(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ドア枠は、前記パネル体における前記嵌め込み用開口の上方に位置する部分に車両内側から係合する係合部を含み、この係合部が前記パネル体に締結部材により締結される、請求項2に記載の鉄道車両の構造。
前記ドアは、周縁部が互いに面接触した状態で接合された第1プレートおよび第2プレートを含み、前記第1プレートおよび前記第2プレートの双方はプレス成形されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の鉄道車両の構造。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両では、乗客の乗降口に側引戸が設けられるとともに、乗務員の乗降口や車両間の通路となる貫通路、客室と乗務員室間の仕切壁には開戸(スイング式ドア)が設けられる。スイング式ドアは、車体の側構体や妻構体などにヒンジを介して取り付けられる。
【0003】
従来、スイング式ドアを車体に取り付けるためには、ドアを車体に対して位置合わせした状態で、車体にヒンジ取り付け用のタップを加工したり、ドアと車体との間の隙間から風や水が浸入するのを防止するためのシールゴムの取付を調整したりするなどの種々の作業を行う必要があった。このため、ドアの取付にある程度(例えば半日)の時間がかかっていた。特に、運転室では電気機器等の設置や配線作業が長期間に亘って行われるため、それらの電気工程とドアの取付工程との調整が困難であった。
【0004】
これに対し、特許文献1には、作業の合理化のために、貫通ドアや窓部を備えた内装ユニットを車体部分にボルトで締結できるようにし、内装ユニットに対し車体部分と別の場所で組み立て作業および調整作業を行うことが開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、実施形態を説明する。本実施形態は、
図6に示すような鉄道車両1の側構体1Aに配設される側開戸であるスイング式ドア3Aを対象とする。ただし、対象となるスイング式ドアは、運転室側の妻構体1Bに設けられるドア3Bであってもよいし、中間車両側の妻構体1Cに設けられるドア3Cであってもよい。あるいは、対象となるスイング式ドアは、運転室と客室を仕切る仕切りパネル1Dに設けられるドア3Dであってもよいし、いくつかまたは全てのドア3A〜3Dであってもよい。すなわち、ドアユニット2が取り付けられるパネル体は、側構体1A、妻構体1B、1C及び仕切りパネル1Dのいずれであってもよい。
【0013】
具体的に、本実施形態に係る鉄道車両1の構造は、
図1(a)および(b)に示すようなドアユニット2と、
図2(a)および(b)に示すような側構体(車体)1Aを備える。なお、
図1(b)では、後述するドア枠4の構成を示すためにドア3Aの作図を省略している。
【0014】
以下の説明では、説明の便宜のために、車両の長手方向を左右方向(その一方を左方、他方を右方)というとともに、車幅方向を前後方向(車両外側を前方、車両内側を後方)という。
【0015】
図2(a)および(b)に示すように、側構体1Aには、ドアユニット2が嵌め込まれる嵌め込み用開口(以下、「第1開口」という。)11が形成されている。具体的に、側構体1Aは、第1開口11から周囲に広がる外板10と、第1開口11の下方で左右方向(車両の長手方向)に延びる側ハリ17を含む。側ハリ17は、断面略C字状をなしており、側ハリ17の上フランジと下フランジをつなぐウェブが外板10と重なり合っている。
【0016】
第1開口11の両側では、一対の側壁12,13が第1開口11を挟んで対向するように外板10から後方に折れ曲がっている(
図3参照)。一対の側壁12,13の下端部は側ハリ17の上フランジに接続されている。また、第1開口11の上方では、天井壁14が外板10から後方に折れ曲がっている。天井壁14は、第1開口11を挟んで側ハリ17の上フランジと対向しており、天井壁14の左右両端部は一対の側壁12,13の上端部と接続されている。すなわち、天井壁14、側壁12,13および側ハリ17の上フランジは、第1開口11を取り囲む筒状体を形成しており、第1開口11の奥行を規定している。
【0017】
さらに、天井壁14の後端部からは固定壁15が垂直に立ち上がっている。固定壁15は、ドアユニット2の上部(より正確には、後述する上面部47)を受け止めるためのものである。
【0018】
ドアユニット2は、
図1(a)および(b)に示すように、乗降口となるゲート用開口(以下、「第2開口」という。)41を形成するドア枠4と、第2開口41を開閉するドア3Aを含む。ドア3Aは、上下に離間して配置された一対のヒンジ55を介してドア枠4に取り付けられている。
