【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の1つの態様に従って、質量スペクトロメータにおいてイオンを検出するデータ収集システムが提供され、このシステムは、
検出システムに到着したイオンに応答して別々のチャネルに2つ以上の検出信号を出力するための2つ以上の検出器を含むイオンを検出する検出システムと、
データ処理システムの別々のチャネル中の検出信号を受信・処理し、かつ、処理した検出信号を併合して質量スペクトルを構築するデータ処理システムと
を含み、別々のチャネル中の上記処理は、閾値を検出信号に適用することにより検出信号から雑音を除去することを含む。
【0011】
本発明の別の態様に従って、質量スペクトロメータにおいてイオンを検出するためのデータ収集方法が提供され、このシステムは、
2つ以上の検出器を含む検出システムを使用してイオンを検出すること、および検出システムへのイオンの到着に応答して2つ以上の検出器から2つ以上の検出信号を別々のチャネルに出力することと、
データ処理システムの別々のチャネル中の検出信号を受信・処理することであて、別々のチャネル中の処理は、閾値を検出信号に適用することにより検出信号から雑音を除去することを含むことと、
処理された検出信号をデータ処理システムにおいて併合して質量スペクトルを構築することと
を含む。
【0012】
本発明のデータ収集のシステムおよび方法は、TOF質量分析におけるハイ・ダイナミック・レンジ質量スペクトルの生成のために特に有益である。検出システムにより生成される2つ以上の検出信号に好ましくは相異なる利得を与え、それにより、別々のチャネルにおける処理後に、これらの信号をデータ処理システムにおいて併合してハイ・ダイナミック・レンジ・スペクトルを形成することができる。これまでに、たとえば10
4〜10
5のダイナミック・レンジが達成可能であることが見出されている。特にTOF質量分析において、この発明のシステムおよび方法を使用して収集されるスペクトルは、有機化合物、たとえば、医薬品有効成分、代謝産物、少量のペプチドおよび/またはタンパク質の特定および/または定量化、および/または種の遺伝子型または表現型等の特定のために利用することができる。
【0013】
処理された信号を併合して質量スペクトルを形成する前に、別々の処理チャネル中の検出信号のそれぞれに関する処理を行うことにより、特に雑音閾値を適用することにより、処理された信号から質量スペクトルを構築する際の融通性が向上する。各個別検出信号に独立にデータ処理の各ステップが施され、それにより処理システムが質量スペクトルの構築のために検出システムの各出力からの検出信号を利用できるからである。少なくとも2つ以上の信号が、相異なる、すなわち、たとえば相異なる雑音レベルおよび相異なるベースラインを有する別々の検出器を起源としており、したがって固有の閾値関数を各信号チャネルに適用することが好ましい。さらに、この方法により個別に保たれた処理後の検出信号は、別々に、たとえばデータ・システム上に格納し、後に、たとえば質量スペクトルのさらなる構築のために使用することができる。したがって、本発明は、検出システムからのデータが改善され、かつ、より効率的な使用を可能にする。別々のチャネルにおける検出信号の並行処理の使用により、本発明により与えられる改善は、処理速度をいささかも犠牲にするものではない。
【0014】
この質量スペクトロメータはどのような適切なタイプの質量スペクトロメータでもよいが、TOF質量スペクトロメータとすることが好ましい。本出願においては、TOF質量スペクトロメータという用語は、TOF質量分析器(単独質量分析器または1つ以上の他の質量分析器との組み合わせとしての)を含む質量スペクトロメータ、すなわち、単独TOF質量スペクトロメータまたはハイブリッドTOF質量スペクトロメータを意味する。
【0015】
質量スペクトロメータは、イオンを生成するイオン源を含む。質量分析技術における既知の適切なイオン源を使用することができる。適切なイオン源の例は、限定することなく、エレクトロスプレー・イオン化(ESI)、レーザー脱離、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)または大気圧イオン化(API)を使用してイオンを生成するイオン源を含む。TOF質量分析における本発明の好ましい適用を踏まえて、このイオン源は、TOF質量スペクトロメータに適切なパルス状インジェクタを有するイオン源、たとえば、上述のタイプの1つ、すなわち、イオンのパケットを生成するパルス状イオン源とすることが好ましい。
【0016】
このイオン源により生成されるイオン、たとえば、TOF質量分析において生成されるイオンのパケットは、質量分析器に転送され、イオンはそれにより質量対電荷比(m/z)に従って分離される。質量スペクトロメータは、したがって、イオン源からイオンを受け取る質量分析器も含んでいる。質量分析技術における既知の適切な質量分析器を使用することができる。適切な質量分析器の例は、限定することなく、TOF、4極または多極フィルタ、静電トラップ(EST)、電場、磁場、FT−ICR質量分析器を含む。ESTの例は、限定することなく、3Dイオン・トラップ、リニア・イオン・トラップ、Orbitrap
TM質量分析器などの軌道周回イオン・トラップを含む。TOF質量分析における本発明の好ましい適用を踏まえて、質量分析器は、TOF質量分析器を含むことが好ましい。タンデム(MS
2)および高次ステージ(MS
n)質量分析のために2つ以上の質量分析器を使用することができ、また、質量スペクトロメータは、2種類以上の異なるタイプの質量分析器を含むハイブリッド質量スペクトロメータ、たとえば四重TOF質量スペクトロメータとすることができる。したがって、当然のことであるが、本発明は、タンデム質量スペクトロメータ(MS/MS)および多段質量処理を行う質量スペクトロメータ(MS
n)を含む既知の構成の質量スペクトロメータに適用することができる。
【0017】
衝突セルなどの付加構成部品を使用して、質量分析器による質量分析の前にイオン群を分断する能力を付与することができる。
【0018】
質量分析器により質量対電荷比(m/z)に従って分離されたイオンは、検出のために検出システムに到着する。検出システムについて下記においてさらに詳しく説明する。
