖上である。
【0069】
(ジンクフィンガー結合ドメイン)
ジンクフィンガー結合ドメインは、1個又は複数のジンクフィンガーを含む。Millerら、(1985) EMBO J. 4:1609-1614;Rhodes、(1993) Scientific American, Feb.:56-65;US 6,453,242。典型的には単独のジンクフィンガードメインの長さは、約30個のアミノ酸である。構造試験は、各ジンクフィンガードメイン(モチーフ)は、2個のβシート(2個の不可変システイン残基を含むβターンに保持される)及びαヘリックス(2個の不可変ヒスチジン残基を含む)を含み、これらは、2個のシステイン及び2個のヒスチジンによる亜鉛原子の配位により特定のコンホメーションで保持されていることを明らかにしている。
【0070】
ジンクフィンガーは、正準C
2H
2ジンクフィンガー(すなわち、2個のシステイン及び2個のヒスチジンにより亜鉛イオンが配位されているもの)、並びに非-正準ジンクフィンガー、例えば、C
3Hジンクフィンガー(3個のシステイン残基及び1個のヒスチジン残基により亜鉛イオンが配位されているもの)及びC
4ジンクフィンガー(4個のシステイン残基により亜鉛イオンが配位されているもの)などの両方を含む。同じくWO 02/057293も参照のこと。
【0071】
ジンクフィンガー結合ドメインは、選択された配列に結合するように操作することができる。例えば、Beerliら、(2002) Nature Biotechnol. 20:135-141;Paboら、(2001) Ann. Rev. Biochem. 70:313-340;Isalanら、(2001) Nature Biotechnol. 19:656-660;Segalら、(2001) Curr. Opin. Biotechnol. 12:632-637;Chooら、(2000) Curr. Opin. Struct. Biol. 10:411-416を参照のこと。操作されたジンクフィンガー結合ドメインは、天然のジンクフィンガータンパク質と比べ、新規の結合特異性を有することができる。操作法は、理論的デザイン及び様々な種類の選択を含むが、これらに限定されるものではない。理論的デザインは、例えば、トリプレット(又はクアドロプレット)ヌクレオチド配列及び個々のジンクフィンガーアミノ酸配列を含むデータベースの使用を含み、ここで各トリプレット又はクアドロプレットヌクレオチド配列は、特定のトリプレット又はクアドロプレット配列に結合するジンクフィンガーの1種又は複数のアミノ酸配列に関連している。例えば、共有の米国特許US 6,453,242及びUS 6,534,261を参照のこと。
【0072】
ファージディスプレイ及びツー-ハイブリッドシステムを含む選択法の例は、米国特許US 5,789,538;US 5,925,523;US 6,007,988;US 6,013,453;US 6,410,248;US 6,140,466;US 6,200,759;及びUS 6,242,568;更にはWO 98/37186;WO 98/53057;WO 00/27878;WO 01/88197及びGB 2,338,237に開示されている。
ジンクフィンガー結合ドメインの結合特異性の増強は、例えば共有のWO 02/077227に開示されている。
【0073】
個々のジンクフィンガーは、3-ヌクレオチド(すなわちトリプレット)配列(又は1個のヌクレオチドが隣接ジンクフィンガーの4-ヌクレオチド結合部位と重複する4-ヌクレオチド配列)に結合するので、ジンクフィンガー結合ドメインが結合するように操作される配列(例えば標的配列)の長さは、操作されたジンクフィンガー結合ドメイン内のジンクフィンガーの数を決定するであろう。例えば、フィンガーモチーフが重複するサブサイトに結合していないようなZFPに関して、6-ヌクレオチド標的配列は、2-フィンガー結合ドメインにより結合され;9-ヌクレオチド標的配列は、3-フィンガー結合ドメインにより結合されるなどである。本明細書に記されたように、標的部位内の個々のジンクフィンガー(すなわちサブサイト)の結合部位は、近接する必要はないが、1個又は複数のヌクレオチドにより隔てられ、マルチ-フィンガー結合ドメイン内のジンクフィンガー間のアミノ酸配列(すなわちフィンガー内リンカー)の長さ及び性質により左右される。
【0074】
マルチ-フィンガージンクフィンガー結合ドメインにおいて、隣接ジンクフィンガーは、約5個のアミノ酸のアミノ酸リンカー配列(いわゆる「正準」インター-フィンガーリンカー)によるか、あるいは1個又は複数の非-正準リンカーにより、隔てられることができる。例えば共有の米国特許US 6,453,242及びUS 6,534,261を参照のこと。3個よりも多いフィンガーを含む操作されたジンクフィンガー結合ドメインに関して、ある種のジンクフィンガー間の比較的長い(「非-正準」)インター-フィンガーリンカーの挿入は、結合ドメインによる結合の親和性及び/又は特異性を増大するので、好ましいであろう。例えば、米国特許US 6,479,626及びWO 01/53480を参照のこと。従って、マルチ-フィンガージンクフィンガー結合ドメインは、非-正準インター-フィンガーリンカーの存在及び位置に関して特徴付けることもできる。例えば、3個のフィンガー(2個の正準インター-フィンガーリンカーにより連結)、長いリンカー及び3個の追加のフィンガー(2個の正準インター-フィンガーリンカーにより連結)を含む6-フィンガージンクフィンガー結合ドメインは、2x3立体配置と表示される。同様に、2個のフィンガー(それらの間に正準リンカーを伴う)、長いリンカー及び2個の追加のフィンガー(正準リンカーにより連結)を含む結合ドメインは、2x2タンパク質と表示される。3個の2-フィンガーユニット(各々において、2個のフィンガーが正準リンカーにより連結されている)、及び各々において、2-フィンガーユニットが長いリンカーにより隣接する2フィンガーユニットと連結されているものを含むタンパク質は、3x2タンパク質と称される。
【0075】
マルチ-フィンガー結合ドメイン内の2個の隣接ジンクフィンガー間の長い又は非-正準インター-フィンガーリンカーの存在は、これらの2個のフィンガーを、しばしば標的配列内の直ぐ近接しないサブサイトに結合させることができる。従って標的部位のサブサイト間には1個又は複数のヌクレオチドのギャップが存在し得;すなわち、標的部位は、ジンクフィンガーにより接触されない、1個又は複数のヌクレオチドを含むことができる。例えば、2x2ジンクフィンガー結合ドメインは、1個のヌクレオチドにより隔てられた2個の6-ヌクレオチド配列に結合することができ、すなわちこれは13-ヌクレオチド標的部位に結合する。Mooreら、 (2001a) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:1432-1436;Mooreら、(2001b) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:1437-1441、及びWO 01/53480も参照のこと。
【0076】
前述のように、標的サブサイトは、単独のジンクフィンガーにより結合されている3-又は4-ヌクレオチド配列である。ある目的に関して、2-フィンガーユニットは、結合モジュールと表示される。結合モジュールは、例えば、特定の6-ヌクレオチド標的配列に結合するマルチ-フィンガータンパク質(一般に3個のフィンガー)の状況で2個の隣接フィンガーの選択により得ることができる。あるいは、モジュールは、個々のジンクフィンガーの集成により構築することができる。WO 98/53057及びWO 01/53480も参照のこと。
【0077】
(切断ドメイン)
本明細書に開示された融合タンパク質の切断ドメイン部分は、任意のエンドヌクレアーゼ又はエキソヌクレアーゼから得ることができる。それに切断ドメインが由来することができるエンドヌクレアーゼの例は、制限エンドヌクレアーゼ及びホーミングエンドヌクレアーゼを含むが、これらに限定されるものではない。例えば、New England Biolabsの2002-2003年カタログ(ビバリー, MA);及び、Belfortら、(1997) Nucleic Acids Res. 25:3379-3388を参照のこと。DNAを切断する追加の酵素が公知である(例えば、S1ヌクレアーゼ;リョクトウヌクレアーゼ;膵DNase I;小球菌ヌクレアーゼ;酵母HOエンドヌクレアーゼ;Linnら(編集)、Nucleases, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1993も参照のこと)。これらの酵素(又はそれらの機能断片)の1種又は複数は、切断ドメイン及び切断ハーフ-ドメインの給源として使用することができる。
【0078】
同様に、切断ハーフ-ドメイン(例えばジンクフィンガー結合ドメイン及び切断ハーフ-ドメインを含む融合タンパク質)は、切断活性に二量体化を必要とする、先に示した、任意のヌクレアーゼ又はそれらの一部に由来することができる。一般に、融合タンパク質が切断ハーフ-ドメインを含む場合には、2個の融合タンパク質が切断に必要とされる。あるいは、2個の切断ハーフ-ドメインを含む単独のタンパク質を使用することができる。2個の切断ハーフ-ドメインは、同じエンドヌクレアーゼ(又はそれらの機能断片)に由来することができるか、又は各切断ハーフ-ドメインは、異なるエンドヌクレアーゼ(又はそれらの機能断片)に由来することができる。加えて、2個の融合タンパク質の標的部位は、互いに関して、2個の融合タンパク質のそれらの各標的部位への結合が、例えば二量体化により、互いに切断ハーフ-ドメインが機能的切断ドメインを形成することができるような空間的配向に、切断ハーフ-ドメインを位置するように配置されることが好ましい。従ってある実施態様において、標的部位の近端は、5〜8個のヌクレオチドによるか又は15〜18個のヌクレオチドにより隔てられる。しかし任意の整数のヌクレオチド又はヌクレオチド対は、ふたつの標的部位の間(例えば2〜50個のヌクレオチド又はそれ以上)に介在することができる。一般に切断点は、標的部位の間に位置する。
【0079】
制限エンドヌクレアーゼ(制限酵素)は、多くの種に存在し、DNAへの配列-特異的結合(認識部位)、及び結合部位でのもしくはその近傍でのDNAの切断が可能である。ある種の制限酵素(例えばIIS型)は、認識部位から除去されかつ分離可能な結合及び切断ドメインを有する位置で、DNAを切断する。例えば、IIS型酵素FokIは、一方の鎖上のその認識部位から9ヌクレオチドで、及び他方の鎖上のその認識部位から13ヌクレオチドでのDNAの二本鎖切断を触媒する。例えば、米国特許US 5,356,802;US 5,436,150及びUS 5,487,994;更にはLiら、(1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:4275-4279;Liら、(1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:2764-2768;Kimら、(1994a) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:883-887;Kimら、(1994b) J. Biol. Chem. 269:31,978-31,982を参照のこと。従ってひとつの実施態様において、融合タンパク質は、少なくともひとつのIIS型制限酵素由来の切断ドメイン(又は切断ハーフ-ドメイン)、及び操作されてもされなくてもよいジンクフィンガー結合ドメインを1個又は複数含む。
【0080】
その切断ドメインは結合ドメインから分離可能であるIIS型制限酵素の例は、FokIである。この特定の酵素は、二量体として活性がある。Bitinaiteら、(1998) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95: 10,570-10,575。従って本開示の目的のために、開示された融合タンパク質において使用されるFokI酵素は、切断ハーフ-ドメインと考えられる。従ってジンクフィンガー-FokI融合を使用する細胞配列の標的化された二本鎖の切断及び/又は標的化された置換に関して、各々FokI切断ハーフ-ドメインを含む2個の融合タンパク質を使用し、触媒活性のある切断ドメインを再構築することができる。あるいは、ジンクフィンガー結合ドメイン及び2個のFokI切断ハーフ-ドメインを含む単ポリペプチド分子も使用することができる。ジンクフィンガー-FokI融合体を使用する標的化された切断及び標的化された配列変更のためのパラメータは、本開示の別所に記されている。
【0081】
切断ドメイン又は切断ハーフ-ドメインは、切断活性を保持するタンパク質、又は機能的切断ドメインを形成するための多量体化(例えば二量体化)の能力を保持するタンパク質の任意の部分であることができる。
IIS型制限酵素の例を、表1に列記する。追加の制限酵素も、分離可能な結合及び切断ドメインを含み、これらは本開示により企図されている。例えば、Robertsら、(2003) Nucleic Acuds Res. 31:418-420参照。
【0084】
(ジンクフィンガードメイン切断ドメイン融合)
融合タンパク質(及びこれをコードしているポリヌクレオチド)のデザイン及び構築の方法は、当業者に公知である。例えば、ジンクフィンガータンパク質を含む融合タンパク質(及びこれをコードしているポリヌクレオチド)のデザイン及び構築の方法は、共有の米国特許US 6,453,242及びUS 6,534,261に開示されている。ある実施態様において、このような融合タンパク質をコードしているポリヌクレオチドが構築される。これらのポリヌクレオチドは、ベクターに挿入することができ、及びこれらのベクターは、細胞へ導入することができる(ベクター及びポリヌクレオチドの細胞への導入法に関する以下及び追加の開示を参照のこと)。
【0085】
本明細書に開示された方法のある実施態様において、融合タンパク質は、ジンクフィンガー結合ドメイン及びFokI制限酵素由来の切断ハーフ-ドメインを含み、並びに2種のそのような融合タンパク質は細胞において発現される。細胞における2種の融合タンパク質の発現は、2種のタンパク質の細胞への送達;1種のタンパク質及びタンパク質のひとつをコードしている1種の核酸の細胞への送達;各々ひとつのタンパク質をコードしている2種の核酸の細胞への送達;又は、両方のタンパク質をコードしている単独の核酸の細胞への送達から生じることができる。追加の実施態様において、融合タンパク質は、2種の切断ハーフドメイン及びジンクフィンガー結合ドメインを含む、単独のポリペプチド鎖を含む。この場合、単独の融合タンパク質は、細胞において発現され、理論に結びつけられることを欲するものではないが、切断ハーフ-ドメインの分子内二量体の形成の結果として、DNAを切断すると考えられる。
【0086】
ある実施態様において、融合タンパク質の成分(例えばZFP-FokI融合体)は、ジンクフィンガードメインが、融合タンパク質のアミノ末端の最も近くであり、及び切断ハーフ-ドメインは、カルボキシ末端の最も近くであるように、配置される。このことは、DNA-結合ドメインはアミノ末端の最も近くであり、及び切断ハーフ-ドメインはカルボキシ末端の最も近くであるような、FokI酵素に由来するもののような、天然の二量体化切断ドメインにおける切断ドメインの相対配向を映し出している。これらの実施態様において、機能性ヌクレアーゼを形成するための切断ハーフ-ドメインの二量体化は、融合タンパク質の反対のDNA鎖上の部位への結合によりもたらされ、結合部位の5'末端は、互いに近接している。
図43A参照。
【0087】
追加の実施態様において、融合タンパク質の成分(例えばZFP-FokI融合体)は、切断ハーフ-ドメインは融合タンパク質のアミノ末端に最も近く、及びジンクフィンガードメインはカルボキシ末端に最も近いように、配置される。これらの実施態様において、機能性ヌクレアーゼを形成するための切断ハーフ-ドメインの二量体化は、融合タンパク質の反対DNA鎖上の部位への結合によりもたらされ、結合部位の3'末端は、互いに近接している。
図43B参照。
【0088】
更に追加の実施態様において、第一の融合タンパク質は、融合タンパク質のアミノ末端に最も近い切断ハーフ-ドメイン、及びカルボキシ末端に最も近いジンクフィンガードメインを含み、並びに第二の融合タンパク質は、ジンクフィンガードメインが融合タンパク質のアミノ末端の最も近くであり、及び切断ハーフ-ドメインがカルボキシ末端の最も近くであるように配置される。これらの実施態様において、両方の融合タンパク質は、同じDNA鎖に結合し、第一の融合タンパク質の結合部位は、アミノ末端に最も近いジンクフィンガードメインを含む第二の融合タンパク質の結合部位の5'側に位置したカルボキシ末端に最も近いジンクフィンガードメインを含む。
図43C参照。
【0089】
開示された融合タンパク質において、ジンクフィンガードメインと切断ドメイン(又は切断ハーフ-ドメイン)の間のアミノ酸配列は、「ZCリンカー」と示される。ZCリンカーは、前述のインター-フィンガーリンカーとは区別される。ZCリンカーの長さを決定する目的で、Paboらの論文((2001) Ann. Rev. Biochem. 70:313-340)に説明されたジンクフィンガー構造が使用される:
X-X-C-X
2-4-C-X
12-H-X
3-5-H (配列番号:201)
【0090】
この構造において、ジンクフィンガーの第一の残基は、第一の保存されたシステイン残基に対し2残基のアミノ末端側に位置したアミノ酸である。天然のジンクフィンガータンパク質の多くにおいて、この位置は、疎水性アミノ酸(通常フェニルアラニン又はチロシンのいずれか)により占有される。開示された融合タンパク質において、従ってジンクフィンガーの第一の残基は、疎水性残基であることが多いが、これは任意のアミノ酸であることができる。先に示されたようなジンクフィンガーの最後のアミノ酸残基は、第二の保存されたヒスチジン残基である。
【0091】
従ってジンクフィンガー結合ドメインが、切断ドメイン(又は切断ハーフ-ドメイン)のアミノ末端である極性を有する開示された融合タンパク質において、ZCリンカーは、最もC-末端側の(C-terminal-most)ジンクフィンガーの第二の保存されたヒスチジン残基と、切断ドメイン(又は切断ハーフ-ドメイン)の最もN-末端側のアミノ酸の間のアミノ酸配列である。例えば、その構築が実施例項において例証されているある融合タンパク質において、切断ハーフ-ドメインの最もN-末端側のアミノ酸は、Looneyらの論文((1989) Gene, 80:193-208)のFokI配列のアミノ酸番号384に対応するグルタミン(Q)残基である。
【0092】
切断ドメイン(又は切断ハーフ-ドメイン)がジンクフィンガー結合ドメインのアミノ末端である極性を有する融合タンパク質に関して、ZCリンカーは、切断ドメイン(又はハーフドメイン)の最もC-末端側のアミノ酸残基と、ジンクフィンガー結合ドメインの最もN-末端側のジンクフィンガーの第一の残基(すなわち第一の保存されたシステイン残基の上流の2個の残基に位置した残基)の間のアミノ酸配列である。ある融合タンパク質の例において、切断ハーフ-ドメインの最もC-末端側のアミノ酸は、Looneyらの論文((1989) Gene, 80:193-208)のFokI配列のアミノ酸番号579に対応するフェニルアラニン(F)残基である。
【0093】
ZCリンカーは、任意のアミノ酸配列であることができる。最適の切断を得るために、ZCリンカーの長さ、及び標的部位(結合部位)間の距離は、相互に関連付けられている。例えば、Smithら、(2000) Nucleic Acids Res. 28:3361-3369;Bibikovaら、(2001) Mol. Cell. Biol. 21:289-297を参照することとし、それらのリンカー長に関する注記は、本明細書に示されたものと異なることに注意。例えば、ジンクフィンガー結合ドメインが切断ハーフ-ドメインのアミノ末端であり、及び本明細書に規定されたように4個のアミノ酸のZCリンカー長を有する(及び他ではLOと記される)ZFP-FokI融合体について、最適の切断は、融合タンパク質の結合部位が、6又は16ヌクレオチド離れて存在する(各結合部位の近端から測定)場合に生じる。実施例4参照。
【0094】
(標的化された切断の方法)
開示された方法及び組成物を使用し、細胞クロマチンの関心対象の領域で(例えば変異体又は野生型のいずれかの、例えば遺伝子の、ゲノム内の所望の部位又は予め決定された部位で)DNAを切断することができる。そのような標的化されたDNA切断に関して、ジンクフィンガー結合ドメインは、標的部位が、予め決定された切断部位で又はその近傍で結合するように操作され、並びに融合タンパク質は、操作されたジンクフィンガー結合ドメインを含み、及び切断ドメインは細胞において発現される。融合タンパク質のジンクフィンガー部分の標的部位への結合時に、DNAは、切断ドメインにより標的部位の近傍で切断される。切断の正確な部位は、ZCリンカーの長さにより左右され得る。
【0095】
あるいは、各々ジンクフィンガー結合ドメイン及び切断ハーフ-ドメインを含む2種の融合タンパク質は、細胞で発現され、並びに機能的切断ドメインが再構成され及びDNAが標的部位の近傍で切断されるような方法で、並列される標的部位に結合する。ひとつの実施態様において、切断は、2個のジンクフィンガー結合ドメインの標的部位の間で生じる。ジンクフィンガー結合ドメインの一方又は両方は、操作することができる。
【0096】
ジンクフィンガー結合ドメイン切断ドメイン融合ポリペプチドを使用する標的化された切断に関して、結合部位は、切断部位を包含するか、又は結合部位の近端は、切断部位から1、2、3、4、5、6、10、25、50もしくはそれ以上のヌクレオチド(又は1〜50ヌクレオチドの間の任意の整数値)であることができる。切断部位に関して、結合部位の正確な位置は、特定の切断ドメイン、及びZCリンカーの長さにより左右されるであろう。各々ジンクフィンガー結合ドメイン及び切断ハーフ-ドメインを含む2種の融合ポリペプチドが使用される方法に関して、結合部位は一般に、切断部位にまたがる。従って第一の結合部位の近端は、切断部位の片側上で1、2、3、4、5、6、10、25もしくはそれ以上のヌクレオチド(又は1〜50ヌクレオチドの間の任意の整数値)であることができ、並びに第二の結合部位の近端は、切断部位の他方の側上で1、2、3、4、5、6、10、25もしくはそれ以上のヌクレオチド(又は1〜50ヌクレオチドの間の任意の整数値)であることができる。In vitro及びin vivoにおいて切断部位をマッピングする方法は、当業者に公知である。
【0097】
従って、本明細書に開示された方法は、切断ドメインに融合された操作されたジンクフィンガー結合ドメインを使用することができる。これらの場合において、結合ドメインは、そこ又はその近傍での切断が望ましいような標的配列に結合するように操作される。融合タンパク質、又はこれをコードしているポリヌクレオチドは、細胞へ導入される。一旦細胞へ導入されるか、又は細胞で発現されたならば、この融合タンパク質は、標的配列へ結合し、標的配列で又はその近傍で切断する。切断の正確な位置は、切断ドメインの性質並びに/又は結合ドメインと切断ドメインの間のリンカー配列の存在及び/もしくは性質により左右される。各々切断ハーフ-ドメインを含む2種の融合タンパク質が使用される場合、結合部位の近端の間の距離は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、25又はそれ以上のヌクレオチド(又は1〜50ヌクレオチドの間の任意の整数値)であることができる。切断の最適レベルも、2種の融合タンパク質の結合部位間の距離(例えば、Smith ら、(2000) Nucleic Acids Res. 28:3361-3369;Bibikovaら、(2001) Mol. Cell. Biol. 21:289-297参照)及び各融合タンパク質内のZCリンカーの長さの両方により左右される。
【0098】
ZFP-FokI融合ヌクレアーゼに関して、ZFPとFokI切断ハーフ-ドメインの間のリンカー(すなわちZCリンカー)の長さは、切断効率に影響を及ぼし得る。4アミノ酸残基のZCリンカーによるZFP-FokI融合を利用するひとつの実験システムにおいて、最適な切断は、2種のZFP-FokIヌクレアーゼの結合部位の近端が6塩基対により隔てられた場合に得られた。この特定の融合ヌクレアーゼは、ジンクフィンガー部分とヌクレアーゼハーフ-ドメインの間に、以下のアミノ酸配列を含み:
HQRT
HQNKK
QLV (配列番号:26)
ここで、ジンクフィンガーのC-末端部分の2個の保存されたヒスチジン及びFokI切断ハーフ-ドメイン中の最初の3個の残基に下線が付けられている。従ってこの構築体中のZCリンカー配列は、QNKKである。Bibikovaら、(2001) Mol. Cell Biol. 21:289-297。本発明者らは、様々なZCリンカー長及び配列を有する多くのZFP-FokI融合体ヌクレアーゼを構築し、かつZFP結合部位間に様々な距離を有する一連の基質に対する、これらのヌクレアーゼの切断効率を分析した。実施例4参照。
【0099】
ある実施態様において、切断ドメインは、2種の切断ハーフ-ドメインを含み、その両方とも結合ドメイン、第一の切断ハーフ-ドメイン及び第二の切断ハーフ-ドメインを含む単独のポリペプチドの一部である。切断ハーフ-ドメインは、それらがDNAを切断するように機能する限りは、同じアミノ酸配列又は異なるアミノ酸配列を有することができる。
【0100】
切断ハーフ-ドメインは、個別の分子に提供されてもよい。例えば、2種の融合ポリペプチドが、細胞へ導入されてもよく、ここで各ポリペプチドは、結合ドメイン及び切断ハーフ-ドメインを含む。切断ハーフ-ドメインは、それらがDNAを切断するように機能する限りは、同じアミノ酸配列又は異なるアミノ酸配列を有することができる。更に結合ドメインは典型的には、融合ポリペプチドとの結合時に、2種の切断ハーフ-ドメインが、切断ドメインを再構成することができ(例えばハーフ-ドメインの二量体化により)るような互いの空間的配向で示され、これにより機能的切断ドメインを形成するように、互いに対しハーフ-ドメインを位置づけし、関心対象の領域での細胞クロマチン切断を生じるように配置されている標的配列に結合する。一般に再構成された切断ドメインによる切断は、ふたつの標的配列間に位置した部位で生じる。タンパク質の一方又は両方は、その標的部位に結合するように操作され得る。
【0101】
2種の融合タンパク質は、同じ又は反対の極性で関心対象の領域内で結合することができ、それらの結合部位(すなわち標的部位)は、任意の数のヌクレオチド、例えば0〜200個のヌクレオチド又はその間の任意の整数により隔てられ得る。ある実施態様において、各々ジンクフィンガー結合ドメイン及び切断ハーフ-ドメインを含む2種の融合タンパク質の結合部位は、他方の結合部位に最も近い各結合部位の端から測定して、5〜18ヌクレオチド離れて、例えば、5〜8ヌクレオチド離れて、又は15〜18ヌクレオチド離れて、又は6ヌクレオチド離れて、又は16ヌクレオチド離れて位置することができ、並びに切断はこれらの結合部位の間で生じる。
【0102】
DNAが切断される部位は、一般に、2種の融合タンパク質の結合部位の間に位置する。DNAの二本鎖破損は、ふたつの一本鎖破損、又は1、2、3、4、5、6又はそれ以上のヌクレオチドオフセットである「ニック」から生じることが多い(例えば未変性のFokIによる二本鎖DNAの切断は、4ヌクレオチドによる一本鎖破損オフセットから生じる)。従って切断は、各DNA鎖の正確に反対の位置では、必ずしも生じない。加えて融合タンパク質の構造及び標的部位間の距離は、切断が単独のヌクレオチド対に隣接して生じるかどうか、又は切断がいくつかの部位で生じるかどうかに影響を及ぼし得る。しかし標的化された組換え及び標的化された変異誘発を含む多くの適用について(下記参照)、幅のあるヌクレオチドの切断は、一般に十分であり、特定の塩基対間の切断は不要である。
【0103】
前述のように、融合タンパク質(複数)は、ポリペプチド及び/又はポリヌクレオチドとして導入することができる。例えば、各々前述のポリペプチドのひとつをコードしている配列を含む2個のポリヌクレオチドは、細胞へ導入され、ポリペプチドが発現され及び各々がその標的配列に結合する場合、切断は標的配列で又はその近傍で生じることができる。あるいは、両方の融合ポリペプチドをコードしている配列を含む単独のポリヌクレオチドは、細胞へ導入される。ポリヌクレオチドは、DNA、RNA又はDNA及び/もしくはRNAの修飾型もしくはアナログであることができる。
【0104】
切断特異性を増強するために、本明細書において開示された方法において、追加の組成物も使用することができる。例えば、単独の切断ハーフ-ドメインは、限定された二本鎖切断活性を示すことができる。各々3-フィンガージンクフィンガードメイン及び切断ハーフ-ドメインを含む2種の融合タンパク質が細胞に導入される方法において、いずれかのタンパク質は、約9-ヌクレオチド標的部位を特定する。18ヌクレオチドの凝集標的配列は、恐らく哺乳類ゲノムに特有であるが、所定の9-ヌクレオチド標的部位は、ヒトゲノムにおいて平均して約23,000倍生じる。従って、単独のハーフ-ドメインの位置-特異的結合に起因した、非-特異的切断が生じ得る。従って本明細書に説明された方法は、細胞において2種の融合タンパク質と共に発現されるFokI(又はこれをコードしている核酸)などの切断ハーフ-ドメインのドミナント-ネガティブ変異の使用を企図している。このドミナント-ネガティブ変異は、二量体化は可能であるが、切断することはできず、並びにそれが二量体化されるハーフ-ドメインの切断活性も阻止する。融合タンパク質に対し過剰なモル数のドミナント-ネガティブ変異を提供することにより、両方の融合タンパク質が結合される領域のみが、二量体化及び切断が発生するのに十分に高い機能的切断ハーフ-ドメインの局所的濃度を有するであろう。ただひとつの2種の融合タンパク質が結合される部位で、その切断ハーフ-ドメインは、ドミナント-ネガティブ変異であるハーフ-ドメインと二量体を形成し、望ましくない非-特異的切断は生じない。
【0105】
FokI切断ハーフ-ドメインの3種の触媒アミノ酸残基が同定されている:Asp 450、Asp 467及びLys 469。Bitinaiteら、(1998) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95: 10,570-10,575。従ってこれらの残基のひとつでの1個又は複数の変異を使用し、ドミナント-ネガティブ変異を作出することができる。更に他のIIS型エンドヌクレアーゼの多くの触媒アミノ酸残基が公知であり、並びに/又は例えば、FokI配列とのアラインメントによるか及び/もしくは触媒活性の変異の作出及び試験により、決定され得る。
【0106】
(切断ハーフ-ドメインにおける二量体化ドメイン変異)
ZFP及び切断ハーフ-ドメインの間の融合(例えばZFP/FokI融合体など)の使用に関連する標的化された切断の方法は、各々一般に個別の標的配列に方向付けられた2種のそのような融合分子の使用を必要としている。これら2種の融合タンパク質の標的配列は、標的化された切断が、先に説明されたように、ゲノム内の独自の部位へ方向付けられるように、選択することができる。低下した切断特異性の可能性のある給源は、2種のZFP/切断ハーフ-ドメイン融合体の一方のホモ二量体化から生じるであろう。これは例えば、ゲノム内の、2種のZFP/切断ハーフ-ドメイン融合体のひとつの標的配列の逆方向反復の存在により生じ、同じ融合タンパク質の2種のコピーは、機能的二量体の形成を可能にする配向及び間隔で結合することができるように配置される。
