【実施例】
【0015】
図1は本発明に係るスライディングノズル装置の一実施例を示す正面図、
図2は
図1のA−A断面図、
図3は平面図である。
図4は
図1のスライディング装置のオイルシリンダー側を上にして開閉金枠を開いた状態を示す斜視図である。
図1及び
図2に示すように本発明に係るスライディングノズル装置10は、取鍋等の溶融金属容器の底に取り付けられる固定金枠20と、固定金枠20に対してスライド可能かつ回動可能(開閉可能)に取り付けられたスライド金枠30と、固定金枠20に対して回動可能(開閉可能)に取り付けられた2つの開閉金枠40とを備える。また、固定金枠20には上プレート50が、スライド金枠30には下プレート60が公知の固定方法によって保持固定されている。なお、上プレート50の上に取り付けられる上ノズル及び下プレート60の下に取り付けられる下部ノズルは省略している。
【0016】
固定金枠20は、図示していないが溶融金属容器の底の鉄皮にボルトなどを使用して取り付けられる。また、固定金枠20にはスライド金枠30を直線的にスライドさせるための駆動装置としてのオイルシリンダー70が取り付けられている。
【0017】
図2に示すようにスライド金枠30は、その一端の連結部31に設けた長孔32に、固定金枠20に設けたピン21を貫入させることで固定金枠20に連結されている。この連結によってスライド金枠30は固定金枠20に対して回動可能(開閉可能)、かつスライド方向にスライド可能となり、しかも長孔32はスライド方向に対して垂直方向に長く形成されているので、この長孔32の範囲でスライド方向に対して垂直方向に移動可能となっている。
【0018】
また、
図4に示すように、スライド金枠30のプレート保持面とは反対側の面の長辺側の端部には、摺動部材33がスライド金枠のスライド方向中心線(長手方向中心線)に対称かつスライド方向と平行に、片側に2個、合計4個突設されている。これらの摺動部材33は、
図1の使用状態で下面側に位置しスライド方向と平行な摺動接触面33aと傾斜面33bとを有する。各傾斜面33bは同じ傾斜角度で同じ方向に設けられている。ここで、摺動接触面とは、スライド金枠30及び開閉金枠40に設けた摺動部材33、46において、鋳造時に互いに接する面33a、46aのことである。
【0019】
なお、上述した片側2個の摺動部材33は、
図1の使用状態でスライド金枠のスライド方向の前後に位置するので、以下では前後の摺動部材33といい、また前後の摺動部材33の摺動接触面33aは前後の摺動接触面33aという。
【0020】
図4に現れているように、前後の摺動部材33は、ベース部33cから摺動部材33が突出した状態でベース部33cを共有することにより一体化されており、前後の摺動接触面33a間は凹部34とされている。このように前後の摺動部材33を一体化とすることで、取り付け精度が向上するメリットがある。使用中は2つの距離は常に一定に保つことができる。
【0021】
図1〜
図3を参照すると、開閉金枠40はスライド金枠30のスライド方向中心線に対して対称に2つ設けられており、それぞれ固定金枠20に取り付けられている。開閉金枠40は、門型アーム41、バネボックス42、面圧ガイド48、及び摺動部材46を備える。具体的には、固定金枠20に設けたピン22に対して門型アーム41の基端部を回動可能に取り付け、門型アーム41のアーム41a間にバネボックス42を配置し、このバネボックス42に面圧ガイド48を一体的に設けている。
【0022】
バネボックス42の内部には、スライド金枠20のスライド方向に沿って並ぶ合計4つのコイルバネ43と、これらのコイルバネ43の下端に接触しバネボックス42内をコイルバネの伸縮方向に移動可能なバネ押付け板44とが配置されている。バネ押付け板44は2本の連結ボルト45を有しており、この2本の連結ボルト45は両側の2本のコイルバネ43及びバネボックス42の孔をそれぞれ貫通して門型アーム41の基端部に固定されている。また、門型アーム41のアーム41aには図示していない切り欠きを設けており、この切り欠きにバネボックス42の側面に設けた突起が連結ボルト45の長手軸方向に移動可能に貫入している。したがって、バネボックス42は連結ボルト45の長手軸方向に移動可能になっている。そして門型アーム41と共にバネボックス42は固定金枠20に対して回動可能になっている。
【0023】
面圧ガイド48はバネボックス42に一体的に設けられているので、同様に連結ボルト45の長手軸方向に移動可能である。具体的には面圧ガイド48は、バネボックス42からノズル孔方向に突設され、しかもスライド金枠30のスライド方向に伸延している。そして、この面圧ガイド48のスライド金枠30側には摺動部材46が突設されている。この摺動部材46は、上述したスライド金枠30の摺動部材33と同様に、スライド金枠のスライド方向中心線(長手方向中心線)に対称かつスライド方向と平行に、片側に前後2個、合計4個突設されている。これらの摺動部材46は、