【0019】
当然のことであるが、この技術において知られているように、たとえば、イオン・ガイド、イオン・レンズ、イオン・デフレクタ、イオン・アパーチャ等の1つ以上を使用して、イオン源の質量スペクトロメータ、質量分析器および検出システムの種々のステージならびにたとえば衝突セルなどの任意選択のステージをイオン光学構成部品により相互に接続することができる。
【0020】
質量スペクトロメータは、この技術において知られている他の分析装置と結合することができる。たとえば、それは、クロマトグラフ・システム(たとえば、LC−MSまたはGC−MS)またはイオン移動度分光計(すなわちIMS−MS)等と結合できる。
【0021】
本発明のシステムおよび方法は、ハイ・ダイナミック・レンジのイオン検出が要求される場合およびかかる検出が高速で要求される場合(たとえば、TOF質量スペクトロメータにおいて要求されるように)にも有益である。本発明は、TOF質量スペクトロメータ、好ましくは多重反射TOF質量スペクトロメータ、より好ましくは長飛行経路を有する多重反射TOF質量スペクトロメータにおけるイオンの検出に特に適している。本発明は、検出対象のピークのピーク幅(半値全幅またはFWHM)が約50 ns以下の幅であるときにTOF質量スペクトロメータにおいて使用することができるが、しかし、一部の例では、ピーク幅はこれより長い場合がある。たとえば、ピークのピーク幅は、約40 ns以下、約30 ns以下および約20 ns以下、一般的には0.5〜15 nsの範囲とすることができる。好ましくは、検出対象のピークのピーク幅は0.5 ns以上、たとえば1 ns以上、たとえば2 ns以上、たとえば3 ns以上、たとえば4ns以上、たとえば5 ns以上である。好ましくは、検出対象のピークのピーク幅は、一般的に12 ns以下、たとえば11 ns以下、たとえば10 ns以下である。ピーク幅は、次の範囲内とすることができる:たとえば1〜12 ns、たとえば1〜10 ns、たとえば2〜10 ns、たとえば3から10 ns、たとえば4〜10 ns、たとえば5〜10 ns。
【0022】
この検出システムは、好ましくは、TOF質量スペクトロメータにおいてイオンを検出するための検出システムである。したがって高速検出器が望ましく、かつ、この技術において知られている。この検出システムは、少なくとも第1および第2検出器を含んでいる。これらは、それぞれ、この検出システムに到着するイオンに応答して別々のチャネルにおいて第1および第2検出信号を生成する。本発明のシステムは、したがって英国特許第2457112号明細書、国際公開第2008/08867号パンフレット、米国特許第7,501,621号明細書および米国特許出願公開第2009/090861 A号明細書において記述されている先行技術システム(それは、続いて単に2つの異なる利得で増幅される単一の検出信号を与える単一の検出器を使用する)と対照的に第1および第2独立検出器を含んでいる。
【0023】
これらの2つ以上の検出器は、好ましくは、同一イオンから時間的に相互にずれている検出信号を生成する。したがって、同一イオンまたはそれから生成される電子などの二次粒子は、最初に第1検出器に到着して第1検出器から信号を生成し、時間遅延の後に第2検出器に到着して第2検出器から信号を生成するので、第2検出器からの信号は、したがって、第1検出器からの信号に対し時間的に遅れている。これは、同一イオンを第1と第2両方の検出器による検出のために利用することによりイオンの効率的な利用を可能にする。第2検出器は、したがって、好ましくは、第1検出器の下流に、より好ましくは第1検出器の背後に配置される。
【0024】
第1および第2検出器は、同一タイプの検出器または、好ましくは、異なるタイプの検出器を含むことができる。第1および第2検出器は、好ましくは、それぞれ、低利得検出器および高利得検出器である。第1および第2検出器は、好ましくは、それぞれ独立に、荷電粒子検出器(たとえば、到着イオンまたは到着イオンから生成される二次電子の検出器)または光子検出器(たとえば、到着イオンから直接または間接に生成される光子の検出器)である。たとえば、第1および第2検出器のそれぞれが荷電粒子検出器を含むこと、または第1および第2検出器のそれぞれが光子検出器を含むこと、または第1および第2検出器の一方が荷電粒子検出器を含み、第1および第2検出器の他方が光子検出器を含むことが可能である。好ましくは、低利得検出器となり得る第1検出器は、荷電粒子検出器を含む。好ましくは、高低利得検出器となり得る第2検出器は、光子検出器を含む。この装置は、したがって、たとえば、光子検出器より一般的に低い利得の荷電粒子検出器の使用により、出力の飽和が起きる前に雑音はより多いが高率の到着粒子を検出することができる。したがって、ダイナミック・レンジが達成できる。適切なタイプの荷電粒子検出器は電子検出器、たとえば、以下を含む:二次電子増倍器(SEM)。このSEMは、検出アノードを有する離散ダイノードSEMまたは連続ダイノードSEMでよい。連続ダイノードSEMは、チャネル電子増倍器(CEM)またはより好ましくはマイクロチャネル・プレート(MCP)を含むことができる。適切なタイプの光子検出器は、たとえば、以下を含む:フォトダイオードまたはフォトダイオード・アレイ(好ましくはアバランシェ・フォトダイオード(APD)またはアバランシェ・フォトダイオード・アレイ)、光電子増倍管(PMT)、電荷結合素子、またはフォトトランジスタ。ソリッド・ステート光子検出器も好ましいが、より好ましい光子検出器はフォトダイオード(好ましくはアバランシェ・フォトダイオード(APD))、フォトダイオード・アレイ(好ましくはAPDアレイ)またはPMTである。この検出システムは、正帯電イオンまたは負帯電イオンの検出のために使用できる。
【0025】