【0107】
意図された標的部位以外の配列でのこの型の異常な切断の可能性を低下するひとつの方法は、ホモ二量体化を最小化又は防止する切断ハーフ-ドメインの変種の作出が関連している。好ましくは、その二量体化に関与したハーフ-ドメインの領域内の1個又は複数のアミノ酸が変更される。FokIタンパク質二量体の結晶構造において、その切断ハーフ-ドメインの構造は、FokIによるDNA切断時の切断ハーフ-ドメインの配置に類似していることが報告されている。Wahら、(1998) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:10564-10569。この構造は、483及び487位のアミノ酸残基が、FokI切断ハーフ-ドメインの二量体化において重要な役割を果たすことを示している。この構造は、446、447、479、483、484、486、487、490、491、496、498、499、500、531、534、537、及び538位のアミノ酸残基が全て、二量体化に影響を及ぼすのに十分に二量体化界面に近いことを示している。従って前述の位置の1種又は複数のアミノ酸配列変更は、恐らく切断ハーフ-ドメインの二量体化特性を変更するであろう。そのような変化は、例えば、これらの位置に異なるアミノ酸残基を含む(又はコードしている)ライブラリーの構築、並びに所望の特性を伴う変種の選択によるか、又は個々の変異体の理論的デザインにより導入することができる。ホモ二量体化の防止に加え、これらの変異の一部は、ふたつの野生型切断ハーフ-ドメインにより得られるものを上回るよう切断効率を増加することも可能である。
【0108】
従って、二量体化に影響を及ぼす任意のアミノ酸残基でのFokI切断ハーフ-ドメインの変更は、ZFP/FokI融合体の対のひとつが、望ましくない配列での切断につながり得るホモ二量体化を受けることを防止するために使用することができる。従ってZFP/FokI融合体の対を使用する標的化された切断に関して、一方又は両方の融合タンパク質は、自己-二量体化を阻害するが、切断が所望の標的部位で生じるための2種の融合タンパク質のヘテロ二量体の発生を可能にする、1種又は複数のアミノ酸変更を含むことができる。ある実施態様において、変更は、両方の融合タンパク質において存在し、並びに変更は、追加作用を有し;すなわち、異常な切断につながる、いずれかの融合体のホモ二量体化は、最小化又は消滅されるが、2種の融合タンパク質のヘテロ二量体化は、野生型切断ハーフ-ドメインで得られるものと比較して促進される。実施例5参照。
【0109】
(ゲノム配列の標的化された変更及び標的化された組換えの方法)
本明細書において、相同の非同一の配列による、ゲノム配列(例えば細胞クロマチンの関心対象の領域)の複製の方法(すなわち標的化された組換え)も説明される。特定の配列を交換する先行する試みは、細胞の、染色体領域と相同性を持つ配列(すなわちドナーDNA)を含むポリヌクレオチドとの接触、それに続くドナーDNA分子がゲノムへの相同組換えを受けている細胞の選択が関連している。相同組換えの貧弱な効率及びドナーDNAの標的部位以外のゲノム領域への非-特異的挿入の高い頻度のために、これらの方法の成功率は低い。
【0110】
本開示は、より大きい標的化された組換えの効率及びより低い非-特異的挿入事象の頻度を特徴とする標的化された配列変更の方法を提供する。これらの方法は、細胞DNAにおいて1個又は複数の標的化された二本鎖破損を作製するための、切断ドメイン(又は切断ハーフ-ドメイン)に融合された操作されたジンクフィンガー結合ドメインの作出及び使用に関連している。細胞DNAの二本鎖破損は、切断部位の近傍で細胞修復機序を数千倍刺激するので、そのような標的化された切断は、ゲノム内の事実上任意の部位での配列の変更又は置換(相同性-方向付けられた修復による)を可能にする。
【0111】
本明細書に説明された融合分子に加え、選択されたゲノム配列の標的化された置換も、置換(又はドナー)配列の導入を必要とする。ドナー配列は、融合タンパク質(複数)の発現の前に、同時に又は引き続き、細胞へ導入することができる。ドナーポリヌクレオチドは、それとそれに相同性を持つゲノム配列の間の相同組換え(又は相同性-方向付けられた修復)を支援するのに十分な、ゲノム配列への相同性を含む。約25、50、100、200、500、750、1,000、1,500、2,000ヌクレオチド又はそれよりも多い(又は10〜2,000ヌクレオチドの間の任意の整数値、もしくはそれ以上)ドナー及びゲノム配列間の配列相同性は、それらの間の相同組換えを支援するであろう。ドナー配列は、長さ10〜5,000ヌクレオチド(又はそれらの間のヌクレオチドの任意の整数値)又はそれ以上の範囲であることができる。ドナー配列は典型的には、それと置換されるゲノム配列と同じでないことは容易に明らかであろう。例えば、ドナーポリヌクレオチドの配列は、染色体配列との十分な相同性が存在する限りは、ゲノム配列に関する1個又は複数の単塩基の変化、挿入、欠失、逆位又は再配列を含むことができる。あるいはドナー配列は、相同性のふたつの領域が側方に位置した非-相同配列を含むことができる。加えてドナー配列は、細胞クロマチンの関心対象の領域と相同でない配列を含むベクター分子を含むことができる。一般にドナー配列の相同領域(複数)は、組換えが望ましいゲノム配列と、少なくとも50%の配列同一性を有するであろう。ある実施態様において、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%、又は99.9%の配列同一性が存在する。1%〜100%の配列同一性の間の任意の値は、ドナーポリヌクレオチドの長さに応じて、存在することができる。
【0112】
ドナー分子は、細胞クロマチンの相同性のいくつかの不連続領域を含むことができる。例えば、関心対象の領域に通常存在しない配列の標的化された挿入に関して、該配列は、ドナー核酸分子内に存在し、及び関心対象の領域の配列に相同な領域が側方に位置することができる。
ドナー配列の挿入の成功を決定するためのアッセイ(例えばハイブリダイゼーション、PCR、制限酵素消化)を簡略化するために、ある種の配列差が、ゲノム配列と比較してドナー配列に存在することができる。好ましくはコード領域に位置する場合、そのようなヌクレオチド配列差は、アミノ酸配列を変更しないか、又はサイレントアミノ酸変化(すなわちタンパク質の構造又は機能に影響を及ぼさない変化)であろう。ドナーポリヌクレオチドは任意に、関心対象の領域のジンクフィンガードメイン結合部位に対応する配列の変化を含むことができ、相同組換えにより細胞クロマチンに導入されるドナー配列の切断を防止する。
【0113】
ドナーポリヌクレオチドは、DNA又はRNA、一本鎖又は二本鎖であることができ、並びに線状又は環状の形で細胞へ導入することができる。線状の形で導入される場合、ドナー配列の末端は、当業者に公知の方法により、(例えばエキソヌクレアーゼの分解から)保護される。例えば、1種又は複数のジデオキシヌクレオチド残基は、線状分子の3'末端に付加され、及び/又は自己-相補的オリゴヌクレオチドは、片端又は両端に連結される。例えば、Changら、(1987) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:4959-4963;Nehlsら、(1996) Science, 272:886-889を参照のこと。外来ポリヌクレオチドを分解から保護する追加の方法は、末端アミノ基(複数)の付加及び修飾されたヌクレオチド内連結、例えばホスホロチオアート、ホスホロアミダート及びO-メチルリボースもしくはデオキシリボース残基の使用を含むが、これらに限定されるものではない。ポリヌクレオチドは、例えば、複製起点、プロモーター及び抗生物質耐性をコードしている遺伝子などの追加の配列を有するベクター分子の一部として、細胞へ導入することができる。更にドナーポリヌクレオチドは、裸の核酸として、リポソーム又はポロキサマーのような物質と複合された核酸として導入することができるか、又はウイルス(例えばアデノウイルス、AAV、ヘルペスウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス)により送達することができる。
【0114】
ある理論に結びつけられるものではないが、細胞配列内の二本鎖破損の存在は、破損に隣接する領域又はその周囲の領域に相同性を有する外来DNA分子の存在と組合せて、ドナー分子から細胞(例えばゲノム又は染色体)配列への配列情報の移行により;すなわち、「遺伝子変換」としても公知である、相同性-方向付けられた修復のプロセスにより、破損を修復する細胞機序を活性化することは明らかである。本出願人の方法は有利なことに、外来配列の挿入が望ましいゲノムの領域へ二本鎖破損を特異的に標的化するために、操作されたZFPの強力な標的化能を、切断ドメイン(又は切断ハーフ-ドメイン)と組合せている。
【0115】
染色体配列の変更に関して、ドナー配列が望ましい配列変更を実現するために十分にコピーされる限りは、ドナーの全配列が染色体にコピーされることは必要ではない。
相同組換えによるドナー配列の挿入効率は、細胞内DNAにおいて、二本鎖破損と組換えが望ましい部位の間の距離に反比例する。別の表現をすると、より高い相同組換え効率は、二本鎖破損が組換えが望ましい部位により近い場合に認められる。組換えの正確な部位が予め決定されていない(例えば、望ましい組換え事象がゲノム配列の間隔を超えて生じる)場合は、ドナー核酸の長さ及び配列は、切断部位(複数)と一緒に、所望の組換え事象を得るように選択される。望ましい事象がゲノム配列の単ヌクレオチド対の配列を変更するようにデザインされる場合において、細胞クロマチンは、そのヌクレオチド対のいずれかの側で10,000 ヌクレオチド以内で切断される。ある実施態様において、切断は、その配列が変更されるヌクレオチド対のいずれかの側で、1,000、500、200、100、90、80、70、60、50、40、30、20、10、5、又は2ヌクレオチド以内、又は2〜1,000ヌクレオチドの間の任意の整数値で生じる。
【0116】
先に詳述されたように、各々ジンクフィンガー結合ドメイン及び切断ハーフ-ドメインを含むふたつの融合タンパク質の結合部位は、他方の結合部位に最も近い各結合部位の端から測定して、5-8又は15-18ヌクレオチド離れて位置することができ、並びに切断はこれらの結合部位の間で生じる。切断が結合部位の間の単独部位又は複数部位で生じるかどうかは、切断されたゲノム配列は、ドナー配列により置換されるので、重要ではない。従って標的化された組換えによる単ヌクレオチド対の配列の効率的変更に関して、結合部位の間の領域の中間点は、そのヌクレオチド対の10,000ヌクレオチド以内、好ましくは1,000ヌクレオチド以内、又は500ヌクレオチド、もしくは200ヌクレオチド、もしくは100ヌクレオチド、もしくは50ヌクレオチド、もしくは20ヌクレオチド、もしくは10ヌクレオチド、もしくは5ヌクレオチド、もしくは2ヌクレオチド、もしくは1ヌクレオチド以内、又は関心対象のヌクレオチド対の上である。
【0117】
ある実施態様において、相同染色体は、ドナーポリヌクレオチドとして利用することができる。従って例えば、ヘテロ接合体における変異の補正は、染色体上の変異体配列に結合し及び切断するが、相同染色体上の野生型配列は切断しない融合タンパク質を操作することにより実現することができる。変異を持つ染色体上の二本鎖破損は、相同染色体からの野生型配列が切断された染色体へコピーされ、その結果野生型配列の2種のコピーが回復される、相同性-ベースの「遺伝子変換」プロセスを刺激する。
【0118】
例えばRAD52エピスタシス群の一員(例えば、Rad50、Rad51、Rad51B、Rad51C、Rad51D、Rad52、Rad54、Rad54B、Mrell、XRCC2、XRCC3)、その生成物が前述の遺伝子産物と相互作用する遺伝子(例えば、BRCA1、BRCA2)、及び/又はNBS1複合体内の遺伝子のような、相同組換えに関連した遺伝子の発現を活性化するための、追加のZFP-機能ドメイン融合体の使用を含むが、これらに限定されるものではない、標的化された組換えのレベルを増強することができる方法及び組成物も提供される。同様に、ZFP-機能ドメイン融合体は、非-相同末端連結に関連した遺伝子(例えば、Ku70/80、XRCC4、ポリ(ADPリボース)ポリメラーゼ、DNAリガーゼ4)の発現を抑制するために、本明細書に開示された方法及び組成物と組合せて使用することができる。例えば、Yanezら、(1998) Gene Therapy, 5:149-159;Hoeijmakers (2001) Nature, 411:366-374;Johnsonら、(2001) Biochem. Soc. Trans. 29:196-201;Tauchiら、(2002) Oncogene, 21:8967-8980を参照のこと。ジンクフィンガー結合ドメインと機能ドメインの間の融合体を用い、遺伝子発現を活性化及び抑制する方法は、例えば、共有の米国特許US 6,534,261;US 6,824,978及びUS 6,933,113に開示されている。追加の抑制法は、抑制される遺伝子の配列に標的化されたアンチセンスオリゴヌクレオチド及び/又は低分子干渉RNA(siRNA又はRNAi)の使用を含む。
【0119】
相同組換えに関連した遺伝子産物発現の活性化の代わりに又はこれに加えて、これらのタンパク質(又はそれらの機能断片)の、関心対象の領域に標的化されたジンクフィンガー結合ドメインとの融合は、これらのタンパク質(組換えタンパク質)の関心対象の領域への動員に使用することができ、これによりそれらの局所的濃度を増大し、かつ更に相同組換えプロセスを刺激する。あるいは、先に説明された相同組換えに関連したポリペプチド(又はそれらの機能断片)は、ジンクフィンガー結合ドメイン、切断ドメイン(又は切断ハーフ-ドメイン)及び組換えタンパク質(又はそれらの機能断片)を含む、トリプル融合タンパク質の一部であることができる。前述の方法及び組成物において使用することができる、遺伝子変換及び組換え-関連したクロマチンリモデリングに関連した追加のタンパク質は、ヒストンアセチル転移酵素(例えばEsa1p、Tip60)、ヒストンメチル転移酵素(例えばDot1p)、ヒストンキナーゼ及びヒストンホスファターゼを含む。
【0120】
p53タンパク質は、相同組換え(HR)の抑制において中心的役割を果たすことが報告されている。例えば、Valerieら、(2003) Oncogene, 22:5792-5812;Janzら、(2002) Oncogene, 21:5929-5933参照のこと。例えば、p53-欠損ヒト腫瘍株におけるHR率は、初代ヒト線維芽細胞よりも10,000倍大きく、非-機能的p53を伴う腫瘍細胞においては、機能的p53を伴うものよりも、HRの100倍の増加が存在する。Mekeelら、(1997) Oncogene, 14:1847-1857。加えてp53ドミナントネガティブ変異体の過剰発現は、自然発生組換えの20倍の増加につながる。Bertrandら、(1997) Oncogene, 14:1117-1122。様々なp53変異の分析は、転写トランス活性化及びG1細胞周期チェックポイント制御におけるp53の役割は、HRにおけるその関与から分離可能であることを明らかにしている。Saintignyら、(1999) Oncogene, 18:3553-3563;Boehdenら、(2003) Oncogene, 22:4111-4117。従ってp53活性の下方制御は、本明細書に開示された方法及び組成物を使用し、標的化された相同組換えの効率を増大するために役立つ。例えば共有の米国特許US 6,534,261に開示された方法に従う、p53ドミナントネガティブ変異体の同時形質移入及び過剰発現、又はp53遺伝子発現の標的化された抑制を含むが、これらに限定されるものではない、p53活性の下方制御のあらゆる方法を使用することができる。
【0121】
ジンクフィンガー/ヌクレアーゼ融合分子及びドナーDNA分子を含む細胞における、標的化された組換え効率の更なる増加は、相同性-駆動した修復プロセスが最大に活性化される場合に、細胞周期のG
2期における細胞のブロックにより活性化される。そのような停止は、多くの方法で実現することができる。例えば細胞は、G
2期で細胞を停止するために、細胞周期の進行に影響を及ぼす薬物、化合物及び/又は小型分子などにより処理することができる。この型の分子の例は、微小管重合に影響する化合物(例えばビンブラスチン、ノコダゾール、タキソール)、DNAと相互作用する化合物(例えばcis-白金(II)ジアミンジクロリド、シスプラチン、ドキソルビシン)、及び/又はDNA合成に影響する化合物(例えば、チミジン、ヒドロキシ尿素、L-ミモシン、エトポシド、5-フルオロウラシル)を含むが、これらに限定されるものではない。組換え効率の更なる増加は、細胞組換え機構により接近可能であるゲノムDNAを作出するように、クロマチン構造を変更する、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤(例えば、酪酸ナトリウム、トリコスタチンA)の使用により実現される。
【0122】
細胞周期停止のための追加の方法は、例えば、そのタンパク質をコードしているcDNAを細胞へ導入することによるか、又はそのタンパク質をコードしている遺伝子の発現を活性化する操作されたZFPを細胞へ導入することにより、CDK細胞周期キナーゼの活性を阻害するタンパク質の過剰発現を含む。細胞周期停止は、例えば、RNAi法(例えば米国特許US 6,506,559)を使用することによるか、又は細胞周期進行に関連した1種又は複数の遺伝子、例えばサイクリン及び/又はCDK遺伝子などの発現を抑制する操作されたZFPの細胞への導入などによる、サイクリン及びCDKの活性の阻害によっても実現される。遺伝子発現の調節のための操作されたジンクフィンガータンパク質の合成法については、例えば共有の米国特許US 6,534,261を参照のこと。
あるいは、ある場合において、ドナーポリヌクレオチドの非存在下において標的化された切断が実行され(好ましくはS又はG
2期)、並びに組換えは、相同染色体間で生じる。
【0123】
(相同組換えを促進する細胞因子のスクリーニング法)
相同組換えは、DNA末端の修飾及びいくつかの細胞因子のタンパク質複合体への動員を必要とする多工程プロセスであるので、ドナーDNA及びジンクフィンガー-切断ドメイン融合体をコードしているベクターと一緒の、1種又は複数の外来因子の添加を、標的化された相同組換えを促進するために使用することができる。そのような因子のひとつ又は複数を同定する方法の例は、異なる細胞のmRNA発現パターンを比較するために、マイクロアレイ(例えばAffymetrix Gene Chip(登録商標)アレイ)を用いる、遺伝子発現の分析を使用する。例えば、自発的な(unaided)又は遺伝子補正のレベルを増加することがわかっている条件下のいずれかでの、ドナーDNA及びジンクフィンガー-切断ドメイン融合体の存在下での二重鎖破損-駆動した相同組換えを刺激するより高い能力を発揮する細胞は、それらの遺伝子発現パターンについて、そのような能力を欠いている細胞と比較し、分析することができる。これにより相同組換えの増加したレベルと直接相関するように上方制御又は下方制御された遺伝子は同定され、多くの発現ベクターのいずれかひとつにクローニングされ得る。これらの発現構築体は、ジンクフィンガー-切断ドメイン融合体及びドナー構築体と共に同時-形質移入され、高い効率の相同組換えを実現する改善された方法を得ることができる。あるいは、そのような遺伝子の発現は、これらの遺伝子の1種又は複数の発現を変調する(活性化又は抑制のいずれか)操作されたジンクフィンガータンパク質を使用し、適宜調節することができる。遺伝子発現を調節するための操作されたジンクフィンガータンパク質の合成法については、例えば共有の米国特許US 6,534,261を参照のこと。
【0124】
例として、ドナーDNA及びジンクフィンガー-切断ドメイン融合体をコードしているプラスミドを形質移入した場合に、実施例9及び
図27に説明された実験において得られた様々なクローンは、広範な相同組換え頻度を示したことが観察された。こうして標的化された組換えの高い頻度を示すクローンにおける遺伝子発現は、低い頻度を示すクローンにおける発現と比べることができ、前者のクローンに特有の発現パターンが同定され得る。
【0125】
追加の例として、細胞周期インヒビター(例えばノコダゾール又はビンブラスチン、例えば実施例11、14及び15参照)を使用する研究は、細胞周期のG2期で停止された細胞は、より高い率で相同組換えを実行することを示し、このことは相同組換えに責任を果たす細胞因子は、G
2において優先的に発現されるか又は活性があることを示している。これらの因子を同定する一法は、高及び低レベルで遺伝子補正を実行する安定して形質移入されたHEK 293細胞クローン(例えばクローンT18、対、クローンT7)の間のmRNA発現パターンを比較することである。細胞をG2期で停止する化合物に対する反応の同様の比較が、これらの細胞株間において行われる。自発的に又はG2で細胞を停止する化合物に反応してのいずれかで、より高率で相同組換えを実行する細胞において異なって発現される候補遺伝子は、同定され、クローニングされ、及び細胞へ再導入され、それらの発現が、改善された割合を再度-低下する(re-capitulate)のに十分であるかどうかを決定する。あるいは、該候補遺伝子の発現は、共有の米国特許US 6,534,261に開示された操作されたジンクフィンガー転写因子を用い、活性化される。
【0126】
(発現ベクター)
1種又は複数のZFP又はZFP融合タンパク質をコードしている核酸は、複製及び/又は発現のための原核細胞又は真核細胞への形質転換のために、ベクターへクローニングすることができる。ベクターは、原核ベクター、例えばプラスミド、又はシャトルベクター、昆虫ベクター、又は真核ベクターであってよい。ZFPをコードしている核酸は、植物細胞、動物細胞、好ましくは哺乳類細胞もしくはヒト細胞、真菌細胞、細菌細胞、又は原虫細胞へ投与するために、発現ベクターにクローニングすることもできる。
【0127】
クローニングされた遺伝子又は核酸配列を得るために、ZFP又はZFP融合タンパク質をコードしている配列は典型的には、転写を指示するプロモーターを含む発現ベクターにサブクローニングされる。好適な細菌プロモーター及び真核プロモーターは、当該技術分野において周知であり、例えばSambrookら、「Molecular Cloning, A Laboratory Manual」(第2版, 1989;第3版, 2001);Kriegler, 「Gene Transfer and Expression: A Laboratory Manual」(1990);及び、「Current Protocols in Molecular Biology」(Ausubelら、前掲, Bacterial expression systems for expressing the ZFP are available in, e.g., E. coli, Bacillus sp., and Salmonella (Palvaら、Gene, 22:229-235 (1983))に説明されている。そのような発現システムのキットは、市販されている。哺乳類細胞、酵母及び昆虫細胞のための真核発現システムは、当業者に周知であり、同じく市販されている。
【0128】
ZFP-コードしている核酸の発現を指示するために使用されるプロモーターは、特定の用途によって決まる。例えば、強力な構成的プロモーターは典型的には、ZFPの発現及び精製に使用される。対照的にZFPが遺伝子調節のためにin vivo投与される場合、ZFPの特定の使用によって左右される、構成的又は誘導的のいずれかのプロモーターが使用される。加えて、ZFPの投与に好ましいプロモーターは、HSV TK又は同様の活性を有するプロモーターのように、弱いプロモーターであることができる。プロモーターは典型的には、トランス活性化に応答性であるエレメント、例えば、低酸素症応答エレメントなど、Gal4応答エレメント、lacリプレッサー応答エレメント、及び小型分子制御システム、例えばtet-調節システム及びRU-486システムを含むことができる(例えば、Gossen & Bujard, PNAS 89:5547 (1992);Oliginoら、Gene Ther. 5:491-496 (1998);Wangら、Gene Ther. 4:432-441 (1997);Neeringら、Blood, 88:1147-1155 (1996);及び、Rendahlら、Nat. Biotechnol. 16:757-761 (1998)を参照のこと)。MNDU3プロモーターも使用することができ、CD34
+造血幹細胞において優先的に活性化される。
【0129】
発現ベクターは典型的には、プロモーターに加え、原核又は真核のいずれかの、宿主細胞における核酸の発現に必要な追加エレメントを全て含む、転写ユニット又は発現カセットを含む。従って典型的発現カセットは、例えばZFPをコードしている核酸配列に機能的に連結されたプロモーター、及び例えば転写産物の有効なポリアデニル化、転写終結、リボソーム結合部位、もしくは翻訳終結のために必要なシグナルを含む。カセットの追加のエレメントは、例えばエンハンサー、及び異種スプライシングシグナルを含んでよい。
【0130】
遺伝情報の細胞への輸送に使用される特定の発現ベクターは、ZFPの意図された用途、例えば植物、動物、細菌、真菌、原虫などにおける発現に関して選択される(下記に説明された発現ベクター参照)。標準の細菌発現ベクターは、pBR322-ベースのプラスミド、pSKF、pET23Dなどのプラスミド、並びにGST及びLacZのような市販の融合発現システムを含む。例証的融合タンパク質は、マルトース結合タンパク質「MBP」である。このような融合タンパク質は、ZFPの精製に使用される。例えばc-myc又はFLAGなどの、エピトープタグも、発現をモニタリングするため、並びに細胞及び細胞下局在をモニタリングするための、単離の簡便な方法を提供するために、組換えタンパク質に追加することができる。
【0131】
真核ウイルス由来の調節エレメントを含む発現ベクターは、真核発現ベクター、例えばSV40ベクター、パピローマウイルスベクター、及びエプスタイン・バーウイルス由来のベクターにおいて頻繁に使用される。他の真核ベクターの例は、pMSG、pAV009/A+、pMTO10/A+、pMAMneo-5、バキュロウイルスpDSVE、及びSV40初期プロモーター、SV40後期プロモーター、メタロチオネインプロモーター、マウス乳腺癌ウイルスプロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、ポリヘドリンプロモーター、もしくは真核細胞における発現に効果があることが示された他のプロモーターの指示下でタンパク質の発現を可能にするいずれか他のベクターを含む。
【0132】
一部の発現システムは、チミジンキナーゼ、ハイグロマイシンBリン酸転移酵素、及びジヒドロ葉酸還元酵素などの、安定して形質移入された細胞株の選択マーカーを有する。ポリヘドリンプロモーター又は他の強力なバキュロウイルスプロモーターの指示下で、ZFPコード配列と共に、昆虫細胞においてバキュロウイルスベクターを使用するような、高収率の発現システムも適している。
典型的には発現ベクターに含まれるエレメントは、E. coliにおいて機能するレプリコン、組換えプラスミドを収容する細菌の選択を可能にするために抗生物質耐性をコードしている遺伝子、及び組換え配列の挿入を可能にするプラスミドの非必須領域の独自の制限部位も含む。
【0133】
標準形質移入法を使用し、大量のタンパク質を発現する細菌、哺乳類、酵母又は昆虫の細胞株を作出し、次にこれらは標準技術により精製される(例えば、Colleyら、J. Biol. Chem. 264:17619-17622 (1989);「Guide to Protein Purification, in Methods in Enzymology」, vol.182 (Deutscher編集、1990)参照)。真核細胞及び原核細胞の形質転換は、標準技術に従い実行される(例えば、Morrison、J. Bact. 132:349-351 (1977);Clark-Curtiss & Curtiss, 「Methods in Enzymology」 101:347-362(Wuら編集、1983)参照)。
【0134】
異物ヌクレオチド配列の宿主細胞への導入の任意の周知の手順を使用しても良い。これらは、リン酸カルシウム形質移入、ポリブレン、プロトプラスト融合、電気穿孔法、超音波法(例えばソノポレーション)、リポソーム、微量注入、裸のDNA、プラスミドベクター、ウイルスベクター、エピソームの及び組込みの両方、並びにクローニングされたゲノムDNA、cDNA、合成DNAもしくは他の異物遺伝物質の宿主細胞への導入に関する他の周知の方法のいずれかの使用を含む(例えば、Sambrookら、前掲参照)。使用される特定の遺伝子操作手順は、少なくとも1種の遺伝子を、選択されたタンパク質を発現することが可能である宿主細胞へうまく導入することが可能であることのみが必要である。
【0135】
(融合タンパク質をコードしている核酸及び細胞への送達)
従来のウイルス及び非-ウイルスベースの遺伝子導入法を使用し、細胞(例えば哺乳類細胞)及び標的組織において、操作されたZFPをコードしている核酸を導入することができる。そのような方法は、in vitroにおけるZFPをコードしている核酸の細胞への投与にも使用することができる。ある実施態様において、ZFPをコードしている核酸は、in vivo又はex vivo遺伝子治療の用途のために投与される。非-ウイルスベクター送達システムは、DNAプラスミド、裸の核酸、及びリポソーム又はポロキサマーなどの送達ビヒクルとの核酸複合体を含む。ウイルスベクター送達システムは、DNA及びRNAウイルスを含み、これは細胞への送達後にエピソームの又は組込まれたゲノムのいずれかを有する。遺伝子治療手順の検証については、Anderson、Science, 256:808-813 (1992);Nabel及びFeigner、TIBTECH, 11:211-217 (1993);Mitani及びCaskey、TIBTECH, 11:162-166 (1993);Dillon、TIBTECH, 11:167-175 (1993);Miller、Nature, 357:455-460 (1992);Van Brunt、Biotechnology, 6(10):1149-1154 (1988);Vigne、Restorative Neurology and Neuroscience, 8:35-36 (1995);Kremer及びPerricaudet、British Medical Bulletin, 51(1):31-44 (1995);Haddadaら、Current Topics in Microbiology and Immunology, Doerfler及びBohm(編集) (1995);及び、Yuら、Gene Therapy, 1:13-26 (1994)を参照のこと。
【0136】