図1の使用状態で上面側に位置しスライド方向と平行な摺動接触面46aと傾斜面46bとを有する。各傾斜面46bは同じ傾斜角度で同じ方向に設けられている。また、前後の摺動部材46は、スライド金枠30の前後の摺動部材33と同様に、ベース部46cから摺動部材46が突出した状態でベース部46cを共有することにより一体化されており、前後の摺動接触面46a間は凹部47とされている。
【0024】
図3を参照すると、オイルシリンダー70のロッド71の先端結合部72は、スライド金枠30の連結部35に着脱可能に取り付けられている。オイルシリンダー70本体は、固定金枠20のオイルシリンダー取り付け部23に着脱可能に取り付けられており、プレートの使用時と交換時とでストロークの異なるものが使用できるようになっている。本実施例では、ストロークの異なる2つのオイルシリンダーを使用することで、スライド金枠30の可動範囲を変更し、面圧を負荷及び解除できるようになっている。なお、このようにオイルシリンダーを変更する代りに1つのオイルシリンダーのストロークを変更する公知の方法を採用することも可能である。
【0025】
次に、
図5により上述したスライド金枠30側の摺動部材33及び開閉金枠40の面圧ガイド48側の摺動部材46と、上プレート50及び下プレート60との位置関係について説明する。
図5は
図3のB−B方向断面を表しており、(a)はスライド金枠30が全開位置に位置した場合、(b)はスライド金枠30が全閉位置に位置した場合、(c)はスライド金枠30がプレート交換位置に位置した場合を示す。ここで、全開位置とは上プレート50及び下プレート60のノズル孔どうしが合致した位置、全閉位置とは使用時のスライド金枠30の可動範囲で上プレート50及び下プレート60のノズル孔どうしの距離が最大になる位置、プレート交換位置とはスライド金枠30側の摺動部材33及び面圧ガイド48側の摺動部材46がそれぞれ凹部47及び凹部34へ嵌合可能な位置のことである。また、使用時のストロークとは、使用時のスライド金枠30の可動範囲のことであり、全閉位置での上プレート50及び下プレート60のノズル孔の中心間の距離となる。なお、プレート交換位置にするためには、使用時よりもストロークの大きな駆動装置(オイルシリンダー)に交換しなければならない。
【0026】
図5(b)は、
図5(a)の状態から、スライド金枠30が右側(オイルシリンダー70側)にスライドした状態である。このスライドの間は、スライド金枠30側の摺動部材33の摺動接触面33aと面圧ガイド48側の摺動部材46の摺動接触面46aとが接触し、面圧が負荷された状態である。鋳造中はこのストローク範囲で摺動する。
【0027】
図5(c)は、
図5(a)の状態から、スライド金枠30が左側(オイルシリンダー70とは反対側)にスライドした状態である。この状態は、それぞれの摺動部材33,46が相対する凹部に嵌合して、面圧が解除された状態である。この
図5(c)の状態からスライド金枠30が右側へスライドすると、面圧が負荷される。
【0028】
次に、本発明のスライディング装置の動きについて説明する。
【0029】
まず、プレート交換時には、
図3においてスライド金枠30の連結部35からオイルシリンダー70のロッドの先端結合部72を外すとともに、オイルシリンダー取り付け部23からオイルシリンダー70を外してストロークの大きなオイルシリンダーへ交換する。
【0030】
そしてスライド金枠30を
図5(b)の全閉位置から(a)の全開位置を介して左側へスライドさせ、
図5(c)のプレート交換位置まで移動させる。そうすると、面圧ガイド48側の摺動部材46が固定金枠20側に移動し、
図2に示したバネボックス42が固定金枠20側に移動してコイルバネ43の撓みがなくなり面圧が解除される。面圧が解除された状態では、
図4に示すように2つの開閉金枠40を開くことができ、さらにスライド金枠30を開いて、上下のプレートを交換することができる。
【0031】
プレートを交換した後は、スライド金枠30と開閉金枠40を閉じて、スライド金枠30を
図5(c)のプレート交換位置から
図5(a)の全開位置までスライドさせる。その結果、スライド金枠30側の摺動部材33と面圧ガイド48側の摺動部材46の摺動接触面33a、46aどうしが接するようになり、
図2に示したバネボックス42が固定金枠20とは反対側へ移動することでコイルバネ43が撓み、面圧が掛かる。面圧が掛かった状態でストロークの小さなオイルシリンダーに交換する。これにより、使用時には面圧が解除されることなく安全に使用することができる。