1つの好ましい構成の検出システムでは、この検出システムは、到着イオンの受け取りに応答して二次電子を生成するSEMを含み、かつ、SEMにより生成された二次電子に対して透明な検出アノードまたは電極を含む荷電粒子検出器が使用される。透明電極は、その中の電子の通過を把握する。たとえば、電子は、透明電極に結合された電荷または電流の計測器を使用して検出される。薄い導電層(たとえば金属)を含み得る透明電極は、したがって検出システムの第1低利得検出器を形成する。透明電極を通過する電子は、次に第2検出器からの信号を生成する。特に、透明電極を通過する電子はシンチレータに衝突し、シンチレータにより生成された光子が光子検出器により検出される。光子検出器は、したがって検出システムの第2の高利得検出器を形成する。かかる検出器は、本出願に参照により全面的に含まれている内容を有する英国特許第0918629.7号明細書および英国特許第0918630.5号明細書において記述されている。かかる検出システムは、電荷検出器により検出される二次電子も光子検出器により検出される光子を生成するために使用されるので、非常に高効率である。光子および光子検出器の使用は、二次電子生成のために使用される高電圧からの減結合も可能にする。これは、たとえば、検出システムのこの部分を加速電圧(および極性)から独立とする。
【0026】
本出願において第1および第2検出器に言及しているが、これは、1つ以上の別検出器および別々のチャネルにおける1つ以上の別の検出信号の出力、たとえば、場合によっては有益たり得る第3の検出器および検出信号等の使用を排除しない。そのような場合には、かかる1つ以上の別の検出器がそれぞれ1つ以上の別の検出信号生成用であり、かつ、かかる信号がデータ処理システムの1つ以上の別のそれぞれのチャネルにおいて受信・処理されること、すなわち、各検出器がそれ自身のチャネルにおいてそれぞれの検出信号(それ自身のそれぞれの処理チャネルにおいて受信・処理される)を生成すること、および各それぞれの処理された検出信号を使用して質量スペクトルを構築することが好ましい。したがって、本出願における第1および第2検出信号、第1および第2検出器、第1および第2チャネル等に対する言及は、第3(およびそれ以降)検出信号、第3(およびそれ以降)検出器、第3(およびそれ以降)チャネル等を有する場合を含むが、しかし、検出システムは、好ましくは2つの検出器のみを含む。
【0027】
本発明により使用される検出システムは、したがって、好ましくは、ハイ・ダイナミック・レンジを有する。それは、さらに、単純かつ堅牢かつ低コスト構成の構成部品により与えられ得る。この検出システムは、好ましくは単一粒子計数までの低率の到来イオンに応答する。すなわち、それは、高感度、たとえば、光子検出器などの高利得検出器の使用により与えられる高感度を有する。それは、地電位における光子検出による高利得および低雑音の長所を有する。この検出システムは、さらに、たとえば低雑音の光子検出器より一般的に低い利得の荷電粒子検出器などの低利得検出器の使用により、出力の飽和が起きる前に雑音はより多いが高率の到来粒子を検出することができる。たとえば第1および第2検出器からのデータを併合することにより、10
4〜10
5のダイナミック・レンジを達成することができる。すなわち、第1および第2検出信号を処理した後に、ハイ・ダイナミック・レンジのスペクトルを生成する。本発明は、したがって非常に小さいピークと非常に大きいピークの両方を検出するために種々の利得で多数のスペクトルを収集する必要性を回避することができる。
【0028】
かかる構成のさらなる長所は、1つの検出器が実験実行中に動作を停止した場合に他の作動中の検出器から依然として少なくとも一部のデータが収集され得るということである。
【0029】
このデータ処理システムは、これから詳細に説明する1つ以上の機能を遂行するように設計される。
【0030】
このデータ・処理システムは、別々のチャネルにおける検出信号の前置増幅を含むことが好ましい。これらの信号は、この方法により、すなわち、同一または相異なる利得、好ましくは相異なる利得を適用して、独立に前置増幅され得る。これは、好ましくは検出システムの第1および第2検出器として相異なる種類の検出器の使用から生ずる利得の区別に加えて、検出信号間の利得のさらなる区別を可能にする。検出器間の固有の利得の差異に加えて、前置増幅器を使用してチャネル間の利得差異を適用することは、ADCの全範囲を使用することも可能にする。したがって、好ましくは、このデータ処理システムは、前置増幅器、好ましくは各検出信号を独立に前置増幅するための2つ以上のチャネルを有する前置増幅器を含む。これらの前置増幅された検出信号は、別々のチャネルの前置記増幅器からデータ処理システムのさらなる構成要素、好ましくはデジタイザに出力される。これらの検出信号は、その他の処理の前に増幅されることが好ましい。
【0031】
好ましくは、このデータ処理は、データ処理システムにおける別々のチャネル中の検出信号のデジタル化を含む。これらの信号は、この方法により独立にデジタル化され得る。このシステムは、2つ(またはそれ以上)の別々の(独立した)デジタイザを含むことができる。すなわち、各チャネルについて1つ、または二重チャネル・デジタイザ(または多重チャネル・デジタイザ)を使用し、実際にコスト効率化することができる。本出願のために必要なデータ転送速度および精度を有する適切な二重チャネル・デジタイザを、たとえば、電気通信応用におけるI/Q検出のために使用する。これらの検出信号は、したがって、好ましくは、それぞれ、検出信号を独立にデジタル化するために2つ以上のチャネルを有するアナログ−デジタル・コンバータ(ADC)においてデジタル化される。したがって、好ましくは、このデータ処理システムは、デジタイザ(ADC)、好ましくは各検出信号を独立にデジタル化するために2つ以上のチャネルを有するデジタイザを含む。これらの検出信号は、好ましくは上述したように別々のチャネルにおいて前置増幅された後に、閾値の適用による雑音除去のステップを含むさらなる処理の前にそれらをデジタル化するために、好ましくはそれぞれにADCの別々のチャネルに入力される。これらのデジタル化された検出信号は、別々のチャネル中のADCからこのデータ処理システムのさらなる別の構成要素に出力される。
【0032】
このデータ処理システムは、検出信号のそれぞれの個別処理のための(特に2つ(またはそれ以上)の処理チャネルにおける並行処理のための)2つ(またはそれ以上)の処理チャネルを有するシステムである。好ましくは、これらの検出信号の処理の大部分は、質量スペクトルを構築するために検出信号を併合する前に、このデータ処理システムの別々のチャネルにおいて行われる。したがって、これらの検出信号の処理は、このデータ処理システムの別々の、すなわち、独立の処理チャネルにおいて、好ましくは並行して(すなわち同時に)行われる。これらの検出信号は、したがって、これらの検出信号を併合することにより質量スペクトルを構築するまで、このデータ処理システム中において別々の状態に維持される。本出願における用語、処理された検出信号は、それらがこのデータ処理システムにより処理された後の検出信号を指す。これらの処理された検出信号は、次にこのデータ処理システムにより併合されて質量スペクトルを構築する。