操作されたZFPをコードしている核酸の非-ウイルス送達の方法は、電気穿孔法、リポフェクション、微量注入、遺伝子銃、ビロソーム、リポソーム、イムノリポソーム、ポリカチオン又は脂質:核酸複合体、裸のDNA、人工ビリオン、並びにDNAの物質で増強された取込を含む。例えばSonitoron 2000システム(Rich-Mar)を使用するソノポレーションを、核酸の送達に使用することもできる。
追加の核酸送達システムの例は、Amaxa Biosystems(Cologne, 独国)、Maxcyte, Inc.(ロックビル, MD)及びBTX Molecular Delivery Systems(ホリストン, MA)により提供されたものを含む。
【0137】
リポフェクションは、例えばUS 5,049,386、US 4,946,787;及び、US 4,897,355に開示されており、リポフェクション試薬は市販されている(例えば、Transfectam(商標)及びLipofectin(商標))。ポリヌクレオチドの効率的受容体-認識リポフェクションに適している陽性及び中性の脂質は、FelgnerのWO 91/17424、WO 91/16024のものを含む。送達は、細胞(ex vivo投与)又は標的組織(in vivo投与)であってよい。
【0138】
イムノ脂質複合体のような標的化されたリポソームを含む、脂質:核酸複合体の調製は、当業者に周知である(例えばCrystal、Science, 270:404-410 (1995);Blaeseら、Cancer Gene Ther. 2:291-297 (1995);Behrら、Bioconjugate Chem. 5:382-389 (1994);Remyら、Bioconjugate Chem. 5:647-654 (1994);Gaoら、Gene Therapy, 2:710-722 (1995);Ahmadら、Cancer Res. 52:4817-4820 (1992);米国特許US 4,186,183、US 4,217,344、US 4,235,871、US 4,261,975、US 4,485,054、US 4,501,728、US 4,774,085、US 4,837,028、及びUS 4,946,787を参照のこと)。
【0139】
操作されたZFPをコードしている核酸の送達のためのRNA又はDNAウイルスベースのシステムの使用は、体内の特異的細胞へのウイルスの標的化及び核へのウイルスペイロードの輸送のために、高度に進展したプロセスを利用する。ウイルスベクターは、患者へ直接投与(in vivo)することができるか、又はこれらは、in vitroにおいて細胞を処理するために使用することができ、これらの修飾された細胞が、患者へ投与される(ex vivo)。ZFPの送達のための通常のウイルスベースのシステムは、遺伝子導入のための、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ワクシニアウイルス及び単純ヘルペスウイルスのベクターを含むが、これらに限定されるものではない。宿主ゲノムにおける組込みは、レトロウイルス、レンチウイルス、及びアデノ随伴ウイルス遺伝子導入法において可能であり、挿入された導入遺伝子の長期発現を生じることが多い。加えて高い形質導入効率が、多くの様々な細胞型及び標的組織において認められる。
【0140】
レトロウイルスの屈性は、異物エンベロープタンパク質の組込み、標的細胞の潜在的標的集団の拡張により変更することができる。レンチウイルスベクターは、非分裂細胞を形質導入又は感染することができるレトロウイルスベクターであり、並びに典型的には高いウイルス力価を生じる。レトロウイルス遺伝子導入システムの選択は、標的組織によって決まる。レトロウイルスベクターは、最大6-10kbの異物配列のパッケージング能を伴う、cis-活性化する末端反復配列からなる。最小のcis-活性化するLTRは、このベクターの複製及びパッケージングに十分であり、これは次に治療的遺伝子の標的細胞への組込みに使用され、永久導入遺伝子発現を提供する。広範に使用されるレトロウイルスベクターは、マウス白血病ウイルス(MuLV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、シミアン免疫不全ウイルス(SIV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、及びそれらの組合せを基にしたものを含む(例えばBuchscherら、J. Virol. 66:2731-2739 (1992);Johannら、J. Virol. 66:1635-1640 (1992);Sommerfeltら、Virol. 176:58-59 (1990);Wilsonら、J. Virol. 63:2374-2378 (1989);Millerら、J. Virol. 65:2220-2224 (1991);PCT/US94/05700を参照のこと)。
【0141】
ZFP融合タンパク質の一過性の発現が好ましい適用において、アデノウイルスベースのシステムを使用することができる。アデノウイルスベースのベクターは、多くの細胞型において非常に高い形質導入効率が可能であり、及び細胞分割を必要としない。そのようなベクターにより、高力価及び高発現レベルが得られる。このベクターは、比較的単純なシステムにおいて大量に作出され得る。アデノ随伴ウイルス(「AAV」)ベクターも、例えば、核酸及びペプチドのin vitro生成において、並びにin vivo及びex vivo遺伝子治療手順のために、細胞の標的核酸への形質導入に使用される(例えば、Westら、Virology 160:38-47 (1987);米国特許US 4,797,368;WO 93/24641;Kotin、「Human Gene Therapy」 5:793-801 (1994);Muzyczka、J. Clin. Invest. 94:1351 (1994)参照)。組換えAAVベクターの構築は、米国特許US 5,173,414;Tratschinら、Mol Cell Biol 5:3251-3260 (1985);Tratschinら、Mol. Cell. Biol. 4:2072-2081 (1984);Hermonat及びMuzyczka、PNAS 81:6466-6470 (1984);並びに、Samulskiら、J. Virol. 63:03822-3828 (1989)を含む、多くの刊行物において説明されている。
【0142】
少なくとも6種のウイルスベクター方法が、臨床試験における遺伝子導入のために現在利用可能であり、これらは形質導入物質を生成するためにヘルパー細胞株に挿入された遺伝子による、欠損ベクターの補完(complementation)に関連する方法を利用する。
pLASN及びMFG-Sは、臨床試験において使用されるレトロウイルスベクターの例である(Dunbarら、Blood, 85:3048-305 (1995);Kohnら、Nat. Med. 1:1017-102 (1995);Malechら、PNAS 94:22 12133-12138 (1997))。PA317/pLASNは、遺伝子治療の治験において使用された最初の治療用ベクターである(Blaeseら、Science, 270:475-480 (1995))。50%又はそれよりも大きい形質導入効率が、MFG-Sパッケージされたベクターについて認められる(Ellemら、Immunol Immunother. 44(l):10-20 (1997);Dranoffetら、Hum. Gene Titer. 1:111-2 (1997)。
【0143】
組換えアデノ随伴ウイルスベクター(rAAV)は、欠陥非病原性パルボウイルスアデノ随伴2型ウイルスをベースにした有望な別の遺伝子送達システムである。全てのベクターは、導入遺伝子発現カセットの側方に位置するAAV 145bp逆方向末端反復配列のみ保持するプラスミドに由来する。形質導入された細胞のゲノムへの組込みに起因した効率的遺伝子導入及び安定した導入遺伝子送達は、このベクターシステムの重要な特徴である(Wagnerら、Lancet, 351:9117 1702-3 (1998);Kearnsら、Gene Ther. 9:748-55 (1996))。
【0144】
複製-欠損組換えアデノウイルスベクター(Ad)は、高い力価で作製することができ、及び多くの異なる細胞型に容易に感染する。ほとんどのアデノウイルスベクターは、導入遺伝子がAd E1a、E1b及び/又はE3遺伝子と交換するように、操作され;引き続き複製欠損ベクターは、transで欠失した遺伝子機能を供給するヒト293細胞内で繁殖される。Ad ベクターは、in vivoにおいて、肝臓、腎臓及び筋肉において認められるもののような、非分裂の分化型細胞を含む、複数の種類の組織を形質導入することができる。通常のAdベクターは、大きい保有能を有する。臨床試験におけるAdベクターの使用例は、筋肉内注射による抗腫瘍免疫のための、ポリヌクレオチド療法(Stermanら、Hum. Gene Ther. 7:1083-9 (1998))に関連している。臨床試験における遺伝子導入のためのアデノウイルスベクターの使用の追加の例は、Roseneckerら、Infection, 24:1 5-10 (1996);Stermanら、Hum. Gene Ther. 9:7 1083-1089 (1998);Welshら、Hum. Gene Ther. 2:205-18 (1995);Alvarezら、Hum. Gene Ther. 5:597-613 (1997);Topfら、Gene Ther. 5:507-513 (1998);Stermanら、Hum. Gene Ther. 7:1083-1089 (1998)を含む。
【0145】
宿主細胞を感染することが可能であるウイルス粒子を形成するために、パッケージング細胞が使用される。このような細胞は、アデノウイルスをパッケージする293細胞、及びレトロウイルスをパッケージするψ2細胞又はPA317細胞を含む。遺伝子治療に使用されるウイルスベクターは通常、核酸ベクターをウイルス粒子へパッケージする生産細胞株により作出される。ベクターは典型的には、パッケージング及び引き続きの宿主への組込み(適用可能である場合)に必要な最小のウイルス配列を含み、他のウイルス配列は、発現されるべきタンパク質をコードしている発現カセットにより交換される。失われたウイルス機能は、パッケージング細胞株によりtransで供給される。例えば、遺伝子治療に使用されるAAVベクターは、典型的には、パッケージング及び宿主ゲノムへの組込みに必要なAAVゲノム由来の逆方向末端反復配列(ITR)のみを有する。ウイルスDNAは、細胞株においてパッケージされ、これは他のAAV遺伝子、すなわちrep及びcapはコードしているが、ITR配列を欠いている、ヘルパープラスミドを含む。この細胞株は、ヘルパーとしてアデノウイルスによっても感染される。ヘルパーウイルスは、AAVベクターの複製及びヘルパープラスミドからのAAV遺伝子の発現を促進する。ヘルパープラスミドは、ITR配列の欠損のために、十分な量をパッケージしない。アデノウイルスによる夾雑は、例えば、アデノウイルスがAAVよりもより感度がよい熱処理により低下することができる。
【0146】
多くの遺伝子治療適用において、特定の組織型に対し高度の特異性を有する遺伝子治療ベクターが送達されることが望ましい。従ってウイルスベクターは、ウイルスの外面上のウイルス外被タンパク質との融合タンパク質としてリガンドを発現することにより、所定の細胞型に特異性を有するように修飾することができる。このリガンドは、関心対象の細胞型に存在することがわかっている受容体に親和性を有するように選択される。例えばHanらの論文(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:9747-9751 (1995))は、モロニーマウス白血病ウイルスは、gp70に融合されたヒトヘレグリンを発現するように修飾され、この組換えウイルスは、ヒト上皮増殖因子受容体を発現しているある種のヒト乳癌細胞に感染することを報告した。この原理は、標的細胞は受容体を発現し、及びウイルスは、細胞-表面受容体のリガンドを含む融合タンパク質を発現するその他のウイルス-標的細胞対へ拡張することができる。例えば、線維状ファージは、事実上任意の選択された細胞受容体について特異的結合親和性を有する抗体断片(例えばFAB又はFv)を展示するように、操作することができる。先の説明は主にウイルスベクターへ適用されるが、同じ原理が、非ウイルスベクターへ適用され得る。そのようなベクターは、特異的標的細胞による取込みが好ましい特異的取込み配列を含むように操作され得る。
【0147】
遺伝子治療ベクターは、個々の患者への投与により、以下に説明されるように、典型的には全身投与(例えば、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下もしくは頭蓋内注入)又は局所的適用により、in vivoにおいて送達することができる。あるいはベクターは、個々の患者から外植された細胞(例えばリンパ球、骨髄穿刺液、組織生検)又は万能(universal)ドナー造血幹細胞のように、ex vivoにおいて細胞へ送達され、引き続き通常ベクターが組込まれた細胞の選択後に、細胞は患者へ再移植されることができる。
【0148】
診断、研究又は遺伝子治療(例えば、形質移入された細胞の宿主生物への再注入による)は、当業者に周知である。好ましい実施態様において、細胞は、対象生物から単離され、ZFP核酸(遺伝子又はcDNA)により形質移入され、並びに対象生物へ(例えば患者)再注入される。Ex vivo形質移入に適している様々な細胞型は、当業者に周知である(例えばFreshneyら、「Culture of Animal Cells, A Manual of Basic Technique」(第3版, 1994)、及び患者由来の細胞の単離及び培養の方法を考察するそこに引用された参考文献を参照のこと)。
【0149】
ひとつの実施態様において、細胞形質移入及び遺伝子治療のためのex vivo手順において、幹細胞が使用される。幹細胞を利用する利点は、これらは、in vitroにおいて他の細胞型へ分化することができること、又はそれらが骨髄に生着するであろう哺乳類(細胞のドナーなど)へ導入することができることである。GM-CSF、IFN-γ及びTNF-αのようなサイトカインを使用し、CD34
+細胞をin vitroにおいて臨床的に重要な免疫細胞型に分化する方法は、公知である(Inabaら、J. Exp. Med. 176:1693-1702 (1992)参照)。
【0150】
幹細胞は、公知の方法を用い、形質導入及び分化のために単離される。例えば幹細胞は、CD4+及びCD8+(T細胞)、CD45+(panB細胞)、GR-1(顆粒球)及びIad(分化した抗原提示細胞)のような、望ましくない細胞に結合する抗体による骨髄細胞のパニングにより、骨髄細胞から単離される(Inabaら、J. Exp. Med. 176:1693-1702 (1992)参照)。
【0151】
治療的ZFP核酸を含むベクター(例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、リポソームなど)も、in vivoにおける細胞の形質導入のために、生物へ直接投与することができる。あるいは、裸のDNAを投与することができる。投与は、注射、注入、局所的塗布及び電気穿孔法を含むが、これらに限定されるものではない、分子を血液又は組織細胞との最終的接触に導くために通常使用される経路のいずれかによる。そのような核酸投与の適法は、利用可能であり、当業者に周知であり、1種よりも多い経路が、特定の組成物を投与するために使用されるが、特定の経路は、その他の経路よりも、より迅速かつより有効な反応を提供することが多い。
【0152】
DNAを造血幹細胞へ導入する方法は、例えば、米国特許US 5,928,638に開示されている。導入遺伝子の造血幹細胞、例えばCD34
+細胞への導入に有用なベクターは、アデノウイルスType 35を含む。
導入遺伝子の免疫細胞(例えばT細胞)への導入に好適なベクターは、非-組込みレンチウイルスベクターを含む。例えば、Oryら、(1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:11382-11388;Dullら、(1998) J Virol. 72:8463-8471;Zufferyら、(1998) J Virol. 72:9873-9880;Follenziら、(2000) Nature Genetics, 25:217-222を参照のこと。
【0153】
医薬として許容できる担体は、投与される特定の組成物に加え、組成物の投与に使用される特定の方法により、一部決定される。従って、以下に説明されたような、利用可能な医薬組成物の多種多様な好適な製剤が存在する(例えば、「Remington's Pharmaceutical Sciences」, 第17版, 1989参照)。
【0154】
DNA構築体は、様々な通常の技術により、望ましい植物宿主のゲノムへ導入され得る。そのような技術に関する総説は、例えば、Weissbach及びWeissbach、「Methods for Plant Molecular Biology」 (1988, Academic Press, NY)第VIII項、421-463頁;及び、Grierson及びCorey、「Plant Molecular Biology」(1988, 第2版), Blackie, ロンドン, 第7-9章を参照のこと。例えばDNA構築体は、植物細胞プロトプラストの電気穿孔法及び微量注入などの技術を用い、植物細胞のゲノムDNAへ直接導入されるか、又はDNA構築体は、DNA微粒子銃のような遺伝子銃法を用い、植物組織へ直接導入される(例えばKleinら、(1987) Nature 327:70-73参照)。あるいは、DNA構築体は、好適なT-DNAフランキング領域と組合せ、通常のAgrobacterium tumefaciens宿主ベクターへ導入することができる。バイナリーベクターの安全化(disarm)及び使用を含む、Agrobacterium tumefaciens-媒介した形質転換技術は、科学文献において十分に説明されている。例えば、Horschら、(1984) Science, 233:496-498、及びFraleyら、(1983) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80:4803を参照のこと。Agrobacterium tumefaciens宿主の病原性機能は、バイナリーT DNAベクター(Bevan、(1984) Nuc. Acid Res. 12:8711-8721)又は共培養手順(Horschら、(1985) Science 227: 1229-1231)を使用し、細胞を細菌により感染した場合に、構築体及び隣接マーカーの植物細胞DNAへの挿入を指示するであろう。一般にAgrobacterium形質転換システムは、双子葉植物を操作するために使用される(Bevanら、(1982) Ann. Rev. Genet 16:357-384;Rogersら、(1986) Methods Enzymol. 118:627-641)。Agrobacterium形質転換システムは、DNAを形質転換、更には単子葉植物及び植物細胞へ導入するためにも使用される。Hernalsteenら、(1984) EMBO J, 3:3039-3041;Hooykass-Van Slogterenら、(1984) Nature, 311:763-764;Grimsleyら、(1987) Nature, 325:1677-179;Boultonら、(1989) Plant Mol Biol. 12:31-40.;及び、Gouldら、(1991) Plant Physiol. 95:426-434を参照のこと。
【0155】
別の遺伝子導入及び形質転換法は、裸のDNAの、カルシウム-、ポリエチレングリコール(PEG)-又は電気穿孔-媒介した取込(Paszkowskiら、(1984) EMBO J, 3:2717-2722;Potrykusら、(1985) Molec. Gen. Genet. 199:169-177;Frommら、(1985) Proc. Nat. Acad. Sci. USA 82:5824-5828;及び、Shimamoto、(1989) Nature, 338:274-276)並びに植物組織の電気穿孔(D'Halluinら、(1992) Plant Cell 4:1495-1505)による、プロトプラスト形質転換を含むが、これらに限定されるものではない。植物細胞の形質転換に関する追加の方法は、微量注入、シリコーンカーバイド媒介型DNA取込(Kaepplerら、(1990) Plant Cell Reporter 9:415-418)、及び微量注入銃(Kleinら、(1988) Proc. Nat. Acad. Sci. USA 85:4305-4309;及び、Gordon-Kammら、(1990) Plant Cell, 2:603-618参照)を含む。
【0156】
開示された方法及び組成物を使用し、外来配列を、植物細胞ゲノムの予め決定された位置へ挿入することができる。これは、植物ゲノムへ導入された導入遺伝子の発現は、その組込み部位に決定的に左右されるために、有用である。従って、例えば栄養素、抗生物質又は治療的分子などをコードしている遺伝子は、標的化された組換えにより、それらの発現に好ましい植物ゲノムの領域へ、挿入され得る。
【0157】
前記形質転換技術のいずれかにより作出された形質転換された植物細胞は、培養し、形質転換された遺伝子型、従って望ましい表現型を有する全植物体に再生することができる。このような再生技術は、組織培養増殖培地中のある種の植物ホルモンの操作に頼っており、典型的には望ましいヌクレオチド配列と一緒に導入される殺生物剤及び/又は除草剤マーカーに頼っている。培養されたプロトプラストからの植物再生は、Evansら、「Handbook of Plant Cell Culture」の「Protoplasts Isolation and Culture」、124-176頁、Macmillian Publishing Company, NY, 1983;及び、「Binding, Regeneration of Plants, Plant Protoplasts」、21-73頁、CRC Press, ボカラトン, 1985に説明されている。再生は、植物カルス、外植片、器官、花粉、胚又はそれらの一部からも得ることができる。そのような再生技術は全般的に、Kleeら、(1987) Ann. Rev. of Plant Phys. 38:467-486に説明されている。
【0158】
植物細胞へ導入された核酸を使用し、望ましい形質を本質的にあらゆる植物へ付与することができる。多種多様な植物及び植物細胞システムは、本開示の核酸構築体及び前述の様々な形質転換法を使用し、本明細書に説明された望ましい生理学的及び作物学的特徴のために操作され得る。好ましい実施態様において、標的植物及び操作される植物細胞は、単子葉植物及び双子葉植物、例えば、穀物(例えば、小麦、メイズ、米、アワ、オオムギ)、果実作物(例えば、トマト、リンゴ、ナシ、イチゴ、オレンジ)、飼料作物(例えばアルファルファ)、根菜作物(例えば、ニンジン、ジャガイモ、テンサイ、ヤムイモ)、葉菜作物(例えば、レタス、ホウレンソウ);開花植物(例えば、ペチュニア、バラ、菊)、コニファー及びマツの木(例えば、モミ、トウヒ);ファイトレメディエーションに使用される植物(例えば、重金属蓄積植物);油料作物(例えば、ヒマワリ、ナタネ)を含む作物、並びに実験目的で使用される植物(例えば、シロイヌナズナ(Arabidopsis))を含むが、これらに限定されるものではない。従って開示された方法及び組成物は、アスパラガス(Asparagus)、カラスムギ(Avena)、アブラナ(Brassica)、カンキツ(Citrus)、スイカ(Citrullus)、唐辛子(Capsicum)、ククルビタ(Ccurbita)、ニンジン(Daucus)、大豆(Glycine)、オオムギ(Hordeum)、レタス(Lactuca)、トマト(Lycopersicon)、リンゴ(Malus)、マニホット(Manihot)、タバコ(Nicotiana)、イネ(Oryza)、アボガド(Persea)、エンドウ(Pisum)、セイヨウナシ(Pyrus)、モモ(Prunus)、ダイコン(Raphanus)、ライムギ(Secale)、ナス(Solanum)、ソルガム(Sorghum)、コムギ(Triticum)、ブドウ(Vitis)、ササゲ(Vigna)、及びトウモロコシ(Zea)の属の種を含むが、これらに限定されるものではない、広範な植物について使用される。
【0159】
当業者は、発現カセットがトランスジェニック植物へ安定して組込まれ及び機能可能であることが確認された後に、これは有性交配により他の植物へ導入されることを認めるであろう。交配される種に応じ、多くの標準育種技術のいずれかを使用することができる。
形質転換された植物細胞、カルス、組織又は植物体は、形質転換するDNA上に存在するマーカー遺伝子によりコードされた形質に関する操作された植物材料の選択又はスクリーニングにより、同定かつ単離され得る。例えば選択は、形質転換する遺伝子構築体が耐性を与える阻害量の抗生物質又は除草剤を含有する培地上での操作された植物材料の生育により行うことができる。更に、形質転換された植物及び植物細胞は、組換え核酸構築体上に存在し得る生存マーカー遺伝子(例えば、β-グルクロニダーゼ、ルシフェラーゼ、B又はCl遺伝子)の活性に関するスクリーニングによっても同定され得る。そのような選択及びスクリーニング法は、当業者に周知である。
【0160】
生理的及び生化学的方法を、挿入された遺伝子構築体を含む植物又は植物細胞の形質転換体を同定するために使用することもできる。これらの方法は、以下を含むが、これらに限定されるものではない:1)組換えDNA挿入断片の構造を検出及び決定するための、サザン分析又はPCR増幅;2)遺伝子構築体のRNA転写産物を検出及び試験するための、ノーザンブロット、S1 RNase保護、プライマー-伸長又は逆転写酵素-PCR増幅;3)酵素又はリボザイム活性を検出するための、酵素アッセイ、ここでそのような遺伝子産物は、この遺伝子構築体によりコードされる;4)タンパク質ゲル電気泳動、ウェスタンブロット技術、免疫沈降、又は酵素結合免疫学測定、ここで遺伝子構築体産物は、タンパク質である。In situハイブリダイゼーション、酵素染色及び免疫染色のような追加の技術も、特定の植物器官及び組織における組換え構築体の存在又は発現を検出するために使用することができる。これらのアッセイ全てを実行する方法は、当業者に周知である。
【0161】
本明細書に開示された方法を使用する遺伝子操作の実行は、例えば、関心対象の組織から単離されたRNA(例えばmRNA)のノーザンブロットにより観察することができる。典型的には、mRNAの量が増加する場合は、対応する内在性遺伝子は、以前よりもより大きい速度で発現されると推定される。遺伝子及び/又はCYP74B活性を測定する他の方法を使用することができる。使用される基質、及び反応生成物又は副産物の増加又は減少を検出する方法に応じ、様々な型の酵素アッセイを使用することができる。加えて、発現されたCYP74Bタンパク質のレベルは、免疫化学的に、すなわち、ELISA、RIA、EIA及び他の当業者に周知の抗体ベースのアッセイ、例えば電気泳動検出アッセイ(染色又はウェスタンブロットのいずれか)により、測定することができる。導入遺伝子は、植物の一部の組織において又は一部の発達段階において、選択的に発現され得るか、又は導入遺伝子は、実質的に全ての植物組織において、実質的にその全生活環において発現される。しかしいずれかのコンビナトリアル発現モードも適用可能である。
【0162】
本開示は、先に説明されたトランスジェニック植物の種子も包含しており、ここで種子は、導入遺伝子又は遺伝子構築体を有する。本開示は更に、先に開示されたトランスジェニック植物の後代、クローン、細胞株又は細胞を包含しており、ここで該後代、クローン、細胞株又は細胞は、導入遺伝子又は遺伝子構築体を有する。
【0163】
(送達ビヒクル)
ZFP融合タンパク質のようなポリペプチド化合物の投与における重要な因子は、そのポリペプチドが、細胞の形質膜、又は核のような細胞内コンパートメントの膜をを横断する能力を有することを確実にする。細胞膜は、小型の非イオン性の親油性化合物は自由に透過することができ、並びに極性化合物、巨大分子、及び治療用又は診断用物質については本質的に非透過性である、脂質-タンパク質二層により構成される。しかしタンパク質及びリポソームのような他の化合物は、ZFPのようなポリペプチドを細胞膜を超えて移行する能力を有することが説明されている。
【0164】
例えば、「膜移行ポリペプチド」は、膜-移行する担体として作用する能力を有する、両親媒性又は疎水性アミノ酸のサブ配列を有する。ひとつの実施態様において、ホメオドメインタンパク質は、細胞膜を超えて移行する能力を有する。ホメオドメインタンパク質の最も短いインターナリゼーション可能なペプチドであるアンテナペディアは、アミノ酸43から58位の、そのタンパク質の第三のヘリックスであることが認められた(例えばProchiantz、「Current Opinion in Neurobiology」, 6:629-634 (1996)参照)。シグナルペプチドの別のサブ配列であるh(疎水性)ドメインは、同様の細胞膜移行特性を有することがわかった(例えばLinら、J. Biol. Chem. 270:1 4255-14258 (1995)参照)。
【0165】
タンパク質の細胞への取込みを促進するための、タンパク質に連結し得るペプチド配列の例は、以下を含むが、これらに限定されるものではない:HIVのtatタンパク質の11アミノ酸ペプチド;p16タンパク質のアミノ酸84-103に相当する20残基ペプチド配列(Fahraeusら、Current Biology, 6:84 (1996)参照);アンテナペディアの60-アミノ酸長のホメオドメインの第三のヘリックス(Derossiら、J. Biol. Chem. 269:10444 (1994));カポジ線維芽細胞増殖因子(K-FGF)h領域のような、シグナルペプチドのh領域(Linら、前掲);又は、HSV由来のVP22転位ドメイン(Elliot及びO'Hare、Cell 88:223-233 (1997))。増強された細胞取込みを提供する他の好適な化学部分は、ZFPに化学的に連結することもできる。膜転位ドメイン(すなわち、インターナリゼーションドメイン)も、ランダム化されたペプチド配列のライブラリーから選択することができる。例えば、Yehら、(2003) Molecular Therapy, 7(5):S461, Abstract #1191参照。
【0166】