【0019】
具体的に、ドア枠4は、第2開口41を取り囲むように第2開口41の上下左右に配置された、前後方向(車幅方向)に扁平な4つの面部、すなわち左面部42,右面部43,上面部47,下面部48を有している。これらの面部には、ドア3Aに全周に亘って取り付けられる後述するシール部材が押し付けられる。本実施形態では、上面部47と左面部42および右面部43が四半円弧状のコーナーを形成し、下面部48と左面部42および右面部43が直角のコーナーを形成している。ただし、全てのコーナーが四半円弧状あるいは直角であってもよい。なお、下面部48は、例えばアルミ製の角棒から構成されてもよい。
【0020】
上面部47、左面部42および右面部43の後面には、
図3および
図4に示すように、断面コ字状の補強部材51がドア枠4の周縁に沿って配置されている。また、左面部42の後方には、補強部材51上の上下に離間する位置に、取付座53付の取付台52が設けられている。一方、ドア3Aの後面にも、取付台52と同じ高さ位置に取付台33が設けられている。そして、双方の取付台52,33に跨ってヒンジ55が固定されている。
【0021】
さらに、ドア枠4は、下面部48を支持する断面略L字状のくつずり49(threshold plate)と、上面部47の下端部に沿って左右に延びる、鉛直方向に扁平な横桟部46を有する。横桟部46は、上面部47の下端部から前方に突出している。くつずり49は、側ハリ17の上フランジおよびウェブに沿う形状に形成されている(
図5参照)。そして、くつずり49の水平部分の略中央に、下面部48の下端部が接続されている。
【0022】
くつずり49の水平部分の下面から横桟部46の上面までの高さは、第1開口11の高さよりも十分に小さく設定されている。このため、ドアユニット2が第1開口11に嵌め込まれて、くつずり49がスペーサ85(
図5参照)を介して側ハリ17上に載置されたときには、
図4に示すように天井壁14と横桟部46の間に僅かな隙間が形成される。この隙間は、スペーサ82で埋められ、ドアユニット2の側構体1Aへの固定後に、車外側からコーキング材9で塞がれる。
【0023】
ドア枠4の上面部47は、横桟部46の上方に位置するため、固定壁15に後方(車両内側)から係合する(
図4参照)。すなわち、上面部47は係合部としても機能する。本実施形態では、上面部47は、固定壁15との間にスペーサ81が配置された状態で締結部材により固定壁15に締結される。その後、天井壁14と横桟部46の間の隙間が車外側からコーキング材9で塞がれる。
【0024】
締結部材としては種々のもの(例えば、リベット)が採用可能であるが、本実施形態ではボルト62およびフローティングナット61が採用されている。すなわち、上面部47には、
図1(a)に示すようにボルト62挿通用の貫通穴50が形成されている。一方、固定壁15には、貫通穴50に対応する位置に、それよりも大きな貫通穴が形成され、この貫通穴を覆うようにネジ穴の位置を二次元的に変位可能なフローティングナット61が配置される。
【0025】
さらに、ドア枠4は、左面部42の第2開口41と反対側の端部に沿って上下に延びる左縦桟部44と、右面部42の第2開口41と反対側の端部に沿って上下に延びる右縦桟部45を有する。左縦桟部44および右縦桟部45は、左面部42および右面部43の端部から前方に突出している。また、左縦桟部44および右縦桟部45は、左右方向(車両長手方向)に扁平であり、第2開口41の両側で互いに対向している。左縦桟部44および右縦桟部45の下端部はくつずり49の水平部分に接続されており、上端部は横桟部46の両端部に接続されている。
【0026】
左縦桟部44および右縦桟部45の外側面同士間の幅は、一対の側壁12の内側面間の幅よりも僅かに小さく設定されている。このため、ドアユニット2が第1開口11に嵌め込まれたときには、
図3に示すように各縦桟部(44または45)とこれに対向する側壁12との間に僅かな隙間が形成される。この隙間は、スペーサ20で埋められるとともに、車外側からコーキング材9で塞がれる。
【0027】
本実施形態では、左縦桟部44および右縦桟部45も、ボルト62およびフローティングナット61からなる締結部材により側壁12に締結される。このため、左縦桟部44および右縦桟部45のそれぞれにも、
図1(b)に示すようにボルト62挿通用の貫通穴50が形成されている。ただし、縦桟部の締結用の締結部材としては、リベットなどを用いることも可能である。
【0028】