【0033】
上述した検出信号の前置増幅およびデジタル化の任意選択のステップ(それらは、好ましくはその他のデータ処理の前に行われる)のほかに、このデータ処理は、好ましくは次のステップの1つ以上を含む(これらのうち、ステップiii)が最も重要である):
i.)検出信号をデシメーションすること
ii.)雑音を除去するための閾値を計算すること
iii.)閾値を適用することにより検出信号から雑音を除去すること
iv.)雑音を除去した後に検出信号を圧縮すること
v.)検出信号中のピークを特徴付けること。
【0034】
ステップを処理する順番は変更することができるが、上記のステップの順序は、これらのステップの好ましい順序を示す。この技術において知られている処理ステップなどのさらなる任意選択のデータ処理ステップは、検出信号を併合する前に別々のチャネルにおいてこのデータ処理システムにより遂行することができる。上述の選択された処理ステップに続くのは、処理された検出信号を併合して質量スペクトルを構築するステップである。
【0035】
当然のことであるが、このデータ処理システムにより遂行される処理は、質量スペクトルの構築を単純化して促進するために、質量スペクトルを構築する前に検出信号のデータを低減する機能を果たす。この処理ステップについてこれからさらに詳しく説明する。
【0036】
この処理は、好ましくは、検出信号のそれぞれの標本抽出率を低減するためにこのデータ処理システムの別々のチャネルにおいて行われる検出信号のデシメーションを含む。検出信号のそれぞれの標本抽出率は、たとえば、2または4、またはその他の倍率により低減することができる。デシメーション後の結果の検出信号の標本抽出率は、一般的に少なくとも250MHz、好ましくは250MHz〜1GHzの範囲、より好ましくは250MHz〜500MHzの範囲となり得る。好ましくは、デシメーションは、平均ピーク幅について、たとえば、3、5、7、9または11程度のピークあたりデータ・ポイントをもたらす。デシメーションは、デジタル化ステップの後に行われる。デシメーションは、その他の処理ステップと同様に、好ましくは検出信号のそれぞれの処理チャネルのそれぞれにおいて並行して行われる。このデータ処理システムは、好ましくは、デシメーションを行うデシメータまたはデシメーション・モジュールを含む。このデシメータまたはデシメーション・モジュールは、好ましくは、FPGA、GPUまたはCellなどの専用プロセッサ上またはその他の専用デシメーション・ハードウェア上で実現される。デシメーション・モジュールは、好ましくは、任意選択の前置増幅器およびADC後に、しかし閾値モジュールが雑音を除去する前に、検出信号を処理する。適切なデシメーション方法は、以下を含む:多数の連続ポイント(すなわち、デシメーション装置に対する入力値)を加え合わせて結果としてのポイント(すなわち、デシメーション装置の出力値)を形成すること(これは、1つの形式の平均である)、n番目ごとにのみ入力値を保持すること。一般的にデシメーションにおいては、ポイント数を低減する前にデジタル・フィルタ(一般的バンドパス・フィルタ)が信号に適用される。信号中の「スパイク」が当面の問題である場合、これは信頼できる解決方法となり得る(しかしながら、メジアン・フィルタなどのその他の解決方法もある)。
【0037】
この処理は、閾値を検出信号に加えることにより検出信号から雑音を除去する処理を含む。このデータ処理システムは、好ましくは、雑音を除去する閾値を印加するための雑音閾値または雑音除去モジュールを含む。雑音閾値または雑音除去モジュールは、たとえばFPGA、GPUまたはCellなどの専用プロセッサ上で実現できるが、より好ましくは、デシメーションを行う場合にデシメーションを行うために使用された同一の専用プロセッサを使用する。この専用プロセッサは、好ましくは、飛行中の雑音を除去する閾値を適用するためのものである。
【0038】
雑音除去のステップの結果として、検出信号中のピークのみが残る(すなわち、背景騒音から突出するピーク)。検出信号は、それぞれ、データ・ポイントの時間的シーケンス(すなわち、過渡信号)を含み、その各ポイントは強度値を有し、これらのポイントがデータの集まりを構成する。閾値は、検出信号から雑音を除く機能を果たす。すなわち、それは、閾値未満の強度値を有するポイントを除去する。除去されたポイントは、データ中においてゼロにより事実上置換される。したがって、それは、この閾値未満でない検出信号のポイントのみを検出信号の併合のために転送する。この方法によりデータの転送および格納のために必要な帯域幅が低減される。
【0039】
このデータ処理システムにより適用される閾値は、閾値未満の強度値を有する検出信号のポイントを拒絶し、それにより1つ以上の閾値以上の強度値を有する検出信号のポイントのみを使用して質量スペクトルを構築する。この閾値は検出信号の雑音の尺度であり、それによりこの閾値を適用することが雑音フィルタとして働く。この閾値は、1つ以上の閾値を含むことができる。単一の閾値を検出信号のすべてのポイントについて使用することもできるが、しかし、好ましくは、特にTOF適用に関して、複数の閾値を使用する。たとえば、この場合、検出信号の各ポイントまたはポイントのグループをそれ自身の関連閾値を使用して濾過する。すなわち、それは、それに適用されるそれ自身の閾値を有する。したがって、検出信号中のポイントは時系列ポイントであるから、好ましくは、特にTOF適用に関して、閾値は、検出信号中において時間とともに変化する動的な閾値である。たとえば、それは、TOF適用における飛行時間である。
【0040】