毒性分子も、ポリペプチドを、細胞膜を超えて輸送する能力を有する。そのような分子(いわゆる「バイナリー毒素」)は、少なくとも2部分で構成されることが多い:転位/結合ドメイン又はポリペプチド、及び個別の毒素ドメイン又はポリペプチド。典型的には、転位ドメイン又はポリペプチドは、細胞受容体に結合し、その後毒素を細胞へ輸送する。Clostridium perfringensι毒素、ジフテリア毒素(DT)、シュードモナス外毒素A(PE)、百日咳毒素(PT)、Bacillus anthracis毒素、及び百日咳アデニル酸シクラーゼ(CYA)を含む、いくつかの細菌毒素は、ペプチドを内部融合体又はアミノ末端融合体として、細胞のサイトゾルへ送達するために使用される(Aroraら、J. Biol. Chem., 268:3334-3341 (1993);Perelleら、Infect. Immun., 61:5147-5156 (1993);Stenmarkら、J. Cell Biol 113:1025-1032 (1991);Donnellyら、PNAS, 90:3530-3534 (1993);Carbonettiら、Abstr. Annu. Meet. Am. Soc. Microbiol. 95:295 (1995);Seboら、Infect. Immun. 63:3851-3857 (1995);Klimpelら、PNAS, U.S.A. 89:10277-10281 (1992);及び、Novakら、J Biol. Chem. 267:17186-17193 1992))。
【0167】
そのようなペプチド配列は、ZFPを細胞膜を超えて移行するために使用することができる。ZFPは好都合なことに、そのような配列と融合又は誘導体化され得る。典型的には、転位配列は、融合タンパク質の一部として提供される。任意にリンカーを、ZFP及び転位配列を連結するために使用することができる。例えばペプチドリンカーなどの、いずれか好適なリンカーを使用することができる。
【0168】
ZFPは、リポソーム及びイムノリポソームのようなリポソーム誘導体により、動物細胞、好ましくは哺乳類細胞へ導入することもできる。用語「リポソーム」は、水相を封入している、1個又は複数の同心円状に配置された脂質二層で構成された小胞を意味する。水相は典型的には、細胞へ送達されるべき化合物、すなわちZFPを含む。
リポソームは、形質膜と融合し、これにより薬物をサイトゾルへ放出する。あるいはリポソームは、貪食されるか又は輸送小胞内で細胞により取込まれる。一旦エンドソーム又はファゴソーム内に入ると、リポソームは、分解するか又は輸送小胞の膜と融合するかのいずれかであり、その内容物を放出する。
【0169】
リポソームによる薬物送達の現在の方法において、リポソームは最終的に、透過性となり始め、封入された化合物(この場合ZFP)を標的組織又は細胞において放出する。全身又は組織特異的送達について、これは、例えば、リポソーム二層が、体内の様々な物質の作用により長期に渡り分解するという受動的様式で達成され得る。あるいは能動的薬物放出には、リポソーム小胞の透過性の変化を誘導する物質の使用が関連している。リポソーム膜は、環境がリポソーム膜近傍で酸性となり始める時点で、それらが不安定となり始めるように構築することができる(例えば、PNAS 84:7851 (1987);Biochemistry 28:908 (1989)を参照)。例えばリポソームが標的細胞により貪食される場合、それらは不安定となり、それらの内容物を放出し始める。この不安定化は、フゾシエネシス(fusogenesis)と称される。ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)は、多くの「フゾシエネシス性」システムの基礎である。
【0170】
そのようなリポソームは典型的には、ZFP及び脂質成分、例えば中性及び/又は陽イオン性脂質を含み、任意に予め決定された細胞表面受容体又はリガンド(例えば抗原)に結合する抗体のような、受容体-認識分子を含む。リポソームの調製には様々な方法が利用可能であり、例えば、Szokaら、Ann. Rev. Biophys. Bioeng. 9:467 (1980)、米国特許US 4,186,183、US 4,217,344、US 4,235,871、US 4,261,975、US 4,485,054、US 4,501,728、US 4,774,085、US 4,837,028、US 4,235,871、US 4,261,975、US 4,485,054、US 4,501,728、US 4,774,085、US 4,837,028、US 4,946,787、PCT公開WO 91/17424、Deamer及びBangham、Biochim. Biophys. Acta, 443:629-634 (1976);Fraleyら、PNAS, 76:3348-3352 (1979);Hopeら、Biochim. Biophys. Acta, 812:55-65 (1985);Mayerら、Biochim. Biophys. Acta, 858:161-168 (1986);Williamsら、PNAS, 85:242-246 (1988);Liposomes, (Ostro(編集), 1983, 第1章);Hopeら、Chem. Phys. Lip. 40:89 (1986);Gregoriadis、Liposome Technology, (1984)、及びLasic、Liposomes: from Physics to Applications, (1993)に説明されている。好適な方法は、例えば、音波処理、押出、高圧/ホモジネーション、顕微溶液化、界面活性剤透析、小型リポソーム小胞のカルシウム-誘導型融合及びエーテル-融合法であり、これらは全て当業者に公知である。
【0171】
ある実施態様において、特定の細胞型、組織などに対し特異的である標的化部分を用いリポソームを標的化することが望ましい。様々な標的化部分(例えばリガンド、受容体、及びモノクローナル抗体)を使用するリポソームの標的化が説明されている。例えば米国特許US 4,957,773及びUS 4,603,044を参照のこと。
【0172】
標的化部分の例は、前立腺癌特異抗原及びMAGEのような、腫瘍関連抗原に特異的なモノクローナル抗体を含む。腫瘍は、ras又はc-erbB2のような癌遺伝子の活性化又は過剰発現から生じた遺伝子産物の検出により、診断することもできる。加えて多くの腫瘍は、αフェトプロテイン(AFP)及び癌胎児性抗原(CEA)のような、通常胎児組織により発現される抗原を発現する。ウイルス感染部位は、B型肝炎コア抗原ン及び表面抗原(HBVc、HBVs)、C型肝炎抗原、エプスタイン・バーウイルス抗原、1型ヒト免疫不全症ウイルス抗原(HIV1)及びパピローマウイルス抗原のような、様々なウイルス抗原を用い、診断することができる。炎症は、インテグリン(例えばVCAM-1)、セレクチン受容体(例えばELAM-1)などのような、炎症部位に発現された表面分子により特異的に認識された分子を用い、検出することができる。
【0173】
標的化物質をリポソームへカップリングする標準方法を使用することができる。これらの方法は一般に、例えば標的化物質の付着に関して活性化されるホスファチジルエタノールアミンのような脂質成分、又は脂質誘導体化されたブレオマイシンのような、誘導体化された親油性化合物の、リポソームへの取込みに関連している。抗体標的化されたリポソームは、例えばプロテインAを取込んでいるリポソームを用い、構築することができる(Renneisenら、J. Biol. Chem. 265:16337-16342 (1990)及びLeonettiら、PNAS, 87:2448-2451 (1990)参照)。
【0174】
(用量)
治療的適用に関して、本開示の状況において、患者へ、又は患者へ導入される予定の細胞へ投与される投与量は、長期間患者において恩恵のある治療的反応を実現するのに十分なものである。加えて特定の用量用法が、例えば機能的ゲノム試験、及び細胞又は動物モデルにおいてのような、実験的状況において、表現型の変化を決定するために有用であることができる。投与量は、使用される特定のZFPの有効性及びK
d、標的細胞の核容積、及び患者の状態、更には治療される患者の体重又は表面積により決定される。投与量のサイズは、特定の患者における特定の化合物又はベクターの投与に付随する有害な副作用の存在、性質及び程度によっても決定されるであろう。
【0175】
標的部位へのおよそ99%結合のZFPの最大治療有効量は、1細胞あたり約1.5x10
5〜1.5x10
6未満コピーの特異的ZFP分子の範囲であると算出される。この結合レベルに関する1細胞あたりのZFPの数は、HeLa細胞核の容積(およそ1000μm
3又は10
-12L;Cell Biology, (Altaian及びKatz編集(1976))を用い、以下のように算出される。HeLa核は比較的大きいので、この用量数値は、標的細胞核の容積を用い必要に応じ再計算される。この計算は、他の部位によるZFP結合の競合も考慮していない。この計算は同じく、本質的に全てのZFPは、核に局在化されると仮定している。100xK
d値を使用し、標的部位へのおよそ99%結合を算出し、及び10xK
d値を使用し、標的部位へのおよそ90%結合を算出する。この例について、K
d=25nM
ZFP+標的部位←→複合体
すなわち、DNA+タンパク質←→DNA:タンパク質複合体
K
d=[DNA][タンパク質]/[DNA:タンパク質複合体]
ZFPの50%が結合した場合、K
d=[タンパク質]
従って[タンパク質]=25nM、及び核容積が10
-12Lである場合、
[タンパク質]=(25x10
-9モル/L)(10
-12L/核)(6x10
23分子/モル)
=15,000分子/核 50%結合について
99%標的が結合した場合;100xK
d=[タンパク質]
100xK
d=[タンパク質]=2.5μM
(2.5x10
-6モル/L)(10
-12L/核)(6x10
23分子/モル)
=約1,500,000分子/核 標的部位の99%結合について
【0176】
ZFPをコードしている発現ベクターの適量も、プロモーター由来のZFP発現の平均速度及び細胞内ZFP分解の平均速度を考慮し、算出することができる。ある実施態様において、先に説明されたように、野生型又は変異体HSV TKプロモーターのような弱いプロモーターが使用される。微生物中のZFP投与量は、使用される特定のZFPの分子量を考慮し、算出される。
【0177】
疾患の治療又は予防において投与されるZFP有効量の決定において、医師は、ZFP又はZFPをコードしている核酸の循環血漿レベル、可能性のあるZFP毒性、疾患の進行、及び抗-ZFP抗体の産生を評価する。投与は、単回投与量又は分割投与量で実現され得る。
【0178】
(医薬組成物及び投与)
ZFP及びZFPをコードしている発現ベクターは、標的化された切断及び/又は組換えのため、並びに例えば、癌、虚血、糖尿病性網膜症、黄斑変性、関節リウマチ、乾癬、HIV感染症、鎌状赤血球貧血、アルツハイマー病、筋ジストロフィー、神経変性疾患、血管疾患、嚢胞性線維症、卒中などの治療的又は予防的適用のために、患者へ直接投与することができる。ZFP遺伝子治療により阻害され得る微生物の例は、病原菌、例えばクラミジア、リケッチア菌、マイコバクテリア、ブドウ球菌、連鎖球菌、肺炎球菌、髄膜炎菌及びコノコッカス、クレブシエラ菌、プロテウス属、セラチア、シュードモナス、レジオネラ、ジフテリア、サルモネラ、バシルス、コレラ、破傷風、ボツリヌス中毒、炭疽菌、悪疫、レプトスピラ症、及びライム病の細菌;感染性真菌、例えばアスペルギルス属、カンジダ属の種;原虫、例えば胞子虫類(例えばマラリア原虫)、根足虫(例えばエントアメーバ属)、及び鞭毛虫(トリパノソーマ属、リーシュマニア属、トリコモナス属、ジアルジア属など);ウイルス性疾患、例えば肝炎(A、B、C型)、ヘルペスウイルス(例えばVZV、HSV-1、HSV-6、HSV-II、CMV、及びEBV)、HIV、エボラ、アデノウイルス、インフルエンザウイルス、フラビウイルス、エコーウイルス、ライノウイルス、コクサッキーウイルス、コロナウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、ムンプスウイルス、ロタウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、パルボウイルス、ワクシニアウイルス、HTLVウイルス、デング熱ウイルス、パピローマウイルス、ポリオウイルス、狂犬病ウイルス、及びアルボウイルス、脳炎ウイルスなどを含む。
【0179】
治療的有効量の投与は、治療される組織との最終的な接触へのZFPの導入のために通常使用される経路のいずれかによる。ZFPは、いずれか好適な様式で、好ましくは医薬として許容できる担体と共に投与される。そのようなモジュレーターの好適な投与法は、利用可能であり、当業者に周知であり、並びに1種よりも多い経路が、特定の組成物の投与に使用されるが、特定の経路が、他の経路よりもより迅速かつより効果的な反応をもたらすことが多い。
医薬として許容できる担体は、投与される特定の組成物により、更には組成物の投与に使用される特定の方法により、一部決定される。従って多種多様な好適な利用可能な医薬組成物の製剤が存在する(例えば、「Remington 's Pharmaceutical Sciences」, 17版 1985)参照)。
ZFPは、単独で又は他の好適な成分と組合せて、吸入により投与されるエアゾール製剤(すなわちこれらは「噴霧化」され得る)に製造することができる。エアゾール製剤は、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素などの、加圧された許容できる噴射剤に入れることができる。
【0180】
例えば静脈内、筋肉内、皮内及び皮下経路などによる、非経口的投与に好適な製剤は、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、及び製剤を意図されたレシピエントの血液と等張にする溶質を含有する、水性及び非水性の等張の滅菌注射溶液、並びに懸濁化剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤及び保存剤を含有することができる水性及び非水性の滅菌の懸濁液を含む。開示された組成物は、例えば、静脈内注入、経口、局所的、腹腔内、嚢内、又は髄腔内に投与することができる。化合物の製剤は、アンプル及びバイアルのような、単位投与量又は反復投与量が密閉された容器で提供され得る。注射溶液及び懸濁液は、先に説明された種類の滅菌の散剤、顆粒剤、及び錠剤から調製することができる。
【0181】
(適用)
標的化された切断のために開示された方法及び組成物を使用し、例えば2つの部位を切断し及びその間の配列を欠失することによるか、単独の部位の切断とそれに続く後非相同末端連結によるか、破損の間の外来配列の挿入を伴う1又は2個の部位の切断、及び/又は1個もしくは2個もしくは数個のヌクレオチドを除去するための部位での切断により、ゲノム配列に変異を誘導することができる。標的化された切断は、遺伝子ノックアウトを作出するため(例えば機能的ゲノム又は標的バリデーションのため)、及び配列のゲノムへの標的化された挿入を促進するため(すなわち遺伝子ノックイン);例えば、細胞操作又はタンパク質過剰発現を目的として、使用することもできる。挿入は、相同組換えによる染色体配列の交換によるか、又は標的化された組込みによることができ、ここで染色体の関心対象の領域に相同な配列の側方に位置した新規配列(すなわち関心対象の領域に存在しない配列)は、予め決定された標的部位に挿入される。
同じ方法を用い、変異体配列を伴う野生型配列を交換するか、又はひとつの対立遺伝子を異なる対立遺伝子へ転換することができる。
【0182】
感染又は組込まれたウイルスゲノムの標的化された切断を使用し、宿主におけるウイルス感染症を治療することができる。加えて、ウイルスの受容体をコードしている遺伝子の標的化された切断を使用し、そのような受容体の発現を阻止し、これにより宿主生物におけるウイルス感染及び/又はウイルスの拡散を防止することができる。ウイルス受容体(例えばHIVのためのCCR5及びCXCR4受容体)をコードしている遺伝子の標的化された変異誘発を使用し、受容体をウイルスに結合できないようにし、これにより新たな感染を予防しかつ現存する感染の拡散を阻止することができる。標的化され得るウイルス又はウイルス受容体の非限定的例は、単純ヘルペスウイルス(HSV)、例えばHSV-1及びHSV-2、水痘帯状庖疹ウイルス(VZV)、エプスタイン・バーウイルス(EBV)及びサイトメガロウイルス(CMV)、HHV6及びHHV7を含む。ウイルスの肝炎ファミリーは、A型肝炎ウイルス(HAV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、δ型肝炎ウイルス(HDV)、E型肝炎ウイルス(HEV)及びG型肝炎ウイルス(HGV)を含む。他のウイルス又はそれらの受容体を標的化することができ、これは、ピコルナウイルス科(例えばポリオウイルスなど);カルシウイルス科;トガウイルス科(例えば風疹ウイルス、デング熱ウイルスなど);フラビウイルス科;コロナウイルス科;レオウイルス科;ビルナウイルス科;ラブドウイルス科(例えば狂犬病ウイルスなど);フィロウイルス科;パラミクソウイルス科(例えばムンプスウイルス、麻疹ウイルス、呼吸器合胞体ウイルスなど);オルソミクソウイルス科(例えばA、B及びC型インフルエンザウイルスなど);ブニヤウイルス科;アレナウイルス科;レトロウイルス科;レンチウイルス(例えばHTLV-I;HTLV-II;HIV-1(HTLV-III、LAV、ARV、hTLRなどとしても公知)、HIV-II);シミアン免疫不全ウイルス(SIV)、ヒトパピローマウイルス(HPV)、インフルエンザウイルス及びダニ媒介脳炎ウイルスを含むが、これらに限定されるものではない。これら及び他のウイルスの説明については、例えば「Virology」第3版(W. K. Joklik編集, 1988);「Fundamental Virology」第2版(B. N. Fields及びD. M. Knipe編集, 1991)を参照のこと。例えばHIVの受容体は、CCR-5及びCXCR-4を含む。
【0183】
同様の様式で、感染細菌のゲノムは、細菌感染を阻止又は改善するために、標的化されたDNA切断、それに続く非-相同末端連結により変異誘発することができる。
標的化された組換えに関して開示された方法は、任意のゲノム配列の相同非同一の配列との交換に使用することができる。例えば、変異体ゲノム配列は、その野生型対応物により交換され、これにより例えば遺伝子疾患、遺伝性疾患、癌、及び自己免疫疾患を治療する方法を提供することができる。同様の様式で、遺伝子のひとつの対立遺伝子は、本明細書に開示された標的化された組換えの方法を使用し、異なる対立遺伝子と交換することができる。
【0184】
遺伝子疾患の例は、軟骨無形成症、全色盲、酸性マルターゼ欠損症、アデノシンデアミナーゼ欠損症(OMIM No.102700)、副腎脳白質ジストロフィー、エカルディ症候群、α-1抗トリプシン欠乏症、α-サラセミア、アンドロゲン不応症候群、アペール症候群、不整脈惹起性右心室、形成異常、毛細管拡張性運動失調、バース症候群、β-サラセミア、青色ゴムまり様母斑症候群、キャナバン病、慢性肉芽腫症(CGD)、ネコ鳴き症候群、嚢胞性線維症、デルカム病、外胚葉性形成異常、ファンコニー貧血、進行性骨化性線維形成異常、脆弱性X症候群、ガラクトース血症、ゴーシェ病、全身性ガングリオシドーシス(例えばGM1)、ヘモクロマトーシス、βグロビン第6コドンのヘモグロビンC変異(HbC)、血友病、ハンチントン病、ハーラー症候群、低ホスファターゼ血症、クラインフェルター症候群、クラッペ病、ランガ・ギーデイオン症候群、白血球接着不全(LAD、OMIM No. 116920)、大脳白質萎縮症、QT延長症候群、マルファン症候群、メビウス症候群、ムコ多糖症(MPS)、爪膝蓋骨症候群、腎原性尿崩症、神経線維腫症、ニーマン・ピック病、骨形成不全症、ポルフィリン症、プラダー・ヴィリ症候群、早老症、プロテウス症候群、網膜芽細胞腫、レット症候群、ルビンシュタイン・テイビ症候群、サンフィリポ症候群、重症複合型免疫不全(SCID)、シュバッハマン症候群、鎌状赤血球症(鎌状赤血球貧血)、スミス・マジェニス症候群、スティックラー症候群、テイ・サックス病、血小板減少・橈骨欠損症候群、トレチャー・コリンズ症候群、三染色体性、結節硬化症、ターナー症候群、尿素回路病、フォン・ヒッペル・リンダウ病、ワールデンブルヒ症候群、ウィリアムズ症候群、ウィルソン病、ヴィスコット・オールドリッチ症候群、伴性劣性リンパ球増殖症候群(XLP、OMM No. 308240)を含むが、これらに限定されるものではない。
【0185】
追加の標的化されたDNA切断及び/又は相同組換えにより治療され得る疾患例は、後天性免疫不全症、リソソーム蓄積症(例えばゴーシェ病、GM1、ファブリー病及びテイ・サックス病)、ムコ多糖症(例えばハンター病、ハーラー病)、異常血色素症(例えば鎌状赤血球症、HbC、α-サラセミア、β-サラセミア)及び血友病を含む。
【0186】
場合によっては、多能性細胞(例えば造血幹細胞)のゲノム配列の変更が望ましい。造血幹細胞の動員、集積及び培養の方法は、当該技術分野において公知である。例えば、米国特許US 5,061,620;US 5,681,559;US 6,335,195;US 6,645,489及びUS 6,667,064を参照のこと。SCID及び鎌状細胞貧血を含むが、これらに限定されるものではない様々な疾患の治療のために、処理された幹細胞は、患者へ戻すことができる。
【0187】
これらの場合の多くにおいて、関心対象の領域は、変異を含み、及びドナーポリヌクレオチドは、対応する野生型配列を含む。同様に、野生型ゲノム配列は、それが望ましい場合は、変異体配列により交換され得る。例えば癌遺伝子の過剰発現は、遺伝子の変異によるか、又はその対照配列のより低い非病原性レベルの発現を支援する配列との交換のいずれかにより、逆転され得る。別の例において、ApoAI遺伝子の野生型対立遺伝子は、ApoAI Milano対立遺伝子と交換され、アテローム硬化症を治療することができる。実際特定のゲノム配列に依存する病変は、あらゆる様式において、本明細書に開示された方法及び組成物を用い、補正又は軽減することができる。
【0188】
標的化された切断及び標的化された組換えは、遺伝子産物の発現レベルを変更するための、非-コード配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、イニシエーター、ターミネーター、スプライシング部位のような調節配列)の変更にも使用することができる。このような方法を、例えば、治療目的、機能的ゲノム及び/又は標的バリデーション試験に使用することができる。
【0189】
本明細書に開示された組成物及び方法は、同種移植片に対する宿主の免疫応答に対処する新規方法及びシステムももたらす。特に同種幹細胞(又は同種細胞の任意の型)が宿主レシピエントへ移植される場合に直面する重大な問題点は、主に生着細胞の表面上の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)の認識により媒介された、宿主免疫系による拒絶反応の高いリスクである。MHCは、共通のβサブユニット及び可変αサブユニットで構成されるヘテロ二量体として機能するHLAクラスIタンパク質(複数)を含む。HLAを欠いている幹細胞由来の組織移植片は、宿主の免疫応答を回避することが明らかにされている。例えばCoffmanら、J Immunol, 151, 425-35. (1993);Markmannら、Transplantation, 54, 1085-9. (1992);Kollerら、Science, 248, 1227-30 (1990)を参照のこと。本明細書に開示された組成物及び方法を使用し、移植片拒絶反応に関連したHLAタンパク質をコードしている遺伝子は、それらのコード配列又は調節配列のいずれかで、切断されるか、変異されるか又は組換えにより変更され、その結果それらの発現は阻止されるか、又はそれらは非-機能的産物を発現する。例えば、本明細書に開示されたようなZFP融合タンパク質を使用する共通のβサブユニット遺伝子(β2ミクログロブリン)をコードしている遺伝子の失活により、HLAクラスIは、その細胞から除去され、ドナーからHLAクラスIヌル幹細胞を迅速かつ信頼できるように作出し、これにより幹細胞移植時の緊密に合致したドナー/レシピエントMHCハロタイプの必要性を低下する。
【0190】
任意の遺伝子(例えばβ2ミクログロブリン遺伝子)の失活は、例えば単独の切断事象によるか、切断それに続く非相同末端連結によるか、2部位での切断それに続く2切断部位の間の配列を欠損するための連結によるか、ミスセンスもしくはナンセンスコドンのコード領域への標的化された組換えによるか、又は遺伝子もしくはその調節領域を破壊するための、無関係の配列(すなわち「スタッファー(stuffer)配列)の遺伝子もしくはその調節領域への標的化された組換えにより、活性化され得る。
【0191】
共有のWO 01/83793に開示されたように、クロマチン構造の標的化された修飾は、融合タンパク質の細胞クロマチンへの結合の促進に使用することができる。
追加の実施態様において、ジンクフィンガー結合ドメインとリコンビナーゼ(又はそれらの機能断片)の間の1種又は複数の融合体を、本明細書に開示されたジンクフィンガー-切断ドメイン融合体に加えるか又はそれの代わりに使用し、標的化された組換えを促進することができる。例えば共有の米国特許US 6,534,261、及びAkopian ら、(2003) Proa Natl. Acad. Sci USA 100:8688-8691を参照のこと。
【0192】
追加の実施態様において、開示された方法及び組成物を使用し、ZFP結合ドメインの、それらの活性に関する二量体化(ホモ二量体化又はヘテロ二量体化のいずれか)を必要とする転写活性化又は抑制ドメインとの融合体が提供される。これらの場合、融合ポリペプチドは、ジンクフィンガー結合ドメイン及び機能ドメインモノマー(例えば二量体転写活性化又は抑制ドメイン由来のモノマー)を含む。そのようなふたつの融合ポリペプチドの適切に位置した標的部位への結合は、機能的転写又は抑制ドメインを再構成するための、二量体化を可能にする。
【0193】
(標的化された組込み)
先に開示されたように、本明細書に記された方法及び組成物は、外来配列の細胞ゲノム内の関心対象の領域への標的化された組込みのために使用することができる。ゲノムの二本鎖破損での外来配列の標的化された組込みは、相同性-依存型及び相同性-非依存型の両機序により生じ得る。
前述のようにある実施態様において、相同性-依存型及び相同性-非依存型の両機序による標的化された組込みは、切断により作出された端の間の外来配列の挿入が関連している。挿入された外来配列は、任意の長さ、例えば、1〜50ヌクレオチド長(例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45又は50ヌクレオチド配列)の比較的短い「パッチ」配列であることができる。
【0194】
標的化された組込みが相同性-依存型である場合において、ドナー核酸又はドナー配列は、外来配列を、予め決定されたゲノム配列(すなわち標的部位)と同一、又は相同であるが非同一のいずれかの配列の1種又は複数と共に含む。ある実施態様において、ふたつの同一配列又はふたつの相同であるが非同一の配列(又はおのおのひとつ)が存在し、外来配列の側方に位置する。外来配列(又は外来核酸もしくは外来ポリヌクレオチド)は、関心対象の領域に通常存在しないヌクレオチド配列を含むものである。
【0195】
外来配列の例は、cDNA、プロモーター配列、エンハンサー配列、エピトープタグ、マーカー遺伝子、切断酵素認識部位及び様々な種類の発現構築体を含むが、これらに限定されるものではない。マーカー遺伝子は、抗生物質耐性(例えばアンピシリン耐性、ネオマイシン耐性、G418耐性、ピューロマイシン耐性)を媒介するタンパク質をコードしている配列、呈色又は蛍光又はルミネセントタンパク質(例えば緑色蛍光タンパク質、増強型緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ)、並びに増強された細胞増殖及び/又は遺伝子増幅を媒介するタンパク質(例えばジヒドロ葉酸還元酵素)をコードしている配列を含むが、これらに限定されるものではない。エピトープタグは、例えば、FLAG、His、myc、Tap、HA又は任意の検出可能なアミノ酸配列の1種又は複数のコピーを含む。
【0196】
タンパク質発現構築体は、cDNA及びcDNA配列に機能的に連結した転写制御配列を含むが、これらに限定されるものではない。転写制御配列は、プロモーター、エンハンサー及びインスレーターを含む。発現構築体に含まれ得る追加の転写及び翻訳調節配列は、例えば、配列内リボソーム進入部位、2Aペプチド及びポリアデニル化シグナルをコードしている配列を含む。タンパク質発現構築体の例は、抗体重鎖をコードしている配列及び抗体軽鎖をコードしている配列を含み、各配列は、プロモーターに機能的に連結され(プロモーターは同じ又は異なる)、並びにいずれかもしくは両方の配列は、エンハンサーに任意に機能的に連結されている(及び、両方のコード配列がエンハンサーに連結されている場合、エンハンサーは同じ又は異なる)、抗体発現構築体である。
【0197】
切断酵素認識部位は、例えば、制限エンドヌクレアーゼ、ホーミングエンドヌクレアーゼ及び/又はメガヌクレアーゼにより認識された配列を含む。切断酵素認識部位の標的化された組込み(相同性-依存型又は相同性-非依存型のいずれかの機序による)は、そのゲノムは特定の酵素により切断される単独の部位のみを含む細胞の作出に有用である。そのような細胞の、単独の部位を認識及び切断する酵素との接触は、引き続きの外来配列の標的化された組込み(相同性-依存型又は相同性-非依存型のいずれかの機序による)、及び/又は切断された部位での標的化された変異誘発を促進する。
【0198】
切断酵素認識部位の一例は、ホーミングエンドヌクレアーゼI-SceIにより認識されるものであり、これは以下の配列を有する:
TAGGGATAACAGGGTAAT (配列番号:213)
例えば、米国特許US 6,833,252を参照のこと。追加のホーミングエンドヌクレアーゼの例は、I-CeuI、PI-PspI、PI-Sce、I-SceIV、I-CsmI、I-PanI、I-SceII、I-PpoI、I-SceIII、I-CreI、I-TevI、I-TevII及びI-TevIIIを含む。それらの認識配列は公知である。同じく米国特許US 5,420,032;Belfortら、(1997) Nucleic Acids Res. 25:3379-3388;Dujonら、(1989) Gene, 82:115-118;Perlerら、(1994) Nucleic Acids Res. 22, 1125-1127;Jasin、(1996) Trends Genet. 12:224-228;Gimbleら、(1996) J. Mol Biol. 263:163-180;Argastら、(1998) J. Mol. Biol. 280:345-353、及びNew England Biolabsカタログを参照のこと。
【0199】
ほとんどのホーミングエンドヌクレアーゼの切断特異性は、それらの認識部位に関して絶対ではないが、それらの部位は、哺乳類-サイズの1ゲノムあたり1個の切断事象が、その認識部位のコピー1個を含む細胞のホーミングエンドヌクレアーゼの発現により得られる十分な長さである。切断酵素は、非天然の標的部位に結合するように操作され得ることも報告されている。例えば、Chevalierら、(2002) Molec. Cell, 10:895-905;Epinatら、(2003) Nucleic Acids Res. 31:2952-2962;Ashworthら、(2006) Nature 441:656-659参照のこと。