ドア枠4には、第2開口41の両側に取っ手57が取り付けられている。各取っ手57の下端部は、くつずり49の水平部分に直接的に接続されており、上端部は、ブラケット58を介して縦桟部(44または45)に接続されている。これにより、取っ手57がドア枠4の補強部材としての機能を有するため、ドア枠4の強度を高めることができる。なお、従来構造のように、取っ手57は、その上端及び下端をブラケットを介してドア枠4に取り付けられても良い。
【0029】
ドア3Aは、第2開口41を僅かに大きくした輪郭を有している。
図3に示すように、ドア3Aにはハンドル付の錠35が取り付けられている一方、ドア枠4の右面部43には錠受36が補強部材51を介して取り付けられている。本実施形態では、ドア3Aは、
図3および
図4に示すように、第2開口41を通じて前方に露出する第1プレート31と、第1プレート31の後面を覆う第2プレート32を有している。
【0030】
第1プレート31は、周縁部がドア枠4の4つの面部42,43,47,48の後方(車両内側)に位置し、中央部が第2開口41を通じて前方に張り出す形状に、プレス成形されている。第2プレート32は、少なくとも周縁部が第1プレート31の周縁部と重なり合い、適所で第1プレート31との間に空間を確保する形状に、プレス成形されている。そして、第1プレート31と第2プレート32の周縁部同士は、互いに面接触した状態で接合されている。
【0031】
さらに、ドア3Aの周縁部には、シール部材として、差し込み式のウエザーストリップ7が全周に亘って取り付けられている。
【0032】
図5に示すように、上記のような構成のドアユニット2を第1開口11に嵌め込むときには、まず側ハリ17上にスペーサ85を配置する。このとき、スペーサ85は、床敷物18の上面から、くつずり49の厚さ分低くした高さに配置し、仮止めされる。次に、ドアユニット2を斜めにして上部から第1開口11内に差し込み、ドアユニット2の下端にあるくつずり49をスペーサ85の上に乗せ、ドアユニット2の上面部47が天井壁14を超えたときに、ドアユニット2を立ててくつずり49をスペーサ85を介して側ハリ17上に載置する。ついで、締結部材を用いて、上面部51を固定壁15に締結し、くつずり49をスペーサと共に側ハリ17に締結するとともに、両縦桟部44,45を側壁13に締結する。なお、くつずり49と床敷物18とに跨って押え板19を配置してもよい。
【0033】
以上説明したように、本実施形態の鉄道車両1の構造では、ドア3A、ヒンジ55およびドア枠4がユニット化されているので、ヒンジ55の取り付けやシール部材調整などをドアユニット2の組み立て時に行うことができる。従って、ドアユニット2を側構体1Aの第1開口11に嵌め込むだけでドア3Aを車体に取り付けることができる。その結果、スイング式ドア3Aの車体への取付を短時間で行うことができる。
【0034】
また、本実施形態では、ドアユニット2に側構体1Aの固定壁15に車両内側から係合する上面部47が設けられているので、ドアユニット2が第1開口11から抜け出すことを防止することができる。また、それらの係合を利用すれば、ドアユニット2を容易に位置決めすることができる。
【0035】
さらに、本実施形態では、側構体1Aに一対の側壁12が設けられ、ドアユニット2にそれらに平行な縦桟部44,45が設けられているので、ドアユニット2の第1開口への差し込み時に、側壁12でドアユニット2をガイドすることができる。しかも、縦桟部44,45と側壁12とが互いに平行であるので、それらの締結を容易に行うことができる。
【0036】
また、本実施形態では、取っ手57がドア枠4に取り付けられているので、取っ手57の車体への取り付けをドアユニット2の第1開口11への嵌め込みと同時に行うことができる。
【0037】
<変形例>
上述した実施形態は種々の変形が可能である。
【0038】
例えば、ドア3Aは、必ずしもプレス成形された第1プレート31および第2プレート32を含んでいる必要はなく、骨材と板材とを用いた溶接構造であってもよい。ただし、前記実施形態のように、ドア3Aがプレス成形された第1プレート31および第2プレート32で構成されていれば、溶接構造のドアに比べて部品点数を削減できるとともに軽量化を図ることができる。さらに、プレス成形構造のドア3Aは、寸法精度が高いので、ドア枠のヒンジやシール部材、錠の取付調整などにはゲージドアを利用することができ、ゲージドアからドア3Aに交換する際には再度、煩雑な取付調整が不要となる。
【0039】
また、プレス成形構造のドア3Aであれば、周縁部を薄肉に形成することができる。このため、シール部材として前記実施形態のように差し込み式のウエザーストリップ7を採用することができ、シール部材の取り付けや交換を容易に行うことができる。