閾値を適用して別々の処理チャネルのそれぞれにおける雑音を除去する。すなわち、それは、検出信号に独立に、好ましくは並行して適用されるようにする。同一または別々の閾値を検出信号のそれぞれに加えることができるが、好ましくは、別々の閾値を検出信号のそれぞれに加える。閾値を第1おおよび第2検出信号に独立に加えることは、より正確な閾値の使用を可能とし、それにより各検出信号からのデータのよりよい使用を可能とする。たとえば、同一の閾値レベルを両方の信号に適用する場合に発生する有益なデータの喪失の確率が低くなり得る。少なくとも、2つの検出信号は相異なる雑音レベルおよび相異なるベースラインを持ち得る相異なる検出器に由来するのであるから、好ましくは、各チャネルのために固有の閾値機能が必要である。閾値適用は、相関ピーク収集も含み得る(すなわち、閾値が各チャネル中の信号に独立に適用されるが、しかし1つのチャネル中の信号にピーク(データ・ポイントのグループにより構成されるピーク)が発見された場合に、データ・ポイントの対応するグループが両方のチャネルにおいて保持される)。
【0041】
検出信号のために別々の閾値が計算される場合、これらの閾値は並行してまたは順次計算することができるが、好ましくは並行して計算する。閾値は、閾値の適用される検出信号から飛行中に計算され得るか、または1つ以上の先行検出信号から、またはこれまでに構築された1つ以上の質量スペクトルから計算され得る。閾値が閾値の適用される検出信号から飛行中に計算される場合、閾値の計算は、好ましくは、このデータ処理システムの高速処理装置、たとえば、以下においてより詳しく説明されるFGPA,GPUまたはCellにより行う。換言すると、閾値モジュールは、好ましくは上述の高速処理装置上で実現される。閾値が1つ以上の先行検出信号から、またはこれまでに構築された1つ以上の質量スペクトルから計算される場合、閾値の計算は、好ましくは、以下においてより詳しく説明するこのデータ処理システムの計器コンピュータにおいて行われる。
【0042】
閾値は、好ましくは、特にTOF適用の場合、たとえば種々の時間範囲を有する参照テーブル(LUT)に格納する。閾値は、したがって、単に検出信号をLUTに格納されている閾値と比較することにより適用される。検出信号をLUTに格納されている閾値と比較することは、計算的に単純な処置であり、雑音フィルタとして効果的であることが分かっている。好ましくは各検出信号について別々のLUTを計算して使用する。すなわち、好ましくは各処理チャネルについて別々のLUTを計算する。LUTは、好ましくは、少なくとも閾値が適用されている間、高速処理装置上に常駐する(特に当該高速処理装置上で計算される場合)。LUTは、別のプロセッサ、たとえばCPUコア、たとえば計器コンピュータのCPUコア上で計算し、かつ/または格納することができ(特にその別のプロセッサ上で計算される場合)、かつ、この高速プロセッサにアップロードしてこの高速プロセッサをして閾値を適用せしめることができる。この場合、LUTは、少なくとも当該閾値が適用されている間、この高速処理装置に常駐する。
【0043】
所与の処理チャネルのために1つのLUTを計算し、そのチャネル中の複数の以降の検出信号を処理するために使用することができる。これは、処理効率の観点から好ましい。それぞれの新しい検出信号について新しいLUTを計算しないからである。別の方法として、特に1つの検出信号(スキャン)から他の信号毎に雑音レベルがかなり変化する場合、各検出信号について新しいLUTを計算して使用することができる。後者の場合、閾値を雑音除去のために適用する高速処理装置上でそれぞれの新しいLUTを計算することが特に好ましい。かかるLUTまたは閾値の飛行中計算は、データが閾値の計算中にキャッシュに格納されることを必要とする。もう1つの方法として、前の(最初の)スキャンからLUTの一般的形状を記憶し、かつ、最初のLUTの構築のために使用したものより少ない個数のポイントに基づいて決定される倍率によりLUT全体の大きさを決めることもできる。後者の方法は、LUTが更新されるまで1つ以上のLUT/スキャン全体をキャッシュに格納することを含むことができる。ある実施形態においては、LUTの動的変化を制限することにより、変動をスキャンする期待最大スキャンを超えないようにし、かつ、2つ(またはそれ以上)のチャネル間の閾値の相対的拡縮を調整することができる。
【0044】
雑音除去のための閾値を通過する検出信号、すなわち、そのポイントは、好ましくは、たとえば、より効率的なその後の処理(たとえば、ピークの特徴付け)および/またはこのデータ処理システムの別の装置への転送(たとえば、雑音除去を行った高速専用処理装置からこの計器コンピュータの一部などの汎用コンピュータへの転送)のために、このデータ処理システムにより圧縮される。この圧縮ステップは、好ましくは検出信号のそれぞれについて、すなわち、別々のチャネルのそれぞれにおいて行われ、かつ、一般的に検出信号のより高速のさらなる処理および/または転送を可能とすることを目的とする。データの圧縮は、好ましくはデータのフレームへの圧縮を含む。閾値の適用において、それにより識別された雑音ポイントは、一般的にゼロにより置換される。閾値の適用によりデータ中に残されたゼロは、好ましくは圧縮データでは除去され、データの圧縮を可能にする。圧縮されたデータ中に残るデータの位置は、好ましくは、たとえばタイム・スタンプまたはその他の位置的値(たとえば信号中のデータの連続番号)により指示される。好ましくは、各フレームの幅に融通をもたせて、各フレームが最小サイズから最大サイズにわたるサイズを有し、かつ、最小サイズに達した場合にフレーム中にピークが存在しない限り各フレームが最小サイズからなるようにする。このようなピークが存在する場合には、そのフレームは、ピークが終了するまで、当該フレームが上記最大サイズを超えないことを条件として、上記最小サイズを超えて拡張される。これにより、最大サイズに達したときにピークが存在する場合に、このピークのポイントが次のフレームに続くようにする。このデータ圧縮のより詳しい説明および例示は、本出願の後段において行う。本出願において記述する方法によるデータの縮減およびこのデータ処理システム上の縮減データの圧縮は、このデータ処理システム内における高速転送、たとえばFPGA、GPUまたはCellなどの専用飛行中プロセッサから計器コンピュータへの転送およびその後の高速処理を容易にする。
【0045】