【0032】
ここで、
図5(c)の状態からスライド金枠30を右側へスライドさせて面圧を負荷しようとすると、各摺動部材33,46は凹部の底面から摺動接触面33a,46aに連続する傾斜面33b,46bを有するから、最初は、傾斜面33b,46bどうしで接触する。そこで本発明では、この面圧負荷時の摩擦抵抗を小さくして摺動部材33,46がスムーズに摺動できるようにするため、傾斜面33b,46bの傾斜角度及び向きを全て同じとし、さらにその傾斜角度θ(
図5(c)参照)を25度以下、好ましくは20度以下とする。傾斜面33b,46bの傾斜角度が25度を超えると摺動時の抵抗が大きくなり摺動部材33,46の表面の損傷が大きくなる。傾斜角度θは小さい程、摺動時の抵抗が小さくなり摺動部材33,46の表面の損傷が小さくなるが、傾斜角度θが小さすぎると摺動部材33,46が長くなるため装置全体が大きくなり実用的でなくなるので、実用面からは傾斜角度θは10度以上、好ましくは14度以上とする。
【0033】
また、同様に面圧負荷時の摩擦抵抗を少なくするために、本発明では傾斜面33b,46bと摺動接触面33a,46aとが連続するコーナ部C(
図5(c)参照)にRを設け、このコーナ部CのRを40mm以上、好ましくは50mm以上とする。コーナ部CのRが40mm未満では摺動時の抵抗が大きくなり摺動部材33,46の表面の損傷が大きくなる。また、コーナ部CのRが大きくなると摩擦抵抗は少なくなるのでスムーズに摺動可能となるが、Rが大き過ぎると、その分、摺動部材33,46の摺動接触面33a,46aが短くなり、所定の長さの摺動接触面33a,46aを設けるためには、摺動部材33,46が長くなり装置が大きくなってしまう問題もある。したがって実用面からは、Rは180mm以下、好ましくは150mm以下である。
【0034】
また、摺動時に摺動部材33,46の表面に損傷が発生することを軽減するには、摺動部材33,46の表面のショア硬さHsは60以上であることが好ましく、より好ましくは70以上である。
【0035】
次に、摺動部材について傾斜面の傾斜角度θとコーナ部のRを変えて摺動テストを行った結果を表1及び表2に示す。さらに、摺動部材の表面の硬さを変えて摺動テストを行った結果を表3に示す。なお、摺動部材の表面の硬さについては、炭素鋼製の摺動部材の熱処理条件を変更することによりショア硬さHsの異なるものを準備した。ショア硬さHsはJIS
Z 2246に規定の試験方法によって測定した。表1及び表2の摺動部材のショア硬さは80とした。
【0036】
摺動テストでは、摺動部材の表面をバーナで加熱し、300℃に達した時点で表面に潤滑剤を塗布し、スライド金枠を10往復し面圧の負荷・解除を行った後、摺動部材の表面傷の程度を評価した。また、摺動テスト中に摺動部材から発生する異音の程度も評価した。これらの表面傷及び異音については、「無」、「小」、「中」、「大」の4段階で評価した。なお、摺動部材の温度は表面温度計で測定した。総面圧は、面圧が完全に掛かった状態で6kNとした。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
表1において、実施例1〜実施例4は摺動部材の傾斜面の傾斜角度θが本発明の範囲内であり、摺動テスト中に摺動部材から発生する異音は「無」から「中」で、テスト後の摺動部材の表面傷は「無」か「小」であり良好であった。一方、摺動部材の傾斜面の傾斜角度θが本発明の上限値より大きい比較例1は摺動部材の表面に「中」程度の傷が発生し、テスト中も「中」程度の異音が発生した。また、比較例1よりも傾斜角度θを大きくした比較例2は、テスト後の摺動部材の表面傷の程度は「大」となり、テスト中も異音の程度も「大」となった。
【0041】
表2において、実施例5〜実施例9は摺動部材のコーナ部のRが本発明の範囲内であり、摺動テスト中に摺動部材から発生する異音は「無」から「中」で、テスト後の摺動部材の表面傷は「無」か「小」であり良好であった。一方、摺動部材のコーナのRが本発明の下限値よりも小さな比較例3及び4は摺動部材の表面に「中」から「大」の傷が発生し、テスト中も「中」から「大」の異音が発生した。
【0042】
表3において、実施例10〜実施例13は、摺動テスト時の摺動部材から発生する音は「無」か「小」であり、テスト後の摺動部材の表面の傷も「無」か「小」であり良好であった。摺動部材の表面のショア硬さHsが50の実施例14は摺動部材表面に中程度の異音が発生したが、テスト後の表面傷の程度は「小」であった。
【0043】
次に、本発明の実施例3及び比較例1のスライディングノズル装置を実際に80tの溶鋼の取鍋で使用した。実施例3は、300回使用後も摺動接触面の損傷は小さく良好であったが、比較例1は、80回の使用で摺動面の焼付きが発生し使用を中断した。