【0200】
ホーミングエンドヌクレアーゼを使用し標的化された組換え及び組込みを得るための先行する方法は、認識部位の標的化された挿入は、極めて不充分であり、所望の位置に挿入された認識部位を含む細胞を同定するためには、煩雑なスクリーニングを必要とするという問題点に悩まされている。本方法は、DNA-切断酵素の認識部位の高い効率の標的化された組込み(相同性-依存型又は相同性-非依存型の機序のいずれか)をもたらすことにより、これらの問題点を克服している。
ある実施態様において、RNA発現構築体、例えばマイクロRNA又はsiRNAの調節された発現に責任を果たす配列を挿入するために、標的化された組込みが使用される。先に説明されたようなプロモーター、エンハンサー及び追加の転写調節配列も、RNA発現構築体に組込まれ得る。
【0201】
標的化された組込みが相同性-依存型機序で生じるような実施態様において、ドナー配列は、外来配列の側方に位置する領域において、ゲノム配列における二本鎖破損の相同性-方向付けられた修復を支援し、これにより、ゲノム標的部位に外来配列を挿入するために十分な相同性を有する。従ってドナー核酸は、相同性-依存型修復機序(例えば相同組換え)により、外来配列の組込みを支援するのに十分な任意のサイズであることができる。いずれか特定の理論に結びつけられることを欲するものではないが、外来配列の側方に位置する相同領域は、二本鎖破損の部位の遺伝情報の再合成のための鋳型を伴う、破壊された染色体末端を提供する。
【0202】
本明細書に開示された外来配列の標的化された組込みは、タンパク質発現のための細胞及び細胞株を作出するために使用することができる。例えば、共有の米国特許公開US 2006/0063231(その開示は、あらゆる目的のために、本明細書に参照として、その全体が組入れられている)参照のこと。ゲノムへ組込まれた外来配列によりコードされた1種又は複数のタンパク質の最適な発現に関して、染色体組込み部位は、好ましくは広範な細胞型及び発生段階における、組込まれた配列の高レベル転写と同等であるはずである。しかし、組込まれた配列の転写は、とりわけ組込み部位のゲノムのクロマチン構造のために、組込み部位に応じ変動することが認められている。従って組込まれた配列の高レベル転写を支援するゲノム標的部位が望ましい。ある実施態様において、外来配列の組込みは、1種又は複数の細胞遺伝子(例えば癌遺伝子)の異所性活性化を生じないことも望ましいであろう。他方で、プロモーター及び/又はエンハンサー配列の組込みの場合、異所性発現が望ましいことがある。
【0203】
ある実施態様において、組込み部位は、必須遺伝子(例えば細胞生存能に必須の遺伝子)内に存在しないことが望ましく、そのため該必須遺伝子の失活は、外来配列の組込みから生じない。他方で、その意図が遺伝子機能を無効にすること(すなわち遺伝子「ノックアウト」を作出)である場合は、内在性遺伝子を破壊するための外来配列の標的化された組込みは、有効な方法である。これらの場合において、外来配列は、内在性遺伝子の転写を阻止するか又は非-機能的翻訳産物を作出することが可能である任意の配列、例えば、任意に検出可能であるアミノ酸配列の短いパッチ(前記参照)であることができる。ある実施態様において、外来配列は、マーカー遺伝子(前述)を含むことができ、標的化された組込みを受けた細胞の選択が可能である。
【0204】
必須遺伝子をコードせず及びそこに組込まれた配列の高レベル転写を支援する(組込み部位の「安全な収容」)染色体領域の非限定的例は、Rosa26及びCCR5座を含む。
Rosa26遺伝子座は、マウスゲノムにおいて同定されている。Zambrowiczら、(1997) Proc. Natl. Acad. Sci USA, 94:3789-3794。マウスRosa26 mRNAの配列は、ヒトcDNAスクリーンのデータ(Strausbergら、(2002) Proc. Natl. Acad. Sci USA 99:16899-16903)と比較され、かつ相同なヒト転写産物が、本発明者らにより検出された。従ってRosa26のヒトホモログを、本明細書に開示された方法及び組成物を使用する、ヒト細胞及び細胞株のゲノムへの外来配列組込みの標的部位として使用することができる。
【0205】
CCR5ゲノム配列(CCR5-Δ32のような対立遺伝子変種を含む)は、当該技術分野において周知である。例えばLiuら、(1996) Cell, 367-377参照。
組込まれた配列の高レベル転写を支援する追加のゲノム標的部位は、共有の米国特許出願US 2002/0064802(2002年5月30日)及びUS 2002/0081603(2002年6月27日)に開示されたような、オープンクロマチン領域又は「接近可能な領域」として同定され得る。
【0206】
ゲノム配列における二本鎖破損の存在は、二本鎖破損の部位でのゲノムへの外来配列の相同性-依存型組込み(すなわち相同組換え)のみではなく、外来配列の相同性-非依存型組込みも促進する。従って本明細書に開示された組成物及び方法を、ゲノム配列の標的化された切断、それに続く標的化された切断部位で又はその近傍での外来配列の非-相同性-依存型組込みに使用することができる。例えば細胞は、本明細書に説明されたような、ゲノム内の関心対象の領域を切断するように操作された1種又は複数のZFP-切断ドメイン(又は切断ハーフ-ドメイン)融合タンパク質(又は、そのような融合タンパク質をコードしている1種もしくは複数のポリヌクレオチド)、並びに関心対象の領域との相同性を欠いている外来配列を含むポリヌクレオチドと接触し、全て又は一部の外来配列が関心対象の領域へ組込まれている細胞を得ることができる。
【0207】
本明細書に開示された相同性-依存型及び-非依存型の両方の、標的化された組込み(すなわち外来配列のゲノムへの挿入)の方法は、多くの目的のために使用することができる。これらは、細胞による遺伝子又はcDNAの転写及び/又は翻訳産物の発現を可能にするための遺伝子又はcDNA配列の細胞ゲノムへの挿入を含むが、これに限定されるものではない。疾患又は病変が複数の変異(例えば遺伝子の配列の全域に広がった複数の点変異)のひとつから生じるような状況に関して、野生型遺伝子のcDNAコピーの標的化された組込み(相同性-依存型又は相同性-非依存型のいずれか)は、特に有効である。例えばそのような野生型cDNAが、非翻訳リーダー配列又は全ての公知の変異の上流の遺伝子の第一のエクソンに挿入される。翻訳リーディングフレームが保存されているある組込体において、結果は、野生型cDNAが発現され、かつその発現は適当な内在性転写調節配列により調節されることである。追加の実施態様において、そのように組込まれたcDNA配列は、野生型cDNAの下流及び変異体内在性遺伝子の上流に配置された転写(及び/又は翻訳)終結シグナルを含むことができる。この方法で、病因遺伝子の野生型コピーが発現され、及び変異体内在性遺伝子は発現されない。別の実施態様において、野生型cDNAの一部は、遺伝子の適当な領域に挿入される(例えば、病因変異がクラスター化される遺伝子)。
【実施例】
【0208】
(実施例)
(実施例1:標的化された組換えによる染色体hSMClL1遺伝子の校正)
hSMClL1遺伝子は、出芽酵母遺伝子染色体構造維持1(structural maintenance of chromosomes 1)のヒトオルソログである。Walker ATPaseドメインを含むタンパク質のアミノ末端部分をコードしているこの遺伝子の領域を、標的化された切断及び組換えにより変異誘発した。切断は、ジンクフィンガーDNA-結合ドメイン及びそのコドン近傍で結合するFokI切断ハーフ-ドメインを含むキメラヌクレアーゼをデザインすることにより、メチオニン開始コドンの領域(ヌクレオチド24-26、
図1)に標的化した。従って2個のジンクフィンガー結合ドメインがデザインされ、そのひとつはヌクレオチド23-34を認識し(
図1に示された上側鎖に沿った一次接触)、他方はヌクレオチド5-16を認識する(下側鎖に沿った一次接触)。ジンクフィンガータンパク質は、共有の米国特許US 6,453,242及びUS 6,534,261に開示されたようにデザインした。ジンクフィンガータンパク質の認識領域のアミノ酸配列については表2を参照のこと。
【0209】
これらふたつのZFP結合ドメインの各々をコードしている配列を、FokI切断ハーフ-ドメインをコードしている配列(未変性のFokI配列のアミノ酸384-579;Kitaら、(1989) J. Biol. Chem. 264:5751-5756)に融合し、その結果このコードされたタンパク質は、カルボキシ末端にFokI配列及びアミノ末端にZFP配列を含んだ。次にこれらの融合配列の各々を、修飾された哺乳類発現ベクターpcDNA3にクローニングした(
図2)。
【0210】
【表3】
【0211】
以下のようにドナーDNA分子を得た。最初に、ヒトhSMC1L1遺伝子の第一のエクソンを含む、X染色体の「-」鎖のヌクレオチド52415936-52416635を表すヒトゲノムDNAの700塩基対断片(UCSCヒトゲノム公開、2003年7月)を、鋳型としてHEK293細胞由来のゲノムDNAを用いて、増幅した。増幅に使用されたプライマー配列は、表3に示す(「初回amp1」及び「初回amp2」)。その後PCR産物を、標準重複伸長PCR法(例えばHoら、(1989) Gene 77:51-59参照)を用いて変更し、配列ATGGGG(
図1のヌクレオチド24-29)のATAAGAAGCへの交換を得た。この変化は、ATGコドン(メチオニン)のATAコドン(イソロイシン)への転換及びGGG(
図1のヌクレオチド27-29)の配列AGAAGCによる交換を生じ、組換え後のドナー-由来の配列と内在性染色体配列の間の識別を可能にした。開始コドンの領域内の染色体DNAの配列、及び染色体配列と異なるドナーDNAの配列を含む、hSMC1遺伝子の概略図を、
図3に示す。得られる700塩基対ドナー断片は、ヒトゲノムと相同な配列を含まないpCR4BluntTopoにクローニングした。
図4参照。
【0212】
染色体hSMC1L1遺伝子の標的化された変異に関して、ZFP-FokI融合体をコードしているふたつのプラスミド及びドナープラスミドを、リポフェクタミン2000(登録商標)(Invitrogen)を使用する形質移入により、1x10
6個HEK293細胞へ導入した。対照は、ZFP-FokI融合体をコードしているふたつのプラスミドのみで形質移入された細胞、ドナープラスミドのみで形質移入された細胞及び対照プラスミド(pEGFP-N1, Clontech)で形質移入された細胞を含んだ。細胞は、5%CO
2下、37℃で培養した。形質移入の48時間後、ゲノムDNAを細胞から単離し、200ngをPCR増幅の鋳型として使用し、ここでドナー配列と相同なその領域の外側の遺伝子の領域に相補的なひとつのプライマー(X染色体「-」鎖のヌクレオチド52416677-52416701;UCSC 2003年7月)、及び識別する変異が導入されたドナー分子の領域に相補的である第二のプライマーを使用した。これら2種のプライマーを使用し、標的化された組換え事象が生じた場合に、400塩基対の増幅産物を、ゲノムDNAから得た。これらのプライマーの配列は、表3に示した(各々、「染色体-特異的」及び「ドナー-特異的」と表示した)。増幅の条件は以下である:94℃で2分間、それに続く94℃で30秒、60℃で1分間、72℃で1分間を40サイクル;並びに、72℃で7分間の最終工程。
【0213】
この分析の結果(
図5)は、400塩基対増幅産物(図中「キメラDNA」と記す)は、ドナープラスミド及び両方のZFP-FokIプラスミドが形質移入された細胞から抽出したDNAによってのみ得られたことを示している。
【0214】
【表4】
【0215】
この結果を確認するために、ふたつの追加実験を行った。第一に、この増幅産物を、pCR4Blunt-Topo(Invitrogen)にクローニングし、そのヌクレオチド配列を決定した。
図6(配列番号:6)に示されたように、2種のZFP-FokI-コードしているプラスミド及びドナープラスミドにより形質移入された細胞の染色体DNAから得られた増幅配列は、AAGAAGC配列を含み、これは、ドナー分子に存在しない染色体配列(
図6のヌクレオチド32-97)に共有結合されたドナーに特有であり(
図6に示された配列のヌクレオチド395-401)、これはドナー配列が染色体に組換えられたことを示している。特に開始コドンをイソロイシンコドンに転換するG→A変異が、この配列の395位に認められた。
【0216】
第二の実験において、ドナープラスミドによってのみ形質移入された細胞、両方のZFP-FokI融合体プラスミドにより形質移入された細胞、ドナープラスミド及び両方のZFP-FokI融合プラスミドにより形質移入された細胞、又はEGFP対照プラスミドにより形質移入された細胞に由来する染色体DNAを、増幅の鋳型として使用し、ここでドナー配列と染色体配列の間の相同な700-ヌクレオチド領域の外側の配列に相補的なプライマーを使用した。(表3において「外側1」及び「外側2」と同定した)得られた増幅産物は精製し、先に説明されたようにドナー-特異的プライマー及び染色体-特異的プライマーを使用する第二の増幅反応の鋳型として使用した(表3)。この増幅は、ドナー構築体及び両方のZFP-FokI融合構築体により形質移入された細胞からのみ400ヌクレオチド産物を生じ、結果は、これらの細胞における標的化された組換えによるゲノム配列の交換と一致した。
【0217】
(実施例2:標的化された組換えによる染色体IL2Rγ遺伝子の校正)
IL-2Rγ遺伝子は、いくつかのインターロイキン受容体(IL-2R、IL-4R、IL-7R、IL-9R、IL-15R及びIL-21Rを含む)のサブユニットとして機能する「共通サイトカイン受容体γ鎖」として公知であるタンパク質をコードしている。第三のエクソンの5'末端を取り囲んでいるものを含むこの遺伝子の変異(例えばチロシン91コドン)は、X-連鎖性の重症複合型免疫不全(SCID)を引き起こし得る。例えばPuckら、(1997) Blood, 89:1968-1977参照。チロシン91コドンの変異(配列番号:7のヌクレオチド23-25;
図7)は、標的化された切断及び組換えにより、IL2Rγ遺伝子へ組込まれる。切断は、ジンクフィンガータンパク質のふたつの対をデザインすることにより、この領域に標的化された。第一の対(表4の最初の2列)は、ヌクレオチド29-40 (
図7に示された上側鎖に沿った一次接触)に結合するようにデザインされたジンクフィンガータンパク質、並びにヌクレオチド8-20(下側鎖に沿った一次接触)に結合するようにデザインされたジンクフィンガータンパク質を含む。第二の対(表4の第三及び第四行)は、ふたつのジンクフィンガータンパク質を含み、その第一は、ヌクレオチド23-34(
図7の上側鎖に沿った一次接触)を認識し、及びその第二は、ヌクレオチド8-16(下側鎖に沿った一次接触)を認識する。ジンクフィンガータンパク質は、共有の米国特許US 6,453,242及びUS 6,534,261に開示されたようにデザインされた。ジンクフィンガータンパク質の認識領域のアミノ酸配列に関して表4を参照のこと。
【0218】
ZFP結合ドメインをコードしている配列は、FokI切断ハーフ-ドメイン(未変性の FokI配列のアミノ酸384-579、Kitaら、前掲)をコードしている配列に融合し、その結果このコードされたタンパク質は、カルボキシ末端にFokI配列及びアミノ末端にZFP配列を含んだ。その後これらの融合配列の各々を、修飾された哺乳類発現ベクターpcDNA3にクローニングした。この構築体の概略については
図8参照。
【0219】
【表5】
【0220】
以下のようにドナーDNA分子を得た。最初にIL2Rγ遺伝子のエクソン3を含む、X染色体の「-」鎖の69196910-69197609位に相当するヒトDNAの700塩基対断片(UCSC、2003年7月)を、鋳型としてK562細胞由来のゲノムDNAを用いて増幅した。
図9参照。増幅に使用したプライマー配列は、表5に示す(「初回amp1」及び「初回amp2」と表示)。その後PCR産物を、標準重複伸長PCR法(Hoら、前掲)を用いて変更し、配列TACAAGAACTCGGATAAT(配列番号:62)を配列TAAAAGAATTCCGACAAC(配列番号:63)と交換した。この交換は、ヌクレオチド25での点変異の導入(
図7)、チロシン91コドンTACのTAA終結コドンへの転換を生じ、並びにコドン91の下流の配列は異なるので、組換え後のドナー-由来の配列と内在性染色体配列の間の識別を可能にした。得られる700塩基対断片は、ヒトゲノムと相同な配列を含まないpCR4BluntTopoにクローニングした。
図10参照。
【0221】
染色体IL2Rγ遺伝子の標的化された変異に関して、ドナープラスミドを、ZFP-FokI融合体の対のひとつを各々コードしているふたつのプラスミドと共に、混合型リポフェクション/電気穿孔法(Amaxa)を用い、2x10
6個K652細胞へ導入した。ZFP/FokI対の各々(表4参照)は、個別の実験で試験した。対照は、ZFP-FokI融合体をコードしているふたつのプラスミドのみで形質移入された細胞、ドナープラスミドのみで形質移入された細胞を含んだ。細胞は、5%CO
2下、37℃で培養した。形質移入の48時間後、ゲノムDNAを細胞から単離し、200ngをPCR増幅の鋳型として使用し、ここでドナー配列と相同なその領域の外側の遺伝子の領域に相補的なひとつのプライマー(X染色体「+」鎖のヌクレオチド69196839-69196863;UCSC 2003年7月)、及び識別する変異が導入されたドナー分子の領域に相補的であり(前記参照)、従ってその配列は染色体DNAのそれから分岐した第二のプライマーを使用した。各々「染色体-特異的」及び「ドナー-特異的」と表示されたプライマー配列について、表5参照。これら2種のプライマーを使用し、500bpの増幅産物を、標的化された組換え事象が生じたゲノムDNAから得た。増幅の条件は以下である:94℃で2分間、それに続く94℃で30秒、62℃で1分間、72℃で45秒を35サイクル;並びに、72℃で7分間の最終工程。
【0222】
この分析の結果(
図11)は、予想されたサイズ(500塩基対)の増幅産物が、ドナープラスミド及び両方のZFP-FokIコードしているプラスミド対のいずれかにより形質移入された細胞から抽出したDNAによって得られたことを示している。ZFPの対のみをコードしているプラスミドで形質移入された細胞由来のDNA(ドナープラスミドなし)は、500bp産物の生成を生じず、ドナープラスミドによってのみ形質移入された細胞由来のDNAではなかった。
【0223】
【表6】
【0224】
この結果を確認するために、ZFP/FokI融合体の第二の対を用いる実験から得られた増幅産物を、pCR4Blunt-Topo(Invitrogen)にクローニングし、そのヌクレオチド配列を決定した。
図12(配列番号:12)に示されたように、この配列は、染色体配列とドナープラスミド由来の配列の間の融合体からなる。特にチロシン91を停止コドンへ転換するGのAへの変異が、配列の43位において認められた。43-58位は、ドナーに独自のヌクレオチドを含み;ヌクレオチド32-42及び59-459は、ドナー及び染色体に共通な配列であり、並びにヌクレオチド460-552は、染色体に特有な配列である。染色体に存在するがドナーに存在しない配列に共有的に連結されたドナー-特有の配列の存在は、ドナープラスミド由来のDNAは、相同組換えにより染色体へ導入されたことを示している。
【0225】
(実施例3:標的化された組換えによる染色体β-グロビン遺伝子の校正)
ヒトβグロビン遺伝子は、成人赤血球中のヘモグロビンの構造及び機能に責任を果たすふたつの遺伝子産物のひとつである。βグロビン遺伝子の変異は、鎌状赤血球貧血を生じる。ふたつのジンクフィンガータンパク質は、この配列内において、変異した場合に鎌状赤血球貧血を引き起こすヌクレオチドの位置の近傍で結合するようにデザインした。
図13は、ヒトβグロビン遺伝子の一部のヌクレオチド配列を示し、ふたつのジンクフィンガータンパク質の標的部位には、
図13に示された配列において下線を付けた。ふたつのジンクフィンガータンパク質の認識領域のアミノ酸配列を、表6に示した。これらふたつのZFP結合ドメインの各々をコードしている配列は、先に説明されたように、FokI切断ハーフ-ドメインをコードしている配列に融合し、内在性βグロビン遺伝子を標的化する操作されたZFP-ヌクレアーゼを生じた。その後これらの融合配列の各々は、哺乳類発現ベクターpcDNA3.1にクローニングした(
図14)。
【0226】
【表7】
【0227】
以下のようにドナーDNA分子を得た。最初に、染色体11の「-」鎖のヌクレオチド5212134-5212833位に相当するヒトゲノムDNAの700塩基対断片(BLAT、UCSCヒトゲノムサイト)を、鋳型としてK562細胞由来のゲノムDNAを用いて、PCR増幅した。増幅に使用したプライマー配列は、表7に示す(「初回amp1」及び「初回amp2」と表示)。得られた増幅された断片は、プロモーター、ヒトβグロビン遺伝子の最初の2個のエクソン及び第一のイントロンに対応する配列を含んだ。βグロビン配列内のエクソン1及び2、第一のイントロン、及びプライマー結合部位の位置を図示する概略については、
図15を参照のこと。次にクローニングされた産物を更に、PCRにより修飾し、ヌクレオチド305-336間の配列変化のセット(
図13に示した)を導入し、これは配列CCGTTACTGCCCTGTGGGGCAAGGTGAACGTG (配列番号:78)を、gCGTTAgTGCCCGAATTCCGAtcGTcAACcac (配列番号:79)と交換した(太字は変化)。ある種のこれらの変化(小文字で記した)は、一旦染色体に組込まれたならば、ZFP/FokI融合タンパク質がドナー配列に結合及び切断するのを防止するように、特別に操作した。加えて全ての配列変化は、組換え後、ドナーと内在性染色体配列の間を識別することができる。得られる700塩基対断片は、ヒトゲノムと相同な配列を含まないpCR4-TOPOへクローニングした(
図16)。
【0228】
染色体βグロビン遺伝子の標的化された変異に関して、ZFP-FokI融合体をコードしているふたつのプラスミド及びドナープラスミド(pCR4-TOPO-HBBドナー)を、Nucleofector(商標)液(Amaxa Biosystems)を用い、1x10
6個のK562細胞へ導入した。対照は、ZFP-FokI融合体をコードしているふたつのプラスミドの100ng(低)又は200ng(高)でのみで形質移入された細胞、ドナープラスミドの200ng(低)又は600ng(高)のみで形質移入された細胞、GFP-コードしているプラスミドにより形質移入された細胞、及び偽形質移入された細胞を含んだ。細胞は、10%ウシ胎仔血清(FBS)(Hyclone)及び2mM L-グルタミンを補充した、RPMI培地1640(Invitrogen)において培養した。細胞は、5%CO
2大気中で37℃で維持した。形質移入の72時間後、ゲノムDNAを細胞から単離し、200ngをPCR増幅の鋳型として使用し、ドナー配列と相同なその領域の外側の遺伝子の領域に相補的なひとつのプライマー(染色体11の「-」鎖のヌクレオチド5212883-5212905)、及び識別する変異がドナー配列へ導入されたドナー分子の領域に相補的である第二のプライマー(前掲参照)を使用した。これらのプライマーの配列は、表7(各々、「染色体-特異的」及び「ドナー-特異的」と表示)に記した。これら2種のプライマーを使用し、標的化された組換え事象が生じた場合に、415塩基対の増幅産物を、ゲノムDNAから得た。同様のレベルのゲノムDNAが各PCR反応に添加されることを確実にするために、DNA負荷の対照として、PCR反応を、初回amp1及び初回amp2プライマーを使用しても実行した。増幅の条件は以下である:95℃で2分間、それに続く95℃で30秒、60℃で45秒、68℃で2分間を40サイル;並びに、68℃で10分間の最終工程。
【0229】
この分析の結果(
図17)は、415塩基対の増幅産物が、「高」濃度のドナープラスミド及び両方のZFP-FokIプラスミドにより形質移入された細胞から抽出したDNAによって得られたことを示し、これはドナー配列の染色体βグロビン遺伝子座への標的化された組換えと一致している。
【0230】
【表8】
【0231】
この結果を確認するために、増幅産物を、pCR4-TOPO(Invitrogen)にクローニングし、そのヌクレオチド配列を決定した。
図18(配列番号:14)に示されたように、この配列は、ドナープラスミドには存在しない染色体配列とドナープラスミドに特有の配列の間の融合体からなる。例えば、ZFP-結合を破壊するふたつのC→G変異が、その配列の377及び383位に認められた。ヌクレオチド377-408は、先に説明された配列変化を含むドナープラスミドから得られた配列を示し;ヌクレオチド73-376は、ドナー及び染色体に共通の配列であり、並びにヌクレオチド1-72は、染色体に特有である。ゲノムのドナー-特異的配列及び染色体-特異的配列の共有的な連結は、K562細胞のゲノム内の正確な遺伝子座で、ドナー配列の組換えが成功したことを確認する。
【0232】
(実施例4:ZFP-FokIリンカー(ZCリンカー)最適化)
ZCリンカー長の切断効率に対する作用を試験するために、様々な長さのZCリンカーを使用し、4-フィンガーZFP結合ドメインを、FokI切断ハーフ-ドメインに融合した。ZFPの標的部位は、5'-AACTCGGATAAT-3'(配列番号:84)であり、並びに各ジンクフィンガーの認識領域のアミノ酸配列(α-ヘリックスの開始に関して位置-1から+6)は以下であった(ここでF1は最もN-側、及びF4は最もC-側のジンクフィンガーである)。
【0233】
【表9】
【0234】
前述のZFP結合ドメイン及びFokI切断ハーフ-ドメインが、2、3、4、5、6又は10個のアミノ酸残基により隔てられているZFP-FokI融合体を構築した。これらの各タンパク質は、ZFP標的部位の逆方向反復配列を有する基質の切断について試験し、この反復は、4、5、6、7、8、9、12、15、16、17、22、又は26塩基対により隔てられた。
【0235】
ZFP-FokI接合の領域内(ZCリンカー配列には下線を付けた)の、融合構築体のアミノ酸配列は以下である。
【0236】
【表10】
【0237】
様々な切断基質の配列は、以下であり、ZFP標的部位には下線を付けた。
【0238】
【表11】
【0239】
様々なZFP-FokI融合タンパク質をコードしているプラスミド(前記参照)を、標準分子生物学的技術により構築し、並びにin vitro組合せた転写/翻訳システムを用い、コードされたタンパク質を発現した。各構築体に関して、200ng線状化プラスミドDNAを、TnT混合液20μL中でインキュベーションし、及び30℃で1時間45分インキュベーションした。TnT混合液は、100μl TnT溶解液(Promega, マジソン, WI)を、4μl T7 RNAポリメラーゼ(Promega)+2μlメチオニン(1mM)+2.5μl ZnCl
2 (20mM)と共に含む。
【0240】
様々なZFP-FokI融合体によるDNA切断の分析のために、組合せた転写/翻訳反応混合物1ulを、約1ng DNA基質(T4ポリヌクレオチドキナーゼを用い、
32Pで末端標識した)と一緒にし、この混合物をFokI切断緩衝液により、最終容積19μlに希釈した。FokI切断緩衝液は、20mMトリス-HCl pH8.5、75mM NaCl、10μM ZnCl
2、1mM DTT、5%グリセロール、500μg/ml BSAを含有する。この混合物は、37℃で1時間インキュベーションした。次に8mM MgCl
2も含有するFokI緩衝液6.5μlを添加し、インキュベーションを37℃で1時間継続した。タンパク質を、10μlフェノール-クロロホルム溶液の各反応液への添加、混合により抽出し、及び遠心し、相を分離した。各反応液の水相10μlを、10%ポリアクリルアミドゲル上の電気泳動により分析した。
【0241】
このゲルにオートラジオグラフィーを施し、各ZFP-FokI融合体/基質対に関する切断効率を、非切断及び切断基質に対応するバンド内の放射活性の定量、得られた総放射活性の合計、及び切断生成物を表すバンド中の総放射活性の割合の決定により算出した。
【0242】
この実験の結果は、表8に示している。このデータは、所定の標的部位の分離のために最適な切断効率を提供するZCリンカーの選択を可能にしている。このデータは、標的部位の選択された対で切断することができるリンカー長の選択も可能にしているが、意図された切断部位でのものと異なる分離を有する同じ又は同様のZFP標的部位での切断に対し選別する。
【0243】
【表12】
【0244】
4残基リンカーを伴うZFP-FokI融合体に関して、リンカーのアミノ酸配列も変動した。個別の構築体において、当初のLRGSリンカー配列(配列番号:107)は、LGGS(配列番号:108)、TGGS(配列番号:109)、GGGS(配列番号:110)、LPGS(配列番号:111)、LRKS(配列番号:112)、及びLRWS(配列番号:113)に変更し;及び、得られた融合体は、結合部位間に6-塩基対の隔たりを有する基質上で試験した。LGGS(配列番号:108)リンカー配列を含む融合体は、当初のLRGS配列(配列番号:107)を含むものよりもより効率的に切断することが認められた。LRKS(配列番号:112)及びLRWS(配列番号:113)配列を含む融合体は、LRGS配列(配列番号:107)よりもより低い効率で切断されるのに対し、残りの融合体の切断効率は、当初のLRGS配列(配列番号:107)を含む融合体のものに類似していた。
【0245】
(実施例5:二量体化界面におけるFokI切断ハーフ-ドメインの変更から生じる増加した切断特異性)
ZFP/FokI融合タンパク質の対(5-8及び5-10と記される)は、IL-2Rγ遺伝子の第五エクソン中の標的部位へ結合し、標的部位間の領域の切断を促進するようにデザインした。ふたつの融合タンパク質の標的配列を含むこの遺伝子の関連する領域は、
図19に示されている。5-8タンパク質のアミノ酸配列は、
図20に示され、及び5-10タンパク質のアミノ酸配列は、
図21に示されている。両方のタンパク質は、10アミノ酸ZCリンカーを含む。これらのタンパク質のジンクフィンガー部分に関して、ジンクフィンガー中の認識領域のDNA標的配列、更にはアミノ酸配列が、表9に示されている。
【0246】
【表13】
【0247】
この融合タンパク質対のそれらの標的配列間のDNAの特異的切断(
図19参照)を触媒する能力を、標的配列を含む標識したDNA鋳型を用い、及び診断用消化産物の存在についてアッセイし、in vitroにおいて試験した。特異的切断は、両方のタンパク質が使用される場合(表10、第一列)に得られた。しかし5-10融合タンパク質(野生型FokI切断ハーフ-ドメインを含む)は、5-8タンパク質が存在しない非-標的部位での異常な切断(表10、第二列)も可能であり、これは恐らく自己-二量体化に起因するであろう。
【0248】