本発明は、好ましくは、閾値の適用による雑音除去のステップに続いて検出信号中のピークの検出および特徴付に進む。雑音除去後にデータが圧縮された場合、データは、好ましくは、ピーク検出および/または特徴付けを行う前に、解凍される。この解凍は、好ましくはゼロのデータ中への再導入を含まないが、ピーク・データは好ましくはフレーム中から抽出される。ピーク検出は、閾値適用後に残ったデータ中の特定のピークを識別するために行われる。このピーク識別は、検出されたピークの特徴付けの前に行われるが、この特徴付けは、以下のステップの一方または好ましくは両方を含み得る:
a)当該ピークの1つ以上の品質係数を生成すること、および
b)たとえば、質量中心決定アルゴリズムを使用して、これらのピークの質量中心を決定すること。
【0046】
品質係数は、ピークの決定された質量中心が現在または将来信頼できるか否か、さらなる措置、たとえば、別の(たとえば、より精緻な)ピーク検出および/または質量中心決定アルゴリズムを適用すること、または再度ピークを収集すること、すなわち新しい検出信号から収集することが必要であるか否か決定するために使用することができる。好ましくは、ピークの品質係数は、ピークの平滑度および/または形状の評価を含み、また、任意選択的にピークの平滑度および/または形状の期待またはモデル平滑度および/または形状との比較を含む。ピークの検出および特徴付けのさらなる詳細については、後述する。十分に高い品質係数で最終的に収集できないピーク(たとえば、任意選択の再収集後または高度ピーク検出方法の後においても)は、最終併合スペクトルから放棄されるか(たとえば、最終併合スペクトルを形成するために使用されない)または併合スペクトル中に残存するが任意選択的に低品質として標識を付されるかのいずれでもよい。
【0047】
本発明は、好ましくは、2つ以上の検出信号を整列させた後にそれらを併合する。この整列は、別々のチャネル間の時間遅延を補正するためである。1つ以上の検出信号を時間軸上で一定のオフセットだけ移動する。このオフセットは、較正ステップにおいて決定されているであろう。
【0048】
較正ステップは、好ましくは、検出信号のピークの時間座標をm/z比に変換するために行われる。この較正は、検出信号を併合して質量スペクトルを構築する前または後に行うことができる。換言すると、TOF適用の場合、本発明は、飛行時間をm/zに変換する検出信号および/または質量スペクトルの較正を含んでいる。較正方法はこの技術において既知であり、本発明において使用することができる。以下においてより詳しく述べるように内部較正および/または外部較正を使用できる。
【0049】
処理された検出信号をこのデータ処理装置により併合して質量スペクトル、好ましくはハイ・ダイナミック・レンジ(HDR)の質量スペクトルを構築する。かかる質量スペクトルは、本出願においては、併合された質量スペクトルと称する。処理された検出信号は、好ましくは高利得信号および低利得信号を含む。たとえば、検出信号が少なくとも本質的に異なる利得を有する第1および第2検出器により生成されることおよび/または前置増幅器により与えられる異なる利得のためである。本出願の他の場所で述べたように、高利得検出信号は、好ましくは、光子検出器である検出器から由来し、かつ、低利得信号は、好ましくは、荷電粒子検出器である検出器から由来する。特に前述の検出器タイプからの高利得信号および低利得信号の使用は、HDRスペクトルの採集を可能にする。
【0050】
高利得検出信号および低利得信号を併合して(ハイ・ダイナミック・レンジ)質量スペクトルを形成するステップは、好ましくは、高利得検出信号が飽和してない場合に高利得検出信号を使用して質量スペクトル中のデータ・ポイントの質量スペクトルを構築し、かつ、高利得検出信号が飽和している場合に低利得検出信号を使用して質量スペクトル中のデータ・ポイントの質量スペクトルを構築することを含む。低利得検出信号を使用して質量スペクトルを形成する場合の質量スペクトル中のデータ・ポイントに関して、低利得検出信号は、好ましくは高利得検出信号の低利特検出信号に対する相対的増幅度により拡大される。
【0051】
併合ステップ中のデータ転送速度は、たとえば、検出信号の質量中心のみを使用して検出信号を併合することにより低減され得る。この場合、検出信号の質量中心強度対のみ併合され得る。
【0052】
併合することは、十分に高い品質係数を有するピークのみを併合することを含み得る。低すぎる品質係数のピークについては、十分に高い品質係数が達成された後に任意選択的にそれらを併合して質量スペクトルを構築することとし、品質係数を改善するために高度の検出および/またはピークの再収集を施すこともできる。実際には、1つの検出信号のみ、十分に高い品質係数を有するピークを含む必要がある。したがって、好ましくは、所与のピークについて、そのピークの最高品質係数がそれ自身十分高いことを条件として、当該ピークの最高品質係数を有する信号のみを使用して併合スペクトルを得る。
【0053】
各チャネルについて、2つ以上の、好ましくは多数の、そのチャネルにおいて処理された検出信号を合計してから、別々のチャネルからの検出信号を併合して最終質量スペクトルを形成することができる。検出信号の合計は、データ処理の任意の適切な時点において行うことができる。たとえば、検出信号の合計は、デシメーション後に、たとえば、本出願において記述された高速プロセッサ上において、雑音除去より前に行うことができる。すなわち、これにより、1つの雑音除去ステップが複数の検出信号の合計に対してなされるようにする。他の例では、処理ステップが各信号について行われた後に、しかし、各チャネルからの信号を併合して併合質量スペクトルを形成する前に、複数の処理された検出信号を合計することができる。
【0054】
別の方法として、または追加として、2つ以上、好ましくは多数の併合された質量スペクトルを合計して最終質量スペクトルを形成することができる。
【0055】
本出願における質量スペクトルに対する言及は、その範囲中に、たとえばTOF質量スペクトロメータの場合の時間領域、周波数領域などのm/z以外の領域を有するがm/zに関係づけられるその他のスペクトルに対する言及を含む。
【0056】
要するに、このデータ処理システムによる処理は、好ましくは、以下の処理ステップを含み得る:
別々のチャネルにおける検出信号のデジタル化、
検出信号が処理されるデータ処理システムの各別々のチャネル中において検出信号に参照テーブル(LUT)を適用すること(ただし、LUTは、雑音レベルを表す閾値を定義する)
たとえば、FPGA、GPUまたはCellなどの高速専用プロセッサを使用してLUT中の閾値を適用することにより別々のチャネル中の検出信号から雑音を除去すること(この場合、閾値通過閾値以上の検出信号のポイントのみ転送される)
たとえば高速プロセッサを使用して閾値を通過した検出信号のポイントを圧縮し、かつ、圧縮したポイントを計器コンピュータに転送すること
検出信号のポイントを計器コンピュータ上で解凍し、かつ、検出信号中のピークを検出すること
検出されたピークの質量中心を計器コンピュータを使用して見出すこと
検出されたピークの1つ以上の品質係数を決定すること、任意選択のステップとしてこれらの品質係数を使用してさらなるどれかのデータ処理ステップまたはさらなるデータ収集ステップを行うか決定すること(すなわち、これらの品質係数をデータ依存決定のために使用する)、および
たとえば、較正中に決定された値を使用してこれらの検出信号を整列させる。これらの処理ステップに続くのは、処理された検出信号を併合して質量スペクトルを構築するステップである。
【0057】
このデータ処理システムは、適切なデータ処理装置を含み得る少なくとも1つのデータ処置装置を含む。このデータ処理システムは、好ましくは、特に飛行中検出システムからの検出信号の高速処理のための、少なくとも1つの専用処理装置を含む。専用処理装置は、一般的に速度が重視されるステップのためにのみ必要であり、かつ/またはそのために使用される。そのようなステップは、データ圧縮ステップまでであり、それらを任意選択的に含んでよい。好ましくは、上記の少なくとも1つの専用プロセッサは、少なくともデシメーションおよび閾値を使用する雑音濾過を行うように設計される。それ以降のステップは、オフラインを含めて随時効果的に行うことができる(システムにおいてデータ依存収集決定のために情報が要求されない限り)。このデータ処理システムの専用処理装置は、特に、そこにおいて並行計算を行うための2つ以上のチャネルを有する高速処理装置である。この専用処理装置の主な特徴は、それが要求される計算ステップを必要な(デシメーションされた)データ転送速度で行うことが可能でなければならないことである。かかる高速専用処理装置の好ましい例は、以下を含む:デジタル受信シグナル・プロセッサ(DRSP)、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA),デジタル・シグナル・プロセッサ(DSP)、グラフィックス・プロセッシング・ユニット(GPU)、セル広帯域エンジン・プロセッサ(Cell)等。好ましくは、このデータ処理システムは、FPGA、GPUおよびCellからなるグループから選択された専用処理装置を含む。このデータ処理システムは、たとえば、FPGA、GPUおよびCellのグループから選択された2つ以上の専用データ処理装置を含むことができ、かつ、これらの2つ以上の専用データ処理装置は同じ装置(たとえば、2つのFPGA)または異なる装置(たとえば、FPGAおよびGPU)とすることができる。しかし、このデータ処理システムにおいて2つ以上のかかる専用処理装置を使用することは、それほど好ましくない。これらの装置間のバス接続がデータのボトルネックとなる可能性があり、また、一般的に単一のかかる装置が必要なデータ処理を行うことができるからである。したがって、このデータ処理システムは、好ましくは、FPGA、GPUおよびCellのグループから選択された装置などの1つの専用データ処理装置を有する。上記の少なくとも1つの専用処理装置は、好ましくは飛行中処理または計算のために使用する。
【0058】
上記の少なくとも1つの専用処理装置は、検出信号の一部の処理を行うこと(すなわち、処理ステップのすべてではなく一部)または場合によっては検出信号の処理のすべてを行うこともできる。上記の少なくとも1つの専用処理装置は、好ましくは、少なくとも閾値の適用により検出信号から雑音を除去するステップのために使用される。上述したように、専用処理装置は、一般的に、スピードが重視されるステップのためにのみ必要であり、かつ/または使用される。そのようなステップは、データ圧縮ステップまでのステップであり、任意選択的にそれらを含んでよい。これらのステップは、閾値の適用により検出信号から雑音を除去するステップを含む。上記の少なくとも1つの専用処理装置は、したがってさらに、好ましくは、本出願において記述される少なくとも次のデータ処理ステップのために使用される:
・検出信号のデシメーション
・閾値の適用による検出信号からの雑音の除去
・雑音を除去した後の検出信号の圧縮。
【0059】
上記の少なくとも1つの専用処理装置は、以下のステップの1つ以上を含むその他のデータ処理ステップのためにも使用することができる:
・雑音を除去するための閾値を計算すること
・検出信号中のピークを特徴付けること(たとえば、雑音除去後)
・検出信号を併合して質量スペクトルを構築すること。
【0060】
雑音除去のための閾値を計算するステップは、閾値を飛行中に計算する必要がある場合、たとえば、性能上の理由から閾値を定義する新しいLUTが各検出信号について必要である場合に、好ましくは専用処理装置上で行われる。その他の場合、閾値/LUTは、好ましくは、別の、好ましくは多目的コンピュータ、たとえば、マルチコア・プロセッサ、CPUまたは埋め込みPC上で計算され(これは、計器コンピュータのプロセッサでよい)、かつ、閾値を検出信号に適用するためにFPGA、GPUまたはCellなどの専用プロセッサにアップロードされる。
【0061】
検出信号中のピークを特徴付けるステップおよび/または検出信号を併合して質量スペクトルを構築するステップも専用処理装置上で遂行できるが、しかし好ましくは、検出信号が専用プロセッサにより部分的に処理され、そこから転送された後に、汎用コンピュータ、たとえば、マルチコア・プロセッサ、CPUまたは埋め込みPC上で計算する(これは、計器コンピュータまたはその一部でよい)。
【0062】
このデータ処理システムは、好ましくは、一般的に計器コンピュータと呼ばれるコンピュータを含む。計器コンピュータは、一般的に汎用コンピュータ、たとえば、マルチコア・プロセッサ、CPUまたは埋め込みPCを含む。計器コンピュータは、たとえばデータ処理を加速するためにGPUまたはCellなどの専用プロセッサを含んでもよい。計器コンピュータは、ピークの特徴付けおよび処理された検出信号の併合による質量スペクトルの構築など、閾値による雑音除去後のデータ処理ステップの一部を行い得る。