従って5-10は、アミノ酸残基490をグルタミン酸(E)からリシン(K)へ転換することにより、そのFokI切断ハーフ-ドメインにおいて修飾した。(FokIタンパク質のアミノ酸残基の番号は、Wahら(前掲)に従う)この修飾は、二量体化界面におけるアミノ酸残基を変更することにより、ホモ二量体化を防止するようにデザインした。親5-10タンパク質とは異なり、5-10(E490K)変異体は、5-8融合タンパク質の非存在下では異常な部位を切断することができない(表10、列3)。しかし5-10(E490K)変異体は、5-8タンパク質と一緒に、基質の特異的切断を触媒した(表10、列4)。従って二量体化に関与する5-10の切断ハーフ-ドメイン中の残基の変更は、自己-二量体化に起因したこの融合タンパク質による異常な切断を防止した。E490R変異体は、親タンパク質よりもより低いレベルのホモ二量体化も示す。
【0249】
加えて5-8タンパク質は、486位でのグルタミン(Q)残基のグルタミン酸(E)との交換により、その二量体化界面で修飾した。この5-8(Q486E)変異体は、野生型5-10タンパク質又は5-10(E490K)変異体のいずれかの存在下での、標的化された切断を触媒するその能力について試験した。DNA切断は、標識した基質が5-8(Q486E)及び野生型5-10の両方の存在下でインキュベーションされる場合には、認められなかった(表10、列5)。しかし5-8(Q486E)及び5-10(E490K)変異体が一緒に使用される場合には、切断が得られた(表10、列6)。
【0250】
これらの結果は、ZFP/FokI融合タンパク質対によるDNA切断は、ふたつの融合タンパク質の標的配列により規定された領域以外の領域で、一方又は両方の融合タンパク質の切断ハーフ-ドメインのアミノ酸配列を変更することにより、最小化又は廃止することができる。
【0251】
【表14】
【0252】
(実施例6:欠損性増強型緑色蛍光タンパク質(eGFP)遺伝子の作出)
増強型緑色蛍光タンパク質(eGFP)は、アミノ酸64(pheからleuへ)及び65(serからthrへ)の変化を含む、緑色蛍光タンパク質(GFP;例えば、Tsien、(1998) Ann. Rev. Biochem. 67:509-544参照)の修飾型である。Heimら、(1995) Nature 373:663-664;Cormackら、(1996) Gene, 173:33-38。eGFP-ベースのレポーターシステムは、eGFP遺伝子の欠損型の作出により構築され、これは停止コドン及び2-bpフレームシフト変異を含んだ。eGFP遺伝子の配列は、
図22に示した。この変異を、Platinum(登録商標) Taq DNAポリメラーゼ高フィデリティキット(Invitrogen)並びにオリゴヌクレオチドGFP-Bam、GFP-Xba、ストップセンス2、及びストップアンチ2をプライマーとして使用し(オリゴヌクレオチド配列は表11下側に列記している)、重複PCR変異誘発により挿入した。GFP-Bam及びGFP-Xbaは、外部プライマーとして利用したが、プライマーストップセンス2及びストップアンチ2は、ヌクレオチド変化をコードしている内部プライマーとして利用した。完全長eGFP遺伝子をコードしているpeGFP-NIベクター(BD Biosciences)は、ふたつの個別の増幅反応におけるDNA鋳型として使用し、第一は、GFP-Bam及びストップアンチ2オリゴヌクレオチドをプライマーとして使用し、第二は、GFP-Xba及びストップセンス2オリゴヌクレオチドをプライマーとして使用した。これは、それらの配列が重複したふたつの増幅産物を作出した。これらの産物は一緒にし、並びに外部GFP-Bam及びGFP-Xbaオリゴヌクレオチドをプライマーとして使用する、第三の増幅反応の鋳型として使用し、修飾されたeGFP遺伝子を再生し、ここでヌクレオチド280-287の配列GACCACAT(配列番号:124)は、配列TAACAC(配列番号:125)と交換された。全ての増幅反応のPCR条件は以下である:鋳型を最初に2分間94℃で変性し、引き続き反応液を94℃で30秒、46℃で45秒、及び68℃で60秒インキュベーションすることにより、25サイクルの増幅。伸長の最終ラウンドは、68℃で10分間行った。最終増幅産物の配列は、
図23に示した。この795bp断片は、TOPO-TAクローニングキット(Invitrogen)を用い、pCR(R)4-TOPOベクターへクローニングし、pCR(R)4-TOPO-GFPmut構築体を作出した。
【0253】
【表15】
【0254】
(実施例7:eGFPを標的化するジンクフィンガーヌクレアーゼのデザイン及び集成)
ふたつの3-フィンガーZFPを、ヌクレオチド271-294(
図23の番号)に相当する変異したGFP遺伝子の領域に結合するようにデザインした(実施例6)。これらのタンパク質の結合部位は、ふたつの結合部位を隔てる6塩基対と反対の配向で生じた。
図23参照。ZFP 287Aは、非-コード鎖上のヌクレオチド271-279に結合するのに対し、ZFP 296は、コード鎖上のヌクレオチド286-294に結合する。ZFPの認識領域のDNA標的配列及びアミノ酸配列を、以下及び表12に示す。
【0255】
【表16】
【0256】
【表17】
【0257】
これらのタンパク質をコードしている配列は、PCR集成により作出し(例えば米国特許US 6,534,261)、pcDNA3.1ベクター(Invitrogen)のKpnI及びBamHI部位の間にクローニングし、並びにFokIエンドヌクレアーゼの触媒ドメイン(Looneyら、(1989) Gene, 80:193-208の配列のアミノ酸384-579)とインフレームで融合した。得られた構築体は、pcDNA3.1-GFP287-FokI及びpcDNA3.1-GFP296-FokIと命名した(
図24)。
【0258】
(実施例8:デザインされたジンクフィンガーヌクレアーゼによる標的化されたin vitro DNA切断)
pCR(R)4-TOPO-GFPmut構築体(実施例6)を使用し、287及び296ジンクフィンガータンパク質のそれらの標的部位を特異的に認識しかつこのeGFPの修飾型をin vitroにおいて切断する能力を試験するための鋳型を提供した。
欠損eGFP-コードしている挿入断片を含むDNA断片を、T7及びT3ユニバーサルプライマー及びpCR(R)4-TOPO-GFPmutを鋳型として用い、PCR増幅により得た。この断片を、γ-
32P-ATP及びT4ポリヌクレオチドキナーゼを用い、末端標識した。組込まれなかったヌクレオチドは、マイクロスピンG-50カラム(Amersham)を用いて除去した。
【0259】
In vitro組合せた転写/翻訳システムを使用し、実施例7に説明された287及び296ジンクフィンガーヌクレアーゼを発現した。各構築体に関して、200ng線状化プラスミドDNAを、TnT混合液20μL中でインキュベーションし、及び30℃で1時間45分インキュベーションした。TnT混合液は、2μlメチオニン(1mM)及び2.5μl ZnCl
2 (20mM)を補充した、100μl TnT溶解液(T7 RNAポリメラーゼを含む、Promega, マジソン, WI)を含む。
【0260】
DNA切断の分析のために、287及び296の各々の組合せた転写/翻訳反応混合物からのアリコートを一緒にし、その後切断緩衝液で連続希釈した。切断緩衝液は、20mMトリス-HCl pH8.5、75mM NaCl、10mM MgCl
2、10μM ZnCl
2、1mM DTT、5%グリセロール、500μg/ml BSAを含有する。各希釈液5μlを、約1ng DNA基質(先に説明したようにT4ポリヌクレオチドキナーゼを使用し
32Pで末端-標識した)と一緒にし、各混合物を更に希釈し、以下の組成を有する20μl切断反応液を作製した:20mMトリス-HCl pH8.5、75mM NaCl、10mM MgCl
2、10μM ZnCl
2、1mM DTT、5%グリセロール、500μg/ml BSA。切断反応液を、37℃で1時間インキュベーションした。タンパク質を、10μlフェノール-クロロホルム溶液の各反応液への添加、混合により抽出し、及び遠心し、相を分離した。各反応液の水相10μlを、10%ポリアクリルアミドゲル上の電気泳動により分析した。
【0261】
このゲルには、オートラジオグラフィーを施し、この実験の結果を
図25に示した。左側から4個のレーンは、各組合せた転写/翻訳反応混合物の最終希釈(切断反応において)が、各々、1/156.25、1/31.25、1/12.5及び1/5である反応の結果を示し、各組合せた転写/翻訳反応液の有効容積、各々0.032、0.16、04.及び1μlを生じた。出発断片(
図25で「非切断対照」と記したレーン)よりもより低い分子量を有するふたつのDNA断片の出現は、反応混合物における287及び296ジンクフィンガーエンドヌクレアーゼの量の増加に相関し、予想された標的部位でのDNA切断が得られたことを示している。
【0262】
(実施例9:組込まれた欠損eGFP遺伝子を含む安定した細胞株の作出)
変異したeGFPをコードしているDNA断片であるeGFPmutは、pCR(R)4-TOPO-GFPmutベクター(実施例6)から切り出し、pcDNA4/TOのHindIII及びNotI部位にクローニングし、これによりこの遺伝子をテトラサイクリン-誘導性CMVプロモーターの制御下に配置した。得られたプラスミドは、pcDNA4/TO/GFPmutと称した(
図26)。T-Rex 293細胞(Invitrogen)を、10%Tet-非含有ウシ胎仔血清(FBS)(Hyclone)を補充した、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Invitrogen)において増殖した。細胞を、6-ウェルディッシュに、50%集密度で播種し、ふたつのウェルを各々pcDNA4/TO/GFPmutで形質移入したこれらの細胞を、48時間回収し、その後両方のウェルからの細胞を一緒にし、選択培地、すなわち400ug/mlゼオシン(Invitrogen)を補充した培地内で10x15-cm
2ディッシュに分けた。培地は3日毎に交換し、10日後、単独のコロニーを単離し、更に拡張した。各クローン株を個別に、定量的RT-PCR(TaqMan(登録商標))により、eGFPmut遺伝子のドキシサイクリン(dox)-誘導的発現について試験した。
【0263】
定量的RT-PCR分析に関して、総RNAを、高純度分離キット(Roche Molecular Biochemicals)を用い、dox-処理した細胞及び未処理の細胞から単離し、及び各試料からの総RNAの25ngに、リアルタイム定量的RT-PCRを施し、TaqMan(登録商標)アッセイを用い、内在性遺伝子発現を分析した。プローブ及びプライマー配列を表13に示す。反応は、ABI 7700 SDS装置(PerkinElmer Life Sciences)上で、下記条件下で行った。逆転写反応は、48℃で30分間、MultiScribe逆転写酵素(PerkinElmer Life Sciences)により行い、引き続き95℃で10分間の変性工程を行った。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、AmpliGold DNAポリメラーゼ(PerkinElmer Life Sciences)で、95℃で15秒、及び60℃で1分間の40サイクルで行った。結果は、SDSバージョン1.7ソフトウェアを用いて解析し、eGFPmut遺伝子の発現は、ヒトGAPDH遺伝子の発現に対し標準化し、
図27に示した。多くの細胞株が、eGFPのドキシサイクリン-依存型の発現を示し;ライン18(T18)を、更なる試験のためのモデル細胞株として選択した。
【0264】
【表18】
【0265】
(実施例10:欠損染色体eGFP遺伝子の補正のためのドナー配列の作出)
欠損eGFPmut遺伝子を補正する遺伝情報を含むドナー構築体を、PCRにより構築した。PCR反応を先に説明したように、鋳型としてpeGFP-NIベクターを用い実行した。標的化された組換え実験におけるドナー構築体の背景発現を防止するために、最初の12bp及び開始コドンを、プライマーGFPnostart及びGFP-Xba(表14に示された配列)を用いるPCRにより、ドナーから除去した。得られたPCR断片(734bp)を、TOPO-TAクローニングにより、哺乳類細胞プロモーターを含まないpCR(R)4-TOPOベクターにクローニングし、pCR(R)4-TOPO-GFPドナー5(
図28)を作出した。この構築体のeGFP挿入断片の配列(
図22に示した配列のヌクレオチド64-797に対応)は、
図29(配列番号:20)に示した。
【0266】
【表19】
【0267】
(実施例11:標的化された切断及び組換えにより組込まれた染色体eGFP遺伝子における変異の補正)
T18の安定した細胞株(実施例9)を、ZFP-FokI発現プラスミド(pcDNA3.1-GFP287-FokI及びpcDNA3.1-GFP296-FokI、実施例7)の一方又は両方及びドナープラスミドpCR(R)4-TOPO-GFPドナー5(実施例10)の300ngにより、Opti-MEM I還元血清培地においてリポフェクタミン2000試薬(Invitrogen)を用い、製造業者のプロトコールに従い形質移入した。欠損染色体eGFP遺伝子の発現は、2ng/mlドキシサイクリンの培養培地への添加による形質移入後5〜6時間で誘導された。これらの細胞は、形質移入後24時間での100ng/mlノコダゾール(
図30)又は0.2μMビンブラスチン(
図31)の添加により、細胞周期のG
2期で停止された。G
2停止は、24〜48時間継続することができ、その後培地の除去により解放(release)された。これらの細胞を、PBSで洗浄し、培地を、テトラサイクリン-非含有FBS及び2ng/mlドキシサイクリンを含有するDMEMと交換した。細胞を24〜48時間で回収し、蛍光標示式細胞分取器(FACS)分析によりeGFP蛍光を示す細胞数をモニタリングすることにより、遺伝子補正効率を測定した。FACS分析は、Beckman-Coulter EPICS XL-MCL装置並びにSystem II Data Acquisition and Displayソフトウェア、バージョン2.0を使用し行った。eGFP蛍光は、アルゴンレーザーによる488nmでの励起、及び525nmでの放出(x-軸)のモニタリングにより検出した。バックグラウンド及び自己蛍光は、570nmでの放出(y-軸)をモニタリングすることにより測定した。525nmでの高い蛍光放出及び570nmでの低い放出(領域E)を示す細胞は、遺伝子補正に関して正にスコア化した。
【0268】
これらの結果は、表15及び
図30及び31にまとめた。
図30及び31は、T18細胞が、ZFPヌクレアーゼをコードしているpcDNA3.1-GFP287-FokI及びpcDNA3.1-GFP296-FokIプラスミド及びpCR(R)4-TOPO-GFPドナー5プラスミドにより形質移入され、eGFP発現がドキシサイクリンにより誘導され、並びに細胞がノコダゾール(
図30)又はビンブラスチン(
図31)のいずれかによりG
2で停止された結果を示す。両方の図は、FACS追跡を示し、ここでeGFP蛍光を示す細胞は、トレースの下側右側部分に示された(曲線の下部Quadrant 4の部分である領域Eと指定された)。ノコダゾールで処理された形質移入された細胞に関して、細胞の5.35%がGFP蛍光を示し、これは変異体染色体eGFP遺伝子の補正の指標であるのに対し(
図30)、ビンブラスチンで処理された細胞の6.7%がeGFP遺伝子補正を受けた(
図31)。これらの結果をまとめ、追加の制御実験と共に、表15の1-8列に示した。
【0269】
まとめると、これらの実験は、2種のZFPヌクレアーゼ及びドナー配列の存在下で、処理された細胞の約1%が遺伝子補正を受けたこと、及びこのレベルの相関は、処理された細胞の細胞周期のG
2期での停止により4〜5倍増加することを示している。
【0270】
【表20】
【0271】
(実施例12:二量体化界面での配列変更によるジンクフィンガーヌクレアーゼを使用する欠損染色体遺伝子の補正)
その配列が二量体化界面により変更されているジンクフィンガーヌクレアーゼを、欠損染色体eGFP遺伝子の補正を触媒するそれらの能力について試験した。ZFPヌクレアーゼのヌクレアーゼ位置(すなわち、FokI切断ハーフ-ドメイン)が実施例5に説明されたように変更されたことを除き、実施例11に説明されたプロトコールを使用した。こうしてE490K切断ハーフ-ドメインはGFP296 ZFPドメイン(表12)に融合され、及びQ486E切断ハーフ-ドメインはGFP287 ZFP(表12)に融合された。
【0272】
これらの結果を、表15の列9-11に示し、それらの二量体化界面の変更を有する2種のZFPヌクレアーゼの存在において、いずれかのヌクレアーゼ単独の存在下で得られたものと比較して、遺伝子補正頻度の有意な増加が得られた。T18細胞をドナープラスミド並びに287/Q486E及び296/E490Kジンクフィンガーヌクレアーゼをコードしているプラスミドにより形質移入し、ノコダゾール又はビンブラスチンによりG
2で停止された追加実験は、遺伝子補正頻度の更なる増加を示し、細胞の2%以上が、補正された染色体eGFP遺伝子の指標である、eGFP蛍光を示した(表15、12及び13列)。
【0273】
(実施例13:ドナー長の遺伝子補正頻度に対する作用)
実施例11に説明されたものに類似した実験において、ドナー配列長の標的化された組換え頻度に対する作用を試験した。実施例11のように、T18細胞を、2種のZFPヌクレアーゼで形質移入し、及びeGFP発現をドキシサイクリンで誘導した。同じく細胞を、実施例11のように734bp eGFP挿入断片(
図29)を含むpCR(R)4-TOPO-GFPドナー5プラスミド(
図28)、又は変異した染色体eGFP遺伝子に相同の1527bp配列挿入断片(
図32)を含む類似のプラスミドのいずれかによっても形質移入した。加えて、ノコダゾールによるG2停止の組換え頻度に対する作用も評価した。
【0274】
第二の実験において、ドナー長0.7、1.08及び1.5kbpを比較した。T18細胞を、実施例11に説明されたように、50ngの287-FokI及び296-FokI発現プラスミド(実施例7、表12)、並びに500ngの0.7kbp、1.08kbp、又は1.5kbpドナーにより形質移入した。形質移入の4日後、細胞を、GFP蛍光をモニタリングするFACSにより欠損eGFP遺伝子の補正についてアッセイした。
表16に示されたこれらふたつの実験の結果は、より長いドナー配列は、標的化された組換え頻度(及びここでは遺伝子補正)を増加することを示し、並びに細胞周期のG2期における細胞の停止も、標的化された組換え頻度を増加することを確認した。
【0275】
【表21】
【0276】
(実施例14:内在性ヒトIL-2Rγ遺伝子のジンクフィンガーヌクレアーゼを使用する標的化された切断及び組換えによる校正)
各々ヒトIL-2Rγ遺伝子に標的化されたZFP-ヌクレアーゼをコードしているふたつの発現ベクターを構築した。各ZFP-ヌクレアーゼは、4個のアミノ酸ZCリンカー(実施例4参照)を介して、IIS型制限酵素FokI(Looneyらの配列のアミノ酸384-579, (1989) Gene, 80:193-208)のヌクレアーゼドメインに融合された、ジンクフィンガータンパク質-ベースのDNA結合ドメイン(表17参照)を含んだ。このヌクレアーゼは、コドン228及び229(この遺伝子の変異のホットスポット)を取り囲む染色体IL-2Rγ遺伝子のエクソン5の位置に結合するよう、並びにそれらの結合部位の間のDNA中に二本鎖破損を導入するようにデザインした。
【0277】
【表22】
【0278】
各キメラエンドヌクレアーゼの完全DNA-結合部位は、以下であった:
ACTCTGTGGAAG (配列番号:152)に標的化されたヌクレアーゼ:
MAERPFQCRICMRNFSRSDNLSVHIRTHTGEKPFACDICGRKFARNAHRINHTKIHTGSQKPFQCRICMR
NFSRSDTLSEHIRTHTGEKPFACDICGRKFAARSTRTNHTKIHLRGS (配列番号:162)
AAAGCGGCTCCG (配列番号:157)に標的化されたヌクレアーゼ:
MAERPFQCRICMRNFSRSDTLSEHIRTHTGEKPFACDICGRKFAARSTRTTHTKIHTGSQKPFQCRICMRN
FSRSDSLSKHIRTHTGEKPFACDICGRKFAQRSNLKVHTKIHLRGS (配列番号:163)
【0279】
ヒト胚性腎293細胞は、各々前段に説明されたZFP-ヌクレアーゼのひとつをコードしている、2種の発現構築体により形質移入した(リポフェクタミン2000;Invitrogen)。これらの細胞は、pCR4Blunt Topo (Invitrogen)ベクターにおいて、X染色体(UCSCヒトゲノム公開、2003年7月)の「−」鎖の69195166-69196708位に対応するIL2Rγ遺伝子座の1,543bp断片を挿入断片として保有するドナー構築体によっても、形質移入した。IL-2Rγ挿入断片の配列は、エクソン5の配列において下記のふたつの点変異を含んだ(下線付き):
F R V R S R F N P L C G S (配列番号:164)
TTTCGTGTTCGGAGCCG
GTTTAACCC
GCTCTGTGGAAGT (配列番号:165)
【0280】
第一の変異(CGC→CGG)は、アミノ酸配列(上側ライン)を変更せず、ドナーDNA及び組換え後の染色体DNAへ結合するZFP-ヌクレアーゼの能力に有害に作用するように役だった。第二の変異(CCA→CCG)は、アミノ酸配列を変更せず、制限酵素BsrBIの認識部位を作製した。
【0281】
各ZFP-ヌクレアーゼ発現構築体50又は100ngのいずれか及びドナー構築体0.5又は1μgを、重複(duplicate)形質移入において使用した。以下の対照実験も行った:eGFPタンパク質をコードしている発現プラスミドによる形質移入;ドナー構築体のみによる形質移入;及び、ZFPヌクレアーゼのみを発現するプラスミドによる形質移入。形質移入の24時間後、ビンブラスチン(Sigma)を、最終濃度0.2μMで、2つ組の各セットの一方の試料に添加し、他方は未処理で維持した。ビンブラスチンは、紡錘体を集成し、その後強力なG
2停止剤として作用する細胞の能力に影響を及ぼした。相同性-方向付けられた二本鎖破損修復経路は、細胞周期のG
2期において非-相同末端連結よりもより活性があるので、この処理は、標的化頻度を増強するために行った。0.2μMビンブラスチンによる処理後48時間で、増殖培地を交換し、細胞を更に24時間ビンブラスチン処理から回収した。その後ゲノムDNAを、DNEasy組織キット(Qiagen)を使用し、全ての細胞試料から単離した。その後各試料からのゲノムDNA 500ngを、
図33に概略的に説明されたアッセイを用い、染色体IL-2Rγ遺伝子座における新規BsrBI部位の存在について試験することにより、遺伝子標的化頻度についてアッセイした。
【0282】
簡単に述べると、表18に示されたその各々は、1.5kbドナー配列に相同な領域のすぐ外側の染色体IL-2Rγ遺伝子座にハイブリダイズするプライマーを用い、PCRを20サイクル行った。PCR産物の検出ができるように、各PCR反応液はα-
32P-dCTP及びα-
32P-dATPの各々20μCiを含んだ。PCR反応液は、G-50カラム(Amersham)上で脱塩し、10ユニットのBsrBI(New England Biolabs)により1時間消化した。消化産物は、10%非-変性ポリアクリルアミドゲル(BioRad)上で分解し、このゲルを乾燥し、オートラジオグラフィーにかけた(
図34)。IL2Rγ遺伝子座の1.55kb増幅断片(
図34の「wt」)に相当する主要PCR産物に加え、追加のバンド(
図34の「rflp」)を、ドナーDNA構築体及び両方のZFP-ヌクレアーゼ構築体により形質移入された細胞由来の試料に対応するレーンにおいて認めた。この追加のバンドは、いずれの対照レーンにも出現せず、このことはこの実験において、BsrBI RFLP-含有ドナー配列の染色体へのZFPヌクレアーゼ-促進された組換えが発生したことを示している。
【0283】
微量のRFLP-含有IL-2RγDNA配列をヒトゲノムDNA(野生型IL-2Rγ遺伝子を含む)に添加し、及び得られた混合物を増幅し、RFLPで切断する制限酵素による消化を施す追加実験は、0.5%と少ないRFLP-含有する配列を、このアッセイを用いて定量的に検出することができることを示した。
【0284】
【表23】
【0285】
(実施例15:K562細胞におけるIL-2Rγ遺伝子座での標的化された組換え)
K562は、ヒト慢性骨髄性白血病由来の細胞株である。標的化された切断に使用したタンパク質は、5-8G及び5-9DジンクフィンガーDNA-結合ドメインへのFokI融合体であった(実施例14、表17)。このドナー配列は、実施例14に説明された、変異により導入されたBsrBI部位を含むヒトIL-2Rγ遺伝子の1.5kbp断片であった。
【0286】
K562細胞は、10%ウシ胎仔血清(FBS)(Hyclone)及び2mM L-グルタミンを補充したRPMI培地1640(Invitrogen)において培養した。全ての細胞は、5%CO
2大気において37℃で維持した。これらの細胞は、Nucleofection(商標)(溶液V, Program T16)(Amaxa Biosystems)により、ひとつの試料あたり細胞200万個で形質移入する、製造業者のプロトコールに従い形質移入した。以下に説明されたような様々な組合せで使用された形質移入のためのDNAは、5-8G ZFP-FokI融合エンドヌクレアーゼをコードしているプラスミド、5-9D ZFP-FokI融合エンドヌクレアーゼをコードしているプラスミド、対照として使用されるドナー配列を含むプラスミド(前記及び実施例14に説明された)及びpeGFP-N1ベクター(BD Biosciences)であった。
第一の実験において、細胞は、表19に示されたような様々なプラスミド又はプラスミドの組合せにより、形質移入した。
【0287】
【表24】
【0288】
ビンブラスチン-処理細胞は、30時間形質移入後、24時間で0.2μMビンブラスチンに曝露した。これらの細胞を収集し、PBSで2回洗浄し、増殖培地内に再播種した。ゲノムDNAの分析のために、細胞を形質移入後4日間収集した。
ゲノムDNAは、DNEasyキット(Qiagen)を用い、細胞から抽出した。各試料からのゲノムDNAの100ngを、以下のプライマーにより、PCR反応において使用した:
エクソン5フォワード:GCTAAGGCCAAGAAAGTAGGGCTAAAG (配列番号:168)
エクソン5リバース:TTCCTTCCATCACCAAACCCTCTTG (配列番号:169)
【0289】
これらのプライマーは、IL2Rγ遺伝子のエクソン5を含む「−」鎖(UCSCヒトゲノム公開、2003年7月)上の69195100-69196768位に相当するX染色体の1,669bp断片を増幅する。ドナーDNAによる相同組換えを受けるゲノムDNAの増幅は、BsrBI部位を含む産物を生じたのに対し;ドナーDNAによる相同組換えを受けないゲノムDNAの増幅産物は、この制限部位を含まないであろう。
【0290】
反応生成物の可視化を可能にするために、各増幅反応液にはα-
32PdCTP及びα-
32PdATPの各10μCiを含んだ。PCRの20サイクル後、この反応液をSephadex G-50カラム(Pharmacia)上で脱塩し、10ユニットのBsrBI(New England Biolabs)により37℃で1時間消化した。その後反応液を、10%非-変性PAGE上で分離し、このゲルを乾燥し、ホスホイメージャースクリーンに曝した。
【0291】
この実験の結果を、
図35に示した。細胞が対照GFPプラスミド、ドナープラスミド単独又はドナー非存在下でふたつのZFP-コードしているプラスミドにより形質移入された場合、
図35においてこれらの試料に相当するレーンの「rflp」と記されたバンドの非存在により示されるように、BsrBI部位はこれらの増幅産物中に存在しなかった。しかしドナープラスミド及び両方のZFP-コードプラスミドにより形質移入された細胞のゲノムDNAは、ドナーDNAによる相同組換えにより導入されたBsrBI部位を含んだ(「rflp」と表示されたバンド)。
図35に示されたRFLP-含有DNAにより表されたシグナルの割合の定量は、最適条件下で、形質移入された細胞集団において全てのIL-2Rγ遺伝子の最大18%が、相同組換えにより変更されたことを示した。
第二の実験は、細胞を形質移入後10日間拡張したこと以外は、直前に説明したプロトコールに従い行った。形質移入に使用したDNAは、表20に示した。
【0292】
【表25】
【0293】
図36に示された増幅されたDNAのBsrBI消化の分析も、複数ラウンドの細胞分裂後に、最大18%のIL-2Rγ遺伝子が、相同組換えにより配列変更を受けたことを明らかにした。従って標的化された組換え事象は安定している。
加えて、この第二の実験における形質移入された細胞由来のDNAを、サザンブロットにより分析した。この分析のために、各試料由来のゲノムDNA 12μgを、EcoRI 100ユニット、BsrBI 50ユニット、DpnI 40ユニット(全てNew England Biolabs)により、37℃で12時間消化した。この消化は、未変性のIL-2Rγ遺伝子(BsrBI部位を欠いている)から7.7kbp EcoRI断片、並びにその配列がBsrBI部位を含むように相同組換えにより変更された染色体IL-2Rγ遺伝子由来の6.7及び1.0kbp断片を生じた。dam-メチル化されたドナーDNAを破壊するために、メチル化-依存型制限酵素であるDpnIを含んだ。メチル化されないK562細胞ゲノムDNAは、DpnI消化に対し抵抗がある。
【0294】
消化後、ゲノムDNAを、フェノール-クロロホルム抽出及びエタノール沈殿により精製し、TE緩衝液中に再懸濁し、EcoRI及びSphIで消化されたゲノムDNAの試料と共に0.8%アガロースゲルで分離し、サイズマーカーを作製した。このゲルを、標準手順に従いアルカリ転移(alkaline transfer)のために処理し、DNAをナイロンメンブレン(Schleicher and Schuell)に移した。その後のこのブロットへのハイブリダイゼーションを、X染色体(UCSCヒトゲノム、2003年5月公開)の「−」鎖の69198428-69198769位に対応するIL-2Rγ遺伝子座の放射標識された断片を用いて行った。この遺伝子のこの領域は、ドナーDNAの相同な領域の外側である。ハイブリダイゼーション後、このメンブレンを、ホスホイメージャープレートに曝し、データをMolecular Dynamicsソフトウェアを用い定量した。染色体IL-2Rγ配列の変更は、EcoRI-BsrBI断片(オートラジオグラフの横の矢印;BsrBI部位は、オートラジオグラフ上のマップに黒三角で示した)に相当するバンドの強度を分析することにより測定した。
【0295】
図37に示された結果は、染色体IL-2Rγ配列の最大15%は相同組換えにより変更されたことを示し、これによりPCR分析により得られた結果は、標的化された組換え事象は、細胞分裂の複数のラウンドを通じ安定していることを確認した。サザンブロットの結果も、
図36に示された結果は、増幅の人為結果ではないことを示している。
【0296】
(実施例16:CD34-陽性造血幹細胞におけるIL-2Rγ遺伝子座での標的化された組換え)
遺伝子疾患(例えば重症複合免疫不全(SCID)及び鎌状赤血球貧血)は、この疾患に寄与する特異的DNA配列変更の相同組換え-媒介型補正により治療することができる。ある症例において、治療の最大効率及び安定性は、多能性細胞の遺伝子欠損の補正から生じるであろう。この目的のために、本実験は、ヒトCD34-陽性骨髄細胞におけるIL-2Rγ遺伝子の配列の変更を明らかにする。CD34
+細胞は、赤血球系、骨髄系及びリンパ系を生じる多能性造血幹細胞である。
【0297】
骨髄-由来のヒトCD34細胞は、AllClls, LCCから購入し、凍結ストックとして出荷された。これらの細胞を解凍し、10%ウシ胎仔血清(FBS)(Hyclone)及び2mM L-グルタミンを補充したRPMI培地1640(Invitrogen)の中、5%CO
2大気中、37℃で2時間放置した。細胞試料(1x10
6又は2x10
6個細胞)を、ヒトCD34細胞Nucleofector(商標)キットを、製造業者のプロトコールに従い使用し、Nucleofection(商標)(amaxa biosystems)により形質移入した。形質移入後、細胞を、10%FBS、2mM L-グルタミン、100ng/ml顆粒球-コロニー刺激因子(G-CSF)、100ng/ml幹細胞因子(SCF)、100ng/mlトロンボポイエチン(TPO)、50ng/ml Flt3リガンド、及び20ng/mlインターロイキン-6(IL-6)を補充したRPMI培地1640(Invitrogen)において培養した。アポトーシスを阻止するために、カスパーゼインヒビターzVAD-FMK(Sigma-Aldrich)を、形質移入直後、増殖培地において最終濃度40μMとなるよう添加した。更にアポトーシスを防止するために、追加のカスパーゼインヒビターを、48時間後に最終濃度20μMとなるよう添加した。これらの細胞を37℃で5%CO
2大気中において維持し、形質移入後3日で収穫した。
形質移入に使用した細胞数及びDNAを、表21に示す。
【0298】
【表26】
【0299】
ゲノムDNAは、MasterPure DNA精製キット(Epicentre)を用い、細胞から抽出した。沈殿中のグリコーゲンの存在のために、PCR反応液の投入物として使用したこのDNAの正確な定量は不可能であり;臭化エチジウム-染色したアガロースゲルの分析を用い概算したところ、各試料中約50ngゲノムDNAが使用されたことを示した。その後PCRの30サイクルを以下のプライマーを用いて行い、その各々は、1.5kbドナーに相同な領域の直ぐ外側の染色体IL-2Rγ遺伝子座にハイブリダイズした:
ex5_1.5detF3 GCTAAGGCCAAGAAAGTAGGGCTAAAG (配列番号:170)
ex5_1.5detR3 TTCCTTCCATCACCAAACCCTCTTG (配列番号:171)
【0300】
α-
32PdCTP及びα-
32PdATPの各々20μCiを、各PCR反応液中でインキュベーションし、PCR産物の検出を可能にした。イン-ゲル定量参照を提供するために、Jurkat細胞中のIL-2Rγ遺伝子のエクソン5中の自然発生したSNPの存在を調べ:このSNPは、正常なヒトDNAに存在するMaeII部位の破壊により、RFLPを生じる。従って参照標準は、1又は10ngの正常ヒトゲノムDNA(Clontech, パロアルト, CAから入手)の各々100又は90ngのJurkatゲノムDNAへの添加、並びに先に説明されたようなPCRの実行により作出された。このPCR反応液を、G-50カラム(Amersham)上で脱塩し、制限酵素により1時間消化し:実験試料は、10ユニットBsrBI(New England Biolabs)により消化し;「参照標準」反応液は、MaeIIにより消化した。消化産物は、10%非-変性PAGE(BioRad)上で分離し、ゲルを乾燥し、ホスホイメージャープレート(Molecular Dynamics)に曝すことにより分析した。
【0301】
結果を
図38に示した。IL2Rγ遺伝子座の1.6kb断片(
図38の右側パネルの「wt」)に相当する主要なPCR産物に加え、追加のバンド(「rflp」と表示)が、両ZFP-ヌクレアーゼ及びドナーDNA構築体をコードしているプラスミドで形質移入された細胞由来の試料に相当するレーンに認められた。この追加のバンドは、対照レーンにおいては出現せず、ZFP-ヌクレアーゼはこの実験で生じた共通のγ鎖遺伝子のエクソン5の遺伝子標的化を補助したという考えと一致する。
標的化率の正確な定量は、野生型バンドへRFLPバンドが近接しているために複雑であるが;この標的化頻度は、参照標準(左側パネル)との比較により、1〜5%の間であると概算された。
【0302】
(実施例17:ドナー-標的相同作用)
ドナーDNAとそれと組換えする染色体配列の間の相同性の程度の相同組換え頻度に対する作用は、実施例9に説明されたように、T18細胞株において試験した。この株は、染色体に組込まれた欠損eGFP遺伝子を含み、ドナーDNAは、染色体遺伝子に関して欠損を補正する配列変化を含んだ。
【0303】
従って実施例10に説明されたドナー配列は、PCR変異誘発により修飾され、標的に対する非-相同性の程度が異なる一連の〜700bpドナー構築体を作出した。修飾されたドナーの全ては、染色体eGFP遺伝子の欠損を補正し、及び切断部位を取り囲むコード領域に挿入された追加のサイレント変異(コードされたタンパク質の配列は変化しないDNA変異)を含んだ配列変化を含んだ。これらのサイレント変異は、ジンクフィンガー-切断ドメイン融合体によるドナー配列の結合、及び切断を防止し、これによりキメラヌクレアーゼによる結合に関する意図された染色体標的とドナープラスミドの間の競合を低下することが意図されている。加えて相同組換え後、キメラヌクレアーゼの新たに-挿入された染色体配列を結合及び再切断する(及び恐らく別のラウンドの組換えを刺激するか、又は非-相同末端連結もしくは他の二本鎖破損が駆動したゲノムの変更を引き起こす)能力は、最小化されるであろう。
【0304】
4種の異なるドナー配列を試験した。ドナー1は、染色体欠損eGFP標的配列に関する8個のミスマッチを含み、ドナー2は、10個のミスマッチを有し、ドナー3は、6個のミスマッチを有し、及びドナー5は、4個のミスマッチを有した。ドナー5の配列は、野生型eGFP配列と同一であるが、T18細胞株の欠損染色体eGFP配列との4個のミスマッチを含むことに注意。表22は、ヌクレオチド201-242の間の各ドナーの配列を提供する。T18細胞株のゲノムに組込まれた欠損eGFP遺伝子の配列から分岐したヌクレオチドは、太字で示し、下線を付けた。欠損染色体eGFP遺伝子(GFP mut)及び正常eGFP遺伝子(GFP wt)に相当する配列も示した。
【0305】
【表27】
【0306】
T18細胞株は、実施例11に説明されたように、50ngの287-FokI及び296-FokI発現構築体(実施例7及び表12)並びに500ngの各ドナー構築体により、形質移入した。FACS分析は、実施例11に説明されたように行った。
表23に示された結果は、ドナーと染色体標的配列の間のミスマッチ度の減少(すなわち増加した相同性)は、GFP機能の回復により評価されるような増加した相同組換え頻度を生じることを示している。
【0307】
【表28】
【0308】
前述の結果は、相同組換えのレベルは、標的-ドナー配列の分岐度の減少により増加したことを示している。いずれか特定の理論に結びつけられることや、特定の機序を提唱することを欲するものではないが、ドナーと標的の間のより大きい相同性は、それにより細胞相同組換え機構が好適な鋳型としてドナー分子を認識する効率を増大することにより、相同組換えを促進することは注目される。あるいは標的に対するドナー相同性の増加も、キメラZFPヌクレアーゼによるドナーの切断につながるであろう。切断されたドナーは、鎖侵入率の増加による相同組換えの促進を補助するか、又は切断されたドナー末端の相同組換え機構による相同性検索時のDNAの相同な一続きの配列(stretch)としての認識を補助するであろう。更にこれらの可能性は、互いに排他的ではない。
【0309】
(実施例18:siRNAの調製)
非-相同末端連結(NHEJ)に関連したタンパク質の細胞レベルの減少は、標的化された相同組換えを促進するかどうかを試験するために、Ku70タンパク質レベルがsiRNA阻害により低下される実験を行った。Ku70遺伝子に標的化されたsiRNA分子は、Ku70 cDNAの転写、それに続く二重鎖転写産物のダイサー酵素による切断により作出した。
【0310】
簡単に述べると、293細胞及びU2OS細胞から作出されたcDNAプールを、各々Ku70遺伝子に特異的な増幅プライマーの異なるセットを使用する5種の個別の増幅反応において使用し、サイズは500〜750bpの範囲であるcDNA断片の5種のプールを作出した(プールA-E)。次にこれら5種の各プールの断片を、バクテリオファージT7 RNAポリメラーゼプロモーターエレメントを含むプライマーを用い、再度各cDNAプールのプライマーの異なるセットを使用し、再増幅した。cDNA作出及びPCR反応は、Superscript Choice cDNAシステム及びPlatinum Taq高フィデリティポリメラーゼ(両方ともInvitrogen, カールスパッド, CA由来)を製造業者のプロトコール及び推奨に従い使用し、行った。
【0311】
その後増幅された各DNAプールを、バクテリオファージT7 RNAポリメラーゼによりin vitroで転写し、二本鎖RNA(dsRNA)の5種のプール(A-E)を、RNAMAXX in vitro 転写キット(Stratagene, サンディエゴ, CA)を製造業者の指示に従い用いて、作出した。エタノールによる沈殿後、各プールのRNAを再懸濁し、組換えダイサー酵素(Stxatagene, サンディエゴ, CA)を製造業者の指示に従い用いin vitro切断した。5種の各プールにおける21-23bp siRNA産物は、最初にMicrospin G-25カラム(Amershan)を、引き続きMicrocon YM-100カラム(Amicon)を使用する、二工程法により精製した。siRNA産物の各プールは、T7細胞株へ、リポフェクタミン2000(登録商標)を使用し、一過性に形質移入した。
【0312】
Ku70発現の抑制におけるsiRNAプールの相対効率をアッセイするためのウェスタンブロットを、形質移入後ほぼ3日間行った。簡単に述べると、細胞を溶解し、RIPA緩衝液(Santa Cruz Biotechnology)を用いて破壊し、この溶解液をQIAshredder(Qiagen, バレンシア, CA)を通過させることによりホモジネートした。その後透明化された溶解液を、SDS PAGE試料用緩衝液(還元剤として使用したβメルカプトエタノールを含む)により処理し、5分間煮沸した。その後試料を、4-12%勾配NUPAGEゲルにおいて分離し、PVDFメンブレン上に移した。ブロットの上側部分を、抗-Ku70抗体(Santa Cruz sc-5309)に曝し、下側部分を、抗-TF IIB抗体(Santa Cruz sc-225, 投入対照として使用)に曝した。その後ブロットをホースラディッシュペルオキシダーゼ-複合ヤギ抗-マウス二次抗体に曝し、Pierce Chemical Co.のキットを製造業者の指示に従い使用する電気化学発光(ECL)検出のために処理した。
図39は、2種のsiRNAプール(プールD及びE)のT7細胞への形質移入後の代表的結果を示す。70ngのsiRNA Eによる形質移入は、Ku70タンパク質レベルの有意な減少を生じた(
図39、レーン3)。
【0313】
(実施例19:非-相同末端連結に関連したタンパク質発現の阻害による相同組換え頻度の増加)
ゲノムDNAにおける二本鎖破損の修復は、相同組換え(HR)又は非-相同末端連結(NHEJ)のふたつの異なる細胞経路に沿って進行することができる。Ku70は、NHEJに関連したタンパク質であり、これはゲノムDNAの二本鎖破損により生じたDNA自由端に結合する。NHEJに関連したタンパク質の細胞内濃度の低下は、HR頻度を増加するかどうかを試験するために、実施例18に説明されたように調製した低分子干渉RNA(siRNA)を使用し、Ku70 mRNAの発現を阻害し、これによりドナーDNA及びキメラヌクレアーゼをコードしているプラスミドにより同時-形質移入された細胞における、Ku70タンパク質のレベルを低下した。
【0314】
これらの実験のために、T7細胞株(実施例9及び
図27参照)を使用した。これらの細胞は、染色体に組込まれた欠損eGFP遺伝子を含むが、実施例11-13において使用されたT18細胞株よりもより低いレベルの標的化された相同組換えを示すことが認められた。
T7細胞は、実施例11に説明されたように、Ku70を標的化するダイサー産物の2つのプール(実施例18参照)の70又は140ngのいずれかにより形質移入した。タンパク質のブロット分析を、形質移入された細胞由来の抽出物について行い、細胞のsiRNAによる処理は、Ku70タンパク質レベルの低下を生じたかどうかを決定した(先の実施例参照)。
図39は、Ku70タンパク質のレベルは、プールE由来のsiRNAの70ngで処理された細胞中で低下したことを示している。
【0315】
同じ実験において個別の細胞試料を、siRNA(プールD又はプールE)の70又は140ngと共に、287-FokI及び296-FokI発現構築体(実施例7及び表12)の各50ng並びに1.5kbp GFPドナー(実施例13)の500ngにより同時-形質移入し、より低いKu70レベルは、相同組換え頻度を増加するかどうかを決定した。実験プロトコールは、表24に示した。相同組換えによるeGFP活性の回復は、実施例11に説明したようなFACS分析によりアッセイした。
【0316】
【表29】
【0317】
形質移入されたT7細胞における欠損eGFP遺伝子の補正率(%)(標的化された相同組換え頻度の指標)は、表24の最も右側の行に示した。標的化された組換えの最高頻度は実験6において認められ、ここでは細胞は、ドナーDNA、ふたつのeGFP-標的化された融合ヌクレアーゼをコードしているプラスミド、及びsiRNAプールEの70ngにより形質移入された。実施例18及び
図39を参照し、70ngのプールE siRNAは、Ku70タンパク質レベルを有意に減少したことを示している。従って、NHEJに関連したタンパク質の細胞レベルを低下する方法は、相同組換えの促進手段として使用することができる。
【0318】
(実施例20:ヒトβ-グロビン遺伝子に標的化されたジンクフィンガー-FokI融合ヌクレアーゼ)
ヒトβ-グロビン遺伝子へ標的化された多くの4-フィンガーのジンクフィンガーDNA結合ドメインをデザインし、並びにFokI切断ハーフ-ドメインに融合された各ジンクフィンガードメインをコードしているプラスミドを構築した。各ジンクフィンガードメインは、4個のジンクフィンガーを含み、及び鎌状赤血球貧血の原因である変異をコードしているヒトβ-グロビン遺伝子の領域内の12bp標的部位を認識した。これらの各タンパク質のその標的配列への結合親和性を評価し、強力な結合を示している4種のタンパク質(sca-r29b、sca-36a、sca-36b及びsca-36c)を、FokI融合エンドヌクレアーゼの構築に使用した。
【0319】
ヒトβ-グロビン遺伝子の配列に並置されたZFP DNA結合ドメインの標的部位は、以下に示した。翻訳開始コドン(ATG)は、鎌状赤血球貧血を引き起こすA-T置換のように、太字で記し、下線を付けた。
【0320】
【表30】
【0321】
これらの4種のタンパク質内のジンクフィンガー認識領域のアミノ酸配列は、表25に示した。これらのジンクフィンガードメインの完全なアミノ酸配列は、
図40に示した。sca-36aドメインは、12個の近接ヌクレオチド(先に大文字で示した)を有する標的部位を認識するが、他の3種のドメインは、1個のヌクレオチド(小文字で示した)により隔てられたふたつの6-ヌクレオチド標的部位(大文字で示した)からなる13個のヌクレオチド配列を認識する。従ってsca-r29b、sca-36b及びsca-36cドメインは、それらの4種のフィンガーの第二及び第三の間にアミノ酸配列TGGGGSQKP (配列番号:183)を有する非-正準インター-フィンガーリンカーを含む。
【0322】
【表31】
【0323】
(実施例21:β-グロビン-標的化されたZFP/FokI融合エンドヌクレアーゼによるDNA標的配列のin vitro切断)
FokI切断ハーフ-ドメイン及び先の実施例に説明された4種のZFP DNA結合ドメインのひとつを含む融合タンパク質を、それらの予想される配列特異性によるin vitroにおいてDNAを切断する能力について試験した。これらのZFPドメインは、pcDNA3.1発現ベクターに、KpnI及びBamHI部位を介してクローニングし、先に説明されたように4個のアミノ酸ZCリンカーを介し、FokI切断ドメインへ、インフレームで融合した。ヒトβ-グロビン遺伝子の700bpを含むDNA断片は、K562細胞から得たゲノムDNAからクローニングした。この断片の単離及び配列は、先に実施例3において説明されている。
【0324】
In vitroアッセイのための融合エンドヌクレアーゼ(ZFN)を作出するために、sca-r29b、sca-36a、sca-36b及びsca-36cタンパク質へのFokI融合体をコードしている環状プラスミドを、in vitro転写/翻訳システム中でインキュベーションした。実施例4を参照のこと。合計2ulのTNT反応液(単独のタンパク質がアッセイされる場合単独の反応液を2ul、又はタンパク質の対がアッセイされる場合各反応液を1ul)を、切断緩衝混合液13ul及び標識プローブ(〜1ng/ul) 3ulへ添加した。このプローブは、ポリヌクレオチドキナーゼを用い、
32Pで末端標識した。この反応液を、室温で1時間インキュベーションし、ZFNの結合を可能にした。切断は、8mM MgCl
2の8ulの添加により刺激し、最終濃度約2.5mMへ、切断緩衝液で希釈した。切断反応液を、37℃で1時間インキュベーションし、フェノール/クロロホルム11ulの添加により停止した。DNAを、実施例4に説明されたように、フェノール/クロロホルム抽出により単離し、ゲル電気泳動により分析した。対照として、プローブ3ulを、ゲル上で分析し、非切断DNAの移動を印した(
図41において「U」と記した)。
【0325】
これらの結果を、
図41に示した。標的DNAの単独のジンクフィンガー/FokI融合体とのインキュベーションは、鋳型DNAのサイズの変化を生じなかった。しかし、sca-r29bヌクレアーゼのsca-36b又はsca-36cヌクレアーゼのいずれかとの組合せは、2種のより短いDNA断片の存在により証明される(
図41の最も右側の2レーン)、標的DNAの切断を生じた。
【0326】
(実施例22:染色体GFPレポーターシステムで試験されたβ-グロビン遺伝子へ標的化されたZFP/FokI融合エンドヌクレアーゼ)
実施例20に説明されたZFNにより標的化されたヒトβ-グロビン遺伝子配列を含むDNA断片を合成し、eGFPレポーター遺伝子のSpeI部位へクローニングし、これにより、eGFP発現を破壊した。この断片は、以下の配列を含み、ここで鎌状細胞変異の原因となるヌクレオチドには、太字及び下線を付けた:
CTAGACACCATGGTGCATCTGACTCCTG
TGGAGAAGTCTGCCGTTACTGCCCTAG (配列番号:200)
【0327】
挿入されたβ-グロビン配列を含むこの破壊されたeGFP遺伝子は、pcDNA4/TO (Invitrogen, カールスバッド, CA)へ、HindIII及びNotI部位を使用し、クローニングし、得られたベクターを、HEK293 TRex細胞(Invitrogen)へ形質移入した。個々の安定したクローンを単離しかつ増殖し、これらのクローンを、sca-29bと対をなす各sca-36タンパク質(sca-36a、sca-36b、sca-36c)の形質移入による標的化された相同組換えについて試験した(これらのキメラヌクレアーゼの配列及び結合部位については実施例20及び表25参照のこと)。細胞は、各ZFNをコードしているプラスミド50ng及び1.5-kb GFPドナー(実施例13)500ngにより形質移入した。形質移入の5日後、細胞を、挿入された欠損eGFP遺伝子座での相同組換えについて試験した。最初に、細胞を、eGFP機能について蛍光顕微鏡で試験した。次に蛍光を示す細胞を、実施例11に説明されたように、eGFP蛍光についてFACSアッセイを用い、定量的に分析した。
【0328】
これらの結果は、蛍光顕微鏡によりアッセイした場合に、sca-29b及びsca-36aで形質移入された全ての細胞株は、eGFP機能に関して陰性であったことを示した。sca-36b又はsca-36cのいずれかと対をなすsca-29bで形質移入された一部の細胞株は、蛍光顕微鏡によりアッセイした場合に、eGFP発現に関して陽性であり、従ってFACS分析により更に分析した。これらの2種の細胞株のFACS分析の結果を、表26に示し、これはβ-グロビン配列に標的化されたジンクフィンガーヌクレアーゼは、配列-特異的二本鎖DNA切断を触媒することが可能であり、生存細胞における相同組換えを促進することを指摘している。
【0329】
【表32】
【0330】
(実施例23:標的化された相同組換えに対する転写レベルの作用)
染色体DNA配列の転写は、そのクロマチン構造の変化に関与しているので(一般により接近可能な転写された配列を作出する)、能動的に転写された遺伝子は、標的化された相同組換えのより好ましい基質であることが可能である。この考えを、その転写がドキシサイクリン-誘導性プロモーターの制御下にある欠損eGFP遺伝子をコードしている染色体配列を含むT18細胞株(実施例9)を用いて試験した。
【0331】
T18細胞の個別の試料を、eGFP-標的化された287及び296ジンクフィンガー/FokI融合タンパク質(実施例7)及び染色体eGFP遺伝子の欠損を補正する配列を含む1.5kbpドナーDNA分子(実施例9)をコードしているプラスミドで形質移入した。形質移入の5時間後、形質移入された細胞を、異なる濃度のドキシサイクリンで処理し、その後eGFP mRNAレベルをドキシサイクリンの添加の48時間後測定した。挿入されたβ-グロビン配列を交換するためのドナー配列の染色体への標的化された組換えの指標である520nmでのeGFP蛍光を、形質移入の4日後FACSにより測定した。
【0332】
これらの結果は、
図42に示した。GAPDH mRNA(最初の概算のために、欠損染色体eGFP遺伝子の転写率と同等)に対して標準化されたeGFP mRNAの定常状態レベルの増加は、バーで示した。各バー上の数値は、eGFP蛍光を示す細胞の割合を示している。これらの結果は、標的遺伝子の転写率の増加は、より高い標的化された組換え頻度により達成されることを示している。このことは、標的化された転写活性化(例えば共有の米国特許US 6,534,261及びUS 6,607,882に開示された)を、標的化されたDNA切断と共に使用し、細胞における標的化された相同組換えを刺激することができることを示唆している。
【0333】
(実施例24:IL-2Rγ遺伝子の変異を含む細胞株の作出)
K562細胞を、5-8GL0及び5-9DL0ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)(実施例14;表17参照)及び1.5kbp DraIドナー構築体をコードしているプラスミドで形質移入した。DraIドナーは、IL2Rγ遺伝子の第5エクソンをコードしている領域に相同な配列で構成されるが、フレームシフトを生じ及びDraI部位を作出するために、ZFN-結合部位間に余分な塩基を挿入している。
【0334】
形質移入の24時間後、細胞を、0.2μMビンブラスチン(最終濃度)で30時間処理した。細胞をPBSで3回洗浄し、培地に再播種した。細胞を、3日間回収し、細胞のアリコートを取り出し、実施例14に説明されたものに類似したPCR-ベースのRFLPアッセイを行い、DraI部位の存在について試験した。集団内の遺伝子補正頻度は約4%と決定した。
【0335】
細胞を、更に2日間回収し、1600個の個別の細胞を、40x96-ウェルプレートに培地100ul中で播種した。
これらの細胞を約3週間増殖させ、DraI変異体表現型についてホモ接合体である細胞を単離した。これらの細胞を、ゲノム修飾について(IL-2Rγ遺伝子のエクソン5内のDraI部位の存在を試験することにより)、並びにIL-2RγmRNAレベルについて(リアルタイムPCRにより)及びタンパク質レベル(ウェスタンブロットにより)について試験し、遺伝子発現に対するこの変異の作用を決定した。細胞は、FACS分析により機能について試験した。
【0336】
IL-2Rγ遺伝子内にDraIフレームシフト変異を含む細胞を、5-8GL0及び5-9DL0融合タンパク質並びに1.5kb BsrBIドナー構築体(実施例14)をコードしているプラスミドで形質移入し、DraIフレームシフト変異を、機能タンパク質をコードしている配列と交換した。実施例14に説明されたようにBsrBI部位の存在についてアッセイすることにより測定した場合、これらの細胞において、1%よりも大きい相同組換えレベルを得た。遺伝子機能の回復は、mRNAレベル及びタンパク質レベルの測定並びにFACS分析により明らかにされた。
【0337】
(実施例25:異なる極性を伴うZFP/FokI融合エンドヌクレアーゼ)
ZFPドメインはFokIドメインに対しN-末端であるZFP/FokI融合体をコードしているベクターを構築した。IL2-1を意味するZFPドメインは、4個のジンクフィンガーを含み、IL-2Rγ遺伝子の第三のエクソン内に位置した配列AACTCGGATAAT (配列番号:202)に標的化された。このジンクフィンガーの認識領域のアミノ酸配列は、表27に示した。
【0338】
【表33】
【0339】
このジンクフィンガードメインをコードしている配列は、FokI制限エンドヌクレアーゼの切断ハーフ-ドメインをコードしている配列(Looneyらの論文に従い、アミノ酸384-579 (1989) Gene, 80:193-208)と連結し、その結果アミノ酸4個のリンカーが、ZFPドメインと切断ハーフ-ドメインの間に存在した(すなわちアミノ酸4個のZCリンカー)。FokI切断ハーフ-ドメインは、細菌株Planomicrobium okeanokoites (ATCC 33414)から、下記のプライマーを用いて、単離されたゲノムDNAのPCR増幅により得た。
【0340】
【表34】
【0341】
このPCR産物は、BamHI及びXhoI(先に示した配列で下線を付けた部位)により消化し、その後BamHI及びXhoI消化後のプラスミドpcDNA-nls-ZFP1656-VP16-flagから調製したベクター断片とライゲーションした。得られた構築体pcDNA-nls-ZFP1656-FokIは、pcDNA3.1 (Invitrogen, カールスバッド, CA)ベクター主鎖内に、N-末端からC-末端へ、SV40ラージT抗原-由来の核局在化シグナル(NLS, Kalderonら、(1984) Cell, 39:499-509)、ZFP1656、及びFokI切断ハーフ-ドメインを含む融合タンパク質をコードしている。この構築体を、KpnI及びBamHIで消化し、ZFP1656-コードしている配列を放出し、IL2-1ジンクフィンガー結合ドメインをコードしているKpnI/BamHI断片を、ライゲーションにより挿入した。得られた構築体(pIL2-1C)は、N-からC-末端へ、核局在化シグナル、4-フィンガーIL2-1ジンクフィンガー結合ドメイン及びFokI切断ハーフ-ドメインを、アミノ酸4個のZCリンカーと共に含む融合タンパク質をコードしている。
【0342】
FokI配列がZFP配列に対しN-末端側であるZFP/FokI融合タンパク質をコードしているベクターも構築した。IL2-1の4-フィンガーのジンクフィンガードメインは、KpnI/BamHI断片として、EGFP-コード配列を放出するようにKpnI及びBamHIで消化された、NLS、KOX-1抑制ドメイン、EGFP及びFLAGエピトープタグを含む融合タンパク質をコードしているベクターへ挿入した。これは、N-末端からC-末端へ、NLS(SV40ラージT-抗原由来)、KOX抑制ドメイン、IL2-1ジンクフィンガードメイン及びFLAGエピトープタグをコードしている配列を含むベクターを作出した。次にこの構築体を、EcoRI及びKpnIで消化し、NLS-及びKOX-コード配列を放出し、FokI制限酵素384-579及びNLSのアミノ酸をコードしているEcoRI/KpnI断片(鋳型として、FokIをコードしているベクターを用い、PCRにより作出)を挿入した。得られた構築体pIL2-1Rは、N-末端からC-末端へ、FokI切断ハーフ-ドメイン、NLS、及び4-フィンガーIL2-1 ZFP結合ドメインを含む融合タンパク質をコードしている。この構築体内のZCリンカーは、21アミノ酸長であり、アミノ酸7個の核局在化配列(PKKKRKV;配列番号:210)を含む。
【0343】
この5-9Dジンクフィンガードメインは、IL-2Rγ遺伝子の第5エクソン内に位置した12-ヌクレオチド標的配列AAAGCGGCTCCG (配列番号:157)に結合する。実施例14(表17)を参照のこと。5-9Dジンクフィンガードメインをコードしている配列を、ベクターに挿入し、FokI/ZFP融合体を作出し、ここでFokI配列はZFP配列に対しN-末端側であった。この構築体を作出するために、前段に説明されたpIL2-1Rプラスミドを、KpnI及びBamHIで消化し、IL2-1ジンクフィンガー結合ドメインをコードしている配列を含む断片を放出し、並びに5-9Dジンクフィンガー結合ドメインをコードしているKpnI/BamHI断片を、その場に挿入した。得られた構築体p5-9DRは、N-末端からC-末端へ、FokI切断ハーフ-ドメイン、NLS、及び4-フィンガー5-9Dジンクフィンガー結合ドメインを含む融合タンパク質をコードしている。この構築体のZCリンカーは、22アミノ酸長であり、7個のアミノ酸の核局在化配列(PKKKRKV;配列番号:210)を含む。
ベクター構築の更なる詳細については、共有の米国特許US 6,453,242及びUS 6,534,261を参照のこと。
【0344】
(実施例26:DNA切断のための合成基質の構築)
先に説明されたIL2-1及び5-9D融合タンパク質に結合された標的配列を、様々な配向で二本鎖DNA断片に導入し、FokIドメインはZFPドメインのN-末端側であるような、変更された極性を有するジンクフィンガー/FokI融合タンパク質の切断能を試験した。鋳型1において、5-9D標的部位は一方の鎖に存在し、及びIL2-1標的部位は相補鎖に存在し、結合部位の3'末端は、互いに近接し、6個の介在ヌクレオチド対により隔てられている。鋳型2において、5-9D及びIL2-1標的部位は、同じDNA鎖に存在し、5-9D結合部位の3'末端は、IL2-1結合部位の5'末端から6個のヌクレオチド対により隔てられている。
【0345】
先に説明された配列を含む約442塩基対のDNA断片は、それへ鋳型がクローニングされたプラスミドの増幅産物として得た。IL2-1及び5-9D標的部位は、これらの断片内に位置し、これらふたつの標的部位の間の二本鎖DNA切断は、約278及び164塩基対のDNA断片を作出するであろう。増幅産物は、T4ポリヌクレオチドキナーゼを使用するγ-
32P-ATPからのオルトリン酸の転移により、放射標識した。
【0346】
(実施例27:変更された極性を有するジンクフィンガー/FokI融合体による標的化されたDNA切断)
IL2-1C、IL2-1R及び5-9DR融合タンパク質を、これらのタンパク質をコードしているプラスミドをTNTと一緒にした網状赤血球溶解液(Promega, マジソン, WI)中でインキュベーションすることにより得た。切断反応は、各融合タンパク質のTNT反応液1μl、標識された消化基質1μl及び切断緩衝液20μlを含む混合液23μl中で行った。切断緩衝液は、1Mジチオスレイトール1μl及びウシ血清アルブミン(10 mg/ml)50μlを、20mMトリス-Cl(pH8.5)、75mM NaCl、10μM ZnCl
2、5%(v/v)グリセロールの1mlへ添加することにより調製した。切断反応液は、37℃で2時間インキュベーションし、その後フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(25:24:1)13μlと共に振盪した。遠心後、水相10μlを、10%ポリアクリルアミドゲル上で分析した。ゲル内の放射活性を、ホスホイメージャー(Molecular Dynamics)を用い検出し、ImageQuantソフトウェア(Molecular Dynamics)を用い定量した。
【0347】
図44は、2種のキメラヌクレアーゼの結合部位が反対鎖に位置し、及び結合部位の3'末端が互いに近接し、6個のヌクレオチド対により隔てられている、基質を切断するためにNH
2-FokIドメイン-ジンクフィンガードメインCOOH極性を有する2種のキメラヌクレアーゼを使用し得られた結果を示している。基質のIL2-1R又は5-9DRヌクレアーゼのいずれか単独とのインキュベーションは、基質の切断を生じない(レーン2及び3を、レーン1と比較)が、両方のヌクレアーゼとのインキュベーションは、意図された標的部位でのDNA基質のほぼ完全な切断を生じる(レーン4)。
【0348】
図45は、NH
2-ジンクフィンガードメイン-FokIドメイン-COOH極性を有する第一のキメラヌクレアーゼ、及びNH
2-FokIドメイン-ジンクフィンガードメインCOOH極性を有する第二のキメラヌクレアーゼの、2種のキメラヌクレアーゼの結合部位が同じ鎖に位置し、第一の結合部位の3'末端が第二の結合部位の5'末端に近接し、かつ6個のヌクレオチド対により隔てられている基質を切断する能力を示す。 5-9DR及びIL2-1Cヌクレアーゼの組合せのみ(すなわち各ヌクレアーゼは異なる極性を有する)が、同じ鎖に両方の標的部位を有する基質の切断が成功する(レーン6をレーン1-5と比較)。
【0349】
(実施例28:異なるZCリンカー長を伴うキメラヌクレアーゼ)
FokIドメインが、ZFPドメインに対しアミノ末端であるような異なるZCリンカー長を持つ融合タンパク質の2つのセットをデザインした。FokIドメインは、Looneyらの論文((1989) Gene, 80:193-208)に従い、アミノ酸384-579である。ZFPドメインは、IL1-2ドメイン(表27)、5-8Gドメイン(表17)及び5-9Dドメイン(表17)から選択した。第一のセットは、構造NH
2-NLS-FokI-ZFP-Flag-COOHを有した。このセットにおいて、ZCリンカー長13、14、18、19、28及び29アミノ酸を有するタンパク質をデザインした。第二のセットは、構造NH
2-FokI-NLS-ZFP-Flag-COOHを有し、及び21、22、23、24、28、29、38及び39アミノ酸のZCリンカーを有するタンパク質をデザインした。第二のセットにおいて、NLSはZCリンカーの一部であることに注意。これらの融合タンパク質をコードしているプラスミドも構築した。
【0350】
モデルDNA配列をデザインし、これらの融合タンパク質の切断活性を試験し、最適ZCリンカー長を、2種の融合タンパク質の標的部位間の距離の関数として決定した。以下の配列をデザインした:
1. 反対鎖上の5-9D標的部位及びIL2-1標的部位
2. 同鎖上の5-9D標的部位及びIL2-1標的部位
3. 反対鎖上の5-9D標的部位及び5-8G標的部位
4. 同鎖上の5-9D標的部位及び5-8G標的部位。
【0351】
これら4種の標的部位の対の各々について、ふたつの標的部位の間の隔たりが4、5、6又は7塩基対である配列を構築した。
これらの配列を、実施例26に説明されたように標識した基質へ導入し、並びに実施例27に説明された方法に従い、DNAを切断するそれらの能力について本実施例において説明された様々な融合タンパク質を試験するために使用した。
【0352】
(実施例29:組込まれた欠損eGFPレポーター遺伝子を含む安定した細胞株の構築)
テトラサイクリン-調節されたCMVプロモーターの反対側に連結された、フレームシフト変異及びIL-2Rγ遺伝子のエクソン5の断片を含むeGFP(増強型緑色蛍光タンパク質)をコードする配列を、以下のように構築した。サイレント変異を、pEGFP-NIベクター(BD BioSciences)中のeGFPコード配列へ挿入し、新規SpeI部位を作出した。引き続き1-ヌクレオチド欠失(フレームシフト変異を生じる)を、新規SpeI部位の下流へ導入した。5-8G及び5-9Dジンクフィンガー/FokI融合タンパク質の標的部位を含む、IL-2Rγ遺伝子のエクソン5からの以下の配列(実施例14、前掲表17に説明された)を、新たに導入されたSpeI部位に挿入した:
CTAGCTACACGTTTCGTGTTCGGAGCCGCTTTAACCCACTCTGTGGAAGTGCTCCTAG (配列番号:214)
【0353】
得られたプラスミドは、IL-2Rγ遺伝子のエクソン5からのDNA配列の断片を含む変異体eGFPをコードしている配列を含んだ。このプラスミドを、HindIII及びNotIにより消化し、変異したeGFP配列を含む断片(挿入されたIL-2Rγエクソン5配列を含む)を放出した。この断片を、pcDNA4/TOベクター(Invitrogen)のHindIII及びNotI部位に挿入し、eGFP配列の発現が、2Xtet-オペレーター-調節されたCMVプロモーターにより制御された構築体を生じた。このプラスミドの概略図は
図46に示されている。
【0354】
この構築体を用い、HEK293 TRex細胞(Invitrogen)を形質転換し、この構築体の組込まれたコピーを含む安定した細胞株を単離した。この細胞株において、eGFPコード配列を、ドキシサイクリンの添加時に転写したが、フレームシフト変異及びIL-2Rγの挿入のために、機能的タンパク質は発現されなかった。
【0355】
(実施例30:ピューロマイシン耐性マーカーの染色体eGFP遺伝子への標的化された相同性-依存型組込み)
ピューロマイシン耐性マーカーの先の実施例において説明された変異体染色体eGFP遺伝子への組込みを試験するために、実験を行った。
ピューロマイシン耐性をコードしている配列(「puro配列」と記す)を含み、以下のようにeGFP cDNA構築体に相同な配列が側方に位置した、プロモーターのないドナーを構築した。配列は、pTRE2pur-HAベクター(BD Biosciences)からPCR増幅し、ATG開始コドンの上流フランキングSpeI部位及びコンセンサスコザック配列を伴うpuro配列を作出した。増幅プライマーは以下であった:
puro-5’:ACTAGTGCCGCCACCATGACCGAGTACAAGCCCA (配列番号:215)
puro-3’:ACTAGTCAGGCACCGGGCTT (配列番号:216)
このPCR断片は、新規SpeI制限部位及びこの遺伝子の機能的発現を防止するフレームシフト変異をコードしている修飾されたeGFP遺伝子を含むpEGFP-N1ベクターへクローニングした(実施例29参照)。このeGFP/ピューロマイシン遺伝子は、HindIII及びNotI部位を介してpcDNA4/TOベクターにもクローニングし、ベクターpcDNA4/TO/GFPpuroを作出し、これも標的化された組込みによるピューロマイシン耐性細胞を得るための実験において陽性対照として利用した。プロモーターのないドナーを作出するために、pcDNA4/TO/GFPpuroベクターを、以下のプライマーによりPCR増幅した:
GFP-Bam CGAATTCTGCAGTCGAC (配列番号:217)
pcDNA42571 TGCATACTTCTGCCTGC (配列番号:218)
【0356】
得られた増幅産物を、pCR4-TOPOベクターへTopoクローニングし、その配列を確認した。これは、puro配列の上流の染色体eGFP構築体に相同な配列413bp、及びpuro配列の下流の染色体eGFP構築体に相同な配列1285bpを伴うドナーを作出した。
【0357】
puro配列の標的化された組込みを試験するために、実施例29に説明された細胞株に、本実施例において説明されたドナー構築体の存在下でのジンクフィンガー/FokI融合タンパク質による、標的化されたDNA切断を施し、形質移入された細胞を、ピューロマイシン耐性について選択し、それらの染色体DNAを分析した。eGFP遺伝子へ挿入されたエクソン5配列内で切断するようにデザインされた2種のジンクフィンガー/FokI融合タンパク質(ZFN)は、実施例14、前掲の表17に説明されている(5-8G及び5-9D)。ピューロマイシン耐性は、ドナー配列のeGFPコード配列へ挿入されたIL-2Rγ配列内に位置した切断部位での相同性-依存型又は相同性-非依存型のいずれかの組込みから生じ得る。ドナー構築体の相同性-依存型組込みは、puro配列によるIL-2Rγ配列の交換を生じるであろう。
【0358】
HEK 293細胞は、10%ウシ胎仔血清(FBS)(Hyclone)及び2mM L-グルタミンを補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Invitrogen)において増殖し、5%CO
2大気下で37℃で維持した。puro配列の標的化された組込みを試験するために、細胞を、各ZFN-コードしているプラスミド50ng及びドナープラスミド500ngにより形質移入した。陰性対照実験において、細胞は、各ZFN-コードしているプラスミド50ng又はドナープラスミド500ngのいずれかで形質移入した。陽性対照として、pcDNA4/TO/GFPpuroベクター500ngを、HEK293細胞へ形質移入した。細胞は、Opti-MEM I還元血清培地においてリポフェクタミン2000試薬(Invitrogen)を用いて形質移入した。ピューロマイシン耐性を、増殖培地中ドキシサイクリンの2ng/mlへの(組込まれた配列の転写を活性化するため)及びピューロマイシンの2ug/ml(最終濃度)への添加によりアッセイした。
【0359】
ピューロマイシン耐性コロニーを、両方のZFN-コードプラスミド及びドナープラスミドで形質移入された細胞からのみ得た。24個のコロニー集団を単離し、6週以上の選択を施し、その後標的化された組込み事象についてPCRにより分析した。以下のPCRプライマーを使用し、標的化された組込み事象が生じたかどうかを検出した:
CMVPuro-5’ TTTGACCTCCATAGAAGACA (配列番号:219)
CMVPuro-3’ GCGCACCGTGGGCTTGTACT (配列番号:220)
【0360】
これらのプライマーのひとつは、外来puro配列に対し相補的であり、他方は、組込まれたレポーター構築体中に存在するCMVプロモーターの配列に対し相補的である。24コロニー中21種は、そのサイズがpuro配列の標的化された組込みと一致する増幅産物を生じた。これらの断片をクローニングし、それらのヌクレオチド配列を決定した。配列分析は、24種のクローン中8種は、染色体eGFP構築体へのpuro配列の相同性-方向付けられた組込みを受けたのに対し、13種は、puro配列の部分重複を伴ったドナーDNAの染色体配列への相同性-非依存型組込みを受けたことを示した。
【0361】
(実施例31:IL-2Rγ遺伝子のエクソン5に標的化されたジンクフィンガー/FokI融合タンパク質のコドン最適化)
4個のアミノ酸のZCリンカー(LO)によりFokI切断ハーフ-ドメインに連結された5-8G及び5-9Dジンクフィンガー結合ドメイン(表17)を含む融合タンパク質は、先に説明されている。例えば実施例14及び実施例24を参照のこと。これら2種の融合タンパク質をコードしているポリヌクレオチドを、これらのコドンが哺乳類細胞における発現に最適化されるようにデザインした。これら2種の融合タンパク質をコードしているコドン-最適化されたヌクレオチド配列は以下である。
【0362】
【表35】
【0363】
(実施例32:標的化された相同組込みのためのK-562細胞の増殖及び形質移入)
ヒトK-562赤白血病細胞(ATCC)を、10%ウシ胎仔血清、ペニシリン及びストレプトマイシンを補充したDMEMにおいて37℃で培養し、並びに内在性IL2Rγ遺伝子におけるアルギニン226のコドンを取り囲む位置に二本鎖破損を導入するようにデザインされた2種のジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)をコードしている発現ベクター2.5μgで形質移入した(Nucleofector;Amaxa)。これら2種のヌクレアーゼ(5-8G及び5-9D)は、先に実施例14、表17に説明されている。これらのヌクレアーゼをコードしている配列は、2Aペプチドをコードしている配列により隔てられている。例えばSzymczakら、(2004) Nature Biotechnol. 22:589-594を参照のこと。同時に、これらの細胞は、挿入されるべきDNA配列により中断された(下記実施例33-36参照)、エクソン5を中央としたIL2Rγ染色体DNA配列の1.5kb DNAの一続きの配列を保有する(Urnovら、(2005) Nature, 435:646-651)ドナーDNAプラスミド25又は50μgのいずれかにより形質移入した。形質移入の72時間後、ゲノムDNAを単離し(DNEasy;Qiagen)、IL2Rγ遺伝子座での細胞遺伝子型を、ドナー相同性の1.5kb領域の外側にアニーリングし、及び野生型IL2Rγ配列由来の1.6キロベース対の増幅産物を作出するプライマーを使用する、X染色体のエクソン5-含有の一続きの配列のPCR(Urnovら、前掲)により決定した。PCR産物を、ゲル電気泳動及び記載された場合は制限消化により分析した。対照試料は以下を含んだ:(1)GFP-コードしている発現ベクターで形質移入された細胞、(2)ZFNをコードしている発現ベクター単独で形質移入された細胞、及び(3)ドナーDNA分子単独で形質移入された細胞。
【0364】
(実施例33:12-ヌクレオチドの外来配列の内在性IL-2Rγ遺伝子への標的化された相同性-依存型組込み)
細胞増殖及び形質移入は、実施例32に説明されたように行った。ドナーDNA分子は、制限酵素StuIに関する新規診断用認識部位を含む12ヌクレオチド対配列タグを含むように、操作した。細胞DNAを単離し、実施例32に説明された増幅のための鋳型として使用し、その後StuIで消化した。
図47に示したように、全ての対照試料は、染色体を保有し、制限酵素による切断に対し抵抗性がある増幅産物を生じた。対照的に、ドナーDNA分子及びZFN発現構築体の両方で形質移入された細胞試料内の全ての増幅産物の15%は、制限酵素に感受性があり、これはドナーDNAの組込みを示している。染色体-由来のPCR産物の直接的ヌクレオチド配列決定は、組込みは、相同性-依存型であることを確認した。
【0365】
(実施例34:外来オープンリーディングフレームの内在性 IL-2Rγ遺伝子への標的化された相同性-依存型組込み)
細胞増殖及び形質移入を、実施例32に説明されたように行った。この実験において、2種の異なるドナーDNA分子を使用した。ドナーDNA分子#1は、染色体IL2Rγ遺伝子座に相同な配列が側方に位置した増強型緑色蛍光タンパク質(eGFP)の720bp ORF全体を含むように操作した(実施例32参照)。ドナーDNA分子#2は、全eGFP ORF、それに続くポリアデニル化シグナルからなる924bp配列を含み;この配列は、IL2Rγ-相同配列が側方に位置した(実施例32参照)。形質移入後、細胞DNAを単離し、実施例32に説明されたような増幅の鋳型として使用した。
図48に示したように、全ての対照試料は、野生型サイズ(〜1.6kb)のPCR産物を生じる染色体を保有した。対照的に、ORF-保有するドナー及びZFN発現構築体の両方で形質移入した、細胞試料内の全ての染色体の3〜6%は、野生型-染色体-由来のPCR産物よりもより大きい増幅産物を生じ、このサイズの差は、eGFP ORFのZFN-駆動した標的化された組込みが生じたという考えと一致した。染色体-駆動したPCR産物の直接的ヌクレオチド配列決定は、この知見を確認し、組込みが相同性-依存型であることも指摘した。
【0366】
(実施例35:外来「治療的ハーフ-遺伝子」の内在性IL-2Rγ遺伝子への標的化された相同性-依存型組込み)
細胞増殖及び形質移入は、実施例32に説明されたように行った。ドナーDNA分子は、エクソン5の下流部分、並びにエクソン6、7及び8(エクソン8内の翻訳終結コドン及びポリアデニル化シグナルを含む)の完全なコピーを含む720ヌクレオチド-対の部分的IL2Rγ cDNAからなった。これらのcDNA配列は、片側には、エクソン5の上流部分及びイントロン4の隣接部分に相同な配列が側方に位置し、並びに他側には、エクソン5の下流部分及びイントロン5の隣接部分に相同な配列が側方に位置している(
図49参照)。エクソン5の下流部分の2種のコピーはドナー構築体に存在し、組換えはエクソン8に隣接するコピーにおいて生じたことは確実であるので、いくつかのサイレント配列変化が、エクソン6に隣接するコピーへ導入された。これらの変化は、外来エクソン5配列のコード能は変更しなかったが、破損の修復における最初のホーミング事象に関するこれらの配列の使用を防止するために、染色体配列との十分な非-相同性を導入した。従ってヌクレアーゼにより標的化された部位でのドナー構築体の組込みは、エクソン6、7又は8における並びにドナー構築体に含まれたエクソン5の下流部分におけるあらゆるIL2Rγ変異を補正するために使用することができる。
【0367】
形質移入に続けて、細胞DNAは単離し、実施例32に説明された増幅のための鋳型として使用した。
図50に示されたように、細胞がGFP-コードしているプラスミドで形質移入された対照試料は、野生型サイズのみ(〜1.6kb)のPCR産物を生じる染色体を含んだ。対照的に治療的ハーフ-遺伝子-保有するドナー及びZFN発現構築体の両方で形質移入された細胞試料中の全ての染色体の6%は、野生型-染色体-由来のPCR産物よりもより大きく、このサイズの差は、「治療的ハーフ-遺伝子」のZFN-駆動した標的化された組込みが生じたという考えと一致した。より大きいPCR産物の直接的ヌクレオチド配列決定は、ドナー構築体の相同性-依存型組込みが生じたことを示した。
【0368】
(実施例36:外来7.7キロベース対の発現構築体の内在性IL-2Rγ遺伝子への標的化された相同性-依存型組込み)
細胞増殖及び形質移入は、実施例32に説明されたように行った。IL2Rγエクソン5に相同な配列及び隣接配列が側方に位置した7.7kbp抗体発現構築体を含んだドナーDNA分子を構築した(実施例32参照)。この実験において、ドナーの2種のトポロジー形状を使用した:ベクター主鎖は、発現構築体により遮断された2個の相同性アームにより挿入断片と境を接する、プラスミドドナー(「環状」);並びに、発現構築体により遮断された2個の相同性アームを含む、線状ドナー(「線状」)。
【0369】
DNAを、実施例32に説明されたように、形質移入された細胞から単離した。このDNAを、組込まれた外来配列と内在性IL-2Rγエクソン5配列の間の接合を検出するためにデザインされた2種のプライマー対を用いる、PCRにより分析した。従って各プライマー対に関して、プライマーの一方は、内在性エクソン5配列に相補的であり、及び他方のプライマーは、発現構築体に相補的であった(
図51上側部分参照)。
図51の下側部分を参照し、ドナーDNAによってのみ形質移入された対照試料においては、PCR産物は認められなかった。対照的に、予想されたサイズのPCR産物は、ドナーDNA(線状又は環状のいずれか)及びZFN-コードプラスミドにより形質移入された細胞試料において認められた。重要なことは、発現構築体の両端に特異的なプライマーセットは、同じ結果を生じたことであり、これは、外来7.7kb配列のZFN-駆動された標的化された組込みが生じたという考えと一致する。増幅産物のヌクレオチド配列決定は、相同性-依存型組込みが生じたことを確認した。
【0370】
(実施例37:内在性染色体遺伝子座での外来配列の標的化された相同的-非依存型組込み) チャイニーズハムスタージヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)遺伝子において、ジンクフィンガー/FokI融合タンパク質の対を、6ヌクレオチド対により隔てられた2個の標的部位に結合し、及びこれら2種の標的部位の間の遺伝子を切断するように構築した。融合タンパク質の標的部位のヌクレオチド配列、及び認識領域のアミノ酸配列は、表28に示している。
【0371】
【表36】
【0372】
チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を、接着培地(2mM L-グルタミン+非必須アミノ酸を補充したDMEM+10%FBS)において37℃で培養した。3x10
5個細胞を、12-ウェルプレートにおいて集密度70%に増殖し、2種の融合タンパク質-コードしているプラスミドの各100ngにより、一過性に形質移入した(リポフェクタミン2000(登録商標)使用)。形質移入の24時間後、20μMビンブラスチンを増殖培地へ添加した。培地を、ビンブラスチンの添加後24時間で交換した。培地交換の24時間後、細胞DNAを精製し(Qiagen)、標的部位を取り囲むDHFR遺伝子配列を、PCRにより増幅した。プライマーは、野生型DHFR遺伝子を含む細胞由来のDNAが、383ヌクレオチド対の増幅産物を生じることを予想されるようにデザインした。予想外のことに、2種の増幅産物が得られ、一方は予想されたサイズであり、他方は約150ヌクレオチド対大きかった。
【0373】
変異が切断部位で誘導されたかどうかを決定するために、増幅産物を変性しかつ再生し、引き続きミスマッチ-特異的Cel-1ヌクレアーゼで処理するCel-1アッセイを用いて、増幅産物を分析した。例えば、Oleykowskiら、(1998) Nucleic Acids res. 26:4597-4602;Quiら、(2004) BioTechniques, 36:702-707;Yeungら、(2005) BioTechniques, 38:749-758を参照のこと。Cel-1アッセイの結果(
図52)は、切断部位での非相同末端連結から生じる再アニーリングされた生成物中の小さいミスマッチ(
図52の最も右側のレーンの2本の低分子量バンドの存在により示される)に加え、より大きい挿入も生じた(
図52のレーン3及び5において「変異体」と記された高分子量バンドの存在により示される)ことを示した。このことは、先に説明されたより大きい増幅産物の知見を裏付けた。
【0374】
挿入の性質を特徴付けるために、先に説明された2種の増幅産物のヌクレオチド配列を決定し、
図53に示した。上側ラインに示された配列(配列番号:233)は、野生型DHFR配列であるのに対し、下側ラインに示された配列(配列番号:234)は、切断部位に、157塩基対の挿入及び単独のヌクレオチド対欠失を含むDHFR配列からなる。更なる分析は、挿入された157塩基対は、ジンクフィンガー/FokI融合タンパク質をコードしているベクタープラスミドの部分に相当することを明らかにした。更に蛍光メトトレキセートの取込みがアッセイされる場合、この変異を含む細胞は、野生型CHO細胞と比べ、平均53%のメトトレキセート取込みを示し、これはDHFR遺伝子の1種のコピーの機能の喪失に一致した。
従って、外来ベクター配列の標的化された相同性-非依存型組込みは、DHFR遺伝子の標的化された切断部位に生じ、これはヘテロ接合型DHFR変異体細胞株の作出を生じた。
【0375】
(実施例38:内在性遺伝子の標的化された切断及び相同性-方向付けられた修復のためのFokI二量体化ドメインにおける多重変異)
追加の配列変更を、実施例5に説明されたような変異誘発されたFokI切断ハーフ-ドメインへ導入し、ここで残基490は、グルタミン酸からリシン(E490K)へ転換され、その切断特異性に更なる改善を提供した。ひとつの実施態様において(変異体X2)、アミノ酸538は、イソロイシンからリシン(I538K)へ転換した。更なる実施態様において、X2変異体のアミノ酸486は、グルタミンからグルタミン酸(Q486E)へ転換し、X3A変異体を作出するか、又はグルタミンからイソロイシン(Q486I)へ転換し、X3B変異体を作出した。E490K、X2、X3A及びX3B変異体のアミノ酸配列を、野生型FokI切断ハーフ-ドメインのアミノ酸配列と比較し、
図54に示した。
【0376】
これらの変異体切断ハーフ-ドメインをコードしている配列が、5-8G及び5-9Dジンクフィンガードメインをコードしている配列に融合されたプラスミドを構築した(実施例14参照)。その後これらの変異体の様々な組合せを、BsrBI部位を含むドナーDNA配列の存在下での、IL-2Rγ遺伝子のエクソン5における二本鎖破損の相同性-方向付けられた修復を刺激するそれらの能力についてアッセイした。細胞をビンブラスチンで処理せず及び20ユニットのBsrBIを消化に使用したこと以外は、実施例15に説明されたアッセイシステム及び手順を使用した。
【0377】
ゲルの48時間曝露後、ホスホイメージャースクリーンを読み取り、RFLP-由来のバンド及び野生型バンドの強度を、ImatgeQuantソフトウェア(MolecularDynamics)を使用し定量した。RFLP-由来のバンドの強度を、野生型及びRFLPバンドの総放射活性の割合(%)として、表29に示した。これらの結果は、X3 FokI変異体は、Q486E変異体と対形成した場合、それ自身の第二のコピーと対形成した場合よりも有意により良く機能することを示している。
【0378】
【表37】
【0379】
(実施例39:染色体GFPレポーター遺伝子アッセイにより試験したFokI二量体化ドメイン内に多重変異を伴うジンクフィンガー/FokI融合タンパク質)
テトラサイクリン-調節されたCMVプロモーターに機能的に連結された染色体に組込まれた変異体eGFPコード領域配列を含む実施例29に説明された細胞株を、FokI切断ハーフ-ドメインの二量体化界面におけるアミノ酸配列変更を含むジンクフィンガー/FokI融合タンパク質(ZFN)の様々な組合せを試験する実験において使用した。実施例38及び
図54参照のこと。先に実施例13及び
図32において説明された外来ドナーDNA構築体は、野生型eGFPコード配列に相同な1527ヌクレオチド対の挿入断片を含んだ。これは、eGFP配列の下記プライマーを使用する増幅により構築した:
GFPnostart GGCGAGGAGCTGTTCAC (配列番号:235)
pcDNA42571 TGCATACTTCTGCCTGC (配列番号:236)
この増幅産物は、pCR4-TOPOベクターへtopoクローニングし、これはpCR4-TOPO_GFPDonor_1.5KBと記された、ドナー構築体を作出した。このドナー配列の標的化され相同性-方向付けられた組込みは、変異体染色体eGFP配列の野生型eGFP配列との交換、及び機能的eGFPのドキシサイクリン-誘導性発現を生じるであろう。
【0380】
染色体に組込まれた変異体eGFP配列(先に説明された)を含む細胞を、10%ウシ胎仔血清(FBS)(Hyclone)及び2mM L-グルタミンを補充した、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Invitrogen)において増殖し、5%CO
2大気下で37℃で維持した。細胞は、Opti-MEM I還元血清培地においてリポフェクタミン2000試薬(Invitrogen)を用いて形質移入した。細胞を、ZFNのみをコードしているプラスミド(各5ng)、ドナープラスミドのみ(500ng)、又はZFNコードしているプラスミド(各5ng)+ドナープラスミド(500ng)により形質移入した。染色体eGFPコード配列の発現は、形質移入後5時間での増殖培地への2ng/mlドキシサイクリン(最終濃度)の添加により活性化した。細胞を、形質移入後3日目に収集し、eGFP発現についてフローサイトメトリーによりアッセイした。表30に示した結果は、二量体化界面における変異を含む融合タンパク質は、異なる切断ハーフ-ドメインの存在下で相同性-方向付けられた修復を促進するようにより効果的に機能することを指摘しており、これはこれらがホモ二量体化の傾向が低いことを示唆している。
【0381】
【表38】
【0382】
(実施例40:41-ヌクレオチド外来配列の内在性CCR-5遺伝子への標的化された相同性-依存型組込み)
K562細胞の増殖及び形質移入は、実施例32に説明されたように行った。細胞は、ジンクフィンガードメイン(7568及び7296)はヒトCCR-5遺伝子の標的部位に結合するようにデザインされた、2種のジンクフィンガー/FokI融合タンパク質(2Aペプチド配列により隔てられる)をコードしている構築体2.5μg、並びにドナー構築体50μg(下記参照)により形質移入した。以下に示したように、ジンクフィンガードメインの標的部位(ボックス内)は、5ヌクレオチド対により隔てられた。
【0383】
【表39】
【0384】
ジンクフィンガードメインの標的部位のヌクレオチド配列、及び認識領域のアミノ酸配列は、表31に示している。
【0385】
【表40】
【0386】
ヒトCCR-5遺伝子の〜2キロベース-対部分で構成されたドナーDNA分子は、制限酵素BglIの新規診断用認識部位を含む41ヌクレオチド対配列タグを含むように操作した。ドナー分子は、XbaI部位を作出するためのCCR-5遺伝子断片の変異誘発、及び41-ヌクレオチドタグのXbaI部位への導入により構築した。結果として、41-ヌクレオチドタグは、片側のCCR-5配列の約0.5キロベース対、並びに他側のCCR-5配列の約1.5キロベース対、側方に位置した。この配列は以下に示し、41-ヌクレオチド対タグは大文字で示し、及びBglI部位には下線を付けた。
【0387】
【表41】
【0388】
形質移入の6日後、実施例32に説明されたように、細胞DNAを単離し、増幅の鋳型として使用し、その後BglIで消化した。ドナー構築体及び2種のジンクフィンガー/FokI融合タンパク質をコードしている構築体の両方で形質移入された細胞由来のDNAにおいて、増幅産物約1%が、BglIにより切断され、これは配列タグのCCR-5遺伝子への標的化された挿入の指標であった。形質移入されない細胞由来のDNA、ドナー構築体のみにより形質移入された細胞、及び2種のジンクフィンガー/FokI融合タンパク質をコードしている構築体のみにより形質移入された細胞は、BglIにより切断される増幅産物を生じなかった。この41-ヌクレオチド配列タグの標的化された挿入は、CCR-5遺伝子においてフレームシフト変異を作出し、これによりHIVの受容体としてのその機能を含む遺伝子機能を失活することは重要である。
【0389】
本明細書において言及された全ての特許、特許出願及び刊行物は、あらゆる目的に関して、それらの全体が、参照として組入れられている。
開示は、理解を明確化する目的で図示及び実施例により一部詳細に提示されているが、開示の精神及び範囲を逸脱しない限りは、様々な変更及び修飾が実践され得ることは当業者には明らかであろう。従って前記説明及び実施例は、限定として構築されるものではない。