【0063】
計器コンピュータは、この計器、すなわち質量スペクトロメータの1つ以上の運転パラメータ、たとえば、イオン分離ウィンドウの幅、イオン入射時間、衝突セルを使用する場合の衝突エネルギー、ならびに自己監視、たとえば検出器再較正などの機能を制御することができる。計器コンピュータは、好ましくは、データ依存決定を行ってその後のデータ収集すなわち検出信号の収集のための質量スペクトロメータの運転パラメータをデータ収集の評価、たとえば、質量スペクトル中のピーク品質の評価に基づいて変更する。計算されたピーク品質係数は、かかる評価のために使用できる。たとえば、データ処理システムにより評価された解像不十分なピークは、今後の収集においてよりよい品質ピークまたはスペクトル(たとえば、より高い解像度)を収集するために、計器コンピュータをして質量スペクトロメータの運転パラメータを変更せしめることができる。別の例では、計器コンピュータは、MS/MS収集を行う時期を決定するために、LC−MS実験においてクロマトグラフ・ピークのプロフィールを評価することができる。計器コンピュータにより行うことができるタイプのデータ依存決定のその他の例は、国際公開第2009/138207号パンフレットおよび国際公開第2008/025014号パンフレットにおいて開示されている。典型的なデータ依存決定は、検出された質量に基づいて以降の実験において特定の質量の分離および/またはフラグメンテーションを開始するか否か決定することである。
【0064】
計器コンピュータを使用することにより、たとえば、1つ以上のデータ依存決定(たとえば、処理された検出信号および/または質量スペクトルにおけるピークの評価に基づく1つ以上のデータ依存決定)の結果として、検出システムの1つ以上の運転パラメータを制御することができる。たとえば、計器コンピュータは、検出システムの1つ以上の検出器の利得またはそれらから発生される検出信号を制御することができる。たとえば、検出器の運転パラメータが変更可能であるか、または検出信号の前置増幅の量が変更可能である。たとえば、検出器の利得またはその信号は、その検出器により生成される検出信号において飽和状態が検出された場合に、低減され得る。計器コンピュータを使用して、たとえば、フィードバック・プロセスによる利得制御を実現することができる。1つのかかる実施形態では、1つの実験試行においてこのデータ処理システムにより1つ以上の検出器から収集された検出信号を次の実験試行において利用して1つ以上の検出器の利得を制御することができる。
【0065】
特に、検出信号の利得または検出器は、次の方法により制御することができる:
・先行検出信号または質量スペクトルを使用して強い(または弱い)ピーク、たとえば所定の閾値より上の(または下の)ピークが到着する時期を決定する。続いて以下の1つ以上の方法を使用できる:
a)強い(弱い)ピークが存在している(すなわち検出されている)間、検出器の利得を下方に(上方に)調整すること。強いピークの場合に利得を低減することは、特に光子検出器の場合に検出器の寿命を引き延ばすこともできる。
b)強い(または弱い)ピークが存在する(すなわち検出されている)間、好ましくは1つ以上の以下の方法により、検出システムに到着するイオンの個数または到着イオンから検出システムのSEMにおいて生成される二次電子の個数を調整すること:
i)到着イオンまたは生成される二次電子の集束を調整すること
ii)イオン源からの到着イオンの個数を調整すること
iii)SEMに関する利得を調整すること。
・LC−MS実験の場合、クロマトグラフ・ピークのプロフィールを監視することにより一定の質量のために必要な増幅器利得を決定すること、および決定した必要な増幅器利得に基づいて1つ以上の検出器に関する利得を調整すること。
【0066】
処理された検出信号および/またはデータ処理システムにより構築された質量スペクトルおよび/またはそれらから導かれたデータ(たとえば定量化情報、特定された(かつ定量化されてもよい)分子(たとえば代謝産物またはペプチド/タンパク質)等など)は、データ・システム、すなわち、質量データ格納システムまたは記憶装置(たとえばハード・ディスク・ドライブ、テープ等または光ディスクなどの磁気記憶、これらは、当然のことであるが、大量のデータを格納することができる)に転送することができる。上記データ・システムにより保持される検出信号および/または質量スペクトルおよび/または派生データは、他のプログラムによりアクセスされ、たとえば、表示、スペクトル操作および/またはコンピュータ・プログラムによるさらなるスペクトル処理などのスペクトル出力を可能にする。
【0067】
このシステムは、好ましくは、さらに、質量スペクトルおよび/または派生データを出力するために、たとえばビデオ表示装置(VDU)および/またはプリンタのような出力装置を含む。この方法は、好ましくは、さらにたとえばVDUおよび/またはプリンタを使用して質量スペクトルを出力するステップを含む。
【0068】
当然のことであるが、このシステムは、任意選択により、雑音除去ステップを行わずにおよび必要に応じてデジタル化後の1つ以上のその他の処理ステップなしに運用しなければならないことがある。このような場合、雑音除去のための閾値、たとえばLUT中に保持される閾値は、たとえばゼロまたはその他の値、たとえば、ゼロ・オフセットにおける雑音のためにわずかに負の値に設定して、たとえば計器コンピュータ上においてすべての検出信号を処理するために、検出信号のすべてのデータ・ポイントを通過させることができる。システムのかかる運用はフル・プロファイル運用と呼ばれ、フル・プロファイル・スペクトルを収集するために使用される。この場合、検出システムからの検出信号のすべてのデジタル化ポイントが検出信号の併合を行うデータ処理装置たとえば計器コンピュータに転送される。より一般的には、このシステムは、縮減プロファイル運用で使用されて縮減プロファイル・スペクトルを収集する。この場合、閾値を利用する雑音除去が行われ、したがって縮減されたプロファイル・データが検出信号の併合を行うデータ処理装置に転送される。
【0069】
本発明を完全に理解するために、これから添付図面を参照しつつ本発明の種々の非制限的例示について説明する。図面の内容は、次のとおりである: